様々な電子部品を回路基板にはんだ付けによりマウントする電子機器の回路実装プロセスにおいては、電子部品の接続リード部を、回路基板に設けられた部品取付孔に挿入して、同じく回路基板に設けられた導体パターン上の接続部にはんだペーストを用いてはんだ付けすることにより、電子部品の回路基板への実装を行うリフローはんだ付けの手法が提案されている。斯かるリフローはんだ付けにあっては、例えば、予め回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所にはんだペーストを被着させておき、当該回路基板に設けられた部品取付孔に電子部品の接続リード部を挿入した後、回路基板におけるはんだペーストが被着されたはんだ付け箇所にスポット状に熱風を吹き付けて、はんだペーストを溶解させる方法、あるいは、回路基板におけるはんだペーストが被着されたはんだ付け箇所を含む面全体に熱風を吹き付けて、はんだペーストを溶解させる方法がとられる。
一般に、回路基板に対する、所謂、チップ部品のはんだ付けによるマウントのような場合には、回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所を上方に向けたもとではんだ付けが行われる。しかしながら、上述のようなリフローはんだ付けの場合には、電子部品の接続リード部が回路基板に設けられた部品取付孔を通じて回路基板の下方に突出している状態、即ち、回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所を下方に向けたもとにおいても、はんだ付けを行うことができることになる。
はんだペーストは、はんだ合金粒子とフラックスとが混練されて成るものとされ、はんだ合金粒子を形成するはんだ合金としては、種々の合金組成を有したものが実用に供されている。これらのはんだ合金の多くは、固相線温度と液相線温度との間の温度差が無いか小さい、所謂、共晶組成を有するものであって、例えば、錫(以下、Snとあらわす。)と鉛(以下、Pbとあらわす。)との共晶合金であるSn−Pb2元系共晶合金(共晶温度183℃)、あるいは、SnとPbと銀(以下、Agとあらわす。)との共晶合金であるSn−Pb−Ag3元系共晶合金(共晶温度178℃)等が多用されている。このようなSn−Pb2元系共晶合金、Sn−Pb−Ag3元系共晶合金等とされるはんだ合金は、融点が比較的低く、はんだ付け性が極めて良好であり、しかも、はんだ付け部が比較的大なる強度を発揮することになるものである。従って、例えば、はんだ付け箇所が上方に向けられる一般的なリフローはんだ付け用のはんだペーストについてみると、それを構成するものとしてSn−Pb2元系共晶合金,Sn−Pb−Ag3元系共晶合金等とされるはんだ合金は好適である。
これに対して、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストの場合には、はんだ合金粒子が溶融するまでの間における粘性低下による、下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じ難いものであることが要求される。それゆえ、斯かる要求に適合したはんだペーストを構成するはんだ合金として、Sn−Pb2元系共晶合金,Sn−Pb−Ag3元系共晶合金等に代え、Sn−Pb2元系共晶合金にビスマス(以下、Biとあらわす。)を、例えば、3重量パーセント添加して得られる、Sn−Pb−Bi3元系非共晶合金(融点167〜183℃)を用いることが提案されている。Sn−Pb−Bi3元系非共晶合金により形成されたはんだ合金粒子を含んだはんだペーストの場合、例えば、Sn−Pb2元系共晶合金,Sn−Pb−Ag3元系共晶合金等により形成されたはんだ合金粒子を含んだはんだペーストの場合と比較して、加熱による“ぬれ”(例えば、非特許文献1参照。)が始まるまでの時間が短縮され、“ぬれ”力が早期に作用することが、下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じ難くなるものと考えられる。
一方、近年にあっては、様々な分野において工業用に用いられる重金属の毒性の問題が取り上げられており、Pbの毒性にも改めて目が向けられて、Pbを含有するはんだ合金もその使用が制限される方向にある。将来的には、Pbの毒性の問題に対する何らかの解決策が見出されない限り、将来的には、上述のSn−Pb−Bi3元系非共晶合金のようなPbを含有するはんだ合金の使用が禁じられることが想定される。
このようにPbを含有するはんだ合金の使用が懸念されるもとで、Pbを含有しないはんだ合金、即ち、無鉛はんだ合金についての要望に応じ、無鉛はんだ合金であって、従前のPbを含有するはんだ合金と同等あるいはそれ以上の性能を具えたものも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。斯かる既に提案されている無鉛はんだ合金は、例えば、Sn−Pb2元系共晶合金等のPbを含有するはんだ合金と略同等のはんだ付け性を具え、略同等のはんだ付け部機械的強度が得られるとともに、安価に得られ、かつ、延性が改善されたSn−Bi2元系無鉛はんだ合金とされている。
