JP2006169611A - 高強度電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

高強度電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 抗張力TSが例えば500MPa以上の高強度で、耐摩耗性を有し、磁束密度および鉄損のすぐれた磁気特性を兼ね備えた高強度電磁鋼板を、特殊な成分、製造条件を適用せず、安定して製造することを目的とする。
【解決手段】 質量%で、C:0.060%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下、またはさらにCu:0.1〜8.0%、Nb:0.03〜8.0%の一種以上を含有し、鋼板内部に加工組織が残存する高強度電磁鋼板の製造方法において、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程直前の板の平均結晶粒径D(μm)を、D≧20μmと粗大化し、好ましい製法として最終の加工工程において歪を付与した後、加工組織が消失するような熱処理を施さないことを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、高強度電磁鋼板、特に高強度無方向性電磁鋼板に係わり、高速回転機用の低鉄損、かつ高磁束密度で強度の高い磁性材料および電磁開閉器用の耐摩耗性に優れた磁性材料とその製造方法に関する。
従来、ローター(回転子)用材料には積層された電磁鋼板が用いられてきたが、最近、高速回転やローター径の大型化が要求される用途では、ローターに加わる遠心力が、電磁鋼板の強度を上回る可能性が出てきた。さらにローターに磁石を組み込む構造のモーターも多くなっており、回転数はそれほど高くなくともローターの回転中にローター材料自身に加わる荷重は大きなものとなっており、疲労強度の面でも材料の強さが問題となることが多くなっている。
また、電磁開閉器はその用途上、使用するにつれて接触面が摩耗するため、電磁特性だけでなく耐摩耗性の優れた磁性材料が望まれる。
このようなニーズに対応して、最近では強度が高い無方向性電磁鋼板について検討され、いくつか提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2では、Si含有量を高め、さらにMn,Ni,Mo,Crなどの固溶体強化成分の1種または2種以上を含有させたスラブを素材とすることが提案されているが、圧延時に板破断の発生が頻発する恐れがあり、生産性の低下、歩留りの低下をもたらすなど改善の余地があり、しかもNiやMo,Crを多量に含有しているために極めて高価な材料となる。
特開平1−162748号公報 特開昭61−84360号公報
以上のように、高強度の電磁鋼板について多くの提案がなされているが、必要な磁気特性を確保しつつ、通常の電磁鋼板製造設備を用いて、工業的に安定して製造するまでに到っていないというのが実情である。このような中で本発明者は鋼板中に加工組織を残存させた高強度電磁鋼板について特願2003−347084号で特許出願を行った。
この技術は結晶組織中に加工組織を残存させても、磁気特性はそれほど劣化するものではなく、強度の上昇効果を考慮すれば、従来の固溶元素や析出物で強化した材料に見劣りするものではないばかりか、生産性や磁気特性、特に磁束密度の板面内異方性を考慮すれば、非常に有用な技術であることを知見してなされたものである。しかし、加工組織を有する電磁鋼板については、磁気特性と機械的特性のバランスを如何にして向上させるかに関して、明確なメタラジーは確立されておらず、この点でこの技術が最適なものであるとの確証は得られていない。
本発明者は、この点を明確にするため、特に圧延前の組織の影響に関して詳細な実験を行い、加工組織を有する電磁鋼板において、磁気特性と機械的特性の両立を図るに最適な領域があることを知見し、さらに生産性、特に鋼帯の通板性をも考慮して、工業的に最適な範囲を設定することに成功した。
本発明は、抗張力(TS)が例えば500MPa以上の高強度で、耐摩耗性を有するとともに、特に高速で回転するモーターなど高い周波数の磁場下で使用される際に磁束密度(B50)や鉄損など優れた磁気特性を兼ね備えた高強度無方向性電磁鋼板を例えば冷間圧延性や焼鈍作業性など通常の電磁鋼板と変わることなく、安定してオンラインで製造することを目的とする。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.060%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板内部に加工組織が残存する高強度電磁鋼板の製造方法において、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径dを20μm以上とすることを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
(2) 質量%で、C:0.060%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板内部に加工組織が残存する高強度電磁鋼板の製造方法において、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径d(μm)を、
