JP2006019513A - 圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 圧電体層を良好に形成することができ、所望の変位特性が得られる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】 塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回繰り返して複数層の強誘電体前駆体膜を形成すると共に焼成工程で複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して強誘電体膜とする場合に、複数層の強誘電体前駆体膜のうち、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜の昇温レートよりも高くする。
【選択図】 なし
【解決手段】 塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回繰り返して複数層の強誘電体前駆体膜を形成すると共に焼成工程で複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して強誘電体膜とする場合に、複数層の強誘電体前駆体膜のうち、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜の昇温レートよりも高くする。
【選択図】 なし
Description
本発明は、圧電材料からなる圧電体層を具備する圧電素子の製造方法、及び圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体膜を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体膜は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
また、このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
また、この圧電素子を構成する圧電体層の製造方法としては、いわゆるゾル−ゲル法等が知られている。具体的には、下電極を形成した基板上に有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥およびゲル化(脱脂)させて圧電体の前駆体膜を形成する工程を少なくとも一回以上実施し、その後、高温で熱処理して結晶化させる。そして、これらの工程を複数回繰り返し実施することで所定厚さの圧電体層(圧電体薄膜)を製造している(例えば、特許文献1参照)。
このような製造方法によれば、例えば、1μm以上の厚さの圧電体層を比較的良好に形成することができ、圧電素子の変位特性を向上することはできる。しかしながら、圧電体層の結晶粒径、配向等の結晶状態を制御することは難しく、所望の変位特性を有する圧電素子を形成することができないという問題がある。なお、このような問題は、液体噴射ヘッド等に搭載される圧電素子に限られず、他の装置に搭載される圧電素子においても同様に存在する。
本発明は、このような事情に鑑み、圧電体層を良好に形成することができ、所望の変位特性が得られる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、基板の一方面側に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に複数層の強誘電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有すると共に、前記圧電体層を形成する工程が、前記下電極膜上に強誘電材料を塗布して強誘電体前駆体膜を形成する塗布工程と、該強誘電体前駆体膜を乾燥する乾燥工程と、前記強誘電体前駆体膜を脱脂する脱脂工程と、前記強誘電体前駆体膜を焼成して強誘電体膜とする焼成工程とを含み、前記塗布工程、前記乾燥工程及び前記脱脂工程を複数回繰り返して複数層の強誘電体前駆体膜を形成すると共に前記焼成工程で前記複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して前記強誘電体膜とする場合に、前記複数層の強誘電体前駆体膜のうち、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜の昇温レートよりも高くすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第1の態様では、複数層の強誘電体膜を一度に焼成しても、結晶性に優れ均一な特性を有する圧電体層が得られる。したがって、製造工程を煩雑化することなく良好な変位特性を有する圧電素子を形成することができる。
かかる第1の態様では、複数層の強誘電体膜を一度に焼成しても、結晶性に優れ均一な特性を有する圧電体層が得られる。したがって、製造工程を煩雑化することなく良好な変位特性を有する圧電素子を形成することができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを10[℃/sec]以上とすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第2の態様では、圧電体層の結晶性、及び特性の均一性がさらに向上する。
かかる第2の態様では、圧電体層の結晶性、及び特性の均一性がさらに向上する。
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記最下層の強誘電体前駆体膜以外の強誘電体前駆体膜を焼成する際の昇温レートを2[℃/sec]以下とすることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第3の態様では、圧電体層の結晶性、及び特性の均一性がさらに向上する。
かかる第3の態様では、圧電体層の結晶性、及び特性の均一性がさらに向上する。
