JP2006207624A - 油圧式チェーンテンショナ - Google Patents

Abstract

【課題】プランジャ収容孔の内周面の摩耗を減少させることができ、加工コストの低減および設計条件の簡素化を図ることもできる油圧式チェーンテンショナを提供する。
【解決手段】ハウジング２と、プランジャ収容孔２ａに摺動自在に挿入されるプランジャ３と、プランジャ３を突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばね４と、プランジャ収容孔２ａとプランジャ３とによって形成される高圧油室５と、高圧油室５に油を流入させ逆流を阻止するチェックバルブ６とを備える油圧式チェーンテンショナ１において、プランジャ３の外周面に環状溝３ｂを形成し、樹脂製リング９と樹脂製リング９の内側に組み込んだ鋼製リング８とから構成される摩擦リング７が環状溝３ｂ内に所定の軸方向クリアランスＡＣをもって嵌め込まれ、摩擦リング７がプランジャ３とともにプランジャ収容孔２ａに挿入されたとき樹脂製リング９の外周面がプランジャ収容孔２ａの内周面に圧接される。
【選択図】図３

Description

本発明は、チェーンによる巻き掛け伝動装置、例えば車両用エンジンのクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するチェーンによる巻き掛け伝動装置において、チェーンの弛み側に配置しチェーンの張力を一定に保つために使用される油圧式チェーンテンショナに関するものである。

従来、上記のようなチェーンの張力を一定に保つために使用される油圧式チェーンテンショナとして、ハウジングと、ハウジングに形成されたプランジャ収容孔に摺動自在に挿入される底付き中空円筒状のプランジャと、プランジャを一方の端部がハウジングの外部に突出する方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、プランジャ収容孔とプランジャとによって形成される高圧油室と、ハウジングに組み込まれ高圧油室に油を流入させ逆流を阻止するチェックバルブとを備える油圧式チェーンテンショナが知られている。

この種の油圧式チェーンテンショナでは、プランジャ付勢用ばねによって付勢されたプランジャでチェーンを押圧して緊張状態にする一方で、チェーンからプランジャに付与される押し込み力をプランジャの背部に形成された高圧油室内の油圧によって緩衝することにより、チェーンの張力が一定に保持される。

この油圧式チェーンテンショナにおいては、高圧油室に十分に油が満たされていない状態（すなわち、長期間のエンジン停止時）で、エンジンを始動すると、オイルポンプから供給された油が高圧油室内を満たすまでのわずかな時間の間は油圧による保持ができず、チェーンからの押し込み力によりプランジャが大きく押し込まれる（後退する）ためにチェーンのバタツキ音が発生する場合がある。

この種の問題点を解決するために、プランジャの戻り運動を制限できるようにしたチェーンテンショナが従来から提案されている。この提案されたチェーンテンショナは、有底筒状のハウジングと、ハウジング内周にスライド自在に組み込まれたプランジャと、プランジャに外方向への突出性を付与するリターンスプリングと、プランジャの外周に形成された複数の係合溝と、ハウジングの内周に形成された第一ストッパと、弾性的に拡縮可能で、係合溝と係合するレジスタリングとを備え、何れかの係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることにより、プランジャの後退を規制するものである（例えば、特許文献１参照）。
特開２００４−１３８１５２号公報

また、プランジャの後退（戻り運動）を規制する油圧式チェーンテンショナについて、本出願人は先に特願２００４−１６７６３５号（リング式油圧テンショナ）として出願している。

そして、この先願である特願２００４−１６７６３５号明細書には、ハウジング本体のプランジャ収容穴から走行チェーンに向けて摺動自在に突出する有底の円柱状プランジャと、前記プランジャ収容穴と円柱状プランジャとの間に構成される高圧油室内で円柱状プランジャを突出させる方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、前記高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットとを備えたリング式油圧テンショナにおいて、前記円柱状プランジャの外周を切り欠いた環状溝に、該環状溝の溝幅方向と溝底方向に所定のクリアランスを確保した状態でプランジャ収容穴の内周壁に向けて拡径付勢するＣ型リングが嵌合されていることを特徴とするリング式油圧テンショナが開示されている。
特願２００４−１６７６３５号明細書

