さて、上述のような従来の空圧緩衝器は、作動媒体を気体としているので、軽量でありエアレーションも招来しないので非常に有用であるが、そのまま車両のサスペンション等として利用するには、以下の問題がある。
すなわち、空圧緩衝器は、作動媒体に気体を用いているが、気体は油と比較して圧縮性高く、また、流路を流れる流速に限界があるので流速が高くなる空圧緩衝器の高速作動域では気体はバネとして作用するようになり、空圧緩衝器が発生する減衰力も頭打ちとなる。
そして、気体が発生するバネとしての反力も、作用面積の変化を招いて指数的に上昇し、空圧緩衝器全体としてのバネ定数が懸架バネ定数をしのぐ場合もある。
このことは、緩衝器として蓄え得るエネルギーが増大することとなるので、利点として考えることもできるが、緩衝器の伸縮作動速度が大きい場合には、特に車両用のサスペンション全体として、懸架バネ定数およびバネ反力が上昇することとなり、サスペンション振幅の減少、すなわち、サスペンションとしての変位が少なくなるので、車両の乗り心地を悪化させる原因になりかねない。
そして、従来の空圧緩衝器では、この車両の乗り心地の悪化に対して配慮されていない。
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、特に車両のサスペンションとして使用可能であって、作動媒体である気体の発生するバネ力の上昇を抑制することを可能とする空圧緩衝器を提供することである。
本発明の第1の課題解決手段の空圧緩衝器は、隔壁部材で区画された第1室と第2室と、第1室と第2室とを連通する流路と、流路の途中に設けた減衰力発生要素とを備え、車両の車体と車軸との間に介装される空圧緩衝器において、第1室と第2室とを連通するバイパス路と、バイパス路の途中に当該バイパス路を開閉可能な常閉型のバルブとを設け、所定の作動速度以上で伸縮する際に、当該バルブがバイパス路を開放すること特徴とする。
さらに、本発明の第2の課題解決手段は、隔壁部材で区画された第1室と第2室と、第1室と第2室とを連通する流路と、流路の途中に設けた減衰力発生要素とを備え、車両の車体と車軸との間に介装される空圧緩衝器において、第1室と第2室とを連通するバイパス路と、バイパス路の途中に当該バイパス路を開閉可能な常閉型のバルブとを設け、車両におけるバネ下共振周波数以下の振動領域において所定の作動速度以上で伸縮する際に、当該バルブがバイパス路を開放すること特徴とする。
また、本発明の第3の課題解決手段は、第1または第2の課題解決手段において、上記バルブが圧力の負荷によりバイパス路を開放することを特徴とする。
そして、本発明の第4の課題解決手段は、第3の課題解決手段において、上記バルブが、バルブケースとスプールで構成され、当該バルブケース内に、バイパス路の全部もしくは一部をなす、中空部と中空部に連通する孔とを形成し、スプールは、有底筒状であって、その側部にスプール内外を連通するポートと、その外周部に開口側から設けた切欠とを備え、当該スプールを、その両端側から附勢して上記バルブケースの中空部内に摺動自在に挿入して、上記中空部内に上記スプールで2つの圧力室を隔成し、一方の圧力室をバルブケースに設けた第1の通路で第1室に連通するとともに、他方の圧力室をバルブケースに設けた第2の通路で第2室に連通し、所定の作動速度以上で伸縮する際に高圧となる圧力室内の圧力でスプールを中空部内で摺動させることによりバルブケースの孔とスプールのポートもしくはバルブケースの孔とスプールの切欠を対向させてバイパス路を開放することを特徴とする。
さらに、第5の課題解決手段は、第3の課題解決手段において、上記バルブが、バルブケースとスプールで構成され、当該バルブケース内に、バイパス路の全部もしくは一部をなす、中空部と中空部に連通する孔とを形成し、スプールは、有底筒状であって、その側部にスプール内外を連通するポートと、その外周部に開口側から設けた切欠とを備え、当該スプールを、その両端側から附勢して上記バルブケースの中空部内に摺動自在に挿入して、上記中空部内に上記スプールで2つの圧力室を隔成し、一方の圧力室をバルブケースに設けた第1の通路で第1室に連通するとともに、他方の圧力室をバルブケースに設けた第2の通路で第2室に連通し、車両におけるバネ下共振周波数以下の振動領域において所定の作動速度以上で伸縮する際に高圧となる圧力室内の圧力でスプールを中空部内で摺動させることによりバルブケースの孔とスプールのポートもしくはバルブケースの孔とスプールの切欠を対向させてバイパス路を開放することを特徴とする。
