JP2005022135A - 圧電インクジェットヘッド - Google Patents
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Abstract
【課題】インク滴の吐出性能をこれまでよりもさらに向上することができる、新規な圧電インクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクが充てんされる加圧室2の、基板1の面方向の平面形状を、上記加圧室2にインクを供給するための供給口5を連通した側から、インク吐出のためのノズル部3を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状とする。
また加圧室2の、ノズル部3側の底面に設けた、ノズル部3に繋がるノズル流路4の開口を、圧電セラミック層8を含む圧電アクチュエータACの、加圧室2に対応する領域の重心CGと、基板1の面方向において重なるように形成する。
【選択図】 図2
【解決手段】インクが充てんされる加圧室2の、基板1の面方向の平面形状を、上記加圧室2にインクを供給するための供給口5を連通した側から、インク吐出のためのノズル部3を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状とする。
また加圧室2の、ノズル部3側の底面に設けた、ノズル部3に繋がるノズル流路4の開口を、圧電セラミック層8を含む圧電アクチュエータACの、加圧室2に対応する領域の重心CGと、基板1の面方向において重なるように形成する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にプリンター、コピア、ファクシミリ、およびそれらの複合機などに好適に用いることのできる圧電インクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばオンデマンド型のインクジェットプリンタなどに用いる、圧電セラミックの電歪効果を駆動源とする圧電インクジェットヘッドとしては、インクが充てんされる加圧室をヘッドの面方向に複数個、配列し、かつそれぞれの加圧室ごとにインク吐出のためのノズル部を連通するとともに、各加圧室ごとに、圧電セラミックを含み、この圧電セラミックの変形によって各加圧室の容積を個別に減少させることで、個々の加圧室内のインクを個別に、ノズル部を通してインク滴として吐出させるための圧電アクチュエータを配設したものが広く用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
そして上記の圧電インクジェットヘッドにおいては、それぞれの加圧室に対応する圧電セラミックに個別に駆動電圧を印加して変形させることによって、任意の1つまたは2つ以上の加圧室の容積を個別に減少させることで、その加圧室内のインクを、連通するノズル部からインク滴として吐出させて紙面にドットを形成している。
詳しく説明すると、圧電セラミックと、圧電セラミックを支持する振動板とを含む圧電アクチュエータが、圧電セラミックが発生する力を加圧室内のインクに圧力として伝えることで、この加圧室に連通するノズル部からインク滴を吐出させるための駆動源としての役割を果たしている。それと同時に圧電アクチュエータは、加圧室内のインクの圧力を受けることによって振動板が撓むため、当該加圧室を含むヘッド内のインクの振動に対して弾性体としての役割も持っている。
【0004】
圧電セラミックに駆動電圧を印加して力を発生させると、ヘッド内のインクは、振動板を介して圧電アクチュエータから受けた圧力によって振動を起こす。この振動は、圧電アクチュエータと加圧室とを弾性、加圧室にインクを供給する供給口、加圧室とノズル部とを繋ぐノズル流路、およびノズル部を慣性として発生する。この振動における、ヘッド内のインクの、体積速度の固有振動周期は、上記各部の寸法とインクの物性値、圧電アクチュエータの寸法と物性値とによって決まる。
【0005】
そして圧電インクジェットヘッドにおいては、かかるインクの振動による、ノズル部内でのインクメニスカスの振動を利用して、前記のようにインク滴を発生させて、紙面にドットを形成している。
上記圧電インクジェットヘッドの解像度を高め、かつ圧電インクジェットヘッドを小型化するために、ノズル部間のピッチをできる限り小さくすることが求められる。
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載の圧電インクジェットヘッドは、圧電アクチュエータを加圧室ごとに個別に形成していることや、加圧室の、基板の面方向の中央にノズル部を配設した構造を有していることなどから、ノズル部間のピッチを小さくできる範囲には限界があり、上記の要求に十分に対応できなくなりつつあるのが現状である。
また上記の構造では、供給口の隘路を通過したインクが加圧室に流れ込んで、その流れが急拡大した際に、渦やよどみなどを発生しやすいため、とくに流れが及びにくい加圧室の角の部分などのよどみに気泡が残留しやすく、残留した気泡が、前述した圧電アクチュエータの変形によって発生する圧力の一部を吸収することによって、ノズル部からインク滴が全く吐出されない場合などを生じて、インク滴の吐出特性が低下するおそれもある。
【0007】
そこで発明者は、図3(a)(b)に示す構造の加圧室92を有する圧電インクジェットヘッドを開発した。
図の圧電インクジェットヘッドは、板状の基板91の片面(図では上面)側に、インクを充てんするための、細長い矩形状の中央部の両端に半円形の端部を接続した平面形状を有する加圧室92となる凹部を、図示していないが複数個、面方向に配列したものである。
【0008】
また基板91の、上記凹部を配列した側の面には、それぞれ複数個の凹部を覆う大きさを有する、振動板97、共通電極98、および薄板状の圧電セラミック層99をこの順に積層するとともに、当該圧電セラミック層99の上に、それぞれの凹部に対応して分離形成した複数個の個別電極90を設けた平板状の圧電アクチュエータACを積層して、凹部を閉じることによって加圧室92を形成してある。
【0009】
また個々の加圧室92には、基板91の下面側の、加圧室92の一端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成したノズル部93を、上記端部の半円と同径の、断面円形のノズル流路94によって繋いである。