d≧(220−50×Si%)
とすることを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
(3) 最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径d(μm)を、
d≦(400−50×Si%)、
かつ、
d≦(820−200×Si%)、
とすることを特徴とする(1)(2)に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(4) 最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程直前の鋼板の再結晶率を50%以上とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(5) 鋼成分が質量%で、さらに、Cu:0.1〜8.0%、Nb:0.03〜8.0%の一種以上を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(6) 鋼成分が質量%で、さらに、Ti:1.0%以下、B:0.010%以下、Ni:5.0%以下、Cr:15.0%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(7) 鋼成分が質量%で、さらに、Mo,W,Sn,Sb,Mg,Ca,Ce,Coの1種または2種以上を合計で0.5%以下含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(8) 前記鋼板内部に存在する加工組織が、断面観察における面積率で1%以上であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
(9) 前記鋼板内部の加工組織における平均転位密度が1exp13/m2以上であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、硬質で磁気特性の優れた高強度電磁鋼板を安定して製造することができる。すなわち本発明は固溶強化、析出強化のために用いられる添加元素が比較的低くても目的とする強度を得ることができることから、冷延性が向上し、冷間圧延工程の生産性が向上するとともに、通常操業範囲内での焼鈍が可能となるため、焼鈍工程の作業性も向上する。また、焼鈍後に再冷延を行うことにより、従来では製造が困難であった極薄材料を簡単に生産することも可能となる。
以上により、強度、疲労強度、耐磨耗性の確保が可能となるため、超高速回転モーターやローターに磁石を組み込んだモーターおよび電磁開閉器用材料の高効率化、小型化、超寿命化などが達成される。
本発明者らは、前記目的を達成すべく種々実験し検討を重ねてきた。即ち本発明は、C:0.060%以下、Si:0.5〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下を含有する鋼板であって、さらに必要に応じ、Cu:0.1〜8.0%、またはNb:0.05〜8.0%のいずれか一種以上を含有した鋼材において、
(1)鋼板組織に加工組織を存在させ転位強化により高強度化を図る、
(2)最終的に鋼板内に残存する加工組織を形成する直前の結晶組織を粗大化させる、
(3)上記の結晶組織をSi量との観点で制限することで通板性を向上させる、
ことにより、電磁鋼板内に加工組織を残存・生成させた鋼板において、作業性などのトラブルを起こすことなく高生産性にて強度−磁気特性のバランスを向上させ得るものである。
先ず、本発明による高強度電磁鋼板の成分組成について説明する。
Cは磁気特性を劣化させるので0.060%以下とする。高強度化、特に降伏応力の上昇や温間強度、クリープ強度の向上、温間での疲労特性を向上させる観点から、またNb含有鋼の場合にはNbCにより再結晶を遅延させる効果も有することから、好ましくは0.0031〜0.0301%、さらに好ましくは0.0051〜0.0221%、さらに好ましくは0.0071〜0.0181%、さらに好ましくは0.0081〜0.0151%である。
Cによる上述のような効果が特に重要視されない場合には、スラブの段階までは脱酸効率の観点からより高いCを含有させておき、コイルとした後の脱炭焼鈍によりCを減じることも可能である。含有量を0.010%程度以下まで低減する場合には製造コストの観点からは溶鋼段階で脱ガス設備によりC量を低減しておくことが有利である。特に0.0020%以下とすれば鉄損低減の効果が著しく、高強度化のために炭化物等の非金属析出物を必須としない本発明鋼においては0.0015%以下としても高強度化が可能であり、さらに0.0010%以下としても十分な高強度化が可能である。
Siは鋼の固有抵抗を高めて渦電流を減らし、鉄損を低下せしめるとともに、抗張力を高めるが、添加量が0.2%未満ではその効果が小さい。好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは2.5%以上とする。一般に高周波磁場下で用いられる場合には渦電流による損失が大きくなるが、加工組織を含有する本発明鋼においても特にこの渦電流損失を抑制するため、Si含有量を高めることが有効である。ただし4.0%を超えると鋼を著しく脆化させ、さらに製品の磁束密度を低下させるため4.0%以下とする。最適なSi量範囲は、後述のように、本発明の重要な要因である、最終的に鋼板内に残存する加工組織を形成する直前の結晶組織も考慮して決定されるものである。この結晶組織にもよるが、脆化の懸念を小さくするには3.7%以下が好ましく、3.2%以下であれば他の元素量との兼ね合いもあるが脆化に関してはほとんど考慮する必要がなくなる。