また、第6の課題解決手段は、第4または第5の課題解決手段において、上記第1の通路および第2の通路ががそれぞれの圧力室に負荷する空圧に応答遅れを生じさせる周波数特性を備えていることを特徴とする。
さらに、本発明の第7の課題解決手段は、第4から第6のいずれかの課題解決手段において、第1室と第2室がシリンダとシリンダ内に摺動自在に挿入したピストンにより隔成されるとともに、ピストンの一端側もしくは両端側にピストンロッドを設け、当該ピストンロッドをバルブケースとしたことを特徴とする。
各請求項の発明によれば、空圧緩衝器が所定の作動速度以上の速度領域で伸縮しても第1室内および第2室内の圧力上昇が抑制されるので、ガスの圧縮性に起因するバネ反力の上昇を効果的に抑制する事ができる。
したがって、この空圧緩衝器では、伸長時および収縮時のどちらでもガスの圧縮性に起因するバネ反力の上昇を抑制でき、このことは同時に懸架バネ定数の上昇を抑制することを意味するので、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができるのである。
また、上述のバイパス路を開放して、過剰なバネ反力を抑制することは、同時に、この空圧緩衝器にあっては、所定の作動速度以上の速度で伸長する場合、すなわち、車両における乗り心地を悪化するようなバネ反力をガスが発生してしまうような作動速度領域では、バイパス路が開放されるので、伸長する側の第2室内の圧力低下を抑制することとなり、この空圧緩衝器がその状態から収縮すると、第2室内の圧力上昇が早期に達成されるから、より大きな減衰力が早期に得られることとなり、逆に、空圧緩衝器が収縮する場合においても、同様の結果を得ることができる。この現象を換言すれば、減衰力の応答性を高めることができるということであり、サスペンションとしての機能を向上させることができる。
また、本発明の空圧緩衝器にあっては、その伸縮時の作動速度が所定の作動速度以下の場合ではバイパス路が遮断状態となるので、作動速度が低い場合であっても、充分な減衰力を発生できる。すなわち、本発明の空圧緩衝器を車両に適用した際には、車両のサスペンションの動作し始めの振動抑制も可能であるから、車両における姿勢変化を抑制しえることとなる。
さらに、請求項2の発明によれば、車両におけるバネ下共振周波数領域ではバイパス路は遮断されたままとなるので、流路の途中に設けた減衰力発生要素のみで減衰力を発生することとなるので、空圧緩衝器は高い減衰力を発生することが可能となる。したがって、減衰力発生要素を車両におけるバネ下共振周波数領域で充分な減衰力が得られるよう設定しておけば、振動周波数に逆比例して減衰力が低下する空圧緩衝器にあっても、車両におけるバネ下部材たるタイヤの振動を効率よく抑制することが可能となる。
さらに、請求項3の発明によれば、圧力によりバルブを作動させてバイパス路を開放するので、空圧緩衝器の大型化が避けられ、さらに、外部に電源や空圧源を設けなくて済み、車両のパワーソースを消費しなくてよいので経済的である。
また、請求項4の発明によれば、圧力室という簡単かつスペースを取らない構成でスプール弁を押圧するとしているので、空圧緩衝器の大型化が避けられ、さらに、外部に電源や空圧源を設けなくて済み、車両のパワーソースを消費しなくてよいので経済的である。
上記形状のスプール弁を使用しているので、各圧力室に導かれる空圧の大きさにより、すなわち、空圧緩衝器が伸縮する速度に応じてバイパス路の流路面積を変化可能であるので、空圧緩衝器が伸縮する速度が変化した場合に、この空圧緩衝器の発生する減衰力の減衰特性を急激に変化させることはない。すなわち、急激に減衰特性が変化することによる衝撃の発生を防止することができるので、この点でも車両における乗り心地が向上する。
さらに、請求項5の発明によれば、車両におけるバネ下共振周波数領域ではバイパス路は遮断されたままとなるので、流路の途中に設けた減衰力発生要素のみで減衰力を発生することとなるので、空圧緩衝器は高い減衰力を発生することが可能となる。したがって、減衰力発生要素を車両におけるバネ下共振周波数領域で充分な減衰力が得られるよう設定しておけば、振動周波数に逆比例して減衰力が低下する空圧緩衝器にあっても、車両におけるバネ下部材たるタイヤの振動を効率よく抑制することが可能となると同時に、圧力室という簡単かつスペースを取らない構成でスプール弁を押圧するとしているので、空圧緩衝器の大型化が避けられ、さらに、外部に電源や空圧源を設けなくて済み、車両のパワーソースを消費しなくてよいので経済的である。
