JP2005060742A - 密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents

密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】良好な加工性と高強度を同時に達成でき、密着性の優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板並びにその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】所定成分の高強度鋼板の上に、Feを含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、このめっきのd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiが、Iη/ISi≦0.0006、IΓ/ISi≦0.0006であり、Iδ/ISiとIζ/ISiの1種または2種が0.0006以上であることを特徴とする密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に係わり、更に詳しくは優れた密着性を有し、種々の用途、例えば建材用や自動車用鋼板として適用できるめっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
耐食性の良好なめっき鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板がある。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、鋼板を脱脂後、無酸化炉にて予熱し、表面の清浄化および材質確保のために還元炉にて還元焼鈍を行い、溶融亜鉛浴に浸漬し、付着量制御した後合金化を行うことによって製造される。その特徴として、耐食性およびめっき密着性等に優れることから、自動車、建材用途等を中心として広く使用されている。
【0003】
特に近年、自動車分野においては衝突時に乗員を保護するような機能の確保と共に燃費向上を目的とした軽量化を両立させるために、めっき鋼板の高強度化が必要とされてきている。
【0004】
加工性を悪化させずに鋼板を高強度化するためには、SiやMn、Pといった元素を添加することが有効であるが、これらの元素の添加は合金化を遅延させるため、軟鋼に比べて高温長時間の合金化を必要とする。この高温長時間の合金化は、鋼板中に残存していたオーステナイトをパーライトに変態させ、加工性を低下させるため、結果として添加元素の効果を相殺することになる。
【0005】
こうした合金化溶融亜鉛めっき鋼板の加工性を向上させることを目的として本発明者らは、加工性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を先に提案した(特許文献1参照)。
【0006】
また、こうした鋼板の製造方法として、高強度と高延性を兼ね備え、めっき密着性と合金化処理性にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法(例えば、特許文献2参照)や、プレス成形性およびめっき密着性に優れる高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
が示されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2003−105516号公報
【特許文献2】
特開平11−131145号公報
【特許文献3】
特開2001−140022号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特許文献1に開示される技術では、密着性が十分確保されていない。また、特許文献2や特許文献3に示される製造方法では、製造条件の範囲が極めて広く記述されているが、めっきの合金化と鋼板の加工性向上を両立させる製造条件が記載されておらず、実際の生産における有用性に乏しい。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点を解決し、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板と、その製造方法を提案するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高強度鋼板のめっき処理について鋭意研究を重ねた結果、C、Si、Mnが一定量以上添加された鋼を、熱処理条件及びめっき条件を最適化した連続溶融亜鉛めっき設備でめっき処理することにより、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造できることを見いだして本発明をなした。
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0011】
(1) 質量%で、
C:0.05〜0.15%、
Si:0.3〜2.5%、
Mn:1.5〜2.8%、
P:0.03%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.005〜0.5%、
N:0.0060%以下を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに%C、%Si、%MnをそれぞれC、Si、Mn含有量とした時に(%Mn)/(%C)≧12かつ(%Si)/(%C)≧4が満たされる高強度鋼板の上に、Feを含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、このめっきのd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiが、Iη/ISi≦0.0006、IΓ/ISi≦0.0006であり、Iδ1/ISiとIζ/ISiの1種または2種が0.0006以上であることを特徴とする密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0012】
