JP2007152542A - 高硬度鋼の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 - Google Patents
高硬度鋼の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】窒化ほう素を30〜95質量%含有する超高圧焼結材料製インサートの表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、(a)硬質被覆層は、1.5〜6μmの平均層厚を有する下部層と0.3〜3μmの平均層厚を有する上部層とからなり、(b)下部層は、蒸着形成された組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層からなり、(c)上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ0.01〜0.3μmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、薄層Aは、組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層、薄層Bは、チタン窒化物(TiN)層からなる。
【選択図】 なし
Description
(a) 硬質被覆層を構成するTiとSiの複合窒化物([Ti1−XSiX]N)層は、Siの含有割合X(原子比)の値が、0.02〜0.1の範囲内においてすぐれた高温強度と高温硬さとを有し、通常の切削加工条件下において必要とされる耐摩耗性は具備しているが、より過酷な切削加工条件、つまり、高熱の発生を伴うとともに、切刃部に高負荷のかかる高硬度鋼の重切削加工においては、高温強度が満足できるものでないために、チッピングを発生しやすいこと。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
窒化ほう素を30〜95質量%含有する超高圧焼結材料製インサートの表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
(a)硬質被覆層は、1.5〜6μmの平均層厚を有する下部層と0.3〜3μmの平均層厚を有する上部層とからなり、
(b)硬質被覆層の下部層は、蒸着形成された、組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
(c)硬質被覆層の上部層は、下部層の表面に蒸着形成された、いずれも一層平均層厚がそれぞれ0.01〜0.3μmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
上記薄層Bは、チタン窒化物(TiN)層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、高硬度鋼の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具(被覆cBN基焼結工具)に特徴を有するものである。
(a)窒化ほう素(cBN)含有量
超高圧焼結材料製インサート中の窒化ほう素(cBN)含有量が30質量%より少なくなると、cBN焼結材料の硬さが低下し、超高圧焼結材料製インサートを用いて高硬度鋼の重切削加工を行うに際し、最小限必要とされる硬さを備えることができなくなり、耐摩耗性が低下し、一方、窒化ほう素(cBN)含有量が95質量%より多くなると、cBN焼結材料と硬質被覆層の密着強度を確保しにくくなり、その結果硬質被覆層の剥離が生じやすくなるため、この発明では、窒化ほう素(cBN)含有量を30〜95質量%と定めた。
TiとSiの複合窒化物層[Ti1−XSiX]NにおけるTi成分は高温強度の向上に寄与し、また、Si成分は高温硬さの向上に寄与することから、硬質被覆層の下部層を構成するTiとSiの複合窒化物層[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)は、所定の高温硬さと高温強度とを具備する層であって、高硬度鋼の重切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。ただ、Siの含有割合Xが10原子%を超えると、下部層の高温硬さが大となり耐摩耗性は向上するものの、Tiの含有割合の減少によって、高温強度が急激に低下するようになるため、チッピングが発生し易くなり、一方、Siの含有割合Xが2原子%未満になると、高温硬さが低下するために、高硬度鋼の重切削加工時における切刃部の摩耗進行が急激に進行するようになり、耐摩耗性を十分に確保することができなくなることから、Siの含有割合Xの値を0.02〜0.1と定めた。
また、下部層の平均層厚が1.5μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さと高温強度とを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が6μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1.5〜6μmと定めた。
なお、超高圧焼結材料製インサート基体と下部層との十分な密着性を確保するために、基体と下部層との間にチタン窒化物(TiN)の薄層を介在させることができる。該TiNの薄層は、その層厚が0.01μm未満では密着性改善の効果が少なく、一方、0.5μmを超えた層厚としても密着性の更なる向上が期待できるわけではないことから、基体と下部層との間に介在させるTiN層の層厚は0.01μm以上0.5μm以下とすることが望ましい。
上部層の薄層Aを構成するTiとSiの複合窒化物層[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)は、下部層と実質同様の層であって、所定の高温硬さと高温強度とを具備し、高硬度鋼の重切削加工時における切刃部の耐摩耗性を確保する作用を有する。
チタン窒化物(TiN)層からなる薄層Bは、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層において、云わば、薄層Aに不足する特性(高温強度)を補うことを主たる目的とするものである。
すでに述べたように、上部層の薄層Aは、すぐれた高温硬さと高温強度を有する層ではあるが、高硬度鋼の重切削加工という過酷な切削条件下では、その高温強度が十分とはいえないためチッピングを発生しやすい。
そこで、上部層の薄層Bとして、薄層Aに比して一段と高温強度に優れたチタン窒化物(TiN)層を薄層Aと交互に配し、交互積層構造を構成することで、隣接する薄層Aの高温強度不足を補い、もって、前記薄層Aのもつすぐれた高温硬さと、前記薄層Bのもつ一段と優れた高温強度を兼ね備えた上部層を形成する。
