JP2005030483A - シールリング及びシール装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】矩形状断面を備えたリング状をなし、特定の無灰摩擦調整剤を含有する作動油中において、ハウジング20内に相対回転自在に支持される軸部材30に装着され、ハウジング20に摺接するシールリング10の内周面11、外周面13、及び軸方向の両側面12,14のうちの少なくとも相手部材との摺接面14にDLCのような硬質炭素薄膜を形成する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、自動車等に用いられる自動変速装置において、相対回転部における作動油の密封に用いられるシールリングと、このようなシールリングを用いたシール装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車両に用いられる自動変速装置は、トルクコンバーター、ギヤ列、ブレーキ、多板クラッチを備え、このような自動変速機(ATともいう)は、変速のためクラッチ係合を必要とし、このクラッチ係合を油圧で行なう構成を採用している。このため、油圧回路には相対回転する部分にシールが必要とされており、相対回転する部材間には、両部材の一方に形成された環状溝にシールリングが取り付けられ、当該シールリングが油圧によって相手材の外周(あるいは内周)に押し付けられながら、上記環状溝の側壁面に対して摺接するようになっている。なお、例えばシールリングの断面形状など、設計によっては、環状溝の側壁面に押し付けられて密着しながら、相手材の外周(あるいは内周)に対して摺接する場合もある。
【0003】
近年、このようなシールリングは、従来の鋳鉄製から、相手部材により密着しやすく、シール性に優れる合成樹脂製のものに代りつつあるが、合成樹脂製シールリングにおいては、密着性が良いがために相手部材との摺接面の摩擦トルクが大きく成ってしまうため、種々の摩擦トルク低減手法が採られている。
例えば、合成樹脂製シールリングの摩擦トルク低減手法として、シールリング母材に低摩擦トルク性に優れるフッ素系樹脂を用いる方法が知られている。また、フッ素樹脂のうち、シールリングの母材として良く用いられるポリテトラフロオロエチレンは、特に高温時の耐荷重性に劣ることから、その耐荷重性を改善するため、ガラス繊維やカーボン繊維の繊維系充填材、又はブロンズ等の金属系充填材を添加することも知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−21408号公報
【特許文献2】
特開2000−1589号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、フッ素系樹脂は、低摩擦トルクに優れる一方、その表面エネルギーの小ささから撥油性を示すことから、特に摺動面の油膜が薄くなる高面圧下の摺動条件では油膜が保持できなくなり、摩擦トルク及び自己磨耗量が増大してしまうという問題点がある。
また、繊維系や金属系の充填材を添加したポリテトラフロオロエチレンにおいては、摺動相手となるシールリング溝側面やハウジングの内周面がアルミ合金などの非鉄金属の場合、非鉄金属部材の側の摩耗が大となってシール性が悪化してしまう。一方、このような非鉄金属部材の磨耗を防止するために、テトラフルオロエチレンヘの繊維系充填材や金属系充填材の添加を抑制すると、耐荷重性の改善効果が十分でなくなり、高面圧下でのシールリングの自己摩耗が大となって、同様にシール性が悪化してしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、従来技術における上記のような課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、高面圧の摺動条件下においても、摺動する相手部材がアルミ合金等の非鉄金属の場合においてもシール性を損なうことなく、摺接部の摩擦トルクを有効に低減させることができ、例えば自動車用の自動変速機などに適用することによって、燃費改善に寄与することができるシールリングと、このようなシールリングを用いたシール装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべくシールリングとしての摺動材料と密閉する作動油の組合わせについて銑意検討を重ねた結果、シールリングの摺動面を硬質炭素薄膜で被覆すると共に、作動油に特定の無灰摩擦調整剤を添加することによって、相手部材が非鉄金属であっても、高面圧下でシール性を損なうことなく、摺接部の摩擦トルクの低減が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のシールリングは、矩形状断面、すなわち半径方向内側の内周面、半径方向外側の外周面、及び軸方向両側の側面の都合4面から成る矩形状断面を備えたリング状をなし、ハウジング内に相対回転自在に支持される軸部材の外周に設けた環状のシールリング溝に装着され、油圧の作用に応じて一方の側面が上記シールリング溝の側面に、外周面が上記ハウジングの内周面にそれぞれ圧接されて作動油の油圧を保持する作動油密閉用のシールリングであって、上記作動油が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有すると共に、上記シールリングの内周面、外周面及び両側面のうちの少なくとも相手部材との摺接面に、例えばダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と称する)などの硬質炭素薄膜による被覆が施してあることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のシール装置は、上記シールリングを用いたものであって、少なくとも当該シールリングとの摺接面の表面粗さをRaで2μm以下としたことを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明のシールリング製造方法においては、熱可塑性樹脂を含有し、半径方向内側の内周面と、半径方向外側の外周面と、軸方向両側の両側面を有する矩形状断面を備えたリング状をなす母材の少なくともいずれかの面に、プラズマCVD法によってDLCを成膜することを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0012】
