JP2006167425A - 車両用心的資源評価装置及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】 車両運転者における人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源という新規な概念を提案するとともに、この心的資源を車両運転者の生体指標に基づいて算出し、評価する車両用心的資源評価装置及びその利用を提供する。
【解決手段】 車両運転者の生理指標を測定する測定手段と、車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段と、上記測定手段と通知手段からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段と、上記車両運転者の心的資源が、所定の範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、を備えている車両用心的資源評価装置によれば、車両事故に繋がる人為的ミスの発生の有無を正確に評価できる。
【選択図】 なし
【解決手段】 車両運転者の生理指標を測定する測定手段と、車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段と、上記測定手段と通知手段からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段と、上記車両運転者の心的資源が、所定の範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、を備えている車両用心的資源評価装置によれば、車両事故に繋がる人為的ミスの発生の有無を正確に評価できる。
【選択図】 なし
Description
本発明は、車両運転者の心的資源を計測し評価する車両用心的資源評価装置及びその利用に関し、より詳細には、車両運転者の生体指標に基づいて、人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源を算出し、評価する車両用心的資源評価装置及びその利用に関するものである。
自動車事故による死者数は近年減少傾向にあるものの、事故発生件数そのものは依然として多い。この理由の1つとし、事故の根本的な原因が、「わき見」「見落とし」「居眠り」といった人為的ミス(ヒューマンエラー)によることにある。このため人為的ミス発生の原因を探り、予防することが重要である。
このため、近年、生理指標等から車両運転者の状態や疲労度等を推定し、自動車事故に繋がる人為的ミスの発生を防止するための技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、車両運転者の身体状態計測データの信頼性を向上させ、運転者および走行状況区分毎に計測データを記憶し、また、前回計測データの検索を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、複数の運転者が使用する車両においても、個々の運転者の精神疲労度を判定でき、また、運転作業により生じる精神疲労度を判定する技術が開示されている。
また、直接的に自動車事故を防止するための技術ではないが、例えば、特許文献3には、互いに異なる複数の生理指標データから人間の思考状態を推定する思考状態推定装置に関する技術が開示されている。
特開平11−151231号公報(公開日:平成11年(1999)6月8日)
特開平11−151230号公報(公開日:平成11年(1999)6月8日)
特開2003−275193(公開日:平成15(2003)年9月30日)
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2に開示されている技術では、心電信号のみを情報源として運転者状態や疲労度を推定しているが、自動車事故の原因となる人為的ミスの発生に関わる要素は疲労度だけではない。このため、より正確に人為的ミスの発生を防止するためには、他の要素を含めた新しい度合いの提案が必要である。
また、上記特許文献3に記載の技術は、複数の生理指標から被測定者の思考状態を推定する装置を提案しているが、上記特許文献1、2と同様に、人為的ミスに関わる要素は思考状態だけではない。また、この装置では道路に関する情報を全く扱っていないため、交差点など、特定道路状況下ごとの情報処理ができない。
そもそも、自動車事故のうち、例えば、車両相互の交差点における出会い頭事故は、死亡事故件数が最も多い事故の1つである。出会い頭事故の原因の1つに、車両運転者の認知・判断エラーがある。このように、道路状況は、車両事故の発生において、非常に重要なものである。にもかかわらず、上記特許文献1〜3には、この道路状況と人為的ミスの発生の関連性について一切触れられていない。
このため、車両運転者の身体・心理状態と道路状況とを関連付けた人為的ミスの発生の解析・評価技術の開発、より具体的には、例えば、車両運転者の認知・判断エラー発生の予防を目標として、認知・判断エラーが発生する、あるいは起こる可能性がある車両運転者の状態の検知手法の開発が強く求められていた。特に、運転中の余計な考え事やぼんやりなど、事故発生につながる危険な心的状態を検出する新規な概念、つまり新規な指標の提案、そしてその新規指標の提案に基づいた事故発生を防止するための技術の開発が潜在的に強く望まれていた。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両運転者における人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源という新規な概念を提案するとともに、この心的資源を車両運転者の生体指標に基づいて算出し、評価する車両用心的資源評価装置及びその利用を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、(i) 人為的ミスの発生の起こり易さの指標となる心的資源という新規概念を考え出し、(ii) 生理指標(例えば、心拍等)を利用して車両用運転者の心的資源を推定することができること、(iii) 運転中の車両用運転者の心拍を計測、処理することで、運転に対する心的資源を近似的に測定すること、(iv) 心的資源の推定が可能になれば、それが安全な交差点通過に必要とされる値の範囲外であるとき、車両用運転者の危険状態として検知できる車両用心的資源評価装置や事故発生防止装置の開発ができること、等の新事実を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)車両運転者の生理指標を測定する測定手段と、車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段と、上記測定手段と通知手段からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段と、上記車両運転者の心的資源が所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定する判定手段と、を備えている車両用心的資源評価装置。
(2)上記判定手段における所定の範囲は、各道路状況に応じた、安全な運転に必要な心的資源の範囲である(1)に記載の車両用心的資源評価装置。
(3)上記測定手段が測定する生理指標は、心拍数であり、上記心的資源推定手段が算出する心的資源は、車両が所定の道路状況にある場合の、所定の期間における車両運転者の心拍数である(1)又は(2)に記載の車両用心的資源評価装置。
(4)上記車両が所定の道路状況にある場合とは、車両が交差点に進入する場合である(1)〜(3)のいずれかに記載の車両用心的資源評価装置。
(5)上記判定手段における所定の範囲とは、上記車両運転者の運転履歴から求められるものである(1)〜(4)のいずれかに記載の車両用心的資源評価装置。
(6)上記判定手段における所定の範囲とは、上記車両運転者が過去に複数の交差点へ進入する場合に測定した所定の期間の心拍数のヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲であり、上記判定手段は、上記算出した心的資源が所定の範囲内にないと判定した場合、車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあると判定するものである(5)に記載の車両用心的資源評価装置。
