JP2005140681A - 微小流路デバイスおよびその作製方法 - Google Patents

微小流路デバイスおよびその作製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことのできる微小流路デバイスおよびその作製方法を提供する。
【解決手段】PDMS基板の表面に流路形成用の幅300μm、深さ300μmの溝が格子状に設けられ、この溝の一部に流路形成用のシリカガラスからなる可撓性角型キャピラリー(外形の横断面形状が正方形であり、外形の幅・高さが300μm、内腔の幅・高さが100μm)が密接状に埋設され、溝が設けられた側のPDMS基板の表面が透明ガラスからなる透明カバーで被覆されてなる微小流路デバイス。
【選択図】図2

Description

本発明は、微小流路デバイスおよびその作製方法に関するものであり、さらに詳しくは、内部に貫通状流路が形成され、イオンセンシングや酵素反応を初めとする混合・反応・分離などの化学操作を微小規模で行うための微小流路デバイスと、この微小流路デバイスを作製するための方法とに関するものである。
従来、この種の微小流路デバイスとしては、例えば特許文献1に示されたようなものが知られている。
特開2001−157855号公報
従来、マイクロファブリケーションによってガラス基板上に形成した微小流路(マイクロチャネル)を活用したマイクロチップ集積化分析システムやマイクロ合成システムが開発されてきた。
これらのシステムは、幅・深さが数十〜数百μmの微小流路に試薬溶液を導入し、混合・反応・分離などの化学操作を数cm角のチップ内に集積して行うものであり、液相微小空間のサイズ効果によって、従来のフラスコやビーカーで行ってきた化学操作の効率を劇的に向上させたものである。
これらのシステムにおけるガラス製マイクロチップの作製には、ウエットエッチングなどの微細加工技術が必須である。しかしながら、これらの方法にあっては、ある1つの流路パターンをいったん形成してしまうとその流路パターンを変える場合のコストが非常に高価になるために、流路パターンの融通性に欠ける。また、同じ流路パターンを形成する場合においても、微細加工技術によるために、チップ1枚あたりの価格は数万円以上かかる。
一方、微小流路の特定の位置に機能性分子を固定することによって、化学的な機能を集積する試みが近年なされているが、このような場合には、単機能チップの作製は実現できるものの、多種類の化学機能を集積する段階ではさらに技術的な改善が必要である。
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、その課題は、簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことのできる微小流路デバイスおよびその作製方法を提供することである。
本発明の1つの観点によれば、内部に貫通状流路が形成され、その流路の少なくとも一部にキャピラリーが埋設されてなることを特徴とする微小流路デバイスが提供される。
本発明に係る微小流路デバイスの寸法は例えば、縦および横の長さがともに数mm〜数cm、厚さが約1mm〜約1cmである。
本発明に係る微小流路デバイスは、内部に貫通状流路が形成され、その流路の少なくとも一部にキャピラリーが埋設されてなるものであるので、簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことができる。
キャピラリーは流路になる内腔を有しているが、内腔あるいはその壁面―内部―は、イオンセンシング、分子センシング、pHセンシング、フィルタリング、濃縮、酵素反応、触媒反応、免疫反応、油水分離または流量制御のために化学修飾されて、化学修飾部にされていてもよい。その場合には、分子認識、反応、分離、検出などの多種類の化学的機能を1つの微小流路デバイスに自由自在に集積化することができる。なお、キャピラリーの内腔の横断面形状は、特定の形状に限定されるものではないが、前記の化学的機能をより確実に発揮させることなどを考慮すると、略方形であるのがより好ましい。
本発明に係る微小流路デバイスは、少なくともその一面が透明であるのが好ましい。その場合には、微小流路における化学操作の進行状況や結果などを容易に認識することができる。
本発明に係る微小流路デバイスは例えば、基板と前記キャピラリーとカバーとから構成され、その基板の表面に流路形成用の溝が設けられ、この溝に前記キャピラリーが密接状に埋設され、溝が設けられた側の基板の表面が前記カバーで被覆されている。
