本発明に係る失火検出装置の実施例1を図1から図8に基づいて説明する。
図1の符号1は、本発明に係る失火検出装置による失火検出対象の内燃機関を示す。この内燃機関1は、大別すると、シリンダヘッド2と、このシリンダヘッド2の下部にヘッドガスケット3を介してボルト等で締結されるシリンダブロック4と、このシリンダブロック4の下部にボルト等で締結されるクランクケースカバー5とで構成される。
ここで、この内燃機関1においては、上記シリンダブロック4内にピストン6やコネクティングロッド7が収納され、また、そのシリンダブロック4の下部とクランクケースカバー5とから形成されるクランクケース内にクランクシャフト8が収納されている。
また、シリンダヘッド2の下面とシリンダブロック4の内壁面とピストン6の頂面とにより囲まれた空間で燃焼室が構成され、この燃焼室には、シリンダヘッド2に形成された少なくとも一つの吸気ポート2aと少なくとも一つの排気ポート2bとが開口している。
これら吸気ポート2a及び排気ポート2bには、夫々にその開口を開閉し得る吸気弁9及び排気弁10が設けられており、更に、その吸気ポート2aには、外部からの吸入空気を導く吸気流路11が連通して設けられている。また、この吸気流路11には、その吸入空気の燃焼室内への吸込量を調節するスロットルバルブ12が設けられている。
更に、シリンダヘッド2には、図示しない少なくとも1本の点火プラグや燃料噴射装置が設けられている。尚、その燃料噴射装置は、吸気ポート2aに燃料を噴霧するものであってもよく、燃焼室内に直接噴霧するものであってもよい。
また、この内燃機関1には、図1に示す如く、エアクリーナ(図示略)通過後の吸入空気量信号を出力するエアフローメータ13,スロットルバルブ12のスロットル開度信号を出力するスロットル開度センサ14,クランクシャフト8のクランク角度位置信号パルスを出力するクランク角センサ(クランク角検出手段)15,冷却水温度信号を出力する水温センサ16,及び潤滑油温度信号を出力する油温センサ17等の各種センサが設けられている。尚、ここで用いるクランク角センサ15は、1°CA周期でクランク角度位置信号パルスを下記のECU18へと出力するものとする。
ここで、上記各種センサ13〜17は、夫々の信号を制御部たる図1に示すECU(電子制御ユニット)18に出力する。このECU18は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),CPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。本実施例のECU18は、燃料噴射装置の噴射量等、内燃機関1を制御する為の機関制御機能を有すると共に、本発明に係る失火検出装置としても機能する。
以下、本実施例の失火検出装置について詳述する。
この失火検出装置(ECU18)には、図1に示す失火判定手段18Aが設けられている。この失火判定手段18Aは、内燃機関1の発生トルクToと失火が発生しないと仮定した場合におけるその予測値(以下「予測トルク」という。)Tpとを比較して失火の有無を判定する手段である。
かかる失火判定に用いる内燃機関1の発生トルクToは、様々な公知の手段により求めることができるが、本実施例1にあっては以下の如くして図1に示す発生トルク推定手段18Bにより推定する。
この発生トルク推定手段18Bには、慣性トルクJ×(dω/dt)と摩擦トルクTfに基づき下記の式1を用いて発生トルクToの推定を行う発生トルク推定機能18B1が設けられている。
この式1において、Jは慣性モーメント,dω/dtはクランクシャフト8における角加速度を表す。
その慣性モーメントJは、内燃機関1を構成するコネクティングロッド7やクランクシャフト8等の各部品のメカニカルパラメータによって予め設計値として決められているものであって、ECU18のバックアップRAMに記憶されている。
また、角加速度dω/dtは、クランク角センサ15から送られてきたクランク角度位置信号パルスの間隔時間に基づいてECU18により算出される。
このようなことから、この発生トルク推定手段18Bには、クランク角センサ15から推定時に取得したクランク角度位置信号パルスとバックアップRAMに記憶されている情報とを用いて慣性トルクJ×(dω/dt)を推定する慣性トルク推定機能18B2が設けられている。
また、この発生トルク推定手段18Bの発生トルク推定機能18B1が発生トルクToを推定する際に用いる摩擦トルクTfの値としては、予めバックアップRAMに記憶されている情報を読み込んで利用することができる。例えば、機関回転数Neと冷却水温度(又は潤滑油温度)をパラメータとする図2に示す摩擦トルクTfのマップをバックアップRAMに予め格納しておくことによって、発生トルク推定手段18Bは、発生トルク推定時における機関回転数Neと冷却水温度(又は潤滑油温度)に基づき上記摩擦トルクマップから内燃機関1の摩擦トルクTfの値を読み込むことができる。
このようにして、この発生トルク推定手段18Bは、失火判定に用いる内燃機関1の発生トルクToを推定する。
ここで、上述した内燃機関1の摩擦トルクTfは、潤滑油の劣化や粘度等によってその特性が変化する。これが為、潤滑油の劣化等による摩擦トルクTfの変化が生じてしまうと、上記発生トルク推定手段18Bにより推定される発生トルクToの精度が悪化してしまい、ひいては失火検出の精度をも悪化させてしまう。
ところで、上述した図2に示す摩擦トルクマップからも明らかなように、内燃機関1の摩擦トルクTfは、冷却水温度(又は潤滑油温度)によって摩擦トルクカーブのオフセット量が変化していくという特徴を持っている。これが為、任意の条件(ここでは任意の機関回転数Ne及び水温)における後述する図3に示す摩擦トルクTf2が推定できれば、そのオフセット量を勘案した上で潤滑油の劣化等を考慮した略全域の摩擦トルクTfを推定することができる。
そこで、本実施例1の失火検出装置(ECU18)には、図1に示す如く、潤滑油の劣化等により変化した摩擦トルクTfを推定する摩擦トルク推定手段18Cが設けられており、上記発生トルク推定手段18Bは、その推定後の摩擦トルクTfの値を用いて精度の高い発生トルクToの推定を行う。以下に、その摩擦トルク推定手段18Cについて説明する。
