JP2006207005A - 疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、疲労特性についての加工履歴を考慮した指標によって疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【解決手段】マルテンサイト量(=Ms量),強度(=TS),および以下の式で与えられるMdにおいて,TS/Msを40以下,かつMd/Msを0.16以上とすることを特徴とする,疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯、
ただし,Md=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo。

Description

高強度かつ良好な疲労特性が求められるスイッチ用準安定オーステナイトステンレス鋼帯に関する。
近年、携帯電話やパソコン等の電子機器においては、高密度の実装化が進み、このため、これら電子機器に使用される電子部品については、小型化・薄肉化が進められている。そのなかでも、携帯電話、移動体通信等では押えバネの小型化・薄肉化が強く要求されている。さらに、押えバネ部材に繰返し負荷される応力が増大するのみならず、その負荷回数も増大する傾向にある。このように厳しい要求に応えるため、押えバネ等に用いられる金属材料には強度上昇や疲労特性の向上が必要である。
このような用途においては、冷間圧延によりオーステナイト相がマルテンサイト相に変態して硬化する準安定オーステナイト系ステンレス鋼が、高い強度を有する材料として利用されている。(例えば、特許文献1、参照。)
疲労特性はそもそも強度とも関係があり、一般には強度の高い材料は疲労寿命も長い。
従って、準安定オーステナイト系ステンレス鋼が良好な疲労特性を有する材料とされ、特許文献1では電子部品のバネ用途に用いる準安定オーステナイト系ステンレスについて、Mdとマトリックスに析出している非金属介在物の面積を規定し、疲労特性を改善したステンレス鋼が提案されている。Mdは、オーステナイト相の加工に対する安定度の指標であり、この材料の化学組成による変形時の加工誘起マルテンサイトのでき易さを示す値である。すなわち、この値が小さければ変形時に加工誘起マルテンサイトがされ難いし、逆に値が大きくなれば形成されやすいことを意味する。
特許文献1では、Md(N)=580−(520C+2Si+16Mn+16Cr+23Ni+300N+10Mo)、特許文献3では、Md=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Moが用いられている。
Mdの規定は、式の内容は異なるが、疲労特性改善方法として電子部品のバネ用途以外でのステンレス鋼についても提案されている(例えば特許文献2,3参照。)。
特開平2002−275591号公報 特開平10−140294号公報 特開平2002−146483号公報
Mdが疲労特性の指標として用いられるのは、加工誘起マルテンサイトのでき易さが、疲労特性に関係しているからである。
特許文献1では、このMdと疲労寿命の相関について、疲労試験での変形中の、オーステナイトからマルテンサイトへの変態の起こりやすさが材料の疲労特性を支配しているとの考察により、Mdが20未満では疲労試験での変形中にマルテンサイト変態が起こらず、逆にMdが100を超える場合はマルテンサイトの形成がはやいため、それぞれ十分な疲労特性が得られないと記載されている。この理由は、マルテンサイトの形成がはやく、疲労試験の初期にマルテンサイトが成長しきってしまうからであると考えられる。
ここで、Mdは化学組成によって決まるので、同じ化学組成の場合、Mdが同一となるが、同じMdでも、実際には疲労特性が異なる、すなわち、Mdが大きい場合でも必ずしも疲労特性が優れていない場合もある。これは、加工誘起マルテンサイト量:Msの発生が加工履歴によって異なるためである。従って、Mdの範囲を規定したのみでは良好な疲労特性を特定することは不十分であるといえる。
さらに、疲労特性とマルテンサイト量の関連に着目すると、
上述したように疲労特性の観点からはマルテンサイト量が多いことが必ずしも好ましいとはいえない。
従って、高強度を保ちつつ、良好な疲労特性を得るには、単にMdや強度を規定することでは不十分であり、複雑な関係にあるマルテンサイト量、Md、強度の関係を考慮した対応が必要となる。
そこで、本発明の目的は、疲労特性について加工履歴を考慮したMd、強度、マルテンサイト量からなる新たな指標によって、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯を提供することにある。
本発明者らは,鋭意研究した結果、疲労試験の過程或いは使用段階において、新たに発生するマルテンサイト量が多いほど、疲労特性に優れることを見出し、マルテンサイト量についてMd/Ms及びTS/Msを規定することにより,ステンレス鋼の持つ良好な疲労特性を最大限に発揮できることを見出した。
すなわち、
(1)マルテンサイト量Ms(%),引張強さTS(MPa)、および以下の式で与えられるMd(℃)において、TS/Msを40以下、かつMd/Msを0.16以上とすることを特徴とする、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯、
ただし、Md=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo、
元素の単位は質量%。
