本発明の第1の実施形態に係る車両用整流装置10を自動車に適用した例を、図1乃至図5に基づいて説明する。なお、図中に適宜示す矢印FRは車体の前方向(車両走行方向)を、矢印INは車幅方向内側をそれぞれ示す。
図3には、車両用整流装置10が適用された自動車Sが模式的な底面図にて示されており、図1には、車両用整流装置10の概略全体構成が底面断面図にて示されている。図3に示される如く、自動車Sには、4つの車輪Wそれぞれに車両用整流装置10が設けられている。各車両用整流装置10は、対応する車輪Wの前方に配置された整流部12と、整流部12のスパッツ18(後述)を駆動するためのスパッツ駆動部14と、車両走行状態に応じてスパッツ駆動部14を作動するスパッツ調節部16とを主要構成要素として構成されている。なお、図1では、便宜上、車両用整流装置10の各構成要素の配置を図3に示す配置とは異ならせて図示している。
図1に示される如く、整流部12は、整流部材としてのスパッツ18を備えている。スパッツ18は、車幅方向(車輪Wの幅方向)に長手とされると共に前方を向く略矩形平板状に形成されている。すなわち、スパッツ18は、車体前後方向に板厚方向が一致する平板とされている。このスパッツ18は、その上端から突設されたガイド突起18Aを、車体下面における車輪Wの前方に形成されたガイド部としてのガイドレール20に脱落不能にかつ摺動可能に入り込ませることで、ガイドレール20にガイドされつつ該ガイドレール20の長手方向に変位可能に支持されている。
この実施形態では、ガイドレール20は車体前後方向に沿って長手とされると共に、各スパッツ18に対し左右一対設けられている。以上により、整流部12では、車輪Wの前方に配設したスパッツ18を、車体前方を向く姿勢を維持したまま、車輪Wに対して車体前後方向に沿って変位(接離)させることができる構成とされている。
また、図1に示される如く、スパッツ駆動部14は、エアシリンダ22を備えている。エアシリンダ22は、車体に固定されるシリンダ24と、シリンダ24内に軸線方向に沿って摺動可能に配設されたピストン26と、一端においてピストン26に同軸的に固定されると共に他端がシリンダ24外に位置しかつ中間部がシリンダ24と気密状態で摺動可能な連結ロッド28とを備えて構成されている。シリンダ24の軸線方向一端側(連結ロッド28の貫通側)には第1出入口24Aが設けられており、シリンダ24の軸線方向他端側には第2出入口24Bが設けられている。
以上により、エアシリンダ22は、第1出入口24A側が第2出入口24B側よりも高圧である場合に、連結ロッド28のシリンダ24に対する突出量が減じるようにピストン26を矢印A方向に変位させ、第1出入口24A側が第2出入口24B側よりも低圧である場合に、連結ロッド28のシリンダ24に対する突出量が増すようにピストン26を矢印B方向に変位させる構成とされている。このエアシリンダ22は、その連結ロッド28の先端がスパッツ18に固定されており、ピストン26が矢印A方向に移動するとスパッツ18を前進(車輪Wから離間)させ、ピストン26が矢印B方向に移動するとスパッツ18を後退(車輪Wに近接)させるようになっている。
さらに、図1に示される如く、スパッツ調節部16は、流体スイッチ機構30を備えて構成されている。流体スイッチ機構30は、底面視で略U字状に形成され両端が前方を向いて開口する開口部32A、32Bとされた曲がり管32を備えている。曲がり管32の中間部には、長手方向に互いに離間して(独立して)第1連通口34A、第2連通口34Bが設けられている。第1連通口34Aは、第2連通口34Bに対し開口部32A側に配置されている。この曲がり管32内には、第1連通口34A、第2連通口34Bを曲がり管32の内側から閉塞し得る弁体36が長手方向に移動可能に挿設されている。この実施形態では、曲がり管32は断面形状が円形に形成されると共に、弁体36は球状に形成されている。
また、曲がり管32内における第1連通口34Aの開口部32A側、及び第2連通口34Bの開口部32B側の内周からは、それぞれ弁体36の移動限となるストッパ38A、38Bが突設されている。弁体36は、一方のストッパ38Aに突き当たった状態で第1連通口34Aを閉塞し、他方のストッパ38Bに突き当たった状態で第2連通口34Bを閉塞するようになっている。したがって、流体スイッチ機構30は、曲がり管32の一方の開口部32A側の圧力が他方の開口部32B側の圧力よりも高い場合には、弁体36がストッパ38Bに突き当たって第2連通口34Bを閉塞しつつ第1連通口34Aを開放し(以下、この状態を第1状態という)、開口部32B側の圧力が開口部32A側の圧力よりも高い場合には、弁体36がストッパ38Aに突き当たって第1連通口34Aを閉塞しつつ第2連通口34Bを開放する(以下、この状態を第2状態という)構成である。
この流体スイッチ機構30とエアシリンダ22とは、エアホース(エアチューブ)40Aを介して第1出入口24Aと第1連通口34Aとが連通されると共に、エアホース40Bを介して第2出入口24Bと第2連通口34Bとが連通されている。これにより、流体スイッチ機構30の第1状態では、高圧側に開口した開口部32Aから曲がり管32に流入した空気が、第1連通口34A、エアホース40A、第1出入口24Aを経由してシリンダ24に導入されるようになっている。一方、流体スイッチ機構30の第2状態では、高圧側に開口した開口部32Bから曲がり管32に流入した空気が、第2連通口34B、エアホース40B、第1出入口24Bを経由してシリンダ24に導入されるようになっている。