Mnは鋼の強度を高めるため積極的に添加してもよいが、高強度化の主たる手段として加工組織を活用する本発明鋼ではこの目的のためには特に必要としない。固有抵抗を高め渦電流損失を低減させることで鉄損を低減させる目的で添加するが、過剰な添加は磁束密度を低下させるので、0.05〜3.0%とする。0.05〜3.0%とする。好ましくは0.5%〜2.5%、さらに好ましくは0.8%〜2.0%である。
Pは抗張力を高める効果の著しい元素であるが、上記のMnと同様、本発明鋼ではあえて添加する必要はない。0.3%を超えると脆化が激しく、工業的規模での熱延、冷延等の処理が困難になるため、上限を0.30%とする。好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。
Sは本発明鋼で必要に応じ添加するCuと結合し易く、Cu添加の目的として重要となるCuを主体とする金属相の形成挙動に影響を及ぼし、強化効率を低下させる場合があるので多量に含有させる場合には注意が必要である。また熱処理条件によっては微細なCu硫化物を積極的に形成させ、高強度化を促進させることも可能である。生成された硫化物は磁気特性、特に鉄損を劣化させる場合がある。特に鉄損の管理値が厳格な場合、Sの含有量は低いことが好ましく、0.040%以下と限定する。好ましくは0.020%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。SeもSとほぼ同様な効果がある。
Alは通常、脱酸剤として添加されるが、Alの添加を抑えSiにより脱酸を図ることも可能である。Al量が0.005%程度以下のSi脱酸鋼ではAlNが生成しないため、鉄損を低減する効果もある。逆に積極的に添加しAlNの粗大化を促進するとともに固有抵抗増加により鉄損を低減させることもできるが、2.50%を超えると脆化が問題になるため、2.50%以下とする。
NはCと同様、磁気特性を劣化させるので0.040%以下とする。Alが0.005%程度以下のSi脱酸鋼ではCと同様に高強度化、特に降伏応力の上昇や温間強度、クリープ強度の向上、温間での疲労特性を向上させ、またNb含有鋼の場合にはNbNにより再結晶を遅延させる効果も有する他に、集合組織改善の観点から有効な元素である。この観点からは好ましくは0.0031〜0.0301%、さらに好ましくは0.0051〜0.0221%、さらに好ましくは0.0071〜0.0181%、さらに好ましくは0.0081〜0.0151%である。Alが0.010%程度以上の場合には多量のNを含有させることで微細なAlNを形成し再結晶遅延効果を高めることが可能であるが、本発明の主たる機構であるCu金属相に比較すると再結晶遅延の効率が悪く、また磁気特性への悪影響も比較的大きいため、あえて添加する必要はない。Al脱酸鋼においては0.0040%以下とすべきで、窒化物による強度上昇や再結晶遅延効果を期待しない本発明鋼では低いほど好ましく、0.0027%以下とすれば磁気時効やAl含有鋼でのAlNによる特性劣化の抑制効果は顕著で、さらに好ましくは0.0022%、さらに好ましくは0.0015%以下とする。
Cuは本発明では必要に応じて添加される。固溶Cuとしてのみならず、鋼板中にCuを主体とする金属相(以降、本明細書では「Cu金属相」と記述)を形成させ、鋼板の再結晶を遅延させるために活用される。また微細なCu金属相により磁気特性に悪影響を及ぼさない範囲で高強度化を図る効果も有する。この範囲として0.1〜8.0%に限定する。好ましくは1.0〜6.0%である。Cuの含有量が低いと再結晶遅延効果が小さくなるとともに、再結晶遅延効果を得るための熱処理条件が狭い範囲に限定され、製造条件の管理、生産調整の自由度が小さくなることもある。一方、Cuの含有量が過度に高いと磁気特性への影響が大きくなり、特に鉄損の上昇が著しくなることもある。特に好ましい範囲は2.0〜5.5%である。
NbもCuと同様、本発明では必要に応じて添加される。固溶Nbとしてのみならず、鋼板中にNbの主として炭・窒化物(以降、本明細書では「Nb析出物」と記述)を形成させ、鋼板の再結晶を遅延させるために活用される。また微細なNb析出物により磁気特性に悪影響を及ぼさない範囲で高強度化を図る効果も有する。この範囲として0.05〜8.0%に限定する。好ましくは0.08〜2.0%である。
本発明者は、すでに電磁鋼板中にCu金属相を形成し高強度化を図る技術を出願しているが、Cu金属相に関してはこの出願との組合わせを行うことは本発明の効果を何ら損なうものではない。特に限定するものではないが、本発明鋼中に存在させるCu金属相またはNb析出物の直径は0.20μm以下程度が好ましい。これを超えると再結晶遅延の効率が低下し、多量の金属相が必要となるだけでなく磁気特性への悪影響が大きくなりやすい。また同様に特に限定するものではないが、Cu金属相またはNb析出物の数密度は、Cu,NbやC含有量と析出相のサイズとの関係により取りうる範囲に制限があり、20個/μm3以上程度が好ましい。
