以下、本発明の可変コンデンサの実施の形態について模式的に示す図面を用いて詳細に説明する。
図1〜図5のそれぞれは、5個の可変容量素子が直列に接続されている場合の本発明の可変コンデンサの実施の形態の一例を示すものである。図1は透視状態を示す平面図であり、図2は作製途中での状態の一例を示す平面図であり、図3は図1でのA−A’線における断面図であり、図4は図1でのB−B’線における断面図であり、図5は図1でのC−C’線における断面図である。
図1〜図5において、1は支持基板であり、2は下部電極層であり、31,32,33,34はそれぞれ導体ラインであり、4は薄膜誘電体層であり、5は上部電極層であり、61,62,63,64はそれぞれ薄膜抵抗であり、7は絶縁層であり、8は引き出し電極層であり、9は保護層であり、10は半田拡散防止層であり、111,112はそれぞれ半田端子部である。なお、この半田拡散防止層10および半田端子部111,112で外部回路との接続端子を構成している。また、図1および図3において、C1〜C5は、それぞれ直流バイアス電圧により容量が変化する可変容量素子を示す。
支持基板1は、アルミナ等のセラミック基板、あるいはサファイア等の単結晶基板等である。そして、支持基板1の上に下部電極層2,薄膜誘電体層4および上部電極層5を、順次、支持基板1の全面に成膜する。全層の成膜終了後、上部電極層5,薄膜誘電体層4および下部電極層2を、順次、所定の形状にエッチングする。
下部電極層2は、この上に形成する薄膜誘電体層4の形成に高温スパッタリングが必要となるため、高融点であることが必要である。具体的には、Pt,Pd等である。さらに、下部電極層2は、スパッタリング終了後、薄膜誘電体層4のスパッタリング温度である700〜900℃へ加熱され、薄膜誘電体層4のスパッタリング開始まで一定時間保持することにより、平坦な膜となる。
下部電極層2の厚みは、半田端子部112および半田拡散防止層10よりなる外部回路との接続端子から可変容量素子C5までの抵抗成分や、可変容量素子C1から可変容量素子C2、可変容量素子C3から可変容量素子C4までの抵抗成分、および下部電極層2の連続性を考慮した場合は、厚いほうが望ましいが、支持基板1との密着性を考慮した場合は、相対的に薄い方が望ましく、両方を考慮して決定される。具体的には、0.1μm〜10μmである。なぜなら、0.1μmよりも薄くなると、下部電極層2自身の抵抗が大きくなるほか、下部電極層2の連続性が確保できなくなる可能性があるからであり、一方、10μmより厚くすると、支持基板1との密着性が低下したり、支持基板1の反りを生じるおそれがあるからである。
薄膜誘電体層4は、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶粒子からなる高誘電率の誘電体層であることが好ましい。この薄膜誘電体層4は、上述の下部電極層2の表面に形成されている。例えば、ペロブスカイト型酸化物結晶粒子が得られる誘電体材料をターゲットとして、スパッタリングを所望の厚みになる時間まで行なう。基板温度を高く、例えば800℃としてスパッタリングを行なうことにより、スパッタリング後の熱処理を行なうことなく、高誘電率で容量変化率の大きい、低損失の薄膜誘電体層4が得られる。
上部電極層5の材料としては、電極の抵抗を下げるため、抵抗率の小さなAuが望ましいが、薄膜誘電体層4との密着性向上のために、Pt等を密着層として用いることが望ましい。この上部電極層5の厚みは0.1μm〜10μmとなっている。この厚みの下限については、下部電極層2と同様に、上部電極層5自身の抵抗を考慮して設定される。また、厚みの上限については、密着性を考慮して設定される。
導体ライン32,33および薄膜抵抗61から構成されたバイアスライン(以下、第1バイアスラインという。)は、可変容量素子C1の一方の端部である外部回路との接続端子(半田端子111,半田拡散防止層10)と、可変容量素子C2と可変容量素子C3との接続点、すなわち可変容量素子C2の上部電極層5と可変容量素子C3の上部電極層5とを接続する引き出し電極層8との間に設けられている。
同様に、導体ライン32、34および薄膜抵抗62から構成されたバイアスライン(以下、第2バイアスラインという。)は、前記接続端子と、可変容量素子C4と可変容量素子C5との接続点との間に設けられている。
導体ライン31および薄膜抵抗63から構成されたバイアスライン(以下、第3バイアスラインという。)は、可変容量素子C3と可変容量素子C4との接続点、すなわち可変容量素子C3および可変容量素子C4の共通的な下部電極層2と、可変容量素子C5の一方の端部である外部回路との接続端子(半田端子112、半田拡散防止層10)との間に設けられている。
