JP2006070298A - Cr−Mo−S合金めっき被膜 - Google Patents

Cr−Mo−S合金めっき被膜 Download PDF

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Abstract

【課題】 Sを所定量含有することにより含有するMoの量を所定の値とし、且つ含有するHの量を所定の値として、Moの量を多くせずに所望の硬さを有し、耐熱性、耐摩耗性、耐スカッフ性に優れるCr−Mo−S合金めっき被膜の提供。
【解決手段】 シリンダライナの内周摺動面に対して摺動するピストンリングの表面上の摺動面相当位置に生成されるCr−Mo−S合金めっき被膜は、単一層又は積層のCr−Mo合金めっき層をなし、モリブデン(Mo)を0.05〜1.2質量%、硫黄(S)を0.01〜0.3質量%、水素(H)を0.05〜0.18質量%含む。このため、ピストンリングが燃料中のS濃度の高いガソリンの仕様機関やディーゼルエンジン等でのEGR等腐食雰囲気中で使用されても、高いレベルで耐熱性、耐摩耗性、耐スカッフ性を発揮することができる。

Description

本発明はCr−Mo−S合金めっき被膜に関し、特に、水素(H)を含みシリンダライナやピストンリングの摺動面上に施されるCr−Mo−S合金めっき被膜に関する。
従来より、内燃機関のシリンダライナやピストンリング等の摺動面相当位置には硬質クロムめっきが施されている。硬質クロムめっきの生成は工業的に容易であり、硬度が高く、耐熱性、耐食性に富むとともに耐摩耗性に優れている。ここで、耐熱性とは、高温領域(例えば、ピストンリングが実働時に曝される略250℃〜略280℃程度の温度領域)において耐摩耗性を維持できることをいう。
近年では、環境対策等の観点から内燃機関の高出力化の要求が高まってきている。これに伴い、硬質クロムめっき被膜の施されたピストンリングに要求される性能は高くなる一方である。従来より用いられている硬質クロムめっき被膜は、主にいわゆる単一層クロムめっきや、特開2002―106716号公報に公知のように、積層をなし1層内及び層間にまたがる微細亀裂を形成し、保油性を維持しつつ摺動特性を向上させているものが知られている。これらの硬質クロムめっき被膜の施されたピストンリングが、燃料中のS濃度の高いガソリンの仕様機関やディーゼルエンジン等におけるEGR等腐食雰囲気中で使用される場合には、当該ピストンリングにおいて所望の耐熱性、耐摩耗性、耐スカッフ性を得ることが困難である。このため、高性能エンジンにおいて使用されるピストンリングが、耐摩耗性、耐スカッフ性のいずれにも優れ、過酷な使用条件においても優れた摺動特性を示す硬質クロムめっき被膜が検討されるようになってきている。
金属表面技術 VOL21(1970)、No.7 P356〜362には、モリブデン(Mo)を含み、耐熱性、耐食性、耐摩耗性を改善する硬質クロムめっき被膜が記載されている。この硬質クロムめっき被膜は、Mo/CrO比が0.1以上であるめっき浴中で生成され、3質量%以上のMoを含む。この硬質クロムめっき被膜の硬さはHv1000以上であり、20mg以下の摩耗量を保持する。また、同文献には、硬質クロムめっき被膜のMoの質量比を高くするほど硬さは高くなり摩耗量は少なくなることが記載されており、硬質クロムめっき被膜中のMoが3質量%以上の場合には、Hv1300以上となることが記載されている。
特開2002−106716号公報(4〜7頁、図1) 金属表面技術 VOL21(1970)、No.7 P356〜362
本発明は、上述の従来の硬質クロムめっき被膜のように、含有するMoの量を単に多くすることによってめっき被膜の硬さの値を高くするのではなく、Sを所定量含有することにより含有するMoの量を所定の値とし、且つ含有するHの量を所定の値として、Moの量を多くせずに所望の硬さを有し、耐熱性、耐摩耗性、耐スカッフ性に優れるCr−Mo−S合金めっき被膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、母材表面上の摺動面相当位置に生成されるCr−Mo−S合金めっき被膜において、Moを0.05〜1.2質量%、Sを0.01〜0.3質量%、Hを0.05〜0.18質量%含み、単一層もしくは2層以上の積層からなるCr−Mo−S合金めっき被膜を提供している。
