しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載のものを始めとする従来のP−PTCサーミスタの製造方法について詳細に検討を行ったところ、このような従来の製造方法では、繰り返し動作による抵抗値の変化、特に室温抵抗値の変化を十分に小さくできないことを見出した。
通常、PTC−サーミスタの繰り返し動作による抵抗値の変化を評価する方法として、熱衝撃試験が用いられる。熱衝撃性試験とは、一般電子部品の信頼性試験の一つであり、急激な温度変化(熱衝撃)を繰り返し与えた後の電子部品の各種特性を評価する試験をいう。従来、P−PTCサーミスタに対する熱衝撃試験においては、−40℃で30分保持した後に85℃まで温度を上昇させ、そこで30分保持し、再び−40℃まで冷却する、という熱サイクルを繰り返した後のP−PTCサーミスタの抵抗値を測定していた。その結果、室温抵抗値が30mΩ以下であると、繰り返し動作による室温抵抗値の変化が十分に小さいものである、すなわち信頼性が十分高いものであると判断していた。
しかしながら、P−PTCサーミスタに対する高信頼性の要求は年々高まっており、上述のような従来の判断基準を満足するだけでは、信頼性に十分優れたP−PTCサーミスタとは言えなくなってきている。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、最終的に得られるP−PTCサーミスタの信頼性を十分に高くできるP−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物及びP−PTCサーミスタ素体を提供することを目的とする。また、本発明は、十分に優れた信頼性を示すP−PTCサーミスタを提供することを目的とする。
上記目的を達成する本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法は、大気圧の空気中の酸素分圧よりも酸素分圧を低下させた雰囲気中で、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋させる架橋工程を有することを特徴とする。
本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法は、酸素分圧が209hPa未満である雰囲気中で、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋させる架橋工程を有することを特徴とする。
この製造方法によると、架橋工程の際に、P−PTCサーミスタ組成物製造装置等の系内において、混練物周囲の雰囲気中の酸素分圧を大気中におけるものよりも低下させることによって、最終的に得られるP−PTCサーミスタの熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。その要因の一つとして、上述した雰囲気中の酸素分圧を低下させることによって、混練物への酸素の接触を抑制し、P−PTCサーミスタ(サーミスタ素体)中へ混入する酸素量を低減できることが考えられるが、要因はこれに限定されない。P−PTCサーミスタの熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことによって、高信頼性を有するP−PTCサーミスタを組み込んだ電子部品を提供することができ、高度な技術が求められる電化製品において有用である。
また、架橋工程時の雰囲気が不活性ガスを含有する雰囲気であることが好ましい。この場合、不活性ガスを導入させることにより、雰囲気中における酸素濃度を空気中におけるものよりも低下させることができるので、その酸素分圧は低下されることとなる。したがって、不活性ガスを導入させることにより最終的に得られるP−PTCサーミスタは熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
このようにして不活性ガスを雰囲気中に導入する際に連続的に不活性ガスを流通するようにすると、酸素分圧を低下させることができるだけでなく、例えば架橋工程時に亜硫酸ガスのような酸化性ガスが発生しても、それを速やかに系外に排出することが可能となる。したがって、所望どおりの安定した品質のP−PTCサーミスタ組成物の製造を行うことができる。
また、架橋工程時の雰囲気が減圧雰囲気であることが好ましい。これによると、その雰囲気に空気を用いた場合に、空気中における酸素濃度を調整しなくても気圧自体が低くなるため、比較的容易に酸素分圧を低下することができる。したがって、架橋工程時に単に系内を減圧するのみで、酸素分圧を低下させることができ、最終的に得られるP−PTCサーミスタは熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
更にまた、架橋工程を真空雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、雰囲気中の酸素を一段と遮断することができるので、最終的に得られるP−PTCサーミスタはより信頼性の高いものとなる。
なお、このように減圧雰囲気下や真空雰囲気下で高分子マトリックスの架橋反応を行うと、得られるP−PTCサーミスタを加熱していく場合の抵抗値の上昇を遅くすることができ、換言すればP−PTCサーミスタの動作時間を長くすることができる。動作時間を長くすることができれば、高温で動作することが望まれる用途にも用いることができ、汎用性を広げることができる。
