以下本発明を詳細に説明する。請求項1に係わる発明においては、顔料とバインダーからなる少なくとも1層の下層を持ち、さらに1種類あるいは複数の無機微粒子からなる表層を有する記録材料において、該表層と該下層の界面に任意の可視光領域に於ける自由端反射面が形成されており、該表層中における無機微粒子の質量構成比が70%以上であり、該表層を構成する素材および空隙率から計算される該表層の体積平均屈折率nが1.41以上であり、屈折率1.6以上の無機微粒子が含まれる事が特徴である。本発明に於いて、該表層と該下層との間に自由端反射面が形成されるとは、該表層の屈折率が、該下層の屈折率よりも高く、かつ反射面として有効な界面が存在していることを示しており、この反射面として有効な界面を持つとは、界面において屈折率が一気に変化する事である。
この反射面として有効な界面を設ける事により、入射光が入った場合、表面での鏡面反射に加え、この表層と下層との界面での反射が加わり、非常に高い反射率、つまり非常に高い光沢を得ることが出来る。
また、表面による鏡面反射率は反射する物質の屈折率が高いほど鏡面反射率が高くなるため、下層よりも表層の屈折率が高い本発明に於いては、該表層を設けない下層のみによる鏡面反射率より、屈折率の高い表層による鏡面反射率の方が高くなる。
従来表層として記載される薄層が種々開示されているが、表層と下層の界面に着目すると、その実態は様々であり、例えば、表層を下層と同時重層塗布により設ける場合、乾燥して得られた塗布物の表層と下層との境界においては、塗液同士の混合が発生し、たとえ本発明と同様に表層の屈折率が下層の屈折率よりも高い場合においても、界面では混合による屈折率の連続的な変化が生じるため、明確な反射面として機能しえない。このため界面での入射光の反射は生じないか極めて反射率が低くなる。また、例えばキャスト紙のように、下層を形成した後、表層を設け、これににキャストドラムの光沢面を転写する場合、同時重層塗布の場合の様に界面における屈折率の連続的な変化は生じないが、下層の表面は紙の地合による凸凹が生じているため、表層と下層の界面は光沢に有効な反射面として機能せず、乱反射面となるため、この界面は光沢向上には有効に寄与しない。一般的に表面粗さと光沢つまり鏡面反射率の間には密接な関係があることが知られており、たとえばガラスの表面粗さが10-8m程度の場合には理論限界値100に対し80程度の光沢を示すが、10-6m程度つまり1μm程度の凸凹があると光沢は20程度まで低下し、有効な反射面とは言えなくなる。これは表層と下層の界面の乱れ方と反射率との場合にも同様の影響があると考えられ、本発明に於いては表層と下層の界面は平面であることが好ましい。しかしながら下層の一部に亀裂が存在する程度であれば特に問題はない。JIS B0601−1994に定義されるところのRa値において、0〜0.3μmの範囲にある事が好ましく、これは、記録材料の断面を電子顕微鏡観察し、亀裂部分を除いた画像を公知の方法に従い画像処理することにより求めることが出来る。
本発明に於いて、表層の屈折率が1.41以上であることが特徴であり、これは入射光の表面における鏡面反射率と表層と下層の界面における鏡面反射率が、表層の屈折率が高いほど大きくなるためである。従来技術で得られる屈折率は1.4以下であり、これは屈折率が1.5程度のシリカ無機微粒子あるいはポリマー、有機微粒子などにより表層が構成されているためであり、インクジェット記録材料としてインクを通過させる細孔が原理的に必要であるため、空隙を含まざるを得ず、空隙部分の屈折率は1であることから、表層としての屈折率は1.4が実質的な限界であった。本発明に於いては、さらに屈折率の高い屈折率1.6以上の無機微粒子を含むことによって屈折率1.41以上の表層を構成することが初めて可能となった。
光沢を上げる目的からは、表層の屈折率は高ければ高いほど良く、表面および界面は平滑であれば平滑であるほど好ましい。本発明の目的は、表層の屈折率が1.41以上で達成されるが、1.5以上あるとさらに高い光沢を得ることが可能であり好ましい。空隙を含み屈折率1.5以上の表層を構成するためには、屈折率1.7以上の無機微粒子を含むことが好ましい。
該表層を構成する無機微粒子は、屈折率が1.6未満の粒子を含んでいても良い。例えば、屈折率2.7の酸化チタンを含む場合には、屈折率が1.45の無機微粒子、例えばシリカを多く含んでいても表層としての屈折率は本発明を達成するに十分な値を得ることが出来る。
下層あるいは表層の屈折率は、下層あるいは表層を構成する成分各々の屈折率に対し、下層あるいは表層に対する各々の体積分率を乗じたものの総和として求められる。表層あるいは下層が多孔質層である場合は、空隙も構成成分として計算に加える。例えば、下層の構成成分が、屈折率1.5の無機微粒子30体積%と、屈折率1.50のポリマー10体積%と空隙が60体積%である場合、多孔質層全体の屈折率は1.50×0.30+1.50×0.1+1.00×0.60=1.20となる。空隙の体積%が本計算において重要な因子となるが、これは塗布層の構成のみならず、塗布方式や乾燥など様々な因子により変化する。従って空隙の体積%は、記録材料の断面を電子顕微鏡観察し平均厚みdを求め、空隙の体積%を0と仮定し各成分の体積から導かれる理論的な膜厚に対する比率から、空隙の体積%を算出することが必要である。表層の厚みが不均一な場合においても、それらを全て含んだ平均厚みdを用いる事が必要である。また光学的測定器を用いることによっても下層あるいは表層の屈折率を求めることは可能であり、例えばエリプソメーターを用いることで測定することも出来る。
