図1〜図42を用いて、本発明の一実施の形態の浮上移動装置を説明する。なお、本実施の形態では、左右対称の構成を有する浮上移動装置を説明する。したがって、説明の簡略のため、左右対称である構成要素には同一参照符号が付され、それらのうち左側のみの説明がなされる。
(全体の構成)
まず、図1および図2を用いて、本実施の形態の浮上移動装置の全体構成を説明する。この項目は、全体構成を説明するためのものであるため、各構成要素の詳細な構成および動作は後述される。
図1に示すように、浮上移動装置100は、本体101と、本体101に設けられた1対の羽根部110とを備えている。一対の羽根部110の一方は、本体101の左側の側部に設けられ、一対の羽根部110の他方は、本体101の右側の側部に設けられている。
浮上移動装置100は、羽根部110の羽ばたき運動によって、周囲流体に流れを生じさせるとともに、周囲流体から反作用を受ける。このとき、浮上移動装置100は、鉛直上方に向いた、自重を超える反作用を周囲流体から受ける。それにより、浮上移動装置100には重力加速度を超える鉛直上方向きの加速度が生じる。その結果、浮上移動装置100は浮上する。
また、図2に示すように、浮上移動装置100は、本発明のアクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を有している。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130は、本体101に回転可能に搭載されている。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130には、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の運動を羽根部110へ伝達する羽根駆動メカニズム140が接続されている。羽根駆動メカニズム140には羽根部110が接続されている。羽根部110は、上および下部超音波モータ120および130の駆動によって、上下方向を回転中心軸とする往復回動運動(以後、「ストローク運動」と称する。)と、羽根部110の前縁部を回転中心軸とする回転運動(以後、「捻り運動」と称する。)とを行なう。つまり、羽根部110は、ストローク運動およびねじり運動のそれぞれを独立して行なうことができる。
上および下部超音波モータ120および130は、制御回路150によって制御される。また、制御回路150には、本体101に固定された位置検出センサ160から浮上移動装置100の位置情報および姿勢情報が与えられる。
また、浮上移動装置100は、通信装置170を介して、浮上移動装置100自身の情報およびその周辺の情報を、外部のコントローラ200に送信する機能を有する。本実施の形態においては、画像センサ180よって得られた画像情報がコントローラ200へ送信される。なお、画像センサ180よって得られた画像情報は制御回路150によって直接利用されてもよい。たとえば、画像情報を画像処理することによって、浮上移動装置100の位置および速度等が制御回路150によって認識されてもよい。
また、通信装置170は、図1および図2に示すように、外部のコントローラ200から送信されてきた情報を受信し、その情報を制御回路150に与える機能を有する。本実施の形態では、外部のコントローラ200は、オペレータ210により制御され、浮上移動装置100の運動指令を与えるものとする。一方、外部のコントローラ200は、浮上移動装置100に搭載された画像センサ180によって得られた画像情報を取得することができる。
なお、コントローラ200が前述の画像情報をオペレータ210に提示する方法は、いかなるものであってもよい。たとえば、外部のコントローラ200が画像表示機能を備えていれば、画像センサ180が取得した画像そのものが視覚的にオペレータ210に提示される。また、説明の簡便のために、外部のコントローラ200は、オペレータ210によって操作されるものとしたが、これは必須ではない。
また、制御回路150、通信装置170、および画像センサ180等は、本体101に配された電源190から供給される電力によって駆動される。電源190は、本発明の駆動エネルギー源として機能するが、本発明の駆動エネルギー源は、電力を用いるもの以外のもの、たとえば、化石燃料等であってもよい。この場合、アクチュエータとしては例えば2サイクルエンジンやスターリングエンジン等、上記駆動エネルギー源に対応した物が用いられる。
(羽根部)
羽根部110は、図3〜図7に示されたような形状を有し、長さが65mmであり、かつ、幅が16mmである。羽根部110は、前縁部1102、羽面部1103、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106を有している。なお、羽面部1103とは、前縁部1102、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106以外の部分であって、細長板状部1107、1108、および1109とアラミドフィルム1114とからなる部分である。
羽根部110のアラミドフィルム1114以外の部分、つまり前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109は、厚さ20μmのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)層からな
る。具体的に言えば、羽根部110のアラミドフィルム1114以外の部分は、CFRPのシートから図5〜図7に示す3つの部分が切り抜かれ、その3つの部分が積層されることによって形成される。
前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、厚さ20μmのCFRP層の3層積層構造を有している。また、枠部1104、枝部1105、細長板状部1107、1108、および1109はCFRP層の1層構造である。図3に示されるX軸の正の方向を0度とすると、細長板状部1107の繊維軸の方向は−60度(+120度)であり、細長板状部1108および枠部1104のそれぞれの繊維軸の方向は、0度(180度)であり、細長板状部1109の繊維軸の方向は、+60度(+240度)であり、枝部1105の繊維軸の方向は−30度(150度)である。前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、繊維軸の方向が−60度(+120度)、0度(180度)、および+60度(240度)である3つのCFRP層が重ねられて形成されている。
前縁部1102の主要な変形は、羽根部110の長手方向に平行な伸縮であるため、この方向とCFRP層の繊維軸とが一致していることが望ましい。また、アクチュエータ接合部1106には複数の方向に力が加えられ、羽ばたき運動に応じてこれらの力の方向が変化すると考えられる。したがって、あらゆる方向に極力均等な剛性を有するように、異なる方向の繊維軸を有する多数のCFRP層を積層することによって形成されていることが望ましい。なお、前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、他の部分より剛性が高くなっている。これらの要件を満たす羽根部の製造方法は後述される。
また、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、枠部1104、および枝部1105に囲まれるように羽面部1103が設けられている。羽面部1103は、アラミドフィルム1114からなり、図4の紙面の奥行き方向に延びている。また、アクチュエータ接合部1106は、羽根部110の根元に設けられ、アクチュエータに接合されており、その長さは10mmである。
また、図5〜図7に示すように、複数の細長板状部1107のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1107同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。また、複数の細長板状部1108のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1108同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。さらに、複数の細長板状部1109のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1109同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。
なお、本実施の形態では、説明の簡便のため、同一層の複数の細長板状部は、同一ピッチかつ平行であるものとしたが、たとえば、剛性分布を意図的に変更する場合には、前述のものに限定されない。たとえば、先端側に比較して、根元側のピッチが小さくなっており、それにより、剛性が高められている羽根部110が用いられてもよい。
<前縁部>
前縁部1102は、図4に示されるように、羽根部110の長手方向に沿って延びる溝構造、すなわちコルゲーションと呼ばれる凹凸形状を有している。そのため、前縁部1102においては、長手方向を含む面内の曲げ変形に対する剛性が、長手方向を回転中心軸とする曲げ変形に対する剛性に比較して、高くなっている。なお、この前縁部1102の凹凸形状は、プリプレグと呼ばれるCFRP層の原材料のシートを、この凹凸形状に対応
する金型に密着させた状態で加熱することによって容易に成形され得る。また、前縁部1102には荷重が大きくかかる。そのため、前縁部1102は、細長板状部が設けられていない構造、すなわち隙間がない密実構造であるので、羽面部1103より剛性が高くなっている。さらに、前縁部1102は、根元に近づくにしたがって、累積的に荷重が増加するため、根元が先端に比べ太くなっている。根元部分での前縁部1102の幅および高さは約2mmであり、先端部分での前縁部1102の幅および高さは約1mmである。ただし、図の記述精度の制約から、図4〜図7においては、根元部分における前縁部1102の幅と先端部分における前縁部1102の幅とは同じ幅で描かれている。
<羽面部>
羽面部1103は、図4〜図7に示されるように、CFRP層の細長板状部1107、1108および1109、およびアラミドフィルム1114によって構成されている。羽根部110と同一の外形を有するアラミドフィルム1114が、CFRP層の細長板状部によって挟まれている。
本実施の形態においては、アラミドフィルム1114の耐熱温度がCFRP層の成形温度よりも高く、かつCFRP層の成形工程において、プリプレグとアラミドフィルムとを接触させておき、加圧および加熱処理を行なうことで、プリプレグに含まれる樹脂成分によってCFRP層とアラミドフィルムとを接着させることが可能である。したがって、CFRP層によって構成された前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109ならびにアラミドフィルム1114を含む原材料を上述の金型上で焼結することによって、簡単に羽面部1103を製造することが可能である。
羽面部1103の細長板状部1107、1108、および1109は、それらが延びる方向が互いに60度ずつずれ、重ねられている。そのため、羽面部1103の表面に垂直な方向から見ると、細長板状部1107、1108、および1109によって、正三角形の枠、すなわちトラスが形成されているように見える。また、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれは、細長い長方形の輪郭を有しており、そのうち2つの長辺は、繊維軸に平行に延びている。これは、強度が高いCFRPの長手方向と、上記トラス構造の各ビームの力のかかる方向とを一致させ、一軸異方性材料であるCFRPの強度特性を最大限活用するための構成である。ただし、2つの長辺の一方の長辺のみが繊維軸に平行に延びていれば、繊維の強度をある程度有効に利用することが可能である。なお、上記ビームが長方形ではない場合には、応力解析などの手法を用いて、そのビームの形状に最適な繊維軸方向を決定する必要がある。
また、本実施の形態では、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの曲げ剛性は、前縁部1102の1/8であるものとする。一般に、曲げ剛性は、断面二次モーメントに比例する。つまり、曲げ剛性は、(幅:矩形の短辺の長さ)×(厚さの3乗)に比例する。
ここで、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの厚さが一定であり、細長板状部1107の幅が細長板状部1107同士の中心軸間の距離(以下、これを「ピッチ」という。)の1/a倍であり、細長板状部1108の幅が細長板状部1108同士のピッチの1/a倍であり、かつ、細長板状部1109の幅が細長板状部1109同士のピッチの1/a倍であると仮定する。この仮定の下では、細長板状部の幅が1/a倍になれば、羽面部1103の曲げ剛性も1/a倍になる。したがって、本実施の形態においては、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅を細長板状部1107同士、細長板状部1108同士、および細長板状部1109同士のそれぞれのピッチの1/8倍にすることによって、前縁部1102の曲げ剛性の1/8倍の曲げ剛性を有
する羽面部1103が実現されている。つまり、羽面部1103の厚さ、すなわち細長板状部の積層数を変化させることなく、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅のみを変更することによって、所望の曲げ剛性分布を有する羽根部110が形成されている。細長板状部の積層数は、自然数にしかならず、連続的に変化し得るものではないため、細長板状部の積層数を変化させるだけでは、羽根部の曲げ剛性の分布が不連続になってしまう。しかしながら、上記細長板状部の幅とピッチとの比は、連続的に変化し得るものであるため、上記曲げ剛性分布を連続的に変更して、所望の曲げ剛性分布を得ることができる。
なお、本実施の形態の羽根部110の構造によれば、細長板状部1107の幅と細長板状部1107同士のピッチとの比、細長板状部1108の幅と細長板状部1108同士のピッチとの比、および細長板状部1109の幅と細長板状部1109同士のピッチとの比を互いに異ならせることによって、羽面部1103の曲げ剛性が異方性を有するようにすることが可能である。たとえば、羽根部110の長手方向を含む面内の曲げ変形に対して高い剛性を有する羽根部110を製造する場合には、細長板状部1108の幅を大きくし、細長板状部1108同士のピッチを小さくすればよい。
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造の一部をトラスが形成されるように切り抜く手法が用いられた場合には、各トラスの三辺に3つのCFRP層が積層されている。この手法により形成された羽面部の質量は、トラスが形成されていない羽面部1103と同一面積の3つのCFRP層の積層構造の質量の3/a倍(aは前述の値)となる。この場合、3つのCFRP層のうちの1つの層の繊維軸を含む面内の曲げ変形モードにおいては、その1つのCFRP層以外の2つのCFRP層は、樹脂程度の剛性しか有していないため、不要である。すなわち、前述の羽根部110は、本段落にて説明されているような切り抜きによって形成された羽根部の約1/3の質量で、その羽根部とほぼ同一の剛性を有する(具体的には下記の<羽質量>の項目に羽根部の質量および剛性の数値が記載されている。)。
<枠部>
羽面部1103を構成するアラミドフィルム1114は、図4に示されるように、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、および枠部1104の間に張られている。そのため、アラミドフィルム1114の端部の破損が防止されている。本実施の形態では、枠部1104の幅は約0.5mmである。なお、枠部1104は、図4に示されるように、羽面部1103を取り囲む形状であるため、それが延びる方向は位置によって異なる。枠部1104の繊維軸の方向は、それの延びる方向に一致している。
<枝部>
羽根部110が大きくなった場合には、羽根部110の先端部の回転半径も大きくなる。この場合、流体に対する相対速度が大きくなるため、羽根部110の先端部には大きな流体力が生じる。羽根部110の先端部に生じる流体力が大きくなっても、羽根部110の先端部の制御性を維持する必要がある。そのため、前縁部1102に接続され、前縁部1102から斜め方向に延びる枝部1105が設けられている。枝部1105の幅は約0.9mmである。枝部1105は、X軸方向の羽根部110の先端側を向く方向を0°とした場合に、−30°の方向に延びるように形成されている。
なお、枝部1105とX軸との間の角度および羽面部1103に要求される剛性によっては、前述の細長板状部1107とは異なる細長板状部を有するCFRP層に枝部1105が設けられていてもよい。また、CFRP層とは別の材料を用いて形成された枝部1105がCFRP層同士の間に挟み込まれた構造の羽面部1103が用いられてもよい。
<アクチュエータ接合部>
アクチュエータ接合部1106は、実際には、羽根部110を駆動するアクチュエータとの適合性に応じて、その形状が決定される。本実施の形態のアクチュエータ接合部1106は、図4に示される形状であるものとする。また、羽ばたき運動により生じる流体力に起因する変形を防止するため、アクチュエータ接合部1106の材料としては、細長板状部を有しない、すなわち隙間がない密実な構造のCFRP層が用いられる。さらに、アクチュエータ接合部1106の前方端には溝構造が設けられている。このアクチュエータ接合部1106の溝構造と前縁部1102の溝構造とは連続するように設けられている。
