JP2005186285A - 絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板 - Google Patents
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Abstract
【課題】 有機材料から成る絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板において、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった場合に絶縁不良が発生し易くなるという危険性を有していた。
【解決手段】 絶縁フィルム3は、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層1の上下面に、エポキシ樹脂と、100℃以上の温度でエポキシ樹脂に硬化反応を開始させる硬化材と、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマと、無機絶縁粉末とから成り、硬化後の破断伸びが5〜20%の被覆層2が被着形成されている。
【選択図】 図3
【解決手段】 絶縁フィルム3は、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層1の上下面に、エポキシ樹脂と、100℃以上の温度でエポキシ樹脂に硬化反応を開始させる硬化材と、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマと、無機絶縁粉末とから成り、硬化後の破断伸びが5〜20%の被覆層2が被着形成されている。
【選択図】 図3
Description
本発明は、各種AV機器や家電機器,通信機器,コンピュータやその周辺機器等の電子機器に使用される絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関し、特に液晶ポリマーを一部に用いた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関する。
従来、半導体素子等の能動部品や容量素子,抵抗素子等の受動部品を多数搭載して所定の電子回路を構成した混成集積回路を形成するための多層配線基板は、通常、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムにドリルによって上下に貫通孔を形成し、この貫通孔内部および絶縁フィルム表面に複数の配線導体を形成した配線基板を、多数積層することによって形成されている。
一般に、現在の電子機器は、移動体通信機器に代表されるように小型,薄型,軽量,高性能,高機能,高品質,高信頼性が要求されており、このような電子機器に搭載される混成集積回路等の電子部品も小型,高密度化が要求されるようになってきており、このような高密度化の要求に応えるために、電子部品を構成する多層配線基板も、配線導体の微細化や絶縁フィルムの薄層化,貫通孔の微細化が必要となってきている。このため、近年、貫通孔を微細化するために、ドリル加工より微細加工が可能なレーザ加工が用いられるようになってきた。
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムは、ガラスクロスをレーザにより穿設加工することが困難なために貫通孔の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一なために均一な孔径の貫通孔を形成することが困難であるという問題点を有していた。
このような問題点を解決するために、アラミド樹脂繊維から成る不織布にエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムや、ポリイミドフィルムにエポキシ樹脂系接着剤を塗布して成る絶縁フィルムを用いた多層配線基板が提案されている。
しかしながら、アラミド不織布やポリイミドフィルムを用いた絶縁フィルムは吸湿性が高く、吸湿した状態で半田リフローを行なうと半田リフローの熱により吸湿した水分が気化してガスが発生し、絶縁フィルム同士が剥離してしまう等の問題点を有していた。
このような問題点を解決するために、多層配線基板用の絶縁材料として液晶ポリマーを用いることが検討されている。液晶ポリマーから成る層は、剛直な分子で構成されているとともに分子同士がある程度規則的に並んだ構成をしており分子間力が強いことから、高耐熱性,高弾性率,高寸法安定性,低吸湿性を示し、ガラスクロスのような強化材を用いる必要がなく、また、微細加工性にも優れるという特徴を有している。さらに、高周波領域においても、低誘電率,低誘電正接であり高周波特性に優れるという特徴を有している。
このような液晶ポリマーの特徴を活かし、特許文献1には、回路層が第1の液晶ポリマーを含み、この回路層間に第1の液晶ポリマーの融点よりも低い融点を有する第2の液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して成る多層プリント回路基板が提案されている。
特開平8−97565号公報
特開2002−261453号公報
しかしながら、特許文献1に提案された多層プリント回路基板は、回路層同士をそれらの間に液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して熱圧着により接着する際、液晶ポリマー分子が剛直であるとともにある程度分子が規則正しく配向して分子間力が強くなっているために分子が動き難くなり、回路層の液晶ポリマーと接着剤層の液晶ポリマーの表面のごく一部の分子だけしか絡み合うことができないために密着性が悪く、これに電子部品を搭載する際の熱や電子部品が作動時に発生する熱が作用すると層間で剥離して絶縁不良が発生してしまうという問題点を有していた。
また、回路層の導体箔と液晶ポリマーとを熱融着により接着する際、液晶ポリマー分子が動き難いために導体箔表面の微細な凹部に入ることができず、その結果、十分なアンカー効果を発揮することができず、導体箔と液晶ポリマーとの密着性が悪くなって、高温高湿環境下において両者間で剥離して導体箔が断線してしまうという問題点も有していた。
そこで、上記問題点を解決するために、本出願人は特許文献2において、液晶ポリマー層の上下面にポリフェニレンエーテル系有機物から成る被覆層を積層して成る多層配線基板を提案した。これによれば、微細な貫通孔を穿設加工することが可能となることから、高密度な配線を有する多層配線基板とすることができ、また、液晶ポリマー層とポリフェニレンエーテル系有機物から成る被覆層の誘電率の周波数挙動がほぼ等しいことから、積層の際に厚みばらつきが生じたとしても高周波領域における伝送特性の低下を生じることのない高周波伝送特性に優れた多層配線基板とすることができる。さらに、ポリフェニレンエーテル系有機物から成る被覆層は、液晶ポリマー層と同程度の疎水性を示すことから、両者の樹脂同士の馴染みが良好で接着性に優れ、また、被覆層がランダムな分子構造で比較的熱運動しやすい分子から成ることから、液晶ポリマー層表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、その結果、液晶ポリマー層と被覆層との密着性が良好となり高温高湿環境下においても絶縁不良が発生することのない多層配線基板とすることができる。さらにまた、液晶ポリマーが低吸湿性であることから、半田リフロー時に水分が気化してガスが発生することもなく、絶縁層同士が剥離してしまうこともない。
しかしながら、特許文献2の提案によれば、十分な量のポリフェニレンエーテル系有機物の分子が液晶ポリマー層表面の分子と絡み合って結合し、液晶ポリマー層と被覆層とが強固に密着した絶縁フィルムとすることができ、また、十分な量のポリフェニレンエーテル系有機物の分子が配線導体表面の微細な凹部に入り込みアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルムと配線導体との密着性が良好となり、その結果、高温高湿環境下においても両者間が剥離して配線導体が断線することもないといった作用効果が得られるものの、特に多層配線基板が高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった場合には、被覆層と配線導体との界面を起点とする被覆層内部に進展するクラックが生じ易くなる傾向があり、その結果、絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間で絶縁性が低下してしまう危険性があった。
従って、本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、絶縁性,導通信頼性に優れるとともに、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった場合においても優れた絶縁性を有する絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を提供することにある。
本発明の絶縁フィルムは、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層の上下面に、エポキシ樹脂と、100℃以上の温度で前記エポキシ樹脂に硬化反応を開始させる硬化材と、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマと、無機絶縁粉末とから成り、硬化後の破断伸びが5〜20%の被覆層が被着形成されていることを特徴とするものである。
