JP2006144333A - グラウト - Google Patents

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Abstract

【課題】空洞充填材として優れた性能を備えたグラウトを提供すること。
【解決手段】構造物内の空洞、地盤内の空洞、或いは構造物と地盤との境界面に発生した空洞に注入充填する際に用いられるグラウトであって、セメント類を主成分とする流動状の懸濁液に非流動化剤を加えて、下記の条件〔A〕及び条件〔B〕を満たすようにする。〔A〕非加圧下で流動しないこと。
〔B〕0.0005〜0.005N/mm2 の加圧下で流動化すること。
これにより、細い注入管を通しての圧送が容易であり、かつ、小さな空洞にもきめ細かく充填することができる。また、圧送時及び注入後における硬化時に材料分離を起こしたり地下水による希釈を受けたりすることがないにも関わらず、目的の範囲に確実に注入充填することが可能となる。

Description

本発明は、空洞充填材としてのグラウトの技術分野に属し、詳しくは、既設管等の構造物内の空洞、地盤内の空洞、或いは構造物と地盤との境界面に発生した空洞に注入充填する際に用いるグラウトに関する。
一般に、地下構造物は、地盤と一体化して機能するように設計されている。したがって施工上の都合や施工後における地盤土の動きなどによって、構造物と地盤土との間に空隙ができた場合には、これを埋めなければ不都合が生じる。また、地盤内にある自然にできた空洞や人為的に掘った空洞が、その上部の地盤沈下等の原因となる場合には、その空洞を充填する必要がある。このような場合に行われるのが空洞充填で、細い注入管を通して流動性のあるグラウトを空隙や空洞に注入充填する。
従来、この空洞に充填するグラウトとしては、セメントを主材とし、これに必要に応じて骨材、粘着剤等の材料を加え、さらに水を加えて調合したもの(モルタルやエアモルタル)が用いられている。そして、グラウトの流動性は、材料の量を考慮した上で、最終的には水の量によって調整する。
土木学会トンネル工学委員会、「トンネル標準示方書(山岳工法編)・同解説」、社団法人土木学会、平成9年6月10日、平成8年版・第2刷、p.228−230
従来のグラウトは、流動性を良くするために多くの水分を含んでいる。このため、圧送中に材料分離(セメントや骨材粒子の沈降)を起こしたり、空洞に充填してから硬化するまでの間に材料分離が進んだりすることがある。また、地下水がある場合は、その地下水で希釈されることにより、固結強度の不均一化、体積の減少等が起こり、空洞充填グラウトとして致命的な欠陥を生じることもある。さらには、注入充填中は流動状であるため、注入圧力により不必要に遠方まで送られてしまい、目的の空洞に充填することができないという問題もある。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、空洞充填材として優れた性能を備えたグラウトを提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明のグラウトは、構造物内の空洞、地盤内の空洞、或いは構造物と地盤との境界面に発生した空洞に注入充填する際に用いられるグラウトであって、セメント類を主成分とする流動状の懸濁液に非流動化剤を加えて、下記の条件〔A〕及び条件〔B〕を満たすようにしたことを特徴とする。
〔A〕非加圧下で流動しないこと。
〔B〕0.0005〜0.005N/mm2 の加圧下で流動化すること。
本発明のグラウトは、細い注入管を通しての圧送が容易であり、かつ、小さな空洞にもきめ細かく充填することができる。また、圧送時及び注入後における硬化時に材料分離を起こしたり地下水による希釈を受けたりすることがないにも関わらず、目的の範囲に確実に注入充填することが可能である。
本発明で言う流動状の懸濁液としては、セメント類のみからなるものを用いることができるし、或いは、セメント類に骨材(増量材)や添加剤の1種又は2種以上を加えたものを用いることもできる。使用するセメント類は、水を加えることによって硬化する性質のものであれば特に限定されるものではない。代表的には、普通セメント、早強セメント等のポルトランドセメント、さらにこれにスラグ(高炉水さいスラグ)や石灰を加えたもの、スラグと石灰とからなるもの等を挙げることができる。
セメント類を主成分とする流動状の懸濁液に加える骨材としては、従来より使用されている砂等の一次鉱物、陶土等の二次鉱物を挙げることができる。また、添加剤としては、分散剤、遅延剤、ゲル化促進剤、強度促進剤、増粘剤、ガス発生剤(起泡剤及びアルミニウム粉末)等を目的に合わせて使い分けることができる。
