ところで、上記特許文献1に記載されたバルブタイミング可変装置では、常時回転している電磁コイルに対し、同バルブタイミング可変装置の外部から通電する必要がある。そこで、シリンダヘッドに配線された導線と上記ハウジング部材(電磁コイル)とが、シリンダヘッド又はハウジング部材に取付けられたスリップリングを介して電気的に接続されることとなる。
ところが、スリップリングがシリンダヘッドに固定されている場合には、ハウジング部材がスリップリングに対し摺動する。また、スリップリングがハウジング部材に固定されている場合には、スリップリングがシリンダヘッドに対し摺動する。このため、これらの摺動によりスリップリングや導線の摩耗が避けられず、長期間にわたる安定した電力供給が難しい。
また、カムシャフトとともに回転するハウジング部材に電磁コイルが取付けられているため、その分、回転部分の重量が増し、カムシャフトを回転させるための駆動力が増加する。このことは、内燃機関の燃費を悪化させる一因となり得る。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、カムシャフトのトルク変動を利用してバルブタイミングを変更するバルブタイミング可変装置において、カムシャフトとともに回転する部分に通電することなく規制解除部材を作動させることができ、通電に伴う上記各種不具合を解消することである。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明では、内燃機関の機関バルブ駆動用のカムシャトに相対回転可能に設けられ、かつクランクシャフトに駆動連結された駆動部材と、前記カムシャフトに一体回転可能に設けられた被動部材と、前記被動部材の前記駆動部材に対する進角側及び遅角側への相対回転をそれぞれ規制する進角規制手段及び遅角規制手段と、前記被動部材に設けられ、かつ駆動手段にてそれぞれ揺動させられることにより、前記進角規制手段による規制及び前記遅角規制手段による規制を解除する進角規制解除レバー及び遅角規制解除レバーとを備え、前記進角規制解除レバー又は前記遅角規制解除レバーにて規制が解除された前記被動部材を、前記カムシャフトの回転に伴うトルク変動を利用して、前記進角規制手段又は前記遅角規制手段による規制が再び行われるまで相対回転させ、前記クランクシャフトの回転に対する前記機関バルブの作動タイミングを変更するようにした内燃機関のバルブタイミング可変装置であって、前記駆動手段は、前記クランクシャフト及び前記カムシャフト間の回転伝達経路から外れた箇所に設けられ、かつ前記カムシャフトの軸方向へ変位する軸部を有するアクチュエータと、前記軸部の直線運動を前記進角規制解除レバー及び前記遅角規制解除レバーの一方の揺動運動に変換する運動方向変換機構とを備えるとする。
上記の構成によれば、内燃機関のクランクシャフトの回転は、駆動部材、進角規制手段、遅角規制手段及び被動部材を介してカムシャフトに伝達される。こうしてクランクシャフトの回転が各部に伝達される際、被動部材の駆動部材に対する進角側への相対回転が進角規制手段によって規制され、かつ遅角側への相対回転が遅角規制手段によって規制されると、被動部材は駆動部材と一体となって回転する。
これに対し、進角規制手段による規制が進角規制解除レバーによって解除されると、被動部材の進角側への相対回転が許容される。そして、カムシャフトの回転に伴うトルク変動により、進角規制手段による規制が再び行われるまで、被動部材が駆動部材に対し進角側へ相対回転される。この相対回転により、クランクシャフトの回転に対する機関バルブの作動タイミングが進められる。
上記とは逆に、遅角規制手段による規制が遅角規制解除レバーによって解除されると、被動部材の遅角側への相対回転が許容される。そして、上記トルク変動により、遅角規制手段による規制が再び行われるまで、被動部材が駆動部材に対し遅角側へ相対回転される。この相対回転により、上記機関バルブの作動タイミングが遅らされる。
ところで、上記進角規制手段による規制の解除は、進角規制解除レバーが駆動手段にて揺動させられることによって行われ、上記遅角規制手段による規制の解除は、遅角規制解除レバーが駆動手段にて揺動させられることによって行われる。すなわち、アクチュエータの作動に伴いその軸部がカムシャフトの軸方向へ変位させられると、この軸部の直線運動が運動方向変換機構によって進角規制解除レバー又は遅角規制解除レバーの揺動運動に変換される。この変換により進角規制解除レバー又は遅角規制解除レバーが揺動させられて、上述した進角規制手段による規制又は遅角規制手段による規制が解除される。
上記揺動に際しては、クランクシャフト及びカムシャフト間の回転伝達経路から外れた箇所に設けられたアクチュエータを作動させて、その軸部を軸方向へ変位させるだけである。こうした箇所として、例えば被動部材に対しカムシャフトの軸方向へ離間した箇所が挙げられる。従って、請求項9に記載の発明によるように、前記アクチュエータを、前記被動部材に対し前記カムシャフトの軸方向へ離間した箇所に固定してもよい。
上記アクチュエータの作動は、カムシャフトの回転から独立して行われる。背景技術で説明したような、カムシャフトとともに回転する部分に電磁コイルを一体回転可能に取付け、非回転部分からこの電磁コイルに通電するといった構成を採っていない。そのため、電磁コイルへの給電のために、回転部分と非回転部分との間にスリップリングを使用しなくてもすむ。その結果、スリップリング及びこれに当接する部分において摺動による摩耗が発生するおそれがない。また、カムシャフトとともに電磁コイルを回転させなくてもよいため、その電磁コイル付加に伴う回転部分の重量増加を抑制し、カムシャフトを回転駆動するために必要な駆動力を小さくすることができる。
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記進角規制手段は、前記駆動部材及び前記被動部材間に設けられ、かつ前記カムシャフトの回転方向についての後ろ側ほど間隔が狭くなるくさび状の進角規制溝と、前記進角規制溝に係合することにより前記被動部材の進角側への相対回転を規制する進角規制係合部材とを備え、前記遅角規制手段は、前記駆動部材及び前記被動部材間に設けられ、かつ前記カムシャフトの回転方向についての前側ほど間隔が狭くなるくさび状の遅角規制溝と、前記遅角規制溝に係合することにより前記被動部材の遅角側への相対回転を規制する遅角規制係合部材とを備えるとする。
