JP2005087879A - 光反応装置及び光反応制御方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能な光反応装置、及び光反応制御方法を提供する。
【解決手段】 レーザ光源10から出射されたパルス光を反応チャンバSに照射し、反応チャンバS内の反応対象物に光反応を生じさせる光反応装置1Aにおいて、反応評価部20と、制御演算装置30と、光源制御装置35とを設ける。反応評価部20は、反応計測装置21によって反応対象物で生じた光反応を計測して評価する。制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源10に対する制御条件を求める。そして、光源制御装置35は、求められた制御条件に基づいて、レーザ光源10の共振器内での位相速度と群速度との関係を制御し、パルス光のCEPを調整する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、パルスレーザ光を対象物に照射することによって光反応を生じさせる光反応装置、及び光反応制御方法に関するものである。
従来、パルスレーザ光などの光を対象物に照射し、反応対象物において光と物質との相互作用である光反応を生じさせる光反応装置が用いられている。また、特許文献1には、光反応装置において、レーザ光源から反応対象物へと出射されたパルス光の波形を、好適な反応効率で光反応が生じるようにフィードバック制御することが記載されている。
特開平10−223959号公報 A. Baltuska et al., "Attosecond control of electronic processes by intense light fields", Nature Vol.421, p.611 (2003)
近年、パルスレーザ光源において、10fs(フェムト秒)以下のパルス時間幅のパルス光の発生が報告されている。このような短い時間領域では、通常考えられている光と物質との相互作用の過程とは異なる現象が観測されるようになってきている。したがって、このようなパルス光を光反応に適用する場合、上記特許文献1のようにパルス光の波形などを制御しても、光反応の反応効率を向上する上では必ずしも充分な効果は得られない。
すなわち、所定波長を有するパルス光は、その強度の時間波形の平方根に対応した包絡線波形(電場振幅波形)内において、波長の周期で振動している電磁波として表現される。これに対して、パルス光の時間幅が短くなると、その包絡線波形内での振動の位相(キャリアエンベロープ位相、以下、CEPという、非特許文献1参照)が、光と物質との相互作用に大きく影響するようになる。このため、レーザ光源から出射されたパルス光の波形をフィードバック制御したとしても、光反応の反応効率を充分に向上することが難しいという問題があった。
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能な光反応装置、及び光反応制御方法を提供することを目的とする。
このような目的を達成するために、本発明による光反応装置は、(1)反応対象物に照射される所定波長のパルス光を出射するレーザ光源と、(2)パルス光によって反応対象物に生じる光反応を評価する反応評価手段と、(3)反応評価手段による光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源に対する制御条件を演算して求める制御演算手段と、(4)求められた制御条件に基づいて、レーザ光源における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する光源制御手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明による光反応制御方法は、(1)レーザ光源から出射された所定波長のパルス光を反応対象物に照射する光照射ステップと、(2)パルス光によって反応対象物に生じる光反応を評価する反応評価ステップと、(3)反応評価ステップにおける光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源に対する制御条件を演算して求める制御演算ステップと、(4)求められた制御条件に基づいて、レーザ光源における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する光源制御ステップとを備えることを特徴とする。
上記した光反応装置及び光反応制御方法においては、反応対象物での光反応の評価結果を参照し、光反応に用いられるパルスレーザ光の生成条件をレーザ光源の共振器内に対してフィードバック制御している。これにより、パルス光の強度の時間波形のみでなく、パルス光の生成条件を様々に制御することが可能となる。特に、共振器内において位相速度と群速度との関係を制御することにより、後述するように、レーザ光源から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを調整することができる。したがって、パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。
ここで、光反応装置は、反応評価手段が、反応対象物で生じた光反応を計測する反応計測手段を有することを特徴としても良い。同様に、光反応制御方法は、反応評価ステップが、反応対象物で生じた光反応を計測する反応計測ステップを有することを特徴としても良い。
あるいは、光反応装置は、反応評価手段が、パルス光を入射して第2の光反応を生じさせる反応生成手段と、反応生成手段で生じた第2の光反応を計測する反応計測手段とを有することを特徴としても良い。同様に、光反応制御方法は、反応評価ステップが、パルス光を入射して第2の光反応を生じさせる反応生成ステップと、反応生成ステップで生じた第2の光反応を計測する反応計測ステップとを有することを特徴としても良い。
このように、反応対象物での光反応を直接に計測する構成、及び反応対象物での光反応と相関を有する第2の光反応を計測する構成のいずれにおいても、パルス光によって反応対象物に生じる光反応を好適に評価することができる。
ここで、第2の光反応を利用する場合には、光反応装置は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光の一部を分岐して反応生成手段へと導く光分岐手段を備えることが好ましい。同様に、光反応制御方法は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光の一部を分岐して反応生成ステップで用いられる反応生成手段へと導く光分岐ステップを備えることが好ましい。
レーザ光源のフィードバック制御方法については、光反応装置は、光源制御手段が、レーザ光源のレーザ媒質に励起エネルギーを供給する励起手段を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御することが好ましい。同様に、光反応制御方法は、光源制御ステップにおいて、レーザ光源のレーザ媒質に励起エネルギーを供給する励起手段を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御することが好ましい。
また、光反応装置は、光源制御手段が、レーザ光源における共振器内に設置された波長分散媒質を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御することが好ましい。同様に、光反応制御方法は、光源制御ステップにおいて、レーザ光源における共振器内に設置された波長分散媒質を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御することが好ましい。
