しかしながら、この薄膜コンデンサ200においては、例えば図12(a),(b)にそれぞれ等価回路図で示すように、バイアス信号は薄膜コンデンサ200が実装される配線基板に形成した外部回路(バイアス供給回路)Gで供給されていた。
ここで、図12(a)では、薄膜コンデンサ200とバイアス供給回路Gとの接続点Aとバイアス端子Vとの間に、インダクタンス成分としてのチョークコイル205が配置されている。
また、図12(b)では、バイアス供給回路Gに、薄膜コンデンサ200で動作させる高周波信号の波長λに対してλ/4線路長のストリップ線路206を形成している。そして、そのストリップ線路206のバイアス端子V側の一端は接地されており、さらに、ストリップ線路206のバイアス端子V側の一端と接地部との間に直流制限容量素子208を形成している。
このような薄膜コンデンサ200を利用する際には、この薄膜コンデンサ200以外に、配線基板上に薄膜コンデンサ200の構造および特性に応じたバイアス供給回路Gを用意しなくてはならなかった。このため、配線基板に実装される薄膜コンデンサ200に対応したバイアス供給回路Gを設計する必要があり、その調整に非常に複雑な手間が必要となるという問題点があった。さらに、薄膜コンデンサ200とバイアス供給回路Gとが別々に構成されるため、全体として大型化してしまうという問題点もあった。
また、従来の薄膜コンデンサ200において、高周波信号端子とバイアス端子Vとは、共通で使用されているため、外部回路にてチョークコイル205等を用いて、高周波成分(高周波信号の信号成分)と直流成分(バイアス信号)とを切り分ける必要があった。
また、薄膜コンデンサ200において容量を大きく変化させるには、薄膜誘電体層203の厚みを薄くする必要がある。しかしながら、コンデンサの容量は、誘電体の面積に比例し、厚みに反比例するので、薄膜誘電体層203の厚みを薄くすると、低容量値を実現するためには容量発生部である第1電極層202および第2電極層204の電極対向面積を小さくしなければならず、作製が困難になるという問題点があった。
また、上述のような薄膜コンデンサ200を高周波用電子部品として用いる場合には、薄膜コンデンサ200に容量を変化させるための直流バイアス電圧と、高周波信号の電圧(高周波電圧)とが同時に印加されることになる。しかしながら、高周波電圧が高い場合には、高周波電圧によっても薄膜コンデンサ200の容量が変化するため、高周波電子部品において波形歪みや相互変調歪み等が生じるようになる。これら波形歪みや相互変調歪み等を小さくするためには、高周波電界強度を下げて高周波電圧による容量変化を小さくする必要があり、そのためには、誘電体層203の厚みを厚くすることが有効であるが、誘電体層200の厚みを厚くすると直流電界強度も小さくなるため、直流バイアス電圧による容量変化率も下がってしまうという問題点がある。
また、高周波領域ではコンデンサに電流が流れやすくなるため、コンデンサを高周波領域で使用中にはコンデンサの損失抵抗によりコンデンサが発熱し、破壊してしまうという耐電力上の問題がある。このような耐電力の問題に対しても、誘電体層203の厚みを厚くし、単位体積当たりの発熱量を小さくすることが有効であるが、前述のように薄膜誘電体層203の厚みを厚くすると直流電界強度も小さくなるため、直流バイアス電圧による容量変化率も下がってしまうという問題点がある。
また薄膜コンデンサ200においては、薄膜誘電体層203と第1電極層202との界面の状態と、薄膜誘電体層203と第2電極層204との界面の状態とは一般的に異なるため、直流バイアス電圧を印加した場合には、その極性によりリーク電流特性が異なる場合がある。この現象は、ショットキー放出電流としてよく知られる現象である。すなわち、第1電極層202と第2電極層204とが異なる材料により形成されている場合には、第1電極層202の薄膜誘電体層203に対する仕事関数と、第2電極層204の薄膜誘電体層203に対する仕事関数とが異なるため、第1電極層202または第2電極層204のどちらから電子を放出してリーク電流が発生するかによってリーク電流の大きさが異なる。すなわち、直流バイアス電圧の極性によりリーク電流が異なることとなる。また、仮に第1電極層202と第2電極層204とが同一材料であっても、第1電極層202とその上に形成された薄膜誘電体層203との界面の状態および薄膜誘電体層203との上に形成された第2電極層204との間の界面の状態は微視的には異なるため仕事関数が異なり、この場合にも、直流バイアス電圧の極性によりリーク電流が異なることとなる。このため、薄膜コンデンサ200においては、設計時のみならず実装時にも直流バイアス電圧の極性に対して注意が必要であるという問題点があった。
本発明は、以上のような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、可変コンデンサに対する独立した外部のバイアス供給回路の形成を不要とし、取り扱いが容易な可変コンデンサを提供することにある。
また、本発明の別の目的は、可変コンデンサに対する要求特性が低容量の場合であっても生産性よく作製できる可変コンデンサを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、高周波信号による容量変化が抑制され、相互変調歪が小さく、耐電力に優れ、かつ直流バイアスにより容量を大きく変化させることが可能な可変コンデンサを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、直流バイアス電圧の極性の違いによる可変コンデンサの容量特性の違いを抑制することで、直流バイアス電圧の極性を考慮することなく簡便に実装できる可変コンデンサを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、上記本発明の可変コンデンサを用いた回路モジュールおよび通信装置を提供することにある。
