しかしながら、前記特許文献1に記載されたSrTiO3:Pr,Al蛍光体では、輝度劣化が激しく寿命が短い問題があった。前記特許文献2には、蛍光体の粒子表面にその母体化合物から成る保護膜を設けることによって輝度劣化を抑制する技術が記載されているが、このような処理を施してもZnCdS系蛍光体に比較すると寿命が著しく短いのである。しかも、上記保護膜を設けたSrTiO3:Pr,Alは、初期的にもZnCdS系蛍光体に比べて低輝度であった。
また、前記非特許文献1乃至3に記載されているCaTiO3系蛍光体を評価したところ、低速電子線で得られる輝度はZnCdS系蛍光体のせいぜい1割程度に過ぎず、VFD等に用い得るものではなかった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、SrTiO3:Pr,Al蛍光体よりも長寿命を有し且つ低速電子線でも高輝度で発光する酸化物系蛍光体の製造方法を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明のCaTiO3:Pr,M蛍光体の製造方法の要旨とするところは、(a)CaTiO3(チタン酸カルシウム)から成る母体を構成するための母体原料と、Pr(プラセオジム)を含む第1添加物原料と、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、およびK(カリウム)のうちの少なくとも一種を含む少なくとも一種の第2添加物原料とを混合する混合工程と、(b)得られた混合物を1050乃至1250(℃)の範囲内の所定の焼成温度で焼成する焼成工程とを、含むことにある。
このようにすれば、混合工程において、母体原料、第1添加物原料、および第2添加物原料が混合され、焼成工程において、その混合物が1050〜1250(℃)の範囲内の温度で焼成される。そのため、SrTiO3:Pr,Al蛍光体よりも長寿命を有し且つ低速電子線で励起しても高輝度で発光する酸化物蛍光体が得られる。すなわち、上記のような比較的低温で焼成すると、低速電子線で励起した場合にも、例えば1300(℃)程度の高い温度で焼成した従来のCaTiO3:Pr,M蛍光体に比較して2倍以上の輝度(例えば50(cd/m2)以上)が得られ、また、SrTiO3:Pr,Al蛍光体よりも劣化し難くなるのである。
上記のようにSrTiO3:Pr,Al蛍光体よりも長寿命が得られる理由は、以下のようなものであると推定される。CaTiO3:Pr,Mでは、SrTiO3:Pr,Alに比べて電子線励起下において母体から酸素が抜けにくく格子欠陥が生じ難いものと考えられる。蛍光体粒子に格子欠陥が生じると輝度低下の原因となる。したがって、酸素が抜けにくく格子欠陥が生成され難いCaTiO3:Pr,Mでは、SrTiO3:Pr,Alに比べて長寿命になるものと考えられるのである。
なお、本願において、CaTiO3というときは、特に明示する場合を除く他、Ca/Ti比が1である化学量論組成のものに限られず、その比が1よりも僅かに大きい或いは僅かに小さい組成のものも含むものとする。例えば、その比が1.05〜0.95の範囲内のものも含まれる。
また、本発明において、CaTiO3に添加される第1添加物Prは価数として+3および+4を取り得るが、赤色発光に寄与するのは3価のPr3+である。このPr3+はイオン半径から考えるとCaサイトを置換する。このとき、Caの価数は+2であることから、Pr3+が置換すると電荷が+3−(+2)=+1だけ過剰になる。電荷のバランスをとるためには、4価であるTi4+を3価の陽イオンで置換すればよい。Al、Ga、Inは、何れも3価の陽イオンとしてTiサイトを置換するため、Caサイトを置換したPr3+1個に対して何れもAl3+、Ga3+、In3+1個で電荷バランスがとれ、CaTiO3中にPrが3価で存在できるようになる。ZnおよびMgもイオン半径から考えてTiを置換するものと考えられる。これらは2価の陽イオンであるので、Ti4+を置換すると電荷が+2−(+4)=−2だけ不足する。