JP2005065596A - 増殖能欠損狂犬病ウイルス - Google Patents

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Abstract

【課題】 非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスの増殖能欠損ウイルス、その製造方法、及びそのウイルスベクター、ワクチン等の用途を提供すること。
【解決手段】 狂犬病ウイルスをcDNAプラスミドより作製する方法(cDNAプラスミドからの狂犬病ウイルスの回収)を用いて、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスを作製することにより、ウイルス増殖能を欠損した狂犬病ウイルスを作製することがでる。該ウイルスは、特殊な細胞(狂犬病ウイルスPタンパク質を発現している細胞)にのみ感染可能で、増殖することから、安全なワクチンとして使用することができ、かつ、ウイルスベクターとして利用することができる。また、外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んで、医薬デリバリー用組成物として利用することができる。

Description

本発明は、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスの増殖能欠損ウイルス、その製造方法、及びその利用に関する。
狂犬病ウイルスは、ラブドウイルス(Rhabdoviridae)科リッサウイルス(Lyssavirus)属に属し、そのゲノムは非分節、マイナス鎖RNAで、5つの構造タンパク質:N(nucleoprotein)、P(phosphoprotein)、M(matrix protein)、G(glycoprotein)及びL(large protein)をコードしている。ウイルスRNAポリメラーゼはL及びPタンパク質からなる。Lタンパク質はウイルスRNAポリメラーゼの主要な触媒サブユニットであり、Pタンパク質は非触媒サブユニットとして機能することが知られている(J. Virol., 72: 1925-1930, 1998; Virology, 214: 522-530, 1995)。Pタンパク質はリン酸化の程度の違いによってヌクレオカプシドとの親和性が異なり、それによって転写及び複製活性が調節されていると考えられている(Virology, 200:590-597, 1994; J.Virol., 75: 9613-9622, 2001; Microbiol.Immunol., 42: 761-771, 1998)。最近、P蛋白の更なる機能として細胞質ダイニン・ライトチェーン(LC8)との相互作用が示され、狂犬病ウイルスの逆行性軸索輸送への関与が示唆されている(J.Virol., 74: 10217-10222, 2000; J. Virol., 74: 10212-10216, 2000)。更に、その結合が狂犬病ウイルスの病原性に影響を与えることも調べられている。
マイナス鎖RNAウイルスにおける逆遺伝学(reverse genetics)の開発によって、ゲノムの構成を操作することが可能になってきた(EMBO J. 13: 4195-4203, 1994)。ウイルス蛋白の機能解明、又は弱毒生ワクチンやウイルスベクターの開発を目的として、いくつかのマイナス鎖RNAウイルスで逆遺伝学の手法が応用されてきている(Annu. Rev. Genet., 32: 123-162, 1998; J.Gen.Virol., 83: 2635-2662, 2002)。外来遺伝子を発現するワクチンとして、例えばHIV−1のGagやEnv或いはインフルエンザウイルスのHAタンパク質を発現する狂犬病ウイルスや水泡性口内炎ウイルスベクターが開発され、その高い効果が示されている(J.Virol., 76: 7506-7517, 2002; J.Virol., 77: 237-244, 2003; J.Virol., 76: 8900-8907, 2002; J. Virol., 73: 3723-3732, 1999)。また、水泡性口内炎ウイルの遺伝子順序を入れ替えることで弱毒生ワクチンを作製するという新しいアプローチを試みたものもある(J.Virol.,74: 7895-7902, 2000; J.Virol., 75: 6107-6114, 2001)。
逆遺伝学による遺伝子欠損ウイルスの作製は、インフルエンザAウイルスのM2やNS遺伝子、センダイウイルスのF遺伝子欠損で報告されており、これらはウイルスベクターあるいは弱毒生ワクチンとしての有用性が示されている(J.Virol., 74: 6564-6569, 2000; J.Virol., 75: 5656-5662, 2001; Virology, 299: 266-270, 2002; J.Virol., 76: 767-773, 2002)。狂犬病ウイルスの遺伝子欠損ウイルスはConzelmannの研究室で作製されている。GやM遺伝子欠損ウイルスが作製され、ウイルス粒子の構成物や出芽に関する特性を明らかにするために用いられた(Cell, 84: 941-951, 1996; J.Virol., 73: 242-250, 1999)。このウイルスの生ワクチンとしての応用に関してはまだ報告されていない。
狂犬病ウイルスをベクターとして用いることも既に周知のところである。狂犬病ウイルスは、非分節(−)鎖RNAウイルスであり、ラブドウイルス科リッサウイルス属に属するが、モノネガウイルスの完全長cDNAからウイルスを回収する方法は、狂犬病ウイルスを用いてSchnellらにより1994年に初めて開発された(EMBO J. 13, 4195-4203, 1994)。この狂犬病ウイルスcDNA発現系は、欧州のワクチン株であるSAD B19株(Virology 175, 485-499, 1990)を用いて開発された。この方法は、狂犬病ウイルスの詳細な分子生物学的解析及びワクチン・ベクター開発などの研究を可能にした(特開平8−168381号公報)。