<羽質量>
CFRPの比重が1.6g/cm3であるものとして、表1に前述の羽根部110の各
部位の質量が示されている。表1に示されるように、羽根部110の質量は、約26.5mgである。また、アクチュエータ接合部1106の質量は約10.8mgである。
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造をトラス形状が形成されるように切り抜く手法が用いられた比較例の羽根部の質量は約48mgである。
(超音波モータ)
次に、図8〜図14Bを用いて、本発明のアクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を説明する。
<全体構成>
まず、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の構成を説明する。
図8に示されるように、上部超音波モータ120は、上部超音波振動子121と、これによって駆動される上部ロータ122とを有している。また、上部ロータ122は、上部ベアリング123を介して、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。ロータシャフト124は、本体101に固定されている。上部ロータ122には、上部磁化パターン125が円弧状に記されている。上部磁化パターン125は、上部磁気エンコーダ126で読み取られる。上部超音波振動子121においては、図14Aに示すように、支持部1214が支持シャフト127に固定され、牽引部1224が牽引ゴム129により牽引されている。また、上部超音波振動子121を駆動する電力はフィルム基板128を経由して供給される。
下部超音波モータ130は、上部超音波モータ120と上下方向において鏡面対称の構造である。すなわち、下部超音波モータ130においては、下部超音波振動子131が下
部ロータ132を回転させる。下部ロータ132は、図示されない下部ベアリングを介して、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。下部ロータ132には、図示されない下部磁化パターンが円弧状に記されている。下部磁化パターンは、下部磁気エンコーダ136で読み取られる。
上部および下部超音波モータ120および130は、上下方向において鏡面対称に設けられていること以外においては、全く同様の構成を有しているため、以降においては、上部超音波モータ120の詳細構造のみの説明を行なう。
<駆動原理>
次に、図9〜図14Bを用いて、上部超音波モータ120の駆動原理を説明する。
上部超音波振動子121は、振動板1211、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213からなる。振動板1211は、厚さ0.2mmのステンレスで作製され、幅2mmかつ長さ9mmの矩形部と、矩形部の長手方向の中央部から外方に突出する支持部1214とを有している。振動板1211は、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213によって挟まれている。表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213は、それぞれ、幅2mm、長さ8mm、および厚さ0.2mmの短冊形状を有し、厚み方向に分極するピエゾ焼結体からなる。
表面ピエゾ1212には表面電極1216が接合され、裏面ピエゾ1213には裏面電極1217が接合される。表面電極1216に電圧を印加すると、上部超音波振動子121において、図10に示されるような節を3つ有する、即ち3次のたわみ振動モードが励起される。また、裏面電極1217に電圧を印加すると、図11に示されるような、縦(
伸縮)の振動モードが励起される。本実施の形態における上部超音波振動子121におい
ては、2つの振動についての共振モードの共振周波数は、いずれも250kHzであり、互いに一致している。ここで、これらの共振モードの振動の位相を±90°異ならせることによって、振動板1211の頂点は図12および図13に示される2種類の楕円運動を行なう。2種類の楕円運動は、正方向に回転する楕円運動と、逆方向に回転する楕円運動である。また、振動板1211の頂点にはセラミックからなる接触部1215が設けられている。接触部1215は、前述の楕円運動に応じて、摩擦力によって、上部ロータ122をロータシャフト124の軸周りに回転させる。このとき、正方向の回転および逆方向の回転のいずれかが選択される。
図12および図13は、表面電極1216に与えられる電位をφAとし、裏面電極1217に与えられる電位をφBとして、φAおよびφBを、それぞれ、cos(2πft)およびsin(2πft)に振幅を掛けた関数で表した場合における接触部1215の回転方向を示している。なお、説明の簡便のため、表面電極1216および裏面電極1217のそれぞれに与えられる電位を三角関数によって表わしたが、それらの電位の位相が±90°ずれているのであれば、矩形波等によって表わされる電位が両電極に与えられてもよい。なお、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれは、扇型の輪郭を有し、所定の回転角の範囲内での回転往復運動を行なう。そのため、軽量化のためには、図14Bに示されるように、不要な部分が削除された、その外形が中心角120°の扇形のフレーム構造を有する上部ロータ122および下部ロータ132が用いられることが望ましい。輪郭が扇型であるロータが用いられれば、中心軸まわりに回動(回転往復運動)するロータの占有率を最も効果的に低減することができる。なお、上部ロータ122および下部ロータ132は、それぞれ、扇型の輪郭に沿ったフレーム部を有している。
なお、前述の各部位のサイズおよび振動板の共振周波数などの数値は、一例であり、浮上のための要件が満足されるのであれば、前述の値に限定されない。この浮上のための要
件は、後述の浮上可能性の項において述べられている。
また、上部ロータ122および下部ロータ132は、図14Bに示されるように、必要な強度が確保される範囲内において、軽量化のための中空構造を有していてもよい。つまり、上部ロータ122および下部ロータ123のそれぞれが、半径120°の扇型の外周に沿って延びるフレームを有する構造からなっていてもよい。
更に、上部ロータ122および下部ロータ132に、後述する上部ローラ122の回転角θ1−下部ロータ132の回転角θ2を所定の範囲内の値に制限するためのリミッター12322a、リミッター12322b、およびリミッター12322cが設けられてもいてもよい。リミッター12322bは、扇型のフレーム構造の下部ロータ132の内周面に設けられ、リミッター12322aおよびリミッター12322cは、扇型のフレーム構造の上部ロータ122の内周面に設けられている。リミッター12322bは、円弧状の軌跡において、リミッター12322aとリミッター12322cとの間に位置付けられている。これによれば、リミッター12322bの移動範囲は、リミッター12322aおよびリミッター12322cによって制限される。したがって、後述する羽の捻り角βが一定の範囲内の値に制限される。そのため、後述する数式(7)において、解が物理的に1つに定まる。その結果、羽根部の動作が安定する。
また、上部および下部ロータ122よび132が各超音波振動子の駆動力をロス無く羽根部に伝達することが望ましい。そのため、ロータの回動抵抗は極力小さいことが望ましい。さらに、上部ロータ122と下部ロータ132との衝突を避けるために、これらのロータは中心軸まわりにのみ回転することができる構造を有していることが望ましい。したがって、本実施の形態では、ロータと回転中心軸との接触部におけるベアリングとして、ピボットと呼ばれる一種のボールベアリングが用いられている。これによって、前述のように、ロータ同士の接触が防止されている。なお、上記ロスが超音波振動子の駆動力に比べ十分小さいのであれば、擦動タイプのベアリング、たとえばテフロン(登録商標)ベアリングなどが使用されてもよい。
なお、後述される後方切り返し時において、羽根部が水平状態になると、すなわち、後述されるβが180°に達すると、切り返し後のβが0<β<πとなるか、または、π<β<2πとなるかは、不定となる。前者の場合には、羽根部が裏返り、迎え角が負となることになり、揚力が得られず、浮上移動装置は飛行することがききない。このため、前述の2つのリミッターにより、βが180°に達しないように、羽根部の動作が制限されている。さらに、本発明者らの実験によると、羽根部にかかる流体力がヒンジを押し上げるように弾性変形させることにより、厳密にβが180°に達しなくても、羽根部が裏返る現象が観察されている。このため、前述の2つのリミッターは、羽ばたき飛行に支障をきたさない範囲内で、βが180°よりもある程度小さい値になるように設けられていることが望ましい。
<予圧機構>
次に、図14Aを用いて、接触部1215から上部ロータ122へ予圧を与える機構を説明する。
接触部1215から上部ロータ122へ予圧が作用しており、その反作用として、接触部1215から上部ロータ122の外周面へ向かって抗力が生じている。そのため、上部ロータ122と接触部1215との間には摩擦が生じている。したがって、接触部1215の楕円運動によって、上部ロータ122は、摩擦力を受け、回転往復運動を行なう。
牽引ゴム129は、環状であり、その一端が、牽引部1224に引っ掛けられている。
牽引ゴム129の他端は、本体補強ポール112に固定されている牽引ゴムピン113に引っ掛けられている。したがって、牽引ゴム129には張力が生じ、牽引部1224が本体補強ポール112に向かって牽引されるため、振動板1211は牽引部1224を含む振動板1211を支持している支持シャフト127の軸周りに回転運動する。この回転運動は、接触部1215が上部ロータ122に接触することによって拘束されている。したがって、接触部1215から上部ロータ122へ向かう予圧が生じる。
なお、前述の本体補強ポール112を、その長軸周りに回転させることによって、前述の予圧の大きさを調整することが可能である。また、予圧機構は、上部ロータ122を駆動するための摩擦力を得るために設けられているものであるため、前述の予圧が得られ、かつ、浮上移動装置100の浮上特性が損なわれないのであれば、図14Aに示す構造に限定されない。
<回転角検出>
図8に示す上部磁気エンコーダ126には、パターン周期の1/4の間隔を置いてA相およびB相のための2つの検出部が設けられている。この構成によって、一般的なエンコーダと同様に、上部ロータ122の回転方向に応じてA相およびB相の位相が異なるため、たとえば、A相のアップエッジをカウンタのトリガとして、B相のレベルの1/0をアップカウント/ダウンカウントの機能選択に割り当てれば、上部ロータ122の回転角θ1を検出することが可能である。この回転角θ1の算出は、中央演算装置151において行なわれる。
<補足>
なお、図8〜図14Bにおいて示された超音波モータは、一般的なアクチュエータの一例であり、本発明における浮上移動装置のアクチュエータは、前述のような構造の超音波モータに限定されない。たとえば、アクチュエータとして、電磁モータまたは内燃機関が用いられてもよい。また、回転角検出のための装置は、羽ばたき飛行を阻害するものでなければ、いかなるものであってもよい。たとえば、前述の磁気エンコーダを用いる手法の替わりに、光学式エンコーダを用いる手法が採用されてもよい。
(羽駆動メカニズム)
次に、図15〜図18を用いて羽根駆動メカニズムについて説明する。
羽根駆動メカニズム140は、図15に示されるように、上部ロータ122に固定された上部プレート141と、下部ロータ132に固定された下部プレート142とを有している。さらに、下部プレート142には第1アラミドヒンジ143を介して中間プレート144が接続されている。さらに、上部プレート141には、第2アラミドヒンジ145を介して、羽根部110の根元部が接続されている。さらに、羽根部110の根元部は、第3アラミドヒンジ146を介して、中間プレート144にも接続されている。したがって、上部プレート141、羽根部110、中間プレート144、および下部プレート142がアラミドフィルムで接続された複合ヒンジが構成されている。この複合ヒンジは、上部ロータ122および下部ロータ132によって駆動される。
図16〜図18には、上部プレート141、中間プレート144、および下部プレート142の形状が示されている。なお、各プレートのヒンジおよびロータに接続されない辺の近傍の部分は、補強のため、図16〜図18のハッチングで示される部位が、各プレートの主表面に対して約90°折り曲げられている。さらに、この折り曲げ部同士の干渉を避けるため、折り曲げ部の両側端のそれぞれは、折り曲げ部が延びる方向に対して45°の方向においてカットされている。
各アラミドヒンジは、幅0.1mmであり、長さに比べてその幅が非常に小さいため、擬似的に1自由度の回転のみ運動可能なリンク、すなわち蝶板(兆番)として機能する。また、アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線は1点で交わり、その1点はシャフト124の中心軸上に位置し、かつ、上部ベアリング123と下部ベアリング133との間に位置する。この構成により、上部超音波モータ120の回転角の制御によって羽根部110の前後方向の往復運動が制御され、上部超音波モータ120の回転角の位相と下部超音波モータ130の回転角の位相との差の制御によって、羽根部110のねじり運動が制御される。
つまり、アクチュエータは、羽根軸としての前縁部1102を前後方向に往復運動(回転角α:Z軸周りの回転角)させる前後往復運動用ロータとしての上部超音波モータ120と、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102を軸周りに回転(回転角β)させる捻り運動用ロータとを備えている。
前述の羽ばたき方を、図19および図20を用いて、より具体的に説明する。図19および図20においては、浮上移動装置100の前後方向に沿ってY軸が延びている。また、浮上移動装置100の上下方向に沿ってZ軸が延びている。さらに、浮上移動装置100の左右方向に沿ってX軸が延びている。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交する。また、Y軸においては、後方が正であり、前方が負である。また、X軸においては、上方が正であり、下方が負である。さらに、Z軸においては、左の羽根部110の位置する側が正であり、右の羽根部110が位置する側が負である。また、図20に示すように、上部超音波モータ120の回転角がθ1であり、下部超音波モータ130の回転角がθ2であり、前後方向の往復運動の回転角である羽ばたきストローク角がαであり、前縁部1102の軸周りの回転角である捻り角がβであるものとする。
また、前述の各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線の交点から各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの外側端までの距離は、それぞれ、R2、R1、およびR3であるものとする。さらに、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ145の端点の距離がL1であり、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ143の端点の距離がL2であり、アラミドヒンジ143の端点とアラミドヒンジ145の端点と間の距離がL3であるものとする。ロータシャフト124に対する羽根部110の位置を表わす角度の組み合わせ(α,β)は、上および下部超音波モータの回転角θ1およびθ2を用いて、以下のように表わされる。
羽ばたきストローク角αは、羽根軸(前縁部1102)のロータシャフト124の軸周りの回転であるため、次の式(1)に示すように、上部超音波モータ120の回転角θ1に等しい。
α=θ1・・・(1)
また、捻り角(回転角β)は、羽根部110の羽根軸(前縁部1102)の軸周りの回転角であるため、次の式(2)によって示されるβの余弦値から算出される。
cos(π−β)=−cos(β)=[L1×L1+L3×L3−L2×L2]/(2×L1×L3)・・・(2)
ただし、L3に関しては、次の式(3)が成り立つ。
L3=sqrt(R1×R1+R2×R2−2×R1×R2×cos(θ1−θ2))・・・(3)
ここで、sqrt()は()内の値の正の平方根である。
なお、図19および図20から明らかなように、βは、πより大きく、かつ、2πより小さい。
π<β<2π・・・(4)
したがって、βが1つの値に決定される。
上記の式(1)〜(4)から、所望の羽根部110の位置(α,β)を得るための回転角θ1およびθ2は、次の式(5)および(6)によって表わされることが分かる。
θ1=α・・・(5)
cos(θ1−θ2)=[R1×R1+R2×R2−L3×L3]/2×R1×R2・・・(6)
ただし、L3に関しては、次の式(7)が成立する。
L3=L1×cos(β−π)±sqrt(L2×L2−L1×L1×sin2(β−π))・・・(7)
なお、L3の複号(±)が、正であるか、または、負であるかは、実際の羽根部110