本発明の第1の可変コンデンサは、支持基板上に、上下に配置された第1電極層および第2電極層と、これら2つの電極層に挟まれた、印加電圧により誘電率が変化する誘電体層とからなる可変容量素子のN個(ただし、N=2nであり、nは自然数)が、左右方向へ並べて直列接続された可変コンデンサであって、互いに隣り合う一方の前記可変容量素子の前記第1電極層と他方の前記可変容量素子の前記第2電極層とが電気的に接続されているとともに、前記左右方向の一端に位置する前記可変容量素子から2i−1個(ただし、iはn以下の自然数)目の前記可変容量素子の前記第1電極層および他端に位置する前記可変容量素子の前記第2電極層にそれぞれ電気的に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第1バイアスラインと、前記左右方向の前記一端に位置する前記可変容量素子から2i個目の前記可変容量素子の前記第1電極層にそれぞれ電気的に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第2バイアスラインとが形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の第2の可変コンデンサは、上記構成において、前記一端および前記他端に位置する前記可変容量素子は、それぞれ直流制限容量素子を介して信号端子に接続されていることを特徴とするものである。
また、本発明の第3の可変コンデンサは、上記構成において、前記直流制限容量素子は、前記信号端子の直下に形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の第4の可変コンデンサは、上記構成において、前記誘電体層は、チタン酸バリウムストロンチウムからなることを特徴とするものである。
また、本発明の回路モジュールは、本発明の第1乃至第4の可変コンデンサが共振回路を構成するコンデンサとして用いられていることを特徴とするものである。
また、本発明の通信装置は、上記本発明の回路モジュールがフィルタ手段として用いられていることを特徴とするものである。
本発明の第1の可変コンデンサによれば、支持基板上に、上下に配置された第1電極層および第2電極層と、これら2つの電極層に挟まれた、印加電圧により誘電率が変化する誘電体層とからなる可変容量素子のN個(ただし、N=2nであり、Nは自然数)が、左右方向へ並べて直列接続された可変コンデンサであって、互いに隣り合う一方の可変容量素子の第1電極層と他方の可変容量素子の第2電極層とが電気的に接続されているとともに、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i−1個(ただし、iはn以下の自然数)目の可変容量素子の第1電極層および他端に位置する可変容量素子の第2電極層にそれぞれ電気的に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第1バイアスラインと、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i個目の可変容量素子の第1電極層にそれぞれ電気的に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第2バイアスラインとが形成されているものであることから、従来の可変コンデンサのように外部の配線基板に実装していた独立したバイアス供給回路が不要となり、可変コンデンサが実装される回路基板の小型化が図れるとともに、取り扱いが容易となる。
また、本発明の第1の可変コンデンサによれば、可変容量素子のN個が直列接続されているため、1つの可変容量素子により一箇所で容量を形成する場合に比べ、第1および第2電極層の面積を大きくすることができるので、可変コンデンサに対する要求特性が低容量の場合であっても製造が簡易となり、加工精度が向上し、精度良く、また再現性良く所望する容量値を実現することができ生産性が高くなる。
また、本発明の第1の可変コンデンサは、互いに隣り合う一方の可変容量素子の第1電極層と他方の可変容量素子の第2電極層とが電気的に接続されているとともに、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i−1個(ただし、iはn以下の自然数)目の可変容量素子の第1電極層および他端に位置する可変容量素子の第2電極層にそれぞれ電気的に接続された第1バイアスラインと、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i個目の可変容量素子の第1電極層にそれぞれ電気的に接続された第2バイアスラインとが形成されていることより、第1バイアスラインまたは第2バイアスラインから供給される印加電圧としての直流バイアス電圧(バイアス信号)が第1バイアスラインまたは第2バイアスラインを介して各々の可変容量素子に単独に印加され、その後第2バイアスラインまたは第1バイアスラインを介して接地部側へと抜けることにより、直流的には各々の可変容量素子が並列に接続されている。このため、各々の可変容量素子に所望の直流バイアス電圧を印加することができ、これにより、直流バイアス電圧による各々の可変容量素子の容量変化率を最大限に利用することができ、容量を大きく変化させることが可能となる。
また、本発明の第1の可変コンデンサは、第1および第2のバイアスラインは抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むため、高周波信号に対して十分に高いインピーダンスとなることから、各々の可変容量素子が高周波的には直列に接続されている。このため、可変コンデンサに印加される高周波電圧が各々の可変容量素子に分圧されるので、個々の可変容量素子に印加される高周波電圧は分圧されて小さくなり、これによって、可変コンデンサの高周波信号に対する容量変動を小さく抑えることができ、波形歪みや相互変調歪み等を効果的に抑制することができる。さらには、複数の可変容量素子が高周波的に直列に接続されているため、高周波電圧が分圧されることにより本発明の可変コンデンサの損失抵抗による単位面積当たりの発熱量を小さくでき、耐電力性を向上させることができる。このように、本発明の可変コンデンサによれば、複数の可変容量素子が高周波的に直列に接続されていることにより、高周波信号による容量変化が抑制され、相互変調歪が小さく、耐電力に優れたものとなる。