このように、レーザ光源におけるレーザ発振条件を励起手段や波長分散媒質によって制御することにより、共振器内での位相速度と群速度との関係を好適に制御することができる。
あるいは、光反応装置は、光源制御手段が、レーザ光源における共振器を構成する主共振器から取り出された光の位相または強度を変調して主共振器内に戻すことによって、位相速度と群速度との関係を制御する構成としても良い。同様に、光反応制御方法は、光源制御ステップにおいて、レーザ光源における共振器を構成する主共振器から取り出された光の位相または強度を変調して主共振器内に戻すことによって、位相速度と群速度との関係を制御することとしても良い。このような構成によっても、共振器内での位相速度と群速度との関係を好適に制御することができる。
また、光反応の具体的な評価方法については、光反応装置は、反応評価手段が、パルス光が入射したときに波長変換を生じさせる媒質と、波長変換された光を検出する検出手段とを有して構成されていることが好ましい。同様に、光反応制御方法は、反応評価ステップにおいて、パルス光が媒質によって波長変換された光を検出することが好ましい。この場合、上記媒質としては、例えば、パルス光が入射することによって高次高調波を発生させる媒質を用いることができる。あるいは、媒質として、パルス光が入射することによってテラヘルツ電磁波を発生させる媒質を用いることができる。また、これら以外の構成によって光反応を評価しても良い。
また、光反応装置は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光を波形整形する光波形整形器を備える構成としても良い。同様に、光反応制御方法は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光を波形整形する光波形整形ステップを備えることとしても良い。これにより、最適なCEPの条件下でパルス光の時間波形を制御して、光反応の反応効率をさらに向上することができる。
この場合、光反応装置は、制御演算手段が、反応評価手段による光反応の評価結果に基づいて、光波形整形器に対する制御条件を演算して求めるとともに、求められた制御条件に基づいて、光波形整形器におけるパルス光の波形を制御する光波形整形器制御手段を備えることが好ましい。同様に、光反応制御方法は、制御演算ステップにおいて、反応評価ステップにおける光反応の評価結果に基づいて、光波形整形ステップで用いられる光波形整形器に対する制御条件を演算して求めるとともに、求められた制御条件に基づいて、光波形整形器におけるパルス光の波形を制御する光波形整形器制御ステップを備えることが好ましい。
また、光反応装置は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光を増幅する光増幅器を備える構成としても良い。同様に、光反応制御方法は、レーザ光源から反応対象物へと照射されるパルス光を増幅する光増幅ステップを備えることとしても良い。これにより、最適なCEPの条件下でパルス光のエネルギーを制御して、光反応の反応効率をさらに向上することができる。
この場合、光反応装置は、制御演算手段が、反応評価手段による光反応の評価結果に基づいて、光増幅器に対する制御条件を演算して求めるとともに、求められた制御条件に基づいて、光増幅器におけるパルス光の増幅を制御する光増幅器制御手段を備えることが好ましい。同様に、光反応制御方法は、制御演算ステップにおいて、反応評価ステップにおける光反応の評価結果に基づいて、光増幅ステップで用いられる光増幅器に対する制御条件を演算して求めるとともに、求められた制御条件に基づいて、光増幅器におけるパルス光の増幅を制御する光増幅器制御ステップを備えることが好ましい。
本発明による光反応装置、及び光反応制御方法によれば、レーザ光源における共振器内での位相速度と群速度との関係をフィードバック制御することにより、パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。
以下、図面とともに本発明による光反応装置、及び光反応制御方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、本発明による光反応装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。光反応装置1Aは、反応対象物に対して所定波長のパルスレーザ光を照射することによって、反応対象物において光と物質との相互作用である光反応を生じさせる装置である。本実施形態による光反応装置1Aは、レーザ光源10、励起装置19、反応評価部20、制御演算装置30、及び光源制御装置35を備えている。また、ここでは、パルスレーザ光が照射される反応対象物は反応チャンバS内に配置されている。
レーザ光源10は、反応チャンバS内の反応対象物に照射される所定波長、所定時間幅のパルス光を出射するパルスレーザ光源である。このレーザ光源10は、レーザ動作に用いられるレーザ媒質11と、レーザ媒質11を挟んで配置されて共振器を構成している反射ミラー12、13とを有している。ここでは、反射ミラー12は全反射ミラー、反射ミラー13は出力ミラーとして機能する一部透過ミラーとなっている。また、図1においては、レーザ光源10の共振器内でレーザ媒質11と出力ミラー13との間に、波長分散媒質14が設置されている。
また、レーザ光源10のレーザ媒質11に対して、レーザ動作に必要な励起エネルギーを供給する励起装置19が設置されている。レーザ媒質11への励起エネルギーは、例えば、励起光、電流、放電などの手段によって供給され、好ましくは、レーザ媒質11に対して励起光を供給する励起光源が励起装置19として用いられる。
レーザ光源10から出力ミラー13を介して出力されたパルスレーザ光は、反応チャンバSへと照射される。反応チャンバSにおいては、その内部に配置された反応対象物にパルス光が入射することによって光反応が発生する。この光反応の反応効率は、パルス光の強度(またはエネルギー)や時間波形(包絡線波形)などの影響を受ける。さらに、パルス時間幅が充分に短い(例えば10fs以下)パルス光を用いた場合、パルス光の包絡線波形内での振動のキャリアエンベロープ位相(CEP)が光反応の反応効率に大きく影響する。
パルス光によって光反応が発生する反応チャンバS内の反応対象物に対し、反応評価部20が設置されている。反応評価部20は、レーザ光源10からのパルスレーザ光によって反応チャンバS内の反応対象物に生じる光反応を評価する評価手段である。図1の構成においては、この反応評価部20は、反応対象物で生じた光反応を計測する反応計測装置21を有している。反応評価部20は、反応計測装置21による計測結果を参照して、反応対象物に発生している光反応の反応効率等の反応条件を評価する。
レーザ光源10でのレーザ動作におけるパルスレーザ光の生成条件は、制御演算装置30、及び光源制御装置35によって制御されている。制御演算装置30には、反応評価部20による光反応の評価結果が入力されている。制御演算装置30は、この評価結果に基づき、所望の光反応の反応効率等を考慮して、充分な反応効率が得られるようにレーザ光源10に対するフィードバック制御条件を演算して求める。
