JP2005517196A - エナンチオ選択的カチオン交換材料 - Google Patents
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Abstract
Description
種々のキラル的に官能化された吸着材料は,以前に,エナンチオマー分離の目的のために開発された。このような材料がHPLCエナンチオマー分離のために使用される,エナンチオ選択的固定相及びそれぞれの方法の詳細な概説は,他のところ[M.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(Handbook of analytical separations)(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(Separation methods in drug synthesis and purification)(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁]に記載されている。ある態様又は他の態様により本発明に関連する官能化キラル材料の幾つかを,以下の章で説明する。
以前に,本発明の発明者らは,固体担体上に固定された低分子量合成塩基性キラルセレクターを有し,酸化合物からの立体異性体の分離のために使用された,アニオン交換型のキラル分離材料の発見を開示した(立体異性体の分離用のシンコナンベースのキラルセレクター(Cinchonan Based Chiral Selectors for Separation of Stereoisomers),Lindner,W.,Laemmerhofer,M.,Maier,N.M.,PCT国際特許出願公開(1997年)第WO9746557号明細書,欧州特許第912563号明細書,米国特許第6313247号明細書)。該研究の詳細な説明は,後で種々の評論中に公開された[M.Laemmerhoferら,J.Chromatogr.A,第741号(1996年)第33頁;A.Mandlら,J.Chromatogr.A,第858号(1999年)第1頁;N.M.Maierら,Chirality,第11巻(1999年)第522頁],[M.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁]によるチャプター9.2.3.2.及びその中に含まれる文献も参照。同じセレクター及びキラル固定相は,また,毛管エレクトロクロマトグラフィー(CEC)で使用された[M.Laemmerhofer及びW.Lindner,J.Chromatogr.A,第829号(1998年)第115−125頁]か又はCECで使用するために特別に適合された[M.Laemmerhoferら,Anal.Chem.,第72巻(2000年)第4614−4628頁;J.M.J.Frechet,F.Svec,M.Laemmerhofer,エナンチオ選択的分離に使用するためのエレクトロクロマトグラフィー装置及びその中で使用するためのエナンチオ選択的分離媒体(Electrochromatographic device for use in enantioselective separation and enantioselective separation medium for use therein),米国特許出願第09/645,079号明細書(2000年)]。麦角アルカロイドセレクターをベースにした関連キラル固定相が,M.Flieger,M.Sinibaldi及び同僚によって開発された,[M.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁]による文献392−395頁参照。全てのこれらのアルカロイド誘導キラル材料は,反対に帯電したキラルセレクターとアナライトとの間のイオン性相互作用を含むエナンチオ選択的キラルイオン交換機構の存在により,本発明に概念的に付随する。しかしながら,これは,本件特許出願で特許請求されているものに対して相補的であるアプローチを表し,カチオン性キラル化合物の個々のエナンチオマーが,キラルセレクターとして使用され,固体担体上に固定されるか又はポリマー主鎖材料中に含有されて,キラルアニオン交換体になることを意味する。