(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の浮上移動装置について、図1〜図12を用いて説明する。
なお、本発明における浮上移動装置については、後述する駆動部および制御部等の具体的な機能実現手段には様々な構成が考えられる。しかしながら、所定の環境の中で浮上移動装置の羽の運動を適切に制御できるのであれば、駆動部および制御部の詳細な構成はいかなるものであってもよい。そのため、駆動部および制御部などの各構成要素については、その機能のみを記述する。
なお、本実施の形態に述べる基準羽ばたき方と羽の形状とには密接な関係がある。しかしながら、この関係の一意的な解を求めることは容易ではない。本実施の形態においては、前述の関係を簡便に説明したい。そこで、流体・構造連成シミュレーションの結果に基づいて、実施の形態の浮上移動装置の特徴を説明する。
この流体・構造連成シミュレーションでは、羽ばたき浮上移動装置の羽として昆虫の一例のアキアカネの羽と等価な工学モデルが用いられるとともに、基準羽ばたき方としてアキアカネのホバリングにおける羽ばたき方が用いられる。しかしながら、羽ばたき浮上移動装置の羽の構成および羽ばたき方は、昆虫のそれに限定されるわけではない。たとえば、平板で構成された羽とこの平板の羽ばたき動作によってホバリングが可能な羽ばたき方とを浮上移動装置の羽ばたき飛行のシミュレーションに用いてもよい。
(全体の構成)
本実施の形態における浮上移動装置90の構成とその機能を図2に基づいて説明する。本実施の形態の浮上移動装置90は、胴体部908に、制御部901、指示受信部902、センサー部903、および駆動部905が内装されている。また、駆動部905には羽904が接続されている。羽904は駆動部905により駆動される。指示受信部902は、外部から指示信号を受信して、制御部901に送信する。制御部901は、指示信号に基づいて駆動部905の動作を制御する。
次に、図3を用いて、本実施の形態の浮上移動装置90に設けられた羽904について説明する。
羽904は、アキアカネの羽と同等の形状および剛性分布を有するように、四辺形シェル要素ごとにモデリングされている。また、羽904は、シェル構造であり、そのヤング率が0.354GPaであり、その厚み分布が図3に示すようなものになる。なお、図3に示す羽の点P0,P1,およびP2のそれぞれの位置と時間との関係が、図4および図5に示されている。
定常的なホバリングの際には、駆動部905は、羽904における点P1および点P2のそれぞれが、点P0を基準として、図4および図5に示すグラフにおいて時系列的に示される座標値に対応する位置をとるように、羽904を駆動する。なお、この図4および図5に示された基準羽ばたき方を実現するために、基準羽ばたき方に対応した態様で駆動部905を駆動するための信号が制御部901内に格納されているものとする。この信号は、パルスウィドスモデュレーションのデューティ比を特定するデータである。パルスワイドモデュレーションのデューティ比の制御の具体的手法については、実施の形態2の中で説明するため、ここでは、その詳細を説明しない
この羽904の運動は、実際に羽904のモデルとなるデータを採取したアキアカネがホバリングしている際の羽の運動に相当する運動である。
なお、点P1および点P2のそれぞれは、胴体908に対する相対的な位置関係が拘束されていない。また、点P0は、回転運動のみ自由であるリンクによって駆動部905に接続されており、胴体908に対する相対的な位置関係は固定されている。
なお、本実施の形態では、定常的なホバリング時の羽部904の動作、すなわち羽ばたき方を基準羽ばたき方と呼ぶ。この基準羽ばたき方を特定可能なデータは固定記憶装置906に格納されている。
指示受信部902では浮上移動装置90の目標とする羽ばたき飛行の態様(位置および姿勢のいずれもを含む)を指示する指示信号Xが受信される。センサー部903では、たとえば、姿勢および位置というような、現在の浮上移動装置90の状態の情報Xdが得られる。固定記憶装置906および一時記憶装置907には、基準羽ばたき方のデータF、ならびに、基準羽ばたき方のデータFを変更するために用いられる感度のデータAmおよび関数のデータMが格納されている。
制御部901は、前述の指示信号X、情報Xd、データAm、およびデータMを用いて、羽部904の駆動態様を決定する。その後、制御部901は、駆動部905に決定された駆動態様を実現する駆動信号を送信する。その駆動信号により特定される態様で、羽904が駆動する。羽904は、自身の駆動により、周囲の空気から反作用を受ける。この反作用が駆動部905に伝達される。その結果、駆動部905に固定された胴体908が浮上する。
(羽ばたき方制御フロー)
具体的な羽ばたき浮上移動制御の実現手法を、図1を用いて説明する。なお、図1に制御手法は一例であり、同様の目的を達成できる手法であれば、浮上移動装置の羽ばたき方を制御する手法として、他の手法を用いてもよい。また、本実施の形態では、指示受信部902が受信する指示信号Xは、その指示信号Xのみを用いて、浮上移動装置90が連続して羽ばたき動作を実現することができる程度の間隔で受信される信号であるものとする。
しかしながら、実際には、目標とする位置のみを特定する指示信号Xが指示受信部902において受信され、その位置に至るまでに浮上移動装置90がたどる経路および浮上移動装置90の加速度などの運動パラメータの履歴を制御部901が算出する手法が用いられてもよい。この場合、制御部901により算出された運動パラメータの履歴が、指示受信部902において受信された指示信号Xにより特定される目標とする羽ばたき飛行の態様であると読み替えられる。
以下、指示受信部902より受信された、目的とする状態(位置、姿勢、速度、角速度、加速度、角加速度等)を特定する指示信号をXdとする。センサー部903で得られた浮上移動装置90の現時点での運動状態(羽ばたき飛行の態様)を特定する情報をXとする。基準羽ばたき方を特定するデータFの変更の態様を特定するアルゴリズムの一例の関数のデータをMとする。関数のデータMによって基準羽ばたき方のデータFを変更した場合に、その変更によって浮上移動装置90の羽ばたき飛行の態様がどの程度変化するかを特定するために、感度のデータAmが用いられる。この場合の感度とは、羽ばたき方の変更量(たとえば、羽ばたき周波数の変更量)に対する浮上移動装置90の羽ばたき飛行の態様の変化量(たとえば、浮上移動装置90の位置の変化量)の度合を示すものである。言いかえれば、感度とは、羽ばたき方の1単位あたりの変更量に対する羽ばたき飛行態様の変化量である。なお、基準羽ばたき方のデータF、関数のデータM、および感度のデータAmは、固定記憶装置906に格納されている。これらの組み合わせについては後述する。
また、基準羽ばたき方の変換量を表すパラメータ(羽ばたき周波数の変更量=アクチュエータ駆動周波数の変更量) をCとする。本実施の形態では、制御部901は、指示受信部902より得られた指示信号Xdと、センサー部903より得られた情報Xとを用いて、パラメータCを次式(1)により算出する。
C=(Xd−X)/Am (1)
さらに、制御部90は、算出されたパラメータCおよび関数のデータMを用いて、固定記憶装置906に格納されている基準羽ばたき方のデータFに変換を加える。それにより、アクチュエータの駆動態様がデータM(C)・Fとして算出される。この算出されたアクチュエータの駆動態様のデータM(C)・Fを用いて、制御部90はアクチュエータ905を駆動する。このとき、C×Amにより算出された羽ばたき方の変更量を特定するために用いられる値(Xd−X)が現状の羽ばたき方を特定する情報Xに加えられるように、制御部90はアクチュエータ905を駆動する。これにより、現状の羽ばたき方の情報Xは、Xd(=X+(Xd−X))となる。つまり、制御部90は、浮上移動装置90が、指示受信部902で受信された指示信号Xdに対応する羽ばたき飛行態様になるように、羽904を駆動させる制御を実行する。
なお、図1(a)に制御の手法を説明するためのブロック図が示され、図1(b)に信号の流れを説明するためフローチャートが示されている。
(羽ばたき方制御)
本実施の形態においては、上記基準羽ばたき方に必要最低限の変換を加えることで羽ばたき方の変更を行ない、これにより羽ばたき飛行の態様を制御する。この制御の手法を、流体・構造連成解析を用いた物理シミュレーションを用いて説明する。シミュレーションに用いられた羽の構造を特定するためのメッシュの外形線を図6に示す。