(2) 高強度鋼板とめっき層との界面から鋼板側にSiOの内部酸化物の平均含有率が0.8〜5.0質量%である鋼層を0.1μm以上、10μm以下形成することを特徴とする前記(1)に記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0013】
(3) 質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%の1種または2種を含有する高強度鋼板であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
(4) 引張強さF(MPa)と伸びL(%)の関係が
L≧51−0.035×F
を満足することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0015】
(5) 前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の化学成分からなる組成のスラブをAr点以上の温度で仕上圧延を行い、50〜85%の冷間圧延を施した後、連続溶融亜鉛めっき設備で750℃以上880℃以下のフェライト、オーステナイトの二相共存温度域で焼鈍し、その最高到達温度から650℃までを平均冷却速度0.5〜10℃/秒で、引き続いて650℃から500℃までを平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、さらに500℃から平均冷却速度0.5℃/秒以上で420℃〜460℃まで冷却し、且つ、500℃からめっき浴までを25秒以上240秒以下保持した後、溶融亜鉛めっき処理を行うことによって、前記冷延鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、次いで、前記溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対し合金化処理を施すことによって、前記鋼板の表面上に合金化溶融亜鉛めっき層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記溶融亜鉛めっき処理を、浴中有効Al濃度:0.07〜0.092mass% 、残部がZnおよび不可避的不純物からなる成分組成の溶融亜鉛めっき浴中で行い、そして、前記合金化処理を、
450≦T≦410×exp(2×〔Al%〕)
但し、〔Al%〕:亜鉛めっき浴中の浴中有効Al濃度(mass%)
を満足する温度T(℃)において行うことを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
(6) 前記(5)に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、浴中有効Al濃度を、
〔Al%〕≦0.092−0.001×〔Si%〕
但し、〔Si%〕:鋼板中のSi含有量(mass%)
を満足する浴中有効Al濃度(mass%)において行うことを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
(7) 前記(5)または(6)記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融めっき後400℃以下の温度に冷却されるまでの時間を30秒以上120秒以下とすることを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0018】
(8) 前記(5)及至(7)のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛めっき浴の温度を470℃未満とすることを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0019】
(9) 前記(5)及至(8)のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、焼鈍後400℃以上450℃以下まで冷却した後、430℃以上470℃以下まで再加熱を行い、溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(10) 前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の化学成分からなる組成の高強度鋼板に連続的に溶融亜鉛めっきを施す際、酸化帯において燃焼空気比0.9〜1.2の雰囲気中にて酸化せしめ、その後の還元帯において、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)が下式、
0.5〔Si%〕−3≦log(PHO/PH)≦−0.8
但し、〔Si%〕:鋼板中のSi含有量(mass%)
を満たす雰囲気で還元を行うことを特徴とする請求項5及至請求項9のいずれかに記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】
まず、C、Si、Mn、P、S、Al、Nの数値限定理由について述べる。Cはマルテンサイトや残留オーステナイトによる組織強化で鋼板を高強度化しようとする場合に必須の元素である。Cの含有量を0.05%以上とする理由は、Cが0.05%未満ではミストや噴流水を冷却媒体として焼鈍温度から急速冷却することが困難な溶融亜鉛めっきラインにおいてセメンタイトやパーライトが生成しやすく、必要とする引張強さの確保が困難であるためである。一方、Cの含有量を0.15%以下とする理由は、Cが0.15%を超えると、スポット溶接で健全な溶接部を形成することが困難となると同時にCの偏析が顕著となり加工性が劣化するためである。
【0023】
Siは鋼板の加工性、特に伸びを大きく損なうことなく強度を増す元素として0.3〜2.5%添加しかつC含有量の4倍以上の質量%とする。Siの含有量を0.3%以上とする理由は、Siが0.3%未満では必要とする引張強さの確保が困難であるためであり、Siの含有量を2.5%以下とする理由は、Siが2.5%を超えると強度を増す効果が飽和すると共に延性の低下が起こるためである。またC含有量の4倍以上の質量%とすることで、めっき直後に行う合金化処理のための再加熱でパーライトおよびベイナイト変態の進行を著しく遅滞させ、室温まで冷却後にも体積率で3〜20%のマルテンサイトおよび残留オーステナイトがフェライト中に混在する金属組織とすることができる。
