JP2005290485A - 鋼板の歪時効処理方法および高強度構造部材の製造方法 - Google Patents

鋼板の歪時効処理方法および高強度構造部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【要 約】
【課 題】 高い歪時効硬化が得られ、歪時効硬化後の延性低下が少ない、鋼板の歪時効処理方法を提案する。
【解決手段】 C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、Nb、Moの1種または2種を含み、P、S、Al、Nを適正量に調整した鋼板に、予歪として塑性歪5%以上を付与する予変形処理と、熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)のパラメータであるT(20+log t)が(11000+650Mn+2800Mo+9000Nb)〜(14000+650Mn+2800Mo+9000Nb)の範囲内となる熱処理を施す。これにより、歪時効処理後の延性を極度に低下させることなく、150MPa以上の引張強さの上昇を得ることができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、曲げ加工性、伸びフランジ性、絞り加工性等のプレス成形性が良好で、主として自動車の構造部品用として広範囲に適用可能な、歪時効硬化特性に優れた薄鋼板に係り、とくに、歪時効処理後の延性低下を抑制できる歪時効処理方法に関する。なお、ここでいう歪時効処理は、構造部材の製造に際し、プレスなどによる成形加工と、その後に強度上昇のために行なう熱処理とを組合わせた処理をも含むものとする。また、ここでいう鋼板には、鋼帯をも含むものとする。
また、本発明でいう鋼板には、冷間圧延後焼鈍を施して製造される、いわゆる冷延鋼板のほか、冷間圧延後に焼鈍しさらに溶融亜鉛めっきや電気めっきなどのめっきを施された冷延めっき鋼板等の表面処理鋼板をも含むものとする。
近年、地球環境の保全問題からの排気ガス規制に関連して、自動車の車体重量の軽減が極めて重要な課題となっている。最近、車体重量の軽減のために、自動車用鋼板を高強度化して鋼板板厚を低減することが検討されている。鋼板を素材とする自動車の車体用部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される鋼板には、優れたプレス加工性を有することが要求される。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると、降伏応力が上昇し形状凍結性が劣化するとともに、延性が低下して、プレス成形性が低下する傾向となる。
また最近では、衝突時に乗員を保護するため、自動車車体の安全性が重視され、そのために衝突時における安全性の目安となる耐衝撃特性の向上が要求されている。耐衝撃特性の向上には、完成車での強度が高いほど有利になる。したがって、自動車部品の成形時には、強度が低く、高い延性を有して成形性に優れ、完成品となった時点には、強度が高くて耐衝撃特性に優れる鋼板が最も強く望まれている。
このような要望に対し、プレス成形性と高強度化とを両立させた鋼板が開発された。この鋼板は、プレス加工後に100〜200℃の高温保持を含む塗装焼付処理を施すと、降伏応力が上昇する塗装焼付硬化型鋼板である。この鋼板では、最終的に固溶状態で残存するC量(固溶C量)を適正範囲に制御し、プレス成形時には軟質で、形状凍結性、延性を確保し、プレス成形後に行われる塗装焼付処理時に、残存する固溶Cがプレス成形時に導入された転位に固着して、転位の移動を妨げ、降伏応力を上昇させる。しかしながら、塗装焼付硬化型自動車用鋼板では、降伏応力は上昇させることができるものの、引張強さまでは上昇させることができなかった。
また、特許文献1には、C:0.08〜0.20%、Mn:1.5〜3.5%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織がフェライト量5%以下の均一なベイナイトもしくは一部マルテンサイトを含むベイナイトで構成された焼付硬化性高張力冷延薄鋼板が開示されている。特許文献1に記載された冷延薄鋼板は、連続焼鈍後の冷却過程で400〜200℃の温度範囲を急冷し、その後を徐冷とすることにより、組織を従来のフェライト主体の組織からベイナイト主体の組織として、従来になかった高い焼付け硬化量を得ようとするものである。
しかしながら、特許文献1に記載された冷延薄鋼板では、塗装焼付け後に降伏応力が上昇し、従来になかった高い焼付け硬化量が得られるものの、依然として引張強さまでは上昇させることができず、耐衝撃特性の向上が期待できないという問題があった。
プレス成形後に熱処理を施し、降伏応力のみならず引張強さをも上昇させようとする鋼板が、いくつか提案されている。
例えば、特許文献2には、C:0.02〜0.13%、Si:2.0%以下、Mn:0.6〜2.5%、sol.Al:0.10%以下、N:0.0080〜0.0250%を含む鋼を、1100℃以上に再加熱し、850〜950℃で仕上圧延を終了する熱間圧延を施し、ついで15℃/s以上の冷却速度で150℃未満の温度まで冷却し巻取り、フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織とする、熱延鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載された技術で製造された鋼板は、歪時効硬化により降伏応力とともに引張強さが増加するものの、150℃未満という極めて低い巻取温度で巻き取るため、機械的特性の変動が大きく、また、プレス成形−熱処理による降伏応力等の増加量のばらつきが大きいという問題があった。
