以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
車両衝撃吸収部材の基本構造:
図1〜図6、図9に本発明の車両衝撃吸収部材の実施形態を各々示す。また図7、8に比較例の車両衝撃吸収部材の実施形態を示す。
これらの図は、車両衝撃吸収部材が車両前方(フロント)側のバンパーR/Fとして取り付けられて使用される態様を示している。また、図中の矢印Fが図の左側の車両前方(フロント)側からの衝突の荷重方向を示している。したがって、図の右側が車両前方(フロント)側、左側が車両後方(リア)側を共通して示している。但し、本発明は車両後方(リア)側でも使用されて良く、その場合は、前後のフランジ2、3を、車両後方に向かっての前後側と読みかえる。
先ず、図1の例を用いて説明するが、本発明のアルミニウム合金製の車両衝撃吸収部材1は、自動車やトラックなどのバンパーR/Fやアンダーランプロテクタなどの車両衝撃吸収部材を意図した、矩形中空断面構造(矩形断面中空構造)を有する。図1〜5はアルミニウム合金押出形材からなる車両衝撃吸収部材を示しており、この押出形材を用いる場合、車両衝撃吸収部材の矩形中空断面形状は、口型断面のほか、これに補強用の中リブを設けた、日型断面、目型断面、田型断面などが自由に選択あるいは適用できる。
図1において、この矩形中空断面構造は、車両の前後方向に互いに間隔をあけて立設する2枚の平板状の壁である車両前面(前方)側の前フランジ2と、車両後面(後方)側の後フランジ3とを有する。これらフランジ2、3同士は、車両の上下方向に互いに間隔をあけて車両の前後方向に延在する2枚の平板状の壁である、図の上側の上ウエブ4と、図の下側の下ウエブ5とで互いに車両の上下方向の各端部同士がつながっている(接続されている)。
そして、これらの壁で、車両の上下方向に延びる垂直な曲げ中立軸C0を中央部に有する、矩形中空断面構造を構成する。そして、断面の中央部には補強用の中リブ6をフランジ2、3の間で水平に設けた日型断面形状を有する。
ここで、フランジ2、3の長さが各々100〜200mmの範囲であるとともに、ウエブ4、5の長さが各々50〜100mmの範囲とする。車両衝撃吸収部材はこの範囲内で設計、使用される。このため、これらの寸法未満や、これらの寸法を超えても意味がなく、また、これらの寸法を逸脱した範囲で本発明が有効かどうかも不明である。
なお、フランジ2、3同士の長さ、ウエブ4、5同士の長さは必ずしも同じとする必要はなく、車両(車体)の設計や車両衝撃吸収部材の取り付け空間(スペース)に応じて、互いに変えても良い。同様に、矩形中空断面構造も、完全な矩形(四角形、長方形)でなくとも良く、フランジ2、3やウエブ4、5も平坦な直線状あるいは互いに平行でなくても、互いに傾斜や湾曲あるいは凹凸を設けてもよい。更に、前記各壁の交点となる隅角部(コーナー部)7、8、9、10の外側や内側は図示する直角となる交点にならずとも、Rを設けた円弧(曲線)状として良い。
矩形中空断面の等分化によるフランジ部分厚肉化の目安:
以上の使用態様や矩形中空断面を前提として、図1におけるアルミニウム合金製衝撃吸収部材1における部分的な厚肉部位を明確に規定するために、先ず、その矩形中空断面を車両の前後方向と高さ方向とで各々等分に区切って4等分に分割したとする。より具体的には、その矩形中空断面を、車両の前後方向(図の左右方向)の最大長さ(幅)と、高さ方向(図の上下方向)の最大長さとを、各々等分(2等分)して区切った4等分に分割(4分割)する。
これによって、Fの衝突荷重方向に対する前(前側)フランジ2が、下半分側2aと、上半分側2bとに二等分される。同様に、Fの衝突荷重方向に対する後(後側)フランジ3が、上半分側3bと、下半分側3aとに二等分される。また、下(下側)ウエブ5が、前半分側5aと、後ろ半分側5bとに二等分される。更に、上(上側)ウエブ4が、前半分側4aと、後半分側4bとに二等分される。
ちなみに、図1では、矩形中空断面を高さ方向で等分した点線(横線)が、補強用の中リブ6の中央部に沿って走っているが、これは中リブ6がたまたま矩形中空断面の中央部にあるからである。これに対して、中リブ6が矩形中空断面の中央部に無い場合は、当然ながら、このように等分した点線は中リブ6の中央部から上下にずれることとなる。
図1において、4等分された矩形中空断面の面積のうち、前フランジ2の下半分側2aと、下ウエブ5の前半分側5aとの合計面積をS1とする。後フランジ3の上半分側3bと上ウエブ4の後半分側4bとの合計面積をS4とする。前フランジ2の上半分側2bと上ウエブ4の前半分側4aとの合計面積をS2とする。後フランジ3の下半分側3aと下ウエブ5の後ろ半分側5bとの合計面積をS3とする。これは後の図2〜7でも共通する。 但し、これらの面積に、補強用の中リブの面積は含まず、全て中リブが無い口形断面として扱って上記各面積を算定する。これは図1、3、6の日型断面での横1本の中リブ6でも、目型断面の上下2本の中リブ、田型断面の縦横2本の中リブでも同じとする。
この前提にもとづき、本発明では、これらの4等分された矩形中空断面の面積のうち、車両の前側に位置する前フランジの下半分側(2a)と下ウエブの前半分側(5a)との合計面積(S1)と、車両の後ろ側に位置する後フランジの上半分側(3b)と上ウエブの後半分側(4b)との合計面積(S4)との面積の和(S1+S4)か、あるいは前フランジの上半分側(2b)と上ウエブの前半分側(4a)との合計面積(S2)と、後フランジの下半分側(3a)と下ウエブの後ろ半分側(5b)との合計面積(S3)との面積の和(S2+S3)かの、どちらかの面積の和(S1+S4)か(S2+S3)かが、他方の面積の和よりも、1.5倍〜3.5倍の範囲で大きくなるようにする。
そして、このために、前フランジの下半分側(2a)と後フランジの上半分側(3b)との肉厚か、 前フランジの上半分側(2b)と後フランジの下半分側(3a)との肉厚かのいずれかを、各フランジの他方の上下半分側の肉厚よりも、部分的に厚くする。