その他、従来技術における高強度電磁鋼板で高強度化のために利用されている殆どの元素は、添加コストが問題視されるだけではなく、磁気特性に少なからず悪影響を及ぼすため、あえて添加する必要はない。積極的に添加する場合には再結晶遅延効果、高強度化効果、コスト上昇と磁気特性劣化との兼ね合いから、Ti,B,Ni,Crの1種または2種以上を添加するが、その添加量は、Ti:1.0%以下、B:0.010%以下、Ni:5.0%以下、Cr:15.0%以下程度とする。
Tiは鋼板中で炭化物、窒化物または硫化物等の微細な析出物を形成し、高強度化に効果を有する元素ではあるが、Nbに比較するとその効果は小さい割に、鉄損を劣化させる傾向が強い。また冷延後の焼鈍工程において部分再結晶組織とする場合には、磁束密度向上には不利な{111}方位への集積を促進する効果が強いため、本発明鋼ではむしろ有害な元素ともなる。このため上限をそれぞれ1.0%とする。好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下で、全く添加することなく不可避的に混入する0.0050%以下とすることで良好な鉄損を得ることが可能となる。
Bは結晶粒界に偏折し、Pの粒界偏折による脆化を抑制する効果があるが、本発明鋼では従来の固溶強化主体の高強度電磁鋼板のように脆化が特に問題とはならないことから、この目的での添加は重要ではない。むしろ固溶Bによる再結晶温度への影響により再結晶を遅延させる目的で添加する。0.010%を超えると著しく脆化するため、上限を0.010%とする。
Niは本発明鋼で必要に応じ添加される元素であるCuによる熱延時の表面荒れ(Cuヘゲ)の防止に有効であることが知られており、この目的を兼ねて積極的に添加することもできる。また、磁気特性への悪影響が比較的小さく、磁束密度向上効果も有し、さらに高強度化にも効果が認められるため、高強度電磁鋼板では使用されることが多い元素である。また、耐食性の向上にも有効であるが、添加コストや磁気特性への悪影響を考え上限を5.0%とすることが好ましい。
Crは耐食性の向上や、高周波域での磁気特性向上のため添加される元素であるが、やはり添加コストや磁気特性への悪影響を考え上限を15.0%とすることが好ましい。
また、その他の微量元素については、鉱石やスクラップなどから不可避的に含まれる程度の量に加え、公知の様々な目的で添加しても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。また、量は少なくとも微細な炭化物、硫化物、窒化物、酸化物等を形成し、少なからざる再結晶遅延効果や高強度化効果を示す元素もあるが、これらの微細な析出物は磁気特性への悪影響も大きく、また本発明鋼では残留させた加工・回復組織により十分な再結晶遅延効果が得られるため、これらの元素をあえて添加する必要もない。
これらの微量元素についての不可避的な含有量は通常、各元素とも0.005%以下程度であるが、本明細書で記述していない様々な目的で0.01%程度以上に添加することも可能である。この場合もコストや磁気特性の兼ね合いから、Mo,W,Sn,Sb,Mg,Ca,Ce,Coの1種または2種以上を合計で0.5%以下とする。
前記成分を含む鋼は、通常の電磁鋼板と同様に転炉で溶製され、連続鋳造でスラブとされ、ついで熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、仕上焼鈍などの工程で製造される。これらの工程に加え絶縁皮膜の形成や脱炭工程などを経ることも本発明の効果を何ら損なうものではない。また、通常の工程ではなく急冷凝固法による薄帯の製造や熱延工程を省略する薄スラブ、連続鋳造法などの工程によって製造しても問題ない。
本発明では、本発明で「加工組織」と呼ぶ特別な組織を鋼板内に形成することが必要である。本発明における「加工組織」とは、通常の電磁鋼板で鋼板のほぼ全量を占めている「再結晶組織」と区別したものである。一般的には冷延加工等により鋼板内に蓄積された歪が十分に消失していない組織を指す。より具体的には、冷延した鋼板を焼鈍する過程において、冷延で変形され高密度の転位を含有した組織が、焼鈍工程での高温保持により発生する転位密度が低い組織(「再結晶組織」)に蚕食されることで再結晶が進行するが、この「再結晶組織」に蚕食されていない領域を「加工組織」とする。この加工組織は、一般には焼鈍中にいわゆる回復等により転位密度は低くなっている場合もあるが、再結晶組織ほどには低くなっておらず、歪の分布としては「加工組織」と「再結晶組織」で不均一な状況となっている。また、「加工組織」は、再結晶組織をさらに加工することでも得ることができる。この場合は全体的に見れば組織に均一な歪が残存した状態となる。本発明ではこの加工組織を活用することで目的とする高強度化を図るものである。
次に本発明の特徴的である、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程直前の鋼板の平均結晶粒径dについて説明する。以下、この粒径を「加工前粒径」と記述する。本発明では基本的に「加工前粒径」を粗大化させることで、加工後の特性、特に強度−鉄損バランスを大幅に改善させる。「加工前粒径」は、熱延板を冷延し、その後の焼鈍時の再結晶を抑制することで、最終的な製品に加工組織を残存させる場合には、熱延板時点での粒径となる。この時、電磁鋼板で一般的に行われる熱延板焼鈍を施していれば、熱延板焼鈍後の粒径が「加工前粒径」となる。また、冷延後、再結晶した鋼板を再冷延して、最終的な製品に加工組織を残存させる場合には、焼鈍板時点での粒径となる。さらに、例えば冷延後、焼鈍工程において加工組織を残存させたまま再冷延を行う場合は、実質的に再冷延での加工の影響が大きい場合も考えられるが、冷延で形成された加工組織が完全には消失することなく、再冷延加工を受けて再冷延後まで残存するものであるから、冷延前の粒径、すなわち通常の工程であれば熱延板粒径が「加工前粒径」となる。
