JP2005324306A - 潤滑性非晶質炭素系被膜がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】WC基超硬合金又は炭窒化チタン系サーメットからなる超硬基体の表面に、0.1〜3μmの平均層厚を有すると共に、組成式:(Ti1−X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60を示す)、を満足するTiとAlの複合窒化物層、からなる密着接合層を介して、炭化水素の分解ガスと窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、オージェ分光分析装置で測定して、W:5〜20原子%、Ti:2.5〜10原子%、Al:1.6〜15原子%、窒素:0.4〜22.5原子%、を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有すると共に、炭素系非晶質体の素地に、結晶質のTi−Al系複合炭窒化物の微粒が分散分布した組織を示し、かつ1〜13μmの平均層厚を有する潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成してなる。
【選択図】図1
Description
(a)炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)系サーメットからなる超硬基体の表面に、
(b)スパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)としてTiターゲットを用い、窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で形成された、窒化チタン(以下、TiNで示す)層からなり、かつ0.1〜3μmの平均層厚を有する密着接合層を介して、
(c)スパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、WCターゲットを用い、炭化水素の分解ガスとArの混合ガスからなる反応雰囲気で形成され、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有し、かつ1〜13μmの平均層厚を有する潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成してなる、被覆超硬工具が知られている。
(a)図2(a)および(b)にそれぞれ概略平面図および概略正面図で示される蒸着装置、すなわち上記の図3に示される従来潤滑性非晶質炭素系被膜形成用蒸着装置におけるスパッタリング装置のそれぞれに、電磁コイルを設けてマグネトロンスパッタリング装置とすると共に、一方のカソード電極(蒸発源)であるTiターゲットを所定の組成をもったTi−Al合金ターゲットとした蒸着装置を用い、前記電磁コイルにより磁場を形成して、超硬基体の装着部における磁束密度を100〜300G(ガウス)とし、前記装置内の加熱温度を300〜500℃とした状態で、装置内に反応ガスとして窒素とArを、例えば窒素流量:200sccm、Ar流量:300sccmの割合で導入して、例えば1Paの窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気とし、前記Ti−Al合金ターゲットのカソード電極(蒸発源)には、例えば出力:12kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加し、一方上記超硬基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件でグロー放電を発生させることにより、前記超硬基体の表面に、
組成式:(Ti1−X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層、
を形成すると、この結果の(Ti,Al)N層は、超硬基体表面に対して強固に密着接合し、さらに前記超硬基体に対する密着接合性は磁場中成膜によって一層向上したものになるばかりでなく、Alの含有によって高温硬さおよび耐熱性が向上し、Tiによる高温強度向上効果と相俟って、高熱発生を伴なう高速切削加工でも、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
W:5〜20原子%、
Ti:2.5〜10原子%、
Al:1.6〜15原子%、
窒素:0.4〜22.5原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有するようにすると、この結果形成された潤滑性非晶質炭素系被膜は、結晶質Ti−Al系(C,N)微粒の分散分布効果、および前記電磁コイルによる磁場成膜に際しての細粒化効果で、硬さが著しく向上するようになり、したがって、この潤滑性非晶質炭素系被膜を形成してなる被覆超硬工具は、W成分による強度向上効果と相俟って、高速切削加工でも切刃部にチッピング(微少欠け)の発生なく、一段とすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)WC基超硬合金またはTiCN系サーメットからなる超硬基体の表面に、
(b)マグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)としてTiターゲットを用い、窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、0.1〜3μmの平均層厚を有すると共に、
組成式:(Ti1−X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60を示す)、
を満足する(Ti,Al)N層からなる密着接合層を介して、
(c)同じくマグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、WCターゲットとTi−Al合金ターゲットを用い、炭化水素の分解ガスと窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
Ti:2.5〜10原子%、
Al:1.6〜15原子%、
窒素:0.4〜22.5原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有すると共に、透過型電子顕微鏡による観察で、炭素系非晶質体の素地に、結晶質Ti−Al系(C,N)微粒が分散分布した組織を示し、かつ1〜13μmの平均層厚を有する潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成してなる、特に高速切削加工で潤滑性非晶質炭素系被膜がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
(a)密着接合層の組成および平均層厚