請求項2に係わる発明においては、該表層の平均厚みd(nm)と該表層を構成する素材および空隙率から計算される該表層の体積平均屈折率nを掛け合わせた値、いわゆる光学的厚みの平均値が200nm以下である事が特徴である。本発明の如く表層の屈折率が下層の屈折率よりも高い場合、表層と下層との界面は自由端反射面であり、ここでの反射光の位相はずれない。また表面における鏡面反射光の位相は180#ずれる。ここで、例えば光学的厚みが200nmの場合、800nmの入射光の光路長差による位相変化量は丁度180#であり、この場合、表面反射光と界面反射光の位相が揃うため、極めて高い反射率つまり光沢を得ることが出来る。光学的厚みが200nmを超える場合においても、位相がずれるだけで高い光沢を得ることが出来るが、干渉による着色が可視光領域内に発生しはじめるためあまり好ましくない。光学的厚みが200nm以下の場合、可視光領域内において着色がほぼ発生せず、インクジェット記録材料として高光沢であり非常に好ましい特性を得ることが出来る。
このように、本発明は光学的な原理に基づく高光沢発現であるが、従来一切試みられることはなかった。これは、本発明に用いられる高屈折率の素材は可視光散乱の非常に大きい材料であり、従来白色顔料として用いられるものであった事から、インクジェット記録材料のインク受容層および表層に求められる低ヘイズ性とはまったく相容れないものであり、検討される事がなかったのだと思われる。
また、光学的な反射率を向上させるべく、光学的厚み200nm以下の高屈折率層をA、光学的厚み200nm以下の低屈折率層をBとした場合、例えば、A−B−A−下層、A−B−A−B−A−下層などの複数層構造とすることにより、高屈折率層の屈折率が1.4以下の場合においても極めて高い光沢を得ることが可能であるが、入射角度が垂直に近くなると反射率つまり光沢が低下すること、生産工程が煩雑となる点からあまり好ましく無く、屈折率1.41以上の単層の表層により高光沢を実現する本発明が好ましい。
該表層を構成する無機微粒子において、その一次粒子径あるいは二次凝集構造を持つ場合にはその平均粒径が重要な因子となる。インクジェット記録材料の表層を勘案した場合、可視光の範囲で出来る限りヘイズが低く透明であること、つまり可視光の波長に対して十分に小さくレイリー散乱強度も低い領域となる一次粒子径が好ましい。可視光波長(例えば400nm)より粒径が小さくなると、光は粒子の裏へ回り込む回折効果により、散乱を受けず透過するようになり、光学的に透明となりはじめる。波長より小さい粒子の散乱を表すレイリー散乱は粒径の6乗に比例し大きくなるので、レイリー散乱によるヘイズは出来るだけ少ないことが好ましく、平均一次粒子径で80nm以下、一次粒子が複数個結合した二次粒子を持つ場合には平均粒径が200nm以下であることが適している。例えば一次粒子径が80nmの粒子のレイリー散乱は400nmの同一組成の粒子によるレイリー散乱のおよそ1万5000分の1に過ぎない。また、前述した光学的厚みが200nm以下であり、屈折率が1.41以上であるということは、物理的な膜厚としては約141nm以下であることを示しているのにもかかわらず、上限の平均粒径として200nmを規定することは、一見矛盾するように思われるが、一次粒子同士の結合による二次粒子は測定上の見かけの大きさであること、塗布時に高いせん断力がかかることで、二次粒子そのものの変形あるいは分断が発生するため、平均粒径よりも薄い表層を構成する事が可能であり、なんら矛盾とはならない。
表層を構成する無機微粒子の平均一次粒子径は後述する電子顕微鏡観察で得られ、二次粒子を含む平均粒径は測定解析法にキュムラント法を採用した動的光散乱法を用い、液中の流体力学的平均粒径として測定される。また測定解析法にヒストグラム法を採用した動的光散乱法による粒度分布において、400nm以上の粒子は少ないことが好ましい。
本発明に用いられる、屈折率が1.6以上の比較的屈折率の高い無機微粒子としては、焼成クレー(屈折率1.60)、硫酸バリウム(屈折率1.63)、酸化マグネシウム類(屈折率1.64〜1.74)、ルチル型二酸化チタン(屈折率2.76)、アナターゼ型二酸化チタン(屈折率2.52)、酸化亜鉛(屈折率2.0)、硫化亜鉛(屈折率2.4)、鉛白(屈折率2.0)、焼成カオリン(屈折率1.62)、酸化アンチモン類(屈折率2.09〜2.29)、チタン酸鉛(屈折率2.70)、チタン酸カリウム(屈折率2.68)、酸化ジルコン(屈折率2.40)、酸化セリウム(屈折率2.2)、酸化ハフニウム(屈折率1.95)、五酸化タンタル(屈折率2.1)、酸化イットリウム(屈折率1.87)、酸化クロム(屈折率2.5)、酸化スズ、ATO、ITO等があり、これらは単独あるいは混合して用いることが可能であり、これらの複合酸化物あるいは複合硫化物等についても広く用いることが出来る。また、酸化チタン、酸化亜鉛等光触媒活性をもつ無機微粒子の場合には、無機微粒子表面に極めて薄く、シリカ、アルミナ、ホウ素などによる被覆が行われていることが好ましい。この場合、屈折率は被覆している物質の体積%を用い、計算して求めることが出来る。
これら無機微粒子には、種々の機能性を持つ物が多数有り、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等はそのバンドギャップによる紫外線吸収機能を持ち、これを表層に用いることにより、紫外線によるインクの消色を抑制することが可能となり、所謂印字後の耐光性に優れたインクジェット記録材料を得ることが可能となる。また、ATO、ITO、五酸化アンチモンと酸化亜鉛の複合酸化物、ATO被覆酸化チタンなど導電性を持つ無機微粒子を表層に用いることにより、帯電防止性能を得ることが可能であり、インクジェット印字時のミスト抑制、つまり印字品質に優れたインクジェット記録材料を得ることが可能となる。また、これら導電性の無機微粒子を表層に用いた場合、赤外線の遮蔽機能を持たせることも可能となる。
また、α−Fe2O3のように従来ベンガラとして知られているような、無機顔料つまり着色無機微粒子を用いた場合においても、平均一次粒子径が80nm以下の超微粒子品(例えば堺化学工業株式会社のFROシリーズとして入手可能)であれば、本発明に好適に用いる事が出来る。従来試みられていたような0.5μmから1μm程度の厚みを持つ表層の場合には、インクジェット記録材料そのものを着色し、品位を落とすため使用されることはなかったが、本発明に於いては表層の厚みが非常に薄いため、無機顔料による着色が無視出来るレベルであり、高屈折率の無機微粒子として使用することが出来る。特にα−Fe2O3はルチル型二酸化チタンを超える約3.2の極めて高い屈折率を持ち、さらに極めて高い紫外線遮蔽能も持つ事から、好ましく用いることが出来る。