さらに、上記形状のスプール弁を使用しているので、各圧力室に導かれる空圧の大きさにより、すなわち、空圧緩衝器が伸縮する速度に応じてバイパス路の流路面積を変化可能であるので、空圧緩衝器が伸縮する速度が変化した場合に、この空圧緩衝器の発生する減衰力の減衰特性を急激に変化させることはない。すなわち、急激に減衰特性が変化することによる衝撃の発生を防止することができるので、この点でも車両における乗り心地が向上する。
また、請求項6の発明によれば、第1の通路および第2の通路が周波数特性を有しているので、空圧緩衝器の伸縮時の振動が早くなる、すなわち、振動周波数が高くなる時に、各圧力室に負荷される空圧に応答遅れを発生させることができる。したがって、たとえば、この空圧緩衝器に単発的な衝撃、いわゆる、作動速度の大きい過渡的な収縮方向の振動が入力されると、各圧力室に導かれる空圧は第1または第2の通路の周波数特性により応答遅れが生じ、振動入力の初期にはスプール弁がバイパス路を開放せず、空圧緩衝器は大きなバネ反力を発生する。その後、僅かに遅れて圧力室内の圧力が高まりスプール弁を移動させバイパス路を開放するようになる。このことから、この空圧緩衝器にあっては、上記振動入力初期では空圧緩衝器は大きなバネ反力でしっかり車体を支え、僅かに遅れて車体をやわらかく支えることができ、衝撃エネルギーの蓄積量を増大させ乗り心地を向上することができるのである。
そして、請求項7の発明によれば、ピストンロッドにバルブが具現化されているので、ピストンロッドは比較的長い部材であり中空部を形成しやすいのでバルブを形成することが容易となるメリットがあるとともに、他の部材とも干渉が無い利点がある。
以下、本発明の空圧緩衝器を図1および図2に基づいて説明する。図1は、第1の実施の形態における空圧緩衝器を原理的に示す概略断面図である。図2は、第1の実施の形態における空圧緩衝器のピストン部の概略断面図である。
以下、詳細に説明すると、本実施の形態における空圧緩衝器は、図1に示すように、円筒状のシリンダ3と、第1室R1および第2室R2とに区画する隔壁部材たるピストン1と、シリンダ3内にピストン1を介して移動自在に挿入されたピストンロッド2と、上記第1室R1と第2室R2とを連通するバイパス路Bと、バイパス路Bの途中に設けたバルブVと、ピストン1に設けた流路L1,L2と、各流路L1,L2の途中にそれぞれ設けた減衰力発生要素11,12とで構成され、シリンダ3内にはガスが封入されている。なお、空圧緩衝器に封入されるガス圧についてであるが、具体的には、この空圧緩衝器が適用される車種に応じて、その車両に最適となる減衰力を発揮するように設定すればよい。
以下、各部材について詳細に説明すると、シリンダ3内には、摺動自在に隔壁部材たるピストン1が挿入され、ピストン1の図1中上端には、ピストンロッド2の先端が連結されている。そして、ピストン1には各流路L1,L2およびバイパス路Bが設けられ、流路L1,L2にはそれぞれ減衰力発生要素11,12が設けられるとともに、バイパス路Bの途中にはバルブVが設けられている。そして、シリンダ3の図1中上端は、ピストンロッド2を摺動自在に支持するロッドガイド6とシール部材Sで封止されるとともに、その下端はやはりボトム部材Cで封止されており、シリンダ3内は密封状態とされている。また、ロッドガイド6は、シリンダ3の端部に固着されるが、ストップリング7でシリンダ3から脱落することが防止されている。
そして、上記バルブVは、遮断ポジション17および2つの連通ポジション16,18に切り換え可能に設定されているとともに、附勢バネ19および附勢バネ20のバネ力でバイパス路Bを閉鎖する遮断ポジション17を採る常閉型に設定されている。さらに、ピストン1には、このバルブVを圧力の負荷により連通ポジション16および連通ポジション18に切り換えるために押圧手段が設けられており、本実施の形態では、この押圧手段を、第1室R1から空圧を導く通路22と、第2室R2から空圧を導く通路21とで構成し、当該通路22に導かれる空圧により附勢バネ19のバネ力に抗してバルブVを図1中下方に押圧することで、バルブVを連通ポジション18に切り換えてバイパス路Bを開放することができ、反対に通路21に導かれる空圧により附勢バネ20のバネ力に抗してバルブVを図1中上方に押圧することで、バルブVを連通ポジション16に切り換えてバイパス路Bを開放することができるようになっている。