図1は、本発明のシールリングを組み込んだ自動車用自動変速機の構造を示す断面図であって、本発明のシールリング10は、矩形断面を備えたリング状のものであって、ハウジング20内に相対回転自在に支持された軸部材30の軸方向の2箇所に形成されたシールリング溝31,31内にそれぞれ装着されている。ここで、軸部材30の油路32からハウジング20の油路21に油圧を供給すると、その油圧はシールリング溝31,31内にもそれぞれ伝達されて、各シールリング10の内周面11及び内方側面12に作用するため、シールリング10は、その外周面13をハウジング20の内周面22に、その外方側面14、すなわちシール面を軸部材30におけるシールリング溝31のシール側面33に圧接されることから、シール効果が発揮され、作動油の油圧を保持するようになっている。
【0013】
このような状態において、ハウジング20が軸部材30に対して回転すれば、各シールリング10の外周面13とハウジング20の内周面22との間に生じる摩擦トルクは、当接面積の関係から当該シールリング10のシール面14とシールリング溝31のシール側面33の間に生じる摩擦トルクよりも大となるため、両シールリング10はハウジング20に密着して連れ回りし、両シール側面14及び33の間に相対摺動が生じることになる。
【0014】
そして、本発明のシールリング10においては、その内周面11(半径方向内側)、外周面13(半径方向外側)及び両側面12、14(軸方向両側)のうちの少なくとも相手部材(ハウジング20又は軸部材30)との摺接面に硬質炭素薄膜による被覆が施してあることから、すなわち上記の例では少なくとも外方側面14に硬質炭素薄膜から成る被膜が形成されているので、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する作動油のもとで、高面圧下においてもシール性を損なうことなく、摺接部の摩擦トルクが低減することになる。
なお、相手部材との摺接面については、必ずしも外方側面14とは限らず、例えば、シールリング10の矩形断面における縦横比が上記とは逆のものとなれば、シールリング10は軸部材30に連れ回りし、シールリング10の外周面13とハウジング20の内周面22との間に相対摺動が生じるようになることから、最低限外周面13に硬質炭素被膜を形成することが必要となる。
【0015】
また、運転の開始当初、すなわち油圧が設計圧力に達するまでの期間においては、シールリング10が空回りし、図1に示した例では、本来連れ回りするべきハウジング20の内周面22との間に摺動が生じることがあることから、相手部材との摺接面である外方側面14のみならず、外周面13にも硬質炭素被膜を形成することが必要に応じて望ましい。
さらに、シールリング10の装着時において、取付け方向に注意を払わなくても済むように、シールリング10の両側面12,14に硬質炭素被膜を形成するようにしてもよい。つまり、相手部材との摺接面に硬質炭素薄膜による被覆処理が施してさえあれば、これ以外の面に被覆処理を施したとしても何ら差し支えない。
【0016】
ここで、上記した硬質炭素薄膜としては、例えば炭素原子を主として構成されるDLC材料を用いることができ、例えばプラズマCVD法により成膜することができる。
このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明のシールリングの母材(基材)としては、250℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含有するものを用いることが望ましく、このような熱可塑性樹脂としては、例えばフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂を挙げることができ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合わせて使用することができる。
ここで、上記熱可塑性樹脂の融点を250℃以上としたのは、この種のシールリングにおいては、運転中の摺接面における表面温度が200〜230℃にも上昇することがあり、250℃未満の融点の樹脂を用いた場合には、軟化や溶損の危険性が高くなることによる。
【0018】
上記樹脂(融点250℃以上の熱可塑性樹脂)には、他の樹脂や、充填材としてのアルミナ粉末やグラファイト粉末、繊維強化材としてのガラス繊維や炭素繊維、放熱性向上のための金属粉としてブロンズ粉やステンレス鋼粉などを添加することができるが、リング形状とするための成形性、加工性を確保する観点から、融点250℃以上の上記熱可塑性樹脂の含有量を最低限40%とすることが望ましい。
【0019】
したがって、本発明のシールリングは、例えば上記のような熱可塑性樹脂を含有し、矩形状断面を備えたリング状部材を母材として、当該母材の内周面、外周面及び両側面のうちの少なくともいずれか、具体的には少なくとも相手部材との摺接面に、プラズマCVD法によってDLCを成膜することによって製造することができる。
【0020】
本発明のシール装置においては、本発明の上記シールリングが用いてあって、少なくとも当該シールリングとの摺接面の表面粗さを平均粗さRaで2μm以下としたものであるから、長期に亘ってシール装置としての安定な摺動状態が維持されることになる。なお、摺接面の平均粗さRaを2μm以下にするのは、平均粗さRaが2μmを超えると、摺接面により硬質炭素薄膜がシールリングから剥がされ、摩擦係数が増大し易くなることによる。
ここで、シールリングとの摺接面とは、図1に示した例においては、シーリング溝31のシール側面33を意味するが、前述したように、シールリング10の形状によっては、ハウジング20の内周面22が摺接面となることもある。また、非定常状態においては、シールリング10が本来の摺接面以外と摺接することもなくはないことから、定常状態における摺接面以外の面をも2μm以下の平均粗さに仕上げることについて何ら支障はない。
【0021】
また、本発明のシール装置においては、シールリングとの摺接面を非鉄金属、特にアルミニウムやマグネシウムを含有する軽量金属とすることができる。