さらに個々の加圧室92には、基板91内に、複数個の加圧室92を繋ぐように形成した共通供給路96を、上記加圧室92の他端側の端部に形成した供給口95を介して繋いである。
【0010】
かかる圧電インクジェットヘッドにおいては、加圧室92を、前記のように細長い平面形状に形成してあることと、ノズル部93と供給口95とをそれぞれ細長い加圧室92の両端に配設してあることと、そして当該両端を半円として角をなくしてあることとが相まって、インクを、加圧室92内でこれまでよりもスムースに、供給口95側からノズル部93側へ流通させることができる。
したがって渦やよどみの発生によって加圧室92内に気泡が残るのを抑制して、インク滴の吐出性能を向上することができる。
【0011】
また、上記のように細長い平面形状を有する加圧室92を、その長さ方向を揃えて近接させて配列することによって、ノズル部93の形成ピッチを向上することもできる。
【0012】
【特許文献1】
特開平9−150512号公報(請求項1、2、第0011欄〜第0014欄、第0019欄〜第0030欄、図1、図2)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところが発明者の検討によると、上記図3(a)(b)の構造を有する圧電インクジェットヘッドにおいても、依然として、供給口95から加圧室92にインクが流れ込む際の流れの急拡大によって渦やよどみが発生し、それにともなって加圧室内に気泡が残留することによって、インク滴の吐出性能が低下する場合があることが判明した。
【0014】
また発明者の検討によると、図3(a)(b)の圧電インクジェットヘッドは、圧電セラミック層99に駆動電圧を印加して発生させた圧力の多くの部分が、インク滴形成のために効率よく利用されていないため、この利用率(エネルギー変換効率)の低さも、インク滴の吐出性能を低下させる別の一つの原因となっていることが判明した。
すなわち図の圧電インクジェットヘッドにおいては、圧電アクチュエータACの、加圧室92に対応する領域の、基板91の面方向の平面形状の重心CG、すなわち圧電セラミック層99に駆動電圧を印加して力を発生させた際に最も大きく振動する位置が、加圧室92の底面と対峙している。
【0015】
それゆえ圧電アクチュエータACの振動によって発生させた圧力波の多くの部分が、当該底面に反射してロスされてしまい、インク滴形成のために利用されないため、上記のようにエネルギー変換効率が低くなって、インク滴の吐出性能が低下するのである。
本発明の目的は、インク滴の吐出性能をこれまでよりもさらに向上することができる、新規な圧電インクジェットヘッドを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、板状の基板の片面側に、インクが充てんされる加圧室となる凹部を形成し、当該凹部の底面に、インク供給のための供給口と、インク吐出のためのノズル部とをそれぞれ連通するとともに、この基板の、凹部を形成した側の面に、
薄板状の圧電セラミック層を含む平板状の圧電アクチュエータを配設して凹部を閉じることによって加圧室を形成した圧電インクジェットヘッドであって、
上記加圧室の、基板の面方向の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状としたことを特徴とする圧電インクジェットヘッドである。
【0017】
請求項2記載の発明は、加圧室の、ノズル部側の底面に、当該加圧室とノズル部とを繋ぐ、ノズル部よりも内径の大きいノズル流路を設けるとともに、当該ノズル流路の、加圧室の底面側の開口を、圧電アクチュエータの、加圧室に対応する領域の、基板の面方向の平面形状の重心と、基板の面方向において重なるように形成した請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
【0018】
【発明の効果】
請求項1の構成においては、前記のように加圧室の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状としてあるため、当該加圧室内での、供給口からノズル部へのインクの流れをさらにスムースにすることができる。
すなわち、インクが供給口から加圧室に流れ込む際に、流れに対する断面積の増加が急激であるほど、その流速が急激に小さくなる。このため、供給口のごく近傍では流速が比較的大きいが、供給口から離れるほど流速が小さくなるなど流速に分布を生じ、この分布が大きいほど、インクに渦や、あるいは加圧室の角のよどみなどを生じやすい。
【0019】
これに対し、上記のように加圧室の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状とした場合には、流れに対する断面積の増加をこれまでよりも緩やかにできるため、インクの流速を徐々に小さくすることができる。このため、とくに加圧室の、供給口の近辺において、インクを一様な流れとして流速の分布をできるだけ小さくし、それによって渦やよどみなどが生じるのを確実に防止することができる。
【0020】
したがって請求項1記載の発明によれば、供給口から加圧室にインクが流れ込む際の流れの急拡大による渦やよどみの発生と、それによる気泡の残留とをより一層、確実に防止して、インク滴の吐出性能をこれまでよりもさらに向上することが可能となる。
また請求項2の構成によれば、ノズル流路の、加圧室の底面側の開口を、圧電アクチュエータの、基板の面方向の平面形状の重心と、基板の面方向において重なるように形成してあるため、圧電アクチュエータの振動によって発生させた圧力波を、これまでよりも効率よく、ノズル流路を通してノズル部に送り込むことができる。
【0021】
このため請求項2記載の発明によれば、上記請求項1の、加圧室の平面形状による効果と相まって、インク滴の吐出性能をより一層、向上することが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
図1は、本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、薄板状の圧電セラミック層を含む平板状の圧電アクチュエータを取り付ける前の状態を示す平面図である。
図の例の圧電インクジェットヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル部3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
