回転陽極型X線管は、周知のように、軸受部を有する回転体及び固定体で円板状のX線ターゲットを回転自在に支え、真空容器外に配置したステータの電磁コイルを付勢してX線ターゲットを高速度で回転させながら、陰極から放出した電子ビームをX線ターゲット面上に照射してX線を放射させる。軸受部は、ボールベアリングのような転がり軸受や、軸受面にらせん溝を形成するとともにガリウム(Ga),又はガリウム-インジウム-錫(Ga−In−Sn)合金のような液体金属潤滑剤を軸受隙間に満たした動圧式すべり軸受で構成される。後者のすべり軸受を用いた例は、例えば特公昭60−21463号、特開昭60−97536号、特開昭62−287555号、特開平2−227947号、USP5068885号、特開平2−244545号、USP5077776号、特開平2−227948号、特開平5−13028号、或いは特開2001−325908号の各公報等に開示されている。
液体金属潤滑剤を用いた動圧式すべり軸受を有する回転陽極型X線管は、動作中に3000rpm乃至9000rpmという高速回転が必要であるとともに、不特定の向きになる場合が少なくない。その際、回転陽極型X線管がどのような姿勢になろうとも、長時間にわたってらせん溝を有する動圧式すべり軸受部に過不足なく液体金属潤滑剤が供給される必要がある。
従来知られている回転陽極型X線管においては、例えば特開平5−13028号公報に開示されているような、液体金属潤滑剤の貯蔵室を柱状固定体の中心部に形成した細長い穴で構成し、液体金属潤滑剤の貯蔵室から放射状に伸びた潤滑剤通路を介して動圧式すべり軸受に液体金属潤滑剤を供給した例がある。この構成では、潤滑剤貯蔵室から軸受部への潤滑剤通路の長さが不所望に長くなり、回転陽極型X線管の姿勢如何ではすべり軸受の特定部分への液体金属潤滑剤の供給が瞬時に為されない場合も考えられる。
また、例えば特開平2−227948号公報に開示されているように、スラスト軸受を構成した直径の大きい固定体部分の外周部分に比較的大きい隙間を形成してこれを潤滑剤貯槽とする例も知られている。しかしながら、そのような構造によると、潤滑剤貯槽内の液体金属潤滑剤が回転体の回転により、遠心力を受けて軸受部にむしろ供給されにくくなる不都合が考えられる。
このような不都合を改善する試みが為されている。例えば、特開2001−189143号公報や特開2002−184334号公報に開示されているように、回転体の回転軸に沿って設けられた長い穴から成る潤滑剤収容室が前記回転軸から半径方向にずれた位置に3〜4個設けられ、これらから放射状に分岐されて軸受部に連通された潤滑剤通路が設けられた例が知られている。これらの例においても、潤滑剤収容室と軸受部分とが放射状の潤滑剤通路によって結合されている為、前記の問題点が根本的に解決されるわけではない。
同様に、特開2001−325908号公報に類似の改善案が示されている。この例では、円柱状の固定体に中空穴が固定体の長手方向に沿って穿たれており、この中空穴の内側に挿入ロッドが挿入されており、前記中空穴の内周壁と挿入ロッドの外周壁との間に前記固定体の長さ方向に沿う隙間が形成されており、この隙間を、液体金属潤滑剤を貯蔵する潤滑剤貯蔵室としている。この場合、潤滑剤貯蔵室は部分的に環状になっていたり、複数の軸方向に伸びた潤滑剤貯蔵室の効果があったりするので、液体金属潤滑剤の供給は幾分改善することが考えられる。しかしながら、これらの潤滑剤貯蔵室はこれらから放射状に伸びるいくつかの穴から成る潤滑剤通路によって軸受部分と間欠的に結合されている状況は変わらない。
これらの従来例では、固定体内の液体金属潤滑剤の収容空間が複雑な形状となっており、気体の通路が液体金属潤滑剤で塞がれるので、組立工程や排気工程で気体が排出されにくい。このために、すべり軸受の組立や排気に際して種々の努力が為されており、特別な設備を必要としている。例えば、特開平5−12997号公報や特開平6−176720号公報や特開平9−35633号公報には、固定体と回転体を真空ベルジャ内に取り付けた後にこの真空ベルジャ内を高真空に排気し、200℃以上の高温に保持し、その後液体金属潤滑剤を注入して超音波振動を印加して脱気し、その後に真空ベルジャ内で固定体を回転体の内側に挿入し、この状態で引き続き真空中での加熱を続け、所定時間真空加熱処理をした後に、真空中で25℃程度まで徐冷して回転陽極型X線管の真空容器に取り付ける組立方法が開示されている。周知のように、真空中での加熱や冷却には長時間を要する。
又、特開平5−290734号公報には、排気工程において回転陽極型X線管の姿勢に特別の配慮が必要であることが開示されている。即ち、すべり軸受部から真空容器の内部空間に通じる回転体と固定体との隙間の少なくとも一部分が、回転体を回転させない状態での液体金属潤滑剤の喫水線よりも上方にある姿勢で排気する工程を含む必要がある旨の記載がある。
これらは、前記回転体と固定体の内部で液体金属潤滑剤が容易に置換できない構造になっていることが原因して、組立時に脱気が困難である為に必要となっている工程であると考えられる。この工程では真空ベルジャの排気と高温への加熱と常温への徐冷とに長時間を要するので、大量生産をする為には多数の製造設備が必要であり多額な設備投資を必要としている。したがって、このようにして製造された回転陽極型X線管の価格が高額であると考えられる。
上記のようにして組立てられた回転陽極型X線管は特殊な排気設備を用いて特殊な方法で排気される。この様子は、例えば、特開平5−290734号公報や特開平8−111194号公報に開示されているように、回転陽極型X線管の管軸の方向を鉛直方向にして排気する工程と、水平方向にして排気することが必要な場合があり、さらにこのような管軸の姿勢の変更を繰り返す必要がある旨の記載がある。これを実現する為には排気工程中に回転陽極型X線管の姿勢を変えられる排気設備が必要であり、設備費が高価となる。
特公昭60−21463号公報
特開昭60−97536号公報
特開昭62−287555号公報
特開平2−227947号公報
USP5068885号公報
特開平2−244545号公報
USP5077776号公報
特開平2−227948号公報
USP5077775号公報
特開平4−144046号公報
特開平4−363845号公報
USP5189688号公報
特開平5−12997号公報
USP5298293号公報
特開平5−13028号公報
USP5195119号公報
特開平5−290734号公報
特開平5−290771号公報
特開平6−13007号公報
USP5384819号公報
特開平6−176720号公報
USP5668849号公報
特開平6−325706号公報
特開平8−111194号公報
USP5583907号公報
特開平9−35633号公報
特開平11−213927号公報
特開2001−189143号公報
USP6477236B1号公報
特開2001−325908号公報
USP6546078B2号公報
特開2002−184334号公報
USP6477232B2号公報
解決しようとする課題は、液体金属を潤滑剤とするすべり軸受を用いた回転陽極型X線管を製造するにあたって回転陽極型X線管の組立工程や排気工程において付加的な工程や特別な設備を必要とせずに容易に短時間で且つ安定して製造できるとともに、製造された回転陽極型X線管の信頼性が高くできるように改善した構造の回転機構を有する回転陽極型X線管及び回転陽極型X線管装置を提供することである。
本発明は、液体金属を潤滑剤とするすべり軸受を用いた回転陽極型X線管の回転機構内において、液体金属潤滑剤の循環、気体の移動、液体金属潤滑剤と気体との分離と置換、及び、気体の膨張等が容易に行え、且つ内部に含まれていた気体が高圧力化しない状態で外部に排気できるように工夫したすべり軸受構造を採用するとともに、この気体が回転機構から外部に放出されるときに回転機構内の液体金属潤滑剤で気体の通路が塞がれないように工夫している。このような回転機構を採用すると、内部の気体を予め除去する為の特殊な工程や設備が不要となり本発明の課題が解決できる。
先ず、すべり軸受構造の工夫について述べる。液体金属を潤滑剤とする動圧式すべり軸受の両側にこのすべり軸受と全周囲で連通した環状リザーバを設け、各々の環状リザーバをこのすべり軸受を通らないとともに径方向に屈曲した部分を含まないようにして設けられた多数の潤滑剤通路で連結しており、これらに独立した多数の閉じた循環路の機能を持たせている。この環状リザーバは、固定体の表面から径方向に深く削り取られた環状の深溝と、固定体の表面と微小な隙間をもって対向した回転体の表面とで囲まれてこの内部に液体金属潤滑剤が供給されて成り立っている。本発明に於ける環状リザーバは、この中には液体金属潤滑剤が占めていない空間も含まれており、液体金属潤滑剤と気体との置換も容易に行えるようになったものであり、この分野で従来用いられていた所謂リザーバの概念に限定されるものではない。上記の閉じた循環路は、液体金属潤滑剤を全周囲ですべり軸受に供給し易くするのと、液体金属潤滑剤に含まれる気体を閉じた循環路内で分離するのに役立っている。この環状リザーバと潤滑剤通路は十分に大きな断面を持っており、この中での毛細管効果は無視できる程度であり、液体金属潤滑剤の移動や気体との置換は容易に行えるようになっている。前記の環状リザーバや潤滑剤通路を含む回転機構の中には液体金属潤滑剤で満たされていない空間が設けてあり、この部分における気体の移動を邪魔されないようになっている。回転体が水平の姿勢で静止している場合には、どこかの場所で気体が生じてもこの気体の圧力がある程度高まればこの気体は一部の液体金属潤滑剤を押しやり又は液体金属潤滑剤と置換されて前記環状リザーバに到達してこの気体が上方に浮上する。この際に、前記環状リザーバ内には気体の浮上を阻止する構造物が存在せず、回転機構の上方に位置して形成されたこのような空間は回転機構を縦断して分布するようにできている。