当然に,このようなエナンチオ選択的アニオン交換体の応用性のスペクトルは,キラル酸の分離に幾分限定される。理論的に,キラル塩基からのエナンチオマーの分離を可能にするエナンチオ選択的固定相は,キラル認識の相互性の原理を適用することによって開発でき[W.Pirkleら,J.Chromatogr.,第192号(1980年)第143−158頁;W.Pirkle及びR.Daeppen,J.Chromatogr.,第404号(1987年)第107−115頁],ここで上記のキラルアニオン交換概念の酸性結合相手の単一エナンチオマーが固定される。しかしながら,実際には,該原理は,以下説明するように,容易に失敗し,その実験的実現化は平凡ではない。この点で,キラル認識の相互性の原理は,元来,これも中性セレクター及びアナライトを使用するピルクル(Pirkle)概念(上記参照)の固定相について発見され,それで,該原理を,帯電したセレクター及びアナライト種でキラルイオン交換概念にも適用するか否かは明らかでなかったことが強調されなくてはならない。
一般的観点から,キラルイオン対クロマトグラフィーは,ともかくエナンチオ選択的イオン交換クロマトグラフィーの方法と関連しているとみなすことができる[C.Pettersson及びE.Heldinによって,液体クロマトグラフィーによるキラル分離への実際的アプローチ(A practical approach to chiral separations by liquid chromatography),G.Subramanian(編),VCH,ワインハイム(Weinheim),1994年刊,第279−310頁で検討されている]。キラル塩基を分離する目的のために,例えば,2,3,4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸,Z−誘導アミノ酸,ジ−又はトリペプチド,10−ショウノウスルホン酸,酒石酸及び酒石酸誘導体のような酸性キラル対イオンが,移動相への添加物として使用された[C.Pettersson及びE.Heldin,液体クロマトグラフィーによるキラル分離への実際的アプローチ,G.Subramanian(編),VCH,ワインハイム,1994年刊,第279−310頁及びその中に含まれる参考文献参照]。これらのキラル対イオンは,移動相に於いてキラル塩基と共に電気的に中性のイオン対を立体選択的に形成し,逆相型の固定相のようなアキラル固定相上で異なった吸着特性を示す。二次バランスとして,キラル対イオンもこの固定相上に吸着され,そうして動的に被覆されたキラルイオン交換体を形成することができる。このようなアプローチの欠点は,殆どの検出方法において障害及び問題を起こし,製造段階の概念(preparative concept)での使用を妨げる,流出液媒体中のセレクターの存在にある。本発明に従った材料に於ける固定相へのセレクターの共有接着及びその結果の流出液媒体からのセレクターの排除は,実際に,イオン対クロマトグラフィーの方式を超えた実質的な利点を表す。
分離の原理として立体選択的キレート形成を使用する,キラル配位子置換型の固定相[V.A.Davankov,J.Chromatogr.A,第666号(1994年)第55頁により並びにA.Kurganov,J.Chromatogr.A,第906号(2001年)第51−71頁により並びにM.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁により検討されている]は,ともかく前記の低分子量キラルイオン交換体と関連していると推定することができた。最も頻繁に,アミノ酸,特にプロリン誘導体は,それぞれ,キレート化剤又はキラルセレクターとして適切な担体上に動的に又は共有結合で固定され,この担体は,液体(移動)相内に溶解されている金属イオンのためにもキレート化特性を示さなくてはならないアナライトと共に混合金属錯体を選択的に形成する。本発明の材料と比較すると,一般的に,少なくとも2個の明瞭な差異が存在する。