また、混練物が密閉性の袋体に収容されたものであり、この袋体内部の雰囲気が上述のような雰囲気であることがより好ましい。酸素分圧を大気圧の空気中のものよりも低下させた状態で混練物を袋体内に封入することにより、混練物が収容された袋体内部が酸素分圧を低下させた状態となり、架橋工程時に袋体外部から酸素が更に侵入することを防止することができる。したがって、最終的に得られるP−PTCサーミスタは熱衝撃試験後の室温抵抗値を更に低く保つことができる。
更に、このように混練物を収容した袋体の内部の酸素分圧を低下させた状態でその袋体を密封すると、大気中においても架橋工程を施すことが可能となり、架橋処理を行う場所や雰囲気を選ばないため作業性に優れる。
なお、袋体外部の雰囲気を不活性ガス雰囲気又は減圧雰囲気にした状態で、封入された混練物に対して架橋処理を施すと、酸素が袋体の内部に一層侵入し難くなる。したがって、混練物を架橋する際の雰囲気を酸素分圧を低下させた一定の条件下に保つことができるため、サーミスタ組成物を製造する際には信頼性のばらつきが生じ難くなる。このことから、最終的に得られるP−PTCサーミスタは熱衝撃試験後の室温抵抗値を一層低く保つことができる。
本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法に用いる高分子マトリックスはポリオレフィン系結晶性ポリマーであると、本発明の効果を一層発揮できるため好ましい。ポリオレフィン系ポリマーは導電性粒子に対して線膨張係数の差が低いため、サーミスタの動作後であってもサーミスタ素体中に内部応力が発生し難く、それによって引き起こされる抵抗値の上昇も抑制される傾向にあると考えられる。このような観点から、ポリオレフィン系結晶性ポリマーが直鎖状低密度ポリエチレンであるとより好ましい。
また、本発明のP−PTCサーミスタ組成物の製造方法に用いる導電性粒子がニッケルを主成分とする粒子であることが好ましい。このような粒子が高分子マトリックス中に均一に分散して存在すると、P−PTCサーミスタの熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができ、更には長期間保存した場合の保存安定性に優れる。このような観点から、導電性粒子として、フィラメント状の粒子を用いるとより好ましい。
また、上述した混練物には、重量平均分子量が100〜2000である低分子有機化合物を更に含有することが好ましい。これにより、P−PTCサーミスタの抵抗−温度特性曲線にあらわれるヒステリシスを低減することができ、抵抗変化率の増大の効果もあり、さらに動作温度の調整も可能となる。したがって、比抵抗値をより低くできる傾向にある。なお、「比抵抗値」とは、温度領域を特に規定していない場合は、25℃で測定される抵抗値のことをいう。
本発明のP−PTCサーミスタ組成物は、大気圧の空気中の酸素分圧よりも酸素分圧を低下させた雰囲気中で、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋して得られることを特徴とする。このP−PTCサーミスタ組成物を用いてP−PTCサーミスタを製造すると、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
本発明のP−PTCサーミスタ素体は、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物をシート状に成形して得られる成形体を、大気圧の空気中の酸素分圧よりも酸素分圧を低下させた雰囲気中で架橋する架橋工程により得られることを特徴とする。このようなサーミスタ素体を用いてP−PTCサーミスタを製造すると、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
本発明のP−PTCサーミスタは、互いに対向した状態で配置された1対の電極と、1対の電極の間に配置されたP−PTCサーミスタ素体とを備え、正の抵抗−温度特性を有し、P−PTCサーミスタ素体が、大気圧の空気中の酸素分圧よりも酸素分圧を低下させた雰囲気中で、高分子マトリックスと導電性粒子とを含有する混練物を架橋して得られるものであることを特徴とする。
このようなP−PTCサーミスタは、上述したP−PTCサーミスタ組成物やP−PTCサーミスタ素子を用いて製造することができる。したがって、このP−PTCサーミスタは、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。
また、本発明のP−PTCサーミスタは、互いに対向した状態で配置された1対の電極と、1対の電極の間に配置されたP−PTCサーミスタ素体とを備え、正の抵抗−温度特性を有し、P−PTCサーミスタ素体が高分子マトリックスと導電性粒子とを含有し、比抵抗値が2×10−1Ω・cm以下、より好ましくは、比抵抗値が1×10−1Ω・cm以下であり、100℃以上の温度領域で比抵抗値が4×102Ω・cm以上変化することを特徴とする。
このP−PTCサーミスタは、高分子マトリックスと導電性粒子を備え、比抵抗値を2×10−1Ω・cm以下、より好ましくは、比抵抗値を1×10−1Ω・cm以下とすることにより、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができる。すなわち、高信頼性で比抵抗値も低いP−PTCサーミスタとすることができる。
本発明によれば、最終的に得られるP−PTCサーミスタの信頼性を十分に高くできるP−PTCサーミスタ組成物の製造方法、P−PTCサーミスタ組成物及びP−PTCサーミスタ素体を提供することができる。また、本発明によると、十分に優れた信頼性を示すP−PTCサーミスタを提供することが可能となる。