特開平8−168381号公報。 J. Virol., 72: 1925-1930, 1998。 Virology, 214: 522-530, 1995。 Virology, 200: 590-597, 1994。 J.Virol., 75: 9613-9622, 2001。 Microbiol.Immunol., 42: 761-771, 1998。 J. Virol., 74: 10217-10222, 2000。 J. Virol., 74: 10212-10216, 2000。 EMBO J. 13: 4195-4203, 1994。 Annu. Rev. Genet., 32: 123-162, 1998。 J. Gen. Virol., 83: 2635-2662, 2002。 J. Virol., 76: 7506-7517, 2002。 J. Virol., 77: 237-244, 2003。 J. Virol., 76: 8900-8907, 2002。 J. Virol., 73: 3723-3732, 1999。 J. Virol., 74: 7895-7902, 2000。 J. Virol., 75: 6107-6114, 2001。 J. Virol., 74: 6564-6569, 2000。 J.Virol., 75: 5656-5662, 2001。 Virology, 299: 266-270, 2002。 J. Virol., 76: 767-773, 2002 Cell,84: 941-951, 1996。 J. Virol., 73: 242-250, 1999。 Virology 175, 485-499, 1990。
本発明の課題は、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスの増殖能欠損ウイルス、その製造方法、及びそのウイルスベクター、ワクチン等の用途を提供することにある。
本発明者は、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスの構造タンパク質について研究する中で、狂犬病ウイルスをcDNAプラスミドより作製する方法(cDNAプラスミドからの狂犬病ウイルスの回収)を用いて、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスを作製することにより、ウイルス増殖能を欠損した狂犬病ウイルスを作製することができ、該ウイルスが安全なワクチンとして使用することができ、かつ、ウイルスベクターとして利用することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスの全長ゲノムcDNAからP遺伝子を取り除いたcDNAプラスミドを作製し、これをPタンパク質を発現している細胞に感染させると、P遺伝子を欠損した狂犬病ウイルスを産生することができる。この狂犬病ウイルスはウイルスの複製に必要なP遺伝子を持たないため、細胞への一回の感染は行うが、以後の感染の拡大はない。しかしながら、この欠損ウイルスをPタンパク質を発現している細胞に感染させると、細胞からのPタンパク質がウイルスの増殖を補い、感染が拡大していく。この系を利用して作製したP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、特殊な細胞(狂犬病ウイルスPタンパク質を発現している細胞)にのみ感染可能で、増殖することから、安全な生ワクチンとしての利用に適切な材料となり得る。
更に、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスに外来遺伝子を導入することにより、ウイルスベクターとしての利用が可能となる。本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、免疫刺激性サイトカイン遺伝子、アポトーシス遺伝子又は野外狂犬病ウイルスG遺伝子等の遺伝子を組み込んで、そのワクチン効果を増強させることができ、更に、ワクチン抗原、インターロイキン、酵素、又は生理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を細胞に導入するためのウイルスベクターとして用いることができる。また、外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んで、医薬デリバリー用組成物として利用することができる。
具体的には、本発明は、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスからPタンパク質発現遺伝子機能を欠損させた増殖能欠損狂犬病ウイルス(請求項1)や、Pタンパク質発現遺伝子機能の欠損が、Pタンパク質遺伝子の一部又は全部の欠損によるものであることを特徴とする請求項1記載の増殖能欠損狂犬病ウイルス(請求項2)や、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスがHEP−Flury株であることを特徴とする請求項1又は2記載の増殖能欠損狂犬病ウイルス(請求項3)や、狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドからP遺伝子の一部又は全部を欠損させたP遺伝子欠損cDNAプラスミド(請求項4)や、狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドからのP遺伝子の一部又は全部の欠損が、該完全長ゲノムcDNAからの、配列表の配列番号1記載の塩基配列の一部又は全部の欠損であることを特徴とする請求項4記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミド(請求項5)や、狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドが、狂犬病ウイルスHEP−Flury株の完全長ゲノムcDNAプラスミドであることを特徴とする請求項4又は5記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミド(請求項6)