の挙動を考慮することによって、容易に決定される。
図19および図20に示される本実施の形態の浮上移動装置の状態は、羽根部110の主表面が鉛直な方向に延びる平面と平行である状態、すなわち、捻り角β=270°である状態である。このとき、θ1=0°、θ2=−45°R1=R2=15mm、R3=15.81mm、L1=5mm、L2=11.4mm、およびL3=11.39mmである。
上部および下部ロータ122および132の回転角θ1およびθ2は、前述のように、磁気エンコーダ126よって得られた情報に基づいて中央演算装置151によって算出される。なお、回転角θ1およびθ2の制御方法は後述される。
上記のようにして、羽根部110の羽ばたき運動が実現される。
(トルク補助機構)
次に、図21〜図32を用いて、トルク補助機構について説明する。
<原理>
図43に示されるように、羽ばたき飛行においては羽根部110の運動方向が反転するため、打ち上げと打ち下ろしとの間に行なわれる羽根部110の切り返しにおいては、アクチュエータに要求されるトルクは高くなる。しかしながら、羽根部110の切り返しの直前まではアクチュエータに要求されるトルクは小さい。そこで、アクチュエータに要求されるトルクが小さな期間に、何らかの方法を用いて、アクチュエータ(上部および下部超音波モータ120および130)の運動エネルギーを蓄積しておき、アクチュエータに高いトルクが要求される期間に、蓄積されたエネルギーを羽根部110に与えることで、アクチュエータに要求されるトルクの時刻歴を平滑化することができる。
次に、図21〜図25を用いて、切り返し時のトルクの時刻歴を平滑化する手法を説明する。本実施の形態においては、その手法として、ある物質を弾性変形させることによってアクチュエータのエネルギーを蓄積し、その弾性変形した物質の復元力によってアクチュエータにエネルギーを与える手法が用いられる。なお、以後においては、弾性変形する物質に蓄積されたエネルギーによってアクチュエータに与えられるトルクを補助トルクと称する。
図21に示されるように、本実施の形態における浮上移動装置100においては、羽根部110の切り返し時にトルクのピークが極端に大きくなる現象は、上部超音波モータ120の駆動トルクT1に顕著に現れる。なお、上部ロータ122の回転角θ1および下部ロータ132の回転角θ2の制御は、図22に示されるものであるとする。また、浮上移動装置100は、羽根軸としての前縁部1102を、前後方向に往復運動させるとともに、その往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102周りに回転させる羽ばたき運動を行なうものとする。
上部超音波モータ120の打ち上げ動作と上部超音波モータ120の打ち下ろし動作とは前後対称である。そのため、今後は上部超音波モータ120の打ち上げ動作後の切り返し時のトルクを補助する手順のみ説明する。
図23に示されるように、上部ロータ122の外側にバネ301が設けられている。バネ301は、本体101のいずれかの部分に固定されている。バネ301と上部ロータ122とは、上部ロータ122の回転角がθ_contactを超えた時点で接触を開始する。なお、θ_contactの求め方については後述する。
上部ロータ122がバネ301に接触した時点でバネ301は収縮を始めるので、上部ロータ122にはバネ301が伸張する方向に復元力が作用する。この復元力の大きさはバネ301の収縮した長さに比例するため、図24において破線で示されるようなトルクが生じる。ここでは、前述の図24に破線で示されるトルクがトルク補助機構による補助トルクと称される。なお、トルク補助機構は、本発明のエネルギー蓄積・供与機構に対応する。
上部ロータ122を駆動するために要求されるトルクT1は、図24に細実線で示される従来のトルクT1に、前述の補助トルクを加算した値となるため、図24に太実線で示されるようになる。
以上のように、トルクの小さい切り返し動作の前半の上部ロータ122の変位によって、バネ301に変形エネルギーが蓄えられ、バネ301の復元力によって、蓄えられた変形エネルギーが切り返し動作の後半に上部ロータ122に与えられる。すなわち、本実施の形態のトルク補助機構、すなわち、エネルギー蓄積・供与機構は、羽根軸としての前縁部1102を駆動するために要求されるトルクが小さい場合にエネルギーを蓄積し、前縁部1102に駆動するために要求されるトルクが大きい場合に上部ロータ122に与える。言い換えれば、エネルギー蓄積・供与機構は、前縁部1102の切り返しの前半に上部ロータ122のエネルギーを蓄積し、切り返しの後半にエネルギーを上部ロータ122に与える。それにより、前述のトルクT1のピークが低減され、トルクの時刻歴が平滑化される。
<設計手法>
次に、図24および図25を用いて、最大トルクをT_MAXに低減させるためのバネ301のバネ定数および収縮量の設計思想を説明する。なお、回転角θ1およびトルクT1は負の値になり得るが、説明の簡便のため、本項目の説明では、回転角θ1およびトルクT1の符号は、すべて正の値であるものとする。
まず、図25に示されるように、切り返し動作の後半において本来のトルクT1がT_MAXと等しくなる時刻t1を求める。この時刻t1が、補助トルクが必要とされる最終の時刻であるため、この際の回転角θ1が前述の回転角θ_contactとなる。
さらに、トルクT1が極大値T1_MAXになる回転角θ1_MAXT1のときに、ト
ルクT1からバネ301による補助トルクを減算した値が、T_MAXより小さくなるように、バネ301のバネ定数を定める必要がある。この際のバネ301の収縮量は、回転角θ1_MAXT1と回転角θ_contactとの差に、バネ301が上部ロータ122に接触する点と上部ロータ122の回転中心位置との間の距離R_contactを乗じた値である。したがって、この時点でバネ301に発生している力F_springは、バネ301のバネ定数をkとして、次の式(8)で表わされる。
F_spring=(θ1_MAXT1−θ_contact)×R_contact×k・・・(8)
この際に与えられる補助トルクT_springは、次の式(9)で表わされる。
T_spring=F_spring/R_contact=(θ1_MAXT1−θ_contact)×k・・・(9)
また、次の式(10)が成立する。
T_MAX+T_spring>T1_MAX・・・(10)
したがって、次の式(11)が得られる。
k>(T1_MAX−T_MAX)/(θ1_MAXT1−θ_contact)・・・(11)
厳密には、すべての時刻において、式(11)が成立する必要があるが、本実施の形態においては、図24に示すように、トルクT1の最大値である場合において、式(11)が成立すれば、アクチュエータに要求されるトルクを大きく低下させることができる。
本実施の形態においては、R_contact=4mmであり、k=160、θ_contact=30.5°であれば、トルクT1のピークが17gf・cmから10gf・cmへ低下する。
<構成例>
図26は、トルク補助機構の第二の例を示す図である。このトルク補助機構は、図23のバネ301が板バネ311によって置き換えられている。
図27は、トルク補助機構の第三の例を示す図である。このトルク補助機構によれば、本体101に固定された支柱321に、上部ロータ122に固定されたゴムブロック322が衝突することによって、上部ロータ122のエネルギーがゴムブロック322に蓄積され、ゴムブロック322の復元力によってエネルギーが上部ロータ122に与えられる。
図28は、トルク補助機構の第四の例を示す図である。このトルク補助機構によれば、中空のロータ334に内装され、支点331に固定されたコイルバネ332および333のそれぞれが、中空のロータ334の内壁に衝突し、上部ロータ122のエネルギーが蓄積され、コイルバネ332および333のそれぞれの復元力によって上部ロータ122にエネルギーが与えられる。なお、支点331は、本体101に固定されている。
図29は、トルク補助機構の第五の例を示す図である。このトルク補助機構は、図28に示すコイルバネ332が板バネ341に置き換えられたものである。なお、板バネ341は本体101に固定されている。
図30は、トルク補助機構の第六の例を示す図である。図30に示すトルク補助機構は、コイルバネ332および333および板バネ341の代わりに、ゴム紐351が用いら
れている。ゴム紐351は、その一端が支持点352に固定され、その他端が上部ロータ122に固定されている。また、ゴム紐351は、上部ロータ120の回転角θ1=0°の場合には、弛んでいる。これによれば、ゴム紐351は、上部ロータ122が回転往復運動を開始すると、回転角θ_contactの位置から伸張してエネルギーを蓄積する。また、伸張したゴム紐351が縮むときのゴム紐351の復元力によって、上部ロータ122にエネルギーが与えられる。なお、支持点352は、本体に固定されている。
図31は、トルク補助機構の第七の例を示す図である。上部ロータ122ではなく、ベアリング123に前述のトルク補助機構と同様の機構が設けられており、それによって、トルク補助機構の軽量化が図られている。このトルク補助機構によれば、ベアリング123に設けられたドグ361に板バネ362が衝突し、板バネ362が弾性変形してエネルギーを蓄積する。板バネ362の復元力によってドグ361を介して上部ロータ122にエネルギーが与えられる。なお、板バネ362は本体101に固定されている。
図32はトルク補助機構の第八の例を示す図である。このトルク補助機構によれば、ベアリング123に設けられた板バネ371が、ロータシャフト124に固定されたドグ372に衝突し、板バネ371が弾性変形してエネルギーを蓄積する。また、板バネ371の復元力によって上部ロータ122にエネルギーが与えられる。なお、板バネ371は本体101に固定されている。
<材料および手法の選択>
弾性変形してエネルギーを蓄える部材としては、金属などの弾性体またはゴムなどの超弾性体が適している。特に、ゴム紐は、比重が小さくかつ軽量化され易いものであるため、エネルギーを蓄える部材として望ましい。
また、弾性変形以外の態様でエネルギーを蓄えるトルク補助機構が用いられてもよい。たとえば、気体の体積変化と圧力との関係を利用して、シリンダ内に封入された気体の収縮および伸張によって、エネルギーの蓄積および放出を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。さらに、シリンダに封入された気体が相変化を利用して、エネルギーの蓄積および供与を行なうトルク補助機構が用いられてもよい。
また、超音波モータ120の替わりに、電磁モータが用いられ、誘導電力が電源190等に蓄えられるトルク補助機構が用いられてもよい。
<補足>
本項目においては、打ち上げ動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法が説明されているが、打ち下ろし動作後の切り返しの際のトルクの時刻歴を平滑化する手法も、前述の手法と同様である。また、上部超音波モータ120のトルク補助機構の説明のみがなされたが、下部超音波モータ130のトルク補助機構にも、上部超音波モータ120のトルク補助機構と同様の構成を適用することが可能である。
特に、本実施の形態においては、後述する先行切り返しの時に、下部ロータ132の振幅が大きくなる。この先行切り返しの時には、下部超音波モータ130に供給されるトルクが大きくなる。そのため、先行切り返しの羽ばたき方のときに下部ロータ132に前述の手法を適用することが望ましい。また、前述の手法を適用するためには、先行切り返し時に下部ロータ132が大きな振幅で往復運動することを阻害しないように、トルク補助機構としての弾性体の位置を考慮する必要がある。
(羽ばたき方の変更による浮上移動装置の動作制御)
<動作の基本>
本実施の形態における浮上移動装置100は、羽根部110の羽ばたき運動が生み出す浮上力の作用点より下側の質量が大きいため、自動的に、図1に示される姿勢になる。すなわち、X軸周りの回転およびY軸周りの回転を制御する必要はない。一方、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれに沿った並進加速度、ならびにZ軸周りの回転加速度(以下、「角加速度」とも言う)は、羽ばたき方によって変更される。尚、羽ばたき運動により生じる力は羽根部の運動に伴って変化するが、ここでは、羽ばたき運動の1周期平均の力を羽ばたき運動により生じる力とする。
(コントロールパラメータ)
本実施の形態における浮上移動装置100においては、トルク補助機構が適正に機能するためには、上部超音波モータ120の回転角θ1すなわちストローク角αの振幅は固定されている必要がある。そこで、浮上移動装置100の動作を制御するために、下部超音波モータ130の回転角θ2が変更される。すなわち、浮上移動装置100は、捻り角βの変更によって、流体の流れを変化させ、それにより、姿勢を変化させる。
具体的には、羽ばたき運動のストロークの両端のそれぞれにおいて羽根部110の捻り運動のタイミングを変化させる。
(上下方向における浮上力の変化)
先述の非特許文献2において、Dickinsonらによって明らかにされているように、図3
3に示すように、(1)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも先、すなわち切り返しの前半に羽根部110を捻る(捻り先行切り返し)と、浮上力は増加し、一方、図34に示すように、(2)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも後、すなわち切り返しの後半に羽根部110を捻る(捻り遅れ切り返し)と、浮上力は減少する、という現象が起きる。
(上下方向における浮上力が変化するときの前後方向における推進力の相殺)
さらに本発明者らは、図33に示す前述の(1)の動作によれば、切り返し動作前の羽進行方向に沿った抗力が増大し、図34に示す前述の(2)の動作によれば、その抗力が減少することを見出した。打ち上げ時に生じる前後方向の抗力と、打ち下ろし時に生じる前後方向の抗力とは、互いに逆向きである。そのため、打ち上げ動作と打ち下ろし動作とが前後方向に垂直な平面に対して鏡面対称であれば、それらの動作による抗力は相殺され、推進力はゼロとなる。このため、浮上移動装置は、上下方向のみにおける移動を行なうことができる。
(前後方向における推進力の変化)
逆に、打ち上げ時の切り返しと打ち下ろし時の切り返しとにおいて、図33に示す前述の(1)の動作と図34に示す前述の(2)の動作とが異なれば、その2つ動作による前後方向の抗力同士の間に差異が生じ、前方または後方のいずれかに推進力が生じる。より具体的には、図35Aに示されるように、打ち下ろしの後半では、遅れ切り返しによって、前方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、先行切り返しによって、前方への加速度が得られる。一方、同様に、図35Aに示されるように、打ち下ろしの後半では、先行切り返しによって、後方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、遅れ切り返しによって、後方への加速度が得られる。
(前後方向における推進力が変化するときの上下方向における浮上力の変化の相殺)
尚、前方への加速度が得られる動作および後方への加速度が得られる動作のいずれが実行されるときにおいても、上方への加速度の変化と下方向への加速度の変化とを相殺することは可能である。このため、水平方向における加速度のみを得ることが可能である。
(空間の3次元移動)
以上の説明のように、左および右の羽根部110のそれぞれのストローク角α、すなわちθ1の振幅が固定されていても、θ2の時刻歴のみ変更し、打ち上げにおける羽根部110の切り返しのタイミングと打ち下ろしにおける切り返しのタイミングとを異ならせることにより、羽根部110に上下方向および前後方向における加速度を生じさせることができる。また、左の羽根部110に生じる加速度と右の羽根部110に生じる加速度とを異ならせることによって、浮上移動装置100の姿勢を左または右に傾けること、ならびに、浮上移動装置100が左方向または右方向へ旋回することが可能になる。
<<制御の詳細>>
以下、図33に示す前述の(1)に記載の羽ばたき方を捻り先行切り返し(以下、単に、「先行切り返し」という。)と言い、図34に示す前述の(2)に記載の羽ばたき方を捻り遅れ切り返し(以下、単に、「遅れ切り返し」という。)と言い、図22に示すホバリング時の羽ばたき方を中央切り返しと言うものとする。
また、ホバリング、Z軸方向における並進運動、およびY軸方向における並進運動は、それぞれ、左右対称である。したがって、羽根部の動作も、左右対称である。そのため、左右対称な動作のうちの左の羽根部110の動作についてのみの説明がなされるものとする。
<ホバリング>
図22には、ホバリング時の羽ばたき方が示されている。図22においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽根部110の断面の時刻歴とともに示されている。このときの浮上力は自重と釣り合っており、前後方向への推進力はゼロである。
<Z軸方向の並進制御>
図33には、Z軸に沿った上方への移動、すなわち上昇のための羽ばたき方が示されている。図34には、Z軸に沿った下方への移動、すなわち下降のための羽ばたき方が示されている。図33および図34においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽根部110の断面の時刻歴とともに示されている。なお、左右の羽根部110は、YZ平面を対称面とする鏡面対称の動作を行なう。
