実施例1の可変動弁装置(以下、VELという。)が適用される内燃機関(以下、機関という。)はV型6気筒エンジンであり、その動弁機構は、1気筒につき4つの機関弁(2つの吸気弁及び2つの排気弁)と2本のカム軸を有するDOHC方式である。実施例1では、片側3気筒の吸気側にVELを適用した例を示す。
図1は、機関後側の1気筒におけるVELの斜視図である。図2は、VELが設けられた機関の片側3気筒を機関幅方向(後述するy軸方向)から見た部分断面図である(シリンダヘッド1のみ断面を示す)。図5は、機関前後方向で真中の1気筒におけるVELを機関幅方向から見た図である。図6は、図5のVELを機関下側から見た図である。図9及び図10は、VELの駆動機構6を機関前側から見た図である。図11〜図16は、VELを機関前側から見た図であり、VELの作動状態を示す。
以下、説明のため各図で直交座標系を設ける。駆動軸40が延びる機関前後方向にx軸を設け、機関の前側を正方向とする。また、吸気弁2のバルブステム20が延びる機関上下方向にz軸を設け、機関の上側を正方向とする。また、x軸及びz軸に対して直交する機関幅方向にy軸を設け、制御軸50に対してリンクロッド45が設置されている側を正方向とする。
図1に示すように、吸気弁2は、1気筒につき一対設けられており、x軸負方向側に吸気弁2aが、x軸正方向側に吸気弁2bが並んで設けられている。シリンダヘッド1(図2参照)には、各気筒ごとに、吸気弁2a,2bにより開閉される一対の吸気ポートがx軸方向に並んで形成されている。吸気弁2a,2bは、シリンダヘッド1にバルブガイドを介して上下摺動自在に設けられており、バルブスプリングSによってz軸正方向(閉弁方向)に常時付勢されている。吸気弁2a,2bの各バルブステム20,20の上端には、それぞれバルブリフタ3a,3bが設置されている。
VELは、吸気弁2a,2bを開閉する機械式の可変機構4と、可変機構4の作動位置(姿勢)を制御する制御機構5と、制御機構5を駆動するアクチュエータである駆動機構6とを有している。
可変機構4は、各気筒に一つ設けられており、駆動軸40と、駆動カム41と、伝達手段42と、揺動カム47とを有している。駆動軸40は、機関のクランク軸に同期し、その半分の回転数で1回転する。駆動軸40の外周には駆動カム41が一体に固定されている。伝達手段42は、駆動カム41の回転運動を揺動運動に変換して揺動カム47に伝達する。揺動カム47は、揺動することでバルブリフタ3a,3bを押圧し、吸気弁2a,2bを開閉作動させる。制御機構5は、機関運転状態に応じて制御軸50を回転制御し、伝達手段42の作動姿勢を変化させる。これにより揺動カム47の揺動姿勢が変化することで、吸気弁2a,2bのバルブリフト量(バルブリフト特性)が変更される。
まず、機関へのVELの取り付け状態を説明する。図2に示すように、シリンダヘッド1の上端部には、各バルブリフタ3を上下方向に摺動自在に保持する摺動用孔1aが複数形成されている。また、各気筒において、隣接する吸気ポートの間には、そのx軸方向中央位置に、第1軸受台10がシリンダヘッド1と一体に設けられている。第1軸受台10は、y軸方向及びz軸方向に沿って延びる略板状に形成されている。
第1軸受台10のz軸負方向側には、x軸方向における両側面に、バルブリフタ3の外周面の一部に沿った円弧状凹部1bが切り欠き形成されている。円弧状凹部1bは、摺動用孔1aの一部を構成している。円弧状凹部1bが切り欠き形成されることで、第1軸受台10のx軸方向における中央部が薄肉状に形成され、隣り合うバルブリフタ3a,3bが互いに近接配置されるようになっている。
図3は、機関後側の1気筒におけるVELの斜視図であり、カムジャーナル軸受12を構成する部材を分解して示す。図4は、VELを機関前側から見た図であり、カムジャーナル軸受12及び制御軸ジャーナル軸受15の構成部材を斜線で示す。
図3及び図4に示すように、第1軸受台10のz軸正方向側の端面には、第1ブラケット11が一対のボルトB1,B2により結合固定されている。第1軸受台10の上記端面には、図4に示すように、x軸方向から見て半円弧状の第1軸受面10aが形成されている。第1ブラケット11は、ブロック板状に形成され、そのx軸方向の肉厚が第1軸受台10と略同一に設定されている。第1ブラケット11のz軸負方向側の下面には、x軸方向から見て半円弧状の第2軸受面11aが形成されている。
第1軸受台10に第1ブラケット11が結合され、第1軸受面10aと第2軸受面11aが組み合わされることで、半割型のカムジャーナル軸受12が形成されている。カムジャーナル軸受12には、揺動カム47のジャーナル部471が摺動回転自在に支持されている。ジャーナル部471の内部には駆動軸40が回転自在に挿通されている。すなわち、揺動カム47を介して、駆動軸40がシリンダヘッド1の上部に回転自在に支持されている。
一方、図4に示すように、駆動軸40の上方では、半割型の制御軸ジャーナル軸受15によって、制御軸50が摺動回転自在に支持されている。シリンダヘッド1の上端部から第2軸受台13がy軸正方向側に延びて設けられており、その上端面には第1軸受面13aが形成されている。第2ブラケット14は、第1ブラケット11と同様のブロック板状の部材であり、下面には第2軸受面14aが形成されている。第2ブラケット14が一対のボルトB3,B4により第2軸受台13の上端面に結合固定され、第1軸受面13aと第2軸受面14aが組み合わされることで、制御軸ジャーナル軸受15が形成されている。
次に、可変機構4について説明する。
図2に示すように、駆動軸40は、機関前後方向に沿って配置されている。駆動軸40のx軸正方向側の前端部には従動スプロケットが設けられており、従動スプロケットに巻装されたタイミングチェーン等を介して機関のクランク軸から一方向の回転力が伝達される。この回転力により、駆動軸40は、機関前方(x軸正方向側)から見て時計回り方向に回転する。
駆動カム41は、各気筒に1つ設けられており、本体部410(図11参照)及び支持部411を有している。図5及び図6に示すように、本体部410は、x軸方向において所定の幅を持つとともに、その外周面には、x軸方向から見て、偏心円のカムプロフィールが形成されている。すなわち、図11に示すように、本体部410は、駆動軸40よりも大径に設けられた円板状の偏心カムであり、その軸心P2は、駆動軸40の軸心P1から径方向へ所定量だけオフセットして設けられている。
