JP2006274347A - フレア加工用電縫鋼管 - Google Patents

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正志 熊谷
Shinya Yamamoto
晋也 山本
Yoshitaka Soga
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Abstract

【課題】普通鋼を素材として、めっき性、フレア加工時の耐めっき剥離性、加工性、腐食性湿潤環境下の耐溝食性、電縫溶接時の電縫溶接性に優れたフレア加工用電縫鋼管の提供。
【解決手段】質量%、C:0.005〜0.04%、Si:0.15〜0.25%、Mn:0.40〜0.70%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.010〜0.080%、N:0.0080%以下、更にCu:0.30%以下、Ni:0.30%、Cr:0.15%以下、Mo:0.15%以下、Ti:0.015%以下、Nb:0.015%以下、V:0.03%以下、Ca:0.0050%以下の1種又は2種以上含み、Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15が0.11〜0.15%の範囲内の鋼組成を有し、母材組織が非調質で、TS≦450MPa、伸び≧30%で、管周方向のビッカース硬度分布の最大・最小値の差≦25である。
【選択図】図3

Description

本発明は、めっき性、加工性、フレア加工時の耐めっき剥離性に優れ、さらに耐溝食性や電縫溶接時の電縫溶接性も改善可能なフレア加工用電縫鋼管に関する。
近年、大規模ビル等の空調、防災、衛生配管等に使用されるガス管用鋼管では、めっきを施した鋼管に、管端をつば状に広げる塑性加工であるフレア加工を施すことが一般化しつつある。この種の鋼管の接合は、従来は、現地で溶接接合、ネジ接合する工法により行われてきた。しかし、工事の効率化、施工コストの低減のため、事前にプレハブユニット配管を組み立て、図1、図2に示すようにジョイントを使用してユニット同士を現地で組み上げる工法が普及しつつある。このジョイント工法では、管端をつば状に塑性変形させて略90°の角度で広げるフレア加工が施された鋼管を、フランジ、ボルト等のジョイントを用いて接合する。従って、ジョイント工法においては、鋼管に予めフレア加工を施しておくことが必要とある。
このジョイント工法は、従来の周溶接工法に比べて、下記の利点がある:
1.作業者の資格や熟練が不要であり、人件費も削減できる、
2.メカニカルジョイントのため、継手の均一性が得られる、
3.溶接ヒューム等の問題が無く、作業環境が良好である。
ガス管用鋼管として従来広く適用されている、Si非添加材のめっき鋼管では、フレア加工の際にめっき層の剥離が生じる。また、この種の配管用途には、めっき性、フレア加工時の耐めっき剥離性だけでなく、腐食性湿潤環境下における耐溝食性、曲げ等の加工性をも兼ね備えた電縫鋼管が求められ、電縫溶接時の電縫溶接性にも優れていることが必要である。
なお、「溝食」とは、海水等のある種の腐食性湿潤環境下において電縫鋼管の電縫部が選択的に腐食され、V型の溝状腐食を生ずる現象のことである。鋼管の曲げ加工は、例えばガス管の敷設時に現場で必要に応じて行われることがある。現場での簡単な機械を使っての加工であるため、加工性がよくないと、良好な加工ができない。
特許文献1は、適切な結晶粒度に調整されたステンレス鋼管をフレア加工すると、加工後表面の不動態皮膜の損傷が小さく、極めて優れた耐隙間腐食性と耐応力腐食割れ性が得られることを開示している。しかし、ステンレス鋼の鋼管は、普通鋼の鋼管に比べてコストが大幅に増大する。
特許文献2は、耐食性、加工性に優れた熱延鋼板の製造に関して、成分、鋳片の均熟温度、鋼板の熱間圧延温度・巻取り温度を規定することにより、耐孔あき腐食性等の耐食性に優れ、自動車の足廻り部材、補強部材等として使用する際の加工性にも優れた鋼板が得られることを開示している。しかし、この文献に記載された鋼板では、めっき性や耐めっき剥離性は考慮されておらず、また鋼板から鋼管を製造することは想定していないため、電縫溶接性、耐溝食性も考慮されていない。
