JP2005052224A - 骨再生用基材およびその製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】再生医工学においては、患者に最小限の傷で迅速に骨を再生しなければならないという大きな課題が存在する。かかる再生医工学が、骨が大きく欠損した場合の治療に用いることができれば、非常に有用である。
本発明は、骨組織を迅速に再生できる高靭性と柔軟で且つハサミなどによる切断が容易な骨再生基材を提供するものである。
【解決手段】連通孔を有する生体吸収性有機多孔体と骨親和性無機材料との複合化を特徴とする骨再生用基材であり、連通孔に骨親和性無機材料が充填された構成である骨再生用基材。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、骨再生用基材の提供に関する。
【0002】
【従来の技術】
外傷や骨腫瘍などで骨が大きく欠損した場合、患者自身の正常な骨を一部切り取って欠損部に移植する自家骨移植が一般的であるが、自家骨移植のために採取できる骨量には限界があり、さらに健康な組織を傷つけることになるため、患者の負担も大きい。そのため、組織バンクに保存されている他人の骨を移植する同種骨移植も行われているが、同種骨は患者自身の骨と一体化できないのみでなく、接合部から遠く隔たったところには栄養が届かないため、同種骨の強度が低くなって折れることがある。また、免疫的拒絶反応の発生も懸念される。
現在、人工材料からなる人工骨の開発が活発に行われ、既に利用されてる状況にある。かかる材料は、免疫的問題の心配がなく、材料入手および加工が容易であるため、工業的に大量生産が可能である反面、コバルト−クロム合金やチタン合金などの金属材料は、生体組織に比べて弾性率が高すぎ、また靭性に欠けるという欠点があり、更に、医療現場において個々の欠損形状に対応するのが実質的に不可能である課題を有する。また、生体親和性の欠如や感染などの問題も多く、適用範囲は限定されている。
また、多孔質ハイドロキシアパタイトなどのバイオセラミックスは、生体親和性が高いため、骨充填などを目的として大量に利用されているが、かかる無機材料は強度が低く、その用途は限定されている。また、予め特殊な組織形態に成形加工することも難かしく、手術室で個々の欠損部に応じた形状に調製することもきわめて困難である。更に、細胞の侵入効果を向上するため、連通孔構造をもつことが必要であるが、セラミックスで連通孔構造をもたせることは容易でなく、強度も著しく低下するため、満足のいくものは得られていない。
一方、再生医工学により、骨を再建する研究開発が近年活発に進められている。かかる骨の再生には、細胞外マトリクス、骨髄細胞、骨膜、骨膜由来の細胞、骨誘導タンパク因子などが用いられる。その基材として、例えば、コラーゲンとバイオセラミックスの複合材料、或いは、特許文献1〜5に示すような生体内分解吸収性の素材とハイドロキシアパタイトを複合化した再生基材も提案されている。
しかしながら、前者にあっては、強度が弱く、生体内分解も速いという課題を有する。また、後者においては、特許文献3および5は、連通孔構造ではなく、特許文献1、2および5も実用には至っていない。
かかる再生医工学においては、患者に最小限の傷で迅速に骨を再生しなければならないという大きな課題が存在するのであるが、かかる再生医工学が、骨が大きく欠損した場合の治療に用いることができれば、非常に有用である。
【0003】
【特許文献1】
特許第3243679号公報
【特許文献2】
特開2003−33429号公報
【特許文献3】
特開2002−325830号公報
【特許文献4】
特開2003−62060号公報
【特許文献5】
特開2001−54564号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生体吸収性有機多孔体と骨親和性無機材料との複合化を特徴とする骨再生用基材、並びにその製法にかかわり、骨組織を迅速に再生できる高靭性と柔軟で且つハサミなどによる切断が容易な基材を提供するもので、医療現場において複雑な形状にも容易に調製できる特徴を有する。
【0005】
【課題を解決するための手段】
しかるに、本発明は以下の構成に特徴を有する。