また、特許文献3には、熱延板をめっき原板とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%、Al:0.1%以下、Cu:0.8〜2.0%を含む鋼スラブを巻取温度:530℃以下の条件で熱間圧延を行い、続いて530℃以下の温度に加熱し鋼板表面を還元したのち、溶融亜鉛めっきを施すことにより、成形後の熱処理による著しい硬化が得られるとしている。しかしながら、この方法で製造された鋼板では、成形後熱処理により著しい硬化を得るためには、熱処理温度を500℃以上とする必要があり、熱処理温度が高く、実用上問題を残していた。
また、特許文献4には、熱延板あるいは冷延板をめっき原板とし、成形後の熱処理により強度上昇が期待できる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。この方法は、C:0.01〜0.08%を含み、Si、Mn、P、S、Al、Nを適正量としたうえで、Cr、W、Moの1種または2種以上を合計で0.05〜3.0%含有する鋼を熱間圧延したのち、あるいはさらに冷間圧延または、調質圧延し焼鈍したのち、溶融亜鉛めっきを行い、その後、加熱合金化処理を施すというものである。この鋼板は、成形後、200〜450℃の温度域で加熱することにより引張強さ上昇が得られるとされる。しかしながら、引張強さ上昇量は最大でも140MPa程度であり、最近のユーザーの要望に対しては不十分なものである。
また、特許文献5には、C:0.15%以下、Mn:3.0%以下、Cu:0.5〜3.0%を含み、Si、P、S、Al、Nを適正量を含む組成と、組織を主相としてのフェライト相と、面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む第二相との複合組織としたプレス成形性と歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板が開示されている。このCu含有鋼板では、成形後に150〜350℃の温度域で加熱することにより、80MPa以上、引張強さが上昇するとしている。しかしながら、特許文献5に記載された技術では、Cu含有を必須としており、Cu含有は鋼材のリサイクルという観点からは好ましくない。また特許文献5にはCuに代えて、Mo、Cr、Wのうちから選ばれた1種または2種以上を含有する鋼板も開示されているが、この場合では、鋼板の引張強さ上昇量は最大でも140MPa程度であり、最近のユーザーの要望に対しては不十分なものである。
特公平5−24979号公報 特公平8−23048号公報 特許第2802513号公報 特開平10−310824号公報 特開2001−348645号公報
上記した従来技術に記載された技術で製造された鋼板では、塑性歪を導入した後に熱処理を施す(歪時効処理)と、歪時効硬化して強度はある程度確かに増加するが、150MPa以上の著しい強度上昇を示す鋼板では延性が低下し、このため、これら鋼板は、衝突時に破壊することなく衝突のエネルギーを吸収することが要求される部材への適用が難しいという問題があった。このため、高い歪時効硬化が得られ、しかも歪時効硬化後の延性の低下を抑制できる、鋼板の歪時効処理方法、あるいは歪時効硬化特性に優れた鋼板を用いて、延性に優れた高強度構造部材とすることができる、高強度構造部材の製造方法が要望されていた。
本発明は、上記した要望に鑑みてなされたものであり、高い歪時効硬化が得られ、歪時効硬化後の延性低下が少ない、鋼板の歪時効処理方法、および高強度構造部材の製造方法を提案することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を達成するために、歪時効処理後の引張強さ上昇量および延性への合金元素および歪時効処理条件の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を低炭素域とし、適正含有量範囲内のNb、Moを含有し、さらに加えて、析出物サイズを32nm以下に制御した熱延板を冷間圧延・焼鈍を施して得られた冷延鋼板に、塑性歪5%以上を付与する予変形処理を施したのち、Mn、Mo、Nb含有量によって規定される適切な温度、保持時間の条件で熱処理することにより、著しい引張強さの上昇が得られるとともに、熱処理後の延性の低下が少ないことを見出した。
まず、本発明者らが行った基礎的な実験について説明する。
質量%で、C:0.08%、Si:0.25%、Mn:1.9%、P:0.01%、S:0.002%、Al:0.032%、N:0.002%、Mo:0.19%、Nb:0.05%を含有する組成のシートバー(鋼片)を、1250℃に加熱し均熱した後、仕上圧延終了温度が900℃となるように3パス圧延を行い板厚4.0mmの熱延板とし、仕上圧延終了後、50℃/sで冷却し、コイル巻取り処理として400℃で1h保持する保温処理を行った。得られた熱延板の析出物の平均粒径は17nmであった。なお、析出物の平均粒径は、各熱延板の組織を透過型電子顕微鏡(倍率10万倍)で10視野以上観察し、画像解析装置を用いて各視野における各析出物の面積を求め、この面積から円相当直径を求め各析出物の粒径として、各視野における析出物の平均粒径を求め、測定した全視野の平均値を各熱延板の平均値とした。なお、析出物の平均粒径を求めるに際しては、各視野において円相当直径で80nmを超える粗大な析出物を除き、粒径80nm以下の析出物について、上記したように析出物の平均粒径を求めた。
円相当直径で80nmを超える析出物を除外したのは、これら析出物は比較的安定な析出物であり、冷間圧延後の焼鈍時に溶解することが期待できないと考えたからである。なお、粒径80nm以下の析出物は概ね炭化物であった。
引続き、熱延板に圧下率:60%の冷間圧延を施して板厚1.6mmの冷延板とした。ついで、これらの冷延板に、800℃で40sの焼鈍を施したのち、300℃まで平均冷却速度20℃/sで冷却した。
得られた冷延鋼板について、引張特性と、さらに、歪時効硬化特性について調査した。
