本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法の一例を示す。なお無害化処理方法は、これに限定されるものではない。本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法は、有機ハロゲン化合物と、プロトン性溶媒と、還元触媒と、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属と、を混合し、水素ガスなどの水素源を外部から一切導入することなく、有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化及び/又は還元し無害化する。本発明の構成を採用することで、工程数が少なく温和な操作条件で高い分解率を得ることができる。
また本発明は、被処理物に水が含まれる場合であっても、効率的に有機ハロゲン化合物を分解、無害化することが可能であり、また固体に吸着した有機ハロゲン化合物であっても、容易に有機ハロゲン化合物を溶出させ、これを無害化することもできる。また被処理物に無極性有機溶媒が含まれていても有機ハロゲン化合物を無害化できるなど、幅広い形態を有する有機ハロゲン化合物に適用することができる。
本発明の無害化処理方法で無害化可能な被処理物である有機ハロゲン化合物を例示すれば、ポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン類、ポリクロロジベンゾフラン類、ポリクロロビフェニル類、臭化ダイオキシン類などダイオキシン類、含ハロゲン化農薬、及びポリ塩化ビフェニル(以下PCBと記す)、テトラクロロエチレン(以下PCEと記す)、トリクロロエチレン(TCE)などの脂肪族塩素化合物である。
有機ハロゲン化合物は、一種で存在している場合はもちろんのこと、2種以上の有機ハロゲン化合物が含まれていてもよい。また有機ハロゲン化合物は、単独で存在している場合のほか、他の物質を含む場合であっても本発明の無害化処理方法で無害化することが可能である。たとえば、排ガス中にダイオキシン類が含まれる場合にあっては、ダイオキシン類を分離回収することなく、無害化することができる。同様に排水中に有機ハロゲン化合物が含まれる場合、廃油あるいは有機溶媒に含まれる場合であってもよい。さらに飛灰(フライアッシュ)や土壌に吸着された有機ハロゲン化合物であっても、有機ハロゲン化合物を分離回収することなく無害化することができる。
プロトン性溶媒は、水素イオンを供与することが可能な溶媒であって、具体的には、水、アルコール類が例示される。ここで使用可能なアルコール類は、低級アルコールである。これを例示すれば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールである。これらは単独で使用することも、また混合して使用することも可能である。この際アルコール類と水を混合して使用してもよい。さらに、アルコール類に他の有機溶媒が含まれる場合であってもよい。取扱及び反応性を考えれば、メタノール又はエタノールを主成分とするアルコールが好ましい。より好ましくは、メタノールである。プロトン性溶媒の有機ハロゲン化合物対する混合割合は、有機ハロゲン化合物1mmolに対して、1〜20mlが好ましい。より好ましくは、5〜10mlである。
還元触媒は、有機ハロゲン化合物の分解反応時の活性化エネルギーを低減する役目を果すものであって、ここで使用可能な還元触媒としては、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、プラチニウムなど貴金属触媒、ニッケル、ニッケルーモリブデンなどの金属触媒が例示される。また、使用形態として金属そのものでも有効であるが、担体に坦持された形態の方が好ましい。ここで使用可能な担体としては、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカーアルミナが例示される。
還元触媒としては、活性炭にロジウムを坦持したロジウムカーボン触媒が好ましい。有機ハロゲン化合物の無害化性能及び価格の点から、より好ましくは、活性炭にパラジウムを坦持したパラジウムカーボン触媒である。有機ハロゲン化合物1mmolに対し、5重量%パラジウムカーボンを0.005g以上添加することが好ましく、5重量%パラジウムカーボンを0.01g以上添加することがより好ましい。また、ロジウムカーボン触媒及びパラジウムカーボン触媒は、粉粒体の形状で使用することが好ましい。
プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属は、プロトン性溶媒に溶解し電子を供与することが可能な物質であって、具体的には、アルカリ金属、金属カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムなどの第3族元素、鉄、亜鉛、及びこれら元素を含む合金が例示される。これは単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。プロトン性溶媒に溶解し電子移動による還元力を有する金属の種類は、特に限定されないけれども、金属カルシウムを好適に使用することができる。金属カルシウムは、有機ハロゲン化合物1molに対して、2.5mol以上添加することが好ましく、有機ハロゲン化合物1molに対して、10mol以上添加することがより好ましい。また金属カルシウムは、粉粒体の形状で使用することが好ましい。
次に本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法の想定されるメカニズムについて、貴金属触媒にロジウムカーボン触媒、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属として金属カルシウム、被処理物として固相に吸着したダイオキシン類を例にとり説明する。貴金属カーボン触媒であるRh/C(ロジウム/カーボン)は、脱塩素や芳香環の環還元能力に長けるRhを活性炭に担持した触媒である。本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法は、次の(1)〜(3)に示した溶出/分解機構の組み合わせである。即ち、(1)金属カルシウム(金属Ca)+アルコールによる電子移動還元、(2)Rh/C+アルコール(水素)による接触還元、(3)固相に吸着したダイオキシン類(DXNs)の溶出促進機構である。
(1)金属Ca+アルコールによる電子移動還元では、先ず、アルコールへの溶解によって金属Ca(ゼロ価)から生じる電子が、ダイオキシン類(DXNs)へ移動する(Step1〜3)。その電子移動は、一電子ずつのステップ・バイ・ステップで進行し、最終的にCa(0)はCa2+となる。還元力はCa(0)から生じる一電子目が最も強い。