図1では、車両衝撃吸収部材1の(図1の)右側からの車両衝突の衝撃によって、前記図15、16や図17の右上側の場合のように、車両衝撃吸収部材1が図2の通り車幅方向の軸まわりに右回りの矢印で示すように回転すると予め想定している。これは、前記図15、16のように、バンパーR/Fがバリアよりも下方に位置する衝突の場合を想定しており、車両衝撃吸収部材1が車両後方側に向かって傾斜し、曲げ中立軸がC1のように車両前方側に向かって傾斜するとの想定に基づき設計している。
このため、前記合計面積S1と合計面積S4との和が、前記合計面積S2と合計面積S3との和よりも、1.5倍〜3.5倍の範囲で大きくするようにしている。すなわち、衝突荷重方向に対する前フランジ2の下半分側2aと下ウエブ5の前半分側5aとの合計面積(S1)と、衝突荷重方向に対する後フランジ3の上半分側3bと上ウエブ4の後半分側4bとの合計面積(S4)との面積の和を、前フランジ2の上半分側2bと上ウエブ4の前半分側4aとの合計面積(S2)と、後フランジ3の下半分側3aと下ウエブ5の後ろ半分側5bとの合計面積(S3)との面積の和よりも、1.5倍〜3.5倍の範囲で大きくする。
そして、この面積比(面積関係)となるように、この面積関係となるように、前フランジ2の下半分側2aと後フランジ3の上半分側3bとの肉厚を、 前フランジ2の上半分側2bと後フランジ3の下半分側3aとの肉厚よりも、後述する範囲で部分的に厚くしている。
図1では、このように、前記合計面積S1と合計面積S4との和が、前記合計面積S2と合計面積S3との和よりも1.5倍以上大きくすることによって、衝突時に車両衝撃吸収部材1が回転して元の曲げ中立軸C0が傾斜しても、この傾斜した曲げ中立軸C1からの距離が最も離れたフランジの肉厚、すなわち、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bの肉厚を 、部分的に厚肉化する。このため、衝突荷重による車両衝撃吸収部材の車幅方向の軸まわりの回転によって、その曲げ中立軸が車両前方側に向かって傾斜し、その上側が車両後方側へ倒れながら変形するような傾斜状態においても、衝突エネルギ吸収性能を高めることができる。すなわち、車両衝撃吸収部材の車両上下方向の軸まわりの曲げに対する、断面係数およぴ塑性断面係数を高めて、断面のつぶれ変形や長手方向(車幅方向)の曲げ変形による、衝突エネルギ吸収性能を高めることができる。
この点、4等分された矩形中空断面の面積のうち、前記合計面積(S1)と前記合計面積(S4)との和が、前記合計面積(S2)と合計面積(S3)との面積の和よりも1.5倍未満では、前フランジ2や後フランジ3の部分的な厚肉化が不足して、この効果が得られない。一方、4等分された矩形中空断面の面積のうち、前記合計面積(S1)と前記合計面積(S4)との和が、前記合計面積(S2)と合計面積(S3)との面積の和の3.5倍を超えた場合、前フランジ2や後フランジ3の部分的な厚肉化が大きすぎる。このため、前厚肉化した場合の断面積の増加率を、フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材に比して、5%以下に抑制することができず、車両衝撃吸収部材1の軽量化が犠牲になる。
これに対して、前記図17の右下側のように、バンパーR/Fがバリアよりも上方に位置する衝突の場合には、図の右側からの車両衝突の衝撃によって、車両衝撃吸収部材1が車幅方向の軸まわりに左回りの矢印で示すように回転すると予め想定し、この想定に基づき設計する必要がある。このため、前記図1、3とは全く逆に、前記合計面積S2と合計面積S3との和が、前記合計面積S1と合計面積S4との和よりも、1.5倍〜3.5倍の範囲で大きくするようにする。そして、この面積比(面積関係)となるように、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの肉厚を、図1、3とは全く逆に、前フランジ2の下半分側2aと、後フランジ3の上半分側3bの肉厚よりも、部分的に厚肉化する。
曲げ中立軸の考慮:
これら衝突エネルギ吸収性能の向上と軽量化とを兼備させるために、好ましくは、前記した車両衝撃吸収部材の曲げ中立軸を考慮した、フランジの厚肉化の設計とする。言い換えると、前記合計面積S1と合計面積S4との和を、前記合計面積S2と合計面積S3との和よりも1.5倍〜3.5倍の範囲で大きくするために、車両衝撃吸収部材の曲げ中立軸を考慮した、フランジの部分的な厚肉化設計とする。
この車両衝撃吸収部材の曲げ中立軸を考慮したフランジを厚くする部位の設計方法では、垂直方向から傾斜させた仮想曲げ中立軸を基準とする。この際、車両衝突の衝撃によって車両衝撃吸収部材が前記車幅方向の軸まわりに回転する場合に、車両上下方向に垂直な、矩形中空断面形状の車両衝撃吸収部材1の元の曲げ中立軸C0が、車両前方側に向かって傾斜するか、車両後方側に向かって傾斜するかを選択する。
図2は、この垂直方向から傾斜させた仮想曲げ中立軸に基づく設計方法を示している。図2の右側の車両衝撃吸収部材1は、図1と同じ図2の右側からの車両衝突の衝撃によって、前記図15や図17の右上側の場合と同様に、車幅方向の軸まわりに右回りの矢印で示すように回転すると想定(設計)している。この図2の場合は、元の取り付け状態では、矩形中空断面形状の中央部にあり、車両上下方向に垂直な曲げ中立軸C0が、図2の右側の車両衝撃吸収部材1のように、仮想曲げ中立軸C1として、車両前方側に向かって傾斜すると想定している。すなわち、衝突荷重による車両衝撃吸収部材の車幅方向の軸まわりの回転によって、その上側が車両後方側へ倒れながら変形するような傾斜状態においては、その曲げ中立軸が車両前方側に向かって傾斜すると想定している。図1の厚肉化はこの設計思想に基づく。
