JP2005019893A - 固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体とその製造方法およびこの焼結体を用いた固体電解コンデンサ - Google Patents
固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体とその製造方法およびこの焼結体を用いた固体電解コンデンサ Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】バルブメタル粉末を焼結して多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体を得るプロセスにおいて、窒素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼結し、あるいはさらに引き続き窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で冷却することによって、窒化物の生成を抑制した焼結体を得、これによって固体電解コンデンサのリーク電流を小さくする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結した、固体電解コンデンサに使用されるバルブメタル焼結体とその製造方法に関する。
さらに詳細には、漏れ電流の少ない、長寿命のコンデンサを設計するのに有効なバルブメタル焼結体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき問題点】
固体電解コンデンサは、タンタル、ニオブを始めとする各種バルブメタル粉末を焼結して作製されている。近年、各種通信用電子機器、PCや携帯電話の発達と普及には目覚ましいものがあるが、その発展の裏には、これを支えるコンデンサの機能向上を求める地道な努力に負うところが大きい。すなわち、これらの機器開発の特徴として、際だった小型化、軽量化を挙げることができるが、これに伴い、これら機器に使用されるコンデンサに対しても、機器本体以上に過酷なまでの小型化、軽量化、さらには長寿命化が求められてきた。この強いニーズを反映して、固体電解質コンデンサに関し、数々の提案、研究がなされてきた。その結果、コンデンサの機能は、軽量化、小型化、長寿命化に代表されるように、確実に向上してきた。このような技術的向上、進歩に加え、多様化された機器にも対応し、種々の形態のものが製造され、PCや携帯電話の普及と発展に大きく寄与、貢献し、重要な役割を担ってきた。
【0003】
固体電解コンデンサは、これを作製手順に基づいて概略説明すると、図1、図2に示す通りである。まず、バルブメタル金属粉末を用意し、これを成型し、焼結炉で焼結して該金属の多孔質焼結体1を製造する。得られたバルブメタル多孔質焼結体を、リン酸溶液等適当な電解液中に浸漬し、液中で金属を陽極酸化し、焼結体を構成する金属表面上に、金属酸化物被膜すなわち誘電体酸化物2の一様な層を形成する。これによって、バルブメタル金属は、その表面が誘電体層で確実に覆われるようにする。
【0004】
この誘電体層の上に、二酸化マンガンやポリピロールなどのいわゆる固体電解質である電子伝導体3を層状に塗布し、その上にグラファイト層4、銀塗料層5を順次形成し、最後に導電性接着剤層6を塗布しコンデンサチップ11を得(図1)、所定の金属電極を取りつけ、エポキシ樹脂等外装モールド樹脂にて被覆する。
【0005】
なお、ここに、多孔質焼結体に設定する理由は、コンデンサのキャパシタンスはバルブメタル焼結体の表面積に依存し、表面積が大きいとキャパシタンスも大きくなるからである。図2において、11は、図1に示した構造からなるチップ型コンデンサの外観であり、その一端には樹脂リング12を介して陽極13が取り付けられ、その先端には陽極端子14が溶接15を介して取り付けられている。
チップ型コンデンサ11の側面には板バネ構造に形成した陰極端子16が、コンデンサ11を挟持する態様で取り付けられ、外部は外装樹脂18によって構成され、電極部分を除き全体が被覆されている(図2)。
【0006】
バルブメタル粉末を成形し、多孔質焼結体を得るまでのプロセスには、通常、金属の酸化を防ぐ処置が講ぜられている。そして、続く焼結プロセスも酸化されないよう窒素ガス等によって調製された非酸化性雰囲気ないしは高真空下で焼結されている。通常の焼成炉を使用して焼結すると、炉内に含まれている酸素により粉末金属が燃焼するのでこれを防ぐ必要から、一般的には酸素を含まない雰囲気ガス、例えば窒素ガスを雰囲気ガスとして使用して焼結するか、あるいは真空焼結によって焼結し、その後、冷却するまでの間、酸化を防ぐため窒素ガスを使用することによって実施されている。以上が製造プロセスの概要であるが、コンデンサ設計は、PCや携帯電話等その付属する機器類のニーズに合わせて一層の小型化、大容量化、長寿命化が求められていることは前述したとおりであるが、このため、これまでに特許文献を通じて現れた解決手段には、次のような手段が挙げられる。
