従来から、自動車などの車体には、車体衝突時に乗員の膝(以下、脚部とも言う)を保護する、ニープロテクタなどとも称される、アルミニウム合金中空形材製などの乗員保護用部材が、前座席の前方に設けられている。
従来のこれら乗員保護用部材の例を図16、17に示す。例えば、図16の車体の断面図のように、乗員保護用部材106 は、乗員101 と車体105 との間にあって、乗員101 の膝102 の位置に対して向き合うように、前座席103 の前方に配置される。そして、これら乗員保護用部材106 は、ニーパネル107 の取り付け側 (乗員101 の膝102 の側) から、順次車体前方へ塑性変形していくように、例えば水平なパンタグラフ状 (菱形状) に一体的に構成された一定長さの隔壁 (以下、エネルギー吸収部とも言う) を有する。これら隔壁は、車体衝突時に乗員の膝がニーパネル107 に衝突した際に、隔壁の長手方向 (水平方向) に順次塑性変形して、膝への衝撃を吸収し、乗員の膝を保護する役割を果たす。この図16の従来例では、乗員保護用部材106 は、車体105 のフロントパネル104 などに接合されている (特許文献1参照)。
米国特許3,931,988 号明細書(1頁、図1)
図17に断面図で示す他の乗員保護用部材例では、乗員保護用部材106 は、乗員の膝102 の位置に対して、斜め上方から下方に向かって向き合うように、膝102 の前方に配置される。そして、乗員保護用部材106 の隔壁は、内側に空洞を有する閉断面とされ、上方へ湾曲する長状のフレーム109 と、内側に配置され、複数のトラス状の内枠111 をフレーム109 とで構成するリブ110 とで一体的に構成される。この隔壁の乗員保護機能は、ニーパネル107 の取り付け側から、順次車体前方へ塑性変形していくものであり、前記図16の隔壁と基本的に同じである。なお、この図17の例では、乗員保護用部材106 は、フレーム109 の端部で、車体の両側に設けられたピラーに両端が連結された、ポール状のインパネ補強部材108 などに、直接乃至ブラケットなどを介して、接合されている (特許文献2参照)。また、同様の構成の乗員保護用部材が他にも開示されている (特許文献3参照)。
特開平5-238338号公報(3頁、図3)
特開2003-127814 号公報(3頁、図1)
これら乗員保護用部材は、上記した従来技術の通り、共通して、その断面方向に塑性変形可能な複数の閉空間を有する隔壁から構成される。このような隔壁は、軽量化目的とその複雑な断面構造から、通常は、アルミニウム合金中空押出形材によって一体的に形成される。
これらの乗員保護用部材には、乗員の特に膝部を保護するために、膝部との小さい衝突初期荷重で、前記隔壁が塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する性能が求められる。隔壁が塑性変形する衝突初期荷重が大きければ、乗員の膝部に大きな衝突荷重がかかり、損傷を与えてしまう。
また、これら乗員保護用部材には、膝部に対する車体部材への最適位置での取り付けのためにも、そして、連続的な塑性変形による衝突エネルギー吸収量を確保するためにも、前記隔壁のある程度の長さ (ストローク) が必要である。このストロークが短ければ、衝突エネルギー吸収が吸収しきれずに、膝部への荷重が上昇してしまい、乗員の膝部を保護することができなくなる。
したがって、乗員保護用部材の隔壁には、前記塑性変形開始する初期荷重が小さいことと、そのストロークの範囲での塑性変形途中において、変形中に折れ曲がりや破損が無く、連続的に塑性変形して、一定の衝突エネルギー吸収量を確保し続けることが要求される。言い換えると、乗員保護用部材には、乗員の膝衝突の際に必要なエネルギー吸収量を確保することと、ダメージを与えない荷重しか乗員の膝に負荷しないこととの両立が求められる。