グラウト調合時に用いる水は、固体粒子への付着(あるいは吸着)や反応に寄与する水を含めた固定水と、それ以外の自由水(自由に移動できる水)とに分けられる。すなわち、自由水は流動性を保持するためのものであるが、本発明のグラウトはこの自由水を固定水に変質させる方法として非流動化剤を用いるようにしたものである。
本発明で用いる非流動化剤は、流動状の懸濁液に含まれる自由水をセメント類との反応で包含してゲル化させることにより固定水にするもの、或いは、自由水を吸水させる等の作用により固定水にするものであれば特に限定されるものではない。セメント類との反応により自由水を包含してゲル化させる物質としては、可溶性アルカリ硅酸塩、可溶性酸性アルミニウム塩等がある。また、グラウト中の自由水を吸水させる作用のある物質としては、カオリン系粘土鉱物等を挙げることができる。
非流動化剤は、通常は1種類を使用するが、安定していて互いに反応を起こさず、セメント類と混合した時に条件〔A〕及び条件〔B〕を満足する非流動状グラウトとなるものであれば、2種類以上のものを併用して用いることもできる。
非流動化剤の使用量は、セメント類の種類や量、骨材や添加剤の有無や量によって自由水の量が大きく異なり、また用いる非流動化剤の種類や量によって作用が異なるため、一概に特定することはできない。
本発明における条件〔A〕の「非加圧下で流動しない」とは、後述する試験法に準じて行った測定により判定したものである。なお、0.0005N/mm2 に満たない微加圧は非加圧とみなしている。
本発明における条件〔B〕の「0.0005〜0.005N/mm2 の加圧下で流動化する」とは、非加圧下では流動しない非流動状グラウトが、容易に流動化する圧力の範囲を示している。0.0005N/mm2 に満たない圧力は、極めて小さい圧力であり、前記したように非加圧と見做して除いてある。加圧の上限値とした0.005N/mm2 を越える強さを持つ非流動状グラウトは、一液性では注入管内での抵抗が高くなり、また小さな空洞に確実に充填することが難しくなるため好ましくない。
次に、本発明のグラウトを特定した試験について述べる。まず、非加圧下で流動するか否かを見るために下記の「試験1」を行った。次いで、非加圧下で流動しないグラウトが圧力をかけて流動化するか否か、流動化する場合はその流動化を開始する圧力(グラウトの抵抗の強さ)を見るために下記の「試験2」を行った。
「試験1」
非加圧下で流動するか否かを見るため、PCグラウトの流動性試験方法(JSCE−F531−1999)に準じて試験を行った。試験にはJP漏斗(黄銅製で、上端内径70mm、下端内径14mm及び高さ392mmで、その下部に内径14mm、長さ30mmの流出口を有する厚さ約3mmのもの。内容積は約630mlである。)を用いた。そして試験は、漏斗を台で鉛直に支持した状態で、漏斗の先端を指で閉じて、漏斗内にグラウトを上端まで充填した後、漏斗の先端の指を離し、グラウトの流下の有無を見ることで行い、流下した場合は流下時間(フロータイム)を秒として表した。なお、試験は、セメント類を主成分とした懸濁液に非流動化剤を加えて非流動状グラウトに変質させた2分後に行った。
「試験2」
非加圧下で流動しないグラウトが加圧下で流動化するか否かを見るため、JP漏斗の上部に内径70mm、高さ120mmの黄銅製の筒体を取り付けた器具を使用して試験を行った。この筒体とJP漏斗は取り外しできる構造になっている。そして、筒体内にJP漏斗上部より20mmの高さになるまでグラウトを充填し、その表面に硬質アクリル製の円形状平板(筒との接触がない状態で、かつグラウトが上部に出てこないような器具)を置き、その上に小粒の鉛玉を加えて行き、JP漏斗内のグラウトが流動化(先端より流出)した時点での総加重量(JP漏斗上にあるグラウトの重量+平板の重量+鉛玉の重量)をN/mm2 に換算して加圧値とした。
試験では、セメント類として、普通セメント、スラグ、石灰を使用し、骨材として陶土、ミクロサンド(一次鉱物)を、添加剤として分散剤を用いた。また、非流動化剤として、液状硅酸カリ、酸性塩化アルミニウム粉末、カオリン系粘土鉱物微粉末を使用した。
セメント類を主成分とする流動状の懸濁液について、配合を変えて4種類(A1〜A4)のものを作製し、それらについて「試験1」を実施した結果を表1に示す。なお、自由水については、懸濁液を余分の水に充分に浸して、付着水及び結合水以外の水を取り除いた後の増加重量から算出してその量を求めた。この表1から、セメント類の種類、骨材の有無により自由水の量は大きく異なることが分かる。また、いずれの配合の懸濁液もJP漏斗から流下しており、流動状であることも分かる。