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して形成した前記強誘電体膜を複数積層することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる第4の態様では、圧電体層の比較的上電極に近い部分についても高い結晶性が得られる。すなわち、下電極膜に最も近い最下層以外の強誘電体膜の脱脂時の昇温レートを略一定とし最下層の強誘電体膜のみ脱脂時の昇温レートを他の強誘電体膜よりも高くして圧電体層を形成した場合、圧電体層の比較的上電極に近い部分の結晶性が低くなってしまうが、このような本発明の製造方法によれば、圧電体層全体の特性の均一性を向上させることができる。
かかる第4の態様では、圧電体層の比較的上電極に近い部分についても高い結晶性が得られる。すなわち、下電極膜に最も近い最下層以外の強誘電体膜の脱脂時の昇温レートを略一定とし最下層の強誘電体膜のみ脱脂時の昇温レートを他の強誘電体膜よりも高くして圧電体層を形成した場合、圧電体層の比較的上電極に近い部分の結晶性が低くなってしまうが、このような本発明の製造方法によれば、圧電体層全体の特性の均一性を向上させることができる。
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第5の態様では、圧電素子の変位特性が向上し、液滴の吐出特性を向上した液体噴射ヘッドを実現することができる。
かかる第5の態様では、圧電素子の変位特性が向上し、液滴の吐出特性を向上した液体噴射ヘッドを実現することができる。
以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図であり、図3は、圧電素子の層構造を示す概略図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する封止基板30のリザーバ部32と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図であり、図3は、圧電素子の層構造を示す概略図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する封止基板30のリザーバ部32と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
このような圧力発生室12等は、弾性膜50とは反対側の面から流路形成基板10を異方性エッチングすることによって形成されている。異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、流路形成基板10が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなるため、シリコン単結晶基板の(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。すなわち、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現する。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
ここで、圧電素子300を構成する下電極膜60は、圧力発生室12の両端部近傍でそれぞれパターニングされ、圧力発生室12の並設方向に沿って連続的に設けられている。また、本実施形態では、各圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の端面は、絶縁体膜55に対して所定角度で傾斜する傾斜面となっている。
また、圧電体層70は、各圧力発生室12毎に独立して設けられ、図3に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電材料からなる複数層の強誘電体膜71(71a〜71j)で構成され、それらのうちの最下層である第1の強誘電体膜71aは下電極膜60の上面のみに設けられている。そして、この第1の強誘電体膜71aの端面は、下電極膜60の端面に連続する傾斜面となっている。また、この第1の強誘電体膜71a上に形成される第2〜10の強誘電体膜71b〜71jは、第1の強誘電体膜71a上から絶縁体膜55上まで、第1の強誘電体膜71a及び下電極膜60の傾斜した端面を覆って設けられている。
なお、上電極膜80は、圧電体層70と同様に各圧力発生室12毎に独立して設けられている。そして、各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなる絶縁体膜55上まで延設されるリード電極90がそれぞれ接続されている。
また、このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部31を有する封止基板30が接合されている。また、封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。さらに、封止基板30上には、剛性が低く可撓性を有する材料で形成される封止膜41と金属等の硬質の材料で形成される固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。なお、固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以下、このような本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、圧電素子の形成方法について図4〜図8を参照して説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコンウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化して弾性膜50及びマスク膜51を構成する二酸化シリコン膜52を全面に形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとからなる下電極膜60を絶縁体膜55上に形成する。この下電極膜60の材料としては、白金、イリジウム等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、本実施形態のように、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金、イリジウム等が好適である。