電子移動の起こりやすさは、一般的に金属Caとダイオキシン類が十分に接触することが、重要な要素の一つである。従って、金属Ca粒径が小さく、かつ、長時間系内に存在すれば、それだけ強い脱塩素化能が発揮できることになる。さらに、金属Caから生じる電子が次々とダイオキシン類へ移動し、還元反応が進行するプロセスにおいて、ダイオキシン類は自ずとアニオン性を帯びる。このような状況で、僅かに酸性を示すアルコールのヒドロキシル基の水素原子とダイオキシン類が反応し(Step4,5)、そのアニオンが中和される。
以上のような還元反応が進行していく過程で、ある程度水素が導入されると、時には塩素が電子を持って脱離する反応(脱塩素化反応)が進行する(Step6、7)。この反応では、還元された芳香環が再構築される反応が同時に進行すると予想される。結果として、ポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン類(PCDDs)やポリクロロジベンゾフラン類(PCDFs)などの芳香環骨格は維持される。分解生成物としては、塩素脱離によって生じた塩化物イオンがCa2+にトラップされた塩化カルシウム、また、脱塩素化された有機性残渣などが考えられる。
次に、(2)Rh/C+アルコール(水素)による接触還元では、アルコール溶媒のヒドロキシル水素が重要な意味を持つ。即ち、Rh/Cは貴金属であるRhの表面に水素分子を吸着し易く、結果として水素分子同士の結合電子対の電子密度を低下させる(Step9、10)。言い換えると、水素原子が持っている結合性電子は、別の表面(この場合、Rh表面)に吸着すると分子間で使われていた電子が吸着に使われるようになり、自ずと水素原子間の結合力が弱まる。水素分子の弱い結合は、分子状水素に比べて切断し易く(反応しやすく)なっており、これを「発生期の水素」あるいは「原子状の水素」と呼ぶ。この現象を分解機構と関連付けると、金属Caはアルコールと接触すると、通常、期待している電子移動だけではなく、副反応が進行する。(Step8)。
これはアルコールの酸性部分とカルシウムのアルカリ性部分に由来する過程である。メタノール(MeOH)を用いた場合、反応式はCa+2MeOH→Ca(MeO)2+H2となり、金属Caはカルシウムメトキシドを生じる。含水率が高い場合は、水と金属Caとの反応によって発生する水素も無視できない。ここで生じる(副生する)水素分子はRh/Cに捕捉されて「原子状の水素」を形成し(Step10)、これが反応性に富むために、δマイナス性の塩素原子に求電子的(或いは、ラジカル的)に攻撃する。(Step11)。故に塩素はダイオキシン類から脱離してHClを生成するが、Ca(MeO)2又はCa(OH)2の強いアルカリ性で中和され、CaCl2が生じる。
また、金属カルシウム表面も触媒活性を示すと予測されるが、その作用は弱いと予想される。アルコールの酸性度が増大(例えばエタノールからメタノールへ)すれば、Rhが直接アルコールから水素を引き抜き、原子状の水素を形成すると予想される。その場合、メタノールはホルムアルデヒドへ変化することになる。Step8が水素発生に優先していると考えられる。また、強塩基性のカルシウムアルコキシドは、芳香環の塩素に隣接した炭素への求電子攻撃を起こしておらず、新たな環境ホルモンなどの生成は生じていない。
次に、(3)固相に吸着したダイオキシン類の溶出促進機構について説明する。後述の実施例に示すように、極めて温和な条件下で、ダイオキシン類が分解されていることは、次のように考えることができる。焼却飛灰中のダイオキシン類は、重金属を核とする微小飛沫に吸着された煤などの炭素材に取り込まれ、さらに、その表面をカルシウムや鉄などの酸化物で覆われている構造が考えられる。このような構造を持つ焼却灰由来のダイオキシン類汚染土壌を直接金属Ca法で無害化することは困難であった(後述の比較例参照)。
そこで、飛灰や土壌からダイオキシン類を溶出させ、金属CaやRh/Cとの接触を促すプロセスが必要となる。微加圧(0.3MPa程度)状態の下、アルコール溶媒としたとき、表面の金属酸化皮膜を溶出、あるいは、変成させている事実を粉末X線回析装置による解析から得ている。即ち、処理前後で、焼却灰中の鉄由来の酸化物、特にヘマタイトが大きくその含有量を低下させていた。この事実は、酸化皮膜に亀裂を生じさせ、微加圧条件で浸漬したアルコールがダイオキシン類の溶出を促進させている可能性を示唆している。
以上のように無害化処理のメカニズムが想定されるため、従来から行われている有機ハロゲン化合物とアルコール類と金属カルシウムとを混合撹拌し、有機ハロゲン化合物を無害化する金属カルシウム法(例えば特開2004−65729号公報)と、有機ハロゲン化合物とアルコール類と還元触媒とを用いて還元処理する接触還元処理法(例えば特開2004−243255号公報)とを、単純に組合せたことによる想定される効果以上の効果を有する。この点については、後述の実施例で実証する。
また本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法は、上述のメカニズムにより有機ハロゲン化合物の無害化処理が行われると想定されるので、被処理物である有機ハロゲン化合物に水分が含まれていてもよい。この点は本有機ハロゲン化合物の無害化処理方法の特徴の一つである。金属カルシウムは水と反応して水素を副生する。金属カルシウム表面から発生する水素は、有機ハロゲン化合物の金属カルシウムへの接触を妨害すると推定される。これに還元触媒(水素活性化触媒)を共存させると、発生する水素が活性化され、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化反応が進行する。このように金属カルシウム法では困難な、水が存在する条件下であっても、本方法は、有機ハロゲン化合物を無害化処理することができる。
含まれる水分量は、有機ハロゲン化合物1mmol、メタノール5mlの場合にあっては、水分/(水分+メタノール)=90容量%以下が好ましい。より好ましくは、水分/(水分+メタノール)=80容量%以下である。
また本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法では、トルエン、キシレン、ヘキサンなどの無極性有機溶媒が含まれていてもよい。
上記のように本発明の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法では、被処理物である有機ハロゲン化合物、プロトン性溶媒、貴金属触媒、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属を撹拌混合することで、金属とプロトン性溶媒による電子移動作用、貴金属触媒とプロトン性溶媒による接触還元作用により、有機ハロゲン化合物を無害化することが可能であるが、反応促進剤を添加することで無害化をより効率的に行わせることができる。