この流体スイッチ機構30からシリンダ24に導入される空気の空気圧によってピストン26を矢印A又は矢印B方向に駆動するために、図2にも示される如く、曲がり管32における第1連通口34Aの管壁42A及び第2連通口34Bの管壁42Bには、それぞれエア抜き孔44A、44Bが設けられている。各エア抜き孔44A、44Bは、それぞれバルブ46A、46Bによって開閉されるようになっている。各バルブ46A、46Bは、曲がり管32内に回動自在に軸支されており、該曲がり管32内の圧力差(上流から下流への流れ)によって通常は対応するエア抜き孔44A、44Bを閉塞する構成とされている。そして、各バルブ46A、46Bは、弁体36がストッパ38A又はストッパ38Bに押し付けられる際に、該弁体36に押圧されて矢印C又は矢印D方向に回動し、エア抜き孔44A、44Bを開放するようになっている。図2には、エア抜き孔44Bが開放されている例が示されている。
以上により、流体スイッチ機構30は、第1状態ではエア抜き孔44Bが開放され、第2状態ではエア抜き孔44Aが開放される構成である。これにより、流体スイッチ機構30の第1状態では、流体スイッチ機構30からの空気がシリンダ24に第1出入口24Aから供給されると共に、第2出入口24B側の空気がエア抜き孔44Bから排出されることで、ピストンが矢印A方向に移動してスパッツ18が前進するようになっている。流体スイッチ機構30の第2状態では、流体スイッチ機構30からの空気がシリンダ24に第2出入口24Bから供給されると共に、第1出入口24A側の空気がエア抜き孔44Aから排出されることで、ピストンが矢印B方向に移動してスパッツ18が後退するようになっている。
そして、流体スイッチ機構30は、曲がり管32の開口部32Bが対応する車輪Wの車幅方向内端部の後方に配置されると共に、開口部32Aを開口部32Aよりも車幅方向内側で略同高位となる位置に配置されることで、スパッツ調節部16を構成している。なお、曲がり管32の開口部32Bは、車輪Wの車幅方向内端部にオーバーラップして配置されても良く、車輪Wの車幅方向内端部に対しオーバーラップしないように若干内側に配置されても良い。この曲がり管32の配置は、車輪寸法等によって車種ごとに適宜選択される。
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用整流装置10が各車輪Wに適用された自動車Sでは、各スパッツ18の初期位置は、図4(A)に示され如く、ガイドレール20のガイド範囲における車輪Wに近接した位置とされている。この初期位置に対し、図4(B)に示される如くスパッツ18を前進させると、抗力係数(CD値)、揚力係数(CL値)が共に低減して空力性能が向上する。例えば、スパッツ18を初期位置に対し20mm前進させることで、抗力係数が0.001だけ減じられると共に、揚力係数が0.005だけ減じられることが確かめられている。
そして、各車両用整流装置10は、スパッツ18の車輪Wに対する位置を、制御を行うことなく、車両走行状態に応じて適切な位置に移動し、該位置を維持させる。この実施形態では、スパッツ18が車両の走行速度(以下、車速という)に応じた適切な位置に移動し維持されるようになっており、以下、その動作を詳細に説明する。なお、各車両用整流装置10の動作は基本的に同じであるため、以下では1つの各車両用整流装置10の動作を説明する。
車両用整流装置10では、スパッツ18は車体下部を通過する空気を、直接的に車輪Wに当たることを抑制するように整流する。このとき、スパッツ18は、車速に応じた空気流とバランスする位置(後述)に位置している。車速が上昇すると、この車速に対しスパッツ18が車輪Wに近接しすぎた状態になるため、図5(A)に示される如く、空気が車輪Wの幅方向端部に直接的に車輪Wに当たるようになる(車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積が増す)。車輪Wの車幅方向内側に当たった空気は、周期的な渦Vを生じ、この渦Vは相対的に車体後方に移動する(輸送される)。なお、図5の矢印Jは、車体下部の車幅方向中央部付近を通過する流れを示している。
上記した渦Vによって、図5(B)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。すると、曲がり管32の開口部32A側の動圧Paが開口部32B側の動圧Pbよりも大となる(Pa>Pb)ため、この圧力差によって弁体36が開口部32B側に移動してストッパ38Bに当接する。これにより、弁体36によって曲がり管32と連通口34Bとの間が閉塞され、開口部32Bから曲がり管32への空気の流入、曲がり管32から連通口34B側への空気の流出がそれぞれ阻止される。このとき、バルブ46Bが弁体36に押圧されて矢印D方向に回動し、エア抜き孔44Bが開放される。
すると、開口部32Aから曲がり管32に流入した空気は、連通口34A、エアホース40A、第1出入口24Aを経由してエアシリンダ22のシリンダ24に導入され、ピストン26は、第2出入口24B、エアホース40B、連通口34B、エア抜き孔44Bを経由してシリンダ24内の空気を押し出しつつ、矢印A方向に移動する。すなわち。、ピストン26は、動圧差(Pa−Pb)ではなく、流体スイッチ機構30によって動圧Paと静圧の差まで増幅された圧力にって駆動される。すると、連結ロッド28を介してピストン26に連結されているスパッツ18は、前進して車輪Wから離間する。これにより、車両走行に伴う後方への空気流をスパッツ18が車幅方向外側に整流(図5(C)の矢印E参照)するため、空気が直接的に車輪Wに当たることが抑制される。
