JP2006181654A - 硬質被覆層が高硬度鋼の断続重切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具 - Google Patents

硬質被覆層が高硬度鋼の断続重切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 硬質被覆層が高硬度鋼の断続重切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具を提供する。
【解決手段】 表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具が、立方晶窒化硼素基焼結材料からなる工具基体の表面に、組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.70を示す)を満足し、かつ、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、特定な傾斜角度数分布グラフを示し、かつ2〜15μmの平均層厚を有する(Ti,Al)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる。
【選択図】 図1

Description

この発明は、特に浸炭焼入れ鋼や熱処理硬化鋼などの各種の高硬度鋼の断続切削加工を、高切り込みや高送りなどの重切削条件で行った場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具(以下、被覆BN基工具という)に関するものである。
一般に、被覆BN基工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップや、前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて、面削加工や溝加工、さらに肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミルなどが知られている。
また、被覆BN基工具として、立方晶窒化硼素基焼結材料(以下、cBN基材料という)で構成された工具基体の表面に、
組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.70を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層からなる硬質被覆層を2〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆BN基工具が提案され、各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いられている。
さらに、上記の被覆BN基工具が、例えば図5に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装着し、装置内を300〜500℃に加熱し、工具基体の表面をTiボンバード洗浄処理した状態で、アノード電極と所定組成を有するTi−Al合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に80〜140Aのアーク電流を流してアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記(Ti,Al)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
特開平8−119774号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は切削条件のうちの切り込みや送りなどを高くした重切削条件で行われる傾向にあるが、上記の従来被覆BN基工具においては、これを鋼や鋳鉄などの被削材を通常の条件で連続切削および断続切削するのに用いた場合には問題はないが、特にきわめて硬質の浸炭焼入れ鋼や熱処理硬化鋼などの各種の高硬度鋼の切削加工を、強い機械的衝撃が繰り返し付加される断続重切削条件で行うのに用いた場合には、硬質被覆層である(Ti,Al)N層が十分な高温強度を具備するものでないために、チッピング(微少欠け)が発生し易く、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆BN基工具の硬質被覆層に着目し、これの耐チッピング性向上をはかるべく研究を行った結果、
(a)例えば図4(a)に概略平面図で同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部に工具基体装着用回転テーブルを設けた構造のアークイオンプレーティング装置を用い、さらに同じ組成をもったTi−Al合金を2個用意し、前記Ti−Al合金のそれぞれを前記回転テーブルを挟んで、いずれもカソード電極(蒸発源)として対向配置し、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置にテーブルの外周部に沿って複数の工具基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的で工具基体自体も自転させながら、一方側のカソード電極(蒸発源)であるTi−Al合金とアノード電極の間のアーク電流を80〜140A、他方側のカソード電極(蒸発源)であるTi−Al合金とアノード電極の間のアーク電流を150〜200Aとした条件で、前記両カソード電極(蒸発源)に同時にアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に硬質被覆層として上記の組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.70を示す)を満足する(Ti,Al)N層を形成すると、この結果形成された(Ti,Al)N層はすぐれた高温強度を具備するようになり、したがって、切削加工を強い機械的衝撃が繰り返し付加される断続重切削条件で行っても、すぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮すること。
(b)上記(a)の(Ti,Al)N層と上記の従来(Ti,Al)N層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来(Ti,Al)N層は、図3に例示される通り、{100}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記(a)の(Ti,Al)N層は、図2に例示される通り、10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが現れること。
(c)多くの試験結果によれば、上記の対向配置したカソード電極(蒸発源)であるTi−Al合金とアノード電極間のアーク放電電流をそれぞれ上記の通り80〜140Aおよび150〜200Aの範囲内で変化させると、ピークが傾斜角区分の10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内にそれぞれ現れると共に、前記10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内に存在する合計度数が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50〜75%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、このような傾斜角度数分布グラフを示す(Ti,Al)N層を硬質被覆層として形成してなる被覆BN基工具は切削加工を断続重切削条件で行ってもすぐれた耐チッピング性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、cBN基材料で構成された工具基体の表面に、
組成式:(Al1-X TiX )N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.70を示す)を満足し、