【0007】
例えば、バルブメタル金属以外の不純物となる元素の含有量を少なくしたり、あるいは、バルブメタル中の酸素含有量を特定濃度以下に制限するよう配慮することによって解決しようとする試みが提案されている(特許文献1)。また、使用する固体電解質を選択することによって解決しようとする試みも提案されている。このような固体電解質の選択としては、ポリアニリンまたはその誘導体、あるいは3,4−エチレンジオキシチオフェン溶液と酸化剤溶液との交互浸漬による酸化重合によって固体電解質とする試み(特許文献2、特許文献3)が挙げられる。
さらに、外装材として外部酸素の素子への侵入を防ぐ働きのある特殊な材料を選択し、使用することによって、解決しようとする試み(特許文献4)、さらにまた、バルブメタル粉末を焼結する際の焼結条件と引き続く冷却条件を、大気レベルを基準として高真空焼結、不活性雰囲気化での強制冷却、さらには段階的に真空度を下げながら、すなわち真空度を間欠的、段階的に徐々に大気リークして下げながら酸化処理する一連の特有な処理サイクルを講じることによって、酸化発熱なく酸素含有量を抑制し、漏れ電流を小さくする試み(特許文献5)、あるいは、焼結後の化成処理条件を途中で変えて制御することにより、焼結体エレメント表面層、深層部等に所定の厚みの酸化層を形成し、これにより漏洩電流を小さくする試み(特許文献6)、等々様々な提案がなされている。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−39417号公報
【特許文献2】
特開平11−87176号公報
【特許文献3】
特開2003−109850号公報
【特許文献4】
特開平1−140621号公報
【特許文献5】
特開2001−135552号公報
【特許文献6】
特開昭58−190016号
【0009】
しかしながら、ここに挙げた従来技術を示す文献は、特開2001−135552号公報以外は、その電流リーク問題は、あくまでもコンデンサ設計において講じた特有な条件やそのための特有な構成に起因した場合の解決手段、ないしは対処方法であり、そのような条件等によらない場合における対処方法、言うなれば汎用性のある解決手段を提供しているものとはいえない。そして、特開2001−135552号公報においても、そこに開示された解決手段は、あくまでも真空炉を使用した、高真空焼結を前提とする技術であり、高真空焼結操作終了後、得られる高温段階にある焼結体をほぼ常温に近い温度にまで冷却するまでの間の熱処理プロセス全体を、間欠的、段階的真空−大気リーク方式による特有な熱サイクルによって行うもので、あくまでも高真空を必要とする特殊な炉内雰囲気操作、高価な高真空炉の使用を前提とするものであり、しかも、極めて複雑な管理を要する熱サイクルシステムによるものである等、困難性のあるプロセスによるものでそれ自体問題のある解決手段であった。
【0010】
【課題を解決するための課題】
本発明は、上記実情を踏まえ、複雑なプロセスによることなく、簡単な手段で漏洩電流を小さくする有効な方法を提案しようとするものである。そのため、本発明者らにおいては鋭意研究した結果、バルブメタル金属表面に窒素を含んだ窒化物が形成され、これを含んでいる場合には漏洩電流が大きくなること、窒化物生成を阻止しつつ初期酸化皮膜に熱処理を加えることによって、漏洩電流を小さくできることを見いだしたものである。バルブメタル焼結体からなる固体電解質コンデンサ中に窒化物が生成し、含まれる原因としては、固体電解コンデンサを製造するプロセス中においてバルブメタルが窒素雰囲気と接触し、反応することによるものであることは想像するに難くはない。すなわち、原料バルブメタル粉末の酸化を防ぐため窒素雰囲気でシールしたり、窒素雰囲気中で焼結したり、あるいは真空焼結後、強制冷却のため窒素ガスを流すことが行われているが、これらのプロセスにおいて、酸化反応を防ぐ手段としての窒素ガスの使用自体が、漏洩電流を大きくする原因となっていることを見いだしたものである。そして、この知見を基礎にして、窒素ガスに代え、雰囲気ガスとしてアルゴン、ヘリウムなどの希ガスを使用することによって、窒素、すなわち窒化物を含まない焼結体を得、これによって、漏洩電流を小さくするのに成功したものである。すなわち、焼結工程、冷却工程を希ガス雰囲気の下で実施することにより、皮膜の窒化を防ぎつつバルブメタル表面の自然酸化皮膜に加熱処理をほどこし、アノード酸化時に生成する誘電体の絶縁性を向上させ、漏洩電流を小さくすることに成功したものである。
【0011】
本発明は、上記知見と成功に基づいてなされたものである。すなわち、本発明は、漏洩電流の小さなコンデンサを製造するのに使用されるバルブメタル焼結体とその製造方法に関し、以下に記載する事項からなるものである。