しかしながら、前記の従来から提案されている前記特開２００４−１３８１５２号公報に開示されたチェーンテンショナにおいては、以下のような問題点があり、さらなる改善の余地がある。このチェーンテンショナにおいては、プランジャの外周には複数の係合溝が形成されている。さらに、ハウジングの内周には第一ストッパが形成されている。そして、第一ストッパを形成するためにハウジングの内周面に環状のガイド溝が形成されている。すなわち、このガイド溝の軸方向両端にそれぞれ第一ストッパおよび第二ストッパが形成されている。しかし、特に、ハウジングの内周面に環状のガイド溝を形成するには、加工精度やその他の点を考慮すると、加工コストの低減を図る点で問題点がある。また、このチェーンテンショナは、何れかの係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることによりプランジャの後退を規制するものであるから、このような役割を果たすレジスタリングに関してはその形状や材質等の設計条件について十分な検討を必要とするという、設計上の問題点もある。

また、前記の本出願人が出願した先願である特願２００４−１６７６３５号明細書に開示されたリング式油圧テンショナは、プランジャ収容穴の内周壁に向けて拡径付勢するＣ型リングによるプランジャの摺動抵抗によりエンジン始動時（油圧テンショナに油が満たされていない状態）のチェーンのバタツキ音（始動時異音）を防止する効果を有する。

しかし、このリング式油圧テンショナにおいては、改善の余地がある以下のような問題点がある。このリング式油圧テンショナにおいては、プランジャ収容穴の内周壁に向けて拡径付勢するＣ型リングはプランジャの前後動にともないプランジャ収容孔の内周壁と摩擦しながら摺動する。しかし、Ｃ型リングは鋼製すなわち鋼材料でできているため、このＣ型リングの摺動摩擦によりプランジャ収容孔の内周壁を摩耗させることがある。そして、このプランジャ収容孔の内周壁の摩耗が進行すると、プランジャ収容孔の内周壁とプランジャの外周面との間の隙間が増加し、この隙間の増加によりリング式油圧テンショナの保持力が低下し、その結果、チェーンのバタツキ音が発生する場合がある、という問題点がある。なお、軽量化のためにハウジング本体にアルミニウム合金を採用した場合には、プランジャ収容孔の内周壁の摩耗が大きく進行する。また、このプランジャ収容孔の内周壁の摩耗によって発生した摩耗粉が、給油通路や逆止弁ユニット付近に溜まり油の流入性に悪影響を及ぼし、その結果、チェーンのバタツキ音が発生する場合がある、という問題点がある。

そこで、本発明は、プランジャ収容孔の内周面の摩耗を減少させることができ、加工コストの低減および設計条件の簡素化を図ることもできる油圧式チェーンテンショナを提供することを課題とするものである。

前記課題を解決するために、請求項１記載の発明は、ハウジングと、該ハウジングに形成されたプランジャ収容孔に摺動自在に挿入される底付き中空円筒状のプランジャと、該プランジャを一方の端部が前記ハウジングの外部に突出する方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、前記プランジャ収容孔と前記プランジャとによって形成される高圧油室と、前記ハウジングに組み込まれ前記高圧油室に油を流入させ逆流を阻止するチェックバルブとを備える油圧式チェーンテンショナにおいて、前記プランジャの外周面に環状溝を形成し、樹脂製リングと該樹脂製リングの内側に組み込んだ鋼製リングとから構成される摩擦リングが前記環状溝内に所定の軸方向クリアランスをもって嵌め込まれ、前記摩擦リングが前記プランジャとともに前記プランジャ収容孔に挿入されたとき前記樹脂製リングの外周面が前記プランジャ収容孔の内周面に圧接されているものである。