したがって、Ti4+サイトを置換したZn2+またはMg2+1個に対し、2個のCa2+サイトが2個のPr3+と置換すると電荷バランスがとれる。また、Li、Na、Kは、イオン半径から考えてCa2+サイトを置換する。これらは1価の陽イオンであるから、2個のCa2+サイトを1個のPr3+と1個のLi+(またはNa+、K+)が置換すれば電荷バランスがとれる。このように何れの第2添加物もPr3+を安定して存在できるようにする作用を有しているので、第2添加物を添加しない場合に比較して著しく高い発光強度が得られるのである。なお、第2添加物を添加せずPrのみを添加した場合には、電荷バランスをとるためにCaが抜けて格子欠陥が生じるので、発光強度が低下することになる。
ここで、好適には、前記第1添加物原料は塩化物である。このようにすれば、他のPr化合物が用いられた場合に比較して2倍程度以上の高い輝度が得られる。すなわち、Pr化合物としては、例えばPrCl3、Pr2(CO3)3、Pr(NO3)3、Pr6O11等が一般に利用されており、何れを用いてもCaTiO3:Pr,M蛍光体を得ることが可能である。しかしながら、この中でも特にPrCl3をPr源として用いた場合の輝度が最も高く、炭酸化合物および硝酸化合物の2倍程度、酸化物の10倍程度の輝度を得ることができたのである。
また、好適には、前記第1添加物原料は前記母体に対するPrの添加量が0.003乃至0.05(mol%)の範囲内となる割合で混合されるものである。このようにすれば、一層長寿命且つ高輝度の酸化物蛍光体が得られる。すなわち、Prの添加量を上記のような範囲に設定すると、低速電子線で励起した場合にも高輝度が得られるようになるのである。例えば、従来利用されていたPr添加量が0.1(mol%)のものに比較して2倍以上の輝度が得られる。なお、Prの添加量が0.003(mol%)未満或いは0.05(mol%)を超えると、紫外線や1(kV)以上の高速電子線で励起すれば高輝度が得られる場合があるものの、低速電子線で励起した場合の輝度は従来の硫化物系蛍光体に比較して著しく低い値に留まる。
上記のように高輝度が得られる理由は、以下のようなものであると推定される。Pr濃度が高くなり過ぎると濃度消光により輝度が低下し、濃度を低くしていくと濃度消光が生じなくなるので輝度が高くなる。しかしながら、Pr濃度が低くなり過ぎると発光中心の数が少なくなるので輝度が低下する。本発明のCaTiO3:Pr,M蛍光体では、発光中心の数が十分に多く且つ濃度消光が生じないPrの最適濃度が0.003〜0.05(mol%)の範囲にあるものと考えられるのである。一層好適には、Prの添加量は0.008〜0.023(mol%)の範囲内の値である。
また、好適には、前記焼成工程は、前記混合物を1050〜1200(℃)の範囲内の温度で焼成するものである。一層好適には、1100〜1150(℃)の範囲内の温度で焼成するものである。特に、後者の温度範囲で焼成すれば、1300(℃)程度の高い温度で焼成した従来のCaTiO3:Pr,M蛍光体に比較して20倍以上の輝度(例えば100(cd/m2)以上)が得られる。
また、好適には、前記焼成工程に先立って前記混合物を800乃至1000(℃)の範囲内の所定の仮焼温度で仮焼する仮焼工程を含み、その焼成工程は、その仮焼工程により得られた仮焼物に焼成処理を施すものである。このようにすれば、添加元素であるPrおよびAl等が母体であるCaTiO3に一層均一に拡散する。このため、仮焼工程を実施しない場合に比較して輝度が例えば20(%)程度向上する。すなわち、Prの濃度分布に偏りがあると、高濃度の部分では濃度消光が生じ易くなる一方、低濃度の部分でも発光中心の不足により輝度が低くなるため、全体の発光強度が低下することとなるのである。
また、好適には、前記蛍光体の製造方法は、前記混合工程と、次いで施される前記仮焼工程と、その仮焼工程により得られた仮焼物を1(μm)程度の粒径に粉砕する第1粉砕工程と、粉砕された仮焼物に焼成処理を施す前記焼成工程と、その焼成工程により得られた焼成物を3(μm)程度の粒径に粉砕する第2粉砕工程と、その第2粉砕工程により得られた粉砕焼成物を水洗し且つ篩い分けすることにより未反応成分を除去する水簸工程と、分離物を乾燥して水分を除去する乾燥工程と、その乾燥工程により得られた固形物を3(μm)程度の粒径に解砕する解砕工程とを、含むものである。