請求項1記載のCr−Mo−S合金めっき被膜によれば、母材表面上の摺動面相当位置に生成されるCr−Mo−S合金めっき被膜において、Moを0.05〜1.2質量%、Sを0.01〜0.3質量%、Hを0.05〜0.18質量%含み、単一層もしくは2層以上の積層からなるため、Cr−Mo−S合金めっき被膜内の結晶格子を適度に歪ませることができ、Cr−Mo−S合金めっき被膜のMoの量をそれほど多くせずに、高い耐摩耗性、耐スカッフ性を得ることができ、硬さを高くすることができる。
また、Cr−Mo−S合金めっき被膜がピストンリングの摺動面相当位置に施された場合には、ピストンリングが燃料中のS濃度の高いガソリンの仕様機関やディーゼルエンジン等でのEGR等腐食雰囲気中で使用されても、高いレベルで耐熱性、耐摩耗性、耐スカッフ性を発揮することができる。
また、被膜が単一層の場合には、製造工程を簡単にすることができ、短時間で製造を行うことができ、製造コストの低減を図ることができる。
本発明の実施の形態によるCr−Mo−S合金めっき被膜について説明する。Cr−Mo−S合金めっき被膜は、シリンダライナの内周摺動面に対して摺動するピストンリングの表面上の摺動面相当位置に生成され、Cr−Mo−S合金めっき被膜は単一層もしくは2層以上の積層からなり、モリブデン(Mo)を0.05〜1.2質量%、硫黄(S)を0.01〜0.3質量%、水素(H)を0.05〜0.18質量%含み、残部はクロム(Cr)及び不可避不純物であるCr−Mo−S合金めっき層をなす。
Moが0.05質量%未満の場合には合金被膜の耐食性が悪くなる。Moが1.2質量%を超えると硬度が低下し、耐摩耗性、耐スカッフ性に影響を与える。また、Moが1.2質量%を超えると、Cr−Mo−S合金めっき被膜が施されたピストンリング等の製品を製造するコストが高くなる。従って、Moを0.05〜1.2質量%とする。
Sが0.01質量%未満の場合には合金被膜の耐食性が悪くなる。Sが0.3質量%を超えると硬度が低下し、耐摩耗性、耐スカッフ性に影響を与える。従って、Sを0.01〜0.3質量%とする。
Hが0.05質量%未満の場合には、Cr−Mo−S合金めっき被膜内の結晶格子を歪ませることができない。Hが0.18質量%を超えると硬度は高くなるが、脆化し、欠け等が発生する恐れがあり、耐摩耗性、耐スカッフ性に影響を与える。従って、Hを0.05〜0.18質量%として、Cr−Mo−S合金めっき被膜内の結晶格子を適度に歪んだ状態とする。Mo、S及びHを上述の質量%で含有することにより、硬度が高く、耐摩耗性、耐スカッフ性、耐食性の優れたCr−Mo−S合金めっき被膜を形成することができる。
Cr−Mo−S合金めっき被膜は、脱脂工程、酸洗浄工程、液体ホーニング工程、電解研磨工程、合金めっき工程の各工程がこの順で行われて生成される。最後の合金めっき工程では、単一層の場合には母材直上めっき工程が行われ、積層の場合には、母材直上めっき工程、中間層の合金めっき工程、及び最外層の合金めっき工程が行われる。2層の被膜を形成する際は、中間層の合金めっき工程あるいは最外層の合金めっき工程を省くことで対応する。脱脂工程では、Cr−Mo−S合金めっき被膜の生成される被めっき材たる母材のピストンリングの表面上の油脂分を、パラフィン系炭化水素洗浄液によって洗浄する。酸洗浄工程では、母材を30〜80℃に加熱された塩酸中に15〜300S(秒)浸漬し、母材表面の酸化物等を除去し、母材の下地を露出させる。
液体ホーニング工程では、セラミックス等の硬質粒子を懸濁溶解した水溶液を、母材表面全体に19.6〜98N/mmの圧力で均一に圧力噴流し、表面を梨地状にしてめっき被膜との密着強度向上を図る。電解研磨工程では、母材をめっき槽のめっき浴に浸漬し、母材を陽極とし対極を陰極として、40〜80A/dmの電流密度で10〜120S(秒)電流を印加する。
