JP2005041794A - ビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】原料として過剰の含フッ素フタロニトリル誘導体(I)を使用するビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)の製造方法において、
[上記式中、pは2,3または4を示し、qおよびrはそれぞれ独立して1,2または3を示し、Zは2価の有機基を示す。]反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル誘導体(I)とビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)を分離することを特徴とする含フッ素フタロニトリル誘導体の製造方法。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビス含フッ素フタロニトリル誘導体を製造する方法に関するものであり、特にその精製工程に特徴を有するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
高度にフッ素置換されたビス含フッ素フタロニトリル誘導体は、光学材料,配線基板材料,感光材料や液晶材料等の中間原料として有用である。
【0003】
この様なビス含フッ素フタロニトリル誘導体、例えば、1,4−ビス(3,4−ジシアノ−2,5,6−トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン(以下、「10FEDN」という)を得るには、一般的には下記合成経路に従い、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル(以下、「TFPN」という)とテトラフルオロハイドロキノン(以下、「TFHQ」という)を原料として使用する。
【0004】
【化3】
【0005】
上記合成経路によれば、理論的には、TFHQに対して2当量のTFPNを反応させればよいはずである。しかしそれでは、下に示す副反応が起こる。即ち、TFPNとTFHQとの1対1縮合物が、TFPNではなく目的化合物である10FEDNと反応してしまい、目的化合物(10FEDN)の収率と純度が極度に低下するという問題があった。
【0006】
【化4】
【0007】
そこで、特許文献1に記載の技術では、TFHQに対してTFPN等を8モル当量以上反応させることによって、高純度のビス含フッ素フタロニトリル誘導体を得ることに成功している。
【0008】
また、特許文献2に記載されているビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造方法では、更に、溶媒として水に難溶性のものを使用することによって、精製の容易化を図っている。
【0009】
これら従来技術で採用されている精製工程では、反応液中未反応のまま過剰に残存しているTFPN等の原料化合物を蒸留により除去した上で、カラムクロマトグラフィーにより目的化合物を精製している。ところが、例えば10FEDNは熱に弱いため、精製工程では温度を上げることができない。その一方で、原料化合物であるTFPNの融点は87℃であり常温で固体であるので、蒸留除去するには減圧する必要がある。そのため、従来技術によって含フッ素フタロニトリル誘導体を製造する場合には、その精製工程で減圧蒸留工程の制御が必要であり、プラントレベルでの大量生産に適した方法ではなかった。
【0010】
しかも、当該精製工程における減圧蒸留では、上述した通り温度を上げることができないため、原料化合物が留去されるに伴って10FEDN等が固結するという問題もあった。
【0011】
そこで、ビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造における精製工程では、蒸留を回避する方法が求められていた。しかし、蒸留以外の精製方法であるカラムクロマトグラフィー等では、やはり設備費用等の問題がある。そこで、ビス含フッ素フタロニトリル誘導体の大量合成における精製は、再結晶法によるのが理想的である。
【0012】
ところが通常の有機合成化学分野の常識によれば、不純物(特に、当該化合物と構造が似通った不純物)が少ないほど化合物は結晶化し易く、逆にいえば不純物が反応系に大量に存在すると結晶化し難い。従って、当然に目的化合物と共通構造を有する原料化合物が、反応終了後にも反応系に過剰に残存しているビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造においては、その精製工程に再結晶法を応用するのは困難と考えられていた。
【0013】
【特許文献1】
特開平6−16615号公報(請求項1,実施例等)
【特許文献2】
特開平8−333322号公報(請求項1,実施例等)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上述した様に、これまでにもビス含フッ素フタロニトリル誘導体の合成方法は種々知られていたが、その精製の困難性から、必ずしも大量合成に応用できるものではなかった。
【0015】
そこで、本発明が解決すべき課題は、ビス含フッ素フタロニトリル誘導体を製造するに当たり、反応終了後の精製工程において、過剰に残存する原料化合物を留去しなくても目的化合物を容易に得ることができ、プラントレベルの大量合成にも応用可能な方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造工程の最終段階である精製において、過剰に存在する原料化合物を留去する必要がない条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、過剰の原料化合物が残存している場合であっても目的化合物の晶出が可能であるという有機合成化学分野における常識と相反する現象により、上記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0017】
即ち、本発明に係るビス含フッ素フタロニトリル誘導体の製造方法は、原料として過剰の含フッ素フタロニトリル誘導体(I)を使用するビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)の製造方法において、
【0018】
【化5】
【0019】
[上記式中、pは2,3または4を示し、qおよびrはそれぞれ独立して1,2または3を示し、Zは2価の有機基を示す。]。
【0020】
反応終了後、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して含フッ素フタロニトリル誘導体(I)とビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)を分離することを特徴とする。
【0021】