図33に示す動作は、前述の(1)に記載の先行切り返し動作であり、図34に示す動作は、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作である。これらの動作の際の前後方向における加速度は、図35Aに示されるとおりゼロである。
<Y軸方向の並進制御>
図35Bおよび図36Aには、前方へ移動するための羽ばたき方が示され、図35Cおよび図36Bには、後方へ移動するための羽ばたき方が示されている。なお、左右の羽根部110は、YZ平面を対称面として、鏡面対称の動作を行なう。
前方への移動の際には、打ち上げ終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれ、打ち下ろし終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれる。
後方への移動の際には、打ち上げの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれ、打ち下ろしの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれる。
なお、前述の通り、遅れ切り返しの際に浮上力は減少し、先行切り返しの際に浮上力は
増加するため、Y軸方向の並進運動において、前述の(1)および(2)に記載の動作により生じる浮上力同士を相殺することは可能である。すなわち、浮上移動装置100は、高度を保ったまま、前後方向へ移動することが可能である。
<Z軸周り回転制御>
Z軸周りに正方向の回転、すなわち左への旋回を行なうためには、左の羽根部110が後退のための羽ばたき方で動作し、右の羽根部110が前進のための羽ばたき方で動作すればよい。
Z軸周りに負方向の回転、すなわち右への旋回を行なうためには、左の羽根部110が前進のための羽ばたき方で動作し、右の羽根部110が後退のための羽ばたき方で動作すればよい。
いずれの場合においても、上述のように、左および右の羽根部110による浮上力同士は相殺され得るものであるため、高度が維持されたまま、浮上移動装置100のZ軸周りの回転が行なわれる。
<X軸方向の並進制御>
左方への移動を行なうためには、右の羽根部110が上昇のための動作をし、左の羽根部110が下降のための動作をすればよい。これにより、浮上移動装置1は、左の羽根部110が右の羽根部110よりも下側に位置するように姿勢を変更し、それにより、浮上力のベクトルの先端が鉛直上方向きの状態から右側に傾く。これにより、浮上移動装置100を左方へ移動させる力が生じる。
なお、このとき、浮上力の低下が起こることがあり得るため、X軸方向の並進制御とZ軸方向の上方への移動のための制御とを併せて行なうことが望ましい。
<制御の変更方法>
以上により、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方、すなわち、先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しを使い分けることで、浮上移動装置100は空間を自在に移動することができる。
なお、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方は、いずれも、羽根部110の前後方向の往復運動の終端の前から後にかけての所定期間内に行なわれる。そのため、羽ばたき運動のストロークの中心の前から後にかけての所定期間、すなわちストローク角α=0°の前から後にかけての所定期間内においては、回転角θ1およびθ2の値は、その速度および加速度を含めて同一である。したがって、上記のように、回転角θ1およびθ2が共通している期間内に羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽根部110の動作を何ら補間することなく、機械的に次の羽ばたき方を選択するだけで、羽根部110の動作に不連続性を生じさせることなく、ある羽ばたき方から他の羽ばたき方へ円滑に遷移することが可能である。
<制御の選択>
上記のように、θ1=0°の位相において羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽ばたき方の状態を示す表現方法として、打ち下ろし、打ち上げ、およびそれぞれの終端での切り返し、という区分を行なうことは適切ではない。打ち下ろし後半および打ち下ろし後の切り返しおよび打ち上げの前半を前方羽ばたき運動とし、打ち上げ後半および打ち上げ後の切り返しおよび打ち下ろしの前半を後方羽ばたき運動として、羽ばたき方を二つに区分することが合理的である。
すなわち、左および右の羽根部110における前方羽ばたき運動および後方羽ばたき運動において、それぞれ、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの選択を行なうことによって、最も簡便に、羽ばたき方の制御を行なうことができる。前述の説明に基づいた浮上移動装置の羽ばたき方に対応した選択肢が、表2に示されている。
<補足事項>
なお、本項目においては、最も簡便に位置制御を実現する手法の一例が記載されているが、本発明の羽ばたき方は本項目の羽ばたき方に限定されるものではない。たとえば、本実施の形態においては、回転角θ1およびθ2の角速度は、切り返しの期間を除いて略一定であるものとされている。つまり、羽根部110の往復運動は、図44に示すように、角速度が一定である打ち上げおよび打ち下ろしの運動と、これに連続する、角速度が変化する切り返しの運動、すなわち往復運動の運動方向を反転させるための運動とからなるものである。切り返しの運動の角速度は、打ち上げの運動の角速度および打ち下ろしの運動の角速度のそれぞれに連続するように変化する。この切り返しの運動としては、例えば1変数の三角関数等が挙げられる。しかしながら、回転角θ1およびθ2の角速度を変化させることによって、周囲流体から受ける反作用を変化させて、浮上移動装置100を移動させる手法が用いられてもよい。
また、本項目においては、説明の簡便のため、3種類の羽根部110の切り返しのパターンの組み合わせによって、すべての羽ばたき方が表現される手法が用いられているが、この手法は、羽ばたき方の表現の一例であり、本発明の羽ばたき方は、前述の手法によって表現される羽ばたき方に限定されない。
たとえば、回転角θ1およびθ2のパターンが多数存在する羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。すなわち、先行切り返しおよび遅れ切り返しのタイミングが複数種類ある羽ばたき方、または、切り返しのタイミングを連続的に自由に変更できる羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。逆に、中央切り返しは、先行切り返しと遅れ切り返しとを交互に繰り返す羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。このような羽ばたき方の表現手法であれば、中央切り返しのパターンのためのデータをメモリに記憶しておく必要が無いため、回転角θ1およびθ2のパターン数を低減させることができる。
また、図22および図33〜図36Bに示される回転角θの時刻歴は、図19および図20に表わされる構成を有する浮上移動装置100の回転角θの一例である。実際には、羽根部110を駆動するメカニズムに応じて、そのメカニズムを制御する各種パラメータが、前述の羽根部110の先行切り返しおよび遅れ切り返しを実現するように設定されるのであれば、回転角θの時刻歴は、図22および図33〜図36Bに示される回転角θの時刻歴に限定されない。
(位置検出センサ)
位置検出センサ160は、本体101に固定されている。そのため、位置検出センサ160によって計測された位置および姿勢は、浮上移動装置100の位置および姿勢そのものとなる。位置検出センサ160は、図37Aに示すように、計測された位置および姿勢のデータを後述する中央演算装置151に与える。このような機能を実現するためのセンサは、技術の進展により変化するものであり、本発明の本質に関わるものではないため、いかなるものであってもよい。また、前述の姿勢を検出するためのセンサの一例としては、磁気と加速度との組み合せで、0.5°程度の姿勢の変化を検出することができるものが市販されている。たとえば、GPS(Global Positioning System)によって1m程度
の誤差で位置検出を行なうことができる。また、近年、UWB(Ultra Wide Band)のよう
な、通信に用いる電波を利用して距離計測を行なう技術も開発されている。
(制御回路)
制御回路150は、図37Aおよび図37Bに示すように、中央演算装置151(Central Processing Unit)、中央演算装置151の指令により上および下部超音波モータ1
20および130を駆動するドライバ152、ならびに、ドライバ152に高電圧を供給する昇圧回路153等を有している。
<制御回路の動作>
制御回路150には、オペレータ210が操作するコントローラ200から通信装置170を介して運動指令が与えられる。運転指令は、一時記憶装置(以後、「RAM(Random Access Memory)」と言う。)155に格納される。中央演算装置151は、RAM155に記憶された運動指令に基づいて、羽ばたき方のデータを固定記憶装置(以後、「ROM(Read Only Memory)」と言う。)154から得る。その後、中央演算装置151は、その羽ばたき方のデータをドライバ152に与える。それにより、浮上移動装置100は、前述の前後左右上下方向の並進移動または鉛直を回転軸とする回転のいずれかを行なう。
<中央演算装置>
中央演算装置151は、前述の運動指令、ROM154およびRAM155の情報を用いて、ドライバ152にPWM(Pulse Width Modulation)信号および回転方向制御信号を出力する。これにより、コントローラ200を介してオペレータ210が与えた運動指令に応じて超音波モータ120おび130が動作する。その結果、運転指令に対応する羽ばたき方が実現される。なお、羽ばたきの往復運動の周期は、反復タイマ156を用いて決定される。
<反復タイマ>
中央演算装置151は、図37Aおよび図37Bに示すように、反復タイマ156を内蔵している。反復タイマ156は、羽ばたき運動の位相ψとして、−0.5〜0.5の値を50Hzの繰り返し周期で、中央演算装置151に出力する。ただし、羽ばたき運動の位相ψが、−0.5からカウントアップされ、0.5になると、再度、位相ψの値が−0.5からカウントアップされるものとする。この反復タイマ156の1周期に対応して、羽根部110が往復運動の中央位置よりも前方に位置する前方羽ばたき運動、および、羽根部110が往復運動の中央位置よりも後方に位置する後方羽ばたき運動のそれぞれが行なわれる。すなわち、反復タイマ156の1周期が羽ばたき運動の周期の2倍に対応する。本実施の形態においては、位相ψが正であれば、浮上移動装置100は後方羽ばたき運動を行ない、位相ψが負であれば浮上移動装置100は前方羽ばたき運動を行なうものとする。近年、機器制御に用いられているマイクロコントローラの多くには、本項で説明されている反復タイマとほぼ同様の、オートリロードタイマと呼ばれる機能が含まれており、これを用いることで、最も簡便に本項の反復タイマの機能を実現することができる。
<ROMに格納された羽ばたき方のデータ>
ROM154は、羽ばたき方のデータを格納している。羽ばたき方のデータは、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比の時刻歴のデータである。なお、超音波モータ120および130には、周波数が250KHzでありデューティ比が50%に固定された駆動電圧が印加される。一方、図38に示すように、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比とは、デューティ比が50%に固定された250KHzの駆動電圧のON期間とOFF期間との和に対するON期間の比率である。
すなわち、前述の先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しの3つのモードに対応する羽ばたき方のデータは、羽ばたき運動の位相ψに対応したドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比として、ROM154に予め格納されている。なお、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比は、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)で示される。ただし、表2に示すように、−0.5≦ψ<0.5において、MODE=1が先行切り返しであり、MODE=0が中央切り返しであり、MODE=−1が遅れ切り返しであるものとする。
図39〜図41には、それぞれ、後方での切り返し動作行なう場合の、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しにおけるDuty1およびDuty2の値が示されている。ただし、Duty1およびDuty2が負の値であれば、羽根部110は、往復運動の中央位置を基準にして、後方から前方へ移動する動作が行なわれていることを意味する。なお、本実施の形態においては、各Dutyの関数は、羽ばたき動作が前後方向に対して垂直な面に関して対称であるため、Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ)と表現され得る。
すなわち、符号変換のみによって、ψが負の領域での各Duty値は、ψが正の領域での各Dutyの関数を用いて算出される。そのため、上記の各Dutyの関数は、ψが正である領域のみ、ROM154に格納されている。これによれば、ROM154に格納されている各Duty関数のデータ量を半分に減らすことができる。よって、本実施の形態においては、各Duty関数のうちψが正の領域のみが示される。
なお、右の羽根部110と左の羽根部110とはZ軸に対して鏡面対称であるため、前述の座標系のX軸の方向の正と負とを反転させた左手系の座標が採用されれば、右の羽根部110の制御においても前述と同様のDuty1およびDuty2を用いることができる。
また、上部ロータ122を駆動するための電圧のDuty1のグラフは、図39〜図41のいずれにおいても同一のグラフになっているが、下部ロータ132を駆動するための電圧のDuty2のグラフは、図39〜図41において異なったグラフになっていることが分かる。また、図22、図33、および図34から分かるように、上部ロータ122の回転角θ1のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)が変更されても同一であるが、下部ロータ132の回転角θ2のグラフは、羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっている。これによれば、上部ロータ122の振幅は常に一定値に固定されているが、下部ロータ132の振幅は羽ばたき方(中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返し)に応じて異なっていることが分かる。
<中央演算装置の動作>
中央演算装置151は、位相ψの符号に基づいて、現在の羽ばたき方が前方羽ばたき運動であるか、または、後方羽ばたき運動であるかを判断する。その後、中央演算装置151は、ROM154に格納されている表2に示すデータに基づいて、羽ばたき方の状態を判断するとともに、通信装置170によって得られたRAM155に格納されている運動指令に応じて、前述のMODEの値を判断する。
さらに、中央演算装置151は、前述の位相ψの値に基づいて、ROM154に格納されたDuty1およびDuty2の値を得る。この値の絶対値が、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比である。また、この値の符号が、ドライバ152へ送信される、上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの回転方向である。前者は、例えばABS(Duty)というコマンドで表現され、後者は、例えばSIGN(Duty)というコマンドで表現される。これらのコマンドは、マイクロコントローラに内蔵されている。これらのコマンドを用いた演算は、一般的なマイクロコントローラにおいて容易に実行されるものである。
中央演算装置151は、前述のデューティ比に基づいて、羽ばたき方に対応するPWM制御のためのON/OFF信号をドライバ152に出力するとともに、位相ψの正または負に応じた回転方向制御信号をドライバ152に出力する。
本実施の形態では、振動板1211の共振周波数が250kHzであるため、たとえば、共振周波数が2.5kHzであるPWM制御が実行されれば、100段階の超音波モータの制御を行なうことが可能である。
<ドライバの動作>
ドライバ152は、中央演算装置151から与えられたPWM制御信号のON/OFFおよび回転方向制御信号に応じて、超音波モータ120を回転/停止、および、正転/反転させる。
超音波モータ120は自己位置保持機能を有するため、回転および停止の動作は、PWMのON/OFFに応じて後述の電力供給をON/OFFすることによって、実現される。