なお、浮上移動装置90の胴体908等、すなわち羽904を除く部分は、質量が237mgであり、かつ、回転慣性モーメントが0.000118N・mである剛体である。なお、図6に示されるように、本シミュレーションにおいては、説明を簡単にするために、浮上移動装置90が左右対称であると仮定している。したがって、浮上移動装置90の左右いずれか一方を特定するハーフモデルを用いて、前述の解析を行っている。
そのため、本シミュレーションによって得られる結果は、左右対称な運動である。左右対称な運動は、上下方向における並進運動、前後方向における並進運動、および左右方向に延びる仮想軸を回転軸とする回転運動のみによって得られる運動であり、自由度が3の運動を意味する。しかしながら、左右の羽それぞれを別個独立して制御可能なフルモデルを用いる場合には、3以上の自由度を有する運動について解析することも可能である。また、左右対称な運動については、フルモデルを用いた解析結果とハーフモデルを用いた解析結果とに相違点は生じない。そのため、ハーフモデルを用いてシミュレーションが行なわれることは、左右対称な運動の制御についての解析結果に影響を与えない。
また、以下においては、ホバリング状態から他の羽ばたき方へ変化するための制御手法が述べられている。なお、ホバリング状態以外の所定の羽ばたき方から特定の羽ばたき方へ変化するときも、基本的には、ホバリング状態から他の羽ばたき方へ変化するため制御手法と同様の制御手法を用いることができる。
(上下方向の位置制御)
まず、上下方向の制御について、図4、図5、および図7を用いて説明する。なお、上下方向とは地表面に対してほぼ垂直な方向を意味するものとする。上下方向の制御においては、情報Xおよび指示信号Xdのそれぞれは、浮上移動装置90の上下方向の位置を特定するものであるとする。また、関数のデータMは、図4および図5における時間軸を拡大または縮小するためのものであり、パラメータCは、縮小率(%)を特定するパラメータであるとする。たとえば、C=50なら、図4および図5における時間軸の目盛りを1.5で割った目盛を用いて特定される羽ばたき方が、変換された新たな羽ばたき方として採用される。
本実施の形態においては、図4および図5において羽ばたき周波数が1.5倍になることを実現するには、時間軸というパラメータ1つを変更しさえすればよい前述の手法を採用する。しかしながら、データ加工の手間が問題にならないのであれば、図4および図5におけるx,y,zのデータそのものを変更する手法を用いてもよい。
本実施の形態においては、感度のデータAmは、羽ばたき動作1周期当たり1%羽ばたき周波数を増加させたときの浮上移動装置90の上下方向の位置の変化量を示すデータである。本発明者らの実験によると、
Am=0.0184[mm/(1周期・1%の羽ばたき周波数の増加)]
である。
一例として、羽ばたき周波数を変更する前の羽の羽ばたき周期が23.5msecである場合を考える。この場合、たとえば、40msecつまり40/23.5≒1.7(周期)の間に、浮上移動装置90を0.2mmだけ上昇させるとき、すなわち、Xd−X=0.2/1.7=0.1176(mm/1周期)であるとき、C=(Xd−X)/Am=0.1176/0.0184=6.393(%)だけ、羽ばたき周波数が増加する。つまり、(周波数)=1/(周期)であるため、図4および図5における時間軸を変更すると、新たな羽ばたき周期は、23.5×(1−C/100)=22(msec)となる。
このように、羽ばたき周波数を23.5msecから22msecに変更したときの解析結果として、時間と羽の仰角との関係を図7に示す。なお、羽ばたき周波数の変更は、図4および図5のt=0.13secの時点に行なわれている。図7(a)は、浮上移動装置の位置の変化の様子の一例として、前後方向の位置の変化および上下方向の位置の変化の様子を示している。図7(b)は、浮上移動装置の姿勢の変化の態様の一例として、羽の仰角の時刻歴を示している。なお、仰角は、機首を機尾に対して上側にあるときの、水平面と機首と機尾とを結ぶ線とのなす角を正の値で示すものとする。
図4および図5のt=0.17secにおいて、羽ばたき周期23.5msecの場合の上下方向の位置は、図7(a)に示されるように、−0.00534mであり、羽ばたき周期22msecの場合の上下方向位置は、−0.00513mである。したがって、浮上移動装置90は、羽ばたき動作の周期が22msecの場合の上下方向の位置が、羽ばたき動作の周期が23.5msecの場合の上下方向の位置に比較して、ほぼ0.2mm上昇している。
以上のように、浮上移動装置90は、固定記憶装置906に格納されている感度Amを用いて算出されたパラメータCを用いて、現在の羽ばたき周波数に変更を加えることができる。より具体的には、制御部901が、関数Mを用いて、図4および図5に示される羽の基本羽ばたき方データFの時間軸を拡大または縮小する。それにより、浮上移動装置90の上下方向の制御が実現される。
(前後方向の位置制御)
次に、前後方向における制御について、図4、図5、図8、および図9を用いて説明する。なお、前後方向とは、地表面に対してほぼ平行な面において、左右のアクチュエータを結ぶ線に対してほぼ垂直な方向である。
前後方向における制御においては、情報Xおよび指示信号Xdのそれぞれは、浮上移動装置90の前後方向の位置を特定するものであるとする。また、関数のデータMは、図4および図5における、羽の打ち上げ動作および打ち下ろし動作のそれぞれの時間軸を拡大または縮小するためのものである。パラメータCは、打ち上げ動作における時間軸の縮小率(%)および打ち下ろし動作における時間軸の拡大率(%)を特定するためのパラメータである。たとえば、C=−5なら、打ち上げ動作区間については、図4および図5における時間軸の目盛を0.95で割った目盛を用いた羽ばたき方が採用され、打ち下ろし動作区間については、図4および図5における時間軸の目盛に0.95を掛けた目盛を用いた羽ばたき方が、変換後の新たな羽ばたき方として採用される。すなわち、打ち下ろし区間においては、図4および図5に示すグラフの時間軸のみを(1+C/100)倍したときに得られるグラフにより表現された羽ばたき方が、変換後の新たな羽ばたき方として採用され、打ち上げ区間においては、図4および図5に示すグラフの時間軸のみを1/(1+C/100)倍したときに得られるグラフにより表現された羽ばたき方が、変換後の新たな羽ばたき方として採用される。
前述の手法は、図4および図5において、打ち上げまたは打ち下ろしという1サイクルの一部の期間のみの羽ばたき動作の変更を行なうために、時間軸というパラメータ1つを変更すればよいため、データの処理が簡単である。しかしながら、データの処理が複雑になることが特に問題にならないのであれば、図4および図5におけるx,y,zのデータそのものを変更する手法を用いてもよい。また、変換によって浮上移動装置1に大きな加速度が発生してしまうことを防止するため、図4および図5における時間軸の拡大または縮小は、図8に示す曲線がなめらかに変化するように行なわれることが望ましい。
本実施の形態では、感度のデータAmは、羽ばたき動作の1周期当たり、打ち上げまたは打ち下ろしの際の羽ばたき動作の速度を1%変更したときの前後方向の位置の変化量を示すデータである。本発明者らの実験によると、
Am=0.1227[mm/(1周期・1%の打ち上げまたは打ち下ろし羽ばたき動作の速度の変更量)]
である。
一例として、変更前の羽ばたき周期が23.5msecである場合を考える。この場合において、30msecつまり30/23.5≒1.28(周期)の間に、浮上移動装置90が0.4mmだけ後退する場合、すなわち、Xd−X=−0.4/1.28=−0.313[mm/(周期)]である場合には、羽ばたき動作の速度の変更量は、C=(Xd−X)/Am=−0.313/0.1227=−2.55(%)となる。
したがって、制御部901は、打ち上げ時には、図4および図5における時間軸の目盛を0.9745で割った目盛を用いた羽ばたき方となるように基本羽ばたきのデータFを変更する。また、制御部901は、打ち下ろし時には、図4および図5における時間軸の目盛が0.9745倍された目盛を用いた羽ばたき方となるように、基本羽ばたき方のデータFを変更する。さらに、制御部901は、前述の基本羽ばたき方が変更された新たな羽ばたき方を実行するように羽部904を駆動する。