かつ、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが存在すると共に、前記10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内に存在する合計度数が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50〜75%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ2〜15μmの平均層厚を有する(Ti,Al)N層、
で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層が高硬度鋼の断続重切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する被覆BN基工具に特徴を有するものである。
なお、この発明の被覆BN基工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層において、Ti成分は高温強度を向上させ、一方Al成分は高温硬さおよび耐熱性(高温特性)を向上させる目的で含有するものであり、したがってAl成分の含有割合を示すX値がTi成分との合量に占める割合(原子比)で0.45未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、所望のすぐれた高温特性を確保することができなくなり、一方同X値が0.70を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、層自体の高温強度の低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなることから、X値を0.45〜0.70と定めたものであり、また、硬質被覆層の平均層厚が2μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜15μmと定めたのである。
また、上記の通り、対向配置したカソード電極(蒸発源)であるTi−Al合金とアノード電極間のアーク放電電流をそれぞれ上記の通り80〜140Aおよび150〜200Aの範囲内で変化させると、(Ti,Al)N層の傾斜角度数分布グラフにおける測定傾斜角の10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内にピークが現れ、かつ前記10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内に存在する合計度数が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50〜70%の割合を占める傾斜角度数分布グラフが得られるようになるが、この結論は多くの試験結果に基づくものであり、したがって、前記アーク放電電流が前記の範囲を外れると、測定傾斜角のピークは前記10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内の両方に現れることはなく、このような場合には硬質被覆層に所望のすぐれた高温強度を確保することはできず、したがって強い機械的衝撃が繰り返し付加される断続重切削加工で、すぐれた耐チッピング性を発揮することができないものである。
この発明の被覆BN基工具は、浸炭焼入れ鋼や熱処理硬化鋼などの各種の高硬度鋼の断続切削加工を、高切り込みや高送りなどの重切削条件で行った場合にも、硬質被覆層である(Ti,Al)N層が一段とすぐれた高温強度を具備することから、強い機械的衝撃の繰り返し付加にもかかわらず、すぐれた耐チッピング性を発揮し、使用寿命の一層の延命化を可能とするものである。
つぎに、この発明の被覆BN基工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有する立方晶窒化硼素(以下、c−BNで示す)粉末、炭化チタン(以下、TiCで示す)粉末、窒化チタン(以下、TiNで示す)粉末、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)粉末、炭化タングステン(以下、WCで示す)粉末、Al粉末、Co粉末、TiとAlの金属間化合物粉末であるTi3Al粉末、TiAl粉末、およびTiAl3粉末、さらに組成式:Ti2AlNを有する複合金属窒化物粉末、TiB2粉末、窒化アルミニウム(以下、AlNで示す)粉末、硼化アルミニウム(以下、AlB2で示す)粉末、酸化アルミニウム(Al23で示す)粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研摩し、ワイヤー放電加工装置にて一辺3mmの正三角形状に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびCIS規格SNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×一辺長さ:12.7mmの正三角形)をもったWC基超硬合金製チップ本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:30%、Zn:28%、Ni:2%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.15mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格SNGA120412のチップ形状をもった工具基体A〜Pをそれぞれ製造した。
ついで、上記の工具基体A〜Pのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図4に示されるアークイオンプレーティング装置、すなわち装置中央部に工具基体装着用回転テーブルを設けた構造のアークイオンプレーティング装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置にテーブルの外周部に沿って複数の工具基体をリング状に装着し、種々の成分組成をもったTi−Al合金を2個づつ用意すると共に、前記同じ成分組成をもった2個のTi−Al合金のそれぞれを前記回転テーブルを挟んで、いずれもカソード電極(蒸発源)として対向配置し、さらに前記装置内に前記回転テーブルに沿ってカソード電極(蒸発源)として工具基体表面ボンバード洗浄用金属Tiも装着し、まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−800Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体表面をTiボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、前記対向配置したカソード電極であるTi−Al合金の一方とアノード電極との間には80〜140Aの範囲内の所定の電流を流し、同時に同じく他方のカソード電極であるTi−Al合金とアノード電極との間には150〜200Aの範囲内の所定の電流を流して、それぞれアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を蒸着することにより、本発明被覆BN基工具1〜16をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の工具基体A〜Pのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図5に示される通常のアークイオンプレーティング装置に装着し、カソード電極(蒸発源)として種々の成分組成をもったTi−Al合金をそれぞれ1種づつ装着し、またボンバード洗浄用金属Tiも装着し、まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−800Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体表面をTiボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、アノード電極とカソード電極(蒸発源)である所定組成を有するTi−Al合金との間に100Aのアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、従来被覆BN基工具1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆BN基工具1〜16および従来被覆BN基工具1〜16について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM415の浸炭焼入れ鋼(表面硬さ:HC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:120m/min.、