請求項１記載の発明によれば、前記油圧式チェーンテンショナにおいて、前記プランジャの外周面に環状溝を形成し、樹脂製リングと該樹脂製リングの内側に組み込んだ鋼製リングとから構成される摩擦リングが前記環状溝内に所定の軸方向クリアランスをもって嵌め込まれ、前記摩擦リングが前記プランジャとともに前記プランジャ収容孔に挿入されたとき前記樹脂製リングの外周面が前記プランジャ収容孔の内周面に圧接されているものであるので、次のような効果を有する。

エンジンの運転中に、前記プランジャの前進・後退量が小さく、前記所定の軸方向クリアランスの範囲内の場合は、前記プランジャだけが前進あるいは後退するので、前記プランジャの応答性が良好である。

エンジンの始動時に、前記樹脂製リングの外周面と前記プランジャ収容孔の内周面との間に摺動により発生する摩擦抵抗によって前記プランジャの後退量が規制されるので、チェーンに大きな弛みを生じることはなく、チェーンのバタツキを抑えることができる。

エンジンの始動時の前記プランジャの後退量規制は、前記樹脂製リングにより行われるので、前述の先願のもののような鋼製リングによるものに比較して、前記プランジャ収容孔の内周面の摩耗を減少させることができる。したがって、前記ハウジングがアルミニウム合金を使用した場合であっても、前記プランジャ収容孔の内周面の摩耗による前記プランジャ収容孔の内周壁と前記プランジャの外周面との間の隙間が増加し、その結果、この隙間の増加により前記プランジャの保持力が低下することが防止できる。

前記の従来のチェーンテンショナは、プランジャの後退規制のために、プランジャの外周に複数の係合溝とハウジングの内周面に（第一ストッパを形成するための）環状のガイド溝とを形成する必要があるが、請求項１記載の発明では、溝加工は前記プランジャの外周面に前記環状溝を形成するだけでよいので、溝加工のための加工コストの低減を図ることができる。

前記の従来のチェーンテンショナは、係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることによりプランジャの後退を規制するものであるから、レジスタリングに関してはその形状や材質等の設計条件について十分な検討を必要とするが、請求項１記載の発明では、前記摩擦リングを構成する前記樹脂製リングの外周面と前記プランジャ収容孔の内周面との間に発生する摺動による摩擦抵抗によって前記プランジャの後退量が規制されるものであるから、前記プランジャの後退規制のための部品の設計条件の簡素化を図ることができる。

本発明の実施するための最良の形態である油圧式チェーンテンショナは、ハウジングと、ハウジングに形成されたプランジャ収容孔に摺動自在に挿入される底付き中空円筒状のプランジャと、プランジャを一方の端部がハウジングの外部に突出する方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、プランジャ収容孔とプランジャとによって形成される高圧油室と、ハウジングに組み込まれ高圧油室に油を流入させ逆流を阻止するチェックバルブとを備える油圧式チェーンテンショナにおいて、プランジャの外周面に環状溝を形成し、樹脂製リングと樹脂製リングの内側に組み込んだ鋼製リングとから構成される摩擦リングが環状溝内に所定の軸方向クリアランスをもって嵌め込まれ、摩擦リングがプランジャとともにプランジャ収容孔に挿入されたとき樹脂製リングの外周面がプランジャ収容孔の内周面に圧接されているもので、この油圧式チェーンテンショナの実施例１，２について以下に説明する。

本発明の油圧式チェーンテンショナの実施例１について説明する。図１は本発明の実施例１，２の油圧式チェーンテンショナの使用例を示す概略説明図である。図２は本発明の実施例１の油圧式チェーンテンショナの断面図である。図３は図２における円枠内を示す要部拡大断面図である。図４は図３に示す摩擦リングを構成する鋼製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。図５は図３に示す摩擦リングを構成する樹脂製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。図６は図３に示す摩擦リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図、（Ｃ）Ｘ−Ｘ線断面図である。

