JP2005028834A - 液体吐出ヘッド及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】バリア層とシートとの接着面の剥離を防止し、信頼性の高いヘッドを得る。
【解決手段】発熱抵抗体13を配した基板14上に、インク液室12をパターニング形成したバリア層16が設けられ、バリア層16上に、ノズル18を形成したノズルシート17が設置されており、少なくともバリア層16に対するノズルシート17の設置部分が、金属酸化膜19で被膜されている。金属酸化膜19は、例えばクロム酸化膜、又はクロム合金酸化膜であり、ノズルシート17上に、スパッタリング等により成膜する。
【選択図】図1

Description

本発明は、液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。詳しくは、基板上に設けられ、液室がパターニング形成されたバリア層と、ノズルが形成されたシートとの剥がれを防止した液体吐出ヘッド及びその製造方法に係るものである。
従来、液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンタにおいては、通常、ノズルが直線状に並べられたインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)を備えている。そして、このヘッドの各ノズルから、ノズル面に対向して配置された印画紙等の被記録媒体に向けて微小なインクの液滴を順次吐出することにより、略円形のドットを縦横に形成し、点画として画像や文字を表現している。
ここで、インクの吐出方式の1つとして、熱エネルギーを用いてインクを吐出させるサーマル方式が知られている。
このサーマル方式のインク吐出装置は、液体としてのインクを収容するインク液室と、インク液室内に設けられたエネルギー発生素子としての発熱抵抗体と、インクを液滴として吐出するノズルとを備えている。そして、インクを発熱抵抗体で急速に加熱し、発熱抵抗体上のインクに気泡を発生させ、気泡発生時のエネルギーによって、インクの液滴をノズルから吐出させている。
また、インクの吐出方式として、静電吐出方式も知られている。
静電吐出方式は、エネルギー発生素子として、サーマル方式の発熱抵抗体に代えて、振動板と、この振動板の下側に、空気層を介した2つの電極を設けたものである。そして、両電極間に電圧を印加し、振動板を下側にたわませ、その後、電圧を0Vにして静電気力を開放する。このとき、振動板が元の状態に戻るので、その際の弾性力を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
さらに、インクの吐出方式として、ピエゾ方式も知られている。
ピエゾ方式のエネルギー発生素子は、両面に電極を有するピエゾ素子と振動板との積層体を用いたものである。そして、ピエゾ素子の両面の電極に電圧を印加すると、圧電効果により振動板に曲げモーメントが発生し、その結果振動板がたわみ、変形する。したがって、この変形を利用することで、インクの液滴を吐出させている。
一方、ヘッド構造の観点からは、ヘッドを被記録媒体の幅方向に移動させて印画を行うシリアル方式と、多数のヘッドを被記録媒体の幅方向に並べて配置し、印画幅分のラインヘッドを形成したライン方式とが挙げられる。
ライン方式においては、被記録媒体の全幅にわたるヘッドを、シリコンウエハやガラス等で一体に形成することは、製造方法、歩留まり問題、発熱問題、コスト問題等、様々な問題があって、現実的ではない。
このため、小さなヘッド(これにも様々な制約があり、大きくてもノズルの並び方向の長さが1インチ以下程度が実用的な限界である。)を、端部同士が繋がるように複数並設して、それぞれのヘッドに適当な信号処理を行うことにより、被記録媒体に印画する段階で、被記録媒体の全幅にわたる記録を行うようにしている。
ところで、前述したような各種のインク吐出方式で、ライン方式やシリアル方式のヘッドは、エネルギー発生素子を配した基板上に、液室をパターニング形成したバリア層を設け、このバリア層上に、ノズルを形成したシートを設置して製造される。例えば、最初に、エネルギー発生素子を、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら、Si・ガラス・セラミックス等の基板上に形成する。次に、この基板上に感光性樹脂層を形成し、感光性樹脂層の一部を露光した後、未露光部分を除去することにより液室をパターニング形成し、バリア層とする。最後に、ノズルを形成したニッケル製のシートを、ノズルとエネルギー発生素子との位置が合うように、バリア層上に貼り合わせるのである。
ここで、バリア層とシートとは、バリア層を構成する感光性樹脂自体の自己接着性や、感光性樹脂の熱硬化性又は熱可塑性を利用し、外部から、熱・圧力等といった何らかの適当な手段を加えることによって貼り付けられている。
しかし、このようにして製造されたヘッドは、バリア層とシートとの接着面にインクが接する可能性が高く、この接着面にインクの各種含有成分や主成分である水分が浸透し、その結果、加水分解等の化学的メカニズムによって、接着面の剥離が生じることが多かった。
そのため、ニッケル製のシートの表裏全面に金メッキを施し、エポキシアクリレート等の材料からなるバリア層との接着面に、スパッタリング等の方法でタンタルをコーティングして接着性改善層とする手法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、金メッキを施すのではなく、ポリ−P−キシリレンをニッケル製のシートの表裏全面にコーティングし、撥水性を持たせた上で、樹脂製のバリア層との接着面に、スパッタリング等の方法でタンタルをコーティングして接着性改善層とする手法も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
米国特許第5493320号明細書 特開平9−193404号公報
しかし、前述した従来のシート貼り付け方法では、以下の問題点があった。
すなわち、この製造方法において接着性改善層を形成するタンタルは、材料自体が非常に活性なものであることから、コーティングの最表面が容易に変質してしまう。そのため、タンタル自体をそのまま接着性改善層とすることは困難で、接着性改善層が意図したものと異なってしまっていた。
一方、バリア層との接着面のタンタルを変質させないようにすることは工程的に難しく、生産性を悪化させる原因となってしまう。
つまり、現状ではバリア層とシートとの接着面の剥離防止に対して最適な手法が得られておらず、接着面にインクが接する可能性が高いヘッドの信頼性向上のために、剥離対応策の確立が急務となっているのである。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、バリア層とシートとの恒久的な剥離防止を図り、例えばこのヘッドをインクジェットプリンタに使用することで、美麗な印字・印画能力を最大限に引き出し、かつ、長期にわたり高い信頼性を得ることができるようにすることである。
また、バリア層とシートとの接着面の剥離を防止し、信頼性の高いヘッドを得ることができる製造方法とすることである。
本発明は、以下の解決手段によって、上述の課題を解決する。
本発明の1つである請求項1に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドであって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、前記液室をパターニング形成したバリア層が設けられ、前記バリア層上に、前記ノズルを形成したシートが設置されており、少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分が、金属酸化膜で被膜されていることを特徴とする。
上記の発明においては、少なくともバリア層に対するシートの設置部分が、金属酸化膜で被膜されている。
この金属酸化膜は、バリア層とシートとの接着性を改善するものであり、酸化膜であることから環境への暴露は問題とならず、シート表面に形成された緻密な金属酸化膜がバリア層との間に介在することで、バリア層とシートとの密着性が向上する。
したがって、長期間にわたって液体に浸漬されても、バリア層とシートとの間で界面剥離を起こすことがなくなる。
