この発明は、記録密度や保護層の厚みが異なる複数種類の光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置に用いられる対物レンズに関する。
光ディスクには、記録密度や保護層の厚みが異なる複数の規格が存在する。例えば、CD(コンパクトディスク)よりもDVD(デジタルバーサタイルディスク)の記録密度は高く、保護層が薄い。そこで、情報の記録または再生に際し、規格が異なる光ディスクを使い分ける場合には、保護層の厚みによって変化してしまう球面収差を補正しつつ、情報の記録または再生に使用する光の開口数(NA)を変化させて記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるようにする必要がある。
例えば、保護層厚が比較的薄く記録密度が高い光ディスクの記録/再生には、保護層厚が比較的厚く記録密度が低い光ディスク専用の光学系より高NAにしてビームスポットを絞る必要がある。スポット径は波長が短いほど小さくなるため、DVDを利用する光学系では、CD専用の光学系で用いられていた780〜830nmより短い635〜665nmの発振波長のレーザ光源を用いる。そのため近年、光情報記録再生装置には、波長の異なるレーザ光を発振可能な光源部が使用されている。
また、保護層の厚みが異なる複数種類の光ディスクに対して、それぞれ良好な状態で各光ディスクの記録面位置にレーザ光を収束させる手段の一つとして、従来、例えば下記の特許文献1に開示される対物レンズが知られている。特許文献1には、片側の一面に輪帯状の微細な段差を有する回折構造を設けた対物レンズに波長の異なる二種類の平行光束を入射させる構成が開示されている。
特開2001−243651号公報
ところで、規格の異なる光ディスクに対して情報の記録または再生を実現するための対物レンズは、各光ディスクに対応したレーザ光束を各光ディスクの記録面上に収束させる際に、球面収差が補正されているだけでなく、対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差も良好に補正されていることが要求される。しかし、上記特許文献1に例示されるような構成の対物レンズは、各光ディスク使用時に発生するコマ収差をそれぞれ良好に抑えることはできてはいない。特許文献1からわかるように、従来は、光情報記録再生装置の用途に対応して、各光ディスク使用時に発生するコマ収差のバランスを調整するように対物レンズを構成しているにすぎなかった。
上記の事情に鑑み、下記の特許文献2に開示される対物レンズが提案されている。特許文献2に開示される対物レンズは、該レンズの第一面と第二面の双方において、第一の光ディスクよりも保護層の厚い第二の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要なNAを確保するための内側領域と、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生に必要なNAを確保するための外側領域とを有している。そして各面において、内側領域と外側領域の面形状を異なるように構成している。
特開2003−156682号公報
特許文献2には、このような構成の対物レンズを使用することにより、各光ディスク使用時に光束が光軸に対して斜めに入射することにより発生するコマ収差が低減されたと記載されている。しかし、各面における内側領域と外側領域を、互いの領域との関係においてどのような面形状にすればコマ収差を効果的に低減できるか、という点については、何ら開示されていない。そのため、上記特許文献2に基づいて、各光ディスク使用時に発生するコマ収差をバランスよく低減することができる対物レンズを実現するためには、試行錯誤で設計する必要があった。
従って、依然として、どの光ディスクを使用しても高精度な情報の記録または再生が可能となるように、対物レンズのさらなる改良が強く望まれていた。
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、規格の異なるどの光ディスクに対して情報の記録または再生を行った場合であっても、対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際のコマ収差の発生を抑えてディスク記録面上に良好なスポットを形成することができる対物レンズを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の対物レンズは、第一の光ディスクと、該第一の光ディスクよりも相対的に保護層厚が厚い第二の光ディスクと、の保護層厚が互いに異なる少なくとも2種類の光ディスクに対して記録または再生が可能な光ディスク用対物レンズであって、該対物レンズは、光源側に配設される第一面および光ディスク側に配設される第二面を有し、第一面および第二面はどちらも、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要なNAを確保するための内側領域と、該内側領域の外側にあり、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要なNAを確保するための外側領域と、を有し、各面において、外側領域は、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時に光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を低減するような面形状を有し、内側領域は、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時に前記内側領域と前記外側領域の境界位置において、光束が光軸に対して斜めに入射した際に外側領域において発生するコマ収差よりも、該内側領域で発生するコマ収差の量が小さくなるような面形状を有する。そして具体的には、第二面での、内側領域と外側領域の境界位置において、光軸に平行な線に対する面法線の角度を面の傾きθで表し、時計方向を正とした場合、内側領域での面の傾きθ2A[degree]に対する外側領域での面の傾きθ2B[degree]が、以下の式(1)、
-2.5<θ2B-θ2A<0.0 ・・・(1)
を満足することを特徴とする。
請求項1に記載の対物レンズは、対物レンズが持つ二つの面のどちらにも、内側領域と外側領域が設けられている。そして各面における、内側領域と外側領域の面形状を上記のように構成する。すなわち、対物レンズの両面を面形状の異なる複数の領域に分けることにより、設計の自由度を増やし、各光ディスク使用時に発生するコマ収差を個別に補正する。請求項1に記載の対物レンズによれば、第一の光ディスクと第二の光ディスクのいずれを使用した場合にも対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を良好に補正することができる。
図19は、本願発明に係る対物レンズを拡大して示す、光軸AXを含む面での断面模式図である。面の傾きθは、図19に示すように光軸に平行な線に対する面法線の角度で表し、時計方向を正として測ることとする。図19において、各符号はそれぞれ以下のものを示す。
P…境界位置
LA…内側領域(の断面形状)を表す線
LA’…内側領域の形状を境界位置Pから外側領域まで延長した線
LB…外側領域(の断面形状)を表す線
LB’…外側領域の形状を境界位置Pから内側領域まで延長した線
PL…境界位置Pにおける面法線
θ…光軸AXに対して面法線PLがなす角
但し、各符号に下付けされた数字は、第一面、第二面の別を意味する。
ここで、境界位置Pでの内側領域の傾きとは、該領域を表す線LAおよび該領域LAの延長線LA’によって規定される面形状の境界位置Pでの面法線PLが光軸AXに対してなす角をいう。同様に、境界位置Pでの外側領域の傾きとは、該領域を表す線LBおよび該領域LBの延長線LB’によって規定される面形状の境界位置Pでの面法線PLが光軸AXに対してなす角をいう。
これにより、外側領域では比較的保護層厚の薄い光ディスクを使用したときに対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を補正しつつ、内側領域では比較的保護層厚の厚い光ディスクを使用したときに対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を低減することができる。なお、上記式(1)について、上限を超えると、いずれの光ディスクを使用したときに発生するコマ収差に対する低減する効果も小さくなる。下限を超えると、特に第一の光ディスク使用時に発生するコマ収差が発生する。
さらに、第一面での、内側領域と外側領域の境界位置において、内側領域での面の傾きθ1A[degree]に対する外側領域での面の傾きθ1B[degree]を、以下の式(2)、
-1.2<θ1B-θ1A<0.0 ・・・(2)
を満足することが好ましい。上記式(2)について、上限を超えると、いずれの光ディスクを使用したときに発生するコマ収差に対する低減する効果も小さくなる。下限を超えると、特に第一の光ディスク使用時に発生するコマ収差が発生する。(請求項2)。
さらに、請求項3に記載の発明によれば、第一面および第二面のうち、少なくとも一方の面に回折構造を設けることにより、各光ディスク使用時に光源から照射される光束(例えば、第一のレーザ光束と第二のレーザ光束)の波長が異なる場合に、その波長差による回折作用の差を用いて、ディスク保護層厚によって変化する球面収差を良好に補正することができる。
