JP2005140243A - 無段変速機の油圧制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】無段変速機の変速を制御する機能が低下した場合におこなわれる対策制御の応答性を可及的に向上させる。
【解決手段】オイル装置83と制御油圧室112との間に、制御油圧室112に供給されるオイル量、および制御油圧室から排出されるオイル量を制御する中継装置113が設けられている無段変速機の油圧制御装置において、中継装置113を制御するモードとして、オイル装置83の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、オイル装置83の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの供給状態が異なる第2の制御モードとを選択的に切り替え可能であり、オイル装置83の機能が正常であっても、所定条件が成立した場合は、第2の制御モードを選択するモード選択装置が設けられていることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。
【選択図】 図1
【解決手段】オイル装置83と制御油圧室112との間に、制御油圧室112に供給されるオイル量、および制御油圧室から排出されるオイル量を制御する中継装置113が設けられている無段変速機の油圧制御装置において、中継装置113を制御するモードとして、オイル装置83の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、オイル装置83の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの供給状態が異なる第2の制御モードとを選択的に切り替え可能であり、オイル装置83の機能が正常であっても、所定条件が成立した場合は、第2の制御モードを選択するモード選択装置が設けられていることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。
【選択図】 図1
Description
この発明は、変速比を無段階に制御することの可能な無段変速機の油圧制御装置に関するものである。
従来、駆動力源の出力側に無段変速機を設けるとともに、無段変速機の変速比を油圧制御する構成の車両が知られている。このような無段変速機の油圧制御装置の一例が、下記の特許文献1に記載されている。この特許文献1においては、内燃機関に近接して変速機ケースが設けられており、変速機ケース内にベルト式無段変速機が設けられている。ベルト式無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリを有しており、プライマリプーリは固定プーリ部材および可動プーリ部材を有し、セカンダリプーリは固定プーリ部材および可動プーリ部材を有している。さらに、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにベルトが巻き掛けられている。そして、プライマリプーリの固定プーリ部材と可動プーリ部材とを、圧油の供給・排出により開閉し、セカンダリプーリの固定プーリ部材と可動プーリ部材とを、圧油の供給・排出により開閉することにより、各プーリにおけるベルトの回転半径を変更し、ベルト式無段変速機の変速比を無段階に変えられる。
前記プライマリプーリに供給される油路の圧油は、レシオコントロールソレノイド、およびレシオコントロールソレノイドからの圧油信号に応じて圧油供給量を可変とするオイル装置によって、油圧供給回路に供給されるように構成されている。前記プライマリプーリとオイル装置との間には、切替弁が設けられている。切替弁は内蔵されるスプールを摺動させることにより、プライマリプーリへの圧油を、連通ポートまたは排出ポートに供給させる位置に、切り替え可能とするように構成されている。そして、スプールの動作により、オイルポンプから吐出されたオイルが油圧供給回路を経由してプライマリプーリの油路に供給される状態と、プライマリプーリの油路が排出ポートに連通されて、プライマリプーリへの圧油供給回路が、排出回路に連通される状態とが切り替えられる。また、排出回路には、排出保持手段としての保圧弁が設けられているとともに、この排出回路に急激な排油を防止するオリフィスが設けられている。
そして、特許文献1には、電気系統の断線により、レシオコントロールソレノイドへの電気信号が非通電状態となった場合は、レシオコントロールソレノイドの圧油信号が高まり、切替弁のスプールが摺動してプライマリプーリの油路と排出ポートとが連通して、排出回路に一定圧以上の圧油が作用するとともに、保圧弁を開放して圧油をドレインに排出することにより、ベルト式無段変速機の変速比を中間変速比に保ち、ベルト式無段変速機の変速比の変化を抑制する、と記載されている。
特開2002−39343号公報
ところで、上記の特許文献1においては、レシオコントロールソレノイドがフェールした後に、ベルト式無段変速機の変速比の急変を回避することが可能であるが、車両の走行性能の変化を抑制するためには、レシオコントロールソレノイドのフェールに対する制御の応答性を向上させる必要があった。
この発明は、上記の事情を背景にしてなされたものであり、無段変速機の動力伝達状態を制御するオイル装置の機能が低下した場合におこなわれる対策制御の応答性を、可及的に向上させることの可能な無段変速機の油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、無段変速機と、この無段変速機における動力伝達状態を制御する制御油圧室と、この制御油圧室との間でオイルの供給および排出をおこなうオイル装置と、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイルの状態を制御する中継装置とを有する無段変速機の油圧制御装置において、前記中継装置を制御するモードとして、前記オイル装置の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、前記オイル装置の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの状態が異なる第2の制御モードとを有し、前記オイル装置の機能が正常であっても、所定条件が成立した場合は、前記第2の制御モードを選択するモード選択装置を備えていることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記中継装置は、前記第1の制御モードが選択された場合に、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイル量よりも、前記第2の制御モードが選択された場合に、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイル量の方が少なくなる油路を備えていることを特徴とするものである。
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記中継装置は、前記第1の制御モードと第2の制御モードとの切り替えにともない、潤滑系統に供給されるオイル量が変化し、かつ、前記第2の制御モードが選択された場合に前記潤滑系統に供給されるオイル量の方が、前記第1の制御モードが選択された場合に前記潤滑系統に供給されるオイル量よりも多くなる潤滑油路を有しており、前記所定条件が成立する場合には、前記潤滑系統におけるオイルの必要量が所定値以上である場合が含まれることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、前記所定条件が成立する場合には、車両が所定車速以上で走行すること、または、前記無段変速機の変速比の変更要求程度が所定値以下であること、または、前記オイルの温度が所定温度以上であることのうち、少なくとも1つの事項が含まれることを特徴とするものである。