次に、気体が回転機構から外部に放出されるときに回転機構内の液体金属潤滑剤で通路を塞がれない工夫について述べる。前記回転体の端部には真空空間に通じる端部開口がある。この端部開口に最も近い位置にある環状リザーバよりも前記端部開口側に、表面張力で液体金属潤滑剤の通過を阻止する環状禁止帯が設けられている。この環状禁止帯よりも更に前記端部開口側に付加的なすべり軸受が設けられている。環状禁止帯は、回転体と固定体の間で微小な隙間を保って対向しており液体金属潤滑剤で濡れない一対の面から成っている。前記付加的なすべり軸受は、回転体と固定体の間で微小な隙間を保って対向しており液体金属潤滑剤で濡れた一対の表面と、少なくとも一方の表面に設けられたらせん溝と、この中に存在する液体金属潤滑剤から成り立っている。この液体金属潤滑剤は前記環状リザーバを含む他の部分にある液体金属潤滑剤とは前記環状禁止帯で通常は分離されている。回転体が静止しているときに、回転機構内の前記空間の圧力がある程度高くなると、この分離された液体金属潤滑剤を外方向に押しやり、このときに液体金属潤滑剤の環の一部分が切断されて前記の空間と外部空間とを結ぶ気体通路が臨時に生じて外部に気体が排出される。この場合、付加的なすべり軸受内の液体金属潤滑剤の量が少ないので外部にはみ出すことは無い。
回転体が高速度で回転しているときには、前記付加的なすべり軸受内の液体金属潤滑剤の圧力が高まり、液体金属潤滑剤も前記気体もここを通過できなくなる。このとき、前記環状リザーバ内で回転体の表面に隣接している液体金属潤滑剤は回転させられて遠心力を受けて周方向に貼り付けられる。この結果、前記環状リザーバの底部は液体金属潤滑剤が欠乏した空間の部分が生じる。これらの環状リザーバの底部には気体のみを通す微細な気体通路又はフィルタが設けられており、隣り合う環状リザーバ同士や環状リザーバと回転機構の外部とがこれで結合されている。したがって、回転体が回転しているときには、いずれかの前記環状リザーバの底部に生じた空間は回転機構の内部を縦断して連通するとともに回転機構の外部と連通した気体通路を構成する。このようにして、回転体が高速度で回転しているときにも回転機構内の気体を容易に外部に排気することができる。尚、回転体が静止しているときには前記気体通路又はフィルタの開口部は液体金属潤滑剤で覆われている。以上に述べた工夫をしているので、回転機構内や液体金属潤滑剤内に気体が含まれていてもこれを容易に排気でき、前記の課題は解決されている。本発明において採用されている具体的な課題解決手段は以下のとおりである。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体及び回転体の勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、いずれかの動圧式すべり軸受は前記固定体と前記回転体との間に設けられた環状リザーバで前記中心軸に沿って挟まれており、この動圧式すべり軸受の両側にある前記環状リザーバは径方向に屈曲した部分が無く且つこの動圧式すべり軸受を経由しない少なくとも1個の潤滑剤通路で連結されており、前記環状リザーバ及び前記潤滑剤通路の内部には一部分の空間を残して液体金属潤滑剤が充填されており、この液体金属潤滑剤は前記動圧式すべり軸受の軸受隙間内にある液体金属潤滑剤と連通していることを特徴とする回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では前記動圧式すべり軸受が前記環状リザーバで前記中心軸に沿って挟まれており、これらが環状の隙間で連通しているので液体金属潤滑剤の授受が行われ易く、且つ両側の前記環状リザーバは前記動圧式すべり軸受を径方向に屈曲せずにバイパスする潤滑剤通路が設けられている為にどこかに発生した気体の膨張等で局部的な高圧力の場所が生じてもこの気体は液体金属潤滑剤とともに容易に移動して低圧力化する。これは、前記環状リザーバ及び前記潤滑剤通路の内部には一部分の空間を残して液体金属潤滑剤が充填されているために、この空間に気体が合流して体積が膨張することによる。また、前記環状リザーバ内では気体が前記空間に合流するに際してその動きを妨げる障害物がないし、環状リザーバ及び潤滑剤通路は十分に大きな断面を持っているのでこれらの中で液体金属潤滑剤と気体との置換が行われ易くて都合がよい。このようにして内部の気体による局部的な高圧力化が防止できるとともに、気体を外部に排気し易いようになっている。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体及び回転体の勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の端部開口があり、前記動圧式すべり軸受には前記回転体を前記中心軸に沿った方向に支承する一対のスラスト軸受と前記中心軸に直角な方向に支承する第1及び第2のラジアル軸受とが含まれており、これらの動圧式すべり軸受のうちで前記端部開口に最も近い動圧式すべり軸受は前記固定体と前記回転体との間に設けられた環状リザーバで前記中心軸に沿って挟まれており、この動圧式すべり軸受の両側にある前記環状リザーバは径方向に屈曲した部分が無く且つこの動圧式すべり軸受を経由しない少なくとも1個の潤滑剤通路で連結されており、前記環状リザーバ及び前記潤滑剤通路の内部には一部分の空間を残して液体金属潤滑剤が充填されており、この液体金属潤滑剤は前記動圧式すべり軸受の軸受隙間内にある液体金属潤滑剤と連通しており、前記固定体と前記回転体とは前記端部開口に最も近い位置にある前記環状リザーバから前記端部開口の方向に伸びた延長部分を含んでおり、この延長部分の前記固定体と前記回転体の間に、前記環状リザーバに連通しており液体金属潤滑剤で濡れていない対向した表面から成る環状禁止帯と、この環状禁止帯に連通しており液体金属潤滑剤で濡れた表面を含み且つ軸受隙間が前記第1及び第2のラジアル軸受のどちらよりも小さくない第3のラジアル軸受とが順に設けられていることを特徴とする回転陽極型X線管である。第3のラジアル軸受の軸受隙間は前記第1及び第2のラジアル軸受のどちらよりも大きい方が好ましい。
この回転陽極型X線管では、前記環状リザーバに隣接して前記端部開口の側に、液体金属潤滑剤で濡れない表面を含んで微小な隙間を隔てて対向する前記固定体と前記回転体の表面からなる環状禁止帯が設けられているので、前記回転体が静止しているときには、液体金属潤滑剤に生じる表面張力によってその漏出が防止される。また、前記回転体が高速度で回転する場合、又は前記回転陽極X線管が公転する場合には、前記環状リザーバ内の液体金属潤滑剤に遠心力が作用して液体金属潤滑剤が前記環状禁止帯を通過して前記第3のラジアル軸受の軸受隙間内に進入する。この軸受隙間内の液体金属潤滑剤の量が増加すると、液体金属潤滑剤に大きな圧力を生じて液体金属潤滑剤が前記端部開口の方向に大きく移動するのは阻止される。この際、前記第3のラジアル軸受内で生じる圧力は前記第1及び第2のラジアル軸受のどちらよりも小さくなっており、この部分の圧力の増減が前記回転特性に殆ど影響を与えなくなっている。又、内部に発生した気体が異常な高圧力にならないで前記環状リザーバまで移動しやすいことは前述のとおりである。回転体が静止しているときに、前記環状リザーバ内に気体の圧力がある程度高くなった場合には、この気体は前記環状禁止帯を通過して前記第3のラジアル軸受内に進入して、軸受隙間内の液体金属潤滑剤をこの軸受領域内において押しやって破断させて気体は前記端部開口を通過して排気される。この際、押しやられる液体金属潤滑剤の量は少なく、軸受領域外に出ることはない。その理由は、前記環状禁止帯で区画されているので、前記第3のラジアル軸受内の液体金属潤滑剤は前記環状リザーバ内の液体金属潤滑剤と繋がっていないことによる。気体が排気されて内部の圧力が低下すると液体金属潤滑剤の破断は解消する。前記回転体が回転すると液体金属潤滑剤は前記第3のラジアル軸受内における特定の狭い領域内に集められる。このようにして、液体金属潤滑剤の漏出を防止しつつ容易に排気できる効果がある。
本発明の一つは、前記動圧式すべり軸受の両側にある前記環状リザーバのそれぞれは、前記固定体の円筒状表面と繋がった環状側面を含んだ環状深溝と、前記固定体の円筒状表面と微小な隙間を保って対向した前記回転体の円筒状表面に繋がった表面とを含んでおり、前記潤滑剤通路は、それぞれの前記環状リザーバの前記環状側面に開口していて液体金属潤滑剤を通過するように構成されていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極X線管では、前記環状リザーバが前記固定体の円筒状表面からへこんだ深い溝と、前記円筒状表面と微小隙間を保って対向した前記回転体の円筒状表面に繋がった表面とで実質的に囲まれており、この環状リザーバ内での気体の移動と置換が容易になっており、排気がスムーズに行われる効果がある。
