JP2005290459A - 無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法、及び無電解ニッケルめっき液 - Google Patents
無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法、及び無電解ニッケルめっき液 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】無電解ニッケルめっき液の長寿命化を図ることによって、その廃液量を削減すること。
【解決手段】金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸、還元剤として次亜燐酸塩を含む無電解ニッケルめっき液を使用し、無電解ニッケルめっき液に金属イオン、錯化剤、還元剤の補給をしながら、被めっき体にニッケル合金皮膜を形成する無電解ニッケルめっき工程において、無電解ニッケルめっき液の寿命を延長させる方法である。この無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法は、無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を、2.0以上3.0未満に調整をするところに特徴を有する。
【選択図】なし
【解決手段】金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸、還元剤として次亜燐酸塩を含む無電解ニッケルめっき液を使用し、無電解ニッケルめっき液に金属イオン、錯化剤、還元剤の補給をしながら、被めっき体にニッケル合金皮膜を形成する無電解ニッケルめっき工程において、無電解ニッケルめっき液の寿命を延長させる方法である。この無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法は、無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を、2.0以上3.0未満に調整をするところに特徴を有する。
【選択図】なし
Description
本発明は、無電解ニッケルめっき液の寿命を延長させる方法と、長期使用が可能な無電解ニッケルめっき液に関する。
各種フィルタや触媒担体として利用されるセラミック製のハニカム構造体が知られている。このハニカム構造体は、一般に、金型基体に、坏土導入孔と、坏土導入孔に連通する格子状等の坏土押出しスリットとを形成してなるハニカム構造体成形用の金型を用いて押出成形されて製造されるが、その金型は、高価であることから、金型基体に、予め、例えばニッケルめっき工程によりコート層を形成しておき、坏土との磨耗により、金型基体が露出した時点で、再度ニッケルめっきしてコート層を形成して再利用されることが多い。
コート層を形成する方法としては、例えば、無電解ニッケルめっき、電解ニッケルめっき、CVD、PVD、溶射等の各種方法を挙げることが出来るが、複雑な形状の金型に均一に成膜出来る点で、無電解ニッケルめっきが好適に採用される。無電解ニッケルめっきは、還元剤によりニッケル塩からニッケルイオンを還元し、錯化剤によりニッケルイオンを錯体化し、被めっき体にニッケル合金皮膜を形成する方法である。
無電解ニッケルめっきで使用される無電解ニッケルめっき液は、ニッケル塩、錯化剤、還元剤等で構成され、めっきの進行に伴ってニッケルイオン、錯化剤、還元剤が消費されるので、ニッケル塩、錯化剤、還元剤が、適宜、補給をされて、めっきが実施される。しかし、消費されなかったニッケル塩のうちの陰イオンや還元剤が自らは酸化して残存し次第に蓄積されることから、無電解ニッケルめっき液は徐々に劣化しめっき速度の低下を招来する。そのため、通常、無電解ニッケルめっき液は一定期間の使用後に廃液として処分される。
従来、めっき速度が実用的でない程に低下し役目を終えた無電解ニッケルめっき液の廃液は、海洋投棄されてきたが、環境汚染を防止するために禁止され、産業廃棄物としての適切な処理が要求されている。しかしながら、有効な廃液処理方法あるいは再利用方法が期待されているものの、未だ効率よく処分出来る技術的手段は知られていない(無電解ニッケルめっき液にかかる先行文献として例えば特許文献1を参照)。
特開平5−65658号公報
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無電解ニッケルめっき液の長寿命化を図ることによって、その廃液量を削減することにある。試験・研究が重ねられた結果、無電解ニッケルめっき液の成分のうちめっき速度の低下にかかる成分がつきとめられ、その特定成分の濃度を調整することによって、上記目的を達成出来ることが見出された。
即ち、本発明によれば、金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸塩、が含まれる無電解ニッケルめっき液を使用し、無電解ニッケルめっき液に金属イオン、錯化剤、還元剤の補給をしながら、被めっき体にニッケル合金皮膜を形成する無電解ニッケルめっき工程において、無電解ニッケルめっき液の寿命を延長させる方法であって、無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を、2.0以上3.0未満に調整をする無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法が提供される。