請求項5の発明は、請求項1または2の構成に加えて、車両を前進させる向きの駆動力と、車両を後退させる向きの駆動力とを選択的に切換可能な前後進切換装置が設けられ、この前後進切換装置は、車両を後退させる向きの駆動力を生じさせる場合に油圧が高められる後進用油圧室を有しており、前記中継装置は、前記第2の制御モードが選択された場合に連通され、かつ、前記後進用油圧室からオイルを排出する排出油路を有しており、前記所定条件が成立する場合には、前記前進ポジションが選択され、かつ、車両が所定車速以上で前進走行している場合に、前記後退ポジションが選択された場合が含まれることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの構成に加えて、前記無段変速機は、複数のプーリと、複数のプーリに巻き掛けられたベルトと、所定のプーリに設けられ、かつ、前記制御油圧室のオイル量に基づいて動作し、前記無段変速機の変速比を制御する可動部材とを有し、前記オイル装置には、前記制御油圧室に供給されるオイル量、および前記制御油圧室から排出されるオイル量を制御する変速制御弁が含まれており、前記中継装置には、前記第1の制御モードまたは第2の制御モードの切り替えに基づいて、複数の油路を選択的に開放または遮断することにより、オイルの状態を制御する切替弁が含まれることを特徴とするものである。
請求項1の発明によれば、オイル装置の機能が正常であっても、所定条件が成立した場合は、第2の制御モードが選択される。つまり、オイル装置の機能が低下する前から、予め、第2の制御モードが選択されるため、実際にオイル装置の機能が低下した場合でも、オイル装置の制御モードを切り替えずに済み、「オイル装置の機能が低下した場合に実施する制御」の応答性が向上する。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、第1の制御モードから第2の制御モードに変更されると、制御油圧室に供給されるオイル量、または制御油圧室から排出されるオイル量の変化が抑制される。したがって、無段変速機における動力伝達状態の急激な変化が抑制される。
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、潤滑系統における潤滑油の必要量が所定値以上である場合は、第2の制御モードが選択されて、潤滑油路から潤滑系統に供給されるオイル量が増加する。したがって、潤滑系統におけるオイル不足を抑制できる。
請求項4の発明によれば、請求項3の発明と同様の効果を得られる他に、車両が所定車速以上で走行すること、または、無段変速機の変速比の変更要求程度が所定値以下であること、または、オイルの温度が所定温度以上であること、のうち少なくとも1つの事項が検知された場合は、第2の制御モードが選択されて、潤滑油路から潤滑系統に供給されるオイル量が増加し、潤滑系統におけるオイル不足を、一層確実に抑制できる。
請求項5の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、車両が所定車速以上で前進走行している場合に、車両を後退させる要求が発生した場合は、第2の制御モードが選択されて、後進用油圧室のオイルが排出される。したがって、車両が前進走行中に、車両を後退させる向きの駆動力が生じることを回避できる。
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、変速制御弁から制御油圧室に供給されるオイル量が制御されて可動部材が動作し、無段変速機の変速比が制御される。また、第1の制御モードと第2の制御モードとが切り替えられると、切替弁により複数の油路が選択的に開放または遮断されて、オイルの状態が制御される。したがって、オイルの状態の変更を、一層確実におこなうことが可能である。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2には、この発明の制御装置の対象となる車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。ここに示すパワートレーンにおいては、駆動力源1のトルクが、流体伝動装置9および前後進切換装置8を介してベルト式無段変速機4に伝達されるように構成されている。駆動力源1としては、エンジンまたは電動機のうちの少なくとも一方を用いることができる。このエンジンとしては、例えば、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。以下、駆動力源1としてガソリンエンジンを用いる場合について説明し、便宜上、駆動力源1を“エンジン1”と記す。このエンジン1の吸気管(図示せず)には、電子スロットルバルブ(図示せず)が設けられているとともに、エンジン1はクランクシャフト70を有している。
このクランクシャフト70に連結される流体伝動装置9として、図2の実施例ではトルクコンバータが用いられている。以下、流体伝動装置9を“トルクコンバータ9”と記す。このトルクコンバータ9は、ポンプインペラ11とタービンランナ12とを有している。フロントカバー10には円筒部71が連続されており、円筒部71であって、フロントカバー10とは反対側の端部に、ポンプインペラ11が形成されている。タービンランナ12は円筒部71の内部に配置されており、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが対向して設けられている。タービンランナ12はシャフト50と一体回転するように連結されている。これらのポンプインペラ11とタービンランナ12とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラ11とタービンランナ12との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。
また、ポンプインペラ11とタービンランナ12との内周側の部分には、タービンランナ12から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラ11に流入させるステータ13が配置されている。このステータ13は、一方向クラッチ14を介して、所定の固定部(ケーシング)15に連結されている。
このトルクコンバータ9は、ロックアップクラッチ16を備えている。ロックアップクラッチ16は、円筒部71の内部に設けられており、フロントカバー10からシャフト50に至る動力伝達経路に対して並列に配置されたものである。また、円筒部71の内部には第1の油圧室72と第2の油圧室73とが形成されている。ロックアップクラッチ16は、シャフト50と一体回転するように取り付けられているとともに、シャフト50の軸線方向に移動可能に構成されている。そして、第1の油圧室72の油圧と、第2の油圧室73の油圧との対応関係に基づいて、シャフト50の軸線方向におけるロックアップクラッチ16の動作が制御される。さらにまた、第1の油圧室72および第2の油圧室73に供給される作動流体(オイル)の圧力を制御する機能を有する油圧制御装置59が設けられている。
前後進切換装置8は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、前後進切換装置8は、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を切り換える機能を備えている。また、前後進切換装置8は、シャフト50とプライマリシャフト51とを、動力伝達可能な状態に連結する機能と、シャフト50とプライマリシャフト51との間における動力伝達を遮断する機能とを有している。