また、本発明の第1の可変コンデンサは、互いに隣り合う一方の可変容量素子の第1電極層と他方の可変容量素子の第2電極層とが電気的に接続されているとともに、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i−1個(ただし、iはn以下の自然数)目の可変容量素子の第1電極層および他端に位置する可変容量素子の第2電極層にそれぞれ電気的に接続された第1バイアスラインと、左右方向の一端に位置する可変容量素子から2i個目の可変容量素子の第1電極層にそれぞれ電気的に接続された第2バイアスラインとが形成されている。このため、第1あるいは第2バイアスラインを介して直流バイアス電圧を印加するときに誘電体層に電子を放出する電極層が隣り合う可変容量素子で上下交互に配置されることとなり、かつ可変容量素子の数が偶数であることより、第1電極層と第2電極層との材料の違いや、誘電体層と第1電極層との界面および誘電体層と第2電極層との界面の界面状態の違いに起因して仕事関数が異なる場合であっても、各可変容量素子におけるリーク電流特性の違いが可変コンデンサ全体では相殺され、その結果、直流バイアス電圧の極性を入れ替えても可変コンデンサの容量特性の変化を抑制することができる。また、このような可変コンデンサによれば、直流バイアス電圧の極性を考慮する必要がなく、簡便に実装できる。
また、本発明の第2の可変コンデンサによれば、上記本発明の第1の可変コンデンサにおいて、一端および他端に位置する可変容量素子は、それぞれ直流制限容量素子を介して信号端子に接続されているときには、従来の可変コンデンサのようにこの可変コンデンサが実装される外部の配線基板に独立した直流制限容量素子を形成する必要がないので、可変コンデンサが実装される回路基板の小型化が図れるとともに、取り扱いが容易となる。
また、本発明の第3の可変コンデンサによれば、上記本発明の第2の可変コンデンサにおいて、直流制限容量素子は、信号端子の直下に形成されているときには、可変コンデンサの平面形状において直流制限容量素子を形成するための面積が不要となるので可変コンデンサの小型化が図れるとともに、この可変コンデンサを実装する配線基板の更なる小型化が図れ、取り扱いが容易となる。
また、本発明の第4の可変コンデンサによれば、上記本発明の第1〜第3の可変コンデンサにおいて、誘電体層は、チタン酸バリウムストロンチウムからなるときには、誘電損失が低く、かつ容量変化率の大きいものとなる。
また、本発明の回路モジュールによれば、本発明の第1乃至第4の可変コンデンサが共振回路を構成するコンデンサとして用いられているため、コンデンサの容量変化率が大きく、かつ所望の容量を精度良く得ることができることにより、広い周波数範囲にわたり所望の共振周波数を精度良く得ることのできるものとなる。また、共振回路を構成するコンデンサが耐電力に優れ、直流バイアス電圧の極性に依存しないことから、信頼性が高く、簡便に作製でき、生産性の高いものとなる。
また、本発明の通信装置によれば、上記本発明の回路モジュールがフィルタ手段として用いられているため、広い周波数範囲にわたり所望の共振周波数を精度良く設定できることにより、フィルタ手段として使用可能な周波数範囲が広く、かつ所望のフィルタ機能を精度良く得ることのできるものとなる。
以下、本発明の可変コンデンサおよび回路モジュールならびに通信装置について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1および図2は本発明の第1の可変コンデンサの実施の形態の一例を示すものであり、N=4(n=2)の場合を示すものである。図1は透視状態を示す平面図であり、図2は図1のA−A’線における断面図である。
図1および図2において、1は支持基板であり、2は第1電極層であり、4は誘電体層であり、5は第2電極層であり、31,32,33,34はそれぞれ導体ラインであり、61,62,63,64,65はそれぞれ薄膜抵抗であり、7は絶縁層であり、8は互いに隣り合う一方の可変容量素子の第1電極層2と他方の可変容量素子の第2電極層5とを電気的に接続するための引出し電極層であり、9は半田拡散防止層であり、10は保護層であり、111,112,113,114はそれぞれ半田端子部である。
なお、この半田拡散防止層9および半田端子部111,112で信号端子を構成している。また、半田拡散防止層9および半田端子部113,114でバイアス端子を構成している。以下、半田拡散防止層9と半田端子部111とで構成される信号端子を第1の信号端子,半田拡散防止層9と半田端子部112とで構成される信号端子を第2の信号端子,半田拡散防止層9と半田端子部114とで構成されるバイアス端子を第1のバイアス端子,半田拡散防止層9と半田端子部113とで構成されるバイアス端子を第2のバイアス端子という。また図1および図2において、C1,C2,C3,C4は、それぞれ上下に配置された第1電極層2および第2電極層5と、これら2つの電極層2,5に挟まれた誘電体層4とからなる、印加電圧としての直流バイアス電圧により容量が変化する可変容量素子を示す。
さらに、図1に示す例では、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第1のバイアスラインは、導体ライン31,32に抵抗成分として薄膜抵抗61,62,63を接続して構成され、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第2のバイアスラインは、導体ライン33,34に抵抗成分として薄膜抵抗64,65を接続して構成されている。
支持基板1は、アルミナなどのセラミック基板、サファイアなどの単結晶基板などである。そして、支持基板1の上に第1電極層2、誘電体層4および第2電極層5を順次、支持基板1のほぼ全面に成膜する。これらの各層の成膜終了後、第2電極層5、誘電体層4および第1電極層2を順次、所定の形状にエッチングする。