この結果、曲がり管32の開口部32B側の動圧Pbが上昇すると、上記動作とは逆にスパッツ18が後退したりしながら(過渡的にPb>Paとなったりしながら)、最終的は、動圧Paと動圧Pbとがほぼ一致して弁体36がストッパ38Bから離間して中立位置に位置し、シリンダ24におけるピストン26の両側の圧力が釣り合う(バランスする)。このように、スパッツ18の車輪Wに対する位置は、その車速における中立位置で維持される。車速がさらに増すと、上記と同様にしてスパッツ18の位置がさらに前進し、車速が減じられると、上記とは逆の動作でスパッツ18の位置が後退する。
以上説明したように、車両用整流装置10では、車速に応じてスパッツ18が前後に移動することで、該車速に適した整流作用を得ることができる。すなわち、車速が相対的に低い場合にはスパッツ18は車輪Wに近接して配置されて該車輪Wに直接的に空気が当たることを効果的に抑制し、車速が相対的高い場合にはスパッツ18を前進させて車輪Wに直接的に空気が当たることを抑制すると共に渦Vの発生を防止又は抑制する。
より具体的には、スパッツ18が低車速に応じた位置に位置する状態で自動車Sが高速走行している場合、車輪Wは、直接的に当たる空気流(特に幅方向の端部に直接的当たる空気流)によって抗力(モーメント)を受けると共に、内側部を通過する渦Vの圧力変動によって励振され、自動車Sの操縦安定性が悪化するが、車速の上昇に伴ってスパッツ18を前進することで、上記の通り車輪Wに直接的に空気が当たることが抑制されると共に渦Vの発生が防止又は抑制されるので、操縦安定性が向上する。一方、スパッツ18が高車速に応じた位置に位置する状態で自動車Sが低速走行している場合、スパッツ18の背後に回り込んで車輪Wに直接的に当たる空気流が形成されるが、低車速状態ではスパッツ18を後退させることで、上記の通り車輪Wに直接的に空気が当たることが効果的に抑制されて抗力(抗力係数CD)が低減する。
そして、車両用整流装置10では、流体スイッチ機構30及びエアシリンダ22が車輪Wの後方の空気流の動圧差をスパッツ18の駆動力に変換するため、例えば電気モータや油圧装置の如き動力源に頼ることなく、かつこれらの動力源を制御することなく、スパッツ18を車速に応じた整流作用を奏する位置に位置させることができる。
このように、第1の実施形態に係る車両用整流装置10では、簡単な構造でスパッツ18の位置を車両走行状態に応じて変化させることができる。
なお、上記第1の実施形態では、車両用整流装置10が4つの車輪Wの全てに適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、左右の前車輪Wにのみ車両用整流装置10を適用しても良く、左右の後車輪Wのみ車両用整流装置10を適用しても良い。
また、上記第1の実施形態では、流体スイッチ機構30を備え、曲がり管32の開口部32A、32B間の動圧差を、一方の動圧と静圧との差に増幅する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、動圧差(Pa−Pb)によって直接的にエアシリンダ22を駆動するようにしても良い。また、流体スイッチ機構30は、上記した構成限定されることはない。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品、部分については上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略する(図示を省略する場合もある)。
(第2の実施形態)
図6には、本発明の第2の実施形態に係る車両用整流装置50の概略全体構成が底面断面図にて示されている。この図に示される如く、車両用整流装置50は、整流部12と、スパッツ駆動部14と、スパッツ調節部16とを有する点で、車両用整流装置10と共通し、整流部12の構造が異なる点及び流路切換装置52を有する点で、車両用整流装置10とは異なる。
整流部12は、スパッツ18に代えて、スパッツ54を備えている。図7(A)及び図7(B)に示される如く、スパッツ54は、平板状に形成された第1部材56と、車幅方向内側に開口する中空板状に形成され第1部材56を進退可能に入り込ませた第2部材58とで、全体として長手方向に略一致する車幅方向に伸縮可能に構成されている。また、ガイドレール20に代えて設けられた一対のガイドレール60は、それぞれ底面視で相手方側を向いて凹となると共に長軸方向が車体前後方向に一致する半楕円状に形成されており、併せて略楕円状を成している。
一方のガイドレール60には、第1部材56の上端に脱落不能にかつ長手方向に沿うスライド可能に設けられたガイド突起56Aが脱落不能にかつ摺動可能に入り込まされており、他方のガイドレール60には、第2部材58の上端から突設されたガイド突起58Aが脱落不能にかつ摺動可能に入り込まされている。これにより、スパッツ54は、一対のガイドレール60によって水平面に沿ってガイドされつつ車体前後方向に対する角度を変更可能、すなわち角変位可能に支持されている。スパッツ54は、図7に示される如く、車体前後方向に対する傾斜角が大きくなると、第1部材56の第2部材58からの突出量が増し全体として伸長するようになっている。