本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、液晶ポリマー層はその厚みが被覆層と合わせた厚みの40〜90%であることを特徴とするものである。
また本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、エポキシ樹脂が官能基を3個以上有する多官能エポキシ樹脂20〜80質量%と官能基を2個有する2官能エポキシ樹脂80〜20質量%とから成ることを特徴とするものである。
また本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70〜140℃であることを特徴とするものである。
また本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、無機絶縁粉末はその平均粒子径が0.1〜2.8μmであり、被覆層中に10〜70体積%含有されていることを特徴とするものである。
本発明の多層配線基板は、上下面の少なくとも一方の面に金属から成る配線導体が配設された上記本発明の絶縁フィルムが複数積層されるとともに被覆層が硬化されて成り、絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間が絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続されていることを特徴とするものである。
本発明の絶縁フィルムは、被覆層に含有されるエポキシ樹脂の分子が比較的熱運動し易く、さらに、エポキシ樹脂の分子の側鎖や末端に水酸基を多く有することから、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層の上下面に存在するカルボキシル基と被覆層に含有されるエポキシ樹脂の水酸基との間で電気的な引力を生じ、その結果、液晶ポリマー層の上下面に被覆層が良好に濡れ広がるとともに、液晶ポリマー層と被覆層とがカルボキシル基と水酸基との水素結合力により結合し、従って、高温高湿環境下に曝されたとしても両者間で剥離することのない絶縁フィルムとすることができる。また、絶縁フィルムを多層化した場合においても、エポキシ樹脂分子の熱運動により絶縁フィルム同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し加わったとしても絶縁フィルム間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。
また、被覆層に含有される硬化材が100℃以上の温度でエポキシ樹脂に硬化反応を開始させるものであることから、室温付近の温度環境下における良好な保管性を有する。
さらに、被覆層に重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂が含有されることから、被覆層を硬化させると、硬化した被覆層の表面に熱可塑性樹脂が無数の微小な凝集粒となって良好に分散した島状構造を形成することができるとともに、この表面の熱可塑性樹脂を粗化液で選択的に溶解除去することにより、被覆層表面に十分な凹凸を有する粗化面を形成することができる。その結果、被覆層表面に配線導体を形成した場合に十分なアンカー効果が得られ、被覆層と配線導体との密着性を良好なものとすることができ、熱が繰り返し加わったとしても両者間が剥離して配線導体が断線してしまうということもない。
また、被覆層にはガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマが含有されることから、被覆層は可撓性が優れている。
さらに、被覆層には無機絶縁粉末が含有されることから、被覆層の熱膨張係数が小さなものとなる。
また、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作した場合、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった際に、被覆層と配線導体との熱膨張係数の差に起因する応力により被覆層に大きな歪が生じたとしても、被覆層の硬化後の破断伸びが5〜20%であることから被覆層と配線導体との界面を起点とする被覆層内部に進展するクラックの発生を抑制することができ、その結果、絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間で絶縁性が低下してしまうこともない。
本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、液晶ポリマー層の厚みを被覆層と合わせた厚みの40〜90%とした場合には、熱が繰り返し加わったり高温高湿環境下に曝されたりしても、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層が熱膨張係数の大きい被覆層を良好に拘束して絶縁フィルム全体の熱膨張係数を小さなものとすることができる。また、液晶ポリマー層が低吸湿性であるとともに、水分の透過性が低いことから、多層配線基板を製作した際に、特に高温高湿環境に長時間曝された場合においても、多層配線基板の内部まで水分が浸入するのを阻止し、急激に熱が加わったとしても多層配線基板内部の水分が急激に気化して発生するガスをより少なくすることができる。従って、多層配線基板の内部における被覆層と液晶ポリマー層や、被覆層と配線導体との密着性をより優れたものとすることができる。
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、エポキシ樹脂が官能基を3個以上有する多官能エポキシ樹脂20〜80質量%と官能気を2個有する2官能エポキシ樹脂80〜20質量%とから成ることから、多官能エポキシ樹脂から成る比較的架橋密度が大きく耐熱性や耐薬品性に優れた性質と、2官能エポキシ樹脂から成る比較的架橋密度が小さく可撓性に優れた性質とを良好に併せ持つことができる。また、絶縁フィルムが粗化液に浸漬された際に、被覆層の表面から所定の深さまで粗化液を十分に浸入させることができ、被覆層の表面で凝集した熱可塑性樹脂を十分に溶解除去することができ、被覆層の表面をより良好に粗面化することができる。
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70〜140℃であることから、この絶縁フィルムを用いて多層配線基板を製作する際、絶縁フィルムを複数積層して加熱プレスを行なう場合においても、熱可塑性樹脂の流動に起因する被覆層の厚みばらつきを低減することができ、より寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
また、本発明に絶縁フィルムは、上記構成において好ましくは、被覆層に含有される無機絶縁粉末は、その平均粒子径が0.1〜2.8μmであり、被覆層中に10〜70体積%含有されていることから、絶縁フィルムに配線導体および貫通導体を配設するとともに絶縁フィルムを多層化して多層配線基板を製作する際に、無機絶縁粉末が被覆層の流動性を抑制し、また、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向(層方向)における貫通導体の位置ずれや貫通導体の直径のばらつき、さらには被覆層の厚みばらつきを低減することができ、寸法安定性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
本発明の多層配線基板は、上下面の少なくとも一方の面に金属から成る配線導体が配設された上記本発明の絶縁フィルムが複数積層されるとともに被覆層が硬化されて成り、絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間が絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続されていることから、絶縁性や導通信頼性に優れるとともに、特に高温高湿下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった場合においても優れた絶縁性を有するものとなる。
本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の絶縁フィルムを実施するための最良の形態例を示す断面図であり、図2は図1の絶縁フィルムを用いて製作した本発明の多層配線基板を実施するための最良の形態例を示す断面図である。なお、図2は、本発明の多層配線基板に半導体素子等の電子部品を搭載して混成集積回路とした場合の例を示している。また、図3は、図2に示す多層配線基板の配線導体の幅方向の要部拡大断面図である。
これらの図において、1は液晶ポリマー層、2は被覆層であり、主にこれらで本発明の絶縁フィルム3が構成されている。また、4は配線導体、5は貫通導体、7は半導体素子等の電子部品であり、主に絶縁フィルム3と配線導体4と貫通導体5とで本発明の多層配線基板6が構成されている。なお、図2の例では、絶縁フィルム3を5層積層して成る多層配線基板6を示している。