制御演算装置30で求められたレーザ光源10の制御条件は、光源制御装置35へと入力される。光源制御装置35は、制御演算装置30から入力された制御条件に基づいて、レーザ光源10でのレーザ発振条件を制御する。特に、本光反応装置1Aにおいては、光源制御装置35は、上記の制御条件に基づいて、ミラー12、13から構成されたレーザ光源10における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する。
図1に示した光反応装置1Aにおける光反応制御方法について説明する。まず、励起装置19からレーザ媒質11に対して励起エネルギーを供給することによってレーザ光源10をレーザ動作させる。そして、レーザ光源10から出射された所定波長のパルスレーザ光を反応チャンバS内の反応対象物に照射する(光照射ステップ)。このとき、反応対象物において、パルス光の入射に起因する光反応が発生する。
次に、反応評価部20において、反応計測装置21によって反応対象物で生じた光反応について計測を行い(反応計測ステップ)、その計測結果を参照して反応対象物に発生している光反応を評価する(反応評価ステップ)。制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源10に対する好適な制御条件を演算して求める(制御演算ステップ)。そして、光源制御装置35は、求められた制御条件に基づいて、レーザ光源10における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する(光源制御ステップ)。これにより、レーザ光源10から出射されるパルス光におけるCEPが制御され、光反応の反応効率が所望の効率に保持される。
上記実施形態による光反応装置及び光反応制御方法の効果について説明する。
図1に示した光反応装置1A、及び上記した光反応制御方法においては、反応チャンバS内の反応対象物に発生している光反応の評価結果を参照し、光反応に用いられるパルスレーザ光の生成条件をレーザ光源10の共振器内においてフィードバック制御している。これにより、レーザ光源から出射された後にパルス光の波形を制御する場合等に比べて、パルス光の強度の時間波形の平方根に相当する包絡線波形のみでなく、パルス光の生成条件及び特性等を様々に制御することが可能となる。特に、ミラー12、13から構成される共振器内において、上記のように光の位相速度と群速度との関係を制御することにより、レーザ光源10から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを所望の効率を実現するCEPに調整することができる。
図2は、レーザ光源から出射されるパルス光の包絡線波形内での振動の位相であるキャリアエンベロープ位相(CEP)について示す図である。ここで、図2(a)は、包絡線波形のピークの時刻と、包絡線波形内における光の波長の周期での振動のピークの時刻とが一致している場合のパルス光の時間波形を示すグラフである。また、図2(b)は、包絡線波形のピークの時刻と、包絡線波形内での振動のピークの時刻とが電場の位相に換算して90°ずれている場合のパルス光の時間波形を示すグラフである。また、これらのグラフにおいて、横軸は時間t(相対値)を示し、縦軸は光の電場振幅E(相対値)を示している。
これらのグラフに示すように、レーザ光源10からのパルス光の電磁波(実線)は、包絡線波形(破線)内で振動する波形として表現される。パルスレーザ光のパルス時間幅が長い(例えば10fs以上)時間領域では、パルス光と物質との相互作用を考える上で包絡線波形内での振動の位相は問題とはならない。一方、パルスレーザ光のパルス時間幅が短くなってくると(例えば10fs以下)、パルス光の包絡線波形のピーク位置と、包絡線波形内での振動の位相であるCEPとが一致している場合(図2(a)参照)に、位相がずれている場合(図2(b)参照)よりも効率良く光反応が生じる現象が存在する。これは、非線形効果が介在する光反応において顕著である。
CEPが制御されていない状態においては、超短パルスレーザ光源から出射されるパルス光では、時間的に連続したパルス光毎にCEPがシフトする。したがって、このようなパルスレーザ光を光反応に適用すると、あるパルス光では反応効率が高く、別のパルス光では反応効率が低くなるというような現象が起こり、それらの平均として光反応の反応効率を評価すると、反応効率は充分に向上されているとは言えない。このようなCEPのずれの発生は、レーザ光源の共振器内での位相速度と群速度とのミスマッチングによるものと考えられている(D. J. Jones et al., "Carrier-Envelope Phase Control of Femtosecond Mode-Locked Lasers and Direct Optical Frequency Synthesis", SCIENCE Vol.288, p.635 (2000) 参照)。
また、例えば特許文献1に記載された光反応装置では、上記したようにレーザ光源から出射されたパルス光の波形をフィードバック制御している。しかしながら、このような制御方法では、共振器外に取り出されたパルス光における各波長間の位相関係等を調整することはできるが、CEPの調整を行うことはできない。すなわち、パルス光のCEPは共振器内でのレーザ発振機構に依存しているため、共振器外に出射されたパルス光のフィードバック制御によってはCEPは調整できない。
これに対して、図1に示した光反応装置1Aでは、レーザ光源10の共振器内において位相速度と群速度との関係をフィードバック制御している。これにより、レーザ光源10から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを好適に制御することができるので、したがって、パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。
ここで、制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づいてレーザ光源10に対する好適な制御条件を演算して求めるが、その演算方法については、例えば、あらかじめ与えられた関係式等を用いた簡単な演算によって一意的に制御条件を決定する方法を用いることができる。
また、一般には、光反応の効率は反応物質固有の多くのパラメータが複雑に寄与しているため、簡単に演算によって一意的に制御条件を決定することは困難な場合が多い。その場合、制御演算装置30では、シミュレーテッドアニーリング法(焼き鈍し法)や遺伝子的アルゴリズムを用いて少しずつ励起光のパラメータを変化させていき、反応効率が所望の方向に増加、または減少した際にそのときの励起光のパラメータを確率的に採用していくことによって、最適な条件に近づけるという手法を用いることができる。
なお、非特許文献1には、パルス光のCEPを計測し、その計測値が所定の値となるようにレーザ光源をフィードバック制御することが記載されている。しかしながら、このような構成では、CEPを計測するためにその装置構成が大掛りとなる。また、パルス光を光反応に適用することを考えると、どのようなCEPのパルス光が所望の光反応に好適であるかは必ずしも明らかではない。これに対して、上記したように、反応評価部20による反応対象物に生じる光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源10から出射されるパルス光のCEPをフィードバック制御する構成によれば、光反応の種類などに応じて、その反応効率を効果的に高くすることができる。
光源制御装置35によるレーザ光源10の共振器内での位相速度と群速度との関係の制御方法について説明する。
