JP2006050930A - ニトリラーゼ活性保持方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物のニトリラーゼ活性の低下を十分抑制することができる保存方法を提供すること。
【解決手段】 ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物を無機塩類水溶液中で保存する方法であって、該無機塩類水溶液濃度が0.1mM以上100mM未満の範囲であり、且つ保存中の微生物保存液温度が保存液の凍結点より高く4℃未満の範囲とすることを特徴とするニトリラーゼ活性の保存方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌体またはその固定化菌体のニトリラーゼ活性を保持する方法、より詳しくは微生物菌体の産出するニトリラーゼ活性の経時的な低下を防止し、長期間高い活性を維持することができるニトリラーゼ活性の保持方法に関する。
近年、微生物の産生する酵素は、化学反応の触媒として多くの場面で使用されている。酵素活性を有する微生物あるいはその酵素、もしくはそれらの固定化物を利用して目的の化合物を合成する方法は、反応条件が穏和であること、あるいは副生成物が少ないため高純度の反応生成物を取得できる等の利点があるため、効率的な化合物製造に有効である。
これらの酵素のうちニトリラーゼは、ニトリル類を水和して対応するカルボン酸アンモニウムを生成する酵素として知られている。ニトリラーゼ酵素に関する従来技術としては、例えば特許文献1〜5が挙げられる。また、この酵素を産生するグラム陰性菌としてはアシネトバクター属やアルカリゲネス属等が知られている。
微生物の産生する酵素を物質生産の触媒として使用する場合、培養して得られた微生物またはその固定化物を酵素使用時まで安定に保存しておく必要がある。すなわち、微生物の産生する酵素の触媒能を低下させることなく、また雑菌の繁殖がないように保存する必要がある。そのため酵素の失活やこれを引き起こす微生物の溶菌、腐敗等を抑制する方法として、従来、凍結保存や緩衝液等に懸濁した状態で冷蔵保存する方法、あるいは保存剤を添加して保存する方法(例えば、特許文献6参照。)が知られている。
しかしながら、本発明者らの検討において、上記ニトリラーゼのニトリル水和活性は不安定であり、集菌直後であっても大きな活性低下が引き起こされることが判明した。その上、この大きな活性低下は従来行われてきたような一般的な冷蔵等の手法を用いても防止することができないということが判明した。
このニトリラーゼ活性低下を抑制、防止するための微生物保存方法に関して、100mM乃至飽和濃度の無機塩類水溶液中で保存する方法(例えば、特許文献7〜8参照。)や、さらに保存液に防菌又は防黴効果のある薬剤を添加する方法が知られている。
特公昭63−2596号公報 特開昭63−129988号公報 特開昭63−209592号公報 特開平10−42885号公報 特開2000−501610号公報 特開平7−111887号公報 特許第3163224号公報 特開2003−504049号公報
これまでに知られている酵素活性の保存方法のうち微生物を凍結保存する方法は、工業的に多量の微生物を保存する場合に冷却コストの面で負担が大きく、また凍結、融解操作により酵素の失活や低下を起こす可能性が大きいという問題があった。また従来通りの冷蔵保存方法では本発明におけるニトリラーゼ活性の低下を充分抑制することができなかった。
また雑菌の混入防止のために高濃度無機塩類中で微生物保存する方法は、比較的高い温度での保存が可能であるものの、生産物質あるいは目的製品へこれら添加物が混入するのを防ぐために、使用前にそれらの添加物の除去工程が必要となり、操作が煩雑になるとともに、次反応系において不純物として無機塩類が混入し、その精製の為のイオン交換等の精製系への負荷が大きくなるという問題があった。
本発明は、こうした諸問題を解決することを目的とするものである。すなわち、低濃度の無機塩類の水溶液中で、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物のニトリラーゼ活性の低下を十分抑制することができる保存方法を提供することを目的とするものである。
本発明者はこれら課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物を、従来よりも低濃度、つまり0.1mM以上100mM未満の無機塩類水溶液中で、且つ保存中の微生物保存液温度が懸濁液の凍結点より高く4℃未満の温度範囲で保存することにより該微生物の有するニトリラーゼ活性を保持する方法を見出した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)に示すニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物のニトリラーゼ活性保持方法である。
(1)ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物を無機塩類水溶液中で保存する方法であって、該無機塩類水溶液濃度が0.1mM以上100mM未満の範囲であり、且つ保存中の微生物保存液温度が該保存液の凍結点より高く4℃未満の範囲とすることを特徴とするニトリラーゼ活性の保存方法。
(2)無機塩類水溶液がリン酸塩、硼酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩酸塩から選ばれた少なくとも1種の塩の水溶液であることを特徴とする(1)に記載の保存方法。
(3)無機塩類水溶液がリン酸塩水溶液であることを特徴とする(2)に記載の保存方法。
(4)微生物保存液のpHが6以上10以下であることを特徴とする(1)〜(3)に記載の保存方法。
(5)ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター属に属する微生物であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の保存方法。
(6)ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK226またはアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK227であることを特徴とする(1)〜(5)に記載の保存方法。
(7)ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK226であることを特徴とする(1)〜(6)に記載の保存方法。
本発明によれば、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物溶液または懸濁液を用いてカルボン酸アンモニウムを製造するにあたり、非常に不安定なそれらのニトリラーゼ活性を長期間安定的に保持する方法を提供することができる。また、これらニトリラーゼ活性を利用した反応系において、洗浄工程あるいは精製工程における負荷の軽減が期待される。