溝およびキャピラリーの横断面形状は、特定の形状に限定されるものではないが、溝の配設や溝へのキャピラリーの埋設などの、微小流路デバイスの作製の容易さや、作製コストなどを考慮すると、ともに略方形であるのがより好ましい。
基板における溝は例えば、ガラスやプラスチックなどからなるモールド用基板に所定形状および所定寸法の転写用溝を形成しておき、このモールド用基板に高分子材料によるモールディングを2回繰り返すことで、その高分子材料からなる基板を形成するとともにその基板にモールド用基板の溝を転写する、という手法により設けられる。基板における溝は、流路パターンを自由自在に変えて所望の流路パターンを得るために、例えば、一直線状、十文字状、分枝状または格子状に形成される。
基板は例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)やポリジフェニルシロキサンなどのシリコンゴム、ガラスまたはプラスチックからなる。また、キャピラリーは例えば、ガラスまたはプラスチックからなる。前者の一例としては、シリカガラスからなり、外形の横断面形状が正方形である可撓性角型キャピラリー(商品名:Square flexible fused silica capillary tubing、米国Polymicro社が販売)が使われる。このような角型キャピラリーは外形の横断面形状が正方形であるので、横断面形状が正方形であってキャピラリー外形と同じ寸法の溝を基板に設け、その溝の一部に所要長さに切断した所要本数の同キャピラリーを埋め込むことで、所望パターンの微小流路を容易かつ自由自在に形成することができる。
基板の表面に被覆された前記カバーは、基板の溝およびキャピラリーと相まって微小流路デバイスの内部に微小流路を形成するものである。このカバーとして、例えば、ガラスまたはプラスチックからなる透明シートまたは透明フィルムを用いた場合は、微小流路の前記内部状態を外部から目視することができる。
本発明に係る微小流路デバイスには、流路閉鎖用のダミーロッドが例えば基板の溝に密接状に埋設されていてもよい。このダミーロッドとしては例えば、前記可撓性角型キャピラリーを所要本数、所要長さに切断し、それぞれの内腔をPDMSなどの充填により閉鎖したものが使われる。このようなダミーロッドが流路に埋設されたことにより、微小流路デバイスには、特定箇所の流路が閉鎖されて所要の流路パターンが形成されている。
本発明の別の観点によれば、モールド用基板の表面に溝を設け、この溝が設けられた側のモールド用基板の表面に液状プレポリマーを載せて加温固化させ、固化により形成された雄型基板をモールド用基板から剥離し、この雄型基板の雄型表面に液状プレポリマーを載せて加温固化させ、固化により形成された溝付きの雌型基板を雄型基板から剥離し、この雌型基板の溝の所要箇所にガラスからなる流路形成用のキャピラリーと流路閉鎖用のダミーロッドとを溝に対して密接状に埋設し、その後、雌型基板の雌型表面に液状プレポリマーを介して透明カバーを載せ、同プレポリマーを加温固化させることからなる微小流路デバイスの作製方法が提供される。
ガラスやプラスチックなどからなるモールド用基板の表面に溝を設けるには例えば、所定幅の刃を有するダイシングソーを用いて、モールド用基板の表面に所定幅および所定深さの溝を所定ピッチで格子状に刻む。雄型基板は、前記の溝が設けられた側のモールド用基板の表面に液状プレポリマー(例えば液状PDMSプレポリマー)を載せて加温固化させた後に、固化により形成された板状体をモールド用基板から剥離することで得られる。この雄型基板の一方表面(雄型表面)には、モールド用基板の表面に形成された溝に対応する凸状部が形成されている。雌型基板は、雄型基板の雄型表面に液状プレポリマー(例えば液状PDMSプレポリマー)を載せて加温固化させた後に、固化により形成された溝付きの板状体を雄型基板から剥離することで得られる。この雌型基板の一方表面(雌型表面)には、雄型表面の凸状部に対応する凹状部、すなわち、モールド用基板の表面に形成された溝に対応する溝が形成されている。
次いで、雌型基板の溝の所要箇所に、所要長さのガラス(例えばシリカガラス)からなる流路形成用のキャピラリーと流路閉鎖用のダミーロッドとを、例えば前記の可撓性角型キャピラリーから用意し、溝に対して密接状に埋設する。ここで、溝にキャピラリーおよびダミーロッドを密接状に埋設するためには例えば、溝の幅および深さを角型キャピラリーの外形の幅および高さにそれぞれ一致させておく手法によるか、あるいは幅および深さが角型キャピラリーの外形の幅および高さよりもそれぞれ大きい溝に液状プレポリマー(例えば液状PDMSプレポリマー)を流し込んで加温固化させる手法によればよい。