【0024】
MnはCとともにオーステナイトの自由エネルギーを下げるため、めっき浴に鋼帯を浸漬するまでの間にオーステナイトを安定化する目的で1.5%以上添加する。またC含有量の12倍以上の質量%を添加することにより、めっき直後に行う合金化処理のための再加熱でパーライトおよびベイナイト変態の進行を著しく遅滞させ、室温まで冷却後にも体積率で3〜20%のマルテンサイトおよび残留オーステナイトがフェライト中に混在する金属組織とできる。しかし添加量が過大になるとスラブに割れが生じやすく、またスポット溶接性も劣化するため、2.8%を上限とする。
【0025】
Pは一般に不可避的不純物として鋼に含まれるが、その量が0.03%を超えるとスポット溶接性の劣化が著しいうえ、本発明におけるような引張強さが490MPaを超すような高強度鋼板では靭性とともに冷間圧延性も著しく劣化するため、その含有量は0.03%以下とする。Sも一般に不可避的不純物として鋼に含まれるが、その量が0.02%を超えると、圧延方向に伸張したMnSの存在が顕著となり、鋼板の曲げ性に悪影響をおよぼすため、その含有量は0.02%以下とする。
【0026】
Alは鋼の脱酸元素として、またAlNによる熱延素材の細粒化、および一連の熱処理工程における結晶粒の粗大化を抑制し材質を改善するために0.005%以上添加する必要がある。ただし、0.5%を超えるとコスト高となるばかりか、表面性状を劣化させるため、その含有量は0.5%以下とする。Nもまた一般に不可避的不純物として鋼に含まれるが、その量が0.06%を超えると、伸びとともに脆性も劣化するため、その含有量は0.006%以下とする。
【0027】
また、鋼板を高強度化するために、SiやMn、Pといった元素を添加するとめっき濡れ性が低下することがあるため、めっき濡れ性を向上させるためにNi、Cuを添加すると有効である。
【0028】
Niを添加することによってめっき濡れ性が向上する理由は明確ではないが、連続溶融亜鉛めっき設備で焼鈍を行う際、表面に濃化し、SiやMn、Pといっためっき濡れ性を低下させる元素の表面濃化を抑制する効果があると考えられる。この効果は0.01%以上添加すると明確になる。ただし、添加量が5.0%を超えると加工性の劣化を招くと共にコストアップの原因にもなるので、5.0%を上限とした。
【0029】
Cuはめっき濡れ性を向上させると共にめっき密着性を向上させる上で有効な元素である。Cuを添加することによってめっき濡れ性、密着性が向上する理由もまた明確ではないが、連続溶融亜鉛めっき設備で焼鈍を行う際、表面に濃化し、SiやMn、Pといっためっき濡れ性を低下させる元素の表面濃化を抑制するNiの効果を補助する効果があると考えられる。この効果は0.01%以上添加すると明確になる。ただし、添加量が5.0%を超えると加工性の劣化を招くと共にコストアップの原因にもなるので、5.0%を上限とした。
【0030】
NiとCuは同時に添加することで相乗効果を発揮し、より少量の添加でめっき濡れ性を向上させることができる。従って、同時に添加する場合、Ni添加量は0.01%以上1.0%未満、Cu添加量は0.01%以上0.5%未満が好ましい。
【0031】
また、これらを主成分とする鋼にNb、Ti、B、Mo、Cu、Sn、Zn、Zr、W、Co、Ca、希土類元素(Yを含む)、V、Ta、Hf、Pb、Mg、As、Sb、Biを合計で1%以下含有しても本発明の効果を損なわず、その量によっては耐食性や加工性が改善される等好ましい場合もある。
【0032】
次に、合金化溶融亜鉛めっき層について述べる。本発明において、合金化溶融亜鉛めっき層とは、合金化反応によってZnめっき中に鋼中のFeが拡散しできたFe−Zn合金を主体としためっき層のことである。このめっき層はFeの含有率の違いにより、η相、ζ相、δ相、Γ相と呼ばれる合金層が形成される。この内、η相はめっきが軟らかくプレス時に金型と凝着してフレーキングと呼ばれるめっき剥離を起こしやすい。また、Γ相は硬くて脆いため、加工時にパウダリングと呼ばれるめっき剥離を起こしやすい。従って、η相、Γ相を限りなく少なくし、めっき層をζ相とδ相のいずれか1種または2種以上とすることによりめっき密着性を向上させることができる。ここで、めっき層中にはΓ相と呼ばれる硬くて脆い相も存在することが知られているが、X線回折強度からはΓ相とΓ相を区別することができないため、Γ相とΓ相を合わせてΓ相として取り扱う。
【0033】
具体的には、η相、ζ相、δ相、Γ相を示すd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiを、Iη/ISi≦0.0006、IΓ/ISi≦0.0006とし、Iδ/ISiとIζ/ISiのいずれかの1種または2種が0.0006以上とする。
【0034】
Iη/ISiを0.0006以下に限定した理由は、Iη/ISiが0.0006以下ではη相は極微量であり、めっき密着性の低下が見られないためである。
【0035】
また、IΓ/ISiを0.0006以下に限定した理由は、IΓ/ISiが0.0006以下ではΓ相は極微量であり、めっき密着性の低下が見られないためである。
【0036】
Iδ/ISiとIζ/ISiのいずれかの1種または2種が0.0006以上に限定した理由は、Iδ/ISiとIζ/ISiのいずれかの1種または2種が0.0006以上では、めっき層がδ相とζ相のいずれかの1種または2種が主体となり、めっき密着性の低下が見られないためである。
【0037】
本発明鋼板は、溶融亜鉛めっき浴中あるいは亜鉛めっき中にPb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、Bi、希土類元素の1種または2種以上を含有、あるいは混入してあっても本発明の効果を損なわず、その量によっては耐食性や加工性が改善される等好ましい場合もある。合金化溶融亜鉛めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から20g/m以上、経済性の観点から150g/m以下で有ることが望ましい。
【0038】