このように無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を調整すると、ニッケルイオンの錯体化に充分な有機酸が確保され、ニッケルイオンが安定して溶解状態を維持し、沈殿物の生成、めっき浴の分解等の問題が生じ得ず、且つ、めっき速度の低下を招来しない。有機酸/ニッケルのモル比の、より好ましい調整範囲は2.0以上2.6未満であり、更に好ましくは2.0以上2.4未満である。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法においては、無電解ニッケルめっき液に、錯化剤としてリンゴ酸に加えて、他の有機酸が含有され、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を、2.0未満に調整をすることが好ましい。他の有機酸は、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グリシンからなる錯化剤群のうち何れか1又は2以上の組み合わせであることが好ましい。
リンゴ酸が多すぎるとめっき速度を低下させるが、この範囲であれば実用的なめっき速度が確保されるからである。リンゴ酸/ニッケルのモル比の、より好ましい調整範囲は1.6未満であり、更に好ましくは1.4未満である。
上記無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、調整をすることが好ましい。
又、無電解ニッケルめっき液中のニッケルイオンの濃度を、4.5g/L以上7.0g/L以下に調整をすることが好ましい。
この範囲であれば、被めっき体に実用的な速さでニッケル合金皮膜が形成される、即ち、実用的なめっき速度が確保されるからである。ニッケルイオンの濃度の、より好ましい調整範囲は5.5g/L以上7.0g/L以下である。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法において、無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比の調整が、補給をされる錯化剤中のリンゴ酸の含有量の調節により行われることが好ましい。
新たな設備が不要であり、従来の無電解ニッケルめっき工程への適用が容易且つ低廉に行えるからである。
次に、本発明によれば、金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸塩、が含まれる無電解ニッケルめっき液であって、有機酸/ニッケルのモル比が、2.0以上3.0未満である無電解ニッケルめっき液が提供される。
有機酸/ニッケルのモル比がこの範囲にあれば、使用時に、ニッケルイオンの錯体化が充分であり沈殿物の生成等の問題が生じ得ず、且つ、めっき速度の低下を招来しない。有機酸/ニッケルのモル比は、より好ましくは2.0以上2.6未満であり、更に好ましくは2.0以上2.4未満である。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液は、錯化剤としてリンゴ酸に加えて、他の有機酸が含有され、リンゴ酸/ニッケルのモル比が、2.0未満であることが好ましい。他の有機酸は、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グリシンからなる錯化剤群のうち何れか1又は2以上が組み合わせであることが好ましい。
リンゴ酸/ニッケルのモル比がこの範囲であれば、使用時に、リンゴ酸がめっき速度を低下させることなく、実用的なめっき速度が確保されるからである。リンゴ酸/ニッケルのモル比は、より好ましくは1.6未満であり、更に好ましくは1.4未満である。
又、ニッケルイオンの濃度が、4.5g/L以上7.0g/L以下であることが好ましい。
ニッケルイオンの濃度がこの範囲であれば、使用時に、被めっき体に実用的な速さでニッケル合金皮膜が形成される、即ち、実用的なめっき速度が確保されるからである。ニッケルイオンの濃度は、より好ましくは5.5g/L以上7.0g/L以下である。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法及び本発明に係る無電解ニッケルめっき液において、ニッケル塩は特段に限定されるものではなく、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、等が採用され得る。より好ましくは低廉であることから硫酸塩である。