溝にキャピラリーおよびダミーロッドを密接状に埋設した後、雌型基板の雌型表面に液状プレポリマー(例えば液状PDMSプレポリマー)を介して透明カバーを載せる。このとき、同プレポリマーは、透明カバーの一方表面(雌型基板の雌型表面に対向することになる表面)に塗布されてもよく、雌型基板の雌型表面に塗布されてもよい。そして、同プレポリマーを加温固化させることで、雌型基板の雌型表面を透明カバーで被覆する。
本発明に係る微小流路デバイスの作製方法にあっては、モールド用基板に特定形状および特定寸法の転写用溝を形成しておき、このモールド用基板に液状プレポリマーモールディングを2回繰り返すことで、そのポリマーからなる基板を形成するとともにその基板にモールド用基板の溝を転写する、という手法を採用したものであるので、簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことができる。
本発明のさらに別の観点によれば、樹脂型または金型を用いた液状プレポリマーモールディングまたは樹脂射出成形により、溝が形成された基板を作製し、次いで、この基板の溝の所要箇所に内部があらかじめ化学修飾されたキャピラリーを埋設し、その後、溝が設けられた側の基板の表面をガラスまたはプラスチックの透明シートまたは透明フィルムで被覆することからなる微小流路デバイスの作製方法が提供される。
本発明に係る微小流路デバイスの作製方法にあっては、樹脂型または金型を用いた液状プレポリマーモールディングまたは樹脂射出成形により溝が形成された基板を作製する、という手法を採用したものであるので、簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことができる。
本発明によれば、簡便かつ安価であって、流路パターンを容易かつ自由自在に変えることができ、必要に応じて化学的機能の集積化も行うことのできる微小流路デバイスおよびその作製方法を得ることができる。さらに、このような微小流路デバイスを多彩な集積化分析システム・合成システムなどへ応用することが可能になる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
実施例1は、横断面形状が正方形である角型キャピラリーと格子状流路ネットワークを有する高分子材料基板とを組み合わせることによる微小流路デバイスの作製方法に関するものである。
すなわち、図1および図2に示すように、横断面形状が正方形である角型キャピラリーの外側の一辺と同じ幅・深さを有する溝を高分子材料基板の表面に格子状に形成し、角型キャピラリーを必要な長さに必要な本数だけカットして必要な場所に埋め込むことで、必要な流路パターンを形成するものである。
以下、高分子材料基板にポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる基板を用いた一例に基づいて、具体的に説明する。
角型キャピラリー埋め込み型微小流路デバイス(マイクロ流体デバイス)の作製方法:
(1)ガラスモールドの作製(図1の左半部に示す)
幅300μmの刃を有するダイシングソーを用いて、モールド用基板としての正方形ガラス基板(一辺の長さが5cmで、厚さが1.0mmのもの)の表面に幅300μm、深さ300μmの溝をピッチ1mmで格子状に形成することで、ガラスモールドを作製する。
(2)モールディング(図1の右半部に示す)
次に、このガラスモールドにおける溝が設けられた側の表面に、撥水スプレーで表面コートを施してから液状PDMSプレポリマーを載せる。そして、60℃で3時間加温することで同プレポリマーを固化させ、固化により形成されたPDMS雄型基板(1次PDMS基板)をガラス基板から剥離する。
この1次PDMS基板を雄の鋳型として、1次PDMS基板の雄型表面に、撥水スプレーで表面コート処理した後に液状PDMSプレポリマーを所定量載せる。そして、60℃で3時間加温することで同プレポリマーを固化させ、固化により形成されたPDMS雌型基板(2次PDMS基板)を1次PDMS基板から剥離する。すると、所定厚さ(例えば1.0mm)の2次PDMS基板には、ガラス基板に形成した溝が転写されて、格子状の流路形成用溝(1本の溝は幅300μm、深さ300μm)が形成されている。この2次PDMS基板は、所要の寸法および形状(例えば、一辺の長さが5.5mmの正方形)にカットしたものが用いられる。