からなる。
また本発明は、請求項4〜6のいずれか記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミドを、Pタンパク質を発現している細胞に感染させ、増殖することを特徴とするP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法(請求項7)や、Pタンパク質を発現している細胞が、P遺伝子を含むベクターを導入した細胞であることを特徴とする請求項7記載のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法(請求項8)や、P遺伝子を含むベクターを導入した細胞が、P遺伝子を含むプラスミドを、A/Jマウス由来の神経芽腫NA細胞又はシリアンハムスター由来のBHK−21細胞にトランスフェクションした細胞であることを特徴とする請求項7記載のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法(請求項9)からなる。
さらに本発明は、請求項1〜3のいずれか記載のPタンパク質発現遺伝子機能を欠損した狂犬病ウイルスからなることを特徴とするワクチン(請求項10)や、Pタンパク質発現遺伝子機能を欠損した狂犬病ウイルスに、ワクチン効果を増強させる遺伝子を導入したことを特徴とする請求項10記載のワクチン(請求項11)や、ワクチン効果を増強させる遺伝子が、免疫刺激性サイトカイン遺伝子、アポトーシス遺伝子又は野外狂犬病ウイルスG遺伝子であることを特徴とする請求項11記載のワクチン(請求項12)や、請求項1〜3のいずれか記載のPタンパク質発現遺伝子を欠損した狂犬病ウイルスからなることを特徴とするウイルスベクター(請求項13)や、請求項13記載のウイルスベクターに外来遺伝子を組込んだ外来遺伝子組換えウイルス発現ベクターを、Pタンパク質を発現している細胞にトランスフェクトさせ、外来遺伝子組換え狂犬病ウイルスを作製することを特徴とする外来遺伝子の発現方法(請求項14)や、請求項14記載の外来遺伝子組換え狂犬病ウイルスを、P遺伝子を発現している細胞に感染させ、発現することを特徴とする外来遺伝子の発現方法(請求項15)や、外来遺伝子が、ワクチン抗原、インターロイキン、酵素、又は生理活性を有するペプチドをコードする遺伝子であることを特徴とする請求項14又は15記載の外来遺伝子の発現方法(請求項16)や、外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んだ請求項13記載の外来遺伝子組換えウイルス発現ベクターと、医薬上許容される担体、希釈剤、アジュバント及び賦形剤から選択される1又は2以上の補助剤からなる医薬デリバリー用組成物(請求項17)からなる。
本発明は、P遺伝子欠損狂犬病ウイルス及びその製造法を提供する。すなわち、狂犬病ウイルスの全長ゲノムcDNAからP遺伝子を取り除いたcDNAプラスミドを作製し、Pタンパク質を発現している細胞に感染させ、P遺伝子を欠損した狂犬病ウイルス粒子を産生する。P遺伝子は、ウイルスの複製(増殖)に必要なPタンパク質の遺伝子であるため、P遺伝子欠損ウイルスは、細胞には感染するがその感染細胞内でウイルスの複製(増殖)は起こらない。人工的に細胞にP遺伝子を導入し、Pタンパク質を発現すれば該細胞においてはウイルス粒子の複製が起こる。この系を用いたP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、特別な細胞でのみ増殖するため、安全な生ワクチンとなる。更に、外来遺伝子を導入することにより、ウイルスベクターとして利用することが可能である。更に、本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んだ医薬デリバリー用組成物として利用することができる。
本発明は、非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスからPタンパク質発現遺伝子機能を欠損させた増殖能欠損狂犬病ウイルスからなる。狂犬病ウイルスは、ラブドウイルス(Rhabdoviridae)科リッサウイルス(Lyssavirus)属に属し、そのゲノムは非分節、マイナス鎖RNAで、5つの構造タンパク質:N(nucleoprotein)、P(phosphoprotein)、M(matrix protein)、G(glycoprotein)及びL(large protein)をコードしていることで知られている(Field Virology, 3rd., vol.1, p1137-1159, 1996; Field Virology,3rd., vol.1, p1121-1135, 1996)。P遺伝子欠損狂犬病ウイルスを製造するには、狂犬病ウイルスの全長ゲノムcDNAからP遺伝子を取り除いたcDNAプラスミドを作製し、該プラスミドをPタンパク質を発現している細胞に感染させ、複製する。
すなわち、概略的には次のようにして大量に増殖させる。
1.狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドからP遺伝子領域を取り除いた、P遺伝子欠損ゲノムのcDNAプラスミドを作製する。
2.狂犬病ウイルスcDNAプラスミド発現系を利用してP遺伝子欠損ウイルスを作製する。
3.Pタンパク質定常発現領域にP遺伝子欠損ウイルスを感染させることにより、P遺伝子欠損ウイルスを多量に増殖させる。
狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドとしては、狂犬病ウイルスHEP−Flury株の完全長ゲノムcDNAプラスミドを挙げることができる。