また、好適には、前記第2添加物は、前記母体100(mol%)に対する添加量で0.1乃至1.0(mol%)の範囲内のAlを含むものである。このようにすれば、Alの添加量が適度なものとされているため、低速電子線で励起した場合にも、例えば50(cd/m2)以上の一層高い輝度を得ることができる。一層好適には、Alの添加量は、0.2〜0.5(mol%)の範囲内である。このようにすれば、低速電子線で励起した場合にも、例えば70(cd/m2)以上の更に高い輝度が得られる。因みに、蛍光体において望ましい輝度は肉眼で発光が十分に確認できる50(cd/m2)以上であり、70(cd/m2)以上であることが一層望ましいのである。
また、好適には、前記第2添加物は、前記母体100(mol%)に対する添加量で0.07(mol%)以上のGaを含むものである。このようにすれば、Gaの添加量が十分に多くされているため、低速電子線で励起した場合にも例えば50(cd/m2)以上の一層の高輝度が得られる。
また、好適には、前記第2添加物は前記母体100(mol%)に対する添加量で0.13(mol%)以上のZnを含むものである。このようにすれば、Znの添加量が十分に多くされているため、低速電子線で励起した場合にも例えば50(cd/m2)以上の一層の高輝度が得られる。一層好適には、Znの添加量は、0.66(mol%)以上である。このようにすれば、例えば70(cd/m2)以上の更に高い輝度が得られる。
また、好適には、前記第2添加物は、Al、Ga、In、Zn、Mg、Na、Kのうちの少なくとも一種と、前記母体100(mol%)に対する添加量で0.5(mol%)以上のLi(リチウム)とを含むものである。このようにすれば、Al等およびLiの各々による輝度向上効果が共に得られることにより、Al等のみが第2成分として添加された場合よりも一層高い例えば70(cd/m2)を超える輝度が得られる。
また、好適には、前記第2添加物は前記母体100(mol%)に対する添加量で0.07(mol%)以上のMgを含むものである。このようにすれば、Mgの添加量が十分に多くされているため、低速電子線で励起した場合にも、例えば50(cd/m2)以上の一層の高輝度が得られる。一層好適には、Mgの添加量は、0.1(mol%)以上である。このようにすれば、例えば70(cd/m2)以上の更に高い輝度が得られる。
また、好適には、前記第2添加物は、2種以上のものが同時に添加されてもよい。この場合において、各々の添加量は、前記した各元素を単独で添加する場合の範囲に定めることが好ましい。
また、本発明の製造方法により製造される蛍光体は、VFDで利用される低速電子線でも高輝度を得ることが可能なものであるが、1(kV)以上の高速電子線や紫外線でも励起して発光させ得るものであり、その用途は低速電子線で励起する場合に限られない。すなわち、本発明の製造方法により製造される蛍光体は、1(kV)〜10(kV)程度の電圧で発生させられた電子線で蛍光体を励起して発光させるFED(Field Emission Display:電界放射ディスプレイ)や、10(kV)程度の電圧で発生させられた電子線で蛍光体を励起発光させるCRT(Cathode Ray Cube:陰極線管)、紫外線で蛍光体を励起発光させるPDP(Plasma Display Panel)等にも好適に用いられる。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の蛍光体の製造方法の概略を説明するための工程図である。この図1を参照して本発明の蛍光体の一例であるCaTiO3:Pr,Al蛍光体の製造方法を説明する。先ず、原料混合工程P1では、この蛍光体の出発原料となる適当な化合物、例えば、CaCO3(炭酸カルシウム)、TiO2(二酸化チタン)、PrCl3(塩化プラセオジム)、Al(OH)3(水酸化アルミニウム)を、製造しようとする蛍光体の組成に応じてそれぞれ秤量し、例えばボールミル或いは乳鉢等によって十分に混合する。混合比は、例えば、Ca/Ti=0.99(モル比)、CaTiO3に対するPrの割合が0.05〜0.3(mol%)、CaTiO3に対するAlの割合が0〜0.5(mol%)である。