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
図1は、本発明の好適な実施形態のP−PTCサーミスタの基本構成を示す模式断面図である。
図1に示すP−PTCサーミスタ(以下、単に「サーミスタ」ともいう。)10は、主として、互いに対向した状態で配置された1対の電極2及び電極3と、電極2と電極3との間に配置されており且つ正の抵抗−温度特性を有するP−PTCサーミスタ素体(以下、単に「サーミスタ素体」ともいう。)1とから構成されている。
電極2及び電極3は、例えば、平板状の形状を有しており、サーミスタの電極として機能する電子伝導性を有するものであれば特に限定されない。また、必要に応じて電極2と電極3には図示しないリードが接続されており、それぞれ電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することが可能となっている。
図2は、本発明の好適な実施形態のP−PTCサーミスタを製造する手順の一例を示す概略フロー図である。以下、この図2に示した順にしたがって各工程を説明する。
(組成物材料準備工程)
この組成物材料準備工程S1は、サーミスタ素体1を形成するP−PTCサーミスタ組成物(以下、単に「サーミスタ組成物」ともいう。)の構成材料を準備する工程である。本実施形態の工程S1において準備される構成材料は、高分子マトリックス、低分子有機化合物、及び導電性粒子である。
高分子マトリックスとしては、熱可塑性樹脂が好ましく、その中でもポリオレフィン系結晶性ポリマーを用いると更に好ましい。このポリオレフィン系結晶性ポリマーを用いると、サーミスタ10の非動作時の比抵抗値と動作時の比抵抗値との間の変化率が大きくなり、繰り返し動作させた場合であっても使用初期に得られる抵抗値を十分に維持できる傾向にある。よって、サーミスタ10の比抵抗値を一層低くできる傾向にある。このような観点から、このポリオレフィン系結晶性ポリマーが直線状低密度ポリエチレンであると好ましく、メタロセン系触媒により重合された直鎖状ポリエチレンであると更に好ましい。ここで、「メタロセン系触媒」とは、ビス(シクロペンタジニエル)金属錯体系の触媒であり、この触媒を用いた重合反応により得られる直鎖状ポリエチレンは分子量分布が狭くなる傾向にあるため、比較的低温の動作温度のサーミスタを一層容易に得ることができる。
上述した効果が発揮される要因として、ポリオレフィン系結晶性ポリマーは導電性粒子に対して線膨張係数の差が低いため、サーミスタ10の動作後であってもサーミスタ素体1中に内部応力が発生し難く、それによって引き起こされる抵抗値の上昇も抑制される傾向にあることが考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
高分子マトリックスの融点は、動作時の低分子有機化合物の融解による流動、素体の変形などを防止するため、低分子有機化合物の融点よりも高いことが望ましく、7℃以上高いことが好ましく、7〜40.5℃高いことが望ましい。また、高分子マトリックスの融点は、70〜200℃であることが好ましい。
高分子マトリックスの具体例としては、(1)ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)、(2)少なくとも1種のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と、少なくとも1種の極性基を含有するオレフィン性不飽和モノマ−に基づく繰り返し単位で構成されたコポリマ−(例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマ−)、(3)ハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマ−(例えば、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド)、(4)ポリアミド(例えば12−ナイロン)、(5)ポリスチレン、(6)ポリアクリロニトリル、(7)熱可塑性エラストマ−、(8)ポリエチレンオキサイド、ポリアセタ−ル、(9)熱可塑性変性セルロ−ス、(10)ポリスルホン類、(11)ポリメチル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
より具体的には、(1)高密度ポリエチレン[例えば、商品名:ハイゼックス2100JP(三井化学社製)、Marlex6003(フィリップ社製)等]、(2)低密度ポリエチレン[例えば、商品名:LC500(日本ポリケム社製)、DYMH−1(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(3)中密度ポリエチレン[例えば、商品名:2604M(ガルフ社製)等]、(4)メタロセン系触媒直鎖状ポリエチレン[例えば、商品名:SP2520(三井化学社製)](5)エチレン−エチルアクリレ−トコポリマ−[例えば、商品名:DPD6169(ユニオン−カ−バイド社製)等]、(6)エチレン−アクリル酸コポリマ−[例えば、商品名:EAA455(ダウケミカル社製)等]、(7)ヘキサフルオエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマ−[例えば、商品名:FEP100(デュポン社製)等]、(8)ポリビニリデンフルオライド[例えば、商品名:Kynar461(ペンバルト社製)等]等が挙げられる。