(7)さらに、各道路状況に応じて、安全な運転に必要な心的資源の範囲を上記所定の範囲として設定する範囲設定手段を備えており、上記判定手段は、上記範囲設定手段によって設定された所定の範囲を用いて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定するものである(1)〜(6)のいずれかに記載の車両用心的資源評価装置。
(8)上記範囲設定手段は、上記測定手段及び通知手段からの情報に基づいて、車両運転者の運転履歴に応じて、上記所定の範囲を設定するものである(7)に記載の車両用心的資源評価装置。
(9)上記範囲設定手段は、上記車両運転者が過去に交差点へ進入した際に、所定の期間だけ心拍数を測定し、当該測定した心拍数のヒストグラムを作成し、このヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲を所定の範囲として設定するものである(8)に記載の車両用心的資源評価装置。
(10)上記範囲設定手段は、車両運転者の運転履歴に応じて、上記所定の範囲を随時更新するものである(8)又は(9)に記載の車両用心的資源評価装置。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の車両用心的資源評価装置と、上記判定手段において車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあると判定される場合に、当該車両運転者に対して注意を喚起する注意喚起手段と、を備える事故発生防止システム。
なお、上記車両用心的資源評価装置及び事故発生防止システムは、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記車両用心的資源評価装置及び事故発生防止システムをコンピュータにて実現させる車両用心的資源評価装置及び事故発生防止システムの制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
本発明では、これまでにない新規な概念である心的資源という概念を車両運転者の身体及び/又は心理状態の評価のために用いることを提案している。そして、この心的資源を車両運転者の生体指標に基づいて算出・評価することによる、車両事故発生の防止に資する技術を提供している。
したがって、本発明に係る車両用心的資源評価装置によれば、心的資源に基づいて、車両運転者の人為的ミスの発生の有無を簡便かつ正確に評価することができるという効果を奏する。このため、例えば、人為的ミスが発生すると評価された場合、車両運転者に注意を喚起することにより、未然に事故の発生を防止することができる。それゆえ、本発明には事故発生防止システムが含まれる。
以下、まず本発明に係る車両用心的資源評価装置について説明し、次いで、その利用として事故発生防止システムについて説明する。
<1.車両用心的資源評価装置>
本発明の本質は、(i)車両運転者(ドライバ)の生理指標(例えば、心拍等)から心的資源を推定する工程、(ii)各道路状況で、安全な運転に必要な心的資源の範囲を推定する心的資源推定工程、(iii)ドライバの心的資源が安全な運転に必要な心的資源の範囲にあるかどうかを判定する工程、の少なくとも3段階のステップからなる。
本発明の本質は、(i)車両運転者(ドライバ)の生理指標(例えば、心拍等)から心的資源を推定する工程、(ii)各道路状況で、安全な運転に必要な心的資源の範囲を推定する心的資源推定工程、(iii)ドライバの心的資源が安全な運転に必要な心的資源の範囲にあるかどうかを判定する工程、の少なくとも3段階のステップからなる。
そして、本発明を具現化するためには、例えば、ドライバの生理指標を測定する手段(測定装置)、及びカーナビゲーションシステムやGPSのような、車両(自車)の位置や道路状況を検出、通知する手段(通知装置)を用いることが挙げられる。
ここで、本明細書において、文言「心的資源」とは、人為的ミス(ヒューマンエラー)の発生の可能性の度合いと関係のある総合的な指標のことをいう。特に、運転に対する集中度、緊張度、疲労度、覚醒度などとも関係があるものである。例えば、この心的資源が運転に対して適正に割り当てられていないと、事故や危険な事象を引き起こす場合がある。
以下、本発明に係る車両用心的資源評価装置について、詳細に説明する。本発明に係る車両用心的資源評価装置は、車両運転者の生理指標を測定する測定手段と、車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段と、上記測定手段と通知手段からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段と、上記車両運転者の心的資源が所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定する判定手段と、を備えているものであれば、その他の具体的な構成、大きさ、形状等は特に限定されるものではない。ただし、車両運転者用の装置であるため、車両に搭載できる程度の大きさであることが好ましい。
文言「車両運転者」とは、主として自動車の運転者を意図しているが、これに限定されるものではなく、例えば、自動二輪車(バイク)、自転車等の車両の運転者も含まれ得る広義の意である。また、「生理指標」とは、心拍、脈拍、血流量、心電信号(ECG;electrocardiogram)、発汗の有無、脳波等の車両運転者の生物学的・生理的な指標のことをいうが、なかでも特に心拍が好ましい。以下、本実施の形態では、特に生理指標として心拍数を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
図1に、本実施の形態に係る車両用心的資源評価装置の構成を模式的に表す機能ブロック図を示す。図1に示すように、車両用心的資源評価装置10は、測定部1、通知部2、心的資源算出部3、判定部4を備えている。
測定部1は、車両運転者の生理指標を測定することができる測定手段として機能できるものであればよく、その具体的な構成等は特に限定されるものではない。文字通り、上述の生理指標を測定するための装置、器具等のことであり、従来公知の測定装置を好適に用いることができる。具体的には、例えば、心拍であれば車両運転者の耳朶や指先につける心拍計等を挙げることができるし、また後述する実施例に示すように、ECGデータから心拍数を求める装置等も好適に利用可能である。
また、心拍等の生理指標データの取得には、ドライバにほとんど負担をかけないで計測できる装置が好ましい。例えば、心拍の測定についていえば、指先や耳たぶにとりつけるセンサを使えば、比較的負担は少ないため、好適である。
通知部2は、車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段として機能するものであればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、従来公知のGPSやカーナビゲーションシステム等を好適に用いることができる。また、「道路情報」とは、交通渋滞、道幅、交通量、交差点、道路標識、信号の有無、見通しの良さ、優先/非優先の別、制限速度、横断歩道、踏み切り、道路の周囲の環境(繁華街か住宅地か等)、傾斜(坂道)、事故の有無、事故内容、事故頻度、故障車両の存在、道路上落下物の有無、路面状態(凍結など)、有料道路、車両スピード、歩行者又は他の車両や自転車等の存在、天候(積雪、雨、霧等)等を含めたあらゆる道路情報を挙げることができ、具体的な構成については特に限定されるものではない。なお、「通知」とは、後述する心的資源算出手段に車両の位置情報や道路状況を通知することを意味する。
通知部2としては、例えば、自車位置のより精度の高い情報の収集が可能なもの、また、停止線前で停止できる、ぎりぎりの時間、または位置の検出が可能なものが好ましい。