また、本発明の他の1つである請求項6に記載の発明は、吐出すべき液体を収容する液室と、前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記エネルギー発生素子を配した基板上に、前記液室をパターニング形成したバリア層を設ける工程と、前記バリア層上に、前記ノズルを形成したシートを設置する工程とを有し、前記シートを設置する前に、少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分を金属酸化膜で被膜しておくか、又は少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分に金属膜を形成し、前記金属膜を金属酸化膜で被膜しておくことを特徴とする。
上記の発明においては、バリア層上にシートを設置する前に、少なくともバリア層に対するシートの設置部分を金属酸化膜で被膜しておくか、又は少なくともバリア層に対するシートの設置部分に金属膜を形成し、この金属膜を金属酸化膜で被膜しておく。
したがって、バリア層とシートとの間には、緻密な金属酸化膜層が介在することとなり、剥離が防止される。
なお、本発明において、バリア層には液室がパターニング形成されるが、「パターニング形成される液室」とは、必ずしも液室の全体を指すものではなく、少なくとも液室の一部を構成する部分を指すものである。
例えば下記の実施形態において、液室の実施形態に対応するインク液室12では、基板14及び発熱抵抗体13がインク液室12の底壁を構成し、密着性向上層15及びバリア層16がインク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17(金属酸化膜19)がインク液室12の天壁を構成している。そして、密着性向上層15とバリア層16(インク液室12の側壁を構成する部分)がパターニング形成されるものである。
本発明の液体吐出ヘッドによれば、少なくともバリア層に対するシートの設置部分が金属酸化膜で被膜されているので、バリア層とシートとの剥がれが防止され、耐久性が向上し、長期間にわたり高い信頼性を得ることができる。特に、本発明の液体吐出ヘッドをインクジェットプリンタのヘッドに適用した場合には、その性能を十分に発揮することができ、インクジェットプリンタが本来持つ美麗な印字・印画能力を最大限に引き出せるものとなる。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本発明における液体吐出ヘッドは、下記実施形態のインクジェットプリンタ用のヘッド11又はラインヘッド10に相当し、液体吐出装置はインクジェットプリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)に相当する。また、液体としてインクを使用し、インクを収容する液室がインク液室12で、ノズル18から吐出される微少量(例えば数ピコリットル)のインクがインク液滴である。
さらにまた、エネルギー発生素子として発熱抵抗体13を使用しており、この発熱抵抗体13はインク液室12の一面(底壁部分)をも構成している。そして、発熱抵抗体13によってインク液室12中のインクが急速に加熱され、気泡が発生し、インク液滴を吐出する。
さらに、本明細書において、1つの液室と、この液室内に配置されたエネルギー発生素子と、このエネルギー発生素子の上部に配置されて液滴の吐出口となるノズルとを含む部分を、「液体吐出部」と称する。すなわち、液体吐出ヘッドは、複数の液体吐出部を並設したものといえる。
なお、本発明に係る液体吐出ヘッドは、下記実施形態に限定されるものでないことはいうまでもない。
(ヘッド構造)
図1は、本発明の方法により製造されたヘッド11を示す部分斜視図であり、図2は、図1におけるノズル18の列中心を通る垂直面の断面図である。
図1及び図2に示すヘッド11において、基板14は、シリコン等からなる半導体基板であって、その一方の面には、半導体プロセスを用いて析出形成された微細な発熱抵抗体13を備えている。この発熱抵抗体13は、基板14上に形成された導体部(図示せず)を介して外部回路と電気的に接続されている。
また、密着性向上層15は、基板14の発熱抵抗体13が形成された側の面に設けられたものである。この密着性向上層15は、基板14の上面全体に感光性樹脂を積層し、感光性樹脂層の一部(発熱抵抗体13が存在しない部分)を露光した後、未露光部分を除去することによりパターニング形成され、その後、加熱や活性エネルギー線の照射により架橋されている。なお、密着性向上層15は、基板14とバリア層16との剥離を防止するものであり、両者の密着性が確保されている場合には省略しても良い。
さらに、バリア層16は、密着性向上層15の上に設けられたものである。このバリア層16も、密着性向上層15の上面全体に感光性樹脂を積層し、この感光性樹脂層の一部(密着性向上層15が存在する部分)を露光した後、未露光部分を除去することによりパターニング形成されている。なお、密着性向上層15が省略された場合には、基板14の上に直接設けられることとなる。
さらにまた、ノズルシート17は、複数のノズル18が設けられたものであり、例えばニッケルによる電鋳技術により形成されている。そして、ノズルシート17の裏面が金属酸化膜19で被膜されており、ノズル18の位置が発熱抵抗体13の位置と合うように、すなわち、ノズル18が発熱抵抗体13に対向するように精密に位置決めがなされ、ノズルシート17の金属酸化膜19とバリア層16とが貼り合わされる。その結果、ノズルシート17とバリア層16との間に金属酸化膜19が介在することとなり、剥離が防止される。なお、図2に示すノズルシート17では、金属酸化膜19がノズル18の内面まで被膜されているが、少なくともバリア層16に対する設置部分が被膜されていればよい。
インク液室12は、発熱抵抗体13を囲むように、基板14、密着性向上層15、バリア層16及びノズルシート17の金属酸化膜19から構成されている。すなわち、基板14及び発熱抵抗体13は、図1及び図2中、インク液室12の底壁を構成し、密着性向上層15及びバリア層16は、インク液室12の側壁を構成し、ノズルシート17の金属酸化膜19は、インク液室12の天壁を構成する。これにより、インク液室12は、図1中、左下方面に開口領域を有することとなり、この開口領域とインク流路(図示せず)とが連通される。
上記の1個のヘッド11には、通常、100個単位の規模で、インク液室12と、各インク液室12内にそれぞれ配置された発熱抵抗体13と、各発熱抵抗体13上に位置するノズル18とから構成される液体吐出部が複数並設される。そして、プリンタの制御部からの指令によってこれら発熱抵抗体13のそれぞれを一意に選択することで、発熱抵抗体13に対応するインク液室12内のインクを、そのインク液室12に対向するノズル18からインク液滴として吐出させることができる。
すなわち、ヘッド11と結合されたインクタンク(図示せず)からインクが供給され、インク液室12にインクが満たされる。そして、発熱抵抗体13に短時間、例えば1〜3μsecの間パルス電流を流すことにより、発熱抵抗体13が急速に加熱され、その結果、発熱抵抗体13と接する部分に気相のインク気泡が発生し、そのインク気泡の膨張によってある体積のインクが押しのけられる(インクが沸騰する)。これによって、ノズル18に接する部分の上記押しのけられたインクと同等の体積のインクが、インク液滴としてノズル18から吐出され、被記録媒体である印画紙上に着弾し、ドットが形成される。
さらに、本実施形態では、複数のヘッド11を被記録媒体の幅方向に並べて、ラインヘッドを形成している。
図3は、ラインヘッド10の一実施形態を示す平面図である。図3では、4つのヘッド11(「N−1」、「N」、「N+1」及び「N+2」)のみを図示している。
ラインヘッド10を形成する場合には、図1中、ヘッド11からノズルシート17を除く部分(ヘッドチップ)を複数並設する。そして、これらのヘッドチップの上部であって、全てのヘッドチップの各インク液室12に対応する位置に、ノズル18が形成された1枚のノズルシート17を貼り合わせることにより、ラインヘッド10を形成する。