同様に、導体ライン31および薄膜抵抗64から構成されたバイアスライン(以下、第4バイアスラインという。)は、可変容量素子C1と可変容量素子C2との接続点と、前記接続端子との間に設けられている。
この導体ライン31,32,33,34は、上述の下部電極層2,薄膜誘電体層4および上部電極層5を形成した後、新たに成膜して得ることができる。その際には、既に形成した下部電極層2,誘電体層4および上部電極層5を保護するためにリフトオフ法を用いることが望ましい。
なお、これに限らず、この導体ライン31,32,33,34は、下部電極層2のパターニングの際に、同時にこれら導体ライン31〜34も形成するようにパターニングを行なうことによって形成するようにして、下部電極層2と同一の材料および同一の工程で形成してもよい。
以上のようにバイアスラインを構成することにより、例えば、半田端子部111および半田拡散防止層10よりなる外部回路との接続端子に直流バイアス電圧を印加し、もう一方の接続端子(半田端子112、半田拡散防止層10)を接地した場合に、印加した直流バイアス電圧は引き出し電極層8および第1バイアスライン,第2バイアスラインにより、可変容量素子C1〜C5のそれぞれの上部電極層5に印加され、一方、第3バイアスライン,第4バイアスラインおよび下部電極層2により、可変容量素子C1〜C5のそれぞれの下部電極層2は接地されている。すなわち、直流バイアス電圧は可変容量素子C1〜C5に単独に印加され、直流的には、可変容量素子C1〜C5は並列に接続されることになる。
ここで、バイアスラインは導体ライン31〜34と薄膜抵抗61〜64とからなるが、その抵抗成分の大きさは、薄膜抵抗61〜64の抵抗値の大きさが、導体ライン31〜34と比較して非常に大きいため、薄膜抵抗61〜64の抵抗値とほぼ等しくなる。
薄膜抵抗61〜64の抵抗値の大きさは、所定の周波数帯域の高周波信号において可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないように設定される。その大きさの下限値は、薄膜抵抗61〜64の抵抗値の大きさが無限大のとき、すなわち図6に図2と同様の平面図で示すようなバイアスラインを有していない場合と、所定の周波数帯域の高周波信号において概ね同一のQ値となるように設定される。
図7は、図1〜5に示す、本発明の可変コンデンサの等価回路図である。図7において、C1,C2,C3,C4,C5は可変容量素子であり、Rc1,Rc2,Rc3,Rc4,Rc5は可変容量素子C1〜C5を構成する誘電体層4の絶縁抵抗であり、Rd1,Rd2,Rd3,Rd4,Rd5は可変容量素子C1〜C5の等価損失抵抗であり、Re1,Re2,Re3,Re4,Re5は可変容量素子C1〜C5同士を接続する引出し電極層8あるいは下部電極層2の抵抗成分である。
また、薄膜抵抗61をR11、薄膜抵抗62をR12、薄膜抵抗63をR21、薄膜抵抗64をR22、で示し、第1バイアスラインをB11、第2バイアスラインをB12、第3バイアスラインをB21、第4バイアスラインをB22で示している。
一方、図8は、図6に示す、バイアスラインを有していない場合の可変コンデンサの等価回路図である。なお、図8中の符号は、図7と同一である。
この図7に示す回路を用い、薄膜抵抗61〜64の抵抗成分の大きさが無限大のとき、すなわち図8に示すような、バイアスラインを有していない場合と、所定の周波数帯域の高周波信号において概ね同一のQ値となるときの薄膜抵抗61〜64の抵抗成分の大きさをシミュレーションにより求めた。
図9は、周波数2GHzにおいて、図7の回路にて示される本発明の可変コンデンサのQ値が、図8の等価回路図にて示される可変コンデンサのQ値の95%となるときの薄膜抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗成分の大きさを、可変コンデンサの容量に対して求めた結果を示す、容量値とバイアスラインの抵抗値との相関を示す線図である。なお、図9において、横軸は容量値(単位:pF)を、縦軸は抵抗値(単位:Ω)を表している。
なお、図9に示すシミュレーション結果において、可変容量素子C1〜C5を構成する薄膜誘電体層4の絶縁抵抗Rc1,Rc2,Rc3,Rc4,Rc5を5GΩ、可変容量素子C1〜C5を構成する薄膜誘電体層4の等価損失抵抗Rd1,Rd2,Rd3,Rd4,Rd5を70mΩ、各可変容量素子C1〜C5を接続する引出電極層8あるいは下部電極層2の直列抵抗成分Re1,Re2,Re3,Re4,Re5を10mΩとした。また、図9中の1.0E+03とは、103すなわち1kを示し、1.0E+04とは、104すなわち10kを示す。