本発明の一つは、前記潤滑剤通路は前記動圧式すべり軸受の直下に位置し且つ前記固定体内で前記中心軸に沿って伸びており且つ前記固定体の周辺で周方向に配列された複数の穴から成ることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。更に好ましい前記潤滑剤通路は、このように形成された穴の数が例えば16個程度に多くなっている。この回転陽極型X線管ではどこかの場所で局部的な気体の圧力が高くなったとき、他の部分にある液体金属潤滑剤に実質的に影響を与えずに気体の移動と置換が行われ易くなる。特に、前記中心軸を水平にしたときに一部分の潤滑剤通路に液体金属潤滑剤で妨げられない気体通路が生じ、回転体の奥の部分で気体と液体金属潤滑剤との置換が行われ、押し出す液体金属潤滑剤の量は少なくてすみ、排気が行われ易い効果がある。
本発明の一つは、前記中心軸を実質的に水平方向にしたときに前記の連結された両側の環状リザーバには液体金属潤滑剤で満たされていない共通した空間が生じるように構成されたことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。これは、前記のように環状リザーバと潤滑剤通路を構成し、この中に充填する液体金属潤滑剤の量を適正化することによって達成できる。この回転陽極型X線管では内部の空間が連通している為に、局部的に発生した気体は液体金属潤滑剤で邪魔されることなく特に移動し易いとともに低圧力化する効果がある。
本発明の一つは、前記潤滑剤通路と他の前記潤滑剤通路とが前記環状リザーバを介して前記中心軸に沿った方向に連結されており、前記中心軸を実質的に水平にしたときに両方の前記潤滑剤通路の少なくとも一部分には一方の前記潤滑剤通路の始端から他方の前記潤滑剤通路の終端まで連通した、液体金属潤滑剤で満たされていない空間が生じるように構成されたことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では回転機構の最奥部で膨張した気体も液体金属潤滑剤を実質的に押しのけることなく低圧力化して容易に排気できる効果がある。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状の部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体及び回転体の勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管において、前記固定体の表面と前記回転体の端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の端部開口があり、前記動圧式すべり軸受には前記回転体を前記中心軸に沿った方向に支承する一対のスラスト軸受と前記中心軸に直角な方向に支承する第1及び第2のラジアル軸受とが含まれており、前記固定体と前記回転体とはこれらの動圧式すべり軸受が設けられた部分から前記端部開口の方向に伸びた延長部分を含んでおり、この延長部分に最も近い位置にある前記動圧式すべり軸受に連通した環状リザーバと、この環状リザーバに連通しており液体金属潤滑剤で濡れていない対向した表面から成る環状禁止帯と、この環状禁止帯に連通しており液体金属潤滑剤で濡れた表面を含み且つ軸受隙間が前記第1及び第2のラジアル軸受のどちらよりも小さくない第3のラジアル軸受とが前記延長部分の前記固定体と前記回転体との間に順に設けられていることを特徴とする回転陽極型X線管である。第3のラジアル軸受の軸受隙間は前記第1及び第2のラジアル軸受のどちらよりも大きい方が好ましい。前記のように、回転体が静止しているときには、前記環状禁止帯があるために、前記第3のラジアル軸受内にある液体金属潤滑剤の量は少なく、液体金属潤滑剤の一部がこの中で移動させられることによって容易に破断して臨時の気体通路が作られる。前記回転体が回転しているときには前記第3のラジアル軸受内にある液体金属潤滑剤の量が増加してこれを押し戻す力が増す。この回転陽極型X線管では前記と同様の効果があるが重複を避ける為説明を省略する。
本発明の一つは、前記第3のラジアル軸受において、液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押込角度を成して形成された軸受溝が占める領域が、液体金属潤滑剤を前記端部開口の方向に押込む角度を成して形成された軸受溝が占める領域よりも広いことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極型X線管では、前記環状リザーバ内の空間における気体の圧力が高くなった場合には前記のように前記第3のラジアル軸受内の液体金属潤滑剤は前記端部開口の方向に押込まれるが、押込まれる部分の面積が大きくなっている為に、液体金属潤滑剤が前記第3のラジアル軸受よりも外に押し出されないようになっている。又、前述のように、前記環状リザーバ内にある液体金属潤滑剤の圧力が高くなって前記第3のラジアル軸受に進入した量が増加した場合には、液体金属潤滑剤を押し戻す力が大きくなるので液体金属潤滑剤が前記端部開口の方向に漏出するのが防止される。更に、液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押込む角度を成して形成された軸受溝が占める領域の軸受隙間の一部分又は全部を、液体金属潤滑剤を前記端部開口の方向に押込む角度を成して形成された軸受溝が占める領域の軸受隙間よりも小さくするとこの効果が大きくなる。
本発明の一つは、前記第3のラジアル軸受の内部に含まれる液体金属潤滑剤の量は、前記回転体が静止しているときよりも前記回転体が回転したときに増加することを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。これは、前記回転体の回転速度が小さくなると前記環状リザーバ内の液体金属潤滑剤の回転によって生じる遠心力よりも前記第3のラジアル軸受の内部における液体金属潤滑剤を前記環状リザーバ内に押し戻す圧力の方が大きくなるように前記環状リザーバの寸法と前記第3のラジアル軸受の構成を適正化することによって達成できる。例えば環状リザーバの直径が小さい場合や、環状リザーバの入口部の幅が深さに比べて小さい場合等が考えられる。
本発明の一つは、前記固定体の表面と前記回転体の端部の表面とが対向した位置に前記真空空間に連通した環状の端部開口があり、前記動圧式すべり軸受の両側の前記環状リザーバはこれらそれぞれに開口していて液体金属潤滑剤を実質的に通過させないで気体を通過させる気体通路で連結されていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。これは液体金属潤滑剤で濡れない表面からなる細い管や海綿状のフィルタ等で構成できる。また、大きな直径をもつ穴をあけ、この中に微細なクラックやスリットを設けた棒状体を操縦しても良い。この回転陽極X線管では、前記潤滑剤通路を経由した前記のような気体の排気効果に加えて、前記環状リザーバ内で置換された気体が液体金属潤滑剤を移動させること無く容易に排気され易い効果がある。
本発明の一つは、前記環状リザーバは前記中心軸に近い部分である底部を含み、前記環状リザーバの底部の近傍と他の前記環状リザーバの底部の近傍とに開口する気体通路、又は前記環状リザーバの底部の近傍に開口し且つ前記端部開口に連通する気体通路の少なくとも一方が設けられており、これらの気体通路は気体を通過させるが液体金属潤滑剤を実質的に通過させないようになっていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この気体通路は前述と同様に作られている。この回転陽極X線管では、深い環状の溝から成る環状リサーバの底部に気体通路が設けられており、且つ、充填された液体金属潤滑剤の体積をこの部分の容積よりも小さくしておくと、前記回転体が高速度で回転したときに液体金属潤滑剤が前記回転体の表面に近い部分つまり前記環状リザーバの周辺部に偏在して底部には気体が溜まった領域ができ、液体金属潤滑剤で覆われなくなって開口した前記気体通路を通って容易に排気できる効果がある。
本発明の一つは、前記気体通路が前記環状リザーバ内に開口する部分は前記回転体が静止しているときに液体金属潤滑剤で覆われており前記回転体が回転しているときに液体金属潤滑剤で覆われない部分が生じるように構成されていることを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。これは、前記環状リザーバの形状や前記気体通路の位置や液体金属潤滑剤の量を適正化すること等によって実現される。この回転陽極型X線管では、前記のように、前記回転体が回転しているときと静止しているときで排気通路を切り替えることができ、排気工程の適正化が行い易い等の効果がある。
本発明の一つは、前記環状リザーバのいずれかは、前記固定体の円筒状表面と繋がった環状側面を含んだ環状深溝と、前記固定体の円筒状表面と微小な隙間を保って対向した前記回転体の円筒状表面に繋がった表面とを含んでおり、この回転体表面に隣接した前記環状深溝の入口部分を前記環状深溝内に突出させたことを特徴とする上記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管である。この回転陽極X線管では液体金属潤滑剤の予期しない挙動を防止できて安定な動作が得られる。