この摩擦トルク推定手段18Cは、内燃機関1の負荷が安定している場合に所定気筒のフューエルカットを行い、その際に推定した摩擦トルクTf2と現在の摩擦トルクマップ上の摩擦トルクTf1とから略全域の摩擦トルクTfを推定して摩擦トルクマップの書き換えを行うものである。即ち、この摩擦トルク推定手段18Cには、大別すると、ある条件における一点の摩擦トルクTfを推定する為の摩擦トルク推定機能18C1と、この摩擦トルクTfから略全域の摩擦トルクTfを推定して摩擦トルクマップの書き換えを行う為の摩擦トルクマップ推定/書換機能18C2とが設けられている。
また、上記摩擦トルク推定機能18C1とは上述したが如く内燃機関1の負荷の状態を把握した上で摩擦トルクTfの推定を行うものであるので、この摩擦トルク推定手段18Cには、内燃機関1の負荷が安定している(内燃機関1が無負荷)か否かを判定する為の図1に示す負荷状態判定機能18C3が設けられている。更に、この摩擦トルク推定手段18Cには、負荷が安定している場合に所定気筒のフューエルカットを行う図1に示すフューエルカット機能18C4も設けられている。
このように、この摩擦トルク推定手段18Cは、負荷が安定している状態で摩擦トルクTfを推定するので、その推定値の精度が向上し、後述する如く推定される略全域の摩擦トルクTfの推定精度をも向上させることが可能となる。また、フューエルカットを行うことで燃焼による負荷変動がなくなり、更に精度の高い摩擦トルクTfの推定を行うことができる。
ここで、内燃機関1の負荷が安定している場合とは、例えば(1)車輪へ駆動力を伝達するクラッチが切られている状態である場合,(2)内燃機関1の機関回転数Neが安定している場合,(3)内燃機関1がフューエルカット状態である場合,又は(4)内燃機関1の始動中(即ちクランキング中)である場合のことをいい、上記負荷状態判定機能18C3は、その(1)〜(4)の全て又はその少なくとも一つに基づいて内燃機関1の負荷状態を判定する。
上記(1)のクラッチ切断状況によって負荷の安定状態を判定する場合、この負荷状態判定機能18C3は、例えば手動変速機の車輌であれば運転者がクラッチペダルを踏み込んだ際にECU18に出力されるクラッチ切断状態である旨を示す信号を利用する。このようなクラッチ切断状態においては車輪の回転変動等による路面側からの負荷が入力されないので、より安定した負荷状態になり、上記摩擦トルク推定機能18C1は、より精度の高い摩擦トルクTfの推定を行うことができる。
また、上記(2)の機関回転数Neが安定しているか否かで負荷の安定状態を判定する場合、この負荷状態判定機能18C3は、例えばECU18に入力されるクランク角センサ15の出力信号を利用する。例えば、その機関回転数Neの安定状態としては、アイドリング状態の場合がある。一般に、アイドリング状態である場合とは車輌が停止している場合が殆どであり、これが為、上記(1)と同様に路面等からの負荷が入力されないので、より安定した負荷状態になり、上記摩擦トルク推定機能18C1は、より精度の高い摩擦トルクTfの推定を行うことができる。更に、このような車輌の停止状態で後述する如くフューエルカットを行うので、運転に影響(例えば運転者や同乗者が不快な減速Gを感じる等)を与えないで済む。尚、ここでのアイドリング状態とは、短い時間でも一定のアイドリング回転数を保っている状態のことをいう。
また、上記(3)のフューエルカット状態は、例えばECU18が燃料噴射装置にフューエルカット指令を送信しているか否かで判断する。このようなフューエルカット状態においては燃焼による負荷変動がないので、より安定した負荷状態になり、より精度の高い摩擦トルクTfの推定を行うことができる。尚、このフューエルカット状態を契機として摩擦トルクTfの推定を行う場合には、既にフューエルカットされている状態であるので、後述する推定前のフューエルカットは行わない。
また、上記(4)のクランキング中か否かで負荷の安定状態を判定する場合、この負荷状態判定機能18C3は、例えばECU18に入力されるスタータスイッチ(図示略)のON信号を利用する。このようなクランキング中においては電動モータのみで回転させることから機関回転数Neが安定しているので、より安定した負荷状態になり、より精度の高い摩擦トルクTfの推定を行うことができる。
このように、負荷状態判定機能18C3によって負荷が安定していると判定された場合、上記摩擦トルク推定機能18C1は、ECU18のROMに格納されている制御プログラム内の下記の式3に基づいて摩擦トルクTfを推定する。以下に、その摩擦トルクTfを得る為の演算式(式3)について詳述する。
先ず、下記の式2に、内燃機関1のトルクとクランクシャフト8の角加速度との関係を示す。
この式2において、J×(dω/dt)は前述した慣性トルク,Tfは摩擦トルク,Tlは負荷トルク,Tiは図示トルクを表す。
前述したが如く、ここでは無負荷時に摩擦トルクTfの測定を行うので、負荷トルクTl=0となる。これが為、上記式2の内燃機関1のトルクとクランクシャフト8の角加速度との関係式については、下記の式3の関係が成り立つ。
この式3によれば、摩擦トルクTfは、慣性トルクJ×(dω/dt)と図示トルクTiが明らかになれば得られることが解る。これが為、この摩擦トルク推定手段18Cには、図1に示す如く、前述した慣性トルク推定機能18B2と同様の慣性トルク推定機能18C5が設けられており、更に図示トルク推定機能18C6が設けられている。
上記図示トルクTiは、筒内圧によるトルクと往復慣性質量によるトルクを合計したものである。
ここで、摩擦トルクTfを推定する際には所定気筒のフューエルカットを行うので、クランク角度位置信号パルス等を検出する際の気筒内においては燃焼が行われていない。これが為、かかる場合の筒内圧によるトルクは、機関回転数Neと負荷率(気筒内にどれだけ空気が入ってきているか)から精度良く推測することができる。尚、一般に、この筒内圧トルクは、内燃機関1の制御で用いられているので既にECU18のバックアップRAMに記憶されている。これが為、ここでは、そのバックアップRAMに記憶されている筒内圧トルクを使用する。