図１に示すように、図２に示す油圧式チェーンテンショナ１は、エンジンのクランクシャフトに取り付けられた駆動側スプロケット１０１と、カムシャフトに取り付けられた被駆動側スプロケット１０２との間に掛け渡されているチェーン１０３の弛み側でハウジング２の取付穴２ｂに取付ボルトを挿入してエンジン本体に取り付けられる。この油圧式チェーンテンショナ１は、そのハウジング２の前面からプランジャ３が摺動自在に突出しており、プランジャ３が支軸１０４でエンジン本体側に揺動自在に支持されているレバー１０５の揺動端近傍の背面を押圧することにより、レバー１０５を介してチェーン１０３の弛み側に張力を付与している。また、チェーン１０３の張り側にはチェーン１０３の走行を案内するガイド１０６がエンジン本体に取り付けられる。そして、駆動側スプロケット１０１が矢印の方向に回転するとチェーン１０３は矢印の方向に走行し、このチェーン１０３の走行により被駆動側スプロケット１０２が矢印の方向に回転する。これにより、駆動側スプロケット１０１の回転が被駆動側スプロケット１０２に伝達される。

油圧式チェーンテンショナ１は、図２に示すように、ハウジング２と、プランジャ３と、プランジャ付勢用ばね４と、高圧油室５と、チェックバルブ６と、摩擦リング７とを備えている。

ハウジング２は軽量化のためにアルミニウム合金でできており、プランジャ３を摺動自在に挿入するプランジャ収容孔２ａが形成されている。また、エンジン本体に取り付けるための取付穴２ｂが２個形成されている。

プランジャ３は中空部３ａを有する底付き中空円筒状をしており、後述する摩擦リング７を嵌め込むための環状溝３ｂが外周面に形成されている。そして、ハウジング２に形成されたプランジャ収容孔２ａに摺動自在に挿入される。

プランジャ付勢用ばね４はプランジャ収容孔２ａの底部とプランジャ３の底部との間に配置され、プランジャ３を一方の端部がハウジング２の外部に突出する方向に付勢する。

高圧油室５はプランジャ収容孔２ａとプランジャ３の中空部３ａとによって形成されている。この高圧油室５には図示しないエンジンのオイルポンプからの油が後述のチェックバルブ６を介して供給される。高圧油室５内に油が十分に供給されて満たされていると、プランジャ３に急激な押し込み力が作用してプランジャ３が大きく後退しようとする時、高圧油室５はダンピング効果を発揮する。

チェックバルブ６はプランジャ収容孔２ａの底部に組み込まれている。このチェックバルブ６はプランジャ収容孔２ａの底部に圧入されるボールシート６ａとチェックボール６ｃとチェックボール付勢用ばね６ｄとチェックボール付勢用ばね６ｄを支持するリテーナ６ｅとから構成されている。そして、このチェックバルブ６は図示しないエンジンのオイルポンプからの油がボールシート６ａの給油路６ｂを通して高圧油室５へ流入するのを許容し高圧油室５から油が流出するのを阻止する機能を有する。

摩擦リング７は鋼製リング８と樹脂製リング９とからなっている。

鋼製リング８は、図４に示すように、一箇所に斜めのスリット（切り割り）８ａを有し、断面が長方形をしており、半径方向に弾性を有する円筒状をしている。そして、その自然状態において、内径がプランジャ３の外周面に形成された環状溝３ｂの底径よりも大きく形成されている。鋼製リング８の材料は例えば、適当なばね特性を有する鋼材料の中から選択することができる。

樹脂製リング９は、図５に示すように、薄肉の厚みを有する円筒状をしており、両端の開口部にそれぞれ内向きつば９ｂを有している。また、拡径を可能にするために一箇所に軸方向のスリット（切り割り）９ａを有している。樹脂製リング９の材料は例えば、適当な摩擦係数を有するエンジニアリングプラスチックの中から選択することができる。

