JP2005307284A - 超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品 - Google Patents

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Abstract

【課題】
本発明は、鰹削り刃、カンナ刃、パン切り刃、肉切り刃等の非常に鋭利で硬い超硬合金からなる工具の切削性を長持ちさせる表面処理方法に関するもので、現行切削工具は、使用開始当初は切れ味抜群で非常に使いやすいが、長期間使用してくると切れ味が低下して、先端を何度もダイヤモンド砥石などで研磨して使用しているのが現状である。このため切削性を向上させるため切削用途ごとに配合や焼結条件を最適化して実用に供している、靭性が乏しくなり耐久性が損なわれているのが現状である。
【解決手段】
本発明は、プラズマベースイオン注入・成膜法を用いて、超硬合金切削工具に数keV〜数十keVの高周波・高電圧の負パルス電圧を印加して、窒素イオンを超硬合金材料表層より50nm以上イオン注入することで新しい合金表層部を形成して上記の目的を達成し、必要に応じてダイヤモンドライクカーボン層をさらに形成して粘着しやすい切削物に対して、より切削性を向上させた超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、鰹削り刃、カンナ刃、パン切り刃、肉切り刃等の非常に鋭利で硬い超硬合金からなる切削工具の切削性を長持ちさせる表面処理方法及びその物品に関するものである。
現行の鰹削り刃、カンナ刃、パン切り刃、肉切り刃等の非常に鋭利で硬い超硬合金からなる切削工具は、使用開始当初は切れ味抜群で非常に使いやすいが、長期間使用してくると切れ味が低下して、先端を何度もダイヤモンド砥石などで研磨して使用しているのが現状である。
超硬合金は一般にWC-Co系合金であり、低温から高温まで高硬度で高強度の材料であることが知られている。用途に応じてWC-TiC-Co系合金、WC-TaC-Co系合金、WC-TiC-TaC-Co系合金などが用いられ、耐食性が要求される場合にはWC-Ni-Cr系合金が用いられるが、タングステンカーバイド(WC)の0.2〜10.0μmの粒子サイズ、粒度分布をコントロールして、コバルト(Co)やCo合金をバインダーとして焼結したものである。
切削性を向上させるには粒子を微粒子化して高硬度化を図ることが試みられているが、衝撃力に対する靭性が乏しくなり耐久性が損なわれる。このため切削用途ごとに配合や焼結条件を最適化して実用に供しているのが現状である。
本発明は超硬合金切削工具の表面層を、プラズマベースのイオン注入技術を用いて表面改質して、従来にない新しい超硬合金組成を表層部に形成し、粉末冶金プロセスでは出来ない、新規な超硬合金切削工具を提供するものである。
従来の超硬合金における低負荷用切削工具では、WC粒度を0.2〜0.8μmの微粒子サイズにコントロールして、Coバインダーを用いて高圧力で焼結し、Co含有量を低減したものが開発されていた。また衝撃力が加わる切削工具では、WC粒度を0.8〜5.0μmの粒子サイズにコントロールしてCoで高温焼結して、高負荷用切削工具として利用することが行われていた。またTiNやAlなどの硬質膜を被覆して切削性を向上させる試みもあったが鋭利な刃物では剥離や欠けが生じて使用できなかった。
しかしながら使用頻度の高い産業用の鰹削り刃や肉切断刃などでは、切れ味を良くするには鋭利な先端形状にする必要があり、鋭利な先端形状にすると機械的強度が低下して、不均一な応力や衝撃的な力が加わると、使用中に鋭利な先端部分が欠けたり、割れたりして切れ味が損なわれる問題があった。従って超硬合金中のWC/Co配合割りや粒度、焼結方法、形状などの工夫により、切れ味と耐久性を両立させることには限界があった。