上記の構成によれば、進角規制手段では、進角規制係合部材がくさび状の進角規制溝に係合すると、駆動部材に対する被動部材の進角側への相対回転が規制される。また、進角規制係合部材の進角規制溝との係合が進角規制解除レバーによって解除されると、被動部材の進角側への相対回転が許容される。そして、カムシャフトのトルク変動により被動部材が駆動部材に対し進角側へ相対回転することで、機関バルブの作動タイミングが進められる。
また、遅角規制手段では、遅角規制係合部材がくさび状の遅角規制溝に係合すると、駆動部材に対する被動部材の遅角側への相対回転が規制される。また、遅角規制係合部材の遅角規制溝との係合が遅角規制解除レバーによって解除されると、被動部材の遅角側への相対回転が許容される。そして、カムシャフトのトルク変動により被動部材が駆動部材に対し遅角側へ相対回転することで、機関バルブの作動タイミングが遅らされる。
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記進角規制手段は、さらに、前記進角規制係合部材を前記回転方向についての後ろ側へ付勢する進角規制弾性部材を備え、前記遅角規制手段は、さらに、前記遅角規制係合部材を前記回転方向についての前側へ付勢する遅角規制弾性部材を備えるとする。
上記の構成によれば、進角規制解除レバー及び遅角規制解除レバーによって規制が解除されないときには、進角規制弾性部材の付勢力によって進角規制係合部材が進角規制溝に確実に係合され、遅角規制弾性部材の付勢力によって遅角規制係合部材が遅角規制溝に確実に係合される。
また、進角規制解除レバーの揺動により進角規制係合部材の進角規制溝との係合が解除されるときには、遅角規制係合部材が遅角規制弾性部材によって付勢されて遅角規制溝に係合した状態に保持される。そのため、カムシャフトのトルク変動によって、被動部材が進角側へのみ相対回転させられる。
これとは逆に、遅角規制解除レバーの揺動により遅角規制係合部材の遅角規制溝との係合が解除されるときには、進角規制係合部材が進角規制弾性部材によって付勢されて進角規制溝に係合した状態に保持される。そのため、カムシャフトのトルク変動によって、被動部材が遅角側へのみ相対回転させられる。
請求項4に記載の発明では、請求項2又は3に記載の発明において、前記運動方向変換機構は、前記軸部とともに前記軸方向へ変位するレバー駆動部を備え、前記進角規制解除レバーは、その内端部にて前記レバー駆動部に当接して揺動し、外端部にて前記進角規制係合部材を押圧して前記進角規制溝との係合を解除させ、前記遅角規制解除レバーは、その内端部にて前記レバー駆動部に当接して揺動し、外端部にて前記遅角規制係合部材を押圧して前記遅角規制溝との係合を解除させるものであるとする。
上記の構成によれば、アクチュエータの軸部が軸方向へ変位する過程で、レバー駆動部が進角規制解除レバーの内端部に当接すると、同進角規制解除レバーが揺動する。この揺動する進角規制解除レバーの外端部により進角規制係合部材が押圧され、進角規制溝に対する同進角規制係合部材の係合が解除される。
また、上記軸部の変位の過程で、レバー駆動部が遅角規制解除レバーの内端部に当接すると、同遅角規制解除レバーが揺動する。この揺動する遅角規制解除レバーの外端部により遅角規制係合部材が押圧され、遅角規制溝に対する同遅角規制係合部材の係合が解除される。
このように、レバー駆動部の進角規制解除レバーの内端部との当接により、軸部の直線運動を進角規制解除レバーの揺動運動に変換して、進角規制係合部材の進角規制溝との係合を解除することができる。また、レバー駆動部の遅角規制解除レバーの内端部との当接により、軸部の直線運動を遅角規制解除レバーの揺動運動に変換すると、遅角規制係合部材の遅角規制溝との係合を解除することができる。
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発明において、前記進角規制解除レバー及び前記遅角規制解除レバーは、前記カムシャフトの軸方向について互いに異なる箇所に設けられているとする。
上記構成によれば、アクチュエータの作動に伴い軸部がレバー駆動部を伴ってカムシャフトの軸方向へ変位する。この変位の過程でレバー駆動部が、軸方向へ互いに離間している進角規制解除レバー及び遅角規制解除レバーのいずれかの内端部に当接し、当接した方の規制解除レバーのみが揺動する。
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の発明において、前記レバー駆動部はカム面を有し、このカム面にて前記進角規制解除レバー及び前記遅角規制解除レバーの各内端部に当接するとする。
上記の構成によれば、レバー駆動部が軸方向へ変位する過程で、そのレバー駆動部のカム面が進角規制解除レバー及び遅角規制解除レバーのいずれかの内端部に当接する。レバー駆動部の軸方向の変位に伴い、そのカム面における規制解除レバーとの当接箇所が変化し、規制解除レバーが揺動させられる。
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の発明において、前記カム面は、前記軸部の軸線から同カム面までの距離が、前記レバー駆動部の前記軸方向についての両端部で最小となり、中央部で最大となるように形成されているとする。
上記の構成によれば、レバー駆動部の軸方向への変位に伴い、カム面の進角規制解除レバー又は遅角規制解除レバーとの当接箇所が変化する。カム面が、軸部の軸線から同カム面までの距離について、上記の条件を満たすように形成されることにより、カム面の規制解除レバーとの当接箇所が、軸方向における端部から中央部に移る際には、同当接箇所は軸部の軸線から遠ざかる。これに伴い、規制解除レバーが、対応する規制係合部材の係合を解除させる方向へ揺動する。カム面の規制解除レバーとの当接箇所が、軸方向における上記中央部から端部に移る際には、同当接箇所は軸部の軸線に近づく。これに伴い、規制解除レバーが、上記係合を解除させる方向とは逆方向へ揺動する。
このように、レバー駆動部を軸方向へ変位させて、カム面の規制解除レバーとの当接箇所を変化させることで規制解除レバーを揺動させ、規制係合部材の規制溝との係合を解除させたり、その解除を終了(規制を再開)させたりすることができる。
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記アクチュエータは、電磁コイルへの通電に伴い発生する電磁力により、前記軸部を軸方向へ変位させる電磁アクチュエータからなるとする。
ここで、油圧を用いてバルブタイミングを変更するタイプのバルブタイミング可変装置では、内燃機関の始動時や低温時等、油圧が十分でない場合にバルブタイミングの変更が困難となる。この点、請求項8に記載の発明では、バルブタイミングの変更に直接関わる進角規制解除レバー及び遅角規制解除レバーを揺動させるために電磁アクチュエータが用いられる。この電磁アクチュエータでは、電磁コイルに通電されることにより電磁力が発生し、この電磁力により軸部が軸方向へ変位させられる。そのため、内燃機関の始動時や低温時であっても、油圧を用いた場合よりも確実にバルブタイミングを変更することができる。