単一層のCr−Mo−S合金めっき被膜を生成するための合金めっき工程における母材直上めっき工程では、液体ホーニング工程で印加した電流の極性を反転させて、母材表面とめっき液間の擦過速度を維持しつつ母材を陰極、対極を陽極とし、母材上に予め設定された厚さでCr−Mo−S合金めっき層が析出するように、40〜80A/dmの電流密度で所定時間電流を印加する。以上の工程を行うことによって、モリブデンと水素とを所定量含むCr−Mo−S合金めっき被膜が母材表面上に生成される。
積層のCr−Mo−S合金めっき被膜を生成するための合金めっき工程における母材直上めっき工程では、液体ホーニング工程で印加した電流の極性を反転させて、母材表面とめっき液間の擦過速度を維持しつつ母材を陰極、対極を陽極とし、母材上に予め設定された厚さでCr−Mo−S合金めっき層が析出するように、40〜80A/dmの電流密度で所定時間電流を印加する。次に、極性を反転させて、母材を陽極とし、対極を陰極として、電流密度30〜60A/dmで40〜100秒間電流を流し、編み目状のクラックを生成するエッチング工程を行う。以上の母材直上めっき工程により、母材直上の最内層の厚さが27〜33μmの合金めっき層を生成する。
次に、積層のCr−Mo−S合金めっき被膜を生成するための合金めっき工程における中間層の合金めっき工程では、極性を反転させて母材を陰極とし、対極を陽極として、電流密度40〜80A/dmで17〜33分間電流を印加するめっき工程を行う。次に、750μsecの切り替え時間で極性を反転させて、母材を陽極とし、対極を陰極として、電流密度30〜60A/dmで40〜100秒間電流を流し、編み目状のクラックを生成するエッチング工程を行う。このめっき工程及びエッチング工程により、先ず、中間層のうちの第1層目の合金クロムめっき層を最内層の上に生成する。この第1層目の合金めっき層の厚さは7〜13μmである。そして、めっき工程及びエッチング工程を繰り返し行うことにより、中間層を生成する。
積層のCr−Mo−S合金めっき被膜を生成するための合金めっき工程における最外層の合金めっき工程では、電流の極性を反転させて、母材を陰極、対極を陽極とし、母材上に予め設定された厚さでCr−Mo−S合金めっき層が析出するように、40〜80A/dmの電流密度で28〜63分電流を印加する。このことにより、中間層の上に厚さが20〜30μmの最外層の合金クロムめっき層を生成する。以上の工程を行うことによって、モリブデンと硫黄と水素とを所定量含むCr−Mo−S合金めっき被膜が母材表面上に生成される。
電解研磨工程及び合金めっき工程において母材が浸漬されるめっき浴は、CrOが120g/L(リットル)〜400g/L、Naが5.0g/L、NaMoOが20g/L〜200g/Lであり、温度は40〜70℃に調整され、電流密度は上述のように40〜80A/dmに調整される。
ここで、めっき浴の温度及び電流密度を調整するのは、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のMo含有量を0.05〜1.2質量%とし、H含有量を0.05〜0.18質量%とするためである。即ち、本発明者は、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のMo含有量およびH含有量はめっき浴の電流密度、めっき浴の温度を変化させることによって変化することを見いだした。そこで、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のH含有量をコントロールするために、電流密度を40〜80A/dm、より好ましくは55〜65A/dmに調整し、更に、めっき浴の温度を40〜70℃、より好ましくは45〜55℃に調整することにより、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のMo含有量、H含有量を上述の値とする。
