JP2006249557A - 電解用陽極および該電解用陽極を使用するフッ素含有物質の電解合成方法 - Google Patents

電解用陽極および該電解用陽極を使用するフッ素含有物質の電解合成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 フッ化物イオンを含有する電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成する際に使用する陽極として長期間安定に操業できる炭素陽極が存在しなかった。
【解決手段】 少なくともその表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成ることを特徴とする電解用陽極。該電解用陽極を用いると、陽極効果、及び電極消耗が抑制され、高電流密度で長期間安定的にフッ素化合物を高効率で合成することが可能になる。

Description

本発明は、フッ化物イオンを含む電解浴を用いた電解法において使用可能な電解用陽極、特に高電流密度で操業しても、陽極効果の発生が抑制され、電極消耗によるスラッジの発生がなく、且つ四フッ化炭素ガスの発生が少なく安定的な電解を継続できるダイヤモンド構造を有する電解用陽極、およびその陽極を使用するフッ素含有物質の電解合成方法に関するものである。
フッ素は特異な性質を有するため、その化合物とともに原子力産業、医薬から家庭用品にまで広く使用されている。フッ素ガス(F2ガス)は化学的に安定であり、電解法以外の方法では単離することができないため、フッ化物イオンを含有する電解浴を用いた電解法のみで生産されている。また、幾つかの有用なフッ素化合物もフッ化物イオンを含有する電解浴から電解合成されている。中でも三フッ化窒素ガス(NF3ガス)は、近年F2ガスとともにその生産量が増大している。
F2ガスは、ウラニウム濃縮用六フッ化ウラニウム(UF6)や高誘電率ガス用六フッ化硫黄(SF6)の合成の原料用として工業規模に大量生産がなされてきた。半導体産業においては、F2がシリコン酸化皮膜と反応する、あるいは不純物金属と選択的に反応するため、シリコンウェハー表面のドライ洗浄に利用されている。また、一般産業用途では、ガソリンタンクに使用される高密度ポリエチレンのガス透過性を抑制するためのフッ素処理用原料として、またはオレフィン系ポリマーの濡れ性向上のためのフッ素処理原料として工業規模での使用が始まっている。オレフィン系ポリマーはフッ素と酸素の混合ガスで処理することによって、その表面にフッ化カルボニル基(-COF)が導入される。フッ化カルボニル基は、空気中の湿気との反応などの加水分解反応によって容易にカルボキシル基(-COOH)に変化し、濡れ性が向上する。
F2ガスは1886年にMoissanによって初めて単離され、1919年に、Argoらがフッ化カリウム(KF)とフッ化水素(HF)の混合溶融塩を電気分解することによって合成することに成功して以降、合成産業として成立した。初期の段階では、陽極にグラファイトなどの炭素質材料やニッケルが用いられた。ニッケルは水分を含む電解浴でも使用可能であるが、その腐食溶解が激しく、電流効率も70%程度であり、大量のニッケルフッ化物スラッジが発生するため、現在、最も広く用いられている方法は、1940年代に確立した、炭素電極を陽極とし、KFとHFのモル比が1:2であるKF-2HF溶融塩を電解浴として用いる方法であるが、現在もなお操業上の課題は多い。
KF-2HF溶融塩のようにフッ化物イオンを含む電解浴で炭素電極を用いる場合、電極表面上で、式(1)で示したフッ化物イオンの放電によるフッ素発生反応が起きると同時に、式(2)に示したような共有結合性のC-F結合をもったフッ化グラファイト(CF)nが生成し、電極表面を被覆する。この(CF)nは表面エネルギーが極端に低いために電解浴との濡れ性が悪い。(CF)nはジュール熱によって式(3)に示したように四フッ化炭素(CF4)や六フッ化エタン(C2F6)などに熱分解するが、式(2)の速度が式(3)よりも大きくなると、炭素電極表面が(CF)nによって被覆されて電極と電解液の接触する面積が減少し、ついには電流が流れなくなる。所謂、陽極効果が発生する。電流密度が高いと式(2)の速度が速くなるため、陽極効果が生じやすくなる。
HF2 - → 1/2F2 + HF + e- (1)
nC + nHF2 - → (CF)n + nHF + e- (2)
(CF)n → xC + yCF4, zC2F6, etc (3)