特許文献3には、めっき性と加工性に優れた電縫鋼管とその製造方法が開示されているが、それらの性能やフレア加工時の耐めっき剥離性も含めて、なお性能の向上が求められている。この文献では鋼帯を加熱したあと製管を施し、更に製管後にも硬度分布の均一化等の目的で再加熱しており、コストが増加するという問題点がある。
特開平9−279314号公報 特開平8−100240号公報 特開2004−217993号
本発明の課題は、安価な普通鋼を素材として、鋼管のめっき性、フレア加工時の耐めっき剥離性、曲げなどの加工性に優れ、さらに必要に応じて腐食性湿潤環境下での使用を想定した耐溝食性や電縫溶接時の電縫溶接性も改善できる、フレア加工用電縫鋼管を提供することである。
上記課題は、下記の本発明により達成される:
質量%で下記元素を含有し、
C:0.005〜0.04%、 Si:0.15〜0.25%、
Mn:0.40〜0.70%、 P:0.030%以下、
S:0.010%以下、 Al:0.010〜0.080%、
N:0.0080%以下、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記の式(1)で示されるCeq.が0.11〜0.15%の範囲内である鋼組成を有し、母材組織が非調質であることを特徴とする、フレア加工用電縫鋼管。
Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 ‥‥ (1)
(式中、各元素記号は、その元素の質量%での量を意味する)。
上記鋼組成は、下記(1)〜(5)の1または2以上をさらに満たしていてもよい:
(1)質量%でCu:0.30%以下をさらに含有する、
(2)質量%でNi:0.30%以下をさらに含有する、
(3)Ni/Cu質量比が1/3以上である、
(4)質量%で下記の1種または2種以上をさらに含有する:
Cr:0.15%以下、 Mo:0.15%以下、
Ti:0.015%以下、 Nb:0.015%以下、
V:0.03%以下、 Ca:0.0050%以下。
(5)Mn/Si質量比が2.0以上である。
本発明の電縫鋼管は、下記の少なくとも一方の特性を示すことが好ましい:
(1)TS≦450MPa、伸び≧30%である、
(2)管周方向のビッカース硬度の最大値と最小値の差が25以内である。
本発明はまた、上記電縫鋼管にめっきおよびフレア加工を施してなる、少なくとも一方の管端にフレアを有するめっき電縫鋼管にも関する。
本発明は、下記の知見に基づいている。
1.フレア加工時の耐めっき剥離性:
めっき層と鋼との密着性の関係からフレア加工時の耐剥離性には、Si添加が必要である。
2.めっき性:
めっきやけ(鉄と亜鉛の合金相が異常に成長して、めっき層表面に達して、表面が光沢を失い、灰白色を呈する現象)を発生させないためには、めっき付着量を減少させることが効果的であり、そのためにはSi含有量を最適化する必要がある。
めっきやけ防止のためには、図3に示すように、Si含有量が0.02%以下、または0.15〜0.25%、特に0.18〜0.23%が良好である。上記1を考慮すると、Si含有量として0.15〜0.25%、望ましくは0.18〜0.23%が最適である。
3.耐溝食性:
(1)湿潤環境下で発生する溝食を防止するには、少量のCuおよびNiの一方または両方の添加が有効である。
(2)それに加えて、電縫溶接部を含む管周方向の硬度が均一であるほど、溝食は発生しにくくなる。
4.電縫溶接時の溶接性:
Mn/Siの比率が低くなると、溶接時にMn、Siが酸化物となる際に、融点が高いMnOとSiO2の複合酸化物が生成する。また、この高融点の酸化物は、電縫溶接時のアプセットによりビード屑として排出されにくく、溶接部に残存して欠陥となりやすい。従って、Mn/Si質量比は、10を超えない程度である程度高く制御することが好ましい。
5.パイプの曲げ等の加工性:
配管では、曲げ等の加工をされる場合が多く、その際に割れや座屈が発生しないような曲げ加工性が要求される。そのためには、
(1)Si、Mn等が上記1〜4の理由で添加されるため、C添加量を適正化し、機械特性値(強度等)を制御する。
(2)それに加えて、上記(1)式で示されるCeq.を規定して、機械特性値(強度等)を制御する。