(3)キャピラリーの埋設および透明カバーの被覆(図2および図3に示す)
次に、シリカガラスからなる可撓性角型キャピラリー(商品名:Square flexible fused silica capillary tubing、米国Polymicro社が販売)を用意する。この角型キャピラリーは、外形の横断面形状および内腔の横断面形状がともに正方形であって、外形の幅・高さ(正方形の一辺の長さ)が300μm、内腔の幅・高さが100μmである。
そして、この角型キャピラリーを必要な本数だけ必要な長さにカットしたものを用いる。ここでは、5種類の角型キャピラリー(角型キャピラリーA、角型キャピラリーB、角型キャピラリーC、角型キャピラリーDおよび角型キャピラリーE)を1本ずつ用いる。
すなわち、角型キャピラリーAは、長さが3.6mmであり、その内腔が後述するモノリス構造によって化学修飾されている。角型キャピラリーB〜Dはいずれも、長さが1.0mmであり、その内腔の壁面−内壁−が内壁コーティング(図8を参照)によって化学修飾されている。角型キャピラリーEは、長さが1.0mmであり、化学修飾のないものである。
また、角型キャピラリーEの内腔をPDMSなどの充填により閉鎖して得られた流路閉鎖用ダミーロッドFを3本用意する。
そして、図2の下側中央部に示すように、所要の寸法および形状(例えば、縦の長さが4.0mm、横の長さが5.0mmの長方形)にカットした2次PDMS基板における格子状の溝の必要な場所に角型キャピラリーA〜Eを埋め込み、不必要な場所には3本のダミーロッドFをそれぞれ埋め込む。なお、これらの角型キャピラリーA〜Eおよび3本のダミーロッドFの配置は、角型キャピラリーAの一方端部から導入された流体が、その他方端部から出て、平面形状がL字形の溝を流れ、次いで、角型キャピラリーB〜Eのそれぞれを介して、平面形状がL字形であってその角部が開放された別の溝に入り、その溝の角部で合流した後にそこから排出されるような配置である。
次に、図3に示すように、透明カバーとしての透明ガラスシート(例えば厚さが0.5mm)にPDMSプレポリマーを5000rpmで10秒間スピンキャストし、このガラスシートに、角型キャピラリーA〜Eおよび3本のダミーロッドが埋め込まれた2次PDMS基板を載せ、PDMSプレポリマーを60℃で一昼夜、加温固化させる。これによって、その寸法が、例えば、縦の長さ4.0mm、横の長さ5.0mm、厚さ1.5mmである1枚のキャピラリー埋め込み型微小流路デバイス(マイクロ流体デバイス)が完成する(図3の左側最下部および図2の下側右部を参照)。
作製した流路のバリエーションは図4に示すとおりである。2次PDMS基板(格子状PDMSチャネルネットワーク)、流路キャピラリーおよびダミーロッドの組み合わせによって、300μm流路、100μm流路などの多彩な流路を形成することが可能である。
これらの流路は、図5に示すように、相異なる2種類の溶液(溶液1および溶液2)を導入した際に2層流の形成が可能であることから、これらの流路が形成された微小流路デバイスは、従来のマイクロチップと同様に、流量制御に基づく物質混合制御が可能である。
実施例2は、化学修飾キャピラリーの埋め込みに基づく化学機能集積化微小流路デバイスの作製方法に関するものである。
まず、角型キャピラリー内に機能性分子を固定化することによって、化学機能キャピラリーを作製する。ここでは一例として、キャピラリーの内壁(内腔の壁面)に化学センシング膜を修飾したカルシウムイオンセンシングキャピラリーおよびpHセンシングキャピラリーの作製方法を示す(図6を参照)。
(1)カルシウムイオンセンシングキャピラリー
カルシウムイオン認識分子、脂溶性蛍光色素、ポリ塩化ビニル、可塑剤(膜溶媒)(ニトロフェニルオクチルエーテル)をそれぞれ、1.8mg、3.0mg、33.1mg、65.7mgの割合で混合し、250mgのテトラヒドロフランに溶解させる。
この溶液を角型キャピラリー(内腔の幅・高さが100μm)の内腔に注入し、その後、空気を注入する。すると、内腔の壁面の四隅に膜物質が残るので、そのまま一昼夜放置してテトラヒドロフランを蒸発させると、カルシウムイオンセンシング膜が形成される。
このような方法によれば、カルシウムイオン認識分子の代わりに、ナトリウムイオン認識分子、カリウムイオン認識分子、塩化物イオン認識分子、マグネシウムイオン認識分子など、特定のイオンを認識する市販の分子を用いることで、多種類のイオンセンシングが可能である。