心的資源算出部3は、測定部1と通知部2からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段として機能するものである。より具体的には、例えば、測定部2が測定する生理指標が心拍数であるとき、心的資源算出部3が算出する心的資源としては、車両が所定の道路状況にある場合の、所定の期間における車両運転者の心拍数、心拍数の平均値、及び心拍数の合計値等の心拍数から算出される数値を挙げることができる。
ここで、上記「車両が所定の道路状況にある場合」とは、上述の道路情報等の、あらゆる道路状況を含む意であり、その具体的な状況については、特に限定されない。なお、本実施の形態では、特に、車両が交差点に進入する場合を例に挙げて説明する。また、車両が交差点に進入する前の所定の期間としては、例えば、車両が交差点に進入する1秒前〜60秒前、より好ましくは3秒前〜30秒前、さらに5秒前〜20秒前の道路状況が好ましい。
つまり、具体的に説明すると、心的資源算出部3は、例えば、測定部1と通知部2からの情報に基づき、車両が解析対象の交差点に進入する前の所定の期間(上記の好ましい期間)、生理指標(例えば、心拍)を測定し、その所定期間における平均値を算出し、これを心的資源とする処理を行うものである。より詳細には、車両が交差点に進入する前の所定の期間については、通知部2からの情報に基づき、生理指標の測定は測定部1からの情報(測定情報)に基づいて処理が行われる。
また、判定部4は、上記車両運転者の心的資源が所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定する判定手段として機能するものである。ここで、判定部4における所定の範囲とは、各道路状況に応じた、安全な運転に必要な心的資源の範囲である。
上記所定の範囲としては、例えば、上記車両運転者の運転履歴から求められる。特に、判定部4における所定の範囲は、上記車両運転者が過去に複数の交差点へ進入する場合に測定した所定の期間の心拍数の平均値のヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲であることが好ましい。ここで「ヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲」とは、ヒストグラムにおいて、ヒストグラムの25%以上75%以下の範囲のことをいう。なお、これらの所定の範囲は、予め設定されて不図示の記憶部に格納されており、必要に応じて呼び出される構成であればよい。
これは、後述する実施例に示すように、車両が複数の交差点に進入する前の所定期間に測定した車両運転者の心拍数の平均値を算出し、そのヒストグラムを作成したところ、このヒストグラムの頻度が1/4未満の範囲である場合、すなわち、ヒストグラムの25%未満の範囲(つまり、ヒストグラムの下1/4の範囲)及び75%よりも大きい範囲(つまり、ヒストグラムの上1/4の範囲)の心拍数であるとき、事故が発生しやすい傾向があることがわかったためである。なお、25%、50%、75%の設定は、単純に最大心拍数と最小心拍数の区間を4分割して設定している。
より詳細には、後述する実施例に示すように、例えば、複数の交差点(一時停止交差点)に進入する際の車両運転者の心拍数を複数測定し、各交差点における心拍数の平均値を算出し、そのヒストグラムを作成する。このヒストグラムにおいて最大心拍数と最小心拍数の区間において、25%未満の範囲及び75%よりも大きい範囲の心拍数である場合、当該交差点において事故が発生しやすい傾向があると判定できる。
このため、上記のように判定部4における所定の範囲を設定することが好ましい。このことは、車両運転者の通常の心拍数に比べて心拍数が低すぎる場合や高すぎる場合には、事故が発生しやすいという独自の知見を本発明者らが見出したために完成させることができた技術である。
なお、上記判定手段における所定の範囲として、上記車両運転者が過去に複数の交差点へ進入する場合に測定した所定の期間の心拍数のヒストグラムにおいて、頻度1/4以下の範囲を用いる場合も同様に本発明に含まれることを念のため付言しておく。これは、所定の範囲として、頻度1/4以下の範囲を用いる場合、算出した心的資源が所定の範囲内にあると事故が発生しやすい傾向にあると判定し、一方、所定の範囲内にないと事故が発生し難い傾向にあると判定することになる。いずれを“所定の範囲”として選択するかは任意であり、またいずれを選択しても同様の結果が得られることになる。
本実施の形態に係る車両用心的資源評価装置10の処理フローの一例を図2に示す。まず、通知部2が、解析対象となる交差点(一時停止交差点)に関して、車両の位置情報及び道路情報を検出し、心的資源算出部4に対して通知する(S1)。
次に、測定部1が車両運転者の生理指標を複数測定し、心的資源算出部4に対して送信する。具体的には、測定部1は、通知部2によって通知された上記交差点(一時停止交差点)に進入する際の車両運転者の心拍数を複数測定し、心的資源算出部4に対して送信する(S2)。
次いで、心的資源算出部3が、上記各交差点における心拍数の平均値を心的資源として算出する(S3)。
続いて、判定部4が、車両運転者の心的資源が所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定する(S4)。具体的には、例えば、所定の範囲として、解析対象の車両運転者が過去に複数の交差点を通過する際の心拍数の平均値からヒストグラムを作製し、このヒストグラムにおける最大心拍数と最小心拍数の区間において、25%未満の範囲及び75%よりも大きい範囲を用いる場合、判定部4は、上記心的資源が上記ヒストグラムにおける最大心拍数と最小心拍数の区間において、25%未満の範囲及び75%よりも大きい範囲であるか否かを判定し、範囲内であれば解析対象の交差点において事故が発生しやすい傾向があると判定する。一方、範囲外であれば、解析対象の交差点において事故が発生しにくい傾向があると判定する。
最後に、処理を終了する。
また、本発明には、図3に示すように、上記所定の範囲を設定する範囲設定手段として機能する範囲設定部5を備える車両用心的資源評価装置10’も含まれる。
範囲設定部5は、各道路状況に応じて、安全な運転に必要な心的資源の範囲を上記所定の範囲として設定するものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。この場合、判定部4は、範囲設定部5によって設定された所定の範囲を用いて判定することになる。すなわち、上述した車両用心的資源評価装置10では、所定の範囲は予め初期値として設定されている場合を想定しているが、車両用心的資源評価装置10’は、この範囲設定部5を備えることにより、各道路状況に応じて、安全な運転に必要な心的資源の範囲を上記所定の範囲として、適宜設定することができる点で有利である。
範囲設定部5は、例えば、不図示の記憶部に予め記憶されている“各道路状況に応じた安全な運転に必要な心的資源の範囲”を、各道路状況に応じて呼び出し、上記所定の範囲として設定することができる。その際、範囲設定部5は、測定部1及び通知部2からの情報に基づいて、車両運転者の運転履歴に応じて、上記所定の範囲を作成して設定したり、また不図示の記憶部に格納したりすることができる。
より詳細には、例えば、範囲設定部5は、車両用心的資源評価装置10’の測定部1と通知部2との情報に基づき、車両運転者が過去に所定の道路状況(例えば、交差点等)へ複数回進入する毎に、所定の期間に心拍数を測定し、当該測定した心拍数の平均値のヒストグラムを作成する。そして、このヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲を所定の範囲として設定し、必要に応じて記憶部(不図示)に格納する。そして、車両運転者が上記所定の道路状況になった場合の心的資源を算出し、この心的資源と上記所定の範囲と比較して、事故の生じやすさを判定することになる。
また、この範囲設定部5を備える場合、車両運転者の運転履歴に応じて、所定の範囲を随時更新するものであることがさらに好ましい。この場合、車両運転者の最新の運転状況や運転履歴に基づいて、心的資源の判定を行うことが可能となるため、評価がより正確になるという利点がある。