図5及び図6に示すように、支持部411は、本体部410と一体に設けられ、本体部410の両面からx軸方向に延びる円筒状の部分であり、その内部には挿通孔41aがx軸方向に貫通形成されている。挿通孔41aの軸心は、駆動軸40の軸心P1と一致している。挿通孔41a内に駆動軸40が挿通された状態で、支持部411は駆動軸40に固定されている。これにより、駆動カム41が駆動軸40の外周に結合されている。駆動カム41は、各気筒において、x軸負方向側であってバルブリフタ3aに干渉しない位置に設置されている(図2参照)。
伝達手段42は、駆動カム41と揺動カム47との間を連係するリンク機構であり、駆動カム41の回転力を揺動カム47の揺動力(開弁力)として伝達する。伝達手段42は、リンクアーム43と、ロッカアーム44と、リンクロッド45とを有している。ロッカアーム44は、駆動軸40のz軸正方向側に配置された揺動部材である。リンクアーム43は、駆動カム41とロッカアーム44とを連結する第1のリンク部材であり、駆動カム41の偏心回転運動をロッカアーム44の揺動運動に変換する。リンクロッド45は、ロッカアーム44と揺動カム47とを連結する第2のリンク部材であり、ロッカアーム44の揺動運動を揺動カム47の揺動運動に変換する。
図11に示すように、リンクアーム43は、x軸方向から見て瓢箪形状であり、円筒状の基部430と、基部430の外周面所定位置に径方向に突出して形成されたアーム部431とを有している。基部430の中央には嵌合孔43aがx軸方向に貫通形成されている。嵌合孔43aの直径は駆動カム41の本体部410の直径よりも僅かに大きく設けられている。嵌合孔43aには本体部410が回転自在に嵌合しており、嵌合孔43aの軸心は本体部410の軸心P2と一致している。アーム部431の先端は円筒状に形成されており、ピン孔43bがx軸方向に貫通形成されている。
ロッカアーム44は、略円筒状の基部440と、基部440の外周面所定位置からy軸負方向側へ突出して形成された第1アーム部441と、基部440の外周面所定位置からy軸正方向側へ突出して形成された第2アーム部442とを有している。基部440には、支持孔44aがx軸方向に貫通形成されている。支持孔44aの直径は制御軸50の制御カム51の直径よりも僅かに大きく設けられており、支持孔44aには、制御カム51が回転自在に設置されている。ロッカアーム44は、制御カム51の軸心Q2の周りに揺動自在に支持されている。
第1アーム部441の先端には、x軸負方向側の面に、ピン443が一体に形成されている。ピン443はx軸負方向に延びて設けられており、リンクアーム43のピン孔43bに回転自在に挿通されている。これにより、ロッカアーム44の第1アーム部441が、ピン443を介して、リンクアーム43のアーム部431に回転自在に連係されている。リンクアーム43のピン孔43b(ピン443)は、嵌合孔43a(カム本体部410の軸心P2)に対して、y軸負方向側かつz軸正方向側に配置されている。
また、第2アーム部442の先端部は略直方体状に形成されており、その内部にピン孔44bがx軸方向に貫通形成されている。ピン孔44bには、ピン444が挿通されている。
リンクロッド45は、プレス成形によってz軸方向から見た断面が略コ字形状に形成されている。また、x軸方向から見てy軸正方向側に凸の「く」字形状に折曲形成され、コンパクト化が図られている。図5に示すように、リンクロッド45のx軸正方向側の板状部分451とx軸負方向側の板状部分452は略平行に設けられており、z軸方向の略中間位置でy軸正方向側に設けられた帯状部分453によって互いに結合されている。板状部分451,452は、z軸負方向側の端部において折り曲げ形成されている。上記端部における板状部分451,452の間のx軸方向距離は、上記端部以外の部位におけるよりも若干小さく設けられている。
板状部分451のz軸正方向側の端には、ピン孔45aがx軸方向に貫通形成されている。板状部分452には、x軸方向でピン孔45aと対向する部位に、ピン孔45bがx軸方向に貫通形成されている。リンクロッド45のz軸正方向側の端において、板状部分451,452の間には、ロッカアーム44の第2アーム部442の先端部が挟み込まれ、その状態で、ピン孔45a,45bにはピン444の端部がそれぞれ挿通されている。すなわち、リンクロッド45のz軸正方向側の二股状の端部は、ピン444を介して、ロッカアーム44の第2アーム部442に回転自在に連係されている。
第2アーム部442の上記先端部には、カムリフト量Lを調整するリフト調整機構46が設けられている。リフト調整機構46は、上記先端部の内部にピン孔44bと直交して(略z軸方向に)貫通形成されたネジ孔460と、z軸正方向側からネジ孔460にねじ込んで取り付けられる(螺着する)第1ネジ461と、z軸負方向側からネジ孔460に螺着する第2ネジ462とを有している。
ピン444の基本形状は円柱状である。ピン444の軸方向での中央部には、その軸方向に沿って延びる2つの平坦面が、軸直方向で対向して形成されている。ピン444がピン孔44bに設置された状態で、第1ネジ461及び第2ネジ462はピン444を上下から挟み込んで固定しており、上記平坦面の一方には第1ネジ461の先端が、上記平坦面の他方には第2ネジ462の先端が、それぞれ面接触状態で当接している。リフト調整機構46は、第1ネジ461及び第2ネジ462のネジ孔460における位置を調整することで、ピン444に対する第2アーム部442の上記先端部の位置、言い換えると、ロッカアーム44に対するリンクロッド45の取り付け位置を変更する。
尚、ピン444のx軸方向での端面(本実施例1ではx軸正方向側の端面)には、上記平坦面の位置と対応する位置に刻印mが形成されている。刻印mは、ピン444をピン孔44bに挿通して設置する際、ピン444を位置決めする際の目印となり、刻印mを目印に上記平坦面をネジ孔460の開口方向に向かって位置させることで、上記面接触状態を可能としている。
リンクロッド45の板状部分451のz軸負方向側の端には、ピン孔45cがx軸方向に貫通形成されている。板状部分452には、x軸方向でピン孔45cと対向する部位に、ピン孔45dがx軸方向に貫通形成されている。ピン孔45c,45dには、ピン454が回転自在に挿通されている。
ピン454は、軸部の基本形状を円柱状とする一方、x軸負方向側の端にフランジ部455を有している。図5に示すように、ピン454をピン孔45c,45dに設置した状態で、フランジ部455は、駆動カム41の支持部411とリンクロッド45の板状部分452との間に挟まれている。フランジ部455のx軸負方向側の面は、僅かな隙間を介して支持部411のx軸正方向側の面に対向している。フランジ部455のx軸正方向側の面は、僅かな隙間を介して板状部分452のx軸負方向側の面に対向している。これにより、ピン454のx軸方向での移動が規制されている。