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
車両には、図1に示すように、内燃機関としての多気筒ガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)11が搭載されている。エンジン11は、複数の気筒(シリンダ)12を有するシリンダブロック13と、その上側に配置されるシリンダヘッド14とを備える。各気筒12にはピストン15が往復動可能に収容されている。各ピストン15は、コネクティングロッド20を介し、出力軸であるクランクシャフト16に連結されている。そのため、各ピストン15が往復動すると、その動きはコネクティングロッド20によって回転運動に変換された後、クランクシャフト16に伝達される。この伝達により、クランクシャフト16が図1中、矢印で示す方向へ回転する。
各気筒12内のピストン15よりも上側の空間は燃焼室17となっている。シリンダヘッド14には、吸気通路の一部をなし、かつ下流端において燃焼室17に接続された吸気ポート18が形成されており、エンジン11の外部の空気が吸気ポート18を通過して燃焼室17に吸入される。また、シリンダヘッド14には、排気通路の一部をなし、かつ上流端において燃焼室17に接続された排気ポート19が形成されており、燃焼室17で生じた燃焼ガスが同排気ポート19等を通ってエンジン11の外部へ排出される。
上記シリンダヘッド14には、吸気ポート18を開閉する吸気バルブ21と、排気ポート19を開閉する排気バルブ22とが、機関バルブとして気筒12毎に設けられている。吸・排気バルブ21,22は、いずれもバルブスプリング23によって、吸・排気ポート18,19を閉鎖する方向(閉弁方向、図1の略上方)へ付勢されている。
上記バルブスプリング23等に抗して吸・排気ポート18,19を開放させる方向(開弁方向)へ吸・排気バルブ21,22をリフトさせる(押下げる)ために、次の動弁機構が設けられている。シリンダヘッド14における吸気バルブ21の略上方には、同吸気バルブ駆動用のカムシャフトとして、吸気カム24を有する吸気カムシャフト25が回転可能に支持されている。同様に、シリンダヘッド14における排気バルブ22の略上方には、同排気バルブ駆動用のカムシャフトとして、排気カム26を有する排気カムシャフト27が回転可能に支持されている。吸・排気カムシャフト25,27は、タイミングチェーン35、スプロケット34(図4参照)等により上記クランクシャフト16に駆動連結されている。
吸・排気カム24,26と吸・排気バルブ21,22の上端部との間には、ローラ28を有するロッカーアーム29が揺動可能に配置されている。さらに、シリンダヘッド14において、吸・排気バルブ21,22の上端部近傍には油圧式のラッシュアジャスタ31が配置されている。ロッカーアーム29には、バルブスプリング23の圧縮反力とラッシュアジャスタ31の押上げ力とが伝達され、これらの伝達によりローラ28が吸・排気カム24,26に当接している。
そして、吸・排気カム24,26の回転により、ラッシュアジャスタ31を支点としてロッカーアーム29が下方へ揺動し、吸・排気バルブ21,22がバルブスプリング23等に抗して押下げられる。この押下げにより、吸・排気ポート18,19が開放された状態(開弁状態)になる。
エンジン11には、図1において二点鎖線で示すようにバルブタイミング可変装置32が設けられている。バルブタイミング可変装置32は、クランクシャフト16に対する吸気カムシャフト25の相対回転位相を変化させることにより、吸気バルブ21の作動タイミング(バルブタイミング)をクランク角(クランクシャフト16の回転角)に対して変更するための機構である。吸気バルブ21のバルブタイミングは、例えば図2に示すように、吸気バルブ21の開弁時期IVO及び閉弁時期IVCで表すことができる。バルブタイミングは、吸気バルブ21の開弁期間(開弁時期IVOから閉弁時期IVCまでの期間)が一定に保持された状態で進角又は遅角させられる。なお、図2中のEVO,EVCは排気バルブ22の開弁時期及び閉弁時期である。
ここで、図4は、上記バルブタイミング可変装置32について吸気カムシャフト25の軸線L1に直交する面での断面を示し、図5は図4における5−5線に沿った概略断面を示している。
バルブタイミング可変装置32では、吸気カムシャフト25に対し、スプロケット34が駆動部材として相対回転可能に設けられる一方、ロータ39が被動部材として一体回転可能に設けられている。上述したように、スプロケット34はタイミングチェーン35等によってクランクシャフト16に連結されており、クランクシャフト16の回転がタイミングチェーン35等を介してスプロケット34に伝達される。この伝達により、スプロケット34は、図4において矢印で示す方向(時計回り方向)へ回転する。スプロケット34のチェーンカバー33側の面(図5の左側面)には、略円筒状をなすロータ収容部36が形成されている。ロータ収容部36の内周面において、吸気カムシャフト25の軸線L1を挟んで相対向する箇所(図4の右側部及び左側部)には、進角ストッパ37及び遅角ストッパ38が形成されている。これらのストッパ37,38の機能については後述する。
一方、ロータ39は、軸部41、円筒部42及び一対の突部43,44を備えて構成されている。軸部41は、ボルト45等の締結部材によって、吸気カムシャフト25に締結されている。軸部41はノックピン等(図示略)によって吸気カムシャフト25に連結されており、同吸気カムシャフト25と一体回転する。円筒部42は、軸部41のチェーンカバー33側の端部に一体に設けられており、上記ロータ収容部36内に収容されている。両突部43,44は、円筒部42の外周面において、軸線L1を挟んで相対向する箇所(図4の下部及び上部)に一体に設けられている。各突部43,44は、ロータ収容部36の内周面36Aと進角ストッパ37と遅角ストッパ38とによって囲まれた空間に位置しており、この空間においてスプロケット34に対し相対回動可能である。
ここで、上述した進角ストッパ37は突部44と当接することにより、ロータ39がそれ以上スプロケット34に対して回転位相を進める(進角する)側へ相対回転するのを制限する。また、遅角ストッパ38は突部44と当接することにより、ロータ39がそれ以上スプロケット34に対して回転位相を遅らせる(遅角する)側へ相対回転するのを制限する。