【0023】
また図2(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、平板状の圧電アクチュエータACを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図2(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
各ドット形成部の加圧室2、ノズル部3は、図1に白抜きの矢印で示す主走査方向に複数列並んでいる。図の例では4列に並んでおり、同一列内のドット形成部間のピッチは90dpiであって、圧電インクジェットヘッドの全体として360dpiを実現している。
【0024】
各ドット形成部は、基板1の、図2(a)において上面側に形成した凹部からなる加圧室2と、上記基板1の下面側に形成したノズル部3とをノズル流路4で繋ぐとともに、上記加圧室2を、供給口5を介して、基板1内に、各ドット形成部を繋ぐように形成した共通供給路6(図1に破線で示す)に繋ぐことで構成してある。
このうち加圧室2は、図2(b)に見るように、ノズル部3と中心を一致させるとともに、その長軸を、ノズル部3の中心と供給口5の中心とを通る直線と一致させた楕円と、供給口5と中心を一致させるとともに、その直径を、上記楕円の短軸よりも短くした円とを両者の2本の共通接線で結んだ平面形状に形成してある。
【0025】
そして上記の平面形状としたことによって、供給口5を連通した側からノズル部3を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなるように構成してインクの流速の急激な低下と、それによる流速の分布の拡大とを防止している。
このため供給口5側を円形、ノズル部3側を楕円形とするとともに、この両者を2本の共通接線で結ぶことで角をなくしてあることと相まって、インクを、加圧室2内でより一層スムースに、供給口5側からノズル部3側へ流通させることを可能としている。
【0026】
また加圧室2が上記の平面形状を有するゆえ、その上に積層する圧電アクチュエータACの、加圧室2に対応する領域の、基板1の面方向の平面形状の重心CGは、図中に×印で示したように、ノズル部3の中心と供給口5の中心とを通る直線上の、よりノズル部3に近い側に位置している。
またノズル流路4は、上記加圧室2の底面側に開口した上部4aと、ノズル部3と連通した下部4cと、両者を繋ぐ中部4bとを備えている。
【0027】
このうち上部4aは、ノズル部3と中心を一致させるとともに、その長軸および短軸の軸長をともに加圧室2の楕円と等しくした楕円状の断面形状とすることで、上記アクチュエータACの重心CGと、基板1の面方向において重なるように形成してある。
また中部4bと下部4cはともに、ノズル部3と中心を一致させるとともに、上部4aと相似形で、かつその長軸と短軸の軸長を、ノズル部3の側へ段階的に小さくした楕円状の断面形状としてある。
【0028】
そして上記のように上部4aの開口をアクチュエータACの重心CGと重なるように形成したことと、中部4bおよび下部4cをノズル部3の側へ段階的に小さくしたこととによって、圧電アクチュエータACの振動によって発生させた圧力波をより一層、効率よく、ノズル流路4を通してノズル部3に送り込むことを可能としている。
また上記各部は、図の例では、加圧室2を形成した第1基板1aと、ノズル流路4の上部4aと供給口5とを形成した第2基板1bと、ノズル流路4の中部4bと共通供給路6とを形成した第3基板1cと、ノズル流路4の下部4bと共通供給路6とを形成した第4基板1dと、ノズル部3を形成した第5基板1eとを、この順に積層、一体化することで形成してある。
【0029】
また第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1c、第4基板1dに形成した共通供給路6を、基板1の上面側で、図示していないインクカートリッジからの配管と接続するためのジョイント部を構成するための通孔11を形成してある。
さらに各基板1a〜1eは、例えば樹脂や金属などからなり、フォトリソグラフ法を利用したエッチングなどによって上記各部となる通孔を設けた、所定の厚みを有する板体にて形成してある。
【0030】
また基板1の上面側には、それぞれ複数個の凹部を覆う大きさを有する、振動板7、共通電極8、および薄板状の圧電セラミック層9をこの順に積層するとともに、当該圧電セラミック層9の上に、それぞれの凹部に対応して分離形成した複数個の個別電極10を設けて圧電アクチュエータACを構成してある。またこの圧電アクチュエータACによって凹部を閉じることで、前記の加圧室2を形成してある。
【0031】
上記の各部からなる圧電アクチュエータACは、焼成によって薄板状の圧電体層となる圧電体グリーンシートを用いて製造することができる。
例えば圧電体グリーンシートの片面に、焼成によって共通電極8となる導電性のペーストを印刷または塗布し、その上にさらに圧電体グリーンシートを積層した上で焼成して、2層の薄板状の圧電体層間に共通電極8を挟んだ構造を有する積層体を形成した後、この積層体の、一方の圧電体層の表面に導電ペーストを印刷して複数の個別電極10を形成すると、共通電極8と個別電極10とで挟まれた方の圧電体層を圧電セラミック層9、もう一方の圧電体層を振動板7とした圧電アクチュエータACを製造することができる。
【0032】
上記の圧電アクチュエータACにおいて振動板7、および圧電セラミック層9を形成する圧電材料としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。圧電体グリーンシートは、焼成によって上記いずれかの圧電材料となる化合物を含んでいる。
【0033】
また共通電極8を形成する導電性のペーストとしては、例えば金、銀、白金、銅、アルミニウムなどの導電性に優れた金属の粉末を含むものを用いる。そして、かかる導電性のペーストの層を、前記のように圧電体グリーンシートとともに焼成することで、当該ペースト中の金属の粉末を焼結、ないしは溶融、一体化させて共通電極8を形成する。
また個別電極10は、前記のように、上記と同様の導電性のペーストを印刷して形成することができる。ただし個別電極10は前記の、導電性に優れた金属からなる箔やめっき被膜、真空蒸着被膜などによって形成してもよい。