本発明ではこの「加工前粒径」d(μm)をSi量との関係で特定範囲に規定する。すなわち、以下の式(1)もしくは(2)、さらに(3)と(4)を満たすことで、本発明の特徴である優れた強度−鉄損バランスが達成される。
d≧20μm・・・(1)
d≧(220−50×Si%)・・・(2)
d≦(400−50×Si%)・・・(3)
かつ、
d≦(820−200×Si%)・・・(4)
式(1)は単純に「加工前粒径」が、特定の大きさより粗大な場合を示す。通常の鋼板の結晶粒径は数μmから数100μm程度の範囲で制御されるが、本発明の効果を得るには20μm以上とする必要がある。好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上、さらに好ましくは250μm以上である。
式(2)は発明の効果が得られる「加工前粒径」をSi量との関係で規定したものである。一般的にSi量が高い鋼板ほど、強度−鉄損バランスは向上するため、高Si材ほど「加工前粒径」が小さくても、良好な強度−鉄損バランスを得やすいためである。
式(3)および(4)式は「加工前粒径」の上限の目安を与えるものである。一般に高Si材ほど材料が脆くなるが、「加工前粒径」が過度に粗大な場合、さらに脆くなり、冷延等の加工が困難になるため、上限が必要な場合が生ずる。この上限はSi量以外の鋼成分や加工までの熱履歴に加え、鋼板の加工方法や狙いとする特性等にも依存するものである。
「加工前粒径」を上述の範囲に制御する具体的な条件は、鋼成分や加工までの熱履歴にも依存するため、特定範囲に限定することはできないが、通常の知識を有する当業者であれば、目的とする鋼板に相当する成分および熱履歴である鋼板対し、数度の熱処理試験を行うことで、適当な条件を決定することは困難なものではない。要は、その鋼板の再結晶および粒成長挙動を確認し、狙いとする組織になるように熱履歴を制御するだけのものである。
なお、条件によっては、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程直前の鋼板に、加工組織が残存する場合がある。このような場合に、本発明の効果を得るには、加工組織をできるだけ残存させないことが好ましく、再結晶率rを、
r≧50%・・・(5)
とするのが好ましい。さらに好ましくはrが90%以上であり、完全再結晶組織で、かつ上の(1)〜(4)式を満たすことが好ましいことは言うまでもない。また、部分的に未再結晶領域が残存する場合、上の(5)式を満たすことで発明の効果を得ることができるが、再結晶部の粒径が粗大な場合、未再結晶部が50%を超える場合でも、本発明の効果が現れる場合もある。この時は、未再結晶部が粒径5μmの微細な結晶粒であると仮定して、平均粒径を求めることで、(1)、(2)式で発明の効果を判定することも可能で、この場合も本発明に含まれるものとする。
なお、結晶粒系および再結晶率は、通常、鉄鋼材料の組織観察で行われる、エッチングによる板断面の組織観察により求めるものとする。粒径は観察される結晶粒1個あたりの面積から、粒の断面積を円と仮定した場合の直径、また再結晶率は観察面積中の未再結晶部の面積率から求めるものである。言うまでもないが、測定は偏りのない十分に平均的な領域について行われる必要がある。
「加工前粒径」の効果についてのメカニズムは明確ではないが、転位構造の変化、集合組織の変化、さらには加工前の集合組織の差による加工後の転位構造の変化、等の影響が考えられる。詳細は不明であるが、最終的には加工組織中の転位構造が、外部応力により移動しようとする転位に対しては強力な障害物として作用し、かつ外部磁場により移動しようとする磁壁に対しては障害物として作用しにくいような構造に変化するためであると予想される。
本発明が対象とする鋼板は500MPa以上の引張強度を有するものとする。引張強度がこれより低い程度の鋼板であれば通常のSi、Mn等の固溶元素を主体として強化し、組織的には完全に再結晶組織で占められている鋼板でも、生産性をそれほど劣化させず製造することが可能であり、その材料の方が磁気特性的には顕著に優れたものが得られるためである。本発明は通常の固溶体強化を主体として、生産性を劣化させずに製造が不可能な高強度の材料に限定する。本発明のメリットをより大きく享受するには、好ましくは600MPa以上の鋼板に適用されるべきで、さらに好ましくは700MPa以上、さらに好ましくは800MPa以上の鋼板を対象とし、現在は全く製造されたことがない900MPa以上の鋼板も製造可能であり、さらに従来では想像もされていない1000MPa以上の鋼板でも高生産性で製造することが可能になる。