上記ロータ収容部36のチェーンカバー33側の端部にはカバー46が被せられており、ロータ収容部36内に収容された円筒部42及び両突部43,44が、このカバー46によってチェーンカバー33側から覆われている。
スプロケット34の回転をロータ39に伝達するために、突部43には、その外周面において開口する進角規制凹部47が形成されている。進角規制凹部47において、吸気カムシャフト25の回転方向についての後部には、後ろ側ほどロータ収容部36の内周面36Aに接近する傾斜面48が形成されており、これらの傾斜面48と内周面36Aとによって挟まれた空間は、後ろ側ほど間隔の狭くなるくさび状の進角規制溝49となっている。
進角規制凹部47内には、吸気カムシャフト25の軸方向に細長い進角規制ローラ51が進角規制係合部材として配置されている。また、進角規制凹部47内において、回転方向前側の壁面と進角規制ローラ51との間には、板ばねからなる進角規制ばね52が進角規制弾性部材として圧縮状態で介在されている。進角規制ローラ51は、進角規制ばね52によって前記回転方向についての後ろ側へ常に付勢されている。進角規制ローラ51は、進角規制溝49に係合することによりくさびとして機能し、ロータ39がスプロケット34に対して回転位相を進める(進角する)側へ相対回転するのを規制する。ここでの係合とは、進角規制ローラ51が進角規制凹部47の傾斜面48及びロータ収容部36の内周面36Aに同時に当接することである。本実施形態では、上記進角規制溝49、進角規制ローラ51及び進角規制ばね52によって進角規制手段が構成されている。
また、突部44には、その外周面において開口する遅角規制凹部53が形成されている。遅角規制凹部53において、吸気カムシャフト25の回転方向についての前部には、前側ほどロータ収容部36の内周面36Aに接近する傾斜面54が形成されており、これらの傾斜面54と内周面36Aとによって挟まれた空間は、前側ほど間隔の狭くなるくさび状の遅角規制溝55となっている。
遅角規制凹部53内には、吸気カムシャフト25の軸方向に細長い遅角規制ローラ56が遅角規制係合部材として配置されている。また、遅角規制凹部53内において、回転方向後ろ側の壁面と遅角規制ローラ56との間には、板ばねからなる遅角規制ばね57が遅角規制弾性部材として圧縮状態で介在されている。遅角規制ローラ56は、遅角規制ばね57によって前記回転方向についての前側へ常に付勢されている。遅角規制ローラ56は、遅角規制溝55に係合することによりくさびとして機能し、ロータ39がスプロケット34に対して回転位相を遅らす(遅角する)側へ相対回転するのを規制する。ここでの係合とは、遅角規制ローラ56が遅角規制凹部53の傾斜面54及びロータ収容部36の内周面36Aに同時に当接することである。本実施形態では、上記遅角規制溝55、遅角規制ローラ56及び遅角規制ばね57によって遅角規制手段が構成されている。
そして、上述した進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合、及び遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合により、ロータ39の進角側及び遅角側への相対回転がともに規制されて、ロータ39がスプロケット34と一体で回転する。
ところで、バルブタイミング可変装置32において、ロータ39をスプロケット34に対し進角側又は遅角側へ相対回転させるには、進角規制ローラ51の上記係合又は遅角規制ローラ56の上記係合を一旦解除して、スプロケット34に対しロータ39を相対回転可能にする(相対回転を許容する)必要がある。
そこで、ロータ39には、円筒部42の内周面に対し略接線方向へ延びる進角規制解除レバー59が、突部43に設けられた軸61により揺動可能に支持されている。進角規制解除レバー59の内端部(軸線L1寄りの端部)には、吸気カムシャフト25の軸線L1に向けて屈曲する屈曲部62が形成されている。進角規制解除レバー59は、ねじりコイルばね等の弾性部材により常に時計回り方向へ回動付勢されている。この回動付勢により、進角規制解除レバー59の外端部(進角規制溝49寄りの端部)が進角規制ローラ51に当接する一方、屈曲部62の少なくとも一部が円筒部42の内部空間に入り込んでいる。そして、進角規制解除レバー59が軸61を支点として時計回り方向へ強制的に揺動されると、進角規制ローラ51が進角規制ばね52に抗して押圧される。この押圧により、進角規制ローラ51の進角規制溝49との上記係合が解除されると、ロータ39の進角側への相対回転が可能となる。
加えて、ロータ39には、円筒部42の内周面に対し略接線方向へ延びる遅角規制解除レバー63が、突部44に設けられた軸64により揺動可能に支持されている。遅角規制解除レバー63は、軸方向について、上記進角規制解除レバー59とは異なる箇所に位置している。この条件を満たす箇所として、本実施形態では、進角規制解除レバー59が吸気カムシャフト25寄りの箇所に配置され、遅角規制解除レバー63がチェーンカバー33寄りの箇所に配置されている。なお、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63を軸方向について互いに異なる箇所に配置するのは、軸方向へ変位するレバー駆動部72(これについては後述する)が、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63に同時に当接することのないようにするためである。換言すると、レバー駆動部72を進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の一方に選択的に当接させて、その当接した規制解除レバー59(又は63)のみを揺動させるためである。
遅角規制解除レバー63の内端部(軸線L1寄りの端部)には、吸気カムシャフト25の軸線L1に向けて屈曲する屈曲部65が形成されている。遅角規制解除レバー63は、ねじりコイルばね等の弾性部材により常に反時計回り方向へ回動付勢されている。この回動付勢により、遅角規制解除レバー63の外端部(遅角規制溝55寄りの端部)が遅角規制ローラ56に当接する一方、屈曲部65が円筒部42内に入り込んでいる。そして、遅角規制解除レバー63が軸64を支点として反時計回り方向へ強制的に揺動されると、遅角規制ローラ56が遅角規制ばね57に抗して押圧される。この押圧により、遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との上記係合が解除されると、ロータ39の遅角側への相対回転が可能となる。