組み換え型HEP−Flury株全長cDNAの配列は、アクセッションナンバーAB085828としてGen Bankデータベースに登録されており、該配列情報を検索することができる。全長cDNAベクター(pHEP-3.0)の構築については、既に論文に掲載されている(J. Virol. Methods 107: 229-236, 2003)。狂犬病ウイルスHEP−Flury株の完全長ゲノムcDNAベクターにおいて、Pタンパク質をコードする遺伝子の配列を配列表の配列番号1に示す。また、Pタンパク質のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。全長cDNA配列から、Pタンパク質をコードする遺伝子配列を除去するには、公知の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。
Pタンパク質をコードする遺伝子配列全長を除去するためには、例えば、制限酵素AvrII及びBlpIで切断した全長cDNAベクター(pHEP-3.0)に、別途、N遺伝子のAvrIIサイト周辺のプライマー及びN遺伝子の終止コドン下流にBlpIサイトを導入できるプライマーを用いて増幅し、調製したPCR断片を組込んで行うことができる。また、P遺伝子欠損ウイルスを作製するために、完全長ゲノムcDNA配列から、Pタンパク質をコードする全遺伝子配列を除去する方法に代えて、該Pタンパク質をコードする遺伝子配列の一部を欠失させて、Pタンパク質発現遺伝子の遺伝子機能を欠損させることにより行うこともできる。
全長cDNA配列から、Pタンパク質をコードする遺伝子配列を欠失させた狂犬病ウイルスcDNAプラスミドを、Pタンパク質を定常発現する細胞に導入させる(トランスフェクト)ことにより、P遺伝子欠損ウイルスを多量に増殖させ、回収することができる。すなわち、P遺伝子は、ウイルスの複製(増殖)に必要なPタンパク質の遺伝子であり、P遺伝子欠損ウイルスは、細胞には感染するがその感染細胞内でウイルスの複製(増殖)は起こらない。したがって、人工的にP遺伝子を導入し、Pタンパク質を発現している細胞においてのみウイルス粒子の複製が可能となる。Pタンパク質を発現する細胞としては、例えば、A/Jマウス由来の神経芽腫細胞であるNA細胞、或いはシリアンハムスターの腎臓由来のBHK−21細胞に、P遺伝子を含むpH−Pプラスミドをトランスフェクションした、NA−P細胞及びBHK−P細胞(J. Virol. Methods 107: 229-236, 2003)を用いることができる。
本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、安全な生ワクチンとして用いることができる。すなわち、本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、ウイルスの複製に必要なP遺伝子を持たないため、細胞への一回の感染は行うが、以後の感染の拡大はないと考えられる。しかしながら、この欠損ウイルスをPタンパク質を発現している細胞に感染させると、細胞からのPタンパク質がウイルスの増殖を補い、感染が拡大していく。この系を利用して、P遺伝子欠損狂犬病ウイルスは特殊な細胞(狂犬病ウイルスPタンパク質を発現している細胞)にのみ感染可能で、増殖することから、安全な生ワクチンとして使用することができる。本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスをワクチンとして用いる場合には、該P遺伝子欠損狂犬病ウイルスに免疫刺激性サイトカイン遺伝子、アポトーシス遺伝子又は野外狂犬病ウイルスG遺伝子のようなワクチン効果を増強させる遺伝子を導入して、そのワクチン効果を増強させることができる。
また、本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスは、外来遺伝子を組込んで外来遺伝子発現用の組換えウイルス発現ベクターとして用いることができる。該ウイルス発現ベクターを用いて外来遺伝子を発現するためには、外来遺伝子を組込んだウイルス発現cDNAプラスミドを、Pタンパク質を発現している細胞にトランンスフェクトさせ、該外来遺伝子を組込んだ組換えウイルスを作製し、P遺伝子を発現している細胞に感染させ、発現することにより行うことができる。外来遺伝子としては、特に制限はないが、例えば、ワクチン抗原、インターロイキン、酵素、又は生理活性を有するペプチドをコードする遺伝子等を挙げることができる。
更に、本発明のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスベクターは、外来遺伝子の標的細胞での発現に用いることができる。本発明のウイルス発現ベクターに外来遺伝子を組み込んで、標的細胞と接触させ、標的細胞中に導入することにより、外来遺伝子を標的細胞で発現することができる。したがって、本発明のウイルス発現ベクターは、外来遺伝子として薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んで、薬理活性を有するペプチド(医薬)のデリバリーシステムとして用いることができる。そのようなデリバリーシステム用の組成物としては、外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んだ、外来遺伝子組換えウイルス発現ベクターと医薬上許容される担体、希釈剤、アジュバント及び/又は賦形剤等を適宜配合して、医薬デリバリー用組成物として用いることができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[材料と方法]
(細胞及びウイルス)
A/Jマウス由来の神経芽腫細胞であるNA細胞は10%FBSを含むMEM培地中で37℃で培養した。BHK−21細胞は10%FBSを含むD−MEM培地中で37℃で培養した。Pタンパク質発現細胞系を確立するため、P遺伝子を含むpH−PプラスミドをNA及びBHK−21細胞にトランスフェクションした。これらの細胞は数週間、Zeocine耐性によって選択された。耐性細胞をクローニングし、Pタンパク質の発現を抗Pタンパク質抗体による免疫蛍光染色によって確認した。得られたPタンパク質発現細胞は、NA−P及びBHK−P細胞と呼ぶ。