上部層の薄層Aと薄層B、それぞれの一層平均層厚が0.01μm未満ではそれぞれの薄層の備えるすぐれた特性を発揮することができず、この結果、上部層にすぐれた高温硬さとより一段とすぐれた高温強度を確保することができなくなり、またそれぞれの一層平均層厚が0.3μmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温強度の不足、薄層Bであれば高温硬さの不足が層内に局部的に現れるようになり、これが原因でチッピングが発生したり、摩耗が急速に進行するようになることから、それぞれの一層平均層厚は0.01〜0.3μmと定めた。
すなわち、薄層Bは、薄層Aの有する高温強度をより向上させるために設けられたものであるが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が0.01〜0.3μmの範囲内であれば、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層は、すぐれた高温硬さに加え、より一段と優れた高温強度を具備したあたかも一つの層であるかのように作用するが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が0.3μmを越えると、薄層Aの高温強度不足、あるいは、薄層Bの高温硬さ不足が層内に局部的に現れるようになり、上部層が全体として一つの層としての良好な特性を呈することができなくなるため、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚を0.01〜0.3μmと定めた。
薄層Aと薄層Bの一層平均層厚を0.01〜0.3μmの範囲内とした交互積層構造からなる上部層を下部層表面に形成することにより、優れた高温硬さとより一段優れた高温強度を兼ね備えた硬質被覆層が得られる。
また、上部層の平均層厚(即ち、交互積層構造を構成する薄層Aと薄層Bの各層の平均層厚を合計した層厚)は、0.3μm未満では、高硬度鋼の重切削加工で必要とされる十分な高温硬さと高温強度を上部層に付与することができず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が3μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は0.3〜3μmと定めた。
また、この発明の被覆cBN基焼結工具基体の表面粗度は、Raで0.05以上1.0以下であることが望ましい。表面粗度Raが0.05以上であれば、アンカー効果による基体と硬質被覆層との付着強度の向上が期待でき、一方、Raが1.0を超えるようになると、被削材の仕上げ面精度に悪影響を及ぼすようになるためである。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを導入して、0.7Paの雰囲気とすると共に、前記テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−10〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層B形成用Tiのカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に所定層厚の薄層Bを形成し、前記薄層B形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成した後、アーク放電を停止し、再び前記薄層B形成用Tiのカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成と、前記薄層Aおよび下部層形成用Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、層厚方向に沿って表2に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表2に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、本発明被覆cBN基焼結工具1〜9をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・SCM415の焼入れ材(硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 0.4 mm、
送り: 0.16 mm/rev.、
切削時間: 20 分、
の条件(切削条件Aという)での合金工具鋼の乾式連続高切り込み切削加工試験(通常の切り込みは0.2mm)、
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC61)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 140 m/min.、
切り込み: 0.45 mm、
送り: 0.12 mm/rev.、
切削時間: 20 分、
の条件(切削条件Bという)での軸受鋼の乾式断続高切り込み切削加工試験(通常の切り込み0.2mm)、
被削材:JIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC63)の丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.35 mm/rev.、
切削時間: 15 分、
の条件(切削条件Cという)でのダイス鋼の乾式連続高送り切削加工試験(通常の送りは0.15mm/rev.)
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表4に示した。
Claims (1)
- 窒化ほう素を30〜95質量%含有する超高圧焼結材料製インサートの表面に、硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具において、
(a)硬質被覆層は、1.5〜6μmの平均層厚を有する下部層と0.3〜3μmの平均層厚を有する上部層とからなり、
(b)硬質被覆層の下部層は、蒸着形成された、組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
(c)硬質被覆層の上部層は、下部層の表面に蒸着形成された、いずれも一層平均層厚がそれぞれ0.01〜0.3μmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、組成式:[Ti1−XSiX]N(ただし、Xは、原子比で、0.02〜0.1を示す)を満足するTiとSiの複合窒化物層、
上記薄層Bは、チタン窒化物(TiN)層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成した、高硬度鋼の重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化ほう素基超高圧焼結材料製切削工具。
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