進角規制解除レバー59によって係合が解除された進角規制ローラ51、又は遅角規制解除レバー63によって係合が解除された遅角規制ローラ56を再び係合させる際には、吸気カムシャフト25の回転に伴うトルク変動が利用される。図3に示すように、バルブスプリング23の圧縮反力、筒内圧、摩擦力等によって、吸気カムシャフト25の回転に伴い、正のトルクと負のトルクとからなる周期的なトルク変動が生ずる。正のトルクは、吸気バルブ21の開弁時において、主としてバルブスプリング23を圧縮させることによるものであり、吸気カムシャフト25(ロータ39)の回転をクランクシャフト16(スプロケット34)に対して遅角させるために利用される。これに対し、負のトルクは、吸気バルブ21の閉弁時において、上記開弁時にバルブスプリング23に蓄えられた圧縮反力が開放されることによるものであり、吸気カムシャフト25(ロータ39)の回転をクランクシャフト16(スプロケット34)に対して進角させるために利用される。
さらに、図4及び図5に示すように、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63を揺動させるための駆動手段として、電磁アクチュエータ66及び運動方向変換機構が設けられている。
電磁アクチュエータ66は、クランクシャフト16及び吸気カムシャフト25間の回転伝達経路から外れた箇所に設けられている。ここでは、電磁アクチュエータ66は、エンジン11のチェーンカバー33において、吸気カムシャフト25の軸線L1に対応する箇所に固定されている。ここでの「対応する箇所」は軸線L1の延長線上である。電磁アクチュエータ66は、自身の軸線L2を上記吸気カムシャフト25の軸線L1に合致させた状態の軸部67を有する。軸部67は回転不能に設けられており、吸気カムシャフト25側へ延びて上記円筒部42内に入り込んでいる。軸部67上にはアーマチャ70が固定されている。軸部67は、ばね68によって吸気カムシャフト25側(図5の右側)へ常に付勢されている。また、電磁アクチュエータ66はコア69及び電磁コイル71を備えており、この電磁コイル71への通電により、アーマチャ70に対しチェーンカバー33側へ向かう電磁力を作用させるようにしている。この電磁力と上記ばね68の付勢力とが釣合う位置へアーマチャ70及び軸部67が変位させられる。そして、電磁コイル71への通電を制御することにより、例えば、電流を変化させたり、通電時間をデューティ制御したりすることにより、上記電磁力を変化させ、軸方向における軸部67の位置を任意に変更することが可能である。
運動方向変換機構は、軸部67の直線運動を進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の一方の揺動運動に選択的に変換するためのものである。運動方向変換機構は、軸部67上における吸気カムシャフト25側の端部に設けられて、同軸部67とともに軸方向へ一体で変位するレバー駆動部72と、上記進角規制解除レバー59の屈曲部62と、上記遅角規制解除レバー63の屈曲部65とによって構成されている。レバー駆動部72は円板状をなし、上記両屈曲部62,65に当接するカム面73を有している。ここでは、円板状のレバー駆動部72の外周面全体によってカム面73が構成されている。これは、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63がロータ39とともに軸線L2の周りを回転するのに対し、軸部67及びレバー駆動部72が回転しないところ、ロータ39の回転角度に拘らず、カム面73を屈曲部62,65に当接させるためである。
レバー駆動部72の外径(直径)は、円筒部42の内径よりも小さく設定されている。これは、レバー駆動部72を円筒部42内で軸方向へスムーズに変位させるためである。また、レバー駆動部72の半径は、軸部67の軸線L2と、レバー駆動部72に当接していない状態の屈曲部62,65との間の間隔よりも大きく設定されている。これは、レバー駆動部72を軸方向へ変位させる過程でカム面73を各屈曲部62,65に確実に当接させるためである。また、レバー駆動部72の厚みは、軸方向における進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の間隔よりも小さく設定されている。これは、レバー駆動部72が、軸方向について進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63間に位置するときに、カム面73を両屈曲部62,65に当接させないようにするためである。
カム面73は、軸部67の軸線L2に直交する面において、同軸線L2から同カム面73までの距離Dが、レバー駆動部72の軸方向についての両端部で最小となり、中央部で最大となるように形成されている。この条件を満たすよう、本実施形態では、カム面73が突状の湾曲面に形成されている。
上記のようにして本実施形態のバルブタイミング可変装置32が構成されている。次に、このバルブタイミング可変装置32の作用について説明する。
図5は、エンジン始動前(エンジン停止時)におけるバルブタイミング可変装置32の状態を示している。この状態では、クランクシャフト16の回転が、タイミングチェーン35を通じてスプロケット34に伝達され、同スプロケット34が回転する。
一方、電磁アクチュエータ66では電磁コイル71に対する通電が停止されている。ばね68に抗する電磁力が発生せず、従ってばね68によって付勢された軸部67が、その可動範囲について吸気カムシャフト25側の端に位置している。軸部67上のレバー駆動部72は、軸方向について進角規制解除レバー59よりも吸気カムシャフト25側に位置している。カム面73がいずれの屈曲部62,65にも当接せず、レバー駆動部72が進角規制解除レバー59にも遅角規制解除レバー63にも干渉していない。
そのため、図4に示すように進角規制ローラ51が進角規制溝49に係合し、かつ遅角規制ローラ56が遅角規制溝55に係合している。この状態では、上記両係合によりロータ39の進角側及び遅角側への相対回転が規制されて、ロータ39が吸気カムシャフト25、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63とともにスプロケット34と一体で回転する。吸気カムシャフト25の吸気カム24の回転により、吸気バルブ21が所定のタイミングでバルブスプリング23等に抗して押下げられ、吸気ポート18が開放される。