又、本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法及び本発明に係る無電解ニッケルめっき液において、還元剤である次亜燐酸塩は特段に限定されるものではないが、一般には、次亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸ニッケル等が採用され得る。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法にかかる無電解ニッケルめっき工程、及び、本発明に係る無電解ニッケルめっき液を使用する無電解ニッケルめっき工程の条件は、限定されるものではないが、めっき浴温度が好ましくは80℃以上93℃以下であり、めっき浴pHは好ましくは4.0以上4.6以下である。
次に、本発明によれば、金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれる無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を制御する方法であって、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御する無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御方法が提供される。
従来、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御することは行われていなかった。即ち、無電解ニッケルめっき液の寿命を延ばすために、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御すること自体が、本発明が提供する新たな思想・手段である。リンゴ酸濃度を制御するための具体的な手段は限定されない。
次に、本発明によれば、金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれる無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を制御する装置であって、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度をキャピラリー電気泳動法で測定するキャピラリー電気泳動装置と、そのキャピラリー電気泳動装置で測定されたリンゴ酸濃度に基づいてリンゴ酸を無電解ニッケルめっき液中へ供給するリンゴ酸供給装置と、を具備する無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置が提供される。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置では、金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれ、且つ、リンゴ酸/ニッケルのモル比が所定値である補充液を無電解ニッケルめっき液中へ供給する補充液供給装置を、更に具備することが好ましい。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置は、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御するための具体的手段として利用される。例えば、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度が所定値より少ない場合に、リンゴ酸の不足量の全てを直接ポンプ等により無電解ニッケルめっき液(めっき浴)へ注入して補充する手段として利用出来る。又、好ましい手段として、めっきが行われるとニッケルが消費されてニッケル塩の補給がなされるので、めっき処理が進むこととリンゴ酸の持ち出し量とが比例すると仮定して、ニッケル塩の補充液に予めリンゴ酸/ニッケルのモル比が所定値になるように、リンゴ酸を混合しておく手段が挙げられる。即ち、ニッケルの補充にあわせてリンゴ酸も多くならないように定量補充される。そして、キャピラリー電気泳動装置の測定結果による不足分が、リンゴ酸補充液として補給される。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法及び本発明に係る無電解ニッケルめっき液によれば、めっき速度の低下が抑制され、無電解ニッケルめっき液を従来より長期間使用することが出来る。従って、廃液量が削減され、環境汚染が防止される。被めっき体に形成されるニッケル合金皮膜の質は従来と同等であり、又、特段の新たな設備を必要としないことから、現在の無電解ニッケルめっき工程への適用が容易である。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御方法、乃至、本発明に係る無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置によれば、キャピラリー電気泳動法によって、無電解ニッケルめっき液中の有機酸のうちリンゴ酸を直接的に管理するので、リンゴ酸(有機酸)濃度を所望の範囲に調整することが容易である。そして、その結果、無電解ニッケルめっき液の長寿命化にかかる信頼性、安定性を向上させることが出来る。加えて、キャピラリー電気泳動法によって、無機酸及びニッケルを同時に分析することが出来るので、別にニッケル測定装置を設ける必要がない。従って、無電解ニッケルめっき液の寿命延長を図るに際し、必要な設備が簡素化する。
