第1の発明は、交流電源と、前記交流電源の交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されポンプあるいはファンを駆動するモータと、前記インバータ回路の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段の出力信号により前記インバータ回路をPWM制御して設定回転数となるように前記モータを制御する制御手段よりなり、前記制御手段は前記インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流が設定値となるように制御し、前記モータの回転数に応じて前記出力電圧と出力電流との位相、あるいは前記無効電流の設定値を変更するようにしたものであり、回転数変動がほとんどなく回転数やトルクに応じてモータ誘起電圧に対する電流位相を最適化できるので、モータ効率を高くし、トルク変動に対して脱調せず安定な回転駆動が可能となる。
第2の発明は、第1の発明における制御手段は、モータの回転数に対応したインバータ回路出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流の設定テーブルにより制御するようにしたから、ファンやポンプにおいては回転数の二乗によりトルクが変動する場合でもトルク電流に対応した力率、あるいは無効電流が確保でき、モータ効率を最適設定できる。
第3の発明は、第1の発明における制御手段は、モータの回転数よりインバータ回路出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流の設定値を演算して求めるようにしたから、回転数の変更によりトルクが変動する場合でもトルク電流に対応した最適力率、あるいは最適無効電流を演算により求めることができるので、プロセッサのプログラム容量を減らして最適制御が可能となる。
第4の発明は、第1の発明において制御手段は、モータの回転数に応じてインバータ回路出力電圧とモータ誘起電圧の比を制御するようにしたから、回転数の変更によりトルクが変動する場合でもトルク電流に対応した最適力率、あるいは最適無効電流に設定することにより、モータ誘起電圧に対する電流位相を最適位相に設定でき、モータ効率を最大にして脱調せず安定な回転駆動が可能となる。
第5の発明は、第1の発明においてインバータ回路により駆動される複数のモータと、制御手段により前記複数のモータを交互に切り換える出力切換手段より構成し、前記出力切換手段により切り換える前記モータに応じて前記インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流が設定値となるようにしたから、ポンプと乾燥ファンを1つのインバータ回路で駆動する場合でもそれぞれの負荷に対応した最適力率、あるいは最適無効電流に設定することにより、モータ誘起電圧に対する電流位相を最適位相に設定して高効率のセンサレス正弦波駆動を可能とし、低価格、低振動のモータ駆動装置を実現できる。
第6の発明は、交流電源と、前記交流電源の交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されポンプ、あるいはファンを駆動するモータと、前記インバータ回路の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段の出力信号により前記インバータ回路をPWM制御して設定回転数となるように前記モータを制御する制御手段よりなり、前記制御手段は前記インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流が設定値となるように前記インバータ回路出力電圧を制御し、前記インバータ回路出力電圧とモータ誘起電圧の比に上限値、あるいは下限値を設けるようにしたから、モータ駆動周波数変化によりモータリアクタンスと誘起電圧が変わった場合でも、モータ誘起電圧に対する電流位相を制限して異常進角や異常遅角による脱調を防ぐことができる。
第7の発明は、第6の発明においてインバータ回路出力電圧とモータ誘起電圧の比の下限値をほぼ1とするようにしたから、誘起電圧に対するモータ印加電圧の低下による異常進角を防止する事ができるので、トルク電流減少やインバータ回路への電圧回生を防ぎ安定な起動や回転駆動を実現できる。