エンジン11の始動後、上記の状態からスプロケット34に対しロータ39を進角させる際には、電磁アクチュエータ66の電磁コイル71への通電を制御することにより、チェーンカバー33側へ向かう電磁力をアーマチャ70に作用させ、ばね68に抗して軸部67を上記エンジン始動時よりもチェーンカバー33側へ変位させる。この変位により、レバー駆動部72のカム面73が屈曲部62に当接し、さらに変位が進むと、図6及び図7に示すように、カム面73の屈曲部62との当接箇所が、軸方向についてのチェーンカバー33側の端部→中央部→吸気カムシャフト25側の端部の順に移る。
ここで、カム面73が湾曲面となっていて、軸部67の軸線L2からカム面73までの距離Dが、レバー駆動部72の軸方向についての両端部で最小となり、中央部で最大となっている。そのため、カム面73の屈曲部62との当接箇所が、レバー駆動部72のチェーンカバー33側の端部から中央部に向けて移る際には、同屈曲部62がレバー駆動部72によって押されて、軸線L2から径方向外方へ遠ざけられる。遠ざけられる度合いは、カム面73の屈曲部62との当接箇所が軸方向中央部に近づくに従い大きくなる。一方、進角規制解除レバー59が軸61によってロータ39に支持されていることから、同進角規制解除レバー59は軸61を支点として図6の時計回り方向へ揺動する。この揺動により、進角規制解除レバー59の外端部が、進角規制ばね52に抗して進角規制ローラ51を回転方向前側へ押圧する。この押圧により、進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合が解除され、ロータ39がスプロケット34に対し進角側へ相対回転することが可能となる。そして、上記トルク変動における負のトルクによって、吸気カムシャフト25及びロータ39が、スプロケット34に対し進角側へ相対回転する。この相対回転により、吸気バルブ21のバルブタイミングが進角される。
なお、このときにはカム面73は、遅角規制解除レバー63の屈曲部65には当接せず、遅角規制凹部53では、遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合が維持される。そのため、上記トルク変動における正のトルクが作用しても、ロータ39が遅角側へ相対回転することはない。
図7の状態から軸部67がさらにチェーンカバー33側へ変位して、カム面73の屈曲部62との当接箇所が、レバー駆動部72の軸方向についての中央部から吸気カムシャフト25側の端部へ移る際には、その当接箇所は上記とは逆に軸線L2に近づいてゆく。進角規制解除レバー59は軸61を支点として反時計回り方向へ揺動する。この揺動に伴い、進角規制ばね52の付勢力と進角規制解除レバー59の押圧力とが釣合うように、進角規制ローラ51が回転方向後ろ側へ押されて進角規制溝49に係合される。この係合により、ロータ39がスプロケット34に対し進角側へ相対回転することが規制され、ロータ39が吸気カムシャフト25を伴いスプロケット34と一体で回転する。吸気バルブ21は、上記のようにバルブタイミングが進角させられた状態で作動する。
レバー駆動部72が、図8に示すように、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63間の位置(以下、中立位置という)まで変位すると、カム面73が屈曲部62にも屈曲部65にも当接せず、同レバー駆動部72が進角規制解除レバー59にも遅角規制解除レバー63にも干渉しない状態となる。そのため、上述したエンジン停止時と同様に、図4に示すように進角規制ローラ51が進角規制溝49に係合し、かつ遅角規制ローラ56が遅角規制溝55に係合した状態となる。両係合によりロータ39の進角側及び遅角側への相対回転が規制されて、ロータ39が吸気カムシャフト25とともにスプロケット34と一体で回転する。ただし、このときには、電磁アクチュエータ66の電磁コイル71への通電が停止されるエンジン始動時とは異なり、レバー駆動部72が上記中立位置に保持されるように同電磁コイル71への通電が制御される。
上記中立位置からスプロケット34に対しロータ39を遅角させる際には、電磁コイル71に対する通電制御により、アーマチャ70に作用する電磁力を増大させ、図9及び図10に示すように、ばね68に抗して軸部67をさらにチェーンカバー33側へ変位させる。この変位に伴い、カム面73が、レバー駆動部72の軸方向についてのチェーンカバー33側の端部から中央部に向けて、遅角規制解除レバー63の屈曲部65に当接する。
屈曲部65がレバー駆動部72によって押されて、軸線L2から径方向外方へ遠ざけられる。遠ざけられる度合いは、カム面73の屈曲部65との当接箇所がレバー駆動部72の軸方向についての中央部に近づくに従い大きくなる。遅角規制解除レバー63は軸64を支点として図9の反時計回り方向へ揺動する。この揺動により、遅角規制解除レバー63の外端部が、遅角規制ばね57に抗して遅角規制ローラ56を回転方向後ろ側へ押圧する。この押圧により、遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合が解除され、ロータ39がスプロケット34に対し遅角側へ相対回転することが可能となる。そして、上記トルク変動における正のトルクによって、吸気カムシャフト25及びロータ39が、スプロケット34に対し遅角側へ相対回転する。この相対回転により、吸気バルブ21のバルブタイミングが遅角される。
なお、このときにはレバー駆動部72のカム面73は、進角規制解除レバー59の屈曲部62に当接しておらず、進角規制凹部47では、進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合が維持される。そのため、上記トルク変動における負のトルクが作用しても、ロータ39が進角側へ相対回転することはない。
そして、上記の状態から電磁コイル71に対する通電制御によりアーマチャ70に作用する電磁力を弱め、軸部67を吸気カムシャフト25側へ変位させると、カム面73の屈曲部65との当接箇所が、軸方向についての中央部からチェーンカバー33側の端部へ移る。当接箇所が軸線L2に近づいてゆき、遅角規制解除レバー63は軸64を支点として時計回り方向へ揺動する。この揺動に伴い、遅角規制ばね57の付勢力と遅角規制解除レバー63の押圧力とが釣合うように、遅角規制ローラ56が回転方向前側へ押されて遅角規制溝55に係合される。この係合により、ロータ39がスプロケット34に対し遅角側へ相対回転することが規制され、ロータ39が吸気カムシャフト25を伴いスプロケット34と一体で回転する。吸気バルブ21は、上記のようにバルブタイミングが遅角された状態で作動する。