即ち,i)イオン交換型のセレクターの代わりに,キレーター(chelator)が担体上に固定される。このようなキレーターは,しばしば,プロリン,ヒドロキシプロリン又は前記のようなペニシリン誘導体のようなアミノ酸である[その構造に関して,前記のレビュー論文及びその中に含まれる文献を参照]。キラル配位子置換(CLEC)型の官能性材料は,通常,酸性官能基及び塩基性官能基を有する。ii)全体的に異なる分子認識及びSO−SA結合機構が含まれる。カチオン交換型の本発明に従った分離材料とは反対に,酸性セレクター成分とアナライトのカチオン性基との間のイオン−イオン相互作用の形成は存在しない。例えば,アミノアルコールのエナンチオマーは,CLEC型の相によって分割することができ,この場合CLEC型の相の官能性酸基は,また混合セレクター−金属−アナライト錯体中のアナライトの塩基性官能基のための電子受容体としても作用する,正に帯電した金属イオンと相互作用する。
最近,Machidaらは,キラル第一級アミンからエナンチオマーを分離するための,新規なキラル固定クラウンエーテル相を開発した[Y.Machidaら,J.Chromatogr.A,第805号(1998年)第85−92頁;M.H.Hyunら,J.Chromatogr.A,第822号(1998年)第155−161頁]。このCSPのクラウンエーテル成分には,カルボン酸基が含まれている。しかしながら,巨大環状クラウンの空洞内に含まれることによって,第一級アミンは,NMR試行に示されるように,特に,アンモニウムイオンのNHとエーテル酸素との間の同時三重水素結合のために,錯化され,内側に保持されている[Y.Machidaら,J.Chromatogr.A,第810号(1998年)第33−41頁:第39頁]。Steffeck,Zelechonok及びGahmは,J.Chromatogr.A,第947号(2002年)第301−305頁に於いて,クラウンエーテルをベースにしたこのキラル固定液体クロマトグラフィー相上でのラセミ第二級アミンのエナンチオ選択的分離を記載している。
例えば,ウシ血清アルブミン(BSA)[S.Allenmarkら,J.Chromatogr.,第264号(1983年)第63頁],ヒト血清アルブミン(HSA)[E.Domeniciら,Chromatographia,第29巻(1990年)第170頁],α1−酸性糖タンパク質(AGP)[J.Hermansson,J.Chromatogr.,第269号(1983年)第71頁]又はオボムコイド(OVM)[T.Miwaら,J.Chromatogr.,第408号(1987年)第316頁]をベースにしたタンパク質型の固定相は,巨大分子セレクターレベル上で,本発明のイオン交換型の低分子量セレクターに対する対イオンとみなすことができる[エナンチオマー分離のために使用されるタンパク質の一層詳細なリストに関して,J.Haginaka,J.Chromatogr.A,第906号(2001年)第253−273頁による検討並びにM.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁;チャプター9.2.1.2,第365−373頁による検討を参照]。タンパク質の側鎖のイオン化した官能基を,アナライトの相補的に帯電した官能基とのイオン−イオン相互作用に付すことができる。強調されるように,これらは,セレクターの分子サイズ及びタンパク質1モル当たりの高いアフィニティを有する選択的結合部位とキラル固定相との間の,得られる好ましくない比(これは,後者のために不利な負荷容量になる)によって,本発明の材料から区別される。更に,タンパク質セレクターは,生物学的資源からの完全に天然のセレクターであり,天然タンパク質由来アミノ酸から排他的に形成され,これらの差別化結合部位は,アナライトの立体的及び官能的必須条件により良く揃うように,化学的に適応させることができない。専用の誘導化及び最適化戦略は実施できない。これらは,更に,限定された化学的及び生物学的安定性,本発明に従った材料中に存在しないか又は構造単位として非天然のアミノ酸の使用によって克服される欠点を有する。