絶縁フィルム3は、液晶ポリマー層1と、その上下面に被着形成されたエポキシ樹脂を含有する被覆層2とから構成されており、これを用いて多層配線基板6を形成した場合、配線導体4や多層配線基板6に搭載される電子部品7の支持体としての機能を有する。
なお、ここで液晶ポリマーとは、溶融状態あるいは溶液状態において、液晶性を示すポリマーあるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマー、あるいは、熱変形温度で分類される1型,2型,3型等のすべての液晶ポリマーを含むものであり、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、温度サイクル信頼性,半田耐熱性,加工性の観点からは230〜420℃の温度、特に270〜380℃の温度に融点を有するものが好ましい。
また、液晶ポリマー層1は、層としての物性を損なわない範囲内で、熱安定性を改善するための酸化防止剤や耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛,メタホウ酸バリウム,酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル,高級脂肪酸金属塩,フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤、熱膨張係数を調整するため、および/または機械的強度を向上するための酸化アルミニウム,酸化珪素,酸化チタン,酸化バリウム,酸化ストロンチウム,酸化ジルコニウム,酸化カルシウム,ゼオライト,窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素,チタン酸カリウム,チタン酸バリウム,チタン酸ストロンチウム,チタン酸カルシウム,ホウ酸アルミニウム,スズ酸バリウム,ジルコン酸バリウム,ジルコン酸ストロンチウム等の充填材を含有してもよい。
液晶ポリマー層1の上下面の被覆層2は、後述する配線導体4を絶縁フィルム3に被着形成する際の接着剤の機能を有するとともに、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を構成する際に、絶縁フィルム3同士を積層する際の接着剤の役目を果たす。
本発明の絶縁フィルム3においては、液晶ポリマー層1は、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で、表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である。また被覆層2は、エポキシ樹脂と、100℃以上の温度でエポキシ樹脂に硬化反応を開始させる硬化材と、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマと、無機絶縁粉末とから成り、硬化後の破断伸びが5〜20%である。
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1は、X線光電子分光分析法による炭素の化学状態の分析で、表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%であるとともに、被覆層2は、分子が比較的熱運動し易く、かつ分子の側鎖や末端に水酸基を多く有するエポキシ樹脂を含有することから、液晶ポリマー層1の上下面に存在するカルボキシル基と被覆層2に含有されるエポキシ樹脂の水酸基との間で電気的な引力を生じる。その結果、液晶ポリマー層1の上下面にエポキシ樹脂を含有する被覆層2が良好に濡れ広がるとともに、液晶ポリマー層1と被覆層2とがカルボキシル基と水酸基との水素結合力により強固に結合し、従って、高温高湿環境下に曝されたとしても両者間で剥離することのない絶縁フィルム3とすることができる。また、絶縁フィルム3を多層化した場合においても、エポキシ樹脂分子の熱運動により絶縁フィルム3同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し加わったとしても絶縁フィルム3間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。
ここで、液晶ポリマー層1は、X線光電子分光分析法による炭素の化学状態の分析で、表面のC1sピーク表面におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7%未満であると、液晶ポリマー層1表面に形成されるカルボキシル基の量が不十分となり、液晶ポリマー層1と被覆層2とを水素結合力により良好に結合することが困難となる傾向がある。18%を超えると、液晶ポリマー層1の表面の水素結合力が非常に高くなって空気中の水と結合してその表面に水を吸着した分子層が形成され、その結果、液晶ポリマー層1と被覆層2との密着性が低下して両者間で剥離し易くなる傾向がある。
また、液晶ポリマー層1の表面にカルボキシル基を形成するには、液晶ポリマー層1の表面をプラズマ処理やコロナ処理,紫外線処理等で表面処理すればよい。このような処理により発生するラジカルにより液晶ポリマー層1の表面にカルボキシル基が形成される。なお、X線光電子分光分析法による炭素の化学状態の分析で、液晶ポリマー層1の表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合を7〜18%とするには、液晶ポリマー層1の表面をプラズマ処理やコロナ処理,紫外線処理等で表面処理する際に、これらの処理における出力や雰囲気、処理時間等を適宜調整すればよい。例えば表面処理における出力を大きくしたり処理時間を長くしたりすると、液晶ポリマー層1の表面に形成されるカルボキシル基の量を多くすることができる。あるいは、処理の雰囲気中にラジカルが発生しやすいガスを使用することにより、液晶ポリマー層1の表面に形成されるカルボキシル基の量を多くすることができる。例えばプラズマ処理を行なう場合、雰囲気中のガスとしてヘリウム等の不活性ガスを用いると、プラズマ中でガス分子が励起してラジカルが発生し、液晶ポリマー層1表面にカルボキシル基を形成し易くなる。
なお、液晶ポリマー層1の表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合は、X線光電子分光分析法によって測定可能なものであり、束縛エネルギーが292〜282eVに現れるC1sピークの面積(横軸が束縛エネルギー、縦軸がエネルギー強度)において、この面積と束縛エネルギーが290〜287eVの範囲に現れるカルボキシル基に起因した面積との相対比で表される。
さらに、被覆層2に含有される硬化材が100℃以上の温度でエポキシ樹脂に硬化反応を開始させるものであることから、絶縁フィルム3に室温付近の温度環境下における良好な保管性が付与される。
このような硬化材としては、好適にはメタフェニレンジアミン(反応開始温度130〜150℃),ジアミノジフェニルメタン(反応開始温度120〜180℃),ジアミノジフェニルスルフォン(反応開始温度110〜200℃)等の芳香族アミン類、ジシアンジアミド(反応開始温度160〜180℃),2,4−ジアミノ−6−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン(反応開始温度110〜150℃),2,4−ジアミノ−6−(2−ウンデシル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン(反応開始温度115〜155℃)等のトリアジン類が用いられる。
なお、反応開始温度が適応すればフェノール系硬化材および硬化促進剤を併用しても良く、例えばフェノール系硬化材として、フェノールノボラック樹脂,オルソクレゾールノボラック樹脂等、また、硬化促進剤として、イミダゾール系化合物,有機スルホン系化合物等の反応開始温度が100〜200℃の硬化材および硬化促進剤を使用しても良い。
ここで、硬化材の添加量が2質量%よりも小さいと被覆層2を硬化させた場合に被覆層2が硬化不足となる傾向があり、また、10質量%を超えると被覆層2を硬化させた場合に被覆層2の硬化反応が急激に進んでしまい硬化反応時の収縮で被覆層2に発生する応力が十分に緩和されないまま硬化され、その結果、被覆層2内部に残留応力が生じて脆くなる傾向がある。従って、硬化材の添加量はエポキシ樹脂に対して2〜10質量%であることがより好ましい。
また、被覆層2には、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂が含有されることから、被覆層2を硬化させると、硬化した被覆層2の表面に熱可塑性樹脂が無数の微小な凝集粒となって良好に分散した島状構造を形成することができるとともに、この表面の熱可塑性樹脂が粗化液で選択的に溶解除去することにより、被覆層2の表面に十分な凹凸を有する粗化面を形成することができる。その結果、被覆層2の表面に配線導体4を形成した場合に十分なアンカー効果が得られ、被覆層2と配線導体4との密着性を良好なものとすることができ、熱が繰り返し加わったとしても両者間が剥離して配線導体4が断線してしまうこともない。
ここで、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が10000よりも小さいと、被覆層2の表面に島状構造を形成した際に熱硬化性樹脂から成る凝集粒の直径が極端に小さくなって、粗化された後の被覆層2表面の凹凸が不十分なものとなってしまう傾向がある。また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が500000よりも大きいと、被覆層2を熱硬化させる際に熱可塑性樹脂の熱運動が抑制されてしまい、被覆層2の表面に熱可塑性樹脂から成る凝集粒が分散した島状構造を形成するために長時間を要し生産性が低下してしまう。
このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート(PET),ポリブチレンテレフタラート(PBT),アジピン酸アルキルエステル等のポリエステル類、ポリメチルメタクリレート,ポリブチルメタクリレート等のアクリル酸エステル類が好適に用いられる。
また、硬化後の被覆層2において、その表面に熱可塑性樹脂の微小で均一な径の凝集粒が良好に分散した島状構造を形成するには、例えば液晶ポリマー層1の上下面に未硬化の被覆層2を形成した絶縁フィルム3を温度が80〜130℃、圧力が0.5〜2MPa、時間が40〜90秒の条件で加熱プレスを行ない、さらに、窒素オーブンを用いて70〜130℃の温度で1次ベークを行ない、引き続き150〜200℃の温度で2次ベークを行なうことが良い。
さらに、硬化後の被覆層2の表面を粗化するには、例えば次に示す方法が好適に採用される。まず、グリコールエーテル等の有機溶剤を約10%と水酸化ナトリウム等のアルカリを約1%とを含んだ溶液を調製し、この溶液中に被覆層2が硬化した絶縁フィルム3を5分程度浸漬し被覆層2の表面を十分に膨潤させる。次に、この被覆層2の表面が膨潤した絶縁フィルム3を過マンガン酸塩類やクロム酸塩類の水溶液から成る粗化剤、例えば濃度が約10%の過マンガン酸カリウム溶液に10分程度浸漬することにより、被覆層2表面の熱可塑性樹脂を溶解除去する。しかる後、被覆層2表面の熱可塑性樹脂が除去された絶縁フィルム3を濃度が約5%の硫酸水溶液に5分程度浸漬して被覆層2の表面を還元することより、被覆層2表面の粗化を行なうことができる。なお、粗化液としては、クロム酸塩類は毒性を有するために、一般的には過マンガン酸塩類が使用され、好適には酸化数が大きく酸化力の強い過マンガン酸カリウムが使用される。
また、被覆層2にはガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマが含有されることから、被覆層2は可撓性に優れるものとなる。
さらに、被覆層2には無機絶縁粉末が含有されることから、被覆層2の熱膨張係数が小さなものとなる。
ここで、エラストマのガラス転移温度が−60℃よりも低いと、室温環境下において被覆層2のべとつきが大きくなり、絶縁フィルム3同士を積層する際等に絶縁フィルム3の取り扱いが困難となる傾向があり、また、−20℃よりも高いと室温環境下でエラストマの弾性率が大きくなることから被覆層2の可撓性が低下してしまい絶縁フィルム3同士を積層する際に被覆層2にクラックが入りやすくなる傾向がある。
なお、このようなエラストマとしては、好ましくは、アクリルゴム(ACM),アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR),スチレン−ブタジエン−スチレントリブロックエラストマ(SBS),スチレン−イソプレン−スチレントリブロックエラストマ(SIS)等が用いられる。
また、特に熱膨張係数を調整するため、および/または機械的強度を向上させるという観点からは、無機絶縁粉末として酸化アルミニウムや酸化珪素,酸化チタン,酸化バリウム,酸化ストロンチウム,酸化ジルコニウム,酸化カルシウム,ゼオライト,窒化珪素,窒化アルミニウム,炭化珪素,チタン酸カリウム,チタン酸バリウム,チタン酸ストロンチウム,チタン酸カルシウム,ホウ酸アルミニウム,スズ酸バリウム,ジルコン酸バリウム,ジルコン酸ストロンチウム等が好適に用いられる。
さらに、無機絶縁粉末の表面がカップリング処理されたものであることが好ましく、この場合、無機絶縁粉末の表面に疎水性を有する官能基が形成されることから、無機絶縁粉末の表面が被覆層2のエポキシ樹脂と濡れやすくなって無機絶縁粉末とエポキシ樹脂とが強固に密着し、その結果、後述するように、配線導体4や貫通導体5が形成された絶縁フィルム3上に別の絶縁フィルム3を積層する際に、配線導体4や貫通導体5が形成された絶縁フィルム3における被覆層2の流動が無機絶縁粉末により抑制されるので、配線導体4や貫通導体5の位置精度が良好なものとなる。このようなカップリング処理としては、シラン系カップリング処理やチタネート系カップリング処理等が好適に用いられる。
また、被覆層2は、熱安定性を改善するための酸化防止剤、耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を付加するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛,メタホウ酸バリウム,酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステルや高級脂肪酸金属塩,フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤を含有してもよい。
また、この絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作した場合、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった際に、被覆層2と配線導体4との熱膨張係数の差に起因する応力により被覆層2に大きな歪が生じたとしても、被覆層2の硬化後の破断伸びが5〜20%であることから被覆層2と配線導体4との界面を起点とする被覆層2内部に進展するクラックの発生を抑制することができ、その結果、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間で絶縁性が低下してしまうこともない。
なお、被覆層2の硬化後の破断伸びとは、被覆層2のみを厚さ数10μmで幅5mm、長さ50mmのフィルム状に成形し、それを多層配線基板を製作する場合と同じ熱履歴で硬化させた後、125℃の窒素雰囲気中に24時間放置後、30℃の温度で60%の湿度の高温高湿環境下に192時間放置して吸湿させた後、1mm/分の速度で破断するまで引張り試験を行なったときのフィルムの伸び率を指す。破断伸びが5%よりも小さいと、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作した場合、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった場合に、被覆層2と配線導体4との熱膨張係数の差に起因する応力により被覆層2に大きな歪が生じ、被覆層2と配線導体4との界面を起点とする被覆層2に進展するクラックが発生し易くなる傾向がある。また、20%よりも大きいと、被覆層2の架橋密度が小さくなりすぎて被覆層2の耐熱性や耐薬品性が低下してしまう傾向にある。従って、被覆層2の硬化後の破断伸びは5〜20%の範囲がよい。ここで、被覆層2の破断伸びはエラストマの含有量によって調整が可能であり、例えばエラストマの含有率が多いほど破断伸びが大きくなる。
また、絶縁フィルム3の厚みは絶縁信頼性を確保するという観点からは10〜300μmが好ましい。さらに、高耐熱性,低吸湿性,高寸法安定性を確保するという観点からは絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1の厚みの比率を40〜90%の範囲としておくことが好ましい。
絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1の厚みの比率を40〜90%とした場合、熱膨張係数の小さい液晶ポリマー層1が熱膨張係数の大きい被覆層2を良好に拘束して絶縁フィルム3全体の熱膨張係数を小さなものとすることができる。また、液晶ポリマー層1が低吸湿性であるとともに、水分の透過性が低いことから、絶縁フィルム3を用いて製作された多層配線基板6が高温高湿環境下に長時間曝された場合においても、多層配線基板6の内部まで水分が浸入するのが有効に阻止される。従って、高温高湿環境下に長時間曝された直後に多層配線基板6に急激に熱が加わったとしても、多層配線基板6内部から多量の水分が急激に気化してガスが発生することはなく、その結果、多層配線基板6の内部における被覆層2と液晶ポリマー層1や、被覆層2と配線導体4との密着性が極めて優れたものとなる。
なお、絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1の厚みの比率が40%未満であると、液晶ポリマー層1が被覆層2の熱膨張や収縮を抑制することが困難となり、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作した際に、絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数よりも大きくなり、これらの熱膨張係数の差に起因して発生する応力により絶縁フィルム3にクラックが発生し易くなる。また、液晶ポリマー層1の低吸湿性や水分の低透過性が絶縁フィルム3に寄与する効果が小さくなって、多層配線基板6を高温高湿環境下に長時間曝した場合において、多層配線基板6の内部にまで水分が浸入し易くなる。他方、絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1の厚みの比率が90%を超えると、被覆層2の熱膨張係数が絶縁フィルム3の熱膨張係数に寄与する効果が小さくなって、絶縁フィルム3の熱膨張係数が配線導体4の熱膨張係数よりも小さくなり、これらの熱膨張係数の差により配線導体4が剥離し易くなる傾向がある。従って、絶縁フィルム3における液晶ポリマー層1の厚みの比率は40〜90%としておくことが好ましく、特に多層配線基板6を製作し電子部品7を実装したときの接続信頼性の観点からは50〜85%の範囲としておくことが好ましい。