ここで、各ヘッド11の配置は、隣接するヘッド11の各端部にあるノズル18同士のピッチ、すなわち、図3中のA部詳細図における、N番目のヘッド11の右端部にあるノズル18と、N+1番目のヘッド11の左端部にあるノズル18との間の間隔が、ヘッド11のノズル18間の間隔に等しくなるようにしてある。
また、このようなラインヘッド10を必要数だけノズル18の並び方向と直交する方向に並べてヘッド列を構成し、ヘッド列ごとに異なる色のインクを供給することで、カラー印画に対応させることもできる。
このようなラインヘッド10を備えるプリンタでは、シリアル方式のものに対し、ラインヘッド10を被記録媒体の幅方向に移動させる走査機構が不要となるので、走査時間が必要なくなる。そのため、印画時間の短縮化に大きく寄与することとなり、このラインヘッド10を搭載したプリンタの付加価値を大きく高めるものとなる。
ここで、多数の液体吐出部を並設した場合には、液体吐出部の吐出特性、例えばインク液滴の吐出方向が液体吐出部ごとに不揃いとなることがある。また、ラインヘッド10のように複数のヘッド11を並設した場合には、ヘッド11ごとの液体吐出部の吐出特性が不揃いとなることがある。すると、このような不揃いがインク液滴の着弾位置ずれとなって表れる。
そこで、既に本件出願人によって提案されている技術(例えば、特願2003−55236)のように、1つのインク液室12内に複数の発熱抵抗体13を設け、複数の発熱抵抗体13へのエネルギーの供給の仕方を変えることによって、インク液滴の吐出方向を複数の方向に可変とし、インク液滴の着弾位置を調整することが好ましい。
なお、本実施形態では、サーマル方式の吐出構造として発熱抵抗体13を設けたものを例に挙げたが、エネルギー発生素子は発熱抵抗体に限らず、他の発熱素子(抵抗以外のもの)であっても良く、さらに、静電吐出方式やピエゾ方式のものについても適用可能である。
また、ライン方式だけでなくシリアル方式にも適用でき、しかも、プリンタのみならず、種々の液体吐出装置に適用できるものであり、例を示せば、染め物に対する染料の吐出や、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置等に適用することも可能である。
(ヘッド製造方法)
次に、上記ヘッドを製造する方法の一実施形態について説明する。
図4から図6は、ヘッドの製造方法を工程ごとに順序立てて説明したものであり、図4に示す工程1では、まず、発熱抵抗体13が作り込まれた基板14を準備する。
この発熱抵抗体13は、先にも説明した通り、エネルギー発生素子であってインクに気泡を生じさせるものであり、シリコン、ガラス、セラミックス等の基板14の上に、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を使用しながら作り込まれている。
続く工程2では、基板14上に、図1及び図2に記載された密着性向上層15を構成する感光性樹脂を塗布し、厚さ1μm以下の薄い感光性樹脂層21を形成する。
この感光性樹脂としては、半導体・ディスプレイ製造用に多種上市されているフォトレジストや、感光性層間絶縁材料、メッキ用マスクとして上市されているドライフィルムレジスト、プリント基板用途等に上市されている各種の感光性材料、印刷用製版等に用いられる感光性材料等の様々な種類のものの中から、最適なものを選定することが可能である。一例としては、カチオン重合系エネルギー線硬化樹脂組成成分(適正な分子量、シランカップリング剤等の適正な添加剤、光重合に寄与する適正な活性触媒、適正な量の溶媒等を最適な分量で配合したもの)からなる光硬化性のエポキシ樹脂等があげられる。
また、感光性樹脂の基板14への塗布方法としては、使用する基板14の形状によって様々な可能性が考えられるが、スピンコート、バーコート、カーテンコート、メニスカスコート、スプレイコート等の中から最適なものを選択すればよい。この場合、感光性樹脂を液体状態として供給する必要があることは言うまでもない。なお、感光性樹脂の塗布後に、樹脂溶液中に含まれる溶剤を、しかるべき加熱(ベーキング)方式にて基板14を加熱することにより、揮散させる工程を導入しても差し支えない。
工程3では、感光性樹脂層21に、しかるべき形状のパターンを描いたフォトマスク31を介して、感光性樹脂を感光するに最適な波長帯の放射光32を持った露光機(図示せず)による露光を行う。
露光機には、マスクと形成されるパターンとが1:1になるコンタクトアライナーやミラープロジェクションアライナー等を用いても良いし、マスクが実際に形成されるパターンよりも大きく、同じパターンを基板上に複数回繰り返し露光(ステップ&リピート露光)するステッパー等を用いても良い。なお、露光後に露光された部分のパターニング特性を向上させたり、感光性樹脂が酸発生剤を利用してパターニングしたりするものである場合には、露光後に、ベークする工程を追加しても差し支えない。
工程4では、工程3にて露光した感光性樹脂層21を所定の現像液で現像し、未露光部分を除去することによって基板14上に密着性向上層15を形成する。すなわち、工程3及び工程4により、インク液室12の一部を構成している密着性向上層15がパターニング形成される。
現像液は、使用する感光性樹脂によって異なるが、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)やモノエタノールアミン等の水溶液、各種有機溶剤等が一般的に使用される。
また、現像後には、必要に応じ、残留現像液の置換や表面洗浄を目的として、所定のリンス液や水(純水やイオン交換水)でリンスすることも可能である。さらにその後、基板14の表面に残った水分や溶媒を揮散させるための加熱や、スピンナーを使用した振り切り乾燥、真空チャンバーによる真空乾燥、大気中や窒素雰囲気中での自然放置を行っても良い。
工程5では、工程4にて形成された密着性向上層15を加熱源33によって加熱し、十分に架橋する。
ここで、加熱源は特に限定されないが、例えば、ホットプレートによるダイレクト加熱、クリーンオーブンやランプ加熱炉等による雰囲気加熱、高周波を使用した誘導加熱等が使用可能であり、好適には、ホットプレートやクリーンオーブンが使用される。
また、上記の加熱源の代わりに、活性エネルギー線を照射して、密着性向上層15を十分に架橋することもできる。
活性エネルギー線としては、例えば、各種波長の紫外線や赤外線、低加速の電子線等が挙げられるが、密着性向上層15の原材料となった感光性樹脂に含まれる感光剤が活性化し、架橋反応を十分に進められるものであれば何でも良い。なお、加熱源や活性エネルギー線は、各々単独で使用しても良いし、必要な種類を必要なタイミングで併用しても全く問題ない。また、活性エネルギー線照射の雰囲気は、使用した感光性樹脂の種類によって適宜選択する必要があるが、大気雰囲気、窒素雰囲気(又は酸素遮断雰囲気)、真空雰囲気のいずれを選択しても良い。
この工程5を経ることにより、基板14と強い密着性を持ち、インク等の液体によっても犯されることのない、十分に架橋された密着性向上層15が形成されることとなる。そのため、後述する工程9にてダイシングされた際に、水の影響を受けることがなくなる。
ここで、「十分な架橋」とは、ダイシング時の水や、吐出に使用する液体(インク等)に対して耐性を有することを意味する。具体的には、形成された密着性向上層15の架橋前の重量に対し、ダイシング時の水や使用する液体に、24時間浸漬した後の重量減少率が0.3%以下であるか、浸漬後の表面を光学顕微鏡で観察した際に、溶出跡と見られる干渉縞が観察されない程度を言う。そして、このような十分な架橋が得られるように、密着性向上層15の厚さ等によって、加熱時間や活性エネルギー線の照射時間等を調整する。
なお、密着性向上層15は、基板14とバリア層16との剥離を防止するものなので、バリア層16の材料自体が基板14と十分な密着強度を確保できるものならば密着性向上層15を省略でき、その場合は工程2〜5が不要となる。
図5に示す工程6では、工程5にて形成した密着性向上層15上に、別途、樹脂材料を塗布する。工程6で使用する樹脂材料は、バリア層を形成できるものであれば特に限定されないが、感光性樹脂が好適であり、本実施形態では、感光性樹脂を塗布し、感光性樹脂層22を形成している。