第8の発明は、第6の発明においてインバータ回路出力電圧とモータ誘起電圧の比の上限値を1.2から1.3とするようにしたから、誘起電圧に対するモータ印加電圧の上昇による異常遅角を防止する事ができるので、電流位相遅れによりトルク電流減少を防止して脱調を防ぎ安定な起動や回転駆動を実現できる。
第9の発明は、交流電源と、前記交流電源の交流電力を直流電力に変換する整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されポンプ、あるいはファンを駆動するモータと、前記インバータ回路の出力電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段の出力信号により前記インバータ回路をPWM制御して設定回転数となるように前記モータを制御する制御手段よりなり、前記制御手段は前記インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流が設定値となるように制御し、前記モータの駆動運転モードに応じて前記インバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流設定値を変更するようにしたから、モータの駆動運転モードを変化させたり、あるいは、モータ立ち上げ時間を変えてトルクが変わった場合でもモータ誘起電圧に対する電流位相を最適設定して脱調を防ぎ高効率運転が可能となる。
また、回転数立ち上がり時間を早める起動モードと回転数立ち上がりを遅くする起動モードでは必要なトルクが変わるので、立ち上がりに応じた無効電流設定値にすることにより脱調がなく立ち上がり時間を短縮することができる。
第10の発明は、第9の発明においてモータを正回転、あるいは逆回転に制御可能となるようにし、前記モータの正転、あるいは逆回転に応じてインバータ回路の出力電圧と出力電流との位相、あるいは無効電流の設定値を変更するようにしたから、食器洗い機の洗浄ポンプと排水ポンプを1つのモータで駆動する1モータ方式の如き正逆回転制御でトルクが大きく変わる場合でもトルク電流に対応した最適力率、あるいは最適無効電流に設定することにより、モータ誘起電圧に対する電流位相を最適位相に設定でき、モータ効率を最大にして脱調せず安定な回転駆動が可能となる。
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるポンプあるいはファンのモータ駆動装置のブロック図を示すものである。
図1において、交流電源1より整流回路2に交流電力を加えて直流電力に変換し、インバータ回路3により直流電力を3相交流電力に変換してモータ4を駆動する。整流回路2は、全波整流回路20の直流出力端子にコンデンサ21a、21bを直列接続し、コンデンサ21a、21bの接続点を交流電源入力の一方の端子に接続して直流倍電圧回路を構成し、インバータ回路3への印加電圧を高くする。インバータ回路3の負電圧側に電流検出手段5を接続し、インバータ回路3の3相各下アームに流れる電流を検出することによりインバータ回路3の出力電流、すなわち、モータ4の各相電流を検出する。
電流検出手段5は、インバータ回路3の下アームトランジスタのエミッタ端子に接続されたシャント抵抗50a、50b、50cと、シャント抵抗50a、50b、50cのそれぞれの電圧降下を検知する電流検知回路51より構成される。
制御手段6は、電流検出手段5の出力信号よりインバータ回路3の出力電流を演算し、設定回転数に応じた所定周波数、所定電圧を印加してモータ4を回転駆動するものであり、モータ負荷に応じてインバータ回路出力電圧に対する出力電流位相、あるいは無効電流となるように制御することにより設定同期速度でモータ4を回転駆動できる。
図2はインバータ回路3の詳細な回路図であり、6個のトランジスタとダイオードよりなる3相フルブリッジインバータ回路により構成している。ここで、3相アームの1つのU相アーム30Aについて説明すると、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、IGBTと略す)よりなる上アームトランジスタ31a1と逆並列ダイオード32a1の並列接続体と、IGBTよりなる下アームトランジスタ31a2と逆並列ダイオード32a2の並列接続体を直列に接続し、上アームトランジスタ31a1のコレクタ端子は直流電源の正電位端子Lpに接続し、上アームトランジスタ31a1のエミッタ端子は出力端子Uに接続し、下アームトランジスタ31a2のエミッタ端子は電流検出手段5を構成するシャント抵抗50aを介して直流電源の負電位側端子Lnに接続する。