分離媒体が完全に合成物であり,イオン化性官能性モノマー及び相補的イオン化性マトリックス分子,所謂分子的に刷り込まれたポリマー(MIP)のマトリックス重合によって得られる,幾つかのキラル分離媒体を,該イオン交換種類の中に数えることができる。マトリックス分子がキラル化合物の個々のエナンチオマーである場合,再びマトリックスに選択的に結合することができるキラルキャビティを形成させることができる。これより前に,酸性MIPについてのカチオン交換保持機構の存在及び優位性は,Sellergren及びSheaによって確立され,これは,官能性モノマーとしてのメタクリル酸及びマトリックスとしての塩基性フェニルアラニンアニリドから製造された[B.Sellergren及びK.J.Shea,J.Chromatogr.A,第654号(1993年)第17頁]。本発明のものとの比較に於けるこれらの材料の最も顕著な差異は,結合部位の(微小)不均一性に存する。強調されるように,MIP型カチオン交換体のエナンチオ選択的結合部位は,非キラル官能性モノマーから組み立てられ,結合部位が完全に特定され,キャラクタリゼーションされる本発明に従ったエナンチオ選択的カチオン交換材料とは違って,明確でなく,不均一な結合部位になる。これは,MIPに固有の問題点である,分離材料の容量への負の影響を有する。更に詳細なことは,最近公表されたレビュー論文[B.Sellergren,J.Chromatogr.A,第906号(2001年)第227−252頁]に記載されている。
多数の,低分子量合成セレクターをベースにしたキラル固定相では,本件特許出願に開示されたものと同じか又は類似のキラル構造単位(カイロン)が使用されている。しかしながら,一つの顕著な差異は,酸性官能基がエステル化又はアミド化されて,中性キラルセレクターを有する分離材料になっていることに存する。このようなCSPは,イオン化が抑制される条件下で,中性キラル化合物から又は塩基性及び酸性キラル化合物からのエナンチオマーの分離のために使用される。この概念は,ピルクル概念として知られており,開発され,ピルクル概念相として分類することができるセレクター及びキラル固定相の詳細なリストは,[M.Laemmerhofer及びW.Lindner,液体クロマトグラフィーエナンチオ分離の最近の発展。分析分離のハンドブック(シリーズ,R.M.Smith編)第1巻:薬物合成及び精製に於ける分離方法(K.Valko編)Elsevier,アムステルダム,2000年,第337−437頁,チャプター9.2.3.1.;第395−405頁;F.Gasparriniら,J.Chromatogr.A,第906号(2001年)第35−40頁並びにC.Welch,J.Chromatogr.A,第666号(1994年)第3頁]による検討の中に記載されている。最も顕著な代表の幾つかは,N−(3,5−ジニトロベンゾイル)フェニルグリシン(DNBPG)又はN−(3,5−ジニトロベンゾイル)ロイシン(DNBLeu)をベースにした相である[W.H.Pirkleら,J.Chromatogr.,第348号(1985年)第89頁並びにW.H.Pirkle及びJ.E.McCune,J.Chromatogr.,第479号(1989年)第419頁],N−DNB−3−アミノ−3−フェニル−2−tert−ブチル−プロパン酸(β−Gem1)[W.H.Pirkle及びJ.E.McCune,J.Chromatogr.,第441号(1988年)第311頁],N−(2−ナフチル)アラニン(NAP−A1)[W.H.Pirkleら,J.Org.Chem.,第51巻(1986年)第4991頁],N−(3,5−ジニトロベンゾイル)チロシン(DNB Tyr−E及びChyRoSine)[N.Bargmann−Leyderら,Chromatographia,第39巻(1994年)第673頁及びN.Bargmann−Leyderら,Anal.Chem.,第67巻(1995年)第952頁],N−{[1−(1−ナフチル)エチル]アミド}−tert−ロイシン(スミキラル(Sumichiral)OA−4600)[N.Oiら,J.Chromatogr.A,第694号(1995年)第129頁],N−DNB−α−アミノ−2,2−ジメチル−4−ペンチルホスホン酸(α−ブルケ(Burke)1)[W.H.Pirkle及びJ.A.Burke,J.Chromatogr.,第557号(1991年),第173頁]及びL−Val−L−Val−L−Val−トリペプチド[N.Oiら,J.Chromatogr.A,第722号(1996年)第229頁]をベースにした相である。