したがって、本実施の形態においては、上記空圧をパイロット信号として利用し、第1室R1から供給されるパイロット信号の入力時にバイパス路Bが開放されると共に、逆に第2室R2から供給されるパイロット信号の入力時にバイパス路Bが開放され、さらに、パイロット信号の解消時にバイパス路Bが遮断される。また、このバルブV1は、パイロット信号の強弱によりバイパス路Bの流路面積を変化させるように設定されてもよい。こうすることにより、バルブVで発生する圧力損失に変化を持たせて減衰力を変化させることができる。なお、バルブVは、空圧緩衝器の伸縮時の作動速度が所定の速度以上となったときには、連通ポジション16もしくは連通ポジション18を採りガスがバイパス路Bを開放することができるように設定されている。詳しくは、上記バルブVは上記の押圧手段により、空圧緩衝器の伸長時の作動速度が所定の値を超えると、通路22から供給される空圧でバルブVが図1中下方に押されてバイパス路Bを開放し、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の値を超えると、通路21から供給される空圧でバルブVが図1中上方に押されてバイパス路Bを連通し、伸縮時の作動速度が所定の値以下のときは遮断ポジション17を維持してバイパス路Bを遮断するようになっている。そして、この場合、附勢バネ19,20のバネ力によりバイパス
路Bを開放する時の作動速度が決定され、その開放する時の作動速度、すなわち、所定の作動速度の値は、ガスの圧縮性に起因して空圧緩衝器の高速作動域で発生するバネ反力を考慮して、この空圧緩衝器が搭載されるであろう車両における乗り心地を悪化させることがないように、その車両の車重等から適切な値が選択される。
ちなみに、このバルブVは、具体的な実施の形態にあっては、図2に示すように、ピストン1に配在されるのではなく、このピストン1に連設されるピストンロッド2に、特に、ピストン1を連設させるピストンロッド2における先端部あるいは先端近傍部に配在されてもよく、また、図示はしないが、シリンダ3の外方に設けられるとされてもよい。
この図2に示すように、バルブVは、スプール弁として形成されており、少々説明すると、ピストンロッド2には、その先端側から開口する中空部2aが穿設されており、この中空部2a内にスプール弁30が摺動自在に挿入されている。すなわち、中空部2aは第2室R2と連通している。そして、このスプール弁30は、有底筒状に形成されるとともに、その底部近傍の側部に形成した環状溝30bとスプール弁30の内周30aとを連通するポート30cが穿設され、また、スプール弁30の外周部であって開口側、すなわち、図2中下端側から設けられる切欠30dとから構成されている。さらに、このスプール弁30は、ピストンロッド2の中空部2aの図2中下方に設けた軸心部に孔50aを設けたストッパ部材50に担持された附勢バネ19とピストンロッド2の中空部2aの図2中上端に担持された附勢バネ20とにより両端側から付勢されてピストンロッド2の中空部2a内に挿入されている。そして、このスプール弁30は、ピストンロッド2の中空部2a内を圧力室P1と圧力室P2とに区画している。詳しくは、圧力室P1は、中空部2aの図2中上方とスプール弁30とで仕切られる空間で形成され、圧力室P2は中空部2aの図2中下方とスプール弁30とストッパ部材50とで仕切られる空間で形成されている。なお、各圧力室P1,P2は、必ずしも、仕切られた空間として形成される必要は無く、スプール弁30に圧力による推力を与えられるように形成されていれば良い。また、ピストンロッド2の側部には中空部2aに中空部2aに設けた環状溝2cを介して連通する孔2b,2bが穿設されており、この孔2b,2bは第1室R1に連通している。したがって、バイパス路Bは、この孔2bと中空部2aと環状溝2cとストッパ部材50の孔50aとで構成され、さらに、圧力室P2に空圧を導く第2の通路は中空部2aの図2中ストッパ部材50より下方の部分とストッパ部材50の孔50aとで構成されていることとなる。なお、この場合は、バイパス路Bの一部が第2の通路ということとなるが、圧力室P2に空圧を導く第2の通路を別途設けるとしてもよい。また、中空部2aの上端側には第1の通路たる貫通孔2dが設けられ、この貫通孔2dは第1室R1と中空部2a内の圧力室P1とを連通し、圧力室P1に空圧を導くことが可能となっている。