まず、得られた冷延鋼板から試験片を採取し、これら試験片に引張予歪(塑性歪)量5%の予変形処理を施し、ついで種々の条件で熱処理を施したのち、引張試験を実施し引張特性を求め、歪時効硬化特性を調査した。歪時効硬化特性は、熱処理前後の引張強さ増加量ΔTSで評価した。ΔTSは、熱処理を施した後の引張強さTSHTと、熱処理を施さない場合の引張強さTSとの差{=(熱処理後の引張強さTSHT)−(予変形処理前の引張強さTS)}とした。また、歪時効処理後の延性については、強度レベル、予歪量の違う試料の歪時効による延性の低下を等価に評価するため、L[=(熱処理後の全伸びElHT)/{(予変形処理前の全伸びEl)−(予変形量ε)}]を用いて評価した。なお、引張試験は、圧延方向から採取したJIS 5号試験片を用いて実施した。
得られた結果を、ΔTS、Lと、パラメータP(=T(20+logt))との関係で図1に示す。パラメータPは、熱処理温度T(K)と熱処理時間t(s)とを等価に扱うパラメータであり、100℃から500℃の範囲において、P値が同じであれば熱処理温度T(K)と熱処理時間t(s)とが変化してもほぼ同様のΔTS、Lが得られることを確認している。
図1から、Pが13200〜16200の範囲で熱処理を施すことにより、Lが0.4以上でかつΔTSが150MPa以上という高い歪時効硬化特性を示すが、Pが11200〜13200の範囲では熱処理後の延性が若干低くなっている。このことから、ΔTSが150MPa以上の高い歪時効硬化と、かつ自動車衝突時に破壊することなく、衝撃を吸収することができると考えられるL:0.4以上の高延性を得るには、予変形処理後にP値を適正範囲とする熱処理を行なう必要があることを知見した。
このような適正熱処理範囲が存在することについて、本発明者らは、つぎのように考えている。この実験で使用した鋼板には、Mn、Nb、Mo等を含んでおり、歪時効硬化による強度上昇(ΔTS)は、Nb、Mo等を含む微細炭化物の析出によると考えられる。熱処理が低温、短時間であるP値の低い範囲では、微細炭化物による析出強化が十分とならず、ΔTSは低いが、析出強化が十分に起こり、ΔTSが最大となるP値の領域では、極微細炭化物が転位に強固に固着するため、再加工時に転位の運動が妨げられ、延性が低下するものと考えられる。そこで、本発明者らは、微細炭化物等の析出物を転位以外の母相領域にも析出させ、転位の運動を容易にすることができる、適正なP値の範囲が存在し、このP値の範囲で熱処理すれば、延性を低下させることなく、高いΔTSを確保できるものと考えた。
さらに、本発明者らは、適正なP値の範囲におよぼす合金元素の影響を調査した。その結果、適正なP値の範囲が使用する鋼板のMn、Mo、Nb含有量に依存することを見出した。適正なP値の範囲がMn、Mo、Nb含有量に依存する理由については現在までのところ明確になっていないが、本発明者らは熱処理中にCと相互作用を有すると考えられているMn、Nb、MoがCの拡散を遅らせるため、微細な炭化物の析出および成長が遅れ、適正なP値の範囲を高いP値側に移動させるものと考えている。本発明者らの更なる研究により、これら元素の適正なP値への寄与は、650Mn+2800Mo+9000Nbで表せることを見出した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)鋼板に歪時効処理を施し歪時効硬化させるにあたり、前記鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有する鋼板とし、前記歪時効処理が、塑性歪5%以上の予歪を付与する予変形処理を施したのち、次(1)式
11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
(ここで、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(s)、Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理を施す処理であることを特徴とする、鋼板の歪時効処理方法。
(2)(1)において、前記鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有し、粒径80nm以下の析出物について求めた平均粒径が32nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板を、冷間圧延し、ついで(Ac変態点−100℃)以上の温度域で焼鈍を施してなる鋼板とすることを特徴とする鋼板の歪時効処理方法。
(3)(1)または(2)において、前記鋼板が前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti、Vのうちの1種または2種を合計で0.4%以下含有することを特徴とする鋼板の歪時効処理方法。
(4)素材鋼板に成形加工を施したのち、熱処理を施して高強度構造部材とするに当たり、前記素材鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有する鋼板とし、前記成形加工を、塑性歪5%以上となる加工とし、該成形加工後に施す前記熱処理を次(1)式
11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
(ここで、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(s)、Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理とすることを特徴とする高強度構造部材の製造方法。