しかし、前記隔壁のストロークが長くなるほど、隔壁の長手方向 (車体前後方向) の圧壊強度が低下し、衝突エネルギーに対し、前記塑性変形することができずに、長手方向に折れ曲がりや破損が生じ易くなる。これを防ぐためには、隔壁の長手方向の圧壊強度を高める必要があるが、これでは逆に塑性変形しにくくなる。このため、膝部との小さい衝突荷重では塑性変形せず、乗員の膝部に大きな衝突荷重がかかり、乗員保護用部材としての機能を果たせない。
このように、従来のアルミニウム合金中空押出形材などから一体的に形成される隔壁では、乗員保護用部材としての要求性能を発揮できる隔壁の長さには限界がある。このため、この隔壁長さに対応する車体にしか適用できず、適用できる車種には大きな制約があったのが実情である。このため、乗員保護用部材には、乗員の膝衝突の際に必要なエネルギー吸収量を確保することと、ダメージを与えない荷重しか乗員の膝に負荷しないこととの両立が難しい。
したがって、本発明の目的は、乗員の膝衝突の際に必要なエネルギー吸収量を確保することと、ダメージを与えない荷重しか乗員の膝に負荷しないこととの両立が可能で、かつ、車体に応じて、その隔壁長さを自由に調節でき、衝突エネルギー吸収量を確保および自由に調節できるアルミニウム合金製の乗員保護用部材を提供しようとするものである。
この目的を達成するために、本発明乗員保護部材の要旨は、アルミニウム合金中空形材単体同士がその断面方向に複数個互いに連結されてエネルギー吸収部を構成した乗員保護部材であって、前記各々のアルミニウム合金中空形材の断面は略平行に設けられた二つのフランジとこれらのフランジ間をつなぐ二つのウエブとから構成され、これら各ウエブは各々外側方に向かって湾曲しており、前記フランジにおいてアルミニウム合金中空形材単体同士が互いに連結されていることである。
また、同じ目的を達成するために、本発明の乗員保護用部材用のアルミニウム合金中空形材の要旨は、中空形材の断面は略平行に設けられた二つのフランジとこれらのフランジ間をつなぐ二つのウエブとから構成され、これら各ウエブは各々外側方に向かって湾曲していることである。
更に好ましい態様としては、本発明乗員保護用部材としてのアルミニウム合金中空形材あるいは乗員保護用部材用アルミニウム合金中空形材の、前記フランジが両外側方に向かう張り出し部を各々有することである。また、アルミニウム合金中空形材の各ウエブの略中央部には外側方に向かって凸状に張り出した屈曲部が形成されていることである。なお、本発明で言う、中空形材の断面方向とは、中空形材の軸方向乃至長手方向に対する (直交する) 幅方向、言い換えると、この幅方向の断面方向という意味である。
本発明では、個々にエネルギー吸収性能を有するアルミニウム合金中空形材単体を、そのフランジにおいて、中空形材の断面方向に複数個互いに連結して、エネルギー吸収部を構成するために、エネルギー吸収部 (隔壁) の長さ (ストローク) を必要に応じて長くできる。しかも、連結する個々のアルミニウム合金中空形材同士が独立しているために、例え長いストロークであっても、隔壁の長手方向の圧壊強度の低下が無い。このため、前記従来の一体的なアルミニウム合金中空形材のように、衝突エネルギーに対し、長手方向に折れ曲がりや破損が生じることが無く、連続した、および一体的な隔壁の塑性変形を得ることができ、エネルギー吸収効果に優れる。言い換えると、乗員保護用部材において、乗員の膝衝突の際に必要なエネルギー吸収量を確保することと、ダメージを与えない荷重しか乗員の膝に負荷しないこととの両立が可能である。
従来、隔壁乃至エネルギー吸収部を単一のアルミニウム合金押出中空形材などによって一体的に構成していたのは、本発明のように、個々に分割したアルミニウム合金中空形材を連結して隔壁乃至エネルギー吸収部を構成する概念が無かったからであると推考される。また、本発明のように、隔壁をアルミニウム合金中空形材単体の連結体としても、接合強度などの問題から、乗員保護用部材としての機能を満足できる隔壁はできない、と認識されていたためであると推考される。
これに対し、本発明は、隔壁乃至エネルギー吸収部を個々に分割したアルミニウム合金中空形材の連結体としても、アルミニウム合金中空形材同士の一定の接合強度さえ満たせば、乗員保護用部材としての機能を満足できることを、新たに知見してなされたものである。