すなわち、従来のシールリングを使用した場合、軽量化を目的にハウジングや軸部材にアルミニウム合金などの軽量金属を用いたときには、軽量金属側の摩耗が大きくなってシール性が悪化してしまうために、摺接面にスチールスリーブなどを適用することが必要であったが、本発明のシールリングを適用することによって軽量金属側の摩耗量が大幅に軽減されることから、このようなスリーブの必要性がなくなり、さらなる軽量化が達成されることになる。
【0022】
次に、本発明に用いる作動油について詳細に説明する。
本発明のシールリング10によって密閉される作動油としては、基油(ベースオイル)に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有させたものが用いられる。
【0023】
ここで、上記基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、作動油の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた作動油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的であるが、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化した手法で製造したものを用いることがより好ましい。
【0024】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0025】
本発明に用いる作動油における基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0026】
作動油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、さらには0.05%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005%以下、あるいは実質的に硫黄分を含有していない(5ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0027】
また、基油中の芳香族含有量についても、特に制限はないが、例えば自動車用自動変速機の作動油として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。即ち、作動油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、ここで言う全芳香族含有量とは、ASTM D2549に規定される方法に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味している。
【0028】
基油の動粘度にも、特に制限はないが、上記のような自動変速機の作動油として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm2/s以上である。一方、その動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下、特に8mm2/s以下であることが好ましい。基油の100℃における動粘度が2mm2/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm2/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。本発明においては、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内に入る限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。
【0029】
また、基油の粘度指数にも、特別な制限はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、特に自動変速機の作動油として使用する場合には、120以上であることが好ましい。基油の粘度指数を高めることでよりオイル消費が少なく、低温粘度特性、省燃費性能に優れた作動油を得ることができる。
【0030】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0031】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0032】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明に用いる作動油に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると作動油への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0034】
一方、本発明に用いる作動油は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0035】
【化1】
【0036】
【化2】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0037】
更に、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0038】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0039】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0040】
なお、本発明に用いる作動油において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0041】
更にまた、本発明に用いる作動油物は、次の一般式(3)
【0042】