(2)pHセンシングキャピラリー
角型キャピラリーの内腔にコーティング剤(トリメトキシシリルプロピルメタクリレート−0.1M 塩酸=4:1(vol/vol)を注入し、30分間放置する。その後、メタノールでキャピラリーの内腔を洗浄する。
次に、フルオレセインイソチオシアネート10mgとポリエチレンイミン100mgと水400mgとを混合して30分間攪拌する。この溶液内でpH応答性蛍光色素分子がポリエチレンイミンに化学結合で固定化される。この溶液を50μl採取し、pH7のトリス緩衝液150μl、ポリエチレングリコールジアクリレート200mg、重合開始剤のアゾビス(ジメチルバレロニトリル)10mgと混合する。
この混合溶液をキャピラリーの内腔に注入し、その後、空気を注入する。すると、内腔の壁面の四隅に膜物質が残るので、60℃で2時間重合する。その後、キャピラリーの内腔に水を注入して未反応の試薬を洗浄し、pHセンシングキャピラリーとする。
以上のようにして作製した2種類のキャピラリーの蛍光写真を図7に示す。それぞれ、角型断面の四隅に膜が形成されていることがわかる。ここで作製した2種類の化学センシングキャピラリーはそれぞれ、2相系イオン対抽出メカニズムでカルシウムイオンに、均一系プロトン脱着平衡メカニズムでpHに応答する。
この他、現在までに、図8に示すような、ゾルゲルガラス膜を用いた酸素センシングキャピラリーやモノリシックゾルゲルポリマーに基づく濃縮・フィルターキャピラリーの作製に成功している。また、酵素や金属触媒によるキャピラリー内部の化学修飾、あるいはモノリスシリカ・ポリマー構造作製技術によって、分子認識機能、触媒反応機能などを付与することも可能であり、その応用範囲は多岐に渡る(図8)。
このようにして作製した化学機能キャピラリーを、実施例1に説明した要領で2次PDMS基板に埋め込み、マルチ分析システム、あるいは合成システムとして完成させる。
実施例3は、化学機能集積化微小流路デバイスの応用例に関するものである。
図9に、カルシウムイオンセンシングキャピラリーおよびpHセンシングキャピラリーを埋め込んだ微小流路デバイス(マルチセンシングチップ)の蛍光写真と、それぞれの応答結果とを示す。
これらによれば、pHセンシングキャピラリーではpH4〜8の範囲で、また、カルシウムイオンセンシングキャピラリーでは0.1mM〜1Mの濃度範囲で、蛍光強度ΔFが変化しており、マルチセンシングチップとして機能することがわかった。
前述のように、これら2種のキャピラリーは異なるセンシングメカニズムで応答する。1つの流路内に相異なる2種のセンシングメカニズムを持つ化学機能膜を集積することは、従来技術では不可能であったが、本発明により初めて実現することができた。
図10には、5本のイオンセンシングキャピラリーを埋め込んだ微小流路デバイスの蛍光写真を示す。このように、多種類のセンシングキャピラリーをパラレルに埋め込むことで、多項目同時分析などへの応用が期待できる。
化学機能集積化微小流路デバイス(集積化チップ)のその他の応用例を図11および図12に示す。
図11は、血液検査における必須項目である3種の血中電解質(ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン)を同時に検出するためのシステムの模式図である。それぞれのイオンに選択的に応答して発光するポリマー膜を角型キャピラリーの内腔壁面に修飾し、パラレルに埋め込むことで、同じサンプル溶液に含まれる異種イオンを同時に検出することができる。
図12に示した例は、尿素およびグルコースの同時検出システムである。尿素を分解する酵素(ウレアーゼ)およびグルコースを酸化する酵素(グルコースオキシダーゼ)を固定化した角型モノリス構造キャピラリーを作製しておく。そして、ウレアーゼ固定化キャピラリー内で発生するアンモニウムイオンおよびグルコースオキシダーゼ固定化キャピラリー内で消費される酸素を、出口に配置したアンモニウムイオンセンシングキャピラリーおよび酸素センシングキャピラリーの発光強度から定量する。これによって、尿素およびグルコースの同時測定を実現する。
実施例1〜実施例3の微小流路デバイスは、前記のように、正方形の横断面形状を持つ角型キャピラリーの外形の一辺と同じ幅・深さを有する溝をPDMS基板上に格子状に設け、角型シリカキャピラリーを必要な長さにカットして溝の必要な場所に埋め込むことで、必要な形状の流路パターンを作製したものである。