なお、範囲設定部5を備える場合でも、車両用心的資源評価装置10’の基本的な処理フローは図2に示すものと同様である。異なる部分は、図2のS4において、判定部4がが、予め記憶部に格納されている“所定の範囲”を用いるか、それとも範囲設定部5によって作製されたものを用いるかという点のみである。
上述したように、本発明では、所定の道路状況にある際の車両運転者の心拍等の生理指標と事故との関係を直接調べるための実験とその解析から、心的資源という、危険事象発生と直接関係がある概念を提案することができた。すなわち、本発明は、心拍等の生理指標を使って心的資源を推定し、道路状況に応じて必要な心的資源(道路状況ごとに異なる)と現在の車両運転者の心的資源の比較により、危険な心的状態にあるかどうか判断する仕組みといえる。
このように、特定の道路状況下の運転に対して、必要な心的資源の範囲があらかじめ分かっていれば、車両運転者の心的資源がその範囲にあるかどうか調べることで、危険事象発生の可能性が高いかどうか、すなわち事故が発生しやすいか否かの判断が可能となる。
したがって、本発明に係る車両用心的資源評価装置によれば、ヒューマンエラーが原因の自動車事故(交差点における自動車同士の出会い頭事故など)を防止する装置の基本的構成として活用することができる。
<2.事故発生防止システム>
以上のように、本発明に係る車両用心的資源評価装置は、心拍等の生理指標を利用してドライバの心的資源を推定する技術を用いており、この心的資源の推定が可能になれば、それが安全な交差点通過に必要とされる値の範囲外であるとき、車両運転者の危険状態として検知できる装置の開発につながる。
以上のように、本発明に係る車両用心的資源評価装置は、心拍等の生理指標を利用してドライバの心的資源を推定する技術を用いており、この心的資源の推定が可能になれば、それが安全な交差点通過に必要とされる値の範囲外であるとき、車両運転者の危険状態として検知できる装置の開発につながる。
つまり、車両運転者に心的資源を適正範囲に戻すよう警告を発する装置の基本的構成(アルゴリズムを含む)として用いることができる。
したがって、本発明には事故発生防止システムが含まれる。本発明に係る事故発生防止システムの機能ブロックの一例を模式的に説明したものを図4に示す。
図4に示すように、本実施の形態に係る事故発生防止システム20は、少なくとも、上記<1>欄で説明した車両用心的資源評価装置10と、車両用心的資源評価装置10に含まれる判定部4において車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあると判定される場合に、車両運転者に対して注意を喚起する注意喚起手段として機能する注意喚起部6、を備えていればよく、その他の具体的な構成等は特に限定されるものではない。
ここで、注意喚起部6としては、例えば、車両運転者に対してアラーム等の音声警告を発する構成、シートベルトの締め付けを強く(厳しく)したり、振動を与えたり等の車両運転者に対して身体的な警告を発する構成等といった、従来公知の注意喚起機構を用いることができ、その具体的な構成等は特に限定されるものではない。
なお、事故発生防止システム20として、車両用心的資源評価装置10の換わりに車両用心的資源評価装置10’を用いてもよいことはいうまでもない。
このように、本発明に係る事故発生防止システムによれば、車両運転者の心的資源に基づいて、事故発生の原因となる人為的ミスの発生を判定し、その判定結果に応じて、車両運転者に対して警告を発することができる。このように、本発明に係る事故発生防止システムは、今回新たに開発した心的資源という新規概念を導入しているため、従来の事故発生防止装置に比べて、より正確に事故の発生を防止することができる。
さらに、本発明に係る車両用心的資源評価装置又は事故発生防止システムは、車両に直接搭載する実用化の他に、例えば、カーナビゲーション装置(システム)に搭載し、事故防止機能を搭載したカーナビ製品として実用化することも可能である。この場合、高度なナビゲーション応用機能の1つとして、例えば、カーナビのオプション機能として組み込まれていてもよい。
最後に、本発明に係る車両用心的資源評価装置及び事故発生防止システムの各ブロック、特に心的資源算出手段、判定手段、範囲設定手段、及び注意喚起手段(以下、単に心的資源算出手段等と称する)は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、心的資源算出手段等は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである心的資源算出手段等の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記心的資源算出手段等に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、心的資源算出手段等を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実験A〕
<1.序論>
自動車事故による死者数は近年減少傾向にあるものの、事故発生件数そのものは依然として多い。この理由の1つとして、事故の根本的な原因が、「わき見」「見落とし」「居眠り」といった人為的なミスによることにある。このため人為的ミス発生の原因を探り、予防することが重要である。
<1.序論>
自動車事故による死者数は近年減少傾向にあるものの、事故発生件数そのものは依然として多い。この理由の1つとして、事故の根本的な原因が、「わき見」「見落とし」「居眠り」といった人為的なミスによることにある。このため人為的ミス発生の原因を探り、予防することが重要である。
自動車事故のうち、車両相互の交差点における出会い頭事故は、死亡事故件数の多い事故の1つである。出会い頭事故の原因の一つに、ドライバの認知・判断エラーがある。我々は、ドライバの認知・判断エラー発生の予防を目標に、まずは認知・判断エラーが発生する、あるいは起こる可能性があるドライバの状態の検知手法の開発を試みる。人間の心理状態等を計測する研究としては、心拍などの指標を用いて、精神作業ストレスを評価する研究(下野太海、大須賀美恵子、寺下裕美:心拍・呼吸・血圧を用いた緊張・単調作業ストレスの評価手法の検討、人間工学、Vol.34、No.3、pp.107-115(1998))や、数学問題解法時の思考状態を推定する研究(Taketoshi Kurooka、Ippei Hoshi、Yuh Yamashita and Hirokazu Nishitani :Cascade estimation model for thinking state monitoring using plural physiological signals、Proceedings of XVth Triennial Congress International Ergonomics Association、T846(2003))がある。本明細書では、生理指標としてドライバの心電活動(ECG、electrocardiogram)に着目する。ドライビングシミュレータを用いて出会い頭事故を誘発する実験を行い、事故発生時刻付近の生理指標に特徴がないかを調べ、その特徴と認知・判断エラーとの関係を考察する。
<2.ドライビングシミュレータ>
出会い頭事故の実験で実車を用いた場合、高い危険性が伴うため、ドライビングシミュレータ(以下DS)を用いる。しかし、市販DSの多くはシミュレーションコースの作成、移動する他車の設定変更が不可能であり、設定条件を変えた出会い頭事故実験には不向きであることから、独自の出会い頭事故誘発実験用DSの開発を行った。
出会い頭事故の実験で実車を用いた場合、高い危険性が伴うため、ドライビングシミュレータ(以下DS)を用いる。しかし、市販DSの多くはシミュレーションコースの作成、移動する他車の設定変更が不可能であり、設定条件を変えた出会い頭事故実験には不向きであることから、独自の出会い頭事故誘発実験用DSの開発を行った。
<2.1 DS構成>