本発明によれば、高価なステンレス鋼ではなく、安価な普通鋼を素材に用いて、鋼管のめっき性、フレア加工時の耐めっき剥離性、腐食性湿潤環境下での使用を想定した耐溝食性、曲げ等の加工性、電縫溶接時の電縫溶接性の全ての特性に優れたフレア加工用電縫鋼管を提供することが可能となる。
本発明の電縫鋼管における素材の鋼組成を上記のように限定した理由について次に説明する。なお、鋼組成に関する%は、すべて質量%である。
C:Cは、強度を確保するために有効な元素であり、含有量が少ないとその効果が発揮されないので、0.005%以上とする。望ましくは0.01%以上である。しかし、Cを過剰に添加すると、強度が高くなりすぎて、伸びが低下し、曲げ加工性が劣化するため、0.04%以下とする。望ましくは、0.03%以下である。
Si:Siは、本発明では重要な元素である。めっき性の観点からは、めっき付着量減少によるめっきやけ防止として、0.02%以下もしくは0.15〜0.25%の範囲が良好である。他方、フレア加工時の耐めっき剥離性の観点からは、Siを添加すると、めっき層と地鉄との密着性が良くなるため、Siをある程度は添加する必要がある。そのため、Siは0.15〜0.25%とする。0.18〜0.23%の範囲が更に良好である。Siは脱酸剤、強度を得るのにも有効な元素である。
Mn:Mnは、強度を得るのに有効な元素である。Siを0.15〜0.25%とするため、添加量が少ないとMn/Si質量比が低くなり、電縫溶接時の溶接欠陥が発生しやすくなるため0.40%以上とする。反対に過剰に添加すると、強度が高くなりすぎて、伸びが低下し、曲げ加工性が劣化するため、0.70%以下とする。望ましくは、0.60%以下である。
P:Pは不純物として鋼中に存在するが、その量が0.030%を超えると、中心偏析が増加し、パイプ成形時に介在物を起点として割れが進展し易くなり、電縫鋼管の超音波探傷時の超音波不良の原因となるため、0.030%以下とする。望ましくは、0.020%以下である。
S:Sも不純物として鋼中に存在するが、その量が0.010%を超えると、超音波不良の原因となるため、0.010%以下とする。望ましくは、0.008%以下である。
Al:Alは脱酸剤として有効かつ重要な元素である。Alの添加量が少ないとその効果が得られないため0.010%以上とする。望ましくは、0.020%以上である。一方、Alを過剰に添加すると、鋼中のAl23の増加を助長し、清浄性が悪化するため、0.080%以下とする。望ましくは、0.070%以下である。
N:Nは、過剰に含有するとAlNが生成・析出し、鋳片の割れ、疵発生の原因となるため、0.0080%以下とする。望ましくは、0.0060%以下である。
本発明の電縫鋼管を構成する鋼の基本成分は、以上の通りであるが、Cu、Niの一方または両方を下記に規定する範囲の量で添加すれば、より良い効果が得られる。
Cu:Cuは、電縫溶接部の耐溝食性の改善や強度の確保に有効な元素である。しかし、過剰に添加すると、効果が飽和し、添加量を増加してもコストが嵩むだけでなく、強度が高くなりすぎて、伸びが低下し、曲げ加工性が劣化する。従って、Cuを添加する場合は、0.30%以下の量とする。耐溝食性を改善するには0.10%以上のCu量が好ましい。
Ni:Niも、Cuと同様に、電縫溶接部の耐溝食性の改善、強度の確保、さらにCuチェッキングの防止にも有効な元素である。しかし、過剰に添加すると、Cu同様、効果が飽和し、添加量を増加してもコストが嵩むだけでなく、強度が高くなりすぎて伸びが低下し、曲げ加工性が劣化する。従って、Niを添加する場合も、0.30%以下の量とする。耐溝食性を改善するには、Cuと同様に、0.10%以上の量を添加することが好ましい。
なお、CuとNiを複合添加すると、電縫溶接部の耐溝食性改善には更に効果がある。この場合には、CuとNiの合計量が0.25%以上になると、耐溝食性の改善が顕著となる。CuとNiの合計量の上限は0.60%まで許容されるが、コスト増大と強度の点から、好ましくは0.45%以下とする。
NiとCuの複合添加によりNiによるCuチェッキングの防止効果を期待するには、Niを、Ni/Cuの質量比が1/3以上となる量で添加する。望ましくは、1/2以上である。
本発明の電縫鋼管の鋼組成は、さらにCr、Mo、Ti、Nb、V、Caの1種または2種以上を下記に規定する範囲の量で含有しうる。
