JP2005199338A - Cvjインナーレースの鍛造方法、鍛造装置およびcvjインナーレース - Google Patents

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Abstract

【課題】高い寸法精度と優れた作業性(作業の省力化、作業時間の短縮)とを両立させたCVJインナーレース(等速ジョイントの内輪)の鍛造方法、鍛造装置、およびCVJインナーレースを提供する。
【解決手段】分割成形ダイ2の略中央部に孔2aを形成し、該孔の内周面に複数の突起2b・2b・・・を設け、該孔に素材11を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面11aにボール溝12b・12b・・・を成形し、分割成形ダイに素材を保持させた状態で素材に貫通孔12cを成形する。
【選択図】図1

Description

本発明は、等速ジョイント(Constant Velocity Joint;以下「CVJ」と表記する)の技術に関する。
より詳細には、等速ジョイントの内輪(以下、「CVJインナーレース」と表記する)の鍛造装置、鍛造方法、および当該鍛造装置または当該鍛造方法により成形されたCVJインナーレースの技術に関し、従来は二つの工程に分けて行っていたCVJインナーレースの外周面および溝の成形(溝成形作業)と、中央部の貫通孔の成形(貫通孔成形作業)と、を一つの工程で行うことにより、作業性および寸法精度を向上させる技術に関する。
従来から、自動車等のドライブシャフトのジョイント部として用いられるCVJの技術は公知である。CVJは主に内周面に複数の溝が成形された外輪(アウターレース)と、外周面に複数の溝が成形された内輪(インナーレース)と、該アウターレースおよび該インナーレースに成形された溝に嵌合するボールと、で構成され、ボールがアウターレースおよびインナーレースに成形された溝に係合することにより、アウターレースが取り付けられている側の伝達軸の長手方向と、インナーレースが取り付けられている側の伝達軸の長手方向とが一致しない場合でも、両伝達軸の長手方向の成す角度が変化する場合でも、両伝達軸を等速で回転可能とするものである。
CVJは長期間の使用に渡って駆動力を効率良く伝達することが要求される。従って、CVJを構成する部品(アウターレース、インナーレース、ボール等)はいずれも高い寸法精度と耐摩耗性が要求され、例えばクロムやモリブデン等が添加された炭素鋼を冷間鍛造することにより成形している。
このようなCVJインナーレースの鍛造装置としては、特許文献1および特許文献2に記載の鍛造装置が知られている。
実開昭63−202451号公報 特開平6−39477号公報
しかし、上記特許文献1および特許文献2に記載の鍛造装置は、いずれも厳密には分割成形ダイの略中央部に孔を形成し、該孔の内周面に複数の突起を設け、該孔に素材を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面に溝を成形する「溝成形作業」を行う閉塞鍛造装置であり、該溝が成形されたCVJインナーレースの中間品の中央部にドライブシャフト等に取り付けるための貫通孔を機械加工する「貫通孔成形作業」は、別工程(別の装置)で行っていた。
そのため、以下の如き問題が発生していた。
第一に、「貫通孔成形作業」時にCVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)が変形する場合があり、「溝成形作業」終了時点での外周面(溝)の寸法精度を確保することが困難である。これについては、従来は貫通孔成形作業により変形したときに、ちょうど所望の外形寸法となるように溝成形作業を行うといった煩雑な作業により対応していた。
また、「貫通孔成形作業」時にCVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)の姿勢を精度良く溝成形作業用の機械加工装置等にセットし、上下方向に貫通孔を成形するための芯抜き荷重を毎回一定にすることが容易でないため、溝成形作業と貫通孔成形作業の中心軸を一致させることが困難であり、このような観点から見てもCVJインナーレースの寸法精度を確保することが困難である。
さらに、上記の如く寸法精度を確保することが困難であることに付随して、製品歩留まりが低下したり、作業が煩雑になったり、作業時間が長くなったり、寸法精度を合わせるために後でさらに加工する必要が出てくる、といった問題(すなわち、作業性向上の阻害)が発生する。
第二に、「溝成形作業」と、「貫通孔成形作業」とが二つの工程に分かれているため、各工程について専用の装置を設ける必要があった。これは、設備スペースが大きくなり、設備コストが増大する要因となる。