この逆に、車両衝撃吸収部材1が、車幅方向の軸まわりに左回りに回転した場合は、曲げ中立軸は、前記図17のC2のように、車両後方側に向かって傾斜する。この場合は、前記した通り、前記図1、3とは逆に、前記合計面積S2と合計面積S3との和を、前記合計面積S1と合計面積S4との和よりも1.5倍以上大きくする。そして、この面積比(面積関係)となるように、図1とは逆に、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの肉厚を、前フランジ2の下半分側2aと、後フランジ3の上半分側3bの肉厚よりも、部分的に厚肉化することとなる。
この仮想曲げ中立軸C1が傾く方向や傾き角度は、車両衝撃吸収部材の断面形状や取り付け位置や取り付け条件と、衝突条件との兼ね合いから決定(設計)される。すなわち、車両衝撃吸収部材1が、その正面から受ける衝突の衝撃に対して、前記図17の右側の上下いずれの衝突形態となるのか、いずれの仮想曲げ中立軸となって傾斜するのか、予測して決定する。言い換えると、車両衝撃吸収部材1を、前記図17の右側の上下いずれの衝突形態とするのか設計して、そうなるように取りつけ位置や取り付け方を設計する。
ここで、仮想曲げ中立軸C1の傾斜角度は、垂直な曲げ中立軸C0からの傾斜角度が45度以下の角度のうちから、特定の一つの角度の仮想曲げ中立軸C1を選択する。そして、この選択された特定の一つの仮想曲げ中立軸C1に対して、この仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れたフランジ2、3と、これに伴うウエブ4、5の前記領域の部位の肉厚を厚くする。仮想曲げ中立軸C1の傾斜角度は、90度以下の角度であれば、選択する傾斜角度が何度であっても、仮想曲げ中立軸C1から距離が最も離れたフランジ2、3と、ウエブ4、5の部位は同じとなる。したがって仮想曲げ中立軸C1の傾斜角度は、90度以下の傾斜角度を適宜選択すれば良い。ただ、あまり車両衝撃吸収部材が回転して傾斜しすぎた衝突形態自体起こりにくく、仮に起こった場合は、衝撃エネルギの車両衝撃吸収部材の断面への伝わり方がいびつとなって、本来の衝撃エネルギ吸収性能が発揮できなくなるので、そのような回転を起こす取り付け方などの問題の方が大きい。したがって、45度を超える傾斜角度は考慮しなくても良いため、本発明では前記垂直な曲げ中立軸C0からの仮想曲げ中立軸C1の傾斜角度(傾き)を45度以下の角度と規定する。
このような仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れたフランジ2、3と、これに交わるウエブ4、5の部位の、部分的な厚肉化によって、衝突荷重による車両衝撃吸収部材1の車幅方向の軸まわりの回転によって、その上側が車両後方側へ倒れながら変形するような傾斜状態においても、車両衝撃吸収部材1の車両上下方向の軸まわりの曲げに対する断面係数およぴ塑性断面係数を高めることができる。断面係数や塑性断面係数は、車両衝撃吸収部材1の断面全体の面積のうち、前記した曲げ中立軸から離れたフランジ2、3と、これに交わるウエブ4、5の部位(領域)の面積を大きくする(大きく設計する)ことで効率的に高めることができる。
勿論、車両の衝突形態や衝突条件は千差万別であるので、必ず予測した衝突形態になるとは限らず、予測した仮想曲げ中立軸通りになるとは限らない。しかし、本発明は、例え予測とは逆の衝突形態や仮想曲げ中立軸の傾斜方向となっても、矩形中空断面形状の車両衝撃吸収部材1の、従来レベルでの車両上下方向の軸まわりの曲げに対する断面係数およぴ塑性断面係数は維持されており、エネルギ吸収性能も維持されるため、何ら支障はない。
厚肉化する部位:
車両に取り付けた状態での図2の左側の車両衝撃吸収部材1では、矩形中空断面形状の中央部に、車両上下方向に垂直な曲げ中立軸C0に対して、この曲げ中立軸C0からの距離が最も離れたフランジ2、3とウエブ4、5の部位は、AとB、CとDの点線で囲む左右二つの領域となる。すなわち、広がりとしては、フランジ2、3の車両上下方向の全高さ部分とコーナー部7、8および9、10を含む領域である。
これに対して、図2の右側の車両衝撃吸収部材1のように、図の右側からの車両衝突の衝撃によって、車幅方向の軸まわりに右回りの矢印で示すように回転した状態での車両衝撃吸収部材1では、この回転した車両衝撃吸収部材1の中央部における曲げ中立軸は仮想曲げ中立軸C1となる。そして、この仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れたフランジ2、3とウエブ4、5の部位は、AとDとの点線で囲む左右二つの領域に変化する。すなわち、広がりとしては、対角線となるコーナー部7と10とを中心として、フランジ2、3やウエブ4、5のコーナー寄りの一部を含む領域のみとなる。
前記図1では、この仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れたAとDとの点線で囲む左右二つの領域が、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3b、およびこれに交わるウエブ4、5の部位4b、5aの一部に対応している。
本発明では、このような仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた領域である、Dの点線で囲むフランジ2の下部領域12と、Aの点線で囲むフランジ2の上部領域11との左右二つの領域を部分的に厚肉化する。具体的には、前記図1における、これらAとDとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bと、これに交わるウエブ4、5の部位4b、5aの一部を厚肉化する。 この逆に、車両衝撃吸収部材1が、車幅方向の軸まわりに左回りに回転した場合は、このような仮想曲げ中立軸からの距離が最も離れた領域である、Cの点線で囲む前フランジ2の上部領域と、Bの点線で囲む後フランジ3の下部領域との左右二つの領域を部分的に厚肉化する。具体的には、図1の、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの肉厚を、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bにおける肉厚 よりも部分的に厚肉化する。