そして、スパッツ54は、その第1部材56の車幅方向内端部分が、エアシリンダ22の連結ロッド28の先端に、水平面に沿う角変位可能に連結されている。これにより、整流部12では、後述する第3状態において、ピストン26が矢印A方向に移動すると(第3状態における第1状態では)、スパッツ54が伸縮しつつ矢印F方向に回動すなわち角変位し、ピストン26が矢印B方向に移動すると(第3状態における第2状態では)、スパッツ54が伸縮しつつ矢印G方向に角変位する構成とされている。後述する第4状態では、上記とは逆に、ピストン26が矢印A方向に移動すると(第4状態における第1状態では)スパッツ54が矢印G方向に角変位し、ピストン26が矢印B方向に移動すると(第4状態における第2状態では)スパッツ54が矢印F方向に角変位するようになっている。
流路切換装置52は、エアホース40A、40Bの中間部に配設されており、連通口34A(エア抜き孔44A)と第1出入口24Aとを連通すると共に連通口34B(エア抜き孔44B)と第2出入口24Bとを連通する第3状態と、連通口34A(エア抜き孔44A)と第2出入口24Bとを連通すると共に連通口34B(エア抜き孔44B)と第1出入口24Aとを連通する第4状態とを切換可能とされている。第3状態及び第4状態は、それぞれ上記下第1状態と第2状態とを切換可能な状態である。
この流路切換装置52は、整流ECU62に電気的に接続されており、整流ECU62には、車輪Wの転舵方向に対応する情報が入力されるようになっている。整流ECU62は、車輪Wが車幅方向外向きに転舵された場合(例えば、右輪が右折方向に転舵された場合)には、流路切換装置52を第3状態に切り換え、車輪Wが車幅方向内向きに転舵された場合には流路切換装置52を第4状態に切り換えるようになっている。
なお、流路切換装置52としては、一般的な切り換え弁を用いることもできるが、例えば圧力損失を低減するために、図8に例示するような構造を採用することも可能である。図8(A)に示される如く、この流路切換装置52は、略直方体(角筒)状に形成された本体64の内部が正面視十字状に形成された隔壁66によって4つの空間に仕切られている。この4つの空間のうち1つの空間68の両端は、それぞれ連通口34Aと連通する入口68A、第1出入口24Aに連通する出口68Bとされている。空間68と対角を成す位置に配置された空間70の両端は、それぞれ連通口34Bと連通する入口70A、第2出入口24Bに連通する出口70Bとされている。これにより、流路切換装置52は、図8(A)に示す第3状態を取り得る。
また、隔壁66のうち、空間68と側方の空間72との間における出口68B側の部分を仕切る立壁66Aは、鉛直方向に沿う軸67A廻りに回動可能とされ、空間68の出入口68A、68B間を閉塞し得る。隔壁66のうち、空間68と下方の空間74との間における入口68A側の部分を仕切る横壁66Bは、水平方向に沿う軸67B廻りに回動可能とされ、空間68の出入口68A、68B間を閉塞し得る(閉塞状態で立壁66Aと重なる)。隔壁66のうち、空間70と空間74との間における出口70B側の部分を仕切る立壁66Cは、鉛直方向に沿う軸67C廻りに回動可能とされ、空間70の出入口70A、70B間を閉塞し得る。隔壁66のうち、空間68と空間72との間における入口68A側の部分を仕切る横壁66Dは、水平方向に沿う軸67D廻りに回動可能とされ、空間70の出入口70A、70B間を閉塞し得る(閉塞状態で立壁66Cと重なる)。
各立壁66A、66C、横壁66B、66Dが第3状態から上記に示す通り回動することで、流路切換装置52は、図8(B)に示す第4状態を取り得る。この第4状態では、入口68Aと出口70Bとが空間74を介して連通されると共に、入口70Aと出口68Bとが空間72を介して連通されている。なお、空間72、74の両端は図示しない壁によって閉止されている。
以上説明した車両用整流装置50は、自動車Sの左右の前車輪Wに適用されており、整流部12すなわちスパッツ54は対応する前車輪Wの前方に配置されている。また、この実施形態では、流体スイッチ機構30は、自動車Sの直進状態では前車輪Wの後方における曲がり管32の開口部32A、32B間に動圧差が生じない(小さい)位置に配置されている。
次に、第2の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用整流装置50が各前車輪Wに適用された自動車Sでは、スパッツ54の車輪Wに対する位置(角度)を、制御を行うことなく、車両走行状態に応じて適切な位置に移動し、該位置を維持させる。この実施形態では、スパッツ54が前車輪Wの転舵角に応じて適切に角変位して該角度が維持されるようになっており、以下、その動作を詳細に説明する。なお、各車両用整流装置50の動作は基本的に同じ(左右対称であって、第3状態と第4状態とが逆になるだけ)であるため、以下では1つの各車両用整流装置50の動作を説明する。また、流体スイッチ機構30、エアシリンダ22の各動作は、上記第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
車両用整流装置50では、スパッツ54は車体下部を通過する空気を、直接的に車輪Wに当たることを抑制するように整流する。自動車Sの直進状態では、各前車輪Wの転舵角は0であり、流体スイッチ機構30の開口部32A、32B間に動圧差が生じない(小さい)ので、スパッツ54は、初期位置すなわち図9(A)に示すように車幅方向に沿う位置(角度)に維持される。
図9(B)に示される如く、前車輪Wが車幅方向外側に転舵(左車輪が左折方向に転舵)されると、矢印Hにて示す流れのように、空気が車輪Wの幅方向外側の端部において直接的に車輪Wに当たるようになる(車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積が増す)。また、旋回走行に伴う空気流は車体前後方向に対し傾斜しており、スパッツ54との成す角が鈍角になるため、スパッツ54の車幅方向内端側を起点として渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。なお、図9の矢印Jは、車体下部の車幅方向中央部付近を通過する流れを示している。