次いで、下電極膜60上に圧電体層70を形成する。圧電体層70は、上述したように複数層の強誘電体膜71a〜71jを積層することによって形成され、本実施形態では、これらの強誘電体膜71をいわゆるゾル−ゲル法を用いて形成している。すなわち、金属有機物を触媒に溶解・分散したゾルを塗布乾燥してゲル化させて強誘電体前駆体膜72を形成し、さらにこの強誘電体前駆体膜72を脱脂して有機成分を離脱させた後、焼成して結晶化させることで各強誘電体膜71を得ている。
具体的には、まず、図5(a)に示すように、下電極膜60上に、チタン又は酸化チタンからなる結晶種(層)65をスパッタ法により形成する。次いで、図5(b)に示すように、例えば、スピンコート法等の塗布法により未結晶の強誘電体前駆体膜72aを所定の厚さ、本実施形態では、一層当たりの焼成後の厚みが0.1μm程度になるように形成する。なお、強誘電体前駆体膜72aは、一度の塗布によって約0.15μm程度の厚さで形成される。次いで、この強誘電体前駆体膜72aを所定温度で所定時間乾燥させて溶媒を蒸発させる。強誘電体前駆体膜72aを乾燥させる温度は、例えば、150℃以上200℃以下であることが好ましく、好適には180℃程度である。また、乾燥させる時間は、例えば、5分以上15分以下であることが好ましく、好適には10分程度である。
そして、乾燥した強誘電体前駆体膜72aを所定温度で脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、強誘電体前駆体膜72aの有機成分を酸化させ、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。なお、脱脂時のシリコンウェハ110の加熱温度は、300℃以上500℃以下の範囲が好ましい。温度が高すぎると強誘電体前駆体膜72aの結晶化が始まってしまい、温度が低すぎると十分な脱脂が行えないためである。例えば、本実施形態では、ホットプレートによってシリコンウェハ110を400℃程度に加熱して、強誘電体前駆体膜72aの脱脂を行った。
このように強誘電体前駆体膜72aの脱脂を行った後、シリコンウェハ110を所定の拡散炉に挿入し、強誘電体前駆体膜72aを約700℃の高温で焼成して結晶化することにより第1の強誘電体膜71aとする。
次に、下電極膜60と第1の強誘電体膜71aとを同時にパターニングする。具体的には、まず図5(c)に示すように、第1の強誘電体膜71a上にレジストを塗布してマスクを用いて露光し現像することにより所定パターンのレジスト膜200を形成する。ここで、レジストは、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により塗布して形成し、レジスト膜200は、その後、所定のマスクを用いて露光・現像・ベークを行うことにより形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。また、本実施形態では、レジスト膜200の端面が所定角度で傾斜するように形成している。なお、このレジスト膜200の端面の傾斜角度は、ポストベークの時間、あるいは露光時間等によって調整することができる。例えば、ポストベークの時間が長いほど傾斜角度は小さくなり、露光時間を長くするほど傾斜角度は小さくなる。
そして、図6(a)に示すように、このようなレジスト膜200を介して第1の強誘電体膜71a及び下電極膜60をイオンミリングによってパターニングすると、これら第1の強誘電体膜71a及び下電極膜60と共にレジスト膜200が徐々にエッチングされるため、下電極膜60及び第1の強誘電体膜71aの端面が傾斜面となる。すなわち、下電極膜60及び第1の強誘電体膜71aの端面は、互いに同じ角度傾斜することになる。このように下電極膜60及び第1の強誘電体膜71aの端面を傾斜面とすることで、第1の強誘電体膜71a上に他の強誘電体膜を良好な膜質で形成することができる。
次に、図6(b)に示すように、第1の強誘電体膜71a上を含むシリコンウェハ110の全面に、再び結晶種(層)65Aを形成後、スピンコート法等により強誘電体前駆体膜72bを所定厚さ、本実施形態では、約0.15μmの厚さで形成(塗布)する。そして、この強誘電体前駆体膜72bを乾燥・脱脂・焼成することにより第2の強誘電体膜71bを形成する。
次いで、図6(c)に示すように、この第2の強誘電体膜71b上に第3及び第4の強誘電体膜71c,71dを形成する。すなわち、まず第2の強誘電体膜71b上に、第1の強誘電体前駆体膜72aの場合と同様に、所定の厚さで強誘電材料を塗布して第3の強誘電体前駆体膜72cを形成し、この第3の強誘電体前駆体膜72cを乾燥・脱脂する。さらに、第3の強誘電体前駆体膜72c上に、強誘電材料を塗布して第4の強誘電体前駆体膜72dを形成し、それを乾燥・脱脂することで二層の強誘電体前駆体膜72c,72dを形成する。次いで、これら第3及び第4の強誘電体前駆体膜72c,72dを同時に焼成することにより、第3及び第4の強誘電体膜71c,71dとする。
ここで、本発明では、このように複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して強誘電体膜とする場合に、複数層のうちの最下層の強誘電体前駆体膜、本実施形態では、第3の強誘電体前駆体膜72cを脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜、本実施形態では、第4の強誘電体前駆体膜72dを脱脂する際の昇温レートよりも高くするようにした。また、最下層である第3の強誘電体前駆体膜72cを脱脂する際の昇温レートは、具体的には、10[℃/sec]以上とすることが望ましい。一方、第4の強誘電体前駆体膜72dの脱脂時の昇温レートは、2[℃/sec]以下とするのが望ましい。