【0034】
振動板7を金属で形成することもできる。
例えばモリブデン、タングステン、タンタル、チタン、白金、鉄、ニッケルなどの単体金属や、これら金属の合金、あるいはステンレス鋼などの金属材料にて、所定の厚みを有する板状の振動板7を形成する。
一方、前記と同様の圧電体グリーンシートの片面に、焼成によって共通電極となる導電性のペーストを印刷または塗布した積層体を焼成して、共通電極8と、薄板状の圧電セラミック層9との積層体を形成した後、この積層体のうち共通電極8側の表面に振動板7を接着し、さらに圧電セラミック層9の表面に複数の個別電極10を形成すると、圧電アクチュエータACを製造することができる。
【0035】
そして、上記のようにして製造したいずれかの構造を有する圧電アクチュエータACを、基板1上に、接着剤を介して接着するなどして固定すると、圧電インクジェットヘッドが得られる。
圧電セラミック層9を横振動モードとするためには、圧電材料の分極方向を、当該圧電セラミック層9の厚み方向、より詳しくは個別電極10から共通電極8に向かう方向に配向させる。そのためには、例えば高温分極法、室温分極法、交流電界重畳法、電界冷却法などの従来公知の分極法を採用することができる。また、分極後の圧電セラミック層9をエージング処理してもよい。
【0036】
圧電材料の分極方向を上記の方向に配向させた圧電セラミック層9は、共通電極8を接地した状態で、個別電極10から正の駆動電圧を印加すると、当該個別電極10と共通電極8とに挟まれた駆動領域が、分極方向と直交する面内で収縮する。しかし圧電セラミック層9は、共通電極8を介して振動板7に固定されているため、結果的に、収縮した駆動領域が加圧室2の方向に撓むことになる。
このため、撓みが発生する際の力が加圧室2内のインクに圧力変化として伝えられ、この圧力変化によって、供給口5、加圧室2、ノズル流路4、およびノズル部3内のインクが振動を起こす。そして振動の速度が結果的にノズル部3の外に向かうことによって、当該ノズル部3内のインクメニスカスが外部へと押し出されて、いわゆるインク柱が形成される。
【0037】
インクは、やがて振動の速度がノズル部内方向に向かうことによってノズル部3内に引き戻されるが、その際、インク柱が切り離されて、インク滴となって紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル部3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、通孔11、共通供給路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル部3に再充てんされる。
【0038】
なお圧電セラミック層9は、個別電極10と同様に、各加圧室2ごとに分離形成しても良い。
【0039】
【実施例】
以下に本発明を、実施例に基づいて説明する。
圧電インクジェットヘッドの作製
実施例として、図1および図2(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、供給口5側の円の直径が100μm、ノズル部3側の楕円の、短軸の軸長が300μm、長軸の軸長が400μm、深さが100μm、ノズル部3の直径が25μm、長さが30μm、供給口5の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路4の長さが800μmで、かつノズル流路4の上部4a、中部4bおよび下部4cの短軸および長軸の軸長がそれぞれ下記に示す値である圧電インクジェットヘッドを作製した。
【0040】
上部4a:短軸=300μm、長軸=400μm
中部4b:短軸=206μm、長軸=275μm
下部4c:短軸=113μm、長軸=150μm
また加圧室2とノズル流路4とを上記の形状とすることで、圧電アクチュエータACの重心CGを、図2(b)に示すように、ノズル流路4の上部4aの、加圧室2の底面側の開口と、基板1の面方向において重ならせることができた。
【0041】
また比較例として、図3(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室92の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル部93の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路94の直径が200μm、長さが800μm、供給口95の直径が25μm、長さが30μmである圧電インクジェットヘッドを作製した。
圧電アクチュエータACの重心CGは、図3(b)に示すように、加圧室92の、長さ方向および幅方向の中心に位置した。
【0042】
なお圧電アクチュエータACは、個別電極10の平面形状が異なる以外、実施例、比較例で全く同じ層構成に形成した。
上記実施例、比較例の圧電インクジェットヘッドの共通電極8を接地した状態で、個別電極10に、20Vの駆動電圧パルスを印加して、ノズル部3からインク滴を吐出させたところ、その速度は実施例が10m/s、比較例が8m/sであった。
【0043】
そしてこのことから、本発明の構成とすることで、インク滴の吐出性能を向上できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、圧電素子と振動板とを含む駆動部を取り付ける前の状態を示す平面図である。
【図2】同図(a)は、図1の例の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す、図2(b)のA−A線断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
【図3】同図(a)は、従来の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す、図2(b)のA−A線断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
【符号の説明】
1 基板
2 加圧室
3 ノズル部
4 ノズル流路
5 供給口
8 圧電セラミック層
AC 圧電アクチュエータ
CG 重心