めっき浴中の電流密度が40A/dm未満では、めっき表面が深い灰色になり、めっき速度が遅くなる。また、80A/dmを超えると黒色に近い灰色になり、被膜の密着性が悪く、硬度が低くなるため40〜80A/dmとする。更に、55〜65A/dmとすることで、微光沢な表面を得ることができる。また、めっき浴の温度が40℃未満では、めっき表面は灰色になり、Mo含有量が少なくなる。また、70℃を超えると黒色となり摺動特性が悪くなるため40〜70℃とする。更に45〜55℃とすることで、微光沢な表面が得られ、またMo含有量のバラツキを抑えることができる。
また、めっき浴中のモリブデン酸ナトリウム(NaMoO)量とめっき浴の温度とを調整して生成されたCr−Mo−S合金めっき被膜のMo含有量、硬さの関係は、以下の表1に示されるとおりである。めっき浴中のCrOは240g/L、Naは5.0g/Lとした。
Figure 2006070298
表1に示されるように、めっき浴中のモリブデン酸ナトリウム量が大きくなるにつれて、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のMoの含有量も多くなることが分かる。めっき浴中の電流密度を変化させた場合のMoの含有量への影響はわずかであるが、電流密度が高くなるとMoの含有量も増える。また、めっき浴の温度が高くなるにつれて、Moの含有量が増えることが分かる。
表1において、モリブデン酸ナトリウム量(g/L)を20、30、40、50、75、100とし、液温を50℃又は60℃又は70℃、電流密度を、50A/dm又は60A/dm又は70A/dm(モリブデン酸ナトリウム量が100g/Lのときには、50A/dm又は60A/dm)として生成されたCr−Mo−S合金めっき被膜は、いずれもビッカース硬さHv850以上で良好な硬度を得ており、モリブデン酸ナトリウム量、液温、電流密度を上記の値とすることがよいことが分かる。
次に、めっき浴中のモリブデン酸ナトリウム量とめっき浴の温度とを調整して生成されたCr−Mo−S合金めっき被膜面の面性状は表2に示されるとおりである。
Figure 2006070298
表2において、◎はCr−Mo−S合金めっき被膜に微光沢があることを示し、〇は灰色であることを示し、△は深い灰色であることを示し、×は黒色であることを示している。Cr−Mo−S合金めっき被膜の色は、微光沢に近いほど摺動特性、即ち、耐摩耗性、耐スカッフ性が良く、黒色に近いほど摺動特性は悪い。より具体的には、黒色は密着性が非常に悪く硬度が低いため、通常のめっき性能を充分に発揮しない。これに対して微光沢の場合には、密着性が良く摺動特性に優れており、硬度も高い。このことはめっきの分野においては公知の事実である。
表2より、モリブデン酸ナトリウム量が低く且つめっき浴の液温が低いと、Cr−Mo−S合金めっき被膜に微光沢を得ることができ、モリブデン酸ナトリウム量が高く且つめっき浴の液温が高いと、深い灰色になったり黒色になったりする。従って表2より、めっき温度は40〜60℃で、モリブデン酸ナトリウム量は30〜75g/L(リットル)が適当であることが分かる。
以上の内容を総合的に勘案することにより、めっき浴を前述の組成としてモリブデン酸ナトリウムの量を調整し、電流密度を40〜80A/dm、より好ましくは55〜65A/dmに調整し、更に、めっき浴の温度を40〜70℃、より好ましくは45〜55℃に調整して、Moを0.05〜1.2質量%、Sを0.01〜0.3質量%、Hを0.05〜0.18質量%含むCr−Mo−S合金めっき被膜を生成させる。
次に、本実施の形態によるCr−Mo−S合金めっき被膜の効果を試す性能試験を行った。試験では、実施例1−1〜実施例1−18と、実施例2−1〜実施例2−18と、従来例1及び従来例2と、比較例1−1〜比較例1−67と、比較例2−1〜比較例2−47とを用いて、耐摩耗性等の摺動特性等の試験を行い、結果の比較を行った。Cr−Mo−S合金めっき被膜の層の厚さは、加工により実施例、比較例、従来例すべて50μmに調整し、水素、モリブデンの含有量は、後述の表3に示されるとおりである。