図9に示す結果より、図7の等価回路図にて示される本発明の可変コンデンサのQ値が、図8の等価回路図にて示される可変コンデンサのQ値の95%となるときの薄膜抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗成分の大きさは、容量値とともに変化し、その関係は、容量値をC[pF]としたとき、4.86×105/C2[Ω]となる。すなわち、薄膜抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗成分の大きさがこの値より大きい場合は、図7の回路にて示される本発明の可変コンデンサのQ値が、図8の等価回路図にて示される可変コンデンサのQ値の95%以上となり、バイアスラインのインピーダンスは、2GHzという高周波数帯域において可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないため、この周波数帯域において高いQ値を有する可変コンデンサを得ることができる。
従って、例えば移動体通信規格の一つであるW−CDMA方式やIMT2000方式等で使用される周波数帯域(Tx1.920GHz〜1.980GHz,Rx2.110GHz〜2.170GHz)において、フィルタ回路等に使用するのに好適な可変コンデンサを得ることができる。
さらに図10には、周波数800MHzにおいて、図7の等価回路図にて示される本発明の可変コンデンサのQ値が、図8の等価回路図にて示される可変コンデンサのQ値の95%となるときの薄膜抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗成分の大きさを、可変コンデンサの容量に対して求めた結果を、容量値とバイアスラインの抵抗値との相関を示す線図で示した。なお、図10においても、横軸は容量値(単位:pF)を、縦軸は抵抗値(単位:Ω)を表している。また、絶縁抵抗Rc1,Rc2,Rc3,Rc4,Rc5、等価損失抵抗Rd1,Rd2,Rd3,Rd4,Rd5、直列抵抗成分Re1,Re2,Re3,Re4,Re5のそれぞれの大きさは、図9の場合と同じとした。
図10中の特性曲線は3.034×106/C2となり、薄膜抵抗R11,R12,R21,R22の抵抗成分の大きさがこの値より大きい場合は、図7の等価回路図にて示される本発明の可変コンデンサのQ値が、図8の等価回路図にて示される可変コンデンサのQ値の95%以上となり、バイアスラインのインピーダンスは800MHzという高周波数帯域において可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないため、この周波数帯域において高いQ値を有する可変コンデンサを得ることができる。
従って、例えば移動体通信規格の一つであるセルラー方式等で使用される周波数帯域(Tx824MHz〜849MHz,Rx869MHz〜894MHz)において、フィルタ回路等に使用するのに好適な可変コンデンサを得ることができる。
以上のような抵抗成分を有するバイアスラインを構成する薄膜抵抗61〜64の材料は、その比抵抗が1Ωcm以上であることが望ましい。このような高抵抗の材料を用いることにより、バイアスラインを付与しても素子の形状を大きくすることなく素子を作製することができ、小型集積化に有利となる。例えば、薄膜抵抗61〜64の材料として、その比抵抗が1Ωcmの材料を用いた場合は、膜厚を40nmとし、アスペクト比(長さ/幅)を10とすれば、その抵抗成分の大きさは2.5MΩとなり、また、アスペクト比(長さ/幅)を40とすれば、その抵抗成分の大きさは10MΩとなるので、図9および図10においてシミュレーションより得られた抵抗成分の大きさを有する薄膜抵抗を、素子形状を大きくすることなく実現可能な範囲で作製することができる。
薄膜抵抗の61〜64の具体的な材料としては、窒化タンタル,TaSiN,Ta−Si−Oを例示することができる。例えば、窒化タンタルの場合、Ta(タンタル)をターゲットとして、窒素を加えてスパッタリングを行なうリアクティブスパッタリング法により、所望する組成比,抵抗率の抵抗膜を成膜することができる。このスパッタリングの条件を適宜選択することにより、比抵抗が1Ωcm以上の抵抗膜を作製することができる。さらに、スパッタリング終了後、レジストを塗布し、所定の形状にした後、反応性イオンエッチング(RIE)等のエッチングプロセスにより簡便にパターニングすることができる。