本発明において加工性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とは、引張強さTSが490MPa以上で、引張強さF(MPa)と伸びL(%)の関係が、L≧51−0.035×F
を満足する性能を持つ鋼板である。
【0039】
伸びLを[51−0.035×F]%以上と限定した理由は、Lが[51−0.035×F]より低い場合、深絞り等の厳しい加工のときに破断する等加工性が不十分であるためである。
【0040】
本発明において、高強度鋼板とめっき層との界面から鋼板側にSiOの内部酸化物の平均含有率が0.8〜5.0質量%である鋼層を0.1μm以上、10μm以下形成するとさらに密着性が向上する。高強度鋼板とめっき層との界面から鋼板側にSiOの内部酸化物が存在すると密着性が向上する理由は、焼鈍過程で鋼板内にSiの内部酸化物が生成することによって、鋼板表面にSiの外部酸化膜が生成することを抑制するためであると考えられる。
【0041】
Siの内部酸化物は、粒状や線状になって鋼板中に存在し、顕微鏡観察において明瞭に区別できる。本発明において、SiOの内部酸化物を含有する鋼層とは、顕微鏡観察においてSiOの内部酸化物が観察される層である。また、SiOの内部酸化物の平均含有率とは、この鋼層中に含まれるSiOの含有率を示し、SiOの内部酸化物を含有する鋼層の厚みとは、鋼板表面からSiOの内部酸化物が観察される部分までの幅を示す。
【0042】
SiOの内部酸化物の含有率の測定は、SiOの質量%が測定できればどの様な方法でも構わないが、SiOの内部酸化物を含有する層を酸で溶解し、SiOを分離させた後、質量を測定する方法が確実である。また、SiOの内部酸化物を含有する鋼層の厚みの測定方法も特に規定しないが、断面から顕微鏡観察で測定する方法が確実である。
【0043】
本発明において、SiOの内部酸化物の平均含有率を0.8〜5.0質量%に限定した理由は、0.8質量%未満では外部酸化膜の抑制が不十分でめっき密着性を向上させる効果がみられないためであり、5.0質量%を超えるとめっき密着性を向上させる効果が飽和するためである。
【0044】
また、SiOの内部酸化物を含有する鋼層の厚みを0.1〜10μmに限定した理由は、0.1μm未満では外部酸化膜の抑制が不十分でめっき密着性を向上させる効果がみられないためであり、10μmを超えるとめっき密着性を向上させる効果が飽和するためである。
【0045】
次に、製造条件の限定理由について述べる。その目的はマルテンサイトおよび残留オーステナイトを3〜20%含む金属組織とし、高強度とプレス加工性が良いことが両立させることにある。マルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率が3%未満の場合には高強度とならない。一方、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率が20%を超えると、高強度ではあるものの鋼板の加工性が劣化し、本発明の目的が達成されない。
【0046】
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではなく、連続鋳造スラブや薄スラブキャスター等で製造したものであればよい。また鋳造後直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直送圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
【0047】
熱間圧延の仕上温度は鋼板のプレス成形性を確保するという観点からAr 点以上とする必要がある。熱延後の冷却条件や巻取温度は特に限定しないが、巻取温度はコイル両端部での材質ばらつきが大ききなることを避け、またスケール厚の増加による酸洗性の劣化を避けるためには750℃以下とし、また部分的にベイナイトやマルテンサイトが生成すると冷間圧延時に耳割れを生じやすく、極端な場合には板破断することもあるため550℃以上とすることが望ましい。冷間圧延は通常の条件でよく、フェライトが加工硬化しやすいようにマルテンサイトおよび残留オーステナイトを微細に分散させ、加工性の向上を最大限に得る目的からその圧延率は50%以上とする。一方、85%を超す圧延率で冷間圧延を行うことは多大の冷延負荷が必要となるため現実的ではない。
【0048】
ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備で焼鈍する際、その焼鈍温度は750℃以上880℃以下のフェライト、オーステナイト二相共存域とする。焼鈍温度が750℃未満では再結晶が不十分であり、鋼板に必要なプレス加工性を具備できない。880℃を超すような温度で焼鈍することは鋼帯表面にSiやMnの酸化物層の成長が著しく、めっき不良が起こりやすくなるため好ましくない。また引き続きめっき浴へ浸漬し、冷却する過程で、650℃までを緩冷却しても十分な体積率のフェライトが成長せず、650℃からめっき浴までの冷却途上でオーステナイトがマルテンサイトに変態し、その後合金化処理のための再加熱でマルテンサイトが焼き戻されてセメンタイトが析出するため高強度とプレス加工性の良いことの両立が困難となる。
【0049】
鋼帯は焼鈍後、引き続きめっき浴へ浸漬する過程で冷却されるが、この場合の冷却速度は、その最高到達温度から650℃までを平均0.5〜10℃/秒で、引き続いて650℃から500℃までを平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、さらに500℃から平均冷却速度0.5℃/秒以上で420℃〜460℃まで冷却し、且つ、500℃からめっき浴までを25秒以上240秒以下保持する。
【0050】
650℃までを平均0.5〜10℃/秒とするのは加工性を改善するためにフェライトの体積率を増すと同時に、オーステナイトのC濃度を増すことにより、その生成自由エネルギーを下げ、マルテンサイト変態の開始する温度をめっき浴温度以下とすることを目的とする。650℃までの平均冷却速度を0.5℃/秒未満とするためには連続溶融亜鉛めっき設備のライン長を長くする必要がありコスト高となるため、650℃までの平均冷却速度は0.5℃/秒以上とする。
【0051】