(5)(4)において、前記素材鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、N:0.02%以下を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有し、粒径80nm以下の析出物について求めた平均粒径が32nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板を、冷間圧延し、ついで(Ac変態点−100℃)以上の温度域で焼鈍を施してなる鋼板とすることを特徴とする高強度構造部材の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記素材鋼板が前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti、Vのうちの1種または2種を合計で0.4%以下含有することを特徴とする高強度構造部材の製造方法。
本発明によれば、高い歪時効硬化と歪時効硬化後の高延性とがともに得られ、構造部材としての高い強度と優れた延性を確保でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、延性に優れた高強度構造部材を容易に製造でき、自動車車体の軽量化に大きく寄与できるという効果もある。
本発明で使用する鋼板は、引張強さTS:440MPa以上を有し、歪時効硬化特性に優れた高張力鋼板である。
本発明でいう、「歪時効硬化特性に優れた」とは、予歪として、塑性歪量5%以上の予変形処理を行い、ついで次(1)式
11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
(ここで、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(s)、Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理を施したときの、熱処理前後の引張強さ増加量ΔTS{=(熱処理後の引張強さ)−(予変形処理前の引張強さ)}が150MPa以上となることを意味する。この熱処理により降伏応力YSも上昇し、ΔYS{=(熱処理後の降伏応力)−(予変形処理前の降伏応力)}が150MPa以上となる。
また、本発明の高強度構造部材において、「優れた延性を有する」とは歪時効による延性の低下を表すパラメータ:Lが0.4以上となることを意味する。
まず、本発明で使用する鋼板の組成限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.01〜0.15%
Cは、鋼板の強度を増加し、また、予変形−熱処理後の強度増加に影響する元素であり、0.01%以上含有することが必要である。なお、より好ましくは0.02%以上である。一方、0.15%を超える含有は、鋼中の炭化物の分率が増加し、延性、さらにはプレス成形性を低下させる。さらに、より重要な問題として、C含有量が0.15%を超えると、スポット溶接性、アーク溶接性等が顕著に低下する。このため、本発明では、C含有量は0.15%以下に限定した。なお、成形性の観点からは0.10%以下とするのが好ましい。
Si:2.0%以下
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な強化元素であり、0.01%以上含有することが好ましい。その含有量が2.0%を超えると、プレス成形性の劣化を招くとともに、表面性状が悪化する。このため、Siは2.0%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜1.5%である。
Mn:3.0%以下
Mnは、鋼を強化する作用があり、また、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。また、Mn量を増加させるとAr点が下がり、焼鈍冷却時にフェライト変態がより低温で起こるようになるため、焼鈍後のフェライト中の転位密度が高くなる。この焼鈍後の転位密度の増加は予歪量を増加させるのと同様の効果を示し、微細炭化物等の歪誘起析出を促進するため、歪時効処理後により大きな強度上昇を得ることができるようになる。このような効果を得るためには、Mnは1.0%以上含有することが好ましい。なお、より好ましくは1.5%以上である。一方、3.0%を超える含有は、プレス成形性および溶接性が劣化する。このため、Mnは3.0%以下に限定した。
P:0.1%以下
Pは、鋼を強化する作用を有する元素であり、所望の強度に応じて、0.005%以上含有することが好ましい。一方、過剰に含有するとプレス成形性が劣化する。このため、Pは0.1%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、0.05%以下とするのが好ましい。
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.02%以下に低減するとさほど悪影響をおよぼさなくなる。このため、Sは0.02%を上限とした。なお、優れた伸びフランジ成形性を要求される場合には、Sは0.010%以下とするのが好ましい。
Al:0.1%以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、0.1%を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず、逆にプレス成形性が劣化する。このため、Alは0.1%以下に限定した。なお、本発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよい。これらの脱酸法による鋼板も本発明で使用する鋼板の範囲に含まれる。その際、CaやREM等を溶綱に添加しても、何ら問題はない。CaやREM等を含む鋼板も本発明で使用する鋼板の範囲に含まれるのは、勿論である。
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であり、0.001%以上含有することが好ましいが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の延性、さらにはプレス成形性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合には0.01%以下、より好ましくは0.008%以下である。