図2に示す例では、前後進切換装置8としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、シャフト50と一体回転するサンギヤ17と、サンギヤ17と同心状に配置されたリングギヤ18とが設けられ、これらのサンギヤ17とリングギヤ18との間に、サンギヤ17に噛合したピニオンギヤ19と、ピニオンギヤ19およびリングギヤ18に噛合した他のピニオンギヤ20とが配置され、ピニオンギヤ19,20がキャリヤ21によって、自転かつ公転自在に保持されている。
さらに、サンギヤ17およびシャフト50と、キャリヤ21とを一体回転可能に連結する前進用クラッチ22が設けられている。またリングギヤ18を選択的に固定することにより、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を反転する後進用ブレーキ23が設けられている。上記前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23の係合・解放は、油圧制御装置59により制御される。なお、プライマリシャフト51とキャリヤ21とが一体回転するように連結されている。
前記ベルト式無段変速機4は、互いに平行に配置されたプライマリプーリ24とセカンダリプーリ25とを有する。まず、プライマリプーリ24は、プライマリシャフト51と一体回転するように構成されており、プライマリプーリ24は、固定シーブ52と可動シーブ53とを有している。そして、可動シーブ53を、プライマリシャフト51の軸線方向に動作させる油圧式のアクチュエータ26が設けられている。
これに対して、セカンダリプーリ25は、セカンダリシャフト55と一体回転するように構成されており、セカンダリプーリ25は、固定シーブ54と可動シーブ56とを有している。さらに、可動シーブ56をセカンダリシャフト55の軸線方向に動作させる油圧式のアクチュエータ27が設けられている。さらに、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25には環状のベルト28が巻き掛けられている。さらに、上記アクチュエータ26の油圧室(後述)およびアクチュエータ27の油圧室(後述)に供給・排出されるオイルの状態は、油圧制御装置59により制御される。なお、セカンダリシャフト55には歯車伝動装置29を経由してデファレンシャル6が連結されており、デファレンシャル6には車輪(前輪)2が連結されている。
つぎに、図2に示された車両Veの制御系統を説明する。まず、電子制御装置(ECU)34が設けられており、この電子制御装置34は、演算処理装置(CPUまたはMPU)と、記憶装置(RAMおよびROM)と、入出力インターフェースとを有するマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置34には、エンジン回転速度センサ30の信号、タービンランナ12の回転速度を検出するタービン回転速度センサ31の信号、プライマリシャフト51の回転速度を検出する入力回転速度センサ32の信号、セカンダリシャフト55の回転速度を検出する出力回転速度センサ33の信号、車速制御要求検知センサ57の信号、シフトポジションセンサ60の信号、ケーシングおよび油圧回路のオイルの温度を検知する温度検知センサ74の信号、油圧制御装置59の機能を検知するフェール検知センサ58の信号などが入力される。この入力回転速度センサ32の信号および出力回転速度センサ33の信号に基づいて、ベルト式無段変速機4の変速比が算出される。
車速制御要求検知センサ57により、加速要求および制動要求などが検知される。シフトポジションセンサ60により、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジション、ローポジションなどが検知される。ドライブポジションでは、ベルト式無段変速機4の変速比を変更可能であり、ローポジションでは、ベルト式無段変速機4の変速比が固定される。この電子制御装置34からは、エンジン1を制御する信号、油圧制御装置59を制御する信号、ベルト式無段変速機4を制御する信号、ロックアップクラッチ16を制御する信号、前後進切換装置8を制御する信号などが出力される。
上記のように構成された車両Veにおいて、エンジン1が運転されると、エンジン1から出力されたトルクが、トルクコンバータ9、前後進切換装置8、ベルト式無段変速機4を経由して車輪2に伝達される。また、電子制御装置34にはロックアップクラッチ制御マップが記憶されており、ロックアップクラッチ制御マップに基づいて、ロックアップクラッチ16の伝達トルク容量(言い換えれば、係合油圧、係合圧、係合状態)が制御され、ロックアップクラッチ16が解放(具体的には完全解放)またはスリップまたは係合(具体的には完全係合)される。
つぎに、前後進切換装置8の制御について説明する。前記シフトポジションセンサ60により、ドライブポジションが検知された場合は、前後進切換装置8の前進用クラッチ22が係合され、かつ、後進用ブレーキ23が解放される。すると、シャフト50とキャリヤ21とが一体回転し、シャフト50のトルクがプライマリシャフト51に伝達されるとともに、プライマリシャフト51のトルクが車輪2に伝達されて、車両Veを前進させる向きの駆動力が発生する。このとき、シャフト50およびプライマリシャフト51が同方向に回転する。
これに対して、シフトポジションセンサ60により、リバースポジションが検知された場合は、前進用クラッチ22が解放され、かつ、後進用ブレーキ23が係合される。すると、エンジントルクがサンギヤ17に伝達された場合は、リングギヤ18が反力要素となって、サンギヤ17のトルクがキャリヤ21を経由してプライマリシャフト51に伝達される。プライマリシャフト51のトルクが車輪2に伝達されると、車両Veを後進させる向きの駆動力が発生する。この場合、シャフト50とプライマリシャフト51とは逆方向に回転する。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23が解放されて、シャフト50とプライマリシャフト51との間における動力伝達が遮断される。
つぎに、ベルト式無段変速機4の動力伝達状態の制御、より具体的には、変速比およびトルク容量の制御を説明する。前記のように、エンジントルクがプライマリシャフト51に伝達されるとともに、電子制御装置34に入力される各種の信号、および電子制御装置34に予め記憶されているデータに基づいて、ベルト式無段変速機4の変速比およびトルク容量が制御される。まず、変速比の制御について説明する。プライマリシャフト51の軸線方向における可動シーブ53の位置が制御されて、プライマリプーリ24の溝幅が調整されると、プライマリプーリ24に対するベルト28の巻掛け半径が変化し、ベルト式無段変速機4の変速比が無段階に変化する。
具体的には、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が増加した場合は、プライマリプーリ24の溝幅が狭められて、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機4の変速比が小さくなるように変化、すなわち、増速変速する。これとは逆に、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が減少した場合は、プライマリプーリ24の溝幅が広げられて、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機4の変速比が大きくなるように変化、すなわち、減速変速する。なお、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が略一定に制御された場合は、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が略一定に維持され、ベルト式無段変速機4の変速比が略一定に維持される。