電解浴中の水分濃度が高いときにも陽極効果は生じやすくなる。式(4)に示すように、電極表面の炭素は電解浴中の水分と反応して酸化グラファイト[CxO(OH)y]が生成する。CxO(OH)yは不安定なため、式(5)に示したようにフッ化物イオンの放電によって生じた原子状のフッ素と置換反応し、(CF)nに変化する。さらに、CxO(OH)yの生成によりグラファイトの層間が広がるため、フッ素の拡散が容易となり、式(2)に示した(CF)nの生成速度も増大する。これらにより、陽極効果はフッ化物イオンを含む混合溶融塩浴中の水分濃度が高い場合に容易に発生することが分かる。
xC + (y+1)H2O → CxO(OH)y + (y+2)H+ + (y+2)e- (4)
CxO(OH)y + (x+3y+2)F- → x/n(CF)n + (y+1)OF2 + yHF + (x+3y+2)e- (5)
この陽極効果の発生は、生産効率を著しく減少させるのみならず、陽極効果発生後に速やかに通電を停止しないと爆発に至ることもあり、炭素電極を使用する場合の大きな問題となっている。このため、脱水電解などによる電解浴中の水分濃度管理など、操作を煩雑にしているのみならず、電流密度を陽極効果が発生する臨界電流密度以下にする必要がある。汎用されている炭素電極の臨界電流密度は10A/dm2未満である。電解浴中にフッ化リチウムやフッ化アルミニウムなどのフッ化物を1〜5重量%添加することによって、臨界電流密度を大きくすることができるが、この場合であっても20A/dm2程度である。
NF3は1928年にRuffらにより溶融塩電解を用いて初めて合成され、米国のNASAにより計画、実行された惑星探査ロケットの燃料酸化剤として大量に消費され、多いに関心がもたれるようになった。現在は、半導体製造工程でのドライエッチング用ガスおよび半導体や液晶ディスプレー製造工程でのCVDチャンバーのクリーニングガスとして大量に使用されている。近年、CVDチャンバーのクリーニングガスとして使用されている四フッ化炭素(CF4)、六フッ化エタン(C2F6)などのPFC(Perfluorinated Compound)が地球温暖化現象に大きく作用していることが判明し、京都議定書などにより国際的にその使用が制限または禁止されようとしており、その代替ガスとしてNF3がさらに大量に使用されるようになってきている。
NF3は現在、化学法と溶融塩電解法の2種類の方法で製造されている。化学法では前記のKF-2HF混合溶融塩を電気分解することによってF2を得、これを金属フッ化物アンモニウム錯体などと反応させることによってNF3を得ている。溶融塩電解法ではフッ化アンモニウム(NH4F)とHFの混合溶融塩、あるいは、NH4F、KFおよびHFの混合溶融塩を電解することによって直接NF3を得ている。電解浴としてNH4F、KFおよびHF混合溶融塩を用いる場合に、それぞれのモル比が1:1:(2〜5)のNH4F-KF-HF溶融塩を炭素電極を陽極として電解する方法が一般的である。この方法では、前記のKF-2HF溶融塩を電解してF2を得る場合と全く同様に、陽極効果の発生を防止するために煩雑な電解浴中の水濃度管理が必要であり、臨界電流密度以下で操業する必要がある。さらに、式(3)によって生成したCF4、C2F6が目的とするNF3ガスの純度を低下させるという問題がある。CF4やC2F6とNF3の物性が極めて近いために蒸留分離が困難で、高純度NF3を得るためにはコストの嵩む精製方法を採用せざるを得ないという問題がある。
NH4FとHF混合溶融塩を用いてNF3を得る場合には、NH4FとHFのモル比が1:(1〜3)であるNH4F-HF混合溶融塩を、ニッケルを陽極として電解する方法が一般的である。この方法では、前記のKFとHFの混合溶融塩を用いてF2ガスを得る場合と同様に水分を含む電解浴でも電解が可能であり、また、CF4やC2F6に汚染されていないNF3を合成できるといる利点がある。しかし、ニッケルは電解中に溶解しニッケルフッ化物スラッジとして電解槽底に蓄積するため、定期的な電解浴交換や定期的な電極交換が不可欠であり、継続的なNF3の製造を困難にしている。ニッケルの溶解量は通電量の3-5%にまで達する。電流密度を増加するとニッケルの溶解が著しく増加するために高電流密度での電解は困難である。
このように、フッ化物イオンを含有する電解浴を用いた電解法では、安定的な生産を継続的に実施するために、陽極効果、スラッジ、およびCF4の発生が少ないという全て特性を有する陽極材料が強く求められている。