また、不測の事態で製造ラインが停止することを防止するためにはCVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)の在庫を所定量確保する必要があり、製造ラインの管理コストが増大する。
第三に、従来の鍛造装置において、素材の上下から力を加える上パンチおよび下パンチの先端部(素材との接触部)はテーパ形状(先細りした形状)であるため、貫通孔成形作業時の素材の取り代(ロス)が大きい。
本発明は上記の如き状況に鑑み、高い寸法精度と優れた作業性(作業の省力化、作業時間の短縮)とを両立させたCVJインナーレースの鍛造方法、鍛造装置、およびCVJインナーレースを提供するものである。
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
即ち、請求項1においては、分割成形ダイの略中央部に孔を形成し、該孔の内周面に複数の突起を設け、該孔に素材を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面にボール溝を成形するCVJインナーレースの鍛造方法において、
該分割成形ダイに素材を保持させた状態で素材に貫通孔を成形するものである。
請求項2においては、分割成形ダイの略中央部に孔を形成し、該孔の内周面に複数の突起を設け、該孔に素材を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面にボール溝を成形するCVJインナーレースの鍛造装置において、
該分割成形ダイと、分割成形ダイの上方に配置される上スリーブと、該上スリーブに貫装された上パンチと、分割成形ダイの外周面を保持する圧入リングと、分割成形ダイの下方に配置される下スリーブと、該下スリーブに貫装された下パンチとを具備するものである。
請求項3においては、前記上パンチまたは下パンチにより素材に貫通孔を成形するものである。
請求項4においては、前記上パンチまたは下パンチの素材への当接面の略中央部には突起を設け、かつ、前記上パンチまたは下パンチの素材への当接面と、上パンチまたは下パンチの移動方向とを略直交させたものである。
請求項5においては、前記上スリーブと、前記上パンチと、前記圧入リングと、前記下スリーブと、前記下パンチとを、それぞれ独立して上下方向に移動可能としたものである。
請求項6においては、分割成形ダイと前記圧入リングとの当接面をテーパ面としたものである。
請求項7においては、請求項1に記載のCVJインナーレースの鍛造方法により成形されたものである。
請求項8においては、請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載のCVJインナーレースの鍛造装置により成形されたものである。
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
請求項1においては、従来のCVJインナーレースの成形作業において二つの工程に分かれていた「溝成形作業」と、「貫通孔成形作業」とを一つの工程で行うことが可能となり、設備に要するスペースを小さくするとともに、設備コストを削減することが可能である。
また、CVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)の在庫を確保する必要がなく、管理コストの削減が可能である。
さらに、「溝成形作業」の終了後、分割成形ダイでCVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)を保持したまま「貫通孔成形作業」を続けて行うことにより、「貫通孔成形作業」時にCVJインナーレースの外周面およびボール溝が変形することがなく、かつ、溝成形作業と貫通孔成形作業の中心軸が一致していることから、高い寸法精度を確保することが可能である。
さらにまた、これに付随して、部品歩留まりが向上するとともに、「溝成形作業」と「貫通孔成形作業」とのつなぎ時間(溝成形作業用の装置からCVJインナーレースの中間品を取り出し、移動させ、貫通孔成形作業用の装置にセットするまでに要する時間)を省略することが可能である。
請求項2においては、従来のCVJインナーレースの成形作業において二つの工程に分かれていた「溝成形作業」と、「貫通孔成形作業」とを一つの工程で行うことが可能となり、設備に要するスペースを小さくするとともに、設備コストを削減することが可能である。
また、CVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)の在庫を確保する必要がなく、管理コストの削減が可能である。