ペプチドをベースにした他のCSPについての,例えば,Val−トリペプチド及びトリアジンの周りに集められたカイロンとしての1−(1−ナフチル)アミンからのCSPについての報告[A.Iulianoら,J.Chromatogr.A,第786号(1997年)第355頁]又はDNBでN−末端誘導され,組合せアプローチによって開発されたジペプチドセレクターをベースにしたN−(2−ナフチル)アラニンジエチルアミドのためのCSPについての報告[C.J.Welchら,Enantiomer,第3巻(1998年)第471頁]が存在した。再び,全てのこれらのアプローチに於いて,イオン交換機構が優勢ではなく,それによってこれらは本発明とは明らかに区別できることが強調されなくてはならない。
カチオン交換型の従来の分離材料は,担体上に固定されたアキラル官能性酸成分を有し,それで,本発明の官能性材料とは関係がない。これらは,キラル塩基の分離のために使用できる。しかしながら,これらはエナンチオ選択的ではない。即ち,これらは,キラル塩基からエナンチオマーを分離することができない。同様に,光学的不活性ポリ(スクシンイミド)から製造された,ペプチド様ポリ(アスパラギン酸)−二酸化ケイ素収着剤(PolyCAT A)[C.N.Ouら,J.Chromatogr.,第266号(1983年)第197頁]は,タンパク質の非エナンチオ選択的カチオン交換クロマトグラフィーのために開発された。更に,該ポリ(アスパラギン酸)材料は,スルホエチルアスパルタミド変性固定相(ポリスルホエチルA)が得られるように,アキラルタウリンで変性された。これはまた,非エナンチオ選択的カチオン交換クロマトグラフィーのために使用された。これらの収着剤の官能基は,不特定の,ランダムに重合した光学的に不活性の配位子分子を表し,それで本発明に従った低分子量キラル酸セレクターから明瞭に区別でき,それによって適切に特徴付けられた構造及び追加の構造的特徴(例えば,π−π相互作用部位)が,エナンチオ選択性であるために必要である。実際に,上記のPolyCAT A及びポリスルホエチルA相は,キラル塩基のためにエナンチオ選択性ではない。
・かさ高の(bulky)脂肪族,脂環式又は芳香族基である立体構造の障害物,
・π−π相互作用部位としてπ−酸性又はπ−塩基性特性を有する芳香族基。
a.液体クロマトグラフィー,毛管電気泳動,毛管エレクトロクロマトグラフィー若しくは超臨界流体クロマトグラフィーを含む液相分離技術又は
b.液−液抽出,向流液体クロマトグラフィー,遠心分布クロマトグラフィー,液−固抽出技術,担持液体膜若しくは固定部位膜技術を含む抽出方法論
の手段によって実施する方法に関する。
本発明を,下記の非限定実施例を参照して説明する。
(S)−O−アリル−N−(3,5−ジクロロベンゾイル)−チロシン,N−DCB−O−アリル−Tyrをベースにした弱キラルカチオン交換体の合成
(a)カチオン交換型のセレクターの合成
N−Boc−(S)−チロシン(3ミリモル)(プロペプチド社(Propeptide),Vert Le Petit,フランス)を,2mLのジクロロメタン及び2mLのトリフルオロ酢酸(アルドリッチ社(Aldrich))中に溶解させ,この反応混合物を3時間室温で攪拌した。減圧下で溶媒を除去して,(S)−O−アリル−チロシンを粗製生成物として得,これを更に精製することなく次の工程で使用した。
標準的反応プロトコルに従って,3,5−ジクロロ安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを,等モル量のN−ヒドロキシスクシンイミド(アルドリッチ社)及び3,5−ジクロロ安息香酸(98%)(アクロス・オルガニックス社(Acros Organics),Geel,ベルギー)から,酢酸エチル中で,等モル量のジシクロヘキシルカルボジイミド(アルドリッチ社)の存在下で製造した。