従来例1は、単一層の硬質クロムめっき被膜が施されたテストピースである。従来例2は、積層の硬質クロムめっき被膜が施されたテストピースである。これらはMo、Sを含まず、H含有量はそれぞれ表3に示されるとおりである。比較例1−1〜比較例1−67は、H、Mo、Sの含有量が実施例1−1〜実施例1−18とは異なっており単一層をなし、比較例2−1〜比較例2−47は、H、Mo、Sの含有量が実施例2−1〜実施例2−18とは異なっており積層をなし、含有量は表3に示されるとおりである。全ての実施例のめっき被膜の層厚さは、加工により統一し、前述のように50μmとした。
実施例、従来例、比較例については以下のようにして製造した。先ず、実施例1−1〜実施例1−18、実施例2−1〜実施例2−18、従来例1及び従来例2、比較例1−1〜比較例1−67、比較例2−1〜比較例2−47を製造する工程のうちの共通の工程である脱脂工程、酸洗浄工程、液体ホーニング工程、電解研磨工程について説明する。これらの工程は脱脂工程から始まりこの順で行われる。電解研磨工程の次にはめっき工程等が行われるのであるが、後述のように、実施例及び比較例と従来例とではめっき工程等はそれぞれ異なる。
脱脂工程では、母材をパラフィン系炭化水素洗浄液により脱脂した。酸洗浄工程では、母材を30〜80℃に加熱された塩酸中に15〜300S(秒)浸漬して酸洗浄を行い、母材表面の酸化物を除去した。液体ホーニング工程では、セラミックス等の硬質粒子を懸濁溶解した水溶液を、母材表面全体に19.6〜98N/mmの圧力で均一に圧力噴流し、表面を梨地状にしてめっき被膜との密着強度向上を図った。電解研磨工程では、公知のフッ化浴のめっき槽中に母材を浸漬し、母材を陽極とし対極を陰極として、電流密度60A/dm、印加時間20S(秒)の条件で電流を印加した。
次に、実施例及び比較例を製造するための、電解研磨工程の後に行われるめっき工程について説明する。まず、単一層のCr−Mo−S合金めっき被膜のめっき工程について説明する。めっき工程では、母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで300min(分)電流を印加した。以上の工程を経て、単一層のCr−Mo−S合金めっき被膜である実施例1−1〜実施例1−18、比較例1−1〜比較例1−67を生成した。
次に、積層のCr−Mo−S合金めっき被膜を生成するための、電解研磨工程の後に行われるめっき工程及び当該めっき工程で行われるエッチング工程について説明する。めっき工程では、先ず母材を陰極、対極を陽極として、電流密度60A/dmで40min(分)電流を印加した。次に、エッチング工程では、極性を反転させて母材を陽極とし対極を陰極として、電流密度50A/dmで50S(秒)電流を印加して、厚さが30μmの母材直上の最内層を生成した。
次に、再び極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで22min(分)電流を印加した。次に、エッチング工程では、750μsecの切り替え時間で極性を反転させて母材を陽極とし対極を陰極として、電流密度50A/dmで50S(秒)電流を印加し、6層からなる中間層のうちの第1層目を、最内層の上に生成した。この第1層目の硬質めっき層の厚さは10μmである。そして、第1層目を生成しためっき工程とエッチング工程とを繰り返すことにより、合計6層の中間層を生成した。
次に、再び極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで42min(分)電流を印加し、中間層の上に厚さが25μmの最外層のCr−Mo−S合金めっき層を生成した。以上の工程を経て、積層のCr−Mo−S合金めっき被膜である実施例2−1〜実施例2−18と、比較例2−1〜比較例2−47とを生成した。
なお、表3に示されるように、実施例1−1〜実施例1−18、実施例2−1〜実施例2−18、比較例1−1〜比較例1−67、比較例2−1〜比較例2−47は、Cr−Mo−S合金めっき被膜中のH、Mo、Sの含有量がそれぞれ異なった値となっているが、これは、めっき浴をCrOを240g/L、Naは5.0g/L、モリブデン酸ナトリウム量を20〜100g/Lとし、めっき浴の温度及び電流密度を変化させることによってこのような値とした。