ここで、薄膜抵抗61〜64を、その比抵抗が1Ωcm以上となるような高抵抗な材料で形成すると所望のインピーダンスを得られないこともある。これは、高抵抗な材料を用いているために僅かなパターニング形状のズレが大きなインピーダンスのズレを生んでしまったり、材料の比抵抗の値が所望の値からずれてしまいインピーダンスのズレを生んでしまったりするためと推察される。そこで、パターニングして形成されたバイアスラインのインピーダンスが所望の値と異なるときには、バイアスラインの幅および厚みの少なくとも一方を変えてインピーダンスを調整してもよい。また、予めインピーダンスが所望の値より小さくなるようにライン幅および厚みの少なくとも一方を大きめにバイアスライン部を形成し、エッチングによりこのバイアスライン部のライン幅および厚みの少なくとも一方を小さくすることで、所望のインピーダンスを有するバイアスラインとし、所望のインピーダンスを精度良く得ることができるように調整してもよい。
所望のインピーダンスを有するバイアスラインを得るために、インピーダンスを調整しながらバイアスラインを形成する方法の一例を、図15を参照しつつ説明する。図15は図1に示す本発明の可変コンデンサの作製途中の状態の他の例を示す平面図である。図15において、図1〜図5と同様の箇所には同様の符合を付している。
まず、基板1上に可変容量素子C1〜C5と、バイアスラインよりもライン幅および厚みの少なくとも一方が大きいバイアスライン部と、このバイアスライン部のライン幅および厚みと相関を有するライン幅および厚みの、バイアスライン部のインピーダンスのモニター用パターンとを形成する。モニター用パターンは、そのインピーダンスの値によりバイアスライン部のインピーダンスの値を推定するためのものであり、インピーダンスを測定するために2つの電極と電気的に接続されている。この例では、バイアスライン部は、導体ライン31〜34と、バイアスラインを構成する薄膜抵抗61〜64よりもライン幅および厚みの少なくとも一方が大きい薄膜抵抗部61’〜64’とから成り、モニター用パターンは薄膜抵抗部65’から成り、この薄膜抵抗部65’は導体ライン32および基板1上に形成された電極35と電気的に接続されている。
なお、この例ではバイアスライン部において、薄膜抵抗61〜64のみのライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくしたが、導体ライン31〜34のライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくしてもよいし、両方のライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくしてもよい。バイアスライン全体のインピーダンスに影響の大きい薄膜抵抗61〜64のライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくすれば調整できるインピーダンスの範囲を広くすることができ、バイアスライン全体のインピーダンスに影響の少ない導体ライン31〜34のライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくすればインピーダンスの微調整ができるので、目的に合わせて選択すればよい。
モニター用パターンは、バイアスライン部においてライン幅および厚みの少なくとも一方を大きくした部分(この例では、薄膜抵抗61〜64)と同一材料・同一工程で形成すればよい。また、モニター用パターンのライン幅,厚み,長さは、後のエッチング工程によりライン幅および厚みの少なくとも一方を小さくしていくときのインピーダンスの値の変化がバイアスライン部のインピーダンスの値の変化と相関を有するように形成する。例えば、モニター用パターンを、バイアスライン部と厚みおよびアスペクト比を同一としたり、ライン幅もしくはライン長さを一定の比例関係となるようにすればよいが、バイアスライン部と同じライン幅,厚み,長さとすれば、モニター用パターンとバイアスライン部とのインピーダンスは同一となるので、バイアスラインのインピーダンスを正確に所望の値にあわせることができるため好ましい。
このようなモニター用パターンの配置位置は、可変コンデンサの素子内および素子外に限定されず自由に決定できるが、バイアスライン部の近くとすれば、基板1面内における、成膜工程時の膜厚のばらつきや、後のエッチング工程時のエッチング速度のばらつきの影響を少なくすることができるので、精密にバイアスラインのインピーダンスを調整できるため好ましい。