これに伴い、これら厚肉化されたフランジ2a、3bの部位に、各コーナー部(隅角部)で各々交わる(接続される)ウエブ4、5の部位4b、5aの各肉厚も、部分的に厚くすることが好ましい。これは、この接続部分での急激な肉厚の変化を避けて、この急激な肉厚の変化による作りにくさや強度低下を避けるためであって、厚肉化されたフランジ2a、3bの部位の肉厚に応じて、適宜の範囲の長さ(領域)だけで部分的に厚くすることが好ましい。
この肉厚を厚くする範囲(断面で言うと厚くする壁の長さの範囲)は、仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた、AとDとの点線で囲む左右二つの領域、あるいは、これらに対応する前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3b、およびこれに交わるウエブ4、5の部位4b、5aの領域の範囲で適宜選択される。言い換えると、フランジ(場合によってはウエブ)の他の薄肉化する部位の各肉厚(厚肉化する肉厚)や範囲(断面で言う壁の長さ)との関係で、前記傾斜状態においても、車両衝撃吸収部材の車両上下方向の軸まわりの曲げに対する断面係数およぴ塑性断面係数を高めることができ、エネルギ吸収機能を発揮できるように適宜決定される。
厚肉化する部位の厚さ:
このような特性発揮のためには、前記厚肉化する側の各フランジの上下いずれか半分側の肉厚を3.5〜12mmの 範囲とする一方で、前記薄肉化する各フランジの他方の上下半分側の肉厚を1〜4mmの範囲とする 。すなわち、厚肉化する部位の範囲とともに、仮想曲げ中立軸からの距離が最も離れた部位の肉厚を厚肉化する。
図1、2の、車両衝撃吸収部材1が車幅方向の軸まわりに右回りに回転すると想定して設計する場合には、仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位として、厚肉化される部位A、Dの領域の肉厚を厚肉化するために決定する。
この逆に、図17の右下側の図のように、車両衝撃吸収部材1が車幅方向の軸まわりに左回りに回転した場合は、仮想曲げ中立軸C2からの距離が最も離れた部位として、厚肉化される部位B、Cの領域の肉厚を厚肉化するために決定する。
以下に、図1、2の場合の厚肉化や薄肉化などの実施形態につき、詳細に説明するが、この逆の前記図17の右下側の場合のように、車両衝撃吸収部材1が車幅方向の軸まわりに左回りに回転すると想定して設計する場合には、厚肉化する部位を、前記B、Cの領域である、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aや、下ウエブ5の部位5b、上ウエブ4の部位4aなどに置き換えて設計する。また、薄肉化する部位を、前記A、D領域である、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bと、これに交わるウエブ4、5の部位4b、5aなどに置き換えて設計する。
図1、2の場合には、このA、Dに含まれる領域として、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bと、これに交わるウエブ4、5の部位4b、5aの一部における肉厚を 、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの肉厚よりも、各々部分的に厚くして、その厚みの範囲を3.5〜12mm とすることが好ましい。これは以下の図3〜図6などの本発明例でも共通する。
ちなみに、図1では、点線で囲むDの領域の、前フランジ2の下半分側2aおよびこれに交わる下ウエブ5の部位5aの一部と、点線で囲むAの領域の後フランジ3の上半分側3bおよびこれに交わる上ウエブ4の部位4bの一部とが、前記矩形中空断面の中心に対して互いに点対称となるよう、テーパ状に厚肉化している。
より具体的に、フランジ2の下部2aのうちのDの点線で囲む部分的な厚肉部12の厚み(板厚)をt2、フランジ3の上部3bのうちのAの点線で囲む部分的な厚肉部11の厚み(板厚)をt3とする。一方、フランジ2の上部2bのうちのCの点線で囲む部分的な薄肉部の厚み(板厚)をt1、同じくフランジ3下部3aのBの点線で囲む部分的な薄肉部の厚み(板厚)をt4とする。更に、上側のウエブ4の厚み(板厚)をt5、下側のウエブ5の厚み(板厚)をt6とする。
図1、2において、仮想曲げ中立軸C1(C2)からの距離が最も離れた、厚肉化される部位A、Dの領域内での厚肉化する部位は、前フランジ2の下半分側2aのうちの厚肉化部分12のt2、後フランジ3の上半分側3bのうちの厚肉化部分11のt3である。 そして、仮想曲げ中立軸C1(C2)からの距離が最も離れた部位が、コーナー部7、10に交わる、これらコーナー部近傍のウエブ4、5の部位にも及ぶ場合には、これらコーナー部7、10近傍の上ウエブ4の後半分側4b、下ウエブ5の前半分側5aの厚みt5、t6も部分的に厚くする。
そして、これらの厚肉化する部位の厚み(板厚)t2、t3、場合によってはt5、t6を3.5〜12mmの範囲から選択して、それ以外の(薄肉化する)フランジとウエブの部位の各肉厚よりも、各々部分的に厚くする。この厚くする方法は、それ以外の(薄肉化する)フランジとウエブの部位と、板厚の段差を設けてフランジやウエブの壁の延在方向に均一に厚くしてもよく、図1のように、傾斜状(テーパ状)に厚みを順次連続的あるいは段階的に(階段状に)増加あるいは減少させてもよい。