次に、従来例1を製造するための、電解研磨工程の後に行われるめっき工程について説明する。めっき工程では、極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで90min(分)電流を印加した。以上の工程を経て、単一層の硬質クロムめっき被膜である従来例1を生成した。
次に、従来例2を製造するための、電解研磨工程の後に行われるめっき工程及びエッチング工程について説明する。めっき工程では、極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極とし、電流密度60A/dmで25min(分)電流を印加した。次にエッチング工程では、極性を反転させて母材を陽極とし対極を陰極として、電流密度60A/dmで10S(秒)電流を印加して、母材直上の最内層の厚さが30μmの硬質クロムめっき層を生成した。
次に、再び極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで1025S(秒)電流を印加してめっき工程を行った。次に、エッチング工程を行った。このエッチング工程では、750μsecの切り替え時間で極性を反転させて母材を陽極とし対極を陰極として、電流密度60A/dmで90S(秒)電流を印加し、6層からなる中間層のうちの第1層目の硬質クロムめっき層を、最内層の上に生成した。この第1層目の硬質めっき層の厚さは10μmである。そして、第1層目の硬質めっき層を生成しためっき工程とエッチング工程とを繰り返すことにより、合計6層の中間層を生成した。
次に、再び極性を反転させて母材を陰極とし対極を陽極として、電流密度60A/dmで13min(分)電流を印加し、中間層の上に厚さが15μmの最外層の硬質クロムめっき層を生成して、従来例2を製造した。
従来例1、従来例2を製造するためのめっき浴の組成は、公知のフッ化浴を用いる。また、めっき工程及びエッチング工程で用いられためっき浴の液温は、実施例、比較例においては50℃、従来例においては60℃である。
次に、上述の実施例、従来例、比較例を用いて行った摺動特性等の試験について説明する。試験は、摩耗試験とスカッフ試験と高温硬さ試験と高温における水素含有測定と腐食試験とにより構成される。摩耗試験、スカッフ試験では、ローラチップ型摩耗試験機を用いて行った。高温硬さ試験、高温における水素含有測定、腐食試験における試験機については後述する。摩耗試験の試験条件は以下のとおりである。
実験条件
荷重:785N、周速:1.0m/s(478rpm)、油温:80℃、
潤滑油:タービン油 #100、時間:7時間
摩耗量測定:粗さ計による段差プロフィールにて摩耗量(μm)を測定
ライナー材(相手材):FC25
ピストンリング材(母材):S45C
摩耗試験では、より具体的には図1に示されるように、ローラチップ型摩耗試験機100において、ピストンリングに相当する直方体形状のテストピース1 (寸法が8mm×7mm×5mm)を固定片とし、シリンダライナに相当する外径40mm、内径16mm、厚さ10mmのドーナツ状の相手材2(回転片)にテストピース1を接触させ、テストピース1に荷重Pを負荷して上述の試験条件にて試験を行った。相手材2の下半分は、潤滑油3に浸す状態とした。摩耗量の測定は、粗さ計による段差プロフィールで摩耗量(μm)を測定することにより行った。
摩耗指数は、従来例1の摩耗量に対する各テストピース1の摩耗量を相対比として算出することにより求めた。従って、各テストピース1の摩耗指数が100より小さく且つ値が小さいほど摩耗量が少なく耐摩耗性に優れていることを表す。摩耗試験の結果は表3に示されるとおりである。
スカッフ試験の試験条件は以下のとおりである。
実験条件
面圧初期値:98N、周速:1.0m/s、
潤滑油:初めにタービン油#100を塗布するのみ
荷重負荷:49N/min
ライナー材(相手材):FC25
ピストンリング材(母材):S45C