第1電極層2、誘電体層4、および第2電極層5の成膜に際しては、第1電極層2と誘電体層4との間、ならびに誘電体層4と第2電極層5との間に、パーティクル等の可変コンデンサの特性を劣化させる要因になりうる不純物の混入を最低限に抑制することが望ましい。従って、これら第1電極層2,誘電体層4および第2電極層5の成膜は、同じ成膜装置で、成膜室を大気開放せずに連続して行なうことが望ましい。このため、具体的な成膜方法としては、スパッタが好適である。
第1電極層2は、誘電体層4の形成に高温スパッタが必要となるため、その高温に耐えられるように高融点であることが必要である。具体的には、Pt,Pdなどの金属材料から成るものである。さらに、第1電極層2は、高温スパッタによる形成後、誘電体層4のスパッタ温度である700〜900℃へ加熱され、誘電体層4のスパッタ開始まで一定時間保持することにより、平坦な層となる。
第1電極層2の厚みは、第1電極層2自身の抵抗成分や連続性を考慮した場合には厚い方が望ましいが、支持基板1との密着性を考慮した場合には相対的に薄い方が望ましく、両方を考慮して決定される。具体的には、0.1μm〜10μmである。なぜなら、第1電極層2の厚みが0.1μmよりも薄くなると、第1電極層2自身の抵抗が大きくなるほか、第1電極層2の連続性が確保できなくなる可能性があるからであり、一方、10μmより厚くすると、内部応力が大きくなって、支持基板1との密着性が低下したり、支持基板1の反りを生じたりする恐れがあるからである。
誘電体層4は、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶粒子からなる高誘電率の誘電体層であることが好ましい。中でも、チタン酸バリウムストロンチウムを用いることにより、誘電損失が低く、かつ容量変化率の大きいものとなるので好ましい。この誘電体層4は、第1電極層2の表面(上面)に形成されている。例えば、ペロブスカイト型酸化物結晶が得られる誘電体材料をターゲットとして、スパッタリング法による成膜を所望の厚みになる時間まで行なう。このとき、基板温度を高く、例えば800℃として高温スパッタリングを行なうことにより、スパッタリング後の熱処理を行なうことなく、高誘電率で容量変化率の大きい、低損失の誘電体層4を得ることができる。
第2電極層5の材料としては、この層の抵抗を下げるため、抵抗率の小さなAuが望ましいが、誘電体層4との密着性向上のためには、Ptを用いたり、Pt等を密着層として用いたりすることが望ましい。この第2電極層5の厚みは0.1μm〜10μmとなっている。この厚みの下限については、第1電極層2と同様に、第2電極層5自身の抵抗と連続性とを考慮して設定される。また、厚みの上限については、誘電体層4との密着性を考慮して設定されるが、誘電体層4の厚み以下とすることにより、後の第2電極層5のエッチングの際に誘電体層4への影響を少なくすることができ、エッチングによるパターニング精度が向上するため、所望する容量値を精度良く得ることができる。
上述のように成膜した後、第2電極層5,誘電体4および第1電極層2を、順次、所定の形状にエッチングする。エッチングは、レジストをスピンコーティング法等により全面に均一に塗布し、フォトリソグラフィ法によりレジストを所定の形状にパターニングした後、ウェットエッチングもしくはドライエッチングにより行なう。可変容量素子C1〜C4の容量値は第2電極層5の面積により決定されるため、第2電極層5のエッチングでは、より精度の高いドライエッチングを用いることが望ましい。
ドライエッチングは、例えば電子サイクロトロン共鳴装置(ECR装置)を用い、アルゴンプラズマをエッチャントとして行なうことができる。
なお、誘電体層4のエッチングはウェットエッチングおよびドライエッチングのどちらにより行なってもよい。
また、第1電極層2のエッチングは、ウェットエッチングおよびドライエッチングのどちらを用いてもよいが、第1電極層2の厚みが厚い場合には、パターニング精度の観点から、第2電極層5と同様にドライエッチングにより行なうことが望ましい。
以上のような第2電極層5,誘電体層4および第1電極層2のエッチングにおいては、誘電体層4の下面は第1電極層2の上面より小さく、第2電極層5の下面は誘電体層4の上面よりも小さくなるようにエッチングされる。これにより、電界の集中しやすい第1電極層2の外縁部分に誘電体層4がないので、リーク電流特性が向上する。
このようにして、可変容量素子C1〜C4を得ることができる。
ここで、第1の信号端子と可変容量素子C1と、および可変容量素子C4と第2の信号端子とを電気的に接続するために、支持基板1上の第1および第2の信号端子を形成する位置に導電性材料からなる導電層を形成することが望ましい。この導電層は、可変容量コンデンサC1〜C4を形成した後に、新たに成膜することで形成してもよいが、第1電極層2のパターニングの際に、同時にこれら導電層も形成するようにパターニングを行なうことによって、第1電極層2と同一の材料および同一の工程で形成してもよい。
第1バイアスラインは、導体ライン31,32および薄膜抵抗61,62,63とから構成されており、第1のバイアス端子から第1の可変容量素子C1の第1電極層2との間、第3の可変容量素子C3の第1電極層2との間、および第4の可変容量素子C4の第2電極層5、すなわち第4の可変容量素子C4の第2電極層5と引き出し電極8を介して電気的に接続された第2の信号端子の配置位置に形成された導電層との間をそれぞれ接続するように設けられており、第1のバイアス端子を介して外部回路と接続される。
第2バイアスラインは、導体ライン33,34および薄膜抵抗64,65とから構成されており、第2のバイアス端子から第2の可変容量素子C2の第1電極層2との間および第4の可変容量素子C4の第1電極層2との間をそれぞれ接続するように設けられており、第2のバイアス端子を介して外部回路と接続される。
このような構成の第1および第2バイアスラインを設けることにより、可変容量素子C1〜C4は第1および第2バイアスラインを介して並列に接続されている。