前述の新たな羽ばたき方においては、図8に示すように、打ち上げ時には羽ばたき周波数が24.1msecであり、打ち下ろし時には羽ばたき周波数が22.9msecである。
前述の条件でシミュレーションを行った場合の結果を図9に示す。なお、羽ばたき周波数の変更は、図4および図5に示すt=0.06secの時点において行なわれている。図9(a)は、浮上移動装置の位置の変化の様子の一例として、前後方向の位置の変化の様子および上下方向の位置の変化の様子を示している。図9(b)は、浮上移動装置の姿勢の変化の態様として、浮上移動装置90の仰角の時刻歴を示している。なお、仰角は、機首を機尾に対して上側にするときの、水平面と機首と機尾とを結ぶ線のなす角を正の値で示すものとする。
図4および図5に示すt=0.09secの時点において、上記基準羽ばたき方に変換を加えなかった場合の前後方向の位置は、図9(a)に示されるように、0.0026mである。一方、基準羽ばたき方に変換を加えた場合の前後方向の位置は、0.003mである。したがって、羽ばたき方の変更後の浮上移動装置90の前後方向の位置は、羽ばたき方の変更前の前後方向の位置よりも、ほぼ0.4mmの後退している。
以上のように、浮上移動装置90は、固定記憶装置906に格納されている感度のデータAmを用いて算出された羽ばたき方の変換量のパラメータCを用いて、打ち上げの区間と打ち下ろしの区間とのそれぞれにおいて別個に、現在の羽ばたき周波数に変更を加える。より具体的には、制御部901が、関数のデータMを用いて、図4および図5に示される基本羽ばたき方のデータFの時間軸を、打ち上げの区間と打ち下ろしの区間とのそれぞれにおいて別個に拡大または縮小する。それにより、浮上移動装置90の前後方向の位置の制御が実現される。
(仰角制御)
続いて、姿勢制御のうち、本実施の形態におけるシミュレーションで検証可能な仰角の制御について、図4、図5、図8、図9、および図10を用いて説明する。
仰角の制御においては、情報Xおよび指示信号Xdのそれぞれは、浮上移動装置90の機首と機尾とを結ぶ線と水平面とのなす角度であるものとする。
関数のデータMは、羽の打ち上げ動作および打ち下ろし動作のそれぞれにおける、図4および図5に示す時間軸の拡大または縮小の態様を示すものである。また、パラメータCは、打ち上げ動作における時間軸の縮小率(%)であり、かつ、打ち下ろし動作における時間軸の拡大率(%)を意味するものとする。
例えば、C=−5なら、打ち上げ動作の区間については、図4および図5における時間軸の目盛りを0.95で割った目盛を用いた羽ばたき方が変更後の羽ばたき方として採用される。また、C=−5なら、打ち下ろし動作の区間については、図4および図5における時間軸の目盛りに0.95を掛けた目盛を用いた羽ばたき方が、変更後の新たな羽ばたき方として採用される。すなわち、打ち下ろし区間においては、図4および図5に示すグラフの時間軸のみを(1+C/100)倍したときに得られるグラフにより表現された羽ばたき方が、変換後の新たな羽ばたき方として採用され、打ち上げ区間においては、図4および図5に示すグラフの時間軸のみを1/(1+C/100)倍したときに得られるグラフにより表現された羽ばたき方が、変換後の新たな羽ばたき方として採用される。
なお、前述の手法は、図4および図5において羽ばたき周波数を変更するために、時間軸という1つのパラメータのみを変更すればよいため、簡便な手法である。しかしながら、データの処理の手間が問題にならないのであれば、図4および図5におけるx,y,zのデータそのものを変更する手法を用いることが可能である。
また、実際には、図4および図5に示す基本羽ばたき方のデータの時間軸の拡大または縮小は、羽ばたき方の変更に起因して大きな加速度が浮上移動装置90に生じることを避けるため、図8に示す曲線がなめらかなるように行なわれることが望ましい。
本実施の形態においては、感度のデータAmは、羽ばたき1周期当たり打ち上げまたは打ち下ろしの際の羽ばたき周波数を1%変更したときの仰角の変化量のデータである。本発明者らの実験によると、
Am=0.6136[角度/(1周期・1%の打ち上げまたは打ち下ろしの動作の速度の変更量)]
である。
変更前の羽ばたき周期が23.5msecである場合を考える。この場合において、30msecつまり、30/23.5≒1.28(周期)の間に、2度仰角を増加させたい場合には、すなわち、Xd−X=2/1.28=1.5625(度/周期) である場合には、羽ばたき動作の速度の変更量は、C=(Xd−X)/Am=1.5625/0.6136=−2.55(%)となる。
その後、制御部901は、打ち上げ時には、図4および図5における時間軸の目盛を0.9745で割った目盛を用いた羽ばたき方を採用する。また、打ち下ろし時には、図4および図5における時間軸を0.9745倍した目盛を用いた羽ばたき方が採用される。その後、制御部901は、採用された羽ばたき方を特定可能な信号を駆動部905に送信し、駆動部905は、その信号を用いて羽部904を駆動する。
この羽ばたき方は、図8に示すように、打ち上げ時に羽ばたき周波数(動作速度)を24.1msecにするとともに、打ち下ろし時に羽ばたき周波数(動作速度)を22.9msecにした羽ばたき方と等価である。
この条件でのシミュレーション結果を図9に示す。なお、羽ばたき周波数(動作速度)の変更はt=0.06secにて行なわれている。図9(a)は、前後方向および上下方向を含む平面内における浮上移動装置90の位置を変化の様子を示しており、図9(b)は、浮上移動装置90の姿勢の変化の様子を仰角の時刻歴を用いて示している。なお、仰角は、機首が機尾に対して上側にあるときの水平面と機首と機尾とを結ぶ線のなす角を正の値とする。
t=0.09secにて、基準羽ばたき方に変換を加えなかった場合の仰角は、図9(b)に示されるように、−2.1度である。基準羽ばたき方に変換を加えた場合の浮上移動装置90の仰角は、−0.1度である。したがって、変換後の浮上移動装置90は、変換後の浮上移動装置90に比較して、ほぼ2.0度だけ仰角を増加している。
以上のように、固定記憶装置906に格納されている感度のデータAmより算出された変換量のパラメータCと関数のデータMとを用いて、打ち上げの区間と打ち下ろしの区間とのそれぞれにおいて別個に、羽ばたき方の変更を行なっている。より具体的には、制御部901は、固定記憶装置906に格納されている、図4および図5に示される羽の運動における時間軸のデータを、打ち上げ時に縮小し、かつ打ち下ろし時に拡大するという、羽ばたき方の変更を関数のデータMを用いて行っている。そのため、浮上移動装置90は、仰角の制御を簡便に実現することができる。
また、他の例として、重心の位置を変化させることによって、浮上移動装置90の仰角を制御する手法を説明する。
浮上移動装置90の重心の位置を、前後に1mmずつずらしたときのシミュレーション結果を図10に示す。図10(a)は、浮上移動装置90の前後方向および上下方向を含む平面内での位置の変化の様子を示しており、図10(b)は、浮上移動装置90の姿勢の変化の態様を仰角の時刻歴によって示している。なお、仰角は、機首が機尾に対して上側にあるときの水平面と機首と機尾とを結ぶ線とのなす角を正の値とする。
図10(a)に示すように、羽ばたき浮上装置90の重心の位置が変化しても、浮上移動装置90の位置は大きく変化することはないが、図10(b)に示すように、重心の位置が変化することによって、浮上移動装置90の姿勢が大きく変化する。その結果、浮上移動装置90は、姿勢の変化によって位置の変化が生じることが分かる。すなわち、重心の位置の変更そのものによって直接的に浮上移動装置90の位置は変化しないが、重心の位置の変更に起因して姿勢が変化するため、間接的に浮上移動装置90の位置が変化する。
以上より、基準羽ばたき方のままの状態で、重心の位置をずらすことにより浮上移動装置の姿勢の制御を行なうことが可能であることが分かる。これにより、重心の位置の変更によって、姿勢の変更を行なうことができることが分かる。たとえば、重心の位置を前方に移動すると、機首が機尾に対して下がる。また、重心の位置を後方に移動すると、機首が機尾に対して上がる。
(回転変換による位置および姿勢の制御)
図11(b)に示されているホバリング時の羽ばたき動作のストローク面を、図11(a)に示されているストローク面のように変更する。この羽ばたき方の変更は、浮上移動装置90の機首を機尾に対して上げるように、浮上移動装置90の左右方向に延びるx軸を回転軸とする回転変換を徐々に加えたものである。このときの浮上移動装置90の位置と姿勢の変化の様子を図12に示す。