以下、本発明の実施の形態について、実施例を掲げるとともに、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
金属イオンとして硫酸ニッケル(NiSO4)、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸ナトリウム(NaH2PO2)、が含まれる無電解ニッケルめっき液を使用した無電解ニッケルめっきの反応は、次のように示される。
NiSO4+2NaH2PO2+2NaOH
→ Na2SO4+2NaH2PO3+Ni+H2
NiSO4+2NaH2PO2+2NaOH
→ Na2SO4+2NaH2PO3+Ni+H2
この反応において、Niはニッケル合金皮膜の形成に伴い消費されるので、めっき浴の(無電解ニッケルめっき液の)ニッケルイオン濃度を監視しつつ、そこへ硫酸ニッケル(ニッケル補充液とよぶ)が補給される。上記反応式に表れない有機酸は、原則として錯化剤としては消費されないが、被めっき体に付着する等での持ち出しや、錯体化の他にpH緩衝剤として消費される。又、上記反応によりNaH2PO2は還元能力を失う。従って、これらを補う必要があり、有機酸及び次亜燐酸ナトリウムの混合液(還元剤・有機酸補充液とよぶ)が補給される。
有機酸は、1種類では無電解ニッケルめっき液中の様々な金属イオンに対して対応しきれずにめっき浴が不安定になるため、好ましくはリンゴ酸に他の有機酸を加えて少なくとも2種類の錯化剤が用いられる。そうすると、金属イオンを安定化させることが可能である。例えば、リンゴ酸に加えて、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グリシン等を用いることが出来る。原則として錯化剤としては消費されないが、上記したように、被めっき体に付着する等での持ち出しや、錯体化の他にpH緩衝剤として消費されるので、還元剤・有機酸補充液として補給される。又、硫酸ニッケルの補給をすること等によりpHが変動するので、pHを監視しつつPID制御等により、水酸化ナトリウム(pH調整液とよぶ)が注入される。その結果、液中には、主にNa、PO3、PO2、SO4が蓄積されていくと考えられる。
一般に、ニッケル補充液は、無電解ニッケルめっき液のニッケルイオン濃度が所定の値を維持するように連続的に補給され、還元剤・有機酸補充液は、ニッケル補充液の補給に連動させて所定量が補給される。又、一般に、還元剤・有機酸補充液の標準のリンゴ酸の濃度は、リンゴ酸/ニッケルのモル比として0.2である。これは、めっき処理の経過に伴って、めっき浴内への持ち込みや混入等により、無電解ニッケルめっき液中の金属イオン、硫酸イオン、亜燐酸イオン等が増加するために、無電解ニッケルめっき液が不安定になり、めっき浴が分解し易くなるからである。
本発明に係る無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法では、無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を2.0以上3.0未満に調整をする一手段として、又、好ましくは無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を2.0未満に調整をする一手段として、補給をされる還元剤・有機酸(錯化剤)補充液のリンゴ酸の含有量(濃度)を調節する手段が挙げられる(後述する実施例1参照)。
そして、更に他の手段として、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御する手段が挙げられる。キャピラリー電気泳動法は、泳動緩衝液の選定により多元素同時測定が可能であり、無電解ニッケルめっき液の主な成分であるニッケルイオン、リンゴ酸等の有機酸、次亜燐酸イオン、亜燐酸イオン、硫酸イオンを同時に定量測定出来る。特に、好ましい点として、2種類以上の有機酸を分離して定量測定出来ることが挙げられる。従来、無電解ニッケルめっき処理においては、pHとニッケルを測定し有機酸は測定しないで管理するのが一般的であったが、本発明では、無電解ニッケルめっき液の1部を、連続的又は定期的に採取して、キャピラリー電気泳動法により、ニッケルイオン濃度を測定し管理し、同時に有機酸も測定して管理する。
図1は、本発明に係る無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置の一実施形態を示す構成図であり、リンゴ酸供給装置1、補充液供給装置2、キャピラリー電気泳動測定装置3、めっき浴4で構成され、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御する具体的手段を表している。