また、往復慣性質量によるトルクは、ピストン6の設計値の質量から予め決められているものであって、ECU18のバックアップRAMに記憶されている。
これが為、上記図示トルク推定機能18C6は、バックアップRAMに既に記憶されている情報から図示トルクTiを推定することができる。
以上のことから、摩擦トルク推定機能18C1は、推定した慣性トルクJ×(dω/dt)と図示トルクTiを上記式3に代入して摩擦トルクTfを求めることができる。
次に、上記摩擦トルクマップ推定/書換機能18C2について説明する。この摩擦トルクマップ推定/書換機能18C2には、上記摩擦トルク推定機能18C1による摩擦トルク推定時の機関回転数Ne及び冷却水温度に該当する図3に示す摩擦トルクマップ上の摩擦トルク(既存摩擦トルク)Tf1と、上記摩擦トルク推定機能18C1により求められた摩擦トルク(現摩擦トルク)Tf2との差を求める機能が設けられている。
ここで、この摩擦トルクマップ推定/書換機能18C2は、その差分だけ摩擦トルクマップ上の現状の摩擦トルクカーブを縦軸(摩擦トルク軸)方向にオフセット移動させたカーブ上の各点を新たな摩擦トルクTfと推定する。これが為、この摩擦トルクマップ推定/書換機能18C2には、その差分だけ摩擦トルクマップ上の各水温における現状の摩擦トルクカーブを夫々オフセット移動させる機能が設けられており、これにより摩擦トルクマップの書き換えが行われる。
前述した発生トルク推定手段18Bは、その書き換え後の摩擦トルクマップを用いて発生トルクToの推定を行い、その発生トルクToの情報を前述した失火判定手段18Aに渡す。ここで、その失火判定手段18Aは、その発生トルクToと予測トルクTpとを比較して失火有無の判定を行うが、本実施例1にあってはその予測トルクTpを図1に示す予測トルク推定手段18Dにより得る。
この予測トルク推定手段18Dは、例えば、予めECU18のバックアップRAMに用意されている機関回転数Neやスロットル開度等の内燃機関1の運転状態に応じた予測トルクマップ(図示略)に基づいて、発生トルク推定時における運転状態から予測トルクTpを取得することができる。また、例えば、一気筒前の点火時における発生トルクTo又は同一気筒における前回の点火時の発生トルクToを今回点火時の予測トルクTpと推定するように予測トルク推定手段18Dを構成してもよい。
ここで、本実施例1の失火判定手段18Aは、発生トルクToと予測トルクTpとを比較して、その発生トルクToが予測トルクTpの所定割合以下の場合,又はその発生トルクToが予測トルクTpに対して所定値以下の場合に失火発生との判定を行う。
このようにして失火判定手段18Aは失火判定処理を行うのであるが、実際にはクランクシャフト8の回転変動や失火時の揺り返し等に伴う負荷変動によりクランクシャフト8における角加速度dω/dtが精度良く得られず、発生トルク推定手段18Bにより推定される発生トルクToの推定精度が悪化してしまう。即ち、図4に示す如く、その負荷変動による負荷変動トルクΔTlによって、実際の発生トルク(図4の実線)と推定された発生トルクTo(図4の破線)との間に差が生じてしまう。
これが為、本実施例1の失火検出装置(ECU18)には、負荷変動トルクΔTlを除去して精度の高い発生トルクToを得る為の図1に示す負荷変動除去手段18Eが設けられている。以下、本実施例1の負荷変動除去手段18Eについて詳述する。
先ず、負荷変動トルクΔTlを高精度に検知する為には、内燃機関1が安定したトルクを発生していることが好ましい。これが為、この負荷変動除去手段18Eには、内燃機関1が安定したトルクを発生している所定の状態であるか否かを判定する機関状態判定機能18E1が設けられている。
ここで、安定したトルクを発生する内燃機関1の状態とは一般にピストン6がTDC(上死点)に位置している状態であるので、その機関状態判定機能18E1は、クランク角センサ15のクランク角度位置信号パルスに基づいてピストン6がTDCに位置しているか否かを判定する。特に、圧縮行程のTDCよりも排気行程のTDCの方がよりトルクが安定するので、本実施例1にあっては、排気行程におけるTDCであるか否かの判定を行うように機関状態判定機能18E1を構成する。
また、この負荷変動除去手段18Eには、排気行程におけるTDCであるとの判定が為された場合に、その排気行程TDCにおける発生トルクToをオフセットトルクTofとして設定するオフセット値設定機能18E2が設けられている。ここで、そのオフセットトルクTofは、推定された発生トルクToが正の値であれば正のオフセットトルクTofとして、推定された発生トルクToが負の値であれば負のオフセットトルクTofとして設定される。
また、この負荷変動除去手段18Eには、推定された発生トルクToを上記オフセットトルクTofでオフセット(即ち、推定された発生トルクToからオフセットトルクTof分を除算)するオフセット処理機能18E3が設けられている。
本実施例1のオフセット処理機能18E3は、設定されたオフセットトルクTofでのオフセット処理を、そのオフセットトルク設定時における排気行程TDCから次の排気行程TDCまでの間に推定された発生トルクTo(次の排気行程TDCで推定された発生トルクToを除く)に対して実行する。
即ち、本実施例1の負荷変動除去手段18Eは、図5−1に示す排気行程TDC間(排気行程TDC#3−排気行程TDC#4間)において推定された発生トルクToの矩形部分を負荷変動トルクΔTlと見做し、これを推定された発生トルクTo(排気行程TDC#4で推定された発生トルクTo#4を除く)毎に排気行程TDC#3におけるオフセットトルクTof3で除去して、図5−2に示す如く精度の高い発生トルクToへと補正するものである。尚、排気行程TDC#4で推定された発生トルクTo#4については、その排気行程TDC#4において設定されたオフセットトルクTof4でオフセット処理される。