(2)質量%として、C:0.07〜0.15%、Si:0.45〜1.00%、Mn:0.60〜1.20%、P:≦0.040%、S:≦0.015%、Ni:6.00〜7.00%、Cr:16.00〜18.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、TS/Msを40以下、かつMd/Msを0.16以上とすることを特徴とする、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯、
である。
なお、Mdは、本発明では特許文献3で用いられた式を用いることとするが、Md30と呼ばれる一般的なものである。
Md=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo
以上にように高強度で、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯を得るための指標によって高強度かつ疲労特性が求められるスイッチ用準安定オーステナイトステンレス鋼が提供できる。
以下に本発明の限定理由を説明する。
(1)Md/Msについて
本発明者らは、疲労試験の過程或いは使用段階において、新たに発生するマルテンサイト量が多いほど、疲労特性に優れることを見出したのである。すなわち、マルテンサイト量が新たに発生することのできる状態で冷間加工を終えることにある。以下に具体的に述べる。
マルテンサイト量は冷間加工において加工度が増すにつれて新たなマルテンサイトが発生し、Msは増加するが、ある時点から徐々に発生が少なくなり、加工を加えても新たなマルテンサイトが発生しなくなる。なお、この状態を以下、飽和状態と表現する。飽和に達していない状態で冷間加工を止め、疲労試験を行うと、疲労試験中に亀裂が発生しても,亀裂端の加工誘起マルテンサイト変態が起こり,その部分が硬化して亀裂の伝播をおさえる役割を果たす。伝播の抑えられた状態で疲労試験は進行し、新たなマルテンサイトの発生がなくなると亀裂が伝播し始め、最終的に破断に到る。一方、飽和の状態で疲労試験を行うと、新たなマルテンサイトの発生がないため、発生した亀裂が抑えられないまま伝播し始め、破断となる。このように、飽和に達していなければ、疲労試験の結果は良好なものとなり、達していない度合いが大きいもののほうが良好といえる。すなわち、疲労特性が良いものである。また、疲労試験の結果は良好なものは使用段階においても上述した内容から疲労特性は良い
なお、「マルテンサイト量が飽和に達していない状態」を以下、「マルテンサイト量の発生に余裕のある場合」と表現する。
しかしながら、マルテンサイト量の発生に余裕のある場合、すなわち、同じマルテンサイト量の状態で製品として使用する場合でも、Mdの小さい材料はMdの大きい材料より疲労特性が劣っている。これは、Mdの小さい材料はMdの大きい材料に比べてマルテンサイトを形成しにくいため、マルテンサイトの形成が少ない。使用段階においてもマルテンサイトが形成されにくく、亀裂の伝播を抑えないためである。そこで、Mdの小さい材料はマルテンサイトが形成されにくい飽和に近い状態で使用するのではなく、形成マルテンサイト量を抑えた状態、即ち、加工度の少ない発生初期の段階で加工を留めることがポイントとなる。すなわち、Mdの小さい材料でも加工度の少ない発生初期の段階で加工を留め他材料は、飽和に近い状態の材料よりも、使用段階において多くのマルテンサイトを形成するため、亀裂の伝播を抑えることになるからである。
従って、疲労特性を高めるためにMdに応じたマルテンサイト量を規定した次式を見出したのである。
Ms≦6.25Md
すなわち、マルテンサイト量Msに余裕があるためにMsの上限を設け、Mdが小さい場合にはMsの上限は小さく、Mdが大きい場合にはMsの上限が大きいことを示すものである。
Mdの正の相関関係を示すものであり、あるMdに対するMsの上限を示すものである。
(2)TSとMsの関係について
準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、誘起加工マルテンサイトを形成することで強度化を図るステンレス鋼である。したがって、強度が必要とされる用途に用いられる場合には、マルテンサイト量を十分形成することがこのステンレス鋼の特徴を生した使用方法である。また、疲労特性はそもそも強度と相関関係があり、ある程度の強度までは強度が高いほうが疲労特性は優れている。しかしながら、前述したように、マルテンサイトの発生を抑え、Msに余裕がなければ疲労特性がよくならないという知見に反する傾向である。
本発明は、高強度を維持しつつ、良好な疲労特性を有する準オーステナイト系ステンレス鋼帯を得るために、強度とマルテンサイト量との関係(TS/Ms)によっても制約させるものであり、これが本発明の意図するところである。
従って、本発明では、Md/Ms≧0.16かつTS/Ms≦40と規定した。
実際の製造については以下の手順によって本発明品を得ることができる。
本発明の式をマルテンサイト量でまとめ直すと以下のようになる。
0.025TS≦Ms≦6.25Md
この式を満足するようなマルテンサイト量が得られれば本発明品となる。
Mdは上述したように、合金組成によって一義的に決定される値であるので、合金組成が決まればその値は確定する。また、TSが使用用途に応じて目標のTSが設定されていることが多いので、その値を用いると上述の式の右辺と左辺の数値が確定する。したがって、必要とされるマルテンサイト量を決定することが可能である。
そこで、Mdの決まった材料の加工度とMsの関係をあらかじめ、作成しておくことで、必要な加工度を見出すことができ、その加工度にしたがって加工をすることで、強度と疲労特性のバランスのとれた材料を得ることができる。
(3)化学組成について