摩擦リング７は、図６に示すように、樹脂製リング９の内側に鋼製リング８を組み込み、樹脂製リング９の両端の内向きつば９ｂにより鋼製リング８を樹脂製リング９の内側に保持して構成される。樹脂製リング９の内側に鋼製リング８が組み込まれると、鋼製リング８自体の拡径方向の付勢力により樹脂製リング９は拡径する。また、図３に示すように、摩擦リング７の軸方向幅Ｌ２はプランジャ３に形成した環状溝３ｂの軸方向幅Ｌ１より小さく形成されている。したがって、摩擦リング７が環状溝３ｂ内に嵌め込まれると、摩擦リング７と環状溝３ｂ間には所定の軸方向クリアランスＡＣが形成される。

次に、図２に示す油圧式チェーンテンショナ１の組立の一例を以下に説明する。

まず、ハウジング２のプランジャ収容孔２ａの底部にチェックバルブ６を組み込む。次に、予め、プランジャ３とプランジャ付勢用ばね４と摩擦リング７とからなるサブ組立体を組み立てる。このサブ組立体の組立は、プランジャ３の中空部３ａ内にプランジャ付勢用ばね４を挿入する。続いて、摩擦リング７自体の弾性を利用して拡径しながらプランジャ３の環状溝３ｂ内に摩擦リング７を嵌め込む。ここで、環状溝３ｂ内に摩擦リング７を嵌め込んだ状態においては、摩擦リング７の外径はプランジャ３の外径より大きく、その内径は環状溝３ｂの底径より十分大きい。次に、このようにして組み立てられたサブ組立体をプランジャ収容孔２ａ内に挿入する。ここで、環状溝３ｂ内に嵌め込まれた摩擦リング７の外径は自然状態ではプランジャ収容孔２ａの内径より大きいので、このサブ組立体のプランジャ収容孔２ａ内への挿入は摩擦リング７をそれ自体の弾性に抗して縮径しながら行う。また、サブ組立体のプランジャ収容孔２ａ内への挿入過程においては、樹脂製リング９の外周面がプランジャ収容孔２ａの内周面に圧接された状態であるので、樹脂製リング９の外周面とプランジャ収容孔２ａの内周面との間の摺動摩擦に抗しながらサブ組立体の挿入が行われ、油圧式チェーンテンショナ１の組立は完了する。

前述のようにして組立の完了した油圧式チェーンテンショナ１は、図３に示すように、摩擦リング７と環状溝３ｂとの間には所定の軸方向クリアランスＡＣが形成されており、また、摩擦リング７の内径と環状溝３ｂの底径との間には所定の半径方向隙間ＲＣが形成されており、さらに、摩擦リング７を構成する樹脂製リング９の外周面がプランジャ収容孔２ａの内周面に圧接されている。そして、樹脂製リング９の外周面がプランジャ収容孔２ａの内周面に圧接されているので、プランジャ３を含めたサブ組立体はプランジャ収容孔２ａ内から簡単に抜け出して脱落することはない。