本発明の一つは、前記いずれかの発明に係わる回転陽極型X線管と、この回転陽極型X線管を収納する収納容器と、前記回転陽極型X線管を前記収納容器内に固定する保持機構と、前記回転陽極型X線管の前記真空容器の外から前記回転陽極型X線管内の前記回転体に回転トルクを与えるステータと、前記回転陽極型X線管内で電子を放出する陰極に負の高電圧を供給する為の高電圧端子とを具備したことを特徴とする回転陽極型X線管装置である。この回転陽極型X線管装置では前記したように組立工程や排気工程が簡略化できるだけでなく、前記真空容器内を排気するゲッター等を設けることにより、実際に使用している状態で回転機構の内部が自動的に排気されて信頼性が高い効果がある。
本発明の一つは、真空空間を画定する真空容器と、この真空容器の一部分に機械的に支持されるとともに前記真空容器内に突出して又は前記真空容器を貫通して設けられた概略円柱状で中心軸を有する固定体と、この固定体の外周に微小な軸受隙間を保って同軸的に勘合された概略円筒状の部分を含み且つ一部分にX線ターゲットが同軸的に取り付けられた回転体と、これら固定体及び回転体の勘合部に設けられたらせん溝とこの中に充填された液体金属潤滑剤を有する動圧式すべり軸受とを具備する回転陽極型X線管の製造方法において、前記動圧式すべり軸受のいずれかを前記中心軸に沿った方向に挟んだ位置に、前記固定体の円筒状表面と繋がった環状側面を含んだ第1及び第2の環状深溝を設ける工程と、この第1の環状深溝の前記環状側面と前記第2の環状深溝の前記環状側面とのそれぞれに開口していて径方向に屈曲していない少なくとも1個の潤滑剤通路を設ける工程と、前記第1及び第2の環状深溝を含む前記固定体と前記回転体の表面とで囲まれた領域に一部分の空間を残して液体金属潤滑剤を充填する工程と、前記固定体と前記回転体とを組立てて前記真空容器に組み込む工程と、組み込まれた前記真空容器を前記中心軸が概略水平方向になるように設定して前記真空容器の内部を排気する工程とを含むことを特徴とする回転陽極型X線管の製造方法である。この製造方法を採用すると、回転陽極型X線管の組立工程や排気工程が簡略化でき、工期が短縮できるだけでなく特殊な製造装置を必要としない効果がある。
本発明を採用すると、液体金属を潤滑剤とした動圧式すべり軸受を用いた、陽極熱容量が極めて大きくて、大きな遠心力のような大きな外力に耐えられ、安定に長時間使用できる回転陽極型X線管を、特別な工程や特殊な製造設備を必要とせずに容易に安定して量産することができる。具体的には、前記動圧式すべり軸受の組立時において真空中での加熱処理や組立などの特殊な工程が不要であり、真空引きや真空中での加熱や冷却に要する時間が省略できるので製造工程が大幅に短くなり、且つこれに必要な設備が不要になる。組立てた回転陽極型X線管の排気工程においても、回転陽極型X線管の姿勢を変える等の特殊な設備が不要となる。しかも、製造された回転陽極型X線管は液体金属潤滑剤が前記すべり軸受の軸受隙間のどの部分からでも過不足なくすべり軸受に自動供給されるとともに、使用中に軸受部分で発生した気体は自動的に排気されるので信頼性が高い長寿命の回転陽極型X線管及びこれを用いた回転陽極型X線管装置を提供することができる。
本発明に係わる回転陽極型X線管は、液体金属を潤滑剤とした動圧式すべり軸受から成る第1及び第2のラジアル軸受と2個のスラスト軸受を含んでおり、これらのすべり軸受がそれぞれ回転陽極の回転中心軸に直角の方向及び回転中心軸に沿った方向に軸受力を発生して回転陽極を回転自在に支承する回転機構を含んでいる。前記各すべり軸受はその軸受隙間の全周囲で連通した環状リザーバに両端部で隣接しており、これら環状リザーバはすべり軸受の直下にすべり軸受と平行して周方向に多数が並んで設けられた潤滑剤通路によって最短距離で直結されている。結果として、前記すべり軸受と環状リザーバと潤滑剤通路とで閉じた潤滑剤流路がすべり軸受の軸受隙間全体で形成されて、液体金属潤滑剤があらゆる周方向位置からすべり軸受内に流入又はすべり軸受から流出できるようになっている。回転体が移動して軸受隙間が増減した場合にも液体金属潤滑剤の量は自動的に適正化される。液体金属潤滑剤及びこれに混入している気体は環状リザーバ内で前記すべり軸受の軸受隙間に沿って周回移動することができ、これらは容易に分離される。同様に、潤滑剤通路の断面が大きく、毛細管効果が無視できるようになっており、液体金属潤滑剤や気体が容易に移動できる。環状深溝内や潤滑剤通路内には液体金属潤滑剤で満たされない空間を含むようになっており、液体金属潤滑剤に含まれていた気体は、容易に移動して液体金属潤滑剤から分離されて前記空間に合流し、膨張して圧力が低下した状態で以下に述べるようにして回転機構の外に排気されるようになっている。
前記環状リザーバは、前記回転機構の固定部分である固定体の表面から深く環状に削り取られてできた狭い幅で深い溝をもつ環状の深溝と、前記固定体の表面と微小な隙間を保って対向した表面を有する回転体の表面とで囲まれた環状の領域を含んでいる。前記環状の深溝は、環状の底面と、この底面と繋がった両側の環状の側面を含んでいる。この環状の側面に開口して管軸方向に伸びた多数の長穴が前記環状の側面の外側の辺に沿って分布するように設けられている。これらの各長穴は、同一すべり軸受に隣接した他の環状深溝の環状側面にもそれぞれ開口しており、且つ、径方向に屈曲した部分を含んでいない。これらの多数の長穴とその両側の環状深溝は、前記回転体の表面で囲まれており、且つ前記すべり軸受の軸受隙間に全周囲で通じた領域を形成している。この中に、この領域の容積の85%程度に相当する体積の液体金属潤滑剤が充填されている。前記環状深溝と前記回転体表面とで囲まれた領域は環状リザーバを構成しており、前記長穴は潤滑剤通路を構成している。
上記のように構成されたすべり軸受は回転体の中心軸に沿った方向に複数個が設けられており、これらが前記環状リザーバを介して直列に接続されている。結果として、回転軸を水平方向にした場合には、回転機構の最奥部にあるすべり軸受とも水平方向に連結され、鉛直上方に位置するいくつかの潤滑剤通路は回転機構の最奥部まで水平に繋がった回転機構内空間を形成できる。このように構成されている為に、回転軸を水平方向にした場合には、液体金属潤滑剤又はその境界壁を構成している部材のどこかの場所から出てきた気体は液体金属潤滑剤の喫水線からみて深部に入ることなく鉛直上方に浮上できる通路ができている。いずれかの環状リザーバに到達した気体は浮力で浮上して上記回転機構内空間に合流する。このように、発生した気体の圧力が異常に高くならなくても液体金属潤滑剤と分離できて大きな容積の上記回転機構内空間に繋がる。この回転機構内空間に溜まった気体は、以下に述べるようにして真空容器内の真空空間に移動して排気される。
前記回転体の端部と前記固定体とは、微小な隙間を保って対向した表面を含んでおり、これを端部開口と称する。前記回転体及び前記固定体は、この端部開口に最も近い環状リザーバから前記端部開口の方向に伸びた延長部分を含んでおり、その径は実質的に前記第1及び第2のラジアル軸受と同じである。この延長部分で、前記環状リザーバに隣接して前記端部開口の方向に伸びた領域に液体金属潤滑剤で濡れない対向面からなる環状禁止帯が設けられている。これは、前記回転体と前記固定体のそれぞれの、微小な隙間を保って対向した帯状表面に例えば酸化チタン等の表面を有するように構成されている。この部分の隙間は実質的にラジアル荷重を受け持つ前記第1及び第2のラジアル軸受の軸受隙間よりもわずかに大きくなっており、対向する前記回転体の表面とは機械的に接触しないようにできている。この環状禁止帯には、液体金属潤滑剤に生じる表面張力によって液体金属潤滑剤が通常は進入しないようになっている。
前記環状禁止帯に隣接して前記環状リザーバと反対側の前記延長部分に第3のラジアル軸受が形成されている。このすべり軸受は前記第1及び第2のラジアル軸受よりも対向面との隙間が大きくなっており、対向する面が接触しないようになっているのが好ましい。この第3のラジアル軸受よりも前記端部開口に近い側に前記固定体及び前記回転体が肩部を有して段差的に径を小さくした径小部分があり、この径小部分は環状の微小な隙間を有するとともに、前記回転体の端部の表面と対向しており、この隙間を通じて真空容器の内部の空間に連通する前記端部開口を形成している。
前記回転体のラジアル荷重は実質的に前記第1及び第2のラジアル軸受によって支承されており、前記第3のラジアル軸受は補助的な軸受力を発生するにすぎない。前記第3のラジアル軸受は、主に液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押しやる役割と後述する臨時の気体通路を形成する役割を担っているが、常に少量の液体金属潤滑剤をその隙間に含んでおり、ある程度の軸受力を発揮する。これは、第3のラジアル軸受の軸受面を常時液体金属潤滑剤で濡れた状態に保つのに役立っている。第3のラジアル軸受には方向が反対になった2組のらせん溝が設けられている。これらは、回転体が正規の回転方向に回転している場合に液体金属潤滑剤を前記環状リザーバの方向に押しやる圧力を生じる第1の軸受溝と、液体金属潤滑剤を前記端部開口の方向に押しやる圧力を生じる第2の軸受溝とである。第1の軸受溝は第2の軸受溝よりも広い面積を占めており、液体金属潤滑剤が新たに供給されない場合には第2の軸受溝の領域と第1の軸受溝の領域の一部分に液体金属潤滑剤が溜まっている。