650℃までの平均冷却速度を0.5℃/秒未満とするためには、最高到達温度を下げ、オーステナイトの体積率が小さい温度で焼鈍することも考えられるが、その場合には実際の操業で許容すべき温度範囲に比べて適切な温度範囲が狭く、僅かでも焼鈍温度が低いとオーステナイトが形成されず目的を達しない。
【0052】
一方、650℃までの平均冷却速度を10℃/秒を超えるようにすると、フェライトの体積率の増加が十分でないばかりか、オーステナイト中C濃度の増加も少ないため、鋼帯がめっき浴に浸漬される前にその一部がマルテンサイト変態し、その後合金化処理のための加熱でマルテンサイトが焼き戻されてセメンタイトとして析出するため高強度と加工性の良いことの両立が困難となる。
【0053】
650℃から500℃までの平均冷却速度を3℃/秒以上とするのは、その冷却途上でオーステナイトがパーライトに変態するのを避けるためであり、その冷却速度が3℃/秒未満では本発明で規定する温度で焼鈍し、また650℃まで冷却したとしてもパーライトの生成を避けられない。平均冷却速度の上限は特に規定しないが、平均冷却速度20℃/秒を超えるように鋼帯を冷却することはドライな雰囲気では困難である。
【0054】
500℃からの平均冷却速度を0.5℃/秒以上とするのは、その冷却途上でオーステナイトがパーライトに変態するのを避けるためであり、その冷却速度が0.5℃/秒未満では本発明で規定する温度で焼鈍し、また500℃まで冷却したとしてもパーライトの生成を避けられない。平均冷却速度の上限は特に規定しないが、平均冷却速度20℃/秒を超えるように鋼帯を冷却することはドライな雰囲気では困難である。また、冷却終了温度を420〜460℃とするのは、オーステナイト中へのCの濃化が促進され加工性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっきが得られるためである。
【0055】
500℃からめっき浴までを25秒以上240秒以下保持する理由は、25秒未満ではオーステナイト中へのCの濃化が不十分となり、オーステナイト中のC濃度が、室温でのオーステナイトの残留を可能とする水準まで到達しないためであり、240秒を超えると、ベイナイト変態が進行し過ぎて、オーステナイト量が少なくなり、十分な量の残留オーステナイトを生成できないためである。
【0056】
さらにこの500℃からめっき浴まで保持する間、一度400〜450℃の温度まで冷却し、保持するとオーステナイト中へのCの濃化が促進され加工性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっきが得られる。ただし、430℃以下でめっき浴中へ板を浸漬させ続けるとめっき浴が冷却され凝固するため、430〜470℃の温度まで再加熱を行った後、溶融亜鉛めっき処理を行う必要がある。
【0057】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造において、用いる溶融亜鉛めっき浴はAl濃度が浴中有効Al濃度Cで0.07〜0.092mass%に調整する。ここでめっき浴中の有効Al濃度とは、浴中Al濃度から浴中Fe濃度を差し引いた値である。
【0058】
有効Al濃度を0.07〜0.092mass%に限定する理由は、有効Al濃度が0.07%よりも低い場合には、めっき初期の合金化バリアとなるFe−Al−Zn相の形成が不十分であってめっき処理時にめっき鋼板界面に脆いΓ相が厚くできるため、加工時のめっき皮膜密着力が劣る合金化溶融亜鉛めっき鋼板しか得られないためである。一方、有効Al濃度が0.092%よりも高い場合には、高温長時間の合金化が必要となり、鋼中に残存していたオーステナイトがパーライトに変態するため、高強度と加工性の良いことの両立が困難となる。
【0059】
更に、本発明において合金化処理時の合金化温度を
450≦T≦410×exp(2×〔Al%〕)
但し、〔Al%〕:亜鉛めっき浴中の浴中有効Al濃度(mass% )
を満足する温度T(℃)において行う。
【0060】
合金化温度Tを450℃以上、410×exp(2×〔Al%〕)℃以下に限定した理由は、合金化温度Tが450℃よりも低いと合金化が進行しないか、或いは合金化の進行が不十分で合金化未処理となりめっき表層が密着性の劣るη相に覆われるためである。また、Tが410×exp(2×〔Al%〕)℃よりも高いと、合金化が進み過ぎてめっき鋼板界面に脆いΓ相が厚くできるため、加工時のめっき密着力が低下するためである。
【0061】
本発明において合金化温度が高すぎると鋼中に残存していたオーステナイトがパーライトに変態し、目的の高強度と加工性を両立した鋼板を得ることができない。従って、Siの添加量が大きくなり難合金化するほど、加工性を向上させるためには、浴中有効Al濃度を低下させ合金化温度を下げることが有効となる。
【0062】
具体的には、
〔Al%〕≦0.092−0.001×〔Si%〕
但し、〔Si%〕:鋼板中のSi含有量(mass%)
を満足する浴中有効Al濃度(mass%)においてめっきを行う。
有効Al濃度を0.092−0.001×〔Si%〕%以下に限定する理由は、有効Al濃度が0.092−0.001×〔Si%〕%より高い場合には、高温長時間の合金化が必要となり、鋼中に残存していたオーステナイトがパーライトに変態し、加工性が劣化するためである。
【0063】
溶融めっき後400℃以下の温度に冷却されるまでの時間を30秒以上120秒以下に限定する理由は、30秒未満では合金化が不十分で合金化未処理となりめっき表層が密着性の劣るη相に覆われるためであり、120秒を越えると、ベイナイト変態が進行し過ぎて、オーステナイト量が少なくなり、十分な量の残留オーステナイトを生成できないためである。
【0064】
本発明において合金化炉加熱方式については特に限定するものではなく、本発明の温度が確保できれば、通常のガス炉による輻射加熱でも、高周波誘導加熱でもかまわない。また、合金化加熱後の最高到達板温度から冷却する方法も、問うものではなく、合金化後、エアーシール等により、熱を遮断すれば、開放放置でも十分であり、より急速に冷却するガスクーリング等でも問題ない。
【0065】