図1や図5に示すように、揺動カム47は、支持部470と一対のカム本体48,49とを有しており、これらは鋼材により一体に形成されている。支持部470は円筒状の部分であり、その内部には、挿通孔47aがx軸方向に貫通形成されている。支持部470のx軸方向での略中央位置には、その外周面に、円筒状のジャーナル部471が一体に形成されている。ジャーナル部471は、カムジャーナル軸受12に回転自在に支持されている。挿通孔47aには駆動軸40が回転自在に嵌合している。揺動カム47(カム本体48,49)は、駆動軸40の軸心P1の周りに回転自在に支持されており、軸心P1を揺動中心としている。
カム本体48,49は、一対の吸気弁2a,2bにそれぞれ対応して、支持部470のx軸方向両端の外周面に設けられており、ジャーナル部471を挟んで略対称位置に配置されている。カム本体48,49は同一形状の揺動カムであり、ともにx軸方向から見て片側が先細りの卵形状に形成され、x軸方向から見てその外周面が互いに一致している。カム本体48,49のx軸方向幅は、リンクロッド45のz軸負方向側における板状部分451,452の間の距離に略等しい。
図5及び図6に示すように、カム本体48,49の幅中心αは、それぞれバルブリフタ3a,3bの中心軸(円筒中心O1)に対して、揺動カム47の軸方向(x軸方向)に僅かにオフセットした位置に設けられている。すなわち、x軸負方向側の吸気弁2aに対応するカム本体48のx軸方向幅の中心αは、バルブリフタ3aの円筒中心O1に対して、x軸正方向側に距離Xaだけずらして設けられている。また、x軸正方向側の吸気弁2bに対応するカム本体49のx軸方向幅の中心αは、バルブリフタ3bの円筒中心O1に対して、x軸正方向側に距離Xb(≒Xa)だけずらして設けられている。
図7は、x軸方向から見たカム本体48の形状を示す模式図である。カム本体48は、基円部48aとカムノーズ部48bを有している。基円部48aは、支持部470の外周に、挿通孔47aの軸心(駆動軸40の軸心P1)を中心とする所定角度範囲に設けられた肉厚部分である。カムノーズ部48bは、支持部470の外周面の所定位置から(駆動軸40の)外径方向に向かって延びるように突出形成された部分である。カム本体49も同様に、基円部49aとカムノーズ部49bを有している。
カム本体48のz軸負方向側の下面には、カム面480が形成されている。カム面480は、基円部48aの外周面と、これに連続して形成されたカムノーズ部48bの片側外周面とからなる。カム面480には、高い硬度を確保するために、全体に高周波焼き入れが施されている。x軸正方向側のカム本体49にも、カム面480と同様のカム面490が設けられている。
カム本体48のカムノーズ部48bには、ピン孔48cがx軸方向に貫通形成されている。リンクロッド45のz軸負方向側の端において、板状部分451,452の間にはカムノーズ部48bが挟み込まれ、その状態で、ピン孔45c,45d及びピン孔48cには、ピン454が回転自在に挿通されている。すなわち、リンクロッド45のz軸負方向側の二股状の端部は、ピン454を介して、揺動カム47(カム本体48)のカムノーズ部48bに回転自在に連係されている。
一方、図5に示すように、x軸正方向側のカム本体49のz軸正方向側の上面には、支持部470とカムノーズ部49bとを結ぶ方向に、幅が狭いリブRが一体に形成されている。このリブRは、リンクロッド45からの揺動力やバルブスプリングSからのバネ力による大きな荷重を受けるための剛性を確保するものである。
バルブリフタ3は、一対の吸気弁2a,2bに対応して一対設けられており、x軸負方向側のカム本体48に対応するバルブリフタ3aと、x軸正方向側のカム本体49に対応するバルブリフタ3bとからなる。バルブリフタ3a,3bは同形状であるため、以下、バルブリフタ3aを例にとって説明する。
バルブリフタ3は有蓋円筒状に形成されており、摺動用孔1aの内周面に摺接する円筒部分と、この円筒部分の上端に蓋をする円形の冠面30とを有している。冠面30は、xy平面と略平行に、平坦形状に形成されている。冠面30には、カム本体48のカム面480が摺接する。冠面30の中心を通るバルブリフタ3の中心軸を、円筒中心O1という。
冠面30の裏側の面には、z軸方向から見て円形状のボス部31が、バルブリフタ3の円筒中心O1と同心に、z軸負方向に向かって盛り上がるように形成されている(図11参照)。ボス部31のz軸負方向側の面31aは、xy平面と略平行に、平坦に形成されている。面31aには、吸気弁2のバルブステム20のz軸正方向側の上端面20bが当接している。このように、バルブステム20が当接するバルブリフタ3の部分の強度がボス部31によって確保されている。また、ボス部31以外の冠面30のz軸方向肉厚を薄くすることで、バルブリフタ3a全体の軽量化を実現している。
図6及び図11に示すように、バルブステム20の軸心線O2の延長線上には、揺動カム47(カム本体48,49)の揺動中心P1が配置されている。すなわち、軸心線O2をz軸正方向側へ延長すると駆動軸40の軸心P1と交わるように、吸気弁2(バルブステム20)と揺動カム47の相対位置が決められている。また、後述するように、バルブリフタ3の円筒中心O1は、バルブステム20の軸心線O2に対して、y軸正方向側に所定量T0だけオフセットして配置されている。
また、バルブリフタ3の円筒中心O1は、バルブステム20(ステムエンド20a)の上端面20bの範囲内に収まる位置に設けられている。言い換えると、上記オフセット量T0は、ステムエンド20aの半径未満の大きさに設定されている。
バルブステム20の上端(ステムエンド20a)付近には、バルブリフタ3の内周側の位置に、スプリングリテーナ21が装着されている。摺動用孔1aの下端において、シリンダヘッド1にはスプリングシート22が設置されている。スプリングリテーナ21とスプリングシート22との間にはバルブスプリングSが圧縮された状態で設置されている。バルブスプリングSは、等径・等ピッチのコイルばねであり、吸気弁2をz軸正方向(閉弁方向)へ付勢している。
尚、バルブステム20とスプリングリテーナ21との間には、z軸方向断面が逆円錐台形に形成され、2分割されたバルブコッタ23が装着されている。バルブコッタ23は、バルブスプリングSの付勢力によってステムエンド20aに締め付け固定されている。
制御機構5は、駆動軸40のy軸負方向側かつz軸正方向側に配置された制御軸50と、制御軸50の外周面に一体に設けられた制御カム51とを有している。制御軸50は、駆動軸40と略平行に機関前後方向に沿って配置されている。