前記回転体が静止しているときには、前述のように回転機構内の液体金属潤滑剤は前記環状禁止帯で遮断されて第3のラジアル軸受への移動が禁止される。従って、前記回転機構内空間は、前記環状禁止帯にも繋がっており、前記第3のラジアル軸受内の液体金属潤滑剤で閉じられている。前記第3のラジアル軸受には液体金属潤滑剤が付着しているが、軸受隙間が大きい為に、前記回転体が静止しているときには液体金属潤滑剤が横方向に容易に移動できるようになっている。また、軸受溝の深さと幅が大きくなっており、且つ液体金属潤滑剤が少ない領域が広いので液体金属潤滑剤が中心軸に沿った方向に移動すると破断されて臨時に気体の通路ができ易くなっている。前記回転機構内空間の圧力がある程度高くなると第3のラジアル軸受の軸受隙間にある少量の液体金属潤滑剤が前記第1の軸受溝内で前記肩部の方向に押しやられ、破断部分が生じて前記回転機構内空間にある気体は前記端部開口を経由して真空容器内空間に移動する。前記回転機構内空間の圧力が低下すれば液体金属潤滑剤の状況は復元する。
回転体が高速度で回転しているときには、前記環状リザーバ内の液体金属潤滑剤は、接触している前記回転体表面の回転によって回転させられ、液体金属潤滑剤に働く遠心力で前記第3のラジアル軸受の方向に押しやられて前記環状禁止帯を通過して前記第3のラジアル軸受を構成する前記第1の軸受溝の広い部分にまで押し込まれる。このとき、第3のラジアル軸受では前記第1の軸受溝で生じる圧力が前記第2の軸受溝で生じる圧力に勝り、結果としてスパイラルポンプとして作用して前記遠心力に対向する圧力を生じるので液体金属潤滑剤が前記肩部の方向に漏出するのが防がれる。このスパイラルポンプとしての作用は、回転陽極型X線管自体が公転させられて液体金属潤滑剤に生じる遠心力による押し出し力が追加されても液体金属潤滑剤の漏出を防止できる大きさになっている。このような液体金属潤滑剤を押し出そうとする力が減少すると液体金属潤滑剤の分布は前記の通常の場合に戻る。予期しない理由により液体金属潤滑剤が前記第3のラジアル軸受を通過して前記肩部に到達した場合にはこの部分で液体金属潤滑剤が遠心力を受けて前記第3のラジアル軸受に戻されて前述のように振舞う。
回転体が高速度で回転しているときには、前述のように、環状リザーバ内の液体金属潤滑剤は遠心分離作用で回転体の表面近くに押しやられて前記深溝の底面近くに液体金属潤滑剤が存在しない空間が生じる。この空間は、前記環状深溝の底面近くに設けられた微小気体通路又はフィルタによって隣にある環状深溝の底面近くの空間及び回転機構の外部と連結されている。従って、回転体が回転しているときのみに外部と連通して内部にある気体のみを外部に放出できるようになっている。このようにして回転体が高速度で回転している場合にも回転機構内の気体は自動的に排気される。
以上に述べたように、回転体が静止しているときにも、回転しているときにも軸受特性に実質的に影響を与えず、又液体金属潤滑剤が気体の膨張等によって外部に噴出させられること無く、回転機構内の気体が正常に外部に排気される。従って、液体金属潤滑剤や軸受部材に多量の気体が含まれている状態であっても正常に容易に排気することができる。又、実使用中においても絶えず自動的に排気されるので信頼性が良い回転陽極型X線管を提供することができる。以下に、実施例を用いて本発明の実施形態及び作用についてより具体的且つ詳細に説明する。
図1、図2、図3を参照して本発明の回転陽極型X線管の構成について説明する。これらの図において、同じ部分は同じ番号を付して表している。図1は、本発明に係わる回転陽極型X線管の要部を表す断面図であって、1は内部を高真空の真空空間1aを画定する真空容器であり、2は真空容器1内に在って電子を放出する陰極であり、3は陰極2から放出された電子が入射してX線を放出するX線ターゲットであり、4はX線ターゲット3から放出されたX線を真空容器1の外部に取り出す為のX線照射窓である。図1において、10はX線ターゲット3を回転自在に支承する回転機構であり、20は回転機構10の内X線ターゲット3を回転する為の回転体であり、30は回転体20に勘合されて回転体20を回転自在に支承する固定体であり、40は真空容器1の外から回転体20に回転力を付与するステータである。
回転体20は、X線ターゲット3を同軸的に取り付けたターゲット支持体21と、ターゲット支持体21に同軸的に接合された第1の回転体部分22と、第1の回転体部分22に同軸的に取り付けられた第2の回転体部分23と、第2の回転体部分23に同軸的に取り付けられた第3の回転体部分24と、第2の回転体部分23に同軸的に取り付けられた第4の回転体部分25とを含んでいる。ターゲット支持体21の先端部にX線ターゲット3が陽極固定ネジ5によって固定されており、ターゲット支持体21の他端部は第1の回転体部分22の一端部22aに溶接等により接続されており、第1の回転体部分22の他端部22bは第2の回転体部分23の一端部23aにネジ等で接続されており、第2の回転体部分23の他端部23bは第3の回転体部分24の一部分24aに図示しないネジ等により接続されている。更に、ターゲット支持体21にはX線ターゲット3からの輻射熱を遮蔽する為の遮蔽筒6が同軸的に取り付けられている。
第1の回転体部分22の外側にロータ26が第1の回転体部分22と同軸的に設けられており、第1の回転体部分22の一端部22aの近傍で溶接等によって接合されている。第3の回転体部分24の図示上端部は回転体径小部24bを形成しており、その図示上端部分には回転蓋27がネジ等によって接続されており、図示下端部には回転環状体28がネジ等によって接続されている。ロータ26は銅等のように電気伝導率の大きな材質でできており、ロータ26の図示下半分は図示上半分よりも径が大きくなっている。ステータ40の回転磁界によりロータ26の図示下半分は回転体20に大きな回転トルクを与えるようになっている。第1の回転体部分22は、純鉄等の磁性材料でできており、ロータ26との上記接合部以外で隙間を保って実質的に平行に構成されており、上記回転磁界の通路を形成している。第2の回転体部分23は50重量%の鉄と50重量%のニッケルの合金(TNF)等の熱伝導率が小さな材質でできており、第1の回転体部分22及び第3の回転体部分24とは前記それぞれの接続部分以外で隙間を保っている。第3の回転体部分24及び回転蓋27は鉄合金工具鋼SKD11(JIS規格)等のすべり軸受に適した材質でできており、第1の回転体部分22及び第2の回転体部分23との間に前記接続部分以外で隙間を保って非接触に構成されている。X線ターゲット3の熱はターゲット支持体21と第1の回転体部分22と第2の回転体部分23とを経由してすべり軸受が形成された第3の回転体部分24に伝導されるようになっている。
固定体30には、図示中央部に固定胴体部分31が、固定胴体部分31の図示上端部に上方肩部31aと固定体径小部分31bが、固定胴体部分31の図示下端部に陽極固定部分31cとが形成されている。上方肩部31aには円板状の仕切板36が固定されており、固定体径小部分31bには、上方肩部31aと中心軸C−C’に沿った方向に離れて対向するように軸受円板32が同軸的に取り付けられている。軸受円板32は固定胴体部分31に対して相対的に回転できないが、固定胴体部分31の中心軸C−C’に対して小さな角度で傾斜できるように固定体径小部分31bに取り付けられている。陽極固定部分31cの図示下端部は図示しない絶縁体を介して、絶縁油を収容した図示しない回転陽極型X線管の収納容器に固定されて回転陽極型X線管装置を構成している。固定胴体部分31と軸受円板32とはSKD11等のすべり軸受に適した材質でできている。
次に図1の主要部を拡大して表示した断面図である図2、及び図2において固定体30を非断面表示した図3を用いてより詳しく説明する。軸受円板32の図示上面及び図示下面にはヘリンボーンパターンのらせん溝GA1及びGA2が設けられており、軸受円板32の図示上面は回転蓋27の周辺部分の図示下面と20μm程度の隙間を保って対向しており、軸受円板32の図示下面は第3の回転体部分24の一部分が環状に内部に突出した回転体突出部24cの図示上面と20μm程度の隙間を保って対向している。それぞれのらせん溝GA1、GA2内及びそれぞれの隙間には、動作時に液体であるガリウム-インジウム-錫(Ga−In−Sn)合金から成る液体金属潤滑剤LMが満たされており、それぞれが反対方向の中心軸C−C’に沿った方向に動圧を発生する2個のスラスト軸受BA1,BA2を形成している。図4と図5以外では見やすくする為に液体金属潤滑剤LMは図示していない。回転体突出部24cの図示下面と仕切板36の図示上面とは1mm程度の大きな隙間を形成しており、液体金属潤滑剤LMが供給されている。
回転体突出部24cの最小径部の内面と固定体径小部分31bの外表面とは1mm程度の大きな隙間DA2があり、ここに液体金属潤滑剤LMが供給されている。固定体径小部分31bの図示上端部表面と回転蓋27の中央部分の表面とは最小0.5mm程度の隙間DS2を保って対向しておりこの隙間DS2には液体金属潤滑剤LMが供給されている。これら2個の隙間DS1,DS2は、軸受円板32に設けられた穴からなる潤滑剤通路RR3によって連通している。軸受円板32の中心軸C−C’に平行な円筒状外面とこれに対向した回転蓋27の円筒状内表面とは1mm程度の隙間DA1を保って対向しており液体金属潤滑剤LMが供給たされていて上記2個のスラスト軸受BA1,BA2に連通している。