このような高分子マトリックスの分子量は重量平均分子量Mwが10000〜5000000であることが好ましい。これらの高分子マトリックスは1種のみを用いても2種以上を併用してもよく、異なる種類の高分子マトリックス同士が架橋された構造を有するものを用いてもよい。
サーミスタ素体1に含有される導電性粒子は、電子伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、各形状の金属粒子若しくはセラミック系導電性粒子を用いることができる。これらは1種類を単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いられる。
これらのなかで、特に過電流保護素子のような比抵抗値と十分な抵抗変化率の双方が求められる用途の場合、導電性金属粒子を用いることが好ましい。この導電性金属粒子を用いると最終的に得られるサーミスタの比抵抗値をより低くすることができる。そのような観点から、導電性金属粒子としては、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、銀、亜鉛若しくはコバルト等が用いられるが、特に、銀若しくはニッケルを用いると好ましい。さらにその形状としては、球状、フレーク状若しくは棒状等が挙げられるが、表面にスパイク状の突起を有するものが好ましい。このような導電性金属粒子は、その一つ一つの粒子(一次粒子)が個別に存在する粉体であってもよいが、それらの一次粒子が鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成していることがより好ましい。その材質はニッケルを主成分とすると好ましく、比表面積が0.4〜2.5m2/gであって、見かけ密度が0.2〜1.0g/cm3程度であるとより好ましい。ここで、「比表面積」とは、BET一点法に基づく窒素ガス吸着法により求められる比表面積を示す。
このような導電性粒子は下記式(I)で表される化合物の分解反応により得られる粒子であることが好ましい。なお、式(I)中、Mは、Ni、Fe及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の元素であると好ましく、Niであるとより好ましい。
M(CO)4 …(I)
すなわち、M(CO)4 → M + 4COの反応の進行により生成する粒子であることが好ましい。M(CO)4の分解反応により生成した金属粉は、反応条件により、粒子サイズや粒子形状を、上述した好ましい範囲に制御することができる。
一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。これらのうち、一次粒子の平均粒径は1.0〜4.0μmが最も好ましい。この平均粒径はフィッシュー・サブシーブ法で測定したものである。
低分子有機化合物は、サーミスタ10の抵抗−温度特性曲線にあらわれるヒステリシスを低減するためにサーミスタ素体1に含有されるものであり、これにより、抵抗変化率の増大の効果もあり、さらに動作温度の調整も可能となる。したがって、比抵抗値をより低くできる傾向にある。この低分子有機化合物は、重量平均分子量Mwが100〜2000の低分子有機化合物であると好ましく、また、結晶性ポリマーであると好ましい。さらに、低分子有機化合物は、20〜70℃において固体の状態をとるものであると好ましい。
低分子有機化合物の具体例としては、例えば、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコ−ル等から選択されるものである。これらの低分子有機化合物は、市販されており、市販品をそのまま用いることもできる。低分子有機化合物は、これらのうち、1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
より具体的には、ワックスとしては、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスをはじめとする植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックス等がある。油脂としては、脂肪または固体脂と称されるものなどが挙げられる。
ワックスや油脂の成分は、炭化水素(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素等)、脂肪酸(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸等)、脂肪酸エステル(具体的には、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル等)、脂肪酸アミド(具体的には、炭素数10以下の飽和脂肪酸第1アミドやオレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド等)、脂肪族アミン(具体的には、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)などが挙げられる。