ここで使用可能な反応促進剤して、コハク酸などの有機酸やその酸無水物、鉱酸、有機酸塩がある。さらに、吸着剤、脱水剤、細粒化剤、及びイオン化傾向剤の一種以上を使用することができる。
吸着剤は、本発明においては水素吸着性の物質を意味しており、このような物質としては水素吸着性の金属、合金および金属間化合物のうちの1種以上、もしくは無機酸化物およびカーボンのうちの1種以上、又はそれらの混合物または複合物の1種以上であることが好適なものとして例示される。カーボンについては、炭素原子を含む単体もくしはその化合物であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、グラファイトCa−炭素等など、その態様は限定されない。また、混合物は単体金属あるいは化合物などの複数の化学種が混合されたものを、複合物はさらにそれらの混合物に対して化学的処理を施したものを指す。
吸着剤としては、たとえば、Ni−Al合金、Co−Al合金、Fe−Al合金や、ゼオライト、モレキュラーシーブ(MS)、シリカ、アルミナ、ケイソウ土、活性炭、カーボンブラック、グラファイトCa−炭素等の各種の形状のものが例示される。
脱水剤は、無害化処理の系内から物理吸着(モレキュラーシーブ(MS)など)や化学反応によって水分子を除去するものであって、これらの性質をもつものとしては、無機酸化物、たとえばシリカ、モレキュラーシーブ(MS)や、酸無水物としての無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水酢酸が例示される。
細粒化剤は、実質的には無害化のための反応には関与せずに、金属カルシウムとの衝突によりカルシウムを砕き、カルシウム表面を活生化する性質を有しているものであって、このような細粒化剤としては、無機酸化物、たとえばシリカ、石英粉、石英砂等が例示される。そして、イオン化傾向剤は、この出願の発明では、金属カルシウムとはイオン化傾向の異なる金属、あるいはイオンを意味しており、このようなイオン化傾向剤としては、Cu、Zn、Sn、Ti、Cd、Zr、V、Ta、Ni、Co、Fe等の遷移金属の化合物の1種以上のものが好適なものとして例示される。
たとえば銅(Cu)化合物としては次の各種のものが例示される。塩化銅(II)(無水)、塩化銅(II)(2水和物)、フッ化銅(II)、(2水和物)、グルコン酸銅(II)(2.5水和物)、硝酸銅(II)(3水和物)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)(5水和物)、硫酸銅(II)(無水)、蟻酸銅(II)(4水和物)、安息香酸銅(II)、酒石酸銅(II)(2水和物)、酢酸銅(II)(1水和物)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、よう化銅(I)、ピロ燐酸銅(II)(3水和物)、水酸化銅(II)、クエン酸銅(II)(2.5水和物)、燐酸銅(n水和物)、酸化銅(I)、塩基性炭酸銅(II)、EDTA−Cu(II)、オレイン酸銅(II)、酸化銅(粉末)、アセチルアセトン銅(II)。
同様に、上記の各種の遷移金属の化合物がイオン化傾向剤として有効である。以上のようなイオン化傾向剤は、脱水剤や細粒化剤と同様に、本発明の脱ハロゲン化反応等による無害化処理における反応剤としてのカルシウムの表面を活性化するものと考えることができる。また、以上のような反応促進剤は、通常、金属カルシウムに対し、0.05〜5倍量の範囲で使用することが考慮される。
以上の有機ハロゲン化合物の無害化処理温度は、特に制限されるものではない。10〜35℃程度のいわゆる室温であっても、十分に有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化及び/又は還元処理を行うことができる。一方で、有機ハロゲン化合物の無害化処理温度を高めることで、有機ハロゲン化合物の分解が促進されるので、無害化処理温度は高い方が好ましい。後述の実施例に示すように、プロトン性溶媒にメタノールを使用し、水/(水+メタノール)=29容量%の場合、分解温度を70℃とすれば、わずか0.5時間で有機ハロゲン化合物を完全に無害化することができた。有機ハロゲン化合物の分解率、及び取扱の点から、無害化処理温度は、100℃以下であることが好ましい。
以上の有機ハロゲン化合物の無害化処理時の圧力は、特に制限されるものではない。大気圧条件下においても、十分に有機ハロゲン化合物の無害化処理を行うことができる。一方で、有機ハロゲン化合物の無害化処理圧力を高めることで、有機ハロゲン化合物の分解が促進されるので、無害化処理圧力は高い方が好ましい。有機ハロゲン化合物の分解率及び操作性の点から、有機ハロゲン化合物の無害化処理時の圧力は、1メガパスカル(MPa)未満であることが望ましい。本発明の無害化処理方法にあっては、反応中に水素ガスが発生するので、閉じた系において無害化処理を行うことで、有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化及び/又は還元処理圧力を高めることができる。
上記の有機ハロゲン化合物の無害化処理方法は、次に示す無害化処理装置を用いて実現することができる。図1は本発明の実施の一形態としての連続式有機ハロゲン化合物の無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。本実施形態では、被処理物として有機ハロゲン化合物を含む排水を無害化する場合の例を示している。本発明の連続式有機ハロゲン化合物の無害化処理装置は、本実施形態に限定されないことは言うまでもない。
無害化処理装置1は、被処理物である有機ハロゲン化合物などを供給する原材料供給系10、被処理物を受入れ被処理物を無害化する反応器30、処理物から触媒などを回収する回収系40に大別される。
原材料供給系10は、貯槽と供給装置とを含み構成される第一貯留供給装置11、第二貯留供給装置12、第三貯留供給装置13、第四貯留供給装置14を含む。第一貯留供給装置11は、被処理物を反応器30に供給する装置で、被処理物であるダイオキシン類を含む排水を貯留する貯槽15と、貯槽15に貯留する排水を反応器30に供給する供給ポンプ16と、を含み構成される。第二貯留供給装置12は、プロトン性溶媒を反応器30に供給する装置で、プロトン性溶媒であるエタノールを貯留する貯槽17と、貯槽17に貯留するエタノールを反応器30に供給する供給ポンプ18と、を含み構成される。