さらに、「溝成形作業」の終了後、分割成形ダイでCVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)を保持したまま「貫通孔成形作業」を続けて行うことにより、「貫通孔成形作業」時にCVJインナーレースの外周面およびボール溝が変形することがなく、かつ、溝成形作業と貫通孔成形作業の中心軸が一致していることから、高い寸法精度を確保することが可能である。
さらにまた、これに付随して、部品歩留まりが向上するとともに、「溝成形作業」と「貫通孔成形作業」とのつなぎ時間(溝成形作業用の装置からCVJインナーレースの中間品を取り出し、移動させ、貫通孔成形作業用の装置にセットするまでに要する時間)を省略することが可能である。
請求項3においては、CVJインナーレースの貫通孔を成形するための専用の部材を設ける必要がなく、鍛造装置の部品点数を削減し、装置構成を簡略化することが可能である。
請求項4においては、上パンチまたは下パンチは「溝成形作業」においては素材を上方および分割成形ダイの孔の内周面に向かって塑性変形させ、「貫通孔成形作業」においては素材を上下方向に貫通し、素材の中央部を芯抜きすることにより、CVJインナーレースの貫通孔を成形することが可能であり、CVJインナーレースの貫通孔を成形するための専用の部材を設ける必要がなく、鍛造装置の部品点数を削減し、装置構成を簡略化することが可能である
請求項5においては、分割成形ダイは素材の外周面にCVJインナーレースの外周面およびボール溝を付与する機能を果たし、上スリーブおよび下スリーブは素材を上下に塑性変形させつつ上下面を成形し、上パンチおよび下パンチは素材を分割成形ダイに当接する方向に塑性変形させる、というように、「溝成形作業」における素材の塑性変形をきめ細かに制御することができ、CVJインナーレースの高い寸法精度を確保することが可能である。
請求項6においては、一つのアクチュエータで分割成形ダイを構成する複数の分割部材を精度良く位置決めし、かつ、複数の分割部材を強固に拘束してCVJインナーレースの高い寸法精度を確保することが可能である。
請求項7においては、高い寸法精度を有するとともに、安価かつ大量に生産可能である。
請求項8においては、高い寸法精度を有するとともに、安価かつ大量に生産可能である。
以下では、図1から図5までを用いて本発明に係るCVJインナーレースの鍛造装置の実施の一形態である鍛造装置1の全体構成について説明する。
なお、以下の説明では、図1中の矢印Aの方向を「上方」と定義する。
図1に示す鍛造装置1は、分割成形ダイ2の略中央部に孔2aを形成し、該孔2aの内周面に複数の突起2b・2b・・・を設け、該孔2aに素材11を配置し、該素材11の上下から力を加えて塑性変形させることにより分割成形ダイ2の内周面に素材11を押し当て、素材11の外周面11aに溝(図3に示すCVJインナーレース12のボール溝12bに相当)を成形する「溝成形作業」と、該分割成形ダイ2に素材11を保持させた状態で、素材11の中央部に上下方向に貫通する貫通孔(図3に示すCVJインナーレース12の貫通孔12cに相当)を成形する「貫通孔成形作業」と、を行うことにより、図3に示すCVJインナーレース12を成形するものである(より厳密には、「貫通孔成形作業」後に仕上げ加工を経てCVJインナーレース12が成形される)。
素材11は、図3に示すCVJインナーレース12の原材料となるものであり、素材11は鍛造装置1によりCVJインナーレース12に成形される。
なお、以下の説明では図2に示す略円筒形状の素材11を用いた場合について説明するが、素材11の形状については略円柱形状や略角柱形状あるいは角筒状であっても良く、限定されない。
図1に示す如く、鍛造装置1は主に、分割成形ダイ2、上スリーブ3、上パンチ4、圧入リング5、下スリーブ6、下パンチ7等を具備している。
分割成形ダイ2は、「溝成形作業」においては素材11の外周面11aに当接して、CVJインナーレース12としての外周面形状(すなわち、図3に示す外周面12aおよびボール溝12b)を付与する機能を果たす。
また、分割成形ダイ2は、「貫通孔成形作業」においては、素材11を保持する(固定する)機能を果たす。
図1、図4および図5に示す如く、本実施例における分割成形ダイ2は、その外周面2cが上方に向けて先細りしたテーパ面を成す略円錐台形状の部材であり、平面視略中央部には、分割成形ダイ2の上下方向に貫通する孔2aが形成されている。