上アームトランジスタ31a1は上アーム駆動信号Upに応じて上アームゲート駆動回路33a1により駆動され、下アームトランジスタ31a2は下アーム駆動信号Unに応じて下アームゲート駆動回路33a2によりオンオフスイッチング制御される。上アームゲート駆動回路33a1は、微分信号によりセットリセットされるRSフリップフロップ回路を内蔵し、上アーム駆動信号Upの立ち上がりで上アームトランジスタ31a1をオン動作させ、上アーム駆動信号Upの立ち下がりで上アームトランジスタ31a1をオフ動作させる。下アームゲート駆動回路33a2にはRSフリップフロップ回路は不必要であり、内蔵していない。
IGBTのゲート印加電圧は10〜15V必要であり、下アームトランジスタ31a2をオンさせると、15Vの直流電源の+端子B1よりブートストラップ抵抗34a、ブートストラップダイオード35aを介してブートストラップコンデンサ36aが充電されるので、ブートストラップコンデンサ36aの蓄積エネルギーにより上アームトランジスタ31a1をオンオフスイッチングできる。また、下アームの逆並列ダイオード32a2が導通した場合にも同様にブートストラップコンデンサ36aが充電される。
後ほど説明する過電流検出手段が過電流を検出した場合には、過電流遮断信号をインバータ回路3へを出力し、インバータ回路3の遮断信号端子OfをLoにするとインバータ回路3のU相、V相、W相各下アームトランジスタが瞬時にターンオフする。
制御手段6は、過電流検出手段からの信号をプロセッサの割り込み入力端子に加え、過電流信号に対して最優先速度でインバータ回路3への駆動出力信号を遮断するが、内蔵するプロセッサの応答時間分遮断速度が遅いため、インバータ回路3には高速遮断信号端子Ofを設けて上下アーム同時短絡等によるパワースイッチング素子の破壊やモータ4の減磁を防止する。
V相アーム30B、W相アーム30Cも同様の接続であり、各アームの下アームトランジスタのエミッタ端子は電流検出手段5を構成するシャント抵抗50b、50cに接続し、シャント抵抗50b、50cの他方の端子は直流電源負電位端子Lnに接続している。IGBT、あるいはパワーMOSFETにより下アームトランジスタを構成すると、ゲート電圧を制御することによりスイッチング制御できるので、IGBTの場合はエミッタ端子、パワーMOSFETの場合にはソース端子に接続するシャント抵抗の電圧が1V以下となるように抵抗値を選定すればスイッチング動作にはほとんど影響することなく電圧制御によりオンオフスイッチング制御でき、シャント抵抗50a、50b、50cの電圧veu、vev、vewを検出することによりインバータ回路出力電流、すなわちモータ電流を検出できる特徴がある。
図3は、インバータ回路出力電流の検出タイミングを示し、三角波変調によりPWM制御して、スイッチングノイズの影響を減らすために上下アームIGBTのスイッチングタイミングをはずして高速A/D変換してマイクロコンピュータ等のモータ制御プロセッサにより電流検出する。
図3において、ckは三角波変調信号Vtのピーク値すなわち時間t3にて発生させる同期信号であり、vuはU相電圧制御信号で、三角波変調信号VtとU相電圧制御信号vuを比較してU相上アームトランジスタ31a1の駆動信号UpとU相下アームトランジスタ31a2の駆動信号Unを発生させる。t1〜t2区間、t5〜t6区間は上下アームトランジスタの非導通期間でデッドタイムΔtと呼び、A/D変換タイミングは、上アームトランジスタがオフで下アームトランジスタがオンとなる時間t3、あるいは、時間t3からデッドタイムΔt時間ずらした時間t4の範囲内で行うとよい。
図4は、本発明による制御手段のブロック図で、マイクロコンピュータ、あるいはディジタルシグナルプロセッサ等の高速プロセッサによりセンサレス正弦波駆動を実現するものである。
基本的な制御方法について図5の制御ベクトル図を用いて説明する。図5は、ロータ表面に永久磁石を設けた表面永久磁石モータ(略してSPMモータ)のd−q座標系のベクトル図であり、モータ誘起電圧Vrはq軸と同軸であり、誘起電圧Vrは誘起電圧定数keと回転数Nの積となり、式1で表される。
モータ誘起電圧Vrはモータ駆動周波数fに比例し、モータ印加電圧Va(=Vi)はモータ誘起電圧Vrにほぼ比例した電圧が印加される。言い換えれば、モータ印加電圧Vaとモータ誘起電圧Vrの比(Va/Vr;印加電圧定数)を一定にするので、式2に示すようにモータ印加電圧と周波数fの比(Va/f)をほぼ一定に制御することになり、V/f制御とも呼ばれる。