本発明では、更に、アルミニウム合金中空形材個々のエネルギー吸収性能を乗員保護用部材として保証するために、各々のアルミニウム合金中空形材の幅方向 (形材の軸方向乃至長手方向に対する幅方向、以下同じ) の断面 (断面形状) を略平行に設けられた二つのフランジと、これらのフランジ間をつなぐ二つのウエブとから構成し、これら各ウエブは各々外側方に向かって湾曲して構成している。
これによって、接合される個々のアルミニウム合金中空形材の、乗員の膝衝突を想定した際の荷重変位における、最大荷重を低くすることができる。したがって、乗員の膝衝突に見合った低い衝突荷重で、エネルギー吸収に必要な中空形材の断面方向の変形を生じることができる。
また、前記断面方向の変形による変位が進んでも、特にウエブの破断などが起こらず、荷重低下量が極めて少なく、継続的にエネルギー吸収が行われ、乗員の膝保護に必要なエネルギー吸収量を確保することができる。
更に、乗員保護用部材のこれらの作用は、全て、乗員保護用部材を支持する車体部材の圧壊強度や剛性よりも、遥かに低いレベルで行われる。このため、乗員保護用部材の作用中には、乗員保護用部材が取り付けられる車体部材自体には、何ら影響が無い。したがって、乗員の膝衝突後 (使用後) に修理する場合でも、前記車体部材などを取り代える必要は全く無く、乗員保護用部材のみの交換で済み、非常に経済的である。
本発明では、上記エネルギー吸収部の長さの調整と相まって、上記断面形状の調整、即ち、中空形材の幅方向などの大きさや壁厚、あるいは各ウエブの外側方への湾曲度や湾曲形状の選択によって、個々のアルミニウム合金中空形材のエネルギー吸収性能を、自由に制御、設計できる。そして、連結する個々の中空形材のエネルギー吸収性能を、自由に制御、設計できる。即ち、同じエネルギー吸収性能や、同じ形状の中空形材を幅方向に連結するだけではなく、違うエネルギー吸収性能(荷重−ストローク曲線)や、違う形状の中空形材を適宜幅方向に組み合わせて連結でき、乗員保護用部材としての前記要求性能を自由に制御、設計できる。
このため、本発明では、前記した従来のアルミニウム合金中空押出形材から一体的に形成される隔壁からなる乗員保護用部材のような、乗員保護用部材要求性能を発揮するための、その隔壁長さの限界や制約が無い。このため、適用できる車体や車種の制約が無い。
以下、本発明の乗員保護用部材の実施の形態について、図面を用いて以下に詳述する。乗員保護用部材の実施態様を図1 〜9 に示す。図1 〜9 は各々本発明に係る乗員保護用部材の正面図である。
以下に、先ず、乗員保護用部材のアルミニウム合金中空形材単体同士を連結する態様から説明する。図1 〜9 において、各々の乗員保護用部材1a〜1iは、共通して、アルミニウム合金中空形材2a〜2dあるいは2eを選択的に組み合わせることによって、選択された中空形材同士が、その幅方向 (断面方向) に、2 〜3 の複数個、互いに連結された、エネルギー吸収部 (隔壁) を構成している。
中空形材を連結する個数は、乗員保護用部材として、連続的な塑性変形による衝突エネルギー吸収量を確保するために、また、膝部に対する車体部材への最適位置での取り付けのために、必要な長さ (ストローク) によって選択される。一方、連結個数があまり多くなっても、互いに接合する工程が増すとともに、接合強度が低下する可能性がある。また、連結する個々の中空形材にもエネルギー吸収性能からある程度の大きさが必要であるので、車体の設置スペースの制約からしても、中空形材の連結個数をあまり多くする必要は無い。したがって、好ましい中空形材の連結個数は2 〜4 個程度である。
図1 において、乗員保護用部材1aは、同じアルミニウム合金中空形材2a同士2 個を組み合わせており、アルミニウム合金中空形材2a同士を互いのフランジ4a、3aおよび、これらフランジに設けられた張出フランジ8 、8 において接合し、幅方向に互いに連結している。これは、図2 以下も基本的に同様であって、図2 では、図 1のアルミニウム合金中空形材2aと、乗員の膝側に (図の右側に) 断面形状の異なる他のアルミニウム合金中空形材2bとの2 個を組み合わせており、アルミニウム合金中空形材2a、2b同士を互いのフランジ4a、3bおよび張出フランジ8 、8 において接合し、幅方向に互いに連結している。