次に、図２に示す油圧式チェーンテンショナ１の作用について以下に説明する。

エンジンの運転中にチェーン１０３の緊張によりプランジャ３に後方への押し込み力が作用し、この押し込み力がプランジャ付勢用ばね４の付勢力と高圧油室５内の油圧との合力を超えると、所定の軸方向クリアランスＡＣの範囲内においては、その合力と押し込み力が釣り合う位置までプランジャ３だけが後退する。すなわち、樹脂製リング９の外周面はプランジャ収容孔２ａの内周面に圧接されており、摩擦リング７の内径と環状溝３ｂの底径との間には所定の半径方向隙間ＲＣが形成されているので、このプランジャ３の後退中、摩擦リング７はプランジャ３とともに後退しない。このプランジャ３の後退動作は、高圧油室５内の圧油の緩衝機能により、ゆっくり行われる。プランジャ３の後退に伴い、高圧油室５内の過剰な圧油はプランジャ収容孔２ａの内周面とプランジャ３の外周面との間の微小な隙間を通過してハウジング外にリークする。一方、チェーン１０３に弛みが生じると、プランジャ付勢用ばね４の付勢力と高圧油室５内の油圧との合力により、所定の軸方向クリアランスＡＣの範囲内においては、プランジャ３だけが前進し、摩擦リング７はプランジャ３とともに前進しない。このように、プランジャ３の前進・後退量が小さく、所定の軸方向クリアランスＡＣの範囲内の場合は、プランジャ３だけが前進あるいは後退するので、プランジャ３の応答性が良好である。

エンジンを始動すると、オイルポンプから供給された油が高圧油室内を満たすまでのわずかな時間の間は油圧による保持ができず、チェーン１０３からの押し込み力によりプランジャ３が大きく押し込まれようとする。この場合、プランジャ３は所定の軸方向クリアランスＡＣの範囲を超えて後退することになる。このとき、プランジャ３の環状溝３ｂの端面により摩擦リング７の端面が後退方向に押され、摩擦リング７はプランジャ３とともに後退する。この摩擦リング７の後退動作中、樹脂製リング８の外周面とプランジャ収容孔２ａの内周面との間に摺動による摩擦抵抗が発生する。この摩擦抵抗によってプランジャ３の後退量が規制される。この場合、チェーン１０３はプランジャ３の後退量に相当する分だけ弛むだけである。したがって、エンジンを始動させてもチェーン１０３に大きな弛みを生じることはなく、始動直後のチェーン１０３のバタツキを抑えることができる。

そして、エンジンの始動の度に、樹脂製リング８の外周面とプランジャ収容孔２ａの内周面との間の摺動による摩擦抵抗によってプランジャ３の後退量が規制されるが、このプランジャ３の後退量規制は、樹脂製リング８により行われるので、前述の先願のもののような鋼製リングによるものに比較して、プランジャ収容孔２ａの内周面の摩耗を減少させることができる。したがって、ハウジング２がアルミニウム合金を使用した場合であっても、プランジャ収容孔２ａの内周面の摩耗によるプランジャ収容孔２ａの内周壁とプランジャ３の外周面との間の隙間が増加し、その結果、この隙間の増加によりプランジャ３の保持力が低下することが防止できる。

図２に示す油圧式チェーンテンショナ１によれば、次のような効果を有する。

エンジンの運転中に、プランジャ３の前進・後退量が小さく、所定の軸方向クリアランスＡＣの範囲内の場合は、プランジャ３だけが前進あるいは後退するので、プランジャ３の応答性が良好である。

エンジンの始動時に、樹脂製リング８の外周面とプランジャ収容孔２ａの内周面との間に摺動により発生する摩擦抵抗によってプランジャ３の後退量が規制されるので、チェーン１０３はプランジャ３の後退量に相当する分だけ弛むだけである。したがって、エンジンを始動させてもチェーン１０３に大きな弛みを生じることはなく、始動直後のチェーン１０３のバタツキを抑えることができる。

エンジンの始動の度に行われるこのプランジャ３の後退量規制は、樹脂製リング８により行われるので、前述の先願のもののような鋼製リングによるものに比較して、プランジャ収容孔２ａの内周面の摩耗を減少させることができる。したがって、ハウジング２がアルミニウム合金を使用した場合であっても、プランジャ収容孔２ａの内周面の摩耗によるプランジャ収容孔２ａの内周壁とプランジャ３の外周面との間の隙間が増加し、その結果、この隙間の増加によりプランジャ３の保持力が低下することが防止できる。