第三貯留供給装置13は、還元触媒を反応器30に供給する装置で、還元触媒である粉末状のロジウムカーボン触媒を貯留する貯槽19と、貯槽19に貯留するロジウムカーボン触媒を反応器30に供給するスクリューフィーダ20と、を含み構成される。第四貯留供給装置14は、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属である金属カルシウムを反応器30に供給する装置で、粉末状の金属カルシウムを貯留する貯槽21と、貯槽21に貯留する金属カルシウムを反応器30に供給するスクリューフィーダ22と、を含み構成される。
第一貯留供給装置11を構成する供給装置16は、上記の場合にあってはダイオキシン類を含む排水を供給するためポンプを使用しているが、ダイオキシン類を含有する土壌などを処理する場合にあっては、供給装置としてスクリューフィーダ、テーブルフィーダ、ロータリーフィダなど粉粒体を定量供給可能な装置を使用可能なことは言うまでもない。
また、還元触媒あるいは金属カルシウムを反応器30に定量供給可能な装置としては、上記のスクリューフィーダのほかにも、テーブルフィーダ、ロータリーフィダなど粉粒体を定量供給可能な装置を使用することができる。金属カルシウムは酸素と反応すると活性が低下するので、金属カルシウムを貯留する貯槽21には、窒素ガスなどの不活性ガスを導入することが望ましい。よって貯槽内21を不活性ガスで置換可能なガス導入管路23、ガス排出管路24を設けることが望ましい。被処理物、プロトン性溶媒などは必要に応じて加熱して、供給してもよいことは言うまでもない。
反応器30は、被処理物、触媒などを受け入れ、被処理物である有機ハロゲン化合物を無害化し、反応器30に配設された管路31を通じて、処理物を排出する。反応器30には、被処理物である有機ハロゲン化合物の無害化処理を促進する目的で、撹拌装置32が装着されている。撹拌装置32に使用する撹拌翼33の形状は、反応器30の内容物を均一に撹拌混合することが可能であれば、特に限定されない。この際反応器30内の内容物は、固体と液体とを含むため、固体が沈殿しないように最低浮遊化速度以上の撹拌速度で撹拌することが望ましい。
また反応器30は、上部にガスライン34を有し、ガスラインの途中にリフラックスコンデンサ35を備える。反応器30で反応過程において発生したガスは、必要に応じてガスライン34を通じて排出される。この際エタノールが同伴して系外に逃げないように、リフラックスコンデンサ35で、蒸気となったエタノールを凝縮させる。凝縮したエタノールは反応器30へ戻し、内容物と撹拌混合される。本実施形態では、反応器30を加熱する手段あるいは、反応器内の圧力を保持する手段を図示していないけれども、通常の手段を用いて加熱、又は圧力保持をさせることができる。
加熱の具体的方法としては、反応器の外壁にヒータを装着する方法、反応器内にヒータを装着する方法、反応器内に加熱コイルを装着し、加熱コイルに温水、スチームを供給する方法、反応器の外側にジャケットを設け、ジャケットに温水、スチームを供給する方法などがある。また反応器内を加圧状態で圧力を保持するには、例えばリフラックスコンデンサ35の出口側であって、ガスライン34の途中に圧力調整弁を設ければよい。
反応器の大きさは、被処理物の分解に必要な滞留時間を確保できる大きさであればよく、被処理物の供給速度及び被処理物の分解速度などから適宜決定すればよい。また反応器は必ずしも槽型の反応器である必要はなく、管型の反応器を使用可能なことは言うまでもない。また槽型の反応器を用いた場合にあっても、反応槽は1槽である必要はなく、反応槽を多段直列に配設することも可能である。これらにより効率的に被処理物を無害化することができる。
処理物は余剰のエタノールなどといっしょに反応器30から管路31を通じて連続的に排出され、回収系40に送られる。回収系40は、固液分離装置41、還元触媒回収装置43、及び蒸留装置45を主要な構成とする。管路31に接続する固液分離装置41に送られる排出物には、被処理物が分解され発生した処理物のほか、余剰のエタノール、余剰の金属カルシウム及び還元触媒が含まれる。よって、固液分離装置41を用いて、還元触媒を始めとする固体と、余剰のエタノールを始めとする液体に分離し、分離した固体、液体をそれぞれ処理する。
固液分離装置41としては、固体を重力沈降させる沈殿槽、液体サイクロン、フィルタなどが例示される。分離された固体は管路42を通じて後流の還元触媒回収装置43に送られ、ここで還元触媒が回収される。回収された還元触媒は必要に応じて洗浄、乾燥工程を経て、還元触媒を貯留する貯槽19に返送し使用する。還元触媒の洗浄には、還元触媒表面に水酸化カルシウムが付着している場合があるので、そのような場合には、酸を用いて水酸化カルシウムを溶解し、その後必要に応じて水洗浄、又はアルコール洗浄すればよい。
また、被処理物に土壌を用いた場合にあっては、固液分離した固体中に土壌及び還元触媒が含まれため、食塩水を始めとする比重調整をした液体中で土壌、還元触媒を分離することもできる。
還元触媒は、高価であるため回収することが望ましいが、必ずしもオンラインで連続的に処理する必要はなく、還元触媒を含む排出物を回収後、別の装置で回収してもよい。この場合にあっては、固液分離装置41、管路42、及び還元触媒回収装置43は、必ずしも本無害化処理装置1に配設する必要はない。さらに還元触媒を有効に利用する方法として、反応器30出口に液体サイクロンを設け、分離した還元触媒を直接反応器30に戻し、液体のみを管路31を通じて排出する方法を用いることもできる。
固液分離装置41で固体を除去した液体は、管路44を通じて蒸留装置45に送られる。蒸留装置45は、液体に含まれるエタノールを回収する目的で設置し、管路44を通じて受け入れる液体を加熱し、液体の蒸気圧の差を利用してエタノールを回収することができる。回収したエタノールは、エタノールを貯留する貯槽17に送り、再利用することができる。ここで使用する蒸留装置は、常法に従い塔の高さ、段数等を決定すればよい。なお、エタノールは回収することが望ましいけれども、必ずしもオンラインで回収する必要はない。よって、別途エタノールを回収するような場合は、蒸留装置45を配設する必要はない。
本実施形態では、被処理物、プロトン性溶媒であるエタノールなどを、別々に供給する例を示したけれども、必要に応じて被処理物とエタノールを混合し、供給可能なことは言うまでもない。還元触媒、金属カルシウムなどについても同様である。
また、本実施形態では、連続式の無害化処理装置の構成、使用例を示したけれども、本連続式の無害化処理装置1を用いて、回分操作で被処理物である有機ハロゲン化合物を無害化処理することももちろん可能である。回分操作で被処理物である有機ハロゲン化合物を無害化処理する場合には、所定量の被処理物、還元触媒、金属カルシウム、及びエタノールを反応器に仕込んだ後、所定の条件で分解反応を行い、反応終了後、反応器30から内容物を回収すればよい。