モータ電流Iをq軸電流とd軸電流に分解してそれぞれ制御すると一般的なベクトル制御になるが、センサレス制御の場合、q軸、d軸は直接検出できないので、モータ電流位相が角度γ進角していると仮定する。モータの電圧方程式は式3で表現されるので、駆動周波数fが固定された場合、d−q座標系においては、電流ベクトルIを固定するとモータ印加電圧ベクトルViが固定される。逆に、モータ印加電圧ベクトルViを固定すると電流ベクトルIは固定される。また、モータ印加電圧Va(母線軸)を主軸とするa−r軸に座標変換した場合においても同様であり、電流ベクトルIを固定するとモータ誘起電圧ベクトルVrが固定される。言い換えれば、モータ定数があらかじめわかっておれば、電流ベクトルIを固定することにより誘起電圧Vrと電流Iの位相は一定に制御できるので、q軸電流Iq(すなわちトルク電流)をほぼ一定に制御できベクトル制御とほとんど同じ制御が可能となる。
無効電流Isinφ(=Ir)を適当な値に選び、進角γを小さくすることにより、モータ電流Iはトルク電流(q軸電流)Iqとほとんど同じとなり、高効率運転が可能となり、モータ損失が減らせるのでモータの温度上昇を減らし、モータを小型化できる。
また、通常運転においては図6のベクトル図に示すように、モータ電流位相を誘起電圧位相とほぼ同位相、あるいは少し遅れた位相に設定することによりロータ位相を電流位相よりも進め、急激な負荷変動により位相φが変化してロータが回転磁界より遅れてもq軸との位相γが零に近づきトルクが増加するので脱調することがなくなる。
図4において、駆動条件設定手段60は、モータ駆動条件に応じて駆動回転数、トルク電流、最適角度γを求めて、駆動周波数f、無効電流Isinφ等を設定するもので、回転数設定手段61、無効電流設定手段62に設定信号を送る。キャリヤ信号発生手段63は、PWM変調のための三角波信号Vtと同期信号ckを発生させるもので、キャリヤ周波数(スイッチング周波数)はモータ騒音を減らすために、通常、15kHz以上の超音波周波数に設定する。同期信号ckは各演算ブロックに送られ、同期信号ckに同期して各演算ブロックが動作する。
回転数設定手段61は、モータ駆動周波数fを設定するためにキャリヤ信号周期Tcの位相角Δθを求めて電気角演算手段64に加え、V/f設定手段65に駆動周波数信号fを送る。電気角演算手段64は、同期信号ckに同期して位相θを求め、規格化された正弦波テーブルを記憶する記憶手段66や座標変換手段等に位相信号θを加える。
V/f設定手段65は、駆動周波数fと負荷トルクに応じた印加電圧定数kvnを設定するもので回転数あるいは負荷トルクに比例した値が設定される。ポンプモータやファンモータの場合には、トルクは回転数の2乗で増加するので、印加電圧定数kvnは駆動周波数の2乗に比例して増加させる必要がある。しかし、ポンプやファンモータの場合には、それほど高い回転数は必要としないので、1.0〜1.3まで直線的に変化させても問題ない。後ほど述べるように、食器洗い機において洗浄ポンプと排水ポンプを1つのモータで駆動する1モータ2ポンプ、あるいは、1モータ1ポンプ方式において正回転で洗浄運転、逆回転で排水運転させる場合にはモータに必要なトルク電流がそれぞれ変化するので、印加電圧定数kvnと無効電流を正転と逆転で設定値を変更させる必要がある。
記憶手段66は、位相角に対応した三角関数の演算を行うために必要な規格化された正弦波テーブルを記憶領域に記憶しており、例えば、位相0から2πまで−1から+1までの正弦波データを持っている。
高速A/D変換手段67は、図3のタイミングチャートに示したように三角波変調信号Vtのピーク値にて電流検出手段5の出力信号veu、vev、vewをインバータ出力電流に対応したディジタル信号Iu、Iv、Iwに数マイクロ秒以下でA/D変換して3相/2相・母線軸変換手段68に各相電流の瞬時値を加える。
3相/2相・母線軸変換手段68は、インバータ回路出力電流の瞬時値を3相/2相変換してインバータ回路出力電圧軸、すなわちモータ母線軸(a−r軸)へ座標変換するもので、式4を用いて絶対変換し、a軸成分Iaとr軸成分Irを求める。IrはIsinφに相当しインバータ出力(母線電圧)からみると無効電流成分となる。座標変換することにより、出力電流瞬時値より瞬時に無効電流成分Irが求まるだけではなく、式5に示す2乗平均により出力電流ベクトル絶対値Iを瞬時に求めることができる。