フッ化金属ガスも、半導体や液晶ディスプレー製造工程における薄膜形成、イオン注入のドーパント、リソグラフィーを目的として不可欠であり、これらフッ化金属ガスの多くはF2ガスを出発原料として合成され、従ってフッ化金属ガス製造用としても、前記特性を有する陽極材料が求められている。
特開平7−299467号公報 特開2000−226682号公報 特開平11−269685号公報 特開2001−192874号公報 特公2004−195346号公報 特開2000−204492号公報 Carbon vol. 38 page 241 (2000) Journal of Fluorine Chemistry、vol.97 、page 253 (1999)
前述の炭素電極のなかでも、導電性ダイヤモンドを電極触媒として利用した所謂導電性ダイヤモンド電極に関しては、これを用いた種々の電解プロセスが提案されている。特許文献1は、導電性ダイヤモンド電極を用いて廃液中の有機物を酸化分解する処理方法を提案している。特許文献2は導電性ダイヤモンド電極を陽極と陰極に使用し、有機物を電気化学的に処理する方法を提案している。特許文献3では導電性ダイヤモンド電極を陽極として使用するオゾン合成方法が、特許文献4では導電性ダイヤモンド電極を陽極に使用したペルオキソ硫酸合成がそれぞれ提案されている。また、特許文献5では導電性ダイヤモンド電極を陽極に用いた微生物の殺菌方法が提案されている。
これらはいずれも導電性ダイヤモンド電極をフッ化物イオンを含有しない水溶液電解に適用したものであり、フッ化物イオンを含有する電解浴を対象としたものではない。
特許文献6はフッ化物イオンを含有する浴で半導体ダイヤモンドを用いる方法を開示しているが、前記式(1)におよび(2)に示したフッ化物イオンの放電反応の起こる電位より貴な電位領域、即ち、フッ素発生反応がない領域、での脱水素反応およびそれに引き続いて起こるフッ素置換反応による有機電解フッ素化反応に関するもので、前述したフッ素ガスやNF3の製造には適用できない。従って従来の炭素電極やニッケル電極の安定性を阻害する前記式(1)に示したフッ化物イオンの放電反応が発生している領域で、特許文献6の電極を使用して操業すると、電極が崩壊して電解が継続できないなどの問題点が発生する。
本発明は前述の従来技術の問題点を解消し、高電流密度下で操業しても、陽極効果の発生が抑制され、電極消耗によるスラッジの発生がなく、且つCF4ガスの発生が少なく安定的なフッ素含有物質の合成を継続できる電解用陽極、および当該陽極を使用する電解合成方法を提供することを目的とする。
本発明は、フッ化物イオンを含有する電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する電解用陽極であって、その少なくとも表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成ることを特徴とする電解用陽極、およびその少なくとも表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成る電解用陽極を、フッ化物イオンを含有する電解浴で陽極として使用して電解を行い、フッ素含有物質を電解合成することを特徴とする方法である。
以下本発明を詳細に説明する。
発明者らは、鋭意検討した結果、少なくともその表面を炭素質材料で構成した基体を、ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜で被覆して構成される電極が、フッ化物イオンを含有する電解浴での電解に適用でき、フッ素含有物質を電解合成できることを見出した。前記ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜としては、導電性ダイヤモンドおよび導電性ダイヤモンドライクカーボンを挙げることができ、これらはいずれも熱的、化学的に安定な材料である。
より具体的には、前記陽極に用いてKF-2HF、NH4F-(1〜3)HFあるいはNH4F-KF-HF溶融塩の電解を行った場合、フッ化リチウムやフッ化アルミニウムなどの添加なしに、20A/dm2以上の高電流密度で操業しても、電解液と電極の濡れ性が低下することはなく陽極効果が発生しないこと、電極消耗によるスラッジの発生が抑制されること、また、CF4の発生が極めて少ないことを見出した。その原因については、電解浴に露出している非ダイヤモンド構造の炭素質部分には、電解の進行とともに電解浴との濡れ性が悪い(CF)nが形成されて安定に保護される一方、ダイヤモンド構造は安定なため、当該ダイヤモンド構造上で反応が継続するためと考えられる。これら系におけるダイヤモンド構造の安定性についての原因は明らかではないが、電解よってダイヤモンド層の最表面がフッ素終端されるだけで、化学的に安定なダイヤモンド構造は変化しないため、C-F共有結合性化合物の生成が進行せず、陽極効果、CF4発生、及び電極消耗が抑制されると推察される。また、該ダイヤモンド構造が安定なために高電流密度を印加してもこの構造が維持されると推察される。