(狂犬病ウイルスPタンパク質単一特異性抗血清の精製)
CVS−11株のPタンパク質をコードするcDNAをバクテリア発現ベクターであるpQE-9に導入した。原核細胞性のヒスチジン(His)タグ付き組換えPタンパク質を発現させ、精製した。精製したPタンパク質はフロインドの完全アジュバントに乳化させ、メスのニホンシロウサギに皮下接種した。フロインドの不完全アジュバントと混和したrPタンパク質を3回のブースター免疫した後、ウサギの血液から免疫血清を採取し、狂犬病ウイルスタンパク質との免疫ブロット解析によって評価した。
(完全長cDNAからP遺伝子を欠損させたプラスミドの構築)
組換え型HEP−Flury株全長cDNAの配列はGen Bankデータベースに登録してある(アクセッションナンバー:AB085828)。全長cDNAベクターpHEP-3.0の構築については他の論文に掲載されている。簡単に述べると、全長cDNA配列を2タイプのリボザイムcDNAで挟み、正確な5'及び3'末端を持つ全長RNA転写物が得られるようにし、その転写はCMVプロモーターによって調節されるように構築した。P遺伝子欠損cDNAを構築するため、N遺伝子のAvr IIサイト周辺のプライマー、H−Avr5:5'- TATAACcctaggGAAAGCCC -3'(Avr IIサイトを小文字で示す:配列番号3)及びN遺伝子の終止コドン下流にBlp Iサイトを導入できるプライマー、Nstop−Blp3:5'- GTCgcttagcTCCTTATGAGTCACTCG -3'(Blp Iサイトを小文字で示す:配列番号4)でPCR断片を増幅した。Pタンパク質コード領域を除去するため、このPCR断片をAvr II及びBlp Iで切断したpHEP-3.0に組み込んだ。得られたプラスミドはp3.1-defPとした(図1A)。
(狂犬病ウイルスの回収)
組換えウイルスは以前に述べた方法で回収した。トランスフェクション細胞としてPタンパク質を供給できるBHK−P細胞を用いた。BHK−P細胞は10%FBS加D−MEMで、6wellプレートに80%コンフルエントになるよう一晩培養した。トランスフェクションする前に培養液を新鮮なものに取り換え、p3.1-delP 2.0μg、pH-N 0.5μg、pH-P 0.25μg、pH-L 0.1μg、pH-G 0.15μgをTransIT LT-1を用いてトランスフェクションした。Gタンパク質をコードするpH-Gのトランスフェクションはウイルス回収に必須ではないが、G蛋白の供給は時にウイルス産生効率を改善する。16から24時間後に細胞を洗い、10%FBSを含むD−MEMで2〜5日間培養した。培養液を新たにBHK−P細胞に加え、34℃で3日間培養した。その培養上清を回収し、その後の実験に用いるウイルスストックとして力価を測定した。回収されたp3.1-defPのウイルスは、P遺伝子欠損ウイルス(def−Pウイルス)とした。
(免疫蛍光染色及びウイルスの力価の測定)
回収ウイルスの存在は、FITC−抗狂犬病Nタンパク質抗体を用いた免疫蛍光アッセイによってBHK−P細胞で行った。ウイルス液を10倍階段希釈で単層培養、96wellのBHK−Pに添加し34℃で感作させた。48時間後に80%アセトンで細胞を固定し、FITC−抗狂犬病Nタンパク質抗体で染色した。蛍光顕微鏡下でフォーカスを数え、FFU/mlを算出した。力価測定は全て3組で行い平均値を力価とした。
(RT−PCRによるRNAの増幅)
ウイルスゲノムのP遺伝子欠損を確認するため、def−Pウイルス感染細胞内のゲノム鎖RNAをRT−PCRで増幅した。感染細胞からISOGENで全RNAを抽出した。RT反応はN遺伝子終止コドン上流に位置する狂犬病ウイルス特異的プライマーNS5−1を用いてAMV-RTaseで42℃ 1時間行った。RT産物は、EX TaqとNS5−1及びNS3−1(M遺伝子スターとコドンの下流に位置する)を用いたPCRによって増幅した。PCR産物は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、EtBr染色で検出した。PCR断片の予想サイズは、rHEPが1166bp、def−Pが234bpである。
def−P感染BHK及びBHK−P細胞内でのウイルス転写産物量決定のため、感染細胞内のmRNAをRT−PCRで増幅した。ウイルス感染細胞から全RNAを抽出し、オリゴ(dT)プライマーでRT反応を行った後、狂犬病ウイルスN、P、G遺伝子及びインターナルコントロールとしてG3PDH遺伝子をN5−a/N3−a、HP−start5/HP−Bpu3、C5−a/C3−a及びG3PDH sense/G3PDH antisenseプライマーを用いて、それぞれ684、882、816及び384bpを増幅した。
(乳のみマウスにおける病原性の解析)
ICR乳のみマウスに、各希釈のウイルス液20μlを脳内接種した。感染後2週間経過を観察した。
(免疫及びワクチン防御効果)
ワクチン防御効果は、NIH標準試験に従って行った。6週令のメスのICRマウスに10倍階段希釈で、0.5mlの組換えウイルス液を1週間間隔で2回腹腔内接種した。ワクチンのコントロールとして、日本の精製ニワトリ胚細胞培養狂犬病ワクチン(PCECV)を10倍希釈で接種した。最初の接種から2週間後にCVS株を30μl、50LD50で脳内接種し、臨床兆候の経過を2週間観察した。CVS株接種の1日前に、免疫マウスの眼窩静脈叢から血液を採取し、血清中の中和抗体価を測定した。
(ウイルス中和抗体価(VNA)の測定)
ワクチンウイルス接種後に、各マウスから50μl/匹を超えないよう眼窩採血した。10倍希釈した各血清を4倍階段希釈でのRFFIT法によって、中和抗体価(virus-neutralizing antibody:VNA)を測定した。攻撃ウイルス(HEP−Flury株)を50%中和する最も高い希釈倍率の逆数を中和抗体価とし、WHOの抗狂犬病標準抗体を用いて、IUに換算した。それぞれ6匹のマウスの抗体価から幾何平均値を算出した。