制御カム51は、各気筒に1つ設けられ、x軸方向において所定の幅を持つとともに、図11に示すように、x軸方向から見て、制御軸50よりも大径に設けられた円板状の偏心カムであり、その軸心Q2は制御軸50の軸心Q1から径方向へ所定量だけオフセットしている。制御カム51は、ロッカアーム44の支持孔44aの内部に回転自在に挿通されており、制御カム51の軸心Q2がロッカアーム44の揺動支点となる。駆動機構6により制御軸50が回転制御されることで、制御カム51の軸心Q2(ロッカアーム44の揺動支点)が移動し、これにより伝達機構4の作動姿勢が変化する。
図2に示すように、制御軸50の外周には、複数のジャーナル部52が一体に設けられている。ジャーナル部52は、制御軸50と同軸の円筒形状であり、制御軸ジャーナル軸受15に摺動回転自在に支持されている(図4参照)。隣接する2つのジャーナル部52は、x軸方向で制御カム51を挟むように配置されている。
駆動機構6は、図1に示すように、制御軸50のx軸負方向側の端部に設置されており、図9に示すように、電動モータMと、電動モータMの回転駆動力を制御軸50に伝達するボール螺子伝達機構60とを有している。ボール螺子伝達機構60を収容するハウジング600は、シリンダヘッド1の後端部に固定されている。
電動モ−タMは、比例型のDCモータであり、機関の運転状態を検出するコントローラからの制御信号によって駆動される。電動モ−タMは、有底円筒状のモータケーシング601の内部に設置されている。モータケーシング601は、y軸正方向側の矩形状端部602においてハウジング600に固定され、ハウジング600のy軸負方向側の開口部を封止している。
ボール螺子伝達機構60は、ボール螺子軸61と、ボールナット62と、リンク部材63と、連係アーム64とを有している。ボール螺子軸61は、ハウジング600の内部に、電動モータMの駆動軸603と同軸上に配置されており、電動モータMにより回転駆動される。ボールナット62は、ボール螺子軸61の外周に螺合して設置された円筒状の移動ナットであり、ボール螺子軸61の回転運動を直線運動に変換する。ボールナット62は、ボール螺子軸61が回転することにより、ボール螺子軸61との間に介在されたボールを介して、ボール螺子軸61の軸方向(y軸方向)の移動力を付与されるようになっている。
リンク部材63は、二股に分かれた一端63aがボールナット62の外周にピン630を介して回転自在に連結され(図1参照)、他端が連係アーム64(第1アーム640)の一端に回転自在に連結されている。連係アーム64は、第1アーム640と第2アーム641とが結合して構成され、x軸方向から見てブーメラン形状のレバー部材である。x軸方向から見て、第1アーム640の先端には、リンク部材63の上記他端が連結されている。第2アーム641の中間部位には制御軸50のx軸負方向側の端部が固定されている。
コントローラは、機関回転数を検出するクランク角センサ、吸入空気量を検出するエアーフローメータ、機関の水温を検出する水温センサ、及び制御軸50の回転位置を検出するポテンショメータ等の各種のセンサからの信号をフィードバックして現在の機関運転状態を演算等により検出し、電動モータMに制御電流を出力して、その動作を制御する。ポテンショメータにより検出される制御軸50の回転角度は、吸気弁2のバルブリフト特性(作動角やバルブリフト量)に対応している。
以上のように、本実施例1のVELでは、揺動カム47が駆動軸40と同軸P1上に配置され、揺動カム47の支軸が駆動軸40であるため、特別な支軸が不要となって部品点数を削減できるとともに、機関幅方向の配置スペースが小さくなってコンパクト化が図られている。また、揺動カム47の揺動中心(駆動軸40の軸心P1)が吸気弁2の軸心線O2の延長線上に配置されているため、(カムがバルブリフタを介して直接に機関弁を押す)いわゆる直動式の動弁系におけるカムシャフトの位置にそのまま駆動軸40(及び揺動カム47)を配置することが可能であり、かつチェーン系のレイアウトも変更不要である。すなわち、一般的な既存の直動式の動弁系に容易にVELを適用でき、レイアウトの変更が少なくてすむ。
また、可変機構4は、デスモドロミック動弁機構の原理を応用した強制駆動であるため、駆動軸40から揺動カム47への動力伝達経路にリターンスプリング等が介在しない簡素な構造となっており、バルブスプリングSを強化する必要もない。さらに、各リンク部材の連結・接触部分の多くが滑り軸受構造となっているため、潤滑が容易で耐久性・信頼性に優れている。
以下、揺動カム47のカム特性とレイアウトについて、カム本体48を例にとって説明する。図7に示すように、カム本体48のカム面480には、基円部48aの外周面であるベースサークル面481と、ベースサークル面481からカムノーズ部48b側に連続して曲線状に延びるランプ面482(始点Rs〜終点Re)と、ランプ面482から連続して略直線状に延びるリフト面483とが形成されている。リフト面483は、カムノーズ部48bの先端側で曲線状に形成されており、カムノーズ部48bの先端に形成された最大リフトの頂面484に連なっている。
x軸正方向側から見て、揺動カム47が軸心P1を中心として時計回り方向に最大回転した位置を基準とし、そこから揺動カム47(カム本体48)が反時計回り方向へ回転した角度を揺動角θとする。所定の揺動角θに対応するベースサークル面481の範囲がベースサークル領域になり、ベースサークル領域から所定の揺動角θに対応するランプ面482の範囲がいわゆるランプ領域となり、さらにランプ領域から頂面484までの所定の揺動角θに対応する範囲がリフト領域(イベント領域)になるように設定されている。
図8は、クランク角度(揺動角θ)に対する揺動カム47(カム本体48)のカムリフト量Lを示すカム特性図であり、トラベル量Tを併せて示す。小リフト制御時の特性を実線で示し、大リフト制御時の特性を一点鎖線で示し、中間リフト制御時の特性を二点鎖線で示す。
カムリフト量Lとは、カム本体48の揺動中心P1からベースサークル面481までの距離を基準値とし、バルブステム20の軸心線O2の方向(リフト方向)において、揺動中心P1からカム面480までの距離が、上記基準値に対して増大した距離をいう。また、カムリフト量Lから下記バルブクリアランスδを差し引いた分がバルブリフト量となる。バルブリフト量は、吸気弁2の閉弁状態を基準位置とし、この基準位置からの吸気弁2のストローク量を意味し、開弁量を示す値である。