次いで、仮焼成工程P2において、混合した原料(混合物)を、例えば純度99.5(%)以上のアルミナ製坩堝に入れ、例えば大気中において、900(℃)程度の最高保持温度で10時間程度の焼成(仮焼)処理を施す。粉砕工程P3においては、得られた仮焼物を、例えばアルミナ乳鉢等を用いて平均粒径1(μm)程度の大きさに粉砕する。
次いで、焼成工程P4では、粉砕した仮焼物を例えばアルミナ製坩堝に入れ、例えば大気中において、1050〜1150(℃)程度の最高保持温度で3時間程度の焼成(本焼成)処理を施す。これにより、前記出発原料から下記の(1)式に示される化学反応により、CaTiO3:Pr,Alが合成される。粉砕工程P5では、この合成された蛍光体を、例えばアルミナ乳鉢等を用いて平均粒径3(μm)程度の大きさに粉砕する。
CaCO3+TiO2+PrCl3+Al(OH)3 → CaTiO3:Pr,Al・・・(1)
次いで、水洗工程P6においては、粉砕した蛍光体粉末を水中に分散することによって水溶性の残留分を溶解する。前記出発原料のうちPrCl3は水に可溶である一方、合成された蛍光体や他の原料は不溶であるため、未反応のPrCl3のみが溶解することになる。
次いで、篩い分け工程P7においては、蛍光体を水に分散させたまま、例えば#300程度の篩を通すことによって粗大粒子を除去し、その後、適当な時間だけ静置して蛍光体粒子を沈降させる。所定の時間の後、上澄み液をピペット等で吸い取って除去する。これにより、上澄み液中に含まれている水溶性残留分(すなわち原料中の可溶成分)が除去される。この処理を水溶性残留分が完全に除去されるように、必要に応じて複数回行う。上澄み液を除去した後、残った蛍光体粒子を、乾燥工程P8において例えば120(℃)程度の温度で5時間程度乾燥し、その後、解砕工程P9において、得られた固形物をアルミナ製乳鉢等を用いて3(μm)程度の粒径に解砕することにより、CaTiO3:Pr,Al蛍光体粉末が得られる。
次に、上記のように合成した蛍光体の特性を評価した結果を説明する。この評価に際しては、蛍光体粉末にその導電性を補うための適量のIn2O3(酸化インジウム)粉末を混合し、更に、有機バインダおよび有機溶剤等から成るビヒクルと混合して蛍光体ペーストを調製する。In2O3の混合量は、蛍光体粉末自体の導電性および蛍光体層に要求される導電性に応じて適宜定められるものであるが、例えば、蛍光体粉末100(重量%)に対して5〜15(重量%)程度である。調製したペーストを、例えば表示装置において電子の射出方向に配置される表示面上に適当な厚さ寸法で塗布し、蛍光体層を形成して評価した。評価した表示装置は、例えば、図2〜図4に示されるような構造を備えた蛍光表示管10である。
上記の図2は、本発明の蛍光表示装置の一例である蛍光表示管10を一部を切り欠いて示す斜視図である。図2において、蛍光表示管10は、所定の発光パターンに形成された蛍光体層22を複数個所に備えたガラス、セラミックス、琺瑯などの絶縁体材料製の基板12と、枠状に形成されたガラス製のスペーサ14と、透明なカバー・ガラス板16と、複数本の陽極端子18p、複数本のグリッド端子18g、およびカソード端子18kとを備えたものである。それら基板12およびカバー・ガラス板16がスペーサ14を介して相互にガラス封着されることにより長手平箱状の気密容器が構成され、その内部にそれらの部材により囲まれた真空空間が形成されている。
基板12の表示面20には、種々の形状に形成された多数の蛍光体層22が備えられ、各々グリッド電極24および補助グリッド電極26により囲まれている。この補助グリッド電極26は、例えばグリッド電極24と電気的に絶縁され且つ全面共通に設けられている。また、これらグリッド電極24および補助グリッド電極26は、表示面20に設けられたグリッド配線30,32、およびその長辺に沿って設けられた多数の端子パッドを介して前記のグリッド端子18gに接続されている。