従って本発明の主目的は、超硬合金切削工具の完成品を、後処理によって切削工具表面層のみを表面改質して、異質な材料を表面層に形成するのでなく、基材と地続きで明瞭な境界がなく高硬度、高強度、強靱性を維持したまま、剥離や欠けが生じにくく、切れ味を長期間維持できる製品を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、凹凸のある複雑形状を有する超硬合金切削工具表面に対しても耐久性で切削性に優れ、滑り性の良い表面を得ることができ、DLCの下地としてより均質な表面処理方法でCoの軟質領域を硬化して新規な物質を得た超硬合金切削工具の表面処理方法及びその物品を提供することにある。
本発明は、プラズマベースイオン注入・成膜法を用いて、超硬合金切削工具に数keV〜数十keVの高周波・高電圧の負パルス電圧を印加して、窒素イオンを超硬合金材料表面に注入することで上記の目的を達成した。具体的には真空チャンバー、真空排気系、ガス供給・処理系、高周波プラズマ源、負の高電圧パルス電源・高圧導入系と冷却系に構成された装置を用いて切削工具を表面改質する。超硬合金切削工具は特定(ガス種、真空度)の雰囲気中、高周波プラズマ源に電力を供給することによりガスプラズマを発生させ、被注入物(超硬合金切削工具)に負の高圧パルス電圧を加えると、プラズマ中の電子は排斥され、被注入物の周りにイオンシースが形成される。このイオンシースは被注入物の輪郭に沿って覆われ、その後負の電圧のこのイオンシースに印加されるため、イオンのみがあらゆる方向から被注入物に引き付けられ、被注入物に狙いとする元素をイオン注入されるものである。
すなわち、本発明の表面処理方法は0.1〜10Paの真空中で、窒素ガスプラズマを発生させ、この中に超硬合金切削工具をさらし、超硬合金材料に1〜50keV、100〜3000サイクルの高圧負パルスを印加して、窒素イオンを超硬合金材料表面に強制的に注入することにより、従来の粉末冶金プロセスでは得られなかった切削性改善表面処理方法及びその物品であることを特徴とする。
さらに超硬合金切削工具に窒素イオン注入をした後、0.1〜10Paの真空中で炭化水素系ガスを導入して炭化水素系ガスプラズマを発生させ、DLC層を少なくとも1μm以上成膜することにより、切削物のこびりつきを防止することも可能な表面処理方法を提供する。
ここで言う窒素ガスは空気中の窒素を分離・圧縮した窒素ガスボンベから供給されるガスであり、また炭化水素系ガスとして、メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン及びシクロヘキサノン、クロロベンゼン、二フッ化炭素、四フッ化炭素等からなるガス材料から選択される少なくとも1種類を主成分としたガスを使用し、真空チャンバー内にガス導入を行い高周波電圧を印可してガスをプラズマ化することによって、窒素およびカーボン元素もしくは分子イオンを生成させ、これを加速してイオン注入するのが好ましい。
超硬合金切削工具への窒素イオン注入は、窒素ガス99%以上の濃度のものを供給するが、DLCする際の炭化水素系ガスの選定方法としては、カーボン元素イオンを形成するガス系が好ましいが、プラズマ生成条件によりカーボン分子、あるいは水素、フッ素、塩素等との結合した分子イオンとしても有効である。メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエンガスにおいて、脂肪族系と芳香族系によってカーボンのイオン注入度合いやDLCの成膜状態が大きく変化することが知られており、金型材料の種類やプラズマ生成条件によって、最適なガス系を選定するのが望ましい。
超硬合金切削工具への窒素イオン注入時の圧力を0.l〜10Pa、印加する高圧負パルスを1〜50keV、100〜3000サイクルとしたのは、窒素ガスを十分にプラズマ化して窒素イオンを注入できる良好な条件だからである。従来の質量分離型のイオン注入では、窒素やメタン、アセチレン等の市販ガスを使用して、電界により励起させた後、窒素イオンのみを注入することが可能であった。しかし、プラズマ方式では、超硬合金材料に負の高電圧をパルス状に印加して、窒素と結合した分子イオンも不純物として同時に注入される。