上記した渦Vによって、図9(C)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第3状態に切り換えて(選択して)いるため、ピストン26は矢印A方向に移動し、連結ロッド28に連結されているスパッツ54は、図9(D)に示される如く、矢印F方向に回動する。すなわち、スパッツ54は、車輪Wに追従して前面が車幅方向外側を向くように、車輪Wと同じ方向に角変位する。
これにより、スパッツ54は、車両進行方向への投影面積を増し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることを抑制する。例えば、上記した矢印Hにて示す流れは、スパッツ54によって整流され、車輪Wに直接的に当たることが防止される。特に、スパッツ54は、初期位置からの角変位に伴って伸長するため、車両進行方向への投影面積が一層増大し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることが効果的に抑制される。そして、スパッツ54は、シリンダ24におけるピストン26の両側の圧力が釣り合う(バランスする)位置で、車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積すなわち抗力(抗力係数CD)を最小にしている。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向内向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、該進行方向に対するスパッツ54の投影面積を最大にするように、上記とは逆の動作でスパッツ54が初期位置に復帰する。この動作は、基本的に次述する初期位置から車幅方向内向きへの転舵に伴う動作(流路切換装置52による第4状態への切り換えを伴う動作)と同じである。
一方、図10(A)に示される如く、前車輪Wが車幅方向内側に転舵(左車輪が右折方向に転舵)されると、矢印Kにて示す流れのように、空気が車輪Wの幅方向内側の端部において直接的に車輪Wに当たるようになる(車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積が増す)。また、車輪Wの車幅方向内端側に当たった流れに影響されて、該車輪Wの内側で渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。この渦Vによって、図10(B)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。
すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第4状態に切り換えているため、ピストン26は矢印B方向に移動し、連結ロッド28に連結されているスパッツ54は、図10(C)に示される如く、矢印G方向に回動する。すなわち、スパッツ54は、車輪Wに追従して前面が車幅方向内側を向くように、車輪Wと同じ方向に角変位する。
これにより、スパッツ54は、車両進行方向への投影面積が増し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることが抑制される。例えば、上記した矢印Kにて示す流れは、スパッツ54によって整流され、車輪Wに直接的に当たることが防止される。特に、スパッツ54は、初期位置からの角変位に伴って伸長するため、車両進行方向への投影面積が一層増大し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることが効果的に抑制される。そして、スパッツ54は、シリンダ24におけるピストン26の両側の圧力が釣り合う(バランスする)中立位置で、車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積すなわち抗力(抗力係数CD)を最小にしている。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向外向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、流路切換装置52が第3状態に切り換えられ、該進行方向に対するスパッツ54の投影面積を最大にするように、スパッツ54が車輪Wの転舵(方向)に追従して初期位置に復帰する。
以上説明したように、車両用整流装置50では、車輪Wの転舵(角)に応じてスパッツ54が角変位することで、旋回走行に適した整流作用を得ることができる。すなわち、スパッツ54が旋回走行時の車両進行方向に対する投影面積を最大にするように角変位し、旋回走行時の抗力(抗力係数CD)を最小にして空力性能を向上させている。そして、車両用整流装置50では、流体スイッチ機構30及びエアシリンダ22が車輪Wの後方の空気流の動圧差をスパッツ18の駆動力に変換するため、例えば電気モータや油圧装置の如き動力源に頼ることなく、かつこれらの動力源を制御することなく、スパッツ54を転舵(操舵)状態に応じた整流作用を奏する位置に位置させることができる。
このように、第2の実施形態に係る車両用整流装置50では、簡単な構造でスパッツ54の位置を車両走行状態に応じて変化させることができる。
(第3の実施形態)