例えば、図15に示すように、モニター用パターン(薄膜抵抗部65’)を、一方が導体ライン32の端部に、他方が可変容量素子C5と電気的に接続される側の接続端子と平行に形成された電極35と接続すれば、バイアスライン部61’〜64’に近いため精密にバイアスラインのインピーダンス調整ができることに加え、実装の際に入力側の接続端子と出力側の接続端子とを識別できるため、直流バイアス電圧の極性によりリーク電流特性の異なる可変コンデンサを容易に実装できるため好ましい。
また、モニター用パターンを、複数の可変コンデンサを形成した基板1となる同一ウエハ上において可変コンデンサ間に適宜設ければ、複数の可変コンデンサでモニター用パターンを共有することで、各可変コンデンサの素子内にモニター用パターンを形成しなくてもバイアスラインのインピーダンスを所望の値となるように調整することができるので、バイアスラインのインピーダンスが精度良く制御された可変コンデンサを更に小型化できるので好ましい。
次に、バイアスライン部およびモニター用パターンを同時にエッチングして、モニター用パターンとともに、バイアスライン部のライン幅および厚みの少なくとも一方を小さくすることによって、バイアスライン部のインピーダンスを大きくする。例えば、バイアスライン部およびモニター用パターンにレジストを塗布し、レジストをバイアスライン部およびモニター用パターンよりも細い形状にした後、RIE等のエッチングプロセスにより、バイアスライン部およびモニター用パターンのライン幅を小さくすることによって、初期のバイアスライン部のインピーダンスよりインピーダンスを大きくすることができる。
このようなモニター用パターンは、そのインピーダンスの値からバイアスライン部のインピーダンスの値を推定することができるので、バイアスラインのインピーダンスを制御できる。
次に、モニター用パターンに電気的に接続している電極(この例では電極35と導体ライン32)にプローブを接触させ、測定系を用いてモニター用パターンのインピーダンスを測定する。なお、インピーダンスを測定するときには、基板1ごとアセトンとIPAとの混合溶液中に浸漬させて超音波洗浄することでレジストを剥離することが好ましいが、モニター用パターンに接続された2つの電極(この例では導体ライン32と電極35)の一部が露出していればプローブを接触させてインピーダンスを測定することができるので、予めレジストに被覆された状態でのバイアスライン部とモニター用パターンとのインピーダンス(抵抗値)間の相関を調査しておけば、インピーダンスを測定するためにレジストを必ずしも剥離する必要はない。また、バイアスライン部の厚みをバイアスラインより大きくし、エッチングにより厚みを小さくしてインピーダンスを調整する場合には、バイアスライン部およびモニター用パターンはレジストで被覆されていないことから、インピーダンスを調整する間、すなわち、エッチングによりモニター用パターンおよびバイアスライン部の厚みを小さくする工程と、モニター用パターンのインピーダンスを測定する工程とを所望のインピーダンス値に達するまで繰り返す間に、レジストの塗布と剥離とを繰り返す必要がないので、インピーダンスを調整する工程を簡略化できるので好ましい。
なお、モニター用パターン,バイアスライン部のエッチングはドライエッチング,ウェットエッチングのどちらの手法を用いてもよい。
このモニター用パターンのインピーダンスの測定結果から、推定されるバイアスライン部のインピーダンスが所望の値より小さい場合には、再度エッチングによりモニター用パターンおよびバイアスライン部の厚みを小さくする工程と、モニター用パターンのインピーダンスを測定する工程とを繰り返し、モニター用パターンのインピーダンスの測定結果から推定されるバイアスライン部のインピーダンスが所望の値に達したことを確認できたらエッチングを終了する。このようにバイアスライン部をエッチングによりバイアスラインに加工する。この例では、薄膜抵抗部61’〜64’をエッチングして薄膜抵抗61〜64に加工することにより、所望のインピーダンスを有するバイアスラインを形成することができる。
ここで、電極35は、下部電極層2と同様の導電性材料を用い、下部電極層2のパターニングの際に同時に電極35も形成するようにパターニングを行なって形成することで、下部電極層2と同一材料・同一工程で形成すればよい。