本願発明者等は、これらの余分なイオンの存在下でも窒素イオンを十分に注入できる良好なプラズマ条件を種々検討した結果、上記のプラズマ条件が好適であることを見出した。特に好ましい負パルス電圧は、超硬合金材料の表面硬度向上や撥水性の観点からは10〜30keVでイオン注入するのが望ましく短時間処理の観点からはさらなる40keV以上の高電圧であるのが望ましいが、装置コストや安全性、発熱による金型材料のひずみ発生が顕著になり50keV以上は好ましくない。
イオン注入時間は30〜300分であることが好ましい。より好ましくは生産性の観点から60分以下であるが、超硬合金材料によって窒素イオン元素が注入されにくい基材もあり、材料成分とイオン注入条件によって選定する必要がある。プラズマベースのイオン注入では、基材に流れる電流量によって超硬合金材料の温度上昇が発生する。例えば数センチ角の超硬合金ブロックで20keVの電圧、6Aの電流で60分処理すると超硬合金材料は300℃程度、30keVの電圧、8Aの電流で60分処理すると超硬合金材料は400℃程度にまで上昇する。このため、あまり長時間の注入では極薄刃の大型刃物では変形や歪みの発生が起こり好ましくない。逆に注入時間が30分未満では、十分な窒素イオンの注入ができず、超硬合金材料との反応性が乏しく、高硬度化、切削性の改善を図ることが難しい。
従来の質量分離によるイオン注入では、注入電流がmA以下で、高エネルギーの場合では数Aのオーダーである。そのため、1017ions/cm2のイオン注入をするには数時間もかかってしまう。これに対してプラズマベースのイオン注入では、超硬合金材料に対して周囲から一度に大量の電流が流入するため、数A〜数十Aの電流が流れ、それにより短時間での窒素やカーボンイオン注入処理が行える。
超硬合金材料の種類により処理可能な温度は異なるが、WC−Co系超硬合金では500℃以下程度で処理するのが好ましい。切削工具の微細形状をした刃物では、長時間注入に伴う切削工具の変形抑制と超硬合金組織の変質を防止するため、少なくとも600℃以下が好ましい。
注入された窒素イオンは超硬合金表層から内部へと浸入して、注入エネルギーとその時の材料組成と昇温状態によって数十nmから数百nmイオン注入され、WC粉末を結合している一部のCoと化学的に反応して窒化コバルトを形成するものと考えられる。超硬合金は窒化コバルトの生成により、表層のみが高硬度化され、強靱な切削工具に変身する。イオン注入される窒素濃度は、表層より深さ方向に濃度が変化して表層付近ほど高濃度となり、深くなると低濃度となる。
超硬合金材料中の窒素濃度は表層付近から50nm付近の平均濃度として10at%以上あることが望ましい。イオン注入された窒素元素は、WC元素とは反応しにくく、主にコバルト層と反応し窒化コバルトとの混合状態で存在しているとみられる。なおイオン注入時にClやF元素が不純物として注入されると、超硬合金中の元素と結合して塩化物やフッ化物を形成するが、適度な量であれば硬度や切削性には大きな問題はない。
超硬合金刃物では、切削時に被切削物との摩擦熱により、表面が汚れ切削性が落ちてくることがある。このような場合には窒素イオン注入後にDLC成膜を行うことが可能である。
超硬合金に対してカーボンはなじみの良い成分であり、カーボンイオン注入後にアモルファスカーボンと言われるDLCを1.5μm程度成膜させると、窒素イオン注入しただけの超硬合金材料表面より、潤滑性が得られ離型効果が働き、汚染防止に有効に作用して好ましい。
超硬合金切削工具は、0.1〜10Paの真空中で窒素イオンを注入したのち炭化水素系ガスプラズマを発生させ、この中に超硬合金からなる切削工具をさらし、1〜50keV、100〜3000サイクルでプラズマ化したカーボンイオンを注入することが好ましい。これは超硬合金中にカーボンがイオン注入されることにより、成膜されるDLC被膜の密着性向上に非常に有効であるためである。