「金属便覧」社団法人日本金属学会編 改定3版,昭和46年6月25日発行,1675頁
特開2000−141079号公報
上述のようにPbを含有するはんだ合金の使用が懸念されるもとでは、当然に、はんだ合金粒子とフラックスとが混練されて成るはんだペーストについても、それに含まれるはんだ合金粒子も無鉛はんだ合金により形成されることが望まれる。そこで、既に提案されている無鉛はんだ合金を用いてはんだ合金粒子を形成し、それとフラックスとを混練することによって無鉛はんだペーストを得ることが可能とされる。斯かる既に提案されている無鉛はんだ合金を用いた無鉛はんだペーストは、例えば、はんだ付け箇所が上方に向けられる一般的なリフローはんだ付け用のはんだペーストとしては、その役割を別段の問題を生じることなく果たすものと考えられる。
しかしながら、このような既に提案されている無鉛はんだ合金を用いた無鉛はんだペーストが、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストとして用いられる場合には、はんだ付け部におけるはんだ合金粒子の不足が生じ、はんだ付け不良を起こすという支障を生じる虞がある。前述のように、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストの場合には、はんだ合金粒子が溶融するまでの間における粘性低下による、下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じ難いものであることが要求されるが、既に提案されている無鉛はんだ合金を用いた無鉛はんだペーストは、粘性低下による下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じ難いものする特性を期待することができる要素が見当たらないからである。
こうした虞を回避すべく、無鉛はんだペーストを得るにあたって高粘度のフラックスを用いてはんだペーストの粘度を高めることが考えられる。しかしながら、スクリーン印刷,ディスペンス吐出等の手法による、回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所に対するはんだペーストの供給にあたり、はんだペーストの粘度が高い程、各はんだ付け箇所への定量安定供給が困難とされることとなるので、ペーストの粘度が高められる場合には、はんだ付け部の信頼性が損なわれることになる虞がある。
また、リフローはんだ付けの工程中において、はんだ付け箇所に被着されたはんだペーストを熱風により加熱するにあたり、熱風の温度を高温側に設定することにより、はんだ合金粒子の溶融時間を短縮して、はんだペーストが下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生る前に、はんだ付けを完了させることも考えられる。しかしながら、斯かる際には、はんだペーストを構成するフラックス中の溶剤成分が突沸し、飛散してしまい、はんだ付け部におけるはんだボールの発生及びはんだペーストの不足が生じて、はんだ付け不良を起こすことになる虞がある。
斯かる点に鑑み、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、無鉛はんだ金属により形成されたはんだ合金粒子とフラックスとが混練されて成り、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストとして用いられる場合において、回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所に対する定量安定供給が容易とされ、加熱時の粘性低下による下方に向けられたはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じ難く、かつ、はんだペーストを構成するフラックス中の溶剤成分の突沸及び飛散が回避され、はんだ付け部において良好なはんだ付けがなされて十分な機械的強度が得られることになる無鉛はんだペーストを提供する。
本願の特許請求の範囲における請求項1から請求項5までのいずれかに記載された発明(以下、本願発明という。)に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金粒子とフラックスとが混練されて成り、はんだ合金粒子を形成するはんだ合金が、Snを主要構成元素とする非共晶合金であって、液相線温度を195℃以下とし、液相線温度と固相線温度との間に35℃以上で55℃未満の温度差を有するものとされる。