図11には、本発明の第3の実施形態に係る車両用整流装置80の概略全体構成が底面断面図にて示されている。この図に示される如く、車両用整流装置80は、整流部12と、スパッツ駆動部14と、スパッツ調節部16とを有する点で、車両用整流装置10、50と共通し、整流部12の構造が異なる点で車両用整流装置10、50とは異なる。
整流部12は、スパッツ18に代えて、スパッツ82を備えている。図12(A)乃至図12(C)に示される如く、スパッツ82は、平板状に形成された第1部材84と、車幅方向の内外両側に開口する中空板状に形成され第1部材84を進退可能に入り込ませた第2部材86とで、全体として長手方向に略一致する車幅方向に伸縮可能に構成されている。また、左右一対のガイドレール20に代えて設けられた前後一対のガイドレール88は、それぞれ底面視で車幅方向に長手とされている。第1部材86は、一対のガイドレール88を跨ぐように車体に固定された固定桁90に固定されている。
第2部材86は、ガイドレール88にガイドされて車幅方向に移動可能な可動桁92に固定されている。具体的には、前後のガイドレール88には、前後方向に長手とされた可動桁92の前後端部の各上端からそれぞれ突設されたガイド突起92Aが、脱落不能にかつ摺動可能に入り込まされている。これにより、第2部材86は、可動桁92と共にガイドレール88にガイドされつつ該ガイドレール88の長手方向に変位可能に支持されている。図12(A)に示す如く、初期位置では、第1部材84は全長に亘り第2部材86に入り込んでおり、図12(B)に示す如く第2部材86が車幅方向外側に移動するとスパッツ82は全体として車幅方向外側に伸長し、図12(C)に示す如く第2部材86が車幅方向内側に移動するとスパッツ82は全体として車幅方向内側に伸長する構成とされている。
そして、第2部材86が固定された可動桁92は、軸線方向を車幅方向に略一致させたエアシリンダ22の連結ロッド28の先端に固定的に連結されている。これにより、整流部12では、流路切換装置52が第3状態に切り換えられている場合にピストン26が矢印A方向に移動すると(第3状態における第1状態では)、第2部材86が車幅方向外側に変位してスパッツ82が車幅方向外側に伸長し、ピストン26が矢印B方向に移動すると(第3状態における第2状態では)、第2部材86が車幅方向内側に変位してスパッツ82が車幅方向内側に伸長する構成とされている。流路切換装置52が第4状態に切り換えられている場合には、ピストン26が矢印A方向に移動すると(第4状態における第1状態では)、第2部材86が車幅方向内側に変位してスパッツ82が車幅方向内側に伸長し、ピストン26が矢印B方向に移動すると(第3状態における第2状態では)、第2部材86が車幅方向外側に変位してスパッツ82が車幅方向外側に伸長する構成とされている。
以上説明した車両用整流装置80は、自動車Sの左右の前車輪Wに適用されており、整流部12すなわちスパッツ82は対応する前車輪Wの前方に配置されている。また、この実施形態では、流体スイッチ機構30は、自動車Sの直進状態では、前車輪Wの後方における曲がり管32の開口部32A、32B間に動圧差が生じない(小さい)位置に配置されている。
次に、第3の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用整流装置80が各前車輪Wに適用された自動車Sでは、スパッツ82の車輪Wに対する位置(角度)を、制御を行うことなく、車両走行状態に応じて適切な位置に移動し、該位置を維持させる。この実施形態では、スパッツ82が前車輪Wの転舵角に応じて伸縮するようになっており、以下、その動作を詳細に説明する。なお、各車両用整流装置80の動作は基本的に同じ(左右対称であって、第3状態と第4状態とが逆になるだけ)であるため、以下では1つの各車両用整流装置80の動作を説明する。また、流体スイッチ機構30、エアシリンダ22の各動作は、上記第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
車両用整流装置80では、スパッツ82は車体下部を通過する空気を、直接的に車輪Wに当たることを抑制するように整流する。自動車Sの直進状態では、各前車輪Wの転舵角は0であり、流体スイッチ機構30の開口部32A、32B間に動圧差が生じない(小さい)ので、スパッツ82は、初期位置すなわち図13(A)に示すように第2部材86が第1部材84を全長に亘り覆う位置に維持される。
図13(B)に示される如く、前車輪Wが車幅方向外側に転舵(左車輪が左折方向に転舵)されると、矢印Hにて示す流れのように、空気が車輪Wの幅方向外側の端部において直接的に車輪Wに当たるようになる(車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積が増す)。また、旋回走行に伴う空気流は車体前後方向に対し傾斜しており、スパッツ82との成す角が鈍角になるため、スパッツ82の車幅方向内端側を起点として渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。
この渦Vによって、図13(C)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第3状態に切り換えて(選択して)いるため、ピストン26は矢印A方向に移動し、連結ロッド28に連結されている可動桁92はスパッツ82の第2部材86と共に車幅方向外側に移動する。すなわち、スパッツ82は、第1部材84を車輪Wの車幅方向内側部分の前方に位置させる状態を維持しつつ、第2部材86を車輪Wの車幅方向外側部分の前方に移動する。