また、基板12の両端部には、前記カソード端子18kを備えた一対の端子部材34が固設されており、これに固着されたアンカ36および図示しないサポート間に直熱型カソード(陰極)として機能する細線状の複数本のフィラメント(フィラメント・カソード)38が基板12の長手方向に平行であって基板12の表示面20から離隔した所定の高さ位置となるように張設(すなわち、蛍光体層22の上方に架設)されている。このフィラメント38は、表面に電子放出層として(Ba,Sr,Ca)O等の仕事関数の低いアルカリ土類金属の酸化物固溶体がコーティングされたタングステン(W)ワイヤ等から成るものである。なお、蛍光表示管10には、気密容器内の真空度を高めるためのゲッタや、気密容器が形成された後に排気して内部を真空にするための排気管或いは排気穴等が備えられているが、これらは省略した。
図3は、上記表示面20の一部を拡大して詳細に示す図であり、図4は、その断面の要部を更に拡大して示す図である。表示面20には、例えば厚膜導体から成る陽極配線40が陽極端子18pに接続されるように設けられており、その上には、スルーホール42を適宜備えた厚膜ガラス材料等から成る絶縁体層44が固着されている。絶縁体層44の上には、蛍光体層22よりも若干大きい平面形状のグラファイト等から成る陽極46がスルーホール42を介して陽極配線40と導通する位置に形成されている。蛍光表示管10においては、前記蛍光体層22はこの陽極46上に形成される。また、蛍光体層22の周囲には、例えば厚膜ガラス材料製のリブ状壁48,50が立設されている。前記のグリッド電極24および補助グリッド電極26は、例えば厚膜導体から成るものであって、これらリブ状壁48,50の頂部に設けられている。
このように構成された蛍光表示管10において、上記フィラメント38から放出された熱電子は、その零(V)のフィラメント38に対して例えば20(V)程度の正電圧が印加されたグリッド電極24により加速されるので、例えば、グリッド電極24に順次に加速電圧を印加して走査すると共にその走査に同期して所望の蛍光体層22が接続された陽極配線40に正電圧を印加すると、その蛍光体層22に熱電子が衝突してその蛍光体層22が発光させられる。したがって、グリッド電極24の走査の一周期ごとに正電圧を印加する陽極配線40を変更することにより所望の発光表示を得ることができる。なお、蛍光体の評価に際しては、蛍光体層22に定常的に正電圧を印加することにより、常時点灯させた状態でその輝度を測定した。
図5は、CaTiO3100(mol%)に対するPrおよびAlの添加量を、それぞれ0〜0.10(mol%)、0〜1.5(mol%)の範囲で変化させて蛍光体の組成を評価した結果を表したものである。なお、測定に際しては、蛍光表示管10の励起電圧は26(V)、デューティ比を1/12とし、本実施例の蛍光体の可視光ピーク波長である614(nm)程度の赤色光の初輝度を測定した。この図5に示されるように、Al添加量が0(mol%)或いは1.5(mol%)の場合には、Pr添加量の全範囲において50(cd/m2)以上の高輝度を得ることができなかったが、Al添加量が0.1〜1.0(mol%)の範囲では、Pr添加量が0.003〜0.05(mol%)の全範囲において、50(cd/m2)以上の高輝度を得ることができた。特に、Pr添加量が0.008〜0.023(mol%)の範囲では、肉眼で蛍光体の発光が十分に確認できる70(cd/m2)以上の高輝度を得ることができる。
なお、Pr添加量が0.02(mol%)を超える領域では、Pr添加量が増えるに従ってなだらかに輝度が低下する傾向が見られる。特に、上記の図5においては省略したが、これから容易に推測できるように、0.1(mol%)を超える領域では、20(cd/m2)程度以下の著しく低い輝度に留まる。すなわち、Pr添加量が過少でも過多でも高輝度が得られないことが判る。
