以下、図面とともに本発明による微粒子の製造方法、及び製造装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、本発明による微粒子の製造装置の一実施形態を概略的に示す構成図である。本微粒子の製造装置1Aは、物質を光照射で微粒子化して、その微粒子を製造する製造装置である。また、本実施形態では、微粒子化対象となる物質について、溶媒中に物質が混合された被処理液を用いて微粒子化処理を行っている。被処理液2は、液相の水などの溶媒4と、溶媒4中に含まれる物質の原料粒子5とから構成されている。
図1に示すように、微粒子の製造装置1Aは、被処理液2を収容するための処理チャンバ3と、処理チャンバ3内に収容された被処理液2に対してレーザ光を照射するレーザ光照射装置10と、製造装置1Aの動作を制御する制御装置20とを備えている。処理チャンバ3は、微粒子化対象となる物質の原料粒子5を収容するためのものであり、例えば石英で構成されている。
レーザ光照射装置10は、被処理液2に対して、被処理液2の溶媒4中にある原料粒子5の物質を微粒子化するためのレーザ光を照射する照射手段である。本実施形態においては、製造装置1Aでのレーザ光照射装置10は、処理チャンバ3内に収容された物質の原料粒子5に対して、物質を微粒子化するためのレーザ光として、微粒子化の第1段階として物質の粗破砕を行うための波長λYのレーザ光、及び第2段階として物質の本破砕を行うためのλYよりも短い波長λX(λX<λY)のレーザ光を照射することが可能なように構成されている。
具体的には、本実施形態においては、レーザ光照射装置10は、4つのレーザ光源11〜14からなるレーザ群を有して構成されている。これらのレーザ光源11〜14は、互いに異なる波長λ1〜λ4のレーザ光を供給可能な波長固定レーザ光源である。このような構成において、被処理液2へと照射するレーザ光の波長λX、λYは、これらの4波長λ1〜λ4から選択される。また、レーザ光照射装置10には、必要に応じて、レーザ光源11〜14のそれぞれから供給されるレーザ光の処理チャンバ3への照射、及びその切換えを行うための照射光学系が設けられる。
また、処理チャンバ3内の被処理液2に対して、モニタ装置30が設置されている。このモニタ装置30は、被処理液2に含まれる原料粒子5の物質の微粒子化状況をモニタするモニタ手段である。物質の微粒子化状況のモニタは、例えば、被処理液2に対してモニタ用の光を照射し、その透過率を測定するなどの方法を用いて行うことができる。具体的な構成例としては、処理チャンバ3を挟んで設置された光源及び光検出器を用い、処理チャンバ3内の被処理液2における光散乱や吸光度などを測定して溶媒4中での物質の微粒子化状況をモニタする構成がある。なお、図1においては、この微粒子化状況モニタ装置30を模式的に図示している。
レーザ光照射装置10、及び微粒子化状況モニタ装置30は、コンピュータなどからなる制御装置20に接続されている。この制御装置20は、上記した製造装置1Aの各部の動作を制御することにより、物質の微粒子の製造を制御する。
制御装置20は、波長選択部21と、強度選択部22と、レーザ光制御部25とを備えている。レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10による被処理液2へのレーザ光の照射を制御する制御手段である。具体的には、レーザ光制御部25は、上記したレーザ光照射装置10の構成に対応して、物質の粗破砕を行う際の被処理液2への長波長λYのレーザ光の照射、及び物質の本破砕を行う際の短波長λXのレーザ光の照射を制御することによって、光照射による物質の原料粒子5の微粒子化を制御する。
波長選択部21は、被処理液2に含まれる原料粒子5の物質に対して設定された微粒子化の目標サイズ(例えば目標の粒子径)に基づいて、被処理液2に照射するレーザ光の波長を選択する。本製造装置1Aにおいては、波長選択部21は、レーザ光照射装置10において選択可能なレーザ光の波長λ1〜λ4を参照し、これらの4波長から物質の本破砕に用いるレーザ光の波長λXを選択する。また、この波長λXを参照し、物質の粗破砕に用いるレーザ光のλXよりも長い波長λYを選択する。
強度選択部22は、微粒子化の目標サイズに基づいて、被処理液2に照射するレーザ光の強度を選択する。本製造装置1Aにおいては、強度選択部22は、物質の本破砕に用いる波長λXのレーザ光の強度PXを選択する。また、物質の粗破砕に用いる波長λYのレーザ光の強度PYを選択する。
レーザ光制御部25は、波長選択部21で選択された波長λX、λY、及び強度選択部22で選択された強度PX、PYを参照する。そして、物質の粗破砕及び本破砕のそれぞれを行う際に、レーザ光照射装置10から被処理液2へと照射されるレーザ光の波長λ、強度Pなどの照射条件を制御する。
また、本実施形態においては、これらの波長選択部21、強度選択部22に対して、データベース23が設けられている。このデータベース23は、被処理液2に照射するレーザ光の波長λ、及び強度Pと、得られる物質の微粒子のサイズとの相関についてのデータを含む相関データベースである。波長選択部21、強度選択部22は、この相関データベース23から読み出したレーザ光の波長λ、強度Pと微粒子のサイズとの相関データを参照して、粗破砕に用いるレーザ光の波長λY、強度PY、及び本破砕に用いるレーザ光の波長λX、強度PXをそれぞれ選択する。
また、制御装置20に対して、入力装置26と、表示装置27とが接続されている。入力装置26は、例えば、操作者による微粒子化対象とする物質の指定、物質に対する微粒子化の目標サイズの入力、微粒子化処理の開始、終了の指示などに用いられる。また、表示装置27は、例えば、操作者に対する物質の微粒子化処理に関する必要な情報の表示などに用いられる。
次に、図1に示した微粒子の製造装置1Aを用いた本発明による微粒子の製造方法について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、水などの溶媒4と、微粒子化対象となる物質の原料粒子5とを混合して被処理液2を調製し、処理チャンバ3内に被処理液2を導入する(準備ステップ)。このとき、原料粒子5は、溶解物質または非溶解物質の状態で溶媒4中に含まれた状態となる。また、必要があれば、被処理液2を攪拌して、溶媒4中において原料粒子5を分散させる。続いて、被処理液2に含まれる微粒子化対象の物質に対して微粒子化の目標となる粒子サイズWXを設定し、その目標サイズWXを入力装置26から入力する(ステップS101、目標入力ステップ)。目標の粒子サイズWXは、例えば得られる微粒子の粒子径によって指定される。