図12(a)から、水平面とストローク面とのなす角が10度になることによって、浮上移動装置90は後方に移動することが分かる。また、図12(b)から、水平面とストローク面とのなす角が10度になることに起因して、機首が機尾に対して上方に位置するように浮上移動装置90の姿勢が変化していることが分かる。
以上より、基準羽ばたき方のストロークの回転変換を行なうことにより、浮上移動装置の姿勢および位置の制御を行なうことができることが分かる。
また、ストローク面の法線ベクトルを前方側に傾けることによって、浮上移動装置90は前方に移動することができる。この際、機首は機尾に対して下方に位置する。また、ストローク面の法線ベクトルを後方に傾けることによって、浮上移動装置は後方に移動することができる。この際、機首は機尾に対して上方に位置する。
(補足事項)
また、変形する羽の挙動を妥当に表現できるものであれば、流体・構造連成解析の手法は、本実施の形態のものに限定されるされず、いかなるものであってもよい。
また、実験的手法も、本実施の形態のものに限定されず、羽の剛性分布に異方性が設けられるなどの変更が加えられる手法が用いられていてもよい。この場合、拡大模型を用いてもよい。拡大模型を用いる場合であっても、羽の変形の態様が元の模型の羽の変形の態様と同一であれば、本発明により得られる効果と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態においては、浮上移動装置90の構成要素としては、外部からの指示情報に基づき自律的に移動するための最低限の抽象化されたものが示されている。つまり、本実施の形態においては、浮上移動装置90は、胴体908、制御部901、指示受信部902、センサー部903、駆動部905、および羽904が設けられている。しかしながら、浮上移動装置90は、要求される機能によっては、前述の構成要素以外のものが設けられていてもよいとともに、前述の構成要素のうち必要でないものは設けられていなくてもよい。たとえば、外部からの指示を必要としない場合には、指示受信部902は必要ではない。また、センサフィードバック制御を実行しないのであれば、センサー部903は必要ではない。
また、本実施の形態においては、基準羽ばたき方のデータは、固定記憶装置906に予め記憶されているものであるため、基準羽ばたき方は常に同じものである。しかしながら、基準羽ばたき方は、常に同じものである必要はない。
また、次のような手法を用いてもよい。まず、複数の羽ばたき方の一つを基準羽ばたき方として選択し、基準羽ばたき方とその他の羽ばたき方との差を羽ばたき方の変換量として算出し、一時記憶装置907に格納する。この格納された羽ばたき方の変換量を用いて現在の羽ばたき方を変更した後の時点での浮上移動装置90の運動の態様と、目標とする浮上移動装置90の運動の態様との間に現実に差分が生じている場合がある。この場合、前述の羽ばたき方の変換量を拡大または縮小するというように、羽ばたき方の変換量を、羽ばたき浮上移動装置90の実際の状態に合わせて補正することによって、新たなアクチュエータの駆動量を求める。この手法によっても、前述の手法と同様の効果を得ることができる。
また、制御部901が学習機能を有している場合には、固定記憶手段906に浮上移動装置90の製造当初から記憶されている基準羽ばたきのデータのみならず、学習の結果、前述したような羽ばたき方の変更手法を用いて、上記基準羽ばたき方をより適切な羽ばたき方に近づけていくことができる。
本実施の形態では左右対称モデルについてのみ解析を行ったため、左右対称の運動のみが実現されている。しかしながら、左右の羽のそれぞれについて独立した解析を行なうことも可能である。たとえば、右羽が前方へ移動し、左羽が後方へ移動すれば、浮上移動装置90は左旋回することが可能になる。これらの制御においても、制御部901により算出された羽ばたき方の変更量を、基準羽ばたき方に加えることにより、前述の羽ばたき方の変更により得られる効果と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態においては、前述のような実施の形態1の浮上移動装置90が行なう羽ばたき方の変更の制御を実現することが可能な浮上移動装置を、図13〜図27を用いてより具体的に説明する。なお、本実施の形態において実施の形態1と同じ符号が付された構成および同じ名称が付されている構成は、実施の形態1において説明した機能と同じ機能を有している。また、本実施の形態の浮上移動装置は、実施の形態1の浮上移動装置の羽ばたき方の変換の手法の概念がそのまま適用される。また、実施の形態1に記載された浮上移動装置の構成のうち、本実施の形態に記載されていない構成および機能についても、本実施の形態の羽ばたき浮上移動装置は備えているものとする。なお、本実施の形態においては、実施の形態1における浮上移動装置90を、浮上移動装置1と称する。
(全体の構成)
まず、本実施の形態の浮上移動装置の全体の主要な構成について、図13および図14を用いて説明する。なお、本実施の形態の浮上移動装置では、特に断らない限り、説明の簡便のため、羽および羽を駆動する主要な部分は左右対称に構成されているものとする。したがって、以後においては、浮上移動装置の左半分の構成要素についてのみ説明を行ない、左半分に対して面対称である構成要素が、浮上移動装置の右半分の構成要素として設けられているものとする。ただし、これは説明の簡便のためであり、本発明の浮上移動装置においては、左右対称であることは、必要な条件ではない。たとえば、当該構成要素が3組以上設けられた構成、または、当該構成要素が1組のみ用いられた構成であっても本発明の浮上移動装置として用いることは可能である。
本実施の形態の浮上移動装置1は、図13および図14に示すように、支持構造9上に配されたアクチュエータ2、アクチュエータ2によりベアリング31,32を介して駆動される伝達軸33、および伝達軸33により駆動される羽4を主要な構成要素とする。
伝達軸33には、伝達軸33の並進運動(アクチュエータ2の回動:伝達軸33が扇型状の軌跡を描く運動)を用いて伝達軸33に伝達軸33が延びる方向を中心軸とする回動(羽4を伝達軸33が延びる方向に見たときに羽4が扇型状の軌跡を描く運動)を与える機構として固定部材34が固定されている。固定部材34は、アクチュエータ2の回動運動の両端付近において、被接触部材351および352のそれぞれに接触する。固定部材34は、被接触部材351および352のそれぞれの接触面上を滑りながら移動する。それにより、伝達軸33は、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする回転運動を行なう。固定部材34は被接触部材351および352のそれぞれに対応して2つの独立した突起部34aおよび34bを有している。そのため、図13では、固定部材34は単一の構成要素として描かれているが、図13の構造は、2つの突起が設けられた構造と等価である。
被接触部材351,352は、支持構造9に対する相対的な位置が、支持構造9に設けられた被接触部材移動機構361,362の機能によって変更され得る。被接触部材移動機構361,362は、固定部材34が被接触部材351,352に接触しながらその表面上を移動する際に固定部材34が被接触部材351,352に及ぼす反力よりも大きな力で、被接触部材351,352を保持する。
また、リミットセンサ353,354は、固定部材34が回動の両端のそれぞれに達したことを検出するセンサである。制御装置5は、リミットセンサ353および354のそれぞれから受ける信号に基づき、アクチュエータ2の回動方向を反転させる。これにより、アクチュエータ2の往復回動運動は、効率よく行なわれる。
また、羽4の翼弦長方向が図13における鉛直方向すなわちZ軸負方向に一致した状態であって、かつ羽の後縁が下側に向いた状態を基準として、翼弦方向と鉛直方向とが±30度の範囲に制限される。そのために、ベアリング31,32は、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする伝達軸33の回転角を制限する回転制限機構としても機能する。
なお、±30度という回転角が制限される範囲は、説明の簡便のための一例であり、回転角の制限の範囲は、前述の数値に限定されるものではない。たとえば、羽4が剛体であると仮定するのであれば、制限される回転角の範囲は±80度程度であることが望ましい。