位相速度と群速度との関係の制御方法としては、具体的には、レーザ媒質11に励起エネルギーを供給する励起装置19を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御する構成を用いることができる。すなわち、レーザ媒質11自体は本来非線形光学効果を有しているため、レーザ光の発振状態によって共振器内での波長分散などのパラメータが変化する。したがって、励起装置19から供給される励起エネルギー量を調整することにより、レーザ光源10の共振器内での位相速度と群速度とのマッチングを実現して、レーザ光源10から出射されるパルス光のCEPを制御することができる。
また、反射ミラー12、出力ミラー13からなるレーザ光源10の共振器内に設置された波長分散媒質14を制御することによって、位相速度と群速度との関係を制御する構成を用いても良い。例えば、図1に示した構成において、レーザ光源10の共振器内に設置された波長分散媒質14は、本来のレーザ発振動作においては直接の寄与を及ぼすものではないが、このような分散媒質14を共振器内に設置し、その分散を光源制御装置35によって調整することにより、レーザ光源10の共振器内での位相速度と群速度とのマッチングを実現して、パルス光のCEPを制御することができる。ただし、このような分散媒質14については、不要であれば共振器内に設置しない構成としても良い。
あるいは、レーザ光源10の共振器(主共振器)から取り出された光の位相または強度を変調して共振器内に戻すことによって、位相速度と群速度との関係を制御する構成を用いることも可能である。この場合、共振器を主共振器と副共振器とから構成し、主共振器から取り出された光を副共振器において変調する構成とすることが好ましい。
図3(a)〜(c)は、図1に示した光反応装置に用いられるレーザ光源の変形例を示す図である。図3(a)に示すレーザ光源10aは、レーザ媒質11と、レーザ媒質11を挟んで配置されて主共振器を構成している反射ミラー12、出力ミラー13とを有している。また、反射ミラー12が一部透過ミラーとなっており、反射ミラー12と全反射ミラー15とによって副共振器が構成されている。そして、この副共振器内において、反射ミラー12と全反射ミラー15との間に、分散制御機構として機能する光変調素子16が設置されている。
このように、光の位相または強度を変調する光変調素子16を副共振器内に設置し、その変調特性を光源制御装置35によって調整することにより、レーザ光源10aの共振器内での位相速度と群速度とのマッチングを実現して、パルス光のCEPを制御することができる。また、レーザ光源10aでの共振器を二重共振器構造とし、光変調素子16を主共振器内ではなく副共振器内に設けることにより、レーザ発振の閾値などの発振特性への影響を抑えつつ、光の変調によるCEPの制御を実現することができる。
図3(a)に示した光変調素子16の具体的な構成の一例を図3(b)に示す。この例では、光透過性の媒質であってかつ波長に対して分散特性を有するくさび形状のプリズム16aを光変調素子16として、2個のプリズム16aを対向させて配置する。そして、副共振器内の光路に対してこれらのプリズム16aを出し入れすることによって、光がプリズム16a内を通過する光路長を調整して、その変調特性を制御する。また、光変調素子としては、これ以外にも様々なものを用いることができる。
図3(c)は、レーザ光源の他の変形例を示す図である。図3(c)に示すレーザ光源10bは、レーザ媒質11と、レーザ媒質11を挟んで配置されて主共振器を構成している反射ミラー12、出力ミラー13とを有している。また、反射ミラー12が一部透過ミラーとなっており、反射ミラー12と反射型の空間光変調器17とによって副共振器が構成されている。
副共振器内の光路上には、波長分解素子としてプリズム18が設置されている。主共振器から反射ミラー12を通過してプリズム18で波長分解された光は、波長成分毎に反射型光変調器17上の異なる位置に入射する。また、光変調器17では、その各位置での位相変調量が光源制御装置35によって制御されている。このような構成によっても、光の変調及びその制御を実現することができる。なお、光変調器として透過型のものを用い、別に反射ミラーを設置することによって副共振器を構成しても良い。
また、共振器内での光の変調については、位相変調ではなく強度変調としても良い。すなわち、レーザ光源の共振器内での発振はレーザ媒質を介在した非線形光学効果によるものである。したがって、例えば光変調素子によって強度変調を行うと、位相同期の条件にも変化を生じることとなり、パルス光のCEPを制御することが可能となる。
ここで、レーザ光源の共振器内に波長分散媒質を配置することによる位相制御について具体的に説明しておく。図4は、波長分散媒質の例としてBK7ガラスの屈折率特性を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は光の波長λ(nm)を示し、縦軸は波長に依存した屈折率n(λ)を示している。
このように波長に依存した屈折率n(λ)を有する媒質に対し、位相速度は光波が媒質を伝搬する速度であるから、c/n(λ)で表される。ここで、cは光速度である。これに対して、群速度はパルス光のエネルギーが移動する速度である。この群速度は、真空中のように屈折率が波長に依存しない空間を伝搬する場合には光速度cと一致するが、波長に依存した屈折率n(λ)を有する媒質中を伝搬する場合には一般に群速度は遅くなり、パルス光の中心波長をλとしてc/{n(λ)−λ(dn(λ)/dλ)λ0}で表されるようになる。
上記の式からわかるように、媒質における屈折率の波長依存性が大きいほど、位相速度と群速度との違いが大きくなることがわかる。例えば、図4に示した屈折率特性を有するBK7ガラスでは、その媒質中での位相速度は波長λ=800nmにおいて1.986×10(m)であるのに対して、群速度は1.965×10(m)である。また、これらに起因する遅延時間差は媒質中での光の伝搬距離に依存するため、媒質中での光路長を長くするほど遅延時間差が広がることとなる。レーザ共振器においては、光波の伝搬速度に影響を与えるものとしてはレーザ媒質の屈折率、反射ミラーの波長分散など様々な要因が考えられるが、共振器内に波長分散媒質を配置し、その光路上での厚さを調整することにより、レーザ媒質の屈折率等の他の要因をも含めて、全体として位相速度と群速度との遅延時間差を調整することができる。
次に、反応評価部20の反応計測装置21による光反応の計測方法について説明する。
図5は、反応評価部20の構成の一例を示すブロック図である。図5に示す反応評価部20では、X線分光器21a及びX線検出器21bによって反応計測装置21が構成されている。例えば、光反応の反応対象物として、反応チャンバSに封入された希ガスであるAr(アルゴン)ガスを考える。このArガスに対して、例えば波長800nm近傍のパルス光を照射すると、パルス光に対して多光子過程によって高次高調波が発生する。この高次高調波は、10次以上(例えば13〜19次)でX線波長領域の光である。
したがって、反応チャンバSから出射される特定波長の光(X線)をX線分光器21a及びX線検出器21bによって選択的に検出することにより、反応チャンバS内のArガスにおいて発生している光反応を計測して評価することができる。また、光反応に用いられるパルス光のCEPは、反応対象物において高効率で発生する高次高調波の次数に大きく影響する。したがって、X線波長領域の高次高調波をX線分光器21aで分光して特定次数の光の発生効率を観測することにより、パルス光のCEPを評価することができる。なお、X線波長領域の光を計測する構成としては、X線分光器を設置せずにX線検出器のみを用いる構成としても良い。また、X線検出器(光検出器)としては、パルスレーザ光の波長に対する感度が充分に小さいものを用いることが好ましい。