また、無機微粒子の形状は一次粒子二次粒子共に特に規定しないが、球状、針状、多角形状、六角板状、立方体状、テトラポット状、不定形状などがある。また一次粒子の結晶成長方向、あるいは破砕面、二次粒子の結合方向、焼結工程、粉砕工程、分散工程など種々の因子により、無機微粒子の形態は千差万別に変化する。
また、本発明においては、先に述べたように表層の厚みは物理的厚で141nm以下であり、表層を形成するのに用いられる塗液の固形分濃度は数%程度と比較的希薄な濃度となる。そのため、無機微粒子の会合が発生しやすく、”柔らかな”二次粒子を構成する場合も多い。
これらの表層に用いられる無機微粒子は、物理的粉砕である機械的粉砕、水素ぜい性方、超音波法、スパーク法、爆発法、あるいは液相法である噴霧法、水熱法、アルコキシド法、ゾルゲル法、あるいは気相法であるプラズマ法、火炎法など公知の様々な方法で製造することが出来る。
これら表層に用いられる屈折率の比較的高い無機微粒子は、各社より、UVカット剤、化粧品用顔料、各種研磨剤、半導体CMP材料、無機セラミックス材料、半導体封止剤添加材料、フォトニクス材料、充填フィラー材料、導電性ゾル、難燃剤等として、広く市販されており、ゾルとして提供されている無機微粒子はそのまま表層を構成する塗液の材料として使用することが出来る。粉体として提供されている無機微粒子は、高圧ホモジナイザー、ビーズミル、超音波分散装置など公知の分散装置を使用し分散物を得た後、塗液の材料として使用することが出来る。
インクジェット記録材料の場合、インク吸収性の点から表層の空隙率は高い方が好ましく、屈折率の点からは表層の空隙率は低い方が好ましい。先に述べたように表層の厚みは物理的厚みで141nm以下であり、この空隙は物理的にインクを吸収するにはあまりにも薄い。実際にはインクあるいはインクに含まれている水、高沸点溶媒などの吸収は下層が担うため、表層はできるだけ下層の抵抗とならないことが好ましく、このため空隙率は高い方が好ましく、膜厚は薄い方が好ましく、また微細な0.01mm以下の表層が存在しない部分が多数あることも好ましい。
本発明に於いて、表層を構成する無機微粒子は、表層を構成する全質量中70%以上占めることが必要であり、特に好ましくは95%以上である。これはバインダー類を出来るだけ含まないことが、インクジェット記録材料としての適性と高屈折率を両立するために好ましいためである。
本発明の表層に必要に応じ用いられるバインダーとしては、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン、ゼラチン誘導体、各種ケン化度のポリビニルアルコール、カルボキシ変性、カチオン変性及び両性のポリビニルアルコール及びそれらの誘導体、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロ−ス、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ビスコース等のセルロ−ス誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジニウムハライド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルエーテル、アルキルビニルエーテル・マレイン酸共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、尿素樹脂、ポリアミド樹脂等の水溶性樹脂、ビニルポリマー系ラテックスとして、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の単独重合体やアクリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等の共重合体、合成ゴム系ラテックスとして、ポリイソブチレン、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム等の単独重合体やスチレン・ブタジエン、アクリロニトリル・ブタジエン、アクリル酸エステル等の共重合体等を挙げる事が出来る。
これらバインダー類は一般的に屈折率は1.5程度であり表層の屈折率を下げる方向になること、バインダー類を表層に添加すると、先に述べた表層のインクあるいは溶媒の下層への移行を妨げたり、下層の吸収性そのものを劣化させる場合があることなどから、バインダー類は出来る限り少ないことが好ましく、先に述べた如く、質量構成比で無機微粒子は70%以上、好ましくは95%以上である。
同一の無機微粒子を使用し、バインダーを少なくすると、一般的に表層を構成する無機微粒子の下層への固着力は低下すると考えられるが、無機微粒子の形状によってはバインダーに依存しない下層への固着が出来る。これは物理的あるいは工学的ともいえる固着方法であり従来なしえなかった方法である。例えば、平均一次粒子径10nm程度の無機微粒子が二次粒子を形成しており、平均粒径100nm程度となっている場合、極めて小さい一次粒子が下層に食い込むスパイクの役目をし、二次粒子全体が物理的に固定されるという原理により、バインダーが不要あるいは極めて少量で十分な表層の下層への固着力を得ることが可能である。また、テトラポット状の一次粒子を持つ場合、多角形状の一次粒子を持つ場合に於いても、同様にスパイクとしての効果を持ち、下層への物理的な固着力を得ることが出来る。また、表層の厚みは薄いほど、下層と接触している粒子の表層全体を構成している粒子数に占める割合が多くなり、表層の下層への固着力は強くなる。
また、バインダーによらない表層の下層への固着は、下層を構成する粒子と表層を構成する粒子の化学的な結合を形成することでも可能となる。例えば、下層をシリカ主体で形成し、表層にシリカあるいはシリカ被覆タイプの無機微粒子を用いた場合、シリカ同士の間にシロキサン結合が形成され下層への固着力を得ることが出来る。また、表層を形成するシリカあるいはシリカ被覆タイプの無機微粒子同士のシロキサン結合により、網目状のネットワークを形成し固着力を得ることも出来る。また、例えば、下層をシリカ主体で形成し、表層に酸化セリウムを用いた場合には、シリカのSi−O結合が酸化セリウムのCe−O結合に置換される固相反応が生じ、固着力を得ることが出来る。