次に、制御装置20において、被処理液2に対するレーザ光の照射条件を設定する。まず、波長選択部21において、相関データベース23から読み出したレーザ光の波長と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズWXに基づいて、微粒子化処理の第2段階で被処理液2に照射する本破砕用のレーザ光の波長λXを選択する。さらに、選択された波長λXを参照し、微粒子化処理の第1段階で被処理液2に照射する粗破砕用のレーザ光の波長λY(λY>λX)を選択する。
また、強度選択部22において、相関データベース23から読み出したレーザ光の強度と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズWX、及び波長選択部21で選択された波長λXに基づいて、本破砕用のレーザ光の強度PXを選択する。さらに、選択された波長λX、強度PX、及び波長λYを参照し、粗破砕用のレーザ光の強度PYを選択する。以上により、粗破砕及び本破砕のそれぞれでの被処理液2に対するレーザ光の照射条件が決定される(ステップS102、波長選択ステップ、強度選択ステップ)。
次に、被処理液2に対し、物質の粗破砕を行うための波長λY、強度PYでの第1段階(初期段階)のレーザ光照射を行う。まず、レーザ光照射装置10において、レーザ光源11〜14のうちで、粗破砕用に選択された波長λYに対応するレーザ光源からのレーザ光を被処理液2へと照射可能なように、照射光学系での光路を切換えて設定する(S103)。この光路の設定は、レーザ光制御部25により自動で、または操作者により手動で行うことができる。また、照射光学系における光路の切換えは、例えば、可動ミラーによる光路の変更や、シャッターによる不要な光路の遮断などによって行うことができる。
粗破砕用のレーザ光照射の光路の設定が終了したら、レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、波長選択部21、強度選択部22で選択された波長λY、強度PYを有するレーザ光を、対応するレーザ光源から照射光学系を介して被処理液2へと照射する。この第1段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が、ある程度のサイズまで粗破砕される(S104、粗破砕ステップ)。
また、この粗破砕用のレーザ光照射を行いつつ、微粒子化状況モニタ装置30により、被処理液2での物質の粗破砕処理の進行状況がモニタされる(モニタステップ)。ここでは、例えば、被処理液2の溶媒4中での物質の粒子径分布がモニタされる。そして、そのモニタ結果に基づいて、微粒子化の第1段階である粗破砕処理が完了しているかどうかを判断する(S105)。被処理液2での物質の微粒子化状況が粗破砕の完了条件を満たしていなければ、さらに粗破砕処理を続行する。一方、その微粒子化状況が完了条件を満たしていれば、被処理液2への粗破砕用のレーザ光照射を停止する。
続いて、被処理液2に対し、物質の本破砕を行うための波長λX、強度PXでの第2段階(最終段階)のレーザ光照射を行う。まず、レーザ光照射装置10において、レーザ光源11〜14のうちで、本破砕用に選択された波長λXに対応するレーザ光源からのレーザ光を被処理液2へと照射可能なように、照射光学系での光路を切換えて設定する(S106)。
本破砕用のレーザ光照射の光路の設定が終了したら、レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、波長選択部21、強度選択部22で選択された波長λX、強度PXを有するレーザ光を、対応するレーザ光源から照射光学系を介して被処理液2へと照射する。この第2段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が所望のサイズまで本破砕され、その物質の微粒子が生成される(S107、本破砕ステップ)。このとき、上記したレーザ光の波長λX、強度PXの選択により、本破砕によって生成される最終的な物質の微粒子のサイズが目標の粒子サイズWXとなるように、製造装置1Aでの微粒子化の処理条件が制御される。
また、この本破砕用のレーザ光照射を行いつつ、微粒子化状況モニタ装置30により、被処理液2での物質の本破砕処理の進行状況がモニタされる(モニタステップ)。ここでは、例えば、被処理液2の溶媒4中での物質の粒子径分布がモニタされる。そして、そのモニタ結果に基づいて、微粒子化の第2段階である本破砕処理が完了しているかどうかを判断する(S108)。被処理液2での物質の微粒子化状況が本破砕の完了条件を満たしていなければ、さらに本破砕処理を続行する。一方、その微粒子化状況が完了条件を満たしていれば、被処理液2への本破砕用のレーザ光照射を停止し、粗破砕処理及び本破砕処理を含む物質の微粒子化処理を終了する。
本実施形態による微粒子の製造方法及び製造装置の効果について説明する。
図1及び図2に示した微粒子の製造方法及び装置によれば、微粒子化対象の原料粒子5の物質に対するレーザ光の照射条件について、微粒子化の初期段階において長波長λYのレーザ光を照射して物質の粗破砕を行い、続いて、短波長λXのレーザ光を照射して本破砕を行うこととしている。ここで、レーザ光照射によって得られる物質の微粒子の粒子径は、物質に照射するレーザ光の波長λと相関を有し、後述するように、波長λが短いほど生成微粒子のサイズが小さくなる。したがって、上記のようにレーザ光の波長を変えて、2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行うことにより、所望のサイズへの物質の微粒子化処理を効率良く行うことが可能となる。また、上記した製造方法及び製造装置を用いれば、効率良く製造された所望のサイズを有する物質の微粒子を得ることができる。