更に具体的には、低分子有機化合物として、例えば、パラフィンワックス(例えば、テトラコサンC24H50;融点(mp)49〜52℃、ヘキサトリアコンタンC36H74;mp73℃、商品名HNP−10(日本精蝋社製);mp75℃、HNP−3(日本精蝋社製);mp66℃など)、マイクロクリスタリンワックス(例えば、商品名Hi−Mic−1080(日本精蝋社製);mp83℃、Hi−Mic−1045(日本精蝋社製);mp70℃、Hi−Mic2045(日本精蝋社製);mp64℃、Hi−Mic3090(日本精蝋社製);mp89℃、セラッタ104(日本石油精製社製);mp96℃、155マイクロワックス(日本石油精製社製);mp70℃など)、脂肪酸(例えば、ベヘン酸(日本精化社製);mp81℃、ステアリン酸(日本精化社製);mp72℃、パルミチン酸(日本精化社製);mp64℃など)、脂肪酸エステル(例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成社製);mp48℃など)、脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド(日本精化社製);mp76℃)がある。この低分子有機化合物は、動作温度等によって1種あるいは2種以上を選択して用いることができる。
サーミスタ組成物中の導電性粒子の含有量は、得られるサーミスタ10の非動作時の比抵抗値と、温度上昇に伴う比抵抗値の変化及び均一な混練物を得る観点から調整される。特に、導電性粒子としてニッケルを主成分とする粒子を用いる場合、サーミスタ10の比抵抗値を2×10−1Ω・cm以下にするようにその粒子の含有割合を調整しても、サーミスタ組成物の体積に対して40体積%以下とすることが可能となる。したがって、サーミスタ素体1にクラックが入り難くなる傾向にあり、そのサーミスタ素体1の電極2、3への密着性が低下することがない傾向にある。
また、低分子有機化合物の含有量は、高分子マトリックスの含有量に対して、体積基準で5〜50%とすることが好ましい。低分子有機化合物の含有量が体積基準で5%未満になると、抵抗変化率が十分に得られ難くなる傾向にある。低分子有機化合物の含有量が体積基準で50%を越えると、低分子有機化合物が溶融する際にサーミスタ素体1が大きく変形する他、導電性粒子との混練が困難になる傾向にある。
なお、サーミスタ組成物の構成材料として、上述のもの以外に、さらに従来のサーミスタ素体に添加される各種添加剤を含有してもよい。
(混練物調製工程)
混練物調製工程S2は、上記組成物材料準備工程S1で準備した高分子マトリックス、低分子有機化合物及び導電性粒子を含有している混練物を調製する工程である。
この混練の作業は、公知の混練技術を使用すればよく、ニ−ダ、押出機、ミル等の撹拌手段で、例えば、10〜120分程度行えばよい。具体的には、例えば、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)などを用いることができる。
なお、必要に応じて混練物を更に粉砕処理し、粉砕物を再び混練しても良い。混練においては、高分子マトリックスの熱劣化を防止する目的で酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノ−ル類、有機イオウ類、フォスファイト類等が用いられる。
ここで、混練物調製工程S2において、溶融・混練温度、混練時間、或いは、同じ試料の溶融・混練回数を複数回行う等の溶融・混練条件の検討を行うことにより、PTCサーミスタ素体1中の金属粉の分散度(分散状態)を調節することができる。
(打ち抜き工程)
打ち抜き工程S3は、混練物調整工程S2によって得られた混練物をシート状のサーミスタ素体1とするために適当な大きさに打ち抜く工程である。
はじめに適当な厚さ(例えば0.8mm)になるように混練物調整工程S2で得られた混練物を130〜240℃の温度で圧着しシート状とする。そして、得られたシート状の混練物を適当な面積(例えば3.5mm×9mm)に打ち抜くことによって、シート状のサーミスタ素体1とすることができる。
この圧着する方法としては、公知の熱圧着機もしくは加圧ローラ用いることができ、また、この打ち抜き方法としては、通常のP−PTCサーミスタ素体を打ち抜く方法であれば特に限定されることなく用いることができる。
(成形工程)
成形工程S4は、打ち抜き工程S3によって得られたサーミスタ素体1を、両側から電極材料で挟み圧着することにより成形して、電極2、3に挟まれたシート状のサーミスタ素体を得る工程である。したがって、本実施形態において、成形工程は電極圧着工程を兼ねることとなる。
具体的には、打ち抜き工程S3によって得られたサーミスタ素体1は、電極材料で挟み込まれ、温度130〜240℃で圧着することにより、電極材料がサーミスタ素体1に固定される。
ここで電極材料としては、通常のP−PTCサーミスタの電極材料に用いられるものであれば、特に限定されることなく採用でき、例えばNiなどの金属板や金属箔を挙げることができる。その厚みは25〜200μm程度である。また、電極材料は表面が粗面化処理された電極材料であることが好ましい。この場合、金属表面の凹凸とサーミスタ素体1の表面とのアンカー効果によって、より強固に固定することができる。なお、圧着は例えば熱圧着機もしくは加圧ローラを用いて行うことができる。
(架橋工程)
架橋工程S5は、成形工程S4によって得られた電極2、3に挟まれたサーミスタ素体に、エネルギーを付与することにより、サーミスタ素体に含まれる高分子マトリックスを架橋して、場合によっては硬化させる工程である。