上記ビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)としては、Zが下記式で表される2価の有機基であることが好ましい。
【0022】
【化6】
【0023】
[上記式中、XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]。
【0024】
当該ビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)は光学材料等として特に有用性が高く、大量合成方法が切望されている上に、後述する実施例によって、本発明に係る製造方法が当該化合物の製法として優れていることが実証されているからである。
【0025】
上記分離の方法としては、再結晶法が好ましい。一旦目的化合物を溶解した上で晶出させた方が、より純度の高い目的化合物を得ることができるからである。
【0026】
また、上記有機溶媒としては芳香族炭化水素および/または脂肪族炭化水素が好適である。後述する実施例によって、化合物(I)に対する溶解性に優れる一方で目的化合物(II)に対する溶解性が低いことから、本発明に使用する有機溶媒として有用であることが実証されているからである。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明に係るビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)の製造方法が享有する最大の特徴は、高収率で高純度の目的化合物を得るには過剰に使用せざるを得ない原料化合物を反応終了後に分離するに際して、減圧蒸留法を用いなくても良い点にある。
【0028】
即ち、従来のビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)の製造方法では、その精製工程において反応系に残存している原料化合物(I)を蒸留により留去していたため、プラントレベルの大量合成に応用することが困難であった。しかし、本発明者らは、原料化合物が多量に残存している場合でも目的化合物の晶出が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
以下に、斯かる特徴を発揮する本発明の実施形態、及びその効果について説明する。
【0030】
本発明は、原料として過剰の含フッ素フタロニトリル誘導体(I)を使用するビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)の製造方法に係るものであり、具体的には、下記スキームに係るものである。
【0031】
【化7】
【0032】
[上記式中、p,q,rおよびZは、前述したものと同義を示す。]。
【0033】
上記スキームでは、化合物(I)と(III)との1対1縮合化合物が、化合物(I)ではなく生成した化合物(II)と縮合する副反応が起こり得る。そこで、斯かる副反応を抑制するために、化合物(I)を過剰に使用する必要がある。この場合、使用する化合物(I)の量は、化合物(III)に対して8〜50モル当量(より好適には、15〜30モル当量)が好ましい。化合物(I)をあまりに過剰に用いると、副反応の抑制効果以上に精製工程が煩雑になることによる。
【0034】
上記式中、Zは2価の有機基を示すが、当該基として例えば以下のものを例示することができる。即ち、以下のアリール基
【0035】
【化8】
【0036】
[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールオキシ基
【0037】
【化9】
【0038】
[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールチオ基
【0039】
【化10】
【0040】
[上記アリール基は、フッ素原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。]などを挙げることができる。
【0041】
Z基としては、以下の基が好適である。
【0042】
【化11】
【0043】
[上記式中、XおよびYはそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]。
【0044】
反応は、化合物(I)の溶液に、化合物(III)の溶液を滴下することにより行なうのが好ましい。化合物(I)が常に過剰に存在する状態で反応を進行させることによって、副反応をより効率的に抑制できるからである。
【0045】
ここで使用される溶媒は、原料化合物を溶解でき且つ反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えばメチルイソプロピルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル,酢酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類;ベンゾニトリル等のニトリル類を挙げることができる。
【0046】
また、反応を促進するために塩基性化合物を反応系に添加することが好ましい。この様な塩基性化合物としては、例えば、フッ化ナトリウム,フッ化カリウム等のアルカリ金属のフッ化物;フッ化カルシウム,フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属のフッ化物;トリメチルアミン,トリエチルアミン等の第三級アミン等を挙げることができる。
【0047】
化合物(III)の溶液を滴下する際の反応温度は特に制限されないが、反応を促進するために加熱することが好ましく、好適な反応温度は40〜100℃である。反応の進行により温度が上がり過ぎる場合には、滴下中は温度を押さえ気味にし、滴下後に温度を上げればよい。また、反応温度は、使用する溶媒の沸点を大幅に超えることがない様に調整することも重要である。
【0048】
反応時間は、使用する原料の種類や溶媒、反応温度等により変わるが、一般的には1〜24時間であり、具体的には薄層クロマトグラフィー等により反応の終了を確認した上で後処理を開始すればよい。
【0049】
反応終了後は、反応溶液を少なくとも室温まで冷却し、塩基性化合物が析出した場合は、これを濾過等によって除去する。更に、塩基性化合物を除去するために、反応溶液を水系溶媒で数回洗浄することが好ましい。
【0050】
塩基性化合物を反応溶液から除去した後は、溶媒を留去する。残渣は、主に原料である化合物(I)と目的化合物(II)である。
【0051】
斯かる残渣へ有機溶媒を加えることによって、目的化合物であるビス含フッ素フタロニトリル誘導体(II)を優先的に析出させる。つまり、本発明で使用する「有機溶媒」は、化合物(I)に対する溶解能に優れる一方で、化合物(II)に対する溶解度が低いもの(好ましくは、室温では実質的に化合物(II)を溶解しないもの)をいう。好適には、ベンゼン等の無置換芳香族炭化水素;トルエン,キシレン等の置換芳香族炭化水素;などの芳香族炭化水素および/またはヘキサン,オクタン等の鎖状脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素;などの脂肪族炭化水素を使用する。