(1) タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結してなる多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体において、窒素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼結されたことを特徴とする、多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体。
(2) 窒素を含まない不活性ガス雰囲気で焼結後、引き続き窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で冷却することを特徴とする、前記(1)記載の多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体。
(3) タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結して多孔質固体電解コンデンサとして用いられるバルブメタル焼結体の製造方法において、焼結工程、引き続く冷却工程を不活性ガス雰囲気の下で行うことを特徴とする、多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体の製造方法。
(4) タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結してなる多孔質バルブメタル焼結体であって、窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で焼結された多孔質バルブメタル焼結体を固体電解コンデンサ用材料として用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
(5) 該固体電解コンデンサ用材料とする多孔質バルブメタル焼結体が、窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で焼結後、引き続き窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で冷却されてなる多孔質バルブメタル焼結体であることを特徴とする、前記(4)記載の固体電解コンデンサ。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の漏洩電流の小さい多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体、あるいはこれを使用した固体電解コンデンサを得るにおいて使用される焼結炉としては、必ずしも高価な真空炉は必要なく、通常の焼結炉を使用することができ、その操作手段も、窒素ガスに代え窒素ガスを含まない希ガスを雰囲気ガスとするという、簡単な操作手段で済み、前記特許文献5に記載するような複雑な操作は全く必要がない。勿論、真空焼結炉を使用することについては、何らこれを妨げるものでないが、この場合においても焼結操作終了後、これを常温に冷却するまでの間には、窒素を含む雰囲気ガスと接触することは、少なくともこれを避けなければならない。
【0013】
また、使用するバルブメタル粉末は、コンデンサ設計に適したバルブメタルであればよく、例示したタンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタン等のバルブメタルは何れも、使用可能な金属であるが、特に好ましい金属は、タンタル、ニオブである。これらの金属は、その金属粉末をそのまま使用し、成形、焼結することもできるが、いったん金属粉末を圧縮成型してペレット化し、再度成形、焼成する方が、焼結体の有効面積を大きくし、コンデンサを設計したときキャパシタンスを大きくするのに有効であり、好ましい。さらに、コンデンサの構造や、焼結操作終了後、誘電体層を形成する段階から最終的に外装樹脂等で被覆し製品化するまでにいたる全製作工程は、従来技術をそのまま踏襲し、適用することが出来ることはいうまでもない。
【0014】
すなわち製作プロセスは、前述したように図1、図2に示した従来技術によるプロセスは本発明においてもそのまま適用することができる。図1は、バルブメタルとしてタンタルやニオブを使用した場合のタンタルあるいはニオブ固体電解コンデンサ素子を模式的に示すものである。タンタルを例にして説明すると、まずタンタル金属粉末を圧縮成型して、希ガス雰囲気下で焼結して、ペレット化した焼結体を得、タンタル多孔質焼結体1を得る。次いで、希ガス雰囲気下で強制冷却し、常温にまで冷却する。得られたタンタル多孔質焼結体を、リン酸溶液中に浸漬し、陽極酸化することによって該金属多孔質焼結体の表面に誘電体酸化物皮膜2を形成する。次いで、焼結体に硝酸マンガンを含浸させ、これを焼成することで誘電体酸化物皮膜上に二酸化マンガン等電子伝導体層3(固体電解質層)を形成し、この電子伝導体層(固体電解質層)の上にグラファイト層4、銀塗料5、導電性接着剤層6を順次塗布して陰極層を形成し、コンデンサ素子11を得る。