以上の構成により、アクチュエータ2が、アクチュエータ2の回動中心軸回りに往復回動運動をすると、その両端付近において、固定部材34が被接触部材351,352に接触する。それにより、伝達軸33は、伝達軸33が延びる方向を中心軸として回動する。その後、リミットセンサ353および354のそれぞれが固定部材34の回動の両端のそれぞれへの到達したことを検出する。このとき、リミットセンサ353および354のそれぞれは、検出信号を制御部5へ送信する。それにより、検出信号を受けて制御部5がアクチュエータ2の回動運動を反転させる。それによって、回動運動の方向が逆転するため、固定部材34が被接触部材351または352から離れる。その結果、伝達軸33は、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする回転角が、回転制限機構により制限される。そのため、羽4は周囲流体に対して一定の迎え角のまま移動する。なお、伝達軸33が所定の速度以上の速度で運動を行なえば、羽4は、周囲流体から所定の流体力を受けることによって、その抑え角が一定に保持される。
以上により、羽4は、アクチュエータ2の往復回動運動中心近傍では、一般的な航空機の翼に加えられる揚力と同様の揚力が加えられる。また、羽4は、往復回動運動の両端付近では、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする伝達軸33の回動運動によって回転揚力を発生させる。それによって、浮上移動装置1は、鉛直上向きの力を受けて浮上する。
また、本実施の形態の浮上移動装置1は、被接触部材移動機構351,および362を用いて、左右の羽4のアクチュエータ2のそれぞれの回動の振幅の中心を、別個独立して進行方向前側または進行方向後側にずらす。それにより、本実施の形態の浮上移動装置1は、進行方向を左右のいずれかに変更するか、または、前進および後退のいずれかを行なう。なお、浮上移動装置1の前後方向に延びる軸、すなわちY軸を回転中心軸とする回転動作は、左の羽4のアクチュエータ2の往復回動運動および右の羽4のアクチュエータの往復回動運動の少なくともいずれか一方において、振幅および周波数のうちの少なくともいずれか一方を変更することにより、実現される。
また、アクチュエータ2および被接触部材移動機構361,362のそれぞれは、制御部5により制御される。また、アクチュエータ2および被接触部材移動機構361,362、ならびに制御部5は、電源6より供給される電力によって稼働する。
(支持構造)
次に、支持構造9について説明する。支持構造9は、支持構造としての機能を損なわない範囲内の質量であって、より軽量であることが望ましい。この範囲は、従来のエンジニアリングの技術で求めることができる。たとえば、軽量化のあまり剛性が低下し過ぎてしまい、羽4を駆動させるべきエネルギーが支持構造9の振動となって散逸することがないこと等が、その範囲を決定するための基準となる。本実施の形態の浮上移動装置1においては、軽量なカーボングラファイトを支持構造9に用いる。
(羽駆動部)
次に、羽の駆動部について、図14〜図19を用いて説明する。
(アクチュエータ)
まず、アクチュエータ2について、図14を用いて説明する。
本実施の形態の浮上移動装置1においては、アクチュエータ2として、超音波モータと一般に呼ばれているモータを用いる。その超音波モータは、図14に矢印で示されるように、支持構造9に固定されているステータ部21に対してロータ部22を回動させることができる。
(ベアリングおよびその回転制限機構)
ベアリング31,32は、その外周部31a,32aがロータ部22に固定されている。ベアリング31,32は、外周部31a,32aに対して内周部31b,32bが円滑に回転できるようになっており、内周部31b,32bには伝達軸33が固定されている。したがって、アクチュエータ2は、伝達軸33が延びる方向を含む面であって、アクチュエータ2の主表面と平行な面内において、伝達軸33をアクチュエータ2の回動中心軸回りに回動させることが可能である。
また、ベアリング31の回転角は、外周部31aおよび内周部31bのそれぞれに設けられた、互いの相対的な位置関係を拘束する部位同士の係止により、約60度に制限される。ベアリング32の回転角は、外周部32aおよび内周部32bのそれぞれに設けられた、互いの相対的な位置関係を拘束する部位同士の係止により、約60度に制限される。
なお、ベアリング31および32のそれぞれの回転角の範囲を一定値以下に制限する手法は、前述の手法に限定されるものではない。したがって、図14および図15では、説明の簡便のため、ベアリング31および32のそれぞれの回転角の範囲を一定値以下に制限するための部位は、ハッチングが付された円弧状のマークで抽象的に表されている。また、回転制限機構により制限されるベアリング31および32のそれぞれの回転角の大きさを変更することが可能な機構を有していれば、羽4の迎え角を変更することが可能である。
(被接触部材および固定部材の突起部による伝達軸回転機構)
次に、固定部材34および被接触部材351,352について図14〜図19を用いて説明する。
説明の簡便のため、図14に示される円盤状のアクチュエータ2に対して相似な円形を底面に有する仮想円柱の周面内に被接触部材移動機構361,362および被接触部材351,352が位置するとみなし、その円柱の周面を展開して図15に示す。
固定部材34は、伝達軸33が延びる方向を中心軸として回転することが可能であるが、前述の回転制限機構として機能するベアリング31,32によりその回転が±30度の範囲内に制限される。図15に示された状態は、伝達軸33の回転角が−30度の状態、つまり、伝達軸33が羽4の先端側から見て時計回りに最も大きく回転した状態である。
図15において、伝達軸33は右方向に移動すると仮定する。この際、羽4に対しては、図15において左斜め上方向に流体力がかかっている。そのため、伝達軸33よりも羽4が下側にあることから、伝達軸33には時計回り方向のトルクが羽4から与えられる。しかしながら、回転制限機構としてのベアリング31,32の機能により、伝達軸33は−30度より大きく時計回りに回転しない。そのため、図15に示す状態では、羽4にかかる流体力は、伝達軸33を介して、浮上移動装置1に対して、図15において左斜め上方向への力として伝達される。
さらに、図15の状態よりも伝達軸33が右側に移動すると、固定部材34は被接触部材351に設けられた曲面部に接触する。その後、さらに伝達軸34の右方向への移動することによって、固定部材34は被接触部材351の曲面部に接触しながら移動する。なお、固定部材34と曲面部との接触の態様は、アクチュエータ2の駆動態様、被接触部材351および固定部材34の取付位置、被接触部材351の移動の有無、ならびに被接触部材351の形状に基づいて決定される。
しかしながら、本実施の形態においては、固定部材34と被接触部材351との衝突時の衝撃を和らげ、かつ、伝達軸33の回転がスムーズに開始されることが必要である。そのため、固定部材34の移動方向と、固定部材34と接触を開始する位置における曲面部が延びる方向とがほぼ同一であり、かつ、曲面部は、2次関数で表される曲線、3次関数で表される曲線または4次以上の関数で表される曲線上に位置するものとする。
さらに、伝達軸33そのものと被接触部材351との衝突を防ぐため、固定部材34は、図15に示されるように、伝達軸33に対して垂直な方向に延びる第1軸34cとその第1軸34cに対して垂直な方向であって第1軸34cが延びる方向から見たときに伝達軸33に対して垂直な方向に延びる第2軸34dとを有している。また、第2軸34dの両端には、球状の突起部34aと球状の突起部34bとが設けられている。
突起部34bが被接触部材351上の最も右端に達すると、その後、伝達軸33は、左方向に運動を始める。このとき、羽4にかかる流体力の方向は、図15において右斜め上向きである。また、伝達軸33には羽4の先端側から見て反時計回りのトルクがかかる。そのため、回転制限機構により、伝達軸33は、その回転角が+30度に固定された状態で、図15の左方向へ移動する。その後、突起部34aが被接触部材352と接触する。このとき、突起部34aが被接触部材352の曲面部上を移動する態様と、突起部34bが被接触部材351の曲面部上を移動する態様とは、図15において左右対称である。ただし、図15において、突起部34aが被接触部材352の曲面部上を移動する態様と、突起部34bが被接触部材351の曲面部上を移動する態様とが異なるように、被接触部材351の形状または材質と被接触部材352の形状または材質とが異なっているか、または、突起部34aの形状または材質と突起部34bの形状または材質とが異なっていてもよい。