図2は、本発明の他の実施形態としての回分式の有機ハロゲン化合物無害化装置50の概略的構成を示す図である。また図3は、図2の回分式の有機ハロゲン化合物無害化装置50に使用する反応器60の概略的な断面図である。有機ハロゲン化合物無害化装置50は、回分式分解装置であって、被処理物である有機ハロゲン化合物、エタノール、還元触媒、金属カルシウムを充填する反応器60と、反応器60の内容物を撹拌混合するために、反応器60を回転させる回転駆動装置80を含み構成される。
反応器60は、円筒体61の両端にフランジ62a、62bを有し、フランジ62a、62bには、各々ガスケット63a、63bを介してフランジ64a、64bが装着されている。フランジ64aには、反応器内の圧力が上昇したときに、圧力を系外に逃がすためのリリーフ弁65、及び安全弁66、反応器内の圧力を検知する圧力計67が装着されている。一方、フランジ64bには、反応器60内の温度を検知する温度検出器68、反応器内の圧力を検知する圧力検出器69が装着され、フランジ64bの中央に設けられたスリップリング70を通じて、温度検出器68、圧力検出器69の信号が取り出される。
回転駆動装置80は、本体81の上部に平行に配設された2本のローラ82a、82bを有する。ローラ82bは、中心に軸を有し、軸は両端を軸受85で支持されており、本体81に備えられている図示を省略したモータの回転を、ベルト84を介して受け回転する。一方ローラ82aは、中心に軸を有し、回転可能なように軸は両端を軸受83で支持されている。
本有機ハロゲン化合物無害化装置50を使用する場合は、フランジ64aを開け反応器60に所定の原材料を仕込んだ後、フランジ64aを閉じる。原材料が仕込まれた反応器60を回転駆動装置80のローラ82a、82bの上に載せ、モータを駆動させる。モータの駆動に伴い、ロータ82bが回転し、摩擦力で反応器60もローラ上で回転することから、反応器内の内容物が撹拌混合される。所定の時間所定の回転数で反応器を回転させることで、被処理物である有機ハロゲン化合物を無害化させることができる。反応終了後は、フランジ64aを開け内容物を取り出せばよい。本装置の場合、反応器を密閉した状態で使用するので、発生するガスで反応器内が加圧状態となり、有機ハロゲン化合物を加圧状態で無害化することができる。
以上のように連続式の無害化処理装置1、及び回分式無害化装置50も、構成が簡単であり安価に製造することができる。また本有機ハロゲン化合物の無害化処理方法は、上述のように温和な操作条件で行うことが可能なため、装置の仕様が緩やかでこの点からも連続式の無害化処理装置1、及び回分式無害化装置50を安価に製造することができる。さらに連続式の無害化処理装置1、及び回分式無害化装置50とも操作性に優れた装置である。
図4は、本発明のさらに他の実施形態としての有機ハロゲン化合物の無害化装置100の概略的構成を示す図である。本実施形態では、被処理物としてダイオキシン類を含む排ガスを処理する場合を例としている。
無害化処理装置100は、プロトン性溶媒であるエタノール、還元触媒であるロジウムカーボン触媒、プロトン性溶媒に少なくとも一部は溶解し電子移動による還元力を有する金属である金属カルシウムを受入れ、被処理物を無害化する反応器101を備える。反応器101の上部には、プロトン性溶媒であるエタノールなどの原材料を投入するための原材料の投入部102が設けられている。さらに被処理物としてダイオキシン類を含む排ガスを反応器101に導入するためのガス導入管103、処理後の排ガスを排気するための排気管104も、反応器101の上部に設けられている。また排気管104の途中には、排出する排ガス中に含まれるエタノール蒸気等を冷却、凝縮させ、反応器101に返送するための凝縮器105が設けられている。反応器101の底部には、内容物を排出するための弁106が設けられている。
本無害化処理装置100を用いて、被処理物としてダイオキシン類を含む排ガスを処理する場合の手順について説明する。原材料の投入部102から、所定量の原材料を反応器101に投入後、ガス導入管103を通じてダイオキシン類を含む排ガスを反応器内に導入する。ガス導入管103の先端は、反応器101の液相(固体を含む)に位置しているため、ガスが導入されると、反応器101内の内容物がガスでバブリングされ、撹拌混合状態が形成される。ガス導入管の先端部に、焼結金属からなる多孔体などを装着すれば、発生する気泡が微細となり、被処理物の分解をより効率的に行うことができる。無害化された排ガスは、排気管104を通じて排気される。この際、排ガスに同伴するエタノール蒸気は、凝縮器で凝縮され反応器101に戻る。
反応器101の大きさは、被処理物の分解速度から決定すればよく、分解時間が不足する場合にあっては、反応器101を多段設置すればよい。また、反応器101から排気される排ガスを循環することで、分解率を高めることが可能なことは言うまでもない。本実施例では、反応器101に加熱手段、圧力調整手段を図示していないけれども、連続式無害化装置1で示したヒータまたは圧力調整装置を用いて、加熱、圧力調整を行うことができる。なお被処理物が排ガスに含まれる場合にあっては、スクラバー方式の無害化処置を使用することも可能である。
次に本発明の実施例について説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において、ダイオキシン類の分解率は、以下のように定義した。ダイオキシン類公定分析において、毒性等価係数(TEF)が決められて毒性が指摘されているポリ塩化ジベンゾーpージオキシン類(PCDDs)及びポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDFs)の4塩素体から8塩素体、並びにコプラナーポリ塩化ビフェニル類(PCBs)を毒性等量(TEQ)での濃度(全異性体を2,3,7,8−TeCDDs量へ変換)へ換算し、分解率を式(1)で求めた。高分解能GC−MS分析において、TEFをもつダイオキシン類の異性体が検出されない場合、その濃度は検出下限値の1/2とした。
またモデル化合物の分解率は式(2)で定義した。モデル化合物には、4−クロロビフェニル、2,3,4,5−テトラクロロアニソール、4−クロロアニソール、及び2−クロロビフェニルを用いた。