尚、図5−1及び図5−2においては、便宜上、排気行程TDC#4において推定された発生トルクTo#4と排気行程TDC#3において推定された発生トルクTo#3との差分を極端に大きく記載しているが、実際の差分は基本的に小さいので、上記矩形部分を負荷変動トルクΔTlと見做すことによって精度の高い発生トルクToを得ることができる。
また、機関始動直後等においては、一回目の排気行程TDCが検知されるまでオフセットトルクTofが設定されていない。これが為、それまでの間に推定された発生トルクToに対してのオフセット処理は行わないようにオフセット処理機能18E3を設定してもよく、予め仮想オフセットトルクTofを用意しておき、この仮想オフセットトルクTofを用いてオフセット処理を行うようにオフセット処理機能18E3を設定してもよい。
以下に、上述したが如く構成された本実施例1の失火検出装置の動作説明を図6及び図8のフローチャートに基づいて行う。
最初に、この失火検出装置の摩擦トルク推定手段18Cの動作説明を図6のフローチャートに基づき行う。
この摩擦トルク推定手段18Cは、例えばイグニッションを「ON」にしてから「OFF」にするまでの間に少なくとも一回又は所定期間毎に、摩擦トルクマップの学習/変更を行う。先ず、この摩擦トルク推定手段18Cは、図6に示す如く、内燃機関1の負荷が安定状態にあるか否かを判定している(ステップST1)。ここで、この摩擦トルク推定手段18Cは、負荷が安定状態に無ければ処理を終了し、安定状態にあれば所定気筒(例えばここでは1番気筒)のフューエルカットの指令を燃料噴射装置に対して行う。
これによりその所定気筒のフューエルカットが行われ(ステップST2)、このフューエルカット状態において、この摩擦トルク推定手段18Cは、摩擦トルクTfの推定を行う(ステップST3)。
このステップST3においては、摩擦トルク推定手段18Cは、フューエルカット状態でクランク角センサ15から取得したクランク角度位置信号パルスに基づいて角加速度dω/dtを算出し、この角加速度dω/dtとバックアップRAMに記憶されている慣性モーメントJとを乗算して慣性トルクJ×(dω/dt)を求める。また、バックアップRAMに記憶されている筒内圧トルクと往復慣性質量トルクとを加算して図示トルクTiを求める。そして、この摩擦トルク推定手段18Cは、前述した式3に基づき図示トルクTiからその慣性トルクJ×(dω/dt)を除算して摩擦トルクTfを算出する。
尚、かかる摩擦トルク推定時には、上記クランク角度位置信号パルスに基づいてECU18で機関回転数Neが算出され、更にECU18に入力された水温センサ16の冷却水温度信号から摩擦トルク測定時の冷却水の温度が明らかになる。
次に、この摩擦トルク推定手段18Cは、バックアップRAMから図2に示す摩擦トルクマップを読み出す(ステップST4)。そして、上記摩擦トルク測定時の機関回転数Ne及び冷却水温度に該当する摩擦トルクマップ上の摩擦トルク(既存摩擦トルク)Tf1と、上記ステップST3で求めた摩擦トルク(現摩擦トルク)Tf2とを比較して、これらの値に違いがあるか否かを判定する(ステップST5)。
ここで、この摩擦トルク推定手段18Cは、既存摩擦トルクTf1と現摩擦トルクTf2とが同一の値であれば、潤滑油の劣化等による摩擦トルクTfの変化がないものとして処理を終了する。また、その双方の摩擦トルクTf1,Tf2の値が異なっていれば、その差分を演算し、この差分を摩擦トルクカーブのオフセット移動量Ofとして定める(ステップST6)。例えば、図3は、機関回転数Ne(例えば2000rpm)における水温60℃の現摩擦トルクTf2と既存摩擦トルクTf1とを示したものであり、そのオフセット移動量分だけ移動させた摩擦トルクカーブの各点を現在の内燃機関1の摩擦トルクTfと推定する。
そして、この摩擦トルク推定手段18Cは、図7に示す如く摩擦トルクマップ上の各水温の摩擦トルクカーブをそのオフセット移動量Ofの分だけ移動させ、この摩擦トルクマップの書き換えを行う(ステップST7)。尚、この摩擦トルクマップは、バックアップRAMへと格納される。
尚、この摩擦トルク推定手段18Cは、負荷が安定している場合の任意の条件,即ち負荷が安定している場合の任意の機関回転数Neと冷却水温度における現摩擦トルクTf2を推定し、これに基づき略全域の摩擦トルクTfを推定しているが、必ずしもかかる態様に限定するものではない。例えば、負荷が安定し、且つ所定の機関回転数Ne若しくは冷却水温度(潤滑油温度)になったとき,又は所定の機関回転数Ne及び冷却水温度(潤滑油温度)になったときにフューエルカットを行って現摩擦トルクTf2を推定してもよい。そして、これによれば更なる推定精度の向上を図ることができる。
次に、この失火検出装置による失火判定処理動作について説明する。
先ず、図8のフローチャートに示す如く、発生トルク推定手段18Bが上述した式1に基づいて発生トルクToの推定を行う(ステップST11)。その際、この発生トルク推定手段18Bは、上記ステップST7で書き換えられた摩擦トルクマップから求めた摩擦トルクTfを用いて発生トルクToを推定する。
続いて、負荷変動除去手段18Eの機関状態判定機能18E1は、その発生トルクToが排気行程TDCにおいてのものであるか否かについてクランク角センサ15のクランク角度位置信号パルスに基づき判定する(ステップST12)。
ここで、排気行程TDCとの判定結果であれば、この負荷変動除去手段18Eは、オフセット値設定機能18E2により、この排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToをオフセットトルクTofとして設定する(ステップST13)。
しかる後、この負荷変動除去手段18Eは、オフセット処理機能18E3により、その発生トルクToについて上記オフセットトルクTofでオフセットする(ステップST14)。
このオフセットトルクTofは、次回のオフセットトルク設定処理が行われるまでの間において、ステップST11で推定された発生トルクToのオフセット処理に使用される。