無効電流比較手段69は、3相/2相・母線軸変換手段68の出力信号Irと無効電流設定手段62の設定信号Irsを比較し誤差信号ΔIrを出力し、誤差信号増幅演算手段70により増幅あるいは積分して印加電圧補正信号ΔVaを求め、出力電圧設定手段71に出力する。
出力電圧設定手段71は、V/f設定手段65の出力信号kvnと誤差信号増幅演算手段70の印加電圧補正信号ΔVaより出力電圧信号Vaを演算制御するもので、式6より出力電圧信号Vaを演算する。式6にてg1は比例ゲイン、g2は積分ゲインである。
2相/3相・母線軸逆変換手段72は、式7に示す逆変換式を用いて3相正弦波電圧信号を発生させる。インバータ出力電圧はa軸と同相なので、Vaのみ演算すればよく、3相電圧vu、vv、vwをPWM制御手段73に出力する。
無効電流制御手段74は、モータ回転数N、すなわち、駆動周波数fに応じて無効電流設定値Irsを制御するものである。ファンやポンプの場合、回転数の2乗に比例してトルクが上昇するので、回転数−トルク特性は2乗曲線で近似でき、トルクがわかれば最適無効電流が式8のような演算式で与えることができ、無効電流制御手段74は式8の演算手段と同等である。回転数設定データ数は通常多くないので、離散的な回転数に対応した無効電流の設定テーブルデータでも構わない。
起動制御手段75は、モータ起動時に駆動周波数を零から設定値まで直線的に増加させ、回転数に対応して無効電流Irを変化させるものである。負荷トルクが一定で、回転数を急速に立ち上げたい場合には、無効電流Irを大きくして立ち上げる。
図7は、正弦波PWM制御による各部波形のタイミングチャートを示す。
Euは中性点からみたモータ誘起電圧波形で、IuはU相電流波形であり、モータ誘起電圧Euとほぼ同相である。vu、vv、vwはU相、V相、W相の各PWM制御入力信号、すなわち、2相/3相・母線軸逆変換手段72の出力信号で三角波変調信号Vtと比較することによりPWM制御出力信号Upを生成する。信号vuとU相出力電圧位相は同じであり、U相電流Iuの位相は信号vuから位相φ遅れる。
以上述べたように、本発明によればモータ誘起電圧に対するモータ電流位相がほぼ零、あるいは少し遅れ位相となるようにモータ回転数に応じて無効電流を設定するものであり、モータ回転数よりモータ負荷に対応した演算式、あるいは制御テーブルデータにより最適無効電流を求め、モータ効率が最大でかつ脱調しない安定動作点に設定するものである。
ファンモータやポンプモータの場合には予め回転数−トルク特性は把握できるので、回転数−トルク特性より最適無効電流を求め、演算式や制御テーブルとしてプロセッサのROM、あるいは、不揮発性メモリに記憶させることにより最適制御が可能となる。
(実施の形態2)
以下、本発明の第2の実施の形態について図8から図13を用いて説明する。
図8は、本発明によるポンプあるいはファンのモータ駆動装置を食器洗い機に応用したもので、食器洗い機を簡略化して表したものであり、洗浄ポンプと排水ポンプを兼用した1モータ1ポンプ方式の構造を示す断面図である。
洗浄槽7に給水弁8より水道水を給水し、洗浄水9を洗浄槽7に貯水する。洗浄槽7の下部に軸方向が垂直となるように扁平状のDCブラシレスモータ4を配設し、モータ4の下部にポンプケーシング10を配置し、インペラー11を回転させることにより軸方向から遠心方向に圧力を加える。正転方向に回転させると噴射ノズル12aを有する噴射翼12bから食器(図示せず)に洗浄水を噴射して洗浄する。正回転させるとポンプケーシング10の内部圧力が高くなって、ポンプケーシング10側面に設けた排水弁13が閉じるので、水流方向は噴射翼12b側となる。インペラー11を逆転させるとインペラー11の側面から垂直方向に圧力が加わり排水弁13が開いて垂直方向の水流が排水管14方向に流れるので1つのモータとポンプで洗浄と排水が可能となる。洗浄用と排水用にそれぞれインペラーとポンプケーシングを設ける1モータ2ポンプ方式でも、正回転で洗浄、逆回転で排水とすることが可能であるが、ポンプの高さが高くなり、洗浄槽7の下部容積を小さくできない課題がある。
図9は、本発明によるポンプモータ駆動装置の動作を示すフローチャートであり、食器洗い機の洗浄ポンプ、あるいは排水ポンプを1つのモータで駆動する実施例について説明する。