本発明の窒素イオン注入は不可欠であるが、カーボンイオン注入+炭化水素系ガスを用いてDLCを成膜することは必ずしも絶対条件ではない。本発明では高電圧のプラズマベースの窒素イオン注入をした後、従来から行われているDLC成膜プロセスで密着性の良い被膜を形成することでも実用的には問題がない。
本発明のDLC成膜は、超硬合金切削工具取付けホルダーと高電圧のフィードスルーと一体化する。高周波(RF)電力はフィードスルーとチャンバーの間に加え、電子をその間の電界変化によって往復運動させ、気体分子と衝突を繰返すことにより炭化水素系ガス分子を電離させ、高密度のプラズマを形成する。プラズマ中にはイオン、ラジカル、電子が共存するので、高圧パルス電圧を印加すると、プラズマ中のイオンを試料に注入することができ、高圧パルス電圧を印加されないと自己バイアス(通常数十ボルト)によるイオンを表面に堆積させ、この時ラジカル重合によりカーボン元素が結合し成膜することが出来る。この重畳方式のプラズマイオン注入・成膜装置を用いて、RF電力と高圧パルス電力の制御により、イオン注入・成膜或いはイオン注入と成膜の組み合わせが可能である。
またDLC膜の物性は、使用するガス種、ガス圧、印加電圧等によって異なるが、超硬合金切削工具との密着性に優れ、高硬度で平滑なDLCが好ましい。プラズマベースイオン注入・成膜装置では少なくとも3ステップのプロセスで成膜するのが好ましく、基板表面のクリーニング後に、カーボンイオン注入電圧より低い電圧で、メタン、アセチレン等のガスを導入してDLC成膜を行い、その後更に低電圧(数keV)のエネルギーでDLC成膜をするのが好ましい。この理由は、高エネルギーでDLC成膜を行うとDLC膜構造が乱れ、高硬度な被膜が得られにくいばかりでなく、成膜速度が得られにくいためである。
本発明方法によれば、プラズマベースイオン注入・成膜法を用いることで、窒素ガスプラズマからの窒素イオン注入により、超硬合金製切削工具には50nm以上の高濃度な窒化コバルト層が形成され、さらにDLC層を形成するとより超硬合金製切削工具表面の摩擦係数が低下し、快切削時間は大幅にことが判り、優れた特徴を有する超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品であることが判った。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の超硬合金切削工具への切削性改善表面処理方法について、プラズマイオン注入・成膜装置の概略構成を図1に基づいて説明する。この装置は、超硬合金切削工具1を設置ホルダー2にセットして、これを真空チャンバー3の中に固定する。真空チャンバー3は、排気装置4により内部を所定の真空度に保持することができる。この装置は所定の窒素ガスや炭化水素系ガスを、導入口5を通して導入され、窒素や炭化水素系ガスプラズマは設置ホルダー2の中心に印加する高周波電力によるプラズマ化され発生プラズマ6を形成する。このプラズマ中のイオン7は、印加電圧により引き付けられ、イオン注入される。
このイオン注入装置は、超硬合金切削工具1に高電圧の負電荷を印加する高電圧負パルス電源8と高周波(RF)電源9も具えている。高電圧負パルス電源8では、所定のエネルギーの負電荷を発生させ、高電圧用フィードスルー10を通じて超硬合金材料1に負電荷のパルスを印加する。さらに窒素イオン注入・DLC成膜時には、高電圧パルスと高周波を重ね合わせる重畳装置11通じて高電圧用フィードスルー10から電力を供給して、供給ガスをプラズマ化させイオン注入・成膜することが出来る。高電圧用フィードスルー10にはシールドカバー12が取り付けられフィードスルー10を防護している。