開発したDSの構成を図5に示す。DS制御用PC1、オペレータ用ディスプレイ2、ドライバ用ディスプレイ3、ドライバ操作部4からなる。走行シミュレーション、コース及びシナリオ作成に必要な処理は、全てDS制御用PC1で行う。走行シミュレーション時の視界画面はドライバ用ディスプレイに表示される。運転操作はDS操作部のフォースフィードバック機能付きステアリングとペダルを用いる。シミュレーションコース及びシナリオ作成時は、オペレータ用ディスプレイを用いる。基本設計以後のDS製作は、東芝テスコ(株)に依頼した。
開発したDSの構成を図5に示す。DS制御用PC1、オペレータ用ディスプレイ2、ドライバ用ディスプレイ3、ドライバ操作部4からなる。走行シミュレーション、コース及びシナリオ作成に必要な処理は、全てDS制御用PC1で行う。走行シミュレーション時の視界画面はドライバ用ディスプレイに表示される。運転操作はDS操作部のフォースフィードバック機能付きステアリングとペダルを用いる。シミュレーションコース及びシナリオ作成時は、オペレータ用ディスプレイを用いる。基本設計以後のDS製作は、東芝テスコ(株)に依頼した。
DSのハードウエア構成(a)〜(c)を以下に示す。
(a)DS制御用PC1:
・CPU:2.26GHz Intel社Pentium4 512MB Memory
・Graphics Card:NVIDIA Quadro4 700 XGL
・OS:Microsoft 社 Windows 2000
(b)ドライバ用ディスプレイ3:
・42インチプラズマディスプレイ(日立製作所CMP402HDJ)
(c)ドライバ操作部4:
・Microsoft 社SIDEWINDER FORCE FEEDBACK WHEEL USB
このDSにおけるドライバの視野角は54度と小さいが、ハンドル裏側にあるレバーを操作して、左右方向へ視界を移動できる。従って、交差点進入時にドライバは左右を確認し、交差車両などの有無を調べることができる。
(a)DS制御用PC1:
・CPU:2.26GHz Intel社Pentium4 512MB Memory
・Graphics Card:NVIDIA Quadro4 700 XGL
・OS:Microsoft 社 Windows 2000
(b)ドライバ用ディスプレイ3:
・42インチプラズマディスプレイ(日立製作所CMP402HDJ)
(c)ドライバ操作部4:
・Microsoft 社SIDEWINDER FORCE FEEDBACK WHEEL USB
このDSにおけるドライバの視野角は54度と小さいが、ハンドル裏側にあるレバーを操作して、左右方向へ視界を移動できる。従って、交差点進入時にドライバは左右を確認し、交差車両などの有無を調べることができる。
<2.2 シミュレーションコースの作成>
交差点や直線道路等の道路部品ユニットを組み合わせることで、コースを作成する。道路環境となる木や建物も、道路部品ユニット同様に、自由に配置できる。他車となる乗用車やバイクなどの移動モデルは、用意されたものの中からコース内に自由に配置でき、また移動の設定が可能である。具体的には、初期位置、移動目的地、移動開始タイミング(自車との距離)を指定する。また、目的地までの行程を区切って、区間ごとに移動速度を設定できる。
交差点や直線道路等の道路部品ユニットを組み合わせることで、コースを作成する。道路環境となる木や建物も、道路部品ユニット同様に、自由に配置できる。他車となる乗用車やバイクなどの移動モデルは、用意されたものの中からコース内に自由に配置でき、また移動の設定が可能である。具体的には、初期位置、移動目的地、移動開始タイミング(自車との距離)を指定する。また、目的地までの行程を区切って、区間ごとに移動速度を設定できる。
<3.予備実験>
開発したDSで、ドライバが出会い頭事故を起こすか否かを確かめるため、出会い頭事故を誘発する予備実験を行った。併せて運転中の生理指標データを収集して、事故時の特徴を調べた。
開発したDSで、ドライバが出会い頭事故を起こすか否かを確かめるため、出会い頭事故を誘発する予備実験を行った。併せて運転中の生理指標データを収集して、事故時の特徴を調べた。
<3.1 実験装置>
図6に予備実験の実験装置を示す。
図6に予備実験の実験装置を示す。
ドライバのECGを、生理指標計測装置MP−150(BIOPAC社)で計測、保存する。サンプリング周波数は200Hzである。MP−150はリアルタイムでECGの時系列グラフをPC画面上にスクロールさせながら表示できる。このグラフ画面とドライバ用ディスプレイに提示されるドライバ視野の映像、ドライバ表情の映像と背後からのドライバ全体の映像の計4つの映像と音声情報をDVDレコーダなどで記録した。これらの映像は、ECGと事故の関係を考察するのに用いられる。予備実験ではECG以外に呼吸活動(RSP、respiratory activity)、瞬目活動(EOG、electrooculogram)、アイカメラEMR−8(ナックイメージテクノロジー社)を用いたアイマークデータを収集したが、本実験では検討の対象外とした。
<3.2 実験条件>
被験者として20代の男子学生2名(被験者A、Bとする)、40代の男性1名(被験者Cとする)の計3名に実験コースを運転してもらった。実験コースは全域制限速度40km/hで、制限速度で走行すると1周10分程度の周回コースである。コース中に5カ所の一時停止標識のある交差点が設置されている。
被験者として20代の男子学生2名(被験者A、Bとする)、40代の男性1名(被験者Cとする)の計3名に実験コースを運転してもらった。実験コースは全域制限速度40km/hで、制限速度で走行すると1周10分程度の周回コースである。コース中に5カ所の一時停止標識のある交差点が設置されている。
DSでの操作に慣れてもらうため、被験者には最初に別の練習用コースを運転してもらった。その後、走行のみ、副次課題(1桁〜3桁の四則演算の暗算を発話で回答)を与えた場合の走行実験を行った。
<3.3 実験結果>
今回の実験では、3回(被験者Bが1回、Cが2回)の出会い頭事故が発生した。走行のみの場合でも1回発生している。このことから、開発したDSで出会い頭事故を再現できる見通しがついた。
今回の実験では、3回(被験者Bが1回、Cが2回)の出会い頭事故が発生した。走行のみの場合でも1回発生している。このことから、開発したDSで出会い頭事故を再現できる見通しがついた。
事故が発生した近辺の時刻でのECGの特徴を調べたところ、3人の被験者とも、副次課題を与えながら運転した方が、与えないで運転した場合より心拍数が大きい傾向が見られた。これは、暗算のような心的集中は心拍増加と関係があるとするLaceyらの説(藤沢清、他:新生理心理学I 生理心理学の基礎、京都、北大路書房、1998、328p)に合う結果である。例として、被験者Cの心拍数変化の様子を図7に示す。2カ所の縦破線が事故発生時刻を示す。2回の事故のうち、1回目は心拍数が急激に上昇した直後、2回目は、その直後で心拍数が減少したときに起きている。
1回目の事故は、交差点進入時の減速開始が遅れ、交差点手前で止まりきらずに進入してしまい、そこで交差車両と接触を起こしている。また、事故直前の心拍数を見ると、上昇開始時刻が暗算を開始した時刻とほぼ一致している。心拍数の急激な上昇は、精神的負担を表していると考えられる。それゆえ、この事例では暗算を始めたことがきっかけで、減速開始のタイミングが遅れるという認知・判断エラーが発生したと推察される。このような顕著な例は予備実験中の3回の事故のうち1回にすぎないが、ECGの情報が、ドライバの認知・判断エラー検知に役立つ可能性を示唆していると考えられる。
〔実験B〕
<1.序論>
〔実験A〕に引き続き、以下のように、実験Bを行い、さらなる検討・解析を行った。具体的には、出会い頭事故の人的要因分析に注目し、非優先側運転者の交差点進入行動を分類している研究がある(神田、石田:出合頭事故における非優先側運転者の交差点進入行動の検討、日本交通科学協議会誌、Vol.1、No.1、pp.11-22(2001))。また人間の心理状態等を計測する研究としては、心拍などの指標を用いて、精神作業ストレスを評価する研究(下野、大須賀、寺下:心拍・呼吸・血圧を用いた緊張・単調作業ストレスの評価手法の検討、人間工学、Vol.34、No.3、pp.107-115(1998))や、数学問題回答時の思考状態を推定する研究(Kurooka、Hoshi、Yamashita and Nishitani:Cascade estimation model for thinking state monitoring using plural physiological signals、Proceedings of XVth Triennial Congress International Ergonomics Association、T846(2003))がある。本実験では、ドライビングシミュレータを用いて出会い頭事故を誘発する実験を行い、事故発生時刻付近の生理指標に特徴がないかを調べ、その特徴と認知・判断エラーとの関係を考察する。生理指標としてはドライバの心電活動(ECG;electrocardiogram)に注目し、ドライバの視線の動きも分析する。