なお東原らは、非特許文献1で水素終端したダイヤモンドおよび酸素終端したダイヤモンドをF2雰囲気中で熱フッ素処理することによって、それぞれC-Hの伸縮ないしC=Oの伸縮に帰属するバンドが消失し、C-Fの伸縮に帰属するバンドが出現するが、いずれもバルクのダイヤモンド構造に変化はなかったことを報告している。
この様な電極を用いた電解槽では、高電流密度下でフッ素含有物質を安定して合成することができる。合成可能なフッ素含有物質としては、F2、NF3などがあり、前述のKF-2HF系溶融塩を用いた場合にF2が、NH4F-HF系溶融塩を用いた場合にNF3、あるいはNH4F-KF-HF溶融塩を用いた場合にF2とNF3の混合物が得られる。
また、脱水電解やスラッジの除去といった操作なしにフッ素含有物質が得られ、且つ、負荷電流密度を変動させることによって容易にフッ素化合物の発生量を制御することが可能である。
電解浴にフッ化物イオンを含む混合溶融塩浴を、陽極にニッケルをそれぞれ用いた有機フッ素化合物の合成方法として、田坂らは、非特許文献2で、(CH3)NF-4.0HF溶融塩を電解浴に用いて、パーフロロトリメチルアミン[(CF3)3N]を電解合成する方法を開示しているが、この方法ではニッケル陽極の寿命が短いが、電解浴にCsF-2.0HFを添加することによってニッケル陽極の寿命が改善されることを指摘している。
これに対し、本発明による炭素質材料を基体とし、ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜で被覆された電極は、電解浴にCsF-2.0HFを添加すること無しに、(CF3)3Nの合成を継続することを可能とする。
本発明は、電解法によるフッ素含有物質の合成において、陽極に導電性ダイヤモンド電極を使用することを提案するもので、これにより陽極効果、及び電極消耗が抑制され、該電極を使用した電解槽では、高電流密度でフッ素化合物を安定的に合成することが可能になる。これによってフッ素含有物質の電解合成における電解浴管理が容易となり、また、電極更新、及び電解浴更新の頻度が低減されるため、フッ素含有物質の合成の生産性が向上する。
本発明の提案するフッ素含有物質合成用電極の詳細を説明する。
本発明で使用する電極は、少なくともその表面が炭素質材料製である基体上にダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を被覆して製造される。ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜には、前記のように導電性ダイヤモンドおよび導電性ダイヤモンドライクカーボンがあるが、導電性ダイヤモンドが特に好ましい。
前記基体の形状は特に限定されず、板状、メッシュ状、棒状、パイプ状、ビーズなどの球状、或いは、多孔性板状などが使用できる。
仮に基体が、ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜で完全に被覆されていれば、基体の材質は導電性であれば特に限定されず、シリコン、炭化珪素、グラファイト、非晶質カーボンなどの非金属材料と、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニッケルなどの金属材料が使用できるが、基体の僅かな一部でも露出している場合には、フッ化物イオンに対する化学的安定性の乏しい材料では、その部位より電極が崩壊し、電解を継続することができない。
導電性ダイヤモンド電極の場合、実際には導電性ダイヤモンド皮膜が多結晶であるため、極めて小さな欠損もなく基体を完全に被覆することは困難であり、(CF)nを形成することによって自己安定化する炭素質材料、あるいは化学的に安定な導電性ダイヤモンドのみが使用できる。また、ダイヤモンドライクカーボンやアモルファスカーボンなどの極めて緻密な炭素質を被覆したニッケルやステンレスなどの金属材料も基体として用いることができる。
該基体へのダイヤモンド構造を有する導電性炭素質の被覆方法は特に限定されず、任意のものを使用できる。代表的な製造法としては熱フィラメントCVD(化学蒸着)法、マイクロ波プラズマCVD法、プラズマアークジェット法及び物理蒸着(PVD)法などがある。