孔2aの内周面の下半部は略球面形状を成し、CVJインナーレース12の外周面12aの形状に対応している。さらに、該孔2aの内周面の下半部には複数の突起2b・2b・・・が設けられ、該突起2b・2b・・・の形状はCVJインナーレース12のボール溝12bの形状に対応している。
本実施例における分割成形ダイ2は、六つの分割部材13・13・・・に分割されており、各分割部材13の下面にはガイド部13aが設けられている。該ガイド部13aはその長手方向が平面視で分割成形ダイ2の半径方向(図5中の矢印Bの方向)と略一致しており、分割成形ダイ2を下方から支持する支持部材14にはガイド溝14aが形成され、ガイド部13aがガイド溝14aに分割成形ダイ2の半径方向に摺動可能に嵌合している。
なお、本実施例においてはCVJインナーレース12の外周面12aに形成されるボール溝12bが六本であることから、六つの分割部材13・13・・・で分割成形ダイ2を構成し、各分割部材13に突起2bを一つずつ設けているが、これに限定されない。例えば、CVJインナーレースに設けるボール溝を八本にする場合には、分割成形ダイを八つの分割部材で構成すればよい。
上スリーブ3および上パンチ4は、いずれも素材11に上方から力を加えて塑性変形させるものである。
上スリーブ3は略円筒形状の部材であり、素材11の上面において外周面11aに近い部位と当接する。上スリーブ3は素材11を下方に向けて塑性変形させるとともに、CVJインナーレース12の上面を成形する。上スリーブ3は図示せぬ第一のアクチュエータ(油圧シリンダ等)により上下移動可能に構成される。
上パンチ4は略円柱形状の部材であり、上スリーブ3に上下方向に相対移動(摺動)可能に貫装される。上パンチ4は素材11の上面において中心に近い部位(外周面11aから遠い部位)と当接し、素材11を下方および分割成形ダイ2の孔2aの内周面側に向けて塑性変形させる。上パンチ4は図示せぬ第二のアクチュエータ(油圧シリンダ等)により、上スリーブ3と独立して上下移動可能に構成される。
圧入リング5は略円筒形状の部材であり、その内周面5aの下半部は下方に向けて拡径したテーパ面となっている。また、圧入リング5の内周面5aの上半部は係合部5bが形成され、略円筒形状の部材である押さえ部材8の外周面に形成された係合部8aと係合する。押さえ部材8は圧入リング5と一体的に下方に移動し、分割成形ダイ2の上面に当接して、支持部材14とともにCVJインナーレース12の成形作業時における分割成形ダイ2の上下方向の移動(ずれ)を規制する部材である。
圧入リング5と押さえ部材8とは一体となって、図示せぬ第三のアクチュエータ(油圧シリンダ等)により、上スリーブ3および上パンチ4と独立して上下移動可能に構成される。
圧入リング5が下方に移動すると、圧入リング5の内周面5aは分割成形ダイ2の外周面2cと当接し、分割成形ダイ2を構成する分割部材13・13・・・を半径方向において中心に向かって(図5中の矢印Bの方向)に移動させる。すなわち、孔2aが成す空間を狭くし、孔2aの内周面および突起2b・2b・・・を素材11の外周面11aに押し当てる。
下スリーブ6および下パンチ7は、いずれも素材11に下方から力を加えて塑性変形させるものである。
下スリーブ6は略円筒形状の部材であり、素材11の下面において外周面11aに近い部位と当接する。下スリーブ6は素材11を上方に向けて塑性変形させるとともに、CVJインナーレース12の下面を成形する。下スリーブ6は図示せぬ第四のアクチュエータ(油圧シリンダ等)により上下移動可能に構成される。
下パンチ7は略円柱形状の部材であり、下スリーブ6に上下方向に相対移動(摺動)可能に貫装される。下パンチ7は素材11の下面において中心に近い部位(外周面11aから遠い部位)と当接し、素材11を上方および分割成形ダイ2の孔2aの内周面側に向けて塑性変形させる。下パンチ7は図示せぬ第五のアクチュエータ(油圧シリンダ等)により、下スリーブ6と独立して上下移動可能に構成される。
以下では図1、図6、図7、図8および図9を用いて、本実施例の鍛造装置1によるCVJインナーレース12の成形作業の一例を説明する。
以下では、本実施例の鍛造装置1によるCVJインナーレース12の成形作業のうち、「溝成形作業」(CVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12bを成形する作業)について説明する。
図1に示す如く、上スリーブ3および上パンチ4の下端部が分割成形ダイ2の上面よりも上方に位置するまで上スリーブ3および上パンチ4上方に移動させるとともに、圧入リング5のテーパ面である内周面5aと、分割成形ダイ2のテーパ面である外周面2cとが当接しない位置まで圧入リング5を上方に移動させる。