さらに、本発明の絶縁フィルム3は、被覆層2におけるエポキシ樹脂が官能基を3個以上有する多官能エポキシ樹脂20〜80質量%と官能基を2個有する2官能エポキシ樹脂80〜20質量%との混合物から成ることが好ましい。この場合、多官能エポキシ樹脂から成る比較的架橋密度が大きく耐熱性や耐薬品性に優れた性質と、2官能エポキシ樹脂から成る比較的架橋密度が小さく可撓性に優れた性質とを良好に併せ持つことができる。また、絶縁フィルム3が粗化液に浸漬された際に、被覆層2の表面から所定の深さまで粗化液を十分に浸入させることができ、被覆層2の表面で凝集した熱可塑性樹脂を十分に溶解除去することができ、被覆層2の表面をより良好に粗面化することができる。
このような多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂,ナフタレン型エポキシ樹脂,ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂,トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が用いられ、また、2官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂,ビフェノール型エポキシ樹脂等が用いられる。さらに、これらのエポキシ樹脂に難燃性を付与するために臭素化したエポキシ樹脂を用いることも可能である。
ここで、エポキシ樹脂の混合物において、多官能エポキシ樹脂の割合が20質量%よりも小さい場合、被覆層2において架橋密度の大きい部分が極端に少なくなって耐熱性が低下してしまう傾向がある。また、80質量%を超えると、被覆層2の架橋密度が大きくなりすぎて被覆層2が脆くなり耐衝撃性が低下する傾向にある。さらに、2官能エポキシ樹脂の割合が80質量%を超えると、被覆層2の架橋密度が小さくなり、絶縁フィルム3が粗化液に浸漬された際に、被覆層2の表面からの粗化液の浸入深さが大きなものとなり、被覆層2の深くまで過剰に熱可塑性樹脂が溶解除去されてしまい、被覆層2の表面の強度が弱くなって、繰り返し熱が加わると被覆層2から配線導体4が剥離して断線し易くなる。また、20質量%よりも小さい場合、被覆層2の可撓性が低下し耐衝撃性が低下し易くなる。
さらに、本発明の絶縁フィルム3は、被覆層2に含有される熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70〜140℃であることが好ましい。この場合、この絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を製作する際、絶縁フィルム3を複数積層して加熱プレスを行なう場合においても、熱可塑性樹脂の流動に起因する被覆層2の厚みばらつきを低減することができ、より寸法安定性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。被覆層2に含有される熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70℃よりも低い場合、絶縁フィルム3を複数積層し加熱プレスを行なった場合、被覆層2の流動性が極端に大きくなって被覆層2表面の配線導体4に位置ずれが発生してしまう危険性が大きくなる。また、140℃を超えると、被覆層2の流動性が不十分となり被覆層2表面の平坦性が低下してしまう傾向がある。
さらに、本発明の絶縁フィルム3は、被覆層2に含有される無機絶縁粉末の平均粒子径が0.1〜2.8μmであるとともに、無機絶縁粉末の含有量が10〜70体積%であることが好ましい。この場合、絶縁フィルム3に配線導体4および貫通導体5を配設するとともに絶縁フィルム3を多層化して多層配線基板6を製作する際に、無機絶縁粉末が被覆層2の流動性を抑制し、また、多層化する際の加熱プレスによって上下面に平行な方向(層方向)における貫通導体5の位置ずれや貫通導体5の直径のばらつき、さらには被覆層2の厚みばらつきを低減することができ、より寸法安定性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
無機絶縁粉末の粒子径が0.1μm未満の場合、被覆層2における無機絶縁粉末の分散性が低下し、被覆層2の熱膨張係数を均一にすることが困難となる傾向がある。2.8μmを超えると、被覆層2の表面に良好なパターンの配線導体4を精度よく形成することが困難となる傾向がある。また、無機絶縁粉末の含有量が10体積%未満であると、被覆層2の流動性を抑制することが困難となり、絶縁フィルム3同士を積層する際に貫通導体5の位置ずれや被覆層2の厚みばらつきが大きくなる傾向がある。70体積%を超えると、被覆層2と液晶ポリマー層1との良好な密着が無機絶縁粉末により大きく阻害され、その結果、例えば半田リフロー時に液晶ポリマー層1との接着界面および配線導体4との接着界面で剥離し易くなる傾向がある。
かくして、本発明の絶縁フィルム3によれば、熱が繰り返し加わっても液晶ポリマー層1と被覆層2との層間や絶縁フィルム3同士の層間が剥離して絶縁不良が発生したり、高温高湿環境下において絶縁フィルム3に被着形成された配線導体4と絶縁フィルム3との層間が剥離して配線導体4が断線したりするということはない。さらに、絶縁フィルム3を複数積層して多層配線基板6を製作した場合、多層配線基板6が高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わり、被覆層2と配線導体4との熱膨張係数の差に起因する応力により被覆層2に大きな歪が生じたとしても、被覆層2と配線導体4との界面を起点として被覆層2内部に進展するクラックの発生を抑制することができ、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間で絶縁性が低下してしまうこともなく、絶縁性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
このような絶縁フィルム3の製作は、例えば、まずエポキシ樹脂や熱可塑性樹脂等の含有量や粘度を適宜調整した被覆層2用の樹脂ペーストを液晶ポリマー層1の上下面に塗布し、あるいは、上記ペースト中に液晶ポリマー層1を浸漬し垂直に引き上げることによって、液晶ポリマー層1の上下面に被着させ、しかる後、これを温度が30〜50℃、時間が15〜60分の条件で乾燥させて液晶ポリマー層1の上下面に未硬化状態の被覆層2を形成することにより行なわれる。そして、この絶縁フィルム3を温度が80〜130℃、圧力が0.5〜2MPa(メガパスカル)、時間が40〜90秒の条件で加熱プレスを行ない、さらに、窒素オーブンを用いて温度が150〜200℃の条件で30分〜2時間ベークすることにより、被覆層2の表面に熱可塑性樹脂の微小な凝集粒が分散した島状構造を形成することができる。
次に、本発明の多層配線基板6について説明する。本発明の多層配線基板6は、上述の絶縁フィルム3を用いて製作されており、上下面の少なくとも一方に金属から成る配線導体4が配設された絶縁フィルム3が複数積層されるとともに被覆層2が硬化されて成り、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間が絶縁フィルム3に形成された貫通導体5を介して電気的に接続されている。これらの配線導体4および貫通導体5は、銅,金等の良導電性の金属から成り、多層配線基板6に搭載される電子部品7を外部電気回路(図示せず)に電気的に接続する導電路として機能する。
このような多層配線基板6は以下のようにして製作される。先ず上述したように、絶縁フィルム3を温度80〜130℃、圧力0.5〜2MPa、時間40〜90秒の条件で加熱プレスを行ない、さらに窒素オーブンを用いて温度150〜200℃の条件で30分〜2時間ベークすることにより、被覆層2の表面に熱可塑性樹脂の微小な凝集粒が分散した島状構造を形成する。この場合、絶縁フィルム3は、被覆層2の中に重量平均分子量が10000〜500000の熱可塑性樹脂が含有されていることから、硬化した被覆層2の表面に熱可塑性樹脂が無数の微小な凝集粒となって良好に分散した島状構造が形成される。
次に、絶縁フィルム3にレーザ加工により貫通導体5用の貫通孔を穿孔する。レーザ加工には炭酸ガスレーザやYAGレーザが用いられ、貫通孔の大きさは直径が30〜100μm程度である。
次に、被覆層2の表面をグリコールエーテル等の有機溶剤を約10%と水酸化ナトリウム等のアルカリを約1%とを含んだ溶液中に5分程度浸漬して膨潤させた後、過マンガン酸塩類等の酸化剤約10%溶液から成る粗化液中に約10分程度浸漬して被覆層2表面に分散した熱可塑性樹脂の凝集粒を溶解除去することで、被覆層2表面を粗面化し、しかる後、約5%の硫酸水溶液に5分程度浸漬し、被覆層2表面を還元する。このとき、被覆層2の表面には粗化液に溶解する熱可塑性樹脂の微小な凝集粒が良好に分散して島状構造が形成されていることから、絶縁フィルム3が粗化液に浸漬されることにより被覆層2の表面に十分な凹凸を有する粗化面が形成される。