【0015】
図2は、図1に記載したプロセスによって製作されたコンデンサ素子11を使用したチップ型タンタル固体電解コンデンサを示し、この素子に形成されたリード端子にそれぞれ電極を取り付け、モールド樹脂18(エポキシ樹脂)によって被覆外装してなるものである。
【0016】
図3は、酸化を防ぐため、焼結を空気中では行わず、真空中あるいは窒素雰囲気で行い、焼結後、さらに窒素ガスにより強制冷却して得られたニオブ粉末焼結体試料を、SEMにより観察した図である。得られた試料には、窒素がドープされていることが明らかとなった。このような窒素を含む熱的プロセスによってドープされた窒素が、固体電解コンデンサの設計においてどのような影響を及ぼすのか、特にコンデンサの漏洩電流にどのような影響を与えるのか、に関する研究がなされたとの報告は、これまで例はなく、今回、本発明者らにおいて始めてであると思料される。すなわち、本発明は、以下に示す一連の実験によって、窒素成分の有無による雰囲気の違いとこの雰囲気の違いによって得られる焼結体の電気的特性の違いについて、その関係を明らかにしたものである。具体的に述べると、ドープされた窒素が皮膜の欠陥を増やし漏洩電流を大きくする原因となっていることを明らかにすると共に、熱処理雰囲気として窒素に変えてアルゴンやヘリウムを選択し、使用することにより漏洩電流を小さくできることを明らかにした。以下、本発明を次に示す実験によってその有効性を説明し、この実験を以て本発明の実施例とする。すなわち、これらの実験とその結果を見れば、漏洩電流の小さい多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体ないしはこれを使用した固体電解コンデンサは容易に得られ、設計することができることは自ずと明らかである。
【0017】
実験の概要;
ニオブ箔を用意し、これを雰囲気を変えて熱処理し、熱処理雰囲気の違いによるニオブ箔の電気化学的挙動の比較を行った。用意したニオブ箔をアルカリ洗浄後、熱処理を施す際にフロ−するガスを1時間流し、スーパーカンタル炉および温度制御装置(HST−1500型用)を用いて、昇温速度10℃/min、20℃/minで1000℃、1300℃で1時間、雰囲気を変えて、その違いによる影響を調査した。雰囲気は、それぞれAr、NH3、He、以上3種類の雰囲気の下で熱処理し、得られた試料をリン酸水溶液中に浸漬し、電位掃引して電圧と電流の関係を示すボルタモグラムを求め、その電気的挙動を比較調査した(実験1ないし4)。
【0018】
実験1; 本実験においては、アルカリ洗浄処理したニオブ箔を、熱処理することなくそのままリン酸水溶液(20wt%)中に浸漬し、掃引速度:0.1V/sで、電位掃引した。その結果、図4に示すボルタモグラムが得られた。すなわち、1サイクル目にニオブ電極をアノード側に電位掃引すると、最初指数関数的に電流が流れ始め、その後は、約350μAのところでほぼ一定の平坦な電流が流れるのが観測された。この平坦電流は、不働態皮膜生成に伴う電流であり、ニオブの表面に緻密なバリア皮膜が一様に生成しているためと考えられる。その後、電位反転すると電流は急激に減少し、ほぼ電流は0となる。これは生成する酸化皮膜厚みに対して印加される電圧が相対的に小さく、このため電流が流れにくく、小さくなるためと考えられる。次に、2サイクル目以降の掃引の結果は、点線で示しているが、1サイクル目の電位反転後と同様の理由で電流が非常に小さく、3サイクル目以降は2サイクル目とほぼ同じボルタモグラムとなった。すなわち、1サイクル目で酸化物絶縁被膜が形成されたことを意味する。なお、このような熱処理なしでは、ニオブ金属粉末から出発し、固体コンデンサ設計に必要な多孔質焼結体を得ることができないことは言うまでもなく、本実験は、あくまでも比較のための実験である。
【0019】
実験2; 次に、ニオブ箔をNH3雰囲気の下で熱処理(1000℃、100ml/min、1h)し、リン酸(20wt%)中に浸漬し、前記同様の条件で電位掃引した。その結果、図5に示すサイクリックボルタモグラムが観測された。NH3熱処理は、窒化処理として知られており、処理されたニオブ箔表面には窒素がドープされていると考えられる。実験の結果は、1サイクル目にニオブ電極をアノード側に電位掃引すると、図4と同様に0Vvs.Ag付近から指数関数的に急激に電流が流れ始め、ピーク電流は、図4よりも大きく振れ、約500μA以上の電流が流れ、図外にまで至ったことが観測された。そして、その後、電流は減少し、電位反転時には図4に見られた平坦電流部とほぼ同じ電流が流れることが観測された。図4と対比すると、熱処理をしなかった図4よりも大きなピークが見られたのは、この熱処理によって酸化皮膜の欠陥部が多くなり、それによって電流が余分に流れたことが原因であると考えられる。電位反転すると電流は急激に減少することは、図4と同様であるが、2サイクル目以降の電位掃引でも50μA程度の大きな漏洩電流が観察され、図4に示した熱処理を行わなかったアルカリ洗浄のみのニオブ電極よりも絶縁性に乏しいことがわかる。このような漏洩電流は酸化皮膜の表面に存在する欠陥部から流れると考えられる。