また、下スリーブ6の上端部が分割成形ダイ2の下面付近と略同じ高さとなるように下スリーブ6を配置し、下パンチ7の上端部が分割成形ダイ2の孔2aの内部に位置するように下パンチ7を配置する。
次に、素材11を孔2aにセットする。このとき、素材11の下端部と下パンチ7の上端部とは当接しており、ちょうど下パンチ7が素材11を支持する形となる。
以下、図1に示す鍛造装置1の状態を「素材セット状態」と呼ぶこととする。
図6に示す如く、前記「素材セット状態」から、圧入リング5を下方に移動させ、圧入リング5のテーパ面である内周面5aと、分割成形ダイ2のテーパ面である外周面2cとを当接させると、分割成形ダイ2を構成する分割部材13・13・・・はガイド溝14aに沿って半径方向(図5中の矢印Bの方向)に移動し、隣り合う分割部材13・13がその側面13b(図5に図示)同士で当接する。
このように分割成形ダイ2を構成する分割部材13・13・・・を互いに強く拘束することが可能であり、CVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12bを成形する「溝成形作業」時に分割成形ダイ2の形状が変化する(分割部材13・13・・・の位置がずれる)ことがなく、CVJインナーレース12の寸法精度を高く保持することが可能である。
次に、上スリーブ3の下端部よりも上パンチ4の下端部を下方に突出させた状態で上スリーブ3および上パンチ4を下方に移動させ、上スリーブ3および上パンチ4を素材11の上端部に当接させて更に下方に移動させる(すなわち、素材11を塑性変形させる)。
以下、図6に示す鍛造装置1の状態を「変形開始状態」と呼ぶこととする。
図7に示す如く、前記「変形開始状態」から、上スリーブ3の下端部の高さが孔2aの上下略中央となる位置まで更に上スリーブ3を下方に移動させるとともに、上パンチ4も下方に移動させ、上パンチ4の下端部が下パンチ7の上端部の直上付近となる位置まで上パンチ4を下方に移動させることにより素材11を塑性変形させ、素材11の外周面11a(図2に図示)を孔2aの下半部および突起2b・2b・・・に押し当てて外周面12aおよびボール溝12bを成形する。
以下、図7に示す鍛造装置1の状態を「変形終了状態」と呼ぶこととする。また、図1に示す「素材セット状態」から図6に示す「変形開始状態」を経て図7に示す「変形終了状態」に至るまでの作業が「溝成形作業」(CVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12bを成形する作業)に相当する。
「溝成形作業」において、素材11の塑性変形の初期段階では、上スリーブ3の下端部よりも上パンチ4の下端部を下方に突出させた状態とするとともに下スリーブ6の上端部よりも下パンチ7の上端部を上方に突出させた状態として、上スリーブ3、上パンチ4、下スリーブ6、下パンチ7にそれぞれ図示せぬアクチュエータ群により力を加える。
このようにすることにより、分割成形ダイ2の孔2aの下半部および突起2b・2b・・・に押しつけられる方向に素材11の塑性変形が進行し、CVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12bの成形が精度良く行われる。
また、「溝成形作業」においては、閉塞された空間で素材11の塑性変形を行うため、当該塑性変形の最終段階では、素材11を塑性変形させるための加工圧力が高くなる。さらに、素材11の体積にばらつきがあると、同じ加工を行った場合でも当該加工圧力に大きなばらつきが生じるため、CVJインナーレース12の寸法精度を高く保持するのが困難である。
そこで、「溝成形作業」において、素材11の塑性変形の最終段階では、本実施例の鍛造装置1は図示せぬアクチュエータにより上パンチ4および下パンチ7(または、上パンチ4と下パンチ7のいずれか一方)に加える力を小さくして、加工圧力が高くなった場合にはこれらを素材11から退避(遠ざかる方向に移動)可能としている。
このように構成することにより、素材11の体積のばらつきに起因する加工圧力のばらつき、ひいてはCVJインナーレース12の寸法精度の低下を防止することが可能である。
また、加工圧力そのものを低く抑えて、鍛造装置1を構成する部材(分割成形ダイ2、上スリーブ3、上パンチ4、圧入リング5、下スリーブ6、下パンチ7等)の寿命を延ばすことが可能であるとともに、鍛造装置1に用いる図示せぬアクチュエータ群として容量が大きい油圧シリンダ等を必要としないため、鍛造装置1を小型化可能であるとともに、設備コストを削減可能である。
以下では、本実施例の鍛造装置1によるCVJインナーレース12の成形作業のうち、「貫通孔成形作業」(CVJインナーレース12の貫通孔12cを成形する作業)について説明する。