また、図9および図13に示されるように、超音波振動子121において、裏面電極1217に与えられる電位φAの位相と表面電極1216に与えられる電位φBの位相との差を変更することによって、上部ロータ122の正回転と負回転との間の変更を行なうことができる。
ドライバ152は、中央演算装置151からPWM信号を受けて、電位φAおよびφBのデータを作成する回路と、昇圧回路153から供給される高圧電力を制御して、超音波振動子121の表面電極1216および裏面電極1217に電位φAおよびφBを与える回路とからなる。前者は、一般的なタイマ回路やCPU(Central Processing Unit)を
用いて容易に実現され得るものであり、後者は、たとえば、ハーフブリッジ回路を用いて実現される。これは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を用
いて集積化され得るものであり、後述されるように、羽ばたき飛行という用途に十分に適したものになり得るほど小型化および軽量化され得るものであり、市販されているものである。本発明者らの実験によれば、これらの回路は、3mm×3mm×0.85mmの小型パッケージに収められ得るものであり、そのパッケージの質量は約25mgである。
一般的に、前者のプログラムは以下のように表される。
:Label
if(PWM=ON) then
if(回転方向=正方向) then
φA=1
φB=1
φA=0
φB=0
end if
if(回転方向=逆方向) then
φB=1
φA=1
φB=0
φA=0
end if
end if
goto Label
但し、これらは簡易に前者回路の動作を表現するための一例であり、実際のプログラムにおいては、φAおよびφBのそれぞれが250kHzの矩形波となるようなタイミング調整が行なわれるため、ダミーの実行文の挿入等が必要になる。
<昇圧回路>
昇圧回路153は、電源190の電圧(3V)を、超音波モータの駆動のために必要な±15Vの電圧に変更して、±15Vの電圧をドライバ152に印加する。昇圧回路153としては、一般的なDC(Direct Current)−DCコンバータが用いられ、その一例と
して、3mm×3mm×0.85mmという小型パッケージが市販されている。昇圧回路153の質量は約25mgである。
<ブロック図>
前述の制御の体系のブロック図が図37Aに示されている。なお、4つの超音波モータの駆動方法は同一であるため、図37Aには左の羽根部110を駆動する上部超音波モータ120の制御体系のみが示され、他の制御体系は省略されている。また、図37Bは、後述する図42のフローチャートにおけるデータ処理の流れを説明するための機能ブロック図である。
<制御フローチャート>
次に、図42を用いて、浮上移動装置の制御のためのフローチャートの一例を説明する。なお、このフローチャートは、一例であり、浮上移動装置100のアプリケーションによって変更され得るものである。
なお、以下のフローチャートにおいて、反復タイマ156は前述のオートリロードタイマを用いて恒常的に動作しており、ステップS1においては、ψ=0である状態から処理が開始されるものとする。このとき、α=0°であるものとする。
ステップS1<浮上移動装置動作決定>
コントローラ200から送信されたオペレータ210の運動指令が、通信装置170を介して、RAM155に格納される。
ステップS2<羽ばたき状況検出>
中央演算装置151は、反復タイマ156から送信されてきた位相ψの値のデータに基づいて、浮上移動装置100の現時刻での羽ばたき方の状態を認識する。具体的には、中央演算装置151は、位相ψの値が正であれば、浮上移動装置100が後方羽ばたき運動を行なっていると判断し、位相ψが負であれば、浮上移動装置100が前方羽ばたき運動を行なっていると判断する。
ステップS3<羽ばたきモード決定>
中央演算装置151は、上記運動指令に応じて表2の行成分を選択し、また、上記羽ばたき方の状態に応じて表2の列成分を選択する。それにより、中央演算装置151は、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの中からいずれか1の羽ばたきモード、すなわちMODEの値を選択する。選択された羽ばたきモードのデータは、RAM155に格納される。
ステップS4<デューティ比決定>
中央演算装置151は、前述の羽ばたきモードのデータに基づいて、ROM154に格納されたDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)のデータの中からドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比を選択する。
ステップS5<ドライバ駆動>
中央演算装置151は、上記PWM制御信号のデューティ比の正または負に応じて、回転方向制御信号をドライバ152に出力するとともに、そのデューティ比のPWM信号をドライバ152に出力する。すなわち、ABS(A)をAの絶対値とし、SIGN(A)をAの符号とすると、回転方向制御信号はSIGN(Duty)であり、デューティ比はABS(Duty)である。なお、ここで、Dutyは、上部および下部超音波モータ120および130に応じた、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)を意味する。
ステップS6<超音波モータ駆動>
ドライバ152は、上記回転方向制御信号に応じて、振幅が30Vであり、かつ、周波数が250kHzである矩形波の電圧を表面電極1216および裏面電極1217に印加する。これらの2つの矩形波は、±90°位相が異なっている。具体的には、ドライバ152は、超音波振動子121の表面電極1216に矩形波の電位φBを与え、また、超音波振動子121の裏面電極1217に矩形波の電位φAを与える。この矩形波の電位φAの位相と矩形波の電位φBの位相とが±90°ずれている。
ステップS7<次回羽ばたきモード選択>
ψ=0またはψ=−0.5の場合には、羽ばたき方の状態が変更されたことを意味するため、再びステップS1の処理が実行され、運動指令の変更も含め、羽ばたきモードが更新される。ψ=0またはψ=−0.5以外の場合には、羽ばたきモードは更新されず、ステップS4の処理が実行され、新たな位相ψが設定される。
<補足>
なお、上記指令の形態はあくまで説明のための一例であり、これに限定されない。たとえば、速度指令が電圧値としてアナログ信号で与えられることにより、量子化誤差のない滑らかな速度指令が得られる手法が用いられてもよい。また、超音波モータの駆動に必要な電圧は、技術の進歩によって変化し得るものである。たとえば、現行の主なTTL(Transistor Transistor Logic)−IC(Integration Circuit)やCPU(Central Processing Unit)の駆動電圧である3V以下で駆動し得る超音波モータが実現されれば、昇圧回
路153は不要となる。
また、本実施の形態では、説明の簡便のため、フィードバック制御を行なわず、単にコントローラ200の指令によって羽ばたき方が一義的に選択される手法の説明がなされたが、浮上移動装置100の制御手法は、前述の手法に限定されない。
たとえば、中央演算装置151が位置検出センサ160から位置および姿勢の情報を得て、その情報に基づいて運動指令を新たに作成するフィードバック制御が用いられてもよい。
さらに、本実施の形態では、説明の簡便のため、デューティ比に応じて超音波モータ120および130の回転速度が一義的に決定されるという仮定の下に説明がなされているが、負荷の変動などによってはこの仮定が成り立たない場合も考えられる。この場合には、上部磁気エンコーダ126の信号によって得られる上および下部超音波モータ120および130の回転角θ1およびθ2の値を参照して、デューティ比が調整されてもよい。
なお、前述の浮上移動装置の制御においては、理想的には、高い機動力を得るための羽ばたき運動の制御に必要な演算時間が短いことが望ましい。また、浮上移動装置は軽量であることが望ましい。このため、前述の羽ばたき運動を制御するアルゴリズムも極力単純であることが望ましい。これらのことを考慮すると、高い機動力を有する羽ばたき浮上移動装置に求められる要件は、単独性、連続性、選択性、独立性、および単純性である。
単独性とは、流体力発生機構が設置されている胴体の姿勢に関わらず、当該流体力発生機構が単独で流体力の方向を変更することができることを意味する。単独性の欠如している浮上移動装置の例として、ロータが胴体に固定されているヘリコプターが挙げられる。
連続性とは、羽ばたき運動の変更が、胴体に大きな加速度を生じさせずに、連続的に行なわれることを意味する。
選択性とは、羽ばたき運動の変更が、過去の羽ばたき運動の履歴に関わらず、独立して行なわれることを意味する。選択性が欠如している浮上移動装置の例として、先述のRon FearingらによるMFI(Micromechanical Flying Insect)が挙げられる。これは共振によって羽根部を駆動しているため、羽ばたき方を複数周期に渡って徐々に変更することしかできない。
独立性とは、流体力発生機構が生み出す流体力が、羽ばたき運動の変更の履歴に影響されないことを意味する。独立性が欠如する具体的な場面として、以前の羽ばたき運動により生じた気流の影響を受ける現象などが挙げられる。
単純性とは、羽ばたき運動の変更を実現するためのアルゴリズムが極力単純であることを意味する。
(高機動力要件の検討)
<<単独性>>
本実施の形態における羽ばたき浮上移動装置100の制御は、表2に示されるように、全て、羽ばたき運動の両端における羽根部の捻り動作のタイミングの選択によって行なわれる。これは、胴体の姿勢に拘束されないため、単独性が確保される。
より具体的には、図35A、図35B、および図35Cに示される先行切り返しおよび遅れ切り返しのうちの一方の羽ばたき方が選択されると、羽根部110の加速度の水平方向成分を独立して制御することが可能で、羽ばたき運動の1周期における羽根部110の加速度の水平方向成分の方向を前方および後方のいずれかに向けることができる。したがって、浮上移動装置は、本体部(胴体)101の姿勢を変化させることなく、羽根部110の動作のみの変更によって、流体力の方向を変更することが可能である。
<<連続性>>
前述の羽根部110の捻り、すなわち切り返しの動作は、羽ばたき運動における羽根部110の往復運動の始点または終点を含む特定期間においてのみ異なり、いずれの羽ばたき方においても、羽ばたき運動の往復運動の中心位置を含む所定期間においては、羽根部110の運動は同一である。つまり、複数種類の羽ばたき運動は、往復運動の中心位置を含むタイミングにおいて、共通の動作をする。このため、羽ばたき運動中に羽ばたき方の変更がなされても、その羽ばたき方の変更が共通の動作をするタイミングにおいてなされるのであれば、1の羽ばたき方から他の羽ばたき方への変化における羽根部110の挙動は、連続的なものである。つまり、羽ばたき方の変更はスムーズに行なわれる。
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置は、制御回路150のROM154が、羽根部110に羽ばたき運動をさせるための複数種類のデータ(表2参照)を有し、複数種類のデータに基づいてアクチュエータ(上部および下部ロータ120および130)を制御する。複数種類のデータのそれぞれは、羽根部110の往復運動の1周期の動作を特定可能であり、複数種類のデータは、往復運動の1周期の所定期間において、羽根部110に共通の羽ばたき運動をさせるものである。具体的には、複数種類のデータは、先行切り返しのためのデータ、中央切り返しのためのデータ、および遅れ切り返しのためのデータからなる3種類のデータであり、図35Bおよび図35Cならびに表2によって表わされている羽ばたき方(停空、上昇、下降、前進、後退、右移動、左移動、右旋回、および左旋回)をさせるためのデータである。制御回路150は、羽根部110の往復運動の中心位置を含む所定期間において、アクチュエータ(ロータ120,130)が複数種類のデータのうちの1のデータによって特定される羽ばたき運動を羽根部110にさせる制御からアクチュエータが複数種類のデータのうちの他のデータによって特定される羽ばたき運動を羽根部110にさせる制御へ切り換える。
上記の構成によれば、羽根部の運動に不連続な変化が生じることなく、羽ばたき運動の態様を変更することができる。そのため、羽ばたき運動の「連続性」が実現される。
また、羽根部は、1のデータによって特定される羽ばたき運動においては、往復運動の一周期のうちの2つの特定期間のそれぞれにおいて行なわれる他のデータによって特定される羽ばたき運動とは異なる軌跡を描くことが望ましい。これによれば、羽根部110は、往復運動の1周期の間に最大で4種類の状態に順次変化する。そのため、羽ばたき運動のバリエーションが豊富になる。
<<独立性>>
また、2つの特定期間は、互いに1/2周期ずれていてもよい。これによれば、1の特定期間と他の特定期間とが時間的に最も大きくずれて繰り返される。そのため、一方の特
定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
また、2つの特定期間の一方および他方は、それぞれ、羽根部110の往復運動の一方端に位置するタイミングおよび羽根部110の往復運動の他方端に位置するタイミングを含むことが望ましい。つまり、羽根部110の切り返しは、前後方向の往復運動の端部を含む期間において行なわれることが望ましい。これによれば、1の特定期間における羽根部110の位置と他の特定期間における羽根部110の位置とが最も離れている。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
すなわち、本実施の形態の浮上移動装置においては、羽ばたき運動の両端のそれぞれを含む特定期間においてのみ羽根部110の動作が異なる複数種類の羽ばたき運動が行なわれる。そのため、以前の羽ばたき運動によって生じた流体の挙動が現在の羽ばたき運動に与える影響は極力低減されている。これにより、独立性が実現されている。
<<単純性>>
また、2つの特定期間の一方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分と、2つの特定期間の他方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分とが、相殺される。これによれば、羽ばたき運動の変更に起因する浮上移動装置の姿勢の変化の態様が単純になる。そのため、浮上移動装置を所望の姿勢にするための制御が容易になる。したがって、羽ばたき運動の変更における「単純性」が確保される。
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置においては、表2に示されるように、浮上移動装置の浮上移動の態様(停空、上昇、下降、前進、後退、左移動、右移動、左旋回、右旋回)と、浮上移動の態様を実現するための羽ばたき方(先行切り返し、中央切り返し、および遅れ切り返しの組み合わせ)とが一対一に対応している。そのため、羽ばたき方に対応する上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの駆動デューティ比のデータが変更されるだけの極めて単純なアルゴリズムによって、浮上移動態様の変更を実現することができる。したがって、本実施の形態の浮上移動装置においては単純性が実現されている。
更に、複数のデータのうちのホバリングのためのデータによって特定される羽ばたき運動は、羽根部110に上下方向および左右方向を含む平面に対して鏡面対称な前後方向の往復運動をさせるものであり、制御回路150は、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の一方端まで羽根部110を移動させるための基本データ(図39、図40、および図41)と、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の他方端まで羽根部110を移動させるように、基本データを変換するためのアルゴリズムまたは演算機能部、即ち(Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ))とを含んでいることが望ましい。これによれば、制御回路150は、羽ばたき運動の1周期の1/2の期間のみのためのデータを有しているだけで、所望の羽ばたき運動を羽根部110にさせることができる。そのため、制御回路150のデータの記憶のためのメモリ容量を低減することができる。その結果、浮上移動装置を小型化かつ軽量化することができる。
(通信装置)
通信装置170は、外部のコントローラ200から、浮上移動装置100に必要とされる加速度の情報を受信し、その情報を制御回路150の中央演算装置151に与える。ま
た、通信装置170は、画像センサ180よって得られた画像情報を、外部のコントローラ200に送信する。
(電源)
本発明の駆動エネルギー源としての電源190は、必要とされる電力を供給できる放電特性を有し、かつ、浮上を妨げない質量を有するものであれば、いかなるものであってもよい。
本発明者らが用いた電源190は、質量0.7gのリチウムイオン電池で、本発明者らの計算によれば、約50秒にわたり0.6Wを供給することができる。電源190は、本体101の下部に設けられている。そのため、電源190は、羽根部110が受ける流体反力の作用点であるベアリング123より下側に位置し、浮上移動装置100の姿勢を自律的に安定させている。