なお、回折構造を設けた面の形状は、回折効率を高めるために微細な段差をもつフレネルレンズ状にすることが一般的である。フレネルレンズ状に回折構造を設けた面の傾きは、ベース形状の傾きとする。
上記構成の対物レンズを使用した場合、第一の光ディスクと第二の光ディスクは、共に略同一の結像倍率で使用することができる(請求項4)。そのため、単一の光源を用いる場合、あるいは2波長レーザーなどと呼ばれる複数の波長の光束を発振可能な光源を用いた場合でも、複数の光ディスクに対して互換性のある光情報記録再生装置が実現できる。また、対物レンズに非平行光を入射させる有限共役系(有限系)を利用した場合、トラッキング動作時に発生する軸外コマ収差による性能劣化が問題となるが、本発明によれば複数の保護層厚の光ディスクのどれを使用した場合であってもコマ収差の量を低減することができるため、良好な性能が得られる。
請求項5に記載の対物レンズによれば、第二面における外側領域は、第一面における外側領域を透過した光が第二面に当たる領域であることが望ましい。また、請求項6に記載の対物レンズによれば、内側領域は、第一の光ディスクの保護層厚と第二の光ディスクの保護層厚との中間厚においてコマ収差が良好に補正されるように設計することができる。
以上のように、本発明に係る対物レンズは、両面に内側領域と外側領域を設け、各領域を互いに異なる面形状とすることにより、従来、規格(保護層厚)の異なる複数の光ディスクを使用したときに発生するコマ収差を、どの光ディスクを使用した場合であっても良好に補正することができる。
以下、この発明に係る対物レンズの実施形態を説明する。図1(A)、図1(B)は、実施形態に係る対物レンズ10と第一の光ディスク20A、第二の光ディスク20Bを、各光ディスク20A、20B使用時における光路ごとに分けて図示したものである。対物レンズ10は、保護層厚や記録密度といった規格が異なる複数種類の光ディスクに対して互換性を有する、光情報記録再生装置に搭載される。なお本文において、光情報記録再生装置には、記録専用装置、再生専用装置、および記録、再生兼用装置の全てが含まれる。
各光ディスク20A、20Bは、図示しないターンテーブル上に載置され回転駆動される。なお本明細書では、保護層が薄く記録密度が高い光ディスク(例えばDVD)を第一の光ディスク20Aと記す。また、保護層が厚く記録密度が低い光ディスク(例えばCDやCD−R等)を第二の光ディスク20Bと記す。
第一の光ディスク20Aに対して情報の記録または再生を行う際には、記録面上において小径のビームスポットを形成するために短波長(例えば、657nm)のレーザ光(以下、第一のレーザー光という)が光源(不図示)から照射される。また、記録密度の低い第二の光ディスク20Bに対して記録または再生を行う際には、記録面上において比較的大きな径のスポットを形成するために、第一のレーザ光よりも長波長のレーザ光(以下、第二のレーザー光という)が光源から照射される。
上記光源から照射され、コリメートレンズ(不図示)を介して平行光に変換されたレーザ光は、対物レンズ10により光ディスク20A、もしくは光ディスク20Bの記録面近傍に収束される。ここで、平行光束を対物レンズ10に入射させることにより、対物レンズ10がトラッキングシフトした場合であっても、収差が発生しない。
対物レンズ10は、光源側から順に第一面10aと第二面10bを有する。対物レンズ10は、図1に示すように両面10a、10bとも非球面である両凸のプラスチック製単レンズである。上述した通り、第一の光ディスク20Aと第二の光ディスク20Bでは、保護層の厚さが異なる。このため、使用されるディスクによってコマ収差や球面収差が変化する。そこで、本実施形態の対物レンズ10は、以下のように構成することにより、各収差を良好に抑えている。
図2(A)は対物レンズ10の拡大図、図2(B)は対物レンズ10の第一面10aの一部拡大図、図2(C)は対物レンズ10の第二面10bの一部拡大図である。図2(B)、(C)に示すように、対物レンズ10の第一面10aは、光軸の周囲に位置する内側領域11aと、内側領域11aの周囲に位置し、レンズ外周部までの外側領域12aを有する。内側領域11aと外側領域12aは互いの面形状が異なる。また、第二面10bも内側領域11bと外側領域12bを有する。内側領域11bと外側領域12bも互いの面形状が異なる。より詳しくは、外側領域12bの方が内側領域11bよりも面の傾きが小さくなるよう設計されている。なお、第一面10aを基準として考えた場合、外側領域11aを透過した光が第二面10bに当たる(入射する)領域が第二面10bにおける外側領域12bとする。