めっき浴4から無電解ニッケルめっき液の1部が採取され、キャピラリー電気泳動測定装置3でニッケルイオン濃度、及び、リンゴ酸濃度が測定される。補充液供給装置2は、キャピラリー電気泳動測定装置3で測定されたニッケルイオン濃度に基づいて、ニッケル塩とリンゴ酸が含まれ且つリンゴ酸/ニッケルのモル比が所定値である補充液を、無電解ニッケルめっき液中へ連続的に補給する。リンゴ酸/ニッケルのモル比の所定値とは、ニッケル塩が含まれるこの補充液が連続的に補給されたときに、無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸濃度が増加しないようなリンゴ酸とニッケルとのモル比を意味する。そして、リンゴ酸供給装置1は、キャピラリー電気泳動測定装置3で測定されたリンゴ酸濃度に基づいて、上記補充液による補給では不足する分を、無電解ニッケルめっき液中へ必要に応じリンゴ酸補充液として補給する。尚、この場合、還元剤も補充液に含まれ、補充液供給装置2によって補給させることが出来る。勿論、還元剤は、還元剤補充液として独立させてもよい。
キャピラリー電気泳動法は、泳動緩衝液を満たした、内径が数十μmで全長が1m程度のキャピラリー(毛細管)内で行なう電気泳動法である。キャピラリー電気泳動法を測定原理とする装置(キャピラリー電気泳動測定装置)は、キャピラリー、泳動緩衝液、電極、高電圧電源、検出器等で構成される。泳動緩衝液をキャピラリー全体に充填した後に、試料を導入し、キャピラリーの両端に高電圧を印加することにより、試料中の各成分が電荷やイオン半径の違いにより分離され、検出器でピークとして現れ、検出される。
キャピラリー電気泳動測定装置として、横河アナリティカルシステムズ(株)製のキャピラリー電気泳動システム(HP3D)を例示することが出来る。このシステムでは、金属イオン、有機酸、無機酸等を、同時に分析することが可能なアニオン電解質であるHP Plating Bath Analysis Bufferを、泳動緩衝液として用いることにより、無電解ニッケルめっき液中の有機酸、無機酸を同時に分析することが出来る。サンプル試料は、50μlで測定可能である。
尚、本明細書において、当初に無電解ニッケルめっき液に含有されていたニッケルイオンをすべて消費(即ち、析出させ皮膜形成に使用)した無電解ニッケルめっき液を1ターンの無電解ニッケルめっき液とよぶ。例えば、当初にめっき液のニッケルイオンが6.4g/lであったとすると、12.8g/L消費した無電解ニッケルめっき液が2ターンである。
(実施例1)被めっき体として縦20mm×横50mm×厚さ2mmの電気めっき処理済みのステンレス製のテストピースを用意し、金属イオンとして硫酸ニッケル(NiSO4)、錯化剤としてリンゴ酸、コハク酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸ナトリウム(NaH2PO2)、が含まれる無電解ニッケルめっき液を使用して、被めっき体に概ね30μmの厚さのニッケル合金皮膜を形成した。尚、めっき浴pHは4.3に調整し、そのためのpH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた。
補充液として、硫酸ニッケル(ニッケル補充液)と、リンゴ酸の濃度をリンゴ酸/ニッケルのモル比として標準の半分である0.1モルとした錯化剤(還元剤・有機酸補充液)とを用い、めっき液の1部を、定期的にキャピラリー電気泳動法で測定し、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度がリンゴ酸/ニッケルのモル比が所定値(例えば1.4)より少ない場合に、リンゴ酸を含む補充液を、ポンプ等により無電解ニッケルめっき液(めっき浴)へ注入して、補給しながら、9ターンまで無電解ニッケルめっき工程を行った。
[めっき速度の測定]図2は、めっき速度の測定方法を説明するための流れ図である。先ず、めっき処理前のテストピースの質量を測定し、無電解ニッケルめっき液を、めっき浴温度として88℃に加熱し、質量を測定したそのテストピースを1時間浸漬させた。その後、テストピースをめっき浴から引き上げ、超純水に3回浸漬させて洗浄し、更に、空気乾燥させてから(図中に示さず)、めっき処理後のテストピースの質量を測定した。
めっき処理前及び後のテストピースの質量と、形成されたニッケル合金皮膜の表面積と皮膜密度、及びめっき時間から、めっき速度を算出した。めっき速度の結果を表1に示す。4ターンの無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比及びリンゴ酸/ニッケルのモル比を含む4ターンの無電解ニッケルめっき液の成分を表2に示す(横河アナリティカルシステムズ(株)製のキャピラリー電気泳動システム(HP3D)にて、サンプル試料を50μl採り測定、以下の実施例中の成分測定も同じ)。
0ターンから9ターンまでのめっき速度の結果を表1に示す。9ターンの無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比及びリンゴ酸/ニッケルのモル比を含む9ターンの無電解ニッケルめっき液の成分を表2に示す。