[結果]
(P遺伝子欠損プラスミドの構築とP遺伝子欠損ウイルスの回収)
リバースジェネティックス(reverse genetics)によるP遺伝子欠損ウイルス粒子作製のため、P遺伝子を完全に欠くcDNAプラスミドを構築した。Pタンパク質コード領域を図1のAに示すようにHEP−Flury全長cDNAプラスミド(pHEP−3.0)から取り除いた。作製したP遺伝子欠損プラスミド(p3.1-defP)をウイルスRNAの転写と複製をサポートするヘルパー・プラスミドと共にトランスフェクションした。基本的には1)p3.1-defP、pH-N、pH-p、pH-LをBHK細胞に、2)p3.1-defP、pH-N、pH-Lを、Pタンパク質を構成的に発現しているBHK−P細胞(図2D)にトランスフェクションすることで、P遺伝子欠損ウイルス粒子(def−Pウイルス)を産生することができる。しかしながら、どちらの実験も回収効率はきわめて低かった。
そこで材料と方法で述べたように、p3.1-defPをpH-N、pH-L、pH-PそしてpH-Gと共に、BHK−P細胞にトランスフェクションした。この条件においてdef−Pウイルスの産生は非常に効率的であった。Pタンパク質が量的に充分供給されることがdef−Pウイルスの増幅を促進した。このトランスフェクションの培養上清をBHK−P又はNA−P細胞に移すことでさらなる増殖が可能となる(図1B)。この時のBHK−P細胞培養中のdef−Pウイルス感染価は106FFU/ml以上に達した。このdef−Pウイルス感染細胞の免疫蛍光法による顕微鏡像を図3に示した。def−Pウイルス感染NA−P、BHK−P細胞はウイルスNタンパク質を豊富に発現しており、このことはdef−PウイルスがP発現細胞内でよく複製していることを示している(図3A、D)。一方、def−Pウイルス感染NA及びBHK細胞でのN蛋白の発現は僅かであった(図3B、E)。Pタンパク質の発現はこのdef−Pウイルスの増殖に必須である。一次転写のみは、ウイルスRNP内に含まれて持ち込まれたウイルスポリメラーゼによって行われる。二次転写とゲノムの複製は新たに合成されるPタンパク質を欠くためにほとんど起こらないと考えられる(データは以下に示す)。
このdef−PウイルスゲノムのP遺伝子欠損を確認するため、def−Pウイルス感染BHK−P細胞から全RNAを分離した。ゲノムセンスRNAのP遺伝子領域周辺領域をRT−PCRによって増幅した(図4)。予想される通り、rHEPウイルス感染細胞からは1166bp、def−Pウイルス感染細胞からは234bpのPCR断片が得られた。また、シークエンス解析からもdef−PウイルスゲノムがP遺伝子を欠き、cDNAプラスミドp3.1-defPに由来することが示された。
(Pタンパク質発現細胞におけるP遺伝子欠損ウイルスの増殖)
BHK−P細胞におけるdef−Pウイルスの増殖を図5に示した。BHK−P細胞において、Nタンパク質の発現は感染1日後から明らかに検出された。感染フォーカス数は増加し、また、隣接細胞へのウイルス伝播が見られた。一方、感染BHK細胞では、感染3日後にのみ、僅かなNタンパク質の発現が見られた(図5F)。次に、BHK−P、BHK両細胞におけるdef−Pウイルスの増殖動態を解析した(図6)。細胞にMOI=10で感染させ、培養上清を24時間ごとに感染4日目まで回収した。産生ウイルスの感染価は培養上清の階段希釈液を、BHK−P細胞の単層培養に感染させ、フォーカス数によって決定した。BHK−PとBHK細胞において、親株であるrHEPウイルスはよく増殖し、そのタイターは108FFU/ml以上に達した。BHK−P細胞におけるdef−Pウイルスの増殖はrHEPウイルスのそれに比べて、僅かに遅いものの、最終的に感染6日目には108FFU/mlに達した。宿主細胞によるPタンパク質の発現量は、ウイルスポリメラーゼが最高速度での増殖を遂行するためには不十分であるように思われる。
培養上清中にはほとんど子孫ウイルスは放出されないが、図3B、Eと図5Fに示すように、Pタンパク質非発現細胞であるNA及びBHK細胞におけるN蛋白の発現は僅かではあるが確実に検出される。すなわち、def−PウイルスはPタンパク質非発現細胞においても、少量のウイルスタンパク質を発現していることを示している。
def−Pウイルス感染BHK細胞におけるウイルス転写産物の存在を、メッセンジャー・センスRNAをRT−PCRで増幅することによって確認した(図8)。def−Pウイルス感染Pタンパク質発現細胞では、N、P、G遺伝子の転写産物が豊富に検出できた。P遺伝子の転写産物は、宿主細胞に組み込まれたP遺伝子由来の転写産物である(図8、レーン6)。これに対して、def−Pウイルス感染BHK細胞において、N及びG遺伝子の転写産物はBHK−P細胞と比較して少ないが、明らかに検出される。予想通りに、P遺伝子の転写産物は検出されなかった(図8、レーン2)。このことは添加したdef−Pウイルス粒子中のRNAポリメラーゼ複合体は、新たなP蛋白の合成がなくても1次転写を遂行することが可能であることを示している。
BHK−P細胞でのdef−Pウイルスの一段増殖は僅かに遅いものの、その感染細胞は明白な細胞損傷や細胞死を引き起こすことなく、数回の継代が可能である。def−Pウイルス感染BHK−P細胞は、週に2回継代し、1ヵ月以上維持された。各継代ごとの培養上清中の産生ウイルスを測定した。継代5代目まで、107FFU/ml以上のウイルスが持続感染細胞培養から放出されていた。その後、ウイルス産生は徐々に減少した(図7)。
(P遺伝子欠損ウイルスの病原性)
HEP−Flury株は最も弱毒化した狂犬病ウイルス株の1つであり、成熟マウスでは脳内接種でも死なず、乳のみマウスに対してのみ致死的である。def−Pウイルスは親株のHEP−Fluryと同様にどんな感受性細胞にも感染できるが、Pタンパク質発現細胞以外では感染性の子孫ウイルスを産生できない。従って、def−Pウイルスは完全な非病原性ウイルスであると考えられる。そこで、def−Pウイルスの乳のみマウスに対する病原性を検討した(図9)。HEP−Flury株2×103FFU/mlの脳内接種は100%の致死率を示したが、def−Pウイルスは2×104FFU/mlの接種においてもマウスを殺すことなく、また、なんの臨床症状も示さなかった。