なお、モーターのローターとして使用するような場合には、わずかな変形が部品としての寿命の終わりを意味することから、引張強度ではなく降伏応力で評価すべきであろう。本発明鋼は加工組織を残留させているため、固溶体強化鋼や析出強化鋼と比べ、同じ強度であれば、降伏応力は高く、これらの従来材との比較においては、より好ましい特性を発揮する。すなわち、降伏比が0.7〜1.0程度と比較的高い値となり、降伏応力と引張強度の相関が極めて強い材料になっている。このため、降伏応力で評価しても本発明鋼の優位性は全く変わるものではないし、ローターのような降伏応力が問題となる用途に対しても発明の効果は問題なく発揮される。
この加工組織は鋼板の断面組織観察における面積率で1%以上存在するものとする。断面組織観察は本発明においては断面の一辺が鋼板圧延方向、もう一辺が鋼板板厚方向となる断面で行うものとする。通常の鋼板で行われるナイタール等の薬品を用い、エッチングにより組織を現出させる方法を用いるが、特に観察方法に限定されるものではなく、再結晶組織と加工組織を区別できる手法であればよい。
加工組織の面積率が1%以下では高強度化の効果が小さくなる。加工組織が実質的に0%の場合は通常の鋼板そのものであり、0〜1%の範囲に制御することは高強度化の効果が小さい割には焼鈍の温度制御等を非常に厳格にする必要があり現実的ではない。実際には必要とする強度レベルを得るように加工組織の面積率を制御するが、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。実質的に再結晶組織が観察されない加工組織100%としても何ら問題はない。この場合はまったく焼鈍しないいわゆるフルハードの状態か、または焼鈍を行うが再結晶開始以前の回復組織の状況となる。
本発明の鋼板では必要とする強度と磁気特性に応じて組織の調整を行うが、この調整は鋼成分、熱延履歴、冷延率、焼鈍温度、焼鈍時間や加熱速度、冷却速度等により行うことが可能で、当業者であれば数度の試行により何ら問題なく行うことが可能なものである。または、焼鈍を行って再結晶組織が全量を占めている鋼板に、再冷延等により歪を付与することで加工組織を形成することも可能である。この場合は通常、歪は巨視的に均一に付与されるため、組織の全量が加工組織となり加工組織100%に相当する。この場合は加工前の鋼成分、熱履歴、特性等を考慮し加工量により強度、磁気特性が制御されるが、これも当業者であれば数度の試行により何ら問題なく行うことが可能なものである。
目安としてはSi量が1%程度以下のいわゆる通常の低級電磁鋼板では700℃を超えない程度、Si量が3%程度のいわゆる通常の高級電磁鋼板でも800℃を超えない程度の温度であるが、例えばCu、Nb等を適量添加することで、900℃程度以上の温度でも全く再結晶しない完全回復組織である発明鋼を得ることもできる。一方で通常の電磁鋼板とは大きく異なる温度で焼鈍を行うことは炉温の大幅な変更が必要で、作業性の低下を招くばかりでなく、未燃焼ガスの発生により前述のように安全性にも問題を生ずる場合がある。極低温焼鈍に起因するこれらの課題を避けるための焼鈍温度の下限は、400℃程度以上である。
焼鈍時間の目安は温度にもよるが、焼鈍の効果を及ぼすためには少なくとも5秒程度は必要である。焼鈍時間は成分や熱処理までの製造履歴等に依存するため一義的に明示はできないが、目安は850℃であれば5分以内、750℃であれば1時間以内、600℃であれば10時間以内程度である。上述のように、これらの温度および時間の条件は、当業者であれば数度の試行により何ら問題なく発明の効果を享受できる条件を見出すことが可能なものであり、要は、対象となる鋼板の再結晶挙動を確認することである。
再冷延等により加工組織を新たに形成した場合、加工量が低いと上述の組織観察法では明確に加工組織の存在を示すことが困難な場合があるが、発明の効果を十分に得る目安として断面組織観察における(板厚方向の結晶粒の大きさ)/(圧延方向の結晶粒の大きさ)を用いても良く、この値を0.9以下とする。0.8以下であれば高強度化の効果が明確に得られ、好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下である。ただし、この値が過剰に低くなると、磁気特性の劣化が顕著となるので注意が必要である。
以上の加工は通常、冷間圧延で行われるが、歪量または材質の変化が本発明の規定内であればこれにこだわる必要はなく、温間圧延、加工組織が消失しない程度の熱間圧延、さらには張力を付与することによる引張変形、レベラー等による曲げ変形、ショットブラストや鍛造など方法は問わない。むしろ歪の付与の方法により、転位構造が後述する本発明にとって好ましいものに変化させられるため、さらなる特性の向上も可能である。
この加工を冷延で行う場合、圧下率の目安としては、上述の結晶粒の大きさの比から容易に推定可能であるが、10〜70%程度である。このように焼鈍工程である程度軟質化した材料をさらに再冷延で硬質化する場合には簡単に材料の薄手化が可能となり、従来難製造材であった極薄電磁鋼板の生産性も向上する。本発明によるこのような超極薄電磁鋼板は、特に高周波磁場下で使用される場合の渦電流損失を抑制できるため、鉄損低減に有効となるというメリットもある。
なお、現状でも本発明の一方法のように、再結晶焼鈍を行った鋼板に1〜20%程度のスキンパス圧延を行い製品として出荷されている電磁鋼板、いわゆるセミプロセス電磁鋼板がある。これはスキンパスを施した板が製品として出荷され、モーターメーカーでモーターの部品として加工された後、再結晶が十分に起きるような条件で焼鈍を行い、歪誘起粒成長を起こさせることで粗大な再結晶組織を得、磁気特性の改善を図る手段で、スキンパス法とよばれることもあるが、この方法においては部材としての使用時には加工組織を残存させることはない。