そして、第3及び第4の強誘電体膜71c,71dの場合と同様の工程で、第5〜第10の強誘電体膜71e〜71jを形成する。すなわち、強誘電材料を塗布して強誘電体前駆体膜を形成する塗布工程と、強誘電体前駆体膜二層の強誘電体前駆体膜を形成し、二層毎に焼成して強誘電体膜とする。これにより、図7(a)に示すように、複数層の強誘電体膜71a〜71jからなり、厚さが約1μmの圧電体層70が形成される。このときも、第3及び第4の強誘電体前駆体膜72c,72dの場合と同様に、それぞれ最下層となる強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜の昇温レートよりも高くする。したがって、本実施形態では、第3、第5、第7及び第9の強誘電体前駆体膜72c,72e,72g,72iを脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜のときよりも高くすることになる。つまり、強誘電体前駆体膜の脱脂時の昇温レートが異なる複数層を一度に焼成した強誘電体膜を複数回積層することで、圧電素子を形成している。
このように最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを高くすることで、製造効率を向上しつつ圧電体層の結晶性等の特性を向上させることができる。より具体的には、下電極膜に最も近い最下層以外の強誘電体膜の脱脂時の昇温レートを略一定とし最下層の強誘電体膜のみ脱脂時の昇温レートを他の強誘電体膜よりも高くして圧電体層を形成した場合、圧電体層の比較的上電極に近い部分の結晶性が低くなってしまう。これに対し、本願発明のように、強誘電体前駆体膜の脱脂時の昇温レートが異なる複数層を一度に焼成した強誘電体膜を複数回積層して圧電体層を形成することで、圧電体層の上電極近い部分の結晶性も向上する。したがって、圧電体層全体の特性の均一性を向上させることができる。
ここで、図9にサンプル1の圧電体層の断面TEM像(暗視野像)を示す。また、図10にサンプル2の圧電体層の断面TEM像(暗視野像)を示す。さらに、図11にサンプル2の圧電体層のデプスプロファイルを示し、図12にサンプル1の圧電体層のデプスプロファイルを示す。なお、サンプル1の圧電体層とは、複数層毎に焼成される第3〜第10の強誘電体前駆体膜72c〜72jを、約10[℃/sec]よりも大きい一定の昇温レートでそれぞれ脱脂後、焼成して形成したものである。また、サンプル2の圧電体層とは、第3〜第10の強誘電体前駆体膜72c〜72jを、約2[℃/sec]と比較的低い一定の昇温レートでそれぞれ脱脂後、焼成して形成したものである。
図9に示すように、各圧電体前駆体膜72c〜72jの脱脂時の昇温レートを比較的高い略一定の脱脂レートとした場合、各強誘電体膜71c〜71jの境界に、比較的大きい粒子が残ると共に、その周囲に多数の微粒子が残ってしまう。この微粒子は、圧電体前駆体膜を焼成する際に、PZT成分が結晶化されずに粒子として残ったものである。そして、このような微粒子は、圧電体層の特性低下の原因となるため、できるだけ少ないことが好ましい。一方、図10に示すように、各圧電体前駆体膜72c〜72jの脱脂時の昇温レートを比較的低い略一定の脱脂レートとした場合には、各強誘電体膜の境界部分に比較的大きい粒子が若干残るものの、その周囲に微粒子はほとんど残らず、良好な圧電体層が形成された。このような結果から明らかなように、圧電体層の結晶性という面では、サンプル2の圧電体層のように、各圧電体前駆体膜72c〜72jの脱脂時の昇温レートを比較的低くすることが好ましいことが分かる。
しかしながら、このように結晶性が良好であるサンプル2の圧電体層について、深さ方向の濃度分布(デプスプロファイル)を調べたところ、図11に示すように、深さ方向での組成傾斜が確認された。すなわち、圧電体層を構成するPZT成分のうちチタン(Ti)及び鉛(Pb)の濃度に、圧電体層の深さ方向でのばらつきが生じていた。そして、このような組成傾斜は、圧電体層の変位特性等の低下の原因となってしまう。一方、サンプル1の圧電体層は、図12に示すように、深さ方向での組成傾斜は確認されなかった。なお、図11中のイリジウム(Ir)は、圧電体層の下層にある下電極膜を構成するものである。
このように、圧電体前駆体膜72c〜72jを脱脂する際の昇温レートを変化させることで圧電体層の特性が変化することは確認されたが、上述したように、昇温レートを比較的高くしても低くしても一長一短があり、何れも好ましいとは言えない。
これに対し、本発明のように、複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して強誘電体膜とする場合に、複数層のうちの最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートよりも高くすることで、上述したような微粒子の発生が抑えられ、且つ組成傾斜も抑えることができる。特に、最下層である強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、10[℃/sec]以上とし、他の強誘電体前駆体膜の脱脂時の昇温レートを2[℃/sec]以下とすれば、極めて良好な特性を有する圧電体層を形成することができる。したがって、変位特性に優れた圧電素子を形成することができる。また、本発明の製造方法では、複数層の圧電体前駆体膜を一度に焼成すればよいため、製造工程が煩雑化することもない。
なお、このように形成される圧電体層70(強誘電体膜71)の材料として、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料を用いたが、インクジェット式記録ヘッドに使用する材料としては、良好な変位特性を得られればチタン酸ジルコン酸鉛系の材料に限定されない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイッテルビウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1−x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。