窒素ガスや炭化水素系ガスプラズマを形成すると共に超硬合金材料に負電荷のパルスを印加すると、プラズマ中の窒素あるいはカーボンイオンあるいはCHx、CFx、C2Fx等のイオンが超硬合金材料に引き付けられ、窒素またはカーボンイオンが注入される。超硬合金材料に負電荷のパルスを印加してイオンを注入するので、超硬合金材料が平板でなく凹凸のある立体形状物でも、電界が超硬合金材料の形状にそって発生し、この表面に対してはほぼ直角にカーボンイオンが衝突する。このため超硬合金材料に凹凸があっても超硬合金材料の表面全体にカーボンイオンを注入することができる。
カーボンイオン注入後、さらに同一装置内でDLCを成膜することが可能である。カーボンイオン注入は数keV以上好ましくは10keV以上の電圧でイオン注入されるが、DLC成膜は10keV以下の電圧で成膜する。この理由は、高エネルギーでDLC成膜を行うとDLC膜構造が乱れ、高硬度な被膜が得られにくいばかりでなく、成膜速度が得られにくいためである。
(実験例l)
このようなプラズマベースイオン注入・成膜装置を用いて、図2に示すような鰹削り刃Aタイプで、外寸法84×71×3mm厚の超硬合金切削工具を多段に積み上げて、次の条件でプラズマを発生させ、窒素イオン注入を行い切削加工性を評価した。
使用超硬合金材料:超硬合金F20グレード(富士ダイス株式会社製 F20番)
使用ガス種:窒素ガス
圧力:1.0Pa
注入エネルギー:20keV
注入時間:60分
印加周波数:1000Hz
前記の条件で窒素イオンを注入した超硬合金材料について、注入された窒素元素の深さ方向の分布を二次イオン質量分析装置(SIMS)で評価を行い、窒素の注入深さと注入量(Atomic Concentration(%))を求めた。また超硬合金表面の硬度をダイナミック硬度計にて硬度を測定し、さらに切削性を評価するため、鰹ぶしの切削性を快切削時間から定性的に評価した。なお快切削性とは鰹の削り節が安定して排出される時間(薄くて均一に削れる時間)を快切削時間とし、削り具合が悪くなってくると、ダイヤモンド砥石で切削刃面を研磨して再使用するまでの時間を測定したものである。
上記の鰹削り刃で特性を評価した結果、図5に示すように窒素は表層部に高濃度で注入されていることが判る。図の横軸は超硬合金材料表層からの深さを示し、原点が超硬合金材料の表面を示し、縦軸は材料中の窒素元素および主要元素の割合を示している。この結果から判るように超硬合金の表層部分では30〜45%の窒素濃度を示していると見られるが、本データーは絶対的な値ではない。窒素の注入深さは20keVでは50nm付近まで注入されているが、他の実験結果から、エネルギーが高いほど内部まで注入されることが判っている。さらに注入エネルギーが高いほど表層部分では窒素濃度は低く、内部に行くほど窒素濃度が高いことが他の実験から判っている。このことは印加電圧が高い程、材料温度の上昇が大きく、表層から注入されたカーボンイオンは拡散して内部に入るものと考えられる。
一方、超硬合金表面のダイナミック硬度を窒素イオン注入していない未処理のサンプルと比較した結果、20keVで60分窒素イオン注入したサンプルでは、硬度2350であったが、未処理サンプルでは硬度1700であった。また他の実験で30keVまで注入エネルギーを上げたサンプルでは硬度2420まで向上し、同様に20keVで180分間窒素イオン注入したサンプルでは硬度2560まで向上することが判った。このことから注入エネルギーが高く、注入時間が長い方がダイナミック硬度は向上することが判った。
実験例1で得られた鰹節削り刃の切削性を評価するため、快切削時間を同一イオン注入サンプル10枚について評価した。その結果、切削刃の再研磨までに要した快切削時間は10枚平均で39時間であった。これに対して窒素イオン注入していない未処理のサンプル刃10枚の平均快切削時間は22時間であった。このことから窒素イオン注入した超硬合金切削工具は2倍近いの快切削性を示すことが判った。
(実験例2)
さらに別のタイプの切削工具を用いて実験を行った。図3に示すような鰹削り刃Bタイプで外寸法85×70×3mm厚の超硬合金切削工具を多段に積み上げて、次の条件でプラズマを発生させ、窒素イオン注入を行い、切削加工性を評価した。