切り込み:0.3mm、
送り:0.10mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件(切削条件Aという)での高硬度鋼の乾式断続高切り込み切削加工試験(通常の切り込みは0.15mm)、
被削材:JIS・SUJ2の熱処理硬化鋼(表面硬さ:HC59)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:150m/min.、
切り込み:0.35mm、
送り:0.10mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件(切削条件Bという)での高硬度鋼の湿式断続高切り込み切削加工試験(通常の切り込みは0.2mm)、さらに、
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ鋼(表面硬さ:HC55)長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:120m/min.、
切り込み:0.2mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Cという)での高硬度鋼の乾式断続高送り切削加工試験(通常の送りは0.10mm/rev.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表4に示した。
Figure 2006181654
Figure 2006181654
Figure 2006181654
Figure 2006181654
また、この結果得られた本発明被覆BN基工具1〜16および従来被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層の組成をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、これらの本発明被覆BN基工具1〜16および従来被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標値と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
さらに、上記の本発明被覆BN基工具1〜16と従来被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の(Ti,Al)N層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
この結果得られた各種の(Ti,Al)N層の傾斜角度数分布グラフにおいて、本発明被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層は、表2に示される通り、いずれも{100}面の測定傾斜角の分布が10〜20度の範囲内およびの30〜40度の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが現れる傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、従来被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層は、表3に示される通り、いずれも{100}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示すものであった。
また表2および表3には、上記の本発明被覆BN基工具1〜16および従来被覆BN基工具1〜16の(Ti,Al)N層の傾斜角度数分布グラフにおいて、10〜20度の範囲内およびの30〜40度の範囲内の傾斜角区分にそれぞれ存在する傾斜角度数、並びに前記両傾斜角区分の合計傾斜角度数をグラフ全体の傾斜角度数に占める割合で示した。
なお、図2は、本発明被覆BN基工具1の(Ti,Al)N層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆BN基工具1の(Ti,Al)N層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
表2〜4に示される結果から、本発明被覆BN基工具1〜16は、いずれも硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層の{100}面が傾斜角度数分布グラフで10〜20度および30〜40度のそれぞれの範囲内の傾斜角区分にピークが現れ、かつ前記両傾斜角区分に存在する合計度数が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50〜75%の割合を占め、強い機械的衝撃が繰り返し付加される各種高硬度鋼の断続重切削加工で、すぐれた耐チッピング性を示すのに対して、硬質被覆層が、{100}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示す(Ti,Al)N層で構成された従来被覆BN基工具1〜16においては、前記硬質被覆層の高温強度不足が原因で、いずれもチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆BN基工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高い高温強度が要求される高硬度鋼の断続重切削加工でもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
硬質被覆層を構成する各種(Ti,Al)N層における結晶粒の結晶面である{100}面の法線が表面研磨面の法線に対する傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆BN基工具1の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層の{100}面の傾斜角度数分布グラフである。 従来被覆BN基工具1の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層の{100}面の傾斜角度数分布グラフである。 本発明被覆BN基工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層の形成に用いたアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。 従来被覆BN基工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al)N層の形成に用いたアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. 立方晶窒化硼素基焼結材料で構成された工具基体の表面に、
    組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.45〜0.70を示す)を満足し、
    かつ、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内の傾斜角区分にそれぞれピークが存在すると共に、前記10〜20度の範囲内および30〜40度の範囲内に存在する合計度数が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50〜75%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ2〜15μmの平均層厚を有するTiとAlの複合窒化物層、
    で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層が高硬度鋼の断続重切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素基焼結材料製切削工具。
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