この他の電源としては、燃料電池、電気二重層コンデンサなどのキャパシタ、太陽電池、および有線による供給、等が挙げられる。また、これらの電源が併用されてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の他に、羽根部110の表面に太陽電池が設けられ、これらの電力が併せて用いられてもよい。
(本体)
本体101は、底部プレート102、上部プレート103、底部プレート102と上部プレート103とを連結するフレーム部104、および、底部プレート102に設けられた脚105からなる。
底部プレート102および上部プレート103は、厚さ0.2mmのCFRPからなり、フレーム部104は厚さ35μmのステンレスからなる。脚105は、肉厚40μm、長さ10mm、かつ直径0.5mmのCFRPの中空パイプからなる。
また、上部プレート103および底部プレート102は、ロータシャフト124、支持シャフト127、および本体補強ポール112によっても連結されている。
(画像センサ)
画像センサ180は、CMOS(Complementary Metal Oxide Silicon)イメージャからなり、その質量は200mgである。画像センサ180によって取得された画像情報は、通信装置170によって外部のコントローラ200に送信される。
(浮上の可否)
<質量>
本発明者らの計算によれば、羽根部1枚が生み出す浮上力は1.2gfである。よって、羽根部2枚が生み出す浮上力は2.4gfである。また、各構成要素の質量が表3に示されている。表3に示されるように、浮上移動装置100の総質量は2.17gであり、この値は、前述の浮上力2.4gfよりも小さいため、浮上移動装置100は、浮上することができる。
<消費電力>
本発明者らの計算によれば、浮上移動装置100の羽根部が1.2gfの浮上力を生ずるに要求される機械的パワーは上および下部超音波モータ120および130共に最大40mWである。各超音波モータのエネルギー変換効率は33%である。したがって、浮上のために要求される最大電力は超音波モータ1つにつき約120mWであり、それらの電力の合計は480mWである。ドライバ152および昇圧回路153の総合効率は約85%であるため、4つの超音波モータの駆動のために必要な電力は最大565mWである。
中央演算装置151の消費電力は5mWである。磁気エンコーダ126の消費電力は5mWである。位置検出センサ160の消費電力は5mWである。画像センサ180の消費電力は15mWである。通信装置170の消費電力は5mWである。
これらの電力の総計は、最大600mWであり、電源190の能力の範囲内の値である。したがって、浮上移動装置100は、内蔵された電源190から供給された電力のみを用いて浮上することができる。したがって、浮上移動装置100は、外部から電力の供給を受けることなく、独立して羽ばたき飛行することができるスタンドアロンタイプのロボットになり得るものである。
<別実施の形態>
図45〜図47を用いて、本発明の別実施の形態の浮上移動装置を説明する。別実施の形態の浮上移動装置は、以下に説明する事項以外に関しては、上述の実施の形態の浮上移動装置と同様の構成を有している。なお、別実施の形態と上述の実施の形態との比較において、同一の参照符号が付されている部位は、同一の構造および機能を有するため、その説明は繰り返さない。
<構成および動作原理>
図45は、本発明の別実施の形態の浮上移動装置のトルク補助機構を示す図である。
上部超音波モータ120は上部超音波モータベースプレート383に固定されており、上部超音波モータベースプレート383は、バネ381を介して、固定点382において本体101に接続されている。また、上部超音波モータベースプレート383の所定の部位は、図45において左側に模式的に示されるロータシャフト124を回転中心軸として円弧状の軌跡上を移動するように、本体101の平面視において円弧状の内壁によって拘
束されている。なお、バネ381のバネ定数は、前述の実施の形態と同様のバネ定数である。
バネ381に蓄えられるエネルギーは、浮上移動装置が羽ばたく空間内の流体から受ける抗力に応じて変化する。そのため、羽ばたきのための往復運動の両端のそれぞれの切り返しの前半でエネルギーがバネ381に蓄えられる。また、羽ばたきのための往復運動の両端のそれぞれの切り返しの後半においては、羽の運動方向が逆になるため、バネ381に蓄えられたエネルギーがアクチュエータ122に供与される。
このような構成によれば、羽ばたきのためのストローク角αの振幅の大小によらず、常に羽ばたき運動の両端でエネルギーの蓄積および供与が実現される。そのため、特別な工夫を行なうことなく、上下超音波モータの回転運動がバネ381によって補助される。
なお、図45は、説明の簡便のため、エネルギー蓄積・供与機構を模式的に描いた図であり、上部超音波モータベースプレート383およびバネ381等の形状は、エネルギー蓄積・供与機構の機能を果たすことができるのであれば、いかなるものであってもよい。また、上部超音波モータベースプレート383の所定の部位は、上部ロータ122と上部超音波振動子121との接触角を一定に維持するために、上述のような円弧状の軌跡を描くものとした。しかしながら、上部超音波モータベースプレート383の所定の部位は、上部ロータ122と上部超音波振動子121との接触角の変化の値が許容範囲内の値であるのであれば、いかなる軌跡を描くように移動してもよい。たとえば、図46に示されるように、上部超音波モータベースプレート383の所定の部位は、直線状の軌跡を描くように移動してもよい。これによれば、本体101の内壁の構造がシンプルになる。
また、図47に示されるように、ロータシャフト124の中心点付近に固定端385を有する板バネ384を用いることによっても、上部超音波モータベースプレート383の所定の位置が円弧状の軌跡を描くように、上部超音波モータベースプレート383の移動を拘束しながら、アクチュエータのエネルギー蓄積およびアクチュエータへのエネルギーの供与を実現することができる。これによれば、極めてシンプルな構造で、上部超音波モータベースプレート383の移動の拘束およびエネルギーの蓄積および供与の双方の機能を果たすことができる。なお、描画の簡便のため、図47においては、上部ロータ122およびロータシャフト124等は描かれていないが、それらは、図45および図46に示される上部ロータ122およびロータシャフト124と同一の位置に設けられている。
(実施の形態の浮上移動装置が解決した主な課題)
次に、前述の本実施の形態の浮上移動装置によって解決された課題を説明する。
羽ばたき飛行においては、羽根部(たとえば、昆虫のwingような部分)を前後方向において往復運動させるため、羽根部の運動方向を180°反転させることが必要である。そのため、これを用いる浮上移動装置(以下、「羽ばたき浮上移動装置」とも言う)は、同一の浮上力を得ることができるヘリコプターに比べて、羽根部の切り返し(羽根部の運動方向の180°反転)のために大きなトルクを必要とする。その結果、アクチュエータに求められるトルクのピークおよびそのアクチュエータへエネルギーを供給する駆動エネルギー源に求められるエネルギーのピークが大きくなってしまう。したがって、アクチュエータおよび駆動エネルギー源が大型化してしまう。それにより、浮上移動装置全体の重量が増加する。そのため、浮上移動装置に求められる機動力等の性能が低下してしまうという問題がある。以下、前述の問題を具体的に説明する。
図43は、従来の羽ばたき浮上移動装置の羽根部を駆動するためにアクチュエータに要求されるトルクの時刻歴と、当該羽ばたき浮上移動装置の浮上力と同一の浮上力を発生さ
せる回転翼を有する浮上移動装置(以下、ヘリコプターと称する)の回転翼(以下、ロータ
と称する)を回転させるために必要なトルクの時刻歴とを模式的に示すグラフである。本
項目にて説明する羽ばたき浮上移動装置の羽ばたき方は、図44に示すように、周波数が25Hzで繰り返される往復運動であり、2種類の運動からなる。一つは、角速度が一定の前後方向の回転往復運動であり、他の一つは、羽根部の切り返し時に行なわれる角速度の符号の正と負とが反転する正弦波運動である。また、図44の角速度のグラフにおいて、正弦波運動を示す線は、回転往復運動を示す直線同士を滑らかに繋いでいる。なお、後述する実施の形態の浮上移動装置も、図43および図44に示すような羽ばたき方をすることが前提となっている。
また、実際には、羽ばたき飛行時には、羽根部は前後方向における回転往復運動の両端のそれぞれにおいて羽根の長手方向を回転軸とする捻り運動をする。しかしながら、この羽根部の捻り運動のためにアクチュエータに要求されるトルクは、図43に示される、羽の前後方向における往復運動に要求されるトルクに比べて無視できるほど小さい。したがって、説明の簡便のため、この羽根部の捻り運動のためのアクチュエータに要求されるトルクは、以下の説明では、考慮しないものとする。
以上の前提に基づき、羽ばたき浮上移動装置におけるアクチュエータに要求されるトルクについて考察する。羽ばたき浮上移動装置におけるアクチュエータに要求されるトルクは、図43に示されるように、往復運動の殆どの期間ではヘリコプターにおける回転翼に要求されるトルクと同等である。しかしながら、羽ばたき浮上移動装置においては、打ち上げから打ち下ろしへ、または、打ち下ろしから打ち上げへの羽根部の動作の変更のタイミングにアクチュエータに要求されるトルクが、ヘリコプターの回転翼に要求されるトルクの2倍程度である。また、このタイミングにおいては、アクチュエータに要求されるトルクと同様、アクチュエータが消費するパワーも急増する。
一般に、同一の構成を有する2つのアクチュエータの対比において、相対的に大きなトルクを生じさせるアクチュエータの質量は、相対的に小さなトルクを生じさせるアクチュエータの質量に比較して大きい。また、同一の構成を有する2つの駆動エネルギー源、たとえば、2つの電池の対比において、相対的に大きなパワーを供給できる駆動エネルギー源は、相対的に小さなパワーを供給する駆動エネルギー源に比較して、より大きな質量を有する。
要するに、従来の羽ばたき浮上移動装置は、図43に示されるような短時間におけるトルクおよびパワー増加に対応するため、同一の浮上力を生じさせるヘリコプターよりも質量が大きいアクチュエータおよび駆動エネルギー源を必要とする。その結果、浮上移動装置に生じる加速度が低減されてしまう。したがって、浮上移動装置の機動力は低下せざるを得ない。
言い換えれば、従来の浮上移動装置は、羽根部の切り返しという短時間に要求される大きなトルクおよびパワーを出力するために、非常に大きなアクチュエータおよび駆動エネルギー源を必要とする。その結果、機動力が損なわれている。
前述の従来の浮上移動装置が解決した課題は、次に述べられる本実施の形態の浮上移動装置の構成によって解決される。
本実施の形態の浮上移動装置は、本体に取り付けられた前縁部を有する羽根部と、羽根部を前後方向に往復運動させるとともに、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、羽根部を前縁部周りに捻るアクチュエータとを備えている。また、その装置は、往復運動のためにアクチュエータに要求されるトルクが所定値より小さい場合
にエネルギーを蓄積し、往復運動のためにアクチュエータに要求されるトルクが特定値より大きい場合にアクチュエータにエネルギーを与えるエネルギー蓄積・供与機構を備えている。
上記の構成によれば、往復運動のためにアクチュエータに要求されるトルクの時刻歴を平滑化することができる。したがって、上記要求トルクのピークが低減するため、アクチュエータおよび駆動エネルギー源の軽量化を図ることができる。
なお、浮上移動装置は、トルクを検出する手段を有していても、トルクを検出する手段を有していなくてもよい。浮上移動装置が、トルクを検出する手段を有していない場合には、エネルギー蓄積・供与機構が浮上移動装置に設けられていない場合においてアクチュエータに要求されるトルクに応じて、予め、エネルギーを蓄積するタイミングとエネルギーを供与するタイミングとが決定されている。また、エネルギー蓄積・供与機構は、前述のトルクが所定値より小さい場合に、必ずエネルギーを蓄積するものでなくてもよく、トルクが所定値より小さい期間が複数ある場合には、その複数の期間の少なくともいずれかの期間においてエネルギーを蓄積すればよい。また、エネルギー蓄積・供与機構は、前述のトルクが特定値より大きい場合に、必ずエネルギーを供与するものでなくてもよく、トルクが特定値より大きい期間が複数ある場合には、その複数の期間の少なくともいずれかの期間においてトルクのピークを低減するようにエネルギーを供与すればよい。
また、前述の往復運動が、角速度が一定である運動と、この運動に連続して行なわれ、角速度が変化する、運動方向の反転のための運動とからなり、エネルギー蓄積・供与機構が、運動方向の反転のための運動の前半にアクチュエータのエネルギーを蓄積し、運動方向の反転のための運動の後半にエネルギーをアクチュエータに与えてもよい。
運動方向の反転のための運動の前半においては、羽根部および羽根部の周囲の流体の慣性力が羽根部に作用するため、前述のトルクが小さい。逆に、運動方向の反転のための運動の後半においては、羽根部は前述の慣性力に逆らって運動する必要があるため、前述のトルクが大きい。したがって、上述のように、運動方向の反転のための運動の前半にアクチュエータのエネルギーを蓄積し、運動方向の反転のための運動の後半に蓄積されたエネルギーをアクチュエータに与えれば、最も効果的に、羽ばたき運動に必要なトルクの時刻歴の平滑化を図ることができる。
また、エネルギー蓄積・供与機構は、充放電可能な電池を有し、アクチュエータのエネルギーを電池に電力として蓄積し、該電池に蓄積された電力を用いてアクチュエータにエネルギーを与えてもよい。これによれば、エネルギーの蓄積および供与を必要に応じて行なうことができる。
また、エネルギー蓄積・供与機構は、物質の弾性変形によってアクチュエータのエネルギーを蓄積し、物質の復元力によってアクチュエータにエネルギーを与えてもよい。これによれば、予め弾性変形する物質を適切な位置に設けるだけで、何ら特別な制御を必要とせず、エネルギーの蓄積および供与を行なうことができる。
また、物質が固体であれば、液体または気体を用いてエネルギーの蓄積および供与を行なう場合に比較して、エネルギー蓄積・供与機構の構造を単純化することができる。
エネルギー蓄積・供与機構が、密閉された容器内の気体の圧縮および膨張によって、運動エネルギーの蓄積および供与を行なえば、気体は液体および固体に比較して軽量であるため、エネルギー蓄積・供与機構の軽量化を図ることができる。
また、エネルギー蓄積・供与機構が、密閉された容器内での気体の相変化によって、運動エネルギーの蓄積および供与を行なえば、単位体積あたりのエネルギーの蓄積量および供与量が増加するため、エネルギー蓄積・供与機構の小型化を図ることができる。
また、前述の往復運動が、角速度が一定である運動と、この運動に連続して行なわれ、角速度が変化する、運動方向の反転のための運動とからなり、物質が、運動方向の反転のための運動の期間のみにおいて、アクチュエータに接触するものであれば、往復運動の効率を低下することなく、前述のトルクの時刻歴の平滑化を実現することができる。
また、前述の物質がアクチュエータに設けられていれば、簡単な構造のエネルギー蓄積・供与機構が実現され得る。
また、前述の往復運動が、角速度が一定である運動と、この運動に連続して行なわれ、角速度が変化する、運動方向の反転のための運動とからなり、アクチュエータが、往復運動の両端の運動方向の反転のための運動の期間のそれぞれにおいて、物質を弾性変形させる構造を有していることが望ましい。これによれば、前述の弾性変形する物質のみによって、エネルギーの蓄積および供与が実現され得るため、エネルギー蓄積・供与機構の軽量化を図ることができる。
また、前述の物質が、羽根軸の往復運動の中心位置において弛んでいる紐状の弾性体を含んでいれば、エネルギー蓄積・供与機構の軽量化を図ることができる。
また、前述の物質が、トルクが最小値から極大値になるまでの期間において、弾性変形すれば、往復運動の効率を低下させることなく、前述のトルクの時刻歴の平滑化を実現することができる。
また、物質のバネ定数が、トルクの極大値をトルクが極大値になるときの物質の変形量で除算したものであれば、弾性変形する物質のバネ定数を最適値に設定することができる。
また、本実施の形態の浮上移動装置は、羽根部に前後方向の往復運動をさせる前後往復運動用ロータと、羽根部を前縁部周りに捻るための捻り運動用ロータとを備えており、エネルギー蓄積・供与機構が、前後往復運動用ロータのエネルギーを蓄積し、そのエネルギーを前後往復運動用ロータに与えてもよい。
これによれば、往復運動のためにアクチュエータに要求されるトルクのピークは、捻り運動のためにアクチュエータに要求されるトルクに比較して大きいため、効率的にエネルギーを蓄積および供与することができる。
本実施の形態の浮上移動装置は、本体に取り付けられた前縁部を有する羽根部と、羽根部を前後方向に往復運動させるとともに、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、羽根部を前縁部周りに捻るアクチュエータとを備えている。また、その装置は、往復運動においてアクチュエータの駆動のために要求されるエネルギーが所定値より小さい場合にエネルギーを蓄積し、往復運動においてアクチュエータの駆動のために要求されるエネルギーが特定値より大きい場合にアクチュエータにエネルギーを与えるエネルギー蓄積・供与機構とを備えている。
上記の構成によれば、アクチュエータの駆動のために要求されるトルクの時刻歴を平滑化することが可能になる。したがって、アクチュエータおよび駆動エネルギー源を小型化することが可能になる。