(Ti,Al)N層からなる密着接合層は、上記の通り構成成分であるTiによってすぐれた高温強度、同Al成分によってすぐれた高温硬さおよび耐熱性を具備するようになるが、Alの含有割合を示すX値がTiとの合量に占める割合(原子比)で0.40未満では、高い発熱を伴なう高速切削での耐摩耗性向上効果は得られず、一方前記X値が0.60を越えると、高温強度が急激に低下し、チッピング発生の原因となることから、X値を0.40〜0.60と定めた。
また、上記の(Ti,Al)N層は、超硬基体および潤滑性非晶質炭素系被膜の両者と強固に密着接合し、前記超硬基体に対する密着接合性は磁場中成膜によって一層向上したものになるが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望のすぐれた密着接合性を確保することができず、一方その平均層厚が3μmを越えると、特に高速切削でチッピング発生の原因となることから、その平均層厚が0.1〜3μmと定めた。
W成分は、上記の潤滑性非晶質炭素系被膜の素地を形成して、被膜の強度を向上させる作用があるが、その含有量が5原子%未満では所望の高強度を確保することができず、一方その含有量が20原子%を越えると潤滑性が急激に低下するようになることから、その含有量を5〜20原子%と定めた。
TiおよびAl成分と窒素(N)成分、さらに炭素(C)成分は磁場成膜下で結合して、被膜中に結晶質Ti−Al系(C,N)微粒として存在し、前記結晶質Ti−Al系(C,N)微粒は、構成成分であるTiおよびN成分によってすぐれた高温強度、さらにAlおよびC成分によってすぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになるので、これが素地に分散分布した被膜は耐摩耗性が著しく向上したものになるが、その含有量がTi成分については2.5原子%未満、Al成分については1.6原子%未満、N成分については0.4原子%未満になると、被膜中にTi−Al系(C,N)微粒として存在する割合が少なくなり過ぎて、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その含有量がTi成分については10原子%、Al成分については15原子%、N成分については22.5原子%を越えると高温強度が低下したり、あるいは高温硬さや耐熱性がが急激に低下するようになることから、その含有量をそれぞれTi:2.5〜10原子%、Al:1.6〜15原子%、窒素:0.4〜22.5原子%と定めた。
その平均層厚が1μm未満では、所望の潤滑性および耐摩耗性効果を確保することができず、一方その平均層厚が13μmを越えると、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜13μmと定めた。
(a)まず、装置内を真空排気して0.01Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を200℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して0.5Paの圧力のAr雰囲気とし、この状態で前記回転テーブル上で自転しながら回転する前記超硬基体に−810Vのバイアス電圧を印加して前記超硬基体表面を20分間Arガスボンバード洗浄し、
(b)ついで、前記蒸着装置の対向配置の両マグネトロンスパッタリング装置の電磁コイルに、いずれも電圧:50V、電流:10Aの条件で印加して、前記超硬基体の装着部における磁束密度を140G(ガウス)とした磁場を形成すると共に、前記蒸着装置内の加熱温度を400℃とした状態で、反応ガスとして窒素とArを、窒素流量:300sccm、Ar流量:200sccmの割合で導入して、1Paの窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気とし、Ti−Al合金ターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:12kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加し、一方上記超硬基体には、−70Vのバイアス電圧を印加した条件でグロー放電を発生させることにより、前記超硬基体の表面に表3,4に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層からなる密着接合層を形成し、
(c)さらに、前記電磁コイルに印加する条件を、電圧:50〜100V、電流:10〜20Aの範囲内の所定の値として、上記超硬基体の装着部における磁束密度を100〜300G(ガウス)の範囲内の所定の値とし、前記蒸着装置内の加熱温度は400℃、上記超硬基体のバイアス電圧は−70Vとしたままで、前記蒸着装置内に反応ガスとして、C2H2(炭化水素)と窒素とArを、C2H2流量:25〜100sccm、窒素流量:200〜300sccm、Ar流量:150〜250sccmの範囲内の所定の流量で導入して、反応雰囲気を、1PaのC2H2の分解ガスと窒素とArの混合ガスとすると共に、前記両マグネトロンスパッタリング装置のWCターゲットのカソード電極(蒸発源)には、例えば出力:1〜3kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力、同Ti−Al合金ターゲットには、出力:3〜8kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力を同時に印加した条件で、同じく表3,4に示される目標組成および目標層厚の潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1,1′〜16,16′をそれぞれ製造した。
(a)まず、装置内を真空排気して0.01Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を200℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して0.5Paの圧力のAr雰囲気とし、この状態で前記回転テーブル上で自転しながら回転する前記超硬基体に−800Vのバイアス電圧を印加して前記超硬基体表面を20分間Arガスボンバード洗浄し、
(b)ついで、前記蒸着装置内の加熱温度を300℃とした状態で、装置内に反応ガスとして窒素とArを、窒素流量:200sccm、Ar流量:300sccmの割合で導入して、1Paの窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気とし、Tiターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:12kW(周波数:40kHz)のスパッタ電力を印加し、一方上記超硬基体には、−100Vのバイアス電圧を印加した条件でグロー放電を発生させることにより、前記超硬基体の表面に表5,6に示される目標層厚のTiN層からなる密着接合層を形成し、