Nb:0.01〜0.2%、Mo:0.05〜2.0%のうちから選ばれた1種または2種
Nb、Moは、いずれも鋼板の歪時効硬化(予変形−熱処理後の強度増加)を顕著に増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素の一つである。本発明では、Nb、Moのうちから選ばれた1種または2種を含有させ、熱延板の組織を32nm以下、好ましくは30nm以下の極微細炭化物等の析出物が析出した組織とし、冷間圧延、再結晶焼鈍を施すことにより、予変形−熱処理時に極微細なNb、Moの1種または2種を含む炭化物等が歪誘起析出し、ΔTS:150MPa以上の引張強さの増加が得られる。Nb:0.01%未満、Mo:0.05%未満では、たとえ予変形−熱処理条件、熱延板析出物の大きさを変化させても、ΔTS:150MPa以上の引張強さの増加は得られない。一方、Nb:0.2%、Mo:2.0%を超える含有は、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となるうえ、プレス成形性の劣化を招く。このため、Nbは0.01〜0.2%、Moは0.05〜2.0%に限定した。なお、より好ましくはNbは0.015〜0.1%、Moは0.1〜1.0%である。
また、本発明では、上記した基本成分に加えてさらに、Ti、Vの1種または2種を合計で0.4%以下含有することが好ましい。
Ti、Vの1種または2種:合計で0.4%以下
Ti、Vは、いずれも炭化物形成元素であり、歪時効硬化を利用した高強度化に有効に作用するため、必要に応じ選択して含有できる。なお、このような効果は単独であれば、Ti:0.01%以上、V:0.01%以上で、複合する場合には合計で0.01%以上の含有で顕著となる。しかし、Ti、Vのうちの1種または2種を合計で0.4%超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Ti、Vは合計で0.4%以下に限定するのが好ましい。
なお、上記した成分以外に、とくに限定してはいないが、B:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Ca:0.1%以下、REM:0.1%以下等を含有してもなんら問題はない。
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下が許容できる。
つぎに、本発明で使用する鋼板の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成の鋼スラブを素材とし、該素材を熱間圧延したのち、冷却し巻き取り熱延板とする熱延工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に焼鈍を施し冷延焼鈍板とする焼鈍工程と、を順次施す。
使用する鋼スラブは、転炉等の公知の溶製方法で溶製した溶鋼を、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で鋼スラブとするのが好ましいが、造塊法、薄スラブ連鋳法をもちいても何ら問題はない。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
熱延工程では、上記した鋼スラブを加熱し、熱間圧延を施したのち、冷却し巻き取り熱延板とする。熱延工程では、スラブ加熱温度を900℃以上、仕上圧延出側温度を700℃以上とすることが好ましい。そして、本発明では、熱延工程における冷却および巻き取りを、好ましくは20℃/s以上の冷却速度で600℃以下まで冷却する冷却とし、冷却後巻き取る工程とする。
スラブ加熱温度:900℃以上
スラブ加熱温度が900℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大するため、スラブ加熱温度は900℃以上とすることが好ましい。なお、酸化重量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることはいうまでもない。
仕上圧延出側温度:700℃以上
仕上圧延出側温度を700℃以上とすることにより、冷延および再結晶焼鈍後に優れた成形性が得られる均一な熱延母板組織を得ることができる。一方、仕上圧延出側温度が700℃未満では、熱延母板組織が不均一になるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時のトラブルが発生する危険性が増大する。このようなことから、熱延工程の仕上圧延出側温度は700℃以上とするのが好ましい。
冷却速度:20℃/s以上
熱間圧延後の冷却は、仕上圧延出側温度から巻取温度までの平均冷却速度で20℃/s以上とすることが好ましい。冷却速度が平均で20℃/s未満では、炭化物等の析出物が粗大化し、熱延板が平均粒径32nm以下、好ましくは30nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板とならず、予変形−熱処理時に極微細なNb、Moの1種または2種を含む炭化物等の析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。このため、仕上圧延出側温度から巻取温度までの平均冷却速度は20℃/s以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは30℃/s以上である。
巻取温度:600℃以下