そして、スプール弁30のポート30cに接続された環状溝30bは、スプール弁30が各圧力室P1,P2内に所定の作動速度以上の空圧緩衝器の伸縮により生じる空圧が負荷されないと、ピストンロッド2の中空部2a内に各附勢バネ19,20でその両端側から附勢された状態で、ピストンロッド2の孔2b,2bに接続された環状溝2cに対向しえない位置に穿設されており、この場合には、スプール弁30の側壁面が上記孔2b,2bに接続された環状溝2cに対向するので、バルブVは遮断ポジション17を採ることとなり、これにより、上記の孔2bと環状溝2cと中空部2aとで構成されるバイパス路Bは遮断状態とされている。
さらに、中空部2aの図2中上方に位置する圧力室P1に貫通孔2dを介して第1室R1から空圧が供給されると、スプール弁30が附勢バネ19のバネ力に抗して図2中下方に押圧され、スプール弁30が図2中下方に移動し、ピストンロッド2の孔2b,2bに接続された環状溝2cにスプール弁30のポート30cに接続された環状溝30bが対向しえる位置に移動すると、バルブVは連通ポジション18を採ることとなりバイパス路Bが連通状態となり、他方、中空部2aの図2中下方に位置する圧力室P2に第2室R2から空圧が供給されると、スプール弁30が附勢バネ20のバネ力に抗して図2中上方に押圧され、スプール弁30が図2中上方に移動し、ピストンロッド2の孔2b,2bに接続された環状溝2cにスプール弁30の切欠30dが対向しえる位置に移動すると、バルブVは連通ポジション16を採ることとなりバイパス路Bが連通状態となる。また、連通状態下では、環状溝2cと環状溝30cの重なり度合い、および、環状溝2cと切欠30dの重なり度合いにより流路面積が変化するようになっており、ガスが環状溝2cと環状溝30cとを通過する、および、環状溝2cと切欠30dとを通過するときの圧力損失により減衰力を発生可能になっている。すなわち、圧力室P1および圧力室P2に導かれる空圧の大きさに応じて流路面積を変化することができる。したがって、バルブVを具体化した実施の形態においては、図1で説明した空圧を供給する通路22は、貫通孔2dおよび圧力室P1となり、通路21は、ストッパ部材50の孔50aおよび中空部2a内の圧力室P2ということとなる。
なお、孔2b,2bとポート30cとが対向することにより、および、孔2b,2bと切欠30dとが対向することによりバイパス路Bを連通させ、孔2b,2bとスプール弁30の側壁面が対向することによりバイパス路Bを遮断させることができるので、上記の各環状溝2c,30bを省略することもできるが、スプール弁30がピストンロッド2に対し、回動してしまうと、孔2b,2bにポート30cを対向させること、および、孔2b,2bに切欠30dを対向させることができなくなる可能性もあるので、上記の各環状溝2c,30bを設けるほうが好ましい。
すなわち、上述したところでは、ピストンロッド2にバルブVが具現化されているので、ピストンロッドは比較的長い部材であり中空部を形成しやすいのでバルブVを形成することが容易となるメリットがあるとともに、他の部材とも干渉が無い利点があるが、ピストンロッド2以外の部位に具現化する場合には、図2のピストンロッド2に形成されたバルブVの構成を有するバルブケース設けて、そのバルブケース内にスプール弁、各附勢バネを設けるとすればよい。なお、シリンダ3の外方にバルブケースを設けて、バルブVを形成する場合には、空圧緩衝器がバイパス路を開放するときの所定の作動速度を附勢バネを交換することにより調節することができることから、ピストンロッド内にバルブVを形成する場合に比較して、空圧緩衝器自体を分解することなく附勢バネを交換することができるようになるので、空圧緩衝器の減衰特性の調整が容易となる利点がある。
なお、この具体的なバルブVにあっては、附勢バネ19,20のバネ力およびスプール弁30の中立位置、すなわち、空圧が各圧力室P1,P2に供給されていない状態でのスプール弁30のピストンロッド2に対する位置における環状溝30c,切欠30dからピストンロッド2の環状溝2cまでの距離によりバイパス路Bを開放する時の作動速度、すなわち、所定の作動速度が決定される。その開放する時の作動速度、すなわち、所定の作動速度の値は、ガスの圧縮性に起因して空圧緩衝器の高速作動域で発生するバネ反力を考慮して、この空圧緩衝器が搭載されるであろう車両における乗り心地を悪化させることがないように、その車両の車重等から適切な値が選択されることは無論である。