また、本実施形態においては、物質に対して微粒子化の目標サイズWXを設定するとともに、設定された目標サイズWXに応じて波長選択部21で選択された波長λXのレーザ光を照射して、物質の本破砕を行っている。このように、本破砕でのレーザ光の波長λXを選択することにより、2段階のレーザ光照射で最終的に得られる物質の微粒子のサイズを確実に制御することが可能となる。また、得られる微粒子のサイズを制御しつつ物質の微粒子化を行うことにより、微粒子化処理の効率をさらに向上することができる。
また、波長選択部21による波長λXの選択に加えて、目標サイズWXに応じて強度選択部22でレーザ光の強度PXを選択して、物質の本破砕を行っている。ここで、レーザ光照射によって得られる物質の微粒子の粒子径は、物質に照射するレーザ光の強度Pとも相関を有する。したがって、上記のように本破砕でのレーザ光の強度PXを選択することにより、2段階のレーザ光照射で最終的に得られる物質の微粒子のサイズを確実に制御することが可能となる。また、得られる微粒子のサイズを制御しつつ物質の微粒子化を行うことにより、微粒子化処理の効率をさらに向上することができる。
図3は、レーザ光の波長λ及び照射光強度Pと、光照射によって得られる粒子サイズWとの相関の一例を模式的に示すグラフである。このグラフの相関データでは、レーザ光の波長λについては、粒子サイズがW0〜W1の範囲では波長λ1、W1〜W2の範囲では波長λ2、W2〜W3の範囲では波長λ3、W3〜W4の範囲では波長λ4を選択することにより、所望のサイズWの物質の微粒子を生成可能となっている。
また、波長λi(i=1〜4)を一定とした場合のサイズ範囲Wi−1〜Wi内では、波長λ1〜λ4にそれぞれ対応するグラフに示すように、レーザ光の強度を変えることによって得られる微粒子のサイズを設定可能であることがわかる。このように、物質の原料粒子5を含む被処理液2に対して照射する本破砕用のレーザ光の波長λX、及び強度PXを適切に選択することにより、生成される物質の微粒子のサイズWを所望のサイズに制御することが可能である。例えば、図3中に示すサイズWXが目標サイズの場合、グラフに示した相関データを参照して、微粒子化の最終段階である本破砕処理におけるレーザ光の照射条件が波長λX=λ2、強度PXに選択される。
また、この場合、微粒子化の初期段階である粗破砕処理におけるレーザ光の照射条件については、レーザ光の波長λYとしてはλX=λ2よりも長い波長λ3、λ4のいずれかが選択される。この粗破砕用のレーザ光の波長λY、強度PYの選択については、本破砕用のレーザ光の照射条件を参照して適切に選択することが好ましい。あるいは、最終的な物質の微粒子の目標サイズWXに加えて、粗破砕処理が行われた段階での中間的な物質の粒子の目標サイズWYを設定し、その目標サイズWYに応じて波長λY、強度PYの選択を行っても良い。
微粒子化処理におけるレーザ光の照射条件については、一般には、物質に照射するレーザ光の波長λ、及び強度Pに対する得られる微粒子のサイズWの依存性では、図3の例に示したように、レーザ光の波長λでは制御可能なサイズ範囲が広く、強度Pでは制御可能なサイズ範囲は比較的狭い。この場合、本破砕用のレーザ光の波長λXによって得られる微粒子のサイズWを粗調整するとともに、レーザ光の強度PXによって微粒子のサイズWを微調整する構成とすることが好ましい。これにより、最終的に得られる微粒子のサイズを精度良く制御することが可能となる。
また、レーザ光の照射条件による微粒子のサイズの制御については、レーザ光の波長、または強度の一方を用いて、生成される物質の微粒子のサイズを制御する構成としても良い。
また、上記した実施形態では、レーザ光の波長を変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行っている。これに対して、微粒子化処理に必要な具体的な条件等に応じて、レーザ光の波長ではなく強度を変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行う方法を用いることも可能である。
この場合の微粒子の製造方法について概略的に説明する。まず、調製した被処理液2を処理チャンバ3内に導入する(準備ステップ)。続いて、被処理液2に含まれる微粒子化対象の物質に対して目標サイズWXを設定し、その目標サイズWXを入力装置26から入力する(目標入力ステップ)。
次に、制御装置20において、被処理液2に対して照射する所定波長のレーザ光の照射条件を設定する。まず、強度選択部22において、相関データベース23から読み出したレーザ光の強度と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズWXに基づいて、微粒子化処理の第2段階で被処理液2に照射する本破砕用のレーザ光の強度PXを選択する。さらに、選択された強度PXを参照し、微粒子化処理の第1段階で被処理液2に照射する粗破砕用のレーザ光の強度PYを選択する。これらの強度PX、PYは、本破砕での強度PXがPYよりも高い強度となる(PY<PX)ように選択される(強度選択ステップ)。
次に、被処理液2に対し、物質の粗破砕を行うための強度PYでの第1段階のレーザ光照射を行う。レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、強度選択部22で選択された強度PYを有する所定波長のレーザ光を被処理液2へと照射する。この第1段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が、ある程度のサイズまで粗破砕される(粗破砕ステップ)。
続いて、被処理液2に対し、物質の本破砕を行うための強度PXでの第2段階のレーザ光照射を行う。レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、強度選択部22で選択された強度PXを有する所定波長のレーザ光を被処理液2へと照射する。この第2段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が所望のサイズまで本破砕され、その物質の微粒子が生成される(本破砕ステップ)。
上記した製造方法では、微粒子化対象の原料粒子5の物質に対するレーザ光の照射条件について、微粒子化の初期段階において低強度PYのレーザ光を照射して物質の粗破砕を行い、続いて、高強度PXのレーザ光を照射して本破砕を行うこととしている。ここで、レーザ光照射によって得られる物質の微粒子の粒子径は、上述したように、物質に照射するレーザ光の強度Pと相関を有し、強度Pが高いほど生成微粒子のサイズが小さくなる。したがって、上記のようにレーザ光の強度を変えて、2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行うことにより、レーザ光の波長を変えた場合と同様に、所望のサイズへの物質の微粒子化処理を効率良く行うことが可能となる。