特に、本願発明のうちの請求項2に記載された発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金が、60〜70重量パーセントのSnを含み、残部をBiとするSn−Bi2元系非共晶合金とされ、また、本願発明のうちの請求項3に記載された発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金が、0.1〜2.0重量パーセントの銅(以下、Cuとあらわす。),Ag,亜鉛(以下、Znとあらわす。)及びマグネシウム(以下、Mgとあらわす。)のうちから選ばれた少なくとも1種の金属元素を含んだ多成分系非共晶合金とされ、さらに、本願発明のうちの請求項4に記載された発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金が、60〜70重量パーセントのSn,28〜39.9重量パーセントのBi、及び0.1〜2.0重量パーセントのCu,Ag,Zn及びMgのうちから選ばれた少なくとも1種の金属元素を含んだ多成分系非共晶合金とされる。
そして、本願発明のうちの請求項5に記載された発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金粒子を形成するはんだ合金が、Snを主要構成元素とする非共晶合金であって、液相線温度を195℃以下とし、液相線温度と固相線温度との間に35℃以上で55℃未満の温度差を有するものとされたもとで、それにより形成されるはんだ合金粒子が、粒径を25〜45μmの範囲内とするものとされる。
上述のように構成される本願発明に係る無鉛はんだペーストにあっては、フラックスと混練されるはんだ合金粒子が、例えば、粒径を25〜45μmの範囲内とするものとされて、それを形成するはんだ合金が、Snを主要構成元素とする無鉛非共晶合金であって、液相線温度を195℃以下とするものとされ、その結果、比較的低い融点を有するものとされる。従って、本願発明に係る無鉛はんだペーストは、リフローはんだ付け用のはんだペーストとして好適である。
また、そのはんだ合金が、液相線温度と固相線温度との間に35℃以上で55℃未満の温度差を有するものとされ、それにより、リフローはんだ付け工程における予備加熱の段階において、はんだ合金粒子の一部が溶融し、それにより“ぬれ”力が発生して、はんだ合金粒子を凝集させるとともに、リフローはんだ付けによって回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所にはんだ付けされるべき電子部品の接続リード部に付着させる。それにより、本願発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストとして用いられる場合においても、加熱時の粘性低下によるはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じることなく、良好なはんだ付けが行われて、はんだ付け部における十分な機械的強度が得られるものとなる。この点に関しては、発明を実施するための最良の形態の項において述べられる落下試験及び強度試験として行われた実験により確認されている。
従って、本願発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金粒子と混練されるフラックスとして高粘度のものを用いることが必要とされず、それゆえ、各はんだ付け箇所への定量安定供給が容易とされて、はんだ付け部の信頼性を高めることになる。
また、本願発明に係る無鉛はんだペーストは、はんだ合金粒子の溶融時間を短縮すべく、リフローはんだ付けの工程中における加熱のための熱風の温度を高温側に設定することが必要とされず、それゆえ、フラックス中の溶剤成分が突沸し、飛散してしまうことがなく、その結果、はんだ付け不良が生じることになる虞がないものとされる。
本願発明に係る無鉛はんだペーストは、Snを主要構成元素とする無鉛非共晶合金により形成されたはんだ合金粒子とフラックスとを混練して得たものとされる。その際、はんだ合金粒子は、例えば、粒径を25〜45μmの範囲内とするものとされ、また、混練は、例えば、はんだ合金粒子とフラックスと重量比が略9:1とされるもとで、全体の粘度を略200Pa・sとなるように調整するものとして行われる。