図8に示す如く、前記「変形終了状態」から、上パンチ4および下パンチ7を上方に移動させる。このとき、図10に示す如く、下パンチ7の上端面7a(素材11への当接面)の中央部には突起7bが設けられており、かつ、下パンチ7の上端面7a(素材11への当接面)と、下パンチ7の移動方向(矢印Aの方向)とが略直交している。
以下、図8に示す鍛造装置1の状態を「芯抜き状態」と呼ぶこととする。
図9に示す如く、前記「芯抜き状態」から、下パンチ7の上端部がCVJインナーレース12の下面よりも下方となる位置まで下パンチ7を下方に移動させる。
以下、図9に示す鍛造装置1の状態を「貫通孔成形終了状態」と呼ぶこととする。また、図7に示す「変形終了状態」から図8に示す「芯抜き状態」を経て図9に示す「貫通孔成形終了状態」に至るまでの作業が「貫通孔成形作業」(CVJインナーレース12の貫通孔12cを成形する作業)に相当する。
なお、上記図1、図6、図7、図8および図9に示す鍛造装置1によるCVJインナーレース12の成形作業はあくまで一例であり、素材11に係る条件(材質や形状、大きさ)等により、分割成形ダイ2、上スリーブ3、上パンチ4、圧入リング5、下スリーブ6、下パンチ7等の動作の順序等は適宜変更することが望ましい。
例えば、本実施例では「溝成形作業」においては下スリーブ6および下パンチ7は静止しているが、これらを上方に移動させて素材11を塑性変形させても良い。
また、本実施例では下パンチ7を素材11に貫通させてCVJインナーレース12の貫通孔12cを成形しているが、上パンチ4を素材11に貫通させてCVJインナーレース12の貫通孔12cを成形しても良い。
上記の如く構成することにより、本実施例の鍛造装置1は以下の利点を有する。
第一に、鍛造装置1は分割成形ダイ2の略中央部に孔2aを形成し、該孔2aの内周面に複数の突起2b・2b・・・を設け、該孔2aに素材11を配置し、該素材11の上下から力を加えて素材11の外周面11aに溝(ボール溝12b・12b・・・)を成形するものであり、該分割成形ダイ2に素材11を保持させて素材11に貫通孔12cを成形することによりCVJインナーレース12を成形する。
また、これを達成するための具体的な装置構成として、本実施例の鍛造装置1は、分割成形ダイ2と、上スリーブ3と、該上スリーブ3に貫装された上パンチ4と、分割成形ダイ2の外周面2cを保持する圧入リング5と、下スリーブ6と、該下スリーブ6に貫装された下パンチ7とを具備している。
このように構成することにより、従来のCVJインナーレースの成形作業において二つの工程に分かれていた「溝成形作業」と、「貫通孔成形作業」とを一つの工程で行うことが可能となり、設備に要するスペースを小さくするとともに、設備コストを削減することが可能である。
また、CVJインナーレースの中間品(溝成形作業後の素材)の在庫を確保する必要がなく、管理コストの削減が可能である。
さらに、「溝成形作業」の終了後、分割成形ダイ2でCVJインナーレース12の中間品(溝成形作業後の素材11)を保持したまま「貫通孔成形作業」を続けて行うことにより、「貫通孔成形作業」時にCVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12b・12b・・・が変形することがなく、かつ、溝成形作業と貫通孔成形作業の中心軸(分割成形ダイ2、上スリーブ3、上パンチ4、圧入リング5、下スリーブ6、下パンチ7等の中心軸)が一致していることから、高い寸法精度を確保することが可能である。
さらにまた、これに付随して、部品歩留まりが向上するとともに、「溝成形作業」と「貫通孔成形作業」とのつなぎ時間(溝成形作業用の装置からCVJインナーレースの中間品を取り出し、移動させ、貫通孔成形作業用の装置にセットするまでに要する時間)を省略することが可能である。
第二に、鍛造装置1は下パンチ7により素材11に貫通孔12cを成形する。
このように構成することにより、上記利点に加えて、CVJインナーレース12の貫通孔12cを成形するための専用の部材を設ける必要がなく、鍛造装置1の部品点数を削減し、装置構成を簡略化することが可能である。
第三に、鍛造装置1は下パンチ7の素材11への当接面である上端面7aの略中央部には突起7bを設け、かつ、上端面7aと、下パンチ7の移動方向(矢印Aの方向)とを略直交させている。
このように構成することにより、下パンチ7は「溝成形作業」においては素材11を上方および分割成形ダイ2の孔2aの内周面に向かって塑性変形させ、「貫通孔成形作業」においては素材11を上下方向に貫通し、素材11の中央部11dを芯抜きすることにより、CVJインナーレース12の貫通孔12cを成形することが可能であり、CVJインナーレース12の貫通孔12cを成形するための専用の部材を設ける必要がなく、鍛造装置1の部品点数を削減し、装置構成を簡略化することが可能である。