また、トラベル量T とは以下の量を指す。すなわち、x軸方向から見て(図11参照)、バルブリフタ3の冠面30までの距離が最短となるカム面480上の点を、z軸方向に冠面30へ投影したとき、この投影点は、揺動カム47が揺動するのに応じて、冠面30上の所定範囲をy軸方向に移動する。冠面30にベースサークル面481が対向しているときは、上記投影点はバルブステム20の軸心線O2上にある。上記投影点の軸心線O2からの移動距離(冠面30上の水平距離)を、トラベル量Tと呼ぶ。
言い換えると、トラベル量Tは、揺動カム47の揺動中心P1から、冠面30とカム面480とが最短距離で対向ないし当接する位置(カム接点)までのy軸方向距離であり、冠面30とカム面480が接しているときはカム接点移動長さである。トラベル量Tは、dL/dθの大きさとして求められる。
ランプ領域において、カムリフト量Lは揺動角θに比例して直線的に変化し、dL/dθ=一定となるようにランプ面482の形状が設定されている。このため、図8に示すように、ランプ領域でのトラベル量Tは一定値T0となる。イベント領域においては、正〜0〜負の加速度の区間が設けられており、揺動角θの増加に対してdL/dθ(トラベル量T)が増加し、その後、dL/dθが一定となるか又は減少するようにリフト面483(頂面484)の形状が設定されている。
揺動角θが小さい状態、すなわち、x軸正方向側から見て、揺動カム47(カム本体48)が時計回り方向に回転変位し、ベースサークル面481がバルブリフタ3の冠面30と対向している状態では、カムリフト量L及びトラベル量Tはゼロである。また、冠面30とベースサークル面481との間に、所定のバルブクリアランス(以下、クリアランスδという。)が介在している。
クリアランスδは、動弁各部の熱膨張差によるバルブ突き上げや摩耗による圧縮漏れ等を防止するため、冠面30とカム面480(ベースサークル面481)との間に設けられている。クリアランスδは、ランプリフト以下の大きさに設けられている。ここでランプリフトとは、ランプ領域でのカムリフト量Lの上限であり、終点Reにおけるカムリフト量Lを指す。
上記状態から、x軸正方向側から見て、揺動カム47(カム本体48)が反時計回り方向に回転すると、揺動角θが大きくなってランプ面482が冠面30と対向するようになり、カムリフト量Lが一定の割合で徐々に増大するようになるとともに、トラベル量が一定値T0となる。この状態で、カムリフト量Lがクリアランスδの分だけ増大したとき、ランプ面482の所定位置が冠面30に当接する。
この当接点は、冠面30上において、バルブステム20の軸心線O2(揺動カム47の揺動中心P1)からトラベル量T0だけy軸正方向へ移動した位置にある。ここで、バルブリフタ3の円筒中心O1は、バルブステム20の軸心線O2(駆動軸40の軸心P1)に対して、トラベル量T0の分だけy軸正方向側にオフセットして配置されている。よって、上記当接点は、バルブリフタ3の円筒中心O1に位置することとなる。
言い換えると、クリアランスδは、ランプリフト以下の大きさに設けられているため、カム面480が冠面30との当接を開始又は終了するとき、ランプ面482において上記当接を開始又は終了することとなる。ランプ領域でのトラベル量Tは一定値T0であるため、カムリフト量Lがクリアランスδ相当となってカム面480が冠面30との当接を開始又は終了するときのトラベル量も一定値T0である。よって、カム面480(ランプ面482)が冠面30との当接を開始又は終了するとき、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置において、上記当接を開始又は終了することとなる。
揺動角θがさらに大きくなると、カムリフト量Lがさらに増大し、ランプ面482、さらにはリフト面483が冠面30の所定位置に当接してバルブリフタ3を押し下げ、バルブリフト量を増大する。
次に、VELの作動について、カム本体48を例にとって説明する。図11〜図13は、低速低負荷域においてバルブリフト量が平均的に小さくなるように制御されたとき(小リフト制御時)のVELの状態を示し、図14〜図16は、高速高負荷域においてバルブリフト量が平均的に大きくなるように制御されたとき(大リフト制御時)のVELの状態を示す。図11と図14は、カムリフト量Lが最小であるときの姿勢(ゼロリフト状態)を示す。図12と図15は、カムリフト量Lが所定量であるときの姿勢(リフト開始状態)を示す。図13と図16は、カムリフト量Lが最大であるときの姿勢(最大リフト状態)を示す。
(吸気弁の開閉作動)
まず、可変機構4による吸気弁2の開閉作動を説明する。この基本的な作動は小リフト制御時と大リフト制御時等とで共通であるため、以下、小リフト制御時を例にとり、図11〜図13に基づき説明する。
図11は、揺動カム47(カム本体48)のカムノーズ部48bがz軸正方向側へ最も引き上げられた状態を示す。すなわち、図11の状態では、駆動カム41の軸心P2は、駆動軸40の軸心P1を挟んで、ロッカアーム44のピン443と反対側の位置にあり、軸心P1,P2とピン443の軸心Rは一直線上に並んでいる。よって、ピン443は、リンクアーム43を介してz軸負方向側へ最大限引き下げられ、ロッカアーム44は、揺動中心Q2を中心に時計回り方向に最大回転変位している。この結果、ロッカアーム44の第2アーム442に連結されたリンクロッド45がz軸正方向側へ跳ね上がり、これに伴い、揺動カム47も跳ね上がって、揺動角θが最小である最小揺動位置になっている。
このとき、バルブリフタ3の冠面30には揺動カム47(カム本体48)のベースサークル面481が対向しているため、カムリフト量Lはゼロになっている。また、冠面30とベースサークル面481との間にはクリアランスδが介在している。揺動カム47(カム本体48)がバルブリフタ3を押圧しないので、当然、吸気弁2のバルブリフト量もゼロであり、非リフト状態となっている。
次に、この状態から駆動軸40が時計回り方向に回転すると、図12に示すように、駆動カム41の軸心P2は軸心P1を中心に時計回り方向に回転して、駆動カム41がリンクアーム43を押し上げる。このため、ロッカアーム44が揺動中心Q2の周りに反時計回り方向へ回転し、リンクロッド45をz軸負方向側へ押し下げ、揺動カム47を軸心P1の周りに反時計回り方向へ回転させる。この結果、揺動角θが増大し、カムリフト量Lも増大して、図7のランプ領域(Rs〜Re)の途中でランプ面482がバルブリフタ3の冠面30に当接する。
ランプ面482が冠面30に当接し始めた瞬間、カムリフト量Lは、クリアランスδ相当になっている。このときの駆動軸40の回転角度、すなわちクランク角度は、可変機構4が実際にバルブリフタ3を介して吸気弁2を開くバルブリフトの開始点となる。以後、ランプ面482がバルブリフタ3を押し下げる上りランプリフトが開始される。すなわち、冠面30が押圧され、バルブスプリングSの反力に抗して吸気弁2が開かれる。揺動カム47(カム本体48)のリフトは、冠面30とボス部31を介して、ボス部31と当接するステムエンド20aに伝わり、吸気弁2をz軸負方向側へ移動させ、開弁させる。