図6は、反応評価部20の構成の他の例を示すブロック図である。図6に示す反応評価部20では、質量分析器21cによって反応計測装置21が構成されている。例えば、光反応の反応対象物として、反応チャンバSに封入された化学物質を考え、この化学物質にパルスレーザ光を照射した場合に光反応によって複数種類の物質が生成される可能性があるものとする。この場合、それらの複数種類の物質のうちで特定の物質の生成効率を計測することによって、光反応を評価することができる。図6に示した構成では、反応チャンバS内で光反応によって生成された物質を質量分析器21cによって特定し、その生成量等を計測して光反応を評価する。また、反応評価部20の反応計測装置21としては、図5、図6に示した構成以外にも、様々な構成を用いることができる。
図7は、本発明による光反応装置の第2実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態による光反応装置1Bは、レーザ光源10、励起装置19、反応評価部20、制御演算装置30、及び光源制御装置35を備えている。これらのうち、レーザ光源10、励起装置19、制御演算装置30、及び光源制御装置35の構成については、図1に示したものと同様である。
レーザ光源10からのパルス光によって光反応が発生する反応チャンバS内の反応対象物に対し、反応評価部20が設置されている。また、図7の構成においては、レーザ光源10の出力ミラー13と反応チャンバSとの間の光路上の所定位置に、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光の一部を所定の分岐比で分岐する光分岐ミラー22が設置されている。本実施形態における反応評価部20は、この光分岐ミラー22に対応して、反応生成装置23と、反応計測装置24とを有している。
光分岐ミラー22によって分岐されたパルス光は、反応評価部20の反応生成装置23に入射され、反応生成装置23においてパルス光によって第2の光反応が生じる。反応計測装置24は、この反応生成装置23で生じた第2の光反応を計測する。反応評価部20は、反応計測装置24による計測結果、及び反応チャンバS内の反応対象物で生じる光反応と反応生成装置23で生じる第2の光反応との相関を参照して、反応対象物に発生している光反応の反応効率等の反応条件を評価する。
図7に示した光反応装置1Bにおける光反応制御方法について説明する。まず、励起装置19からレーザ媒質11に対して励起エネルギーを供給することによってレーザ光源10をレーザ動作させる。そして、レーザ光源10から出射された所定波長のパルスレーザ光を反応チャンバS内の反応対象物に照射する(光照射ステップ)。このとき、反応対象物において、パルス光の入射に起因する光反応が発生する。また、レーザ光源10から反応チャンバSに向けて出射されたパルス光の一部が光分岐ミラー22で分岐されて、反応評価部20の反応生成装置23へと導かれる(光分岐ステップ)。そして、反応生成装置23において、光分岐ミラー22から入射したパルス光による第2の光反応が生じる(反応生成ステップ)。
次に、反応評価部20において、反応計測装置24によって反応生成装置23で生じた光反応について計測を行い(反応計測ステップ)、その計測結果を参照して反応チャンバS内の反応対象物に発生している光反応を評価する(反応評価ステップ)。制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づいて、レーザ光源10に対する好適な制御条件を演算して求める(制御演算ステップ)。そして、光源制御装置35は、求められた制御条件に基づいて、レーザ光源10における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する(光源制御ステップ)。これにより、レーザ光源10から出射されるパルス光におけるCEPが制御され、光反応の反応効率が所望の効率に保持される。
上記実施形態による光反応装置及び光反応制御方法の効果について説明する。
図7に示した光反応装置1B、及び上記した光反応制御方法においては、図1に示した光反応装置1Aと同様に、レーザ光源10の共振器内において光の位相速度と群速度との関係を制御することにより、レーザ光源10から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを好適に制御することができる。これにより、CEPが反応効率に影響するほどパルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。
また、本実施形態においては、反応対象物での光反応ではなく、この光反応と相関を有する反応生成装置23での第2の光反応を計測することによって光反応を評価している。このような構成によっても、反応対象物での光反応を直接に計測する図1に示した構成と同様に、レーザ光源10からのパルス光によって反応対象物に生じる光反応を好適に評価することができる。
また、図7のように反応生成装置23を用いて光反応を評価する構成では、光分岐ミラー22などの光分岐手段によってパルス光の一部を分岐して光反応の計測に用いることが好ましい。あるいは、反応チャンバSを透過したパルス光を用いる構成とすることも可能である。また、両者の光路を随時切り換える構成とすることも可能である。
次に、反応評価部20の反応生成装置23及び反応計測装置24による光反応の計測方法について説明する。
反応生成装置23における第2の光反応を計測する図7の光反応装置1Bにおいても、図1の光反応装置1Aに関して説明した図5、図6と同様の構成を反応評価部20に適用することができる。
図5に示した構成を図7の反応評価部20に適用する場合には、反応生成装置23を、Arガス等が封入された反応チャンバから構成する。また、反応計測装置24を、X線分光器及びX線検出器から構成する。このような構成において、光分岐ミラー22で分岐されたパルス光を反応生成装置23に照射するとX線波長領域の高次高調波が発生する。そして、この高次高調波を反応計測装置24のX線分光器及びX線検出器で検出することにより、反応生成装置23で発生している光反応、さらに反応チャンバS内の反応対象物で発生している光反応を評価することができる。
また、図6に示した構成を適用する場合には、反応生成装置23を、化学物質が封入された反応チャンバから構成する。また、反応計測装置24を、質量分析器から構成する。このような構成において、光分岐ミラー22で分岐されたパルス光を反応生成装置23に照射することによって生成された物質を反応計測装置24の質量分析器によって特定し、その生成量等を計測することにより、反応生成装置23で発生している光反応、さらに反応チャンバS内の反応対象物で発生している光反応を評価することができる。また、これら以外にも、様々な構成を用いることができる。
図8は、反応評価部20の構成の他の例を示すブロック図である。図8に示す反応評価部20では、波長変換媒質23aによって反応生成装置23が構成されるとともに、光検出器24aによって反応計測装置24が構成されている。波長変換媒質23aは、レーザ光源10からの所定波長のパルス光が入射したときに波長変換を生じさせる媒質である。そして、波長変換された光を光検出器24aで検出することにより、光反応を評価することができる。図5に示した構成を反応生成装置23及び反応計測装置24に適用した構成は、図8における波長変換に多光子過程による高次高調波を利用した例である。また、これ以外にも、様々な波長変換過程を利用することが可能である。