前記冷却速度で600℃以下まで冷却し巻取る。この際、冷却の終点である巻取温度が600℃を超えると、析出物が粗大化し、熱延板が平均粒径32nm以下、好ましくは30nm以下の炭化物等の析出物が析出した組織を有する熱延板とならず、予変形−熱処理時に極微細なNb、Moの1種または2種を含む炭化物等の析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。このため、巻取温度は600℃以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは500℃以下、200℃以上である。巻取温度が、200℃未満では、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の鋼板使用において不具合を生じる危険性が増大する。
なお、本発明における熱延工程では、熱間圧延の圧延荷重を低減するために仕上圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
上記した熱延工程により得られた熱延板は、平均粒径32nm以下、好ましくは平均粒径30nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板となる。なお、該平均粒径は、粒径80nm以下の析出物について求めた析出物平均粒径である。粒径が80nmを超える粗大な析出物は比較的安定な析出物であり、冷間圧延後の焼鈍時に溶解することが期待できない。80nm以下の微細な析出物について種々検討したところ、次の結論を得た。すなわち、熱延板の析出物を平均粒径32nm以下、好ましくは30nm以下の析出物とすることにより、該熱延板に冷延工程−焼鈍工程を施した冷延焼鈍板が、予変形−熱処理後に極微細なNb、Moの1種または2種を含む炭化物等の析出による顕著な強度上昇を示す。析出物の平均粒径が32nmを超えて粗大化すると、予変形−熱処理後にΔTS:150MPa以上の顕著な強度上昇が得られない。炭化物等の析出物が微細になると、界面エネルギーや歪エネルギーが高くなるため炭化物等の析出物が不安定となりさらに、その後の冷延工程により導入された高密度の転位との相互作用により一層不安定となって、焼鈍工程で析出物が溶解するものと考えられ、その結果、その後の予変形−熱処理により極微細炭化物等の析出物として歪誘起析出し、強度が顕著に上昇するものと考えられる。
ついで、このような組織を有する熱延板に、冷延工程を施す。冷延工程では、熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、とくに限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが望ましい。圧下率が40%未満では、後工程である再結晶焼鈍時に、再結晶が均一に起こりにくくなる。
ついで、冷延板に焼鈍を施し冷延焼鈍板とする焼鈍工程を施す。
焼鈍は、連続焼鈍ラインまたは連続溶融亜鉛めっきラインのいずれかで行うのが好ましい。焼鈍は、(Ac変態点−100℃)以上の温度域で行うことが好ましい。焼鈍温度が(Ac変態点−100℃)未満では、顕著な強度の上昇が得られない。焼鈍温度は、熱延板の炭化物等の析出物を溶解するという観点から(Ac変態点−100℃)以上できるだけ高温であることが好ましい。一方、(Ac変態点+100℃)を超えると、結晶粒が粗大化するとともに、プレス成形性が劣化しやすくなるため(Ac変態点+100℃)以下とすることが好ましい。なお、Ac変態点は上昇速度5℃/sで昇温中の熱膨張−温度曲線の測定により求めるものとする。
また、焼鈍後の冷却速度は、1℃/s以上とすることが好ましい。焼鈍後の冷却速度が1℃/s未満では、冷却中に炭化物等の析出物が析出しやすくなり、予変形−熱処理時に極微細なNb、Moの1種または2種を含む炭化物等の析出物の析出による十分な強度上昇が得られない場合がある。なお、焼鈍後の冷却停止温度は、400℃以下とすることが好ましい。
また、冷延焼鈍工程後の冷延焼鈍板に、形状、表面粗さ等の調整のために、伸び率:10%以下の調質圧延を施してもよい。
なお、本発明で使用する鋼板は、上記した冷延焼鈍板に、溶融亜鉛めっき(合金系を含む)を施した溶融亜鉛めっき鋼板、あるいはすずめっき等のめっき鋼板、あるいはほうろう等の表面処理を施した表面処理鋼板としてもよい。また、本発明で使用する鋼板には、溶融亜鉛めっき後、化成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の改善のために特殊な処理を施した鋼板としてもよい。
本発明では、上記した組成を有し、好ましくは上記した製造方法で製造された歪時効硬化特性に優れた鋼板に、歪時効処理として、塑性歪5%以上の予歪を付与する予変形処理を施したのち、次(1)式
11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
(ここで、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(s)、Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%))
を満足する、熱処理温度T(K)と熱処理時間t(s)での熱処理を施す。
本発明における予変形処理では、予歪として、塑性歪5%以上を付与する。
歪時効処理において、予歪(予変形)量は重要な因子であり、本発明では予歪として、塑性歪5%以上を付与する。予歪として付与する塑性歪が5%未満では、導入される転位密度が低く、そのため歪時効硬化量が低くなり所望の歪時効硬化特性が確保できなくなる。なお、予歪量の上限は、歪付加方法により異なるため、特に限定しないが、局部変形が開始するまでの歪とすることが好ましい。
なお、ここでいう「塑性歪」は、一軸以外の、等二軸、あるいは曲げ等による塑性歪でもよい。一軸以外の場合は、塑性歪は一軸相当塑性歪を用いるものとする。なお、一軸相当塑性歪は、下記のような方法で求める。
まず、加工後の試験片の引張試験を行い、該引張試験における塑性変形開始時の真応力を求める。次に、加工前の原板から採取した試験片の引張試験により求めた真応力−真歪曲線から、上記のようにして求めた塑性変形開始時の真応力と原板の真応力が一致する際の原板の歪量(塑性歪量)を求め、その値を一軸相当塑性歪と定義する。このようにして、その加工による一軸相当塑性歪を求め、所望の加工において、塑性歪をε%以上の予歪を付与するように調整すればよい。