次に、駆動軸40がさらに時計回り方向に回転すると、カム面480と冠面30との当接点は、図7に示すReから左に移行してイベント領域に入る。図13は、駆動カム41の軸心P2が、駆動軸40の軸心P1とロッカアーム44のピン443との間に挟まれた位置において、軸心P1とピン443の軸心Rとを結ぶ直線上に来た状態を示す。この時点で、ピン443はz軸正方向へ最大限に持ち上げられ、ロッカアーム44は揺動中心Q2の周りに反時計回り方向へ最大回転し、揺動カム47は軸心P1の周りに反時計回り方向へ最大限に揺動する。このときカムリフト量Lは最大となり、開弁量すなわちバルブリフト量は最大となる。
駆動軸40がさらに時計回り方向に回転すると、リンクアーム43を介してピン443が引き下げられ、揺動カム47は時計回り方向へ揺動するため、揺動角θが減少する。バルブリフタ3の冠面30に当接するカム面480は、イベント領域から再びランプ領域(Rs〜Re)に移る(下りランプ)。カムリフト量Lがクリアランスδ未満になると、カム面480は上記当接を終了する。カムリフト量Lがゼロになると、再びベースサークル領域が冠面30に対向するようになる。
以上により、クランク角度に対する揺動カム47(カム本体48)のカムリフト量Lの特性は、図8の実線L1のようになる。
(バルブリフト特性の可変作用)
次に、VELによるバルブリフト特性の可変作用を説明する。VELは、機関運転状態に応じて揺動カム47の回転位相(揺動軌跡)を変化させ、カムリフト特性を変更することで、バルブリフト量、開閉時期(バルブタイミング)、作動角といったバルブリフト特性を可変制御する。
機関低速低負荷時には、制御機構5は、制御カム51をx軸正方向側から見て反時計回り方向へ偏心回転させ、バルブリフト量を小さくする。まず、図9に示すように、コントローラからの制御信号によって電動モータMを一方向に回転させる。この回転トルクがボール螺子軸61に伝達されると、ボール螺子軸61の回転に伴ってボールナット62がy軸負方向へ直線運動する。ボールナット62の移動は、リンク部材63を介して、連係アーム64をx軸正方向側から見て反時計回り方向に回転させ、制御軸50を同方向へ回転駆動する。
このため、制御軸50に固定された制御カム51の肉厚部、すなわち軸心Q2が、制御軸50の軸心Q1の周りに、所定角度だけ、x軸正方向側から見て反時計回り方向に回転移動する。具体的には、軸心Q2は、y軸正方向側かつz軸負方向側の所定位置(図14)から、y軸負方向側かつz軸正方向側の所定位置(図11)へ移動する。このように軸心Q2がz軸正方向側へ引き上げられ駆動軸40から遠ざかるとともに、ロッカアーム44は、全体として、図14に示す状態から図11に示す状態へ、軸心Q2を中心として時計回り方向へ回転移動する。
このため、揺動カム47のカム本体48は、リンクロッド45を介して、カムノーズ部48bを強制的にz軸正方向側へ引き上げられることで、全体として、図14に示す状態から図11に示す状態へ、軸心P1を中心として時計回り方向へ回転移動する。すなわち、揺動カム47の回転位相が時計回り方向にオフセットする。よって、駆動カム41が回転して揺動カム47を揺動させ、吸気弁2を開閉作動させる間、バルブリフタ3の冠面30に対向するカム面480は、リフト面483の側よりもベースサークル面481の側の割合のほうが多くなる。言い換えると、揺動カム47の空振り範囲が増加する。また、冠面30に対するカム面480の当接位置は点A1が限界となり(図13参照)、点A1でピークリフトとなる。
よって、小リフト制御時のカムリフト特性は、図8の実線L1に示すようになる。かかる低速低負荷域では、ピークリフト量は小さくなり、バルブリフト量が小さい特性となって、フリクションが低減する。また、各吸気弁2の開時期が遅くなり、閉時期が早くなって、排気弁とのバルブオーバラップが小さくなる。このため、燃費の向上と機関の安定した回転が得られる。
一方、機関運転状態が低速低負荷域から高速高負荷域に移行した場合は、制御機構5は、制御カム51を時計回り方向へ偏心回転させ、バルブリフト量を大きくする。まず、図10に示すように、コントローラからの制御信号によって電動モータMを低速低負荷域とは逆方向に回転させ、ボールナット62をy軸正方向へ移動させる。これにより、リンク部材63を介して、連係アーム64を時計回り方向に回転させ、制御軸50を同方向へ回転駆動する。
このため、制御カム51の軸心Q2が、制御軸50の軸心Q1の周りに、所定角度だけ時計回り方向に回転移動する。具体的には、軸心Q2は、y軸負方向側かつz軸正方向側の所定位置(図11)から、y軸正方向側かつz軸負方向側の所定位置(図14)へ移動する。このように軸心Q2がz軸負方向側へ押し下げられ駆動軸40に近づくとともに、ロッカアーム44は、全体として、図11に示す状態から図14に示す状態へ、軸心Q2を中心として反時計回り方向へ回転移動する。
このため、揺動カム47のカム本体48は、リンクロッド45を介して、カムノーズ部48bを強制的にz軸負方向側へ押し下げられることで、全体として、図11に示す状態から図14に示す状態へ、軸心P1を中心として反時計回り方向へ回転移動する。すなわち、揺動カム47の回転位相が反時計回り方向にオフセットする。よって、駆動カム41が回転して揺動カム47を揺動させ、吸気弁2を開閉作動させる間、バルブリフタ3の冠面30に対向するカム面480は、ベースサークル面481の側よりもリフト面483の側の割合のほうが多くなる。言い換えると、揺動カム47の空振り範囲が減少する。また、冠面30に対するカム面480の当接位置は点A2が限界となり(図16参照)、点A2でピークリフトとなる。
よって、大リフト制御時のカムリフト特性は、図8の一点鎖線L2に示すようになる。かかる高速高負荷域では、ピークリフト量は大きくなり、バルブリフト量が大きい特性となる。また、各吸気弁2の開時期が早くなると共に、閉時期が遅くなる。この結果、吸気充填効率が向上し、十分な機関出力が確保できる。
尚、低速と高速の中間の回転速度域(中間域)でも同様に、機関運転状態に応じて適宜バルブリフト量を制御することで、例えば図8の二点鎖線L3に示すようなカムリフト特性を得ることができる。VELは、低速低負荷域から高速高負荷域までの全領域において、制御軸50の回転角を適宜制御することで、無段階連続的にバルブリフト量を制御することができる。
(バルブリフタの挙動安定化)