なお、浮上移動装置は、エネルギーを検出する手段を有していても、エネルギーを検出する手段を有していなくてもよい。浮上移動装置が、エネルギーを検出する手段を有していない場合には、エネルギー蓄積・供与機構が浮上移動装置に設けられていない場合においてアクチュエータの駆動のために要求されるエネルギーに応じて、予め、エネルギーを蓄積するタイミングとエネルギーを供与するタイミングとが決定されている。また、エネルギー蓄積・供与機構は、前述のエネルギーが所定値より小さい場合に、必ずエネルギーを蓄積するものでなくてもよく、エネルギーが所定値より小さい期間が複数ある場合には、その複数の期間の少なくともいずれかの期間においてエネルギーを蓄積するものであればよい。また、エネルギー蓄積・供与機構は、前述のエネルギーが特定値より大きい場合に、必ずアクチュエータにエネルギーを供与するものでなくてもよく、エネルギーが特定値より大きい期間が複数ある場合には、その複数の期間の少なくともいずれかの期間においてエネルギーのピークを低減するようにアクチュエータにエネルギーを供与するものであればよい。
また、本実施の形態の浮上移動装置においては、アクチュエータが、羽根部を前後方向に往復運動させるロータであって、相対的に小さな振幅で往復運動する第1ロータと、第1ロータにほぼ平行な方向において相対的に大きな振幅で往復運動する第2ロータとを備えていてもよい。この場合、当該装置が第1ロータの位相と第2ロータの位相との差によって、羽根部の捻りの程度を制御する制御部をさらに備えており、エネルギー蓄積・供与機構が、第1ロータのエネルギーを蓄積し、エネルギーを第1ロータに与えることが望ましい。
これによれば、上記と同様に、羽根軸の前後方向の往復運動のためにアクチュエータに要求されるエネルギーのピークは、捻り運動のためにアクチュエータに要求されるエネルギーのピークに比較して大きいため、エネルギー蓄積・供与機構は、効率的にエネルギーを蓄積および供与することができる。
また、本実施の形態の浮上移動装置においては、アクチュエータが、前縁部を前後方向に往復運動させるロータであって、前縁部に接続され、固定振幅で往復運動する第1ロータと、第1ロータにほぼ平行な方向において可変振幅で往復運動する第2ロータとを備えていてもよい。この場合、浮上移動装置が第1ロータの位相と第2ロータの位相との差の制御によって、羽根部の捻りの程度を制御する制御部をさらに備えており、エネルギー蓄積・供与機構が、第1ロータのエネルギーを蓄積し、エネルギーを第1ロータに与えることが望ましい。
上記構成によれば、より大きなトルクを必要とする前縁部を駆動するための第1ロータの振幅が固定されている。そのため、後述される手法によりトルクの平滑化を容易に実現することができる。また、第1ロータと第2ロータとの位相差は任意に設定され得るため、上記のトルク平滑化を達成しながら、羽根部の2自由度制御を実現することができる。つまり、浮上移動装置の多様な制御とトルクの平滑化の双方を実現することができる。
また、エネルギー蓄積・供与機構は、アクチュエータの移動によって生じる運動エネルギーを蓄積し、その運動エネルギーをアクチュエータに供与するものであってもよい。これによれば、アクチュエータがどのような態様で運動しても、エネルギー蓄積・供与機構は、アクチュエータのエネルギーを蓄積してアクチュエータに供与することができる。そのため、多様な制御およびエネルギーのピークの低減の双方を実現することができる。
また、アクチュエータがロータを含み、エネルギー蓄積・供与機構の所定の部位が、ロータの回転中心軸と共通の回転中心軸まわりに円弧状の軌跡を描くように移動してもよい
。これによれば、ロータの回転に起因したエネルギー蓄積・供与機構と他の部位との相対的位置関係の変化の度合いを極力小さくすることができる。
エネルギー蓄積・供与機構は、板バネを含み、板バネの固定端は、ロータの回転中心軸の近傍に位置付けられてもよい。これによれば、エネルギーの蓄積および供与と、円弧の軌跡を描く移動との双方を簡単に実現することができる。
(さらに別の実施の形態)
前述の図9〜図14Bに示した超音波アクチュエータ(超音波モータ)は、次の超音波振動子によって置き換えられてもよい。以下に示す本実施の形態の超音波振動子に付された名称および符号と前述の実施の形態の超音波アクチュエータ(超音波モータ)に付された名称および符号とが異なっている。しかしながら、本実施の形態の超音波振動子は、前述の実施の形態の超音波アクチュエータ(超音波モータ)と同一の機能を果たすような態様で、適宜名称および符号が変換されて、前述の実施の形態の浮上移動装置に組み込まれるものとする。
なお、本実施の形態にける超音波振動子は、前述の超音波振動子は、伸縮振動の共振周波数と屈曲振動の共振周波数とが実質的に一致するように設計される。
「伸縮振動の共振周波数と屈曲振動の共振周波数とが実質的に一致する」とは、個々の製品のために要求される駆動力を得ることができる程度に、伸縮振動の共振周波数と屈曲振動の共振周波数とが近似していれば、伸縮振動の共振周波数と屈曲振動の共振周波数とが完全に同一の値である必要はないという意味である。
以下、図48〜図66を用いて、本発明の実施の形態の超音波振動子の調整方法およびそれに用いられる超音波振動子が説明される。なお、本明細書においては、振動の節とは、その振動のみが生じているときに、その振幅が実質的にゼロである領域を意味する。たとえば、伸縮振動の節とは、伸縮振動のみが生じているときに、振動板の主板部の振幅が実質的にゼロであるような領域を意味し、屈曲振動の節とは、屈曲振動のみが生じているときに、振動板の主板部の振幅が実質的にゼロであるような領域を意味する。振幅が実質的にゼロである状態は、被駆動体の駆動にとって無視できる程度の振幅で超音波振動子が振動している状態を含む。
以下、図48〜図60を用いて、本発明の実施の形態1の超音波振動子の振動特性の調整方法およびそれに用いられる超音波振動子が説明される。
本実施の形態の超音波振動子は、複数の振動を組合せからなる動作をする超音波振動子1が組み立てられた後においても、前述の動作のために必要な2種類の振動のうちの1つの振動の特性を他の振動から独立して調整することが可能なものである。
<全体構成>
まず、図48を用いて、本発明の実施の形態の超音波モータ1000が説明される。図48は、超音波モータ1000の平面図である。図48に示されるように、超音波モータ1000は、超音波振動子1およびそれによって回転させられるロータ2からなっている。ロータ2は本発明の被駆動体の一例である。したがって、被駆動体は、回転するものに限定されず、他の動作をするものであってもよい。
超音波振動子1は、振動板7を有している。振動板7は、支持用突出部3を有している。貫通孔50が支持用突出部3に設けられている。シャフト5が貫通孔50を貫通している。また、シャフト5は、図49に示されるように、支持体4に固定されている。主板部
6の4つの角部のうちの1の角部Sにロータ2の外周面が当接している。ロータ2は、支持体4に回転可能に支持されているが、そのための機構は図示されていない。
また、超音波振動子1には、電極9,10,11,12,17および圧電素子8が設けられている。電極9,10,11,12,および17は、所定の信号が入力され得るように、制御装置(図示せず)に電気的に接続されている。
また、本実施の形態の超音波振動子1は、電極9,10,11,12,17に信号が入力されると、圧電素子8が振動する。圧電素子8の振動は、振動板7の主板部6に伝達される。その結果、主板部6の角部Sが楕円軌道Eを描くように、振動板7が振動する。その結果、角部Sに接触しているロータ2が円軌道Cに沿って移動する。すなわち、ロータ2がその回転中心軸周りに回転する。
<超音波振動子>
次に、図49および図50を用いて、超音波振動子1の構造がより詳細に説明される。図49および図50は、それぞれ、超音波振動子1の斜視図および分解斜視図である。
図49および図50に示されるように、超音波振動子1は振動板7を有している。振動板7は、シャフト5に固定された支持用突出部3と、支持用突出部3と一体的に形成され、振動によってロータ2を回転させる主板部6とを有している。
主板部6は、幅2mm、長さ9mm、かつ厚さ0.2mmの実質的に長方形の平面形状を有する平板状部材である。また、支持用突出部3は、主板部6の長辺の中央位置から主板部6の短辺方向に沿って延びるように、主板部6の長辺から突出しており、幅1mm、長さ2.15mmかつ厚さ0.2mmの実質的に長方形の平面形状を有する平板状部材である。
支持用突出部3には、直径0.6mmの円形の貫通孔50が設けられている。貫通孔50の直径は、0.6mmであり、シャフト5の直径と同一である。貫通孔50が、主板部6の長辺の中央位置から貫通孔50の中心点までの距離が1.0mmである。圧電素子8は主板部6の表面および裏面のそれぞれに取り付けられている。圧電素子8は、幅2mm、長さ8mm、かつ幅0.2mmの長方形の平面形状を有する平板状部材である。また、圧電素子8の長辺と主板部6の長辺とが一致するように、圧電素子8は主板部6に対して電極17を介して固定されている。
なお、振動板7および圧電素子8のそれぞれの寸法および形状は、上述の寸法および形状に限定されず、他の寸法および形状であってもよい。また、振動板7の材料は、特に限定されないが、ステンレス等の導電性を有する材料であることが望ましい。また、支持用突出部3と主板部6とは、別個の部材からなっていてもよいが、それらが1つの部材で一体的に形成されていることが望ましい。
圧電素子8は、チタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)かならなっているが、電圧が印加されて振動する素子であれば、いかなる材料からなっていてもよい。圧電素子8の一方の主表面上には、電極9,10,11,および12が取り付けられている。電極9,10,11,および12は、互いに同一の長方形の平面形状を有する平板状部材である。電極9,10,11,および12は、圧電素子8の一方の主表面が実質的に同一の4つの長方形の領域に分割されたとすると、4つの長方形の領域のそれぞれに設けられている。また、圧電素子8の他方の主表面上には、実質的に長方形の電極17が設けられている。電極17は、圧電素子8の他方の主表面と同一の長方形の平面形状を有する平板状部材である。
本実施の形態の超音波振動子1においては、2つの圧電素子8は、それぞれ、主板部6の一方の主表面および他方の主表面上に、電極17を介して設けられている。
2つの電極17は、それぞれ、その長辺方向が主板部6の長辺方向とが一致するように、主板部6の一方および他方の主表面に固定されている。2つの電極17は、それぞれ、銀ペーストなどの導電性接着剤によって主板部6に接着されている。
なお、圧電素子8と主板部6とが導電性接着剤によって接着されるのであれば、電極17が圧電素子8と主板部6との間に設けられていなくてもよい。この場合、導電性接着剤が電極17の役割を果たす。特に、本実施の形態の超音波振動子のように、主板部6がステンレスなどの導電性材料からなる場合には、2つの圧電素子8の電極17には、それぞれ、常に0Vの信号が入力されているため、圧電素子8と主板部6とが導電性接着剤によって接合されていれば、電極17が圧電素子8と主板部6との間に設けられていなくても、主板部6が電極17の役割を果たすことができる。
また、振動板7の一方の主表面に取り付けられている圧電素子8およびそれに取り付けられている電極9,10,11,12,および17と、振動板7の他方の主表面に取り付けられている圧電素子8およびそれに取り付けられている電極9,10,11,12,および17とは、振動板7の厚さ方向において鏡面対称に配置されている。したがって、振動板7の一方の主表面上の圧電素子8の振動特性と、振動板7の他方の主表面上の圧電素子8の振動特性とは実質的に同一である。したがって、本実施の形態の振動板7は、その面内方向において振動する。また、振動板7の主板部6は長方形であるため、前述の面内方向において、振動板7の角部Sは楕円振動する。
なお、本発明の目的を達成することができるのであれば、振動板7の一方の主表面に取り付けられている圧電素子8および電極9,10,11,12,および17と、振動板7の他方の主表面に取り付けられている圧電素子8および電極9,10,11,12,および17とは、非対称な構造を有し、または、非対称に配置されていてもよい。
次に、図51〜図54を用いて、本実施の形態の超音波振動子1の駆動方法が説明される。
超音波振動子1が駆動されるときには、所定の信号が、外部に設けられた制御装置(図示せず)から電極9,10,11,12,および17へ入力される。なお、振動板7の一方の主表面側に位置付けられた電極9,10,11,12,および17に入力される信号(印加電圧)は、振動板7の他方の主表面側に位置付けられた電極9,10,11,12,および17に入力される信号(印加電圧)に対して、主板部6を介して、鏡面対称に入力される。ただし、本発明の目的を達成することができるのであれば、振動板7の一方の主表面側に位置付けられた電極9,10,11,12,および17に入力される信号(印加電圧)と、振動板7の他方の主表面側に位置付けられた電極9,10,11,12,および17に入力される信号(印加電圧)とは、非対称であってもよい。
図50に示されるように、電極9と電極12とは、結線されており、同一の信号(φ1)が入力される、電極10と電極11とは、結線されており、同一の信号(φ2)が入力される。したがって、電極9,10,11,および12に入力される信号は、図51に示されるように、4つのモード(A),(B),(C),および(D)を有している。なお、図51には、振動していない状態の電極9,10,11,および12の全体の外形が破線で描かれ、伸縮振動または屈曲振動している状態の電極9,10,11,および12のそれぞれの形状が実線で描かれている。また、図52に示されるように、電極9および電極11に入力される信号と電極10および電極12に入力される信号とは、その位相にお
いて90度のズレを有しているが、同一の振幅および周波数を有している。
上述の超音波振動子1の主板部6は、図53に示される伸縮振動および図7に示される屈曲振動との組合せの振動を行なう。図53に示される伸縮振動によれば、振動板7の主板部6は、白抜き矢印で示されるように、長辺方向において圧縮されたり伸張されたりする。それにより、角部Sは、長辺方向に振動する。一方、図54に示される屈曲振動によれば、振動板7は、一のS字形状からそれに鏡面対称な他のS字形状へ変化する。それにより、振動板7の主板部6の角部は、白抜き矢印で示すように、短辺方向において振動する。
なお、主板部6が伸縮振動する場合には、図51から分かるように、長辺方向の振幅が短辺方向の振幅に対して極めて大きいため、角部Sは実質的に長辺方向に振動すると言えるが、主板部6が屈曲振動する場合には、長辺方向の振幅と短辺方向の振幅との差があまり大きくないため、角部Sは、実際には、電極形状に応じて斜め方向に振動する。
伸縮振動の共振周波数と同一の周波数で変化する電圧が、電極9,10,11,および12のそれぞれに同一の位相で印加されると、主板部6は、図53に矢印で示される方向において、伸縮振動を行なう。また、屈曲振動の共振周波数と同一の周波数で変化する電圧(正)が、電極9および11のそれぞれに同一の位相で印加され、電極9および11とは逆位相の電圧(負)が、電極10および12のそれぞれに印加されると、主板部6は、図54に矢印で示されるように、屈曲振動を行なう。なお、2つの電極17のそれぞれには、常に、基準電位(0V)が与えられている。
なお、図53および図54においては、それぞれ、伸縮振動の節の位置Xおよび屈曲振動の節の位置Yがハッチングによって示されている。振動の節とは、主板部6のうちの実質的に振幅がゼロである位置である。また、電極の形状は、長方形に限定されず、超音波振動子1が伸縮振動および屈曲振動の双方を生じさせることができる形状であれば、いかなる形状であってもよい。
また、従来の超音波振動子1によれば、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとが、図55に示されるように、実質的に同一ではない、すなわち、Δφだけずれている場合に、そのズレΔφを低減することが極めて困難であった。それは、伸縮振動の共振周波数aおよび屈曲振動の共振周波数bの調整において、それらの一方を他方から独立して変化させることができなかったためである。
しかしながら、本実施の形態の超音波振動子1の構造によれば、次のような理由により、ズレΔφを低減することが容易である。上述の超音波振動子1の構造によれば、図53に示されるように、支持用突出部3が伸縮振動の節の位置Xに設けられている。支持用突出部3の構造の物理量、たとえば、形状、剛性、質量、および内部応力のうちの少なくともいずか1つを変化させれば、伸縮振動の振動特性を変化させることなく、屈曲振動の特性を変化させることができる。したがって、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとを実質的に一致させることが容易である。
伸縮振動の共振周波数aおよび屈曲振動の共振周波数bのそれぞれと同一の周波数で同一位相の電圧が電極9および11に印加され、電極9および11と同一の周波数であってかつ位相が+90度だけずれた電圧が電極10および12に印加される。それにより、伸縮振動と屈曲振動とが、電極に入力された交流電圧の1周期の4分の1ごとに交互に生じる。その結果、ロータ2に接触している主板部6の角部Sが、図48に参照符号Eで示されるように、楕円振動を行なう。