なお、本発明者らは、自動車用鋼板が適用される変形様式を想定して、予歪量がその後の歪時効硬化特性に及ぼす影響について調査した。その結果、極めて深い絞り加工以外はおおむね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、また、実部品においては、この一軸相当歪量がおおむね5%を上回っていること、また、部品強度が予歪5%の歪時効処理後に得られる強度と良く対応すること、という結果を得た。これらのことからも、本発明における予変形処理では、予歪として、5%以上の塑性歪(一軸相当塑性歪)を付与するものとした。
予変形処理後の熱処理は、鋼板のMn、Mo、Nb含有量の関係式である(1)式を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)で行なうものとする。熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)のパラメータである、P=T(20+logt)が、(1)式の左辺、(11000+650Mn+2800Mo+9000Nb)未満では、熱処理後の延性が低くなり、一方、P=T(20+logt)が(1)式の右辺、(14000+650Mn+2800Mo+9000Nb)を超えて大きくなると、ΔTSが低下し、所望の歪時効硬化量が確保できなくなる。このため、予変形処理後の熱処理は、(1)式を満足する温度、時間で行なう熱処理に限定した。
従来の塗装焼付処理条件では、170℃×20minが標準として採用されているが、このような条件で熱処理を行ない、150MPa以上の著しい強度上昇を得る場合、熱処理後に延性低下を生じ、高い歪時効硬化量と、熱処理後の高い延性とを兼備できなくなる。
なお、予変形処理後の熱処理における加熱方法は、とくに限定されないが、通常の塗装焼付処理におけるように、炉による雰囲気加熱以外に、たとえば誘導加熱、無酸化炎、レーザー、プラズマなどによる加熱がいずれも適用できる。また、鋼板の温度を高めてプレスする、いわゆる温間プレスも、本発明においては極めて有効な方法である。
このような歪時効処理により、高い歪時効硬化が得られるとともに、歪時効処理後に優れた延性を確保できる。
なお、上記した歪時効硬化特性に優れた鋼板を素材鋼板として、プレス等による成形加工と、その後に強度上昇のために行なう熱処理とを組合わせて、高強度構造部材を製造する際に、上記した歪時効処理と同様に、成形加工を、塑性歪5%以上となる加工とし、成形加工後に施す熱処理を(1)式を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理とすることにより、高い強度と高い延性を兼備した高強度構造部材とすることができる。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブを加熱し、表2に示す条件の熱延工程により板厚4.0mmの熱延板とした。
なお、熱延板については、析出物の平均粒径を測定した。熱延板の組織(圧延方向断面)を透過型電子顕微鏡(倍率:10万倍)を用いて、10視野以上観察し、画像解析装置を用いて各析出物の面積をもとに各析出物の円相当直径を求めて粒径とし、粒径80nm以下の析出物について各視野における平均粒径を求め、測定した全視野の平均値を各熱延板の析出物の平均粒径とした。
ついでこれら熱延板を酸洗したのち、表2に示す条件の冷延工程により板厚1.6mmの冷延板とした。これら冷延板の一部に、連続焼鈍ラインで表2に示す条件の焼鈍工程を施したのち巻取り、冷延焼鈍板(冷延鋼板)とした。
冷延板の他の一部には、連続溶融亜鉛めっきラインで表2に示す条件で溶融亜鉛めっき工程および合金化処理工程を施し、めっき板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)とした。得られた冷延鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、さらに伸び率:0.8%の調質圧延を施した。
得られた冷延鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板から、圧延方向にJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、全伸びEl、降伏比YR)を求めた。なお、Ac変態点は、加熱速度:5℃/sで測定した熱膨張−温度曲線から求めた。
また、得られた鋼板に、表3に示す条件の予変形処理および熱処理からなる歪時効処理を施した。
得られた冷延鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板から、圧延方向にJIS 5号試験片を採取し、予歪(引張予歪)として5%の塑性歪を付与する予変形処理を施し、ついで表2に示す温度、時間の熱処理を施した。熱処理後、引張試験を実施し、熱処理後の引張強さTSHT、全伸びElHT求めた。これらの値を用いて、ΔTS=TSHT−TS、およびL=ElHT/(El−ε)を算出した。なお、TSHTは予変形−熱処理後の引張強さであり、TSは母材鋼板の引張強さ、ElHTは予変形−熱処理後の全伸び、Elは母材鋼板の全伸びであり、εは予歪量(ここでは5%)である。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2005290485
Figure 2005290485
Figure 2005290485
本発明例は、いずれも、150MPa以上の極めて大きなΔTSと、しかも0.4以上の高いLとを示し、高い歪時効硬化を示しているにもかかわらず、延性の低下が顕著に抑制されている。成形加工後に本発明範囲の熱処理を施せば、高い歪時効硬化と高い延性とを兼備した高強度構造部材の製造が可能となる。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、ΔTSが低いか、あるいはΔTSは高いが、延性が顕著に低下している。