そして、このような複数層の強誘電体膜71a〜71jからなる圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を積層形成し、圧電体層70及び上電極膜80を各圧力発生室12に対向する領域内にパターニングして圧電素子300を形成する(図7(b))。
なお、その後は、図8(a)に示すように、金(Au)からなる金属層を流路形成基板10の全面に亘って形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介してこの金属層を各圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。そして、このようにして膜形成を行った後、図8(b)に示すように、シリコンウェハ110に封止基板30を接合し、所定形状にパターニングしたマスク膜51を介してシリコンウェハ110をエッチングすることにより圧力発生室12等を形成する。なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のシリコンウェハ上に多数のチップを同時に形成し、上記プロセス終了後、上述したノズルプレート20及びコンプライアンス基板40を接着して一体化し、その後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによってインクジェット式記録ヘッドとする。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、例えば、第3の強誘電体前駆体膜72c及び第4の強誘電体前駆体膜72d等、二層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成するようにしたが、これに限定されず、勿論、三層以上の強誘電体前駆体膜を一度に焼成するようにしてもよい。このように三層以上の強誘電体前駆体膜を一度に焼成する場合でも、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを他の強誘電体前駆体膜を脱脂するときよりも高くすることで、結晶性が良好で特性に優れた圧電体層を形成することができる。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、例えば、第3の強誘電体前駆体膜72c及び第4の強誘電体前駆体膜72d等、二層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成するようにしたが、これに限定されず、勿論、三層以上の強誘電体前駆体膜を一度に焼成するようにしてもよい。このように三層以上の強誘電体前駆体膜を一度に焼成する場合でも、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを他の強誘電体前駆体膜を脱脂するときよりも高くすることで、結晶性が良好で特性に優れた圧電体層を形成することができる。
また、上述の実施形態では、圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。また、本発明は、液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子だけでなく、あらゆる装置に搭載される圧電素子の製造方法にも適用することができることは言うまでもない。
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 封止基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 強誘電体膜、 72 強誘電体前駆体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 300 圧電素子
Claims (5)
- 基板の一方面側に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に複数層の強誘電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有すると共に、前記圧電体層を形成する工程が、前記下電極膜上に強誘電材料を塗布して強誘電体前駆体膜を形成する塗布工程と、該強誘電体前駆体膜を乾燥する乾燥工程と、前記強誘電体前駆体膜を脱脂する脱脂工程と、前記強誘電体前駆体膜を焼成して強誘電体膜とする焼成工程とを含み、
前記塗布工程、前記乾燥工程及び前記脱脂工程を複数回繰り返して複数層の強誘電体前駆体膜を形成すると共に前記焼成工程で前記複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して前記強誘電体膜とする場合に、前記複数層の強誘電体前駆体膜のうち、最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを、他の強誘電体前駆体膜の昇温レートよりも高くすることを特徴とする圧電素子の製造方法。 - 請求項1において、前記最下層の強誘電体前駆体膜を脱脂する際の昇温レートを10[℃/sec]以上とすることを特徴とする圧電素子の製造方法。
- 請求項1又は2において、前記最下層の強誘電体前駆体膜以外の強誘電体前駆体膜を焼成する際の昇温レートを2[℃/sec]以下とすることを特徴とする圧電素子の製造方法。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記複数層の強誘電体前駆体膜を一度に焼成して形成した前記強誘電体膜を複数積層することを特徴とする圧電素子の製造方法。
- 請求項1〜4の何れかに記載の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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