このように、レーザ光の強度Pを変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行う場合、レーザ光の波長λを変える必要がなければ、図1に示した製造装置1Aの構成において、レーザ光照射装置10を、単一波長のレーザ光を供給する構成としても良い。あるいは、レーザ光の強度P及び波長λを組み合わせて制御する場合には、図1に示したように複数波長のレーザ光を供給可能な構成のレーザ光照射装置10を用いても良い。このようなレーザ光照射装置の構成、及び2段階のレーザ光照射での強度P及び波長λの選択については、微粒子化処理の具体的な条件等に応じて適宜設定すれば良い。
図4は、本発明による微粒子の製造装置の他の実施形態を概略的に示す構成図である。本微粒子の製造装置1Bにおいて、溶媒4中に物質の原料粒子5が混合された被処理液2を収容するための処理チャンバ3、微粒子化状況モニタ装置30、入力装置26、及び表示装置27の構成については、図1に示した構成と同様である。
レーザ光照射装置10は、被処理液2に対してレーザ光を照射する照射手段である。本実施形態においては、このレーザ光照射装置10は、所定の波長範囲内でレーザ光の波長λを制御可能な波長可変レーザ光源15を有して構成されている。
波長可変レーザ光源15、及び微粒子化状況モニタ装置30は、製造装置1Bの各部の動作を制御する制御装置20に接続されている。制御装置20は、波長選択部21と、レーザ光制御部25とを備えている。波長選択部21は、被処理液2に含まれる原料粒子5の物質に対して設定された微粒子化の目標サイズWXに基づいて、被処理液2に照射するレーザ光の波長を選択する。本製造装置1Bにおいては、波長選択部21は、波長可変レーザ光源15において可変な波長範囲を参照し、その波長範囲内から本破砕用のレーザ光の波長λXを選択し、さらにλXよりも長い粗破砕用のレーザ光の波長λYを選択する。
この波長選択部21に対して、データベース24が設けられている。このデータベース24は、被処理液2に照射するレーザ光の波長と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関についてのデータを含む相関データベースである。波長選択部21は、この相関データベース24から読み出したレーザ光の波長と微粒子のサイズとの相関データを参照して、レーザ光の波長を選択する。また、レーザ光制御部25は、波長選択部21で選択された波長λX、λYを参照する。そして、物質の粗破砕及び本破砕のそれぞれを行う際に、波長可変レーザ光源15から被処理液2へと照射されるレーザ光の波長λ、強度Pなどの照射条件を制御する。
本実施形態においては、レーザ光の強度については微粒子化の目標サイズによる選択を行わず、目標サイズに応じて波長選択部21で選択された波長のレーザ光を照射して、物質の粗破砕及び本破砕を行っている。このような構成によっても、生成される物質の微粒子のサイズを確実に制御することが可能となる。また、得られる微粒子のサイズを制御しつつ物質の微粒子化を行うことにより、微粒子化処理の効率をさらに向上することができる。
また、本製造装置1Bでは、レーザ光照射装置10において、図1に示した複数の波長固定レーザ光源11〜14に代えて、波長可変レーザ光源15を用いている。一般には、微粒子化対象の物質に2段階でレーザ光を照射するレーザ光照射手段は、レーザ光の波長を制御可能な構成、あるいは、レーザ光の波長、及び強度を制御可能な構成を用いることが好ましい。
また、レーザ光の波長の制御については、図1に示した複数の波長固定レーザ光源11〜14のように波長を離散的に制御可能な構成を用いても良く、あるいは、図4に示した波長可変レーザ光源15のように波長を連続的に制御可能な構成を用いても良い。複数のレーザ光源からなるレーザ群を用いた場合、波長可変レーザ光源よりも安価にレーザ光照射手段を実現できるという利点がある。
被処理液2へのレーザ光の照射条件の具体的な制御方法については、レーザ光照射装置10の具体的な構成、微粒子のサイズについて必要とされる精度などに応じて適宜に設定して良い。例えば、図1に示した構成において、強度選択部22を設けずに波長のみを制御する構成としても良い。また、図1に示した構成において、波長選択部21を設けずに強度のみを制御する構成としても良い。あるいは、図4に示した構成において、波長選択部21に加えてさらに強度選択部を設け、微粒子のサイズを精度良く制御しても良い。なお、レーザ光照射手段から供給可能なレーザ光の波長については、物質の吸光特性などに基づいて、適切な波長または波長範囲を設定することが好ましい。また、必要に応じて、レーザ光照射装置10に対して減衰フィルタや光減衰器などの光強度調整手段を設けても良い。
また、図1及び図4に示した構成では、レーザ光の波長、及び強度の選択を、相関データベース23、24を参照して行っている。これにより、微粒子化対象の物質に対して、目標の粒子サイズに応じたレーザ光の波長、強度の選択を容易に行って、生成される物質の微粒子のサイズを確実に制御することができる。
相関データベースに含まれる相関データとしては、例えば、図3に示したようなレーザ光の波長、強度と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データがある。また、レーザ光の波長のみを制御する場合には、レーザ光の波長と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データを用いても良い。あるいは、レーザ光の強度のみを制御する場合には、レーザ光の強度と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データを用いても良い。また、具体的なレーザ光の波長、及び強度の選択方法としては、相関データベースを参照する方法以外にも、例えば相関を表す演算式を用いる方法など、他の方法を用いても良い。