図3は、本発明の実施形態に係る真空封入装置を示す模式断面図である。真空封入装置20は、開口端を有する筐体部29及び蓋部27を備えており、蓋部27の縁端と筐体部29の開口端を互いに密着することにより、真空封入装置20の内部をその外気から十分に遮断可能となる。真空封入装置20内部には、後述する袋体10を載置するための基台部28が備えられている。また蓋部27の装置内部側及び基台部29の装置内部側にはそれぞれ、袋体21の一端である加熱シール部21aをシールするための圧着部24a及び24bが設けられている。圧着部24aは上下に移動可能であり、圧着部24a及び24bは蓋部27と筐体部29とを密着した際に、互いの一面を密着できるように配置されており、それぞれヒータを備えている。蓋部27にはガス導入口22及び酸素濃度計23が設置されており、筐体部29には開閉可能な排気口25が備えられている。図3は、袋体21に収容されたサーミスタ10が、この真空封入装置20の内部に配置された状態を示している。
架橋工程において、まず、サーミスタ10は開口した袋体21内に収容された状態で、真空封入装置20の内部に図示のように配置される。そして、ガス導入口22から窒素ガスが導入されると同時に排気口25から真空封入装置20内の空気を図示しない排気ポンプ(真空ポンプ)で排気することによって、真空封入装置20内の空気が置換され、その結果酸素分圧が低下することとなる。十分に装置20内部の酸素分圧を低下させた後、窒素ガスの導入だけを止め、装置20内部のガス排気を続けることにより、装置20内部を減圧し、その気圧を大気圧よりも十分に低くする。その後、圧着部24a及び24bを用いて、加熱シール部21aを加熱圧着することにより、袋体21は密閉される。そして、サーミスタ10を密閉された袋体21ごと図示しない電子線を照射することにより、高分子マトリックスの架橋反応が進行し、サーミスタ素体1が架橋する。なお、このとき酸素濃度計23で装置20内部の酸素濃度を測定することができ、また図示しない排気ポンプで真空封入装置20内の気圧を測定することができる。これらの値を換算することによって装置20内部の酸素分圧を求めることができる。
このように本実施形態においては、サーミスタ10は袋体21に収容される前に真空封入装置20内の雰囲気を窒素気流下とし、且つ減圧することによって、その周囲の酸素分圧が低下された状態で密封した袋体21に収容される。したがって、酸素分圧を低下した状態でサーミスタ素体1の架橋処理が行われるため、熱衝撃試験後の室温抵抗値を十分に低く保つことができ、更に熱衝撃試験の熱サイクルを1000回繰り返したとしても、室温抵抗値を30mΩ以下に保つことができる。なお、このときの酸素分圧が209hPa未満であることが好ましい。更に好ましくは50.7hPa未満であり、真空雰囲気下であることが最も好ましい。酸素分圧が209hPaを超えると、サーミスタ10の信頼性が十分なものとはならない傾向にある。なお、このように減圧雰囲気下、更には真空雰囲気下で架橋処理を行うと、サーミスタ10を加熱していく場合の抵抗値の上昇を遅くすることができ、換言すればP−PTCサーミスタの動作時間を長くすることができる。動作時間を長くすることができれば、高温で動作することが望まれる用途にも用いることができ、汎用性を広げることができる。
サーミスタ10周囲雰囲気の酸素分圧を低下することによって室温抵抗値を低く保つことができる理由は、定かではないが、高酸素濃度雰囲気では電子線を照射したときに多くの酸素ラジカルが発生し、高分子マトリックスを酸化してしまう傾向にあるが、低酸素濃度雰囲気では、発生する酸素ラジカル量が少なく、高分子マトリックスの酸化が抑制されるためと考えられる。したがって、熱衝撃試験後に室温抵抗値が低下するのは、高分子マトリックスが酸化されることによって架橋反応が不十分となり、初期の導電性粒子の分散状態が熱衝撃試験によって変動することに起因するものと考えられる。
本実施形態では、排気ポンプ(真空ポンプ)を用いることにより袋体を減圧下で密封し、架橋処理を行うことにより、より酸素分圧を低下しているが、減圧する装置は排気ポンプに限らず、アスピレーター等の簡便な装置であってもよい。
また、本実施形態で用いる袋体21は、ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンの三層構造となった袋体(商品名ラミジップ(アズワン社製))であるが、その構成材料は、袋体21内部において外気の侵入を十分に抑制できるものであれば特に限定されず、ナイロン/PEの二層構造となった袋体であってもよい。また、このような袋体を用いる場合、その袋体の材料としてアルミ蒸着した樹脂を用いるとより低い圧力に保つことができるのでより好ましい。更にこの袋体は酸素透過度が1.0cm3/m2・24hrs以下であると好ましい。酸素透過度が1.0cm3/m2・24hrsを超えると密封した効果が得られ難くなる傾向にある。
また、本実施形態では、電子線照射を行っているが、ラジカル重合開始剤を活性化させるエネルギーをサーミスタ素体1に付与する方法であれば特に限定されない。例えば、エネルギーとしては、電子線の他、ガンマ線、紫外線、熱等の手段が挙げられる。この中でも本実施形態のように電子線を用いて架橋を行う放射線架橋を行うと、電子加速器を用いて、必要に応じて、適当な加速電圧及び電子線照射量を設定することができるため好ましい。例えば、サーミスタ素体の全体に亘って均一に架橋させたい場合は、250kV以上、好ましくは1000kV以上の加速電圧を有する電子線を、40〜300KGy、好ましくは40〜200KGyの照射量で照射し、架橋させることもできる。