回転体突出部24cの周辺部分に、軸受円板32に近づくにつれて中心軸C−C’からの距離が大きくなるように傾斜した多数の穴から成る潤滑剤通路RR4が設けられている。潤滑剤通路RR4は傾斜している為に、回転した場合に遠心力によって隙間DA1の方向に液体金属潤滑剤LMを押し込むように作用し、液体金属潤滑剤LMをスラスト軸受BA1,BA2を通って循環させようとする。この作用の大きさは前記傾き角度を変えることによって適正化できる。回転体20の回転速度が小さく、前記スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMの保持作用が前記遠心力による液体金属潤滑剤LMの循環作用よりも小さい場合には、液体金属潤滑剤LMは前記隙間を循環する。回転体20の回転速度が大きく、前記スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMの保持作用が大きい場合には、スラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMはスラスト軸受BA1,BA2の中に閉じ込められる。前記2個のスラスト軸受BA1,BA2内の液体金属潤滑剤LMが不足した場合や軸受隙間の大きさが変化した場合には前記循環作用により軸受隙間内の液体金属潤滑剤LMの量は適正に補充又は排出されるようになっている。
固定胴体部分31は概略円柱状の形状であり、この円筒状の外周表面には2組のヘリンボーン状の軸受溝GR1,GR2が設けられており、20〜30μmの軸受隙間を保って第3の回転体部分24の内表面と対向しており、軸受溝GR1,GR2及び前記軸受隙間には液体金属潤滑剤LMが供給されており、径方向に動圧を発生する第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2を構成している。第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の間及びそれぞれの端部に位置して環状で深い溝から成る環状深溝DR1,DR2,DR3が固定胴体部分31に形成されている。環状深溝DR1,DR2,DR3の各ラジアル軸受BR1,BR2に隣接する境界面はテーパー状になっており、環状深溝DR1,DR2,DR3の深さは各ラジアル軸受BR1,BR2に近づくにつれて連続的に浅くなっており、この中に供給された液体金属潤滑剤LMがラジアル軸受BR1,BR2の隙間に供給されやすくなっている。環状深溝DR1,DR2,DR3は第3の回転体部分24の円筒状内表面で覆われて、これらは内部に液体金属潤滑剤LMが充填されて環状リザーバを構成している。
環状深溝DR1,DR2,DR3の各環状側壁の浅い位置に開口し、各ラジアル軸受BR1,BR2に実質的に平行であって、環状深溝DR1の環状側壁と環状深溝DR2の環状側壁とを結合する16個程度の潤滑剤通路RR1、及び環状深溝DR2の環状側壁と環状深溝DR3の環状側壁とを結合する16個程度の潤滑剤通路RR2とが固定胴体部分31の周辺部分に環状に配列されている。これらの潤滑剤通路RR1,RR2のいくつかを、液体金属潤滑剤LMで濡れない表面を有する小孔を有する例えばフィルタ状であって気体は通過させるが液体金属潤滑剤LMは実質的に通過させないようになった気体通路に置き換えても良い。潤滑剤通路RR1、RR2は、直径が2〜4mm程度の長孔であり、毛細管効果は無視されるので内表面は液体金属潤滑剤LMで濡れていても濡れていなくても良いが、液体金属潤滑剤LMから分離された気体、又は液体金属潤滑剤LMに含まれた気体、又は液体金属潤滑剤LMが通過できるようになっている。
固定胴体部分31の図示下方部に各ラジアル軸受BR1,BR2から径を実質的に同一に保って伸びた固定体延長部分31dがあり、その終端にステップ状に半径が小さくなった下方径小部分31eがあり、下方径小部分31eは前記陽極固定部分31cに伸びている。図3において、図示最下方に位置する環状深溝DR3の図示下方壁DR3Wよりも図示下方に位置する固定体延長部分31dの表面における所定幅、例えば5mm、の帯状部分及びこれに0.1mm程度の微小な隙間を保って対向する第3の回転体部分24の表面における所定幅、例えば5mm、の帯状部分は前記のような液体金属潤滑剤LMで濡れない面と成っており、液体金属潤滑剤LMの表面張力によりその通過を妨げるように作用する環状禁止帯PR1を構成している。この部分の隙間は、各ラジアル軸受BR1,BR2の隙間よりも大きくなっており、機械的に接触することがないが、回転体20が静止しているときの液体金属潤滑剤LMの漏出を防止するのに十分な表面張力が有効に働く大きさと成っている。
図3において、環状禁止帯PR1の図示下方に位置する固定体延長部分31dの表面にらせん溝GR3があり、この表面は第3の回転体部分24の表面と微小な隙間を保って対向しており、この中に液体金属潤滑剤LMが充填されており、第3のラジアル軸受BR3を構成している。らせん溝GR3のうち図示上方に位置する軸受溝GR3aは図示下方に位置する軸受溝GR3bよりも狭い範囲にできている。従って、回転体20が回転しているときに新たなる液体金属潤滑剤LMの追加供給が無い場合にはらせん溝GR3の図示上方に位置する軸受溝GR3aと軸受溝GR3bの一部分から成る領域BR3aのみに液体金属潤滑剤LMが補足されている。この様子は図4に示している。図3において、第3のラジアル軸受BR3内に液体金属潤滑剤LMが追加されると、らせん溝GR3の図示下方の軸受溝GR3bでのポンプ作用の増加によって図示上方に押し出す力を生じる。このようにして液体金属潤滑剤LMが環状禁止帯PR1を通過して漏出するのは阻止される。このような作用をより有効にするにはらせん溝GR3の図示下方に位置する軸受溝GR3bでのポンプ作用をより大きくすることが好ましい。これを実現するには、例えば、らせん溝GR3の図示下方に位置する軸受溝GR3bの図示下方部分の隙間を狭くすれば良い。
図2に示すように、環状深溝DR1,DR2,DR3の環状側壁において各環状底面に近い位置に開口し、各ラジアル軸受BR1,BR2に実質的に平行であって、環状深溝DR1の環状側壁と環状深溝DR2の環状側壁とを結合する16個零度の気体通路RG1及び環状深溝DR2の環状側壁と環状深溝DR3の環状側壁とを結合する16個程度の気体通路RG2とが固定胴体部分31に環状に配列されている。また、固定体延長部分31dの終端で下方径小部分31eと繋がった隅部31fに開口し、固定体延長部分31dに最も近い位置にある環状深溝DR3の環状側壁DR3Wにおいてその環状底面に近い位置に開口した16個程度の気体通路RG3が設けられている。気体通路RG1,RG2,RG3は液体金属潤滑剤LMで濡れない表面を持つ極細い管又は海綿状の物体でできており、液体金属潤滑剤LMは実質的に通過させないが気体は通過するようになっている。これらは、比較的大きな穴をあけてこの中に狭いスリットを有する棒状の物体を挿入しても実現できる。
図2において、第3の回転体部分24の図示下端部には、固定胴体部分31の表面と0.1mm程度の隙間を保って対向した表面を有する回転環状体28が図示しないネジ等によって取り付けられている。回転環状体28の径小部の内表面には、0.1mm程度の深さがあり、1mm程度のピッチをもって中心軸C−C’に沿った方向に分離した環状の溝でできた分離環状溝28aが設けてある。これは、各々中心軸C−C’に沿った方向のらせん溝であっても良い。回転環状体28と第3の回転体部分24との接続によって生じる回転体隅部28bと回転環状体28の分離環状溝28aとを繋ぐ多数の穴から成る帰還孔28cが中心軸C−C’の周りに環状に配列して設けられている。回転環状体28の径小部の図示下端部は回転体終端部28eであり、この内表面と前記下方径小部分31eの外表面との間の環状の隙間は前記の端部開口を成している。
回転環状体28は液体金属潤滑剤LMで濡れない材質でできており、又は、帰還孔28cの内表面及び固定胴体部分31に対向する回転環状体28の表面は液体金属潤滑剤LMで濡れない面となっている。これらの表面に隙間を保って対向する固定胴体部分31の下方径小部分31eの表面も濡れない表面が形成されている。これらの隙間は前記スラスト軸受BA1,BA2及び第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の隙間よりも大きい為に互いに対向する面はどのような状態においても機械的に接触することがないようになっている。
図1に示すように、固定体30の陽極固定部分31cの近傍に環状の覆体33が取り付けられており、覆体33の内表面及び外表面は、回転環状体28及び第3の回転体部分24の外表面と、第4の回転体部分25と第2の回転体部分23の内面に隙間を保って対向して設けられている。陽極固定部分31cの近傍で覆体33よりも図示下方において環状体34が固定体30に溶接等により気密に接続されており、周辺部が封止リング35を介して真空容器1の絶縁体部分に気密に接続され、内部が排気されて真空空間1aを形成する。