(ウイルス中和抗体反応とP遺伝子欠損ウイルス接種後の防御反応)
def−Pウイルスは完全な非病原性であるが、感染細胞内ではPタンパク質の供給がなくともウイルスタンパク質の発現が確実に起こっている。そこで、def−Pウイルスのワクチンとしての効果をNIHテストによって検討した。図10Aは、def−Pウイルスとその親ウイルスであるrHEPウイルスを腹腔内接種で免疫した時の致死量の攻撃ウイルスに対しての生存率を示している。def−Pウイルス、106FFU接種群は致死量のCVS株ウイルスチャレンジに対して完全な防御効果を示した。ウイルス中和抗体(VNA)は狂犬病からの防御において、主要な役割を担っていることから、上記実験免疫マウスの中和抗体価を測定した(図10B)。
その結果VNA価はウイルス摂取濃度依存的に誘導されることが示された。106FFUの接種では、中和抗体平均力価がdef−Pウイルス免疫群で12.3 IU、rHEPウイルス接種群で2.0 IUであり、def−PウイルスがrHEPウイルスより有意に高く中和抗体を誘導することが分かった。結果としてdef−Pウイルスの方が、よりよい感染防御効果が見られた。これらのデータから、def−Pウイルスは106FFUのウイルス量で、感染防御に充分なVNAと防御免疫を誘導することが示された。
[考察]
改良型リバース・ジェネティックシステムとPタンパク質定常発現細胞を併用することで、P遺伝子欠損ウイルス(def−P)の産生と増殖に成功した。このシステムは、細胞のRNAポリメラーゼIIによって、トランスフェクトしたcDNAの初期転写が制御されているため、T7 RNAポリメラーゼの供給を必要としない。この系を用いることで、いかなる細胞でもcDNAからの狂犬病ウイルス回収が可能となった。本研究では、遺伝子欠損ウイルスを作製するため、ゲノムcDNAとヘルパー・プラスミド(ウイルスの転写と複製を行うプラスミド)をトランスフェクションする細胞として、Pタンパク質発現細胞を用いた。
Pタンパク質発現細胞を利用した回収系によって、P遺伝子欠損ウイルスを高効率で得ることが出来た。ウイルスゲノムはP遺伝子を欠くが、ウイルス粒子はPタンパク質を含有する正常なヌクレオカプシド構造を有しており、Pタンパク質発現細胞内ではよく複製し、また、Pタンパク質非発現細胞内でも初期転写活性を有している。def−Pウイルスの増殖速度は遅いが、これはおそらくPタンパク質の供給が不十分であるためと考えられる。しかし、def−Pウイルス感染細胞は、維持培養でき、数回の継代の間、子孫ウイルスを産生しつづけた。更なる改良によってこの量的な問題は解決可能である。あるいは、Pタンパク質を高発現させる他の発現ベクターを用いることで、P蛋白の充分な供給が可能である。
def−Pウイルスは、Pタンパク質が供給されるという限られた環境で増殖可能である。しかし、def−Pウイルスは親株であるHEP−Fluryが感染可能な全ての感受性細胞に感染できる。Pタンパク質の新たな合成なしに、ビリオン結合ポリメラーゼ複合体は感染細胞内でウイルスmRNAを転写できる(図8)。Pタンパク質非発現細胞では、N蛋白の大量な合成に引き続くウイルスRNAのNタンパク質による被嚢は起こらない。従って、ウイルスゲノムRNAの複製はないものと予想され、実際、感染性子孫ウイルスの放出はほとんど見られなかった(図6B)。しかし、わずかなウイルスゲノム複製の可能性は完全に否定されたわけではない。P遺伝子欠損ウイルスはウイルスRNAポリメラーゼの機能とヌクレオカプシドの構造を調べる有益なツールとなる。
def−Pウイルスはマウスに対して完全に非病原性であり、また、充分な防御免疫を誘導する。いかなる動物においても接種による病原性の発現はないものと予想され、また、遺伝子突然変異による病原性の復帰も完全に否定される。106FFUのdef−Pウイルスでの2回の腹腔内接種による免疫で完全にマウスを防御できた。その血清は親株であるrHEPやワクチン標品の血清より有意に高い中和抗体価を保持していた。筋肉内接種においてもdef−Pウイルスはより高い中和抗体価を誘導した(データは示さない)。WHOは狂犬病防御のために中和抗体価0.5 IU以上の値を推奨している。105FFUのウイルス量において、rHEPを接種した場合6サンプル中6血清、def−Pを接種した場合6サンプル中4血清が十分な抗体価をもっていたが、防御効果は50%以下であった(図10)。
この低い防御効果はBarthらにより示唆されているNIH法によるヘテロジェナスチャレンジによるものと考えられる。ホモロガスチャレンジが行われていれば、より高い防御効果が得られる可能性がある。接種経路によるdef−Pワクチン接種の有効性をみるため、別な接種経路による中和抗体価産生と防御効果を調べる実験を行った。ウイルスの増殖が経口ワクチンの防御効果を発揮する上で必要不可欠であり、def−Pウイルスが経口ワクチンとして効果的であることが期待できる。
不活化ワクチンでは細胞障害性T細胞反応を誘導できないが、def−Pウイルスでは液性免疫反応に加えて細胞障害性T細胞反応も誘起できるものと期待される。また、def−Pウイルスワクチンは抗原発現の持続による、長期的な防御免疫の誘導も期待できる。免疫反応の強さは、発現される抗原量によると考えられている。def−Pウイルスワクチンの効果を増強させるために、def−Pウイルスを操作するいくつかの方法が考えられる。免疫刺激性サイトカイン遺伝子の導入(例えば、GM−CSF)は、パラインフルエンザウイルスワクチンやDNAワクチンで報告されているように、効果的である。
前アポトーシス遺伝子(チトクロームc等)やもうひとつ糖タンパク質遺伝子を導入することも有望な候補と考えられる。他の遺伝子を導入できるように、付加的な転写ユニットをP遺伝子の代わりに組み込んだプラスミドの作製もすでに行っている。狂犬病流行地で循環している、野外狂犬病ウイルスのG遺伝子挿入も有用な戦略である。新規のdef−Pウイルスは、生ワクチン及び遺伝子治療の有益なツールである。