このように、バイアスラインのインピーダンスが所望の値になるように調整しながらバイアスラインを形成することで、所望のインピーダンスを有するバイアスラインを容易に得ることができるため、安定した特性の可変コンデンサを再現性よく得ることができ、その結果、歩留りを向上させることができる。また、モニター用パターンを設けることにより、バイアスライン部に直接インピーダンスを測定するためのプローブを接触させなくても所望のインピーダンスを有するバイアスラインを作製することができるので、バイアスラインにプローブの接触によるダメージのない、安定した特性の可変コンデンサを再現性よく得ることができるので、可変コンデンサの歩留りを向上させることができる。
これら薄膜抵抗61〜64を含むバイアスラインB11,B12,B21,B22は、支持基板1上に直接形成されている。これにより、薄膜抵抗61〜64を可変容量素子C1〜C5上に形成する際に必要となる、下部電極層2,上部電極層5および引き出し電極層8との絶縁を確保するための絶縁層が不要となり、可変コンデンサを構成する層の数を低減することが可能となる。
次に、絶縁層7は、この上に形成する引き出し電極層8と下部電極層2との絶縁を確保するために必要である。さらに、この絶縁層7はバイアスラインB11,B12,B21,B22を被覆しており、薄膜抵抗61〜64が酸化されるのを防止できるため、バイアスラインB11,B12,B21,B22の抵抗値を経時的に一定とすることができ、信頼性が向上する。絶縁層7の材料は耐湿性を向上させるために、例えば、窒化ケイ素および酸化ケイ素の少なくとも1種類よりなるものとすればよい。これらは、被覆性を考慮して、化学気相堆積(CVD)法等により成膜することが望ましい。
絶縁層7は、通常のレジストを用いるドライエッチング法等により、所望の形状にすることができる。そして、絶縁層7には、薄膜抵抗61,62と引き出し電極層8との結合を確保するために、導体ライン33,34の一部を露出させる貫通孔を設けている。その他でこの絶縁層7から露出させる部位としては、上部電極層5および半田端子部111,112のみとしておくことが、耐湿性向上の観点から好ましい。
次に、引き出し電極層8は、可変容量素子C1の上部電極層5と一方の半田端子部111、または上部電極層5同士を連結させて、可変容量素子C1を半田端子部111に接続するとともに、可変容量素子C2と可変容量素子C3と、また可変容量素子C4と可変容量素子C5との各々を直列接続するものである。さらには、可変容量素子C2と可変容量素子C3と、また可変容量素子C4と可変容量素子C5との各々にまたがる引き出し電極層8は、絶縁層7の貫通孔によってそれぞれ導体ライン33,34と結合している。
この引き出し電極層8の材料としては、Au,Cu(銅)等の低抵抗な金属を用いることが望ましい。また、絶縁層7との密着性を考慮して、Ti(チタン),Ni(ニッケル)等の密着層を使用してもよい。
次に、保護層9を形成する。保護層9は素子を外部から機械的に保護するほか、薬品等による汚染から保護する。この保護層9の形成時には、半田端子部111,112を露出するようにする。保護層9の材料としては、耐熱性が高く段差に対する被覆性が優れたものが良く、具体的には、ポリイミド樹脂やBCB(ベンゾシクロブテン)樹脂等を用いる。
半田拡散防止層10は、半田端子部111,112を形成する際のリフローや実装の際に、半田の電極への拡散を防止するために形成する。材料としては、Niが好適である。また、半田拡散防止層10の表面には、半田濡れ性を向上させるために、半田濡れ性の高いAu,Cu等を0.1μm程度形成する場合もある。
最後に、半田端子部111,112を形成する。これは、実装を容易にするために形成する。半田拡散防止層10の上に半田ペーストを印刷後、リフローを行なうことにより、形成するのが一般的である。
以上のように、作製される本発明の可変コンデンサは、直流バイアス電圧の印加により容量を大きく変化させることができるが、高周波信号による容量の変化,ノイズ,非線形歪みは小さく抑えることができる可変コンデンサとなる。
さらに、本発明の可変コンデンサによれば、可変コンデンサの容量値と使用する所定の周波数帯域(例えば800MHzや2GHz)とに応じてバイアスラインの抵抗成分の大きさを変化させることにより、バイアスラインのインピーダンスはその所定の周波数帯域の高周波信号において可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないので、これらの高周波領域においても高いQ値を有するものとすることができ、例えば無線通信装置における使用周波数帯域に対して好適な可変コンデンサとなる。