また、上記図5に示されるように、Pr添加量が0.005〜0.05(mol%)の範囲では、Al添加量が0.1〜1.0(mol%)の範囲において、50(cd/m2)以上の高輝度を得ることができた。特に、Al添加量が0.3(mol%)程度の場合には、従来の硫化物蛍光体に遜色ない100(cd/m2)以上の輝度を得ることができる。
また、この蛍光体について、前記の輝度評価と同様に励起電圧が26(V)でデューティ比が1/12の条件で、輝度が初期の1/2まで低下するハーフライフを評価したところ、高輝度が得られた全ての組成範囲において1000時間以上の寿命を有していた。すなわち、100時間未満であったSrTiO3系蛍光体よりも長寿命を有することが確かめられた。
要するに、本実施例においては、CaTiO3:Pr,Al蛍光体は、CaTiO3母体に、賦活剤としてPrが0.003〜0.05(mol%)の範囲内の割合で添加されると共に、Alが添加されることにより構成されるため、SrTiO3系蛍光体に比較して長寿命を有し、且つ、低速電子線で励起しても肉眼で十分に認識可能な高輝度が得られるのである。
図6は、前記のAlに代えて0.1〜0.5(mol%)の範囲でGaをPrと共に添加したCaTiO3:Pr,Ga蛍光体の初輝度を示したものである。なお、Prの添加量は、0.01(mol%)とした。この図6から明らかなように、0.07(mol%)以上の添加量とすることにより、50(cd/m2)以上の十分に高い輝度の得られることが判る。なお、この評価の範囲では、Ga添加量の上限は明らかにはならなかった。0.5(mol%)を超える領域においても、同等或いは同等以上の輝度の得られることが期待される。
図7は、Alに代えて0.3〜0.6(mol%)の範囲でInをPrとも共に添加したCaTiO3:Pr,In蛍光体の初輝度を示したものである。なお、Prの添加量は、0.01(mol%)とした。この図7において、0(mol%)と他の2点とを対比すれば、In添加による輝度向上効果は明らかである。但し、0.2(mol%)以上の添加で50(cd/m2)以上の輝度が得られることが予想されるものの、評価した範囲では下限値および上限値の何れも明らかにはなっていない。Gaと同様に、0.6(mol%)を超える領域において更に高い輝度が得られる可能性がある。
図8は、Alに代えて0.1〜〜0.5(mol%)の範囲でMgをPrと共に添加したCaTiO3:Pr,Mg蛍光体の初輝度を示したものである。なお、Prの添加量は、0.01(mol%)とした。また、蛍光体の合成に際しては、Mg源としてMg(NO3)2を用いた。この図8から明らかなように、0.07(mol%)以上の添加量とすることにより、50(cd/m2)以上の十分に高い輝度の得られることが判る。但し、評価した範囲では上限値は明らかではなく、右上がりのグラフから、0.5(mol%)を超える添加量において更に高特性の得られる可能性が予測される。
図9は、Alに代えてCaTiO3の100(mol%)に対して0.13〜2.65(mol%)の範囲でZnをPrと共に添加したCaTiO3:Pr,Zn蛍光体の初輝度を示したものである。なお、Prの添加量は、0.01(mol%)とした。また、蛍光体の合成に際しては、Zn源としてZn(NO3)2を用いた。この図9から明らかなように、0.13(mol%)以上の添加量とすることにより、50(cd/m2)以上の十分に高い輝度の得られることが判る。但し、Znも、評価した範囲では上限値は明らかではなく、右上がりのグラフから、2.65(mol%)を超える添加量において更に高特性の得られる可能性が予測される。
また、図示はしないが、Alに代えてZnおよびLiを添加する場合も評価したところ、Zn添加量が2.65(mol%)、Li添加量が0.5(mol%)の場合において、Znのみを添加した場合の84(cd/m2)程度の輝度に対して、131(cd/m2)程度の極めて高い輝度を得ることができた。