上記のような変速比の制御に並行して、油圧アクチュエータ27の油圧室に供給される油圧が制御されて、セカンダリシャフト55の軸線方向における可動シーブ56の位置が制御されて、ベルト式無段変速機4のトルク容量が制御される。具体的には、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が高められた場合は、セカンダリプーリ25の溝幅が狭められて、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が増加し、ベルト式無段変速機4のトルク容量が増加する。これとは逆に、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が低下した場合は、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が低下して、ベルト式無段変速機4のトルク容量が低下する。具体的には、増速変速の実行時にはトルク容量が低下され、減速変速の実行時にはトルク容量が高められる。なお、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が略一定に制御された場合は、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が略一定に維持され、ベルト式無段変速機4のトルク容量が略一定に制御される。
つぎに、前述した油圧制御装置59の構成例を、図1に基づいて説明する。エンジンまたはモータ・ジェネレータなどにより駆動されるオイルポンプ80が設けられており、オイルパン81のオイルがオイルポンプ80により吸引されて、油路82に吐出される構成となっている。この油路82はシーブ制御弁83に接続されている。シーブ制御弁83は、油圧アクチュエータ26の油圧室112のオイル量を制御する機能を有している。
このシーブ制御弁83は、所定方向に往復移動可能なスプール84と、スプール84を所定の向きで押圧する弾性部材85とを有している。また、スプール84は、ランド部86,87,88を有している。さらにシーブ制御弁83は、入力ポート89および出力ポート90およびドレーンポート91およびフィードバックポート92および信号圧ポート93を有している。信号圧ポート93の油圧により、弾性部材85の付勢力と同じ向きの付勢力がスプール84に加えられ、フィードバックポート92の油圧により、弾性部材85の付勢力とは逆向きの付勢力が、スプール84に加えられる。そして、前記油路82と入力ポート89とが接続されている。
一方、シーブ制御弁83を制御するリニアソレノイドバルブ94が設けられている。リニアソレノイドバルブ94は、入力ポート95および出力ポート96を有しており、出力ポート96には油路97を経由して信号圧ポート93が接続され、入力ポート95には油路98が接続されている。このリニアソレノイドバルブ94は、電流値に応じて入力ポート95と出力ポート96との連通面積が制御され、出力ポート96から出力される信号圧が比例制御される構成となっている。例えば、リニアソレノイドバルブ94として、電流値が高まるほど、信号圧が低下する特性を備えたものを用いることが可能である。
前記油路82の油圧を制御する圧力制御弁99が設けられている。圧力制御弁99は、所定方向に往復移動可能なスプール100と、スプール100を所定の向きに付勢する弾性部材101とを有している。スプール100は、ランド部102,103,104を有している。また、圧力制御弁99は、入力ポート105と、排出ポート106,107と、フィードバックポート108とを有している。入力ポート105およびフィードバックポート108は油路82に接続され、フィードバックポート108の油圧により、スプール100を、弾性部材101の付勢力とは逆向きに付勢する力が生じる。また、排出ポート106には油路109を経由して潤滑系統(図示せず)などが接続され、排出ポート107には油路110が接続されている。
前記シーブ制御弁83の出力ポート90およびフィードバックポート92には油路111が接続されており、油路111と油圧アクチュエータ26の油圧室112との間の油路に、切替弁113が設けられている。切替弁113は、所定方向に往復移動可能なスプール114と、スプール114を所定の向きに付勢する弾性部材115とを有している。スプール114は、ランド部116,117,118,119を有している。
また、切替弁113は、入力ポート120,121,122,123,124と、出力ポート125,126,127と、信号圧ポート128およびドレーンポート129とを有している。そして、前記油路111から分岐する油路130,131が形成されているとともに、入力ポート121と油路130とが接続され、入力ポート120と油路131とが接続されている。そして、油路131には絞り部132が設けられている。ここで、絞り部132の断面積は、油路130の断面積よりも狭く設定されている。さらに、出力ポート125と油圧室112とが油路133により接続されている。
前記油路110から分岐する油路134,135が形成されており、油路134と入力ポート122とが接続され、油路135と入力ポート123とが接続されている。そして、油路135には絞り部136が設けられている。ここで、絞り部136の断面積は、油路134の断面積よりも狭く設定されている。さらに、信号圧ポート128に入力される信号圧を制御するソレノイドバルブ137が設けられている。ソレノイドバルブ137は、入力ポート137Aおよび出力ポート137Bを有しており、出力ポート137Bから信号圧が出力される。このソレノイドバルブ137として、例えば、電流値が増加することにともない、信号圧が高まる特性を備えたものを用いることが可能である。なお、前記出力ポート127のオイルは、油路138を経由して潤滑系統139に供給される。潤滑系統139としては、ベルト28とプライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25との接触部分、前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23、前後進切換装置8の各ギヤ同士の噛み合い部分などが挙げられる。さらに、前記出力ポート126は油路140を経由して、後進用ブレーキ23の油圧室141に接続されている。
さらに、選択されるシフトポジションに応じて動作するマニュアルバルブ142が設けられている。マニュアルバルブ142は、所定方向に動作可能なスプール143と、スプール143に形成されたランド部144,145,146と、入力ポート147と、出力ポート148,149,150と、ドレーンポート151,152とを有している。また、出力ポート148は油路153,200に接続され、この油路153は、前進用クラッチ22の油圧室154に接続されている。また、油路200はドレーンポート151に接続されている。油路153と油路200とは、スプール143の位置に関わりなく連通されている。さらに、出力ポート149と入力ポート124とが油路155により接続されている。なお、マニュアルバルブ142は、車両Veの乗員の操作力が、伝動装置を経由して伝達されてスプール143が動作する構成、または、乗員のシフトポジション選択意志を、アクチュエータの動作力に変換し、そのアクチュエータの動作力でスプール143が動作する構成のいずれでもよい。ここで、シフトポジション選択意志は、操作力の発生による意思表示、または音声による意思表示などのいずれでもよい。