また、図2中ピストン1には、それぞれ空圧緩衝器の圧縮行程時にガスが通過する流路L1と伸長行程時にガスが通過する流路L2が設けられ、この各流路L1,L2にはそれぞれ減衰力発生要素としてのリーフバルブ32,33が設けられている。具体的には、ピストンロッド2の図2中下端側に、図2中上から順にバルブストッパ28、リーフバルブ32、ピストン1、リーフバルブ33およびバルブストッパ29を挿入するとともに、ピストンナット60で上記各部材がピストンロッド2の下端部側に固定される。そして、流路L1の図2中上端は、リーフバルブ32の図2中下面に当接しているが、その図2中下端は、リーフバルブ33には当接せずに、リーフバルブ33との間に若干隙間を有している。他方、流路L2の図2中下端は、リーフバルブ33の図2中上面に当接しているが、その図2中上端は、リーフバルブ32には当接せずに、リーフバルブ33との間に若干隙間を有している。これにより、流路L1では、第2室R2から第1室R1へのガスの流れは許容されるが、その逆の流れは遮断され、他方、流路L2では、第1室R1から第2室R2へのガスの流れは許容されるが、その逆の流れは遮断される。したがって、この空圧緩衝器が収縮する場合には、ガスは流路L1を通過し、逆に伸長する場合には、ガスは流路L2を通過することとなる。このように、減衰力発生要素をリーフバルブとしてもよいし、他に公知の減衰力発生要素を適用してもよい。なお、上述したところでは、各流路を隔壁部材たるピストン1に、バイパス路Bを隔壁部材たるピストン1もしくはピストンロッド2の先端に設けるとしているが、シリンダ3の外方に各流路およびバイパス路Bを設けてもよいことは上述したとおりである。また、ピストン1の外周にはピストンリング70が嵌合されており、ピストン1はこのピストンリング70を介して摺動自在にシリンダ3内に挿入されている。
なお、上述したところでは、押圧手段を通路とし、あるいは、圧力室としているが、図示はしないが、たとえば、押圧手段を所定の作動速度になったときに励磁されるソレノイドとして、このソレノイドによりスプールを押圧してもよく、他に慣用される手段を用いてもよいが、通路もしくは圧力室という簡単かつスペースを取らない構成で押圧手段を形成しているので、空圧緩衝器の大型化が避けられ、さらに、外部に電源や空圧源を設けなくて済み、車両のパワーソースを消費しなくてよいので経済的である。
さて、上述のように構成された空圧緩衝器の作用について図1に基づいて説明する。ピストンロッド2がシリンダ3内から退出する、すなわち、空圧緩衝器が伸長する場合には、第1室R1が収縮するので第1室R1内の空圧が高まり、第1室R1内のガスはピストン1に設けた流路L2およびバイパス路Bを通過して第2室R2に流入しようとする。そして、流路L2に設けた減衰力発生要素12で減衰力が発生されるが、このとき、ピストン1のシリンダ3に対する移動速度が遅く、空圧緩衝器の作動速度が所定の作動速度より低い場合には、通路22を介して空圧がバルブVに負荷される。そして、バルブVは、それぞれ押圧されるが、空圧緩衝器が発生する減衰力、バネ反力、換言すれば通路22内に発生する内圧が低いので、遮断ポジション17をとることとなる。具体的には、図2中圧力室P1に貫通孔2dより空圧が導かれ、スプール弁30を図2中下方に移動させるが、スプール弁30は、附勢バネ19のバネ力で附勢されているので、スプール弁30の環状溝30bが環状溝2cに対向するまで移動できずに結果的にバイパス路Bは遮断されたままの状態となる。すると、空圧緩衝器の伸長時の作動速度が所定の値以下の場合には、減衰力発生要素12にて減衰力が発生されることとなる。
さらに、ピストン1のシリンダ3に対する移動速度が速くなり、空圧緩衝器の伸長時の作動速度が所定の値以上に高くなると、今度は、通路22を介してバルブVに負荷される空圧も高くなる。すると、バルブVは、空圧によって押圧され附勢バネ19のバネ力に抗して、連通ポジション18をとることとなる。具体的には、図2中圧力室P1に貫通孔2dより空圧が導かれ、附勢バネ19のバネ力に抗してスプール弁30を図2中下方に移動させ、スプール弁30の環状溝30bが環状溝2cに対向する。そして、このことによりバイパス路Bは開放される。したがって、空圧緩衝器の伸長時の作動速度が所定の値以上の場合には、減衰力発生要素12のみならずバルブVによっても減衰力が発生されるが、このとき、バイパス路Bも開放されるので、空圧緩衝器の伸長時の作動速度が所定の値以下のときの高ゲインの減衰力に比較して、作動速度が所定の値以上となったときの方が、ガスの流路面積はバイパス路Bが開放される分大きくなるので、その発生減衰力は、低ゲインとなる。ここで、ゲインとは、発生減衰力を振動数で除したものを指し、振動数に対する減衰力の変化割合を示す。