なお、粗破砕及び本破砕におけるレーザ光の照射条件があらかじめ設定されている場合には、目標サイズによるレーザ光の照射条件の選択を行わない構成としても良い。この場合、図1に示した構成において、波長選択部21、強度選択部22、及び相関データベース23は不要となる。また、レーザ光照射装置10の構成については、物質の粗破砕を行う波長λYのレーザ光を供給可能な波長固定レーザ光源、及び物質の本破砕を行うλYよりも短い波長λXのレーザ光を供給可能な波長固定レーザ光源の2つのレーザ光源を有する構成を用いることができる。
また、上記構成では、被処理液2に対して微粒子化状況モニタ装置30を設け、物質の微粒子化状況をモニタするとともに、そのモニタ結果を参照してレーザ光の照射を制御している。このように、微粒子化状況をモニタして微粒子化処理のフィードバック制御を行うことにより、上記した2段階のレーザ光照射による物質の微粒子化を好適に制御することができる。この場合、さらに、モニタ装置30によるモニタ結果を参照して、レーザ光の波長、強度を調整する構成としても良い。あるいは、このような微粒子化状況モニタ装置30については、不要であれば設置しない構成としても良い。
ここで、レーザ光照射装置10から被処理液2へと照射される粗破砕用、本破砕用のレーザ光の波長λX、λYは、微粒子化する物質の電子遷移に起因する吸光帯よりも長い波長、あるいは吸光帯であることが好ましい。また、光劣化(光化学反応)を避ける必要のある物質の場合、赤外域の波長であることが好ましく、さらに、900nm以上の波長であることが好ましい。これにより、レーザ光照射による物質の微粒子化を、品質劣化を低減して好適に実現することができる。また、レーザ光照射装置10でのレーザ光源としては、パルスレーザ光源を用いることが好ましい。特に、被処理液2での余分な光化学反応や熱分解の発生を抑制しつつ、充分な効率で微粒子化を行うため、光照射による微粒子化現象を引き起こす光強度の閾値を超えているのであれば、1パルス当たりの照射エネルギーが低く、高い繰返し周波数を有するパルスレーザ光源を用いることが好ましい。
また、レーザ光照射による微粒子化対象となる原料粒子5の物質を有機化合物としても良い。有機化合物としては、例えば、有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬物(薬剤、医薬品関連物質)などが挙げられる。薬物の場合、上記した粗破砕処理、及び本破砕処理を行うことにより、所望のサイズへの微粒子化を効率良く行うことができ、レーザ光照射による薬物での光化学反応の防止に寄与する。このため、薬物の薬効を失うことなくその微粒子を製造することができる。また、光化学反応については、レーザ光の波長を好適に選択(例えば上記した900nm以上の波長に選択)することにより、光化学反応の発生をさらに抑制することが可能である。
詳述すると、薬物として用いられる有機化合物では、分子構造の中に比較的弱い化学結合を含むことが多いが、このような有機化合物に紫外光などの光を照射すると、微粒子を部分的に生成することはできるものの、同時に、一部で電子励起状態を経由して有機化合物の光化学反応が生じて不純物が生成されてしまう場合がある。特に、有機化合物が体内に投与される薬物(医薬品)の場合、そのような不純物は副作用の原因となり、生体に悪影響を与えるおそれもあるため、このような事態は極力避けなければならない。これに対して、物質の微粒子を所望のサイズで効率良く製造することが可能な、上記した好適に選択された波長、強度のレーザ光を用いた製造方法で有機化合物の微粒子を製造することにより、光化学反応の発生を抑制して、不純物の生成を充分に抑制することが可能となる。
また、上記のように、薬効を失うことなく保持しつつ薬物の微粒子化を実現することにより、微粒子化前の形態では評価できなかった物理化学的研究、スクリーニングなどの候補化合物の探索、決定や、ADME試験、動物での前臨床試験における一般毒性、一般薬理、薬効薬理、生化学的研究、及び臨床試験などができるようになる。また、上記した製造方法により、極めて多種類の生体に投与可能な薬物を得ることができる。このため、薬物の選択の幅を飛躍的に拡大することができる。また、薬物の微粒子化により薬物の表面積が増大し、生体組織への吸収性が向上するため、少量で有効な薬物微粒子を得ることができる。このような微粒子化処理は、薬物以外の有機化合物に対しても有効である。
微粒子化の対象となる有機化合物の具体例としては、例えば、薬物である酪酸クロベタゾンやカルバマゼピン等の難溶性薬物がある。また、上記した微粒子の製造方法及び製造装置は、上記医薬品物質以外にも、医薬品候補物質(天然物、化合物ライブラリー中の物質等)、あるいは医薬部外品、化粧品等にも適用可能である。
また、薬物などの有機化合物の溶媒としては、上記したように水を用いることが好ましく、若干のアルコール類、糖類、塩類が入っていても良い。あるいは、水以外の溶媒を用いても良い。そのような溶媒としては、1価アルコールであるエチルアルコール、2価アルコールであるグリコール類(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、3価アルコールであるグリセロールなどがある。また、植物油であるダイズ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油なども溶媒として用いることができる。これらの溶媒は、注射剤として使用する場合に、非水性注射剤の有機溶媒として好適に用いることができる。
また、図1に示した製造装置1A、図4に示した製造装置1Bにおいて、物質に対する粗破砕処理時、及び本破砕処理時のそれぞれでの被処理液2に対するレーザ光照射の停止については、あらかじめ微粒子化処理に必要な処理時間を求めておき、その処理時間に基づいてレーザ光照射を制御することが可能である。あるいは、被処理液2に対して微粒子化状況モニタ装置30が設置されている場合には、上記したように、モニタ装置30によるモニタ結果に応じてレーザ光照射を制御することとしても良い。
次に、レーザ光の照射条件を変えた微粒子化処理の測定例、及び2段階のレーザ光照射を用いた微粒子化処理の実施例により、本発明の内容をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す測定例、実施例に限定されるものではない。