[ニッケル合金皮膜の観察]形成されたニッケル合金皮膜を光学顕微鏡により拡大して観察した。図4(a)は、4ターンの無電解ニッケルめっき液を使用して得られたニッケル合金皮膜の100倍拡大写真であり、図4(b)は500倍拡大写真である。又、図5(a)は、9ターンの無電解ニッケルめっき液を使用して得られたニッケル合金皮膜の100倍拡大写真であり、図5(b)は500倍拡大写真である。
(比較例1)実施例1と同じ組成の無電解ニッケルめっき液を使用し、補給する錯化剤(還元剤・有機酸補充液)においてリンゴ酸の濃度をリンゴ酸/ニッケルのモル比として標準の0.2とした以外は、実施例1に準じて、硫酸ニッケル(ニッケル補充液)と錯化剤(還元剤・有機酸補充液)とを補給しながら、9ターンまで無電解ニッケルめっき工程を行い、それぞれにおけるめっき速度を測定した。各めっき速度の結果を表1に示す。
又、9ターンにおける無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比及びリンゴ酸/ニッケルのモル比を含む9ターンの無電解ニッケルめっき液の成分を表2に示す。
更に、実施例1に準じて、形成されたニッケル合金皮膜を光学顕微鏡により拡大して観察した。図6(a)は、9ターンの無電解ニッケルめっき液を使用して得られたニッケル合金皮膜の100倍拡大写真であり、図6(b)は500倍拡大写真である。
(考察)表1及び表2に示された結果より、実施例1においては、9ターンの無電解ニッケルめっき液を使用した際のめっき速度(mg/min)が、3ターンに比較して概ね18.2%(=(1−4.04/4.95)×100)、4ターンに比較して概ね13.2%(=(1−4.04/4.66)×100)の下落に留まっており、充分に実用的なめっき速度が確保されていた。9ターンの無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸が、4ターンと同じ20g/Lに維持されており、リンゴ酸/ニッケルのモル比は1.4となった。又、リンゴ酸にコハク酸を加えた有機酸/ニッケルのモル比は2.3であった。
一方、表1及び表2に示された結果より、比較例1においては、9ターンの無電解ニッケルめっき液を使用した際のめっき速度(mg/min)が、3ターンに比較して概ね35.8%(=(1−3.14/4.90)×100)、4ターンに比較して概ね32.5%(=(1−3.14/4.66)×100)まで下落している。これは実用的なめっき速度とはいえない。9ターンの無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸は、4ターンの1.5倍の30g/Lに増加しており、リンゴ酸/ニッケルのモル比として2.1となった。又、リンゴ酸にコハク酸を加えた有機酸/ニッケルのモル比として3.0であった。無電解ニッケルめっき液中において有機酸、特にニッケルイオンとの安定度定数が大きいリンゴ酸の濃度が高まって、ニッケルイオンがめっき液中で安定になりすぎて析出速度を遅くさせているものと推定される。
表1に示された実施例1及び比較例1のめっき速度とターン数の関係は、図3のように表せる(比較例1の結果からターン数の増加に比例してめっき速度は低下することがわかる)。図3から明示されるように、実用的なめっき速度を4.00mg/minとすると比較例1では6ターンまでしか許容されないが、リンゴ酸/ニッケルモル比を1.4で無電解ニッケルめっき液中の有機酸(リンゴ酸)の濃度が所定範囲に調整された本発明(実施例1)によれば、3(=9−6)ターン分余計に、無電解ニッケルめっき液を廃棄することなく、実用的なめっき速度を維持しつつ、無電解ニッケルめっきを行うことが出来る。従って、その分の廃液量を削減することが出来る。尚、実施例1では、リンゴ酸の濃度をリンゴ酸/ニッケルのモル比として0.1モルに固定して還元剤・有機酸補充液を調製しキャピラリー電気泳動法によりリンゴ酸を測定し、その結果から、不足分を補充しているが、無電解ニッケルめっき液を連続的又は定期的に採取し、キャピラリー電気泳動法によりリンゴ酸を測定し、その結果から、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸の質量が一定に保たれるように、還元剤・有機酸補充液中のリンゴ酸濃度を調節してもよい。
又、形成されたニッケル合金皮膜を光学顕微鏡により100倍及び500倍に拡大して観察した結果、図4(a)及び図4(b)と、図5(a)及び図5(b)、図6(a)及び図6(b)との比較から理解されるように、9ターンの無電解ニッケルめっき液を使用して被めっき体(テストピース)に形成されたニッケル合金皮膜の質は、実施例1及び比較例1の何れにおいても、4ターンの無電解ニッケルめっき液を使用した場合と概ね同等と判断出来た。
本発明の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法及び無電解ニッケルめっき液は、あらゆる被めっき体にニッケル合金皮膜を形成するための無電解ニッケルめっき工程において好適に採用され得る。例えば、被めっき体として、ハニカム構造体成形用の金型等が例示される。
1…リンゴ酸供給装置、2…補充液供給装置、3…キャピラリー電気泳動測定装置、4…めっき浴。
Claims (13)
- 金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸塩、が含まれる無電解ニッケルめっき液を使用し、前記無電解ニッケルめっき液に前記金属イオン、錯化剤、還元剤の補給をしながら、被めっき体にニッケル合金皮膜を形成する無電解ニッケルめっき工程において、前記無電解ニッケルめっき液の寿命を延長させる方法であって、
無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比を、2.0以上3.0未満に調整をする無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。 - 前記無電解ニッケルめっき液に、錯化剤として前記リンゴ酸に加えて、他の有機酸が含有され、
無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を、2.0未満に調整をする請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。 - 前記他の有機酸が、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グリシンからなる錯化剤群のうち何れか1又は2以上の組み合わせである請求項2に記載の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。
- 前記無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を、キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、調整をする請求項2又は3に記載の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。
- 無電解ニッケルめっき液中のニッケルイオンの濃度を、4.5g/L以上7.0g/L以下に調整をする請求項1〜4の何れか一項に記載の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。
- 前記無電解ニッケルめっき液中の有機酸/ニッケルのモル比の調整が、前記補給をされる錯化剤中のリンゴ酸の含有量の調節により行われる請求項1〜5の何れか一項に記載の無電解ニッケルめっき液の寿命延長方法。
- 金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、還元剤として次亜燐酸塩、が含まれる無電解ニッケルめっき液であって、
有機酸/ニッケルのモル比が、2.0以上3.0未満である無電解ニッケルめっき液。 - 錯化剤として前記リンゴ酸に加えて、他の有機酸が含有され、
リンゴ酸/ニッケルのモル比が、2.0未満である請求項7に記載の無電解ニッケルめっき液。 - 前記他の有機酸が、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、グリシンからなる錯化剤群のうち何れか1又は2以上の組み合わせである請求項8に記載の無電解ニッケルめっき液。
- ニッケルイオンの濃度が、4.5g/L以上7.0g/L以下である請求項7〜9の何れか一項に記載の無電解ニッケルめっき液。
- 金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれる無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を制御する方法であって、
キャピラリー電気泳動法で測定された無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度に基づいて、無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度を制御する無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御方法。 - 金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれる無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸/ニッケルのモル比を制御する装置であって、
無電解ニッケルめっき液中のリンゴ酸濃度をキャピラリー電気泳動法で測定するキャピラリー電気泳動装置と、前記キャピラリー電気泳動装置で測定されたリンゴ酸濃度に基づいてリンゴ酸を無電解ニッケルめっき液中へ供給するリンゴ酸供給装置と、を具備する無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置。 - 金属イオンとしてニッケル塩、錯化剤として少なくともリンゴ酸が含有される有機酸、が含まれ、且つ、リンゴ酸/ニッケルのモル比が所定値である補充液を無電解ニッケルめっき液中へ供給する補充液供給装置を、更に具備する請求項12に記載の無電解ニッケルめっき液のリンゴ酸/ニッケルのモル比制御装置。
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