また、バインダーによらない表層の下層への固着方法として、例えば下層を構成する粒子がカチオン性であり表層を構成する粒子がアニオン性である場合には粒子同士の電荷による吸引力により固着力を得る事が出来る。あるいは界面において塩析を生じせしめる事により表層を構成する粒子の局所的な凝集を誘発させ、これによる物理的な勘合を形成し固着力を得ることも出来る。
また、表層を形成する無機微粒子の表面をポリマーで被覆し、ポリマー同士の接着力により表層の粒子同士を結着し表層を固着する方法、その他にもUV硬化、紫外線硬化、赤外線による熱硬化等、公知の種々の方法を用いることが出来る。
本発明の下層に用いられる顔料としては、平均一次粒子径が100nm以下の顔料が好ましく、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等公知の各種無機微粒子が挙げられるが、特に非晶質合成シリカ、アルミナ水和物が好ましい。下層には、無機微粒子を8g/m2以上含有するのが好ましく、10〜40g/m2の範囲で用いるのがより好ましい。この範囲より少ないと、インク吸収性が劣る事がある。親水性バインダーは、無機微粒子に対して40質量%以下、好ましくは35質量%以下であり、特に10〜25質量%が好ましい。
これら下層を構成する無機微粒子は単独あるいは併用しても良く、下層を複数層の構成として、各層に最適な無機微粒子を適宜用いても良い。
本発明において、下層を構成する無機微粒子は、下層中の主たる割合、すなわち全固形分に対して無機微粒子を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上含有することが好ましい。
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ、及びその他に大別することができる。湿式法シリカは、さらに製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば日本シリカ(株)からニップシールとして、(株)トクヤマからトクシールとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、日本シリカ(株)からニップゲルとして、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェットとして市販さている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、ケイ酸ソーダの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスとして市販されている。
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されており入手することができる。
本発明に特に好ましく用いられる気相法シリカの一次粒子の平均粒径は、5〜30nmが好ましく、より高い光沢を得るためには、15nm以下が好ましい。更に好ましくは一次粒子の平均粒径が5〜15nmでかつBET法による比表面積が200m2/g以上のものを用いることである。本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
本発明には、気相法シリカをカチオン性化合物の存在下で、該気相法シリカの平均二次粒子径が500nm以下、好ましくは10〜300nm、更に好ましくは20〜200nmに分散したものが使用できる。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。本発明でいう平均二次粒子径とは、得られた記録材料のインク受容層を電子顕微鏡で観察することにより、観察される分散された凝集粒子の粒子径の平均値を求めたものである。
本発明に特に好ましく用いられる湿式法シリカの一次粒子の平均粒径は3〜50nmが好ましく、かつ平均凝集粒子径が5〜50μmである事が好ましい。これをカチオン性化合物の存在下で平均二次粒子径500nm以下、好ましくは20〜200nm程度まで微粉砕した湿式法シリカ微粒子を使用することが好ましい。
通常の方法で製造された湿式法シリカは、1μm以上の平均凝集粒子径を有するため、これを微粉砕して使用する。粉砕方法としては、水性媒体中に分散したシリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用できる。この際、分散液の初期粘度上昇が抑制され、高濃度分散が可能となり、粉砕・分散効率が上昇してより微粒子に粉砕することができることから、吸油量が210ml/100g以下、平均凝集粒子径5μm以上の沈降法シリカを使用することが好ましい。高濃度分散液を使用することによって、記録用紙の生産性も向上する。吸油量は、JIS K−5101の記載に基づき測定される。
本発明の平均二次粒子径が500nm以下の湿式法シリカ微粒子を得る具体的な方法としては、まず水中でシリカ粒子とカチオン性化合物を混合(添加はどちらが先であっても、また同時でもよい)してもよく、又それぞれの分散液あるいは水溶液を混合してもよく、のこぎり歯状ブレード型分散機、プロペラ羽根型分散機、またはローターステーター型分散機等の分散装置の少なくとも1つを用いて予備分散液を得る。必要であれば更に適度の低沸点溶剤等を添加してもよい。シリカ予備分散物の固形分濃度は高い方が好ましいが、あまり高濃度になると分散不可能となるため、好ましい範囲としては15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。次に、より強い機械的手段を与えることによって平均二次粒子径が500nm以下の湿式法シリカ微粒子分散液が得られる。機械的手段としては公知の方法が採用でき、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機及び薄膜旋回型分散機等を使用することができる。