3ミリモルの(S)−O−アリル−チロシン及び15ミリモルの重炭酸ナトリウムを,100mLの水中に溶解させた。3ミリモルの3,5−ジクロロ安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを,該溶液中に激しく攪拌しながら懸濁させた。15時間後に,未反応の試薬を濾過によって除去し,濾液を1M HClの滴下添加により酸性にした。こうして生成した沈殿を,濾過によって単離し,水で洗浄した。この粗製生成物を,シリカを含むフラッシュクロマトグラフィー(溶離剤として,メタノールの増加する体積含有量を有するクロロホルム−メタノール)により更に精製した(全収率85%)。
1H NMR(CDCl3)δ 3.25(q,2H)4.5(d,2H)5.02(q,1H)5.3(d,1H)5.4(d,1H)6.05(m,1H)6.45(d,1H)6.85(d,2H)7.05(d,2H)7.35(s,1H)7.55(s,2H)ppm。
(b)シリカ上へのセレクターの固定化
クロマシル(Kromasil)100−3.5μm(エカ・ケミカルス社(Eka Chemicals),Bohus,スウェーデンから購入した)を,トルエン中で,3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(ABCR,カールスルーエ(Karlsruhe),ドイツ)と共に還流させることによって変性した(変性した粒子の元素分析:4.58% C,1.0% H)。
(R)−N−(4−アリルオキシ−3,5−ジクロロベンゾイル)−1−アミノ−3−メチルブタンホスホン酸,N−(4−アリルオキシ−DCB)−LeuPをベースにした強キラルカチオン交換体の合成
(a)カチオン交換型のセレクターの合成
4−アリルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸クロリドの合成のために,9.7ミリモルの3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸(アクロス・オルガニックス社,Geel,ベルギー),20ミリモルの水酸化カリウム及び11.6ミリモルの臭化アリル(アルドリッチ社)を,エタノール中で24時間還流させた。1.8Mの水酸化カリウム溶液でエステル副生物を加水分解させると,2M HClで酸性化することによって,カルボン酸が沈殿した。石油エーテル−メタノールからの再結晶によって,純粋のカルボン酸が92%の収率で製造された。次いで,0.5ミリモルのアリコートを,塩化チオニルと共に3時間還流させ,乾固まで蒸発させ,残留した酸クロリドを,次のアミノホスホン酸との反応のために乾燥ジオキサン中に溶解させた。
0.5ミリモルの(R)−1−アミノ−3−メチルブタンホスホン酸,即ちL−ロイシンのリン酸類似物,L−LeuP(合成に関して,他に[F.Hammerschmidt及びF.Wuggenig,Tetrahedron Asymmetr.,第10巻(1999年)第1709頁]参照)を,10mLの乾燥ジオキサン中に懸濁させた。1.5ミリモルのN,O−ビス−トリメチルシリルアセトアミド(BSA,アルドリッチ社)を添加した後,この混合物を,透明な溶液が得られるまで,70℃で3時間加熱した。その後直ぐに,0.5ミリモルのN−エチル−ジイソプロピルアミンを添加し,続いて0.5ミリモルの4−アリルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸クロリドを氷冷下で滴下により添加した。この反応混合物を,室温にまでゆっくり昇温させた。4時間攪拌した後,溶媒を蒸発させ,シリカ及びメタノールの増加する体積含有量でのクロロホルム−メタノール溶離剤によるフラッシュクロマトグラフィーによって粗製生成物を精製して,純粋の生成物を50%の収率で製造した。
1H NMR(DMSO)δ 0.85(d,6H)1.4−1.7(m,3H)4.3(q,1H)4.6(d,2H)5.3(d,1H)5.45(d,1H)6.1(m,1H)8.0(s,2H)8.45(d,1H)。
(b)SOの固定化:実施例1bと同じ
キラル塩基のエナンチオマー分離のための,実施例1及び2の材料の使用
(a)強キラルカチオン交換体対弱キラルカチオン交換体の比較