そして、はんだ合金粒子を形成する、Snを主要構成元素とする無鉛非共晶合金は、例えば、Sn−Bi2元系非共晶合金、もしくは、例えば、Sn−Bi−Cu3元系非共晶合金,Sn−Bi−Ag3元系非共晶合金,Sn−Bi−Zn3元系非共晶合金及びSn−Bi−Mg3元系非共晶合金のうちのいずれかである、Sn及びBiに加えてCu,Ag,Zn及びMgのうちから選ばれた少なくとも1種の金属元素を含んだ多成分系非共晶合金とされる。また、フラックスは、例えば、50重量パーセントの重合ロジン,43重量パーセントのα−ターピネオール(溶剤),0.5重量パーセントのコハク酸(活性剤),1.5重量パーセントのジフェニルグアニジンHBr(活性剤),5重量パーセントの硬化ひまし油(チキソ剤)から成るものとされる。なお、0.5重量パーセントのコハク酸及び1.5重量パーセントのジフェニルグアニジンHBrから成る活性剤は、その0.1〜2パーセントが、分子量が200以下の2塩基酸、例えば、蓚酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸等によって置換されるのが、リフローはんだ付け工程中の予備加熱段階で半溶解状態とされるはんだ合金粒子に“ぬれ”力を発揮させるようにする観点から望まれる。分子量が200を越える2塩基酸は、活性度が低く、リフローはんだ付け工程中の予備加熱段階で半溶解状態とされるはんだ合金粒子に“ぬれ”力を発揮させられない。
図1は、上述のようにして得られる、本願発明に係る無鉛はんだペーストの例であるペースト例1〜7と、それらの説明のために参照される参照例1〜6とについて、夫々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金の合金組成,固相線温度,液相線温度,固液温度差(固相線温度と液相線温度との間の温度差),落下試験判定結果及び強度試験判定結果を一覧表として示す。
これらのペースト例1〜7の夫々及び参照例1〜6の夫々は、Snを主要構成元素とする無鉛非共晶合金により形成されたはんだ合金粒子とフラックスとを混練して得たものであって、はんだ合金粒子が粒径を25〜45μmの範囲内とするものとされ、また、混練が、はんだ合金粒子とフラックスとの重量比が略9:1とされるもとで、全体の粘度を略200Pa・sとなるように調整するものとして行われ、フラックスとして、上述の例示のとおりのものが用いられたものとされる。
図1に示される一覧表においては、本願発明に係るペースト例1〜3と参照例1〜6との夫々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金は、主要構成元素をSnとするSn−Bi2元系非共晶合金である。
ペースト例1のSn−Bi2元系非共晶合金は、69重量パーセントのSnと31重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を192℃とし、固液温度差を54℃としている。ペースト例2のSn−Bi2元系非共晶合金は、65重量パーセントのSnと35重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を189℃とし、固液温度差を51℃としている。ペースト例3のSn−Bi2元系非共晶合金は、60重量パーセントのSnと40重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を174℃とし、固液温度差を36℃としている。
一方、参照例1〜6の各々のSn−Bi2元系非共晶合金は、夫々、固液温度差を8℃,17℃,23℃,30℃,56℃及び63℃としている。
また、図1に示される一覧表における本願発明に係るペースト例4〜7の夫々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金は、主要構成元素をSnとし、Cu,Ag,Zn及びMgのうちから選ばれた少なくとも1種の金属元素を含んだ多成分系非共晶合金である。
ペースト例4に含まれるはんだ合金粒子を形成する多成分非共晶合金は、Sn−Bi−Cu3元系非共晶合金であって、64.5重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び0.5重量パーセントのCuを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を186℃とし、固液温度差を48℃としている。ペースト例5に含まれるはんだ合金粒子を形成する多成分非共晶合金は、Sn−Bi−Ag3元系非共晶合金であって、64重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び1重量パーセントのAgを含んで成り、固相線温度を139℃として液相線温度を185℃とし、固液温度差を46℃としている。ペースト例6に含まれるはんだ合金粒子を形成する多成分非共晶合金は、Sn−Bi−Zn3元系非共晶合金であって、62重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び3重量パーセントのZnを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を181℃とし、固液温度差を43℃としている。ペースト例7に含まれるはんだ合金粒子を形成する多成分非共晶合金は、Sn−Bi−Mg3元系非共晶合金であって、64.7重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び0.3重量パーセントのMgを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を186℃とし、固液温度差を48℃としている。