回転機構10への液体金属潤滑剤LMの封入方法について図2を参照して説明する。先ず、固定体30の固定胴体部分31を第3の回転体部分24内に中心軸C−C’が一致するように挿入し、固定体径小部分31bの図示上端部が回転体突出部24cの中央穴の図示下方に位置させ、且つ図示最下方に位置する環状深溝DR3の図示下方壁DR3Wが回転体下端24dよりも図示上方に位置させた状態で仮固定する。この際、軸受溝GR1,GR2の部分を液体金属潤滑剤LMで予め濡らしておくことが好ましい。この状態では、図示上部に回転体突出部24cの中央穴が空芯の状態になっているので、この穴から液体金属潤滑剤LMを大気中で滴下して挿入する。充填する液体金属潤滑剤LMの量は、第3の回転体部分24と固定体30で囲まれた空間の80%以上、100%未満が適当であるが、特に85%程度が好ましい。固定胴体部分31には環状深溝DR1,DR2,DR3と、これらを連結する多数の潤滑剤通路RR1、RR2が設けられており、多数の大きな断面を有する気体通路として作動するので挿入された液体金属潤滑剤LMよりも内部にある気体は重力加速度により容易に置換される。後述するように、軸受隙間その他の部分に気体が残っていても、液体金属潤滑剤LM自体に気体が含まれていても、排気工程中にこれらの気体は液体金属潤滑剤LMに邪魔されることなく容易に排気される。このような理由で、特開平9−35633号公報や特開平5−12997号公報に開示されているような真空容器内での作業等の特別な工程も組立の為の真空容器等の特別な設備を必要としない。
前記のように、図3において図示最下方に位置する環状禁止帯PR1は液体金属潤滑剤LMで濡れない面と成っているので、挿入された液体金属潤滑剤LMはこの隙間に進入できないで図示最下方に位置する環状深溝DR3に溜まってゆく。更に挿入された液体金属潤滑剤LMは環状に連結された多数の潤滑剤通路RR2内の気体と置換されながら潤滑剤通路RR2内に満たされる。同様にして、図示上方に位置する環状深溝DR2内、潤滑剤通路RR1内、環状深溝DR1内が順次液体金属潤滑剤LMで満たされる。この際、液体金属潤滑剤LMの気体通路RG1,RG2,RG3内への進入は表面張力によって阻止される。
予め定められた量の液体金属潤滑剤LMが挿入された後に、回転環状体28を、第3の回転体部分24内に図示下方から押し上げて図示しないネジ等によって固定する。この際、固定体30の上方肩部31aに取り付けられた仕切板36の図示上方表面が回転体突出部24cの図示下方表面に近接するまで固定胴体部分31を相対的に移動することになる。この状態では、固定体径小部分31bの上端部分は回転体突出部24cを貫通して上方に位置している。この部分に、軸受円板32を挿入して止め金等で中心軸C−C’に沿った方向に移動せず、固定胴体部分31と相対的に回転しないように取り付ける。次に、回転蓋27を第3の回転体部分24に取り付けてネジ締めする。
次に回転陽極型X線管の組立方法について図1を参照して説明する。上記のように組立てた第3の回転体部分24の一部分24aを第2の回転体部分23の他端部23bにネジ等によって固定する。X線ターゲット3、遮蔽筒6、ターゲット支持体21、ロータ26を取り付けた第1の回転体部分22の他端部22bと、前記のようにして組立たれた第2の回転体部分23の一端部23aとをネジ等によって固定する。次に、覆体33を陽極固定部分31cに装着し、第4の回転体部分25を第2の回転体部分23の一端部23aに固定する。陽極固定部分31cの近傍で覆体33よりも図示下方において環状体34を固定体30に溶接等により気密に接続し、封止リング35を介して周辺部を真空容器1に気密に接続し、内部を排気して回転陽極型X線管に組立てる。以下にこのようにして組立てられた回転陽極型X線管を排気する方法について説明する。
本実施例の回転陽極型X線管を排気するにあたっては、排気工程の全工程において回転陽極型X線管の管軸の方向を変化させる必要はないが、陽極の中心軸C−C’すなわち回転陽極型X線管の管軸C−C’を水平方向にしておくことが好ましい。管軸C−C’を水平方向にした場合の回転機構10内における液体金属潤滑剤LMの分布の様子を断面図で図4及び図5に示している。図4は回転体20が静止している場合であり、図5は回転体20が高速度で回転している場合を表している。
先ず、図4を参照して回転体20が静止している場合について述べる。各すべり軸受BA1,BA2,BR1,BR2は各軸受隙間及び各軸受溝に液体金属潤滑剤LMで満たされている。第3のラジアル軸受BR3は前記のように一部分の領域BR3aのみに液体金属潤滑剤LMで満たされており、他の部分BR3bでは液体金属潤滑剤LMが不足している。液体金属潤滑剤LMは回転体20と固定体30とで囲まれてできる領域の容積の85%程度であり、潤滑剤通路RR1,RR2の少なくとも各1個は、液体金属潤滑剤LMの喫水線LLよりも鉛直上方に位置するように固定体30の周辺に配列されているので、図示上方にある潤滑剤通路RR1,RR2の少なくとも各1個は液体金属潤滑剤LMで満たされないものが存在する。気体通路RG1、RG2,RG3は環状深溝DR1,DR2,DR3から成る環状リザーバ内の液体金属潤滑剤LMで閉じられており、領域BR3aを境界として、環状禁止帯PR1の隙間及び、環状深溝DR1,DR2,DR3、扁平隙間DS1,DS2、潤滑剤通路RR4,環状隙間DA1内の前記喫水線LLより鉛直上方に位置する部分は連結された回転機構内空間VA1を形成している。
第3のラジアル軸受BR3内の領域BR3bより図示左側は真空容器1の内部空間1aに連通しており気体が通過できるようになっている。真空容器1の内部空間1aが図示しない排気管を介して図示しない真空ポンプで排気された場合、真空容器1の内部空間1aと回転機構内空間VA1との間で圧力差を生じ、第3のラジアル軸受BR3の領域BR3aに保持されていた液体金属潤滑剤LMは領域BR3bの方向に広げられ破断して臨時の気体通路を形成し、真空容器1の内部空間1aと回転機構内空間VA1との間は排気経路として結合されて回転機構内空間VA1内は徐々に排気される。液体金属潤滑剤LMと気体とが概略分離されており、且つ液体金属潤滑剤LMの移動が容易になっており、液体金属潤滑剤LM内に含まれる気体の分離が容易に行われるので、気体の急激な膨張等で液体金属潤滑剤LMを弾き飛ばすような不都合は生じないようになっている。液体金属潤滑剤LMの内部又は前記回転機構内空間VA1内で液体金属潤滑剤LMによって部分的に封じ込められた気体の膨張によって液体金属潤滑剤LMが潤滑剤通路RR1,RR2内又は環状深溝DR1,DR2,DR3内で移動させられて回転機構内空間VA1に合流した場合、回転機構内空間VA1の容積が大きいので、気体は圧力が低くなり前記のようにして前記気体通路を通過して真空容器1の内部空間1aに移動する。液体金属潤滑剤LMの一部が移動されられたとしても他の液体金属潤滑剤LMがいずれかの潤滑剤通路RR1,RR2を通過して喫水線のレベルは実質的に変化しない。
回転機構内空間VA1が高真空に排気されるまで常温に保たれている為に軸受表面が実質的に酸化されることが無く、特開平4−363844号公報に開示されているような液体金属潤滑剤LMとの反応層を予め真空中で作成しておく等の特別な処理を必要としない。高真空に到達した状態で、ステータ40に通電して回転体20を低速度で回転させると、環状深溝DR1,DR2,DR3から成る環状リザーバから前記各軸受隙間内に液体金属潤滑剤LMが吸引され、軸受面全体がよく濡れるとともに環状深溝DR1、DR2、DR3や潤滑剤通路RR1,RR2内の液体金属潤滑剤LMが循環することによって液体金属潤滑剤LMに含まれている気体が分離されて前記の気体通路を通って排気される。
上記のようにして軸受面が完全に濡れており且つ回転機構内空間VA1が十分に高真空になった状態で、真空容器1の外部から高周波加熱又は電気炉などにより、回転機構10内の温度を徐々に高めてゆくと液体金属潤滑剤LM内に閉じ込められていた気体や軸受を構成する材質に吸着されていた気体が放出され、前記と同様にして真空容器1の内部空間1aを経由して図示しない真空ポンプで排気される。この際、液体金属潤滑剤LMの量は各動圧式すべり軸受BA1、BA2、BR1、BR2が正常に作動するのに必要な量よりもはるかに多く、且つ液体金属潤滑剤LMが循環するので排気工程に於ける液体金属潤滑剤LM自体の酸化等は問題とならない程度である。
各軸受面が液体金属潤滑剤LMで完全に濡れた場合には、気体は軸受隙間を通って移動することが困難になるが、本発明では各すべり軸受をバイパスする多数の潤滑剤通路RR1,RR2を含んでおり、その内の少なくとも各1個の潤滑剤通路RR1,RR2は気体が自由に移動できる状態になっており、すべり軸受内の液体金属潤滑剤LMに過大な圧力を与えることなく排気される。又、後述するように、回転体20が回転しているときには、図5に示すように気体通路RG1,RG2,RG3の開口を覆っていた液体金属潤滑剤LMが除けられて連通した通路が生じ、回転機構の内部が容易に排気される。従って、例えば特開平5−290734号公報に開示されているような、排気工程中に軸受隙間を強制的に変化させる工程等が不要である。このように、本発明に係わる回転陽極型X線管は特別な装置や特別な操作等を必要とせずに容易に短時間に製造することができる。