内側領域11a、11bは、第二のレーザ光が、第二の光ディスク20Bの記録面において情報の記録または再生に必要なスポット径を得るためのNAを確保するための領域である。
記録密度の高い第一の光ディスク20Aに対する情報の記録または再生時は、記録密度が相対的に低い第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時よりも、小径なスポット形成が要求される。つまり第一の光ディスク20A使用時には、より高いNAが要求される。そのため、内側領域11a、11bを透過した第一のレーザ光のみでは、情報の記録または再生を実現するために十分小径化されたスポットを得ることができない。そこで外側領域12a、12bは、第一のレーザ光が第一の光ディスク20Aの記録面において情報の記録または再生に必要なスポット径を得るためのNAを確保するための領域として用いられる。外側領域12a、12bは、第二のレーザ光の収束には寄与しない。
このように、対物レンズ10の両面10a、10bをそれぞれ、互いに面形状が異なる二つの領域に分けることにより、対物レンズ10の設計の自由度を増加させることができる。これにより、光ディスク20A、20Bのいずれを使用した場合にも、対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を良好に補正することができる。本実施形態では、以下のように各領域を形成することにより、各ディスク使用時に対物レンズに光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を補正している。
詳しくは、本実施形態では、各面の内側領域11a、11bは、第二の光ディスク20B使用時に対物レンズ10に光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差を第一の光ディスク使用時に発生するコマ収差よりも優先的に補正するような面形状に形成される。そのため、第一面10aの内側領域11aは、外側領域12aの形状をそのまま内側まで(つまり光軸まで)延長させた延長面を想定した場合、第二の光ディスク20B使用時に該延長面に光束が光軸に対して斜めに入射した際に発生するコマ収差よりもコマ収差発生量を低減するような面形状になっている。第二面10bの内側領域11bの面形状についても同様である。なお上記の延長面は、図2(B)、(C)中、一点鎖線で示す。
そして、各面の外側領域12a、12bは、第一の光ディスクを使用したときに発生するコマ収差を補正するような面形状に形成される。詳しくは、第一面10aは、各領域11a、12aの境界位置Paにおいて、外側領域12aの面の傾きが内側領域11aの面の傾きよりも小さくなるように形成される。第二面10bも各領域11b、12bの境界位置Pbにおいて同様に形成される。具体的には、第一面10aは以下の条件式(2)を、第二面10bは以下の条件式(1)を満たすように形成される。
-2.5<θ2B-θ2A<0.0 ・・・(1)
-1.2<θ1B-θ1A<0.0 ・・・(2)
本実施形態の対物レンズ10は、内側領域11a、11bと外側領域12a、12bを上記のように異なる面形状にすることにより、第二の光ディスク使用時に発生するコマ収差を低減するとともに、第一の光ディスク使用時に発生するコマ収差も情報の記録または再生に必要な径のスポット形成に影響を及ぼさない程度に十分補正している。
また、本実施形態では、図2(B)実線で示すように、第一面10aに回折構造を設けることも可能である。第一面10aに回折構造を設ける場合、該回折構造は、内側領域11aと外側領域12aとで異なる構造に構成される。
面10aの内側領域11aは、第一および第二のレーザ光がそれぞれ対応する光ディスク20A、20Bの記録面において良好に収束するような回折構造を備える。
面10aの外側領域12aに形成される回折構造は、第一のレーザ光が入射した場合、第一の光ディスク20Aの記録面において良好に収束し、かつ第二のレーザ光が入射した場合は拡散してしまい、第二の光ディスク20Bの記録面におけるスポットの形成に寄与しないように設計される。具体的には、外側領域12aの回折構造は、該領域12aを透過した第一のレーザ光の波面が、内側領域11aを透過した第一のレーザ光の波面と略連続するように構成される。
上記構成の対物レンズ10を透過した第二のレーザ光は、内側領域11を透過した成分のみが第二の光ディスク20Bの記録面に良好に収束する。これにより該記録面には、第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生に好適な、比較的大径のスポットが形成される。また対物レンズ10を透過する第一のレーザ光は、第一の光ディスク20Aの記録面上に小径のスポットを形成する。