Cr:0.15%以下、Mo:0.15%以下、Ti:0.015%以下、Nb:0.015%以下、V:0.03%以下の量であれば、強度上昇は少なく、曲げ加工性等に影響を及ぼさない。これらの元素は、ユーザーの要望等によりC、Mnの添加量が低く制限され、なおかつ強度レベルを高く要求された場合などに強度上昇の効果を発揮しうる。
Ca:Caは、溶鋼中に添加すると、介在物の球状化、浮上分離促進等に効果があり、鋼の清浄性を向上させる。しかし過剰に添加すると、Ca系介在物が増加、残存しやすくなり、逆に清浄性を悪化させるので、Caを添加する場合は0.0050%以下とする。
本発明の鋼は母材組織が非調質である。鋼帯を加熱したり、製管後再加熱するのに比べて、コスト、プロセスの簡素化、操業管理の観点から有利であり、また、後に述べる管周方向のピッカース硬度分布の最大値と最小値の差を所定値内にすることが電縫溶接部の近傍のみを熱処理することで得られるからである。
式(1):Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 (式中、各元素記号は、その元素の質量%での量を意味する):
上記の式(1)で示されるCeq.は0.11〜0.15%の範囲とする。Ceq.が0.11%より小さくなると、配管としてJIS SGPにおいて規定された最低限必要な引張強度である290MPaを満たさなくなる。一方、Ceq.が0.15%より大きくなると、強度が高くなりすぎ、伸びが低下して、曲げ加工性が劣化する。Ceq.の好ましい範囲は0.12〜0.15であり、さらに好ましくは0.13〜0.15である。
Mn/Si質量比:
溶接欠陥の主たる欠陥は、母材成分のMn、Siが溶接時に酸化されて生ずるMnOおよびSiO2である。これらは、アプセットによりビード屑として排出されれば無害であるが、残存すると欠陥となる。特に融点が高い酸化物は、排出されにくい。酸化物の融点が高くなって、残存する欠陥が増加するのを防止するため、Mn/Si質量比を2.0以上とすることが好ましい。
本発明のフレア加工用電縫鋼管は下記の特性を満たすことが好ましい。
TS≦450MPa、伸び≧30%:
配管では、曲げ等の加工が施される場合が多く、その際に割れや座屈が発生しないようにするためには、伸び(El)は全伸びで30%以上であり、かつTS(引張強度)は450MPa以下であることが望ましい。伸びは、望ましくは33%以上である。これは、前述の鋼組成およびCeq.の調整により達成することが出来る。評価は、管軸方向に対してJIS 12号試験片を用いて引張試験にて行う。
管周方向のピッカース硬度の最大値と最小値の差が25以内:
CuおよびNi添加に加え、更に耐溝食性を向上させるには、管周方向の硬度分布の均一化、特に電縫溶接部と母材部の硬度差を小さくする必要がある。そのため、管周方向のビッカース硬度の最小値と最大値との差を25以下とすることが好ましく、より好ましくは20以下である。
このような硬度分布を得るためには、電縫鋼管を製造した後、電縫溶接部近傍の幅40〜50mmのみを熱処理する方法がある。この熱処理は、鋼管の肉厚中心部がAc3点以上となる均熱保持(例、約920℃で7秒以上)により行うことができる。溶接部近傍のみの熱処理であるので、母材の組織は非調質(未熱処理)のままである。
本発明のフレア加工用電縫鋼管のサイズや製造方法は特に制限されないが、常法により製造すればよいが、製管前後の加熱は行わないので、母材組織は非調質となる。したがって、本発明の電縫鋼管は、成形ロールによる円筒状への成形(フォーミング)、電縫溶接(抵抗溶接)、サイジング、切断を含む方法により連続的に製造することができる。製造工程の途中で、適宜電縫溶接部近傍に焼きならし等の熱処理が施されることもあるが、その場合でも、管全体の熱処理は行わないので、熱処理コストが少なくてすむ。本発明の電縫鋼管では、鋼組成におけるMn/Si質量比が適切であれば、電縫溶接時の溶接性は良好である。
ガス管用の電縫鋼管は、水圧検査や超音波探傷などの検査が済んだ後、一般にめっき、特に溶融亜鉛めっきが施される。本発明では、Si含有量が適切に管理されているため、溶融亜鉛めっき時のめっきやけが防止され、めっき性にも優れている。めっきも常法に従って行えばよいが、一般には、脱脂、酸洗、フラックス処理、乾燥、めっき、水冷の工程順で行われる。