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にプリンター、コピア、ファクシミリ、およびそれらの複合機などに好適に用いることのできる圧電インクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばオンデマンド型のインクジェットプリンタなどに用いる、圧電セラミックの電歪効果を駆動源とする圧電インクジェットヘッドとしては、インクが充てんされる加圧室をヘッドの面方向に複数個、配列し、かつそれぞれの加圧室ごとにインク吐出のためのノズル部を連通するとともに、各加圧室ごとに、圧電セラミックを含み、この圧電セラミックの変形によって各加圧室の容積を個別に減少させることで、個々の加圧室内のインクを個別に、ノズル部を通してインク滴として吐出させるための圧電アクチュエータを配設したものが広く用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
そして上記の圧電インクジェットヘッドにおいては、それぞれの加圧室に対応する圧電セラミックに個別に駆動電圧を印加して変形させることによって、任意の1つまたは2つ以上の加圧室の容積を個別に減少させることで、その加圧室内のインクを、連通するノズル部からインク滴として吐出させて紙面にドットを形成している。
詳しく説明すると、圧電セラミックと、圧電セラミックを支持する振動板とを含む圧電アクチュエータが、圧電セラミックが発生する力を加圧室内のインクに圧力として伝えることで、この加圧室に連通するノズル部からインク滴を吐出させるための駆動源としての役割を果たしている。それと同時に圧電アクチュエータは、加圧室内のインクの圧力を受けることによって振動板が撓むため、当該加圧室を含むヘッド内のインクの振動に対して弾性体としての役割も持っている。
【0004】
圧電セラミックに駆動電圧を印加して力を発生させると、ヘッド内のインクは、振動板を介して圧電アクチュエータから受けた圧力によって振動を起こす。この振動は、圧電アクチュエータと加圧室とを弾性、加圧室にインクを供給する供給口、加圧室とノズル部とを繋ぐノズル流路、およびノズル部を慣性として発生する。この振動における、ヘッド内のインクの、体積速度の固有振動周期は、上記各部の寸法とインクの物性値、圧電アクチュエータの寸法と物性値とによって決まる。
【0005】
そして圧電インクジェットヘッドにおいては、かかるインクの振動による、ノズル部内でのインクメニスカスの振動を利用して、前記のようにインク滴を発生させて、紙面にドットを形成している。
上記圧電インクジェットヘッドの解像度を高め、かつ圧電インクジェットヘッドを小型化するために、ノズル部間のピッチをできる限り小さくすることが求められる。
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載の圧電インクジェットヘッドは、圧電アクチュエータを加圧室ごとに個別に形成していることや、加圧室の、基板の面方向の中央にノズル部を配設した構造を有していることなどから、ノズル部間のピッチを小さくできる範囲には限界があり、上記の要求に十分に対応できなくなりつつあるのが現状である。
また上記の構造では、供給口の隘路を通過したインクが加圧室に流れ込んで、その流れが急拡大した際に、渦やよどみなどを発生しやすいため、とくに流れが及びにくい加圧室の角の部分などのよどみに気泡が残留しやすく、残留した気泡が、前述した圧電アクチュエータの変形によって発生する圧力の一部を吸収することによって、ノズル部からインク滴が全く吐出されない場合などを生じて、インク滴の吐出特性が低下するおそれもある。
【0007】
そこで発明者は、図3(a)(b)に示す構造の加圧室92を有する圧電インクジェットヘッドを開発した。
図の圧電インクジェットヘッドは、板状の基板91の片面(図では上面)側に、インクを充てんするための、細長い矩形状の中央部の両端に半円形の端部を接続した平面形状を有する加圧室92となる凹部を、図示していないが複数個、面方向に配列したものである。
【0008】
また基板91の、上記凹部を配列した側の面には、それぞれ複数個の凹部を覆う大きさを有する、振動板97、共通電極98、および薄板状の圧電セラミック層99をこの順に積層するとともに、当該圧電セラミック層99の上に、それぞれの凹部に対応して分離形成した複数個の個別電極90を設けた平板状の圧電アクチュエータACを積層して、凹部を閉じることによって加圧室92を形成してある。
【0009】
また個々の加圧室92には、基板91の下面側の、加圧室92の一端側の端部の、半円の中心と重なる位置に形成したノズル部93を、上記端部の半円と同径の、断面円形のノズル流路94によって繋いである。
さらに個々の加圧室92には、基板91内に、複数個の加圧室92を繋ぐように形成した共通供給路96を、上記加圧室92の他端側の端部に形成した供給口95を介して繋いである。
【0010】
かかる圧電インクジェットヘッドにおいては、加圧室92を、前記のように細長い平面形状に形成してあることと、ノズル部93と供給口95とをそれぞれ細長い加圧室92の両端に配設してあることと、そして当該両端を半円として角をなくしてあることとが相まって、インクを、加圧室92内でこれまでよりもスムースに、供給口95側からノズル部93側へ流通させることができる。
したがって渦やよどみの発生によって加圧室92内に気泡が残るのを抑制して、インク滴の吐出性能を向上することができる。
【0011】
また、上記のように細長い平面形状を有する加圧室92を、その長さ方向を揃えて近接させて配列することによって、ノズル部93の形成ピッチを向上することもできる。
【0012】
【特許文献1】
特開平9−150512号公報(請求項1、2、第0011欄〜第0014欄、第0019欄〜第0030欄、図1、図2)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところが発明者の検討によると、上記図3(a)(b)の構造を有する圧電インクジェットヘッドにおいても、依然として、供給口95から加圧室92にインクが流れ込む際の流れの急拡大によって渦やよどみが発生し、それにともなって加圧室内に気泡が残留することによって、インク滴の吐出性能が低下する場合があることが判明した。
【0014】
また発明者の検討によると、図3(a)(b)の圧電インクジェットヘッドは、圧電セラミック層99に駆動電圧を印加して発生させた圧力の多くの部分が、インク滴形成のために効率よく利用されていないため、この利用率(エネルギー変換効率)の低さも、インク滴の吐出性能を低下させる別の一つの原因となっていることが判明した。