ステップ100よりモータ駆動プログラムが開始し、ステップ101に進んで起動運転かどうかの判定を行い、起動運転ならばステップ102に進んで起動制御サブルーチンを実行する。
起動制御サブルーチン102は、図12の起動制御のタイムチャートに示すように回転数零から設定回転数(駆動周波数fs)となるまで、駆動周波数fを直線的に上昇させるもので、駆動周波数fに応じて無効電流設定値Irsを設定する。ポンプやファン等の流体負荷の場合、トルクは回転数の2乗により変化するので、厳密には回転数に対応したトルク電流Iqを実験等により求め、ロータ位相が回転磁界よりも遅れると仮定してIsinφを計算し起動制御することにより安定な起動が可能となる。起動時には加速のためにトルク電流を大きくする必要があり、脱調を防ぐために無効電流設定値Irsはトルクに対応した値よりも大きめに設定する必要がある。
本発明による駆動方式は起動安定性がよく、V/f設定値、無効電流設定値Irsを大きく変更させなくても起動可能となる場合が多い。
次に、ステップ103に進んでキャリヤ信号割込の有無を判定し、キャリヤ信号割込が有ればステップ104のキャリヤ信号割込サブルーチンとステップ105の回転数制御サブルーチンを実行する。
図10は、キャリヤ信号割込サブルーチンのフローチャートである。ステップ200よりプログラムが開始し、ステップ201にてキャリヤ同期信号ckのカウント数kがモータ駆動周波数fの1周期内のキャリヤ数kcかどうか判定し、等しければステップ202に進んでキャリヤカウント数kをクリヤする。モータ駆動周波数fの1周期内のキャリヤ数kcは、駆動周波数設定時に予め求める。
例えば、8極モータの回転数4040rpmにおける駆動周波数fは269.3Hz、周期Tは3.712msecとなり、キャリヤ周期Tcが64μsec(キャリヤ周波数15.6kHz)の場合、パルス数kcは58となる。1キャリヤ周期Tcの位相Δθは、駆動周波数fの1周期を2πとすると、Δθ=2π/kcとなる。
ステップ203にてキャリヤ同期信号のカウント数をインクリメントとし、次にステップ204に進んで、キャリヤ数kと1キャリヤ周期Tcの位相Δθより電気角θの演算を行う。次にステップ205に進んで電流検出手段5からの信号を検出してインバータ出力電流Iu、Iv、Iwを検出する。次にステップ206に進んで式4に従い3相/2相・母線軸座標変換を行い無効電流Irと有効電流Iaを求め、ステップ207に進んでIr、Iaをメモリする。次にステップ208に進んでモータ電流最大ベクトル値を演算する。
次にステップ209に進んで印加電圧Vaを呼び出し、次にステップ210に進んで式7に従い、2相/3相・母線軸座標変換を行いインバータ各相制御信号vu、vv、vwを求め、ステップ211に進んでPWM制御を行い、ステップ212に進んでリターンする。
図11は回転数制御サブルーチンのフローチャートである。回転数制御サブルーチンはキャリヤ信号毎に必ずしも行う必要がないので、例えば、2キャリヤ信号毎に実行してもよい。キャリヤ周波数が超音波周波数になるとキャリヤ周期内のプログラム処理時間が問題となるので、電流検出演算、あるいはPWM制御等のキャリヤ毎に必ず実行する処理と、座標変換や図11に示したキャリヤ毎に必ずしも実行する必要のない処理を分け、キャリヤ毎に必ずしも実行する必要のない処理を複数に分割して処理することによりモータ制御以外のシーケンスプログラムを実行させることができる。
ステップ300より回転数制御サブルーチンが開始し、ステップ301にて駆動周波数設定値fを呼び出し、次にステップ302に進んで周波数設定値fに対応した無効電流設定値Irsを呼び出し、ステップ303に進んで式4の3相/2相・母線軸座標変換より求めた無効電流Irを呼び出し、ステップ304に進んで印加電圧定数設定値V/f(すなわちkvn)を呼び出す。次にステップ305に進んでIrsとIrを比較し誤差信号ΔIrを求め、次に、ステップ306に進んで式6より印加電圧Vaを演算する。
次にステップ307に進み、式9より印加電圧定数下限値kvnminと印加電圧定数上限値kvnmaxより印加電圧Vaの上限値、下限値を求め、印加電圧Vaの上限値、下限値内となるように印加電圧Vaを制限してVa値をメモリする。
次に、ステップ308に進んで起動フラグの有無を判定し、起動フラグが有ればステップ309に進んで初期印加電圧Vasを設定し、次にステップ310に進んで図12に示すようなタイムチャートに従い起動時間と回転数(駆動周波数f)、無効電流設定値Irsを制御する。次にステップ311に進んで式10に示す起動時印加電圧Vaの演算を行い、次にステップ312に進んで印加電圧Vaの上限値、下限値を演算しステップ313に進んでサブルーチンをリターンする。