本発明は本質的にこの鋼板および方法とは異なっており、電気機器の部品として加工した後には基本的には熱処理は行わない。鋼板の接着や表面制御等で何らかの熱処理を行う場合にも本発明で規定する加工組織が消失せず、本発明の規定内にとどまるものに限定する。これは加工組織が消失または本発明の規定範囲から外れると、実モーターとして使用している状況で必要となる鋼板の特に強度が不足することになるからである。この熱処理の温度の目安は、上述の鋼板焼鈍工程における温度条件と同一である。最適な条件は鋼板を製造する当業者の協力の下で、または協力がなくとも通常の電気機器の製造者であれば数度の試行により何ら問題なく発明の効果を享受できる条件を見出すことが可能なものである。
以上で述べた「加工組織」の効果は、「加工組織」中の転位密度によって評価することも可能である。加工組織における平均転位密度が1exp13/m2以上、さらに好ましくは3exp13/m2以上、さらに好ましくは1exp14/m2以上、さらに好ましくは3exp14/m2以上である。この転位密度は透過型電子顕微鏡等により計測される。鋼板全量が再結晶組織である通常の電磁鋼板においては、平均転位密度が1exp12/m2程度以下であることから、加工組織の分別には十分な差として10倍以上としている。
なお、厳密には通常の電磁鋼板においても様々な部材として使用するにはメーカー等において剪断やかしめ等の加工が行われ、これにより鋼板中に導入された歪が少なからず残存し、部材特性に影響を及ぼすことが知られている。このような歪は鋼板の加工部位のみに入るもので、本発明で鋼板全面に意識的に残存させる歪とは異なり、部材全体としての高強度化にはほとんど寄与しないものである。
本発明のように、材料中に加工組織を残存させても良好な磁気特性を維持できる原因には明確ではないが、以下のように考えられる。従来、加工組織は磁気特性を大きく劣化させるものとして材料の高強度化の手段としては顧みられず、高強度化は結晶粒微細化、固溶強化、析出強化等により行われてきた。しかし、材料の高強度化への要求は高まる一方であり、従来の高強度化手段は顕著に磁気特性を劣化させるような条件の領域にまで踏み込まざるを得なくなっており、このような状況で改めて加工組織を活用した高強度化手段を見た場合、それほど不利な方法とは言えなくなっていることが一面ではあると思われる。
また、従来検討されていたのは、加工組織の影響は材料に冷間加工を施し、歪量が比較的小さい範囲のみであり、このような条件では材料中の転位構造は比較的均一で、いわゆるセル構造や回復組織のような比較的安定な転位配置を形成したものとはなっていなかったと予想される。この程度の加工量では高強度化手段としては全く魅力がないものであったうえに、このような転位構造では転位は磁壁移動の障害としかならず磁気特性の劣化は著しく、実用化されなかったものと思われる。
一方、本発明のように比較的高歪量の冷間加工を行った場合や、焼鈍により回復した加工組織においては、転位は比較的安定なセル構造を形成している。セルの大きさは通常直径1μm以下で0.1μm程度にもなっており、セルの境界は転位で形成されており、隣接するセルとの結晶方位差が小さいことを除けば一般の結晶粒と同様の構造を有しており、一種の超微細結晶粒と見ることが可能で磁壁移動の障害とはなりにくくなったものと考えられる。またこのような超微細結晶粒は強度も高く、加工が必要な場合の延性もそれなりに有しており、強度と磁性のバランスを考えると十分に実用化が可能なレベルにあると考える。
また、加工組織が存在する本発明鋼においても鉄損において特に渦電流損失の寄与が大きくなる高周波磁場下で使用されるような用途においては、Si,Mn,Al,Cr,Ni等の添加は重要なものであり、加工硬化挙動や再結晶挙動などの転位挙動に大きな影響を及ぼすため、電磁鋼板をベースとした転位強化鋼の開発は、自動車や容器等に用いられるいわゆる加工用普通鋼におけるものとは全く異なった意味を有する。
なお、本発明の効果は通常電磁鋼板の表面に形成される表面皮膜の有無および種類によらず、さらに製造工程にはよらないため無方向性または方向性の電磁鋼板に適用できる。特に本発明鋼は特性の面内異方性において従来の再結晶組織による鋼板とは大きく異なった特徴を付与することができる。磁束密度について見ると、冷延ままのフルハードの状態ではコイルの圧延方向から45°方向(D方向)の特性が圧延方向(L方向)またはコイル幅方向(C方向)の特性より高いものとなっている。通常の再結晶組織を有する電磁鋼板ではほとんどの場合、D方向の特性はLまたはC方向の特性より低くなっていることを考えると、再結晶・回復の程度を適当に調整し中間的な再結晶段階に制御することにより、面内異方性がほとんどない鋼板を得ることが容易に可能となる。面内異方性がほとんどないことは回転機等、用途によっては非常に好ましい特性を発揮できる特徴を有する鋼板である。
用途も特に限定されるものではなく、家電または自動車等で用いられるモーターのローター用途の他、強度と磁気特性が求められる全ての用途に適用される。