準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、常温で組織のオーステナイト相が不安定で、冷間圧延により加工誘起マルテンサイトが生成するオーステナイト系ステンレス鋼であり、その代表的なものとしてSUS301,SUS304がある。
本発明では、SUS301に着目し、その組成においてC,Si,P、S、Crの含有量はJISに規定されている量を請求の範囲とした。
一方、準安定オーステナイト系ステンレス鋼において実質的に調整可能な成分であるNi,Mnについては、その含有量を低下することにより,オーステナイトが不安定化し,加工によるマルテンサイト変態が発生しやすくなる。そこで、疲労初期に発生する材料表層の亀裂先端部分にマルテンサイト相が発生しやすくなり、新たなマルテンサイト相の発生が疲労による破壊を起きにくくし,疲労特性を改善させる。
しかしながら、Ni、Mn含有量を低下させると強度も低下してしまうため、加工によるマルテンサイト量を増加させ、強度を増す必要がある。つまり、TS/Mdが40以下となるように加工によってマルテンサイト量を増加させることで高強度で疲労特性の優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼が得られる。ただし,Mn,Ni含有量を低くしすぎると,オーステナイトが非常に不安定となり,加工性が悪くなるため,下限については、JISに規定されている量を範囲とした。
従って、TS/Msを40以下,かつMd/Msを0.16以上の時のMn、Niの範囲を0.60〜1.20%,6.00〜7.00%と規定した。
実施例に用いた準安定オーステナイト系ステンレスはSUS301である。その成分組成を表1に示す。JISの規定に基づいた成分の範囲において溶解鋳造によって得られたSUS301のインゴットを鍛造後、板厚3mmまで熱間圧延し、溶体化処理後、冷間圧延と再結晶焼鈍とをそれぞれ2回繰り返し、さらに、最終圧延にて板厚0.1mmまで加工した。
Figure 2006207005
マルテンサイト量、引張強さおよび疲労特性の評価については以下のように測定した。
(1)マルテンサイト量
マルテンサイト量は、オーステナイト相が非磁性であるのに対してマルテンサイト相が常磁性であることを利用することで、材料の磁性の強さを磁気誘導によるフェライト含有量計(フェライトスコープ)で測定することにより、マルテンサイト相への変態量、具体的には体積率により求めた。
(2)引張強さ
JIS Z 2201に規定されている13B号に準拠した板状試験片を打ち抜き、JIS Z 2241に準拠した引張り試験を実施した。
(3)疲労特性
疲労特性は、JIS Z 2273に準拠し、プーリを用いた極薄板寿命試験機を用い、応力振幅750MPaで破断までの繰返し回数を測定した。
Figure 2006207005
表2に評価の結果を示すが、発明例No.1〜No.10はTS/Msが40以下,かつMd/Msが0.16以上を満たし,TS/Msが40以下,あるいはMd/Msが0.16以上のどちらかを満たしていない比較例11〜19において,同じ組成の材料を比較すると,比較例よりも発明例の方が優れた疲労特性が得られている。
また,疲労特性と関連する強度に注目すると,比較例No.11は強度が高くなっているが,Md/Msは0.16より小さい、つまりマルテンサイト量が多いため、疲労特性が劣っている。また、比較例No.12〜19では、Md/Msを0.16以上ではあるが、引張強さが低いため、やはり疲労特性も劣っている。
組成1,2と組成3を比較すると,発明例No.1〜7とNo.8〜10,比較例No.11〜16とNo.17〜19の比較により,組成1,2よりも組成3の方が疲労特性の優れた傾向を示す。これは,比較例No.1ではNi,比較例No.2ではMnの添加濃度が増加することでMdが低下したためである。

Claims (2)

  1. マルテンサイト量:Ms(%),引張強さ:TS(MPa)、および以下の式で与えられるMd(℃)において、TS/Msを40以下、かつMd/Msを0.16以上とすることを特徴とする、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯、
    ただし、Md=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo、
    元素の単位は質量%。
  2. 質量%として、C:0.07〜0.15%、Si:0.45〜1.00%、Mn:0.60〜1.20%、P:≦0.040%、S:≦0.015%、Ni:6.00〜7.00%、Cr:16.00〜18.00%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、TS/Msを40以下、かつMd/Msを0.16以上とすることを特徴とする、疲労特性に優れた準安定オーステナイト系ステンレス鋼帯。
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WO2008041638A1 (fr) * 2006-09-29 2008-04-10 Nippon Mining & Metals Co., Ltd. PROCÉDÉ DE FABRICATION D'UNE BANDE D'ACIER INOXYDABLE AUSTÉNITIQUE MÉTASTABLE PRÉSENTANT UNE EXCELLENTE PROPRIÉTÉ DE résistance à la FATIGUE ET BANDE D'ACIER
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