逆に、ピストンロッド2がシリンダ3内に侵入する、すなわち、空圧緩衝器が収縮する場合には、第2室R2が収縮するので第2室R2内の空圧が高まり、第2室R2内のガスはピストン1に設けた流路L1およびバイパス路Bを通過して第1室R1に流入しようとする。そして、流路L1に設けた減衰力発生要素11で減衰力が発生されるが、このとき、ピストン1のシリンダ3に対する移動速度が遅く、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の作動速度より低い場合には、通路21を介して空圧がバルブVに負荷される。そして、バルブVは、それぞれ押圧されるが、空圧緩衝器が発生する減衰力、バネ反力、換言すれば通路21内に発生する内圧が低いので、遮断ポジション17をとることとなる。具体的には、図2中圧力室P2に第2室R2から空圧が導かれ、スプール弁30を図2中上方に移動させるが、スプール弁30は、附勢バネ20のバネ力で附勢されているので、スプール弁30の切欠30dが環状溝2cに対向するまで移動できずに結果的にバイパス路Bは遮断されたままの状態となる。すると、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の値以下の場合には、減衰力発生要素11にて減衰力が発生されることとなる。
さらに、ピストン1のシリンダ3に対する移動速度が速くなり、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の値以上に高くなると、今度は、通路21を介してバルブVに負荷される空圧も高くなる。すると、バルブVは、空圧によって押圧され附勢バネ20のバネ力に抗して、連通ポジション16をとることとなる。具体的には、図2中圧力室P2に第2室R2より空圧が導かれ、附勢バネ20のバネ力に抗してスプール弁30を図2中上方に移動させ、スプール弁30の切欠30dが環状溝2cに対向する。そして、このことによりバイパス路Bは開放される。したがって、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の値以上の場合には、減衰力発生要素11のみならずバルブVによっても減衰力が発生されるが、このとき、バイパス路Bも開放されるので、空圧緩衝器の収縮時の作動速度が所定の値以下のときの高ゲインの減衰力に比較して、作動速度が所定の値以上となったときの方が、ガスの流路面積はバイパス路Bが開放される分大きくなるので、その発生減衰力は、低ゲインとなる。
なお、空圧緩衝器が伸縮する際にシリンダ3内で過不足となるピストンロッド2がシリンダ3内に対して侵入もしくは退出する体積分は、ガスには圧縮性があるので、その分ガスが圧縮もしくは膨張して補償されることとなるので、特に、補償室を形成する必要は無い。
上記したように、空圧緩衝器の伸縮時の作動速度が低い場合には、バイパス路Bは遮断され、空圧緩衝器の伸縮時の作動速度が所定の作動速度以上となる場合にはバイパス路Bは開放される。ここで、作動媒体のガスは気体であるので、油等の液体に比較して圧縮性が極めて高いので、空圧緩衝器の伸縮時の作動速度が大きくなればなるほどバネとしての反力も指数的に上昇するが、この空圧緩衝器にあっては、所定の作動速度以上の速度で伸長する場合、すなわち、車両における乗り心地を悪化するようなバネ反力をガスが発生してしまうような作動速度領域では、バイパス路Bが開放されるので、例えば、収縮する側の第1室R1内のガスは流路L2のみならずバイパス路Bをも通過して拡大する側の第2室R2内へ流入することとなり、車両における乗り心地を悪化するようなバネ反力をガスが発生してしまうような作動速度域での第1室R1内の圧力上昇を抑制する事ができる。逆に、空圧緩衝器が収縮してから伸長する場合においても、ガスの流れが上記とは反対となるが、同じように、第2室R2内の圧力上昇を抑制する。
すると、空圧緩衝器が所定の作動速度以上の速度領域で伸縮しても第1室R1内および第2室R2内の圧力上昇が抑制されるので、ガスの圧縮性に起因するバネ反力の上昇を効果的に抑制する事ができる。