上記気相法シリカ及び湿式法シリカの分散に使用するカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーまたは水溶性金属化合物を使用できる。カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号、同昭59−33176号、同昭59−33177号、同昭59−155088号、同昭60−11389号、同昭60−49990号、同昭60−83882号、同昭60−109894号、同昭62−198493号、同昭63−49478号、同昭63−115780号、同昭63−280681号、同平1−40371号、同平6−234268号、同平7−125411号、同平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性および分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は2,000〜10万程度が好ましく、特に2,000〜3万程度が好ましい。
水溶性金属化合物としては、例えば水溶性の多価金属塩が挙げられ、中でもアルミニウムもしくは周期律表4A族金属(例えばジルコニウム、チタン)からなる化合物が好ましい。特に好ましくは水溶性アルミニウム化合物である。水溶性アルミニウム化合物としては、例えば無機塩としては塩化アルミニウムまたはその水和物、硫酸アルミニウムまたはその水和物、アンモニウムミョウバン等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物が知られており、好ましく用いられる。
前記塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物とは、主成分が下記の一般式1、2、または3で示され、例えば[Al6(OH)15]3+、[Al8(OH)20]4+、[Al13(OH)34]5+、[Al21(OH)60]3+、等のような塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含んでいる水溶性のポリ水酸化アルミニウムである。
[Al2(OH)nCl6-n]m 一般式1
[Al(OH)3]nAlCl3 一般式2
Aln(OH)mCl(3n-m) 0<m<3n 一般式3
これらのものは多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名で、また、(株)理研グリーンよりピュラケムWTの名で、また他のメーカーからも同様の目的を持って上市されており、各種グレードの物が容易に入手できる。
本発明に用いられる周期表4A族元素を含む水溶性化合物としては、チタンまたはジルコニウムを含む水溶性化合物がより好ましい。チタンを含む水溶性化合物としては、塩化チタン、硫酸チタンが挙げられる。ジルコニウムを含む水溶性化合物としては、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム化合物等が挙げられる。本発明において、水溶性とは常温常圧下で水に1質量%以上溶解することを目安とする。
本発明のアルミナとしては酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ−アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は、数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で微細粒子に粉砕したものが好ましく使用出来る。
本発明で好ましく使用されるアルミナ水和物は、Al2O3・nH2O(n=1〜3)の構成式で表される。nが1の場合がベーマイト構造のアルミナ水和物を表し、nが1より大きく3未満の場合が擬ベーマイト構造のアルミナ水和物を表す。アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。
本発明に用いられるアルミナ水和物の一次粒子の平均粒径は、5〜50nmが好ましく、より高い光沢を得るためには、5〜30nmで平均アスペクト比(平均厚さに対する平均粒径の比)が2以上の平板状の粒子を用いるのが好ましい。
本発明に用いられる上記のアルミナ、及びアルミナ水和物は、酢酸、乳酸、ギ酸、硝酸等の公知の分散剤によって分散された分散液の形態から使用される。
本発明における表層あるいは下層を構成する無機微粒子の平均一次粒子径は、分散された粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒径として求められる。本発明のアルミナ水和物の一次粒子の平均粒径は、平板状の場合は平面状態で測定される。平板状アルミナ水和物の平均厚さは、アルミナ水和物をフィルム上に塗布したシートの断裁面の観察より得られ、アルミナ水和物のアスペクト比は平均厚みに対する平均粒径の比で得られる。
本発明において、下層を構成する無機微粒子とともに用いられる下層を構成する親水性バインダーとしては、公知の各種バインダーを用いることができるが、透明性が高くインクのより高い浸透性が得られる親水性バインダーが好ましく用いられる。親水性バインダーの使用に当たっては、親水性バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い親水性バインダーが好ましく用いられる。特に好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度200〜5000のものが好ましい。
また、カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。