導電性ダイヤモンド合成する場合、いずれの方法でも、ダイヤモンド原料として水素ガス及び炭素源の混合ガスが用いるが、ダイヤモンドに導電性を付与するために、原子価の異なる元素(以下、ドーパント)を微量添加する。ドーパントとしては、硼素、リンや窒素が好ましく、好ましい含有率は1〜100,000ppm、更に好ましくは100〜10,000ppmである。また、いずれのダイヤモンド製造法を用いた場合であっても、合成された導電性ダイヤモンド層は多結晶であり、ダイヤモンド層中にアモルファスカーボンやグラファイト成分が残存する。ダイヤモンド層の安定性の観点からアモルファスカーボンやグラファイト成分は少ない方が好ましく、ラマン分光分析において、ダイヤモンドに帰属する1332cm-1付近(1312〜1352cm-1の範囲)に存在するピーク強度I(D)と、グラファイトのGバンドに帰属する1580cm-1付近(1560〜1600cm-1の範囲)のピーク強度I(G)の比I(D)/I(G)が1以上であり、ダイアモンドの含有量がグラファイトの含有量より多くなることが好ましい。
代表的な導電性ダイヤモンド電極の合成方法である熱フィラメントCVD法について説明する。
炭素源となるメタン、アルコール、アセトンなどの有機化合物とドーパントを水素ガスなどと共にフィラメントに供給する。フィラメントを水素ラジカルなどが発生する温度1800-2800℃に加熱し、この雰囲気内にダイヤモンドが析出する温度領域(750-950℃)になるように導電性基体を配置する。
混合ガスの供給速度は反応容器のサイズに依るが、圧力は15〜760Torrであることが好ましい。
前記導電性基体表面を研磨することは、基体とダイヤモンド層の密着性が向上するため好ましく、算術平均粗さRa0.1〜15μm、最大高さRz1〜100μmが好ましい。また、基体表面にダイヤモンド粉末を核付けすることは、均一なダイヤモンド層成長に効果がある。基体上には通常0.001〜2μmの粒径のダイヤモンド微粒子層が析出する。該ダイヤモンド層の厚さは蒸着時間により調節することができるが、経済性の観点から1〜10μmとするのが好ましい。
前記導電性ダイヤモンド電極を陽極に使用し、陰極にニッケル、ステンレスなどを用いて、KF-2HF、NH4F-(1〜3)HFまたはNH4F-KF-HF溶融塩中で電流密度1〜100A/dm2で電気分解を行うことによって陽極からF2またはNF3を得ることができる。また、浴組成を変えることによって、他のフッ素化合物を得ることもできる。
電解槽の材質は、高温のフッ化水素に対する耐食性の点から、軟鋼、ニッケル合金、及びフッ素系樹脂などを使用することができる。陽極で合成されたF2またはフッ素化合物と、陰極で発生する水素ガスの混合を防止するため、陽極側と陰極側が、隔壁、隔膜などによって全部、或いは一部が区画されることが好ましい。
前述した電解浴であるKF-2HF溶融塩は酸性フッ化カリウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことによって、NH4F-(1〜3)HF溶融塩は一水素二フッ化アンモニウムまたは/およびフッ化アンモニウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことなどによって、NH4F-KF-HF溶融塩は酸性フッ化カリウムおよび一水素二フッ化アンモニウムまたは/およびフッ化アンモニウムに無水フッ化水素ガスを吹き込むことなどによって調製される。
調製直後の電解浴中には数百ppm程度の水が混入するため、従来の炭素電極を陽極に使用した電解槽では陽極効果を抑制する目的で、0.1〜1A/dm2の低電流密度での脱水電解などによって水分除去を行なう必要があったが、本発明の導電性ダイヤモンド電極を使用した電解槽では高電流密度で脱水電解することが可能で、脱水電解を短時間で完了することができる。また、脱水電解することなく、所定の電流密度で操業を開始することもできる。
陽極で発生したF2またはフッ素化合物に同伴する微量のHFは、顆粒状のフッ化ナトリウムを充填したカラムを通すことで除去できる。また、NF3合成の際に微量の窒素、酸素、及び一酸化二窒素が副生するが、このうち一酸化二窒素は水とチオ硫酸ナトリウムを通過させることで除去し、酸素は活性炭により除去することができる。この様な方法でF2またはNF3に同伴する微量ガスを除去することによって高純度のF2またはNF3の合成が可能となる。