次に、被覆層2の表面および貫通孔内に無電解めっきおよび電解めっき法を用いてめっき導体膜を形成する。このとき、被覆層2の表面は十分な凹凸を有する粗化面となっていることから、粗化面とのアンカー効果によりめっき導体膜が強固に密着する。
次に、このめっき導体膜を公知のサブトラクティブ法を用いて所望のパターンにエッチングすることにより、絶縁フィルム3の上下面に配線導体4を形成するとともに、貫通孔内に貫通導体5を形成する。この場合、めっき導体膜は被覆層2の表面に強固に密着していることから、それをエッチングして形成された配線導体4も被覆層2の表面に強固に密着したものとなる。
次に、上述のようにして配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に、被覆層2が未硬化の新たな絶縁フィルム3を温度が80〜130℃、圧力が0.5〜2MPa、時間が40〜90秒の条件で加熱プレスすることにより積層する。このとき、被覆層2にはガラス転移温度が−60℃〜−20℃のエラストマが含有されていることから、被覆層2の可撓性が優れるので、積層の圧力により被覆層2にクラックが発生することが有効に防止される。またこのとき、被覆層2には無機絶縁粉末が含有されていることから、熱間プレスによる被覆層2の流動が抑制され、配線導体4や貫通導体5の位置精度が良好に保たれる。
次に、窒素オーブンを用いて70〜130℃の温度で1次ベークを行ない、引き続き150〜200℃の温度で2次ベークを行なうことにより新たな絶縁フィルム3の被覆層2を硬化させた後、その絶縁フィルム3に上述した方法と同様の方法でその下の配線導体4に到達する貫通導体5用の貫通孔を形成し、被覆層2の表面を粗化した後、被覆層2の表面および貫通孔内に公知のセミアディティブ法により配線導体4と貫通導体5を形成し、さらに必要に応じてその上下面に新たな絶縁フィルム3を積層し、同様にして新たな配線導体4および貫通導体5を形成する作業を所望の回数だけ繰り返し、最後にその積層体を150〜240℃の温度で2〜6時間ベークして各絶縁フィルム3の被覆層2を完全硬化させることにより多層配線基板6が製作される。
このようにして製作された多層配線基板6は、これを製作する際に絶縁フィルム3の被覆層2に含有されるエポキシ樹脂の分子が比較的熱運動し易く、さらに、エポキシ樹脂の分子の側鎖や末端に水酸基を多く有することから、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で、表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層1の上下面に存在するカルボキシル基と被覆層2に含まれるエポキシ樹脂の水酸基との間で電気的な引力を生じる。その結果、液晶ポリマー層1の上下面にエポキシ樹脂から成る被覆層2が良好に濡れ広がるとともに、液晶ポリマー層1と被覆層2とが水素結合力により良好に結合する。また、各絶縁フィルム3の被覆層2に含有されるエポキシ樹脂分子の熱運動により、上下の絶縁フィルム3同士の密着性が良好となり、熱が繰り返し加わったとしても絶縁フィルム3間で剥離して絶縁不良が発生してしまうこともない。
さらに、配線導体4は、被覆層2の表面に島状構造を形成するように分散された重量平均分子量が10000〜500000の熱可塑性樹脂の凝集粒が溶解除去されて形成された十分な凹凸を有する粗化面上に形成されていることから、粗化面との間のアンカー効果により被覆層2の表面に強固に密着しており、熱が繰り返し加わったとしても被覆層2から剥離して断線してしまうということもない。
また、被覆層2にはガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマが含有されることから被覆層2が可撓性に優れ、被覆層2にクラックが発生しにくい。
さらに、被覆層2には無機絶縁粉末が含有されることから、被覆層2の熱膨張係数が小さなものとなり、液晶ポリマー層1との熱膨張係数の差に起因する応力の発生が小さくなるとともに、被覆層2の流動性が抑制されて配線導体4および貫通導体5の位置精度が良好なものとなる。
さらに、被覆層2の破断伸びが5〜20%であることから、特に高温高湿環境下に長時間曝された直後に急激に熱が加わった際に、被覆層2と配線導体4との熱膨張係数の差に起因する応力により被覆層2に大きな歪が生じたとしても、被覆層2と配線導体4との界面を起点とする被覆層2内部に進展するクラックの発生を抑制することができ、その結果、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間で絶縁性が低下してしまうこともない。
かくして、本発明の多層配線基板6によれば、上記構成の多層配線基板6の上面に形成した配線導体4の一部から成る接続パッド8に半田等の導体バンプ9を介して半導体素子等の電子部品7を電気的に接続することにより、配線密度が高く絶縁性に優れた混成集積回路基板とすることができる。
なお、本発明の多層配線基板6は上述の実施の形態例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施しても何等差し支えない。例えば、上述の実施の形態では5層の絶縁フィルム3を積層することによって多層配線基板6を製作したが、3層または7層以上の絶縁フィルム3を積層して多層配線基板6を製作してもよい。また、本発明の多層配線基板6の上下面に、1層や2層または3層以上の有機樹脂を主成分とする絶縁層から成るビルドアップ層やソルダーレジスト層10を形成したり、多層配線基板6に電子部品7を搭載した後に多層配線基板6と電子部品7との間にアンダーフィル材11を形成したりしてもよい。
次に、本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板の実施例を説明する。
エポキシ樹脂として、多官能エポキシ樹脂であるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を60質量%、2官能エポキシ樹脂である液状ビスフェノールA型エポキシ20質量%,臭素化ビスフェノールA型エポキシ20質量%の混合物を用い、エポキシ樹脂に対し硬化材として2,4−ジアミノ−6−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジンを4質量%、熱可塑性樹脂として重量平均分子量120000のアジピン酸プロピオンエステルを20質量%、エラストマとしてガラス転移温度が−30℃のアクリルゴムを含有量が12質量%となるように調製した。さらに、この樹脂混合物に対して無機絶縁粉末として平均粒子径が1.2μmの球状溶融シリカを40体積%、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)とジメチルフタレート(DMP)を添加し1時間混合してワニスを準備した。
次に、融点が290℃であり、上下面に平行な方向における熱膨張係数が−3×10−6/℃の厚みが66μmの液晶ポリマー層1の表面を、真空プラズマ装置を用いて、電圧を27kV、雰囲気をO2,CF4およびヘリウム(ガス流量がそれぞれ800,400,65cm3/分)とし、片面20分×2回の条件でプラズマ処理して、X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で、表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が種々の値のものとなるようにした。この液晶ポリマー層1を上記ワニスに浸漬し垂直に引き上げ、しかる後、これを温度が40℃、時間が35分の条件で乾燥を行ない、液晶ポリマー層1の上下面に厚さ25μmの被覆層2を成形し、未硬化の絶縁フィルム3を製作した。
次に、上記未硬化の絶縁フィルム3の1枚を、温度が90℃、圧力が1.2MPa、時間が60秒の条件で加熱プレスを行ない、さらに、窒素オーブンを用いて温度が175℃の条件で1時間ベークすることにより被覆層2を硬化させるとともに、被覆層2の表面に熱可塑性樹脂の微小な凝集粒が分散した島状構造を形成させた。
さらに、この絶縁フィルム3に、UV−YAGレーザにより直径が50μmの貫通孔を所定の配列で形成した後、グリコールエステルを10%と水酸化ナトリウムを約1%含んだ溶液中に5分浸漬させ被覆層2の表面を膨潤させるとともに、過マンガン酸カリウムの10%溶液から成る粗化液中に10分浸漬させ被覆層2の表面に分散した熱可塑性樹脂の凝集粒を溶解除去し、しかる後、5%の硫酸水溶液に5分浸漬し被覆層2の表面を還元することで被覆層2表面を粗面化させた。
次に、この絶縁フィルム3における被覆層2の表面および貫通孔内に公知の無電解めっき法および電解めっき法によりめっき導体膜を形成した後、そのめっき導体膜を公知のサブトラクティブ法により所定のパターンにエッチングして配線導体4および貫通導体5を形成した。
次に、上記配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に被覆層2が未硬化の絶縁フィルム3を真空ラミネータを用いて積層し、上記と同様の条件で加熱プレスを行ない、さらに、ベークすることにより被覆層2を硬化させた。さらに、UV−YAGレーザにより直径が50μmの貫通孔を所定の配列で形成し、上記と同様の条件で被覆層2の表面を粗面化し、しかる後、公知のセミアディティブ法により配線導体4と貫通導体5を形成した。これらの工程をもう一度繰り返し、最後に温度が180℃で3時間ベークすることにより各被覆層2を完全硬化させテスト基板を得た(試料No.1〜7)。