(実施例1)反応器に4−クロロビフェニルを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのエタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を大気圧、室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、開放系で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物であるシクロヘキシルシクロヘキサン3%、シクロへキシルベンゼン46%、ビフェニル50%が得られた。
(実施例2)反応器に4−クロロビフェニルを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのエタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を大気圧、室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、開放系で行った。3時間後、10mlの蒸留水を加え、完全に反応をクエンチした。GC−MS法によって分析した結果、シクロヘキシルベンゼン77%、ビフェニル20%が得られた。
(実施例3)反応器に2,3,4,5−テトラクロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのエタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を大気圧、室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、開放系で行った。24時間後、10mlの蒸留水を加え、完全に反応をクエンチした後、GC−MS法によって分析した結果、メトキシシクロヘキサン56%、アニソール44%が得られた。
(実施例4)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのメタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物であるメトキシシクロヘキサンが51.2%、アニソールが48.8%得られた。
(実施例5)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのエタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物であるメトキシシクロヘキサンが73.1%、アニソールが26.9%得られた。
表1に実施例1〜5の実験条件及び生成物の分析結果を示した。
(比較例1)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5mlのメタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物はまったく検出されなかった。
(比較例2)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlのメタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物はまったく検出されなかった。
(比較例3)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。その結果、還元生成物はまったく検出されなかった。
表2に比較例1〜3の実験条件及び生成物の分析結果を示した。
(実施例6〜9)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、表3に示した所定量(1〜10ml)のメタノールと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表3に示した。表3に示すように4−クロロアニソールは、完全に分解され、還元生成物が生成していた。
(実施例10〜12)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、表4に示した所定量(1〜20ml)のエタノールを添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表4に示した。表4には、実施例5のデータも併せて示した。表4に示すようにエタノールが1mlの場合、分解率は96%であったが、エタノールが5ml以上で分解率は、100%であった。
(実施例13、14)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5mlのエタノールと、表5に示す所定量(0.01、0.05g)の5重量%ロジウムカーボン触媒粉末と、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表5に示した。表5には、実施例5のデータも併せて示した。表5に示すように5重量%ロジウムカーボン触媒粉末の添加量が0.01gの場合を除き、4−クロロアニソールは、完全に分解され、還元生成物が生成していた。
(実施例15〜18)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5mlのメタノールと、表6に示す所定量(0.01〜0.1g)の5重量%ロジウムカーボン触媒粉末と、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、還流操作を行いながらこの混合溶液を70℃で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。0.1gの5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を用いた実施例15において、反応器内の圧力は、反応時間中約0.35MPaであった。使用した反応器の内容積は35mlであった。4時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表6に示した。表6に示すように、分解時間が4時間であっても、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末の添加量が0.05g以上で、分解率は96%以上であった。
(実施例19〜21)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5mlのメタノールと、表7に示す所定量(0.005〜0.03g)の5重量%パラジウムカーボン触媒粉末と、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、還流操作を行いながらこの混合溶液を70℃で撹拌混合した。撹拌混合は、密閉系で行った。4時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表7に示した。表7に示すように、分解時間が4時間であっても、5重量%パラジウムカーボン触媒粉末の添加量が0.01g以上で、分解率は97%以上であった。