すなわち図の圧電インクジェットヘッドにおいては、圧電アクチュエータACの、加圧室92に対応する領域の、基板91の面方向の平面形状の重心CG、すなわち圧電セラミック層99に駆動電圧を印加して力を発生させた際に最も大きく振動する位置が、加圧室92の底面と対峙している。
【0015】
それゆえ圧電アクチュエータACの振動によって発生させた圧力波の多くの部分が、当該底面に反射してロスされてしまい、インク滴形成のために利用されないため、上記のようにエネルギー変換効率が低くなって、インク滴の吐出性能が低下するのである。
本発明の目的は、インク滴の吐出性能をこれまでよりもさらに向上することができる、新規な圧電インクジェットヘッドを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、板状の基板の片面側に、インクが充てんされる加圧室となる凹部を形成し、当該凹部の底面に、インク供給のための供給口と、インク吐出のためのノズル部とをそれぞれ連通するとともに、この基板の、凹部を形成した側の面に、
薄板状の圧電セラミック層を含む平板状の圧電アクチュエータを配設して凹部を閉じることによって加圧室を形成した圧電インクジェットヘッドであって、
上記加圧室の、基板の面方向の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状としたことを特徴とする圧電インクジェットヘッドである。
【0017】
請求項2記載の発明は、加圧室の、ノズル部側の底面に、当該加圧室とノズル部とを繋ぐ、ノズル部よりも内径の大きいノズル流路を設けるとともに、当該ノズル流路の、加圧室の底面側の開口を、圧電アクチュエータの、加圧室に対応する領域の、基板の面方向の平面形状の重心と、基板の面方向において重なるように形成した請求項1記載の圧電インクジェットヘッドである。
【0018】
【発明の効果】
請求項1の構成においては、前記のように加圧室の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状としてあるため、当該加圧室内での、供給口からノズル部へのインクの流れをさらにスムースにすることができる。
すなわち、インクが供給口から加圧室に流れ込む際に、流れに対する断面積の増加が急激であるほど、その流速が急激に小さくなる。このため、供給口のごく近傍では流速が比較的大きいが、供給口から離れるほど流速が小さくなるなど流速に分布を生じ、この分布が大きいほど、インクに渦や、あるいは加圧室の角のよどみなどを生じやすい。
【0019】
これに対し、上記のように加圧室の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状とした場合には、流れに対する断面積の増加をこれまでよりも緩やかにできるため、インクの流速を徐々に小さくすることができる。このため、とくに加圧室の、供給口の近辺において、インクを一様な流れとして流速の分布をできるだけ小さくし、それによって渦やよどみなどが生じるのを確実に防止することができる。
【0020】
したがって請求項1記載の発明によれば、供給口から加圧室にインクが流れ込む際の流れの急拡大による渦やよどみの発生と、それによる気泡の残留とをより一層、確実に防止して、インク滴の吐出性能をこれまでよりもさらに向上することが可能となる。
また請求項2の構成によれば、ノズル流路の、加圧室の底面側の開口を、圧電アクチュエータの、基板の面方向の平面形状の重心と、基板の面方向において重なるように形成してあるため、圧電アクチュエータの振動によって発生させた圧力波を、これまでよりも効率よく、ノズル流路を通してノズル部に送り込むことができる。
【0021】
このため請求項2記載の発明によれば、上記請求項1の、加圧室の平面形状による効果と相まって、インク滴の吐出性能をより一層、向上することが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を説明する。
図1は、本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、薄板状の圧電セラミック層を含む平板状の圧電アクチュエータを取り付ける前の状態を示す平面図である。
図の例の圧電インクジェットヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル部3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
【0023】
また図2(a)は、上記例の圧電インクジェットヘッドにおいて、平板状の圧電アクチュエータACを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図2(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
各ドット形成部の加圧室2、ノズル部3は、図1に白抜きの矢印で示す主走査方向に複数列並んでいる。図の例では4列に並んでおり、同一列内のドット形成部間のピッチは90dpiであって、圧電インクジェットヘッドの全体として360dpiを実現している。
【0024】
各ドット形成部は、基板1の、図2(a)において上面側に形成した凹部からなる加圧室2と、上記基板1の下面側に形成したノズル部3とをノズル流路4で繋ぐとともに、上記加圧室2を、供給口5を介して、基板1内に、各ドット形成部を繋ぐように形成した共通供給路6(図1に破線で示す)に繋ぐことで構成してある。
このうち加圧室2は、図2(b)に見るように、ノズル部3と中心を一致させるとともに、その長軸を、ノズル部3の中心と供給口5の中心とを通る直線と一致させた楕円と、供給口5と中心を一致させるとともに、その直径を、上記楕円の短軸よりも短くした円とを両者の2本の共通接線で結んだ平面形状に形成してある。
【0025】
そして上記の平面形状としたことによって、供給口5を連通した側からノズル部3を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなるように構成してインクの流速の急激な低下と、それによる流速の分布の拡大とを防止している。
このため供給口5側を円形、ノズル部3側を楕円形とするとともに、この両者を2本の共通接線で結ぶことで角をなくしてあることと相まって、インクを、加圧室2内でより一層スムースに、供給口5側からノズル部3側へ流通させることを可能としている。