なお、これらのテスト基板において、直径が4000μmの円形の導体パターンをテスト基板内に絶縁フィルム3を挟んで対向するように形成し、テスト基板を温度が130℃、相対湿度が85%の条件で、印加電圧5.5Vの高温バイアス試験を行ない、バイアス試験前、および168時間経過後ならびに240時間経過後の円形の導体パターン間の絶縁抵抗を測定し、試験前後の絶縁抵抗の変化量を比較することにより絶縁信頼性を評価した。絶縁信頼性の良否の判断は、絶縁抵抗が1.0×108Ω以上を良、1.0×108Ω未満を不良と判断した。表1にこれらの評価結果を示す。
表1から、液晶ポリマー層1表面のカルボキシル基の割合が7%未満のテスト基板(試料No.1,2)およびカルボキシル基の割合が18%を超えるテスト基板(試料No.6,7)では、高温バイアス試験168時間後の絶縁抵抗は良好であるものの、240時間後では絶縁抵抗が8.6×107Ω以下と劣化する傾向にあることがわかった。
それらに対し、カルボキシル基の割合が7〜18%である本発明のテスト基板(試料No.3〜5)では、高温バイアス試験240時間後でも絶縁抵抗が3.5×108Ω以上と大きく、絶縁信頼性において特に優れていることがわかった。
また、被覆層2のエポキシ樹脂に対するエラストマの含有量を種々の値になるように変更した以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4と同様の方法により実施例2用のテスト基板を製作した(試料No.8〜12)。
これらの実施例2用のテスト基板を窒素オーブンを用いて温度が125℃で24時間の脱水処理を施した後、温度が30℃、相対湿度が60%、印加電圧が5.5Vの条件で192時間の高温高湿環境下に保管した直後に、260℃の半田リフロー試験を所定の回数だけ行ない、テスト基板の外観観察と、上記円形の導体パターン間の絶縁抵抗を測定することにより絶縁信頼性と密着性の評価した。なお、半田リフロー試験を所定の回数だけ繰り返した時点で、テスト基板において円形の導体パターンと被覆層2との界面での剥がれに起因したフクレが発生した場合を密着性の不良と判断した。また、絶縁信頼性の良否の判断は、絶縁抵抗が1.0×108Ω以上を良、1.0×108Ω未満を不良とした。
また、被覆層2の破断伸びを評価するために、上記実施例2の各試料用に調整したワニスをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に厚み65μmになるようにドクターブレード法により塗布し、温度が40℃で時間が35分の上記と同じ条件で乾燥を行ない、このシートを温度が90℃、圧力が1.2MPa、時間が60秒の条件で加熱プレスを行ない、長さが50mmで幅が5mmの短冊形状に切り出しPETフィルムを剥がしたうえで、窒素オーブンを用いて温度が175℃の条件で1時間ベークした。引き続き、これらのサンプルを温度が180℃で3時間ベークすることにより完全硬化させ、さらに、窒素オーブンを用いてサンプルを温度が125℃で24時間の脱水処理を施した後、温度が30℃、相対湿度が60%の条件で192時間の高温高湿環境下で保管を行ない、破断伸びを評価するためのサンプルとし、これらのサンプルを1mm/分の速度で破断するまで引張り試験を行なった。表2にこれらの評価結果を示す。
表2より、エラストマの含有量が3質量%のテスト基板(試料No.8)では、半田リフロー試験を3回繰り返してもテスト基板の外観に変化はなかったが、5回繰り返した時点で、テスト基板において円形の導体パターンと被覆層2との界面での剥がれに起因したフクレが発生し、密着性にやや劣る傾向があった。このときの破断伸びは2%であった。
また、エラストマの含有量が26質量%のテスト基板(試料No.12)では、半田リフロー試験を5回繰り返しても外観に変化はなかったものの、絶縁抵抗が7.5×107Ωと低下する傾向にあることがわかった。このときの破断伸びは28%であった。
それらに対し、エラストマの含有量が8〜19重量%(このときの破断伸びは5〜20%)である本発明のテスト基板(試料No.9〜11)では、半田リフロー試験を5回繰り返した時点でもテスト基板の外観に変化はなく、また、絶縁抵抗も1.9×108Ω以上と大きく、密着性および絶縁性において特に優れていることがわかった。
被覆層2における硬化材の反応開始温度が種々の値となるように調整した以外は、実施例1の試料4用の絶縁フィルム3と同様の方法により実施例3用の絶縁フィルム3を製作した(試料No.13〜17)。
これらの実施例3用の絶縁フィルムを室温付近の温度環境下に72時間保管した後、配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に真空ラミネータを用いて積層した後の積層状態を観察することにより保管性を評価した。なお、保管性の良否の判断は、未硬化の絶縁フィルム3における被覆層2の内部にクラックやボイド、あるいは、被覆層2の樹脂クズが観察されることなく、さらに、絶縁フィルム3を垂直に立てた場合に未硬化の絶縁フィルム3がずれ落ちたりせず良好に積層されている場合を良、それ以外の場合を不良と判断した。表3にこれらの評価結果を示す。の評価は、
表3より、被覆層2における硬化材の反応開始温度が72℃の未硬化の絶縁フィルム3(試料No.13)を、真空ラミネータを用いて配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に積層したところ、未硬化の被覆層2の内部にはクラックが観察されるとともに、被覆層2間の界面にはボイドが生じ、さらに、積層した絶縁フィルム3の端面には樹脂クズの発生が観察された。また、絶縁フィルム3を垂直に立てた際に未硬化の絶縁フィルム3にずれが生じてしまうことがわかった。
また、被覆層2における硬化材の反応開始温度が85℃の未硬化の絶縁フィルム3(試料No.14)を、真空ラミネータを用いて配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に積層したところ、被覆層2間の界面にボイドは生じず、また、絶縁フィルム3を垂直に立てた際に未硬化の絶縁フィルム3にずれが生じてしまうことはなかったが、上記と同様に未硬化の被覆層2の内部にはクラックが観察されるとともに、積層した絶縁フィルム3の端面には樹脂クズの発生が観察された。
それらに対し、被覆層2における硬化材の反応開始温度が100℃以上である本発明の絶縁フィルム3(試料No.15〜17)では、真空ラミネータを用いて配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に積層した際にも、被覆層2内部のクラックや被覆層2間の界面のボイドが観察されることはなく、また、積層後の絶縁フィルム3の端面に樹脂クズが発生することもなかった。さらに、絶縁フィルム3を垂直に立てた場合にも未硬化の絶縁フィルム3にズレが生じることがなく良好な積層性を有することから、優れた保管性を有するものであることがわかった。
被覆層2の粗化液に溶解する熱可塑性樹脂の重量平均分子量を種々の値になるように変更した以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4と同様の方法により実施例4用のテスト基板を製作した(試料No.18〜23)。なお、被覆層2における硬化材として反応開始温度が124℃であるものを適用した。
なお、これらのテスト基板において、幅が10mmで長さが150mmの短冊形状の導体パターンをテスト基板の上下面に形成し、テスト基板を温度が130℃、相対湿度が85%の条件で168時間だけ高温高湿環境下で保管を行なった上で、1mm/秒の速度で長さ方向に導体パターンのピール強度を測定することにより被覆層2と配線導体4との密着性を評価した。密着性の良否の判断は、ピール強度が7N/cm以上を良、7N/cm未満を不良と判断した。表4にこれらの評価結果を示す。
表4より、被覆層2の粗化液に溶解する熱可塑性樹脂の重量平均分子量が8436のテスト基板(試料No.18)および重量平均分子量が501237のテスト基板(試料No.23)では、ピール強度が6.4N/cm以下と小さく、被覆層2と配線導体4との密着性にやや劣る傾向にあることがわかった。
それらに対し、重量平均分子量が10000〜500000である本発明のテスト基板(試料No.19〜22)では、ピール強度が7.1N/cm以上と大きく、被覆層2と配線導体4との密着性において優れていることがわかった。
被覆層2におけるエラストマのガラス転移温度を種々の値になるように変更した以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4用の絶縁フィルム3と同様の方法により実施例5用の絶縁フィルム3を製作した(試料No.24〜28)。なお、被覆層2における硬化材として反応開始温度が124℃であるものを使用し、また、被覆層2の粗化液に溶解する熱可塑性樹脂の重量平均分子量が300000となるように調整した。