即ち、この失火検出装置は、上述したが如くオフセットトルクTofを設定しオフセット処理を終えた後に、上記ステップST11に戻って次の発生トルクToを推定する。ここで、本実施例1のクランク角センサ15からのクランク角度位置信号パルスは1°CA毎に検出されるので、新たに推定された発生トルクToは排気行程TDCにおけるものではないと上記ステップST12にて判定される。
そこで、かかる判定結果が出た場合、負荷変動除去手段18Eのオフセット処理機能18E3は、ステップST14にて、前回の排気行程TDCにおいて設定された上記オフセットトルクTofを用いてその発生トルクToのオフセットを行う。
尚、排気行程TDC間においてはクランクシャフト8が180°CA回転し、更に、本実施例1にあってはクランク角度位置信号パルスが1°CA毎に検出されるので、次の排気行程TDCが検知されるまでの間においては、前回の排気行程TDCにおけるオフセットトルクTofを用いたオフセット処理が179回繰り返される。
上述したが如くオフセット処理を行うことによって、本実施例1の失火検出装置は、推定した発生トルクToからリアルタイムに負荷変動トルクΔTlを除去することができる。
この失火検出装置は、上述したステップST11〜ST14の処理を内燃機関1が停止するまで繰り返しており、その内燃機関1の運転中においてはオフセット(補正)後の発生トルクToを用いて失火判定手段18Aによる失火判定を行う。即ち、その失火判定手段18Aは、内燃機関1の運転中に、点火時におけるオフセット(補正)後の発生トルクToと、その点火時に予測トルク推定手段18Dにより求めた予測トルクTpとを比較して失火の有無を判定する。
ここで、上述した図8のフローチャートの処理動作について具体例を用いて説明する。
例えば、この内燃機関1が直列四気筒であり、1番気筒→3番気筒→4番気筒→2番気筒の順に点火されるとする。
かかる場合、負荷変動除去手段18Eは、例えば図9に示す如く、一回目(1番気筒)の排気行程TDC#1が検知されるまでの間において負荷変動トルクΔTlの除去処理(オフセット処理)を行わず、その1番気筒の排気行程TDC#1が検知された際に、ステップST13にて、その排気行程TDC#1において推定された発生トルクTo#1をオフセットトルクTof1として設定する。
しかる後、この負荷変動除去手段18Eは、ステップST14にて、そのオフセットトルクTof1を用いて1番気筒の排気行程TDC#1における発生トルクTo#1のオフセットを行う。即ち、その排気行程TDC#1において推定された発生トルクTo#1を「0」に補正する。
このオフセット処理の後、負荷変動除去手段18Eは、次の(3番気筒の)排気行程TDC#3がステップST12で検知されるまで、ステップST11で推定された全ての発生トルクToに対して上記オフセットトルクTof1によるオフセット処理を繰り返す。
続いて、ステップST12にて3番気筒の排気行程TDC#3が検知されると、負荷変動除去手段18Eは、その3番気筒の排気行程TDC#3において推定された発生トルクTo#3を新たなオフセットトルクTof3として設定し、このオフセットトルクTof3を用いて発生トルクTo#3以降の発生トルクToに対してオフセット処理を行う。
以降、新たな排気行程TDCが検知される度にオフセットトルクTofの更新が行われ、同様の処理が繰り返される。
以上示した本実施例1によれば、トルクを安定して発生させる排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToをオフセットトルクTofとして設定し、即ち、精度の良い発生トルクToからオフセットトルクTofを設定し、推定された各発生トルクToからそのオフセットトルクTof分をオフセットさせることによって、負荷変動トルクΔTlを精度良く除去することができる。これが為、この補正後の発生トルクToを用いて失火判定を行うことによって、例えば従来の如き失火でなくとも失火との判定が為されてしまうことがなくなり、失火検出の精度を向上させることができる。
また、そのオフセットトルクTofは、新たな排気行程TDCが検知される度に更新されるので、内燃機関1の運転中において常時好適なオフセットトルクTofで負荷変動トルクΔTlの除去処理を行うことができる。これが為、常に正確な発生トルクToで精度良く失火判定を行うことができる。
更に、発生トルクToが推定される度に最新のオフセットトルクTofで負荷変動トルクΔTlが除去された補正後の発生トルクToを求めることができるので、点火時等の失火判定時になった際に即時失火判定処理を行うことができる。
尚、本実施例1の摩擦トルク推定手段18Cは、以下の如く、内燃機関1を始動させる為の電動モータ(図示略)から摩擦トルクTfの推定を行うように構成してもよい。
具体的に、この摩擦トルク推定手段18Cの摩擦トルク推定機能18C1には、内燃機関1の着火前の空転時に電動モータの消費電力を求め、この消費電力から内燃機関1の摩擦トルクTfに相当するモータトルクを求めるモータトルク推定機能が設けられている。
ここで、かかる場合の摩擦トルク推定手段18Cは、前述したものと同様の摩擦トルク推定/書換機能18C2及び負荷状態判定機能18C3を有している。尚、この負荷状態判定機能18C3は、前述したクランキング中か否かで負荷の安定状態を判定するものを用いる。
また、かかる場合にあっては、内燃機関1の着火前の空転時に電動モータの消費電力を求めるので、負荷が安定している場合の所定気筒のフューエルカット機能18C4は設けていないが、必要とあらば設けてもよい。
かかる場合における摩擦トルク推定手段18Cは、図10のフローチャートに示す如く動作する。
この摩擦トルク推定手段18Cは、電動モータが駆動された際に内燃機関1の負荷が安定状態にあると判断して(ステップST21)、内燃機関1が着火する前の空転時に電動モータの消費電力を求める(ステップST22)。そして、この消費電力から内燃機関1の摩擦トルクTfに相当するモータトルクを推定する(ステップST23)。