本発明の実施例における、P遺伝子欠損プラスミドの構築と回収を示す図である。なお、Aは、P遺伝子欠損プラスミドの構築過程を示した模式図であり、Bは、P遺伝子欠損プラスミドの回収を示す図である。 本発明の実施例における、Pタンパク質発現細胞を示す図である。 本発明の実施例における、Pタンパク質発現細胞でのP遺伝子欠損ウイルスの増殖を示す図である。 本発明の実施例における、P遺伝子欠損ウイルスのゲノムにおいてP遺伝子が欠損していることを示す図である。なお、Aは、P遺伝子欠損ウイルスのゲノムを示す模式図(del−P)であり、Bは、P遺伝子欠損ウイルスのゲノムをアガロース電気泳動で確認したことを示す図である。 本発明の実施例における、BHK−P細胞でのP遺伝子欠損ウイルスの増殖を示す図である。 本発明の実施例における、P遺伝子欠損ウイルスの増殖曲線を示す図である。なお、Aは、BHK−P細胞、Bは、BHK細胞における結果をそれぞれ示す。また、▲は、rHEP、●は、del−Pを示す。 本発明の実施例における、ウイルス価に対するP遺伝子欠損ウイルス感染細胞の継代の影響を示す図である。 本発明の実施例における、ウイルス転写産物をアガロース電気泳動で確認したことを示す図である。 本発明の実施例における、P遺伝子欠損ウイルスの病原性を示す図である。なお、●:HEP 2×103FFU、▲:HEP 2×102FFU、○:del−P 2×104FFU、△:del−P 2×103FFUをそれぞれ示す。 本発明の実施例における、def−Pウイルス、又はrHEPウイルスで免疫したマウスを用いた実験結果を示す図である。なお、Aは、def−Pウイルス、又はrHEPウイルスで免疫したマウスの生存率を、Bは、それらのマウスの中和抗体価を測定した結果を示す図である。

Claims (17)

  1. 非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスからPタンパク質発現遺伝子機能を欠損させた増殖能欠損狂犬病ウイルス。
  2. Pタンパク質発現遺伝子機能の欠損が、Pタンパク質遺伝子の一部又は全部の欠損によるものであることを特徴とする請求項1記載の増殖能欠損狂犬病ウイルス。
  3. 非分節マイナス鎖RNAをゲノムにもつ狂犬病ウイルスがHEP−Flury株であることを特徴とする請求項1又は2記載の増殖能欠損狂犬病ウイルス。
  4. 狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドからP遺伝子の一部又は全部を欠損させたP遺伝子欠損cDNAプラスミド。
  5. 狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドからのP遺伝子の一部又は全部の欠損が、該完全長ゲノムcDNAからの、配列表の配列番号1記載の塩基配列の一部又は全部の欠損であることを特徴とする請求項4記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミド。
  6. 狂犬病ウイルスの完全長ゲノムcDNAプラスミドが、狂犬病ウイルスHEP−Flury株の完全長ゲノムcDNAプラスミドであることを特徴とする請求項4又は5記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミド。
  7. 請求項4〜6のいずれか記載のP遺伝子欠損cDNAプラスミドを、Pタンパク質を発現している細胞に感染させ、増殖することを特徴とするP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法。
  8. Pタンパク質を発現している細胞が、P遺伝子を含むベクターを導入した細胞であることを特徴とする請求項7記載のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法。
  9. P遺伝子を含むベクターを導入した細胞が、P遺伝子を含むプラスミドを、A/Jマウス由来の神経芽腫NA細胞又はシリアンハムスター由来のBHK−21細胞にトランスフェクションした細胞であることを特徴とする請求項7記載のP遺伝子欠損狂犬病ウイルスの製造方法。
  10. 請求項1〜3のいずれか記載のPタンパク質発現遺伝子機能を欠損した狂犬病ウイルスからなることを特徴とするワクチン。
  11. Pタンパク質発現遺伝子機能を欠損した狂犬病ウイルスに、ワクチン効果を増強させる遺伝子を導入したことを特徴とする請求項10記載のワクチン。
  12. ワクチン効果を増強させる遺伝子が、免疫刺激性サイトカイン遺伝子、アポトーシス遺伝子又は野外狂犬病ウイルスG遺伝子であることを特徴とする請求項11記載のワクチン。
  13. 請求項1〜3のいずれか記載のPタンパク質発現遺伝子を欠損した狂犬病ウイルスからなることを特徴とするウイルスベクター。
  14. 請求項13記載のウイルスベクターに外来遺伝子を組込んだ外来遺伝子組換えウイルス発現ベクターを、Pタンパク質を発現している細胞にトランスフェクトさせ、外来遺伝子組換え狂犬病ウイルスを作製することを特徴とする外来遺伝子の発現方法。
  15. 請求項14記載の外来遺伝子組換え狂犬病ウイルスを、P遺伝子を発現している細胞に感染させ、発現することを特徴とする外来遺伝子の発現方法。
  16. 外来遺伝子が、ワクチン抗原、インターロイキン、酵素、又は生理活性を有するペプチドをコードする遺伝子であることを特徴とする請求項14又は15記載の外来遺伝子の発現方法。
  17. 外来遺伝子として、薬理活性を有するペプチドをコードする遺伝子を組み込んだ請求項13記載の外来遺伝子組換えウイルス発現ベクターと、医薬上許容される担体、希釈剤、アジュバント及び賦形剤から選択される1又は2以上の補助剤からなる医薬デリバリー用組成物。

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