【0020】
実験3;
ニオブ箔をAr雰囲気の下で熱処理(1000℃、100ml/min、1h)し、リン酸(20wt%)中に浸漬し、上述同様の条件で電位掃引した。その結果、図6に示すサイクリックボルタモグラムが観測された。Arは、ニオブ金属に対しては不活性ガスであり、ほとんど金属とは反応しないものと考えられる。その結果観測されたボルタモグラムを図6に示す。すなわち、1サイクル目にニオブ電極をアノード側に電位掃引すると、図4と同様に、0VvsAg付近から指数関数的に電流が流れ始め、そしてNH3雰囲気の下で熱処理した図5と同様に振幅のあるピークが見られ、その後、電流は減少し、電位反転時には図4に見られた平坦電流部とほぼ同じ電流が流れることが観測された。このような振幅のあるピークが見られるのは、NH3雰囲気下で熱処理した場合と同様に皮膜の欠陥部が多くなったためと考えられる。電位反転すると電流は急激に減少する。
この漏洩電流は熱処理しなかった図4と同程度であり、NH3雰囲気で熱処理した図5よりも小さい。このことからAr熱処理を施したニオブ電極は、NH3熱処理を施したニオブ電極よりも絶縁性において優れ、漏洩電流を小さくするのに有効であることがわかった。
【0021】
実験4;
ニオブ箔をHe雰囲気の下で熱処理(1000℃、100ml/min、1h)し、リン酸(20wt%)中に浸漬し、上述同様の条件で電位掃引した。その結果観測されたサイクリックボルタモグラムを図7に示す。Heは、Arと同様にニオブ金属に対しては、不活性ガスであり、ほとんど反応しない。1サイクル目にニオブ電極をアノード側に電位掃引すると、図4と同様に指数関数的に電流が流れ始める。そして図5や図6と同様にピークが観察された。その後、電流は減少し、電位反転時には図4に見られた平坦電流部とほぼ同じ電流が流れた。なお、このようなピークが見られるのは、NH3熱処理した電極と同様に皮膜の欠陥部が多くなったためと考えられる。電位反転すると電流は急激に減少する。この時の漏洩電流は、熱処理を行わなかった図4やAr雰囲気中で熱処理した図6、すなわち、窒化処理をしなかった場合と同程度であり、窒化処理の一種であるNH3雰囲気中で熱処理した図5よりも小さかった。このことからHe熱処理を施したニオブ電極は、Ar熱処理を施したニオブ電極と同様にNH3熱処理を施したニオブ電極よりも絶縁性に優れていることがわかる。
【0022】
次に、ニオブを雰囲気を変えて700℃で熱処理し、その後コンデンサ電解液(電解液組成:1M LiBF4/PC+DME)中で分極し、ニオブ表面をSEMにより観察した。
アルカリ洗浄処理のみを施しただけのニオブを電極として、該コンデンサ電解液中で分極した結果、電極酸化物表面には直径10μm程度のピットが生成したことが観察された(図8)。すなわち、ニオブ電極は陽極酸化し、その酸化被膜がアノード腐食し、その表面にピットができたと考えられる。このようなピットはニオブ酸化皮膜の欠陥部から進行し、漏洩電流を大きくする原因となしているものと考えられる。
【0023】
次に、ニオブを真空下、700℃、30min熱処理し、該コンデンサ電解液中で分極した結果、図8と同様に直径10μm程度のピットが多数存在していることが観察された(図9)。
【0024】
次にまた、N2雰囲気下で熱処理(700℃、30min)を行ったニオブ電極を、前述同様、該コンデンサ電解液中で分極した。その結果、図8よりも多数のピットが観察された(図10)。このことは図5に示したNH3熱処理のニオブ箔電極と同様に表面皮膜に窒素がドープされて欠陥が多くなったためと考えられる。これらのことから、窒素の存在は、ピット生成を促進し、漏洩電流を大きくする原因となっているものと考えられる。
【0025】
さらにまた、Ar雰囲気にて熱処理(700℃、30min)を行ったニオブ電極を、前述同様、該コンデンサ電解液中で分極した。その結果、図11に示すSEM像が観察された。これをその余のSEMと対比すると、NH3雰囲気中で熱処理した図10はもちろん熱処理をしなかった図8よりもピットの数が少なかった。Ar雰囲気の使用は、ピットを抑制し、ピットに起因する漏洩電流に対して有効であることを意味していると考えられる。
【0026】
以上の実験結果得られたデータを表1にまとめ、熱処理雰囲気の違いによるボルタムグラムの違いを示す。
【0027】
【表1】
【0028】
これらの結果から、次のことが明らかとなった。すなわち、NH3雰囲気の下で熱処理をした場合にみられるように、窒素がドープされた不働態皮膜は、絶縁性に乏しく、漏洩電流が大であり、Ar、Heを含む雰囲気下で熱処理して場合にみられるように窒素ドープのない不働態皮膜は、総じて漏洩電流を小さくするには有効であることがわかった。すなわち、漏洩電流を小さくするには焼結雰囲気またはパージ雰囲気としてHe、Arなどの不活性ガスを使うのが有効であることが分かった。