図3 の乗員保護用部材1cは、同じ中空形材2a同士3 個を組み合わせ、中空形材2a同士を互いのフランジ4a、3aおよび張出フランジ8 、8 において接合し、幅方向に互いに連結している。図4 の乗員保護用部材1dは、同じ中空形材2a同士2 個と、乗員の膝側に断面形状の異なる中空形材2b1 個とを合計3 個組み合わせ、中空形材同士を互いのフランジおよび張出フランジにおいて接合し、幅方向に互いに連結している。
図5 の乗員保護用部材1eは、図3 と同じく、中空形材2a同士2 個と、乗員の膝側の (図の右側の) フランジ4aに張出フランジ8 を設けない中空形材2a1 個とを組み合わせ、互いのフランジおよび張出フランジにおいて接合し、連結している。図6 の乗員保護用部材1fは、図4 と同じく、中空形材2a同士2 個と、乗員の膝側に断面形状の異なる中空形材2b1 個とを合計3 個組み合わせているが、各中空形材同士を接合している各 (中間) フランジに張出フランジ8 を設けずに、互いのフランジのみにおいて連結している。
図7 の乗員保護用部材1gは、張出フランジ8 を全く設けていない中空形材2c同士2 個を組み合わせ、中空形材2c同士を互いのフランジ4a、3aのみにおいて接合して連結している以外は、図1 の乗員保護用部材1aと同じ構成である。図8 の乗員保護用部材1hは、図7 と同じ中空形材2cと、乗員の膝側に断面形状の異なる中空形材2dとを2 個組み合わせている以外は、図7 の乗員保護用部材1gと同じ構成である。図9 の乗員保護用部材1iは、連結した各中空形材2eの各ウエブ5c、6cにおける、屈曲部7a、7bの両側のウエブ壁を、図1 〜8 のような直線的なウエブ壁から、より内側に凹む曲線的なものとしている。それ以外は、前記図1 の乗員保護用部材1aなどと同じ構成である。
以上説明した、乗員保護用部材のアルミニウム合金中空形材同士を連結する本発明態様では、中空形材の連結する個数によって、前記したエネルギー吸収部の長さ (ストローク) を必要により長くも短くも調整できる。このため、条件の異なる多様な多くの車種に対応して、乗員保護用部材に適用できる。
これら中空形材同士を互いのフランジおよび/ または張出フランジにおいて連結するための接合手段は、接着剤、ボルトなどの機械的な接合、溶接、これらを組み合わせたもの等が適宜選択される。言い換えると、本発明では、ボルトなどの機械的な接合や溶接などの比較的煩雑な接合手段を用いて接合強度を高めずとも、接着剤による接合で、アルミニウム合金中空形材の連結体として、乗員保護用部材としての機能を満足できる接合強度を確保できる利点もある。
以下に、乗員保護用部材を構成するアルミニウム合金中空形材単体の個々の構成について説明する。先ず、個々のアルミニウム合金中空形材の断面は略平行に設けられた二つのフランジとこれらのフランジ間をつなぐ二つのウエブとからなる閉空間から構成される。
先ず、図1 、2 において、アルミニウム合金中空形材2aの断面は、基本的に、前面フランジ3aと後面フランジ4a、およびこれらのフランジ間をつなぐ上下 (向きによっては左右) のウエブ5a、6aとからなる閉空間で一体に構成される。なお、前面乃至後面とは、車体前後方向 (車体長手方向) に対する位置関係で表している。これは、図2 のアルミニウム合金中空形材2bも同様であって、前面フランジ3bと後面フランジ4b、およびこれらのフランジ間をつなぐ上下のウエブ5b、6bとから一体に構成される。