図1に示される一覧表に記された落下試験判定結果に関わる落下試験は、ペースト例1〜7及び参照例1〜6の夫々について行われた。
この落下試験にあたっては、図2及び図3に示されるような落下試験台が使用された。図2及び図3に示される落下試験台は、厚さを0.5mmとし一辺を50mmとする正方形をなす平板状の基板11に5本の円柱状部材12a,12b,12c,12d及び12eが立設されて構成されたものである。円柱状部材12a〜12eの夫々は、アルミニウム製のものであって、基板11の上面からの高さが30mmとされて、直径が4mmとされた。
図2及び図3に示される落下試験台が用いられてのペースト例1〜7及び参照例1〜6の夫々についての落下試験は、下記のようにして行われた。
先ず、室温のもとで、ペースト例1〜7のいずれかもしくは参照例1〜6のいずれか(以下の落下試験の説明においては、被験ペーストという。)を、容器内において十分に攪拌した後、図4に示されるように、落下試験台における5本の円柱状部材12a〜12eの夫々の上端面上に塗布して、被験ペーストについてのペースト溜13を形成した。この5本の円柱状部材12a〜12eの夫々の上端面上のペースト溜13については、その合計(5本分)の重量が0.3±0.02gとなるように調整した。
次に、図5に示されるように、5本の円柱状部材12a〜12eの夫々の上端面上にペースト溜13が形成された落下試験台を逆さにして、空のビーカー14上に、5本の円柱状部材12a〜12eがビーカー内に入れられて基板11がビーカー14に蓋をする状態として載置した。このとき、勿論、5本の円柱状部材12a〜12eの夫々の先端のペースト溜13は、ビーカー14の底部14Aから上方に離隔した位置をとるものとされた。
続いて、逆さにされてビーカー14上に載置された落下試験台を、ビーカー14と共に、150℃に設定された乾燥機内に置き、2分間乾燥させた後、乾燥機内から静かに取り出した。
そして、乾燥機内から取り出されたビーカー14内において、被験ペーストについてのペースト溜13が5本の円柱状部材12a〜12eの夫々の先端からビーカー14の底部14A上に落下したか否かを目視にて観察し、落下したペースト溜13の個数を記録した。
このような落下したペースト溜13の数を記録するまでの落下試験を、各被験ペーストについて3回行い、3回の落下試験における落下したペースト溜13の個数の合計(以下、落下総数という。最多で5個×3=15個)を求めた。そして、この落下総数をもって各被験ペーストについての評価が行われ、落下総数が零であるものを合格とし、落下総数が1個以上であるものを不合格とする判定結果が出された。
図6は、各々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金がSn−Bi2元系非共晶合金であるペースト例1〜3と参照例1〜6とについての落下試験結果を、固液温度差と落下総数との関係としてあらわすグラフを示す。この図6に示されるグラフにおいて、P1〜P3が、夫々、本願発明に係るペースト例1〜3をあらわし、R1〜R6が、夫々、参照例1〜6をあらわす。
図6のグラフにより落下試験結果が示されるペースト例1〜3と参照例1〜6とに関しては、ペースト例1〜3(P1〜P3)のいずれもが、落下総数が零であって判定結果が合格であったのに対して、参照例1〜6(R1〜R7)のいずれもが落下総数が1以上であって判定結果が不合格であった。参照例1〜6の各々の落下総数は、参照例1(R1)が9個,参照例2(R2)が7個,参照例3(R3)が5個,参照例4(R4)が3個,参照例5(R5)4個,参照例6(R6)が13個である。この図6のグラフに示される落下試験結果は、固液温度差が35℃以上で55℃未満であるものは落下総数が零であり、固液温度差が35℃未満であるものは、固液温度差が小である程落下総数が大となり、さらに、固液温度差が55℃以上であるものは、固液温度差が大である程落下総数が大となることを示している。
また、各々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金が多成分系非共晶合金であるSn−Bi−Cu3元系非共晶合金,Sn−Bi−Ag3元系非共晶合金,Sn−Bi−Zn3元系非共晶合金及びSn−Bi−Mg3元系非共晶合金とされるペースト例4〜7についても、それらの各々についての落下試験により得られた落下総数をもっての評価が、ペースト例1〜3及び参照例1〜6の場合と同様に行われ、その結果、ペースト例4〜7のいずれについても合格とする判定結果が出された。
さらに、図1に示される一覧表に記された強度試験判定結果に関わる強度試験は、ペースト例1〜7の夫々について行われた。