一方、前記油路82にはクラッチ圧制御弁156が接続されている。クラッチ圧制御弁156は、所定方向に往復移動可能なスプール157と、スプール157を所定の向きで付勢する弾性部材158と、スプール157に形成されたランド部159,160,161と、入力ポート162および出力ポート163およびドレーンポート164およびフィードバックポート165および制御ポート166とを有している。入力ポート162は油路82に接続され、出力ポート163と入力ポート147とが油路167により接続され、フィードバックポート165は油路167に接続されている。また、制御ポート166と出力ポート150とが油路168により接続されている。なお、油路82から、油圧アクチュエータ27の油圧室169にオイルを供給し、かつ、油圧室169からオイルを排出することにより、油圧室169の油圧を制御する油圧制御弁170が設けられている。油圧制御弁170はリニアソレノイドバルブなどにより構成されている。
つぎに、図1に示す油圧制御装置59の機能を説明する。まず、オイルポンプ80が駆動されると、オイルパン81のオイルが油路82に供給される。油路82の油圧は、圧力制御弁99のフィードバックポート108に入力される。ここで、弾性部材101により生成される所定の向きの付勢力と、フィードバックポート108の油圧に対応し、かつ、所定の向きとは逆向きの付勢力とが、スプール100に加えられて、スプール100の軸線方向の位置が決定される。油路82の油圧が所定値以下である場合は、スプール100が図1において上向きに動作して、入力ポート105と、ドレーンポート106,107とが遮断される。このため、油路82のオイルは油路109,110には排出されず、油路82の油圧の低下が抑制される。
ついで、油路82の油圧が上昇すると、フィードバックポート108の油圧が高まり、スプール100が、図1において下向きに動作し、入力ポート105と、排出ポート106,107とが連通する。すると、油路82のオイルが、油路109,110に排出されて、油路82の油圧の上昇が抑制される。なお、油路82の油圧が低下すると、フィードバックポート108の油圧も低下して、スプール100が図1において上向きに動作し、入力ポート105とドレーンポート106,107との連通面積が狭められ、油路82からドレーンポート106,107に排出されるオイル量が減少する。このようにして、油路82の油圧、すなわちライン圧は、圧力制御弁99により調圧される。
この油路82のオイルはクラッチ圧制御弁156の入力ポート162に供給される。クラッチ圧制御弁156においては、弾性部材158の付勢力によりスプール157が所定の向きに付勢されるとともに、油路167の油圧がフィードバックポート165に入力されており、フィードバックポート165の油圧に対応する付勢力が、弾性部材158の付勢力とは逆向きに作用する。ここで、油路167の油圧が所定値以下である場合は、スプール157が図1において上向きに動作し、入力ポート162と出力ポート163との連通面積が拡大し、油路82から油路167に供給されるオイル量が増加する。
ここで、シフトポジションとしてドライブポジションが選択された場合は、マニュアルバルブ142の入力ポート147と出力ポート148とが連通されるとともに、ドレーンポート151は遮断される。また、入力ポート147と出力ポート149とが遮断され、かつ、出力ポート149とドレーンポート152とが連通される。すると、油路167のオイルが、油路153を経由して油圧室154に供給され、前進用クラッチ22の係合圧が高められる。
前記のようにドライブポジションが選択されており、かつ、所定条件が不成立である場合は、ソレノイドバルブ137の信号圧が低圧に制御される。例えば、潤滑系統139で必要なオイル量が所定値未満であること、または、ベルト式無段変速機4の変速比の変化要求程度が所定値以上であることのうち、少なくとも1つの事項が検知された場合は、「所定条件が不成立である。」と判断される。具体的には、潤滑油を必要とする回転部材が所定回転速度未満で回転していること、または、油温が所定値未満であること、または所定車速未満で車両Veが走行していることのうち、少なくとも一つの事項が検知された場合に、「潤滑系統139で必要なオイル量が所定値未満である。」と判断される。
上記のように、ソレノイドバルブ137の信号圧が最低値に制御されると、切替弁113のスプール114は、弾性部材115の付勢力により、図1において上向きに動作する。そして、図1で左半分に示すように、第1の動作ポジションでスプール114が停止する。スプール114が第1の動作ポジションで停止した場合は、入力ポート124と出力ポート126とが連通されて、油圧室141のオイルが、油路140,155を経由してドレーンポート152に排出される。その結果、後進用ブレーキ23の係合圧が低下される。
つぎに、車速が所定車速未満であるために「所定条件が不成立である。」と判断されて、スプール114が第1の動作ポジションで停止され、かつ、リバースポジションが選択された場合について説明する。この場合は、マニュアルバルブ142の入力ポート147と出力ポート149とが連通されて、油路167のオイルが油路155,140を経由して油圧室141に供給され、後進用ブレーキ23の係合圧が高められる。
また、入力ポート147と出力ポート150とが連通されて、油路167のオイルが油路168を経由して制御ポート166に供給される。制御ポート166の油圧が高まると、クラッチ圧制御弁156のスプール157を、図1において上向きに付勢する力が増加し、入力ポート162と出力ポート163との連通面積が、ドライブポジションが選択されている場合の面積よりも拡大される。つまり、リバースポジションが選択された場合に、油路82から油圧室141に供給されるオイル量は、ドライブポジションが選択された場合に、油路82から油圧室154に供給されるオイル量よりも多くなる。したがって、前進用クラッチ22の係合圧よりも、後進用ブレーキ23の係合圧の方が高くなる。
一方、リバースポジションが選択された場合は、入力ポート147と出力ポート148とが遮断されるとともに、ドレーンポート151が開放される。したがって、油圧室154のオイルが油路153,200を経由してドレーンポート151に排出され、前進用クラッチ22の係合圧が低下する。以上のようにして、前進クラッチ22または後進用ブレーキ23の一方が係合され、他方が解放される。なお、前進クラッチ22または後進用ブレーキ23の一方が係合されて、油路167の油圧が上昇すると、フィードバックポート165の油圧が上昇して、スプール157を図1において下向きに付勢する力が増加する。その結果、入力ポート162と出力ポート163との連通面積が狭められ、油圧室141または油圧室154の油圧が、所定油圧以上に高まることが抑制される。
つぎに、ベルト式無段変速機4の制御について説明する。まず、前述した所定条件が不成立であり、かつ、リニアソレノイドバルブ94およびシーブ制御弁83が共に正常である場合について説明する。電子制御装置34の信号処理により、ベルト式無段変速機4の変速比を小さくする増速条件が成立すると、リニアソレノイドバルブ94の出力ポート96から出力される信号圧が高められる。すると、シーブ制御弁83のスプール84が、図1において上向きに動作する。このため、入力ポート89と出力ポート90との連通面積が拡大されるとともに、ドレーンポート91が遮断される。このようにして、油路82から油路111に供給されるオイル量が増加する。