電解中に電極消耗、及びスラッジの発生がほとんど進行しないため、電極更新、及び電解浴更新による電解停止の頻度が低減する。電解によって消費されるHF、またはHFとNH4Fの補給のみ行なえば、長期に渡る安定したF2またはNF3の合成が可能である。
次に本発明に係る電解用電極製造の実施例及び比較例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
(実施例1)
導電性基体としてグラファイト板を使用し、熱フィラメントCVD装置を用いて、次の条件で導電性ダイヤモンド電極を作製した。
粒径1μmのダイヤモンド粒子からなる研磨剤を用いて、基体の表裏面全面を研磨した。基体表面の算術平均粗さRa0.2μm、最大高さRz6μmであった。次いで、粒径4nmのダイヤモンド粒子を基体の全ての表面に核付けした後、熱フィラメントCVD装置に装着した。水素ガス中に1vol%のメタンガスと0.5ppmのトリメチルボロンガスを添加した混合ガスを、5リットル/minの速度で装置内に流しながら、装置内圧力を75Torrに保持し、フィラメントに電力を印加して温度2400℃に昇温した。このとき基体温度は860℃であった。8時間CVD操作を継続した。更に同様のCVD操作を継続して繰り返し、基体の全て面を導電性ダイヤモンドで被覆した。CVD操作終了後のラマン分光分析及びX線回折分析によりダイヤモンドが析出していることが確認され、ラマン分光分析における1332cm-1のピーク強度と1580cm-1のピーク強度の比は、1対0.4であった。
同一の操作によって作製した導電性ダイヤモンド電極を破壊してSEM観察したところ、厚さは4μmであった。
破壊しなかった導電性ダイヤモンド電極を、建浴直後のKF-2HF系溶融塩中に陽極として取り付け、陰極にニッケル板を使用して電流密度20A/dm2で定電流電解を実施した。電解24時間後の槽電圧は5.6Vであった。引き続き電解を継続し、更に24時間経過した後の槽電圧は5.6Vであり、このときの陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはF2で発生効率は98%であった。
(実施例2)
実施例1に引き続き、電流密度を20A/dm21から100A/dm2に増加して同一の電解条件で電解を継続した。電流密度を100A/dm2に増加して24時間後の槽電圧は8.0Vであり、このときの陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはF2で発生効率は98%であった。
さらに同一条件で3000時間電解を継続したが、槽電圧の上昇はなかった。この後電解を停止し、導電性ダイヤモンド電極を無水フッ化水素で洗浄し、充分乾燥した後に重量を測定したところ、その重量は電解前の98.8%であり、電極の顕著な消耗は認められなかった。また、電解停止直後に電解浴を目視観察したところ、スラッジは認められなかった。
(実施例3)
基体の片面のみに導電性多結晶ダイヤモンド被覆したこと以外は実施例1と同様の導電性ダイヤモンド電極を作製した。導電性多結晶ダイヤモンドを被覆した面の水およびヨウ化メチレンとの接触角から算出した表面エネルギーは40.1dyn/cmで、ダイヤモンドを被覆していないグラファイト面のそれは41.5dyn/cmであった。該電極を用いた以外は実施例1と同一の条件で建浴直後のKF-2HF溶融塩中で電解を実施したところ、電解24時間後の槽電圧は5.5Vであった。引き続き電解を継続し、更に24時間経過後の槽電圧は5.5Vであり、このときの陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはF2で発生効率は98%であった。引き続き電流密度100A/dm2で24時間電解を継続し、電解を停止した。電極を取り出し、無水フッ化水素で洗浄した後に、電解前と同様にして表面エネルギーを算出したところ、導電性ダイヤモンドを被覆した面は38.0dyn/cmで、ダイヤモンドを被覆していないグラファイト面は3.5dyn/cmであり、導電性ダイヤモンド層が安定である一方、グラファイトが表面エネルギーの低い(CF)nで安定化されていたことが確認された。
(実施例4)
実施例1と同様の方法で作製した導電性ダイヤモンド電極を、建浴直後のNH4F-2HF溶融塩中に陽極として取り付け、陰極にニッケル板を使用して電流密度20A/dm2で定電流電解を実施した。電解24時間後の槽電圧は5.8Vであり、このときの陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはNF3で発生効率63%であった。