(実施例22〜24)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.4gと、5重量%のロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、表8に示す所定量(5〜10ml)のプロトン性溶媒を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表8に示した。表8には、実施例9、11のデータも併せて示した。表8に示すように、プロパノールを用いた場合に分解率が約3.5%と低かったものの、他の条件においては、4−クロロアニソールは完全に分解した。
(実施例25、26)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、エタノールを5mlと、表9に示す所定量(0.1〜0.2g)の金属カルシウム粉末と、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後(実施例26は48時間後)、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表9に示した。表9には、実施例5のデータも併せて示した。金属カルシウム粉末が0.1gであっても、分解時間を48時間とすれば、4−クロロアニソールは完全に分解した。
(実施例27)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、メタノールを5mlと、0.2gの金属カルシウム粉末と、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表10に示した。表10には、実施例4のデータも併せて示した。表10に示すように、金属カルシウムが0.2gであっても、4−クロロアニソールは完全に分解した。
(実施例28〜31)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、エタノールを5mlと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて、表11に示す所定時間(8〜20時間)、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。所定時間経過後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表11に示した。表11には、実施例5のデータも併せて示した。表11に示すように、分解時間8時間で分解率が約32%であったが、分解時間12時間以上で、全て完全に分解した。
(実施例32〜35)反応器として円筒の容器を用いて、この反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、メタノールを5mlと、を添加混合し、円筒容器を横にした状態で回転させることで、表12に示す所定時間(12〜24時間)、内容物を撹拌混合した。撹拌は、室温下で、容器を密閉した状態行った。所定時間経過後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表12に示した。表12に示すように、分解時間12時間でも分解率は100%であった。
(実施例36)反応器として円筒の容器を用いて、この反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、エタノールを5mlと、を添加混合し、円筒容器を横にした状態で回転させることで、内容物を撹拌混合した。撹拌は、室温下で、容器を密閉した状態で24時間行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表13に示した。表13に示すように、分解率は100%であった。
(実施例37、38)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、水を含むエタノール水溶液(含水率2容量%、及び17容量%)を5mlと、添加混合し、マグネチックスターラを用いて24時間、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果、分解率は100%であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のエタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(比較例4)反応器に2−クロロビフェニルを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.8gと、含水率5容量%のエタノール水溶液を10mlと、添加混合し、マグネチックスターラを用いて24時間、この混合溶液を大気圧、室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を開放した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果、2−クロロビフェニルは全く分解していなかった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のエタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(比較例5)反応器に2−クロロビフェニルを1mmolと、金属カルシウム粉末を0.8gと、含水率5容量%のエタノール水溶液を10mlと、マグネチックスターラを用いて24時間、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果、2−クロロビフェニルの87%は未分解であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のエタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
表14に実施例37、38及び比較例4、5の実施条件及び分析結果を示した。