フレア加工も常法に従って実施すればよい。ガス管のような小径電縫鋼管のフレア加工は、通常は鋼管の加工メーカーにより、例えばフレアコーンを挿入して一段または多段で拡管成形することにより実施される。また、必要に応じて、曲げ加工等の加工が現場で施されることもある。本発明の電縫鋼管は、耐めっき剥離性と加工性に優れており、フレア加工や曲げ加工を施しても、フレア加工中のめっき皮膜の剥離が起こらず、TSが高すぎないため、曲げ加工も容易である。
本発明のフレア加工用鋼管は、図1、2に示したフレア接合方式により連結されることの多いガス管に特に適しているが、用途はそれに限定されるものではない。ガス管の場合、鋼管の外径は21.7〜406.4mm、肉厚は2.8〜7.9mmである。鋼管のサイズは用途に応じて変動する。
表1に示す鋼組成の試験用電縫鋼管を製造した。まず、所定組成の溶鋼を連続鋳造し、得られた鋳片から熱間圧延により鋼板を製造した。熱間圧延条件は、鋳片の加熱温度1150〜1250℃、仕上温度900〜820℃、巻取温度500〜650℃の範囲であった。得られた鋼板を、加熱せずに冷間のままで、通常の成形、電縫溶接、サイジング、切断により電縫鋼管とした。
各試験用電縫鋼管について、下記の方法により性能評価を実施した。その結果を表2にまとめて示す。
1.フレア加工時のめっき剥離:
フレア加工は、試験用鋼管に常法に従って溶融亜鉛めっきを施した後、図4に示すように、管端に2段の拡管成形を適用して、鋼管とフランジ部とが90°になるように加工を行った。フランジの幅は、鋼管の外径に応じて19〜25mmであった。
フレア加工後の加工部の管内面および外面を目視観察し、剥離が見られなかった場合を“○”、剥離が見られた場合を“×”と評価した。
2.めっき性:
試験用鋼管に常法に従って溶融亜鉛めっきを施した。めっき性の評価は、めっき表面の目視観察によって、めっきやけ(鉄と亜鉛の合金相がめっき層表面に達して、表面が光沢を失い、灰白色になる)の発生が無かった場合を“○”、発生した場合を“×”と評価した。
3.耐溝食性:
耐溝食性の評価は、鋼管から電縫溶接部を含む試験片を切り出して、定電位腐食試験で評価した。試験用電縫鋼管を3%NaCl水溶液に、25℃、550mV(vs.SCE)の条件で4週間浸漬し、母材表面からの電縫溶接部の溝食の深さを測定した。
溝食の深さが、0.3mm以下の場合を“○”、0.3mm超、0.5mm以下の場合を“△”、0.5mm超の場合を“×”と評価した。
4.周方向の硬度の最大値と最小値の差:
硬度は、ビッカース硬度計を用いて荷重5kgの条件で鋼管の周方向に、溶接部を含み2mmピッチで測定した。表中の硬度差(ΔHV)は、測定した硬度の最大値と最小値の差である。
5.電縫溶接性:
電縫溶接性は、電縫溶接部に発生したペネトレータ(溶接時にビードとして排出されなかったMnO、SiO2等の酸化物)によって評価した。具体的には、鋼管から切り出したリング状の試験片を、上下2枚の平板管に挟み、試験片の高さが外径の1/3になるまで圧縮する。この際、電縫溶接部は圧縮方向に対し直角に配置し、圧縮後、開口したペネトレータを1mあたりに換算した長さにより評価を行った。表中、その値が5mm/m以下の場合を“○”、5mm/m超、10mm/m以下の場合を“△”、10mm/m超の場合を“×”とした。
6.母材鋼材の清浄性:
母材鋼材の清浄性は、鋼管の超音波探傷検査で評価した。超音波検査は、JIS G 0582に規定される鋼管の超音波探傷検査方法にしたがって探傷感度の区分UCで行った。表中の記号の定義は、不良率0.3%以下を“○”、0.3%超えを“×”とした。
Figure 2006274347
Figure 2006274347
表1、表2において、No.1〜18は鋼組成が本発明の範囲内である発明例であり、No.19〜36は鋼組成が本発明の範囲外である比較例である。
発明例のうち、No.1は、CuとNiのいずれも添加していないため、耐溝食性は良好でない(×)が、他の性能は良好である。
No.2およびNo.3は、CuまたはNiの単独での添加であるため、これらの複合添加に比べて耐溝食性は劣る(△)が、他の性能は良好である。
No.4は、Cu、Niの複合添加であるが、管周方向のピッカース硬度分布が25を超えているため、25以下に比べて耐溝食性は劣る(△)が、他の性能は良好である。
No.5〜18は、総ての性能において良好である。