本発明は、下層を構成する上記親水性バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を用いることもできる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ほう酸及びほう酸塩の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明において下層には更に、界面活性剤、着色染料、着色顔料、インク色剤の定着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤などの公知の各種添加剤を添加することもできる。
本発明に用いられる支持体としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、セロファン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム、ポリオレフィン樹脂被覆紙等の耐水性支持体、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙等の吸水性支持体等が用いられる。好ましくは耐水性支持体が用いられる。耐水性支持体の中でも特にポリオレフィン樹脂被覆紙が好ましい。これらの支持体の厚みは、約50〜250μm程度のものが好ましく使用される。
支持体、特に耐水性支持体であるフィルムや樹脂被覆紙を使用する場合には、インク受容層を設ける面上に天然高分子化合物や合成樹脂を主体とするプライマー層を設けるのが好ましい。支持体上に設けられるプライマー層はゼラチン、カゼイン等の天然高分子化合物や合成樹脂を主体とする。係る合成樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。プライマー層は、支持体上に0.01〜5μmの膜厚(乾燥膜厚)で設けられる。好ましくは0.01〜2μmの範囲である。
本発明における支持体には筆記性、帯電防止性、搬送性、耐カール性などのために、各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、顔料、硬化剤、界面活性剤などを適宜組み合わせて含有せしめることができる。
本発明に於いて、先に述べたように表層と下層の界面が出来る限り平面であることが好ましく、このような界面を形成するためには、下層が塗布され、空隙構造が形成された後に表層を塗布し形成する事を特徴とするインクジェット記録材料の製造方法を用いることが好ましい。これは、下層の空隙構造が形成されることで、表面に均一な平面が形成され、その上に表層を塗布することで、均一な平面の上に表層が形成されるため、下層と表層の界面を平面にすることができるためである。
下層の空隙構造は、下層が塗布され乾燥が進む中で、所謂減率乾燥工程以降において空隙が形成される。空隙が形成された後であれば、下層と同一ライン上で表層を塗布しても良いし、あるいは完全に乾燥させ一旦ロールとして巻き取った後、あらためて表層を塗布しても良い。同一ライン上で表層を塗布する場合に特に好ましいのは、乾燥終了点以降に塗布する事である。
また、表層を形成する塗液の塗布量は、下層に形成されている空隙容量の90%以下であることが好ましい。下層の空隙容量の90%以下の量に表層の塗布量を制限することにより、表層の塗液中の溶媒あるいは溶媒に溶解している成分は、極めて迅速に下層に移行し、これにより表層の塗液は極めて迅速に脱水され、表面にはバインダーと無機微粒子からなる表層、あるいは無機微粒子のみからなる表層が形成される。
本発明でいう空隙容量とは、水銀ポロシメーター(測定器名称 Autopore II 9220 製造者 micromeritics instrument corporation)を用い測定・処理された、多孔質層部分における細孔半径3nmから400nmまでの累積細孔容積(mL/g)に、多孔質層の塗布固形分(g/平方メートル)を乗ずる事で、単位面積(平方メートル)当たりの数値として求める事が出来る。
本発明に於いて使用される塗布装置中、下層の塗布に用いられる塗布装置については、公知の塗設方法を用いることができる。例えば、スライドビード方式、カーテン方式、エクストルージョン方式、エアナイフ方式、ロールコーティング方式、ロッドバーコーティング方式等がある。
本発明に於いて使用される塗布装置中、表層の塗布に用いられる塗布装置については、塗布の幅方向に均一に流出するためのスリットを持つ塗布装置、例えばスロットコーター方式、スリットを持つエクストルージョン方式としてのスライドビード方式、カーテン方式、あるいは小径の斜線グラビアをリバースかつキッスタッチで使用するマイクログラビア方式の塗布装置等を挙げることが出来る。
本発明に於いては、表層の塗液は均一に塗布されることが好ましく、そのため、スロットノズルスプレーコーター、インクジェットヘッドを利用したコーターなど、液滴で下層塗布物上に表層塗液を供給する塗布装置、あるいはダイレクトグラビアコーターに代表されるグラビアロールの回転方向と下層塗布物の搬送方向が同一であり、グラビアロールのセルパターンが転写するような塗布装置を用いることは好ましくない。
本発明において、表層の塗布に使用される塗液の溶媒として、目的に応じ、種々の溶媒を用いる事が出来る。本発明に於いては、溶媒は特に限定される事はなく、添加剤に応じ、水、メタノール、エタノール、ジエチレングリコール等の有機溶媒、および水との混合物、あるいは、必要に応じ、キシレン、エーテルなども使用することが出来る。
また、表層の塗布そのものを安定に行うために、フッ素系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤、アセチレンアルコール、低級アルコール類等を必要に応じて含有することが出来る。本発明に於いては、塗布装置の先端部分にて既に多孔質層への吸収が開始されており、また多孔質層への吸収性を向上させる効果も有ることから、特に、動的な表面張力を下げる界面活性剤類、アルコール類の添加により好ましい結果を得ることが出来る。
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