なお、これらのエネルギー照射は一度に多量のエネルギーを付与してもよく、少量のエネルギーを何回かに分けて付与してもよい。更に、エネルギーを付与するタイミングは架橋処理を妨げない範囲であれば特に限定されないが、成形工程後に照射することが好ましい。こうして得られたサーミスタ10のサーミスタ素体は、比抵抗値を2×10−1Ω・cm以下、より好ましくは、比抵抗値を1×10−1Ω・cm以下とすることが可能となり、100℃以上の温度領域で4×102Ω・cm以上の比抵抗値の変化が可能となる。
架橋工程によって得られたサーミスタは、リード接合工程を経て用いられる。リード接合工程は、架橋工程により得られたサーミスタ素体1を挟んだ電極2、3の表面にそれぞれ図示しないリードを接合することによりサーミスタ10の電極2及び電極3から外部に電荷を放出又は注入することを可能とする工程である。このリード接合方法としては、通常のサーミスタの製造方法において用いられるものであれば特に限定されることなく用いることができる。
以上、本発明のサーミスタの製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、サーミスタ素体1の架橋方法は、有機過酸化物をサーミスタ素体中に混入させ熱処理でラジカルを発生させ架橋処理を行う化学架橋、縮合可能なシランカップリング剤等を高分子マトリックス中に結合させ水の存在下で脱水縮合反応により架橋を行う水架橋等であってもよい。
また、架橋工程の際に、分圧を大気圧の空気中のものよりも低下させるガスは酸素に限らず、酸素以外の酸化性ガスであっても、同様の効果が得られる。そのような酸化性ガスとしては、特に限定されず、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物、水蒸気等が挙げられる。
酸素分圧を低下させる方法は、上述の実施形態のような方法に限らず、より簡便な方法であってもよい。上記実施形態の方法は真空封入装置を密閉して架橋処理を行っているが、密封した袋体にサーミスタを収容することにより、外部から酸素が侵入することを防止することができるため、真空封入装置を密閉せずに架橋処理を行ってもよい。すなわち、酸素分圧を低下させた状態でサーミスタを収容した袋体を密封した後、大気中において架橋処理を行うことも可能であり、これにより、架橋処理を行う場所や雰囲気を選ばないため作業性に優れる。
また、上記実施形態においては、サーミスタを密封するために袋体が用いられているが、サーミスタを密封することができる容器であれば、このような袋体に限定されず用いることができる。この容器は定型性を有するものであってもよいが、減圧した雰囲気中でサーミスタ素体の架橋処理を行う場合は、耐圧性の容器であることが好ましい。また、この容器の材質は特に限定されず、プラスチック製や金属製の容器を用いることができる。
また、密封した袋体を用いなくても酸素分圧を低下することは可能であり、例えば、不活性ガスをサーミスタ素体周囲の雰囲気中に含有させればよい。例えば、上述の実施形態において、袋体21にサーミスタ10を収容せずに、サーミスタ10を直接真空封入装置20に配置してもよい。この場合、不活性ガスを含有させると、周囲雰囲気中の酸素濃度は大気中のものよりも低くなることから、酸素分圧を低下させることができる。このとき使用するガスは不活性ガスであれば特に限定されずに用いることができる。不活性ガスとしては窒素の他、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。
また、上述した実施形態において、電子線照射中に窒素ガスを装置20内部に導入し続けいていてもよい。これにより、硬貨処理時に発生し得る亜硫酸ガスのような酸化性ガスが装置20内部の雰囲気に混入することも防止することができる。したがって、所望の安定した品質のP−PTCサーミスタ組成物の製造を行うことができる。
また、酸素分圧を低下させるその他の方法として、酸素(空気)を不活性ガスと置換させずに、単に減圧する方法が挙げられる。この場合、大気圧の空気中における酸素濃度を調整しなくても気圧自体が低くなるため、酸素分圧は低下されることとなる。
また、例えば、混練物調整工程において、混練手段として押出機、特に二軸押出機を用いると、二軸押出機に投入された高分子マトリックス、低分子有機化合物及び導電性粒子は、二軸押出機内のスクリューにより混合され、押出機の押し出し部(先端部)より押し出される。この際、その押出機の押し出し部にダイを取り付けることによって、混練物がシート状、略円筒状に押し出されるか、若しくは略円筒状に押し出されてもよい。そして押し出された混練物は適度な大きさのダイス毎に切断されてもよい。このように適度な大きさ(例えば質量にして15g程度)のダイス毎に切断されることにより、次の打ち抜き工程を除くことも可能である。
また、打ち抜き工程と成形工程の順番を逆にしてもよい。すなわち、サーミスタ素体1に電極2,3を熱圧着した後に、適度な大きさに打ち抜くこともできる。更にまた、架橋工程後に打ち抜き工程を経ることも可能である。
更に、本発明の製造方法においては、サーミスタの比抵抗値を更に低くするために成形工程S4を経る前に減圧保存工程を施してもよく、サーミスタの破壊電圧を高くするために成形工程S4を経る前に水接触工程を施すことも可能である。
ここで、減圧保存工程とは、成形工程S4を経る前の混練物を減圧雰囲気の下、保存する工程である。また、水接触工程とは、成形工程S4を経る前の混練物を水中で保存する工程である。なお、これらの工程における減圧保存処理及び水接触処理は成形工程S4前であれば両方を同時に施してもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