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明におけるニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌としては多くのものが知られており、高活性を有するものの代表例として、例えばアシネトバクター属、アルカリゲネス属等が挙げられるが、ニトリラーゼ産生能を有するグラム陰性菌であれば特に限定されるものではない。
具体的には、アシネトバクター エスピー AK226(FERM BP−08590)、アシネトバクター エスピー AK227(FERM BP−08591)が挙げられる。これらの菌株は、特公昭63−2596号公報に記載されている。また、本発明における微生物は、天然あるいは人為的に改良したニトリラーゼ遺伝子が遺伝子工学的手法により組み込まれた微生物であってもかまわない。
ニトリラーゼ活性を保持するための該グラム陰性菌の保存形態としては、微生物をそのまま用いても良いし、一般的な担体結合法、架橋法、包括法で固定化したものを用いてもよい。該グラム陰性菌を固定化する際の固定化担体としては、例えば、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリピニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸等が上げられるがどのようなものを用いても良く、これらに限定されるものではない。
本発明においてニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物中のニトリラーゼ活性を経時的に低下させることなく長期間安定に保持するには、所定濃度範囲の無機塩類水溶液に該グラム陰性菌またはその固定化物を懸濁または溶解させることにより達成される。
具体的には、まず、微生物培養液を遠心分離機にかけ、微生物ペレットと培養液に分離した後、該培養液を取り除く。次いで、微生物ペレットに水または生理食塩水または所定濃度範囲に調整された無機塩類水溶液を添加、混合、懸濁させた後、再び遠心分離により微生物ペレットを得、再び水または生理食塩水または所定濃度範囲に調整された無機塩類水溶液を添加、混合、懸濁させる。この遠心分離および懸濁の操作を数回繰り返した後、最終的に所定濃度範囲に調整された無機塩類水溶液中に遠心分離後の微生物ペレットを懸濁させることにより達成される。後述する実施例ではこの一連の操作を行ったが、これを微生物液の洗浄と記した。
微生物液の洗浄回数に制限はないが、洗浄回数を増やすことによるニトリラーゼ活性の低下を抑制するために2回程度実施するのが好ましい。このような方法により、本発明に記載の微生物を長期間(100日以上)安定に保存することができる。
本発明における無機塩類水溶液は、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、亜流酸塩および塩酸塩から選ばれた少なくとも1種の塩の水溶液である。また塩の種類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられるがどのようなものを用いても良く、これらに限定されるものではない。
本発明における無機塩類水溶液の濃度は0.1mM以上100mM未満であり、好ましくは5mM以上100mM未満、より好ましくは50mM以上100mM未満である。無機塩類水溶液の濃度が0.1mM未満である場合にはニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌のニトリラーゼ活性低下の抑制が困難であり、逆に無機塩類水溶液の濃度が100mM以上である場合には、続く反応工程への無機塩類の混入を抑制するために、微生物あるいはその固定化物を使用する際に該微生物あるいはその固定化物を洗浄するといった煩雑な操作が必要となるだけではなく、反応系にこれら無機塩類が不純物として混入する可能性が高くなるため、無機塩類除去のための精製が必要となる可能性がある。
また本発明における保持とは、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌のニトリラーゼ活性の失活や溶菌、雑菌の繁殖等による微生物の産生する酵素の触媒能の低下を抑制、防止することである。
本発明におけるニトリラーゼ活性保持方法において、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌保存液の温度は該グラム陰性菌溶液または懸濁液の凍結点より高く4℃未満の範囲であり、好ましくは該グラム陰性菌溶液または懸濁液の凍結点より高く1℃以下であり、より好ましくは該グラム陰性菌溶液または懸濁液の凍結点より高く0℃以下である。
該グラム陰性菌溶液または懸濁液pHは6以上10以下であり、好ましくは7以上9以下に調整する。
保存時の微生物またはその固定化物溶液または懸濁液の濃度に制限はないが、1〜80wt%の範囲で保存するのが好ましい。
[乾燥菌体重量の測定法]
固定化していない微生物液中の乾燥微生物重量の測定は、以下の方法で実施した。まず、適当な濃度の微生物懸濁液を適量取り、−80℃まで冷却した後、凍結乾燥機を用いて完全に乾燥し、微生物懸濁液濃度を算出した。既知濃度となった微生物懸濁液を適当な複数の濃度に希釈し、濁度計にて濁度を測定し、濁度計の検量線を作成し、ファクターを算出した。該濁度計の濁度指示値から任意の微生物懸濁液の乾燥微生物濃度を算出した。
微生物を固定化したものを生体触媒として使用する場合は、固定化する前の微生物懸濁液の乾燥微生物濃度を測定し、固定化担体と微生物の混合比で固定化触媒中の固定化担体を差し引いた生体由来成分の乾燥重量を算出した。
以下、実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)微生物培養
ニトリラーゼ活性を有するアシネトバクター エスピー AK226(FERM BP−08590)を塩化ナトリウム0.1重量%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.005重量%、硫酸マンガン五水和物0.005重量%、硫酸アンモニウム0.1重量%、硝酸カリウム0.1重量%を含む水溶液をpH=7に調整した培地で栄養源としてアセトニトリル0.5重量%を添加し、30℃で好気的に培養した。
(2)保存後0日菌体懸濁液の作成
得られた微生物培養液を遠心分離機にかけ、微生物ペレットと培養液に分離した後、該培養液を取り除く。次いで、微生物ペレットに30mMアクリル酸アンモニウム水溶液(pH=7)を添加、混合、懸濁させた後、再び遠心分離により微生物ペレットを得、再度、該30mMアクリル酸アンモニウム水溶液を添加、混合、懸濁させる。この遠心分離および懸濁の操作を2回繰り返した後、最終的に、微生物ペレットを該30mMアクリル酸アンモニウム水溶液に懸濁させた。この菌体懸濁溶液を保存0日目として引き続きニトリラーゼ比活性の測定に用いた。