<1.序論>
〔実験A〕に引き続き、以下のように、実験Bを行い、さらなる検討・解析を行った。具体的には、出会い頭事故の人的要因分析に注目し、非優先側運転者の交差点進入行動を分類している研究がある(神田、石田:出合頭事故における非優先側運転者の交差点進入行動の検討、日本交通科学協議会誌、Vol.1、No.1、pp.11-22(2001))。また人間の心理状態等を計測する研究としては、心拍などの指標を用いて、精神作業ストレスを評価する研究(下野、大須賀、寺下:心拍・呼吸・血圧を用いた緊張・単調作業ストレスの評価手法の検討、人間工学、Vol.34、No.3、pp.107-115(1998))や、数学問題回答時の思考状態を推定する研究(Kurooka、Hoshi、Yamashita and Nishitani:Cascade estimation model for thinking state monitoring using plural physiological signals、Proceedings of XVth Triennial Congress International Ergonomics Association、T846(2003))がある。本実験では、ドライビングシミュレータを用いて出会い頭事故を誘発する実験を行い、事故発生時刻付近の生理指標に特徴がないかを調べ、その特徴と認知・判断エラーとの関係を考察する。生理指標としてはドライバの心電活動(ECG;electrocardiogram)に注目し、ドライバの視線の動きも分析する。
<2.ドライビングシミュレータ>
出会い頭事故の実験で実車を用いた場合、高い危険性が伴うため、ドライビングシミュレータ(以下DS)を用いる。しかし、市販DSの多くはシミュレーションコースの作成、移動する他車の設定変更が不可能であり、設定条件を変えた出会い頭事故実験には不向きであることから、独自に出会い頭事故誘発実験用に開発したDS(原田、黒崎、小坂、山下、西谷:出会い頭事故解析用ドライビングシミュレータの開発、ヒューマンインタフェイスシンポジウム、pp.797-798(2003))を用いる。
出会い頭事故の実験で実車を用いた場合、高い危険性が伴うため、ドライビングシミュレータ(以下DS)を用いる。しかし、市販DSの多くはシミュレーションコースの作成、移動する他車の設定変更が不可能であり、設定条件を変えた出会い頭事故実験には不向きであることから、独自に出会い頭事故誘発実験用に開発したDS(原田、黒崎、小坂、山下、西谷:出会い頭事故解析用ドライビングシミュレータの開発、ヒューマンインタフェイスシンポジウム、pp.797-798(2003))を用いる。
<2.1 実験装置>
DSの構成を図8に示す。DS制御用PC1、オペレータ用ディスプレイ2、ドライバ用ディスプレイ3、ドライバ操作部4からなる。走行シミュレーション、コース及びシナリオ作成に必要な処理は、全てDS制御用PCで行う。走行シミュレーション時の視界画面はドライバ用ディスプレイに表示される。運転操作はDS操作部のフォースフィードバック機能付きステアリングとペダルを用いる。
DSの構成を図8に示す。DS制御用PC1、オペレータ用ディスプレイ2、ドライバ用ディスプレイ3、ドライバ操作部4からなる。走行シミュレーション、コース及びシナリオ作成に必要な処理は、全てDS制御用PCで行う。走行シミュレーション時の視界画面はドライバ用ディスプレイに表示される。運転操作はDS操作部のフォースフィードバック機能付きステアリングとペダルを用いる。
このDSにおけるドライバの視野角は54度と小さいが、ハンドル裏側にあるレバーを操作して、左右方向へ視界を移動できる。従って、交差点進入時にドライバは左右を確認し、交差車両などの有無を調べることができる。
<2.2 シミュレーションコースの作成>
交差点や直線道路等の道路部品ユニットを組み合わせることで、コースを作成する。道路環境となる木や建物も、道路部品ユニット同様に、自由に配置できる。他車となる乗用車やバイクなどの移動モデルは、用意されたものの中からコース内に自由に配置でき、また移動の設定が可能である。具体的には、初期位置、移動目的地、移動開始タイミング(自車との距離)を指定する。また、目的地までの行程を区切って、区間ごとに移動速度を設定できる。
交差点や直線道路等の道路部品ユニットを組み合わせることで、コースを作成する。道路環境となる木や建物も、道路部品ユニット同様に、自由に配置できる。他車となる乗用車やバイクなどの移動モデルは、用意されたものの中からコース内に自由に配置でき、また移動の設定が可能である。具体的には、初期位置、移動目的地、移動開始タイミング(自車との距離)を指定する。また、目的地までの行程を区切って、区間ごとに移動速度を設定できる。
<3.出会い頭事故誘発実験>
DSを用いて出会い頭事故を誘発できる見通しがついたあと、さらに条件を検討した上で、出会い頭事故誘発実験を行った。実験では、運転中のドライバに暗算をさせることによって、走行中に負荷をあたえ、事故を誘発した。
DSを用いて出会い頭事故を誘発できる見通しがついたあと、さらに条件を検討した上で、出会い頭事故誘発実験を行った。実験では、運転中のドライバに暗算をさせることによって、走行中に負荷をあたえ、事故を誘発した。
<3.1 測定装置>
生理指標は計測装置MP-150(BIOPAC社)を用いて計測、保存する。サンプリング周波数は200Hzである。MP-150はリアルタイムでECGの時系列グラフをPC画面上にスクロールさせながら表示できる。またEMR−8(NAC社)でアイマークを計測、保存する。EMR-8はドライバの視点(アイマーク)を視界画面上に表示し、この画面内でのアイマークの動きからドライバの注視している対象物を判定することができる。MP−150のグラフ画面、ドライバ用ディスプレイに提示されるドライバ視野の映像、ドライバ表情の映像、ドライバの視野にアイマークを重ねた映像、背後からのドライバ全体の映像の計5つの映像と音声情報をDVDレコーダなどで記録した。これらの映像は、ECGやアイマークと事故の関係を考察するのに用いられる。この他にRSP、瞬目を収集したが、今回は検討の対象外とした。
生理指標は計測装置MP-150(BIOPAC社)を用いて計測、保存する。サンプリング周波数は200Hzである。MP-150はリアルタイムでECGの時系列グラフをPC画面上にスクロールさせながら表示できる。またEMR−8(NAC社)でアイマークを計測、保存する。EMR-8はドライバの視点(アイマーク)を視界画面上に表示し、この画面内でのアイマークの動きからドライバの注視している対象物を判定することができる。MP−150のグラフ画面、ドライバ用ディスプレイに提示されるドライバ視野の映像、ドライバ表情の映像、ドライバの視野にアイマークを重ねた映像、背後からのドライバ全体の映像の計5つの映像と音声情報をDVDレコーダなどで記録した。これらの映像は、ECGやアイマークと事故の関係を考察するのに用いられる。この他にRSP、瞬目を収集したが、今回は検討の対象外とした。
<3.2 実験条件>
被験者は、22歳から28歳の男子学生19名である。被験者には、図9の実験コースを運転してもらった。この実験コースは全域制限速度50km/hで、制限速度で走行すると1周約6km、10分程度の周回コースである。コース中に20カ所の一時停止標識ありの交差点が存在する。被験者には別に用意した練習用コースを1周、さらに本実験コースを3周運転してもらい、DSの運転や実験コースに慣れてもらった、15分の休憩の後、データ収集のため実験コースで2周走行してもらった。1周目は単に運転(条件A)し、2周目は運転しながら副次課題として暗算(2桁または3桁数を7で割った剰余を答える)を課して、発話で回答してもらった(条件B)。