この強度試験においては、ペースト例1〜7の夫々を用いて、回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所に電子部品のリード接続部をはんだ付けするリフローはんだ付けを行い、それにより形成されたはんだ付け部を対象にして、回路基板側を固定したもとで、はんだ付けされた電子部品のリード接続部を回路基板から離隔させるべく回路基板に対して直交する方向に一定速度で引っ張り、それにより生じる破断態様を目視観察した。即ち、はんだ付け部における電子部品のリード接続部を回路基板から離隔させるべく引っ張ったとき、はんだ付け部の機械的強度が十分であれば、回路基板側の導体パターンの接着強度がはんだ付け部の機械的強度を下回り、回路基板側において導体パターンの剥離が生じることになるが、斯かる導体パターンの剥離が生じたか否かを目視にて観察したのである。
斯かる強度試験にあたってのペースト例1〜7の夫々を用いたリフローはんだ付けは、以下のようにして行われた。
先ず、図7のAに示されるように、回路基板21のそれに設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所を含んだ面が上方に向けられたもとで、それにおけるはんだ付け箇所に、はんだノズル22を通じてペースト例1〜7のうちのいずれかが供給される。それにより、各はんだ付け箇所が、ペースト例1〜7のうちのいずれかのが塗布されたものとされる。
次に、図7のBに示されるように、回路基板21のペースト例1〜7のうちのいずれか23が塗布されたはんだ付け箇所を含んだ面が下方に向けられる。続いて、図7のCに示されるように、回路基板21のはんだ付け箇所を含んだ面とは反対側の上方に向けられた面側から、各種の電子部品24のリード接続部が、回路基板21に設けられた部品取付孔に差し込まれ、その先端が、部品取付孔を通じて回路基板21を貫通して、回路基板21のはんだ付け箇所を含んだ面側に各はんだ付け箇所において突出する状態とされる。
そして、図7のDに示されるように、回路基板21におけるはんだ付け部が下方に向けられたもとで、回路基板21のはんだ付け箇所を含んだ面の下方側から、熱風ノズル25を通じた熱風が各はんだ付け箇所に吹き付けられ、各はんだ付け箇所に塗布されたペースト例1〜7のうちのいずれか23を構成するはんだ合金粒子が溶融せしめられてはんだ付けが行われる。その結果、回路基板21における各はんだ付け箇所にはんだ付け部が形成され、リフローはんだ付けが完了する。
上述のような、ペースト例1〜7の夫々に関する強度試験のもとでの、回路基板側における導体パターンの剥離が生じたか否かについての目視による観察に基づき、強度試験に供されたペースト例1〜7の夫々についての評価が行われ、回路基板側における導体パターンの剥離が認められたものを合格とし、回路基板側における導体パターンの剥離が認められなかったものを不合格とする判定結果が出された。その結果、ペースト例1〜7の夫々についての判定結果は、いずれも合格であった。即ち、本願発明に係るペースト例1〜7は、それらのいずれによっても、十分な機械的強度を有したはんだ付け部が形成されることになるものである。
以上のように、各々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金がSn−Bi2元系非共晶合金であるペースト例1〜3、及び、各々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金が多成分系非共晶合金であるSn−Bi−Cu3元系非共晶合金,Sn−Bi−Ag3元系非共晶合金,Sn−Bi−Zn3元系非共晶合金及びSn−Bi−Mg3元系非共晶合金とされるペースト例4〜7は、落下試験判定結果及び強度試験判定結果のいずれにおいても合格とされるものであり、これらの夫々に含まれるはんだ合金粒子を形成する非共晶合金は、固相線温度を138℃もしくは139℃とし、液相線温度を195℃以下とし、従って、固液温度差を35℃以上で55℃未満とするものである。そして、このようなペースト例1〜7は、本願発明に係る無鉛はんだペーストについての7つの実施例である実施例1〜7とされる。
実施例1は、上述のペースト例1であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、69重量パーセントのSnと31重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を192℃とし、固液温度差を54℃とする、Snを主要構成元素としたSn−Bi2元系非共晶合金によって形成されている。実施例2は、上述のペースト例2であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、65重量パーセントのSnと35重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を189℃とし、固液温度差を51℃とする、Snを主要構成元素としたSn−Bi2元系非共晶合金によって形成されている。そして、実施例3は、上述のペースト例3であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、60重量パーセントのSnと40重量パーセントのBiとを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を174℃とし、固液温度差を36℃とする、Snを主要構成元素としたSn−Bi2元系非共晶合金によって形成されている。