スカッフ試験は、摩耗試験と同様にローラチップ型摩耗試験機を使用し、ピストンリングに相当するテストピースを固定片とし、シリンダライナに相当する相手材(回転片)に固定片を接触させて、98Nの荷重にてなじみ運転を行った後、49N/minの勾配で荷重を加え、摩耗係数の急激な上昇で停止させ、その時の荷重をスカッフ限界荷重とした。用いたテストピースの寸法は、摩耗試験で用いたものと同一である。
耐スカッフ指数は、従来例1のスカッフ限界荷重を100とし、従来例1の結果に対する各テストピースのスカッフ限界荷重を相対比として算出して求めた。従って、各テストピースの耐スカッフ指数は、100より大きく且つ大きければ大きいほどスカッフ限界荷重が大きくなり、従来例1よりも耐スカッフ性に優れる。スカッフ試験の結果は表3に示されるとおりである。
Figure 2006070298
Figure 2006070298
Figure 2006070298
Figure 2006070298
表3に示されるように、単一層のCr−Mo−S合金めっき被膜である実施例1−1〜実施例1−18では、摩耗指数は92〜68と低くなっており、耐スカッフ指数は110〜141と高く、いずれにおいても結果は良好であることが分かる。また、積層のCr−Mo−S合金めっき被膜である実施例2−1〜実施例2−18では摩耗指数は90〜66と低くなっており、耐スカッフ指数は112〜143と高く、単一層のCr−Mo−S合金めっき被膜よりも良好であることが分かる。積層の場合、層内及び層間にまたがる微細亀裂により保油性を維持することから、このように単一層よりも全体として良い結果となったといえる。
これに対し、従来例では、摩耗指数と耐スカッフ指数との組合せで見ると、実施例1−1〜実施例1−18、実施例2−1〜実施例2−18よりも劣っていることが分かる。また、単一層の比較例1−1〜比較例1−67、積層の比較例2−1〜比較例2−47のいずれの場合においても、摩耗指数と耐スカッフ指数との組合せにおいて実施例1−1〜実施例1−18、実施例2−1〜実施例2−18には及ばないことが分かる。以上より、Cr−Mo−S合金めっき被膜中にMoを0.05〜1.2質量%、Sを0.01〜0.3質量%、Hを0.05〜0.18質量%含むようにすることによって、Cr−Mo−S合金めっき被膜を耐摩耗性、耐スカッフ性に優れたものとすることができることが理解できる。
高温硬さ試験では、試験機として高温マイクロビッカース硬さ試験機を用いて行った。より具体的には、試験機として株式会社ニコン製の9M2を用いた。
高温硬さ試験の試験条件は以下のとおりである。
実験条件
雰囲気:真空 0.02Pa以下、荷重:100g、保持時間10s、
測定温度:常温、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、
高温硬さ試験では、上述の実施例1−1、従来例1、従来例2のピストンリングと同様の方法により製造された単一層の実施例(a)、単一層の従来例(a)、積層の従来例(b)の直方体形状のテストピース (寸法が5mm×10mm×5mm)を用いて行った。単一層の実施例(a)は、Moを0.16質量%、Sを0.05質量%、Hを0.144質量%含む。単一層の従来例(a)は、Mo、Sを含まず、Hを0.092質量%含む。積層の従来例(b)は、Mo、Sを含まず、Hを0.127質量%含む。
試験結果は、図2のグラフに示されるとおりである。実施例(a)は、図2に示されるように、いずれの測定温度においても硬さの値が従来例(a)、従来例(b)よりも高いことが分かる。特に、従来例ではピストンリングが実働時に曝される200℃以上の高温領域で軟化して、耐磨耗性、耐スカッフ性等の摺動特性が低下する欠点があったが、実施例(a)では、高温に曝されても、硬さが落ちにくいことがわかる。
高温における水素含有測定では、試験機として水素分析機を用いて行った。より具体的には、試験機として株式会社堀場製作所製のH.N.O.分析機を用いた。
高温における水素含有測定の試験条件は以下のとおりである。
雰囲気:大気中
熱処理条件:常温、105℃×1hr、400℃×1hr