被験者は、22歳から28歳の男子学生19名である。被験者には、図9の実験コースを運転してもらった。この実験コースは全域制限速度50km/hで、制限速度で走行すると1周約6km、10分程度の周回コースである。コース中に20カ所の一時停止標識ありの交差点が存在する。被験者には別に用意した練習用コースを1周、さらに本実験コースを3周運転してもらい、DSの運転や実験コースに慣れてもらった、15分の休憩の後、データ収集のため実験コースで2周走行してもらった。1周目は単に運転(条件A)し、2周目は運転しながら副次課題として暗算(2桁または3桁数を7で割った剰余を答える)を課して、発話で回答してもらった(条件B)。
<4.副次課題下での走行実験結果および考察>
<4.1 出会い頭事故発生状況>
条件Bでは、被験者19名のうち8名が9件の出会い頭事故を起こした。また事故には至らなかったが一時停止無視、一時停止標識あり交差点での停止線オーバー、ヒヤリハットが計10件発生した。被験者S17はほぼ全ての交差点において、停止線を無視しており、一般的な運転行動をとる被験者と比較できないため、本研究では解析の対象外とした。これら事故等の一覧を図10に示す。
<4.1 出会い頭事故発生状況>
条件Bでは、被験者19名のうち8名が9件の出会い頭事故を起こした。また事故には至らなかったが一時停止無視、一時停止標識あり交差点での停止線オーバー、ヒヤリハットが計10件発生した。被験者S17はほぼ全ての交差点において、停止線を無視しており、一般的な運転行動をとる被験者と比較できないため、本研究では解析の対象外とした。これら事故等の一覧を図10に示す。
行が被験者、列が交差点の番号を表す。×が出会い頭事故、△が一時停止無視、●が停止線オーバー、□がヒヤリハット(停止線停止後、交差点内で安全確認後発進したが、直後に交差車両を発見し急停止)を表す。交差点3での事故が多発しているが、これは交差車両が頻繁に発生する交差点であったためである。
<4.2 心拍数に着目した解析>
被験者ごとにECGデータから心拍数を求めた。ここでは、個々のRR間隔を[bpm]に変換した数値を心拍数とする。条件Bでの走行中の心拍数についての特徴をまとめた。
被験者ごとにECGデータから心拍数を求めた。ここでは、個々のRR間隔を[bpm]に変換した数値を心拍数とする。条件Bでの走行中の心拍数についての特徴をまとめた。
(知見1)計算問題出題開始直後の3つの交差点進入時に、心拍数が大きくなる傾向が18名中9名に見られた。副次課題を与えることにより、精神的負担が増加し、心拍数が大きくなる傾向がある。
(知見2)計算問題出題開始直後の3交差点を除いた交差点進入において、一時停止中に心拍数が小さくなる傾向が18名中11名に見られた。一時停止中は精神的負担が減り、心拍数が小さくなる傾向がある。
(知見3)暗算中でない場合に心拍数が小さくなる傾向が18名中16名に見られた。問題を解き終わり、余計な負荷が無いときには心拍数が小さくなる傾向がある。
<4.3 事故や危険事象に着目した解析>
交差点に近づくにつれ、通常に比べて心拍数が小さくなった時に事故等が起きている例が多いことが分かった。そこで、事故等が起きている場合とそうでない場合の、交差点進入時のドライバ状態に注目した。事故等が発生した交差点と発生しなかった交差点の間で、交差点進入時の心拍数に違いがあるかを、交差点1を除いた残りすべての交差点で調べた。このため事故などを起こした被験者ごとに、一時停止交差点進入直前5秒間の心拍数の平均を用いた。心拍数は上記<4.2 心拍数に着目した解析>で求めた心拍データに3次スプライン補間を適用し、50msecごとに求めた。事故を起こした被験者について、全ての交差点進入直前5秒間の心拍数をプロットしたものを図11に示す。図中の×が事故、●が無事故、△が一時停止無視、○が一時停止オーバー、□がヒヤリハットを起こした交差点を示している。事故等が発生した交差点での心拍数は、事故が起きていない交差点での心拍数より比較的小さい位置に分布しているケースが多いことが分かる。また最大心拍数付近、あるいは最小心拍数付近で事故を起こしている場合があることも分かる。
交差点に近づくにつれ、通常に比べて心拍数が小さくなった時に事故等が起きている例が多いことが分かった。そこで、事故等が起きている場合とそうでない場合の、交差点進入時のドライバ状態に注目した。事故等が発生した交差点と発生しなかった交差点の間で、交差点進入時の心拍数に違いがあるかを、交差点1を除いた残りすべての交差点で調べた。このため事故などを起こした被験者ごとに、一時停止交差点進入直前5秒間の心拍数の平均を用いた。心拍数は上記<4.2 心拍数に着目した解析>で求めた心拍データに3次スプライン補間を適用し、50msecごとに求めた。事故を起こした被験者について、全ての交差点進入直前5秒間の心拍数をプロットしたものを図11に示す。図中の×が事故、●が無事故、△が一時停止無視、○が一時停止オーバー、□がヒヤリハットを起こした交差点を示している。事故等が発生した交差点での心拍数は、事故が起きていない交差点での心拍数より比較的小さい位置に分布しているケースが多いことが分かる。また最大心拍数付近、あるいは最小心拍数付近で事故を起こしている場合があることも分かる。
被験者ごとに交差点での各事故等と心拍数との関係を図12に示す。○は最小心拍数、□は最大心拍数であったことを表す。交差点進入5秒前における最大心拍数-最小心拍数の区間において25%以下の範囲内にある心拍数を▽、75%以上の範囲内にある心拍数を△で表す。図12から、事故や危険事象が発生した19件中12件について、交差点進入5秒前の心拍数が区間(心拍最小値-心拍最大値)の両端(25%以下あるいは75%以上の範囲内)にあったことが分かる。これらの12件中10件で、交差点進入5秒前の平均心拍数がその分布の小さい方に偏在していた。
(知見4)副次課題を与えているにもかかわらず交差点の手前で心拍数が第一四分位数以下に偏在する場合、出会い頭事故などを起こす危険性があると考えられる。
<4.4 視線の分析>
アイマークレコーダを用いて交差点進入前にドライバがDS上で注視している対象物を調べた。本研究ではドライバのアイマークが対象物と重なったときにのみ注視したと判定する。事故等が起こったそれぞれの交差点について、交差点進入時におけるドライバのアイマークの特徴的な動きを図13に示す。
アイマークレコーダを用いて交差点進入前にドライバがDS上で注視している対象物を調べた。本研究ではドライバのアイマークが対象物と重なったときにのみ注視したと判定する。事故等が起こったそれぞれの交差点について、交差点進入時におけるドライバのアイマークの特徴的な動きを図13に示す。
左右の見通しが良い交差点では一時停止線を見ていない場合に事故等が多いのに対して、見通しの悪い交差点では一時停止をした後で事故を起こすケースが多く見られた。したがって見通しの良い交差点と見通しの悪い交差点とに分けて視線の動きを考察する。
見通しの良い交差点については、実験中何らかの危険事象を起こした被験者も、事故等を起こしていない交差点では、一時停止する際にアイマークが停止線と重なっている場合が多く見られた。しかし事故等を起こした交差点では停止線を注視せず、事故、停止線オーバーまたは一時停止無視にいたるケースが、事故等12件中8件で見られた。見通しの悪い交差点での事故等については、オーバースピードで進入した1件を除き、残りの6件で、交差車両が視界には入っていなかった。したがって、視界が悪いにもかかわらず見切り発進をしていると考えられる。
(知見5)見通しの良い一時停止交差点で、何らかの危険事象を起こしたドライバは一時停止線を見ていない事例が多い。
(知見6)見通しの悪い一時停止交差点で何らかの危険事象を起こした被験者は、一時停止後左右の確認が不十分なまま見切り発信している事例が多い。
<4.5 ヒューマンエラーとの関係>