この感光性樹脂としては、前述した工程2と同様に、様々な種類の感光性樹脂の中から最適なものを選定することが可能であるが、一例としては、環化イソプレンを主成分とし、これに感光剤や各種添加物(レベリング剤、シランカップリング剤等)を同時に適正量含有させ、これをまた適正量の溶媒等で希釈した、ネガレジスト等の感光性樹脂が挙げられる。
また、塗布方法も、工程2に準じて、スピンコート、バーコート、カーテンコート、メニスカスコート、スプレイコート等の中から最適なものを選択すればよい。さらに、工程2と同様、塗布後に加熱して、樹脂溶液中の溶剤を揮散させても良い。
工程7では、これも工程3と同様、感光性樹脂層22に、しかるべき形状のパターンを描いたフォトマスク34を介して、感光性樹脂を感光するに最適な波長帯の放射光35を持った露光機(図示せず)による露光を行う。露光範囲は、下層の密着性向上層15に積層された部分であって、密着性向上層15と50%以上が重なるようにする。なお、具体的な露光機の種類、露光方法、及び露光後のベークの必要性等は、工程3に準じる。
工程8では、工程7にて露光した感光性樹脂層22を所定の現像液で現像し、未露光部分を除去することによって密着性向上層15上にバリア層16を形成する。すなわち、工程7及び工程8により、インク液室12の一部を構成しているバリア層16がパターニング形成される。なお、現像液や、現像後に必要な処理等は工程4に準じるが、感光性樹脂として、上記の環化イソプレンを主成分とするものを用いた場合には、キシレン含有溶剤やイソパラフィン系炭化水素等の溶剤が現像液に使用される。
このように、工程1〜8にて基板14上に密着性向上層15及びバリア層16が形成される(以下、これらを「基板14」で代表させる。)が、この基板14は、後述する工程9にてダイシングされ、適当な大きさに切り分けられる。
すなわち、図6に示す工程9では、工程8を経た基板14をダイサー(図示せず)のステージ上にセットし、切削水42を適宜流しながら、ダイヤモンドブレード(ダイシングブレード)41を高速で回転させ、チップ61のカットラインに沿って基板14を切断する。
この際、密着性向上層15は十分に架橋されていることから、切削水42によって基板14と密着性向上層15とが剥離してしまうことはない。また、バリア層16を構成する感光性樹脂は、後述する工程10にてノズルシートを貼り付けたりする最終キュア前の状態であるが、密着性向上層15と感光性樹脂同士の関係にあるので、バリア層16が剥がれてしまうこともない。
工程10では、工程9にてダイシングされた基板14のバリア層16の上に、ノズルシート17を貼り付ける。
この貼り付けプロセスでは、基板14上の発熱抵抗体13と、ノズルシート17のノズル18とを正確に位置合わせした上で行う。この位置合わせが不正確であると、このヘッドをプリンタに使用した場合、インクの吐出角度が不正確になったりインクの吐出に不具合が生じることがあり、プリンタ本来の美麗な印字・印画能力が最大限に引き出せなくなる。
ところで、ノズルシート17の裏面には、金属酸化膜19が被膜されている。金属酸化膜19は、バリア層16との密着性を向上させ、接着性を改善するものであり、金属酸化膜19の介在によってノズルシート17とバリア層16との剥離が防止される。この金属酸化膜19は、ノズルシート17自体の自然酸化膜であっても良いが、別途成膜することもできる。
ノズルシート17に対する金属酸化膜19の成膜は、前述した工程1〜10とは別工程で行われる。そこで以下、金属酸化膜19を成膜したノズルシート17の詳細について説明する。
(ノズルシート構造)
図7は、図2におけるノズルシート17のノズル18近辺を拡大して示す断面図であり、金属酸化膜19のバリエーションを示すものである。
すなわち、図7(a)に示すノズルシート17は、ノズル18の内面を含む裏面に、金属成膜層19a−1が形成され、その上に、この金属成膜層19a−1の酸化膜層19a−2が形成されている。
ここで、金属成膜層19a−1には、ノズルシート17に対する高い密着性やノズルシート17上での高い膜厚均一性が必要とされ、ノズルシート17にニッケル製のものを使用した場合等には、金属成膜層19a−1としてクロムを使用することで、下地であるニッケルと高い密着性を得ることができる。
また、金属成膜層19a−1の形成に、スパッタリング・真空蒸着・イオンプレーティングのいずれかの方法を使用することによって、比較的簡単に高い膜厚均一性を得ることができる。
クロムの金属成膜層19a−1の形成にスパッタリングを使用した場合、金属成膜層19a−1上の酸化膜層19a−2は、クロムのスパッタリング終了後にノズルシート17を大気に戻すことで、大気中の酸素成分によって容易に形成でき、このようにして形成された酸化膜層19a−2は安定な膜となっている。また、金属成膜層19a−1の成膜終了前に、スパッタ用のガス(通常はアルゴンガス)に微量の酸素を添加することによって、さらに緻密な金属酸化膜を得ることも可能である。
また、図7(b)に示すノズルシート17は、ノズル18の内面を含む裏面に直接、金属酸化膜層19bを形成したものである。
すなわち、上記の図7(a)に示すノズルシート17では、先に形成した金属成膜層の上に後から酸化膜層を設けていたが、下地であるノズルシート17が酸化膜に対して十分な密着性をもった材料であるか、十分な密着性を有するような表面状態(例えば、成膜前処理を施して活性な表面を露出させた状態)である場合には、成膜の最初の段階から、金属を酸化させるための酸化性ガスを流しながら成膜することによって、下地であるノズルシート17上に図7(b)に示すような金属酸化膜層19bを直接形成することができる。
さらに、図7(c)に示すノズルシート17は、ノズル18の内面を含む裏面に、まず最初に金属膜を形成し、その後、膜の厚み方向で金属膜から金属酸化膜へと連続的に変化するようにしたものである。
すなわち、図7(c)に示すノズルシート17では、成膜開始時に形成された金属膜層19c−1が、半酸化膜層19c−2を経て除々に酸化していき、ついには酸化膜層19c−3となる傾斜成膜になっている。
図7(c)に示す傾斜成膜を得るには、通常のスパッタ装置やイオンプレーティング装置において、金属を酸化させるための酸化性ガスの流量を、0から順次必要流量まで連続的に変化させれば良い。なお、放電を安定させるために、電圧・電流をコントロールしたり、全圧を一定に保つために、他の使用ガス(例えばアルゴンガス等)の流量を酸化性ガスの流量に同期させて変化させたり、同様に全圧を一定に保つために、排気コンダクタンスを変化させたりしておく。
また、傾斜成膜を得る方法として、米国特許第5554519号明細書等に記載されたアンバランスドマグネトロンスパッタ・イオンプレーティング法や、これらの技術を応用したスパッタ装置(神戸製鋼所製 UBMS504等)を用いて、金属ターゲットと金属酸化膜ターゲットを使用し、それぞれの投入電力を同期させてコントロールする方法もある。
図7(c)に示す傾斜成膜(金属膜層19c−1 〜 半酸化膜層19c−2 〜 酸化膜層19c−3)によれば、膜の厚み方向における金属膜とその酸化膜との含有比率を連続的に変化させることが可能であり、金属膜層19c−1と酸化膜層19c−3の明確な界面が形成されない。そのため、金属膜と酸化膜という違う性質の膜が界面剥離することなく、安定な状態を保つことができる。
(ノズルシートの成膜方法)
次に、図8は、ノズルシートに成膜するスパッタ装置の概念を示す概略図である。
図8に示すスパッタ装置によってノズルシート17の成膜を行うには、まず最初に、金属成膜層の元材料であるターゲット51をスパッタチャンバー52内のカソード53に取り付ける。このカソード53は、外部の高圧電源54に接続されており、カソード53としては、スパッタレートと膜厚均一性を向上させるため、ターゲット51の裏面近傍にマグネット(図示せず)を持ったタイプのマグネトロンカソードが好適に使用される。
高圧電源54としては通常、直流(DC)電源と交流(RF)電源の2種類があるが、プロセス条件に合わせて、どちらを使用しても良い。ただし、ターゲット51に金属酸化膜ターゲットを使用する場合には、放電を維持するために、パルス直流(DC)電源又は交流(RF)電源を用いる必要がある。
なお、ターゲット51の表面クリーニングを行う際に、外部からのごみの付着を防止するため、ターゲット51の表面を覆うシャッター機構(図示せず)が取り付けられているスパッタ装置も多いが、この機能をプロセスの安定化のために使用することもできる。