アルミニウム合金中空形材2aの縦方向 (向きによっては横方向) の直線状の前面フランジ (前面縦壁部)3a と、縦方向の直線状の後面フランジ (後面壁部)4a とは、車体前後方向に間隔を設けて平行に配列される。これらのフランジに、一定角度θ1 、θ2 、θ3 、θ4 で交差する形で、上下方向に間隔を設けて配置され、各々外側方 (上下方向) に向かって湾曲したウエブ5a、6aが交わり、フランジ3aとフランジ4aの間をつないでいる。そして、フランジ3aとフランジ4aとは、好ましい態様として、後述する上下方向に張り出した張出フランジ8 、8 を各々有する。
ここにおいて、前記各ウエブ5a、6aは各々外側方 (上下方向) に向かって円弧状に湾曲する。そして、好ましい態様として、各ウエブ5a、6aの略中央部には、各々外側方に向かって凸状に張り出した屈曲部7a、7bが形成されている。
これらの要件によって、図1 、2 のアルミニウム合金中空形材2a、2bは、略菱形形状を有している。なお、本発明では、各ウエブの円弧状の湾曲方向を、外側方としているが、これは向かい合うウエブ同士の、内側方向ではなく、外側方向に向かう意味である。
これらの断面構造は、図2 のアルミニウム合金中空形材2bも同様である。即ち、前面フランジ3bと後面フランジ4bとは、好ましい態様として、車体幅方向に張り出した張出フランジ8 、8 を各々有する。また、ウエブ5b、6bは各々外側方 (上下方向) に向かって円弧状に湾曲するとともに、好ましい態様として、各ウエブ5b、6bの略中央部には、各々外側方に向かって凸状に張り出した屈曲部7c、7dが形成されている。
前記ウエブの外側方への円弧状の湾曲 (膨らみ) と、ウエブ略中央部の前記屈曲部との相乗作用によって、図1 、2 のアルミニウム合金中空形材2a、2bは、乗員の膝衝突による荷重負荷の際に、この低い荷重で塑性変形を開始でき、そのストローク中で継続的かつ連続的に塑性変形して、エネルギーを吸収できる。
図1 、2 のアルミニウム合金中空形材2aの場合を例にとると、後述する図13、14に、中空形材2aの荷重変形状態の経時変化を示す通り、荷重方向を示す矢印F から乗員の膝衝突による荷重がかかった際、前記各ウエブ5a、6aは、前記屈曲部を中心として外方へ広がるように、また、両フランジ3a、4aと同士が接近するように、言わば電車のパンタグラフ状に、断面方向 (幅方向) に変形 (塑性変形) する。そして、前記ウエブ5a、6aの略中央部の屈曲部7a、7bは、このような作用を助長し、円弧状の湾曲との相乗作用を発揮する。
このウエブの円弧状の湾曲が無く、例えば、図15に示す比較中空形材10のように、ウエブ13、14が直線状であれば、中空形材10の変形開始には大きな荷重が必要となり、乗員の膝衝突による荷重負荷の際に、本発明の前記作用が生じず、大きな荷重負荷が乗員の膝に負荷され、乗員保護用のエネルギー吸収部材となり得ない。また、図15に点線で示すように、ウエブ13、14が逆に内側に凹む円弧状などの形状であれば、乗員の膝衝突による荷重負荷の際に、内側に凹む変形途中に、ウエブ13、14同士が接触して、逆に乗員の膝に負荷される荷重が上昇してしまい、同じく本発明の前記作用が生じず、同じく、乗員保護用のエネルギー吸収部材となり得ない。
後述する図11を用いて、図1 の中空形材2a単体と、これら中空形材2a同士2 個を幅方向に連結した乗員保護用部材1a、図15の比較中空形材10 (点線) の、各々の静的圧壊解析における荷重変位曲線の違いを説明する。
図11に示す通り、中空形材2a単体 (細線) 、および、これらを連結した乗員保護用部材1a (太線) は、荷重変位における最大荷重を低くすることができ、乗員の膝衝突に見合った小さな衝突荷重で、エネルギー吸収に必要な断面方向 (幅方向) の塑性変形を生じることができる。また、中空形材2aの塑性変形による変位が進んでも、荷重低下量が極めて少ない。
これに対し、比較中空形材10 (点線) のように、ウエブ13、14が直線状であれば、荷重変位における最大荷重が著しく高くなり、しかも、中空形材10の塑性変形による変位が進むと、荷重低下量が極めて大きくなっている。