事故等を起こした見通しのよい交差点で、停止線を見ていなかった事例8件中7件で、心拍数が最小値付近にあった。逆に心拍数が最小値付近にあった事故等8件中7件で停止線を見ていなかった。一方、事故等を起こした見通しの悪い交差点で、交差車両の確認が不十分であった事例7件中5件で、心拍数が最小値もしくは最大値付近に偏在していた。逆に心拍数が最小値または最大値付近に偏在していた事故等5件では、すべての場合について交差車両の確認が不十分であった。これらの結果から、心拍数の偏在が運転に集中していない状態を表していて、このような心的状態が重要な視覚情報を見ないというヒューマンエラーを引き起こしたと考えることができる。
事故等を起こした見通しのよい交差点で、停止線を見ていなかった事例8件中7件で、心拍数が最小値付近にあった。逆に心拍数が最小値付近にあった事故等8件中7件で停止線を見ていなかった。一方、事故等を起こした見通しの悪い交差点で、交差車両の確認が不十分であった事例7件中5件で、心拍数が最小値もしくは最大値付近に偏在していた。逆に心拍数が最小値または最大値付近に偏在していた事故等5件では、すべての場合について交差車両の確認が不十分であった。これらの結果から、心拍数の偏在が運転に集中していない状態を表していて、このような心的状態が重要な視覚情報を見ないというヒューマンエラーを引き起こしたと考えることができる。
(知見7)心拍数の偏在が運転に集中していない状態を表していて、このような心的状態がヒューマンエラーを引き起こすと考えることができる。
<5.むすび>
交差点での出会い頭事故の原因の1つであるドライバの認知・判断エラーの検知を目的に、開発したドライビングシミュレータを使って、出会い頭事故の誘発実験を行った。様々な観点からのECGデータの解析により、特に通常より低い心拍数が交差点手前で見られた場合、出会い頭事故等を起こす可能性が示唆された。また、視線データの解析により、停止線や交差車両を見ていない場合に事故等の発生が多いことも確認された。
交差点での出会い頭事故の原因の1つであるドライバの認知・判断エラーの検知を目的に、開発したドライビングシミュレータを使って、出会い頭事故の誘発実験を行った。様々な観点からのECGデータの解析により、特に通常より低い心拍数が交差点手前で見られた場合、出会い頭事故等を起こす可能性が示唆された。また、視線データの解析により、停止線や交差車両を見ていない場合に事故等の発生が多いことも確認された。
なお、実験A、Bともに、その他の参考文献として、伊藤 謙治、桑野園子、小松原明哲:人間工学ハンドブック、東京、朝倉書店、2003、838p を用いた。
また、上述した19名の被験者データをさらに詳細に解析した。その結果を図14に示す。図中、心拍数の75%以上と25%以下をそれぞれ色分けし、すべての被験者の各交差点、5秒前心拍の分布を表している。また、見通しの悪い交差点にも色を付している。
同図に示すように、交差点5までは心拍数の高い被験者が5〜7人で、低い被験者が2〜4人であった。副次課題を与え始めて数分は心拍数が上昇していることが分かる。交差点6では高い心拍数の被験者は4人、低い被験者は9人となり、高低の人数が逆転している。交差点5から交差点6までは間隔が広く、2分程度走行するのでそれぞれの被験者が冷静になり(あるいは退屈になり)心拍数が下がったのではないかと考えられる。また交差点6〜8で低い心拍数の被験者が多く、見通しの良い交差点での危険事象が8件起こっていた。したがって、心拍数が上昇した後に、安心して心拍数が下がりすぎると、危険事象が起こりやすくなるのではないかと考えられる。
以上のように、本発明に係る車両用心的資源評価装置及びその利用によれば、例えば、自動車や自動二輪車等の車両事故の発生を防止するための安全装置等の開発に利用することができる。現在、車両事故による人的、経済的損害は非常に大きなものとなっており、本発明による事故発生防止の効果は、非常に産業上の利用可能性が高いといえる。
1 測定部(測定手段)
2 通知部(通知手段)
3 心的資源算出部(心的資源算出手段)
4 判定部(判定手段)
5 範囲設定部(範囲設定手段)
6 注意喚起部(注意喚起手段)
10 車両用心的資源評価装置
10’ 車両用心的資源評価装置
20 事故発生防止システム
2 通知部(通知手段)
3 心的資源算出部(心的資源算出手段)
4 判定部(判定手段)
5 範囲設定部(範囲設定手段)
6 注意喚起部(注意喚起手段)
10 車両用心的資源評価装置
10’ 車両用心的資源評価装置
20 事故発生防止システム
Claims (11)
- 車両運転者の生理指標を測定する測定手段と、
車両の位置情報及び道路情報を検出し通知する通知手段と、
上記測定手段と通知手段からの情報に基づき、車両が所定の道路状況にある場合の車両運転者の生理指標から心的資源を算出する心的資源算出手段と、
上記車両運転者の心的資源が所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定する判定手段と、を備えていることを特徴とする車両用心的資源評価装置。 - 上記判定手段における所定の範囲は、各道路状況に応じた、安全な運転に必要な心的資源の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の車両用心的資源評価装置。
- 上記測定手段が測定する生理指標は、心拍数であり、
上記心的資源推定手段が算出する心的資源は、車両が所定の道路状況にある場合の、所定の期間における車両運転者の心拍数であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用心的資源評価装置。 - 上記車両が所定の道路状況にある場合とは、車両が交差点に進入する場合であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用心的資源評価装置。
- 上記判定手段における所定の範囲とは、上記車両運転者の運転履歴から求められるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用心的資源評価装置。
- 上記判定手段における所定の範囲とは、上記車両運転者が過去に複数の交差点へ進入する場合に測定した所定の期間の心拍数のヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲であり、
上記判定手段は、上記算出した心的資源が所定の範囲内にないと判定した場合、車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあると判定するものであることを特徴とする請求項5に記載の車両用心的資源評価装置。 - さらに、各道路状況に応じて、安全な運転に必要な心的資源の範囲を上記所定の範囲として設定する範囲設定手段を備えており、
上記判定手段は、上記範囲設定手段によって設定された所定の範囲を用いて、上記車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあるか否かを判定するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用心的資源評価装置。 - 上記範囲設定手段は、上記測定手段及び通知手段からの情報に基づいて、車両運転者の運転履歴に応じて、上記所定の範囲を設定するものであることを特徴とする請求項7に記載の車両用心的資源評価装置。
- 上記範囲設定手段は、上記車両運転者が過去に交差点へ進入した際に、所定の期間だけ心拍数を測定し、当該測定した心拍数のヒストグラムを作成し、このヒストグラムにおいて、頻度1/4以上の範囲を所定の範囲として設定するものであることを特徴とする請求項8に記載の車両用心的資源評価装置。
- 上記範囲設定手段は、車両運転者の運転履歴に応じて、上記所定の範囲を随時更新するものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両用心的資源評価装置。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の車両用心的資源評価装置と、
上記判定手段において車両運転者が事故を発生しやすい傾向にあると判定される場合に、当該車両運転者に対して注意を喚起する注意喚起手段と、を備えることを特徴とする事故発生防止システム。
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