【0026】
また加圧室2が上記の平面形状を有するゆえ、その上に積層する圧電アクチュエータACの、加圧室2に対応する領域の、基板1の面方向の平面形状の重心CGは、図中に×印で示したように、ノズル部3の中心と供給口5の中心とを通る直線上の、よりノズル部3に近い側に位置している。
またノズル流路4は、上記加圧室2の底面側に開口した上部4aと、ノズル部3と連通した下部4cと、両者を繋ぐ中部4bとを備えている。
【0027】
このうち上部4aは、ノズル部3と中心を一致させるとともに、その長軸および短軸の軸長をともに加圧室2の楕円と等しくした楕円状の断面形状とすることで、上記アクチュエータACの重心CGと、基板1の面方向において重なるように形成してある。
また中部4bと下部4cはともに、ノズル部3と中心を一致させるとともに、上部4aと相似形で、かつその長軸と短軸の軸長を、ノズル部3の側へ段階的に小さくした楕円状の断面形状としてある。
【0028】
そして上記のように上部4aの開口をアクチュエータACの重心CGと重なるように形成したことと、中部4bおよび下部4cをノズル部3の側へ段階的に小さくしたこととによって、圧電アクチュエータACの振動によって発生させた圧力波をより一層、効率よく、ノズル流路4を通してノズル部3に送り込むことを可能としている。
また上記各部は、図の例では、加圧室2を形成した第1基板1aと、ノズル流路4の上部4aと供給口5とを形成した第2基板1bと、ノズル流路4の中部4bと共通供給路6とを形成した第3基板1cと、ノズル流路4の下部4bと共通供給路6とを形成した第4基板1dと、ノズル部3を形成した第5基板1eとを、この順に積層、一体化することで形成してある。
【0029】
また第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1c、第4基板1dに形成した共通供給路6を、基板1の上面側で、図示していないインクカートリッジからの配管と接続するためのジョイント部を構成するための通孔11を形成してある。
さらに各基板1a〜1eは、例えば樹脂や金属などからなり、フォトリソグラフ法を利用したエッチングなどによって上記各部となる通孔を設けた、所定の厚みを有する板体にて形成してある。
【0030】
また基板1の上面側には、それぞれ複数個の凹部を覆う大きさを有する、振動板7、共通電極8、および薄板状の圧電セラミック層9をこの順に積層するとともに、当該圧電セラミック層9の上に、それぞれの凹部に対応して分離形成した複数個の個別電極10を設けて圧電アクチュエータACを構成してある。またこの圧電アクチュエータACによって凹部を閉じることで、前記の加圧室2を形成してある。
【0031】
上記の各部からなる圧電アクチュエータACは、焼成によって薄板状の圧電体層となる圧電体グリーンシートを用いて製造することができる。
例えば圧電体グリーンシートの片面に、焼成によって共通電極8となる導電性のペーストを印刷または塗布し、その上にさらに圧電体グリーンシートを積層した上で焼成して、2層の薄板状の圧電体層間に共通電極8を挟んだ構造を有する積層体を形成した後、この積層体の、一方の圧電体層の表面に導電ペーストを印刷して複数の個別電極10を形成すると、共通電極8と個別電極10とで挟まれた方の圧電体層を圧電セラミック層9、もう一方の圧電体層を振動板7とした圧電アクチュエータACを製造することができる。
【0032】
上記の圧電アクチュエータACにおいて振動板7、および圧電セラミック層9を形成する圧電材料としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。圧電体グリーンシートは、焼成によって上記いずれかの圧電材料となる化合物を含んでいる。
【0033】
また共通電極8を形成する導電性のペーストとしては、例えば金、銀、白金、銅、アルミニウムなどの導電性に優れた金属の粉末を含むものを用いる。そして、かかる導電性のペーストの層を、前記のように圧電体グリーンシートとともに焼成することで、当該ペースト中の金属の粉末を焼結、ないしは溶融、一体化させて共通電極8を形成する。
また個別電極10は、前記のように、上記と同様の導電性のペーストを印刷して形成することができる。ただし個別電極10は前記の、導電性に優れた金属からなる箔やめっき被膜、真空蒸着被膜などによって形成してもよい。
【0034】
振動板7を金属で形成することもできる。
例えばモリブデン、タングステン、タンタル、チタン、白金、鉄、ニッケルなどの単体金属や、これら金属の合金、あるいはステンレス鋼などの金属材料にて、所定の厚みを有する板状の振動板7を形成する。
一方、前記と同様の圧電体グリーンシートの片面に、焼成によって共通電極となる導電性のペーストを印刷または塗布した積層体を焼成して、共通電極8と、薄板状の圧電セラミック層9との積層体を形成した後、この積層体のうち共通電極8側の表面に振動板7を接着し、さらに圧電セラミック層9の表面に複数の個別電極10を形成すると、圧電アクチュエータACを製造することができる。
【0035】
そして、上記のようにして製造したいずれかの構造を有する圧電アクチュエータACを、基板1上に、接着剤を介して接着するなどして固定すると、圧電インクジェットヘッドが得られる。
圧電セラミック層9を横振動モードとするためには、圧電材料の分極方向を、当該圧電セラミック層9の厚み方向、より詳しくは個別電極10から共通電極8に向かう方向に配向させる。そのためには、例えば高温分極法、室温分極法、交流電界重畳法、電界冷却法などの従来公知の分極法を採用することができる。また、分極後の圧電セラミック層9をエージング処理してもよい。
【0036】
圧電材料の分極方向を上記の方向に配向させた圧電セラミック層9は、共通電極8を接地した状態で、個別電極10から正の駆動電圧を印加すると、当該個別電極10と共通電極8とに挟まれた駆動領域が、分極方向と直交する面内で収縮する。しかし圧電セラミック層9は、共通電極8を介して振動板7に固定されているため、結果的に、収縮した駆動領域が加圧室2の方向に撓むことになる。
このため、撓みが発生する際の力が加圧室2内のインクに圧力変化として伝えられ、この圧力変化によって、供給口5、加圧室2、ノズル流路4、およびノズル部3内のインクが振動を起こす。そして振動の速度が結果的にノズル部3の外に向かうことによって、当該ノズル部3内のインクメニスカスが外部へと押し出されて、いわゆるインク柱が形成される。