項1.連通孔を有する生体吸収性有機多孔体と骨親和性無機材料との複合化を特徴とする骨再生用基材。
項2.連通孔に骨親和性無機材料が充填された構成である項1記載の骨再生用基材。
項3.生体吸収性有機多孔体が合成高分子であることを特徴とする項1に記載の骨再生用基材。
項4.骨親和性無機材料が三燐酸カルシウム(TCP)、またはハイドロキシアパタイトであることを特徴とする項1に記載の骨再生用基材。
項5.複合体を構成する骨親和性無機材料の含有率が40〜90質量%であることを特徴とする項4に記載の骨再生用基材。
項6.合成高分子が乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトンの重合体、もしくはこれらの共重合体、もしくは混合物であることを特徴とする項3に記載の骨再生用基材。
項7.合成高分子が乳酸/ε−カプロラクトンの共重合体であり、乳酸の重合比が30〜90%であることを特徴とする項6に記載の基材。
項8.複合体がさらに生体吸収性材料で補強されていることを特徴とする項1に記載の骨再生用基材。
項9.複合体に骨を形成する細胞が播種されていることを特徴とする項1に記載の骨再生用基材。
項10.生体吸収性合成高分子と骨親和性無機材料の縣濁液を凍結乾燥する骨再生用基材の製造法。
項11.生体吸収性合成高分子の溶液中に骨親和性無機材料を分散させ、かかる分散液をスプレードライする骨再生用基材の製造方法。
項12.生体吸収性有機多孔体に骨親和性無機材料の分散液を散布もしくは浸漬し、加圧もしくは減圧下で処理する骨再生用基材の製造方法
項13.生体吸収性材料と骨親和性無機材料を混練して紡糸し、編成、織成、不織布化する骨再生用基材の製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明基材を構成する連通孔を有する生体吸収性有機多孔体としては、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノンなどの重合体、もしくは共重合体、混合物などの合成高分子、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質、あるいはヒアルロン酸やアルギン酸等の天然高分子が挙げられる。この中で、柔軟性があり、成形が容易な乳酸−ε−カプロラクトン共重合体が特に好ましい。
即ち、かかる乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、重合比により強度、分解性を任意に変更することができる。なお、基材としての柔軟性と強度を維持するとともに、臨床の場で目的の形状に容易に調製するためには、共重合体中の乳酸組成が30〜90%にあるのが好ましい。30%未満であると十分な強度が得られず、90%を越えると柔軟性が失われるため好ましくない。
特にかかる範囲は50〜75%の範囲にあるのが好ましい。即ち、乳酸組成50%の共重合体は柔軟性に富むため、複雑な形状の欠損部に対して、大まかな形状に切断した後、欠損部に挿入して複雑な形状に対応することが可能である。例えば、交通事故などで、管状骨などの内部の海綿骨がつぶれた時、骨内部補充材として非常に有用である。また、乳酸組成75%の共重合体は、適度な強度と柔軟性を持つため、例えばハサミ等で中節骨の形に成形して使用することが可能である。
骨親和性無機材料としては、たとえば、燐酸四カルシウム(TTCP)、三燐酸カルシウム(TCP)、二燐酸カルシウム(DCPD)、ハイドロキシアパタイト等が例示できるが、特に骨親和性において優れるため、三燐酸カルシウム(TCP)、ハイドロキシアパタイトが好ましい。その含有量は、任意に調製することが可能であるが、10〜95%、好ましくは40〜90%の範囲にあることが望ましい。
10%未満であると、十分な骨再生効果が得られず、また、95%を越えると、強度と柔軟性が失われる。これの粒径は特に限定されないが、10〜1000μmであることが好ましい。
連通孔構造を有する多孔体の形態としては、発泡体、編物、織物、不織布、などが例示できる。
例えば、生体吸収性材料の溶液に骨親和性無機材料を懸濁して凍結乾燥することにより、容易に連通多孔体を有する基材を形成することができる。