次に上述した実施形態に基づく具体的な実施例を2例提示する。いずれの実施例も、保護層の厚みが0.6mmの第一の光ディスク20Aと、保護層の厚みが1.2mmの第二の光ディスク20Bとの互換性を有する対物レンズ10に関するものである。各実施例の対物レンズ10を表す概略図は、図1に示される。
実施例1の対物レンズ10の具体的な仕様は表1に示されている。また、実施例1の対物レンズ10を用いて各光ディスク20A、20Bに対して情報の記録または再生を行う場合における光情報記録または再生装置の具体的数値構成を表2、表3に示す。
表1中、設計波長λは各光ディスクに対する情報の記録または再生に最も適した波長(単位:nm)、開口数NAは各光ディスクに対する情報の記録または再生に必要な開口数である。後述する表6においても同様である。
また表2中、rはレンズ各面の曲率半径(単位:mm)、dはレンズ厚またはレンズ間隔(単位:mm)、n(Xnm)は波長Xnmでの屈折率、備考は各面番号が示す光学部材を表す。表3および後述する表7、表8も同様である。なお、表2と表3に示すdが異なるのは、各光ディスク使用時に用いられるレーザ光の波長と各光ディスクの保護層厚が異なるからである。表2、表3に示すように、対物レンズ10の第一面10aは、光軸AXからの高さhが1.58mmである境界位置を境にして、内側領域11aと外側領域12aに分けられている。同様に、第二面10bも、光軸AXからの高さhが1.14mmである境界位置を境にして、内側領域11bと外側領域12bに分けられている。
対物レンズ10の第一面10aおよび第二面10bは非球面である。その形状は光軸からの高さがhとなる非球面上の座標点の非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)、非球面の光軸上での曲率(1/r)をC、円錐係数をK、4次、6次、8次、10次、12次の非球面係数をA
4,A
6,A
8,A
10,A
12として、以下の式で表される。
各非球面を規定する円錐係数と非球面係数は、表4に示される。表2〜表4に示すように、第一面10aは各領域11a、12aによって、第二面10bは各領域11b、12bによって、それぞれ面形状(曲率半径rや非球面係数など)が異なる。なお、表4における表記Eは、10を基数とし、Eの右の数字を指数とする累乗を表している。以下に示す各表においても同様である。
さらに、対物レンズ10の第一面10aには、回折構造が形成される。該回折構造は、以下の光路差関数φ(h)を用いて規定される。
光路差関数φ(h)は、波長λの光束に対して回折レンズが与える回折作用を、光軸からの高さhの位置における光路長付加量の形で表現したものである。P2、P4、P6、…はそれぞれ光路差関数に関する2次、4次、6次、…の係数である。対物レンズ10の回折構造を規定するために用いられる光路差関数係数P2、…は、表5に示される。なお、mは情報の記録または再生に利用する回折光の次数を表し、本実施例ではm=1としている。
なお、第二面10bの境界位置において、内側領域11bの傾きθ2Aが−3.94degree、外側領域12bの傾きθ2Bが−4.48である。よって、θ2B-θ2A=−0.52degreeとなり、条件式(1)を満足する。
また、実施例1の対物レンズ10を使用して第一の光ディスク20A、第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行った場合の波面収差図を、順に、図3と図4に示す。また、比較例1の対物レンズを使用して第一の光ディスク20A、第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行った場合の波面収差図を、順に、図5と図6に示す。なお、各図において、(A)が軸上での波面収差を、(B)が軸外(像高0.06mm)での波面収差を表す。比較例1の対物レンズとは、実施例1の対物レンズ10と同一の構成を取りつつも、第二面10bを連続面として形成したものをいう。
図7は実施例1の対物レンズ10を用いて第一の光ディスク20Aに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図8は実施例1の対物レンズ10を用いて第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図9は、比較例1の対物レンズを使用して第一の光ディスク20Aに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図10は、比較例1の対物レンズを使用して第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。各グラフ中、coma3は3次のコマ収差を、as3は3次の非点収差を、coma5は5次のコマ収差を、それぞれ表す。後述する実施例2に関するグラフ(図15〜図18)においても同様である。