図9は、反応評価部20の構成の他の例を示すブロック図である。図9に示す構成は、図8に示した構成の他の例である。この反応評価部20では、テラヘルツ波(THz波)生成器23bによって反応生成装置23が構成されるとともに、テラヘルツ波検出器24bによって反応計測装置24が構成されている。テラヘルツ波生成器23bは、レーザ光源10からの所定波長のパルス光が入射したときにテラヘルツ電磁波を発生させるものである。そして、生成されたテラヘルツ波をテラヘルツ波検出器24bで検出することにより、光反応を評価することができる。この場合、パルス光のCEPを評価するためのパラメータとしては、テラヘルツ波の振幅、位相、偏光などが挙げられる。また、テラヘルツ波生成器23b、及びテラヘルツ波検出器24bとしては、例えば、EO結晶、スイッチ素子、半導体結晶などを用いることができる。
なお、これらの例のように波長変換媒質を用いてパルス光のCEPを評価する構成においては、反応計測装置に用いられる検出器が波長変換媒質を含む構成としても良い。
図10は、本発明による光反応装置の第3実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態による光反応装置1Cは、レーザ光源10、励起装置19、反応生成装置23と反応計測装置24とを有する反応評価部20、制御演算装置30、光源制御装置35、光波形整形器41、及び光波形整形器制御装置36を備えている。これらのうち、レーザ光源10、励起装置19、反応評価部20、及び光源制御装置35の構成については、図7に示したものと同様である。
本実施形態においては、レーザ光源10の出力ミラー13と反応チャンバSとの間の光路上に、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光を波形整形する光波形整形器41が設置されている。
光波形整形器41におけるパルスレーザ光の波形整形条件は、制御演算装置30、及び光波形整形器制御装置36によって制御されている。すなわち、制御演算装置30は、レーザ光源10と併せて、光波形整形器41をも制御している。制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づき、所望の光反応の反応効率等を考慮して、充分な反応効率が得られるように光波形整形器41に対するフィードバック制御条件を演算して求める。
制御演算装置30で求められた光波形整形器41の制御条件は、光波形整形器制御装置36へと入力される。光波形整形器制御装置36は、制御演算装置30から入力された制御条件に基づいて、光波形整形器41でのパルス光の波形整形条件を制御する。このように、レーザ光源10の外部に光波形整形器41を付加することにより、CEPの制御と並行してパルス光の波形が制御される。
上記実施形態による光反応装置及び光反応制御方法の効果について説明する。
図10に示した光反応装置1C、及び上記した光反応制御方法においては、図1に示した光反応装置1A及び図7に示した光反応装置1Bと同様に、レーザ光源10の共振器内において光の位相速度と群速度との関係を制御することにより、レーザ光源10から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを好適に制御することができる。これにより、CEPが反応効率に影響するほどパルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。さらに、光波形整形器41においてパルス光の波形整形を行うことにより、最適なCEPの条件下でパルス光の時間波形を制御して、光反応の反応効率をさらに向上することができる。
パルス光のCEPの制御を行うことは、図2(a)及び(b)に示した時間波形をフーリエ変換した周波数空間で考えると、その各周波数成分に対して位相の定数オフセットを制御することと等価であり、強度時間波形そのものは変化しない。これに対して、外部の光波形整形器41を用いて各周波数成分の位相項や振幅を並行して制御することにより、CEPと併せてパルス光の時間波形の制御を行うことができる。
このような光波形整形器41としては、例えば、図11に示す構成のものを用いることができる。この光波形整形器41は、レーザ光源10側から順に回折格子41a、レンズ41b、空間光変調器41c、レンズ41d、及び回折格子41eを備えている。このような構成において、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光は、回折格子41aなどの分光手段によって一度周波数分解された後、SLMなどの空間光変調器41cで各周波数成分に対して振幅や位相変調が行われる。そして、空間光変調器41cで変調された光は、回折格子41eなどの分光手段によって再び同軸に戻されて、波形整形されたパルス光となる。なお、振幅変調を行う際には、偏光子や検光子、アパーチャ等を適宜付加すると良い。
図12は、本発明による光反応装置の第4実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態による光反応装置1Dは、レーザ光源10、励起装置19、反応生成装置23と反応計測装置24とを有する反応評価部20、制御演算装置30、光源制御装置35、光波形整形器41、光増幅器42、光波形整形器制御装置36、及び光増幅器制御装置37を備えている。これらのうち、レーザ光源10、励起装置19、反応評価部20、及び光源制御装置35の構成については、図7に示したものと同様である。
本実施形態においては、レーザ光源10の出力ミラー13と反応チャンバSとの間の光路上に、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光を増幅する光増幅器42と、レーザ光源10から出射されたパルスレーザ光を波形整形する光波形整形器41とがこの順で設置されている。
光波形整形器41におけるパルスレーザ光の波形整形条件は、制御演算装置30、及び光波形整形器制御装置36によって制御されている。また、光増幅器42におけるパルスレーザ光の増幅条件は、制御演算装置30、及び光増幅器制御装置37によって制御されている。すなわち、制御演算装置30は、レーザ光源10と併せて、光波形整形器41及び光増幅器42をも制御している。
制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づき、所望の光反応の反応効率等を考慮して、充分な反応効率が得られるように光波形整形器41に対するフィードバック制御条件を演算して求める。同様に、制御演算装置30は、反応評価部20による光反応の評価結果に基づき、所望の光反応の反応効率等を考慮して、充分な反応効率が得られるように光増幅器42に対するフィードバック制御条件を演算して求める。
制御演算装置30で求められた光波形整形器41の制御条件は、光波形整形器制御装置36へと入力される。光波形整形器制御装置36は、制御演算装置30から入力された制御条件に基づいて、光波形整形器41でのパルス光の波形整形条件を制御する。このように、レーザ光源10の外部に光波形整形器41を付加することにより、CEPの制御と並行してパルス光の波形が制御される。
また、制御演算装置30で求められた光増幅器42の制御条件は、光増幅器制御装置37へと入力される。光増幅器制御装置37は、制御演算装置30から入力された制御条件に基づいて、光増幅器42でのパルス光の増幅条件を制御する。このように、レーザ光源10の外部に光増幅器42を付加することにより、CEPの制御と並行してパルス光のエネルギーが制御される。