まず、レーザ光の波長を変えた場合について生成微粒子のサイズの変化を調べた。ここでは、微粒子化対象の原料粒子5の物質として、バナジルフタロシアニン(VOPc)の微粒子化を試みた。VOPcは、水に対して不溶性の顔料である。まず、原料粒子であるVOPcの粉体を濃度0.5mg/mlで溶媒である水中に懸濁したサンプルを微粒子化処理の被処理液として準備した。そして、10mm×10mm×40mmの石英角セルを処理チャンバとして被処理液を3mlずつ分注し、λ=1064nm、532nm、355nmの3波長のレーザ光のそれぞれによって、レーザ光照射によるVOPcの微粒子化を行った。VOPcの原料粉体の粒子径分布は、10μm〜70μmである。
レーザ光の波長以外の照射条件については、レーザ光のスポット直径φ1mm、パルスレーザ光の1パルス当たりの照射光強度150mJ/cm2、繰返し周波数20Hz、パルス幅FWHM7nsで同一条件とした。そして、レーザ光を4時間照射後、得られた微粒子のサイズを粒度分布測定装置(島津製作所SALD7000)によって調べた。
ここで、レーザ光照射による物質の微粒子化は、時間とともに進行していくが、上記した4時間の照射時間は、3mlの被処理液に含まれる物質の原料粒子を限界まで微粒子化するために充分に長い時間である。したがって、上記測定で得られる微粒子の粒子径分布は、レーザ光の各照射条件に対して得られる最終的な粒子径分布を示している。また、原料粒子を懸濁させた被処理液には、生成微粒子の凝集を防止する目的で、界面活性剤(和光純薬製:Igapal CA-630)を濃度2.9×10−3mol/リットルで添加している。
図5は、上記各照射条件でレーザ光照射を行ったVOPc微粒子の粒子径分布を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はVOPcの粒子径(μm)を示し、縦軸は体積換算の相対粒子量(%)を示している。また、グラフA〜Cは、それぞれ、波長(A)1064nm、(B)532nm、(C)355nmのレーザ光を用いた微粒子化処理に対応している。
図5のグラフにおいて、グラフAをみると、波長1064nmのレーザ光を用いた微粒子化処理では、生成微粒子の粒子径は約100nm〜300nmの範囲となっている。また、グラフBをみると、波長532nmのレーザ光を用いた微粒子化処理では、生成微粒子の粒子径は約70nm〜200nmの範囲となっている。また、グラフCをみると、波長355nmのレーザ光を用いた微粒子化処理では、生成微粒子の粒子径は約30nm〜100nmの範囲となっている。
図6は、レーザ光の波長と、生成微粒子のサイズとの相関を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はレーザ光の波長λ(nm)を示し、縦軸はVOPcの生成微粒子の図5に示した粒子径分布での中心サイズW(中心粒子径、nm)を示している。これらの図5に示したグラフA〜C、及び図6に示した相関のグラフより、被処理液に照射するレーザ光の波長λと、微粒子化によって生成される微粒子のサイズWとは、図1に示した製造装置1Aに関して上述したように、波長λが短いほど生成微粒子のサイズWが小さくなる相関を有することがわかる。
このようなレーザ光の波長λと、生成微粒子のサイズWとの相関により、長波長λYのレーザ光を照射して物質の粗破砕を行い、さらに、短波長λXのレーザ光を照射して本破砕を行う2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行うことで、物質を段階的に微粒子化して、所望のサイズへの物質の微粒子化処理を効率良く行うことが可能となる。
例えば、レーザ光照射による物質の微粒子化では、物質の原料粒子5に対してレーザ光を照射する際に、サイズが大きい原料粒子5によるレーザ光の光散乱損失が発生する。このため、特に微粒子化の初期段階において、微粒子化の効率が充分に得られないという問題がある。これに対して、上記した方法では、粗破砕処理によって物質の原料粒子をある程度のサイズまで小さくした後に、レーザ光の波長を変えて本破砕処理を行っている。これにより、本破砕用のレーザ光の光散乱損失を抑制して、微粒子化処理の初期段階、最終段階を通して充分な効率で物質の微粒子化を行うことが可能となる。
このような2段階での微粒子化処理の具体例としては、レーザ光照射装置10として、光学結晶の選択によって1064nm、532nm、355nmの3波長のレーザ光を供給可能なYAGレーザを用い、物質の微粒子化の目標サイズをWX=105nmとした場合、図6のグラフより、本破砕用のレーザ光の波長λXは532nmとなる。また、λXよりも長い粗破砕用のレーザ光の波長λYはYAGレーザの基本波長である1064nmとなる。一方、目標サイズをWX=50nmとした場合、図6のグラフより、本破砕用のレーザ光の波長λXは355nmとなる。また、λXよりも長い粗破砕用のレーザ光の波長λYは、1064nm、及び532nmの2波長がその候補となる。ただし、YAGレーザの基本波長である1064nmとすることがフォトンの経済性の点から好ましい。
次に、上記と同様のVOPcのサンプルを用いるとともに、レーザ光の強度を変えた場合について生成微粒子のサイズの変化を調べた。まず、原料粒子であるVOPcの粉体を水中に懸濁したサンプルを微粒子化処理の被処理液として準備した。そして、石英角セルを処理チャンバとして被処理液を3ml分注し、レーザ光の波長をλ=355nmに固定して、生成微粒子のサイズを調べた。レーザ光の波長以外の照射条件については、レーザ光のスポット直径φ1mm、繰返し周波数20Hz、パルス幅FWHM7nsで同一条件とした。そして、レーザ光を4時間照射後、得られた微粒子の平均サイズを粒度分布測定装置(島津製作所SALD7000)によって調べた。VOPcの濃度、添加剤等については、上記と同様である。
図7は、レーザ光の強度と、生成微粒子のサイズとの相関を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はレーザ光の強度P(mJ/cm2・pulse)を示し、縦軸はVOPcの生成微粒子の平均サイズW(平均粒子径、nm)を示している。この相関のグラフより、被処理液に照射するレーザ光の強度Pと、微粒子化によって生成される微粒子のサイズWとは、相関を有することがわかる。また、ここでは、レーザ光の強度Pが大きいほど平均サイズWが小さくなる傾向がみられるが、そのサイズの調整幅はレーザ光の波長λを変えた場合と比べると小さいことがわかる。このような場合には、上記したように、レーザ光の波長を微粒子のサイズの粗調整に用い、その強度をサイズの微調整に用いることができる。また、レーザ光の強度のみによって微粒子のサイズを調整しても良い。