第四に、鍛造装置1は上スリーブ3と、上パンチ4と、圧入リング5と、下スリーブ6と、下パンチ7とを、それぞれ独立して(別々のアクチュエータで)上下方向に移動可能としている。
このように構成することにより、分割成形ダイ2は素材11の外周面11aにCVJインナーレース12の外周面12aおよびボール溝12b・12b・・・を付与する機能を果たし、上スリーブ3および下スリーブ6は素材11を上下に塑性変形させつつ上下面を成形し、上パンチ4および下パンチ7は素材11を分割成形ダイ2に当接する方向に塑性変形させる、というように、「溝成形作業」における素材11の塑性変形をきめ細かに制御することができ、CVJインナーレース12の高い寸法精度を確保することが可能である。
第五に、鍛造装置1は分割成形ダイ2と圧入リング5との当接面(外周面2cおよび内周面5a)をテーパ面としている。
このように構成することにより、一つのアクチュエータで分割成形ダイ2を構成する複数の分割部材13・13・・・を精度良く位置決めし、かつ、強固に拘束してCVJインナーレース12の高い寸法精度を確保することが可能である。
第六に、上記鍛造装置1により成形されたCVJインナーレース12は高い寸法精度を有するとともに、安価かつ大量に生産可能である。
本発明に係る鍛造装置の「素材セット状態」を示す側面断面図。 本発明に係る鍛造装置に用いる素材の斜視図。 本発明に係る鍛造装置により成形されたCVJインナーレースの斜視図。 分割成形ダイの平面図。 分割成形ダイを構成する分割部材の斜視図。 本発明に係る鍛造装置の「変形開始状態」を示す側面断面図。 本発明に係る鍛造装置の「変形終了状態」を示す側面断面図。 本発明に係る鍛造装置の「芯抜き状態」を示す側面断面図。 本発明に係る鍛造装置の「貫通孔成形終了状態」を示す側面断面図。 下パンチの上端部を示す側面図。
符号の説明
1 鍛造装置
2 分割成形ダイ
2a 孔
2b 突起
11 素材
11a 外周面
12 CVJインナーレース
12a 外周面
12b ボール溝
12c 貫通孔

Claims (8)

  1. 分割成形ダイの略中央部に孔を形成し、該孔の内周面に複数の突起を設け、該孔に素材を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面にボール溝を成形するCVJインナーレースの鍛造方法において、
    該分割成形ダイに素材を保持させた状態で素材に貫通孔を成形することを特徴とするCVJインナーレースの鍛造方法。
  2. 分割成形ダイの略中央部に孔を形成し、該孔の内周面に複数の突起を設け、該孔に素材を配置し、該素材の上下から力を加えて素材の外周面にボール溝を成形するCVJインナーレースの鍛造装置において、
    該分割成形ダイと、分割成形ダイの上方に配置される上スリーブと、該上スリーブに貫装された上パンチと、分割成形ダイの外周面を保持する圧入リングと、分割成形ダイの下方に配置される下スリーブと、該下スリーブに貫装された下パンチとを具備することを特徴とするCVJインナーレースの鍛造装置。
  3. 前記上パンチまたは下パンチにより素材に貫通孔を成形することを特徴とする請求項2に記載のCVJインナーレースの鍛造装置。
  4. 前記上パンチまたは下パンチの素材への当接面の略中央部には突起を設け、かつ、前記上パンチまたは下パンチの素材への当接面と、上パンチまたは下パンチの移動方向とを略直交させたことを特徴とする請求項3に記載のCVJインナーレースの鍛造装置。
  5. 前記上スリーブと、前記上パンチと、前記圧入リングと、前記下スリーブと、前記下パンチとを、それぞれ独立して上下方向に移動可能としたことを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載のCVJインナーレースの鍛造装置。
  6. 分割成形ダイと前記圧入リングとの当接面をテーパ面としたことを特徴とする請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載のCVJインナーレースの鍛造装置。
  7. 請求項1に記載のCVJインナーレースの鍛造方法により成形されたことを特徴とするCVJインナーレース。
  8. 請求項2から請求項6までのいずれか一項に記載のCVJインナーレースの鍛造装置により成形されたことを特徴とするCVJインナーレース。
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