溶融亜鉛めっき浴の温度を470℃未満に限定する理由は、470℃以上ではめっき初期の合金化バリアとなるFe−Al−Zn相の形成が進み過ぎ合金化温度を上昇させるため、特にSi添加量の高い鋼種で加工性を低下させる原因となり易いためである。浴温の下限は特に限定しないが、亜鉛の融点が419.47℃であることから、物理的にそれ以上の浴温でしか溶融めっきできない。
本発明において、SiOの内部酸化物を含有する鋼層を積極的に生成させるため、連続式溶融めっきラインの焼鈍過程でSiを酸化させる方法が有効である。
【0066】
具体的には、連続式溶融めっきラインにおける酸化帯で鉄酸化膜を数千Å生成させる。鉄酸化膜中はSiが拡散し難いため、これによりSiの外部酸化が抑制され、鉄酸化膜の下にSiOの内部酸化物を含有する鋼層が生成される。但し、鉄酸化膜を形成せしめる時の酸化帯の燃焼空気比はSiの外部酸化を抑制するに十分な鉄酸化膜を生成するため0.9以上必要であり、0.9未満の場合は十分な鉄酸化膜を形成せしめることができない。又、燃焼空気比が1.2を超えると酸化帯内で形成される鉄酸化膜厚が厚すぎて、次の還元帯、めっき浴内で還元しきれなくなり、酸化膜層がめっき層の下に残るため、めっき密着性を低下させてしまう。よって、酸化帯の燃焼空気比は0.9〜1.2の範囲に調節する必要がある。
【0067】
次に、還元帯において、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)が下式
0.5CSi−3≦log(PHO/PH)≦−0.8
を満たす雰囲気で還元を行う。還元帯では、Hを1〜70質量%の範囲で含むNガスを用いる。また、水分圧と水素分圧(PHO/PH)は炉内に水蒸気を導入することにより操作する。log(PHO/PH)を−0.8以下とした理由は、log(PHO/PH)が−0.8を超えると酸化帯で生成した鉄の酸化膜を還元できないためである。また、log(PHO/PH)を0.5CSi−3以上とした理由は、log(PHO/PH)が0.5CSi−3未満ではSiの外部酸化が起こり鋼板表面にSiOの外部酸化膜を生成し、めっき密着性を低下させるためである。
【0068】
即ち、還元帯は鉄の酸化膜を還元し、SiOを内部酸化状態にする雰囲気にする必要がある。ここで、Siの内部酸化とは鋼板内に拡散した酸素が合金の表層付近でSiと反応して酸化物を析出する現象である。内部酸化現象は、酸素の内方への拡散速度がSiの外方への拡散速度よりはるかに早い場合、即ち雰囲気中の酸素ポテンシャルが比較的高いかもしくはSiの濃度が低い場合に起こる。
このときSiはほとんど動かずその場で酸化されるため、めっき密着性低下の原因である鋼板表面へのSi濃化を防ぐことができる。
【0069】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0070】
(実施例1)
表1に示す組成からなるスラブを1150℃に加熱し、仕上温度910〜930℃で4.5mmの熱間圧延鋼帯とし、580〜680℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して1.6mmの冷間圧延鋼帯とした後、ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備を用いて表2に示すような条件の熱処理とめっきを行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。連続溶融亜鉛めっき設備は、無酸化炉による加熱後、還元帯で還元・焼鈍を行う方式を使用した。酸化帯の燃焼空気比は0.95に調節し、還元帯は、Hを10質量%含むNガスに水蒸気を導入し水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)が−1〜−3となるように調節した。
【0071】
引張強さ(TS)、伸び(El)は、各鋼板からJIS5号試験片を切り出し、常温での引張試験を行うことにより求めた。引張強さは490MPa以上を合格とし、伸びは〔51−0.035×引張強さ〕%以上を合格とした。
【0072】
めっきの付着量は、被膜をインヒビター入りの塩酸で溶解し、質量法により測定した。
【0073】
X線回折は、η相、ζ相、δ相、Γ相を示すd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiを測定した。
【0074】
密着性は、ビード引き抜き試験を行い、パウダリング性を評価した。試験条件を以下に示す。
・サンプル引き抜き巾:30mm
・金型:片側が肩R1mmRの角ビード(凸部は4×4mm)凸型、反対側が肩R1mmRの凹型
・押しつけ荷重:1200kg
・引き抜き速度:200mm/min
・塗油:防錆油塗布
【0075】
パウダリング性の評価は、引き抜き試験を行ったサンプルに密着テープ(セロハンテープ)を貼って、はがし、密着テープに付着しためっきの剥離の程度を目視で観察した。めっき層がまったく剥離しないものを合格、めっきが相当程度剥離したものを不合格とした。
【0076】
評価結果は表2に示す通りである。番号1は鋼中のC含有量が本発明の範囲外であるため引張り強さが不足した。番号2は鋼中のSi含有量が本発明の範囲外であるため引張り強さ、伸び共に不合格であった。番号3は鋼中のP含有量が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号7、8、15は焼鈍時の最高到達温度が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号9は鋼中のMn含有量が本発明の範囲外であるため引張り強さ、伸び共に不合格であった。
【0077】