次に、上記と同様にVOPcをサンプルとし、微粒子化の目標サイズWXを粒子径60nmとして、粗破砕及び本破砕の2段階のレーザ光照射によるVOPcの微粒子化処理を試みた。図7に示したレーザ光の強度と、生成微粒子のサイズとの相関により、波長355nmのレーザ光を用いた場合、強度P=80mJ/cm2・pulseの照射条件で、目標サイズWX=60nmでの微粒子化処理が実施できることがわかっている。
ここでは、レーザ光照射装置10として、光学結晶の選択によって1064nm(基本波)、532nm(第2高調波)、355nm(第3高調波)の3波長のレーザ光を供給可能なYAGレーザを用いた。また、レーザ光照射による物質の微粒子化処理のうち、その第1段階である粗破砕処理に波長λY=1064nmのレーザ光、第2段階である本破砕処理に波長λX=355nmのレーザ光を用いた。
YAGレーザでの2波長1064nm、355nmの切換えは、非線形光学結晶の有無のみで行っており、2波長におけるレーザの消費電力は同じである。目標サイズ60nmで本破砕を行うための照射条件は、上記したように、波長355nmで強度80mJ/cm2・pulseである。このYAGレーザの動作条件において、非線形光学結晶を外して波長1064nmでのレーザ光の強度を測定したところ、強度は631mJ/cm2・pulseであった。すなわち、本実施例では、粗破砕処理は波長λY=1064nm、強度PY=631mJ/cm2・pulseのレーザ光を用い、本破砕処理は波長λX=355nm、強度PX=80mJ/cm2・pulseのレーザ光を用いて行われた。
レーザ光の波長、強度、照射時間以外の照射条件については、レーザ光のスポット直径φ1mm、繰返し周波数20Hz、パルス幅FWHM7nsとした。そして、レーザ光を所定の照射条件で照射した後、得られた微粒子の平均サイズを粒度分布測定装置(島津製作所SALD7000)によって調べた。また、VOPcの濃度、添加剤等については、上記と同様である。
図8は、VOPc微粒子の粒子径分布を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はVOPcの粒子径(μm)を示し、縦軸は体積換算の相対粒子量(%)を示している。また、グラフD1〜D6は、それぞれ(1)VOPcの原料粒子自体、(2)波長1064nm、照射時間30分で粗破砕処理を実施、(3)粗破砕処理後に波長355nm、照射時間30分で本破砕処理を実施、(4)粗破砕処理後に波長355nm、照射時間60分で本破砕処理を実施、(5)粗破砕処理を行わずに波長355nm、照射時間90分で微粒子化処理を実施、(6)粗破砕処理を行わずに波長355nm、照射時間180分で微粒子化処理を実施、の異なる条件での処理に対応している。
本実施例では、微粒子化対象となるVOPcの原料粒子は、グラフD1に示すように10μm〜50μmの粒子径であることがわかる。この原料粒子を含むサンプルの被処理液に対し、照射時間30分で波長1064nmでの粗破砕処理を行うと、グラフD2に示すようにVOPcの粒子は平均サイズ200nm程度となる。ただし、この状態では、まだ目標サイズである60nmまでの微粒子化は達成されていない。
次に、上記した条件で粗破砕処理を行った後の被処理液に対し、照射時間30分で波長355nmでの本破砕処理を行うと、グラフD3に示すようにVOPcは平均サイズ70nmまで微粒子化された。さらに、照射時間を30分追加して合計60分の本破砕処理を行うことにより、グラフD4に示すように目標サイズである60nmまでの微粒子化処理が達成された。すなわち、この方法では、60nmの目標サイズでの微粒子化処理を完了するまでのYAGレーザの稼動時間は、粗破砕及び本破砕を合わせて90分であった。
これに対して、比較のため、本破砕処理に相当する波長355nmのレーザ光での微粒子化処理のみを行った場合、照射時間90分では、グラフD5に示すように多くの大サイズの粒子を残しており、微粒子化処理は完了していない。そして、さらに照射時間を180分にまで延ばすと、グラフD6に示すように目標サイズである60nmまでの微粒子化処理がようやく完了した。以上により、長波長λYのレーザ光による粗破砕処理と、短波長λXのレーザ光による本破砕処理とを組み合わせて微粒子化処理を行うことにより、微粒子化の効率を向上して、短い処理時間で微粒子化を完了可能であることが示された。
本発明による微粒子の製造方法、及び製造装置についてさらに説明する。
上記した微粒子の製造方法及び装置では、物質に対してレーザ光の波長または強度を変えて、粗破砕処理及び本破砕処理の2段階でのレーザ光照射によって微粒子化処理を行っている。このような方法では、粗破砕及び本破砕でのレーザ光照射の条件の設定により、微粒子化条件の様々な制御が可能である。そのような微粒子化条件の制御方法としては、例えば、粗破砕処理による生成微粒子の平均粒子径と、本破砕処理による生成微粒子の平均粒子径との粒子径差(平均粒子径差)の設定により、粗破砕処理及び本破砕処理を含む微粒子化処理において最終的に得られる微粒子の粒子径分布を制御する方法がある。
図9は、レーザ光照射によって得られる微粒子の粒子径分布を示すグラフである。グラフ(a)は、生成微粒子の平均粒子径がDYとなる照射条件で粗破砕処理を行って得られる粒子径分布RY、及び平均粒子径がDXとなる照射条件で本破砕処理を行って得られる粒子径分布RXを示している。このように、2段階のレーザ光照射のそれぞれでの生成微粒子の粒子径DY、DXが離れている場合には、両者の粒子径分布RY、RXはほぼ正規分布となる。
一方、グラフ(b)は、生成微粒子の平均粒子径がDYとなる照射条件での粗破砕処理と、平均粒子径がDXとなる照射条件での本破砕処理とに対して、DXに比較的近い平均粒子径DZが得られる照射条件での粗破砕処理を加えた場合のそれぞれにおける粒子径分布SY、SX、SZを示している。