一方、被スパッタ物であるノズルシート17は、スパッタチャンバー52内の下部電極55上にセットする。この際、バリア層に対する設置部分が上面になるようにすることは当然であるが、スパッタ成膜しない部分を必要に応じてマスキング(図示せず)したり、下面への回り込みを防止するため、何らかの回り込み防止冶具を使用することもできる。また、ノズルシート17の外周部を保持するため、基板ホルダー56を使用することもできる。さらに、プロセスの安定化のため、下部電極55には、スパッタ中の加熱が可能な基板ヒーター(図示せず)や、スパッタ前に表面クリーニングを行うためのスパッタエッチング用機構(図示せず)を使用することもできる。
その後、真空ポンプ57を使用してスパッタチャンバー52を真空に引く。真空ポンプ57としては、残留ガスによる膜質の劣化を考えると、スパッタチャンバー52内をできるだけ高真空にすべきなので、例えばクライオポンプや、クライオトラップ付きターボ分子ポンプ等の高真空対応ポンプが好適である。また、真空引きする際に、下部電極55に内蔵された基板ヒーター(図示せず)を使用してノズルシート17を加熱し、成膜に先んじて、表面に付着している水分が主な残留ガスを排出しておくことが好ましい。さらに、スパッタ成膜の前に、上記のスパッタエッチング用機構(図示せず)によって、ノズルシート17の表面をプラズマクリーニングしておくこともできる。
そして、所望の到達真空度(できるだけ高真空が良い)に達したことを確認してスパッタ成膜を行う。すなわち、MFC(MassFlowControler:ガス流量制御機器、図示せず)で最適な流量を設定した上で、プロセスガス導入管58からスパッタ用プロセスガスである高純度アルゴンガスをスパッタチャンバー52内に導入する。この際のガス流量と、スパッタチャンバー52内のスパッタガス圧力との関係は、スパッタチャンバー52の大きさや排気コンダクタンス、真空ポンプ57の排気量等によって大きく左右されるが、成膜材料がクロムである場合には、スパッタガス圧力が高めの方が膜ストレスが低く制御できる傾向があるため、ある程度排気コンダクタンスを絞るか、ガス流量を多少多めにして成膜した方が、膜の密着性等に有利に働く。
十分にスパッタチャンバー52内のスパッタガス圧力が安定したところで、高圧電源54からカソード53に通電する。この際、最初にターゲット51の表面を覆うシャッター機構(図示せず)を閉じておき(この状態ではスパッタ成膜は行われない)、ターゲット51の表面をクリーニングしても良い。そして、上記のシャッター機構を開け、被スパッタ物であるノズルシート17へのスパッタ成膜を開始する。
なお、スパッタパワーは、ターゲット51の材料によって成膜レートが極端に異なること、スパッタパワーが膜質に大きな影響を与えることから、一概には言えないが、所望の膜厚が20〜200nm、好ましくは50〜80nmであり、成膜する材料がクロムである場合には、スパッタパワーが低めの方が膜ストレスが低く制御できる傾向があるので、比較的低パワーでも放電が安定する領域であれば差し支えない。
カソード53に通電すると、プラズマ中のアルゴンイオンAr+はマイナス側の高電位をもったカソード53上のターゲット51に引き寄せられ、その質量の反動ではじき出されたターゲット材料原子59aがターゲット51に対向する位置にあるノズルシート17上に降り積もり、スパッタ膜59bが成膜される。なお、スパッタ膜59bの膜厚管理は、予めテストピース等を使用してスパッタレートを測定しておき、時間で管理しても良いし、成膜モニター等の装置を使用してリアルタイムでモニターし、実膜厚で管理しても良い。
そして、ターゲット材料原子59aによって所望の膜厚のスパッタ膜59bを成膜した後、高圧電源54を停止した上でスパッタ用プロセスガス(高純度アルゴンガス)を止め、下部電極55内の基板ヒーター(図示せず)も十分降温させてからスパッタチャンバー52を大気開放し、ノズルシート17を取り出す。
ここで、上記したスパッタ成膜では、アルゴンのみをスパッタ用プロセスガスとして使用していることから、スパッタ成膜は基本的に金属成膜層となる。そして、成膜材料がクロム等の活性金属である場合には、スパッタ成膜後に大気開放することによって、表面に簡単に不働態膜、すなわち自然酸化膜が形成される。なお、この酸化膜が緻密であればあるほど、有機系材料からなるバリア層との接着強度が増す。特に、成膜材料がクロムであると、酸化速度が大きく、かつ非常に安定な金属酸化膜となり、下地となるノズルシート17の材料がニッケルである場合には、クロムの金属酸化膜との密着性が非常に大きくなり、長期のインク浸漬等によっても、インク含有成分等により侵されることがなくなる。
また、スパッタ用プロセスガスに適量の酸素ガスを添加することによって、大気開放によって得られる不働態膜(自然酸化膜)よりもさらに緻密な酸化膜を形成することができる。すなわち、スパッタ開始当初は、アルゴンのみでスパッタを行ってバルク成膜をし、その後スパッタの途中(最後の数秒間)で適量の酸素ガスをアルゴンガスに添加することにより不働態層を連続形成し、意識的に良質の金属酸化膜層を形成することも可能である。なお、成膜の最初の段階から酸素を導入すれば、膜の厚み方向の全体を金属酸化膜とすることも可能である。
ところで成膜は、前述したスパッタリングではなく、真空蒸着によって成膜することもできる。真空蒸着は、成膜したい原材料を高真空中で電子ビーム等によって溶解し、そこから発生する金属蒸発原子を対向する基板に対して成膜する手法である。この方法によっても、蒸着後の大気開放によって、蒸着膜表面に不働態膜(自然酸化膜)を形成することができる。また、最初に高真空中でバルク成膜を行い、その後蒸着中に僅かな酸素成分を混入させることにより不働態層を連続形成し、意識的に良質の金属酸化膜層を形成することも可能であり、蒸着の最初の段階から酸素を導入すれば、膜の厚み方向の全体を金属酸化膜とすることも可能である。
さらに、他の成膜手法である、イオンプレーティングによって成膜することもできる。イオンプレーティングは、グロー放電と真空蒸着とを組み合わせたもので、真空蒸着と同様に高真空中で成膜したい原材料を溶解し、そこから発生する金属蒸発原子の一部を、RFコイル等によって励起されたプラズマ中を通過させることによってイオン化し、バイアス電圧を印加した基板に引き込んで成膜する手法である。この方法によっても、イオンプレーティング後の大気開放によって、膜表面に不働態膜(自然酸化膜)を形成することができる。また、最初に高真空中で金属成膜を行い、その後イオンプレーティング中に適当な量の酸素成分を混入させることにより不働態層を連続形成し、良質の金属酸化膜層を形成すること、成膜の最初の段階から酸素を導入し、膜の厚み方向の全体を金属酸化膜とすることも可能である。
次に、スパッタ膜を所望の部分のみ残して不用部分を取り除く、いわゆるパターニング方法について説明するが、その前に、ニッケル製のノズルシートを作製する場合の一般的な手法であり、選択的な孔形状が形成できる電鋳処理の手順について簡単に説明しておく。
電鋳処理においては、まず、マンドレルといわれるステンレス等の金属製板の上に、ノズル等の孔になる部分が選択的に残るように、メッキ用フォトレジストを塗布・パターニングする(ノズル工程1)。なお、この際に必要に応じて離型剤処理等を行ってもよい。
続いて、このマンドレルに電極板を取り付け、薬液槽に投入し、電鋳処理を行う(ノズル工程2)。なお、薬液は、スルファミン酸ニッケルメッキ浴の場合には、スルファミン酸ニッケル・塩化ニッケル・ホウ酸・応力調整剤・ピット防止剤等の混合液であり、ワイズベルグニッケルメッキ浴の場合には、硫酸ニッケル・塩化ニッケル・硫酸コバルト・ホウ酸・蟻酸ニッケル・硫酸アンモニア・ホルムアルデヒド等の混合液である。
薬液槽に投入して必要な膜厚が得られたところで電鋳処理を終了し、洗浄・乾燥等の後処理を行う(ノズル工程3)。そして、電鋳の型となっているフォトレジストを剥離液等の処理液で溶解し、その後さらに洗浄・乾燥を行う(ノズル工程4)。最後に、マンドレルから外して完成となる(ノズル工程5)。