羽4が剛体であれば、羽4および伝達軸33は、図16に示すように移動する。しかしながら、実際には、羽4は弾性変形する。そのため、図16に示す剛体の羽4の運動と等価な運動を実現するためには、回転制限機構により回転角が制限される範囲を、羽4が剛体である場合より小さく設定することが最も簡便である。その結果、羽4の運動は、図17に示されるようなものとなる。
なお、本実施の形態の浮上移動装置1における固定部材34および被接触部材351,352は、本発明の浮上移動装置の機能を実現することができるのであれば、必ずしも図15に示した形状および位置である必要はない。たとえば、ベアリング31からさらに延長された伝達軸33の先端部に、図15に示す第1軸34cが設けられている位置とは逆方側の位置から第1軸が延びるように固定部材34が設けられていてもよい。すなわち、アクチュエータ2よりも内側の空間において、図15において、第1軸34cと第2軸34dとの間の位置関係が同じ状態で、羽4が延びる方向と同様の方向に第1軸34cが延びるように固定部材34が設けられていてもよい。この場合においても、固定部材34に対応した位置に被接触部材351,352が設けられていれば、本実施の形態と羽4の運動と同様の運動を実現することができる。
なお、本実施の形態の浮上移動装置においては、アクチュエータ2の回動角は±45°である。また、±45°のアクチュエータ2の回動によって生じる伝達軸33が延びる方向を中心軸とする羽4の回動の角度は±30°と設定されているものとする。
(被接触部材移動機構)
次に、被接触部材移動機構361,362について、図15および図19を用いて説明する。
被接触部材移動機構361,362は、支持構造9に設置されており、被接触部材351,352がアクチュエータ2の外周上の点の回動の軌跡と相似形の円弧状の軌跡を描くように被接触部材351,352の位置を移動させる機能を有する。この被接触部材351,352の位置の移動は、図15においては、被接触部材351、352が水平方向(左右方向)に移動することに相当する。
この被接触部材351,352の位置を浮上移動装置1の前方または後方にずらし、かつ、羽4のアクチュエータ2の回動の軌跡が描かれる領域を浮上移動装置1の前方側または後方側にずらす。それにより、羽ばたき運動の振幅の範囲および振幅の中心位置を変更することができる。これにより、後述する飛行方向の転換などの制御を簡単に行なうことができる。
また、被接触部材移動機構361,362によって、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする伝達軸33の回転の角度を制御することが可能である。たとえば、固定部材34が被接触部材351または352に接触している間に、伝達軸33の移動方向と同一方向に被接触部材351または352を移動させれば、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする伝達軸33の回動動作は、被接触部材351または352の移動が行なわれない場合に比べて、緩慢になる。
被接触部材移動機構361および362は、そのトルク、質量、および消費エネルギーなどの条件が被接触部材351および352を移動させることができるように設定されているならば、特にその構成に制約はない。そこで、本実施の形態の浮上移動装置1の被接触部材移動機構361および362のそれぞれには、図19に示すように、応答性に優れた超音波リニアアクチュエータ381が用いられる。図19は、図15の展開図において、紙面に垂直に被接触部材移動機構361を切断したときの被接触部材移動機構361および被接触部材351のそれぞれの断面図である。
なお、被接触部材352および被接触部材移動機構362の構成と被接触部材移動機構361および被接触部材351の構成とは鏡面対称である。また、軽量化のため、被接触部材移動機構361と被接触部材351との接触部であって超音波リニアアクチュエータが存在しない部分には、潤滑性に優れたテフロン(R)ベアリング371が用いられている。また、空気から羽4へ加えられる反力に起因して超音波リニアアクチュエータ381に加えられる力の影響を低減するため、超音波リニアアクチュエータ381は伝達軸33が延びる方向をその法線に有する面上にその面に沿って平行に延びるように設けられている。
また、被接触部材移動機構361,362は、固定部材34と被接触部材移動機構361,362との干渉を避けるため、固定部材34が移動する経路からずれた位置に設けられている。
(羽部)
次に、羽4について図14〜図22を用いて説明する。
(形状、剛性の概略)
羽4は、図14に示すように、伝達軸33に直接固定されており、その厚さはほぼ均一な平板である。羽4は、長軸の長さが約20mm、かつ、短軸の長さが約5mmの楕円を、その長軸と平行に長軸から約2.5mmの箇所で、かつ、その短軸と平行に短軸から約8mmの箇所で切断した場合に、最も大きい部分に相当する部分の形状が用いられている。
また、羽4は、軽量な硬質の樹脂から構成されている。さらに、羽4は、レーザカッティングによって成形されている。そのため、羽4の輪郭部には縁取りが形成されている。この縁取りにより、羽4の強度が増加している。
また、本発明者らが用いた羽4の剛性を代表するものとして、伝達軸33を拘束した際の、伝達軸33が延びる方向に対して垂直な方向における伝達軸33からの距離が17.1mmの位置における荷重−変位関係を図21に示す。
(羽の運動と捻り変位拡大機構)
本実施の形態による羽の挙動を図16〜図18および図22を用いて説明する。
本実施の形態の浮上移動装置1では、羽4の前後方向の往復運動の両端のそれぞれで正の回転揚力が得られる図16に示す羽ばたき方を採用する。
この際、便宜上、羽4を浮上移動装置1の進行方向の前方から後方へ運動させる動作を羽の打ち上げ動作とし、その逆方向の動作を打ち下ろし動作と定義する。ただし、羽の打ち上げ動作および羽の打ち下ろし動作は、通常地面に対してほぼ水平な方向の動作であるため、羽の打ち上げ動作および羽の打ち下ろし動作といっても、地面にほぼ垂直な方向に行なわれる動作を意味するものではない。
本実施の形態の浮上移動装置の羽4の運動は図16に示すものとなるが、効率よく揚力を得るためには、迎え角θが概ね10°程度である必要がある。このため、羽4の弾性変形がほとんどない状態では、打ち上げ動作と打ち下ろし動作との切り替えにおいて、羽4を160°程度回転させる必要がある。
しかしながら、羽4に弾性変形の度合いが大きいものを用いれば、迎え角θが概ね10°程度である状態を維持しながら、伝達軸33が延びる方向を回動中心軸とする回動の角度をより小さくすることができる。つまり、本実施の形態の浮上移動装置1では、羽4を空力によって受動変形させることで、伝達軸33に対して垂直な方向の羽4の先端(後縁)の回動角をより大きくする手法を採用する。
本発明者らの実験によれば、前後方向の羽4の往復運動の両端において、伝達軸33が延びる方向を回動中心軸として、羽4を±30°程度回動させることで、羽4の受動変形によって、羽4の伝達軸33に垂直な方向の中央部より伝達軸33に対して遠い位置においては±80°程度の羽4の回動角が得られた。発明者らが実験で用いた羽ばたき運動により、図16に示す羽4の運動と等価な浮上力を得ることができる。この際の羽4の挙動を図17に断面図として示す。
なお、図18に示すような、アクチュエータ2の回動によって得られる羽4の回動角がαであり、かつ、伝達軸33が延びる方向を中心軸とする回動によって得られる回動角がβである場合における、αとβとの関係を図22に示す。これは、羽の運動を数値的に表現した一例であり、本発明の要件を満たす羽の運動はこれに限定されない。なお、図22では、羽ばたきの1周期を打ち下ろしと打ち上げとに分けたが、伝達軸33が延びる方向の伝達軸33の回転角βが変化する区間(位相率が0.4〜0.6および0.9〜0.1の区間)を切り返しの区間として、この区間のみの羽ばたき方を変更してもよい。
(制御部)