また、実施例4は、上述のペースト例4であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、64.5重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び0.5重量パーセントのCuを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を186℃とし、固液温度差を48℃とする、Snを主要構成元素とした多成分非共晶合金であるSn−Bi−Cu3元系非共晶合金によって形成されている。実施例5は、上述のペースト例5であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、64重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び1重量パーセントのAgを含んで成り、固相線温度を139℃として液相線温度を185℃とし、固液温度差を46℃とする、Snを主要構成元素とした多成分非共晶合金であるSn−Bi−Ag3元系非共晶合金によって形成されている。実施例6は、上述のペースト例6であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、62重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び3重量パーセントのZnを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を181℃とし、固液温度差を43℃とする、Snを主要構成元素とした多成分非共晶合金であるSn−Bi−Zn3元系非共晶合金によって形成されている。そして、実施例7は、上述のペースト例7であり、従って、それに含まれるはんだ合金粒子が、64.7重量パーセントのSn,35重量パーセントのBi及び0.3重量パーセントのMgを含んで成り、固相線温度を138℃として液相線温度を186℃とし、固液温度差を48℃とする、Snを主要構成元素とした多成分非共晶合金であるSn−Bi−Mg3元系非共晶合金によって形成されている。
これらの実施例1〜7の夫々にあっては、フラックスと混練されるはんだ合金粒子が、粒径を25〜45μmの範囲内とするものとされて、それを形成するはんだ合金が、Snを主要構成元素とする無鉛非共晶合金であって、液相線温度を195℃以下とするものとされており、その結果、比較的低い融点を有している。従って、実施例1〜7の夫々は、リフローはんだ付け用のはんだペーストとして好適である。
また、実施例1〜7の夫々にあっては、そのはんだ合金が、前述の落下試験判定結果において合格を得ることができることになる固液温度差を35℃以上で55℃未満とするものである。それにより、リフローはんだ付け用のはんだペーストとして用いられるときには、リフローはんだ付け工程における予備加熱の段階において、はんだ合金粒子の一部が溶融し、それにより“ぬれ”力が発生して、はんだ合金粒子を凝集させるとともに、リフローはんだ付けによって回路基板に設けられた導体パターンの接続部のうちのはんだ付け箇所にはんだ付けされるべき電子部品の接続リード部に付着させる。その結果、はんだ付け箇所が下方に向けられるリフローはんだ付け用のはんだペーストとして用いられる場合においても、加熱時の粘性低下によるはんだ付け箇所からの流出もしくは落下を生じることがない。従って、はんだ付け箇所において良好なはんだ付けが行われ、前述の強度試験判定結果において合格が得られているように、はんだ付け部が十分な機械的強度を有したものとされることになる。
さらに、実施例1〜7の夫々は、はんだ合金粒子と混練されるフラックスとして高粘度のものを用いることを必要とするものでなく、それゆえ、各はんだ付け箇所への定量安定供給が容易とされて、はんだ付け部の信頼性を高めることになる。
それに加えて、実施例1〜7の夫々は、はんだ合金粒子の溶融時間を短縮すべく、リフローはんだ付けの工程中における加熱のための熱風の温度を高温側に設定することを必要とするものでなく、それゆえ、フラックス中の溶剤成分が突沸し、飛散してしまうことがないものである。
11・・・基板, 12a〜12e・・・円柱状部材, 13・・・はんだ溜, 14・・・ビーカー, 21・・・回路基板, 22・・・はんだノズル, 23・・・ペースト例1〜7のいずれか, 24・・・電子部品, 25・・・熱風ノズル