(比較例1)
陽極にグラファイト板を用いた以外は実施例1と同一の条件で建浴直後のKF-2HF溶融塩中で電解を実施したところ、電解開始直後に槽電圧が急激に上昇し、電解が継続できなかった。所謂陽極効果が発生した。
(比較例2)
電解電流密度を1A/dm2とした以外は比較例1と同一の条件で電解を150時間実施した。この後、電流密度を20A/dm2に増加した。電流密度増加後24時間経過後の槽電圧は6.5Vであり、このときの陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはF2で発生効率は98%であった。電流密度を増加したところ、およそ60A/dm2で槽電圧が急上昇し、電解が継続できなかった。所謂陽極効果が発生した。
(比較例3)
導電性基体としてグラファイト板の代わりにp型シリコン板を使用した以外には実施例1と同一の条件で導電性ダイヤモンド電極を作製した。ただし、基体表面の算術平均粗さRa0.2μm、最大高さRz2.1μmであった。作製した導電性ダイヤモンドの全面を40倍の光学顕微鏡で観察したところ、導電性多結晶ダイヤモンドで被覆されていないピンホールなどは観察できなかった。
この電極を用いた以外は実施例1と同一の条件で建浴直後のKF-2HF溶融塩中で電解を実施したところ、電解開始20時間経過後より電圧が上昇し、電解を継続できなかった。電解終了後に導電性ダイヤモンド電極を観察したところ、電解浴に浸漬されていた部分のダイヤモンド層は殆ど剥離していた。
(比較例4)
導電性基体としてグラファイト板の代わりにニオブ板を使用した以外は実施例1と同一の条件で導電性ダイヤモンド電極を作製した。ただし、基体表面の算術平均粗さRa3μm、最大高さRz18μmであった。作製した導電性ダイヤモンドの全面を40倍の光学顕微鏡で観察したところ、導電性ダイヤモンド被覆されていないピンホールは観察できなかった。この電極を用いた以外は実施例1と同一の条件で建浴直後のKF-2HF溶融塩中で電解を実施したところ、電解開始3時間経過後より電圧が上昇し、電解を継続できなかった。電解終了後に導電性ダイヤモンド電極を観察したところ、電解浴に浸漬されていた部分のダイヤモンド層は殆ど剥離していた。
比較例3および4では、導電性ダイヤモンド電極上には、40倍の光学顕微鏡では観察しえないピンホールあるいはダイヤモンド結晶の粒界より電解液が浸入して、その部分から基体が腐食し、導電性ダイヤモンド層が剥離したものと考えられる。

Claims (6)

  1. フッ化物イオンを含有する電解浴を用いてフッ素含有物質を電解合成するために使用する電解用陽極であって、少なくともその表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成ることを特徴とする電解用陽極。
  2. 導電性基体表面の導電性炭素質材料が、グラファイト、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボンおよび導電性ダイヤモンドから成る群から選択される1種、又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の電解用陽極。
  3. ダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜が、ラマン分光分析において、ダイヤモンドに帰属する1312〜1352cm-1の範囲に存在するピーク強度I(D)と、グラファイトのGバンドに帰属する1560〜1600cm-1の範囲に存在するピーク強度I(G)の比I(D)/I(G)が1以上であることを特徴とする請求項1または2記載の電解用陽極。
  4. ダイヤモンド構造を有する導電性炭素皮膜の基体への被覆率が10%以上であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の電解用陽極。
  5. フッ素含有物質がフッ素ガスまたは三フッ化窒素であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の電解用陽極。
  6. その少なくとも表面が導電性炭素質材料から成る導電性基体、および該基体の少なくとも一部に被覆されたダイヤモンド構造を有する導電性炭素質皮膜を含んで成る電解用陽極を、フッ化物イオンを含有する電解浴で陽極として使用して電解を行い、フッ素含有物質を電解合成することを特徴とする方法。
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