次に、揺動カム47に対するバルブリフタ3の配置によるバルブリフタ3の挙動安定化作用について、カム本体48を例にとって説明する。この作用は、バルブリフト特性がどのように可変制御されていても、同様に得られる。
一般に、揺動カムがバルブリフタを介して直接に機関弁を押すいわゆる直動式のVELにおいて、揺動カムの揺動支点がバルブリフタの円筒中心延長線上に設置されているような場合、バルブリフトの開始時、すなわちバルブリフト量が増加し始める時のカム接点は、バルブリフタの円筒中心位置からずれることとなる。このとき、揺動カムのカム面からバルブリフタに作用する荷重は、バルブリフタの冠面上において円筒中心からずれた位置に発生するため、摺動用孔に設置されたバルブリフタを倒そうとするモーメントが生じる。特にバルブリフト開始初期には、摺動用孔とバルブリフタとの間で潤滑油による流体潤滑が作用しないため、バルブリフタの倒れが生じやすくなる。
また、コストダウンや軽量化等を図るため、油圧ラッシュアジャスタ等の隙間自動調整部品を省略した場合、揺動カムとバルブリフタとの間には、所定のバルブクリアランスが設けられることとなる。この場合、揺動カムのカムリフト量がバルブクリアランス相当になり、カム面がバルブリフタの冠面と当接し始めるとき、カム面と冠面は非接触状態から接触状態へ瞬時に移行し、バルブリフトが突然開始されることとなる。このため、バルブリフタは、カム面から衝撃荷重を受けることとなり、上記バルブリフタの倒れの発生がより懸念される。
これに対し、本実施例1では、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置を、吸気弁2のバルブステム20の軸心線O2に対し、トラベル量T0だけカムノーズ部48bの側にオフセットさせている。これにより、揺動カム47(カム本体48)がバルブリフタ3を開弁方向に押し下げ始めるとき、バルブリフタ3の冠面30とカム本体48のカム面480との接線がバルブリフタ3の円筒中心線O1と交わる。すなわち、冠面30においてカム面480が当接し始める時点のカム接点位置と、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置とが、x軸方向から見て一致する。
よって、バルブリフト開始時に、カム面480からの荷重は、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置に作用するため、摺動用孔1aに設置されたバルブリフタ3をyz平面内で倒そうとするモーメントが発生しない。したがって、バルブリフト開始時におけるバルブリフタ3の倒れ現象が防止され、バルブリフタ3の挙動が安定化するとともに、バルブリフタ3と摺動用孔1aの間のフリクションが低減される。
また、バルブリフタ3の円筒中心O1は、バルブステム20の上端面20bの範囲内に設けられている。よって、バルブスプリングSの反力は、ステムエンド20a(上端面20b)を介してバルブリフタ3の円筒中心O1に作用する。言い換えると、バルブリフト開始時にバルブリフタ3の円筒中心O1の位置に作用する荷重は、ステムエンド20a(上端面20b)によって受け止められる。このため、ステムエンド20a(上端面20b)を支点としてバルブリフタ3をyz平面内で倒そうとするモーメントが発生しない。したがって、バルブリフタ3の挙動がより安定化する。
また、カム面480のイベント領域がいきなり冠面30に当接するとバルブリフタ3の挙動が乱れるおそれがあるが、本実施例1のカム面480は、非リフト領域(ベースサークル領域)とリフト領域(イベント領域)の間に、両者を連続的に接続するランプ面482を有している。すなわち、イベント領域へ移行する前のカム面480の区間に、カムリフト量Lの増加速度を抑制するランプ領域を設けている。そして、クリアランスδは、ランプ面482の高さ(ランプリフト)以下に設定されている。
よって、仮に大リフト制御時であっても、カム面480が冠面30と当接し始めるときは、まずランプ面482と接触することとなり、当接が開始されるときの衝突速度が緩和され、バルブリフト開始速度が小さくなる。このため、バルブリフタ3がカム面480から受ける衝撃荷重が緩和され、騒音の発生が抑制されるとともに、バルブリフタ3の倒れがより防止される。
さらに、ランプ面482は、カムリフト量Lが揺動角θに対して直線的に増加する形状であり、dL/dθ=一定となるように設定されているため、ランプ領域でのトラベル量Tは一定値T0となる。よって、クリアランスδがばらついた場合であっても、クリアランスδがランプリフト以下である限り、カム面480(ランプ面482)が冠面30との当接を開始するときのトラベル量は不変であり一定値T0である。したがって、クリアランスδの大小に関わらず、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置において上記当接を開始することとなり、バルブリフタ3の挙動がより安定化する。
尚、トラベル量Tはランプ領域を過ぎると急激に増え、イベント領域に入るとカム接点位置がバルブリフタ3の円筒中心O1よりもカムノーズ部48bの側にずれる。よって、カム面480が冠面30との当接を開始した後、バルブリフト中、バルブリフタ3を倒そうとするモーメントが発生する。しかし、バルブリフト中は、バルブリフタ3の摺動用孔1aに対する摺動速度が増し、摺動用孔1aとバルブリフタ3との間で潤滑油による流体潤滑が作用する。このため、バルブリフタ3は潤滑油に支えられ、倒れは生じにくくなる。
さらに、本実施例1では、カム本体48の幅中心αを、バルブリフタ3の円筒中心O1に対してx軸方向に僅かにオフセットさせている(図5、図6参照)。よって、冠面30に対してカム面480が摺接する範囲が、円筒中心O1を境としてx軸方向に偏ることとなり、バルブリフタ3を摺動用孔1aの内部で円筒中心O1の周りに回転させようとするモーメントが働く。したがって、バルブリフト中はバルブリフタ3が回転し、これにより冠面30においてカム面480が摺接する箇所が偏ることがなく、冠面30の偏摩耗が防止される。
それだけでなく、バルブリフト開始時、上記モーメントによってバルブリフタ3が微小に回転するため、摺動用孔1aとバルブリフタ3との間の油膜形成及びそれによるバルブリフタ保持性が高められる。これによりバルブリフタ3の倒れが防止されるため、バルブリフタ3の挙動がより一層安定化する。
以上の作用は、揺動カム47のカム本体49の側でも同様に得られる。
[実施例1の効果]
以下、実施例1から把握される本発明のVELの効果を列挙する。