ここで、厚肉化する部位のt2、t3などの肉厚が3.5mm未満では、厚肉化が不足して、傾斜状態における車両衝撃吸収部材の車両上下方向の軸まわりの曲げに対する断面係数およぴ塑性断面係数を高めることができず、エネルギ吸収機能を高めることができない。
一方、厚肉化する部位のt2、t3などの肉厚が12mmを超えて厚肉化しても、前記エネルギ吸収機能はさして向上せず、後述する他の部位の薄肉化にも限界があるため、厚肉化による断面積と重量の増加分を補うことができない。このため、フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材に比して、断面積の増加率を5%以下に抑制できなくなる。
ちなみに、これらフランジ2、3の部位の肉厚を3.5〜12mmの範囲で、それ以外のフランジとウエブの部位の各肉厚よりも、各々部分的に厚くした例は、従来でも存在する。しかし、これらは後述する他の部位の薄肉化を行っておらず、フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材に比して、断面積の増加率を5%以下には抑制できていない。また、通常も(従来も)、フランジ2、3の部位の肉厚は2〜12mmの範囲から選択されるが、前記した補強のために部分的に肉厚化する場合を除いて、当然ながら、各々の壁の長手方向で均一な厚みとしている。
薄肉化する部位の厚さ:
一方で、前記厚肉化する以外のフランジ2、3とウエブ4、5の部位の各肉厚は1〜4mmの範囲で各々薄くすることが好ましい。図1では、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの肉厚を、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bにおける肉厚 よりも、前記した1〜4mm の範囲に各々部分的に薄くすることが好ましい。これは以下の図3〜図6などの本発明例でも共通する。
図1、2で具体的に言うと、このように薄肉化するのは、前記厚肉化する以外のその他の部位として、フランジ2上部の点線で囲むC領域を含む部位(前フランジ2の上半分側2b)から、前記厚肉化する領域D(前フランジ2の下半分側2a)に至るまでの領域の厚み(板厚)t1である。そして、フランジ3下部の点線で囲むB領域を含む部位(後フランジ3の下半分側3aと下ウエブ5の後ろ半分側5b)から、前記厚肉化する領域A(後フランジ3の上半分側3b)に至るまでの領域の厚み(板厚)t4である。そして、更に、前記コーナー部7の近傍で厚肉化する領域以外の、コーナー部9に至るまでの領域(壁長さあるいは壁幅)の上ウエブ4の後半分側4bや前半分側4aの厚み(板厚)t5、同じく前記コーナー部10の近傍で厚肉化する領域以外の、コーナー部8に至るまでの領域(壁長さあるいは壁幅)の下ウエブ5の後ろ半分側5bや前半分側5aの厚み(板厚)t6である。
このように、前記したフランジの薄肉化部分に加えて、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aに各コーナー部(隅角部)で各々交わるウエブ4、5の部位4a、5bの各肉厚も薄くすることが好ましい。これは、勿論、前記したフランジの部分的な厚肉化に伴う重量増加を抑えるためであって、この接続部分での急激な肉厚の変化による作りにくさや強度低下を避けるためでもある。したがって、薄肉化された前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aの部位の肉厚に応じて、適宜の範囲の長さ(領域)だけ部分的に薄くすることが好ましい。
図1、2において、逆に、車両衝撃吸収部材1が、車幅方向の軸まわりに左回りに回転した場合は、前記図1における、これらAとDとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bと、これに交わるウエブ4、5の部位4b、5aを同様に薄肉化する。
ここで、薄肉化するフランジとウエブの部位の各肉厚t1、t4、t5、t6が1mm未満では、これらの部位の強度、剛性が低下して、前記衝撃を受けた際に破断しやすくなり、傾斜するしないを問わず、車両衝撃吸収部材としてのエネルギ吸収機能を発揮できない。また、これらの肉厚が4mmを超えた場合には、前記厚肉化部位による断面積と重量の増加分を補うことができないくなり、フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材に比して、断面積の増加率を5%以下に抑制できなくなる。
これら薄肉化する部位の厚み(板厚)t1、t4も、この薄くする方法は、前記厚肉化する場合と同様に、(厚肉化する)フランジとウエブの部位と、板厚の段差を設けてフランジやウエブの壁の延在方向に均一に薄くしてもよく、図1のように、傾斜状(テーパ状)に厚みを順次連続的あるいは段階的に(階段状に)増加あるいは減少させてもよい。
断面積増加率の基準とする「フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材」とは、前記フランジの厚みが部位によらず、本発明の最大厚肉部と最小薄肉部との平均値として均一な、同じ大きさ(形状)の矩形中空断面構造である。
車両衝撃吸収部材のその他の例:
図3、4:
図3、4は、前記図1の日型断面の変形例であり、前記図16と同じ断面を有している。すなわち、車両のレイアウトやデザイン上の制約などによって、車両衝撃吸収部材1の衝突面である、前面側フランジ2が、車両上下方向の軸に対して、例えば下方側12が下方にいくほど傾斜して順次幅狭となっている(ウエブ5が最も幅狭となっている)断面形状を示す。図3も、図1と同じアルミニウム合金押出形材からなる車両衝撃吸収部材を示している。