測定重量:0.1g
高温における水素含有測定では、上述の実施例(a)、従来例(a)、従来例(b)の被膜をテストピースに形成し、被膜のみを剥がし、総重量を0.1gとして測定を行った。試験結果は、図3のグラフに示されるとおりである。図3に示されるように、従来例(a)、従来例(b)は実施例(a)よりも熱処理後の水素含有量の低下が大きいことが分かる。従って、実施例(a)は、硬質クロムめっきたる従来例(a)、従来例(b)よりも、高温領域において水素含有量の変化が少ないため、高温領域における高度の低下を抑制することができる。
腐食試験は、ビーカーによる浸漬法により行った。具体的には、図4に示されるように、ウォーターバス201にビーカー202の底部を入れ、ビーカー202の中に腐食液たる硫酸水溶液203を入れる。そして、硫酸水溶液203にテストピース204を浸漬する。ウォーターバス201の水温を管理することにより、腐食液の温度を管理する。
腐食試験の試験条件は以下のとおりである。
濃度:2.5%硫酸、温度:70±0.5℃、時間:25分、液量:1L(リットル)
評価方法:腐食減量(mg/cm
ここで、腐食前に105℃×1hrで乾燥させたテストピースを測定した値を腐食前重量とし、腐食後に腐食生成物を除去し105℃×1hrで乾燥させ、重量を測定したものを腐食後重量とする。腐食前重量から腐食後重量を引き、面積で割って得られた値を腐食減量とした(mg/cm)。
腐食試験では、上述の実施例(a)、従来例(a)、従来例(a)のピストンリングに相当する直方体形状のテストピース204 (寸法が8mm×15mm×5mm)を用いて行った。テストピース204の8mm×15mmの一面に被膜を生成し、他の面には、耐食性材料にてコーティングを施した。試験結果は、図5のグラフに示されるとおりである。実施例(a)の値0.6は、図5に示されるように、従来例(a)の値である100、従来例(b)の値である65よりも圧倒的に低く、極めて良好な耐食性を有していることが分かる。
本発明によるCr−Mo−S合金めっき被膜は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば本実施の形態では、ピストンリングの摺動面相当位置にCr−Mo−S合金めっき被膜が生成されたが、シリンダライナの内周摺動面相当位置、ロッカーアームやカムシャフトの外周、ジャーナル等の摺動部材の摺動面相当位置等に生成されてもよい。
また、摩耗試験等ではピストンリング相当材としてS45Cを用いたが、本発明においては、ピストンリング材としてはこの材料に限定されない。公知の材料であるスチール材及び鋳物材全てが適用可能である。
本発明は、内燃機関のシリンダライナやピストンリング等の摺動面相当位置に施されるCr−Mo−S合金めっき被膜の分野であって、特に、燃料中のS濃度の高いガソリンの仕様機関やディーゼルエンジン等におけるEGR等腐食雰囲気中で使用されるピストンリング等に施されるCr−Mo−S合金めっき被膜分野において極めて有用である。
本発明の実施の形態によるCr−Mo−S合金めっき被膜の効果を試す試験を行うためのローラチップ型摩耗試験機を示す概念図。 高温硬さ試験の結果を示すグラフ。 高温における水素含有測定の試験の結果を示すグラフ。 腐食試験で用いられるビーカーによる浸漬法を示す概略図。 腐食試験の結果を示すグラフ。

Claims (1)

  1. 母材表面上の摺動面相当位置に生成されるCr−Mo−S合金めっき被膜において、
    Moを0.05〜1.2質量%、Sを0.01〜0.3質量%、Hを0.05〜0.18質量%含み、単一層もしくは2層以上の積層からなることを特徴とするCr−Mo−S合金めっき被膜。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2024069774A1 (ja) * 2022-09-28 2024-04-04 Tpr株式会社 ピストンリング

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