【0052】
析出した目的化合物は濾過等により分離した後、更に再結晶等の一般的な精製工程に付してもよい。
【0053】
また、上記残渣に有機溶媒を加えた後、一旦還流温度まで温度を上げて目的化合物(II)を実質的に溶解し、その後室温までゆっくり冷却することによって、目的化合物(II)を再結晶することもできる。当該方法によれば、より純度の高い目的化合物を簡便に得ることができるからである。
【0054】
以下に、実施例を示し本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【実施例】
(実施例1) 1,4−ビス(3,4−ジシアノ−2,5,6−トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
攪拌装置,冷却還流管,温度計および滴下装置を備えた200ml四つ口フラスコに、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル60.52g(0.30mol),フッ化カリウム5.50g(0.095mol)およびメチルイソブチルケトン100gを加え、50℃まで加熱した。滴下装置よりテトラフルオロハイドロキノン5.50g(0.030mol)をメチルイソブチルケトン9gに溶解させた溶液を15分かけて滴下した。その後、50℃で2時間、続いて80℃で3時間反応させた。
【0056】
反応終了後、室温まで冷却してから濾過し、フッ化カリウム等を濾別した。得られた濾液を5%硫酸ナトリウム水溶液40gで3回洗浄した後、メチルイソブチルケトンを留去した。トルエン50gを加え、還流温度まで加熱した後、室温まで冷却した。析出物を濾過し、トルエン25gで濾物を洗浄した。この濾物を乾燥することによって、標記化合物15.77g(0.029mol)を得た(対テトラフルオロハイドロキノン収率:97%)。得られた標記化合物の純度を液体クロマトグラフィーで測定した結果は、95%であった。
【0057】
尚、濾液中には、原料化合物である3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルが45g残存していた。当該濾液からトルエンを留去し、更に圧力1.3kPa,蒸留温度110℃で減圧蒸留することによって、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを25g回収した。この際、目的化合物である含フッ素フタロニトリル誘導体は殆ど残存していなかったことから、固結の問題は発生しなかった。
【0058】
(実施例2) 1,4−ビス(3,4−ジシアノ−2,5,6−トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
実施例1と同様の方法によって、標記化合物15.68g(0.029mol)を得た(対テトラフルオロハイドロキノン収率:96%)。
【0059】
標記化合物を濾別した後の濾液には、トルエン66gおよび3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル46gが含まれていた。
【0060】
この濾液を、上記実施例1で得られた蒸留残渣に加えた。当該混合物からトルエンを留去し、更に圧力1.3kPa,蒸留温度110℃で減圧蒸留することによって、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを45g回収した。蒸留残渣には、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルが21g含まれていた。
【0061】
(比較例1) 1,4−ビス(3,4−ジシアノ−2,5,6−トリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンの製造
出発原料として3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル60.52g(0.30mol)とテトラフルオロハイドロキノン5.50g(0.030mol)を用い、上記実施例1と同様の条件で反応を行なった。
【0062】
反応終了後、室温まで冷却してから濾過し、フッ化カリウム等を濾別した。得られた濾液を5%硫酸ナトリウム水溶液40gで3回洗浄した後、メチルイソブチルケトンを留去した。更に、まだ過剰に存在している出発原料である3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリルを、圧力1.3kPa,蒸留温度110℃で減圧蒸留した。この蒸留によって3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル44gを回収できたが、留出物が無くなった時点で蒸留残渣は固結した。当該蒸留残渣の融点は、160℃以上であった。
【0063】
留去後の残渣にトルエン20gを加え、還流温度まで加熱後、室温まで冷却した。析出物を濾過し、トルエン20gで濾物を洗浄した。この濾物を乾燥することによって、標記化合物15.61g(0.029mol)を得た(対テトラフルオロハイドロキノン収率:96%)。得られた標記化合物の純度を液体クロマトグラフィーで測定した結果は、94%であった。
【0064】
【発明の効果】
上記実施例の通り、本発明の方法によれば、原料化合物を蒸留することなく含フッ素フタロニトリル誘導体を精製することが可能になり、且つ、得られる目的化合物の収率と純度は、蒸留によって精製した場合と同等である。
【0065】
また、精製工程で目的化合物を分離した後の濾液中には、目的化合物である含フッ素フタロニトリル誘導体が殆ど含まれていないことから、原料化合物の蒸留による回収工程では、目的化合物の熱安定性を全く考慮する必要がない上に、原料化合物の留去に伴って目的化合物が固結するという問題も生じない。
【0066】
更に、目的化合物を分離した後の濾液中には目的化合物が殆ど含まれないため、上記実施例の様に、蒸留による原料化合物の回収を特に制限なく効率的に行なうことができる。
【0067】
従って、本発明に係る含フッ素フタロニトリル誘導体の製造方法は、その精製工程で過剰に用いた原料化合物の蒸留除去工程が必要無いことからプラントレベルの大量合成にも応用でき、効率的な製造が可能なものとして産業上非常に有用である。
Claims (4)
- 上記分離を再結晶法により行なう請求項1または2に記載の製造方法。
- 上記有機溶媒として芳香族炭化水素および/または脂肪族炭化水素を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
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