Figure 2006144333
また、非流動化剤の3種類(B1〜B3)と比較としての水について「試験1」を実施した結果を表2に示す。この表2から、硅酸カリと塩化アルミニウムは共に流動性の良い液体であることが分かる。
Figure 2006144333
次に、表1のA1〜A4と表2のB1〜B3を組み合わせた5種類のグラウトを作製し、それらに対して「試験1」を実施した。その結果を表3に示す。
Figure 2006144333
流動状の懸濁液に同じく流動状(液体)の非流動化剤を加えた No.1、2、3、5、は、セメント類と非流動化剤が反応してグラウト中の自由水を包含してゲル化物を生成し、固定水となり、非加圧下で流動しないグラウトに変質する。また、 No.4では、非流動化剤粉末がグラウト中の自由水を吸収して固定水となり、流動しないグラウトに変質させていることが分かる。
このように、本発明の条件〔A〕は、JP漏斗試験方法を基準として、グラウトが流動しないことである。
また、表1のA1〜A4と表2のB1〜B3を組み合わせた9種類のグラウトを作製し、それらに対して「試験2」を実施した。その結果を表4に示す。
Figure 2006144333
表4を見れば、非加圧下で流動化しないグラウトが加圧下のもとに流動化する条件は、非流動化剤の種類や量によって異なることが分かる。
本発明の非流動状グラウトが、流動化するのに必要な加圧の上限値は0.005N/mm2 とした。この理由としては、この値より大きいと圧送が難しくなること、比較的小さい空洞に充填し難くなることが挙げられる。なお、 No.11、12は、0.005N/mm2 より加圧しなければ流動化しないことを示している。
また、本発明の非流動状グラウトが、流動化するのに必要な加圧の下限値は0.0005N/mm2 とした。この値の加圧は極めて小さく、JP漏斗試験法のもとでの非加圧下の条件〔A〕に限りなく近い性状であるために除いた。なお、 No.13、14は、0.0005N/mm2 未満と極めて小さい加圧下で流動化しているが、本発明では条件〔A〕に含まれるものとした。
本発明のグラウトを用いた施工は、非流動化剤とセメント類との反応特性、施工条件等によって異なる方式が採られる。
非流動化剤が粘土鉱物の場合は、セメント類の硬化を促進する効果はないので、通常の一液性注入、すなわち、ミキサー等の混合器で使用材料を一度に調合し、1台のポンプで圧送する方法で施工を行うことができる。
一方、非流動化剤が可溶性アルカリ硅酸塩や可溶性酸性アルミニウム塩の場合は、セメント類の硬化を促進する性質があるため、流動状の懸濁液を作製するための調合槽とその懸濁液を送る注入ポンプとを繋ぐサクションホースに非流動化剤を注入することで、非流動状に変質させる方法を採ることができる。或いは、注入ポンプの先の注入管内に非流動化剤を圧入する方法を採ることもできる。
また、圧送距離(ポンプと注入口との間)が長い場合は、注入管内での非流動状グラウトの抵抗が大きくなり、圧送圧が高くなって施工が難しくなる。このため、注入ポンプと注入口の間の適当なところで非流動状グラウトを一旦タンクに受け、さらに別のポンプで圧送する方法を採ることもできる。
また、セメント類を主成分とする流動状の懸濁液と非流動化剤を別々に圧送して、ポンプと注入口の間で合流させて混合し、非流動状グラウトに変質させて注入する方法を採ることもできる。
また、注入管の設置方法は、特に限定されるものではない。例えば、トンネルや構造物内への注入は、トンネル入口や構造物表面に設けたグラウトホールを通じてグラウトを注入する方法が採られる。また、地表下への注入は、ボーリングマシン等で注入管を設置し、この注入管を通じてグラウトを注入する方法が採られる。

Claims (1)

  1. 構造物内の空洞、地盤内の空洞、或いは構造物と地盤との境界面に発生した空洞に注入充填する際に用いられるグラウトであって、セメント類を主成分とする流動状の懸濁液に非流動化剤を加えて、下記の条件〔A〕及び条件〔B〕を満たすようにしたことを特徴とするグラウト。
    〔A〕非加圧下で流動しないこと。
    〔B〕0.0005〜0.005N/mm2 の加圧下で流動化すること。
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