結晶性高分子マトリツクスとしてメタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン(融点122℃、密度0.93g/cm3)を60体積%、低分子有機化合物としてポリエチレンワックス(融点100℃、分子量600)を10体積%、導電性粒子としてフィラメント状ニッケル粉末(平均粒径0.7μm)30体積%をミルに投入し、150℃の温度で30分間ラボプラストミル(東洋精機社製)にて加熱混練した。
混練終了後、この混練物を取り出し、0.8mmの厚さになるよう熱成形した。得られたシートを室温まで自然冷却した後、9mm×3.5mmの大きさに打ち抜き、9mm×3.5mm×0.8mmの直方体形状の成形物を得た。
得られた成形物の両面に、片側が粗面化されたニッケル板(厚さ100μm)2枚を対向するように挟み、熱圧着機により150℃で混練物とニッケル箔を圧着し、全体で厚さ0.7mmの成形体を得た。
続いて、架橋工程において、得られた成形体を袋体(ラミジップ(アズワン社製、商品名))に収容し、バキュームシーラーであるCUTE PACK FCB−270(FUJI IMPULSE社製、商品名)を用いて、上述の実施形態の方法に準じてバキュームシーラー内(袋体内)を減圧した後、加熱シール部を加熱圧着することによって袋体を密封した。このときのバキュームシーラー内の酸素分圧は真空に近い状態であり、測定不能であった。なお、酸素分圧は酸素濃度計(YOKOGAWA社製、oxygen analyzer OK100、商品名)を用いて酸素濃度を測定し、酸素分圧を算出した。これに電子線を加速電圧2MeV、照射線量100kGyの照射条件にて照射し、P−PTCサーミスタAを得た。
(実施例2)
実施例1に準じて成形体を作製し、架橋工程において、以下の方法により成形体に架橋処理を施した。成形体を袋体(ラミジップ(アズワン社製、商品名))に収容する際、窒素ガスをバキュームシーラー内に充満させた。このとき、酸素分圧が10.1hPaに達した時点で、シーラー内を減圧することなく、加熱シール部を加熱圧着することによって袋体を密封した。その他の処理は実施例1に準じて行い、実施例2のP−PTCサーミスタBを得た。
(実施例3〜5)
酸素分圧が表1に示す圧力に達した時点で、シーラー内を減圧することなく、加熱シール部を加熱圧着することによって袋体を密封した。
その他の処理は実施例2に準じて行い、それぞれ実施例3〜5のP−PTCサーミスタを得た。
(比較例1)
実施例1に準じて成形体を作製し、架橋工程において、以下の方法により成形体に架橋処理を施した。成形体を袋体(ラミジップ(アズワン社製、商品名))に入れる際、バキュームシーラーに窒素を導入せず、且つシーラー内を減圧することなく、加熱シール部を加熱圧着することによって袋体を密封した。このときのシーラー内の酸素分圧は208.7hPaであった。その他の処理は実施例1に準じて行い、比較例1のP−PTCサーミスタを得た。
(評価方法1)
上記実施例1〜5及び比較例1に係るP−PTCサーミスタを24時間空気中で放置した後、室温抵抗値および温度−抵抗値特性を測定し初期値の確認をした。次いで、熱衝撃試験(−40℃で30分間維持した後85℃で30分間維持、1000サイクル)を行った。熱衝撃試験終了後、更に24時間放置し、室温抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。
次いで、それぞれのP−PTCサーミスタを恒温槽内に入れ、昇温条件2℃/分で徐々に温度を上げながらそれぞれのサーミスタの抵抗値を測定した。その温度−抵抗値特性の結果を図4〜9に示す。ここで、図4〜9及び後述する図10において、「1.E+0a」(aは正の整数を示す。)の表記は、1.0×10aの数値を意味し、「1.E−0b」(bは正の整数を示す。)の表記は、1.0×10−bの数値を意味する。
(評価方法2)
実施例1及び比較例1に係るP−PTCサーミスタを24時間空気中で放置した後、熱衝撃試験(−40℃で30分間維持した後60℃で30分間維持、100サイクル)を行った。熱衝撃試験終了後、更に24時間放置し、サーミスタを恒温槽内に入れ、昇温条件2℃/分で徐々に温度を上げながら抵抗値を測定した。その温度−抵抗値特性の結果を図10に示す。
(評価方法3)
実施例1及び比較例1に係るP−PTCサーミスタを24時間空気中で放置した後、熱衝撃試験(−40℃で30分間維持した後60℃で30分間維持、100サイクル)を行った。熱衝撃試験終了後、更に24時間放置した。次いで、昇温(昇温条件2℃/分で120℃まで昇温)−空冷(室温で放置)を行う工程を3回繰り返し、得られたサーミスタの室温抵抗値を測定した。その結果、実施例1のサーミスタでは、室温抵抗値が6.0mΩであったのに対し、比較例1のサーミスタでは、室温抵抗値が6.8mΩであった。
表1より明らかなように、本発明に係る実施例1〜5は熱衝撃試験後(1000サイクル)の室温抵抗値を十分に低く保つことができ、特に酸素分圧が50.7hPa以下である実施例1〜4はいずれも熱衝撃試験後の室温抵抗値が30mΩ以下であり、高い信頼性を有するサーミスタであることがわかる。一方、本発明によらない比較例1では、熱衝撃試験後の室温抵抗値が800mΩであり、十分な信頼性を得ることができないサーミスタであった。
1・・・P−PTCサーミスタ素体、2,3・・・電極、10・・・P−PTCサーミスタ、20・・・真空封入装置、21・・・袋体、21a・・・加熱シール部、22・・・ガス導入口、23・・・酸素濃度計、24a,24b・・・圧着部、25・・・排気口。