(c)ついで、上記蒸着装置内の加熱温度を200℃とした状態で、C2H2とArを、C2H2流量:40〜80sccm、Ar流量:250sccmの範囲内の所定の流量で導入して、1PaのC2H2の分解ガスとArの混合ガスからなる反応雰囲気とすると共に、上記超硬基体に印加するバイアス電圧を−20Vとし、WCターゲットのカソード電極(蒸発源)には出力:4〜6kW(周波数:40kHz)の範囲内の所定のスパッタ電力を印加した条件で、上記密着接合層の上に、同じく表5に示される目標組成および目標層厚の潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成することにより、従来被覆超硬工具に相当する比較表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、比較被覆超硬チップと云う)1,1′〜16,16′をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・S10Cの丸棒、
切削速度:360m/min.、
切り込み:1.2mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は120m/min.)、
被削材:JIS・A5052の丸棒、
切削速度:1050m/min.、
切り込み:1.2mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件Bという)でのAl合金の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は400m/min.)、さらに、
被削材:JIS・C3710の丸棒、
切削速度:450m/min.、
切り込み:1.4mm、
送り:0.27mm/rev.、
切削時間:20分、
の条件(切削条件Cという)でのCu合金の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)を行なった。いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・A5052の板材、
切削速度:320m/min.、
軸方向切り込み:4.5mm、
径方向切り込み:0.7mm、
テーブル送り:2350mm/分、
の条件でのAl合金の乾式高速側面切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C3710の板材、
切削速度:320m/min.、
軸方向切り込み:6.5mm、
径方向切り込み:1.2mm、
テーブル送り:2185mm/分、
の条件でのCu合金の乾式高速側面切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル7,8および比較被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度:365m/min.、
軸方向切り込み:8.0mm、
径方向切り込み:2.0mm、
テーブル送り:2140mm/分、
の条件での炭素鋼の湿式高速側面切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)をそれぞれ行い、いずれの側面切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削長を測定した。この測定結果を表8,9にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・A5052の板材、
切削速度:290m/min.、
送り:0.4mm/rev、
穴深さ:6mm、
の条件でのAl合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は120m/min.)、本発明被覆超硬ドリル4〜6および比較被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度:265m/min.、
送り:0.5mm/rev、
穴深さ:12mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は110m/min.)、本発明被覆超硬ドリル7,8および比較被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C3710の板材、
切削速度:265m/min.、
送り:0.6mm/rev、
穴深さ:20mm、
の条件でのCu合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は110m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10,11にそれぞれ示した。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に各種の被削材の切削加工を、高速切削条件で行なった場合にも、すぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- (a)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン系サーメットからなる超硬基体の表面に、
(b)マグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)としてTi−Al合金ターゲットを用い、窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、0.1〜3μmの平均層厚を有すると共に、
組成式:(Ti1−X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物層、からなる密着接合層を介して、
(c)マグネトロンスパッタリング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、炭化タングステンターゲットとTi−Al合金ターゲットを用い、炭化水素の分解ガスと窒素とArの混合ガスからなる反応雰囲気で磁場中成膜され、オージェ分光分析装置で測定して、
W:5〜20原子%、
Ti:2.5〜10原子%、
Al:1.6〜15原子%、
窒素:0.4〜22.5原子%、
を含有し、残りが炭素と不可避不純物からなる組成を有すると共に、透過型電子顕微鏡による観察で、炭素系非晶質体の素地に、結晶質のTi−Al系複合炭窒化物の微粒が分散分布した組織を示し、かつ1〜13μmの平均層厚を有する潤滑性非晶質炭素系被膜を蒸着形成してなる、潤滑性非晶質炭素系被膜がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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