ここで、図1 、2 のアルミニウム合金中空形材2aの場合を例にとると、ウエブ各ウエブ5a、6aなどの (他の発明例のウエブも同じく) 、前記円弧状の湾曲は、前記外方へ広がるような断面変形を保証するために、前面フランジ3a内面とウエブ5a、6a各外面との交差する角度θ1 、θ2 および後面フランジ内面4aとウエブ5a、6a各外面4aとの交差する角度θ3 、θ4 が50度以内、更には40度以内であることが好ましい。これらのウエブ角度θ1 、θ2 、θ3 、θ4 の50度以内、更には40度以内での調整によって、中空形材の荷重変位における最大荷重と荷重低下量とを制御可能である。一方、この交差する角度θ1 、θ2 、θ3 、θ4 が50度を越えた場合、乗員の膝衝突時の荷重負荷の状態 (後面フランジに対する偏った荷重負荷など) によっては、塑性変形の際に破断しやすくなる。この破断現象が生じた場合、荷重低下が起こり、乗員の膝保護に必要なエネルギー吸収量を確保することが困難となる。
本発明アルミニウム合金中空形材は、このようなフランジやウエブの構成を前提として、ウエブやフランジとを適宜設計変更することは許容される。例えば、フランジは、必ずしも直線状でなくとも、接合材面や乗員の膝保護に対応して、外側や内側に膨らむ円弧状などの曲線的であっても良い。また、ウエブも、中空形材単体のエネルギー吸収量の制御から、より低い荷重で塑性変形するように、図9 の乗員保護用部材1iの各ウエブ5c、6cにおける屈曲部7a、7bの両側のウエブ壁のように、より内側に凹む曲線的なものとしても良い。更に、ウエブやフランジ壁面もその表面も平坦でなくとも凹凸を設けても良い。
このフランジの好ましい態様として、図1 〜図4 に示したように、本発明乗員保護用部材を構成する各単一の中空形材2a、2bは、各前面フランジ3a、3bと各後面フランジ4a、4bとに、前記した両外側方に向かう (上下方向に張り出した) 張出フランジ8 を各々有する。この張出フランジ8 は、各フランジに対し、いずれか片方にあっても、あるいは両側方に全く無くても良い。また、図5 、6 に示したように、前面か後面かのフランジから、図7 、8 に示したように、前面と後面の両方のフランジから、張出フランジを無くしても良い。
この張出フランジ8 を各々有することで、各前面フランジ3a、3bと各後面フランジ4a、4bとは、充分な壁面積をもって、互いに接合および乗員の膝の衝突に応対することができる。即ち、張出フランジ8 によって、連結される中空形材同士の接合強度を高めることができる。また、乗員の膝の衝突によって、後面フランジ4a、4bに、図の右方向から衝撃が加わった場合でも、荷重変位における最大荷重は低いものの、前面フランジ3aの曲げ剛性が大きくなり、圧壊乃至損壊を防止できる点で好ましい。また、乗員の膝の衝突位置が異なったとしても、あるいは乗員の膝の衝突位置がフランジ中心点からずれたとしても、同様に、エネルギー吸収できる点で好ましい。
各前面フランジ3a、3bの部分で、車体部材と直接あるいはブラケットなどを介して、溶接あるいはボルトなどの機械的な接合が簡便にでき、接合性や接合作業性の点からも好ましい。後面フランジ4a、4bにも、乗員の膝との衝突用の柔軟なプレート (図14、15の107)を設けやすい。
中空形材の設計において、前面フランジと後面フランジ同士の間隔H と、両フランジの長さB との比H/B は、0.8 以下とすることが好ましい。H/B が0.8 を越えて大きくなりすぎると、単体中空形材のストロークが長くなり過ぎ、エネルギー吸収部の長手方向 (車体前後方向) の圧壊強度が低下し、衝突エネルギーに対し、前記塑性変形することができずに、長手方向に折れ曲がりや破損が生じ易くなる。このため、膝部との小さい衝突荷重では塑性変形できなくなったり、前記ストロークの間で衝突エネルギー吸収量を確保することができなくなる可能性がある。
中空形材の壁厚乃至肉厚は、軽量化のためのアルミニウム合金採用の利点を活かすためには、5mm 以下の比較的薄いことが好ましい。肉厚が5mm 以下の薄いものでも、乗員の膝衝突時の衝撃吸収効果を高めることが可能であり、車体の重量増加を最小限に抑える意味からも、壁厚乃至肉厚が5mm を越える必要は無い。また、この薄肉、軽量化のためには、使用するアルミニウム合金は高強度である方が好ましい。