この場合も、他車側の車両衝撃吸収部材と取り付けられた車高(位置)が同じでも、車両衝撃吸収部材1の衝突面には、他車車両衝撃吸収部材による衝突荷重が均等に伝わらない。このため、前記図15と同じく、図の上下方向となる車幅方向を軸とした、右回りの矢印で示す「ねじりモーメント」が生じる。この結果、車両衝撃吸収部材1は、やはり車幅方向の軸まわりに、前記右回りの矢印で示すように回転しながら変形することになる。
この図3、4において、車両の前側に向かって傾斜すると想定している仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた厚肉化する部位は、点線で囲む領域Eの前フランジ2の中央部14のt2、点線で囲む領域Aの後フランジ3上部13のt3である。すなわち、前フランジ2の下半分側2aと上半分側2bとに亘る中央部の、点線で囲む領域Eの前フランジ2の中央部14のt2と、後フランジ3の上半分側3bの点線で囲む領域Aの後フランジ3上部13のt3とを厚肉化する。
このうち、厚肉化する部位である、後フランジ3上部13のt3は、前記図1の厚肉化する部位7と同じである。これに対して、前フランジ2中央部14のt2は、前記図1の厚肉化する前フランジ2の下部の部位12とは異なる。これは、図3、4の断面形状が、特に前フランジ2の下部の形状が幅狭な部分で、図1、2の断面形状と異なるために、必然的に、この前フランジ2の仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位(厚肉化する部位)が異なるためである。これに対して、図3、4の断面形状が図1、2の断面形状と同じ後フランジ3では、必然的に、この後フランジ3の仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位(厚肉化する部位)は同じとなる。
すなわち、この図3では、点線で囲む領域Aの後フランジ3の上部13と、点線で囲む領域Eの前フランジ2中央部14との左右二つの領域を、テーパ状に厚肉化している。そして、これらの厚肉化する部位の厚み(板厚)t2、t3、場合によってはt5、t6を、3.5〜12mmの範囲から選択して、それ以外の(薄肉化する)フランジとウエブの部位の各肉厚よりも、各々部分的に厚くする。
その一方で、図3、4において薄肉化するのは、前記厚肉化する以外のその他の部位として、前フランジ2上部の点線で囲むC領域から前記厚肉化する点線で囲む領域Eに至るまでの前フランジ2の上半分側2b領域の厚み(板厚)t1と、前フランジ2の下部の点線で囲むD領域から前記厚肉化する領域Eに至るまでの前フランジ2の下半分側2a領域の厚み(板厚)t1である。そして、後フランジ3下部の点線で囲むB領域を含む後フランジ3の下半分側3a領域から、前記厚肉化する領域Aに至るまでの領域の後フランジ3の上半分側3bの厚み(板厚)t4である。そして、更に、前記コーナー部7の近傍で厚肉化する領域以外の、コーナー部9に至るまでの領域(壁長さあるいは壁幅)の上ウエブ4(4a、4b)の厚み(板厚)t5、同じく前記コーナー部10からコーナー部8に至るまでの領域(壁長さあるいは壁幅)の下のウエブ5(5a、5b)の厚み(板厚)t6である。
図5の例:
図5(a)、(b)、(c)は、共通して、車両衝撃吸収部材1の矩形中空断面構造が、補強用の中リブ6が無い、口型断面の例である。図5も、図1と同じアルミニウム合金押出形材からなる車両衝撃吸収部材を示している。
この図5においても、仮想曲げ中立軸C1は、前記図1や図3と同様に、車両の前方側に向かって傾斜すると想定している。そして、この仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位として、対角線上の部位A、Dの領域の肉厚を前記特定範囲の厚肉化する。
図5(a)、図5(b)は、各々Dの点線で囲む厚肉化するフランジ2下部の16、18およびAの点線で囲むフランジ3上部の15、17の厚み(板厚)を前記特定範囲で、図5(a)は段差状に、図5(b)はテーパ状に、互いに点対称になるように厚肉化している。そして、仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位がコーナー部7、10に交わる、これらコーナー部近傍のウエブ4、5の部位の厚みも前記特定範囲で厚くする。すなわち、これらAとDとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bと、これに交わるウエブ4、5の部位4b、5aの一部を厚肉化する。
そして、その他の部位として、フランジ2上部の点線で囲むC領域を含む部位、フランジ3下部の点線で囲むB領域を含む部位、上側のウエブ4や下側のウエブ5などの厚み(板厚)を、前記厚みを厚くした領域に至るまでの領域で薄肉化する。すなわち、これらCとBとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3aと、これに交わるウエブ4、5の部位4a、5bを薄肉化する。
図5(c)は、前記図3と同じ断面形状を有しており、車両の前側に向かって傾斜すると想定している仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた厚肉化する部位は、点線で囲む領域Eのフランジ2の中央部20と、点線で囲む領域Aのフランジ3上部19である。すなわち、前フランジ2の下半分側2aと上半分側2bとに亘る中央部の、点線で囲む領域Eの前フランジ2の中央部14(t2)と、後フランジ3の上半分側3bの点線で囲む領域Aの後フランジ3上部13(t3)とを厚肉化する。
そして、図5(c)において薄肉化する部位は、前記図3、4と同じであり、前記厚肉化する以外のその他の部位として、フランジ2上部の点線で囲むC領域から前記厚肉化する点線で囲む領域Eに至るまでの領域と、フランジ2下部の点線で囲むD領域から前記厚肉化する領域Eに至るまでの領域の厚み(板厚)である。そして、フランジ2下部の点線で囲むB領域を含む部位から、前記厚肉化する領域Aに至るまでの領域の厚み(板厚)である。そして、更に、前記コーナー部7の近傍で厚肉化する領域以外の、コーナー部9に至るまでの領域の上側のウエブ4の厚み(板厚)、同じく前記コーナー部10からコーナー部8に至るまでの領域の下側のウエブ5の厚み(板厚)である。