レバー駆動部72が、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63間の上記中立位置(図8参照)まで変位すると、カム面73が屈曲部62にも屈曲部65にも当接せず、レバー駆動部72が進角規制解除レバー59にも遅角規制解除レバー63にも干渉しない状態となる。
上記中立位置からスプロケット34に対しロータ39を再び進角させる際には、電磁コイル71に対する通電制御により、アーマチャ70に作用する電磁力を減少させ、図6及び図7に示すように、軸部67を吸気カムシャフト25側へ変位させる。この変位に伴い、カム面73が、レバー駆動部72の軸方向についての吸気カムシャフト25側の端部から中央部に向けて、進角規制解除レバー59の屈曲部62に当接する。
屈曲部62がレバー駆動部72によって押されて、軸線L2から径方向外方へ遠ざけられる。進角規制解除レバー59は軸61を支点として図6の時計回り方向へ揺動する。この揺動により、進角規制解除レバー59の外端部が、進角規制ばね52に抗して進角規制ローラ51を回転方向前側へ押圧する。この押圧により、進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合が解除され、ロータ39がスプロケット34に対し進角側へ相対回転することが可能となる。そして、上記トルク変動における負のトルクによって、吸気カムシャフト25及びロータ39が、スプロケット34に対し進角側へ相対回転する。この相対回転により、吸気バルブ21のバルブタイミングが進角される。
このように、エンジン11の運転中には中立位置が基準とされる。電磁コイル71への通電が制御されることで、アーマチャ70に作用する電磁力が増減されて、レバー駆動部72が進角規制解除レバー59と遅角規制解除レバー63との間で軸方向へ変位させられる。そして、この変位によって進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の一方が選択的に揺動させられる。その結果、進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合が解除されてロータ39が進角される、又は遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合が解除されてロータ39が遅角される。
なお、エンジン11が停止されて、電磁コイル71に対する通電が停止されると、アーマチャ70に作用する電磁力が消失する。そのため、ばね68によって軸部67及びレバー駆動部72が吸気カムシャフト25側へ変位させられ、バルブタイミング可変装置32は上述した図5に示すように、カム面73が両屈曲部62,65に当接せず、レバー駆動部72が進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63のいずれにも干渉しない状態に戻る。
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)スプロケット34のロータ収容部36とロータ39との間に、進角規制溝49、進角規制ローラ51及び進角規制ばね52を設けるとともに、ロータ39に進角規制解除レバー59を揺動可能に設けている。
そのため、進角規制ローラ51を進角規制溝49に係合させることにより、スプロケット34に対するロータ39の進角側への相対回転を規制することができる。また、進角規制解除レバー59の揺動により、進角規制ローラ51の進角規制溝49との上記係合を解除することができる。
同様に、上記ロータ収容部36とロータ39との間に、遅角規制溝55、遅角規制ローラ56及び遅角規制ばね57を設けるとともに、ロータ39に遅角規制解除レバー63を揺動可能に設けている。
そのため、遅角規制ローラ56を遅角規制溝55に係合させることにより、スプロケット34に対するロータ39の遅角側への相対回転を規制することができる。また、遅角規制解除レバー63の揺動により、遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との上記係合を解除することができる。
(2)ロータ収容部36とロータ39との間に、進角規制ローラ51を吸気カムシャフト25の回転方向についての後ろ側へ付勢する進角規制ばね52を設けるとともに、遅角規制ローラ56を同回転方向についての前側へ付勢する遅角規制ばね57を設けている。
そのため、進角規制解除レバー59によって規制が解除されないときには、進角規制ばね52によって進角規制ローラ51を進角規制溝49に確実に係合させることができる。同様に、遅角規制解除レバー63によって規制が解除されないときには、遅角規制ばね57によって遅角規制ローラ56を遅角規制溝55に確実に係合させることができる。
また、進角規制解除レバー59によって進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合を解除するときには、遅角規制ローラ56を遅角規制溝55に係合した状態に保持し、ロータ39を進角側へのみ相対回転させることができる。
同様に、遅角規制解除レバー63によって遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合を解除するときには、進角規制ローラ51を進角規制溝49に係合した状態に保持し、ロータ39を遅角側へのみ相対回転させることができる。
(3)運動方向変換機構の一部として、軸部67とともに軸方向へ変位するレバー駆動部72を設けている。また、屈曲部62のレバー駆動部72との当接により進角規制解除レバー59を揺動させ、その外端部にて進角規制ローラ51を押圧して進角規制溝49との係合を解除させるようにしている。さらに、屈曲部65のレバー駆動部72との当接により遅角規制解除レバー63を揺動させ、その外端部にて遅角規制ローラ56を押圧して遅角規制溝55との係合を解除させるようにしている。
そのため、レバー駆動部72の屈曲部62との当接により、軸部67の直線運動を進角規制解除レバー59の揺動運動に変換して、進角規制ローラ51の進角規制溝49との係合を解除することができる。また、レバー駆動部72の屈曲部65との当接により、軸部67の直線運動を遅角規制解除レバー63の揺動運動に変換して、遅角規制ローラ56の遅角規制溝55との係合を解除することができる。
(4)進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63を、吸気カムシャフト25の軸方向について互いに異なる箇所に配置している。そのため、レバー駆動部72を軸方向へ変位させるだけで、進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の一方を選択的に揺動させることができる。