支持体として、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる120g/m2の基紙の表面に低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)からなる樹脂組成物を溶融押し出しにより25g/m2塗布し、クーリングロール処理により樹脂被覆層面の中心線平均粗さを1.0μmとし、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)からなる樹脂組成物を溶融押し出しにより25g/m2塗布、クーリングロール処理してポリオレフィン樹脂被覆紙を用意した。
上記ポリオレフィン樹脂被覆紙表面に高周波コロナ放電処理を施した後、下記組成のプライマー層をゼラチンが50mg/m2(約0.05μm)となるように塗布乾燥して支持体を作製した。
<プライマー層>
石灰処理ゼラチン 100部
スルフォコハク酸−2−エチルヘキシルエステル塩 2部
クロム明ばん 10部
上記支持体表面上に、下記組成を含有する下層用の塗液1〜3を調整し、スライドビード方式で塗布、乾燥を行い、下層のみからなるインクジェット記録材料1〜3を作成した。乾燥は、塗布後直ちに紙面温度が0〜5℃になるように冷却し、その後10〜50℃のドライヤーを用いて行った。なお、部とは顔料を100質量部とした時の各成分の質量部を表し、塗布量とは乾燥後の固形分質量を示す。
<気相法シリカ分散液>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m2/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20%の気相法シリカ分散液を製造した。
<下層組成−1>
気相法シリカ分散液 (シリカ固形分として)100部
ほう酸 5部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 25g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料1の断面を観察した所、厚みは38μmであり、気相法シリカの真比重を2、ポリビニルアルコールの比重を1.2、その他の比重を1として計算すると、空隙率は61%となり、計算された屈折率は1.16であった。なお、シリカ微粒子の平均二次粒子径は80nm、空隙容量は23ml/m2であった。
<アルミナ水和物分散液>
水に硝酸(2部)と擬ベーマイト(平均一次粒子径14nm)を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機を使用して、固形分濃度20%のアルミナ水和物分散液を作製した。
アルミナ水和物分散液 (アルミナ水和物固形分として)100部
ほう酸 0.4部
ポリビニルアルコール 12部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 35g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料2の断面を観察した所、厚みは37μmであり、アルミナ水和物の真比重を2.9、ポリビニルアルコールの比重を1.2、その他の比重を1として計算すると、空隙率は62%となり、計算された屈折率は1.23であった。なお、アルミナ水和物粒子の平均二次粒子径は80nm、空隙容量は23ml/m2であった。
<湿式法シリカ分散液>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と沈降法シリカ(吸油量200ml/100g、平均一次粒子径16nm、平均凝集粒子径9μm)100部を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散液をビーズミルで処理して、固形分濃度30%の湿式法シリカ分散液を得た。
<下層組成−3>
湿式法シリカ分散液 (シリカ固形分として)100部
ほう酸 3部
ポリビニルアルコール 15部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 30g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料3の断面を観察した所、厚みは39μmであり、湿式法シリカの真比重を2、ポリビニルアルコールの比重を1.2、その他の比重を1として計算すると、空隙率は56%となり、計算された屈折率は1.18であった。なお、シリカ微粒子の平均二次粒子径は100nm、空隙容量は22ml/m2であった。
上記インクジェット記録材料1〜3上に、下記組成を含有する表層用の塗液1〜7を調整し、表1の組み合わせに基づき、キッスタイプの小径ロールを用いたマイクログラビア方式で塗布を行い、インクジェット記録材料4〜13を得た。下記各々の表層用の塗液を、塗布量として18g/m2となるように調整し、塗布ロール種類、塗布ロール回転数、塗布速度を最適化し、目的塗布量をインクジェット記録材料1〜3上に塗設した。塗布後5秒間は乾燥風を当てることなく塗布装置内を走行させた後、60℃の温風をあてて乾燥を行った。なお、部数は固形分での値であり、平均粒径は動的光散乱法により測定された値を示す。
<表層組成−1>
超微粒子酸化亜鉛 100部
(FZO−50 石原産業株式会社製
平均一次粒子径35nm 平均粒径130nm)
ポリビニルアルコール 4部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 0.2g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料4の断面を観察した所、表層の厚みは80nmであり、空隙率は46%、計算された屈折率は1.50であった。
<表層組成−2>
超微粒子酸化亜鉛 60部
(FZO−50 石原産業株式会社製
平均一次粒子径35nm 平均粒径130nm)
コロイダルシリカ 40部
(PL−3L 扶桑化学工業株式会社製
平均一次粒子径35nm 平均粒径40nm)
固形分塗布量 0.2g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料5の断面を観察した所、表層の厚みは100nmであり、空隙率は37%、計算された屈折率は1.41であった。