この導体ライン31,32,33,34は、上述の第1電極層2、誘電体層4および第2電極層5を順次、所望の形状に形成した後、新たに成膜することによって形成することができる。その際には、既に形成した第1電極層2,誘電体層4および第2電極層5を保護するためにリフトオフ法を用いることが望ましい。
なお、これに限らず、この導体ライン31,32,33,34は、第1電極層2のパターニングの際に、同時にこれら導体ライン31〜34も形成するようにパターニングを行なうことによって形成することで、第1電極層2と同一の材料および同一の工程で形成してもよい。
ここで、第1および第2のバイアス端子の形成位置にて導体ライン31と導体ライン32と、および導体ライン33と導体ライン34とをそれぞれ電気的に接続するために、支持基板1上の第1および第2のバイアス端子を形成する位置に導電性材料からなる導電層を形成することが望ましい。この導電層は、可変容量コンデンサC1〜C4を形成した後に新たに成膜して形成してもよいが、導体ライン31〜34を形成するときに、導体ライン31〜34の第1および第2のバイアス端子の形成位置における形状を第1および第2のバイアス端子の形状に合わせて形成することで、同時にこれら導電層も一体となるように形成するようにパターニングを行なうことによって、導体ライン31〜34と同一の材料および同一の工程で形成してもよい。
なお、第1および第2のバイアス端子を、本発明の可変コンデンサの中心に対して互いに点対称の位置に配置することにより、可変コンデンサを図1に示す平面図において上下反対にしても配線基板に実装することができるため、取り扱いが容易となる。
次に、第1および第2のバイアスラインを構成する薄膜抵抗61〜65の材料としては、比抵抗が1Ωcm以上であるものが望ましい。このような高抵抗の材料を用いることにより、所望の抵抗を有する薄膜抵抗61〜65を小さな形状で作製することができ、小型集積化に有利となる。薄膜抵抗61〜65の具体的な材料として、窒化タンタル,TaSiN,Ta−Si−Oを例示することができる。例えば、窒化タンタルの場合であれば、Ta(タンタル)をターゲットとして、窒素を雰囲気中に加えてスパッタリングを行なうリアクティブスパッタリング法により、所望の組成比,抵抗率の薄膜抵抗61〜65を成膜することができる。
このスパッタリングの条件を適宜選択することにより、比抵抗1Ωcm以上の膜を作製することができる。さらに、スパッタリングの終了後、レジストを塗布して所定の形状にした後、これをマスクとして反応性イオンエッチング(RIE)などのエッチングプロセスを行なうことにより、簡便にパターニングすることができる。
第1および第2バイアスラインの抵抗値は、使用する周波数領域において第1および第2バイアスラインのインピーダンスが各可変容量素子C1〜C4のインピーダンスよりも大きくなるように設定される。導体ライン31〜34の抵抗値は薄膜抵抗61〜65の抵抗値と比較して非常に小さくなるため、第1および第2バイアスラインの抵抗値は薄膜抵抗61〜65の抵抗値とほぼ等しくなる。従って、薄膜抵抗61〜65の抵抗値を、使用する周波数領域において、各可変容量素子C1〜C4のインピーダンスより大きくなるように設定する。例えば、この可変コンデンサを周波数1GHzで使用し、可変容量素子C1〜C4の容量を4pFとした場合には、この周波数の1/10の周波数(100MHz)からインピーダンスに悪影響を与えないように、薄膜抵抗61〜65の抵抗値を可変容量素子C1〜C4の100MHzでのインピーダンスの10倍以上の抵抗値に設定するものとすると、必要な薄膜抵抗61〜65の抵抗値は約4kΩ以上となる。一方で、薄膜抵抗61〜65を、上述の比抵抗が1Ωcmの材料を用いて、例えば膜厚を50nmとし、アスペクト比(長さ/幅)を50として形成すると、10kΩの抵抗値を得ることができるので、4kΩ以上の抵抗値を有する薄膜抵抗61〜65は容易に、かつ形状を大きくすることなく実現できる。
これら薄膜抵抗61〜65を含む第1および第2のバイアスラインは、支持基板1上に直接形成されている。これにより、可変容量素子C1〜C4上に形成する場合に必要となる、第1電極層2,第2電極層5および引出し電極層8との絶縁を確保するための絶縁体層が不要となり、可変コンデンサの構成を簡易なものとすることができる。また、第1および第2バイアスラインを可変コンデンサ内に設けることにより、この可変コンデンサが実装される配線基板に外部のバイアス供給回路を形成する必要がないので、回路の小型化が図れるとともに、取り扱いが容易となる。
また、図1に示す例では可変容量素子C1〜4の第1電極層2および第2の信号端子の形成位置に成膜した導電層に薄膜抵抗61〜65の一端をそれぞれ接合し、薄膜抵抗61〜65の他端を導体ライン31〜34に接合しているが、可変容量素子C1〜C4の第1電極層2および第2の信号端子の形成位置に成膜した導電層と第1および第2のバイアス端子とを接続する導体ライン31〜34の途中に薄膜抵抗61〜65を設けてもよい。
次に、絶縁層7を形成する。絶縁層7は、同一の可変容量素子内における第2電極層5の上に形成する引出し電極層8と第1電極層2との絶縁を確保するほか、誘電体層4を覆うことにより、可変コンデンサの耐湿性を向上させる目的で形成する。
また、絶縁層7は、通常のレジストを用いるドライエッチング法等により、所望の形状に加工して形成する。絶縁層7には、図1中に点線で示している、第1の信号端子と可変容量素子C1の第1電極層2とを接続するための貫通孔、第2電極層5と引出し電極層8とを接続するための貫通孔、隣り合う可変容量素子の引出し電極層8と第1電極層2とを接続するための貫通孔、引出し電極層8と第2の信号端子とを接続するための貫通孔が設けられる。
絶縁層7の材料には、耐湿性を向上させるために、例えば二酸化ケイ素や窒化ケイ素を用いることができる。これらは、被覆性を考慮して、化学気相堆積(CVD)法などにより成膜することが望ましい。
次に、引出し電極層8は、可変容量素子C1の第2電極層5と可変容量素子C2の第1電極層2と、可変容量素子C2の第2電極層5と可変容量素子C3の第1電極層2と、可変容量素子C3の第2電極層5と可変容量素子C4の第1電極層2と、可変容量素子C4の第2電極層5と第2の信号端子を形成する位置に成膜された導電層とを、それぞれ絶縁層7の貫通孔を通して電気的に接続するように形成される。