このようにして作製されたノズルシートにスパッタ膜を成膜し、パターニングする。パターニング方法にはいくつかの手法があるが、ノズルの内面に対するスパッタ成膜の有りと無し、及びノズル内面以外の部分に対するパターニングの3つの手法について説明する。なお、スパッタリング以外の真空蒸着や、イオンプレーティングによって成膜した場合でも、何ら変わりはない。
ノズルの内面に対するスパッタ成膜の有無は、次のようにして作り分ける。すなわち、図9は、ノズル内面にスパッタ成膜がない場合の断面図である。
図9の工程1は、ノズルシート17の作製工程における上記のノズル工程3の時点の状態(ノズル型であるフォトレジスト23が残った状態)を示し、ノズル内面にスパッタ成膜がないようにするには、このノズル工程3の時点のものを使用する。
図9の工程1に示す状態のものにスパッタ成膜を行うと、ノズルシート17のノズル内部にはフォトレジスト23が充填されているので、図9の工程2に示すように、ノズル内部以外のノズルシート17上と、フォトレジスト23上にスパッタ膜59bが形成される。そのため、スパッタ成膜後にフォトレジスト23を剥離すれば、図9の工程3に示すように、ノズル18の内面にスパッタ膜59bがない状態になる。そして、マンドレル43を外せば、図10の工程4に示す完成形態となる。
一方、図10は、ノズル内面にスパッタ成膜がある場合の断面図である。
すなわち、図10の工程1は、ノズルシート17の作製工程における上記のノズル工程4の時点の状態(ノズル型であるフォトレジストを溶解した状態)を示すものである。この状態のものにスパッタ成膜を行うと、図10の工程2に示すように、ノズルシート17のノズル18の内面にまでスパッタ膜59bが形成される。そして、マンドレル43を外せば、図10の工程3に示すように、ノズル18の内面にスパッタ膜59bがある完成形態となる。
また、図11及び図12は、ノズル内面以外の部分に対するパターニングの手法を示す図である。
すなわち、図11に示す工程1は、図10の工程2に示すものと同じであり、ノズルシート17のノズル18の内面にまでスパッタ膜59bが形成された状態となっている。
図11の工程2では、工程1に示すノズルシート17の上に液状でポジ型のフォトレジスト24を回転塗布し、スパッタ膜59bの上面を全てフォトレジスト24で覆う。なお、フォトレジスト24は、液状のものではなくドライフィルムを使用することもできる。また、フォトレジスト24は、露光工程時に光が当たった場所が現像時に剥離除去される、いわゆるポジ型のものではなく、逆に光があたった場所が架橋されて現像液に不溶になる、いわゆるネガ型のものを使用することもできる。さらに、レジスト材料自体も、一般的なフェノールノボラック系のものであっても、電子線に反応するPMMA(ポリメチルメタアクリレート)系のものであっても良く、その後使用する露光光源の波長帯に合わせたものとする。さらにまた、塗布方法として回転塗布以外の方法(例えば、バーコートやカーテンコート、メニスカスコート等)を採用しても良い。
フォトレジスト24を塗布し、乾燥させた後は、工程3の露光工程に進む。この露光工程では、等倍型のフォトマスク36越しに活性エネルギー線37をフォトレジスト24に当て、パターニングを行う。ここで、露光に使用する光源は、使用するフォトレジスト24の感度にあった波長のものを使用する。なお、フォトマスク36のパターンがそのままフォトレジスト24上に転写される等倍型の露光ではなく、マスク画像が縮小されて転写される縮小露光方式としても良い。また、本例では図示していないが、露光終了後、必要に応じてPEB(ポストエクスポージャーベーク)と呼ばれる露光後加熱を行っても良い。
図12に示す工程4は、現像工程である。現像工程では、使用しているフォトレジストに適合した現像液38を使用し、不要な部分のフォトレジストを除去する。ここで、現像液38は、使用するフォトレジストによって異なるが、一般的には、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、モノエタノールアミン等の水溶液、各種有機溶剤等が使用される。なお、現像後には、残留現像液の置換や表面洗浄を目的として、必要に応じて所定のリンス液や水(純水やイオン交換水)でリンスしても良い。またその後、表面に残った水分や溶媒を揮散させるための加熱、スピンナーを使用した振切り乾燥、真空チャンバーによる真空乾燥、大気中や窒素雰囲気中での自然放置を行っても良い。
工程4によって不要な部分のフォトレジストが除去されると、工程5に示すように、レジストパターン25が形成される。その後、工程6で、表面に露出したスパッタ膜59bをエッチング除去する。
この工程6におけるエッチングは、塩素ガスや酸素ガスを用いたドライエッチングで、RIE(リアクティブイオンエッチング)装置内に、マンドレル43ごとスパッタ成膜され、その上にレジストパターン25が形成された工程5に示す状態のものを導入し、レジストパターン25越しに不要部分をエッチング除去する方法であり、半導体や電子部品の微細なパターンの形成に良く用いられる手法である。
また、工程6におけるエッチングとして、硝酸第2セリウムアンモン、過塩素酸(約70%)、純水等を混合したエッチング液を用いたウェットエッチングとすることもできる。このウェットエッチングは、専用のエッチング槽にエッチング液を入れておき、その中にレジストパターン25が形成された工程5に示す状態のものを導入し、レジストパターン25越しに不要部分をエッチング除去する方法である。
工程6によって不要な部分のスパッタ膜を除去した後は、レジストパターン25を剥離除去する工程7に進む。工程7では、レジストパターンを剥離除去するだけでなく、必要に応じて専用リンス液や純水によるリンス、乾燥工程も行い、その後マンドレル43を外して、ノズル18の内面以外の部分もパターニングされたスパッタ膜59bを有するノズルシート17が完成する。
完成したノズルシート17は、前述したように、図6に示す工程10でバリア層16の上に貼り付けられる。ノズルシート17の貼り付けには、熱・光・電子線・超音波及びこれらの1つ以上とプレス等の手段とを併用する。なお、ノズルシート17の貼り付けと同時に、バリア層16を構成する感光性樹脂を強固にするための最終キュアを行うこともできる。
このようにして、最終的に図1及び図2に示すヘッド11が製造されることとなり、このヘッド11を被記録媒体の幅方向に複数並べれば、図3に示すラインヘッド10が形成される。
(剥離試験)
このようにして作製された図1及び図2に示すヘッド11について、バリア層16とノズルシート17との剥離試験を行った。
剥離試験サンプルには、幅10mm×長さ20mmのチップを使用し、チップ上のバリア層16は、環化イソプレンを主成分として、感光剤や各種添加物(レベリング剤、シランカップリング剤等)を同時に適正量含有させた感光性樹脂である。
また、ノズルシート17は、Ni電鋳によって作製したシート厚みが15μmのノズルシート(母型付き)で、後述する実施例1〜6、及び比較例1、2の8種類を用意した。ここで、実施例5を除く、実施例1〜4、6、比較例1、2について、アネルバ製スパッタ装置L−440Sにてスパッタ成膜を行い、スパッタ成膜後、ノズルシート(母型付き)を装置から取り出し、その後ノズルシートを母型から剥がした。なお、ノズル18内へのスパッタ成膜は許容し、かつエッチング等によるパターニングは行っていない。
実施例1は、ノズルシート17にCrスパッタを行い、その後、大気放置して最表面をCrの自然金属酸化膜としたものである。
すなわち、実施例1のノズルシート17はCrを100nm成膜したもので、スパッタパワーはDCで1Kw、Arガス流量は10sccm、チャンバー内圧力は0.2Paとし、スパッタ成膜後、約2時間室内にて保管し、表面が自然酸化膜で十分安定するようにした。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Crスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Crの金属膜の最表面が10nm未満の金属酸化膜となっていることが認められた。
実施例2は、ノズルシート17にCrスパッタを行い、スパッタ中に最表面にCrの金属酸化膜を成膜したものである。