即ち、内燃機関1の始動時で且つ着火前であれば、電動モータは、内燃機関1の摩擦トルクTfに打ち勝つようにECU18によって電流の制御が為される。これが為、摩擦トルクTfが大きければ電動モータの消費電力は大きくなるので、この特性を利用して消費電力から摩擦トルクTfの推定を行うことができる。
尚、かかる摩擦トルク推定時には、前述したものと同様に、ECU18による機関回転数Neの算出と冷却水温度の検出が行われる。
以降、ステップST24〜ST27までの摩擦トルクマップの書き換え処理は、前述したステップST4〜ST7までの処理と同じであるので、ここでの説明は省略する。
以上示した如く、このように構成した摩擦トルク推定手段18Cによっても、負荷が安定している状態で摩擦トルクTfを推定するので正確な摩擦トルクTfを得ることができ、失火検出の精度を向上させることができる。特に、電動モータの消費電力からの摩擦トルクTfの推定は、簡便であり、また、制御プログラム等の構成を簡潔なものとすることができるので有用である。
次に、本発明に係る失火検出装置の実施例2を図11−1から図13−4に基づいて説明する。
本実施例2の失火検出装置は、前述した実施例1の失火検出装置に対して負荷変動除去手段18Eを以下の如く変更したものであり、他については実施例1と同様に構成されている。
本実施例2の負荷変動除去手段18Eは、実施例1と同様に機関状態判定機能18E1,オフセット値設定機能18E2及びオフセット処理機能18E3を備えている。本実施例2にあっては、その機関状態判定機能18E1は実施例1と同様のものであり、そのオフセット値設定機能18E2及びオフセット処理機能18E3についてのみ変更が為されている。
ここで、図11−1に、ある排気行程TDC間(排気行程TDC#3−排気行程TDC#4間)において推定された発生トルクToの概念図を示す。前述した実施例1においては、その図11−1の三角形部分(Sa)における負荷変動トルクは微差であるが為、矩形部分(Sb)のみを負荷変動トルクΔTlと見做して発生トルクToの補正を行ったが、本実施例2のオフセット処理機能18E3は、その三角形部分(Sa)をも考慮して発生トルクToの補正を行う。
そこで、先ず、本実施例2のオフセット処理機能18E3には、負荷変動トルクΔTlにおける矩形の変動分Sbを除去する第1除去機能が設けられている。
この第1除去機能は、基本的に実施例1のオフセット処理機能18E3と同等の処理を行う機能であり、オフセット値設定機能18E2により設定されたオフセットトルクTofでのオフセット処理を、そのオフセットトルク設定時における排気行程TDCから次の排気行程TDCまでの間に推定された発生トルクToに対して実行するものである。
但し、本実施例2にあっては、そのオフセットトルクTofでのオフセット処理を、そのオフセットトルク設定時の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToに対しては行わず、次の排気行程TDCで推定された発生トルクToに対しては行う。
例えば、この第1除去機能のオフセット処理を行うことによって、図11−1に示す推定された発生トルクToが補正され、その発生トルクToから矩形の変動分Sbを除去した図11−2に示す変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sbを得ることができる。
尚、機関始動直後等においては、一回目の排気行程TDCが検知されるまでオフセットトルクTofが設定されていない。これが為、その一回目の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToに対してのオフセット処理は、この一回目の排気行程TDCにおいて設定されたオフセットトルクTofを用いて実行する。
また、同様の理由から、一回目の排気行程TDCが検知されるまでに推定された発生トルクToに対してのオフセット処理は行わないように第1除去機能を設定してもよく、予め仮想オフセットトルクTofを用意しておき、この仮想オフセットトルクTofを用いてオフセット処理を行うように第1除去機能を設定してもよい。
このように、第1除去機能によるオフセット処理を実行することによって、推定された発生トルクToを変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sbへと補正することができるが、その図11−2からも明らかなように、未だ負荷変動トルクΔTlにおける三角形の変動分Saが残存している。これが為、次に、本実施例2のオフセット処理機能18E3には、その変動分Saを除去する第2除去機能が更に設けられている。
この第2除去機能は、上記機関状態判定機能18E1により排気行程TDCが検知された際に、その検知された今回の排気行程TDCと前回の排気行程TDCとの間における変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sbから変動分Saを除去する機能である。
この本実施例2の第2除去機能は、上記第1除去機能によるオフセット処理が繰り返されている最中に機関状態判定機能18E1が排気行程TDCを検知し、この排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToに対しての上記第1除去機能のオフセット処理を終えると処理動作を開始する。
ここで、この第2除去機能が変動分Saを除去する為には、その変動分Sa分を求める必要がある。そこで、本実施例2のオフセット値設定機能18E2には、上記オフセットトルクTofを設定する第1機能に加えて、その変動分Sa分に相当するオフセット量(後述する負荷変動トルクΔTlSa(n))の設定を行う第2機能も設けられている。
ところで、本実施例2にあっては、前回の排気行程TDCが検知された後、今回の排気行程TDCが検知されるまでの間にm回の発生トルクToが所定の間隔で推定されるものとする。例えば、本実施例2のクランク角センサ15はクランク角度位置信号パルスを1°CA毎にECU18へと出力するので、発生トルクToは180回推定される。