このように、生成微粒子の平均粒子径がDZとなる照射条件での粗破砕処理、及び平均粒子径がDXとなる照射条件での本破砕処理を行った場合、本破砕処理後に得られる微粒子の粒子径分布SXは、グラフ(b)に示すように、平均粒子径がDXとなる生成微粒子の粒子径分布と、平均粒子径がDXの微粒子が削られた破片微粒子の粒子径分布とを含む特殊な粒子径分布となる。したがって、このような微粒子の製造方法によれば、最終的に得られる微粒子の粒子径分布にバリエーションをつけて、微粒子化条件を様々に制御することが可能となる。
また、本破砕処理後に得られる破片微粒子の平均粒子径は、図10のグラフに示すように、粗破砕と本破砕との平均粒子径差(上記した例では粒子径差DZ−DX)に対して相関を有する。したがって、粗破砕処理による生成微粒子の平均粒子径と、本破砕処理による生成微粒子の平均粒子径との粒子径差の設定により、破片微粒子を含んで最終的に得られる微粒子の粒子径分布を制御することができる。なお、このような粒子径差の設定については、物質に対して2波長λX、λYでレーザ光の照射を行う場合には、その波長差によって粒子径差を制御することができる。また、物質に対して2強度PX、PYでレーザ光の照射を行う場合には、その強度差によって粒子径差を制御することができる。また、波長差と強度差とを組み合わせて粒子径差を制御することも可能である。
さらに、微粒子化条件の他の制御方法として、上記したように粗破砕処理と本破砕処理との平均粒子径差を小さく設定し、かつ、本破砕処理後に得られる生成微粒子の平均粒子径(微粒子化の目標サイズ)を順次小さくしつつ粗破砕処理及び本破砕処理を組とした微粒子化処理を複数回繰り返して、最終的に得られる微粒子の粒子径分布を制御する方法がある。このような方法によれば、粗破砕と本破砕との粒子径差によって生じる破片微粒子により、本破砕処理によって通常得られる生成微粒子の平均粒子径DXよりも小さい粒子径を有する微粒子を大量に生成することができる。
図11は、粗破砕処理及び本破砕処理を複数回繰り返す微粒子の製造方法について示す図である。この図11では、粗破砕ステップ及び本破砕ステップを組とした微粒子化ステップを、1回目のステップa、及び2回目のステップbの2回繰り返す例を示している。
まず、1回目の微粒子化ステップaにおいて、粗破砕で平均粒子径Sa、本破砕で平均粒子径Maの微粒子が生成されるようにレーザ光の照射条件を設定して、微粒子化処理を行う。このとき、平均粒子径Maの微粒子に加えて、平均粒子径差Sa−Maに基づく破片微粒子が生成される。次に、2回目の微粒子化ステップbにおいて、粗破砕で平均粒子径Sb、本破砕で平均粒子径Mbの微粒子が生成されるようにレーザ光の照射条件を設定して、微粒子化処理を行う。このとき、さらに、平均粒子径差Sb−Mbに基づく破片微粒子が生成される。
このように、粗破砕と本破砕との平均粒子径差を小さくした状態で、粗破砕及び本破砕を含む微粒子化処理を繰り返して行うことにより、最終的な微粒子化ステップbにおいて本破砕処理後に通常得られる平均粒子径Mbよりも小さい粒子径を有する破片微粒子を得ることが可能である。また、この場合に最終的に得られる微粒子の粒子径分布は、各ステップにおける粗破砕と本破砕との平均粒子径差Sa−Ma、Sb−Mbによって制御することができる。これは、粗破砕及び本破砕を含む微粒子化処理を3回以上繰り返して行う場合も同様である。
また、このような微粒子化条件の制御方法は、レーザ光の照射条件としてレーザ光の波長λを制御する方法のみでなく、レーザ光の強度Pを制御することによっても実現可能である。図12は、レーザ光の強度と、生成微粒子のサイズとの相関を示すグラフである。ここでは、微粒子化対象の物質をVOPc、溶媒を水とし、レーザ光源としてレーザ光波長λ=1064nmのYAGパルスレーザを用いている。
このグラフに示すように、単一波長λのレーザ光を用いた場合でも、照射するレーザ光の強度Pを制御することにより、ある程度の範囲で生成微粒子のサイズを制御することが可能である。また、レーザ光の照射強度を順次高めつつ、レーザ光照射による微粒子化処理を繰り返すことにより、上記した粗破砕及び本破砕を繰り返す処理と同等の処理を実現して、破片微粒子を含む微粒子を生成することができる。
例えば、図12のグラフにおいて、レーザ光強度300mJ/cm2・pulseの照射条件Pa、レーザ光強度500mJ/cm2・pulseの照射条件Pb、及びレーザ光強度780mJ/cm2・pulseの照射条件Pcを考えると、条件Pa、Pb、Pcの順で、生成微粒子の平均粒子径が5nmずつ小さくなっている。したがって、これらの条件Pa、Pb、Pcによって工程を分けて微粒子化処理を行うことにより、5nmずつ小さくなる平均粒子径の粒子径差によって破片微粒子を生成させて、通常の1064nmのレーザ光照射では得られない大きさの微粒子を製造することが可能となる。
本発明による微粒子の製造方法、及び製造装置は、上記した実施形態及び実施例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。特に、上記の製造方法及び装置は、光と物質との相互作用に基づく破砕現象を利用しているため、様々な媒質中での実施が可能である。例えば、微粒子化対象となる物質については、上記実施形態では、溶媒4中に物質の原料粒子5が混合された液相の被処理液2を用いている。これにより、物質の微粒子化処理を好適に実行することができる。あるいは、液体を用いないドライ系の固体状、粉体状などの固相の物質の被処理体に対してレーザ光を照射して物質の微粒子化を行うことも可能である。ただし、固相の物質を用いる場合、その原料粉体を気相中に分散させて微粒子化処理を行うことが好ましい。また、微粒子化対象の物質を収容する処理チャンバとしては、物質の被処理液または被処理体の状態に応じて適当なものを用いれば良い。
また、被処理液を用いる場合、必要に応じて、被処理液の溶媒中で原料粒子を分散させるための分散手段を設置しても良い。このような分散手段としては、例えば、被処理液の溶媒と原料粒子とを攪拌するマグネットスティック及びマグネットスターラを用いることができる。
1A、1B…微粒子の製造装置、2…被処理液、3…処理チャンバ、4…溶媒、5…物質の原料粒子、10…レーザ光照射装置、11〜14…レーザ光源、15…波長可変レーザ光源、20…制御装置、21…波長選択部、22…強度選択部、23、24…相関データベース、25…レーザ光制御部、26…入力装置、27…表示装置、30…微粒子化状況モニタ装置。