ここで、可変容量素子C1の第1電極層2を第1の信号端子と電気的に接続することにより、第1の信号端子から第2の信号端子まで可変容量素子C1〜C4が直列に接続される。可変容量素子C1の第1電極層2を第1の信号端子と電気的に接続するには、例えば、可変容量素子C1の第1電極層2と第1の信号端子を形成する位置に成膜された導電層とを電気的に接続させてもよいし、第1の信号端子と可変容量素子C1とで第1電極層2を共用するように、可変容量素子C1の第1電極層2を第1の信号端子を形成する位置まで連続して形成してもよい。
この引出し電極層8の材料としては、Au、Cu等の低抵抗な金属を用いることが望ましい。また、引出し電極層8に対する絶縁層7の密着性を考慮して、Ti,Ni等の密着層を使用してもよい。
なお、引出し電極層8を形成するときに、第1および第2の信号端子,第1および第2のバイアス端子の形成位置に、引出し電極層8を構成する材料からなる層を形成することが好ましい。第1および第2の信号端子,第1および第2のバイアス端子を形成する位置の高さを揃えることにより、実装が容易となるからである。
次に、半田拡散防止層9を形成する。半田拡散防止層9は、半田端子部111〜114形成の際のリフローや実装の際に、半田端子部111〜114の半田の引出し電極層8あるいは第1電極層2への拡散を防止するために形成する。この半田拡散防止層9の材料としては、Niが好適である。また、半田拡散防止層9の表面には、半田濡れ性を向上させるために、半田濡れ性の高いAu,Cu等を0.1μm程度形成する場合もある。
次に、半田端子部111〜114を露出させて、その他全体を被覆するように保護層10を形成する。保護層10は、可変コンデンサの構成部材を機械的に保護するほか、薬品等による汚染から保護するためのものである。ただし、この保護層10を形成するときには、半田端子111〜114を形成する位置の半田拡散防止層9を露出させて形成する。保護層10の材料としては、耐熱性が高く、段差に対する被覆性が優れたものがよく、具体的にはポリイミド樹脂やBCB(ベンゾシクロブテン)樹脂等を用いる。これらは、樹脂原料溶液をスピンコーティング法などにより塗布した後、所定の温度で硬化させることにより形成される。
最後に、半田拡散防止層9の上に半田端子部111,112,113,114を形成する。これらは、可変コンデンサの外部の配線基板への実装を容易にするために形成する。これら半田端子部111,112,113,114は、半田端子部111,112,113,114に所定のマスクを用いて半田ペーストを印刷後、リフローを行なうことにより形成するのが一般的である。
以上のような構成の本発明の可変コンデンサにおいては、入力端子と出力端子となる第1および第2の信号端子間で可変容量素子C1〜C4が直列接続されており、かつ第1および第2バイアスラインを構成する薄膜抵抗61〜65が可変容量素子C1〜C4のインピーダンスに比べ十分大きいインピーダンス成分となっていることより、第1および第2の信号端子より供給される高周波信号が第1および第2バイアスラインを介して高周波信号が漏れることがない。このため、本発明の可変コンデンサは、可変容量素子C1〜C4が高周波的には直列に接続されていることになる。
従って、各可変容量素子C1〜C4の容量形成部となる第1電極層2および第2電極層5の面積を大きくすることができるため、加工精度が向上し、精度良く、また再現性良く所望する容量値を実現することができる。
また、これら直列接続された可変容量素子C1〜C4に印加される高周波電圧は各々の可変容量素子C1〜C4に分圧されるため、個々の可変容量素子C1〜C4に印加される高周波電圧は減少する。これにより、高周波信号に対する容量変動を小さく抑えることができ、高周波電子部品における波形歪みや相互変調歪み等を効果的に抑制することができるとともに、耐電力性を向上させることができる。
また、本発明の可変容量素子C1〜C4においては、可変容量素子C1〜C4の容量特性を制御する印加電圧である直流バイアス電圧は、第1または第2のバイアス端子から第1および第2バイアスラインを介して可変容量素子C1〜C4に流れる。この可変容量素子C1〜C4に印加される直流バイアス電圧の大きさに応じて、可変容量素子C1〜C4は所定の誘電率となり、その結果、所望の容量特性が得られることとなる。
ここで、可変容量素子C1〜C4は、第1および第2バイアスラインを介して並列に接続されているため、直流バイアス電圧を安定して個々の可変容量素子C1〜C4に供給することができ、容量特性の制御が容易な可変コンデンサとなる。
また、可変容量素子C1〜C4に印加される高周波電圧は第1および第2バイアスラインを介して高周波信号が漏れることがないので、直流バイアス電圧をさらに安定して可変容量素子C1〜C4に印加でき、その結果、直流バイアス電圧による可変容量素子C1〜C4の容量変化率を最大限に利用できるものとなる。
ここで、可変容量素子C1〜C4の容量特性は直流バイアス電圧を印加して制御するが、外部から印加する直流バイアス電圧をVo,第1および第2バイアスラインの抵抗成分の大きさをRb,可変容量素子C1〜C4の誘電体層4の絶縁抵抗の大きさをRcとすると、実際に可変容量素子C1〜C4に印加される直流バイアス電圧の大きさは、第1および第2バイアスラインが抵抗成分を有するため分圧され、Vo×Rc/(Rb+Rc)となる。可変容量素子C1〜C4の絶縁抵抗の大きさRcは、リーク電流の大きさにより変わるので、直流バイアス電圧の極性が異なると、実際に可変容量素子C1〜C4に印加される直流バイアス電圧の大きさも異なることとなる。その結果、外部より同じ直流バイアス電圧を印加しても、直流バイアス電圧の極性により、可変容量素子C1〜C4の容量特性が異なることとなる。