主イオン性相互作用部位としての,ホスホン酸基によるセレクターのカルボン酸官能基の置換は,SO−SA結合エンタルピー及びエナンチオ選択率の項目に於いて有利であると推定された。非水性カチオン交換毛管エレクトロクロマトグラフィー(NA−CEC)の表1に示されるデータから,弱カチオン交換体((S)−N−DCB−O−アリル−Tyrをベースにした実施例1の材料である,CSP1)と比較して,強カチオン交換体(N−(4−アリルオキシ−DCB)−LeuPセレクターをベースにした実施例2の材料である,CSP2)の,より高いエナンチオ選択率が確認される。
b α=kapp2/kapp1;kapp=(tR−t0)/t0;t0(CSP1)=3.91分;t0(CSP2)=4.90分
b 最初に溶離されたエナンチオマー:(S)
c 最初に溶離されたエナンチオマー:(−)
d 溶離液:ACN−MeOH(80:20,体積%)中の50mMの2−アミノブタノール及び4mMのHCOOH;t0(アセトン)=4.78分
b 50mMの2−アミノブタノール,12mMのHCOOH;t0(アセトン)=4.90分
c 10mMのTEOA,100mMのHCOOH;t0(アセトン)=4.99分
d 10mMの2−アミノブタノール,100mMのHCOOH;t0(アセトン)=5.41分
e 10mMの2−アミノブタノール,2.4mMのHCOOH;t0(アセトン)=5.71分
f 50mMのTEOA,5mMのAcOH;張力:+25kV;t0(アセトン)=5.32分
(R)−N−(4−アリルオキシ−3,5−ジクロロベンゾイル)−2−アミノ−3,3−ジメチルブタンスルホン酸をベースにした強キラルカチオン交換体の合成
(a)セレクターの合成
スルホン酸をベースにしたキラルセレクターは,実施例2aに記載したような方法に従って,(R)−2−アミノ−3,3−ジメチルブタンスルホン酸の,4−アリルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸クロリドを使用するN−アシル化によって合成した。溶媒を蒸発させた後,生成物を,粗製反応混合物から,tert−ブチルカルバモイルキニジンをベースにしたキラル固定相上での分取クロマトグラフィー(dp=15μm;カラム寸法:250×16mm内径;溶離剤:メタノール−1.5M酢酸アンモニウム(80:20,体積%)(pHa=6.0);流量:6mL/分,室温)によって単離した。クロマトグラフィー通過物の純粋画分を,カチオン交換体(ダウエックス(Dowex)50W,溶離剤として水)上で脱塩した。溶離液を蒸発させ,それによって純粋の生成物が生成された。
実施例1bに記載したものと同様の方法を使用した。しかしながら,溶媒として水−メタノール混合物(80:20,体積%)を使用し,開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を使用した。
β−アミンカルボン酸,ホスホン酸及びスルホン酸をベースにした弱キラルカチオン交換体と強キラルカチオン交換体とのクロマトグラフィー挙動の比較
それぞれ,ペプチド誘導セレクター又はCSPの合成
0.5mLのH2O2(水中30%)を9.5mLのギ酸と,2時間室温で混合することによって,過ギ酸溶液を新たに製造する。酸化された二量体(Cys−Leu)2ジペプチドを,ギ酸−メタノール(5:1,体積%)中に溶解させる(40mg/mL)。この二つの溶液を0℃に冷却し,その後,このペプチド溶液を,過ギ酸に滴下により添加する。次いで,この溶液を0℃で2.5時間攪拌する。反応を停止させるために,この反応混合物に氷を添加する。その後直ぐに,溶媒を蒸発によって除去する。