また、予め生体吸収性材料を凍結乾燥して連通多孔体を構成し、この空隙に加圧、減圧等の手段を用いて骨親和性無機材料を充填することにより形成できる。かかる方法によると、骨親和性無機材料の表面が生体吸収性材料にコートされずに複合化でき、生体親和性を十分に発揮することができる。
更に、生体吸収性合成高分子の溶液中に骨親和性無機材料を分散させ、かかる分散液をスプレードライすることによっても得ることができる。
また、生体吸収性材料と骨親和性無機材料を混練して紡糸し、編物、織物、不織布の形態をとることにより、容易に連通多孔体を形成することができる。
多孔体の孔径としては5〜500μm程度、好ましくは10〜200μm程度である。空隙率は30〜98%、好ましくは80〜95%程度である。
多孔体を補強する生体吸収性材料の原料としては、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、などの共重合体が挙げられ、その形態としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、紐などの繊維、編、織地シート、不織布などが例示される。該繊維の直径は10〜2000μm程度、好ましくは50〜1000μm程度で、例えば、前記した凍結乾燥による発泡化、或いは、スプレードライ処理において、溶液中、あるいはスプレードライ面に配置し、端部、中央部等、任意の位置に存在させて一体化する。
また、骨を形成する細胞としては、骨膜、骨髄、骨芽細胞などが挙げられる。骨膜は、前頭骨、前腕とう骨、肋軟骨、腸骨、大腿骨などを採取部位とできる。
本発明の骨再生用基材は、骨組織を速やかに再生すると共に、多孔体自体は吸収されていくため、異物反応が発生することなく、良好な組織再生を可能とする。さらに、手術場においても、容易に欠損部に応じた形状に加工することができるため、臨床の場で優れた骨治癒効果を発揮することができる。
以下に本発明の実施例を記載するが、これは本発明を限定するものではない。
【0007】
【実施例】
実施例1
乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(乳酸組成75%)の5%ジオキサン溶液と平均粒径30μmのハイドロキシアパタイトを重量比35:4で混合懸濁後、ガラス枠の中に流し込み、−20℃にて直ちに凍結させた。これを凍結乾燥機にて24時間、30℃で凍結乾燥した。得られた複合基材は、ハイドロキシアパタイトを70重量%含む連通多孔体構造を有していた(図1)。これを中節骨の形にハサミで成形し、エチレンオキサイドガスにて3時間60℃で滅菌後、60℃にて48時間、真空下で脱ガスを行った。この基材に、子牛の前腕部より採取した骨膜を、下層の骨形成層を基材に密着させて縫合固定した。本基材をヌードマウス(4−6週、雄、平均体重30g)の背部皮下に移植した。対照として、ハイドロキシアパタイトを含まない基材を使用した。移植15週間後、ヌードマウスを犠牲死させ、組織を取り出した。この摘出組織は、10%ホルマリンにて固定した後、EDTAによる脱灰およびエタノールによる脱水を経て、パラフィン切片を作製し、von kossa染色を施して、組織学的検討を行った。
複合基材を用いた摘出組織は、外観上、中節骨の形状を保持した良好な骨組織を再生しており、組織学的検討でも、対照と比較すると、内部まで十分に骨組織が再生しており、本複合基材が良好な骨再生用基材として機能していることを確認した(図2、3)。
【0008】
実施例2
ポリL乳酸(重量平均分子量25万)50gをジクロロメタン950g中に溶解させて、5%溶液を作製し、さらに平均粒径30μmハイドロキシアパタイト400gを投入し、ハイドロキシアパタイトを均一に分散させたサスペンジョンを作製した。得られたサスペンジョンを有機溶媒用スプレードライヤー(Yamato:GS310)を用いて、ノズルから噴霧させ(入口温度80℃)、窒素ガスを密閉循環することにより、最終的にジクロロメタンを除去したポリL乳酸/ハイドロキシアパタイト複合基材を得た。
本複合基材は、ハイドロキシアパタイトを約90重量%含む連通多孔体構造を有していた(図4)。
【0009】
実施例3
乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(乳酸組成50%)の5%ジオキサン溶液をガラス枠の中に流し込み、−20℃にて直ちに凍結させた後、凍結乾燥機にて24時間、30℃で凍結乾燥した。得られた発泡体シートを約10%ハイドロキシアパタイト懸濁液に浸漬し、さらに減圧することにより、ハイドロキシアパタイトを発泡体シートの空隙に充填した。軽く水洗して発泡体シート表面に付着したハイドロキシアパタイトを除去した後、エタノールに浸漬して発泡体シートを収縮することにより空隙に充填したハイドロキシアパタイトを固定した。得られた複合基材は、ハイドロキシアパタイトを約50重量%含む連通多孔体構造を有していた(図5)。これを直径10mmのディスク状に切り抜き、エチレンオキサイドガスにて3時間60℃で滅菌後、60℃にて48時間、真空下で脱ガスを行った。この基材に、ラット大腿骨の骨髄より単離した幹細胞を播種し、骨分化誘導をかけた。培養2週間後、細胞数を計測し、さらに培養3週間後、アルカリフォスファターゼ活性を測定した。コントロールとして、ハイドロキシアパタイトを充填しない発泡体シートで、同様の操作を行った。
その結果、細胞数およびアルカリフォスファターゼ活性ともに、ハイドロキシアパタイト複合基材のほうの数値が高く、本複合基材が良好な骨再生用基材として機能していることを確認した。
【0010】
【発明の効果】
本再生用基材は、骨親和性無機材料と生体吸収性有機高分子材料とからなる連通多孔体であるため、骨組織を速やかに再生すると共に、多孔体自体柔軟で手術室でハサミ等を用いたり、熱を加えての加工が可能であるため、望み通りの形状を持つ骨の組織再生を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】複合基材の断面を示す図面代用写真(300倍拡大)である。
【図2】対照基材を用いた摘出組織のvon Kossa染色を示す図面代用写真である。
【図3】複合基材を用いた摘出組織のvon Kossa染色を示す図面代用写真である。
【図4】複合基材の断面を示す図面代用写真(650倍拡大)である。
【図5】複合基材の断面を示す図面代用写真(300倍拡大)である。

Claims (13)

  1. 連通孔を有する生体吸収性有機多孔体と骨親和性無機材料との複合化を特徴とする骨再生用基材。
  2. 連通孔に骨親和性無機材料が充填された構成である請求項1記載の骨再生用基材。
  3. 生体吸収性有機多孔体が合成高分子であることを特徴とする請求項1に記載の骨再生用基材。
  4. 骨親和性無機材料が三燐酸カルシウム(TCP)、またはハイドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項1に記載の骨再生用基材。
  5. 複合体を構成する骨親和性無機材料の含有率が40〜90質量%であることを特徴とする請求項4に記載の骨再生用基材。
  6. 合成高分子が乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトンの重合体、もしくはこれらの共重合体、もしくは混合物であることを特徴とする請求項3に記載の骨再生用基材。
  7. 合成高分子が乳酸/ε−カプロラクトンの共重合体であり、乳酸の重合比が30〜90%であることを特徴とする請求項6に記載の基材。
  8. 複合体がさらに生体吸収性材料で補強されていることを特徴とする請求項1に記載の骨再生用基材。
  9. 複合体に骨を形成する細胞が播種されていることを特徴とする請求項1に記載の骨再生用基材。
  10. 生体吸収性合成高分子と骨親和性無機材料の縣濁液を凍結乾燥する骨再生用基材の製造法。
  11. 生体吸収性合成高分子の溶液中に骨親和性無機材料を分散させ、かかる分散液をスプレードライする骨再生用基材の製造方法。
  12. 生体吸収性有機多孔体に骨親和性無機材料の分散液を散布もしくは浸漬し、加圧もしくは減圧下で処理する骨再生用基材の製造方法。
  13. 生体吸収性材料と骨親和性無機材料を混練して紡糸し、編成、織成、不織布化する骨再生用基材の製造方法。
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