【0029】
【発明の効果】
本発明は、固体電解コンデンサに使用されるバルブ金属からなる多孔質焼結体において、焼結プロセスないしはその後の冷却プロセスを、窒素を含まない不活性ガス雰囲気下で行うという、極めて簡単な手段によって漏洩電流を小さくするのに成功したものであり、コンデンサ設計における小型化はいうに及ばず、コンデンサの機能向上にも結びつき、直接的利益は勿論のこと、コンデンサの利用を通じて広く産業の発展に大いに寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】固体電解コンデンサ模式図
【図2】チップ型固体電解コンデンサ模式図
【図3】固体電解コンデンサの焼結したニオブ陽極の表面SEM像
【図4】ニオブ電極をアルカリ洗浄処理のみでリン酸(20%wt)中で電位掃引したサイクリックボルタモグラム
【図5】ニオブ電極をNH3熱処理してリン酸(20%wt)中で電位掃引したサイクリックボルタモグラム
【図6】ニオブ電極をAr熱処理してリン酸(20%wt)中で電位掃引したサイクリックボルタモグラム
【図7】ニオブ電極をHe熱処理してリン酸(20%wt)中で電位掃引したサイクリックボルタモグラム
【図8】アルカリ洗浄処理後、分極したニオブ電極の表面SEM像
【図9】真空熱処理、窒素ガス強制冷却後、分極したニオブ電極の表面SEM像
【図10】N2熱処理後、分極したニオブ電極の表面SEM像
【図11】Ar熱処理後、分極したニオブ電極の表面SEM像
Claims (5)
- タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結してなる多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体において、窒素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼結されたことを特徴とする、多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体。
- 窒素を含まない不活性ガス雰囲気で焼結後、引き続き窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で冷却することを特徴とする、請求項1記載の多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体。
- タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結して多孔質固体電解コンデンサとして用いられるバルブメタル焼結体の製造方法において、焼結工程、引き続く冷却工程を不活性ガス雰囲気の下で行うことを特徴とする、多孔質固体電解コンデンサ用バルブメタル焼結体の製造方法。
- タンタル、ニオブ、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタンの1種または2種以上からなるバルブメタル粉末を焼結してなる多孔質バルブメタル焼結体であって、窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で焼結された多孔質バルブメタル焼結体を固体電解コンデンサ用材料として用いたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
- 固体電解コンデンサ用材料とする多孔質バルブメタル焼結体が、窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で焼結後、引き続き窒素を含まない不活性ガス雰囲気中で冷却されてなる多孔質バルブメタル焼結体であることを特徴とする、請求項4記載の固体電解コンデンサ。
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JP (1) | JP2005019893A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2020072186A (ja) * | 2018-10-31 | 2020-05-07 | パナソニックIpマネジメント株式会社 | 電解コンデンサ |
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2003
- 2003-06-27 JP JP2003185839A patent/JP2005019893A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2020072186A (ja) * | 2018-10-31 | 2020-05-07 | パナソニックIpマネジメント株式会社 | 電解コンデンサ |
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