次に、制御部5の動作およびこれを用いた飛行制御手法について図23〜25を用いて説明する。なお、本実施の形態では、アクチュエータ2に印加される電圧のパルス波形のデューディ比を変更するによってアクチュエータ2の回転速度を制御するPWM(Pulse Width Modulation)制御を採用する。しかしながら、本実施の形態の浮上移動装置1を制御する手法として、アクチュエータ2に印加される電圧の大きさを変更することによってアクチュエータ2の回転速度を制御するような手法が用いられてもよい。
また、説明の簡便のために、本実施の形態では、浮上移動装置1を、実施の形態1において説明した指示信号Xdにより特定された加速度ベクトルまたは角加速度ベクトルを有する状態に変化させるための制御のみを説明する。すなわち、指示される目標とする運動状態を特定する指示信号Xdは、加速度ベクトルまたは角加速度ベクトルの数値表記によって表される。しかしながら、目標とする運動状態を特定する指示信号Xdを他のパラメータによって表してもよい。たとえば、浮上移動装置1が、最適経路を算出する機能を有し、自律的に目標とする運動状態を決定する場合においても、制御部5は、最終的に加速度および角加速度を処理することになる。このような場合には、加速度および角加速度を表すパラメータを算出した後の制御部5による制御においては、前述の手法と同様の手法を適用することが可能である。すなわち、図1(a)における指示信号Xdおよび情報X、または、値(Xd−X)については、その取得方法はいかなるものであってもよい。
(ハードウェア構成)
制御部5は、演算処理装置(以下、「CPU(Central Processing Unit)」という。)501、読み出し専用メモリ(以下、「ROM(Read Only Memory)」という。)502と、一時記憶装置(以下、「RAM(Random Access Memory)」という。)503、および動作指示入力部505からなる。なお、本実施の形態では、目標とする浮上移動装置1の運動状態(Xd)と現在の浮上移動装置1の運動状態(X)との差分(Xd−X)が既に与えられているものと仮定している。しかしながら、目標とする浮上移動装置1の運動状態と現在の浮上移動装置1の運動状態を取得する手法との差分を取得する手法は、いかなるものであってもよい。また、一般的に用いられる商業用プロセッサは、ROM502およびRAM503に相当する機能を内包している場合が多く、RAM503とレジスタとは機能が等価であるため、本発明においてはCPUに物理的に組み込まれている読み出し専用領域または一時記憶領域についても、それぞれROM502またはRAM503であるとして取り扱う。これらの構成を特定するブロック図が図23に示されている。
ROM502には、ホバリング時の基準羽ばたき方のデータF、すなわち、図22(実施の形態1では図4および図5)に示す態様を実現するための羽ばたき方のデータが格納されている。本実施の形態では、アクチュエータ2を用いて、図22に示す態様の羽ばたき方を実現するためのパラメータとして、打ち上げ時および打ち下ろし時のそれぞれにアクチュエータ2に印加される電圧のパルス波形のデューティ比を特定するデータがROM502に格納されている。なお、本実施の形態では、ホバリング時にアクチュエータ2に印加される電圧のパルス波形のデューティ比は0.9である。また、ROM502には、基準羽ばたき方に所定の変換を加えるための変換量を特定する関数のデータMと、この所定の変換対する浮上移動装置1の運動状態の変化の感度のデータAmとが格納されている。これらのデータMおよびAmのそれぞれは、実施の形態1のものと同様のデータである。
なお、実際の浮上移動装置1では、データMおよびAmのそれぞれは、たとえば、実施の形態1において説明したように、上下方向制御、前後方向制御、および仰角制御のそれぞれに対応して複数種類設けられている。また、データMとデータAmとは、1対1で対応している。さらに、実際の制御では、複数種類のデータMが組み合せられたアルゴリズムによって羽ばたき方の変換が行なわれる。
(アクチュエータの制御方法)
本実施の形態においては、説明の簡便のため、打ち上げ時および打ち下ろし時のそれぞれにおいて、アクチュエータ2に印加される電圧のパルス波形のデューティ比を変更することにより、アクチュエータ2の回転速度が制御されるものとする。デューティ比とアクチュエータ2の駆動周波数、すなわち回転角速度(回動角速度)との関係を図24に示す。
CPU501は、前述のデューティ比のデータに従ったアクチュエータ駆動パルスをアクチュエータ2に対して出力する。出力されたアクチュエータ駆動パルスは、ドライバ回路506によりアクチュエータ2の駆動信号に変換される。ドライバ回路506は、アクチュエータ駆動パルスが正の場合にはアクチュエータ2を時計回りに回転させる信号をアクチュエータ2に出力する。また、ドライバ回路506は、アクチュエータ駆動パルスが負の場合にはアクチュエータ2を反時計回りに回転させる信号をアクチュエータ2に出力する。さらに、ドライバ回路506は、アクチュエータ駆動パルスがゼロの場合にはアクチュエータ2を停止させる信号をアクチュエータ2に出力する。CPU501によりドライバ回路506に与えられる信号の一例を模式的に図25に示す。
なお、本実施の形態の浮上移動装置においては、基本羽ばたき方のデータとして、図4および図5に示すようなホバリング時の羽ばたき方を実現するようなデータが用いられる。この基本羽ばたき方のデータは、ドライバ回路506が出力するパルス波形のデューティ比を特定するデータであり、ROM502に格納されている。
(制御におけるデータ処理)
浮上移動装置1は、現在の浮上移動装置の現在の運動状態を把握する手段として6自由度加速度センサ504を備えている。6自由度加速度センサ504は、現在の浮上移動装置1の加速度および角加速度を検出し、検出された値を浮上移動装置1の現在の運動状態を示す情報XとしてCPU501に送信する。これにより、CPU501は、現在の運動状態を示す情報Xを用いて、現在の浮上移動装置1の速度、角速度、位置、および姿勢を算出する。
なお、速度は、加速度を一階積分することによって求められ、角速度は、角加速度を一階積分することにより求められる。また、位置は、加速度を二階積分することにより求められ、姿勢は、角加速度を二階積分することにより求められる。
本実施の形態では、説明の簡便のため、現在の運動状態を示す情報Xの初期値は既知であるものとするために、たとえば、離陸前の静止状態の運動状態、すなわち加速度および角加速度のいずれもがゼロであることを示すデータが、現在の運動状態を示す情報Xの初期値としてRAM503に格納されている。以上のようにして、CPU501は、現在の運動状態を示す情報Xを取得する。CPU501が取得した現在の運動状態を示す情報XはRAM503に格納される。
また、浮上移動装置1は、その目標とする運動状態を特定する指示信号Xdを取得する動作指示入力部505を備えている。目標とする運動状態を特定する指示信号Xdは、一般的には、浮上移動装置1の外部の装置から通信によって送信されてくるデータであるが、目標とする運動状態を特定する指示信号Xdが得られるのであれば、いかなる手法が採用されてもよい。そのため、本実施の形態においては、外部装置による通信などに関する詳細な記述は行なわない。本実施の形態では、目標とする運動状態を特定する指示信号Xdのうち加速度の情報が、動作指示入力部505からCPU501に与えられるものとする。これにより、CPU501は、目標とする運動状態を特定する指示信号Xdを取得する。CPU501が取得した目標とする運動状態(加速度のデータ)を特定する指示信号Xdは、RAM503に格納される。
また、CPU501は、目標とする運動状態を特定する指示信号Xdと現在の運動状態(羽ばたき飛行の態様)を特定する情報Xを用いてアクチュエータ2の駆動態様を決定する。より具体的には、RAM503に格納されている目標とする加速度の値から現在の加速度の値を減算する。それによって、加速度ベクトルの変化量を算出する。
さらに、CPU501は、前述の実施の形態1において説明した制御アルゴリズムに従って、加速度ベクトルの変化量を用いて、基準羽ばたき方に対して加える変換の態様を決定する。その後、CPU501は、変換された羽ばたき方を実現するために、ドライバ回路506に出力するアクチュエータ駆動パルスの波形の電位の時刻歴、すなわち、電圧波形のパルスの幅および電圧波形のパルス同士の間隔(時間)を算出する。それにより、CPU501は、アクチュエータ駆動パルスのデューティ比を算出する。ドライバ回路506は、CPU501から与えられたデューティ比のアクチュエータ駆動パルスを用いて、アクチュエータ2を駆動する。