これらの要求特性を満足するアルミニウム合金材としては、通常、この種構造部材用途に汎用される、AA乃至JIS 規格に規定された3000系、5000系、6000系、7000系等の汎用 (規格) アルミニウム合金材 (圧延板材、押出形材で、O 、T4、T6、T7等の要求性能に見合った調質乃至熱処理をされたもの) が好適かつ選択的に用いられる。その中でも、成形性が良く、耐力の比較的高い6000系、7000系等のアルミニウム合金材が好ましい。エネルギー吸収部材用のアルミニウム合金中空形材は、熱間押出や、圧延板を成形加工および溶接接合するなどの、常法にて製造された中空形材を使用できる。
以下に、図9 の正面図を用いて、前記図1 の本発明乗員保護用部材1aを、車体部材に取り付けた一実施態様を説明する。
図9 の乗員保護用部材1aは、乗員の膝102 の位置に対して、斜め上方から下方に向かって向き合うように、膝102 の前方に配置される。なお、この配置位置は車種や車体設計に応じて種々選択乃至決定され、例えば、前記図15のように、乗員の膝102 の位置に対して、水平方向に向き合うように、膝102 の前方に配置されても良い。
そして、乗員保護用部材1aは、図示しない車体部材の両側に設けられたピラーに両端が連結された、ポール状のインパネ補強部材108 などに、直接乃至ブラケット9 などを介して、接合される。ブラケット9 には、インパネ補強部材108 との接合用の腕9aと、乗員保護用部材1aの前面フランジ3aとの接合用のフランジ9bとを有する。
一方、乗員の膝102 側の端部後面フランジ4aには、乗員の膝102 の保護と、前記した乗員の膝の衝突位置が異なる際に対応できるように、軟質性などの材料から選択的に構成されるとともに、乗員の膝102 面に対応して延在するニーパネル107 などが選択的に設けられる。これらの各部材の接合は、接着剤、ボツトなどの機械的な接合、溶接、これらを組み合わせたもの等が適宜選択される。
なお、以上の実施態様あるいは使用態様は、連結されてエネルギー吸収部を構成するアルミニウム合金中空形材単体が、全て断面は略平行に設けられた二つのフランジとこれらのフランジ間をつなぐ二つの湾曲ウエブとからなる閉空間から構成される場合のみについて説明した。しかし、この連結されたエネルギー吸収部の機能を阻害しない範囲で、他の断面形状の別のアルミニウム合金中空形材やアルミニウム合金形材、あるいはアルミニウム合金板を、連結される本発明中空形材の間やエネルギー吸収部端部に設ける態様を許容する。
以下に、本発明の実施例について説明する。本発明乗員保護用部材と、これら乗員保護用部材を構成する中空形材各単体などの、乗員の膝衝突を想定した荷重時の、変形の経時変化と荷重−変位関係を各々静的圧壊解析モデルを用いたFEM 解析にて求めた。解析モデルは汎用の動的陽解法ソフトLS-DYNA3D を用いた。これらの結果を図11〜14に示す。
図11は、前記図1 の本発明乗員保護用部材1a、この乗員保護用部材を構成する中空形材2a単体、図15の両ウエブを直線状とした比較中空形材10単体の、上記解析で得られる荷重変位曲線を各々示す。
図12は、前記図2 の本発明乗員保護用部材1b、この乗員保護用部材を構成する中空形材2b単体、前記中空形材2a単体の、上記解析で得られる荷重変位曲線を各々示す。
図13(a) 、(b) 、(c) は、図11における本発明乗員保護用部材1aの荷重変位曲線における、変位20mm、40mm、60mm毎の荷重変形状態の経時変化を各々示す。
図14(a) 、(b) 、(c) は、図12における本発明乗員保護用部材1bの荷重変位曲線における、変位20mm、30mm、40mm毎の荷重変形状態の経時変化を示す。
解析条件は以下の共通した条件とした。即ち、荷重の負荷は、各中空形材なり乗員保護用部材の正面から、前面フランジの中心にかける条件とした。なお、乗員の膝衝突による荷重方向を、前記図9 の使用態様のように後面フランジ側からの荷重としても、同じ結果となる。各中空形材は、共通して、6000系の6063アルミニウム合金押出中空形材として、肉厚を4.0mm 、T5調質材として0.2%耐力を145MPaとした。