上記実施形態による光反応装置及び光反応制御方法の効果について説明する。
図12に示した光反応装置1D、及び上記した光反応制御方法においては、図1に示した光反応装置1A及び図7に示した光反応装置1Bと同様に、レーザ光源10の共振器内において光の位相速度と群速度との関係を制御することにより、レーザ光源10から出射されるパルス光の包絡線波形内でのCEPを好適に制御することができる。これにより、CEPが反応効率に影響するほどパルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能となる。さらに、光波形整形器41においてパルス光の波形整形を行うことにより、最適なCEPの条件下でパルス光の時間波形を制御して、光反応の反応効率をさらに向上することができる。さらに、光増幅器42においてパルス光の増幅を行うことにより、最適なCEPの条件下でパルス光のエネルギーを制御して、光反応の反応効率をさらに向上することができる。
このような光増幅器42では、一般的に、以下に述べるチャープパルスアンプと呼ばれる構成が用いられる。図13は、光増幅器に用いられる分散光学系の一例を示す構成図である。この分散光学系43は、回折格子43a、43b、及び反射ミラー43cを備えている。このような分散光学系43を用い、回折格子43a、43bなどの分散素子によってパルス光に分散を与えてパルス光の幅を広げる。その後、幅が広げられたパルス光を光増幅素子に入射して単一パルス当たりのエネルギーを増幅する。そして、増幅された光に対して、回折格子などの分散素子によって先に与えた分散と逆符号の分散を与えて、再度短パルス光に圧縮する。このような分散光学系を用いることで、光増幅素子内でのエネルギーの飽和や光学素子のダメージを回避することができる。ただし、このような分散光学系については、不要であれば設けなくても良い。
なお、図10、図12にそれぞれ示した実施形態において、パルス光に分散を与える場合には、分散素子として複数の回折格子を用いることが多い。このとき、回折格子を配置する際の角度の精度が、得られるパルス光の品質に大きく寄与することが知られている。具体的には、回折格子等の配置角度が数マイクロラジアンのずれを起こすことにより、図14(a)に示すように、空間的に広がりを有するパルス光のパルス面(パルス光の空間分布)51と、パルス光の伝搬方向とが直交状態からずれるという現象が起きる。この状態のパルス光をレンズ52により集光すると、集光点53において空間的、及び時間的に小さな領域にパルス光のエネルギーを集中させることができない。
このため、上記構成の光反応装置における制御演算装置30は、光波形整形器41や光増幅器42の内部にある分散素子の角度のアライメントについても同時に制御を行うことが好ましい。このような制御を行うことにより、図14(b)に示すように、パルス光のパルス面61と、パルス光の伝搬方向とが直交した状態にパルス光の伝搬状態を調整することができる。これにより、レンズ62による集光の結果、集光点63において空間的、及び時間的に集光した際にパルス光のエネルギーを充分に集中させることができる。ただし、光波形整形器41や光増幅器42での分散媒質のアライメントは、短期的に変動が生じることは少ないので、必ずしも常時制御を行わなくても良い。
本発明による光反応装置、及び光反応制御方法は、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、反応評価部20における光反応の評価方法や、光源制御装置35によるレーザ光源10の制御方法等については、上記した例以外にも様々な方法を用いて良い。また、制御演算装置30において求められるレーザ光源10の制御条件については、具体的な反応対象物、光反応、及びその光反応とパルス光のCEPとの相関等の情報を参照して設定することが好ましい。
また、図10、図12に示した実施形態では、反応評価部20が反応生成装置23及び反応計測装置24を有する図7の構成に対して光波形整形器41、光増幅器42等を付加しているが、反応評価部20が反応計測装置21を有する図1の構成に対して光波形整形器41、光増幅器42等を付加する構成としても良い。また、図12に示した実施形態において、光増幅器42及び光波形整形器41を配置する順序は逆であっても良く、また、光増幅器42のみを設置する構成としても良い。
本発明による光反応装置、及び光反応制御方法は、パルス光でのCEPを制御することにより、パルス時間幅が短いパルス光を用いた場合であっても、光反応の反応効率を充分に向上することが可能な装置及び方法として利用可能である。
光反応装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。 パルス光の包絡線波形内での振動の位相であるCEPについて示すグラフである。 図1に示した光反応装置に用いられるレーザ光源の変形例を示す図である。 波長分散媒質の例としてBK7ガラスの屈折率特性を示すグラフである。 反応評価部の構成の一例を示すブロック図である。 反応評価部の構成の他の例を示すブロック図である。 光反応装置の第2実施形態の構成を示すブロック図である。 反応評価部の構成の他の例を示すブロック図である。 反応評価部の構成の他の例を示すブロック図である。 光反応装置の第3実施形態の構成を示すブロック図である。 光波形整形器の一例を示す構成図である。 光反応装置の第4実施形態の構成を示すブロック図である。 光増幅器に用いられる分散光学系の一例を示す構成図である。 パルス光の伝搬状態について示す図である。
符号の説明
1A、1B、1C、1D…光反応装置、10…パルスレーザ光源、11…レーザ媒質、12…反射ミラー、13…出力ミラー、14…波長分散媒質、15…反射ミラー、16…光変調素子、17…光変調器、18…プリズム、19…励起装置、20…反応評価部、21…反応計測装置、22…光分岐ミラー、23…反応生成装置、24…反応計測装置、30…制御演算装置、35…光源制御装置、36…光波形整形器制御装置、37…光増幅器制御装置、41…光波形整形器、42…光増幅器、43…分散光学系。

Claims (28)

  1. 反応対象物に照射される所定波長のパルス光を出射するレーザ光源と、
    前記パルス光によって前記反応対象物に生じる光反応を評価する反応評価手段と、
    前記反応評価手段による前記光反応の評価結果に基づいて、前記レーザ光源に対する制御条件を演算して求める制御演算手段と、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記レーザ光源における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する光源制御手段と
    を備えることを特徴とする光反応装置。
  2. 前記反応評価手段は、前記反応対象物で生じた前記光反応を計測する反応計測手段を有することを特徴とする請求項1記載の光反応装置。
  3. 前記反応評価手段は、前記パルス光を入射して第2の光反応を生じさせる反応生成手段と、前記反応生成手段で生じた前記第2の光反応を計測する反応計測手段とを有することを特徴とする請求項1記載の光反応装置。
  4. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光の一部を分岐して前記反応生成手段へと導く光分岐手段を備えることを特徴とする請求項3記載の光反応装置。