すなわち、実施例2のノズルシート17はCrを100nm成膜したもので、スパッタ成膜の最初の段階では、スパッタパワー、Arガス流量、チャンバー内圧力を実施例1と同一としているが、スパッタ成膜の最後の段階で一時的に成膜を中断し、スパッタチャンバー中に酸素ガスを10sccm導入してガス圧力を安定させた。このときのチャンバー内圧力は0.3Paである。その後、スパッタ成膜を再開し、連続してCrの酸化膜を約10nm程度成膜した。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Crスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Crの金属膜の表面側に連続して10nm程度の金属酸化膜が成膜されていることが認められた。
実施例3は、ノズルシート17にCrスパッタを行い、スパッタ成膜の最初からCrの金属酸化膜を成膜したものである。
すなわち、実施例3のノズルシート17はCrを100nm成膜したもので、スパッタパワーはRFで2Kw、Arガス流量は10sccm、酸素ガス流量は10sccm、チャンバー内圧力は0.3Paとし、スパッタ成膜の初期段階から厚み方向全体にCrの金属酸化膜を成膜した。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Crスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Ni下地の表面直上から最表面までほぼ均一なCrの金属酸化膜となっていることが認められた。
実施例4は、ノズルシート17にCrスパッタを行い、Crの金属膜と金属酸化膜との傾斜成膜としたものである。
すなわち、実施例4のノズルシート17はCrを100nm成膜したもので、スパッタパワーはRFで2Kw、Arガス流量は10sccm、チャンバー内圧力は0.3Paとし、スパッタ成膜の最初は酸素を流さずにCrの金属膜とし、途中から酸素ガスを除々に増加させて金属膜中の酸化膜の割合を除々に増やし、最終的に最表面に金属酸化膜を成膜した。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Crスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Ni下地の表面直上は純粋なCrの金属膜であるが、下地側から表面側に向けて金属膜中の酸素量が連続的に増加し、最表面では純粋なCrの金属酸化膜となっていることが認められた。
実施例5は、Ni電鋳からなるノズルシート17をそのまま大気放置し、最表面をNiの自然金属酸化膜としたものである。
すなわち、実施例5のノズルシート17はNi電鋳によって作製したノズルシート(母型付き)を準備し、その表面にスパッタ成膜を行わず、そのままノズルシートを母型から剥がし、約2時間室内にて保管し、表面が自然酸化膜で十分安定するようにした。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、ノズルシート最表面のNi組成についての分析したところ、非常に薄い金属酸化膜が形成されていることが認められた。
実施例6は、ノズルシート17にTaスパッタを行い、その後、大気放置して最表面をTaの自然金属酸化膜としたものである。
すなわち、実施例6のノズルシート17はTaを100nm成膜したもので、スパッタパワーはDCで2Kw、Arガス流量は10sccm、チャンバー内圧力は0.2Paとし、スパッタ成膜後、約2時間室内にて保管し、表面が自然酸化膜で十分安定するようにした。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Taスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Taの金属膜の最表面が10nm未満の金属酸化膜となっていることが認められた。
比較例1は、ノズルシート17にAuスパッタを行い、その後、大気放置したものである。
すなわち、比較例1のノズルシート17はAuを200nm成膜したもので、スパッタパワーはDCで0.5Kw、Arガス流量は10sccm、チャンバー内圧力は0.2Paとし、スパッタ成膜後、約2時間室内にて保管した。なお、AES(オージェ電子分光法)を使用し、Auスパッタ膜の厚み方向での膜組成について分析したところ、Auスパッタ膜には酸化膜の存在が認められなかった。
比較例2は、ノズルシート17にSiCスパッタを行い、その後、大気放置したものである。
すなわち、比較例2のノズルシート17はSiCを100nm成膜したもので、スパッタパワーはRFで2Kw、Arガス流量は50sccm、チャンバー内圧力は0.2Paとし、スパッタ成膜後、約2時間室内にて保管した。
そして、これらの実施例1〜6、及び比較例1、2のノズルシート17を、図6に示す工程10の通り、ノズル18と流路の必要部分のアライメントを取りながらバリア層16に熱圧着した。なお、圧着圧力は10Pa、圧着温度は150℃、時間は30分である。
次に、熱圧着したバリア層16とノズルシート17とからなる剥離試験サンプルを各実施例及び各比較例ともそれぞれ3個用意し、その中の2個を試験用インクに浸漬した。試験用インクは、純水、エチレングリコール、染料、有機溶剤、界面活性剤等からなる溶液である。また、試験用インクの温度は60℃と80℃の2種類とし、浸漬期間は4週間とした。したがって、剥離試験サンプルは、インク浸漬前のもの、60℃の試験用インクに4週間浸漬した後のもの、80℃の試験用インクに4週間浸漬した後のものの3個である。
この3個の剥離試験サンプルにつき、90度ピール剥離試験機を使用(レスカ社製ボンディングテスター PTR−1000 の試料台に専用冶具をセットして使用)し、各実施例及び各比較例について密着強度(剥離時の荷重)を測定した。なお、測定値には、測定結果の中で一番安定した部分の計測値の平均値を用いている。
実施例1〜6、比較例1、2の剥離試験結果を表1に示す。
ここで、表中の×印以外は剥離せず、実用上の問題がないレベルである。
Figure 2005028834
表1に示す通り、実施例1では、インク浸漬前の初期密着強度が70g/mm以上あり、60℃インクで4週間浸漬後の密着強度も50g/mm前後あり全く問題ない。また、80℃インクで4週間浸漬後の密着強度は35g/mm前後あり、実用上は十分なレベルである。
なお、上記の「実用上問題ないレベル」とは、約20000枚におよぶプリンターとしての連続印画試験において、印画物の品質低下が見られないことを示しているが、インク浸漬後の密着強度が20g/mm以上ある場合においては、上記の印画試験においては印画物の品質低下が確認されておらず、インク浸漬後に最低この密着強度が得られていれば、問題ないと考えられる。
また、実施例2では、インク浸漬前の初期密着強度が70g/mm以上あり、60℃インクで4週間浸漬後、及び80℃インクで4週間浸漬後の密着強度も50g/mm前後あり全く問題ない。
さらに、実施例3は実施例1と同等、実施例4は実施例2と同等の密着強度となっている。
実施例1〜4を比較すると、同じCrスパッタ膜であっても、自然金属酸化膜(実施例1)とするより、金属酸化膜を成膜(実施例2、実施例4)することで密着強度の低下をより一層抑えられることが判明した。また、金属酸化膜のみを成膜(実施例3)するより、金属膜の上に金属酸化膜を成膜(実施例2、実施例4)することで密着強度の低下をより一層抑えられることが判明した。
実施例5では、インク浸漬前の初期密着強度は70g/mm前後あるが、60℃インクで4週間浸漬後の密着強度は約50%低下し、80℃インクで4週間浸漬後の密着強度は約70%低下した。しかしながら、剥離は生じておらず、実用上は問題ないレベルである。
また、実施例6は実施例5とほぼ同等の密着強度であり、インク浸漬前の初期密着強度は70g/mm前後あるが、60℃インクで4週間浸漬後の密着強度は約50%低下し、80℃インクで4週間浸漬後の密着強度は約70%低下した。しかしながら、剥離は生じておらず、実用上は問題ないレベルである。
実施例1と、実施例5、6とを比較すると、同じ自然金属酸化膜であっても、Crの酸化膜(実施例1)とすることで密着強度の低下をより一層抑えられることが判明した。
一方、比較例1では、インク浸漬前の初期密着力が65g/mm前後で、実施例1〜6と比べると多少密着強度が弱い。また、60℃インクで4週間浸漬後の密着強度は約85%低下し、一部でバリア層16とノズルシート17とが剥離していることが観察された。さらに、80℃インクで4週間浸漬後の密着強度はほとんど測定できず、大部分で剥離が発生していた。