【化3】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0043】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R4、R5、R6及びR7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0044】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0045】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0046】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0047】
上述のように、本発明に使用する作動油は、DLCなどの硬質炭素薄膜との摺動面に用いた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、特に自動変速機の作動油として必要な性能を高める目的で、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0048】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油などの金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される作動油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は組成物全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0049】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油などの酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0050】
更に、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、作動油全量基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0051】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0052】
更に、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0053】
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
更に、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0054】
なお、上記各添加剤を本発明に用いる作動油に含有させる場合には、その含有量は、作動油全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5%、金属不活性剤については0.005〜1%、消泡剤については0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(シールリングの作製)
〔1〕シールリングA
テトラフロオロエチレンモールディングパウダー(旭硝子製 G−163、融点:327℃)67vol%に、グラファイト粉末(エスイーシー製 SGL、平均粒径:3μm)を21vol%、炭素繊維(呉羽化学工業製 クレカチョップM−2007S、繊維直径:14.5μm、繊維長:90μm)を12vol%配合し、これらの粉末をミキサーで混合した後、50MPaの成形圧で円筒形に予備成形し、その後電気炉中で350〜400℃の温度で3時間焼成した。
焼成されたフッ素樹脂組成物を旋盤で図2に示す寸法・形状のシールリングに加工した。加工後、シールリング側面を研磨して表面粗さをRa=2μmとした。
次に、プラズマCVD装置に上記シールリングを入れ、真空に引いた後、H2プラズマにより成膜面であるシールリング側面を洗浄した後、CH4プラズマによりDLCを成膜した。なお炭素薄膜の膜圧は0.2〜0.3μmとした。
【0057】
〔2〕シールリングB
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス 450G、融点:343℃)65vol%に、炭素繊維(呉羽化学工業製 クレカチョップM−2007S、繊維直径:14.5μm 繊維長:90μm)を25vol%、及びテトラフロオロエチレンモールディングパウダー(旭硝子製 G−163)を10vol%配合し、押し出し機を用いて混練・造粒した。造粒したペレットを射出成型機を用いて図2に示す寸法・形状のシールリングに成型した。
その後、上記と同様の操作を繰り返して、シールリング側面を研磨した後、DLCを成膜した。
【0058】
〔3〕シールリングC
上記シールリングAと同一の材料をミキサーで混合した後、同様の操作を繰り返して予備成形及び焼成し、旋盤により同様の寸法・形状のシールリングに加工した後、シールリング側面を研磨して表面粗さをRa=2μmとし、硬質炭素薄膜のないシールリングCを得た。
【0059】
〔4〕シールリングD
上記シールリングBと同一の材料を配合し、同様の操作を繰り返してペレットに造粒し、射出成形機により同様の寸法・形状のシールリングに成型した後、シールリング側面を研磨して表面粗さをRa=2μmとし、硬質炭素薄膜のないシールリングDを得た。
【0060】
(作動油の調整)
〔1〕作動油A
ベースオイルとしてのポリアルファオレフィン(1−オクテンオリゴマー)に、エステル系無灰摩擦調整剤としてグリセリンモノオレートを1.0%、無灰系分散剤としてポリブテニルコハク酸イミドを5.0%、その他添加剤として粘度指数向上剤、酸化防止剤、防錆剤、抗乳化剤、非イオン系界面活性剤、金属不活性化剤、消泡剤等を合計で7.0%それぞれ添加し、作動油Aとした。
【0061】
〔2〕作動油B
ベースオイルとしてのポリアルファオレフィン(1−オクテンオリゴマー)のみから成る作動油を調整し、作動油Bとした。
【0062】
(性能評価)
本発明の摺動特性改善効果を確認するため、上記シールリングA〜Dの摩耗試験を上記作動油A及びBと組合わせて実施した。摺接する相手材としては近年における軽量化の要求から自動変速機の軸部材等に使用されつつあるアルミダイキャスト材(ADC−12)を選定し、試験装置に取り付ける当該アルミダイキャスト材から成る試験片の形状は、直径60mm、厚さ10mmのディスク形状とし、摺接面の表面粗さはRa=1μm程度とした。