図7と図9を比較しつつ第一の光ディスク20A使用時に該ディスクの記録面上で発生する波面収差の量を検証する。実施例1の対物レンズ10を使用した場合、3次のコマ収差は、比較例1の対物レンズ使用時とほぼ同程度に抑えられている。また、図8と図10を比較しつつ第二の光ディスク20B使用時に該ディスクの記録面上で発生する波面収差の量を検証する。実施例1の対物レンズ10を使用した場合、比較例1の対物レンズを使用した場合に比べて、3次のコマ収差が良好に抑えられている、つまり波面収差全体の発生量が低減している。結果として、実施例1の対物レンズ10を使用すると、第一の光ディスク20Aと第二の光ディスク20Bのどちらを使用した場合であっても、3次のコマ収差が良好に補正されることにより、各光ディスクの記録面上において、情報の記録または再生に好適なスポットを形成できる程度まで十分にコマ収差を抑えることが可能となる。
なお、各光ディスク20A、20Bに対する情報の記録または再生時に実施例1の対物レンズ10を使用すると、比較例1の対物レンズ使用時に比べて若干5次のコマ収差の量が大きくなっている。しかし5次のコマ収差に関するこの程度の増加量は実使用上特に問題とはならない。
実施例2の対物レンズ10の具体的な仕様は表6に示されている。また、実施例2の対物レンズ10を用いて各光ディスク20A、20Bに対して情報の記録または再生を行う場合における光情報記録または再生装置の具体的数値構成を表7、表8に示す。
表7、表8に示すように、対物レンズ10の第一面10aは、光軸AXからの高さhが1.58mmである位置を境にして、内側領域11aと外側領域12aに分けられている。同様に、第二面10bも、光軸AXからの高さhが1.15mmである位置を境にして、内側領域11bと外側領域12bに分けられている。
対物レンズ10の第一面10aおよび第二面10bは非球面である。従って、各非球面の形状は上記の数1によって表される。数1に用いられる円錐係数と非球面係数は、表9に示される。表7〜表9に示すように、実施例2の対物レンズ10における各面10aはそれぞれ内側領域と外側領域によって、面形状(曲率半径rや非球面係数など)が異なる。
なお、第一面10aの境界位置において、内側領域11aの傾きθ1Aが41.57、外側領域12aの傾きθ1Bが41.22である。また、第二面10bの境界位置において、内側領域11bの傾きθ2Aが−7.75degree、外側領域12bの傾きθ2Bが−7.77degreeである。よって、θ1B-θ1A=−0.35degree、θ2B-θ2A=−0.02degreeとなり、実施例2は条件式(1)および条件式(2)をともに満足する。
実施例2の対物レンズ10を使用して第一の光ディスク20A、第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行った場合の波面収差図を、順に、図11と図12に示す。また、比較例2の対物レンズを使用して第一の光ディスク20A、第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行った場合の波面収差図を、順に、図13と図14に示す。なお、各図において、(A)が軸上での波面収差を、(B)が軸外(像高0.06mm)での波面収差を表す。なお、比較例2の対物レンズとは、実施例2の対物レンズ10と同一の構成を取りつつも、第二面10bを連続面として形成したものをいう。
図15は実施例2の対物レンズ10を用いて第一の光ディスク20Aに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図16は実施例2の対物レンズ10を用いて第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図17は、比較例2の対物レンズを使用して第一の光ディスク20Aに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。図18は、比較例2の対物レンズを使用して第二の光ディスク20Bに対する情報の記録または再生を行ったときに発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