このようにスパッツ82は、車両進行方向への投影面積を増し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることを抑制する。例えば、上記した矢印Hにて示す流れは、スパッツ82の第2部材86によって整流され、車輪Wに直接的に当たることが防止される。そして、スパッツ82は、シリンダ24におけるピストン26の両側の圧力が釣り合う(バランスする)中立位置で、車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積すなわち抗力(抗力係数CD)を最小にしている。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向内向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、流路切換装置52が第4状態に切り換えられて上記とは逆の動作でスパッツ82が初期位置に復帰する。
一方、図14(A)に示される如く、前車輪Wが車幅方向内側に転舵(左車輪が右折方向に転舵)されると、矢印Kにて示す流れのように、空気が車輪Wの幅方向内側の端部において直接的に車輪Wに当たるようになる(車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積が増す)。また、車輪Wの車幅方向内端側に当たった流れに影響されて、該車輪Wの内側で渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。この渦Vによって、図14(B)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。
すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第4状態に切り換えているため、ピストン26は矢印B方向に移動し、連結ロッド28に連結されている可動桁92はスパッツ82の第2部材86と共に車幅方向内側に移動する。すなわち、スパッツ82は、第1部材84を車輪Wの車幅方向外側部分の前方に位置させる状態を維持しつつ、第2部材86を車輪Wの車幅方向内側部分の前方に移動する。
このようにスパッツ82は、車両進行方向への投影面積を増し、旋回走行に伴って空気が直接的に車輪Wに当たることを抑制する。例えば、上記した矢印Kにて示す流れは、スパッツ82の第2部材86によって整流され、車輪Wに直接的に当たることが防止される。そして、スパッツ82は、シリンダ24におけるピストン26の両側の圧力が釣り合う(バランスする)中立位置で、車輪Wにおける空気が直接的に当たる面積すなわち抗力(抗力係数CD)を最小にしている。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向外向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、流路切換装置52が第3状態に切り換えられて上記とは逆の動作でスパッツ82が初期位置に復帰する。
以上説明したように、車両用整流装置80では、車輪Wの転舵(角)に応じてスパッツ82が車幅方向に伸縮する(第2部材86が車幅方向に変位する)ことで、旋回走行に適した整流作用を得ることができる。すなわち、スパッツ82は、転舵に伴って車両進行方向に対する投影面積が減少する分を第2部材86の車幅方向の変位によって補うことで、旋回走行時の抗力(抗力係数CD)を最小にして空力性能を向上させている。そして、車両用整流装置80では、流体スイッチ機構30及びエアシリンダ22が車輪Wの後方の空気流の動圧差をスパッツ18の駆動力に変換するため、例えば電気モータや油圧装置の如き動力源に頼ることなく、かつこれらの動力源を制御することなく、スパッツ82を転舵(操舵)状態に応じた整流作用を奏する位置に位置させることができる。
このように、第3の実施形態に係る車両用整流装置80では、簡単な構造でスパッツ82の位置を車両走行状態に応じて変化させることができる。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る車両用整流装置100について、図15及び図16に基づいて説明する。この車両用整流装置100は、図11に括弧付きの符号にて示すように機械的には車両用整流装置80と全く同様に構成されている。車両用整流装置100は、その整流ECU62が、車輪Wが車幅方向外向きに転舵された場合に流路切換装置52を第4状態に切り換え、車輪Wが車幅方向内向きに転舵された場合には流路切換装置52を第3状態に切り換える点で、車両用整流装置80とは異なる。
以下、車両用整流装置100の作用を説明する。
上記構成の車両用整流装置100が各前車輪Wに適用された自動車Sでは、スパッツ82の車輪Wに対する位置(角度)を、制御を行うことなく、車両走行状態に応じて適切な位置に移動し、該位置を維持させる。この実施形態では、スパッツ82が前車輪Wの転舵角に応じて伸縮するようになっており、以下、その動作を詳細に説明する。なお、各車両用整流装置100の動作は基本的に同じ(左右対称であって、第3状態と第4状態とが逆になるだけ)であるため、以下では1つの各車両用整流装置100の動作を説明する。また、流体スイッチ機構30、エアシリンダ22の各動作は、上記第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