前記の従来のチェーンテンショナは、プランジャの後退規制のために、プランジャの外周に複数の係合溝とハウジングの内周面に（第一ストッパを形成するための）環状のガイド溝とを形成する必要があるが、本実施例では、溝加工はプランジャ３の外周面に環状溝３ｂを形成するだけでよいので、溝加工のための加工コストの低減を図ることができる。

前記の従来のチェーンテンショナは、係合溝をレジスタリングを介して第一ストッパと係合させることによりプランジャの後退を規制するものであるから、レジスタリングに関してはその形状や材質等の設計条件について十分な検討を必要とするが、本実施例では、摩擦リング７を構成する樹脂製リング８の外周面とプランジャ収容孔２ａの内周面との間に発生する摺動による摩擦抵抗によってプランジャ３の後退量が規制されるものであるから、プランジャの後退規制のための部品の設計条件の簡素化を図ることができる。

本発明の油圧式チェーンテンショナの実施例２について説明する。図７は本発明の実施例２の油圧式チェーンテンショナの断面図である。図８は図７における円枠内を示す要部拡大断面図である。図９は図８に示す摩擦リングを構成する鋼製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。図１０は図８に示す摩擦リングを構成する樹脂製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。図１１は図８に示す摩擦リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図、（Ｃ）Ｘ−Ｘ線断面図である。

図７に示す油圧式チェーンテンショナ１１も、図１に示すように、前述の図２に示す油圧式チェーンテンショナ１と同様にエンジン本体に取り付けて使用される。

油圧式チェーンテンショナ１１は、図７に示すように、ハウジング２と、プランジャ３と、プランジャ付勢用ばね４と、高圧油室５と、チェックバルブ６と、摩擦リング１７とを備えている。

図７に示す油圧式チェーンテンショナ１１は、前述の図２に示す油圧式チェーンテンショナ１の摩擦リング７に替えて摩擦リング１７を使用している点のみが相違し、その他の構成は、前述の図２に示す油圧式チェーンテンショナ１と同じであるので、同一部材については同一符号を付して重複する説明を省略し、以下、摩擦リング１７について説明する。

摩擦リング１７は鋼製リング１８と樹脂製リング１９とからなっている。

鋼製リング１８は、図９に示すように、一箇所に斜めのスリット（切り割り）１８ａを有し、断面が長方形をしており、半径方向に弾性を有する円筒状をしている。そして、その自然状態において、内径がプランジャ３の外周面に形成された環状溝３ｂの底径よりも大きく形成されている。鋼製リング１８の材料は例えば、適当なばね特性を有する鋼材料の中から選択することができる。

樹脂製リング１９は、図１０に示すように、薄肉の厚みを有する円筒状をしており、両端の開口部の一方側のみに内向きつば１９ｂを有している。また、拡径を可能にするために一箇所に軸方向のスリット（切り割り）１９ａを有している。樹脂製リング１９の材料は例えば、適当な摩擦係数を有するエンジニアリングプラスチックの中から選択することができる。

摩擦リング１７は、図１１に示すように、樹脂製リング１９の内側に鋼製リング１８を組み込み、樹脂製リング１９の両端の開口部の一方側の内向きつば１９ｂにより鋼製リング１８を樹脂製リング１９の内側に保持して構成される。樹脂製リング１９の内側に鋼製リング１８が組み込まれると、鋼製リング１８自体の拡径方向の付勢力により樹脂製リング１９は拡径する。また、図８に示すように、摩擦リング１７の軸方向幅Ｌ２はプランジャ３に形成した環状溝３ｂの軸方向幅Ｌ１より小さく形成されている。したがって、摩擦リング１７が環状溝３ｂ内に嵌め込まれると、摩擦リング１７と環状溝３ｂ間には所定の軸方向クリアランスＡＣが形成される。また、摩擦リング１７も組み込まれた状態では、摩擦リング７と同様に、摩擦リング１７の内径と環状溝３ｂの底径との間には所定の半径方向隙間ＲＣが形成される。