前述したように、所定条件が不成立である場合は、切替弁113のスプールが第1の動作ポジションで停止して、入力ポート121と出力ポート125とが連通され、入力ポート120は遮断されている。このため、油路111のオイルは、油路130および油路133を経由して油圧室112に供給され、油圧室112のオイル量が増加される。その結果、プライマリプーリ24の可動シーブ53に加えられる推力が高まり、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が大きくなる。
さらに、前述した所定条件が不成立であり、かつ、リニアソレノイドバルブ94およびシーブ制御弁83が共に正常である場合において、ベルト式無段変速機4の変速比を大きくする減速条件が成立した場合を説明する。この場合は、リニアソレノイドバルブ94の出力ポート96から出力される信号圧が低下される。すると、フィードバックポート92の油圧に応じた付勢力により、スプール84が弾性部材85の付勢力に抗して、図1で下向きに動作する。このため、出力ポート90とドレーンポート91との連通面積が拡大され、かつ、入力ポート89が遮断される。その結果、油圧室112のオイルが油路133,130,111を経由して、ドレーンポート91に排出される。このようにして、プライマリプーリ24の可動シーブ53に加えられる推力が低下され、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が小さくなる。
さらに、前述した所定条件が不成立であり、かつ、リニアソレノイドバルブ94およびシーブ制御弁83が共に正常である場合において、ベルト式無段変速機4の変速比を略一定に維持する条件が成立した場合は、信号圧ポート93の油圧に対応する付勢力、および弾性部材85の付勢力と、フィードバックポート92の油圧に対応する付勢力とのバランスにより、スプール84が所定位置で停止して、入力ポート89およびドレーンポート91が共に遮断されるように、リニアソレノイドバルブ94の出力ポート96から出力される信号圧が制御される。その結果、油圧室112に対するオイルの供給、および油圧室112からのオイルの排出が停止され、油圧室112のオイル量が略一定に維持される。したがって、プライマリプーリ24の可動シーブ53に加えられる推力が略一定に制御され、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が略一定となる。
つぎに、前述した所定条件と、切替弁113の制御による効果との関係を説明する。まず、ベルト式無段変速機4の変速比の変化要求程度が所定値以上であることにより、所定条件が不成立である場合の効果を説明する。切替弁113のスプール114が第1の動作ポジションで停止された場合は、油路111と油路133との間で、油路130を経由してオイルが流通する。ここで、油路130の断面積は、絞り部132の断面積よりも広いため、油路131よりも油路130の方がオイルの流通量を多くすることが可能である。つまり、ベルト式無段変速機4の変速比の変化要求程度が所定値以上である場合に、第1の動作ポジションを選択することにより、変速比の変化速度を高めることが可能であり、変速制御応答性が向上する。
また、前述のように、潤滑油を必要とする回転部材が所定回転速度未満で回転していること、または、油温が所定値未満であることが検知されて、所定条件が不成立となっている場合の効果を説明する。このような場合は、潤滑系統139で必要なオイル量(潤滑油量)が所定値未満であると考えられる。そして、この実施例では、切替弁113のスプール114が第1の動作ポジションで停止した場合は、入力ポート123と出力ポート127とが連通され、かつ、入力ポート122が遮断される。このため、油路110のオイルは、油路135および油路138を経由して潤滑系統139に供給される。ここで、絞り部136の断面積は、油路134の断面積よりも狭いため、潤滑系統139に供給されるオイル量が過剰となることを抑制できる。
つぎに、ベルト式無段変速機4の変速比の変化要求程度が所定値未満であることが検知されて、所定条件が成立した場合について説明する。所定条件が成立した場合は、ソレノイドバルブ137の出力ポート137Bから出力される信号圧が高められる。すると、切替弁113のスプール114が、図1において下向きに動作し、図1で右半分に示す第2の動作ポジションでスプール114が停止する。このように、スプール114が第2の動作ポジションで停止した場合は、入力ポート120と出力ポート125とが連通し、入力ポート121が遮断される。このため、油路111と油路133とが、油路131により連通される。
つぎに、所定条件が成立している場合に、リニアソレノイドバルブ94またはシーブ制御弁83がフェールした場合を説明する。例えば、リニアソレノイドバルブ94でショートフェールが発生し、シーブ制御弁83が正常である場合を説明する。リニアソレノイドバルブ94がショートフェールした場合は、リニアソレノイドバルブ94から出力される信号圧が最低圧となる。すると、シーブ制御弁83のスプール84を、図1において上向きに付勢する力が低下して、フィードバックポート92の油圧に対応する付勢力により、スプール84が図1において下向きに動作する。このため、出力ポート90とドレーンポート91との連通面積が増加するとともに、入力ポート89が遮断される。その結果、油圧室112のオイルが、油路133,111を経由してドレーンポート91に排出される。
ここで、前述のように、切替弁113のスプール114が第2の動作位置に停止しているため、油路133のオイルは、油路131を経由してドレーンポート91からドレーンされる。そして、油路131の絞り部132の断面積は油路130の断面積よりも狭いため、油路131を流通するオイル量を低減することが可能である。したがって、リニアソレノイドバルブ94でショートフェールが発生した場合でも、油圧室112におけるオイルの減少程度を緩やかにすることができ、「ベルト式無段変速機4の変速比が急激に大きくなり、ショックとして体感されること。」を回避できる。
つぎに、シーブ制御弁83がフェールした場合について説明する。シーブ制御弁83のフェールとしては、シーブ制御弁83が、入力ポート89を遮断し、かつ、出力ポート90とドレーンポート91とを連通した状態で、スプール84が停止するフェールが生じる場合が挙げられる。この場合も、前述と同様の原理により、油圧室112から排出されるオイル量の増加を抑制でき、前述と同様の効果を得られる。
このように、ベルト式無段変速機4の変速比を制御するシーブ制御弁83、またはリニアソレノイドバルブ94が正常である場合でも、所定条件が成立した場合は、切替弁113の動作ポジションとして、予め、オイルの流通量の増加が制限される油路131をオイルが流通可能となるように、切替弁113の動作ポジションとして、第2の動作ポジションが選択されている。このため、第2の動作ポジションが選択された後に、シーブ制御弁83またはリニアソレノイドバルブ94がフェールした場合でも、切替弁113のスプール114を動作させることなく、ベルト式無段変速機4の変速比の急激な変化を抑制できる。したがって、シーブ制御弁83またはリニアソレノイドバルブ94のフェールが発生した場合における対策制御の応答性が向上する。
つぎに、所定条件が成立している一方、リニアソレノイドバルブ94およびシーブ制御弁83が正常である場合に得られる効果を説明する。例えば、ベルト式無段変速機4の変速比の変更要求が所定値以下であることに基づき、所定条件が成立している場合は、油圧室112のオイル量を急激に増減する必要はない。この実施例では、所定条件が成立すると第2の動作ポジションが選択されて、油路133と油路131とが連通され、油路130が遮断される。そして、油路131には絞り部132が設けられているため、前述と同様の原理により、油圧室112のオイル量の急激な増減を抑制することが可能である。したがって、油圧室112のオイル給排状態を、変速比の制御要求に適合した状態に制御することが可能である。