次に、以上のようにして得られた、所定の周波数帯域の高周波信号において可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないためのバイアスラインの抵抗成分の大きさと、可変コンデンサの直列の段数との相関をシミュレーションにより確認した。
図11に、図7に示した等価回路図に対して行なったものと同様のシミュレーションを、周波数は2GHzとし、絶縁抵抗成分,等価損失抵抗成分,直列抵抗成分の大きさは全て同じとして、可変容量素子の素子数を奇数で変化させた、3段,5段,7段,11段の可変コンデンサについて行なった結果を、容量値とバイアスラインの抵抗値との相関を示す線図で示す。なお、図11においても、横軸は容量値(単位:pF)を、縦軸は抵抗値(単位:Ω)を表し、黒菱形およびその特性曲線は3段の結果を、黒四角およびその特性曲線は5段の結果を、黒三角およびその特性曲線は7段の結果を、×およびその特性曲線は11段の結果をそれぞれ示している。
その結果、可変コンデンサの容量値をC[pF]としたとき、可変コンデンサのQ値に実質的に寄与しないバイアスラインの抵抗成分の大きさは、3段では4.50×105/C2[Ω]以上、7段では4.97×105/C2[Ω]以上、11段では5.04×105/C2[Ω]以上となり、各プロットおよび特性曲線がほぼ近似しており、ほとんど変化していない。
従って、所望するノイズレベル,非線形歪み,耐電力性に応じて、本発明の可変コンデンサの直列の段数(可変容量素子の素子数)を変化させても、バイアスラインの抵抗成分の大きさを変化させる必要はない。すなわち、バイアスラインの長さ等を変化させる必要がないので、素子の小型化に有利である。
以上のように、本発明の可変コンデンサによれば、所定の周波数帯域の高周波において高いQ値を有するとともに、直流バイアス電圧による容量変化率は大きく、かつ高周波信号による容量変化率は小さく、相互変調歪みが小さく、耐電力に優れ、小型集積化が可能な可変コンデンサを提供することができる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更を加えることは何ら差し支えない。
例えば、直流バイアス電圧印加用の端子と高周波信号の入力端子とを別にしたり、入出力端子が接続された可変容量素子と入出力端子との間に直流制限用容量素子を挿入しても構わない。
(実施例1)
次に、本発明の可変コンデンサをより具体化した実施例について説明する。実施例として、図1〜図5に示す可変コンデンサを例にとり説明する。
可変容量素子C1〜C5のそれぞれの容量値を5pFとし、可変コンデンサの容量値としては1pFとなるようにした。
支持基板1としてサファイアのR基板上に、下部電極層2としてPtを基板温度500℃でスパッタリング法にて成膜した。薄膜誘電体層4としては、(BaxSr1−x)TiyO3(0≦x≦1,0≦y≦1)からなるターゲットを用い、基板温度は800℃,成膜時間は15分で、同一バッチでスパッタリング法にて成膜した。なお、薄膜誘電体層4の成膜開始前に、Ptからなる下部電極層2の平坦化のためのアニールとして、800℃で15分間保持した。
次に、その上に上部電極層5としてPtを同一バッチでスパッタリング法にて成膜した。次に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィの手法によりこのフォトレジストを所定の形状に加工した後、ECR装置により上部電極層5を所定の形状にエッチングした。その後、同様に薄膜誘電体層4および下部電極層2を所定の形状にエッチングした。下部電極層2の形状は、導体ライン31〜34を含むものとした。
次に、薄膜抵抗61〜64として、窒化タンタルをスパッタリング法にて100℃で成膜した。スパッタリング後、フォトレジストをフォトリソグラフィにより所定の形状に加工した後、RIE装置を用いてエッチングを行ない薄膜抵抗61〜64を所定の形状に加工して、フォトレジストの層を除去した。薄膜抵抗61〜64のアスペクト比は全て20とした。
次に、絶縁層7として、SiO2膜をTEOSガスを原料とするCVD法により成膜した。次に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィの手法によりこのフォトレジストを所定の形状に加工した後、絶縁層7に対してRIE装置により所定の形状にエッチングを行なった。
次に、引き出し電極層8として、PtおよびAuをスパッタリング法にて成膜し、同様にして所定の形状に加工した。