図10は、Alに代えてLiを用いたCaTiO3:Pr,Li蛍光体において、焼成温度と輝度との関係を調べたものである。なお、Li源としてはLi2CO3を用い、添加量をCaTiO3に対して0.5(mol%)の範囲とした。また、Pr添加量は0.01(mol%)である。図10に示されるように、1200(℃)の焼成温度では得られる輝度が30(cd/m2)程度に留まるが、それよりも十分に低温、例えば1150(℃)で焼成すれば、70(cd/m2)程度、すなわち1200(℃)の場合の2倍以上、1100(℃)で焼成しても50(cd/m2)以上の高輝度を得ることができることが確かめられた。
なお、Li添加の場合には、上記の最適焼成条件で焼成した場合には、2(mol%)で160(cd/m2)程度、3(mol%)で130(cd/m2)程度、6(mol%)で100(cd/m2)程度の極めて高い輝度が得られ、図示はしないが、これらについても、焼成温度との関係で同様な傾向がある。
要するに、本実施例においては、混合工程P1において、母体原料、Pr源、およびLi源等が混合され、焼成工程P4において、その混合物が1050〜1150(℃)の範囲内の温度で焼成される。そのため、SrTiO3:Pr,Al蛍光体よりも長寿命を有し且つ低速電子線で励起しても高輝度で発光するCaTiO3:Pr,Li酸化物蛍光体が得られる。Li以外の前述した各第2添加物については、全て、最適と考えられる焼成温度:1050〜1150(℃)程度で焼成した結果を示している。
図11は、CaTiO3:Pr,Al蛍光体において、上記CaTiO3:Pr,Li蛍光体の場合と同様に焼成温度と輝度との関係を評価した結果を示した図である。この評価においては、Al添加量を0.3(mol%)とし、Pr添加量を0.0075(mol%)、0.01(mol%)、0.02(mol%)とした。この図11において、Pr添加量毎に若干の相違は認められるが、1300(℃)で焼成した場合は輝度が5(cd/m2)程度に留まるのに対し、それよりも低温、例えば1250(℃)程度の温度で焼成処理を施せば、輝度が著しく向上する傾向が明らかである。例えば、Pr添加量が0.075(mol%)の場合には、1250(℃)焼成で50(cd/m2)程度の輝度、すなわち1300(℃)焼成の場合の10倍もの輝度が得られる。また、1200(℃)で焼成した場合には、Pr添加量が0.02(mol%)の場合でも80(cd/m2)程度の輝度が得られ、0.01(mol%)の場合には100(cd/m2)程度の輝度、0.0075(mol%)の場合には120(cd/m2)程度の輝度が得られる。
特に、焼成温度を1100〜1150(℃)の範囲内とした場合には、Pr添加量が0.01(mol%)、0.02(mol%)の場合には120(cd/m2)以上の輝度が得られ、Pr添加量が0.0075(mol%)の場合でも90(cd/m2)以上の輝度が得られる。
しかしながら、焼成温度が低過ぎる場合にも高い輝度は得られず、1000(℃)では30(cd/m2)程度以下の輝度に留まるが、1050(℃)の焼成温度では、全ての組成のものについて50(cd/m2)以上の輝度が得られる。図示はしないが、他の元素を添加した場合にも、得られる輝度は添加物毎に相違するものの、同様な傾向が見られる。したがって、これらのデータから、1050〜1250(℃)の範囲内の温度で焼成することが好ましいことが明らかであり、特に、1100〜1150(℃)(Pr添加量が0.01(mol%)、0.02(mol%)の場合には1100〜1200(℃))の範囲内の温度で焼成すれば、100(cd/m2)以上の極めて高い輝度が得られ、好ましいことが判る。
図12は、Pr源として用いるPr化合物を種々変更してCaTiO3:Pr,Al蛍光体を合成し、輝度を評価した結果を示したものである。Pr添加量は0.01(mol%)、Al添加量は0.3(mol%)とした。この評価結果から明らかなように、塩化物で添加した場合には、100(cd/m2)以上の高い初輝度を得ることができるが、炭酸塩、硝酸塩で添加した場合には、60(cd/m2)程度に留まり、酸化物の場合には、著しく低く、10(cd/m2)程度に留まることが明らかである。すなわち、Pr源として酸化物は好ましくなく、塩化物が最も好ましいことが判る。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。