さらに、潤滑系統139におけるオイルの必要量が所定値以上となり、所定条件が成立した場合に得られる効果を説明する。この実施例において、スプール114が第2の動作ポジションで停止された場合は、入力ポート122と出力ポート127とが連通され、入力ポート123が遮断される。したがって、油路110のオイルは、油路134および油路138を経由して潤滑系統139に供給される。ここで、油路134の断面積は、絞り部136の断面積よりも広いため、潤滑系統139に供給されるオイル量を多くすることができる。したがって、油路110から油路138に供給されるオイル量を、潤滑系統139における潤滑油の必要量に適合した量に制御することが可能であり、潤滑性能が向上する。
つぎに、所定車速以上で車両が走行して、所定条件が成立している場合に、ドライブポジションからリバースポジションに変更された場合に得られる効果を説明する。ドライブポジションからリバースポジションに変更された場合は、マニュアルバルブ142のドレーンポート151が開放されて、油圧室154のオイルが、油路153,200を経由してドレーンポート151に排出され、前進用クラッチ22が解放される。また、入力ポート147と出力ポート149とが連通され、油路167のオイルが油路155に供給される。
しかしながら、所定条件が成立して第2の動作ポジションが選択された場合は、切替弁113の入力ポート124が遮断されている。このため、所定車速以上で車両Veが走行している場合に、ドライブポジションからリバースポジションに変更された場合でも、油路155のオイルは油圧室141に供給されない。また、切替弁113が第2の動作ポジションで停止した場合は、ドレーンポート129と出力ポート126とが連通するため、油圧室141のオイルは、油路140を経由してドレーンポート129から排出される。このため、後進用ブレーキ23は解放される。したがって、車両Veが前進走行中に、誤操作や誤作動によりリバースポジションが選択された場合でも、車両Veを後進させる向きの駆動力が発生することを防止できる。
上記の各制御を、図3に示すフローチャートに基づいて包括的に説明する。すなわち、リニアソレノイドバルブ94またはシーブ制御弁83が正常であり、かつ、所定条件が成立したか否かを判断し(ステップS1)、ステップS1で肯定的に判断された場合は、第2の動作ポジションを選択し(ステップS2)、図3の制御ルーチンを終了する。これに対して、ステップS1で否定的に判断された場合は、第1の動作ポジションを選択し(ステップS3)、図3の制御ルーチンを終了する。
なお、この実施例において、ソレノイドバルブ137としては、信号圧が高低2段階に切り替えられる特性のオン・オフソレノイドバルブ、信号圧を無段階に調整可能なリニアソレノイドバルブのいずれを用いてもよい。さらに、この実施例は、プライマリプーリの油圧室の油圧を制御する構成の油圧制御装置にも適用可能である。また、セカンダリプーリの油圧室の油圧、またはセカンダリプーリの油圧室のオイル量を制御する構成の油圧制御装置にも適用可能である。さらに、プライマリプーリで、主として変速比を制御し、セカンダリプーリで、主としてトルク容量を制御する構成のベルト式無段変速機の他に、プライマリプーリで、主としてトルク容量を制御し、セカンダリプーリで、主として変速比を制御する構成のベルト式無段変速機にも、この実施例を適用可能である。さらに、ドライブポジションからリバースポジションに切り換えられた場合を例として説明しているが、ローポジションが選択され、かつ、所定車速以上で前進走行中に所定条件が不成立と判断されるように、制御プログラムを構成するとともに、ローポジションからリバースポジションに切り替えられた場合に、後進用ブレーキ23が係合されないように、マニュアルバルブを構成することも可能である。さらにまた、絞り部132,136は、オリフィスまたはチョークのいずれでもよい。
この実施例の構成と、各請求項の発明の構成との対応関係を説明すれば、リニアソレノイドバルブ94およびシーブ制御弁83が、この発明のオイル装置および変速制御弁に相当し、油圧室112,169が、この発明の制御油圧室に相当し、切替弁113が、この発明の中継装置に相当し、ベルト式無段変速機4が、この発明の無段変速機に相当し、電子制御装置34が、この発明のモード選択装置に相当する。
また、油路110,134,135,138が、この発明の潤滑油路に相当し、油圧室141が、この発明の後進用油圧室に相当し、出力ポート126およびドレーンポート129が、この発明の排出油路に相当し、ドライブポジションおよびローポジションが、この発明の前進ポジションに相当し、リバースポジションが、この発明の後退ポジションに相当し、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25が、この発明の複数のプーリに相当し、プライマリプーリ24が、この発明の所定のプーリに相当し、可動シーブ53が、この発明の可動部材に相当し、切替弁113のスプール114を第1の動作ポジションに制御することが、この発明の第1の制御モードに相当する。
さらに、切替弁113のスプール114を第2の動作ポジションに制御することが、この発明の第2のモードに相当し、オイル量およびオイルの油圧などが、この発明のオイルの状態に相当し、油路130および入力ポート121と、油路131および入力ポート120とが、この発明の「選択的に開放または遮断される複数の油路」の一例に相当し、油路134および入力ポート122と、油路135および入力ポート123とが、この発明の「選択的に開放または遮断される複数の油路」の他の例に相当し、ベルト式無段変速機4の変速比およびトルク容量が、この発明の無段変速機の動力伝達状態に相当し、リニアソレノイドバルブ94のフェールまたはシーブ制御弁83のフェールが、この発明の「オイル装置の機能が低下」に相当する。
さらに、図1および図3においては、無段変速機としてベルト式無段変速機4が示されているが、他の無段変速機、例えば、トロイダル式無段変速機を有する車両に、この実施例を適用することも可能である。このトロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、各ディスクに対して接触するパワーローラとを有する変速機である。各ディスクとパワーローラとの接触面には潤滑油が存在する。そして、パワーローラを移動させて、パワーローラと各ディスクとの接触半径を調整することにより、入力ディスクと出力ディスクとの間の変速比が制御される。また、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整することにより、無段変速機のトルク容量が制御される。そして、パワーローラを移動させる油圧室のオイルの状態、つまりオイル量および油圧などを、油圧制御装置により制御することにより、無段変速機の変速比が制御される。この実施例を、トロイダル式無段変速機に適用する場合、パワーローラを移動させる油圧室のオイルの状態(オイル量、油圧)を、オイル装置(変速制御弁)および中継装置(切替弁)により制御する構成となる。