各中空形材の外寸形状は、中空形材2aは、前面フランジと後面フランジの長さB:80mm、フランジ同士の間隔H:50mm(H/B=0.625)、ウエブ4 同士の間隔20mm、ウエブの上下への張出量30mm、ウエブ角度θ1 、θ2 、θ3 、θ4 はいずれも45度とした。
中空形材2bは、前面フランジと後面フランジの長さB:80mm、フランジ同士の間隔H:40mm(H/B=0.5)、ウエブ4 同士の間隔20mm、ウエブの上下への張出量30mm、ウエブ角度θ1 、θ2 、θ3 、θ4 はいずれも45度とした。
一方、比較例形状は、ウエブが直線状以外は中空形材2aと同じ条件とした。
図11、12に示す通り、中空形材2a単体 (細線) 、中空形材2b単体 (一点鎖線) およびこれらを連結した乗員保護用部材1a、1b (共に太線) は、荷重変位(2次元衝突解析においては加速度変位) における最大荷重(2次元衝突解析においては最大加速度) を低くすることができ、乗員の膝衝突に見合った小さな衝突荷重で、エネルギー吸収に必要な断面方向 (幅方向) の塑性変形を生じることができる。また、中空形材2a、2bの塑性変形による変位が進んでも、特にウエブの破断などが起こらず、荷重低下量が極めて少なく、乗員保護用部材1a、1bのストロークに渡って、継続的にエネルギー吸収が行われ、乗員の膝衝突に必要なエネルギー吸収量を確保できることが分かる。
これに対し、図15に示す比較中空形材10 (点線) は、荷重変位における最大荷重が著しく高くなり、しかも、中空形材10の塑性変形による変位が進むと、ウエブの破断などが起こり、荷重低下量が極めて大きくなっている。したがって、乗員の膝衝突に必要なエネルギー吸収量の確保と、膝へのダメージを与えない荷重以下の荷重しか乗員の膝に与えないことの両立ができない。
したがって、これら図11、12における中空形材2a、2b各単体と、これら中空形材2a同士、2b同士を幅方向に連結した乗員保護用部材1a、1bの荷重変位曲線は、乗員保護用部材のために好ましい特性である、乗員の膝衝突を想定した際の最大荷重乃至最大加速度が低く、しかも乗員保護用部材の長いストロークに渡って、荷重低下量が少ない状態を示している。
図13(a) 、(b) 、(c) の本発明乗員保護用部材1aの荷重変形状態の経時変化から分かる通り、乗員保護用部材1aにおける、同じアルミニウム合金中空形材2a同士は、衝突による荷重がかかった際、ウエブ5a、6aの円弧状の湾曲の作用によって、各ウエブ5a、6aは、屈曲部7a、7bを中心として、両外方へ広がるように、また、前面フランジ3aと後面フランジ4aとが互いに接近するように塑性変形する。また、断面方向の変形による変位が進んでも、ウエブの破断などが起こらず、断面方向に変形する。この効果は、特に、屈曲部7a、7bを有する場合により発揮される。このような塑性変形は、図14(a) 、(b) 、(c) の本発明乗員保護用部材1bでも同様である。
ただ、同じ断面形状のアルミニウム合金中空形材2a同士の組み合わせである本発明乗員保護用部材1aでは、図13(a) 、(b) 、(c) の通り、衝突による荷重がかかった際、中空形材2a同士は均等に塑性変形していくことが分かる。
これに対し、異なる断面形状のアルミニウム合金中空形材2a、2b同士の組み合わせである本発明乗員保護用部材1bでは、図14(a) 、(b) 、(c) の通り、衝突による荷重がかかった際、中空形材同士は均等に塑性変形しない。即ち、H/B が大きく圧壊強度のより低い中空形材2aから先に変形し、次いで、H/B が小さく圧壊強度のより高い中空形材2bが変形していくことが分かる。
このように、本発明では、上記中空形材 (エネルギー吸収部) の長さの調整と相まって、組み合わせる上記中空形材断面形状の調整や選択によって、乗員保護用部材のエネルギー吸収性能を、自由に制御、設計できる。