車両用整流装置100では、スパッツ82は車体下部を通過する空気を、直接的に車輪Wに当たることを抑制するように整流する。自動車Sの直進状態では、各前車輪Wの転舵角は0であり、流体スイッチ機構30の開口部32A、32B間に動圧差が生じない(小さい)ので、スパッツ82は、初期位置すなわち図15(A)に示すように第2部材86が第1部材84を全長に亘り覆う位置に維持される。
図15(B)に示される如く、前車輪Wが車幅方向外側に転舵(左車輪が左折方向に転舵)されると、旋回走行に伴う空気流は車体前後方向に対し傾斜してスパッツ82との成す角が鈍角になるため、スパッツ82の車幅方向内端側を起点として渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。
この渦Vによって、図15(C)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第4状態に切り換えて(選択して)いるため、ピストン26は矢印B方向に移動し、連結ロッド28に連結されている可動桁92はスパッツ82の第2部材86と共に車幅方向内側に移動する。
すなわち、スパッツ82は、上記渦Vの発生起点となる車幅方向内端部をより車幅方向内側に移動する。すると、第2部材86の車幅方向内端を起点として発生する渦V1が、上記した渦Vの変動を小さくする(互いに打ち消す)ように作用し、渦Vの変動によって車輪Wに作用する抗力の変動成分(起振力)が最小になる。これにより、自動車Sの操縦安定性が向上する。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向内向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、流路切換装置52が第3状態に切り換えられて上記とは逆の動作でスパッツ82が初期位置に復帰する。
一方、図16(A)に示される如く、前車輪Wが車幅方向内側に転舵(左車輪が右折方向に転舵)されると、車輪Wの車幅方向内端側に当たった流れに影響されて、該車輪Wの内側で渦Vが発生し、この渦Vは相対的に車体後方に移動する。この渦Vによって、図16(B)に示される如く、流体スイッチ機構30の曲がり管32の開口部32B側における車体後方向かう流速が減少し、このため開口部32B側の動圧Pbが減少する。
すると、流体スイッチ機構30では、弁体36が曲がり管32と連通口34Bとの間を閉塞すると共にエア抜き孔44Bを開放する。このとき、整流ECU62が流路切換装置52を第3状態に切り換えているため、ピストン26は矢印A方向に移動し、連結ロッド28に連結されている可動桁92はスパッツ82の第2部材86と共に車幅方向外側に移動する。
これにより、スパッツ82の露出した第1部材84の車幅方向内端を起点として発生する渦V1が、上記した渦Vの変動を小さくする(互いに打ち消す)ように作用し、渦Vの変動によって車輪Wに作用する抗力の変動成分(起振力)が最小になる。このため、自動車Sの操縦安定性が向上する。
車輪Wの転舵角を0に戻す(すなわち車幅方向外向きに転舵する)と、換言すれば車両進行方向が車体前後方向に一致する直進状態に復帰すると、流路切換装置52が第4状態に切り換えられて上記とは逆の動作でスパッツ82が初期位置に復帰する。
以上説明したように、車両用整流装置100では、車輪Wの転舵(角)に応じて第2部材86が車幅方向に変位することで、旋回走行に適した整流作用を得ることができる。すなわち、スパッツ82は、転舵に伴って発生する渦Vを打ち消す渦V1を生じさせるように変位し、車輪に作用する抗力の変動成分を最小にして操縦安定性を向上させている。そして、機械的に車両用整流装置80と同じ構成である車両用整流装置100では、例えば電気モータや油圧装置の如き動力源に頼ることなく、かつこれらの動力源を制御することなく、スパッツ82を転舵(操舵)状態に応じた整流作用を奏する位置に位置させることができる。
このように、第4の実施形態に係る車両用整流装置100では、簡単な構造でスパッツ82の位置を車両走行状態に応じて変化させることができる。
なお、第4の実施形態では、伸縮可能なスパッツ82を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、可動部材にである第2部材86のみで可動スパッツを構成しても良い。この場合でも、基本的に上記した第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。このような、単一部材の可動スパッツ(第2部材86)を車幅方向に移動する構成では、例えば、図17(A)に示す初期位置から図17(B)に示す如く第2部材86を移動させると、抗力係数(CD値)、揚力係数(CL値)が共に低減し、角スパッツの位置に応じて空力性能を変化させることができる。例えば、第2部材86を初期位置に対し50mmだけ車幅方向外側に移動して車輪Wとのオーバラップ量を増すと、抗力係数が0.002だけ減じられると共に、揚力係数が0.010だけ減じられることが確かめられている。
また、上記第2乃至第4の実施形態では、車両用整流装置50、80、100が左右の前車輪Wに適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、左右の後車輪Wには車両用整流装置10を適用しても良い。
さらに、上記第2乃至第4の実施形態では、整流ECU62を備える例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、流路切換装置52が直接的に入力される転舵情報によって、第3状態と第4状態とを切り換えるようにしても良い。