0.002%C−3.0%Si−0.5%Mn−0.03%P−0.001%S−0.3%Al−0.002%Nなる成分を有する200mm厚の鋼片から、スラブ加熱温度1100℃、巻取温度700℃の熱延を行い、熱延板焼鈍を800、950、1050℃と変化させ、粒径を10、100、200μmと変化させた。それぞれの熱延板を冷延後、焼鈍なし、および400〜1000℃30秒の焼鈍を行い、再結晶率および強度が異なる板厚0.5mmの製品板を製造した。これらについて、JIS5号試験片による機械的特性、および55mm角のSST試験による鉄損W10/400を評価した。機械的特性および磁気特性ともコイルの圧延方向、45°方向およびその直角方向について、以下の式で平均値を求めた。
X=(X0+2×X45+X90)/4
ここで、X0、X45、X90はコイルの圧延方向、45°方向およびその直角方向の特性である。
結果を図1に示す。結果から明らかなように、熱延板粒径が粗大な材料すなわち本発明の条件にて製造した材料は強度−鉄損バランスが良好である。
表1の成分を有する200mm厚の鋼片から、表2に示す製造条件で製品板を製造した。一部の材料についてはモーター製造メーカーでの熱処理を想定した熱処理(ユーザー焼鈍)を行った。これらについて、JIS5号試験片による機械的特性、および55mm角のSST試験による鉄損W10/400と磁束密度B25で特性を評価した。機械的特性および磁気特性ともコイルの圧延方向、45°方向およびその直角方向について、以下の式で平均値を求めた。
X=(X0+2×X45+X90)/4
ここで、X0、X45、X90はコイルの圧延方向、45°方向およびその直角方向の特性である。
結果を表2に示す。結果から明らかなように、本発明の条件にて製造した材料は硬質で、さらに磁気特性も優れている。注意を要するのは、一般に電磁鋼板は含有するSi量によりグレード分けされ販売されるように、Si量で特性が大きく異なる。また、板厚によっても鉄損は大きく異なる。高Si材は低Si材と比べて、Si含有量の差によって鉄損が大幅に低下し、また板厚が薄いものも鉄損が低下するので、本発明の効果を評価する際は、Si量や板厚の差を念頭に、Si量、板厚が同等なもので比較することが必要である。
Figure 2006169611
Figure 2006169611
冷延前粒径に依存する強度−鉄損バランスを示す図である。

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.060%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板内部に加工組織が残存する高強度電磁鋼板の製造方法において、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径dを20μm以上とすることを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
  2. 質量%で、C:0.060%以下、Si:0.2〜4.0%、Mn:0.05〜3.0%、P:0.30%以下、S:0.040%以下、Al:2.50%以下、N:0.020%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板内部に加工組織が残存する高強度電磁鋼板の製造方法において、最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径d(μm)を、
    d≧(220−50×Si%)
    とすることを特徴とする高強度電磁鋼板の製造方法。
  3. 最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程の直前における鋼板の平均結晶粒径d(μm)を、
    d≦(400−50×Si%)、
    かつ、
    d≦(820−200×Si%)、
    とすることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  4. 最終的に鋼板内部に残存する加工組織を形成する工程直前の鋼板の再結晶率を50%以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  5. 鋼成分が質量%で、さらに、Cu:0.1〜8.0%、Nb:0.03〜8.0%の一種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  6. 鋼成分が質量%で、さらに、Ti:1.0%以下、B:0.010%以下、Ni:5.0%以下、Cr:15.0%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  7. 鋼成分が質量%で、さらに、Mo,W,Sn,Sb,Mg,Ca,Ce,Coの1種または2種以上を合計で0.5%以下含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  8. 前記鋼板内部に存在する加工組織が、断面観察における面積率で1%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
  9. 前記鋼板内部の加工組織における平均転位密度が1exp13/m2以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の高強度電磁鋼板の製造方法。
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