モータ起動時が最も脱調し易いので、起動用に特別な制御テーブルを用意するほうが望ましい。また、起動時間を早くするほどトルクが必要となるので、起動時間に応じて無効電流設定値を変更する方がよい。食器洗い機の場合、ポンプ回転数を減らし、起動時間を遅くするほど騒音を減らすことができるので、夜間運転コースは騒音を減らすために回転数と起動時間を減らす運転駆動モードでモータを駆動する。
再び、図9に示すモータ駆動プログラムに戻り、ステップ106に進んで洗浄運転フラグの有無の判定をし、洗浄運転ならばステップ107に進んで洗浄ポンプモータ駆動モードの回転数−トルク特性に対応した制御テーブルを設定する。次にステップ109に進んでモータ回転数、モータ回転数に対応した無効電流設定値Irs、印加電圧定数kvn等を制御テーブルから読み出してポンプモータを駆動し洗浄運転を行う。洗浄運転のポンプモータ回転数は、標準運転コース、強力運転コース、夜間運転コース等に応じて数段階に制御される。ポンプモータ回転数が変わるとモータトルクも変わるので、無効電流設定値Irsを変えることによりモータ誘起電圧に対する電流位相を最適値に設定でき、高効率運転と安定回転駆動が実現できる。
図13はモータ回転数Nに対応する無効電流設定値Irsと印加電圧定数kvnの制御特性図であり、洗浄運転が正転でCWであり、排水運転が逆転でCCW表示している。
1モータ1ポンプ方式においては、排水運転でランナー逆回転させるためモータトルクが増加し無効電流設定値Irsを洗浄運転よりも増加させる必要がある。ただし、排水運転の回転数は洗浄運転よりも少ないので、トルク電流はそれほど大きな増加はない。
1モータ2ポンプ方式の場合には、洗浄運転において排水ポンプランナーは逆回転となり負荷が増加する。同様に排水運転において洗浄ポンプランナーは逆回転となり同様に負荷が増加する。排水運転において負荷は洗浄運転よりも軽くなり、さらに洗浄水が排水されると洗浄ポンプ、排水ポンプとも負荷が急激に軽くなるので、排水運転の無効電流は洗浄運転よりも少ない値に設定する。
ステップ106にて洗浄運転フラグが無ければ、排水運転と判断し、ステップ110に進み排水運転モータ駆動モードに設定を行い、次にステップ111に進んで排水運転に対応した制御テーブルを設定する。次にステップ112に進んで溢水異常運転かどうか判定し、溢水異常でなければステップ113に進んで排水運転回転数、回転数に対応した無効電流設定値Irs、印加電圧定数kvn等を設定する。
ステップ112において溢水異常と判定した場合にはステップ114に進んで溢水異常運転設定を行い、ステップ115に進んでポンプモータ回転数等を高くし、給水弁故障により給水連続となった場合でも洗浄槽から水が溢水しないようにポンプ排水能力を最大に設定する。
以上述べたように、本発明によれば、ポンプあるいはファンのモータ駆動運転モードに対応した回転数−無効電流特性を演算式、あるいは制御テーブルとしてプロセッサ内のROM、あるいは不揮発性メモリに記憶しておき、駆動運転モードに応じて演算式、あるいは制御テーブルを選択し、最適制御するものであり食器洗い機の1モータ1ポンプ方式、1モータ2ポンプ方式の如く正転、逆転運転に対応した制御においても常に最大効率運転が可能となる。
(実施の形態3)
以下、本発明の第3の実施の形態について図14を用いて説明する。
図14は、1つのインバータ回路3によりモータ4Aとモータ4Bを交互に切り換えて駆動する1インバータ2モータ駆動方式のブロック図である。
制御手段6Aは複数のモータを駆動できるようにモータ4A、4Bに応じたモータ制御データを、不揮発性メモリ6Bに有し、切換信号swによりインバータ回路3の出力端子に設けた出力切換手段6Cと、過電流検知手段6Dの過電流設定値および不揮発性メモリ6Bのモータ制御テーブルを駆動モータに応じて切り換える。
食器洗い機の場合には、洗浄排水兼用ポンプモータと乾燥ファンモータは同時に動作しないので、リレーよりなる出力切換手段6Cによりポンプモータ4Aとファンモータ4Bを交互に切り換えて駆動できる。ポンプモータ4Aとファンモータ4Bは回転数、トルク、巻線仕様が全て異なるので、無効電流設定値も異なり、回転数−無効電流設定制御テーブルもそれぞれに応じた最適値に設定する。