この実施例に記載された第1の特徴的な構成は、無段変速機と、この無段変速機における動力伝達状態を制御する制御油圧室と、この制御油圧室との間でオイルの供給および排出をおこなうオイル装置と、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイルの状態を制御する中継装置とを有する無段変速機の油圧制御装置において、前記中継装置を制御するモードとして、前記オイル装置の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、前記オイル装置の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの供給状態が異なる第2の制御モードとを選択的に切り替え可能であり、前記オイル装置の機能が正常である場合に、所定条件が成立するか否かを判断する状況判断装置と、状況判断装置の判断結果に基づいて、第1の制御モードまたは第2の制御モードを選択するモード選択装置とを有する。ここで、電子制御装置34が、状況判断装置およびモード判断装置に相当する。
第2の特徴的な構成は、無段変速機と、この無段変速機における動力伝達状態を制御する制御油圧室と、この制御油圧室との間でオイルの供給および排出をおこなうオイル装置と、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイルの状態を制御する中継装置とを有する無段変速機の油圧制御装置において、前記中継装置は、前記オイル装置の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、前記オイル装置の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの供給状態が異なる第2の制御モードとを選択的に切り替え可能であり、前記オイル装置の機能が正常である場合に、所定条件が成立するか否かを判断する状況判断手段(図3のステップS1)と、状況判断手段の判断結果に基づいて、第1の制御モードまたは第2の制御モードを選択するモード選択手段(図3のステップS1,S2)とを有する。
さらに、この実施例に記載された第3の特徴的な構成は、無段変速機と、この無段変速機における動力伝達状態を制御する制御油圧室と、この制御油圧室との間でオイルの供給および排出をおこなうオイル装置と、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイルの状態を制御する中継装置とを有する無段変速機の油圧制御方法において、前記中継装置は、前記オイル装置の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、前記オイル装置の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの供給状態が異なる第2の制御モードとを選択的に切り替え可能であり、前記オイル装置の機能が正常である場合に、所定条件が成立するか否かを判断する状況判断ステップ(図3のステップS1)と、状況判断ステップの判断結果に基づいて、第1の制御モードまたは第2の制御モードを選択するモード選択ステップ(図3のステップS1,S2)とを有する。
4…ベルト式無段変速機、 8…前後進切換装置、 24…プライマリプーリ、 25…セカンダリプーリ、 28…ベルト、 34…電子制御装置、 53,56…可動シーブ、 59…油圧制御装置、 94…リニアソレノイドバルブ、 110,111,133,134,135,138…油路、 113…切替弁、 126…出力ポート、 129…ドレーンポート、 139…潤滑系統、 141,154…油圧室、 Ve…車両。
Claims (6)
- 無段変速機と、この無段変速機における動力伝達状態を制御する制御油圧室と、この制御油圧室との間でオイルの供給および排出をおこなうオイル装置と、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイルの状態を制御する中継装置とを有する無段変速機の油圧制御装置において、
前記中継装置を制御するモードとして、前記オイル装置の機能が正常である場合に選択される第1の制御モードと、前記オイル装置の機能が低下した場合に選択され、第1の制御モードが選択された場合とは、オイルの状態が異なる第2の制御モードとを有し、
前記オイル装置の機能が正常であっても、所定条件が成立した場合は、前記第2の制御モードを選択するモード選択装置を備えていることを特徴とする無段変速機の油圧制御装置。 - 前記中継装置は、前記第1の制御モードが選択された場合に、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイル量よりも、前記第2の制御モードが選択された場合に、前記制御油圧室とオイル装置との間で流通するオイル量の方が少なくなる油路を備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の油圧制御装置。
- 前記中継装置は、前記第1の制御モードと第2の制御モードとの切り替えにともない、潤滑系統に供給されるオイル量が変化し、かつ、前記第2の制御モードが選択された場合に前記潤滑系統に供給されるオイル量の方が、前記第1の制御モードが選択された場合に前記潤滑系統に供給されるオイル量よりも多くなる潤滑油路を有しており、前記所定条件が成立する場合には、前記潤滑系統におけるオイルの必要量が所定値以上である場合が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機の油圧制御装置。
- 前記所定条件が成立する場合には、車両が所定車速以上で走行すること、または、前記無段変速機の変速比の変更要求程度が所定値以下であること、または、前記オイルの温度が所定温度以上であることのうち、少なくとも1つの事項が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機の油圧制御装置。
- 車両を前進させる向きの駆動力と、車両を後退させる向きの駆動力とを選択的に切換可能な前後進切換装置が設けられ、この前後進切換装置は、車両を後退させる向きの駆動力を生じさせる場合に油圧が高められる後進用油圧室を有しており、
前記中継装置は、前記第2の制御モードが選択された場合に連通され、かつ、前記後進用油圧室からオイルを排出する排出油路を有しており、
前記所定条件が成立する場合には、前記前進ポジションが選択され、かつ、車両が所定車速以上で前進走行している場合に、前記後退ポジションが選択された場合が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機の油圧制御装置。 - 前記無段変速機は、複数のプーリと、複数のプーリに巻き掛けられたベルトと、所定のプーリに設けられ、かつ、前記制御油圧室のオイル量に基づいて動作し、前記無段変速機の変速比を制御する可動部材とを有し、
前記オイル装置には、前記制御油圧室に供給されるオイル量、および前記制御油圧室から排出されるオイル量を制御する変速制御弁が含まれており、
前記中継装置には、前記第1の制御モードまたは第2の制御モードの切り替えに基づいて、複数の油路を選択的に開放または遮断することにより、オイルの状態を制御する切替弁が含まれることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無段変速機の油圧制御装置。
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JP2003377451A JP2005140243A (ja) | 2003-11-06 | 2003-11-06 | 無段変速機の油圧制御装置 |
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-
2003
- 2003-11-06 JP JP2003377451A patent/JP2005140243A/ja active Pending
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