図6の例:
図6(a)、(b)、(c)は、共通して、車両衝撃吸収部材1の矩形中空断面構造が補強用の中リブ6がある日型断面の例であるが、アルミニウム合金板からなる例である。 すなわち、圧延、調質されたアルミニウム合金板を、曲げ加工などの成形によって矩形中空断面構造とし、端部同士を溶接接合して、矩形中空断面構造したものである。そして、別途平板な中リブ6を中空内に取り付けて溶接などで接合している。なお、図6(d)だけは、同じくアルミニウム合金板を成形したものではあるが、口型断面を示している。
この図6も、仮想曲げ中立軸C1は、前記図1や図3と同様に、車両の前方側に向かって傾斜すると想定している。そして、この仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた部位として、前記図1や図3と同様に、対角線上の部位A、Dの領域の肉厚を前記特定範囲の厚肉化する。すなわち、これらAとDとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の下半分側2aおよび後フランジ3の上半分側3bを厚肉化する。
また、その他の部位を薄肉化する。すなわち、これらCとBとの点線で囲む左右二つの領域に対応する、前フランジ2の上半分側2bおよび後フランジ3の下半分側3を薄肉化する。この厚肉化や薄肉化の領域や厚みの設計は前記図1や図3と同様に行うものである。
ただ、この図6は板の成形材であるので、前記押出材のように、厚肉部や薄肉部の厚みや断面形状を自由に選択、設計して製造できない。このため、A、Dの領域の肉厚の前記特定範囲の厚肉化は、別の(別に準備した)アルミニウム合金板の接合(貼り合わせ)によって行っている。
図6(a)は、一枚のアルミニウム合金板を成形し、両端部同士をコーナー部7で溶接して一体化した矩形中空断面構造を示している。そして、A、Dの点線で囲む厚肉化するフランジ2、3の各部位に、別の平板21、22を、溶接あるいは接着剤などによって貼り合わせている。そして、これらA、Dの厚肉化領域が互いに点対称になるように厚肉化している。
図6(b)は、フランジ2とウエブ4、フランジ3とウエブ5とからなる2枚の別々に成形されたアルミニウム合金同士を、その両端部同士で互いに溶接して一体化した矩形中空断面構造を示している。そして、この両端部同士での互いの溶接を、A、Dの点線で囲む厚肉化するフランジ2、3に相当する部位において行い、L字状の突起(張出フランジ)23、24を中空内に張り出させて、この突起同士を溶接あるいは接着剤などによって貼り合わせて厚肉部としている。そして、これらA、Dの厚肉化領域が互いに点対称になるように厚肉化している。
図6(c)は、一枚のアルミニウム合金板を成形し、両端部同士をコーナー部7で溶接して一体化した矩形中空断面構造を示している。但し、これらアルミニウム合金板の部位同士を部分的に重ね合わせるように成形(曲げ加工)して、A、Dの点線で囲む厚肉化するフランジ2、3に相当する部位を形成している。また、中リブ6自体もこの同じアルミニウム合金板を成形して形成している。
図6(d)は、フランジ2とウエブ4、フランジ3とウエブ5とからなる2枚の別々に成形されたアルミニウム合金板同士を、その両端部同士で互いに溶接して一体化した矩形中空断面構造である点は、前記図6(b)と同じである。ただ、これらアルミニウム合金板の一方の端部を折り曲げて重ね合わせ、A、Dの点線で囲む厚肉化するフランジ2、3に相当するものとしている。そして、これらA、Dの厚肉化領域が互いに点対称になるように厚肉化している。
この図6の場合、微小な圧延クラウン以外は板幅方向や長手方向に板厚の差がつかない圧延板を用いているので、板の部位によらず均一な板厚とならざるを得ない。すなわち、アルミニウム合金圧延板の板厚を部位によって異ならせることは、特殊な圧延板以外はできない。したがって、前記厚肉化する以外の部位の薄肉化は、素材アルミニウム合金圧延板の板厚を予め薄肉化しておかざるを得ず、前記厚肉化も圧延板の重ね合わせや張り合わせの枚数によって調節せざるを得ない。
比較例:
図7、8は比較例を示しており、アルミニウム合金製車両衝撃吸収部材1において、前記垂直な曲げ中立軸C0を車両の前方側に向かって傾斜させた仮想曲げ中立軸C1と、車両の後方側に向かって傾斜させた仮想曲げ中立軸C2のいずれか一つではなく、これら両方を共に選択している。すなわち、本発明のように、特定の一つの仮想曲げ中立軸ではなく、前記二つの仮想曲げ中立軸C1、C2に対して、これら仮想曲げ中立軸C1とC2からの距離が最も離れた前記フランジ2、3と、ウエブ4、5の部位の肉厚を共に厚くしている。
この比較例では、車両衝撃吸収部材1が、車両衝突の衝撃によって、前記図17の右上側の車幅方向の軸まわりに右回りの矢印で示すように回転する場合だけでなく、前記図17の右下側の車幅方向の軸まわりに左回りの矢印で示すように回転する場合も考慮している。本発明では、前記いずれの仮想曲げ中立軸C1、C2とするかを、車両衝撃吸収部材1が、その正面から受ける衝突の衝撃に対して、前記図17の右側の上下いずれの衝突形態となるのか、いずれの仮想曲げ中立軸となって傾斜するのか、予測して決定する。しかし、車両衝撃吸収部材1を、前記図17の右側の上下いずれの衝突形態とするのか設計して、そうなるように取りつけ位置や取り付け方を設計したとしても、実際の衝突では、予測とは逆の場合となることもあり得る。