そこで、本発明の可変コンデンサにおいては、可変容量素子C1〜C4に直流バイアス電圧を印加したときに誘電体層4に電子を放出する電極を隣り合う可変容量素子で上下交互に配置することにより、個々の可変容量素子C1〜C4に着目すると、可変容量素子C1,C3と可変容量素子C2,C4とではリーク電流特性が異なり、その結果得られる容量特性も異なってくるが、これらの可変容量素子の数を偶数とすることにより、可変容量素子C1,C3と、可変容量素子C2,C4とで容量特性の変化を相殺するので、直流バイアス電圧の極性を入れ替えても可変コンデンサ全体の容量は変化しないものとなる。従って、本発明の可変コンデンサを実装する際には極性を考慮する必要がなく、簡便に実装できる。
次に、図3および図4に本発明の第2の可変コンデンサの実施の形態の一例を示す。
これらの図はN=4(n=2)の場合を示すものであり、図3は透視状態を示す平面図であり、図4は図3のA−A’線における断面図である。
図3および図4には、図1および図2と同様の箇所には同じ符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
図3および図4において、C5,C6は直流制限容量素子である。これら直流制限容量素子C5,C6は、直流バイアス電圧の影響を第1および第2の信号端子の側に伝えないよう形成される。直流制限素子C5は第1の信号端子と可変容量素子C1との間に、直流制限素子C6は可変容量素子C4と第2の信号端子との間に、それぞれ可変容量素子C1〜C5と同一材料、同一工程にて形成されている。
直流制限容量素子C5と可変容量素子C1とで共通の第1電極層2を用いて、直流制限容量素子C6の第1電極層2は、可変容量素子C4の第2電極層2と引出し電極層8を介して電気的に接続され、直流制限容量素子C5,C6はそれぞれの第2電極層5から引出し電極層8により第1および第2の信号端子と電気的に接続されることにより、第1の信号端子,直流制限容量素子C5,可変容量素子C1〜C4,直流制限容量素子C6,第2の信号端子の順に直列接続される。なお、第1の信号端子と直流制限容量素子C5とで第1電極層2を共用するように、直流制限容量素子C5の第1電極層2を第1の信号端子を形成する位置まで連続して形成し、直流制限容量素子C5と可変容量素子C1とを、可変容量素子C1〜C4のそれぞれの接続方法と同様に、直流制限容量素子C5の第2電極層5と可変容量素子C1の第1電極層2とを引き出し電極8を介して電気的に接合して、第1の信号端子,直流制限容量素子C5,可変容量素子C1〜C4,直流制限容量素子C6,第2の信号端子の順に直列接続してもよい。
直流制限容量素子C5,C6の容量値は、例えば直流制限容量素子C5,C6の形成面積を可変容量素子C1〜C4に比べ大きくすることにより、高周波帯での可変コンデンサの容量値に影響を与えない程度に十分に大きいものとする。これにより、直流制限容量素子C5,C6がない場合の容量変化率とほぼ同等の容量変化率を得ることができる。
直流制限容量素子C5,C6においては、誘電体層4として可変容量素子C1〜C5と同じ材料が用いられているが、前述のように、これらの容量値は高周波帯での可変コンデンサの容量値に影響を与えない程度に十分に大きいものとしているので、仮に直流制限容量素子C5,C6の容量が変化したとしても、可変コンデンサの容量値や容量変化率への影響はほとんどない。
以上のような構成の本発明の第2の可変コンデンサによれば、この可変コンデンサが実装される配線基板に直流制限容量素子を形成する必要がないので、回路の小型化が図れるとともに、取り扱いが容易な可変コンデンサとなる。
次に、図5および図6に本発明の第3の可変コンデンサの実施の形態の一例を示す。
これらの図はN=4(n=2)の場合を示すものであり、図5は透視状態を示す平面図であり、図6は図5のA−A’線における断面図である。
図5および図6には、図3および図4と同様の箇所には同じ符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
図5および図6において、C5,C6は直流制限容量素子であり、第1および第2の信号端子の直下に形成されている。直流制限容量素子C5,C6は、支持基板1上の第1および第2の信号端子を形成する位置に第1電極層2を形成し、その上に誘電体層として絶縁層7を形成し、第2電極層5を第1および第2の信号端子と共用している。ここで、直流制限容量素子C5,C6の容量値が所望する値となるように、該当する部分の絶縁層7の膜厚を薄くすることが必要となる。なお、直流制限素子C5,C6を、可変容量素子C1〜C4と同一材料,同一工程にて形成し、第2電極層5の上に第1および第2の信号端子を設けてもよい。
このような直流制限容量素子C5と可変容量素子C1とで共通の第1電極層2を用いて、直流制限容量素子C6の第1電極層2を、可変容量素子C4の第2電極層5と引出し電極層8を介して電気的に接続することにより、第1の信号端子,直流制限容量素子C5,可変容量素子C1〜C4,直流制限容量素子C6,第2の信号端子の順に直列接続される。
これら直流制限容量素子C5,C6の容量値は、高周波帯での可変コンデンサの容量値に影響を与えない程度に十分に大きいものとする。これにより、直流制限容量素子C5,C6がない場合の容量変化率とほぼ同等の容量変化率を得ることができる。
以上のような構成の本発明の第3の可変コンデンサにおいては、この可変コンデンサが実装される配線基板に直流制限容量素子を形成する必要がないので、回路の小型化が図れるとともに、直流制限素子形成のための平面上の面積が削減できるため、可変コンデンサ自体の小型化が図れる。
次に、本発明の回路モジュールおよび通信装置について説明する。
本発明の回路モジュールは、上記本発明の可変コンデンサと、インダクタおよび抵抗の少なくとも一つと、これらに電圧を印加できる電圧供給部とを備えた共振回路として構成されている。本発明の可変コンデンサが共振回路を構成するコンデンサとして用いられているため、コンデンサの容量変化率が大きく、かつ所望の容量を精度良く得ることができることにより、直流バイアス電圧の印加により広い周波数範囲にわたり所望の共振周波数を精度良く得ることのできるものとなる。また、コンデンサが耐電力に優れ、直流バイアス電圧の極性に依存しないことから、信頼性が高く、簡便に作製でき、生産性の高いものとなる。