番号12、26、33は合金化温度が本発明の範囲外であるため伸びとパウダリング性が不合格であった。番号18、27は最高到達温度から650℃までの平均冷速が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号19は500℃からめっき浴までの保持時間が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号23は鋼中のMn含有量/C含有量が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号24は鋼中のSi含有量/C含有量が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号28は650℃から500℃までの平均冷速が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号29は鋼中のMn含有量が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。番号30は鋼中のC含有量が本発明の範囲外であるため伸びが不合格であった。これら以外の本発明品は、めっき密着性が優れており、高強度で加工性が良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板であった。
【0078】
(実施例2)
表1のRに示す組成からなるスラブを1150℃に加熱し、仕上温度910〜930℃で4.5mmの熱間圧延鋼帯とし、580〜680℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して1.6mmの冷間圧延鋼帯とした後、ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備を用いて表3に示すような条件の熱処理とめっきを行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。連続溶融亜鉛めっき設備は、無酸化炉による加熱後、還元帯で還元・焼鈍を行う方式を使用した。酸化帯の燃焼空気比は表3に示す値に調節し、還元帯は、Hを10質量%含むNガスに水蒸気を導入し水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)が表3に示す値となるように調節した。
【0079】
焼鈍は、820℃で行い、その最高到達温度から650℃までを平均冷却速度1℃/秒で、引き続いて650℃から500℃までを平均冷却速度4℃/秒で冷却し、さらに500℃から平均冷却速度1.7℃/秒以上で450℃まで冷却し、且つめっき浴まで450℃で保持し、500℃からめっき浴までを30秒確保した後、溶融亜鉛めっき処理を行った。
【0080】
引張強さ(TS)、伸び(El)は、各鋼板からJIS5号試験片を切り出し、常温での引張試験を行うことにより求めた。引張強さは490MPa以上を合格とし、伸びは〔51−0.035×引張強さ〕%以上を合格とした。
【0081】
めっきの付着量は、被膜をインヒビター入りの塩酸で溶解し、質量法により測定した。
【0082】
X線回折は、η相、ζ相、δ相、Γ相を示すd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiを測定した。
【0083】
密着性は、平板引き抜き試験を行い、フレーキング性を、ビード引き抜き試験を行い、パウダリング性を評価した。試験条件を以下に示す。
平板引き抜き試験
・サンプル引き抜き巾:30mm
・金型:平板
・押しつけ荷重:1200kg
・引き抜き速度:200mm/min
・塗油:防錆油塗布
ビード引き抜き試験
・サンプル引き抜き巾:30mm
・金型:片側が肩R1mmRの角ビード(凸部は4×4mm)凸型、反対側が肩R1mmRの凹型
・押しつけ荷重:1200kg
・引き抜き速度:200mm/min
・塗油:防錆油塗布
【0084】
フレーキング性の評価は、摩擦係数0.15以下で引き抜けたものを合格、引き抜き荷重がセレーションをおこし、摩擦係数の測定ができなかったものを不合格とした。
【0085】
パウダリング性の評価は、引き抜き試験を行ったサンプルに密着テープ(セロハンテープ)を貼って、はがし、密着テープに付着しためっきの剥離の程度を目視で観察した。めっき層がまったく剥離しないものを合格、めっきが相当程度剥離したものを不合格とした。
【0086】
めっき濡れ性は、通板したコイルの不めっき面積率を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
4:不めっき面積率1%未満
3:不めっき面積率1%以上5%未満
2:不めっき面積率5%以上10%未満
1:不めっき面積率10%以上
【0087】
評価結果は表3に示す通りである。番号4は有効Al量が本発明の範囲外であるため、適切な合金化温度で合金化ができず、密着性が不合格であった。番号5は有効Al量が本発明の範囲外であるため、めっき鋼板界面に脆いΓ相ができ、密着性が不合格であった。番号6は有効Al量が本発明の範囲外であるため、適切な合金化温度で合金化ができず、密着性が不合格であった。番号7は有効Al量が本発明の範囲外であるため、合金化温度が本発明の範囲外となり、伸びと密着性が不合格であった。番号8は酸化帯の空気比が本発明の範囲外であるため、SiOを含有する内部酸化層が形成されず、密着性、めっき濡れ性が不合格であった。番号13は酸化帯の空気比が本発明の範囲外であるため、鋼板表面の還元が十分行われず、密着性、めっき濡れ性が不合格であった。番号14はlog(PHO/PH)が本発明の範囲外であるため、鋼板表面の還元が十分行われず、密着性、めっき濡れ性が不合格であった。番号19はlog(PHO/PH)が本発明の範囲外であるため、SiOの外部酸化層が形成され、密着性、めっき濡れ性が不合格であった。
【0088】
これら以外の本発明品は、めっき密着性が優れており、高強度で加工性が良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板であった。
また、番号20〜23は鋼板中にNi、Cuが添加されていないため、番号9〜12に比べると不めっきが出やすい傾向が見られた。
【0089】
【表1】
Figure 2005060742
【0090】
【表2】
Figure 2005060742
【0091】
【表3】
Figure 2005060742
【0092】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は密着性、加工性に優れる高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供することを可能としたものであり、産業の発展に貢献するところが極めて大である。