【0037】
インクは、やがて振動の速度がノズル部内方向に向かうことによってノズル部3内に引き戻されるが、その際、インク柱が切り離されて、インク滴となって紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル部3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、通孔11、共通供給路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル部3に再充てんされる。
【0038】
なお圧電セラミック層9は、個別電極10と同様に、各加圧室2ごとに分離形成しても良い。
【0039】
【実施例】
以下に本発明を、実施例に基づいて説明する。
圧電インクジェットヘッドの作製
実施例として、図1および図2(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、供給口5側の円の直径が100μm、ノズル部3側の楕円の、短軸の軸長が300μm、長軸の軸長が400μm、深さが100μm、ノズル部3の直径が25μm、長さが30μm、供給口5の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路4の長さが800μmで、かつノズル流路4の上部4a、中部4bおよび下部4cの短軸および長軸の軸長がそれぞれ下記に示す値である圧電インクジェットヘッドを作製した。
【0040】
上部4a:短軸=300μm、長軸=400μm
中部4b:短軸=206μm、長軸=275μm
下部4c:短軸=113μm、長軸=150μm
また加圧室2とノズル流路4とを上記の形状とすることで、圧電アクチュエータACの重心CGを、図2(b)に示すように、ノズル流路4の上部4aの、加圧室2の底面側の開口と、基板1の面方向において重ならせることができた。
【0041】
また比較例として、図3(a)(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室92の面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μm、ノズル部93の直径が25μm、長さが30μm、ノズル流路94の直径が200μm、長さが800μm、供給口95の直径が25μm、長さが30μmである圧電インクジェットヘッドを作製した。
圧電アクチュエータACの重心CGは、図3(b)に示すように、加圧室92の、長さ方向および幅方向の中心に位置した。
【0042】
なお圧電アクチュエータACは、個別電極10の平面形状が異なる以外、実施例、比較例で全く同じ層構成に形成した。
上記実施例、比較例の圧電インクジェットヘッドの共通電極8を接地した状態で、個別電極10に、20Vの駆動電圧パルスを印加して、ノズル部3からインク滴を吐出させたところ、その速度は実施例が10m/s、比較例が8m/sであった。
【0043】
そしてこのことから、本発明の構成とすることで、インク滴の吐出性能を向上できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の圧電インクジェットヘッドの一例において、圧電素子と振動板とを含む駆動部を取り付ける前の状態を示す平面図である。
【図2】同図(a)は、図1の例の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す、図2(b)のA−A線断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
【図3】同図(a)は、従来の圧電インクジェットヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す、図2(b)のA−A線断面図、同図(b)は、1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。
【符号の説明】
1 基板
2 加圧室
3 ノズル部
4 ノズル流路
5 供給口
8 圧電セラミック層
AC 圧電アクチュエータ
CG 重心
Claims (2)
- 板状の基板の片面側に、インクが充てんされる加圧室となる凹部を形成し、当該凹部の底面に、インク供給のための供給口と、インク吐出のためのノズル部とをそれぞれ連通するとともに、この基板の、凹部を形成した側の面に、
薄板状の圧電セラミック層を含む平板状の圧電アクチュエータを配設して凹部を閉じることによって加圧室を形成した圧電インクジェットヘッドであって、
上記加圧室の、基板の面方向の平面形状を、供給口を連通した側からノズル部を連通した側へ向けて、その幅が徐々に大きくなる形状としたことを特徴とする圧電インクジェットヘッド。 - 加圧室の、ノズル部側の底面に、当該加圧室とノズル部とを繋ぐ、ノズル部よりも内径の大きいノズル流路を設けるとともに、当該ノズル流路の、加圧室の底面側の開口を、圧電アクチュエータの、加圧室に対応する領域の、基板の面方向の平面形状の重心と、基板の面方向において重なるように形成した請求項1記載の圧電インクジェットヘッド。
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Cited By (2)
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JP2014237276A (ja) * | 2013-06-10 | 2014-12-18 | セイコーエプソン株式会社 | 流路ユニットおよび流路ユニットを搭載した液体噴射装置 |
-
2003
- 2003-06-30 JP JP2003187957A patent/JP2005022135A/ja active Pending
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20081218 |
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A02 | Decision of refusal |
Effective date: 20090409 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 |