最後に、保護層9,半田拡散防止層10,半田端子部111,112を順次形成した。保護層9にはポリイミド樹脂を、半田拡散防止層10にはNiをそれぞれ用いた。
窒化タンタルよりなる薄膜抵抗61〜64の膜厚は約0.16μmであり、シート抵抗値を別途測定した結果は、約90kΩ/sqであった。これにより、薄膜抵抗61〜64の比抵抗は約1.4Ωcmとなった。さらに、アスペクト比は20としたので、薄膜抵抗61〜64の抵抗値は約1.8MΩであると予測された。
上記のようにして得られた本発明の可変コンデンサをインピーダンスアナライザ(アジレント社製、型番E4991A)により測定した結果を図12に線図で示す。図12はこの本発明の可変コンデンサの実施例における容量値の周波数特性を示す線図であり、横軸は周波数(単位:Hz)を、縦軸は容量値(単位:pF)を表し、特性曲線は容量値の周波数特性を示している。図12に示す結果より、容量値はほぼ1pFとなっており、10MHz(1.0E+07)以上の測定周波数において、5個の可変容量素子C1〜C5が高周波的に直列に接続されていることが確認された。また、容量変化率は、直流バイアス電圧の3V印加時で約22%であった。
また、薄膜抵抗61〜64の抵抗値は約1.8MΩであると予測されたが、この抵抗値は、先のシミュレーションにおいて、周波数が2GHzのときに本実施例の可変コンデンサのQ値が、薄膜抵抗の抵抗値が無限大のとき、すなわち図6に示すバイアスラインを有していない可変コンデンサのQ値と概ね同一となるための下限抵抗値4.86×105/C2=4.86×105/12=486kΩよりも大きいので、本実施例の可変コンデンサのQ値は、バイアスラインを有していない可変コンデンサのQ値と概ね同一であると予想される。
そこで、このことを確認するために、図6に示したバイアスラインを有していない可変コンデンサを別途作製し、そのQ値を本実施例の可変コンデンサと比較した。なお、この比較例は、バイアスラインの工程を除いた以外はすべて同一の条件にて作製を行なった。
図13に両者のQ値の周波数特性を線図で示す。図13において、横軸は周波数(単位:Hz)を、縦軸はQ値を表し、各特性曲線はそれぞれ本実施例の可変コンデンサおよび比較例のバイアスラインのない可変コンデンサのQ値の周波数特性を示している。なお、この測定は容量値の測定と同様に、インピーダンスアナライザ(アジレント社製、型番E4991A)により行なった。
その結果、図13に示すように、600MHz以上の周波数領域において両者のQ値は概ね同一となり、2GHzでは、Q値が本実施例の可変コンデンサで92となり、比較例のバイアスラインのない可変コンデンサで91となったことから、先のシミュレーション結果の妥当性が確認されるとともに、本発明の可変コンデンサが高いQ値を有していることが確認された。
(実施例2)
図15に示す導体ライン32に電気的に接続しているモニター用パターンとしての薄膜抵抗部65’とこのモニター用パターンに電気的に接続している電極35を設けた点以外は、実施例1と同様の材料、同様の工程にて可変容量コンデンサを作製した。なお、電極35は、下部電極層2の形状を電極35を含むものとすることで、下部電極層2と同一材料,同一工程で形成し、薄膜抵抗部(モニター用パターン)65’は、薄膜抵抗61〜64と同一材料,同一工程で形成した。
ただし、薄膜抵抗61〜64のパターニングの際に、まず、実施例1の薄膜抵抗61〜64に比べてライン幅の大きい薄膜抵抗部61’〜64’を形成し、次に、薄膜抵抗部61’〜65’上のレジストを塗布し、フォトリソグラフィで薄膜抵抗部61’〜65’よりレジストをライン幅の若干狭い形状に加工して、RIE装置によりエッチングを行なった後、モニター用パターン65’のインピーダンスを測定するという工程を繰り返し、モニター用パターン65’のインピーダンスの値より薄膜抵抗部61’〜64’の抵抗が1.8MΩに達したと判断できた段階でエッチングを止めた。
このようにして複数個作製した可変コンデンサの特性は殆どばらつきがなく、本発明の可変コンデンサを安定して作製できていることが確認できた。
以上のように、本実施例により、本発明の可変コンデンサが、所定の周波数帯域の高周波において高いQ値を有するとともに、直流バイアス電圧による容量変化率は大きく、かつ高周波信号による容量変化率は小さく、相互変調歪みが小さく、耐電力に優れ、小型集積化が可能であることを確認できた。さらに、モニター用パターンを設けて、インピーダンスを調整しながら薄膜抵抗61〜64を形成することにより、本発明の可変コンデンサを再現性よく作製することができることを確認できた。