なお、実施の形態1の各種制御手法は、全て、羽ばたきの特定位相領域または全領域における、羽ばたきの速度(周波数)の変更により行なうものとする。そのため、アクチュエータ駆動パルスのデューティ比の変更というような、一つのパラメータのみを変更する手法によって、羽ばたき方を変更することができる。
また、以後は説明の簡便のため、羽ばたき方の変更の一例として、上下方向の加速度の変更を制御する手法についてのみ説明がなされる。また、同様に、説明の簡便のため、現在の運動状態(情報X)としては、ホバリング状態、すなわち、速度、角速度、加速度、および角加速度のそれぞれがゼロである状態を採用する。また、ホバリング時の羽ばたき方を特定するデータとしては前述の基準羽ばたき方のデータFが用いられるものとする。
(制御フロー)
本実施の形態の浮上移動装置1の制御フローは、図27に示すようなもであり、そのフローの詳細を次に説明する。
(ステップ1) まず、図23に示す6自由度加速度センサ504により取得された浮上移動装置1の現在の運動状態を示す6つの加速度のデータXがRAM503に格納される。なお、6つの加速度のデータとは、図13のX軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれに沿った方向の3つの並進運動の加速度のデータ、ならびに、図13のX軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれを中心軸とする3つの回転運動の角加速度のデータである。
(ステップ2) 次に、CPU501は、動作指示入力部505において得られた目標とする運動状態を特定する指示信号Xd(目標とする6つの加速度のデータ)をRAM503に格納する。
(ステップ3) CPU501は、目標とする運動状態を特定する指示信号XのうちZ軸に沿った方向の並進運動の加速度Xzから現在の運動状態を特定する情報XのうちのZ軸に沿った方向の並進運動の加速度Xdzを減算する。それにより、CPU501は、Z軸に沿った方向の加速度ベクトルの変化量を算出する。
(ステップ4) CPU501は、ROM502に格納されている基準羽ばたき方のデータFを変更するために、ROM502内に記憶されている複数種類の関数の中から特定の関数のデータMを選択する。本実施の形態では、制御の対象が上下方向の位置の変更であるため、関数のデータMとして、羽ばたき周波数を増減させるための関数が選択される。関数のデータMは、アクチュエータ2に印加される電圧パルス波形のデューティ比を増減させるものである。また、基準羽ばたき方を示すデータFを変更する関数のデータMが決定されることにより、関数のデータMによってなされた羽ばたき方の変換に起因した浮上移動装置1の位置の変化の感度を示すデータAmも一意的に選択される。ここでは関数のデータMは、デューティ比に変換を加えるための関数であり、感度のデータAmは、デューティ比の変更量に対する浮上移動装置1の加速度ベクトルの変化量のZ軸方向の成分である。たとえば、Am=10.9である。
(ステップ5) CPU501は、加速度ベクトルの変化量の垂直成分の値(Xd−X)を、感度を示すデータAmで除算し、基準羽ばたき方の変換量Cを算出する。例えばXd−X=0.545であれば、羽ばたき方の変換量C=0.05である。
(ステップ6) CPU501は、変換量Cの羽ばたき方の変換を実行するために、基準羽ばたき方のデータFにデータM(C)を作用させる。この場合、変換量C=0.05を、基準羽ばたき時のデューティ比である0.9に加える。したがって、アクチュエータ2に印加される電圧パルス波形のデューティ比が0.95である場合の羽ばたき方(羽ばたき周波数)が求められる。なお、極端に大きくデューティ比を変更することによって、浮上移動装置1の姿勢が不安定になることが懸念される場合には、図26に示すように、デューティ比を0.9から0.95まで連続的に除々に変化させる手法が用いられることが望ましい。つまり、デューティ比を変更するための関数を微分した関数は連続関数になることが望ましい。なお、ディユーティ比の変更により羽ばたき動作の速度を変化させる、すなわち、基本羽ばたき方の時間軸を拡大または縮小することができる。
(ステップ7) CPU501は、前述の変換されたデューティ比のデータを用いて作成されたアクチュエータ駆動パルスをドライバ回路506に与える。それによって、アクチュエータ2に与えられる駆動電流は、大きくなるように変化する。その結果、アクチュエータ2の回転速度が図24に示されるように上昇する。その結果、上記の加速度ベクトルのZ軸方向成分は増加する。すなわち、加速度は、増加して0.54となる。
(浮上可能要件)
本発明者らの実験によれば、図22に示す羽4の運動により発生する浮上力の最大値は、羽1枚あたり約0.13gfである。また、この浮上力を得る際に必要なアクチュエータ2の駆動トルクは最大約1gf・cmである。
羽4の質量は約5mgである。主軸33の質量は約3mgである。固定部材34の質量は約2mgである。被接触部材351,352の質量は約6mgである。アクチュエータ2の質量は約80mgである。
浮上移動装置1は、支持構造9、制御部5および電源6の重量の合計が68mg以内となるように構成されれば、浮上することが可能である。ただし、電源6を無線で供給し、無線送信される電源の変換部分および制御部5をワンチップに集積して、そのワンチップを支持構造9上にパッケージングすれば、支持構造9および制御部5の合計の質量が5〜10mg以内となる。
さらに、アクチュエータ2の効率は今後の技術革新により向上させることが可能であるので、本実施の形態の浮上移動装置を浮上させることは実現可能である。
(駆動エネルギー供給方法)
本実施の形態の浮上移動装置1においては、駆動エネルギー供給方法は、浮上機能を損なわない限りその手法に制約はない。
たとえば、浮上移動装置1内に充電池または燃料電池等を内蔵する手法、または、外部のエネルギー供給源から電波を用いて、羽4に設けられたアンテナに電力を送電する手法などが考えられる。なお、本実施の形態の浮上移動装置1においては後者の手法を採用するものとする。
(補足)
上述した被接触部材、突起、および被接触部材移動機構は一例であり、浮上移動に支障無く、本実施の形態に示す羽ばたき方を実現することができるのであれば、浮上移動装置の駆動機構は上述した機構以外のものであってもよい。
本実施の形態の浮上移動装置1においては、現段階で浮上移動を実現することが可能である機構を提示するために、アクチュエータ2として超音波モータを用いたが、浮上移動装置1が浮上移動できるのであれば、超音波モータ以外の駆動源を用いてもよい。また、アクチュエータ2の運動は、最終的に伝達軸33に前述した運動を行なわせるものであるならば特に限定が必要なものではない。たとえば、軽量化のために、リニアアクチュエータに高分子材料が用いられ、リンク機構によって伝達軸33を運動させる手法が用いられてもよい。また、アクチュエータとして2サイクルエンジンのような往復運動が容易な内燃機関が用いられてもよい。
また、伝達軸33および羽4の運動も、本実施の形態に示したものに限定されない。例えば、完全な剛体の伝達軸33を製造することは困難であり、伝達軸33がしなることも考えられる。この場合は、浮上移動装置1は、伝達軸33の先端が横向きの8の字を描くように運動するものであってもよい。極端に柔らかく、浮上力を損なうような伝達軸33でない限りこれは、伝達軸33はいかなるものであってもよい。また、アクチュエータ2の回転半径が無限に大きいと仮定すると、伝達軸33は、単純に往復運動を行なうものと考えられる。この仮定の場合においても、本発明の羽ばたき方の変更手法を適用することは可能である。
また、羽4の形状は、浮上移動装置が浮上移動可能なものの一例であり、浮上移動を実現することが可能であるならば、羽4の構成または材料などは、他の構成または材料であってもよい。たとえば、羽4の厚さは一様である必要はない。また、金属膜をスパッタリングするなどの手法により、部分的に剛性を変化させて空力特性を変更する手法を用いて作成された羽が用いられてもよい。
また、回転角制限機構が制限する回転の範囲は一定である必要はない。図17に示されるように、空力による羽の変形の態様は異なるため、最適な迎え角を維持するために、回転角制限機構が制限する回転の範囲を適宜変更するように制御することによって、浮上力を効率的に発生させることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。