<表層組成−3>
超微粒子球状酸化鉄 100部
(FRO−3 堺化学工業株式会社製
平均一次粒子径30nm 平均粒径190nm)
ポリビニルアルコール 4部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 0.15g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料6の断面を観察した所、表層の厚みは70nmであり、空隙率は52%、計算された屈折率は1.94であった。しかしながら、所々に数百nmの粗粒が確認された。
<表層組成−4>
超微粒子硫酸バリウム 100部
(平均一次粒子径60nm 平均粒径180nm)
ポリビニルアルコール 4部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分塗布量 0.2g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料7の断面を観察した所、表層の厚みは80nmであり、空隙率は33%、計算された屈折率は1.41であった。
<表層組成−5>
超微粒子五酸化アンチモン 100部
(A−2550 日産化学工業株式会社製
平均一次粒子径40nm 平均粒径80nm)
固形分塗布量 0.20g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料8〜10の断面を観察した所、表層の厚みは60nmであり、空隙率は43%、計算された屈折率は1.63であった。
<表層組成−6>
コロイダルシリカ 100部
(ST−AK−L 日産化学工業株式会社製
平均一次粒子径45nm 平均粒径99nm)
固形分塗布量 0.20g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料11、12の断面を観察した所、表層の厚みは170nmであり、空隙率は41%、計算された屈折率は1.26であった。
<表層組成−7>
超微粒子五酸化アンチモン 100部
(A−2550 日産化学工業株式会社製
平均一次粒子径40nm 平均粒径80nm)
固形分塗布量 0.50g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料13の断面を観察した所、表層の厚みは150nmであり、空隙率は43%、計算された屈折率は1.63であった。
表層塗液の塗布装置にスロットコーターを用い、インクジェット記録材料1上に表層組成−5の塗布を行い、インクジェット記録材料14を得た。塗布装置以外の条件は同一とした。
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料14の断面を観察した所、表層の厚みは80nmであり、空隙率は57%、計算された屈折率は1.47であった。
2層からなるスライドビード方式により、上記の下層組成−1と下記の表層組成−8の同時重層塗布を行い、乾燥し、インクジェット記録材料15を得た。
<表層組成−8>
コロイダルシリカ 100部
(ST−AK−L 日産化学工業株式会社製
平均一次粒子径45nm 平均粒径99nm)
ポリビニルアルコール 4部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
界面活性剤 0.1部
固形分塗布量 0.50g/m2
本塗液を塗布して得られたインクジェット用記録材料15の断面を観察した所、表層と下層の界面がおよそ300nmにわたり混合しており、表層として確認できる厚みは300nm程度であった。
表層と下層の界面が明確に形成されている、インクジェット記録材料4〜14について、屈折率と厚みを掛け合わせた光学的厚みを表1に記載した。
<20#光沢>
得られた各インクジェット記録材料について、白紙光沢をを鏡面光沢度測定方法(JIS−Z8741)に基づく20度鏡面光沢(Gs20#)を光沢計(日本電色工業(株)製VGS−1D)を用いて測定した結果を表1に記載した。
<干渉色の有無>
得られた各インクジェット記録材料について、表層の干渉が原因で発生する干渉色の有無を目視で観察し、その結果を表1に記載した。
<インク吸収性>
市販のインクジェットプリンター(エプソン社製、PM−880C)にてレッド、ブルー、グリーン、ブラックのベタ印字を行い、印字直後にPPC用紙を印字部に重ねて軽く圧着し、PPC用紙に転写したインク量の程度を目視で観察した。下記の基準で評価した。
○:転写しない。
△:印字部全体に薄い転写が観察される。
×:印字部全体に濃い転写が観察される。
表1の結果から明らかなように、表層の屈折率が1.41以上の場合に20#光沢が70以上という非常に高い光沢を得ることが出来る。従来技術で構成されたインクジェット記録材料15や、表層と下層の界面が自由端反射面を形成している場合に於いても、表層の屈折率が1.3程度の場合は、最大でも45程度の光沢しか得ることが出来ない。特に、インクジェット記録材料8、9では20#光沢が100以上の値を示しており、これは光沢数値100を規定する屈折率1.567のガラスの反射率以上の反射率を持つためである。また、インクジェット記録材料13においては、光沢は70と高いが、光学的厚みが245nmと若干厚いため薄黄色を呈しはじめていたが品質的には問題ないものであった。また、インクジェット記録材料11と15は表層の厚みは違うが構成としては近似であるのにもかかわらず、インクジェット記録材料15においては表層と下層の界面がはっきりしないため、界面からの反射が生じず、インクジェット記録材料11の光沢よりも低くなっている。また、インクジェット記録材料6においては表層の屈折率が高いため、光沢は高いものの、屈折率の高さより予想されるよりも光沢は低い。これは、表層を構成する無機微粒子の分散が上手く行かず、散在する粗大粒子が光を散乱させている事が原因であると推測され、更に分散性が向上し粗大粒子が無くなれば、より高い光沢がでるものと推測される。