  5. 前記光源制御手段は、前記レーザ光源のレーザ媒質に励起エネルギーを供給する励起手段を制御することによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の光反応装置。
  6. 前記光源制御手段は、前記レーザ光源における前記共振器内に設置された波長分散媒質を制御することによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の光反応装置。
  7. 前記光源制御手段は、前記レーザ光源における前記共振器を構成する主共振器から取り出された光の位相または強度を変調して前記主共振器内に戻すことによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の光反応装置。
  8. 前記反応評価手段は、前記パルス光が入射したときに波長変換を生じさせる媒質と、波長変換された光を検出する検出手段とを有して構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の光反応装置。
  9. 前記媒質は、前記パルス光が入射することによって高次高調波を発生させる媒質であることを特徴とする請求項8記載の光反応装置。
  10. 前記媒質は、前記パルス光が入射することによってテラヘルツ電磁波を発生させる媒質であることを特徴とする請求項8記載の光反応装置。
  11. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光を波形整形する光波形整形器を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の光反応装置。
  12. 前記制御演算手段は、前記反応評価手段による前記光反応の評価結果に基づいて、前記光波形整形器に対する制御条件を演算して求めるとともに、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記光波形整形器における前記パルス光の波形を制御する光波形整形器制御手段を備えることを特徴とする請求項11記載の光反応装置。
  13. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光を増幅する光増幅器を備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項記載の光反応装置。
  14. 前記制御演算手段は、前記反応評価手段による前記光反応の評価結果に基づいて、前記光増幅器に対する制御条件を演算して求めるとともに、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記光増幅器における前記パルス光の増幅を制御する光増幅器制御手段を備えることを特徴とする請求項13記載の光反応装置。
  15. レーザ光源から出射された所定波長のパルス光を反応対象物に照射する光照射ステップと、
    前記パルス光によって前記反応対象物に生じる光反応を評価する反応評価ステップと、
    前記反応評価ステップにおける前記光反応の評価結果に基づいて、前記レーザ光源に対する制御条件を演算して求める制御演算ステップと、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記レーザ光源における共振器内での位相速度と群速度との関係を制御する光源制御ステップと
    を備えることを特徴とする光反応制御方法。
  16. 前記反応評価ステップは、前記反応対象物で生じた前記光反応を計測する反応計測ステップを有することを特徴とする請求項15記載の光反応制御方法。
  17. 前記反応評価ステップは、前記パルス光を入射して第2の光反応を生じさせる反応生成ステップと、前記反応生成ステップで生じた前記第2の光反応を計測する反応計測ステップとを有することを特徴とする請求項15記載の光反応制御方法。
  18. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光の一部を分岐して前記反応生成ステップで用いられる反応生成手段へと導く光分岐ステップを備えることを特徴とする請求項17記載の光反応制御方法。
  19. 前記光源制御ステップにおいて、前記レーザ光源のレーザ媒質に励起エネルギーを供給する励起手段を制御することによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項15〜18のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  20. 前記光源制御ステップにおいて、前記レーザ光源における前記共振器内に設置された波長分散媒質を制御することによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項15〜19のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  21. 前記光源制御ステップにおいて、前記レーザ光源における前記共振器を構成する主共振器から取り出された光の位相または強度を変調して前記主共振器内に戻すことによって、前記位相速度と群速度との関係を制御することを特徴とする請求項15〜20のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  22. 前記反応評価ステップにおいて、前記パルス光が媒質によって波長変換された光を検出することを特徴とする請求項15〜21のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  23. 前記媒質は、前記パルス光が入射することによって高次高調波を発生させる媒質であることを特徴とする請求項22記載の光反応制御方法。
  24. 前記媒質は、前記パルス光が入射することによってテラヘルツ電磁波を発生させる媒質であることを特徴とする請求項22記載の光反応制御方法。
  25. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光を波形整形する光波形整形ステップを備えることを特徴とする請求項15〜24のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  26. 前記制御演算ステップにおいて、前記反応評価ステップにおける前記光反応の評価結果に基づいて、前記光波形整形ステップで用いられる光波形整形器に対する制御条件を演算して求めるとともに、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記光波形整形器における前記パルス光の波形を制御する光波形整形器制御ステップを備えることを特徴とする請求項25記載の光反応制御方法。
  27. 前記レーザ光源から前記反応対象物へと照射される前記パルス光を増幅する光増幅ステップを備えることを特徴とする請求項15〜26のいずれか一項記載の光反応制御方法。
  28. 前記制御演算ステップにおいて、前記反応評価ステップにおける前記光反応の評価結果に基づいて、前記光増幅ステップで用いられる光増幅器に対する制御条件を演算して求めるとともに、
    求められた前記制御条件に基づいて、前記光増幅器における前記パルス光の増幅を制御する光増幅器制御ステップを備えることを特徴とする請求項27記載の光反応制御方法。
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