使用超硬合金材料:超硬合金F08グレード(富士ダイス株式会社製 F08番)
使用ガス種:窒素ガス
圧力:0.5Pa
注入エネルギー:30keV
注入時間:90分
印加周波数:2000Hz
前記の条件で窒素イオンを注入した超硬合金材料について、ダイナミック硬度計にて硬度を測定し、さらに切削性を評価するため鰹ぶしの切削性を快切削時間から実験例1と同様に定性的に評価した。その結果、30keVで90分窒素イオン注入したサンプルでは、硬度2640であったが、未処理サンプルでは硬度1700であった。また他の実験において30keV注入エネルギーで30分間窒素イオン注入したサンプルでは硬度2240まで向上することが判った。このことから注入エネルギーが高く、注入時間が長い方がダイナミック硬度は向上するが、短時間処理では注入効果が低下することが判った。
実験例2で得られた鰹節削り刃の切削性を評価するため、快切削時間を同一イオン注入サンプル10枚について評価した。その結果、切削刃の再研磨までに要した快切削時間は10枚平均で43時間であった。これに対して窒素イオン注入していない未処理のサンプル刃10枚の平均快切削時間は22時間であった。このことから窒素イオン注入した超硬合金切削工具は約2倍の快切削性を示すことが判った。
(実験例3)
さらに別のタイプの切削工具を用いて実験を行った。図4に示すような鰹削り刃Cタイプで外寸法83×70×3mm厚の超硬合金切削工具を多段に積み上げて、次の条件でプラズマを発生させ窒素イオン注入を行った後、アセチレンガスを用いてDLC成膜を1.5μm形成して切削加工性を評価した。
使用超硬合金材料:超硬合金F08グレード(富士ダイス株式会社製 F08番)
使用ガス種:窒素ガス
圧力:1.0Pa
注入エネルギー:15keV
注入時間:90分
印加周波数:1500Hz
DLC成膜時の使用ガス種:アセチレンガス
圧力:0.8Pa
注入エネルギー:5keV
注入時間:60分
印加周波数:1000Hz
前記の条件で窒素イオンを注入した後、DLCを1.5μm形成した超硬合金材料について、ダイナミック硬度計にて測定し、さらに切削性を評価するため鰹ぶしの切削性を快切削時間から実験例1と同様に定性的に評価した。その結果、15keVで90分窒素イオン注入し更にDLC成膜したサンプルでは、硬度2240であったが、未処理サンプルでは硬度1700であった。また他の実験において15keV注入エネルギーで30分間窒素イオン注入したサンプルでは硬度2040まで向上することが判った。このことから注入エネルギーがやや低くても、未処理のサンプルに比較するとダイナミック硬度は向上し、例え30分と短時間処理でも注入効果はあることが判った。
実験例3で得られた鰹節削り刃の切削性を評価するため、快切削時間を同一イオン注入サンプル10枚について評価した。特に実験例3で得られた鰹節削り刃はDLC被膜が形成されていることを評価するため、切削物の粘着性を評価した。その結果、切削刃の再研磨までに要した快切削時間は10枚平均で45時間まで向上し、切削物が刃から簡単に剥離しやすいことが判った。これに対して窒素イオン注入していない未処理のサンプル刃10枚の平均快切削時間は22時間であった。このことから窒素イオン注入した超硬合金切削工具は2倍以上の快切削性と剥離性を示すことが判った。
なお本実施例では示していないが、従来のプラズマCVD法において2μm膜厚でDLC成膜した超硬合金製切削工具において、実験例3と同様の鰹節削り刃の切削性と剥離性を評価した結果、窒素イオン注入しない未処理超硬合金切削工具と同等のレベルで、快切削時間は10枚平均で23時間程度となり、切削物の刃からの剥離性はやや良好程度であった。
これは窒素イオン注入がなく、超硬合金にDLC成膜を施したけでは被膜が剥離しやすく、切削性改善の表面処理になりにくいことが明らかになった。
また、本発明の超硬合金切削工具は、窒化やカーボンイオンの注入により表面硬度が高く、潤滑性が増大し、一般に機械用工具に使用される切削バイトや切削ドリル等に対しても同様に期待できる。