比較例のうち、No.19は、Si含有量が0.01%と少なすぎるため、フレア加工時のめっき剥離性が良好でない。めっき性は、めっきやけの観点からは、Si含有量が0.02%以下になると良好である。
No.20は、Si含有量が0.03%と低いため、フレア加工時のめっき剥離性が良好でない。また、めっきやけも発生し、めっき性の観点からも良好でない。
No.21は、Si含有量が0.13%となお低いため、めっきやけが発生し、めっき性の観点から良好でない。
No.22は、Si含有量が0.27%と高すぎるため、めっきやけが発生し、めっき性の観点から良好でない。
No.23は、C含有量とCeq.の値が高すぎるため、強度が高くなりすぎ、加工性に必要な伸びが低い。
No.24は、C含有量とCeq.の値が低すぎるため、JIS SGPで最低限必要な引張強度である290MPaを満たさないほど強度が低い。
No.25は、Mn含有量が低すぎ、それに伴ってMn/Si質量比も1.8と低すぎるため、電縫溶接性が良好でない。
No.26は、Mn含有量とCeq.の値が高すぎるため、強度が高くなりすぎて、加工性に必要な伸びが低い。
No.27、28、29は、それぞれP、S、Caの含有量が多すぎるため、母材鋼材の清浄性が悪化し、超音波探傷結果が良好でない。
No.30、31、32、33は、それぞれCu、Ni、Cr、Moの含有量とCeq.の値が高すぎるため、強度が高くなりすぎ、加工性に必要な伸びが低い。
No.34、35、36は、それぞれTi、Nb、Vの含有量が高すぎるため、強度が高くなりすぎ、加工性に必要な伸びが低い。
フレア加工された鋼管とそれらの鋼管のジョイント接合の概略図である。 フレア加工された鋼管をジョイントにより接合した外観を示す模式図である。 Siの含有量とめっき付着量、めっきやけとの関係を示すグラフである。 鋼管管端のフレア加工の工程を示す模式図である。

Claims (9)

  1. 質量%で下記元素を含有し、
    C:0.005〜0.04%、 Si:0.15〜0.25%、
    Mn:0.40〜0.70%、 P:0.030%以下、
    S:0.010%以下、 Al:0.010〜0.080%、
    N:0.0080%以下、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ下記の式(1)で示されるCeqが0.11〜0.15%の範囲内である鋼組成を有し、母材組織が非調質であることを特徴とする、フレア加工用電縫鋼管。
    Ceq.=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15 ‥‥ (1)
    (式中、各元素記号は、その元素の質量%での量を意味する)
  2. 鋼組成が、質量%でCu:0.30%以下をさらに含有する、請求項1に記載のフレア加工用電縫鋼管。
  3. 鋼組成が、質量%でNi:0.30%以下をさらに含有する、請求項1または2に記載のフレア加工用電縫鋼管。
  4. Ni/Cu質量比が1/3以上である、請求項3に記載のフレア加工用電縫鋼管。
  5. 鋼組成が、質量%で下記の1種または2種以上をさらに含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のフレア加工用電縫鋼管:
    Cr:0.15%以下、 Mo:0.15%以下、
    Ti:0.015%以下、 Nb:0.015%以下、
    V:0.03%以下、 Ca:0.0050%以下。
  6. Mn/Si質量比が2.0以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のフレア加工用電縫鋼管。
  7. TS≦450MPa、伸び≧30%である、請求項1〜6のいずれかに記載のフレア加工用電縫鋼管。
  8. 管周方向のビッカース硬度の最大値と最小値の差が25以内である、請求項1〜7のいずれかに記載のフレア加工用電縫鋼管。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の電縫鋼管にめっきおよびフレア加工を施してなる、少なくとも一方の管端にフレアを有するめっき電縫鋼管。
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