0.5ミリモルのスルホン酸ジペプチドを,25mLの水中に激しく攪拌しながら溶解させた。10mLの水中に溶解させた7ミリモルのNaHCO3及び0.7ミリモルの4−アリルオキシ−3,5−ジクロロ安息香酸ヒドロキシスクシンイミドエステルを逐次的に添加した。この反応混合物を室温で16時間激しく攪拌した。溶媒を蒸発させた後,生成物を,粗製反応混合物から,tert−ブチルカルバモイルキニジンをベースにしたキラル固定相上での分取クロマトグラフィー(dp=15μm;カラム寸法:250×16mm内径;溶離剤:メタノール−1.5M酢酸アンモニウム(80:20,体積%)(pHa=6.0);流量:6mL/分,室温)によって単離した。生成物を含有するクロマトグラフィー通過物の純粋画分を乾固まで蒸発させ,水中に溶解させ,カチオン交換体(ダウエックス50W,溶離剤として水)上で脱塩した。溶離液を乾固まで蒸発させ,それによって純粋のN−(4−アリルオキシ−3,5−ジクロロベンゾイル)−CySO3H−Leu−ジペプチド生成物が生成された。
pKa値(水性条件基準,pKa aq)の決定
(a)水性条件下
1ミリモルの酸を,100mLの水中に溶解させ,0.1モル/LのNaOH溶液で電位差滴定により滴定する。pKは,滴定曲線を実験データで配置調整(アラインニング)し,最良配置(アラインメント)を有する曲線についてpKを得ることによって決定する。
(b)混合水−有機条件下
純粋に水性条件下で可溶性ではないセレクターのpKa−値を,24℃で,シリウス・アナリティカル・インスツルメンツ社(Sirius Analytical Instruments Ltd.)(イーストサセックス(East Sussex),英国)のシリウス滴定器で,異なったメタノール−水比で滴定した。次いで,実施例7aの値に匹敵するpKa値を,ヤスダ−シェドロブスキー(Yasuda−Shedlovsky)法を使用して,0%有機補助溶媒の方に逆外挿することによって得た。
キラル有機カチオン交換ポリマービーズの合成
10gのポリ(グリシジルメタクリレート−共−エチレンジメタクリレート)ポリマービーズ(スプレマ(Suprema)1000u)を,100mLのメタノール中に懸濁させ,10分間超音波処理して,全ての凝集体を破壊して,均一な懸濁液を得た。この懸濁液を,機械式攪拌機を取り付けたフラスコに移した。30mLのメタノール中に溶解させた,80ミリモル(=9.4mL)の1,4−ブタンジチオール及び80ミリモル(=4.48g)の水酸化カリウムを添加した。この反応混合物を室温で窒素雰囲気下で72時間攪拌した。その後直ぐに,ポリマー粒子を濾過し,メタノール,THF,クロロホルム及びジエチルエーテル(それぞれの場合に2回)で十分に洗浄し,乾燥させた。元素分析によって8.0%(重量%)のSが得られ,これは1.25ミリモルのチオール/ポリマーgの占有率に等しい。
0.5gのチオール変性ポリマー粒子を,25mLの水−メタノール混合物(80:20,体積%)中に溶解させ,10分間超音波処理し,機械式攪拌機及び凝縮冷却器を取り付けたフラスコに移した。300mgの(R)−N−(4−アリルオキシ−3,5−ジクロロベンゾイル)−2−アミノ−3,3−ジメチルブタンスルホン酸及び開始剤としての30mgの2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を添加した。この反応混合物を窒素雰囲気下で18時間還流させた。この粒子を,水−メタノール,メタノール,クロロホルム及びジエチルエーテルで十分に洗浄し,乾燥させた。元素分析によって,102μモル/ポリマーgのセレクター占有率が得られた。
2 キラル成分
X カチオン交換基
3 スペーサー
4 担体
Claims (4)
- キラル成分(2)及び少なくとも1種のカチオン交換基(X)から構成されたキラルセレクター(1)と,スペーサー(3)と,担体(4)と,を含むエナンチオ選択的カチオン交換材料であって:
前記キラル成分(2)が,1,000未満の分子量を有し,
前記少なくとも1種のカチオン交換基(X)が,pKa<4.0を有する酸基であることを特徴とする,エナンチオ選択的カチオン交換材料。 - 酸基がpKa<3.5を有することを特徴とする,請求項1に記載のエナンチオ選択的カチオン交換材料。
- 酸基がpKa<2.5を有することを特徴とする,請求項2に記載のエナンチオ選択的カチオン交換材料。
- 酸基が,スルホン酸基,スルフィン酸基,リン酸基,ホスホン酸基又はホスフィン酸基であることを特徴とする,請求項1〜3の何れかに記載のエナンチオ選択的カチオン交換材料。
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