(実施例39、40)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、表15に示す含水率(29容量%、及び50容量%)のエタノール水溶液を5mlと、添加混合し、マグネチックスターラを用いて24時間、この混合溶液を室温下で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表15に示した。表15には、実施例38のデータも併せて示した。表15に示すように含水率29容量%以下で、分解率は91%以上であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のエタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(実施例41、42)反応器として円筒の容器を用いて、この反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、表16に示す含水率(29容量%、及び50容量%)のメタノール水溶液を5mlと、を添加混合し、円筒容器を横にした状態で回転させることで、内容物を撹拌混合した。撹拌は、室温下で、容器を密閉した状態で24時間行った。24時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を、表16に示した。表16に示すように、含水率50%以下で、分解率は98.4%以上であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のメタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(実施例43〜46)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、含水率29容量%のメタノール水溶液を5mlと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて4時間、この混合溶液を、反応器を密閉状態で、表17に示す温度(50〜110℃)で撹拌混合した。4時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を表17に示した。分解時間4時間でも、分解温度70℃以上では分解率は100%であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のメタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(実施例47〜50)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、表18に示す含水率(60〜90容量%)のメタノール水溶液を5mlと、を添加混合し、マグネチックスターラを用いて4時間、この混合溶液を70℃で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。含水率80容量%のメタノール水溶液を用いた実施例48において、反応器内の圧力は、反応時間中約0.35メガパスカル(MPa)であった。使用した反応器の内容積は35mlであった。4時間後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を表18に示した。分解時間4時間でも、含水率80容量%以下では、分解率100%であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のメタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(実施例51〜54)反応器に4−クロロアニソールを1mmolと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、含水率29容量%のメタノール水溶液を5mlとを、添加混合し、マグネチックスターラを用いて表19に示す時間(0.5〜3時間)、この混合溶液を、70℃で撹拌混合した。撹拌混合は、反応器を密閉した状態で行った。所定時間経過後、10mlの蒸留水及び10mlのジエチルエーテルを加え、完全に反応をクエンチした後、有機層をGC−MS法によって分析した。分析結果を表19に示した。分解時間0.5時間以上で、分解率100%であった。含水率は、混合前の水の容量を、混合前のメタノールの容量と水の容量とを加えた値で除算し、百分率で表した値である。
(実施例55)反応器に4−クロロビフェニルを0.2gと、アルミニウム粉末を1.0gと、5重量%パラジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlの水と、を添加混合し、反応器を密閉した状態で、130℃で加熱した。6時間後、エーテルで抽出し、その抽出液をGC―MSにより分析した。その結果、シクロヘキシルシクロヘキサンが定量的に得られた。
(実施例56)フラスコに4−クロロアニソールを0.2gと、アルミニウム粉末を1.0gと、5重量%パラジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、5mlの水と、を添加混合し、100℃に加熱し、還流操作を行うことで、混合液の撹拌を行った。密閉系で行った。6時間後、エーテルで抽出し、その抽出液をGC−MSにより分析した。その結果、シクロヘキサンが定量的に得られた。
(実施例57)反応器にダイオキシン類(22ng−TEQ/g)含有飛灰を0.2gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、アルミニウム粉末を0.1gと、5mlの水と、を添加混合し、100℃に加熱し、還流操作を行うことで、混合液の撹拌を行った。4時間後撹拌を止め、所定のダイオキシン分析法(HRGC−HRMS法)よって、残留ダイオキシン類濃度を分析した。その結果、全ダイオキシン類は、4ng−TEQ/gまで低下した。
(実施例58)反応器にダイオシン類(2.1ng−TEQ/g−oil)、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、10mlのエタノールと、を添加混合し、この溶液を室温下撹拌した。撹拌混合は、密閉系で行った。24時間後撹拌を止め、所定のダイオキシン分析法(HRGC−HRMS法)によって、残留ダイオキシン類濃度を分析した。その結果、全ダイオキシン類は、0.0012ng−TEQ/g−oilまで低下した。
(実施例59〜61)表20に示すダイオキシン類汚染土壌1gと、5重量%ロジウムカーボン触媒粉末を0.1gと、金属カルシウム粉末を0.4gと、メタノールを5mlと、をガラス製耐圧チューブに投入し、スクリュー式密栓をした後、室温下で撹拌した。24時間後撹拌を止め、約20mlのイオン交換水、次いで適当量の硝酸を加えて過剰の金属カルシウムを完全に溶解させた。次に固液分離を行い、ろ液をトルエン10mlで3回抽出した。一方、残渣である固体はソックスレー抽出装置を用いてトルエンで24時間抽出した。各トルエン溶液を混合したのち、ダイオキシン類の公定分析法に準拠して、GC−MS分析により残存ダイオキシン類濃度を求めた。結果を表20に示した。ダイオキシン類の分解率は、99.4%以上であった。