したがって、この空圧緩衝器では、伸長時および収縮時のどちらでもガスの圧縮性に起因するバネ反力の上昇を抑制でき、このことは同時に懸架バネ定数の上昇を抑制することを意味するので、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができるのである。
また、上述のバイパス路を開放して、過剰なバネ反力を抑制することは、同時に、この空圧緩衝器にあっては、所定の作動速度以上の速度で伸長する場合、すなわち、車両における乗り心地を悪化するようなバネ反力をガスが発生してしまうような作動速度領域では、バイパス路Bが開放されるので、伸長する側の第2室R2内の圧力低下を抑制することとなり、この空圧緩衝器がその状態から収縮すると、第2室R2内の圧力上昇が早期に達成されるから、より大きな減衰力が早期に得られることとなり、逆に、空圧緩衝器が収縮してから伸長する場合においても、同様の結果を得ることができる。この現象を換言すれば、減衰力の応答性を高めることができるということであり、サスペンションとしての機能を向上させることができる。
また、本発明の空圧緩衝器にあっては、その伸縮時の作動速度が所定の作動速度以下の場合ではバイパス路が遮断状態となるので、作動速度が低い場合であっても、充分な減衰力を発生できる。すなわち、本発明の空圧緩衝器を車両に適用した際には、車両のサスペンションの動作し始めの振動抑制も可能であるから、車両における姿勢変化を抑制しえることとなる。
さらに、上記形状のスプール弁を使用しているので、通路に導かれる空圧の大きさにより、すなわち、ピストンのシリンダに対する速度たる空圧緩衝器が伸縮する速度に応じてバイパス路の流路面積を変化可能であるので、ピストンのシリンダに対する速度たる空圧緩衝器が伸縮する速度が変化した場合に、この空圧緩衝器の発生する減衰力の減衰特性を急激に変化させることはない。すなわち、急激に減衰特性が変化することによる衝撃の発生を防止することができるので、この点でも車両における乗り心地が向上する。
なお、上述したところでは、図2に示すピストンロッド2の第1の通路たる貫通孔2dおよびストッパ部材50の第2の通路の一部をなす孔50aを単にそれぞれ圧力室P1および圧力室P2内に空圧を導くための通路として説明したが、上記貫通孔2dおよび孔50aは、その口径、軸方向長さの影響により、いわゆる周波数特性を有している。したがって、基本的には、貫通孔2dおよび孔50aは、空圧緩衝器の伸縮時の振動が早くなる、すなわち、振動周波数が高くなる時に、各圧力室P1,P2に負荷される空圧に応答遅れを発生させることができる。したがって、たとえば、この空圧緩衝器に単発的な衝撃、いわゆる、作動速度の大きい過渡的な収縮方向の振動が入力されると、圧力室P1に導かれる空圧は貫通孔2dの周波数特性により応答遅れが生じ、振動入力の初期にはスプール弁30がバイパス路Bを開放せず、空圧緩衝器は大きなバネ反力を発生する。その後、僅かに遅れて圧力室P1内の圧力が高まりスプール弁30を図2中下方に移動させバイパス路Bを開放するようになる。このことから、この空圧緩衝器にあっては、上記振動入力初期では空圧緩衝器は大きなバネ反力でしっかり車体を支え、僅かに遅れて車体をやわらかく支えることができ、衝撃エネルギーの蓄積量を増大させ乗り心地を向上することができるのである。
また、貫通孔2dおよび孔50aの口径、軸方向長さの設定によりその周波数特性を調整して、各圧力室P1,P2に圧力が伝播し得なくなる空圧緩衝器の振動周波数を車両におけるバネ下共振周波数より僅かに低く設定しておけば、車両におけるバネ下共振周波数領域ではバイパス路Bは遮断されたままとなるので、流路L1,L2の途中に設けた減衰力発生要素11,12のみで減衰力を発生することとなるので、空圧緩衝器は高い減衰力を発生することが可能となる。ここで、減衰力発生要素11,12を車両におけるバネ下共振周波数領域で充分な減衰力が得られるよう設定しておけば、振動周波数に逆比例して減衰力が低下する空圧緩衝器にあっても、車両におけるバネ下部材たるタイヤの振動を効率よく抑制することが可能となる。なお、このことは図1中通路21,22の口径、長さの調整によっても実現できることは言うまでもない。ちなみに、貫通孔2dおよび孔50a、さらには通路21,22の周波数特性の調整には、途中にオリフィス等の絞りを形成することも含まれる。
また、本実施の形態においては、空圧緩衝器をいわゆる片ロッド型緩衝器として説明してきたが、いわゆる両ロッド型としてもよい。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。