これらの絶縁フィルム3を室温付近の温度環境下に24時間保管した後、配線導体4および貫通導体5が形成された絶縁フィルム3の上下面に真空ラミネータを用いて積層した後の積層状態を観察することにより可撓性および加工性を評価した。可撓性の良否の判断は、積層後の未硬化の絶縁フィルム3における被覆層2の内部にクラックが観察されることなく、さらに、積層後の未硬化の絶縁フィルム3の端面から被覆層2の樹脂がはみ出してべとつきがなく良好に積層されている場合を良、それ以外を不良と判断した。表5にこれらの評価結果を示す。
表5より、被覆層2におけるエラストマのガラス転移温度が−60℃未満の絶縁フィルム3(試料No.24)では、積層後の未硬化の絶縁フィルム3における被覆層2の内部にクラックは観察されなかったが、端面から樹脂がはみ出してべとつきが生じて異物を付着しやすくなる傾向があり、加工性にやや劣る傾向にあることがわかった。
また、被覆層2におけるエラストマのガラス転移温度が−20℃を超える絶縁フィルム3(試料No.28)では、積層後の未硬化の絶縁フィルム3における被覆層2の端面から樹脂がはみ出してべとつきが生じることはないものの、被覆層2の内部にクラックが観察され、可撓性にやや劣る傾向にあることがわかった。
それらに対し、被覆層2におけるエラストマのガラス転移温度が−60〜−20℃である本発明の絶縁フィルム3(試料No.25〜27)では、積層後の未硬化の絶縁フィルム3における被覆層2の内部にクラックが観察されることはなく、さらに、積層後の未硬化の絶縁フィルム3の端面から被覆層2の樹脂がはみ出してべとつきが生じることはなく、可撓性および加工性において特に優れていることがわかった。
液晶ポリマー層1を、その絶縁フィルム3に対する厚みが種々の割合になるように変更した以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4と同様の方法により実施例5用のテスト基板を製作した(試料No.29〜34)。
これらのテスト基板を温度が125℃で24時間の脱水処理を施した後、温度が30℃、相対湿度が60%、印加電圧が5.5Vの条件で所定の時間だけ高温高湿環境下に保管した直後に、260℃の半田リフロー試験を3回だけ行ない、上記円形の導体パターン間の絶縁抵抗を測定することにより絶縁信頼性を評価した。なお、絶縁信頼性の良否の判断は、絶縁抵抗が1.0×108Ω以上を良、1.0×108Ω未満を不良とした。表6にこれらの評価結果を示す。
表6より、液晶ポリマー層1の絶縁フィルム3に対する厚みの割合が40%未満のテスト基板(試料No.29)および90%を超えるテスト基板(試料No.34)では、高温高湿環境下に192時間保管した直後に260℃の半田リフロー試験を3回だけ行なった後の絶縁抵抗は良好であるものの、高温高湿環境下に312時間保管した直後に260℃の半田リフロー試験を3回だけ行なった後の絶縁抵抗が8.0×107Ω以下となり劣化する傾向にあることがわかった。
それらに対し、液晶ポリマー層1の絶縁フィルム3に対する厚みの割合が40〜90%である本発明のテスト基板(試料No.30〜33)では、高温高湿環境下に312時間保管した直後に260℃の半田リフロー試験を3回だけ行なった後の絶縁抵抗は2.0×108Ω以上であり、絶縁信頼性に特に優れることがわかった。
エポキシ樹脂を多官能エポキシ樹脂と2官能エポキシ樹脂を種々の割合になるように変更し以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4と同様の方法により実施例7用のテスト基板を製作した(試料No.35〜40)。
なお、実施例3用のテスト基板は、その内部の絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する2層の配線導体4とこの両者を電気的に接続する貫通導体5とでビアチェーンを形成したものとした。これについて、温度−55℃の条件で30分(室温から−55℃までの冷却時間が5分、−55℃に保持する時間が20分、−55℃から室温までの昇温時間が5分)、125℃の条件で30分(室温から125℃までの昇温時間が5分、125℃に保持する時間が20分、125℃から室温までの冷却時間が5分)を1サイクルとする温度サイクル試験を行ない、試験前に対する試験後の導通抵抗の変化率により導通信頼性の評価を行なった。そして、導通抵抗の試験前に対する変化率が15%未満を良、15%以上を不良とした。その結果を表7に示す。
表7より、多官能エポキシ樹脂の割合が80重量%を超えるテスト基板(試料No.35)および、多官能エポキシ樹脂の割合が20重量%未満のテスト基板(試料No.40)では、温度サイクル試験1000サイクル後での導通抵抗は変化率が14%以下であるが、1500サイクル後で導通抵抗は変化率が17%以上と大きく、導通信頼性にやや劣る傾向があることがわかった。
それらに対して、多官能エポキシ樹脂の割合が20〜80重量%のテスト基板(試料No.36〜39)では、いずれも温度サイクル試験1000サイクル後での導通抵抗の変化率は11%以下であり、さらに1500サイクル後でも導通抵抗の変化率は15%以下となり、導通信頼性において特に優れていることがわかった。
被覆層2の球状溶融シリカの平均粒子径と含有量を種々の値となるように変更した以外は、実施例1用のテスト基板の試料No.4と同様の方法により実施例8用のテスト基板を製作した(試料No.41〜51)。これらのテスト基板を温度260℃および280℃の半田浴に20秒間浸漬し、これを5回または10回繰り返した後、テスト基板の外観を観察することにより密着性の評価を行なった。表8にそれらの結果を示す。
表8より、被覆層2の球状溶融シリカの平均粒子径が0.1μm未満のテスト基板(試料No.41)および、2.8μmを超えるテスト基板(試料No.51)では、温度が260℃の半田浴への浸漬を5回繰り返してもテスト基板の外観に変化はなかったが、浸漬を10回繰り返した時点で、被覆層2と配線導体4との界面が剥がれてフクレが発生し、密着性にやや劣る傾向があった。
また、被覆層2の球状溶融シリカの平均粒子径は0.1〜2.8μmであるが、含有量が10体積%未満のテスト基板(試料No.44)および70体積%を超えるテスト基板(試料No.49)では、温度が280℃の半田浴への浸漬を5回繰り返してもテスト基板の外観に変化は無かったが、温度が280℃の半田浴への浸漬を10回繰り返した時点で、被覆層2と配線導体4との界面が剥がれてフクレが発生し、密着性にやや不十分な傾向にあることがわかった。
それらに対して、被覆層2の球状溶融シリカの平均粒子径が0.1〜2.8μmであるとともに、その含有量が10〜70体積%であるテスト基板(試料No.42〜48,50)では、温度が280℃の半田浴への浸漬を10回繰り返してもテスト基板の外観に変化は無く、密着性において特に優れていることがわかった。
1:液晶ポリマー層
2:被覆層
3:絶縁フィルム
4:配線導体
5:貫通導体
6:多層配線基板
2:被覆層
3:絶縁フィルム
4:配線導体
5:貫通導体
6:多層配線基板
Claims (6)
- X線光電子分光分析法による炭素の化学結合状態の分析で表面のC1sピーク面積におけるカルボキシル基に起因する面積の割合が7〜18%である液晶ポリマー層の上下面に、エポキシ樹脂と、100℃以上の温度で前記エポキシ樹脂に硬化反応を開始させる硬化材と、重量平均分子量が10000〜500000であり、粗化液に溶解する熱可塑性樹脂と、ガラス転移温度が−60〜−20℃のエラストマと、無機絶縁粉末とから成り、硬化後の破断伸びが5〜20%の被覆層が被着形成されていることを特徴とする絶縁フィルム。
- 前記液晶ポリマー層は、その厚みが前記被覆層と合わせた厚みの40〜90%であることを特徴とする請求項1記載の絶縁フィルム。
- 前記エポキシ樹脂は、官能基を3個以上有する多官能エポキシ樹脂20〜80質量%と、官能基を2個有する2官能エポキシ樹脂80〜20質量%とから成ることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁フィルム。
- 前記熱可塑性樹脂は、そのガラス転移温度が70〜140℃であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルム。
- 前記無機絶縁粉末は、その平均粒子径が0.1〜2.8μmであり、前記被覆層中に10〜70体積%含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁フィルム。
- 上下面の少なくとも一方の面に金属から成る配線導体が配設された請求項1乃至請求5の何れかに記載の絶縁フィルムが複数積層されるとともに前記被覆層が硬化されて成り、前記絶縁フィルムを挟んで上下に位置する前記配線導体間が前記絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続されていることを特徴とする多層配線基板。
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-
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- 2003-12-24 JP JP2003426904A patent/JP2005186285A/ja not_active Withdrawn
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