(1)支軸(駆動軸40)に揺動自在に支持され、揺動することで非リフト領域とリフト領域が切り替わり、リフト領域でバルブスプリングSの反力に抗して機関弁(吸気弁2)を開作動する揺動カム47(カム本体48,49)を備え、機関のクランクシャフトから駆動軸40を介して伝わる回転運動を揺動運動に変換して揺動カム47に伝達するとともに、揺動カム47の揺動姿勢を変化させることで機関弁のバルブリフト量を可変制御し、揺動カム47と機関弁との間には有蓋円筒形状のバルブリフタ3が介在するとともに、非リフト領域において揺動カム47とバルブリフタ3の冠面30との間に所定のバルブクリアランスδが設定された可変動弁装置VELにおいて、揺動カム47のカムリフト量Lがバルブクリアランスδ相当となり冠面30と当接するときのカム接点がバルブリフタ3の円筒中心O1の延長線上にあることとした。
よって、バルブリフト開始時に、カム面480からの荷重は、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置に作用するため、バルブリフタ3の倒れが防止される。したがって、バルブリフト開始時において、バルブリフタ3の挙動を安定化できるとともに、バルブリフタ3と摺動用孔1aの間のフリクションを低減できる、という効果を有する。
(2)具体的には、バルブリフタ3の円筒中心O1を、機関弁の軸心(バルブステム20の軸心線O2)に対し、揺動カム47のカムリフト量Lがバルブクリアランスδ相当となり冠面30と当接するときのカム接点と揺動カム47の揺動中心P1との間における冠面30上の水平距離(トラベル量T0)の分だけオフセットするとともに、バルブリフタ3の円筒中心O1が機関弁の軸端面(上端面20b)内にあることとした。
よって、上記(1)と同様の効果のほか、バルブリフト開始時に、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置に作用する荷重はステムエンド20a(上端面20b)によって受け止められるため、バルブリフタ3の挙動をより安定化できる、という効果を有する。
尚、上記オフセット量は、トラベル量T0と厳密に一致している必要はなく、多少のずれは許容される。すなわち、バルブリフタ3の倒れをある程度制限できる量であればよく、トラベル量T0より若干大きくても小さくてもよい。
(3)言い換えると、本実施例1のバルブリフタ3は、機関弁(吸気弁2)と、支軸(駆動軸40)に揺動自在に支持され、揺動することで非リフト領域とリフト領域が切り替わり、リフト領域でバルブスプリングSの反力に抗して機関弁(吸気弁2)を開作動する揺動カム47(カム本体48,49)との間に介装され、リフト領域と摺接する冠面30を有し、非リフト領域において揺動カム47との間に所定のバルブクリアランスδが設定された有蓋円筒形状のバルブリフタ3において、バルブリフタ3の円筒中心O1を、機関弁の軸心(バルブステム20の軸心線O2)に対し、揺動カム47のカムリフト量Lがバルブクリアランスδ相当となり冠面30と当接するときのカム接点と揺動カム47の揺動中心P1との間における冠面30上の水平距離(トラベル量T0)の分だけオフセットするとともに、バルブリフタ3の円筒中心O1が機関弁の軸端面(上端面20b)内にあることとした。
よって、本実施例1のバルブリフタ3は、上記(2)と同様の効果を有する。
(4)上記非リフト領域とリフト領域の間には、両者を連続的に接続するランプ面482を有し、バルブクリアランスδは、ランプ面482の高さ(ランプリフト)以下であることとした。
よって、バルブリフト開始時には、まずランプ面482が冠面30と当接することで揺動カム47とバルブリフタ3との衝突速度が緩和されるため、バルブリフタ3の動き出しが緩やかとなる。したがって、バルブリフト開始時における作動が滑らかとなって、バルブリフタ3の挙動をより安定化できる、という効果を有する。
(5)ランプ面482は、非リフト領域であるベースサークル面481に対するリフト量(カムリフト量L)が、揺動カム47の揺動角θに対して直線的に増加する形状であることとした。
すなわち、dL/dθ=一定とし、ランプ領域でのトラベル量を一定値T0とした。よって、クリアランスδがばらついた場合であっても、バルブリフタ3の円筒中心O1の位置において上記当接が開始されることとなり、バルブリフタ3の挙動をより安定化できる、という効果を有する。
(6)冠面30の裏面に、バルブリフタ3の円筒中心O1と同軸に、機関弁の軸端面(上端面20b)が当接する円形状のボス部31を設けた。
よって、バルブリフタ3の強度を確保するとともに軽量化を図ることができる、という効果を有する。
(7)揺動カム47(カム本体48,49)の幅中心αをバルブリフタ3の円筒中心O1に対して、揺動カム47の軸方向(x軸方向)に僅かにオフセットさせた。
よって、バルブリフト開始時、バルブリフタ3が微小に回転することで、バルブリフタ3の倒れを防止でき、バルブリフタ3の挙動をより一層安定化できる。また、これに付随して、バルブリフト中はバルブリフタ3が回転することで、冠面30の偏摩耗を防止できる、という効果を有する。尚、上記オフセット量は、それによりバルブリフト開始時に発生するバルブリフタ3の回転モーメントが、摺動用孔1aとバルブリフタ3との間に油膜を形成する程度であれば足りる。
(8)揺動カム47の揺動中心P1が、機関弁の軸中心(バルブステム20の軸心線O2)の延長線上に配置されていることとした。
よって、いわゆる直動式の動弁系におけるカムシャフトの位置にそのまま駆動軸40を配置することが可能であるため、本実施例1のVELの搭載性を向上できる、という効果を有する。
(9)支軸(駆動軸40)に揺動自在に支持され、揺動することで非リフト領域とリフト領域が切り替わり、リフト領域でバルブスプリングSの反力に抗して機関弁(吸気弁2)を開作動する揺動カム47(カム本体48,49)を備え、機関のクランクシャフトから駆動軸40を介して伝わる回転運動を揺動運動に変換して揺動カム47に伝達するとともに、揺動カム47の揺動姿勢を変化させることで機関弁のバルブリフト量を可変制御し、揺動カム47と機関弁との間には有蓋円筒形状のバルブリフタ3が介在するVELにおいて、揺動カム47がバルブリフタ3を開弁方向に押し下げ始めるとき、バルブリフタ3の冠面30と揺動カム47のカム面との接線がバルブリフタ3の円筒中心線O1と交わることとした。
すなわち、実施例1では、ラッシュアジャスタ等の隙間自動調整部品を省略し、揺動カム47とバルブリフタ3との間にバルブクリアランスδを設けることとしたが、バルブリフタ3に油圧ラッシュアジャスタ等を装着し、バルブクリアランスを常時ゼロに自動調整することとしてもよい。この場合も上記(1)と同様の効果を得ることができる。