乾燥ファンモータと洗浄排水兼用ポンプモータは運転コースに応じて回転数制御されるので、回転数に対応した設定データを不揮発性メモリ6Bに有し、運転モードに応じてモータ制御データを呼び出し、回転数に対応した無効電流設定値Irs、印加電圧定数kvnを設定する。設定方法は実施の形態2にて説明したので省略する。
以上食器洗い機の実施例について述べたが、洗濯乾燥機の場合でも、風呂水ポンプモータと乾燥用ファンモータ、あるいは、排水ポンプモータと乾燥用ファンモータは同時に動作させる必要がなく、以上述べた1インバータ2モータ駆動方式が可能となるので、駆動モータに応じてモータ制御テーブルや演算データを切り換えることにより複数のモータを交互にセンサレス正弦波駆動可能となりモータ騒音を減らし、高効率で安定な回転駆動が可能となる。
(実施の形態4)
以下、本発明の第4の実施の形態について図15を用いて説明する。
図15は第4の実施の形態を示すブロック図で、図4のブロック図に電圧リミッタ76を追加したものであり電圧リミッタ76の動作についてのみ説明する。
電圧リミッタ76は、インバータ出力電圧Vaの上限値、下限値を設定するもで、図11に示したフローチャートの上限、加減設定と同じ動作を行う。すなわち、モータ誘起電圧に対して印加電圧の上限、下限値を設定し、PI制御による印加電圧設定値が上限値以上となった場合には、強制的に上限値に設定し、PI制御による印加電圧設定値が下限値以下となった場合には、強制的に下限値に設定するものである。
図6は、遅角制御のベクトル図を示す。q軸に対して電流位相を遅角設定するもので、q軸電流Iqに応じて有効電流Iaが増減するようにしたものである。
q軸に対して電流位相を遅らすためには、モータ誘起電圧Vrに対して印加電圧Vaを大きくする。モータ誘起電圧Vrに対する印加電圧Vaの比率を印加電圧定数kvnとするとkvn=Va/Vrで表される。印加電圧定数kvnを適当に設定することにより誘起電圧に対する電流位相をほぼ零、あるいは遅角設定できモータ効率を高くすることができる。
モータ電流位相を遅角設定すると、負荷増大によりモータトルクが増加してロータが遅れると電流位相はq軸に近づいてトルク電流Iqが増加するので自動的にトルクが増加し、脱調しにくく安定な動作を行う特長がある。電流進角の場合、ロータが遅れると逆にトルク電流が減少するので脱調し易くなる。よって、安定動作させるためにも電流遅角設定は非常に有利となる。
図13は、実施の形態2においても説明したように、ポンプモータの正転、逆転それぞれの回転数に対応した無効電流設定値Irsと、印加電圧定数kvnの最適設定値を示す特性図である。モータ回転数の二乗によりトルク電流が増加するので、無効電流設定値Irsもほぼ二乗で増加させ、印加電圧定数kvnも1から二乗で増加させることにより所定の遅角設定値γsにすることができる。ただし、kvn変化率は小さいので直線近似してもほとんど問題はない。
モータ電流位相を遅角設定するためには、モータ印加電圧Vaはモータ誘起電圧Vrよりも必ず高く設定する必要がある。すなわち、1以上に設定しないと電流進角となり、脱調したり電圧回生が生じる。
モータ印加電圧VaはPI制御の場合、式6に示されるように印加電圧定数kvn、誘起電圧定数ke、回転数Nの積に、誤差比例要素、誤差積分要素が加わるので、過度的に変動が大きくなりゲインを高くすると脱調する可能性がある。よって、式9に示すように印加電圧定数の上限値kvnmax、下限値kvnminにより印加電圧Vaの上限と下限を設定することにより脱調や異常電流を防止できる。印加電圧定数の下限値は通常1に設定され、上限値は1.2から1.3に設定すると位相γが大きくずれることはない。
以上述べたように、本発明はモータ誘起電圧とインバータ回路出力電流の位相が所定の遅角位相となるように印加電圧定数kvnを最適設定制御することによりセンサレス正弦波駆動の動作安定性を高めるものである。
特に、印加電圧定数を回転数に応じて制御した場合、印加電圧はモータ回転数に比例し、た値よりも高くなり、モータ電流位相をq軸とほぼ同じ、あるいは、q軸よりも少し遅れた位相に最適制御できるので、モータ効率を最大にして脱調がほとんどない安定回転駆動が可能となる。
なお、以上は無効電流設定値を回転数に応じて変更する場合の説明をしたが、回転数に応じて力率(sinφ、又はcosφ)を変更したり、あるいは位相φを変更しても同様であることは明らかである。