したがって、この比較例では、車両衝撃吸収部材1が車両衝突の衝撃によって、前記図17の右上側の場合や右下側の場合のいずれに回転してもいいように、仮想曲げ中立軸C1からの距離が最も離れた、フランジ2、3とウエブ4、5の、AとDとの点線で囲む左右二つの領域と、仮想曲げ中立軸C2からの距離が最も離れた、フランジ2、3とウエブ4、5のBとCとの点線で囲む左右二つの領域をともに厚肉化している。図7(a)は4つのコーナー部(四隅)をともに前記図1の場合と同じテーパ状に厚肉化し、図7(a)は4つのコーナー部(四隅)をともに前記図5の場合と同じ段差状に厚肉化している。
しかし、この比較例のように、二つの仮想曲げ中立軸C1、C2からの距離が最も離れたフランジ2、3とウエブ4、5の部位、AとD、BとCを各々全て厚肉化した場合には、この厚肉化する肉厚と領域とを最小限にとどめ、他の部位を強度の限界まで薄肉化しても、前記厚肉化部位による断面積と重量の増加分を補うことができなくなり、フランジが均一な厚みの元の車両衝撃吸収部材に比して、断面積の増加率を、5%以下に抑制できなくなる。したがって、この点で幾ら衝撃吸収効果が高くても、アルミニウム合金化による軽量化が犠牲となって実用化の利点が失われる。
使用アルミニウム合金:
本発明で車両衝撃吸収部材として使用するアルミニウム合金は、高強度と押出や圧延、更には曲げなどの車両衝撃吸収部材への加工性からして、AA乃至JIS規格に規定される5000系、6000系などのアルミニウム合金が好ましく、溶体化および焼入れ処理、時効処理などの調質条件を適宜選択して使用する。
次に本発明の実施例を説明する。本発明の効果をセンターバリア衝突試験を用いた有限要素解析によって確認した。図9に解析に用いた車両衝撃吸収部材としてのバンパーR/Fの矩形中空断面構造の断面形状と数値条件とを示す。また、この解析結果を図12、13、14に示す。
図9(a)は、フランジとウエブとの各長さや断面構造が本発明矩形中空断面構造と同じで、これらフランジとウエブとの厚みが各々の部位によらず均一で、前記フランジの厚みが4mmである、本発明でいう前記した「仮想矩形中空断面構造」である。すなわち、車幅方向の軸まわりの回転を考慮せずに設計した、フランジ2、3の厚みが各々の部位によらず4mmと均一で、図9(b)の本発明のバンパーR/Fと同じフランジとウエブの長さ(同じ大きさ)を有する、従来例のバンパーR/Fを示す。厚肉化される部位A、Dの領域の肉厚を特定の範囲とする。この比較例では、図9(a)に示す通り、フランジ2、3の厚み(板厚)t1、t4をともに4mmと部位によらず均一としている。また、ウエブ4、5のt5、t6も2mmと部位によらず均一とした。また、中リブ6の位置や長さ、そして厚みも2mmで共通している。
図9(b)は、前記図1と同じく、図1において点線で囲むDの領域のフランジ2の下部12と、点線で囲むAの領域のフランジ3の上部11との左右二つの領域を、互いに点対称となるようにテーパ状に厚肉化している本発明例を示す。本発明例では、図9(b)に示す通り、厚肉化したフランジ2下部12の厚み(板厚)t2と、フランジ3上部11の厚み(板厚)t3を、最も厚いウエブ4、5との交点(コーナー部)で8mm、最も薄い中リブ6との交点で4mmとするテーパ状(傾斜状)の厚み分布とした。一方、薄肉化した部位として、フランジ2上部(図1でいうC領域)のt2、フランジ3下部(図1のB領域)のt4を各々2mmとした。また、ウエブ4、5のt5、t6は、前記コーナー部でフランジとともに厚肉化した部位(厚み=長さ=8mm)を除いて、2mmと薄肉化しているが、こちらは前記図9(a)の従来例と同じ厚みである。図9(a)、(b)ともに、車両上下方向の高さHは120mm、車両前後方向の幅は60mmと同じとした。
これら同じ断面積としたバンパーR/Fについて、図11に模式的に示す、IIHS(米国道路安全保険協会)のセンターバリア衝突試験を実施したと想定して解析を行った。このセンターバリア衝突試験においては、図11の右側のバリア下端と、左側のバンパーR/F上下端との車両上下方向のずれは60mmあり、図11の右側のバリアが左側のバンパーR/Fの上部に矢印のように衝突する。このため、前記図2あるいは前記図17の右上側のように、車幅方向の軸まわりに右回りの矢印で示すように回転する。したがって、図9(a)、(b)ともに、矩形中空断面形状の中央部にある車両上下方向に垂直な曲げ中立軸C0は、前記図2の右側の車両衝撃吸収部材1のように、仮想曲げ中立軸C1として、車両前方側に向かって10度傾斜する。
この解析結果として、先ず図10に、図9(a)の従来例(断面A)、図9(b)の発明例(断面B)の断面積(mm2)とバリアの最大変位(/mm)を示す。図10の通り、断面積が互いに同じでも、バリアの最大変位は従来例(断面A)の方が4%大きくなっており、発明例(断面B)の方が、前記曲げ中立軸Cが傾斜するような状態での衝突エネルギの吸収能が高いことが分かる。
これは、図12のバリアの反力と変位の関係からも裏付けられる。図12において、太線の従来例(断面A)と細線の発明例(断面B)とは、衝突の前半では両者のバリア反力に有意な差は認められない。しかし、衝突の中盤から後半にかけては、細線の発明例(断面B)のバリア反力は、太線の従来例(断面A)のバリア反力 に比べて、最大で約10%高くなり、その結果として、バリア最大変位は6mm程度、約4%程度抑制できることが分かる。
車両上下方向からのバンパーR/F乃至仮想曲げ中立軸C1の車両前方側への回転角(傾斜角)と車体上下軸まわりの断面係数との関係を図13に示す。また、同じく、これらの回転角(傾斜角)と車体上下軸まわりの塑性断面係数との関係を図14に示す。図14、15において、白四角印を細線でつないだ発明例(断面B)は、白丸印を太線でつないだ従来例(断面A)に比べて、回転角によらず、一定して、車体上下軸まわりの断面係数と、車体上下軸まわりの塑性断面係数とが各々高いことが分かる。そして、これは、図13の車体上下軸まわりの断面係数で約3%、図14の車体上下軸まわりの塑性断面係数で約2%発明例(断面B)の方が高くなっている。これらの結果として、前記図11のバリアの最大変位は、6mm、約4%、従来例(断面A)よりも抑制できる。