(実施例2)
実施例1で示した鋼板No.Bに、成形加工を施し、高強度構造部材でよく用いられる形状であるハット形状部材を作製した。成形加工は、塑性歪5%(ハット形状部材の縦壁部の歪)となる加工とした。
ついで、得られたハット形状部材に(イ)300℃で30min、(ロ)250℃で20minの熱処理をそれぞれ施した。熱処理後該部材を圧漬試験に供した。その結果、(ロ)の熱処理を施した部材では部材中に亀裂が生じたが、(イ)の熱処理を施した部材では亀裂を生じることはなかった。なお、(イ)の熱処理を施された部材は、(1)式を満足する条件で熱処理された本発明例であり、(ロ)の熱処理を施された部材は、本発明の範囲を外れる比較例である。
本発明例ではLが0.41と高いのに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、Lが0.32と延性が低く、衝撃吸収エネルギーが低下する場合があることがわかる。
ΔTS、LとPとの関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 鋼板に歪時効処理を施し歪時効硬化させるにあたり、前記鋼板を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、 P:0.1%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.1%以下、
    N:0.02%以下
    を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有する鋼板とし、前記歪時効処理が、塑性歪5%以上の予歪を付与する予変形処理を施したのち、下記(1)式を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理を施す処理であることを特徴とする、鋼板の歪時効処理方法。

    11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
    ここで、T:熱処理温度(K)、
    t:熱処理時間(s)、
    Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%)
  2. 前記鋼板を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、 P:0.1%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.1%以下、
    N:0.02%以下
    を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有し、粒径80nm以下の析出物について求めた平均粒径が32nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板を、冷間圧延し、ついで(Ac変態点−100℃)以上の温度域で焼鈍を施してなる鋼板とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の歪時効処理方法。
  3. 前記鋼板が前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti、Vのうちの1種または2種を合計で0.4%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の歪時効処理方法。
  4. 素材鋼板に成形加工を施したのち、熱処理を施して高強度構造部材とするに当たり、前記素材鋼板を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、 P:0.1%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.1%以下、
    N:0.02%以下
    を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有する鋼板とし、前記成形加工を、塑性歪5%以上となる加工とし、該成形加工後に施す前記熱処理を下記(1)式を満足する熱処理温度T(K)、熱処理時間t(s)の熱処理を施す処理であることを特徴とする、高強度構造部材の製造方法。

    11000+650Mn+2800Mo+9000Nb≦T(20+logt)≦14000+650Mn+2800Mo+9000Nb ………(1)
    ここで、T:熱処理温度(K)、
    t:熱処理時間(s)、
    Mn、Mo、Nb:各元素の含有量(質量%)
  5. 前記素材鋼板を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:2.0%以下、
    Mn:3.0%以下、 P:0.1%以下、
    S:0.02%以下、 Al:0.1%以下、
    N:0.02%以下
    を含み、さらに、Nb:0.01〜0.2%およびMo:0.05〜2.0%のうちの1種または2種を含有する組成を有し、粒径80nm以下の析出物について求めた平均粒径が32nm以下の析出物が析出した組織を有する熱延板を、冷間圧延し、ついで(Ac変態点−100℃)以上の温度域で焼鈍を施してなる鋼板とすることを特徴とする請求項4に記載の高強度構造部材の製造方法。
  6. 前記素材鋼板が前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti、Vのうちの1種または2種を合計で0.4%以下含有することを特徴とする請求項4または5に記載の高強度構造部材の製造方法。

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