(3)保存用菌体懸濁液の作成
保存後0日菌体懸濁液の作成方法において、30mMアクリル酸アンモニウムの代わりに0.7mMリン酸バッファー(pH=7、K2HPO4−KH2PO4)を用い、最終的に得られた懸濁液を0℃で100日間保存する以外は同様の操作を行った。保存100日後に該懸濁液のニトリラーゼ比活性を測定し、保存後0日のニトリラーゼ比活性と保存後100日のニトリラーゼ比活性からニトリラーゼ活性低下度を求めた。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
(4)ニトリラーゼ比活性の測定
基質としてアクリロニトリルを用い、生成物であるアクリル酸アンモニウム量を測定することで活性を評価した。具体的には、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物の保存後の懸濁液を30mMのアクリル酸アンモニウム水溶液(pH=7)で洗浄した後、同水溶液に懸濁した液5mLを予め30℃に保持する。その後、アクリロニトリル100μLを素早く添加した時点を反応スタートとし、振とう培養器中、30℃で20分間反応させた。反応後の反応液あるいは上清中のアクリル酸アンモニウム濃度は、ホルマリン処理でアンモニウムイオンをヘキサメチレンテトラミンとしてトラップした後、中和滴定にて定量した。この時同時にアクリロニトリルを添加しないサンプルも作成し、添加したサンプルと同様に処理し、その滴定値をブランク値(反応前のアクリル酸アンモニウム濃度)として、前記滴定値から差し引いた値を生成アクリル酸アンモニウム濃度とした。アクリロニトリルを基質とした場合の比活性は1時間あたりに1gの乾燥菌体が産生するアクリル酸アンモニウムの重量で表示した。
上記方法により求めた保存0日目と保存X日後(X=35または100)のニトリラーゼ比活性から以下に示す式に従ってニトリラーゼ活性低下度を求めた。表1に保存0日目の活性を100としたときのニトリラーゼ活性低下度を示す。
活性低下度(%)={(保存0日目の比活性)−(保存X日後の比活性)}×100/(保存0日目の比活性)
実施例2
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー溶液濃度を7mMにする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
実施例3
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー溶液濃度を71mMにする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
比較例1
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー水溶液の代わりに水を使用し、また、保存日数を35日とする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
比較例2
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー溶液濃度を0.07mMにし、また、保存日数を35日および100日とする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
比較例3
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー水溶液の代わりに水を使用し、また、保存条件を4℃で35日とする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
比較例4
実施例1の保存用菌体懸濁液の作成においてリン酸バッファー溶液濃度を30mMにし、また、保存条件を4℃で35日および100日とする以外は同様の操作を行った。表1にニトリラーゼ活性低下度を示す。
Figure 2006050930
本発明によれば、ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物溶液または懸濁液を用いてカルボン酸アンモニウムを製造するにあたり、非常に不安定なそれらのニトリラーゼ活性を長期間安定的に保持する方法を提供することができる。また、これらニトリラーゼ活性を利用した反応系において、洗浄工程あるいは精製工程における負荷の軽減が期待される。

Claims (7)

  1. ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌またはその固定化物を無機塩類水溶液中で保存する方法であって、該無機塩類水溶液濃度が0.1mM以上100mM未満の範囲であり、且つ保存中の微生物保存液温度が該保存液の凍結点より高く4℃未満の範囲とすることを特徴とするニトリラーゼ活性の保存方法。
  2. 無機塩類水溶液がリン酸塩、硼酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩酸塩から選ばれた少なくとも1種の塩の水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の保存方法。
  3. 無機塩類水溶液がリン酸塩水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の保存方法。
  4. 微生物保存液のpHが6以上10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の保存方法。
  5. ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター属に属する微生物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の保存方法。
  6. ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK226またはアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK227であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の保存方法。
  7. ニトリラーゼ活性を有するグラム陰性菌がアシネトバクター(Acinetobacter) エスピー AK226であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の保存方法。
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