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C:0.05〜0.15%、
    Si:0.3〜2.5%、
    Mn:1.5〜2.8%、
    P:0.03%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.005〜0.5%、
    N:0.0060%以下を含有し、
    残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに%C、%Si、%MnをそれぞれC、Si、Mn含有量とした時に(%Mn)/(%C)≧12かつ(%Si)/(%C)≧4が満たされる高強度鋼板の上に、Feを含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を有する鋼板において、このめっきのd=1.279、d=1.26、d=1.237、d=1.222のX線回折強度Iδ、Iζ、Iη、IΓとSi標準板のd=3.13のX線回折強度ISiとの比Iδ/ISi、Iζ/ISi、Iη/ISi、IΓ/ISiが、Iη/ISi≦0.0006、IΓ/ISi≦0.0006であり、Iδ/ISiとIζ/ISiの1種または2種が0.0006以上であることを特徴とする密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 高強度鋼板とめっき層との界面から鋼板側にSiOの内部酸化物の平均含有率が0.8〜5.0質量%である鋼層を0.1μm以上、10μm以下形成することを特徴とする請求項1に記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%の1種または2種を含有する高強度鋼板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 引張強さF(MPa)と伸びL(%)の関係が、
    L≧51−0.035×F
    を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化学成分からなる組成のスラブをAr点以上の温度で仕上圧延を行い、50〜85%の冷間圧延を施した後、連続溶融亜鉛めっき設備で750℃以上880℃以下のフェライト、オーステナイトの二相共存温度域で焼鈍し、その最高到達温度から650℃までを平均冷却速度0.5〜10℃/秒で、引き続いて650℃から500℃までを平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、さらに500℃から平均冷却速度0.5℃/秒以上で420℃〜460℃まで冷却し、且つ、500℃からめっき浴までを25秒以上240秒以下保持した後、溶融亜鉛めっき処理を行うことによって、前記冷延鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、次いで、前記溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対し合金化処理を施すことによって、前記鋼板の表面上に合金化溶融亜鉛めっき層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記溶融亜鉛めっき処理を、浴中有効Al濃度:0.07〜0.092mass% 、残部がZnおよび不可避的不純物からなる成分組成の溶融亜鉛めっき浴中で行い、そして、前記合金化処理を、
    450≦T≦410×exp(2×〔Al%〕)
    但し、〔Al%〕:亜鉛めっき浴中の浴中有効Al濃度(mass%)
    を満足する温度T(℃)において行うことを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  6. 請求項5に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、浴中有効Al濃度を、
    〔Al%〕≦0.092−0.001×〔Si%〕
    但し、〔Si%〕:鋼板中のSi含有量(mass%)
    を満足する浴中有効Al濃度(mass%)において行うことを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  7. 請求項5または請求項6に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融めっき後400℃以下の温度に冷却されるまでの時間を30秒以上120秒以下とすることを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  8. 請求項5及至請求項7のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛めっき浴の温度を470℃未満とすることを特徴とする、密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  9. 請求項5及至請求項8のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、焼鈍後400℃以上450℃以下まで冷却した後、430℃以上470℃以下まで再加熱を行い、溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  10. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化学成分からなる組成の高強度鋼板に連続的に溶融亜鉛めっきを施す際、酸化帯において燃焼空気比0.9〜1.2の雰囲気中にて酸化せしめ、その後の還元帯において、水分圧と水素分圧の対数log(PHO/PH)が下式、
    0.5〔Si%〕−3≦log(PHO/PH)≦−0.8
    但し、〔Si%〕:鋼板中のSi含有量(mass%)
    を満たす雰囲気で還元を行うことを特徴とする請求項5及至請求項9のいずれかに記載の密着性の優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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