図15と図17を比較しつつ第一の光ディスク20A使用時に該ディスクの記録面上で発生する波面収差の量を検証する。実施例2の対物レンズ10を使用した場合、3次のコマ収差は、比較例2の対物レンズ使用時よりは若干収差量が増えているものの、実使用上は何ら問題がない程度に十分抑えられている。また、図16と図18を比較しつつ第二の光ディスク20B使用時に該ディスクの記録面上で発生する波面収差の量を検証する。実施例2の対物レンズ10を使用した場合、比較例2の対物レンズを使用した場合に比べて、3次のコマ収差が良好に抑えられている。結果として、実施例2の対物レンズ10を使用すると、第一の光ディスク20Aと第二の光ディスク20Bのどちらを使用した場合であっても、3次のコマ収差を良好に補正することが可能となる。
以上が本発明の実施形態である。なお、上記実施形態はあくまでも本発明に係る対物レンズの一例である。つまり本発明に係る対物レンズは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
上記実施形態では、対物レンズ10に入射させる第一のレーザ光や第二のレーザ光は、平行光束であると説明したが、略同一の結像倍率であれば、必ずしも平行光束でなくてもよい。
また本実施形態では、各面の内側領域11a、11bは、第二の光ディスクを使用したときに発生するコマ収差を優先的に補正するような面形状に形成されると説明した。ここで、各面の内側領域11a、11bは、少なくとも第二の光ディスクを使用したときに発生するコマ収差を低減するような面形状であれば、上記実施形態と略同様の効果を得ることができる。例えば、各面の内側領域11a、11bを、第一の光ディスク20Aの保護層厚と第二の光ディスク20Bの保護層厚との中間厚の位置においてコマ収差が良好に補正されるような面形状に形成することも可能である。
また、特に第二面において内側領域と外側領域の境界位置に段差が生じないよう、境界位置を平滑化した成形用金型で対物レンズを成形することにより、コート膜の剥離や成形時における転写不良で生じる段差のダレといった実際の製造時や使用時に想定される不具合が生じる可能性も有効に防ぐことができる。
本発明の実施形態の対物レンズおよび各光ディスクを、各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示している。
本発明の実施形態の対物レンズを拡大して表す図である。
実施例1の対物レンズの、第一の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
実施例1の対物レンズの、第二の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
比較例1の対物レンズの、第一の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
比較例1の対物レンズの、第二の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
実施例1の対物レンズの、第一の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
実施例1の対物レンズの、第二の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
比較例1の対物レンズの、第一の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
比較例1の対物レンズの、第二の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
実施例2の対物レンズの、第一の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
実施例2の対物レンズの、第二の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
比較例2の対物レンズの、第一の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
比較例2の対物レンズの、第二の光ディスク使用時における波面収差を表す収差図である。
実施例2の対物レンズの、第一の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
実施例2の対物レンズの、第二の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
比較例2の対物レンズの、第一の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
比較例2の対物レンズの、第二の光ディスク使用時に発生する波面収差と像高との関係を表すグラフである。
本発明に係る対物レンズの面の傾きに関する説明図である。
符号の説明
10 対物レンズ
20A 第一の光ディスク
20B 第二の光ディスク