本発明の金型処理方法に用いるプラズマベースイオン注入・成膜装置の構成図である。 実験に用いた鰹削り刃Aタイプの平面および断面の形状を示す。 実験に用いた鰹削り刃Bタイプの平面および断面の形状を示す。 実験に用いた鰹削り刃Cタイプの平面および断面の形状を示す。 実験例1における鰹削り刃への窒素イオン注入分布を示す。
符号の説明
1 超硬合金切削工具
2 設置ホルダー
3 真空チャンバー
4 排気装置
5 ガス導入口
6 発生プラズマ
7 プラズマ中のイオン
8 高電圧負パルス電源
9 高周波(RF)電源
10 高電圧用フィードスルー
11 重畳装置
12 シールドカバー
13 超硬合金切削工具平面
14 超硬合金切削工具断面
15 切削刃面
16 工具取付け穴
17 切削刃面逃げ溝
18 DLC成膜面

Claims (8)

  1. 0.1〜10Paの真空中で、窒素ガスプラズマを発生させ、この中に超硬合金からなる切削工具をさらし、超硬合金工具に1〜50keV、100〜3000サイクルの高電圧負パルスを印加して、窒素イオンを超硬合金材料表面に注入することを特徴とする超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  2. 0.1〜10Paの真空中で窒素イオンを注入したのち、炭化水素系ガスプラズマを発生させ、この中に超硬合金からなる切削工具をさらし、超硬合金材料に1〜10keV、100〜3000サイクルの高圧負パルスを印加して、カーボンイオンを超硬合金材料表面に注入しながらダイヤモンドライクカーボン(DLC)層表層に堆積することを特徴とする超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法。
  3. 炭化水素系ガスとして、メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン及びシクロヘキサノン、クロロベンゼン、二フッ化炭素、四フッ化炭素等からなるガスから選択される少なくとも1種類を主成分としたガスを使用してカーボンイオンを注入した後、DLC層を形成したことを特徴とする請求項1に記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  4. 少なくとも超硬合金切削工具への印加電圧が10keV以上で、窒素イオン注入時間が30〜300分であることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  5. 超硬合金切削工具が主として4〜6族遷移金属元素を多く含有する高硬度な超硬合金材料からなることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  6. 超硬合金切削工具がタングステンカーバイドとコバルトを主成分とする材料で且つ窒素イオン注入層が超硬合金切削工具表層より50nm以上であることを特徴とする請求項1記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  7. 超硬合金切削工具がタングステンカーバイドとコバルトを主成分とする材料で且つ切削工具表層の窒素付近の濃度が10at%以上であることを特徴とする請求項1記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。
  8. 超硬合金切削工具がタングステンカーバイドとコバルトを主成分とする材料で且つ窒素イオン注入層が切削工具表層より50nm以上あり、その表面にダイヤモンドライクカーボン層を少なくとも1μm以上成膜して、表面摩擦係数を0.15以下にしたことを特徴とする請求項1記載の超硬合金切削工具の切削性改善表面処理方法及びその物品。

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