比較例2では、インク浸漬前の初期密着力が100g/mm以上あり、剥離試験サンプル中で最大の密着強度を有するが、60℃インクで4週間浸漬後、及び80℃インクで4週間浸漬後にバリア層16とノズルシート17とが完全に剥離した。また、光学顕微鏡を使用し、このノズルシートのSiCスパッタ膜を観察したところ、ノズルシート上でSiCスパッタ膜が一部消失していることが認められた。
実施例1と、比較例1、2とを比較すると、同じようにノズルシート17のスパッタ成膜後に大気放置しても、バリア層16に対する設置部分が金属酸化膜で被膜されていなければ、バリア層16とノズルシート17との熱圧着部分が試験用インクに侵され、剥離してしまうことが判明した。
(Crの酸化度合)
前述した剥離試験結果の通り、Crの酸化膜(実施例1〜4)とすることで、インク浸漬後の密着強度の低下を抑えられることが判明した。
そこで次に、Crの酸化度合と密着強度との関連性について確認した。すなわち、Cr膜中の酸素濃度(組成比)が異なる4種類のサンプルをそれぞれ2個用意し、その中の1個を60℃の試験用インクに浸漬し、90度ピール剥離試験機を使用してそれぞれの密着強度(剥離時の荷重)を測定した。
図13は、実施例2と同じ条件にて作成されたものを60℃のインクに4週間浸漬した場合について、組成比(O/Cr)に対する密着強度(g/mm)と劣化率(1−インク浸漬後の密着強度/インク浸漬前の密着強度)とを一例としてグラフ化したものである(なお、実施例3、4の同一条件でのデータも、ほぼ同様のものとなっている)。
図13に示す通り、インク浸漬前のサンプルでは組成比(O/Cr)≧0.4で密着強度が徐々に増加し、インク浸漬後のサンプルでは組成比(O/Cr)≧1.5で密着強度が急激に増加した。そのため、組成比(O/Cr)≧1.5とすれば劣化率が急激に減少し、組成比(O/Cr)≧2.5で劣化率を10%未満にできることが判明した。
ただし、先にも述べた通り、インク浸漬後の密着強度が20g/mm以上ある場合においては、約20000枚におよぶプリンターとしての連続印画試験において、印画物の品質低下が見られないことが確認されていることから、組成比(O/Cr)≧1.7とすれば、実用上は問題ないと考えられる。
液室がパターニング形成されたバリア層と、ノズルが形成されたシートとの剥がれを防止することによって、ライン方式のプリンタや、シリアル方式のプリンタに好適に適用できる。また、染め物に対する染料の吐出や、生体試料を検出するためのDNA含有溶液を吐出するための装置等、種々の液体吐出装置にも適用できる。
本発明の液体吐出ヘッドを示す部分斜視図である。 図1に示す液体吐出ヘッドの断面図である。 ラインヘッドの実施形態を示す平面図である。 本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程1〜工程5まで)を示す図である。 本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程6〜工程8まで)を示す図である。 本発明の液体吐出ヘッドの製造工程(工程9〜工程10まで)を示す図である。 本発明の液体吐出ヘッドにおけるノズルシートの金属酸化膜を示す断面図である。 スパッタ装置の概略図である。 スパッタ成膜のパターニング工程の一例を示す図である。 スパッタ成膜のパターニング工程の他の例を示す図である。 スパッタ成膜のパターニング工程のさらに他の例(工程1〜工程3まで)を示す図である。 スパッタ成膜のパターニング工程のさらに他の例(工程4〜工程7まで)を示す図である。 Crの酸化度合と密着強度との関連性を示すグラフである。
符号の説明
10 ラインヘッド(液体吐出ヘッド)
11 ヘッド(液体吐出ヘッド)
12 インク液室(液室)
13 発熱抵抗体(エネルギー発生素子)
14 基板
16 バリア層
17 ノズルシート(シート)
18 ノズル
19 金属酸化膜

Claims (9)

  1. 吐出すべき液体を収容する液室と、
    前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、
    前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドであって、
    前記エネルギー発生素子を配した基板上に、前記液室をパターニング形成したバリア層が設けられ、
    前記バリア層上に、前記ノズルを形成したシートが設置されており、
    少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分が、金属酸化膜で被膜されている
    ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記金属酸化膜が、前記シートの上に、成膜されたものである
    ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  3. 請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記金属酸化膜が、前記シートに形成された金属膜の上に、成膜されたものである
    ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  4. 請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    前記金属酸化膜が、クロム酸化膜、又はクロム合金酸化膜である
    ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  5. 請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
    クロム酸化膜、又はクロム合金酸化膜中の酸素濃度の組成比(O/Cr)が1.7以上である
    ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
  6. 吐出すべき液体を収容する液室と、
    前記液室中の液体にエネルギーを付与するエネルギー発生素子と、
    前記エネルギー発生素子により、前記液室内の液体を液滴として吐出するノズルとを備える液体吐出ヘッドの製造方法であって、
    前記エネルギー発生素子を配した基板上に、前記液室をパターニング形成したバリア層を設ける工程と、
    前記バリア層上に、前記ノズルを形成したシートを設置する工程とを有し、
    前記シートを設置する前に、少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分を金属酸化膜で被膜しておくか、又は少なくとも前記バリア層に対する前記シートの設置部分に金属膜を形成し、前記金属膜を金属酸化膜で被膜しておく
    ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
  7. 請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
    前記シートを大気中にさらし、前記金属酸化膜の被膜を得る
    ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
  8. 請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
    前記シートに酸化性ガスを流し、前記金属酸化膜の被膜を得る
    ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
  9. 請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法において、
    スパッタリング、真空蒸着又はイオンプレーティングのいずれかにより、前記シートに前記金属酸化膜を成膜する
    ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
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