また、本発明の通信装置は、上記構成の回路モジュールをフィルタ手段として用いた構成となっている。例えば、上記回路モジュールとインダクタ,キャパシタ等を組み合わせることで帯域通過フィルタとなり、広い周波数範囲にわたり所望の共振周波数を精度良く設定できることにより、使用可能な周波数範囲が広く、かつ所望の通過帯域を精度良く得ることのできるものとなる。このように、本発明の通信装置によれば、広い周波数範囲にわたり所望の共振周波数を精度良く設定できることにより、フィルタ手段として使用可能な周波数範囲が広く、かつ所望のフィルタ機能を精度良く得ることのできるものとなる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更を加えることは何ら差し支えない。
例えば、支持基板1上の複数領域にそれぞれ直列接続した可変容量素子からなる本発明の可変コンデンサを形成したり、第1および第2バイアスラインをインダクタや伝送線路で形成したりしてもよい。
また、上記実施の形態の例では支持基板1の上に第1電極層2を形成し、その上に誘電体層4,第2電極層5を形成しているが、一端に位置する可変容量素子の第1電極層2が一方の信号端子に接続され、他端に位置する可変容量素子の第2電極層5が他方の信号端子に接続されるように複数個の可変容量素子を直列接続すれば、支持基板1上に第2電極層5を形成し、その上に誘電体層4,第1電極層2を形成してもよい。
次に、本発明をより具体化した実施例について説明する。実施例として、図1および図2に示す本発明の第1の可変コンデンサにより説明する。
直流バイアス電圧の無印加時の容量値が4pFで、3Vの直流バイアス電圧を印加した時の容量変化率が23%の可変容量素子C1〜C4を直列に接続した可変コンデンサを以下のように作製した。
サファイアのR基板からなる支持基板1上に、第1電極層2としてPtを、基板温度500℃でスパッタリング法にて成膜した。次に、誘電体層4として(Ba0.5Sr0.5)TiO3からなるターゲットを用い、基板温度は800℃,成膜時間は15分で、同一バッチでスパッタリング法にて成膜した。誘電体層4の成膜開始前に、Ptからなる第1電極層2の平坦化のためのアニールとして800℃で15分間保持した。その上に第2電極層5としてPtを同一バッチでスパッタリング法にて成膜した。
次に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィの手法によりこのフォトレジストを所定の形状に加工した後、ECR装置により第2電極層5をエッチングして所望の形状に加工した。その後、同様に誘電体層4,第1電極層2をエッチングして所望の形状に加工した。第1電極層2の形状は、導体ライン31〜34,第1および第2の信号端子ならびに第1および第2のバイアス端子を形成する位置の導電層を含むものとした。
次に、薄膜抵抗61〜65として、窒化タンタルをスパッタリング法にて100℃で成膜した。スパッタリング後、フォトレジストをフォトリソグラフィにより所定の形状にした後、RIE装置を用いてエッチングを行ない、フォトレジストの層を除去した。薄膜抵抗のアスペクト比は全て20とした。
次に、絶縁層7として、SiO2膜をTEOSガスを原料とするCVD装置により成膜した。レジストを所定の形状に形成した後、RIE装置によりエッチングを行ない、所望の形状に加工した。
次に、引出し電極層8として、PtおよびAuをスパッタリング法にて成膜し、レジストを所定の形状に形成した後、RIE装置によりエッチングを行ない、所望の形状に加工した。
最後に半田拡散防止層9、保護層10、半田端子111,112,113,114を順次形成した。半田拡散防止層9にはNiを、保護層10にはポリイミド樹脂を、それぞれ用いた。
薄膜抵抗61〜65の膜厚は43nmであり、シート抵抗値を別途測定した結果510kΩ/cm2であった。これにより、薄膜抵抗61〜65の比抵抗は約2Ωcmであり、薄膜抵抗61〜65の抵抗値は約10MΩとなった。
このようにして得られた可変コンデンサの電気特性をインピーダンスアナライザ(アジレント社製、型番HP4291A)により測定した結果を図7に示す。図7において、横軸は周波数(単位:Hz)、縦軸左側がインピーダンス(単位:Ω)、右側が位相(単位:deg)を表わしている。なお、図中の1.0E+06とは、106すなわち1Mを表わす。
図7により、測定周波数領域において正常なインピーダンス特性を有する可変コンデンサとなっていることが確認できた。
次に、可変コンデンサの容量の周波数依存性を図8に示す。図8において、横軸は周波数(単位:Hz)、縦軸は容量(単位:pF)を表わしている。図8により、第1および第2バイアスラインの有する薄膜抵抗61〜65の抵抗値が非常に高いため、測定周波数領域において第1および第2バイアスラインの影響は見られず、容量はほぼ1pFで一定であった。このことから、4個の可変容量素子C1〜C4は、高周波的には直列に接続されていることが確認された。また、容量変化率はDC3V印加時で約23%であった。このことから、4個の可変容量素子C1〜C4は、直流的には並列に接続されていることが確認できた。
次に、上記で得られた可変コンデンサのリーク電流特性を図9に示す。図9において、横軸は印加電圧(単位:V),縦軸はリーク電流の対数値(単位:A)を表わしている。なお、図中の1.0E-12とは、10−12すなわち1pを表わす。
図9により、リーク電流特性は、印加電圧の極性に関係なく、その絶対値が等しければほぼ同じリーク電流値となることがわかる。すなわち、本発明の可変コンデンサにおいては、直流バイアス電圧の極性を入れ替えても、同じリーク電流特性となることが確認できた。
次に、可変コンデンサの容量変化率の印加電圧依存性を図10に示す。図10において、横軸は印加電圧(単位:V)、縦軸は容量変化率(単位:%)を表わす。
図10により、容量変化率は印加電圧の極性に関係なく、その絶対値が等しければほぼ同じ容量変化率となることがわかる。すなわち、本発明の可変コンデンサにおいては、直流バイアス電圧の極性を入れ替えても、同じ容量変化率となることが確認できた。