(5)レバー駆動部72の外周面をカム面73とし、このカム面73にて同レバー駆動部72を、進角規制解除レバー59の屈曲部62、又は遅角規制解除レバー63の屈曲部65に当接させるようにしている。
そのため、レバー駆動部72の軸方向への変位に伴い、カム面73における屈曲部62,65との当接箇所を変化させ、進角規制解除レバー59又は遅角規制解除レバー63を揺動させることができる。
(6)カム面73を、軸部67の軸線L2から同カム面73までの距離Dが、レバー駆動部72の軸方向についての両端部で最小となり、中央部で最大となるように形成している。
そのため、レバー駆動部72を軸方向へ変位させて、カム面73の屈曲部62,65との当接箇所を種々変化させることで、規制解除レバー59,63を揺動させ、規制ローラ51,56の規制溝49,55との係合を解除させたり、その解除を終了(規制を再開)させたりすることができる。
(7)レバー駆動部72を軸方向へ変位させるために、電磁アクチュエータ66を、ロータ39について吸気カムシャフト25の軸方向へ離間した箇所(チェーンカバー33)に固定している。この箇所は、クランクシャフト16及び吸気カムシャフト25間の回転伝達経路から外れた箇所である。こうすることで、電磁アクチュエータ66を吸気カムシャフト25の回転から独立して作動させるようにしている。
背景技術で説明したような、吸気カムシャフト25とともに回転する部分に電磁コイルを一体回転可能に取付け、非回転部分からこの電磁コイルに通電するといった構成を採っていない。そのため、電磁コイルへの給電のために、回転部分と非回転部分との間にスリップリングを使用しなくてもすむ。その結果、スリップリング及びこれに当接する部分で摺動による摩耗が発生するおそれがない。また、吸気カムシャフト25とともに電磁コイルを回転させなくてもよいため、電磁コイル付加に伴う回転部分の重量増加を抑制し、吸気カムシャフト25を回転駆動するために必要な駆動力を小さくすることができる。吸気カムシャフト25の回転に消費されるクランクシャフト16の駆動力が少なくなり、その分、エンジン11の燃費向上を図ることができる。
(8)油圧を用いてバルブタイミングを変更するタイプのバルブタイミング可変装置では、エンジンの始動時や低温時等の油圧が十分でない場合にバルブタイミングの変更が困難となる。この点、本実施形態では、バルブタイミングの変更に直接関わる進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63を揺動させるために電磁アクチュエータ66を用いている。この電磁アクチュエータ66では、電磁コイル71に対する通電を制御することにより、チェーンカバー33側へ向かう電磁力をアーマチャ70に作用させて、軸部67を軸方向へ変位させている。そのため、エンジン始動時や低温時であっても、油圧を用いた場合よりも確実にバルブタイミングを変更することができる。
(9)進角規制解除レバー59によって規制が解除されたロータ39を、進角規制ローラ51による進角規制が再び行われるまで相対回転させるために、吸気カムシャフト25のトルク変動(負のトルク)を利用している。また、遅角規制解除レバー63によって規制が解除されたロータ39を、遅角規制ローラ56による遅角規制が再び行われるまで相対回転させるために、吸気カムシャフト25のトルク変動(正のトルク)を利用している。従って、これらの相対回転のために別途に駆動手段を設ける必要がない。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・進角規制解除レバー59及び遅角規制解除レバー63の吸気カムシャフト25の軸方向における位置を、前記実施形態とは逆に変更してもよい。すなわち、遅角規制解除レバー63を吸気カムシャフト25寄りの箇所に設け、進角規制解除レバー59をチェーンカバー33寄りの箇所に設けてもよい。
例えば、図5において、軸線L1,L2よりも下側に位置する規制解除レバーを遅角規制解除レバー63とし、上側に位置する規制解除レバーを進角規制解除レバー59とする。ただし、この場合、上下の位置関係を単に逆にするだけではなく、遅角規制凹部53における遅角規制溝55の位置及び遅角規制ばね57の付勢方向を図11に示すように変更する。具体的には、遅角規制溝55を吸気カムシャフト25の回転方向前側に形成する。また、遅角規制ばね57を、遅角規制ローラ56と遅角規制凹部53の回転方向についての後ろ側の壁面との間に設けて、遅角規制ローラ56を回転方向前側へ付勢する。
また、進角規制凹部47における進角規制溝49の位置、進角規制ばね52の付勢方向を図11に示すように変更する。具体的には、進角規制溝49を吸気カムシャフト25の回転方向後ろ側に形成する。また、進角規制ばね52を、進角規制ローラ51と進角規制凹部47の回転方向についての前側の壁面との間に設けて、進角規制ローラ51を回転方向後ろ側へ付勢する。このようにすると、レバー駆動部72は、エンジン始動後、まず屈曲部65に当接して遅角規制解除レバー63を揺動させることとなる。
・レバー駆動部72におけるカム面73の態様を前記実施形態とは異なるものに変更してもよい。例えば、レバー駆動部72の軸方向における端部から中央部にかけて一定の角度で傾斜する傾斜面によりカム面73を構成してもよい。
・本発明は、駆動部材としてスプロケット34に代えてタイミングプーリを吸気カムシャフト25に相対回転可能に設け、タイミングベルトを通じてクランクシャフト16の回転をタイミングプーリに伝達するようにした内燃機関にも適用可能である。
・アクチュエータとして油圧により作動するもの(油圧アクチュエータ)を用いてもよい。
・本発明のバルブタイミング可変装置は、吸気バルブ21に代えて、又は加えて排気バルブ22のバルブタイミングを変更する場合にも適用可能である。
11…ガソリンエンジン(内燃機関)、16…クランクシャフト、21…吸気バルブ(機関バルブ)、25…吸気カムシャフト(バルブ駆動用カムシャフト)、32…バルブタイミング可変装置、34…スプロケット(駆動部材)、39…ロータ(被動部材)、49…進角規制溝、51…進角規制ローラ(進角規制係合部材)、52…進角規制ばね(進角規制弾性部材)、55…遅角規制溝、56…遅角規制ローラ(遅角規制係合部材)、57…遅角規制ばね(遅角規制弾性部材)、59…進角規制解除レバー、62,65…屈曲部(運動方向変換機構の一部を構成)、63…遅角規制解除レバー、66…電磁アクチュエータ、67…軸部、71…電磁コイル、72…レバー駆動部(運動方向変換機構の一部を構成)、73…カム面、D…距離、L1,L2…軸線。