次に、完成した回転陽極型X線管の管軸C−C’が水平方向にある場合の動作について説明する。スラスト軸受BA1は液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS2及び環状隙間DA1に両側から連通しており液体金属潤滑剤LMの授受が行われる。液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS2は液体金属潤滑剤LMが供給されている扁平隙間DS1に潤滑剤通路RR3と環状隙間DA2を通じて連通されており、扁平隙間DS1は潤滑剤通路RR4によって環状隙間DA1に連通しているので、スラスト軸受BA1は他の動圧式すべり軸受を通過しないで閉じた循環路を構成している。潤滑剤通路RR4は回転体突出部24c内に管軸C−C’から傾斜して設けられており、潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状隙間DA1に向かう圧力を受ける。前述のように、環状隙間DA1内及びスラスト軸受BA1内に液体金属潤滑剤LMが満たされていてスラスト軸受BA1に十分な圧力が生じているときには潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは液体金属潤滑剤LM内に圧力の増加をもたらすだけで、スラスト軸受BA1の動作に殆ど影響を与えない。環状隙間DA1内に液体金属潤滑剤LMで満たされていない空間が生じれば潤滑剤通路RR4内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状隙間DA1を満たすように移動する。回転体20に中心軸C−C’に沿った方向の外力が加わり、スラスト軸受BA1の隙間が変化した場合には前記の循環路を通って液体金属潤滑剤LMが移動することによってスラスト軸受BA1内の液体金属潤滑剤LMの量は適正化される。
同様に、スラスト軸受BA2の外側は液体金属潤滑剤LMが供給されている環状隙間DA1に、スラスト軸受BA2の内側は環状隙間DA2を通じて扁平隙間DS1に連通しており、環状隙間DA1は潤滑剤通路RR4を通じて扁平隙間DS1に連通しているので、スラスト軸受BA2は他の動圧式すべり軸受を通過しないで閉じた循環路を構成している。スラスト軸受BA2内の液体金属潤滑剤LMの授受は前述のスラスト軸受BA1内の液体金属潤滑剤LMと同様に行われ、それぞれの動作が独立に行われる。
回転体20の回転中心軸の角度が微小にずれた場合に軸受円板32は固定体30の中心軸C−C’に対して傾くことができるので、スラスト軸受BA1及びスラスト軸受BA2のそれぞれの隙間は径方向に傾斜する必要が無く、安定な動作が保証される。この効果は、第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の間隔が相対的に短い場合や、第1及び第2のラジアル軸受BR1,BR2の軸受面間の隙間が相対的に大きい場合や、スラスト軸受BA1、BA2の直径が相対的に大きい場合等に顕著に現れる。更に、スラスト軸受BA1、BA2のそれぞれの軸受面間の隙間を従来よりも狭くしても対向する軸受表面が常に平行に保たれるので安定して大きな軸受圧力を生じるようになっている。従って、スラスト軸受BA1、BA2のそれぞれの軸受隙間を従来よりも狭くできるので、回転体20の管軸C−C’方向の移動量をより小さく制限することができる。
次に、第1のラジアル軸受BR1の動作について図4と図5を参照して説明する。第1のラジアル軸受BR1の両端には液体金属潤滑剤LMが供給された深さが4mm程度で幅が2mm程度の環状深溝DR1と環状深溝DR2とがあり、これらは多数の潤滑剤通路RR1によって連結されており、閉じた循環路を形成している。管軸C−C’が水平方向で回転体20が静止している場合、液体金属潤滑剤LMの量は、図4で示すように液体金属潤滑剤LMで満たされない空間VA1を生じるように定められているとともに、潤滑剤通路RR1の少なくとも一部分は貫通した通気路を形成している。
管軸C−C’が水平方向で回転体20が高速度で回転している場合における液体金属潤滑剤LMの分布の様子を図5に示している。回転体20が回転中には、第1のラジアル軸受BR1の軸受溝内及び軸受隙間内には環状深溝DR1と環状深溝DR2から吸引されて液体金属潤滑剤LMを押込む力が生じる。この軸受隙間には大きな軸受力が発生しており、液体金属潤滑剤LMは実質的にすべり軸受内に補足されて管軸方向には実質的に移動できなくなっている。回転体20が回転中に、これに径方向の外力が印加されて軸受隙間の大きさが変化した場合又は対向する軸受面が固定体表面に対して傾斜した場合には環状深溝DR1と環状深溝DR2から液体金属潤滑剤LMが流入又は流出してラジアル軸受BR1内の液体金属潤滑剤LMの過不足が起こらない。この場合、これらが閉じた循環路を形成している為に他の動圧式すべり軸受の特性に実質的に影響を与えないので安定な動作を得られる。この状況は、ラジアル軸受BR2についても同様に作用し、又管軸C−C’の方向の如何にかかわらず、同様である。
環状深溝DR1,DR2,DR3に30μm程度の微小な隙間を保って対向する第3の回転体部分24の内面が高速に回転している場合には環状深溝DR1,DR2,DR3内の液体金属潤滑剤LMは、回転して遠心力によって内部に圧力を生じ、外周部分に貼り付けられるとともに、ラジアル軸受BR1、BR2内、潤滑剤通路RR1,RR2,RR4内、環状禁止帯PR1内等に押込む力を受ける。このようにして潤滑剤通路RR1,RR2は実質的に封鎖され、気体が通過しにくくなるが、実質的に液体金属潤滑剤LMが無くなっている、環状深溝DR1,DR2,DR3の底部は気体通路RG1,RG2で結合されており全体的に結合された回転機構内空間VA2を形成する。回転機構内空間VA2は気体通路RG3によって前記端部開口と連通しているので、回転機構10内の気体は、回転体20が回転している場合にも自動的に排気される。前述のように、前記排気工程でもこれと同様の作用がある。
前述のように、回転体20の奥の部分、例えば扁平隙間DS2内に突発的に気体が出現してその膨張等により部分的な高圧力が生じた場合には、一部の液体金属潤滑剤LMと気体がすべり軸受以外の通路、例えば潤滑剤通路RR3,扁平隙間DS1を通過して、環状深溝DR1の中に流れ込むが、これらの部分の容積は十分に大きいので途中で液体金属潤滑剤LMと気体とが分離して、結合された空間VA2で気体の圧力は低下し、気体通路RG3を通過して真空容器1内の真空空間1aに移動し、真空容器1内の図示しないゲッター等で除去される。このような現象は排気工程やその直後や実使用開始直後等に発生しやすい。
前述のように、回転体20が高速度で回転しているときには環状深溝DR3内にある液体金属潤滑剤LMは遠心力を受けて環状禁止帯PR1の方向に押しやられ、ここでの表面張力に打ち勝って第3のラジアル軸受BR3内に送り込まれる。送り込まれた液体金属潤滑剤LMは第3のラジアル軸受の領域BR3bに押しやられるが、この部分での液体金属潤滑剤LMを環状深溝DR3の方向に押しやるポンプ作用が勝るようになっているために、領域BR3bのどこかで境界面ができて平衡する。本発明の回転陽極型X線管をCTスキャナに適用した場合のように管軸C−C’から距離を隔てた装置の中心軸を回転中心として高速度で公転させられる場合には、回転陽極型X線管全体に大きな遠心力を受け、当然に液体金属潤滑剤LMにも強い遠心力が作用し、液体金属潤滑剤LMを第3のラジアル軸受BR3内に押込む力は大きくなるが、前記境界面が領域BR3b内で移動することによって両方の力が平衡する。このようにして、実使用時においても液体金属潤滑剤LMは第3のラジアル軸受BR3から外に漏出しないようになっている。これまで、管軸C−C’を水平にした場合について述べたが、回転機構内空間VA1,VA2が十分に高真空になった後は管軸C−C’の方向は任意に設定できる。
予期し得ない理由により液体金属潤滑剤LMが第3のラジアル軸受BR3を通過して回転体隅部28bと回転体径小隅部31dを経由して分離環状溝28aに到達した場合には、この液体金属潤滑剤LMは回転体20の回転時の遠心力で分離環状溝28aの内面に押し付けられる。押し付けられた液体金属潤滑剤LMは、分離環状溝28aと回転体隅部28bに開口した多数の穴でできた帰還孔28c内に前記遠心力で押しやられて回転体隅部28bに押し戻され、その量がある程度以上に達した場合には、近傍にある第3のラジアル軸受BR3によって前記のように環状深溝DR3内に戻される。帰還孔28cは液体金属潤滑剤LMで濡れない面から成る多数の小孔で構成されており、通常は液体金属潤滑剤LMが入らないようになっており、強い遠心力を受けた場合のみ移動できるようになっている。従って、液体金属潤滑剤LMは帰還孔28c内を一方通行することになる。帰還孔28cは分離環状溝28aの中心軸C−C’に沿った方向の異なる位置にも前記と同様に設けられており、液体金属潤滑剤LMが上記のように帰還される確率が極めて高くなっている。
更に予期しない理由により液体金属潤滑剤LMが回転体終端部28eを通過した場合には、覆体33によって通路が制限されているので、漏出してきた液体金属潤滑剤LMは、第3の回転体部分24と第2の回転体部分23との隙間の、覆体33の覆体先端部33aに導かれ、この近傍に空けられた第2の回転体部分23の小孔23cを通って遠心力によって第2の回転体部分と第1の回転体部分とで囲まれて閉じた空間に閉じ込められる。第1の回転体部分は高温度になる為に、この中に入った液体金属潤滑剤LMは周囲の材質と反応して固着される。前記小孔23cに入らなかった液体金属潤滑剤LMは第4の回転体部分によって真空容器1の空間に移動するのが防止される。このように、本実施例の回転陽極型X線管では事実上液体金属潤滑剤LMが真空容器1内の空間に漏出することが無い。