この方法では、シリカガラスからなる“硬い”キャピラリーをPDMSからなる“柔らかい”基板に埋め込むことで、流路にならない溝を隙間なく閉鎖することができるので、きわめて容易に微小流路を形成することができる。
また、イオンセンシング、分子認識、触媒反応、酵素反応、免疫反応などの化学的機能をキャピラリーの内腔あるいはその壁面に付与する方法を利用して、多種類の化学修飾キャピラリーを用意すれば、必要なパーツ(化学修飾キャピラリー)を必要な場所に埋め込むことによって、実に多彩な分析システム、合成システムを微小流路デバイス内に集積化することができる。
さらに、長い化学修飾キャピラリーを必要な長さにカットして使う、という手法から、将来の大量生産も容易である。
本発明の実施例1に係る微小流路デバイス作製の1過程を説明する図である。 本発明の実施例1に係る微小流路デバイス作製の別の1過程を説明する図である。 本発明の実施例1に係る微小流路デバイス作製のさらに別の1過程を説明する図である。 本発明の実施例1に係る微小流路デバイスの流路のバリエーションを示す図である。 本発明の実施例1に係る微小流路デバイスの流路における層流を示す蛍光写真である。 本発明の実施例2に係る微小流路デバイスのキャピラリーの作製方法を示す図である。 本発明の実施例2に係る微小流路デバイスのキャピラリーを示す蛍光写真とその説明図である。 本発明の実施例2に係る微小流路デバイスのキャピラリーのバリエーションを示す図である。 本発明の実施例3に係る微小流路デバイスのキャピラリーの性質を示す蛍光写真とグラフである。 本発明の実施例3に係る微小流路デバイスを示す蛍光写真である。 本発明の実施例3に係る微小流路デバイスの他の応用例を示す図である。 本発明の実施例3に係る微小流路デバイスのさらに他の応用例を示す図である。

Claims (11)

  1. 内部に貫通状流路が形成され、その流路の少なくとも一部にキャピラリーが埋設されてなることを特徴とする微小流路デバイス。
  2. キャピラリーは、その内部が化学修飾により化学操作部にされている請求項1に記載の微小流路デバイス。
  3. 微小流路デバイスは、少なくともその一面が透明である請求項1または2に記載の微小流路デバイス。
  4. 微小流路デバイスは、基板と前記キャピラリーとカバーとから構成され、その基板の表面に流路形成用の溝が設けられ、この溝に前記キャピラリーが密接状に埋設され、溝が設けられた側の基板の表面が前記カバーで被覆されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の微小流路デバイス。
  5. 流路およびキャピラリーは、横断面形状が略方形である請求項1〜4に記載の微小流路デバイス。
  6. 流路は、分枝状または格子状に設けられている請求項1〜5に記載の微小流路デバイス。
  7. 流路閉鎖用のダミーロッドがさらに埋設されている請求項1〜6のいずれか1つに記載の微小流路デバイス。
  8. キャピラリーは、ガラスまたはプラスチックからなる請求項1〜7に記載の微小流路デバイス。
  9. 基板は、シリコンゴム、ガラスまたはプラスチックからなり、カバーは、ガラスまたはプラスチックの透明シートまたは透明フィルムからなる請求項4〜8のいずれか1つに記載の微小流路デバイス。
  10. モールド用基板の表面に溝を設け、この溝が設けられた側のモールド用基板の表面に液状プレポリマーを載せて加温固化させ、固化により形成された雄型基板をモールド用基板から剥離し、この雄型基板の雄型表面に液状プレポリマーを載せて加温固化させ、固化により形成された溝付きの雌型基板を雄型基板から剥離し、この雌型基板の溝の所要箇所にガラスからなる流路形成用のキャピラリーと流路閉鎖用のダミーロッドとを溝に対して密接状に埋設し、その後、雌型基板の雌型表面に液状プレポリマーを介して透明カバーを載せ、同プレポリマーを加温固化させることからなる微小流路デバイスの作製方法。
  11. 樹脂型または金型を用いた液状プレポリマーモールディングまたは樹脂射出成形により、溝が形成された基板を作製し、次いで、この基板の溝の所要箇所に内部があらかじめ化学修飾されたキャピラリーを埋設し、その後、溝が設けられた側の基板の表面をガラスまたはプラスチックの透明シートまたは透明フィルムで被覆することからなる微小流路デバイスの作製方法。
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