ここでは、前回の排気行程TDCと今回の排気行程TDCとの間で推定されたn(=0,1,2,…,m)回目の発生トルクToをTo(n)と表す。また、その発生トルクTo(n)におけるクランク角度位置をθCA(n)で表す。尚、発生トルクTo(0)は前回の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクを示し、発生トルクTo(m)は今回の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクを示す。また、本実施例2にあっては、図11−2に示す前回の排気行程TDCにおけるクランク角度位置θCA(0)を起算点とするので、そのクランク角度位置θCA(0)は「0°CA」となり、クランク角度位置θCA(m)は「180°CA」となる。
上記オフセット値設定機能18E2の第2機能は、上記発生トルクTo(n)における変動分Saの負荷変動トルクΔTlSa(n)を下記の式4に基づいて演算する機能である。
尚、その式4の「To(m)−To(0)」は、本実施例2にあっては上記第1除去機能によりオフセット処理された今回の排気行程TDCにおける変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(m)を表している。
本実施例2の第2除去機能は、上記オフセット値設定機能18E2の第2機能により求められた負荷変動トルクΔTlSa(n)分で変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)をオフセットする機能である。
例えば、この第2除去機能のオフセット処理を行うことによって、図11−2の変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sbから三角形の変動分Saを除去した図11−3に示す変動分Sa,Sb除去後の発生トルクTo-Sa,Sbを得ることができる。
以下に、上述したが如く構成された本実施例2の失火検出装置の動作説明を図12のフローチャートに基づいて行う。
先ず、実施例1と同様に、発生トルク推定手段18Bが発生トルクToの推定を行い(ステップST31)、負荷変動除去手段18Eの機関状態判定機能18E1が、その発生トルクToが排気行程TDCにおいてのものであるか否かについて判定する(ステップST32)。
ここで、排気行程TDCとの判定結果であれば、この負荷変動除去手段18Eは、オフセット処理機能18E3の第1除去機能より、前回の排気行程TDCにおいて設定された(後述するステップST35で前回設定された)オフセットトルクTofを用いてその発生トルクToのオフセットを行う(ステップST33)。
尚、ここでは、そのステップST33のオフセット処理を終えた際に、後述するステップST31→ステップST32→ステップST36の処理が既に繰り返して行われ、前回の排気行程TDCと今回の排気行程TDCとの間において推定された発生トルクTo(n)が変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)へと補正されているものとする。
続いて、この負荷変動除去手段18Eは、前回の排気行程TDCと今回の排気行程TDCとの間における変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)に対して変動分Saの除去処理を行う(ステップST34)。
このステップST34においては、先ず、オフセット値設定機能18E2の第2機能により、変動分Saの負荷変動トルクΔTlSa(n)を上述した式4に基づいて算出する。そして、オフセット処理機能18E3の第2除去機能により、変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)をその負荷変動トルクΔTlSa(n)分でオフセットする。
具体的に、本実施例1にあっては、最初に負荷変動トルクΔTlSa(1)を算出し、変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(1)をその負荷変動トルクΔTlSa(1)分でオフセットする。続いて、負荷変動トルクΔTlSa(2)を算出して変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(2)のオフセット処理を行う。以降、m個目の変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(m)まで同様の処理を繰り返す。
これにより、変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)から変動分Saを除去することができ、その変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)を変動分Sa,Sb除去後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)へと補正することができる。
続いて、この負荷変動除去手段18Eは、オフセット値設定機能18E2の第1機能により、今回の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクTo(m)を新たなオフセットトルクTofとして設定する(ステップST35)。
しかる後、この失火検出装置は、上記ステップST31に戻って次の発生トルクToを推定する。ここで、この新たに推定された発生トルクToは排気行程TDCにおけるものではないと上記ステップST12にて判定される。
そこで、かかる判定結果が出た場合、負荷変動除去手段18Eにおけるオフセット処理機能18E3の第1除去機能は、前回の排気行程TDCにおいて設定された上記オフセットトルクTofを用いてその発生トルクToのオフセットを行う(ステップST36)。