図７に示す油圧式チェーンテンショナ１１の組立は、図２に示す油圧式チェーンテンショナ１の組立と同様であるので、その説明は省略する。

また、図７に示す油圧式チェーンテンショナ１１によれば、図２に示す油圧式チェーンテンショナ１について説明したと同様の作用および効果を有するので、その重複する説明は省略する。

しかし、図７に示す油圧式チェーンテンショナ１１は摩擦リング１７を備えており、樹脂製リング１９は鋼製リング１８を保持する内向きつば１９ｂを開口部の一方側のみに形成しているので、樹脂製リング１９の成形性が向上する、というさらなる効果を有する。

なお、上記各実施例１，２に示す油圧式チェーンテンショナ１，１１は、いずれもハウジング２に２個の取付穴２ｂを設けたいわゆる内装タイプのものであるが、請求項１に記載の発明はハウジングに取付用フランジを設けたいわゆる外装タイプのものにも適用できる。

本発明の実施例１，２の油圧式チェーンテンショナの使用例を示す概略説明図である。 本発明の実施例１の油圧式チェーンテンショナの断面図である。 図２における円枠内を示す要部拡大断面図である。 図３に示す摩擦リングを構成する鋼製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。 図３に示す摩擦リングを構成する樹脂製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。 図３に示す摩擦リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図、（Ｃ）Ｘ−Ｘ線断面図である。 本発明の実施例２の油圧式チェーンテンショナの断面図である。 図７における円枠内を示す要部拡大断面図である。 図８に示す摩擦リングを構成する鋼製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。 図８に示す摩擦リングを構成する樹脂製リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図である。 図８に示す摩擦リングの詳細図で、（Ａ）は平面図、（Ｂ）は側面図、（Ｃ）Ｘ−Ｘ線断面図である。

符号の説明

１ 油圧式チェーンテンショナ
２ ハウジング
２ａ プランジャ収容孔
２ｂ 取付穴
３ プランジャ
３ａ 中空部
３ｂ 環状溝
４ プランジャ付勢用ばね
５ 高圧油室
６ チェックバルブ
６ａ ボールシート
６ｂ 給油路
６ｃ チェックボール
６ｄ チェックボール付勢用ばね
６ｅ リテーナ
７ 摩擦リング
８ 鋼製リング
８ａ スリット
９ 樹脂製リング
９ａ スリット
９ｂ 内向きつば
Ｌ１ 環状溝の軸方向幅
Ｌ２ 摩擦リングの軸方向幅
ＡＣ 軸方向クリアランス
ＲＣ 半径方向隙間
１１ 油圧式チェーンテンショナ
１７ 摩擦リング
１８ 鋼製リング
１８ａ スリット
１９ 樹脂製リング
１９ａ スリット
１９ｂ 内向きつば
１０１ 駆動側スプロケット
１０２ 被駆動側スプロケット
１０３ チェーン
１０４ 支軸
１０５ レバー
１０６ ガイド

Claims (1)

1. ハウジングと、該ハウジングに形成されたプランジャ収容孔に摺動自在に挿入される底付き中空円筒状のプランジャと、該プランジャを一方の端部が前記ハウジングの外部に突出する方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、前記プランジャ収容孔と前記プランジャとによって形成される高圧油室と、前記ハウジングに組み込まれ前記高圧油室に油を流入させ逆流を阻止するチェックバルブとを備える油圧式チェーンテンショナにおいて、
   前記プランジャの外周面に環状溝を形成し、樹脂製リングと該樹脂製リングの内側に組み込んだ鋼製リングとから構成される摩擦リングが前記環状溝内に所定の軸方向クリアランスをもって嵌め込まれ、前記摩擦リングが前記プランジャとともに前記プランジャ収容孔に挿入されたとき前記樹脂製リングの外周面が前記プランジャ収容孔の内周面に圧接されていることを特徴とする油圧式チェーンテンショナ。

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