【0063】
この摩耗試験に使用した縦型ピンオンディスク方式の摩擦摩耗試験機の概要を図3に示す。
当該試験機は、上部にリングホルダー41を有し、このリングホルダー41は、摺動時にシールリング10の径方向の移動が生じないように、シールリング内周面11側に設置したスナップリング42のバネ力によって、シールリング外周面13をリングホルダー41の溝部に押し付けて固定するようになっている。
一方、当該試験機の下部には回転軸43に結合されたディスクホルダー44を備え、ADC−12材から成る上記ディスク45をディスクホルダー44にボルトで固定すると、ディスク45はシールリング10に対して回転自在となる。次に、リングホルダー41を下降させることでシールリング10とディスク45を摺接関係とさせ、さらにリングホルダー41の軸線方向から圧力Pを加えることによって、シールリング10とディスク45とが圧接することになる。この際、シールリング10とディスク45の摺接部は、自動変速機用作動油O(すなわち、作動油A又はB)中に浸漬されている。なお、符号46はロードセル、符号47はトルク検出器を示している。
【0064】
上記試験機を用いて、圧接面圧:4MPa、摩擦速度:10m/秒、試験時間:6時間の試験条件で行った摩耗試験の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、矩形状断面を備えたリング状をなすシールリングの内周面、外周面、及び両側面のうちの少なくとも相手部材との摺接面にDLCなどのような硬質炭素薄膜による被覆を施したものであって、特定の無灰摩擦調整剤を含有する作動油中において相手部材と摺接するものであるから、高面圧の摺動条件下においても摺接部の摩擦トルクを有効に低減させることができると共に、相手部材がアルミニウム合金等の非鉄軽量金属であっても、相手部材を摩耗させることがなく、長期間シール性を確保することができ、自動車部品を始めとする各種機械装置の軽量化にも大きく寄与するという極めて優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のシールリングを組み込んだ自動車用自動変速機の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例において摩耗試験に用いたシールリングの形状を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例において摩耗試験に用いた縦型ピンオンディスク方式の摩擦摩耗試験機の概略図である。
【符号の説明】
10 シールリング
11 内周面
12,14 側面
13 外周面
20 ハウジング
22 ハウジングの内周面
30 軸部材
31 シールリング溝
Claims (11)
- 半径方向内側に面した内周面と、半径方向外側に面した外周面と、軸方向両側に面した両側面を有する矩形状断面を備えたリング状をなし、ハウジング内に相対回転自在に支持される軸部材の外周に設けた環状のシールリング溝に装着され、油圧の作用に応じて一方の側面が上記シールリング溝の側面に、外周面が上記ハウジングの内周面にそれぞれ圧接されて作動油の油圧を保持する作動油密閉用のシールリングであって、
上記作動油が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有すると共に、上記シールリングの内周面、外周面及び両側面のうちの少なくとも相手部材との摺接面に硬質炭素薄膜による被覆が施してあることを特徴とするシールリング。 - 上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が炭素数6〜30の炭化水素基を有し、作動油中に作動油全量基準で0.05〜3.0%含まれていることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
- 上記作動油がポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のシールリング。
- 上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量が作動油全量基準で0.1〜15%であることを特徴とする請求項3に記載のシールリング。
- 上記作動油がジチオリン酸亜鉛を含有し、その含有量が作動油全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のシールリング。
- 上記硬質炭素薄膜がプラズマCVD法により成膜されたダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のシールリング。
- 母材が250℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含んでいることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のシールリング。
- 上記熱可塑性樹脂が、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂から成る群より選ばれた少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項7に記載のシールリング。
- 請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のシールリングを用いた油圧シール装置であって、少なくとも当該シールリングとの摺接面の表面粗さがRaで2μm以下であることを特徴とするシール装置。
- 少なくとも上記シールリングとの摺接面に非鉄金属が含まれていることを特徴とする請求項9に記載のシール装置。
- 熱可塑性樹脂を含有し、半径方向内側に面した内周面と、半径方向外側に面した外周面と、軸方向両側に面した両側面を有する矩形状断面を備えたリング状をなす母材の少なくともいずれかの面に、プラズマCVD法によってダイヤモンドライクカーボンを成膜することを特徴とするシールリングの製造方法。
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