以降、次の排気行程TDCにおいて推定された発生トルクToに対してまで、そのステップST31→ステップST32→ステップST36の処理が繰り返し行われる。
この失火検出装置は、上述したステップST31〜ST36の処理を内燃機関1が停止するまで繰り返しており、その内燃機関1の運転中において補正後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)を用いて失火判定手段18Aによる失火判定を行う。即ち、その失火判定手段18Aは、内燃機関1の運転中に、点火時における補正後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)と、その点火時に予測トルク推定手段18Dにより求めた予測トルクTpとを比較して失火の有無を判定する。
ここで、上述した図12のフローチャートの処理動作について具体例を用いて説明する。
本実施例2にあっても、この内燃機関1は直列四気筒であり、1番気筒→3番気筒→4番気筒→2番気筒の順に点火されるものとする。
かかる場合、負荷変動除去手段18Eは、例えば図13−1に示す如く、一回目(1番気筒)の排気行程TDC#1が検知されるまでの間において負荷変動トルクΔTlの除去処理(オフセット処理)を行わず、その1番気筒の排気行程TDC#1が検知された際に処理動作を開始する。
ここで、その1番気筒の排気行程TDC#1が検知された時点では未だオフセットトルクTofが設定されていない。そこで、本実施例2におけるオフセット処理機能18E3の第1除去機能は、一回目の排気行程TDC#1についてのみ、ステップST33にて、その排気行程TDC#1において推定された発生トルクTo#1をオフセットトルクTof1として設定し、このオフセットトルクTof1で発生トルクTo#1のオフセット処理を行い、その後ステップST31に戻る。
そして、負荷変動除去手段18Eは、次の(3番気筒の)排気行程TDC#3において推定された発生トルクTo#3の上記オフセットトルクTof1によるオフセット処理を終えるまで、ステップST31で推定された全ての発生トルクTo(n)に対してそのオフセットトルクTof1でのオフセット処理を繰り返す。
このようにして、先ず、排気行程TDC#1−排気行程TDC#3間における変動分Sb#1―#3を除去し、その間で推定された発生トルクTo(n)を図13−1に示す変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)に補正する。
尚、上記発生トルクTo#1は前述した発生トルクTo(0)に相当し、上記発生トルクTo#3は前述した発生トルクTo(m)に相当する。ここでは、実施例1と同様にm=180である。
負荷変動除去手段18Eは、発生トルクTo#3に対するオフセット処理を終えると、次に、ステップST34にて、上述した式4に基づき負荷変動トルクΔTlSa(1)を算出し、変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(1)をその負荷変動トルクΔTlSa(1)分でオフセットする。続いて、負荷変動トルクΔTlSa(2)を算出して変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(2)のオフセット処理を行う。以降、排気行程TDC#3における変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(180)まで同様の処理を繰り返す。
これにより、図13−2に示す排気行程TDC#1−排気行程TDC#3間における変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)から変動分Sa#1―#3を除去した変動分Sa,Sb除去後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)を得ることができる。
続いて、この負荷変動除去手段18Eは、ステップST35にて、排気行程TDC#3で推定された発生トルクTo#3をオフセットトルクTof3として設定する。そして、そのオフセットトルクTof3を用いて、ステップST35,ST33にて、排気行程TDC#3の次に推定される発生トルクTo(1)から排気行程TDC#4で推定される発生トルクTo#4までの間の発生トルクTo(n)を推定される度にオフセットし、図13−3に示す変動分Sb除去後の発生トルクTo-Sb(n)へと補正する。
しかる後、この負荷変動除去手段18Eは、ステップST34にて、排気行程TDC#1−排気行程TDC#3間の場合と同様にして変動分Sa#3―#4を除去し、図13−3に示す排気行程TDC#3−排気行程TDC#4間における変動分Sa,Sb除去後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)へと補正する。
以降、排気行程TDC間において順次同様の処理が繰り返され、例えば図13−4に示す如き変動分Sa,Sb除去後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)へと補正することができる。
以上示した本実施例2によれば、変動分Saをも考慮して負荷変動トルクΔTlの除去を行うことができるので、実施例1に対してより精度の高い補正後の発生トルクTo-Sa,Sb(n)を求めることができ、失火判定精度を更に高めることが可能になる。
尚、本実施例2においては変動分Sbの除去処理を行った後で変動分Saの除去処理を行うものとして例示したが、先ず変動分Saを除去し、その後に変動分Sbの除去処理を行うようにしてもよい。但し、かかる場合には少なくとも二箇所の排気行程TDCの発生トルクToを推定した後で変動分Sa,Sbの除去処理を行う必要がある。
また、本実施例2においては変動分Saと変動分Sbを二段階に分けて除去しているが、発生トルクToが推定される度に下記の式5を用いて当該発生トルクToにおける負荷変動トルクΔTlを一度に除去してもよく、これにより、上述した本実施例2と同様の効果を奏しつつも、実施例1と同様に即時の失火判定処理を行うことができる。