また、電極10および12に電極9および11と同一周波数であってかつ位相が−90度だけずれた電圧が印加されると、図48に参照符号Eで示された方向とは逆方向の楕円振動が生じる。また、ある一方向にロータ2が回転している状態で、電極9,11および電極10,12に入力されている信号のうちいずれか一方の位相が180度だけ変化すれば、超音波振動子1の角部Sに当接しているロータ2の回転方向が反転する。
なお、超音波振動子1は、図56に示されるように、図54に示された屈曲振動の節の位置Yまたはその近傍の位置であって、かつ、図53に示された伸縮振動の節の位置Yまたはその近傍以外の位置に、振動特性を調整するための調整用突出部20を有していてもよい。ただし、調整用突出部20は、圧電素子8または振動板7の一部として形成されていてもよいとともに、圧電素子8または振動板7に対する他の材料の付加によって形成されてもよい。
図56に示される構造を有する超音波振動子1によれば、調整用突出部20を研削または加熱したり、調整用突出部20に何らかの部材を付加したりして、屈曲振動の共振周波数bを変化させることなく、伸縮振動の共振周波数aを変化させることができる。したがって、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとの位相のズレを容易に低減することができる。
<超音波振動子の振動特性調整方法>
超音波モータ1000において、最大の駆動効率を得るためには、超音波振動子1が組み立てられて、超音波モータ1000の所定の位置に組み付けられた状態で、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとが実質的に一致していることが必要である。しかしながら、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとが実質的に一致するように設計された超音波振動子1であっても、圧電素子8または振動板7の寸法における誤差、圧電素子8と振動板7の位置合せにおける誤差、および電極の寸法における誤差等の要因のために、図55に示されるように、実際に組み立てられ、超音波モータ1000に組み付けられた超音波振動子1の伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとの間に、ズレΔφが生じることがある。なお、図55において、横軸は周波数f(=1/T)を示し、縦軸は、伸縮振動の長辺方向の振動の振幅および屈曲振動の短辺方向の振動の振幅Fを示す。
図57は、本発明者の行なったシミュレーションの結果であって、支持用突出部3の長さL1と超音波振動子1の伸縮振動の共振周波数aおよび屈曲振動の共振周波数bの変化との関係を示している。図57に示されるように、支持用突出部3の長さL1が増加するにつれて、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bは、近似的には直線的に減少するが、伸縮振動の共振周波数aは、ほぼ一定である。
図53および図54にハッチングによって示された部分は、伸縮振動の節の位置Xおよび屈曲振動の節の位置Yに相当する。支持用突出部3は、主板部6に生じる伸縮振動の節の位置Xまたはその近傍の位置に設けられており、かつ、屈曲振動の節の位置Yまたはその近傍からは離れた位置に設けられている。したがって、支持用突出部3の長さL1を変化させると、伸縮振動の共振周波数aは変化しないが、屈曲振動の共振周波数bは変化する。
超音波振動子1が超音波モータ1000の所定の位置に取り付けられた後に、支持用突出部3を研削することによって、その形状および質量を変化させることができる。それにより、伸縮振動の共振周波数aがほぼ一定である状態で屈曲振動の共振周波数bのみを調整することができる。その結果、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとを実質的に一致させることが容易になる。また、支持用突出部3の形状および質量を変化さ
せる代わりに、焼きなまし等などの加熱処理によって支持用突出部3の剛性等の物性を変化させることによっても、伸縮振動の共振周波数aを一定に維持した状態で、屈曲振動の共振周波数bの調整することが容易である。
次に、支持用突出部3の開放端を削ることによって、つまり、支持用突出部3の形状および質量を変化させることによって、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が具体的に説明される。
組み立てが行なわれ、製品の所定の位置に組み付けられた超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが伸縮振動の共振周波数aよりも低い場合には、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとを実質的に一致させるために、屈曲振動の共振周波数bを伸縮振動の共振周波数aまで増加させることが必要である。
本実施の形態においては、図58に示されるように、支持用突出部3の開放端を削り、支持用突出部3を短くすることによって、屈曲振動の共振周波数bを増加させて伸縮振動の共振周波数aに一致させる。この方法によれば、超音波振動子1の振動特性を容易に調整することが可能である。また、シャフト5の貫通孔50と主板部6との間において支持用突出部3は研削されていないため、支持用突出部3の強度が維持された状態で、超音波振動子1の振動特性を調整することが可能である。
また、図49に示されるように、支持用突出部3に設けられた貫通孔50の中心位置から同一の距離だけ離れた2つの位置のそれぞれに凹部55を設け、支持用突出部3の形状および質量を変化させてもよい。これによれば、伸縮振動の共振周波数aを変化させることなく、屈曲振動の共振周波数bのみを変化させることができる。
また、図55に示されたように、2つの凹部55が、貫通孔50の中心位置を介して対向する位置であって、貫通孔50の中心位置から等しい距離の位置に、研削によって形成される。これにより、屈曲振動における慣性モーメントを小さくすることによって、屈曲振動の共振周波数を変化させることが可能になる。なお、研削によって凹部55が大きくなり過ぎた場合には、凹部55に何らかの部材が埋め込まれることによって、振動特性が再び調整されてもよい。
次に、支持用突出部3を加熱処理して、支持用突出部3の剛性を変化させることによって、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が説明される。加熱装置(図示せず)を用いて支持用突出部3が700度程度まで加熱された後、自然に冷却される。それにより、支持用突出部3の剛性が低減される。支持用突出部3の剛性が低減されると、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが低減される。また、支持用突出部3が、加熱装置によって700度程度まで加熱された後、水中で急激に冷却されると、支持用突出部3の剛性が増加し、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが増加する。加熱装置として、レーザなどの支持用突出部3のみを局所的に加熱することができる装置が用いられることが望ましい。また、加熱温度は支持用突出部3の材料の変態温度以上であることが必要である。振動板7の材料としてステンレスが用いられる場合には、加熱温度は700度程度であることが望ましい。
次に、支持用突出部3に重り13を搭載する、すなわち、支持用突出部3に所定の質量を有する材料を付加して、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が説明される。
図60に示されるように、支持用突出部3にステンレスの重り13が接着されると、支持用突出部3の質量が増加する。支持用突出部3の質量が増加すると、屈曲振動における支持用突出部3の慣性モーメントが増加する。したがって、超音波振動子1の屈曲振動の
共振周波数bを低減させることができる。ただし、重り13の材質は、ステンレスに限定されず、いかなる材質であってもよい。
上述の支持用突出部3と同様に、図56に示された調整用突出部20の形状、剛性、質量、および内部応力のうちの少なくともいずれかに変化を生じさせることによっても、屈曲振動の共振周波数aを変化させずに、伸縮振動の共振周波数bのみを変化させることが容易になる。
(実施の形態の他の例の超音波振動子)
<全体構成>
本実施の形態の超音波振動子においては、実施の形態1の超音波振動子の構成要素と同一の構成要素には実施の形態1の超音波振動子1に付された参照符号と同一の参照番号が付され、特に必要がない限り、その説明は繰り返さない。
本実施の形態においても、超音波振動子1が組み立てられた後においても、超音波振動子1の振動特性が容易に調整され得る。
図61は、本実施の形態の超音波モータ1000の平面図である。図61に示されるように、本実施の形態の超音波モータ1000は、超音波振動子1とロータ2とからなっている。
本実施の形態の超音波振動子1は、図48〜図55を用いて説明された実施の形態1の超音波振動子1とほぼ同様であるが、主板部6を介して支持用突出部3に対向するように押付用突出部14が設けられていることが、実施の形態1の超音波振動子1とは異なっている。押付用突出部14には線状のゴム15の一端が接着されている。線状のゴム15の他端は、図示されていない外部に設けられた押付用機構に固定されている。線状のゴム15は、その収縮力によって、押付用機構に対して、押付用突出部14を引っ張る。それによって、超音波振動子1の角部Sがロータ2の外周部を押す力を調整することができるようになっている。つまり、線状のゴム15の収縮力の調整によって、超音波振動子1とロータ2との当接力が調整される。
本実施の形態の超音波モータ2においても、実施の形態1の超音波モータ1000と同様に、後述する超音波振動子1に設けられた電極9,10,11,12,および17に信号が入力される。それにより、ロータ2の外周面に当接している主板部6の角部Sが、図61に示される楕円軌道Eを描いて移動する。その結果、ロータ2が円軌道Cに沿ってその回転中心軸まわりに回転する。
<超音波振動子>
図62には、本実施の形態の超音波振動子1の斜視図が示されている。超音波振動子1の構成要素のうち、主板部6、圧電素子8、電極9,10,11,12,および17のそれぞれの形状、寸法、配置、および構成材料は、実施の形態の超音波振動子1のそれと同一であるため、その説明は繰り返さない。
ただし、本実施の形態においては、貫通孔50とシャフト5とは固定されていない。そのため、シャフト5が支持用突出部3に設けられた貫通孔50内においてその軸まわりに回転し得る。より具体的には、支持用突出部3は、シャフト5が延びる方向の移動は拘束されているが、シャフト5が延びる方向に沿った回転中心軸まわりに回転することができる。なお、支持用突出部3の上側および下側のそれぞれには、超音波振動子1がシャフト5の軸方向に沿って移動しないように、支持用突出部3のシャフト5の軸方向の移動を拘束する部材(図示せず)が設けられている。なお、押付用突出部14は、幅1mmかつ長
さ2.5mmの略長方形状を有している。
また、本実施の形態の超音波振動子1の駆動方法は、実施の形態1の超音波振動子1の駆動方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。
また、超音波振動子1の構造として、図63に示された構造が採用されてもよい。図63に示される構造においては、図53に示された屈曲振動の節の位置Xの近傍であって、かつ図54に示された伸縮振動の節の位置Yからは離れた位置の少なくとも1の位置に調整用突出部20が設けられている、なお、調整用突出部20は、圧電素子8または主板部6の一部であっても、他の材料が圧電素子8または主板部6に付加されたものであってもよい。
<超音波振動子の振動特性調整方法>
図64は、本願の発明者らが行なったシミュレーション結果を示しており、超音波振動子1の押付用突出部14の長さL2と超音波振動子1の伸縮振動の共振周波数aおよび屈曲振動の共振周波数bとの関係を示している。図64に示されるように、押付用突出部14の長さL2を増加させるにつれて、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが近似的に直線的に減少するが、伸縮振動の共振周波数aはほぼ一定である。
押付用突出部14は、主板部6に生じる伸縮振動の節の位置Xまたはその近傍であり、屈曲振動の節の位置Yまたはその近傍から離れた位置に設けられている。したがって、押付用突出部14の長さL2を変化させると、伸縮振動の共振周波数aに変化を生じさせることなく、屈曲振動の共振周波数bに変化を生じさせることができる。
超音波振動子1を超音波モータ1000の所定の位置に取り付けた後に、押付用突出部14の形状および質量を変化させることにより、伸縮振動の共振周波数aがほぼ一定の状態で、屈曲振動の共振周波数bのみを調整して、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとを実質的に一致させることができる。
また、焼きなましなどの手法を用いて剛性などの押付用突出部14の物性を変化させることによっても屈曲振動の共振周波数を調整することが可能である。
次に、押付用突出部14の先端を研削することによって、超音波振動子1の押付用突出部14の形状および質量を変化させて、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が具体的に説明される。
組み立てされ、所定の位置に設置された超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが伸縮振動の共振周波数aよりも低い場合には、伸縮振動の共振周波数aと屈曲振動の共振周波数bとを略一致させるために、屈曲振動の共振周波数bのみを伸縮振動の共振周波数aと略一致するように増加させる必要がある。図65に示されるように、押付用突出部14の長さL2が押付用突出部14がその先端の研削によって短くなれば、伸縮振動の共振周波数aが一定の状態で、屈曲振動の共振周波数bが増加する。したがって、屈曲振動の共振周波数bと伸縮振動の共振周波数aとを実質的に一致させることは容易である。
次に、押付用突出部14に加熱処理を施して、超音波振動子1の押付用突出部14の剛性を変化させて、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が説明される。
加熱装置を用いて押付用突出部14が700度程度まで加熱される。その後、自然冷却が行なわれる。それにより、押付用突出部14の剛性が低下する。押付用突出部14の剛性が低減されると、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが低下する。
また、押付用突出部14は、加熱装置を用いて700度程度まで加熱された後、水に入れて急激に冷却されると、押付用突出部14の剛性が増加し、超音波振動子1の屈曲振動の共振周波数bが増加する。
加熱装置として、レーザなど、押付用突出部14のみが局所的に加熱することができる装置が用いられることが望ましい。また、加熱温度は、押付用突出部14の材料の変態温度以上であることが必要である。そのため、押付用突出部14の材料としてステンレスが用いられる場合には、700度程度の温度で押付用突出部14が加熱されることが望ましい。
次に、押付用突出部14に重り13が搭載されると、超音波振動子1の押付用突出部14の質量を変化させて、超音波振動子1の振動特性を調整する方法が説明される。
図66に示されるように、押付用突出部14にステンレスの重り13が接着されると、伸縮振動の共振周波数aが一定の状態で、屈曲振動の共振周波数bが低下する。なお、重り13の材料は、ステンレスに限定されず、ステンレス以外の他の材料であってもよい。
また、支持用突出部3と同様に、図63に示された調整用突出部20の形状、剛性、および質量のうち少なくともいずれか1つの要素を変化させることにより、屈曲振動の共振周波数bを変化させずに、伸縮振動の共振周波数aのみを容易に調整することができる。
上記の実施の形態においては、複数種類の振動の節のうちの1の節の位置またはその近傍の位置に設けられた構造物である突出部の物理量として、形状、剛性、および質量のうちの少なくともいずれか1つを変化させることにより、振動特性の調整が行なわれている。しかしながら、振動の節の位置またはその近傍に設けられた構造の形状、剛性、および質量の代わりに、振動の節の位置またはその近傍の位置の構造の内部応力を変化させることにより、前述と同様の振動特性の調整を行なうことが可能である。内部応力を変化させる方法としては、振動の節の位置またはその近傍の位置の構造が誘電体を含んでおり、外部からその誘電体へ電界を印加する方法が考えられる。
また、上記各実施の形態においては、振動の節を含むように突出部が設けられているが、振動の節の位置の近傍に突出部が設けられていても、振動の節と突出部との間の距離が所定量より小さければ振動特性を調整することは、従来の方法に比較すれば、容易である。たとえば、屈曲振動の共振周波数bを変化させずに、伸縮振動の共振周波数aを変化させる場合には、平面的に見て点で表現される屈曲振動の振動の節を囲むような周縁状の領域上に突出部が形成されていてもよい。たとえば、屈曲振動の振動の節としての点を囲むパイプ状の突出部が調整用突出部20の代わりに設けられていても、上記と同様に、振動特性を容易に調整することが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。